説明

電線保持部材および電線保持部材の取付構造

【課題】電線の径寸法によらず余長のバンド部を発生させないようにし、バンド部の保持力低下を防ぐ。
【解決手段】本発明は、バンド部30と、ボディパネルPに固定されるとともに、取付孔P1に挿入される軸部21を有し、かつ、一対のバンド挿入孔H,Hが軸部21における軸方向に貫通して設けられてなるアンカー部20とを備え、両バンド挿入孔H,Hの間には、電線W1に巻き付けられたバンド部30の両端部30A,30Bをそれぞれ抜止状態に保持する一対のロック片26,26が設けられており、バンド部30は、電線W1と接触する側の面に係止突起32を有している一方、ロック片26は撓み可能であって、バンド部30の両端部30A,30Bの両係止突起32に係止可能な一対の被係止突起27,27を有しており、これらの被係止部27,27は、互いに反対方向を向いて突出し、バンド挿入孔H内に配置されている構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線保持部材および電線保持部材の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線を基材に固定する電線保持部材として、例えば下記特許文献1に記載のものが知られている。このものは、例えば車両のボディパネルに開口された取付孔に取り付けられるアンカー部と、電線に巻き付けられるバンド部と、このバンド部が電線に巻き付けられた状態に保持するバンドロック部とを一体に備えている。バンド部の長さは、大径の電線に対応できる程度の長さとされており、バンド部を小径の電線に巻き付けた場合には、バンドロック部から余長のバンド部が延びた状態となるため、この余長部分をニッパなどで切断する必要がある。
【0003】
また、電線に巻き付けられたバンド部の両端部を固定するバンドロック部を備えた電線保護部材として、例えば下記特許文献2または3に記載のものが知られている。このうち特許文献2のバンドロック部は、バンド部の両端部が互いに接触した状態で一括して挿入されるバンド挿入孔を有している。一方、特許文献3のバンドロック部は、バンド部の両端部がそれぞれ圧入状態で挿入される一対のバンド挿入孔を有し、両バンド挿入孔を仕切る仕切壁には、係止爪が設けられている。一方、バンド部における電線と接触する側の面には、係止爪に係止可能な係止溝が設けられている。
【0004】
特許文献2のバンドロック部では、電線が振られた場合に、バンド部の両端部が互いに押し合って係止爪と係止溝の係止部分に悪影響を与えるおそれがある。これに対して特許文献3のバンドロック部では、バンド部の両端部が仕切壁で仕切られているため、電線が振られた場合であっても、バンドの両端部が互いに押し合って係止爪と係止溝の係止部分に悪影響を与えることを規制できる。また、バンド部がバンド挿入孔の開口付近で急激に曲げられることで発生したバンド部の反力をバンド挿入孔の開口縁部で受けることができるため、係止爪と係止溝の係止部分に悪影響を与えることを規制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−311409号公報
【特許文献2】特開2006−220207号公報
【特許文献3】特開2009−213232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および3のものでは、いずれも余長のバンド部が無駄になるため、材料のロス分が多くなる。また、特許文献3のものでは、バンド部の両端部が圧入状態でバンド挿入孔に挿入されるため、バンド挿入孔の内壁とバンド部の両端部との間にある程度のクリアランスを設定しておく必要がある。この結果、係止爪と係止溝の係り代は、前記クリアランスの分だけ小さくなり、バンドロック部によってバンド部の両端部を保持する保持力が低下してしまう。さらに、特許文献3のものでは、バンドロック部に一対のバンド挿入孔を形成したことに伴ってバンドロック部の強度が低下し、変形しやすくなっている。ここで、電線が強く引っ張られるなどしてバンド部の両端部が電線側に引っ張られた場合に、このバンド部と係止状態にある係止爪が捻れるなどしてバンドロック部が変形することで、やはりバンド部の保持力が低下するおそれがある。
【0007】
また、特許文献2のものでは、バンド部の係止溝が外周側を向いた状態で電線に巻き付ける構成であるため、バンド部の係止溝が内周側を向いた状態で電線に巻き付ける場合よりも剛性が高くなり、巻き付けにくくなる。したがって、バンド部がバンド挿入孔の開口付近で急激に曲げられることで発生したバンド部の反力が極めて大きくなり、係止部から係止溝が離れる方向に力が働きやすくなり、やはりバンド部の保持力が低下するおそれがある。
【0008】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、電線の径寸法によらず余長のバンド部を発生させないようにし、バンド部の保持力低下を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、電線に巻き付けられるバンド部と、基材に固定されるとともに、この基材に設けられた取付孔に挿入される軸部を有し、かつ、バンド部の両端部がそれぞれ挿入される一対のバンド挿入孔が軸部における軸方向に貫通して設けられてなるアンカー部とを備え、両バンド挿入孔の間には、電線に巻き付けられたバンド部の両端部をそれぞれ抜止状態に保持する一対のロック片が設けられており、バンド部は、電線と接触する側の面に係止部を有している一方、両ロック片は撓み可能であって、バンド部の両端部の両係止部に係止可能な一対の被係止部を有しており、これらの被係止部は、互いに反対方向を向いて突出し、バンド挿入孔内に配置されている構成としたところに特徴を有する。
【0010】
このような構成によると、バンド部とアンカー部を別体で構成しているから、電線の径寸法に応じて必要なバンド部を予め用意しておき、このバンド部を電線に巻き付けた上で、バンド部の両端部をバンド挿入孔で固定することができる。したがって、余長のバンド部を発生させないようにすることができる。さらに、両バンド挿入孔の間にロック片を設けたから、別体のバンドロック部をなくすことができ、電線保持部材を2ピースで構成し、アンカー部の軸部内でバンド部の両端部を固定することができる。
【0011】
また、ロック片が撓み可能に設けられているから、バンド部の端部をバンド挿入孔に挿入する際に、圧入する必要がなく、ロック片とこれに対向する軸部の対向壁との間でクリアランスを生じさせることなくバンド部の端部を挟持することができる。すなわち、クリアランスが生じないため、係止部と被係止部の係り代が小さくなることはない。したがって、バンド部の保持力低下を防ぐことができる。
【0012】
また、軸部の内部に一対のバンド挿入孔を形成した場合、軸部の強度が低下して軸部が変形しやすくなる。例えば、電線が強く引っ張られるなどしてバンド部の両端部が電線側に引っ張られた場合に、このバンド部と係止状態にあるロック片が開き方向(仕切壁から対向壁へ向かう方向)に変形しようとし、これに伴って軸部も変形しようとする。その点、上記の構成によると、軸部が取付孔に配置されているため、取付孔の内面によって軸部の変形が規制され、ロック片の開き変形が規制される。したがって、係止部と被係止部の係り代が小さくなることはなく、軸部の変形に伴うバンド部の保持力低下を防ぐことができる。
【0013】
本発明の実施の態様として、以下の構成が好ましい。
両ロック片の間には、両バンド挿入孔を仕切る仕切壁が設けられており、ロック片は、仕切壁に設けられている構成としてもよい。
このような構成によると、両バンド挿入孔が仕切壁によって仕切られているため、バンド部の両端部が互いに当たり合うことを規制できる。したがって、バンド部の両端部のいずれか一方あるいは両方で係止部と被係止部の係り代が小さくなることはない。
【0014】
バンド挿入孔の両端開口のうち電線側の開口縁部には、バンド部のうち電線の外面に沿う部分とバンド挿入孔に挿入された部分との角部に当接する当接部が設けられている構成としてもよい。
【0015】
このような構成によると、例えば大径の電線を用いるなどして、バンド部がバンド挿入孔の開口付近で電線によって急激に曲げられた場合であっても、バンド部のうち電線の外面に沿う部分とバンド挿入孔に挿入された部分との角部を当接部に接触させることにより、電線によって曲げられることで発生したバンド部の反力を当接部で受けることができる。このため、バンド部の反力が係止部と被係止部の係止部分に直接作用することを回避できる。したがって、バンド部の保持力を安定させることができる。
【0016】
ロック片は、仕切壁における電線に近い側から遠い側に向けて片持ち状に突出する形態をなしている構成としてもよい。
このような構成によると、バンド挿入孔の両端開口のうち電線に近い側の開口からバンド部の端部を挿入することに伴ってロック片が撓み変形するため、バンド部を挿入しやすくなる。
【0017】
バンド部は、軸部の内部における仕切壁と対向する対向壁とロック片との間に挟持されており、軸部の対向壁は、取付孔の内部に配置されている構成としてもよい。
このような構成によると、軸部の対向壁が取付孔の内部に配置されているため、取付孔の内面によって軸部の変形が規制され、ロック片の開き変形が規制される。したがって、係止部と被係止部の係り代が小さくなることはなく、軸部の変形に伴うバンド部の保持力低下を確実に防ぐことができる。
【0018】
アンカー部は、軸部の先端から片持ち状に延出されその延出端部に取付孔の孔縁部に当接可能な係止段部が設けられてなる脚部を備えて構成され、係止段部は段差形状とされている構成としてもよい。
このような構成によると、取付孔の孔縁部に当接させる複数の段差を係止段部に設けることができる。したがって、基材の板厚に合わせて、取付孔の孔縁部に当接させるのに適切な段差を選択することができるため、脚部の付け根に応力が集中することを回避できる。
【0019】
また、本発明は、上記の電線保持部材が、基材に取り付けられてなる電線保持部材の取付構造であって、バンド部は、軸部の内部における仕切壁と対向する対向壁とロック片との間に挟持されており、基材における取付孔の孔縁部に、軸部の対向壁を受ける受け壁が立設されている構成としたところに特徴を有する。
このような構成によると、軸部の対向壁が受け壁によって受けられているため、軸部の変形が規制され、ロック片の開き変形が規制される。したがって、係止部と被係止部の係り代が小さくなることはなく、軸部の変形に伴うバンド部の保持力低下を確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電線の径寸法によらず余長のバンド部を発生させないようにし、バンド部の保持力低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態1において大径の電線を保持した状態を示す電線保持部材
【図2】小径の電線を保持した状態を示す電線保持部材
【図3】アンカー部の正面図
【図4】アンカー部の側面図
【図5】アンカー部の底面図
【図6】アンカー部の平面図
【図7】図3におけるA−A線断面図
【図8】実施形態2において大径の電線を保持した状態を示す電線保持部材
【図9】実施形態3において大径の電線を保持した状態を示す電線保持部材の取付構造
【発明を実施するための形態】
【0022】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図7の図面を参照しながら説明する。本実施形態における電線保持部材10は、図1に示すように、車両のボディパネル(本発明の「基材」の一例)Pに開口された取付孔P1に取り付けられるアンカー部20と、電線W1に巻き付けられるバンド部30とを備えて構成されている。なお、図2は、図1の電線W1よりも小径の電線W2をボディパネルPに保持した場合を例示しているものの、本実施形態の電線保持部材10で保持できる電線の径寸法は、図1および図2に例示したものに限定されない。
【0023】
アンカー部20は合成樹脂製で、図3に示すように、取付孔P1に挿入される軸部21と、軸部21の上端における左右両側縁から下方に延びる一対の脚部22,22と、軸部21の下端における左右両側縁から側方に向けてやや上方に延びる一対の付勢片23,23とを備えて構成されている。脚部22は、軸部21の上端から後方に向けて片持ち状に延びる形態をなし、その上端部を基端としてその下端部(延出端部)が軸部21に対して接近する方向に撓み可能に設けられている。このため、軸部21を取付孔P1に挿入すると、両脚部22,22が取付孔P1の孔壁に摺接しながら軸部21側に撓み変形する。
【0024】
脚部22の下端部には、上下二段の係止段部22A,22Bが設けられている。脚部22の下端部は、下側係止段部22Bが上側係止段部22Aよりも下方に位置するとともに上側係止段部22Aよりも軸部21に近い側に位置することで、全体として階段状に形成されている。このように上下二段の係止段部22A,22Bを設定した理由は、下側の係止段部22Bで板厚の大きいボディパネルに固定しようとした場合に、脚部22が上方に押し上げられるように作用する結果、脚部22の付け根から軸部21の上端部に亘って応力が集中することを回避するためである。したがって、板厚の大きいボディパネルにアンカー部20を固定する場合には、上側の係止段部22Aを使用することにより、脚部22の付け根から軸部21の上端部に至る領域にかかる応力を緩和することができる。
【0025】
ボディパネルの板厚が、上側係止段部22Aと付勢片23の上端との間における上下方向の間隔よりも大きい場合には、付勢片23が下方に撓み変形しつつ、取付孔P1の孔縁部を上側係止段部22Aに対して下方から当接させることで板厚が大きくなった分を吸収できる。一方、ボディパネルの板厚が、上側係止段部22Aと付勢片23の上端との間における上下方向の間隔よりも小さい場合には、付勢片23を下方に撓ませつつ取付孔P1の孔縁部を下側係止段部22Bに対して下方から当接させることで板厚が小さくなった分を吸収できる。このように、板厚違いのボディパネルに対応して上下二段の係止段部22A,22Bを適宜選択することにより、アンカー部20を様々の板厚のボディパネルに取り付けることができるようになっている。さらに、脚部22の基端側で軸部21にかかる力を軽減し、軸部21の変形を規制できるようになっている。
【0026】
軸部21の下部には、図示4つの回り止め部21Aが設けられている。各回り止め部21Aは、図6に示すように、軸部21の軸心に関して対称に配置されている。具体的には、取付孔P1は左右方向に長い長円形とされており、各回り止め部21Aが軸部21の4つの角部の側面から側方に張り出す形態で設けられている。各回り止め部21Aは、軸部21が回転しようとした際に、取付孔P1の内面に当接することで、軸部21の回転を規制するようになっている。また、軸部21が取付孔P1に嵌合する際には、アンカー部20の両側の脚部22の側面によって回り止め部21Aの倒れ込みが防止される。さらに、図示4つの回り止め部21Aの設定によってアンカー部20が取付孔P1の中心に配置され、脚部22と取付孔P1の係止代がアンカー部20の両側でほぼ同じとなるようにアンカー部20の姿勢を制御することにより、アンカー部20の保持力を安定化させることができる。
【0027】
バンド部30は合成樹脂製で、図1に示すように、長尺の帯状とされている。バンド部30における電線W1,W2に接触する側の面には、係止溝31が凹設されている。係止溝31には、複数の係止突起32がバンド部30の全長に亘って連設されている。本実施形態のバンド部30は、長尺のバンド部がボビン(図示せず)に巻き取られた状態から、必要な長さ分だけを引き出して切り取ることによって形成されている。このようにすると、電線W1,W2の径寸法に合わせて必要な長さのバンド部30だけを使用することができ、余長のバンド部30が発生することを規制できる。
【0028】
軸部21の内部には、図7に示すように、一対のバンド挿入孔H,Hが軸部21の軸方向に貫通して形成されている。両バンド挿入孔H,Hの両端開口は、図5および図6に示すように、長方形状とされている。一方、軸部21の側面は、図10に示すように、軸部21の軸方向に長い長方形状とされている。
【0029】
軸部21の内部には、両バンド挿入孔H,Hを仕切る仕切壁24が設けられている。この仕切壁24は、図6に示すように、軸部21の中央に配置されている。両バンド挿入孔H,Hは、仕切壁24を中心として対称に配置されている。図7に示すように、仕切壁24のうち天井面側の端部24Aは、底面側の端部24Bよりも厚肉に形成されており、この厚肉部分には、成形時にヒケなどが発生することを防止すべく、肉抜き孔24Cが設けられている。
【0030】
バンド挿入孔Hの両端開口のうち底面側の端部24B側の開口縁部には、当接部25が周設されている。当接部25は、すり鉢状をなしており、バンド挿入孔Hの外部に向かうほど開口が広がるように形成されている。当接部25は、図1に示すように、バンド部30のうち電線W1の外周面に沿って曲げられた曲線部分とバンド挿入孔Hに挿入された直線部分との角部33に内側から当接するようになっている。
【0031】
仕切壁24の両側には、一対のロック片26,26が設けられている。各ロック片26,26は、各バンド挿入孔H,Hに収容されている。また、各ロック片26,26は、肉抜き孔24Cの奥端部から天井面側の端部24A側に向けて片持ち状に突出する形態をなしている。ロック片26の先端側には、一対の被係止突起27,27がロック片26と対向する対向壁21B側(バンド挿入孔H側)に突出して設けられている。両被係止突起27,27は互いに反対方向を向いて突出し、バンド挿入孔H内に配置されている。
【0032】
バンド部30は、バンド挿入孔Hに対して所定の嵌合状態を実現できるように構成されており、その具体的な構成を以下に述べる。両被係止突起27,27のピッチは、バンド部30において隣り合う両係止突起32,32のピッチと近似している。また、被係止突起27の突出高さは、係止突起32の突出高さと近似している。さらに、ロック片26と対向壁21Bとの間隔は、ロック片26の板厚と近似している。これにより、バンド部30がバンド挿入孔Hに挿入されると、係止溝31の両側壁間にロック片26が嵌り込んで、バンド部30がロック片26と対向壁21Bとの間に挟持されるとともに、両係止突起32,32が両被係止突起27,27に対して全突出高さで接触して複数箇所(図示する場合は二箇所)で係止することにより、バンド部30が抜止状態に保持される。
【0033】
バンド部30の角部33で発生する樹脂の反力は、当接部25で受けられており、ロック片26に直接作用しないようになっている。ここで、底面側の端部24Bに肉抜き孔24Cが形成されているため、両当接部25,25で受けた応力を緩和させることができる。このため、バンド部30のうちバンド挿入孔Hに挿入された部分は、直線形状に保持される。したがって、両係止突起32,32と両被係止突起27,27の係り代が小さくなるなどの不具合は発生しない。また、バンド部30の両端部30A,30Bは、仕切壁24によって仕切られており、これによっても両端部30A,30Bが当たり合うなどして両係止突起32,32と両被係止突起27,27の係り代が小さくなるなどの不具合が発生しないようになっている。さらに、バンド部30のうちバンド挿入孔Hに挿入された部分は、角部33で発生する樹脂の反力によってロック片26側に密着するため、両係止突起32,32と両被係止突起27,27の係り代が小さくなることはない。
【0034】
また、バンド部30の両角部33,33は、仕切壁24を介して離間して配置されているため、図1に示すように、大径の電線W1とアンカー部20との間に形成される隙間Sを小さくすることができる。したがって、大径の電線W1を保持する場合であっても、隙間Sが小さくなることで安定して電線W1を保持することができる。また、隙間Sが小さくなることでアンカー部20と電線W1をより近づけて配置することができ、電線保持部材10を低背化することができる。また、小径の電線W2を保持する場合には、隙間Sがほとんど発生しないため、電線W2の両バンド挿入孔H,Hへのかみ込みが懸念されるものの、仕切壁24の底面側の端部24Bによって電線W2のかみ込みが軽減されることになる。
【0035】
また、本実施形態では軸部21の内部にバンド挿入孔Hを形成したことに起因して軸部21の強度が低下しており、電線W1が強く引っ張られるなどしてバンド部30の両端部30A,30Bが電線W1側に引っ張られると、両ロック片26が互いに離れる方向に開き変形し、この開き変形に伴って軸部21が例えば平行四辺形の断面形状となって倒れるように変形することが考えられる。しかしながら、軸部21は、取付孔P1に嵌合しており、取付孔P1の内面によって軸部21の変形が規制されている。したがって、軸部21の変形に伴う係止突起32と被係止突起27の係り代の低下を防ぎ、両ロック片26,26によるバンド部30の保持力低下を防ぐことができる。
【0036】
本実施形態は以上のような構成であって、続いて電線保持部材10の組付方法を説明する。以下においては大径の電線W1を保持する場合を代表として説明するものとする。まず、ボビンに巻かれた状態で連続するタイプのバンド部から、電線W1の径寸法に応じて必要な長さのバンド部30を引き出して切断する。次に、両ロック片26,26の一方を治具などを用いて撓ませた状態にしておき、ロック片26の先端側からバンド部30の始端側の端部30Aを一方のバンド挿入孔Hに挿入していく。バンド部30の終端側の端部30Bが一方のバンド挿入孔Hに収容されたら、治具を解除してロック片26を復帰させ、バンド部30の終端側の端部30Bにおいて両係止突起32,32と両被係止突起27,27を係止させる。
【0037】
次に、バンド部30を電線W1に巻き付ける。このとき、バンド部30の係止溝31側を内側にして巻き付けるため、バンド部30を巻き付ける際の反力が小さくて済む。そして、バンド部30の始端側の端部30Aを他方のバンド挿入孔Hに対して底面側の端部24B側から挿入していく。すると、ロック片26が仕切壁24側に撓み変形することでバンド部30の始端側の端部30Aが他方のバンド挿入孔Hに挿入される。バンド部30による電線W1の締め付け力が規定値に達したところで、バンド部30による電線W1の締め付けを停止する。これにより、バンド部30の始端側の端部30Aにおいても両係止突起32,32と両被係止突起27,27を係止させる。こうして、アンカー部20の軸部21によってバンド部30の両端部30A,30Bをそれぞれ抜止状態に保持することで、電線保持部材10の組付作業が完了する。最後に、アンカー部20の軸部21をボディパネルPの取付孔P1に挿入し、アンカー部20をボディパネルPに対して取り付け固定する。
【0038】
以上のように本実施形態によると、余長のバンド部30をなくして材料ロスを減らすことができる。また、軸部21の両バンド挿入孔H,Hを仕切壁24によって仕切ったから、バンド部30の両端部30A,30Bが互いに当たり合うことを規制できる。また、バンド挿入孔Hの開口縁部に当接部25を設けてバンド部30の反力を受けるようにしたから、バンド部30の反力が直接ロック片26に作用することを規制できる。
【0039】
また、各回り止め部21Aによって軸部21の取付孔P1に対する回り止めを行いつつ、取付孔P1の内面によって軸部21の変形を規制しているから、両ロック片26,26の開き変形を規制することができる。この結果、バンド部30がロック片26と軸部21の対向壁21Bとの間で挟持された状態に維持され、係止突起32と被係止突起27の係り代の低下を規制できる。したがって、電線W1,W2が強く引っ張られるなどしても、バンド部30とロック片26の保持力が低下することはない。
【0040】
また、バンド挿入孔Hにおける仕切壁24側にロック片26を設けたから、角部33においてバンド部30が直線状に復帰しようとすることで、バンド部30の両端部30A,30Bが両ロック片26,26に密着するように作用する。したがって、両係止突起32,32と両被係止突起27,27の係り代が小さくなることはない。さらに、バンド部30の両端部30A,30Bがロック片26と対向壁21Bとの間に挟持されているため、両係止突起32,32と両被係止突起27,27の係り代が小さくなることはない。
【0041】
また、底面側の端部24Bによって小径の電線W2のかみ込みを軽減することができる。また、ロック片26を片持ち状に突出して設けたから、バンド部30の始端側の端部30Aを底面側の端部24B側からバンド挿入孔Hに挿入しやすくなる。さらに、底面側の端部24Bに肉抜き孔24Cを設けたから、両当接部25,25にかかる応力を緩和することができる。また、肉抜き孔24Cを設けたことで両バンド挿入孔H,Hの間隔が広くなり、大径の電線W1とアンカー部20との間の隙間Sが小さくなり、電線W1を安定して保持することができるとともに電線保持部材10を低背化することができる。
【0042】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図8の図面を参照しながら説明する。本実施形態における電線保持部材11は、実施形態1のロック片26の配置を変更したものであって、その他の構成については実施形態1と重複するため、その説明を省略するものとする。また、実施形態1と同じ構成については実施形態1と同一の符号を用いるものとする。
【0043】
本実施形態のロック片28は、取付孔P1と同じ高さ位置となるように底面側の端部24B側に寄せられて配置されており、軸部21の対向壁21Bが取付孔P1の内面によって挟まれている。言い換えると、軸部21の対向壁21Bは、取付孔P1の内部に配置されている。このため、両ロック片28,28の開き変形に伴ってロック片28がバンド部30を介して軸部21の対向壁21Bを外側に押圧する力が作用した場合に、この力を取付孔P1の内面で直接受けることができる。したがって、軸部21の変形を確実に規制することができる。
【0044】
<実施形態3>
次に、本発明の実施形態3を図9の図面を参照しながら説明する。本実施形態における電線保持部材10の取付構造は、実施形態1のボディパネルPに受け壁P2を追加したものであって、その他の構成については実施形態1の取付構造と重複するため、その説明を省略するものとする。また、実施形態1と同じ構成については実施形態1と同一の符号を用いるものとする。
【0045】
受け壁P2は、取付孔P1の孔縁部のうち径方向に対向する両対向縁部からそれぞれ立設されている。受け壁P2は一対設けられ、アンカー部20の両脚部22と干渉しないように、軸部21の対向壁21Bと接触する位置(取付孔P1における対向する位置)のみに配置されている。このようにすると、両ロック片28,28の開き変形に伴ってロック片28がバンド部30を介して軸部21の対向壁21Bを外側に押圧する力が作用した場合に、この力を受け壁P2で直接受けることができる。したがって、軸部21の変形を確実に規制することができる。
【0046】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態ではアンカー部20の軸部を取付孔P1に嵌合させることで電線保持部材10をボディパネルPに取り付け固定しているものの、本発明によると、アンカー部20から突片を突出させて形成し、この突片をテープで電線W1,W2とともに巻き付けるようにして固定してもよい。
【0047】
(2)上記実施形態ではバンド部30の角部33を当接部25に当接させているものの、本発明によると、バンド部30に角部が形成されることなくバンド挿入孔Hからバンド部30が当接部25に接触することなく直線状に延びるように組み付けてもよい。
【0048】
(3)上記実施形態ではロック片26が片持ち状に突出して設けられているものの、本発明によると、ロック片26を両持ち状に形成してもよい。
【0049】
(4)上記実施形態では上下二段の係止段部22A,22Bを設けることで、板厚違いのボディパネルPに対応可能としているものの、本発明によると、脚部の延出端部に段差形状を設けることなく、脚部を撓ませることで板厚の差を吸収してもよい。
【0050】
(5)上記実施形態では軸部21の内部に仕切壁24を設けているものの、本発明によると、軸部の内部に仕切壁を設けることなく、両ロック片のみを設けてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10,11…電線保持部材
20…アンカー部
21…軸部
21B…対向壁
22…脚部
22A…上側係止段部
22B…下側係止段部
24…仕切壁
25…当接部
26,28…ロック片
27…被係止突起(被係止部)
30…バンド部
30A,30B…両端部
32…係止突起(係止部)
33…角部
H…バンド挿入孔
P…ボディパネル(基材)
P1…取付孔
P2…受け壁
W1…大径の電線
W2…小径の電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線に巻き付けられるバンド部と、
基材に固定されるとともに、この基材に設けられた取付孔に挿入される軸部を有し、かつ、前記バンド部の両端部がそれぞれ挿入される一対のバンド挿入孔が前記軸部における軸方向に貫通して設けられてなるアンカー部とを備え、
両バンド挿入孔の間には、前記電線に巻き付けられた前記バンド部の両端部をそれぞれ抜止状態に保持する一対のロック片が設けられており、
前記バンド部は、前記電線と接触する側の面に係止部を有している一方、
両ロック片は撓み可能であって、前記バンド部の両端部の両係止部に係止可能な一対の被係止部を有しており、これらの被係止部は、互いに反対方向を向いて突出し、前記バンド挿入孔内に配置されていることを特徴とする電線保持部材。
【請求項2】
前記両ロック片の間には、前記両バンド挿入孔を仕切る仕切壁が設けられており、前記ロック片は、前記仕切壁に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電線保持部材。
【請求項3】
前記バンド挿入孔の両端開口のうち前記電線側の開口縁部には、前記バンド部のうち前記電線の外面に沿う部分と前記バンド挿入孔に挿入された部分との角部に当接する当接部が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電線保持部材。
【請求項4】
前記ロック片は、前記両バンド挿入孔の間における前記電線に近い側から遠い側に向けて片持ち状に突出する形態をなしていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の電線保持部材。
【請求項5】
前記バンド部は、前記軸部の内部における前記仕切壁と対向する対向壁と前記ロック片との間に挟持されており、前記軸部の対向壁は、前記取付孔の内部に配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の電線保持部材。
【請求項6】
前記アンカー部は、前記軸部の先端から片持ち状に延出されその延出端部に前記取付孔の孔縁部に当接可能な係止段部が設けられてなる脚部を備えて構成され、前記係止段部は段差形状とされていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の電線保持部材。
【請求項7】
請求項2ないし請求項6のいずれか一項に記載の電線保持部材が、前記基材に取り付けられてなる電線保持部材の取付構造であって、
前記バンド部は、前記軸部の内部における前記仕切壁と対向する対向壁と前記ロック片との間に挟持されており、前記基材における前記取付孔の孔縁部に、前記軸部の対向壁を受ける受け壁が立設されていることを特徴とする電線保持部材の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−222987(P2012−222987A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87393(P2011−87393)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】