説明

電線及び電線の製造方法

【課題】上記した事情に鑑みてなされたもので、被覆外観を損なわずに省スペース化や費用低減を図ることが可能な電線及び電線の製造方法を提供する。
【解決手段】表面側架橋工程では、低エネルギーの電子線照射にて、絶縁体3になる前の押出被覆7の表面側を電子線照射架橋する。この工程によって数十ミクロン程度の薄さの低エネルギー電子線照射架橋部分4を形成する。内側架橋工程では、絶縁体3になる前の押出被覆7の表面側よりも内側を誘導加熱又はマイクロ波加熱によって加熱し、加熱架橋をする。この工程によって低エネルギー電子線照射架橋部分4の内側に誘導加熱架橋部分5(又はマイクロ波加熱架橋部分6)を形成する。これらの工程により、低エネルギー電子線照射架橋部分4と誘導加熱架橋部分5とを有する絶縁体3を導体2の上に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆を架橋してなる電線と、被覆を架橋する工程を含む電線の製造方法とに関し、詳しくは、耐熱電線と耐熱電線の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
電線の耐熱性を向上させる方法としては、被覆となる樹脂を架橋させることが知られている。具体的には、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等の樹脂を用いて押出成形により被覆を形成する過程で電子線照射を施し、これにより樹脂を架橋させる方法や、架橋剤を配合した上記樹脂を用いて押出成形により被覆を形成する過程で加熱によって樹脂を架橋させる方法が知られている。
【0003】
電子線照射を施し樹脂を架橋させる方法にあっては電子線照射装置が必要になり、加熱により架橋させる方法にあっては樹脂を加熱するための加熱管が必要になる。
【特許文献1】特開2006−19147号公報
【特許文献2】特開2005−255497号公報
【特許文献3】特開2003−115227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の電子線照射架橋にあっては、電子線のエネルギーが数百kV〜数千kVにもなる高エネルギーの電子線照射装置を必要とすることから設備が大型化し、結果、十分な設置スペースを確保しなければならないという問題点を有している。また、大型の装置であることから、設備導入費用や維持費用がかかるという問題点も有している。
【0005】
一方、加熱架橋にあっては、樹脂を加熱するだけの設備ですむことから、電子線照射架橋のような大型の設備を必要とすることはなく、従って上記問題点を解消することが可能になる。しかしながら、加熱架橋にあっては、加熱架橋反応によって発生したガスにより被覆が発泡してしまうことがあり、この発泡によって被覆外観が損なわれてしまう(被覆表面がざらついてしまう)という問題点を有している。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、被覆外観を損なわずに省スペース化や費用低減を図ることが可能な電線及び電線の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の電線は、表面側に低エネルギー電子線照射架橋部分を有し、これよりも内側に且つ後から形成される誘導加熱架橋部分又はマイクロ波加熱架橋部分を有するオレフィン系樹脂製の被覆を備えてなることを特徴としている。
【0008】
また、上記課題を解決するためになされた請求項2記載の本発明の電線の製造方法は、架橋剤を配合したオレフィン系樹脂を押し出した後に低エネルギー電子線照射にて表面側を架橋する表面側架橋工程と、該表面側架橋工程の後に前記表面側よりも内側を加熱にて架橋する内側架橋工程と、を含む被覆形成架橋工程を行うことを特徴としている。
【0009】
請求項3記載の本発明の電線の製造方法は、請求項2に記載の電線の製造方法において、前記低エネルギー電子線照射の加速電圧範囲を50kV〜100kVとすることを特徴としている。
【0010】
請求項4記載の本発明の電線の製造方法は、請求項2又は請求項3に記載の電線の製造方法において、前記加熱を誘導加熱又はマイクロ波加熱のいずれかとすることを特徴としている。
【0011】
以上のような特徴を有する本発明によれば、架橋されて耐熱性が向上したオレフィン系樹脂製の被覆を備える電線が製造される。被覆は、導体を覆う絶縁体やシースであり、このような被覆は、先ず低エネルギー電子線照射にて表面側が架橋され、次に表面側よりも内側が加熱によって架橋されて形成される。
【0012】
本発明によれば、仮に加熱架橋反応によって発生したガスで被覆が発泡しようとしても、最初に低エネルギー電子線照射にて表面側が架橋されて低エネルギー電子線照射架橋部分が形成されることから、被覆外観が損なわれるようなことが避けられる。
【0013】
本発明によれば、低エネルギーの電子線を照射するための装置は、高エネルギーのものと比べて小型になり、また、誘導加熱又はマイクロ波加熱を利用すれば加熱架橋する装置も一層小型になる(生産性の観点から加熱管よりも誘導加熱やマイクロ波加熱の方が良好である。尚、誘導加熱とマイクロ波加熱とでは、マイクロ波加熱の方が生産性が優れている)。
【発明の効果】
【0014】
請求項1、2に記載された本発明によれば、耐熱性のある電線を製造するために被覆の架橋に工夫をする。この工夫により外観の良好な耐熱性のある電線を提供することができるという効果を奏する。また、本発明によれば、被覆の架橋に工夫をすることによって、大型の装置を用いなくともよくなることから、従来よりも省スペース化や費用低減を図ることができるという効果も奏する。
【0015】
請求項3に記載された本発明によれば、電子線のエネルギーが数百kV〜数千kVにもなる高エネルギーの電子線照射装置とは異なり、50kV〜100kVの低エネルギーの電子線照射装置を用いればよいことから、従来よりも省スペース化や費用低減を図ることができるという効果を奏する。
【0016】
請求項4に記載された本発明によれば、誘導加熱又はマイクロ波加熱で加熱架橋を行うことから、加熱管よりも省スペース化を図ることができるという効果を奏する。また、加熱管と比べて生産性向上を図ることができるという効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の電線及び電線の製造方法の一実施の形態を示す工程説明図及び工程に合わせた端面図である。
【0018】
図1において、引用符号1は本発明の電線を示している。電線1は、耐熱性のある電線であって、公知の導体2と、この導体2を被覆する絶縁体3(被覆)とを備えて構成されている。絶縁体3は、電子線照射架橋が可能なオレフィン系樹脂であるとともに、架橋剤を配合して熱架橋することも可能なオレフィン系樹脂を用い、さらに、このオレフィン系樹脂を架橋することによって図示の如く形成されている。絶縁体3は、押出成形の後に被覆形成架橋工程を経ることによって形成されている。
【0019】
絶縁体3は、この表面側に低エネルギー電子線照射架橋部分4を有するとともに、これよりも内側に誘導加熱架橋部分5(又はマイクロ波加熱架橋部分6)を有する構成になっている。低エネルギー電子線照射架橋部分4は、電子線照射架橋によって形成されている。この低エネルギー電子線照射架橋部分4は、本形態において、数十ミクロン程度の薄さで形成されている。低エネルギー電子線照射架橋部分4は、誘導加熱架橋部分5よりも先に形成されるようになっている。誘導加熱架橋部分5は、加熱架橋によって形成されている。
【0020】
上記オレフィン系樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)等のオレフィンポリマーのいずれか1又は2以上を混合したものが挙げられる(一例であるものとする)。
【0021】
また、上記架橋剤としては、ラジカル型架橋剤のパーオキサイド等であって、例えばジクミルパーオキサイドが挙げられる(一例であるものとする)。
【0022】
上記電子線照射架橋は、ポリマーであるオレフィン系樹脂に電子線を照射することによってポリマーを活性化させ、水素を放出させてポリマー遊離基を生成し、このポリマー遊離基同士の結合によってポリマー架橋を形成するようなものとなっている。本発明における電子線のエネルギーは、50kV〜100kVの範囲(低エネルギー電子線照射の加速電圧範囲)であって、低エネルギーの電子線を用いるようになっている。尚、低エネルギーの電子線を照射するための装置は、電子線のエネルギーが数百kV〜数千kVにもなる高エネルギーの電子線照射装置と比べて格段に小型になるのは言うまでもない。
【0023】
上記加熱架橋は、加熱することにより架橋をするものであって、架橋剤を配合したオレフィン系樹脂を加熱すると、先ず、この加熱により架橋剤が分解されて遊離基を生成する。そして、遊離基との反応によってポリマー遊離基を生成し、このポリマー遊離基同士の結合によってポリマー架橋を形成するようなものとなっている。本発明における加熱架橋においては、加熱管よりも小型化を図るために、また、生産性の向上を図るために、誘導加熱又はマイクロ波加熱のいずれかによって加熱をするものとする(加熱管を除くものではないものとする。加熱管を用いても十分に小型になる)。
【0024】
次に、電線1に係る本発明の製造方法について説明する。電線1は、導体2の上に、架橋剤を配合したオレフィン系樹脂を押出被覆する押出成形と、この後に行われる被覆形成架橋工程とを経て製造される。押出成形は、公知の押出成形機が用いられる。被覆形成架橋工程は、表面側架橋工程と内側架橋工程とを含む工程であり、これによって被覆形成が完了すると電線1の製造も完了する。
【0025】
表面側架橋工程は、低エネルギーの電子線照射にて、絶縁体3になる前の押出被覆7の表面側を電子線照射架橋する工程であって、この工程により数十ミクロン程度の薄さの低エネルギー電子線照射架橋部分4が形成される。
【0026】
内側架橋工程は、表面側架橋工程の後に行われる工程であって、絶縁体3になる前の押出被覆7の表面側よりも内側を誘導加熱又はマイクロ波加熱によって加熱する加熱架橋をする工程であり、この工程によって低エネルギー電子線照射架橋部分4の内側に誘導加熱架橋部分5(又はマイクロ波加熱架橋部分6)が形成される。この形成により、低エネルギー電子線照射架橋部分4と誘導加熱架橋部分5とを有する絶縁体3が導体2の上に形成される。
【0027】
以上、本発明によれば、仮に加熱架橋反応によって発生したガスで絶縁体3(被覆)が発泡しようとしても、最初に低エネルギーの電子線照射にて表面側が架橋されて低エネルギー電子線照射架橋部分4が形成されることから、被覆外観が損なわれるようなことが避けられる。本発明によれば、絶縁体3(被覆)の架橋に工夫をすることで、外観の良好な耐熱性のある電線1を提供することができる。
【0028】
また、本発明によれば、耐熱性のある電線1を製造するために絶縁体3(被覆)の架橋に工夫をすることから、従来のような大型の装置を用いなくともよく、結果、従来よりも省スペース化や費用低減を図ることができる。
【0029】
尚、本形態においては絶縁体3を特許請求の範囲に記載した被覆としているが、これに限らずシースを備える電線に適用(シースに適用)してもよいものとする。この他、オレフィン系樹脂に例えば金属水酸化物を配合して難燃性を持たせるようにしてもよいものとする。
【0030】
本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の電線及び電線の製造方法の一実施の形態を示す工程説明図及び工程に合わせた端面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 電線
2 導体
3 絶縁体(被覆)
4 低エネルギー電子線照射架橋部分
5 誘導加熱架橋部分
6 マイクロ波加熱架橋部分
7 絶縁体になる前の押出被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側に低エネルギー電子線照射架橋部分を有し、これよりも内側に且つ後から形成される誘導加熱架橋部分又はマイクロ波加熱架橋部分を有するオレフィン系樹脂製の被覆を備えてなる
ことを特徴とする電線。
【請求項2】
架橋剤を配合したオレフィン系樹脂を押し出した後に低エネルギー電子線照射にて表面側を架橋する表面側架橋工程と、
該表面側架橋工程の後に前記表面側よりも内側を加熱にて架橋する内側架橋工程と、
を含む被覆形成架橋工程を行う
ことを特徴とする電線の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の電線の製造方法において、
前記低エネルギー電子線照射の加速電圧範囲を50kV〜100kVとする
ことを特徴とする電線の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の電線の製造方法において、
前記加熱を誘導加熱又はマイクロ波加熱のいずれかとする
ことを特徴とする電線の製造方法。

【図1】
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