説明

電線保持面ファスナー

【課題】接着剤を使用する場合の職場環境悪化、火傷の可能性、作業効率の悪さ、さらに面ファスナーをフラットケーブルに融着一体化する場合の係合素子の係合力の低下、電線本数を容易に変更出来ない等の問題点を解消する。
【解決手段】樹脂からなる帯状基板の少なくとも片面に複数の係合素子が該帯状基板長さ方向に列をなして存在している面ファスナーにおいて、帯状基板表面に、基板長さ方向に連続する凹部(空間部)が存在しており、かつ該凹部には樹脂被覆電線が嵌め込まれている電線保持面ファスナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や航空機で代表される乗り物等の天井材や壁材等の内装材に電線を固定・取り付けるために用いられる電線を保持した面ファスナーに関する。特に、接着剤や熱融着、粘着剤という手段を用いることなく、電線を内装材に固定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車には多くの電装設備が備えられ、それらを繋ぐ多数の電線が自動車内に配されている。電線は、主としてボディ―(車体)と内装材との間に配されており、その具体的方法として、内装材に電線を固定・取り付ける方法が用いられており、現在は、内装材裏面の所定個所に、ゴム系の有機溶剤系の接着剤あるいはゴム系のホットメルト系の接着剤を数mm程度の細幅で内装材裏面に塗付し、その上に複数本の電線を配し、接着剤を固化させて電線を固定するという方法が取られている。
【0003】
しかしながら、このような方法の場合には、接着剤から蒸散する有機溶剤のために職場環境が悪化したり、また溶融したホットメルト系接着剤に触れて作業員が火傷を負うという問題点を有している。さらに、このような方法の場合には、誤った場所に電線を配した時には、電線を一旦剥がして、正しい位置に再度接着剤を塗付し直し、再度電線を配し、固定するという作業が必要となり、作業に多大の時間を要することとなる。特に高級車の場合には、配する電線の本数が多く、作業環境の悪化、火傷の可能性、さらには電線数が多いことから混線を生じ易く、作業能率の点で大きな問題となっている。
【0004】
このような、接着剤を用いる従来技術の上記問題点を解消する技術として、接着剤に替えて面ファスナーを用いて電線を内装材に固定する方法が提案されている(例えば特許文献1)。
この方法は、フラットケーブルの片面または両面に面ファスナーを予め熱融着させておき、このフラットケーブル一体化面ファスナーを用いることにより内装材にフラットケーブルを固定するというものである。この方法を用いると、確かに従来の接着剤を用いる方法と比べて、溶剤による環境悪化、接着剤により火傷等の問題点が解消されることとなるが、この方法の場合には、フラットケーブルと面ファスナーを熱融着させて両者を一体化させる技術であることから、熱融着一体化させる際に、面ファスナーの係合素子が熱と一体化時の押し圧により倒れ、係合能力が大きく低下したり、係合素子の一部が溶融して係合素子形状が崩れ、その結果、係合力が大きく低下するという問題点を有している。同特許には、倒れた係合素子を起こす方法が記載されているが、一旦、倒れたり、又は溶融した係合素子を起こしたところで充分な係合力が回復できることはない。さらに、自動車の内装材に固定する電線の本数は車種によって異なることから、この技術の場合には、予め電線本数を変えた各種電線一体化面ファスナーを製造しておかなければならず、到底効率的な方法とは言えない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−291433号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記技術の問題点、すなわち、接着剤を使用する場合の溶剤による職場環境悪化、作業員が火傷する可能性、作業効率の悪さ、さらに面ファスナーをフラットケーブルに融着一体化する場合の係合素子の係合力の低下、電線本数を容易に変更出来ない等の問題点を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、樹脂からなる帯状基板の少なくとも片面に複数の係合素子が該帯状基板長さ方向に列をなして存在している面ファスナーにおいて、該基板または該係合素子間には空間部が存在しており、該空間部には樹脂被覆電線が収納されている電線保持面ファスナーにより解決される。
【0008】
そして、本発明の電線保持面ファスナーの好適な具体例として、樹脂からなる帯状基板の少なくとも片面に複数の係合素子が該帯状基板長さ方向に列をなして存在している面ファスナーにおいて、
1)帯状基板表面に、該基板長さ方向に連続する凹部(空間部)が存在しており、かつ該凹部には樹脂被覆電線が収納されている電線保持面ファスナー、
2)面ファスナー基板から立ち上がるステムに、面ファスナー幅方向に突出した凸部が存在しており、基板とステムと該凸部により形成される空間部に樹脂被覆電線が収納されている電線保持面ファスナー、特に該ステムが係合素子のステムであり、凸部が係合素子のステム中間部から突出している電線保持面ファスナー、
3)係合素子が、該基板から立ち上がるステム部およびステム部先端に位置して面ファスナー幅方向(すなわち帯状基板幅方向)に広がるヘッド部からなり、該基板と該ステム部とヘッド部により形成される空間部に樹脂被覆電線が収納されている電線保持面ファスナー、
等が挙げられる。
【0009】
そして、このような電線保持面ファスナーにおいて、基板の両面に係合素子を有しているものがより好ましく、また空間部入口または凹部入口幅が樹脂被覆電線の直径よりも狭いものがより好ましい。さらに、本発明では、面ファスナーと樹脂被覆電線は、樹脂被覆電線を面ファスナーに形成された上記空間に単に嵌め込まれている、すなわち接着剤や溶融接着等により樹脂被覆電線と面ファスナーとが一体化されていないのが、不要な又は断線した樹脂被覆電線を容易に除くことが出来ること、さらに必要ならば容易に樹脂被覆電線を増やすことができることから好ましい。
【0010】
このように、本発明の電線保持面ファスナーは、面ファスナ―の係合力により内装材と樹脂被覆電線が一体化されることから、従来の接着剤を用いる技術と比べて、溶剤による職場環境悪化、作業員の火傷等の問題がなく、さらに間違った場所に取り付けても簡単に剥がして正しい位置に付け直すことが容易に出来る。さらに、上記の公知の面ファスナーを用いる技術と比べて、面ファスナーと電線を一体する際に面ファスナーの係合素子が溶けたり、倒れたりする問題が生じず、さらに面ファスナーに保持させる電線の本数も自由に増減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を図面に基づき説明する。
図1は、本発明電線保持面ファスナーの一例の幅方向断面図、すなわち面ファスナーテープの長さ方向に対して直角方向の断面図(係合素子が存在している個所での断面図)で、前記1)の具体的構造に対応するものである。また図2は、本発明電線保持面ファスナーの他の一例の幅方向断面図で、前記2)の具体的構造に対応するものである。さらに、図3は、本発明の電線保持面ファスナーのさらに他の一例で、前記3)の具体的構造に対応するものの幅方向断面図である。さらに、図4は、図1の面ファスナーにおいて基板裏面側に係合素子を有していない場合の幅方向断面図、図5は、図2の面ファスナーにおいて基板裏面側に係合素子を有していない場合の幅方向断面図である。
【0012】
図中、1は基板、2は係合素子のステム部、3は係合素子のヘッド部、4は基板に設けられた凹部、5はステム中間部に設けられた凸部、6は樹脂被覆電線、7は凹部入口幅、8および9は空間部入口、10は樹脂被覆電線の直径を表す。
【0013】
このように本発明の電線保持面ファスナーは、基本的には、帯状基板1と同基板上に存在する係合素子、そして保持された樹脂被覆電線6からなる。そして、本発明の電線保持面ファスナーは、内装材に取り付ける際に、鋭角的に折り曲げて内装材に取り付ける場合があり、そのような場合には、電線保持面ファスナーを折り返して内装材に取り付けることが必要となる。表面および裏面の両面に係合素子を有していることにより折り返しても(すなわち、反転させて使用しても)内装材に係合できるというメリットが得られる。もちろん、折り曲げて取り付ける必要がない場合には、図4や図5で示すような電線保持面ファスナーでも何ら問題なく、使用することが出来る。
【0014】
なお、面ファスナーは、基本的には、雄の係合素子を有する面ファスナーと雌の係合素子を有する面ファスナーの両者からなるが、本発明でいう係合素子とは雄の係合素子を有する面ファスナーのことである。そして、雄の係合素子は、基本的には、ステム部とヘッド部からなる。ステム部とは、基板から係合素子が立ち上がる茎に相当する部分で、ヘッド部はステムの先端に存在してループ状係合素子と係合することとなる部分である。通常はステム部よりヘッド部が横方向(面ファスナーテープの幅方向)に広がっているか、横方向に曲がっている。
【0015】
このように本発明の電線保持面ファスナーにおいて、基板、その表面に存在する係合素子及び裏面にも係合素子が存在している場合には裏面側の係合素子も含めて、さらに係合素子とは別のステムを存在させた場合にはこれらステムも含めて、これらはともに同一の樹脂から形成されているのが、製造上の点で、さらに係合素子の耐剥離の点で好ましい。
【0016】
基板および係合素子等を構成する素材としては、熱可塑性でかつ常温付近で弾性変形しにくい(すなわち非エラストマー系の)合成樹脂樹脂が挙げられる。かかる樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル系、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂が挙げられるが、中でもポリオレフィン系、特にポリプロピレンが好ましく用いられる。
【0017】
これら熱可塑性樹脂には、剛性を下げ、さらに柔軟性や折り曲げ性を高めるために、エラストマー系の熱可塑性樹脂が混合されているのが好ましい。エラストマー系の熱可塑性樹脂とは、合成高分子材料で、特に常温付近でゴムのような弾性や屈曲性をもつものでかつ高温条件下では軟化して容易に成形できる材料であって、具体的にはスチレン系、塩ビ系、オレフィン系、ウレタン系、エステル系、アミド系のエラストマーが挙げられるが、特に基板を構成する主材としてポリオレフィン系の樹脂、例えばポリプロピレンを選択した場合には、それに添加する熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系エラストマーが成形性や得られる係合部材の強度等の点で優れている。なお、オレフィン系エラストマーとは、ポリプロピレン樹脂にエチレン−プロピレンラバーやEPDM等を添加してゴム弾性を付与したものである。基板の主体となる非エラストマー系熱可塑性樹脂に対するこれら熱可塑性エラストマーの添加量としては2〜30重量%、特に5〜20重量%が適切である。
【0018】
本発明面ファスナー基板1の幅に関しては特に制限はないが、幅5〜40mmが好ましく、より好ましくは6〜30mm、さらに好ましくは8〜20mmである。基板の幅が広過ぎると面ファスナーを曲げたり、折り曲げたりすることが難しくなる。逆に、細すぎてもその上に存在させる係合素子の数が少なくなり、係合力が劣ることとなる。
また基板1の厚さとしては、基板表面に凹部を設ける場合には、0.4〜2mmの範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜1.5mmの範囲である。基板が余りに薄過ぎる場合には、そのような薄い基板に凹部を設けると基板が凹部で裂ける可能性が高くなり好ましくない。一方、基板表面に凹部を設けない場合には基板の厚さは0.1〜1mmが好ましく、より好ましくは0.3〜0.7mmである。いずれにしても、基板の厚さが薄すぎる場合には強度的に問題を生じ、また厚すぎる場合には曲げたり折り曲げたりすることが困難となるため取り付けや作業性に問題を生じる。
【0019】
本発明において、係合素子形状は、ステム部(茎部)とヘッド部からなる。もちろん、ヘッド部の形状は、きのこ型、フック型、鏃型、膨頭型のいずれでもよい。好ましくは、鏃型又はきのこ型である。
【0020】
表面に係合素子等を有する面ファスナーは、上記の熱可塑性樹脂を所定のスリットを設けたノズルからテープ状に溶融押出して、基板の表面にテープ長さ方向に連続した係合素子用列条、必要により裏面にも連続した係合素子列条等を有するテープをまず形成し、次に表面および裏面にある連続列条に小間隔で切れ目を入れ、次いでテープを長さ方向に延伸することにより、表面および裏面に多数の独立した係合素子が列をなして存在している面ファスナーが得られる。
【0021】
係合素子の高さ(基板面からの高さ)としては特に制限はないが、通常、0.4〜10mmが好ましく、より好ましくは0.5〜6mmの範囲である。ただ、前記したように、係合素子のステム中間部に、面ファスナー幅方向に突出した凸部を存在させる場合には、凸部下の部分が樹脂被覆電線の収納部分となるため、樹脂被覆電線が入り得るような空間が形成されていることが必要であり、樹脂被覆電線の直径が通常0.2〜2.0mmであることから、ステムの凸部下だけで樹脂被覆電線の半径以上の長さを有していることが好ましい。
【0022】
なお、係合素子のステム中間部に、面ファスナー幅方向に突出した凸部を存在させる場合には、面ファスナー幅方向に隣り合う係合素子の両方から凸部が突出しているのが好ましいが、一方の係合素子のみから凸部が突出していても特に問題はないが、凸部下に樹脂被覆電線を押し込めることが容易にできることから、隣り合う係合素子の両方から凸部が突出している場合が好ましい。
そして、隣り合う係合素子の両方から凸部が突出している場合に両凸部の間隔は、挿入する樹脂被覆電線の直径よりも狭いのが、挿入した樹脂被覆電線が抜け難い点で好ましい。そして、本発明において、幅方向に隣り合う係合素子の間隔(ステム間の間隔)としては、樹脂被覆電線が入るに十分な間隔を有している必要があり、したがってステム間隔は通常0.3mm以上で2mm以下が好ましい。
【0023】
さらに、係合素子密度としては10個〜90個/cmの範囲が好ましく、より好ましくは15〜60個/cmである。係合素子は、通常、基板面に対してほぼ垂直に直立して、基板長さ方向に列をなして並んでおり、一列に存在する係合素子本数としては3〜20個/cm程度が好ましく、かつそのような列が基板幅方向に複数列、具体的には係合力の点で2〜20列存在しているのが好ましく、より好ましくは2〜10列、特に好ましくは2〜6列存在している場合である。
【0024】
図1では、帯状基板1が、その長さ方向に連続する凹部(空間部)4を有しており、かつ該凹部には樹脂被覆電線6が収納されている。通常、樹脂被覆電線は断面形状が円形であり、その直径は通常0.2〜2.0mmである。帯状基板1には、この樹脂被覆電線が入り、かつ簡単に出ないような形状および深さの凹部が帯状基板の長さ方向にエンドレスに設けられている。したがって、凹部の大きさとしては、樹脂被覆電線の直径と同一またはそれよりも0.1〜0.5mm程度広い幅で、かつ樹脂被覆電線の半径より深い深みを有する形状が好ましい。ただ凹部が余りに深くなると、それに伴い、帯状基盤には反対面の近くまで凹部が存在することとなり基板が裂けやすくなる。基板が裂けることを防ぐためには基板を厚くすることが考えられるが、基板が厚くなり過ぎると電線保持面ファスナーの柔軟性が損なわれることとなる。
【0025】
もちろん、本発明の電線保持面ファスナーにおいて、帯状基板の全ての係合素子列間に凹部が形成されている必要はないが、通常、高級車種になるに従い内装材に配する電線の本数が増加する。したがって、電線の本数が増えてもそれらが保持出来るように、凹部の数を増やしておくことが好ましい。凹部の数としては2〜20本が好ましい。図1では、5本の電線が挿入出来るように5個の凹部が形成されており、この5個の凹部のうちの4個に電線が挿入されている。凹部は隣り合う係合素子列の間に存在している以外に、両端の係合素子列の外側にも存在していてもよく、さらに面ファスナーの基板の片面(基板の係合素子面側またはその反対面側)のみならず、両面に凹部が存在していてもよい。また基板の厚さ方向側面に凹部が存在していてもよい。また、個々の凹部には、場合によっては、複数本の樹脂被覆電線が同時に挿入されていてもよいが、好ましくは、混線を避ける上から、1個の凹部に1本の樹脂被覆電線が挿入されている場合である。さらに、異なる太さの樹脂被覆電線が挿入保持できるように、大きさの異なる複数の凹部を設けることもできる。
【0026】
図2は、係合素子のステム中間部に、面ファスナー幅方向に突出した凸部5が存在しており、基板1とステム2と該凸部5により形成される空間部に樹脂被覆電線6が挿入されている場合である。この場合にも、図1の場合と同様に、空間の数としては2〜20本が好ましい。図2では、4本の電線が挿入できるように4個の空間が形成されており、この4個の空間のいずれにも電線が挿入されている。また、この図2の電線保持面ファスナーにおいて、個々の空間に複数の樹脂被覆電線を挿入することも可能である。ただ、好ましくは、混線を避ける上から、1個の空間に1本の樹脂被覆電線が挿入されている場合である。
図2や図5では、係合素子のステム中間部から突出した凸部が存在している場合であるが、係合素子と電線保持用の凸部を別々にすることも可能である。例えば、基板の表面には係合素子、裏面には電線保持用凸部が形成されたステムを存在させ、片面には係合素子を有し、その反対面には電線が保持されているようにしてもよい。この場合の電線保持用凸部が形成されたステムは面ファスナー長さ方向に連続していても良いし、また係合素子のように一定間隔で断続的に存在していてもよい。この場合のステムの高さ、間隔、凸部の大きさ、基板とステムと凸部により形成される空間部の大きさや入口広さ等は係合素子ステムの場合と同様である。
【0027】
図3は、係合素子が、該基板から立ち上がるステム部およびステム部先端に位置して該帯状基板幅方向に広がるヘッド部からなり、該基板と該ステム部とヘッド部により形成される空間部に樹脂被覆電線が収納されている場合である。この場合にも、図1の場合と同様に、空間の数としては2〜20本が好ましい。図3では、4本の電線が挿入できるように4個の空間が形成されており、この4個の空間のいずれにも電線が挿入されている。また、この図3の電線保持面ファスナーにおいて、個々の空間に複数の樹脂被覆電線を挿入することも可能である。ただ、好ましくは、混線を避ける上から1個の空間に1本の樹脂被覆電線が挿入されている場合である。
なお、図1〜3では基板の片面にのみ電線が保持されている場合であるが、必要により基板の両面に電線を保持しても良く、その場合には、裏面にも図1のような凹部や図2のような凸部を設けるのが好ましい。
【0028】
図4は、図1の電線保持面ファスナーにおいて基板の裏面側に係合素子を有していない場合であり、図5は、図2の電線保持面ファスナーにおいて基板の裏面側に係合素子を有していない場合である。電線保持面ファスナーは折り曲げて用いられない場合も多く、そのような場合には、これら図4や図5に示すような、裏面に係合素子を有しない電線保持面ファスナーで用を果たすことが可能であり、経済的である。
【0029】
このような本発明の電線保持面ファスナーは内装材の裏面側、すなわち人が目にする面とは反対側の面に取り付けられる。内装材は、通常、人が目にする面が不織布、その裏面側に遮音用のフィルム、そして織編物が順々に積層されており、したがって本発明の電線保持面ファスナーは該織編物面上に取り付けられることとなる。
本発明の電線保持面ファスナーが織編物に取り付けられるためには、該織編物は係合可能なものである必要がある。本発明の電線保持面ファスナーは、通常、前記したように、雄の面ファスナー機能を有するものであることから、該織編物はループを有するものや起毛されたものが好ましい。本発明の電線保持面ファスナーは、内装材にスポット的に存在していてもよいし(この場合には、電線の所々が固定されることとなる)、また電線を這わせる内装材の電線が存在している区間全域に連続して存在させてもよい。
本発明に用いられる樹脂被覆電線としては、通常の自動車や航空機に用いられているものがそのまま用いることが出来る。すなわち、銅線の周りをポリ塩化ビニルやポリエチレン等の可撓性の熱可塑性樹脂で被覆したものが挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0031】
実施例1
ポリプロピレン樹脂にオレフィン系エラストマー(住友化学株式会社製V0131)を10重量%添加したポリプロピレン系樹脂組成物を用いて、図1に示すような断面形状(但し、6の電線なし、係合素子列は片面5列、凹部は表側の係合素子間の4個)が形成されることとなる隙間を付加した押出口金より押出成形し、得られた帯状の成形物に係合素子となる突出部分のみに0.5mm間隔で突出部分の根元まで切れ目を入れ、そして長さ方向に3倍延伸することにより、面ファスナーを製造した。
【0032】
得られた面ファスナーの幅方向断面形状は、図1に示すような形状で、基板の幅12mm、基板の厚さ1.0mmであり、基板表面にやじり型のフック係合素子を有し、フック係合素子の高さ2mm、ステム部からのヘッド部の幅方向への突出長さは0.3mm、係合素子のステム間の幅方向間隔は約1.4mm、係合素子列は5列で係合素子の個数は係止部材1cm当たり34個、そして基板裏面にも、同一の形状で同一の個数の係合素子からなる5列の係合素子列を有している。そして、基板表面には、断面直径約1.0mmで深さ0.6mm、入口部が図1のように0.8mmに狭まった円形断面の凹部を各係合素子列の間に合計4個存在しており、これら円形凹部は、係合素子列に平行に、面ファスナー長さ方向にエンドレスで続いている。
【0033】
このような面ファスナーの基板の全ての凹部に直径約0.9mmの樹脂被覆電線を押し込み、完全に凹部に挿入されるように、厚さ1.0mmの金属板の厚み部を用いて押し込んだ。その結果、4本の樹脂被覆電線が基板部に保持された面ファスナーが得られた。
この電線保持面ファスナーは、ループ機能を有するトリコット編地に対して高い係合能力を有しており、かつ、この電線保持面ファスナーを90度曲げるために折り返したが、問題なく折り返すことができ、さらに裏面側の係合素子により該トリコット編地に容易に固定することができ、折り返した状態でトリコット編地に固定することができた。さらに自動車の内装材となる積層板の裏面側のトリコット編地に、この電線保持面ファスナーを固定したところ全く問題なく強固に取り付けることができ、従来技術の有する問題点、すなわち、有機溶剤による職場環境の悪化、火傷の心配が解消し、さらに取り外して再度取り付ける作業も極めて容易に短時間で行うことができた。
【0034】
実施例2
実施例1において、押出口金を図2に記載のような口金に変更する以外は実施例1と同様に行った。但し、基板厚さは0.5mmであり、樹脂被覆電線を取り付ける側の係合素子高さは2.5mmであり、そのほぼ中間部に面ファスナー幅方向に突出する凸部を有しており、その結果、ステム間隔がその部分だけ0.8mmに狭まっている。このような係合素子間に直径約0.9mmの樹脂被覆電線を押し込み、完全に該凸部より下の基板側に挿入されるように、厚さ1mmの金属板の厚み部分を用いて押し込んだ。その結果、4本の樹脂被覆電線が保持された面ファスナーが得られた。
【0035】
この樹脂被覆電線保持面ファスナーも実施例1のものと同様に、トリコット編地に対して高い係合能を有しており、かつ、この電線保持面ファスナーを90度曲げるために折り返したが、実施例1のものより一層容易に折り曲げることができ、さらに折り曲げた状態で、裏面側の係合素子により該トリコット編地に容易に固定することができた。さらに自動車の内装材となる積層板の裏面側のトリコット編地に、この電線保持面ファスナーを固定したところ、実施例1のものと同様に、全く問題なく強固に取り付けることができ、従来技術の有する問題点である有機溶剤による職場環境の悪化、火傷の心配が解消し、さらに取り外して再度取り付ける作業も極めて容易に短時間で行うことができた。
【0036】
実施例3
実施例1において、押出口金を図3に記載のような口金に変更する以外は実施例1と同様に行った。なお、各係合素子の先端に存在するヘッド部分は、ステムから面ファスナー幅方向に突出しており、その結果、隣り合う係合素子列のヘッド間隔が0.8mmである。このような係合素子間に直径約0.9mmの樹脂被覆電線を押し込み、完全にヘッドより下の個所に収納されるように、厚さ1.0mmの金属板の厚み部分を用いて押し込んだ。その結果、4本の樹脂被覆電線が保持された面ファスナーが得られた。
【0037】
この樹脂被覆電線保持面ファスナーも実施例1のものと同様に、トリコット編地に対して高い係合能を有しており、かつ、この電線保持面ファスナーを90度曲げるために折り返したが、実施例2のものと同様に容易に折り曲げることができ、しかも裏面側の係合素子によりこの折り曲げた状態で、該トリコット編地に容易に固定することができた。ただ、実施例1や実施例2のものと比べると、係合素子列間に存在する樹脂被覆電線が係合を妨げるのか、係合力においてわずかに劣るものであった。
さらに自動車の内装材となる積層板の裏面側のトリコット編地にこの電線保持面ファスナーを固定したところ、実施例1や2のものと同様に、全く問題なく強固に取り付けることができ、従来方法の有している有機溶剤により職場環境の悪化、火傷の心配がなく、さらに取り外して再度取り付ける作業も極めて容易に短時間で行うことができた。
【0038】
実施例4
実施例1において、押出口金を図4に記載のような口金に変更する以外は実施例1と同様に行い、実施例1の面ファスナーにおいて、基板裏面側に係合素子を有しておらず、さらに基板表面に設けた凹部が図4のように5列であること以外は実施例1の面ファスナーと同一の面ファスナーを製造した。そして、このような係合素子間に直径約0.9mmの樹脂被覆電線を押し込み、完全に該凹部に該電線が挿入されるように、金属板の厚み部分を用いて押し込んだ。その結果、5本の樹脂被覆電線が保持された面ファスナーが得られた。
この電線保持面ファスナーは、ループ機能を有するトリコット編地に対して高い係合能力を有しており、さらに自動車の内装材となる積層板の裏面側のトリコット編地にこの電線保持面ファスナーを固定したところ強固に取り付けることができ、しかも面ファスナー裏面がフラットであることから極めて見栄えの良いものであった。そして、従来技術の有する上記問題点が解消し、さらに取り外して再度取り付ける作業も極めて容易に短時間で行うことができた。
【0039】
実施例5
実施例1において、押出口金を図5に記載のような口金に変更する以外は実施例2と同様に行い、実施例2の面ファスナーにおいて、基板裏面側に係合素子を有していない以外は実施例1の面ファスナーと同一の面ファスナーを製造した。そして、このような係合素子間に直径約0.9mmの樹脂被覆電線を押し込み、完全に該凸部より下の基板側に挿入されるように、厚さ1.0mmの金属板の厚み部分を用いて押し込んだ。その結果、4本の樹脂被覆電線が係合素子間に保持された面ファスナーが得られた。
この電線保持面ファスナーは、ループ機能を有するトリコット編地に対して高い係合能力を有しており、さらに自動車の内装材となる積層板の裏面側のトリコット編地にこの電線保持面ファスナーを固定したところ強固に取り付けることができ、しかも面ファスナー裏面がフラットであることから極めて見栄えの良いものであった。従来技術の有する上記問題点が解消し、さらに取り外して再度取り付ける作業も極めて容易に短時間で行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の電線保持面ファスナーの一例を示す断面図
【図2】本発明の電線保持面ファスナーの他の一例を示す断面図
【図3】本発明の電線保持面ファスナーの他の一例を示す断面図
【図4】本発明の電線保持面ファスナーの他の一例を示す断面図
【図5】本発明の電線保持面ファスナーの他の一例を示す断面図
【符号の説明】
【0041】
1:基板
2:係合素子のステム部
3:係合素子のヘッド部
4:基板に設けられた凹部
5:ステム中間部に設けられた凸部
6:樹脂被覆電線
7:凹部入口幅
8および9:空間部入口
10:樹脂被覆電線の直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなる帯状基板の少なくとも片面に複数の係合素子が該帯状基板長さ方向に列をなして存在している面ファスナーにおいて、該基板または該係合素子間には空間部が存在しており、該空間部には樹脂被覆電線が収納されていることを特徴とする電線保持面ファスナー。
【請求項2】
帯状基板面に、基板長さ方向に連続する凹部(空間部)が存在しており、かつ該凹部には樹脂被覆電線が収納されている請求項1記載の電線保持面ファスナー。
【請求項3】
基板から立ち上がるステムに、面ファスナー幅方向に突出した凸部が存在しており、基板とステムと該凸部により形成される空間部に樹脂被覆電線が収納されている請求項1に記載の電線保持面ファスナー。
【請求項4】
ステムが係合素子のステムであり、凸部が係合素子のステム中間部から突出している請求項3に記載の電線保持面ファスナー。
【請求項5】
係合素子が、該基板から立ち上がるステム部およびステム部先端に位置して該帯状基板幅方向に広がるヘッド部からなり、該基板と該ステム部とヘッド部により形成される空間部に樹脂被覆電線が収納されている請求項1に記載の電線保持面ファスナー。
【請求項6】
基板の両面に係合素子が存在している請求項1〜5のいずれかに記載の電線保持面ファスナー。
【請求項7】
空間部入口または凹部入口の幅が樹脂被覆電線の直径よりも狭い請求項1〜6のいずれかに記載の電線保持面ファスナー。
【請求項8】
面ファスナーと樹脂被覆電線は、面ファスナーに形成された上記空間に単に嵌め込むことにより樹脂被覆電線が面ファスナーに保持されている請求項1〜7のいずれかに記載の電線保持面ファスナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−285422(P2009−285422A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144329(P2008−144329)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(591017939)クラレファスニング株式会社 (43)
【Fターム(参考)】