説明

電線端末加工治具及び電線端末加工方法

【課題】シールド電線の絶縁被覆の先端部の開き作業と、編組の先端部の拡径及びテープ巻き作業とを同じ工程で作業性良く低コストに行わせる。
【解決手段】前半の細幅部4と後半の太幅部5とをそれぞれ有する一対の爪部3と、シールド電線6の長手方向の切り込み7を有する絶縁被覆8の内側に細幅部を差し込ませるべく一対の爪部を進退可能な第一の移動手段11と、細幅部を絶縁被覆の内側に差し込んだ状態で一対の爪部を開く開き手段12と、細幅部と太幅部とをシールド電線の編組9の内側に差し込ませるべく一対の爪部を進退可能な第二の移動手段13とを備える電線端末加工治具1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド電線の端末の絶縁被覆を開いて剥ぎ、絶縁被覆の内側の導電金属製の編組を拡げて編組にテープ巻きを施すための電線端末加工治具及び電線端末加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電線の端末部において外側の合成樹脂製の絶縁被覆(シースないし外皮)を皮剥きするには、例えば、先ず第一のカッタで絶縁被覆に電線長手方向の切り込みを入れ、次いで第二のカッタで絶縁被覆に周方向の切り込みを入れて、絶縁被覆を皮剥きしている。
【0003】
例えば特許文献1には、図8に示す如く、シールド電線84の端末部において最外層の絶縁被覆85を皮剥きして、絶縁被覆85の内側の導電金属製の編組81を露出させ、編組81の先端部を粘着テープ82で巻いて編組81の先端部のほつれを防ぎ、次いで編組81のテープ巻きした先端部82を内側の小径な二本の電線83の絶縁被覆(内皮)に沿って電線長手方向にスライド移動させて、編組81の長手方向中間部を外側に略山型環状に膨らませ(符号81aで示す部分)、図9の如く、編組81の先端部を編組81の略カップ状の膨出部81bの内側にスライド移動させて、編組81を内外に二重に重ね合わせることが記載されている。
【0004】
図9の如く、編組81の重ね合わせ部は内側のアース用の金具86と外側のリング状の金具87とで挟まれて接続固定され、金具86は不図示のブラケットで機器に接続固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−15816号公報(図2,図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のシールド電線の絶縁被覆(シースないし外皮)の端末部の皮剥きに際しては、絶縁被覆85に先端から長手方向の切り込みを入れた状態で、例えばシールド電線84の端末部の絶縁被覆85の内側にペンチ状の手工具を差し込んで絶縁被覆85の先端部を外側に開き、絶縁被覆85を開き部から電線長手方向に剥がし、次いで楔状の治具棒を内側の小径な電線83の絶縁被覆とその外側の導電金属製の編組81との間に差し込んで、編組81の先端部を外側に拡径した状態で、編組81の先端部の外周面を粘着テープ82で巻いて編組先端部のほつれを防ぐ、というような工法を採用していた。
【0007】
テープ巻きの後、楔状の治具棒は内側の電線83と編組81との間から抜き出され、編組81の先端部は拡径した状態を維持する。編組81の先端部を拡径させた状態で編組81の先端部の外周面にテープ82を巻くのは、図8において編組81の先端部82を内側の電線83の絶縁被覆(内皮)に沿って電線長手方向に低摩擦抵抗でスライドさせやすくするためである。
【0008】
しかしながら、上記工法にあっては、シールド電線84の絶縁被覆(外皮)85の先端部の開き作業と、編組81の先端部の拡径作業及び編組へのテープ巻き作業とを別工程で行っているために、工程間での製品(シールド電線の中間加工品)の移動が発生し、作業工数や生産コストが増加するという問題があった。
【0009】
本発明は、上記した点に鑑み、シールド電線の絶縁被覆の先端部の開き作業と、編組の先端部の拡径及びテープ巻き作業とを同じ工程で行って、工程間の製品(中間加工品)の移動をなくして、作業工数や生産コストを低減させることのできる電線端末加工治具及び電線端末加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る電線端末加工治具は、前半の細幅部と後半の太幅部とをそれぞれ有する一対の爪部と、シールド電線の長手方向の切り込みを有する絶縁被覆の内側に該細幅部を差し込ませるべく該一対の爪部を進退可能な第一の移動手段と、該細幅部を該絶縁被覆の内側に差し込んだ状態で該一対の爪部を開く開き手段と、該細幅部と該太幅部とを該シールド電線の編組の内側に差し込ませるべく該一対の爪部を進退可能な第二の移動手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
上記構成により、第一の移動手段で一対の爪部が前進し、一対の爪部の先端側の細幅部がシールド電線の絶縁被覆の先端部の内側に差し込まれ、その状態で一対の爪部が開き手段で外側に開き、絶縁被覆が切り込みから外側に開かれる。作業者は開いた絶縁被覆を持って編組に沿って後方に剥ぐ。第一の移動手段で一対の爪部が後退し、次いで第二の移動手段で一対の爪部が前進し、一対の爪部の細幅部から基端側の太幅部までがシールド電線の編組の内側に差し込まれ、それによって編組が拡げられる。その状態で編組の先端部外周にほつれ防止用のテープが巻かれ、編組の先端部(テープ巻き部)が編組の内側の電線に沿って低摩擦でスライド自在となる。
【0012】
請求項2に係る電線端末加工治具は、請求項1記載の電線端末加工治具において、前記第一の移動手段が、第一のトグルレバーと、該第一のトグルレバーに連結部材で連結され、前記一対の爪部を固定した一対のリンク板と、該一対のリンク板を進退自在に支持するガイド部材とを備えることを特徴とする。
【0013】
上記構成により、作業者が第一のトグルレバーを操作して一対のリンク板をガイド部材に沿って前進させることで、一対のリンク板と一体に一対の爪部が前進して、各爪部の細幅部がシールド電線の絶縁被覆の内側に差し込まれる。
【0014】
請求項3に係る電線端末加工治具は、請求項2記載の電線端末加工治具において、前記第二の移動手段が、第二のトグルレバーと、該第二のトグルレバーと前記ガイド部材とに連結されて前記第一のトグルレバーを支持した可動ブロックとを備えることを特徴とする。
【0015】
上記構成により、作業者が第二のトグルレバーを操作して可動ブロックを介してガイド部材と第一のトグルレバーと一体に一対の爪部が前進して、各爪部の細幅部と太幅部がシールド電線の編組の内側に差し込まれて、太幅部で編組が径方向に拡げられる。
【0016】
請求項4に係る電線端末加工治具は、請求項2又は3記載の電線端末加工治具において、前記開き手段が、前記一対のヒンジ板に形成された一対の長孔と、該一対の長孔にスライド係合した前記ガイド部材側の一対のピンと、該一対のピンよりも内側に配置され、前記連結部材と該一対のヒンジ板とを連結する一対のピンとを備えることを特徴とする。
【0017】
上記構成により、第一のトグルレバーの操作で一対の爪部の前進と開きとが行われる。すなわち、一対の爪部が各ヒンジ板と一体に前進した後、各ヒンジ板がガイド部材から前方に突出し、後方内側の各ピンと、長孔に係合した前方外側の各ピンとを支点として各ヒンジ板が爪部と一体に外側に開く。
【0018】
請求項5に係る電線端末加工治具は、請求項1〜4の何れかに記載の電線端末加工治具において、前記シールド電線の先端部を支持する位置決めブロックが、前記一対の爪部の前進時に第三の移動手段により後退して該シールド電線の先端部の支持を解除することを特徴とする。
【0019】
上記構成により、シールド電線の先端部が位置決めブロックの上に正確に位置決めセットされ、第一の移動手段による爪部の前進時(開き操作時)や第二の移動手段による爪部の前進時に、第三の移動手段で位置決めブロックが後退してシールド電線の先端部から離間し、位置決めブロックに邪魔されることなく、スムーズに絶縁被覆の開き動作や編組の拡げ動作や編組の先端部外周へのテープ巻きが可能となる。
【0020】
請求項6に係る電線端末加工方法は、前半の細幅部と後半の太幅部とをそれぞれ有する一対の爪部と、端末の絶縁被覆に長手方向に切り込みの入ったシールド電線とを用い、該絶縁被覆の先端内側に一対の該細幅部を差し込んで該一対の爪部を開いて該絶縁被覆を開き、開いた該絶縁被覆を該切り込みに沿って長手方向に剥ぎ、該太幅部を該シールド電線の編組の先端内側に差し込んで該編組を拡げ、その状態で該太幅部の外側から該編組にテープ巻きを行うことを特徴とする。
【0021】
上記構成により、長手方向に順に細幅部と太幅部とを有する一対の爪部を用いた同一工程で、シールド電線の絶縁被覆の開き操作と、編組に沿った絶縁被覆の剥ぎ操作と、絶縁被覆の編組の拡げ操作と、拡げた編組へのテープ巻き操作とが順に行われる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1記載の発明によれば、シールド電線の絶縁被覆の先端部の開き作業と、編組の先端部の拡径及びテープ巻き作業とを同じ工程(一つの電線端末加工治具)で行うことができるから、工程間の製品(中間加工品)の移動を不要として、作業工数や生産コストを低減させることができる。
【0023】
請求項2記載の発明によれば、電源や配線を用いることなく、第一のトグルレバーの手動操作で一対の爪部の細幅部をシールド電線の絶縁被覆の内側に差し込むことができる。
【0024】
請求項3記載の発明によれば、電源や配線を用いることなく、第二のトグルレバーの手動操作で一対の爪部の太幅部をシールド電線の編組の内側に差し込んで編組を拡げることができる。
【0025】
請求項4記載の発明によれば、電源や配線を用いることなく、第一のトグルレバーの手動操作で一対の爪部を開いて各爪部の細幅部でシールド電線の絶縁被覆を開くことができる。
【0026】
請求項5記載の発明によれば、位置決めブロックで電線の先端部の位置決めを正確に行って爪部の差し込み精度を高めることができると共に、爪部の開き時や太幅部の差し込み時に第三の移動手段で位置決めブロックを後退させて、絶縁被覆の開き動作や編組の拡げ動作や拡げた編組へのテープ巻き作業を位置決めブロックに邪魔されることなくスムーズ且つ確実に行わせることができる。
【0027】
請求項6記載の発明によれば、シールド電線の絶縁被覆の先端部の開き作業と、編組の先端部の拡径及びテープ巻き作業とを同じ工程(一つの電線端末加工治具)で行うことができるから、工程間の製品(中間加工品)の移動を不要として、作業工数や生産コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る電線端末加工治具の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】電線端末加工治具の一対の爪部と位置決め部材上のシールド電線を示す平面図である。
【図3】シールド電線の一形態を示す斜視図である。
【図4】シールド電線の絶縁被覆を皮剥きして露出した編組にテープを巻いた状態(シールド電線中間加工品)の斜視図である。
【図5】電線端末加工治具の要部を示す側面図である。
【図6】同じく電線端末加工治具の作用を示す側面図である。
【図7】(a)〜(c)は電線端末加工方法の一実施形態を順に示す平面図である。
【図8】従来の電線端末加工方法の一工程を示す縦断面図である。
【図9】従来の電線端末加工方法で加工されたシールド電線を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1〜図7は、本発明に係る電線端末加工治具及び電線端末加工方法の一実施形態を示すものである。
【0030】
図1の如く、この電線端末加工治具1は、左右一対の爪部材2と、シールド電線6の端末の長手方向の切り込み7(図3)の入った最外層の絶縁被覆(外皮)8の内側に(正確には絶縁被覆8の内側の導電金属製の編組9(図3)の内側に)一対の爪部材2の先端側の一対の爪部3を浅く差し込むための第一の移動手段11と、絶縁被覆8の内側に一対の爪部3を浅く差し込んだ状態で一対の爪部材2を開いて絶縁被覆8を外向きに開かせる開き手段12(図7)と、一対の爪部材2をシールド電線6から抜き出して絶縁被覆8を剥いた後、シールド電線6の内側の上下二本の小径な電線10(図3)の外側に配置された導電金属製の編組9(図3)の内側に、二本の電線10の間において同じく左右一対の爪部3を深く差し込むことで、編組9を径方向外側に拡径させ(開かせ)、その状態で編組9の先端部の外周面に粘着テープ14(図4)を巻き付け可能とする第二の移動手段13とを備えたものである。
【0031】
図2の如く、左右一対の爪部材2の先端側の爪部3は、先端側(前半側)の細幅部4と基端側(後半側)の太幅部5とで成り、細幅部4と太幅部5との間の外面はテーパ状のガイド面15となっている(細幅部4と太幅部5とは外側のテーパ状のガイド面15で滑らかに続いている)。細幅部4は左右方向及び上下方向において太幅部5よりも細く形成されている(太幅部5は左右方向及び上下方向において細幅部4よりも太く形成されている)。
【0032】
細幅部4の先端4aは略円弧状に滑らかに尖っており、細幅部4の外面4bはガイド面15の前端にかけて若干テーパ状に傾斜している。太幅部5は前端のガイド面15を除いて長手方向に均一な太さで形成されている。太幅部5の基端は、太幅部5よりも幅広な爪基体部16に一体に続き、太幅部5の外面5aは爪基体部2の前端外側の段差面16aに直交し、太幅部5の内面5bは爪基体部16の前端内側の段差面16bに直交し、内側の段差面16bは外側の段差面16aよりも後方に位置し、太幅部5の内面5bは外面5aよりも後方に延長されている。爪部3と爪基体部16とで爪部材2が構成されている。
【0033】
一対の爪部3は閉じた状態で一対の爪部3の間に隙間17を存し、一対の爪基体部16は閉じた状態で各内側面16cを完全に密着させている。一対の爪部3の間の隙間17は、図3のシールド電線6の内側の小径な上下一対の電線10の間の隙間18に一対の爪部3を進入可能な寸法(電線10と干渉しない寸法)に設定されている。
【0034】
図1,図2の如く、一対の爪部3の前方においてシールド電線6の先端部が垂直な位置決めブロック19の上端部の溝部20内に位置決め配置される。図2の如く溝部20は左右の壁部21と後側の壁部22とで三方を囲まれて構成され、シールド電線6を前方へ水平に導出させるテーパ状の前部開口20aを有している。図2で符号19aは位置決めブロック19の後方に突出した下半部分を示している。
【0035】
図1の如く、位置決めブロック19の前方に電線ガイド部材23が水平に配置され、シールド電線6は電線ガイド部材23で長手方向中間部を支持され、位置決めブロック19で先端部を支持されている。電線ガイド部材23は前後方向に長い左右一対のガイド壁23aの間にガイド溝23bを有している。
【0036】
図3の如く、本例の電線端末加工治具1で使用するシールド電線6は、導電金属製の芯線10bとその外側の絶縁被覆(内皮)10aとで成る並列な上下二本の電線10を導電金属製の編組9で断面長円形状に覆い、編組9の外側を最外層の絶縁被覆(シースないし外皮)8で断面長円形状に覆って構成される高圧二芯電線である。
【0037】
シールド電線6の端末の絶縁被覆(外皮)8には予め不図示の前工程においてカッタで一方の短辺部に長手方向の真直な切り込み7が先端から長手方向中間部にかけて(長手方向中間部から先端にかけて)入れられている。切り込み7の入ったシールド電線6が各短辺部を上下にして(切り込み7の入った短辺部を下にすることが皮剥きのために好ましい)、図1の電線ガイド部材23と位置決めブロック19に配置セットされる。
【0038】
図3の如く、シールド電線6の上下一対の電線10の間において、一対の電線10の各絶縁被覆(内皮)10aの外面と外側の編組9の内面との間に左右一対の略三角形状の隙間18が形成されており、図1,図2の左右一対の爪部材2の爪部3はこの左右一対の隙間18に挿入される(差し込まれる)。図1の第一の移動手段11で各隙間18に各爪部3の前半の細幅部4(図2)が差し込まれ、図7の開き手段12で各爪部3が外向きに開かれて、最外層の絶縁被覆(外皮)8が編組9と一体に外向きに開かれる。
【0039】
図2の一対の爪部3の前半の細幅部4の先端の左右方向の外幅寸法は図3の編組9の短径(内径)よりも小さく、一対の爪部3の後半の太幅部4の左右方向の外幅寸法は図3の編組9の短径(内径)よりも大きい。また、一対の爪部3の後半の太幅部4の上下方向の外幅寸法は図3の上下一対の電線10の絶縁被覆10aの外面間の上下隙間18の寸法よりも大きい。
【0040】
なお、絶縁被覆(外皮)8は予め電線長手方向に切り込み7(図3)を入れられているので、編組9と絶縁被覆8との間にある程度の径方向の隙間(図示せず)を生じており、その隙間に爪部3の先端4aを差し込むようにしてもよい。但し、絶縁被覆(外皮)8と編組9とが接触している場合はこの差込作業は困難であり、上記のように上下一対の電線10の絶縁被覆(内皮)10aと編組9との間における左右の隙間18に爪部3を差し込んで編組9ごと絶縁被覆(外皮)8を外側に拡げる方が確実である。
【0041】
絶縁被覆(外皮)8の先端部を爪部3で開いた状態で、作業者が手指で絶縁被覆8の開いた先端部分を掴んで電線長手方向に図1で前方に引っ張ることで、絶縁被覆8が編組9から剥がされて編組9が露出する。編組9から剥がされた絶縁被覆8は不図示のカッタで周方向に切断される(図4に周方向の切断箇所を符号8aで示す)。
【0042】
次いで、図2の左右一対の爪部3が後半の太幅部5の付根側まで図3のシールド電線6(絶縁被覆8はなくなっている)の左右の隙間18内に差し込まれることで(爪部3は外向きに開かない)、編組9が各爪部3の太幅部5で左右に拡げられ(拡径され)つつ、上下一対の電線10が各爪部3の太幅部5で上下に離間する方向に押圧されて、編組9が上下方向にも拡げられる。この状態(爪部3を差し込んだ状態)で、図4の如く太幅部5の径方向外側から編組9の先端部の外周面に粘着テープ14が巻き付けられて、編組9の先端部のほつれが防止される。爪部3は外側の段差面16a(図2)まで編組9内に挿入されて、段差面16aが編組9の先端に突き当たった状態で、テープ巻き14が手作業で行われる。
【0043】
図4において、テープ14は編組9の先端部の外周面に密着しているので、テープ14の内径は編組9の先端部の外径に等しく、編組9の先端部は拡げられているので、断面長円形の編組9の先端部の短径は内側の電線10の絶縁被覆(内皮)10aの外径よりも大きく、編組9の先端部の長径は内側の電線10の絶縁被覆(内皮)10aの外径の二倍(電線10の二本分の外径)よりも大きい。従って、編組9の先端部(テープ巻き部分)を内側の電線10に沿って長手方向に低摩擦抵抗でスムーズにスライド移動させて、従来技術の図8,図9の編組の折り返しをスムーズに行うことができる。
【0044】
以下に電線端末加工治具1の構成を詳細に説明する。
【0045】
図1において、左右一対の爪部3は、左右一対の移動(進退及び開閉)可能な水平なリンク板24に各々固定され、一対のリンク板24は水平な左右方向に延びる引張コイルばね(弾性部材)25で爪部3の閉じ方向に相互に付勢されている(引張コイルばね24の各端は各リンク板24の垂直な支柱26に固定されている)。
【0046】
一対のリンク板24の外端部は固定側の左右一対のガイド部材27の水平な溝部28に前後方向スライド自在に係合し、各リンク板24の後部は水平な上側の連結部材29に垂直なピン30で水平方向回動自在に連結され、連結部材29は上側(第一)のトグルレバー31の水平な軸部32に連結されている。左右一対のガイド部材27は下側の水平な連結部材33に固定され、下側の連結部材33の前半側は下側の垂直な可動ブロック34に固定されている。
【0047】
図1,図5の如く、可動ブロック34に下側(第二)のトグルレバー35の水平な軸部36が連結され、下側のトグルレバー35は下側の垂直な板部37に固定され、垂直な板部37は下側の水平なベース板38に固定され、下側の連結部材33の後方延長部に上側の垂直な板部39を介して上側のトグルレバー31が固定されている。
【0048】
この構成により、下側のトグルレバー35の操作で上側のトグルレバー31と上側の連結部材29と一対のヒンジ板24と一対の爪部材3とを一体的に進退可能となっている。上側のトグルレバー31は下側のトグルレバー35とは独立して一対の爪部材2を進退可能である。
【0049】
図1の上側のトグルレバー31と上側の連結部材29と一対のガイド部材27と一対のヒンジ板24とで前記第一の移動手段11が構成され、下側のトグルレバー35と可動ブロック34と下側の連結部材33とで前記第二の移動手段13が構成され、一対のヒンジ板24の各長孔40(図7)と、長孔40に係合するガイド部材27側のピン41と、一対のヒンジ板24と上側の連結部材29とを連結するピン30とで前記開き手段12が構成されている。
【0050】
図5の如く、シールド電線6の先端部を位置決め支持した位置決めブロック19は略L字状に形成され、垂直な支柱部42と下側の水平なスライド部43とで構成されている。支柱部42が上下一対の圧縮コイルばね(弾性部材)44で前方に付勢され、各コイルばね44は水平な軸部45の外周に配置され、軸部45の前端は位置決めブロック19の支柱部42に固定され、軸部45の後端は、ベース板38に立設固定された後方の低い支柱46に固定され、ガイド部材27に下側の連結部材33を介して可動ブロック34が固定され、軸部45に可動ブロック34の水平な孔部が前後方向スライド自在に係合し、コイルばね44の前端は支柱部42側に当接し、コイルばね44の後端は可動ブロック34側に当接している。
【0051】
位置決めブロック19の水平なスライド部43は、ベース板38に固定された水平な直線ガイド部材47にスライド自在に係合し、スライド部43の後部上側に受け部48が固定して設けられ、ベース板38に立設された逆L字状の支柱49の水平部49aに縦方向のリンクバー(リンク)50の長手方向中間部が回動自在に軸支され、リンクバー50の下端側の水平なピン50aが受け部48の溝に周方向スライド自在に係合し、リンクバー50の上端側に水平なピン50bが突設され、上側の水平なピン50bの後方に対向して、一方(左側)の爪部材2を固定した一方(左側)のリンク板24の前部下面に垂直な駆動ピン51が突設されている。
【0052】
また、位置決めブロック19の水平なスライド部43は第三の圧縮コイルばね52で前方に付勢され、圧縮コイルばね52はスライド部43から後方に突出した水平なガイド軸53の外周に配置され、ガイド軸53の後端側は、ベース板38に立設された支柱54をスライド自在に貫通し、圧縮コイルばね52の後端は支柱54に当接している。位置決めブロック19と、上下のピン50a,50bを有するリンク50と、ヒンジ板24と駆動ピン51と各圧縮コイルばね44,52と各ガイド軸45,53とで第三の移動手段55が構成されている。
【0053】
上記構成により、図5,図6の如く、上側のトグルレバー31の操作で一対の爪部材2が前進してシールド電線6の先端から内側に進入する際に、ヒンジ板24の下側の駆動ピン51がリンクバー50の上端側のピン50bを前方に押してリンクバー51を反時計回りに回動させ、リンクバー50の下端側のピン50aが後退しつつ位置決めブロック42のスライド部43を後方に押して位置決めブロック19を後退させる。
【0054】
これにより、位置決めブロック19の支柱部42がシールド電線6の先端部から後方に離間(離脱)し、その状態で一対の爪部3がシールド電線6の先端部の内側に進入し、一対の爪部3によるシールド電線6の絶縁被覆8の外向きの開き動作(第一工程)を位置決めブロック19の溝部20(図1)による拘束なくスムーズ且つ確実に行わせることができる。
【0055】
また、絶縁被覆8の開き動作の後、上側のトグルレバー31の解除操作で一対の爪部3を後退させ(図5の如く上下のトグルレバー31,35は上下並列に位置した状態となる)、下側のトグルレバー35の操作で上側のトグルレバー31ごと一対の爪部3を前進させてシールド電線6の先端部の内側に進入させることで、編組9(図3)を開き且つ編組9の上からテープ14(図4)を巻く作業を行うが、この際にも、図5の状態からヒンジ板24の下側の駆動ピン51が垂直なリンクバー50の上端側のピン50bを前方に押してリンクバー50を反時計回りに回動させ、リンクバー50の下端側のピン50aが後退しつつ位置決めブロック19のスライド部43を後方に押して位置決めブロック19を後退させることで、編組9の開き操作と編組9の先端部外周へのテープ巻き作業を位置決めブロック19に邪魔されることなくスムーズ且つ確実に行うことができる。
【0056】
図7(a)〜(c)の如く、各リンク板24の外端部に前後方向のスリット状の長孔40が設けられ、各長孔40に各ガイド部材27の先端内側の垂直な固定側の各ピン41がスライド自在に係合し(各長孔40が各ピン41にスライド自在に係合し)、各リンク板24の後部において固定側の各ピン41よりも左右方向内側に連結部材29の前端側の各ピン30が位置している。なお、図7(a)〜(c)では図1のガイド部材27の上側のカバー壁27aを外した状態で図示している。
【0057】
そして、図1,図7(a)の如く、上側のトグルレバー31の操作部56を軸部32のほぼ延長方向に後方に伸ばした状態で、一対の爪部3(爪部材2)が閉じた状態で各リンク板24及び連結部材29と共にガイド部材27に沿って一体に後退している。ガイド部材27の前端側のピン41はヒンジ板24の長孔40の前端に位置している。なお、図7(a)に示す爪部3に係合したシールド電線6は、便宜上後述の第二工程(編組9の拡げ及びテープ14の巻き工程)におけるものであり、第一工程(絶縁被覆8の開き工程)においては図1の如くシールド電線6の端末は爪部3の前方に離間して位置する。
【0058】
第一工程において図7(a)のシールド電線6の端末が爪部3の前方に位置した状態から、上側のトグルレバー31の操作部56(図1)を仮想水平面上で前方に回動させることで、図7(b)の如く、トグルレバー31の軸部32と上側の連結部材29とが前進しつつ一対のリンク板24が各ガイド部材27と前側の各ピン41に沿って一対の爪部3(爪部材2)と一体に前進する。各ピン41は各リンク板24の長孔40の後端に位置する。そして、一対の爪部3の前半の細幅部4が図3のシールド電線6の上下一対の電線10の間において編組9の内側面に沿って左右一対の略三角形状の隙間18内に進入する。
【0059】
その状態から図7(c)の如く、上側のトグルレバー31の操作部56を仮想水平面上で前方にさらに最大に回動させることで(トグルレバー31の回動操作は連続して行われる)、トグルレバー31の軸部32と連結部材29とがさらに少し前進しつつ、一対のリンク板24が後部内側の(連結部材29の前端側の)左右一対のピン30を支点にガイド部材27の溝部28の前端側のテーパ面28aに沿って一対の爪部3(爪部材2)と一体に外向きに開く。一対の爪部3の前半の細幅部4は編組9と一体に(別体でも可)絶縁被覆(外皮)8を外向きに拡げる。
【0060】
次いで上側のトグルレバー31を図7(a)の状態に後方に回動させることで、図7(c)→図7(b)→図7(a)の順で爪部3が閉じてヒンジ板24及び連結部材29と一体に後退する。作業者は、絶縁被覆8の開いた先端部を手指等で把持して電線長手方向に前方に引っ張って絶縁被覆8を編組9から剥いで離脱させる。編組9から離脱した絶縁被覆8は前方の不図示の一対のカッタで図4の如く周方向に切断されてシールド電線6から除去される。周方向切断用のカッタとその駆動部は図1の水平なベース板38の前方延長部分に配設されている。
【0061】
次いで、図7(a)の状態から下側のトグルレバー35(図1)の操作部57を仮想水平面上で前方に最大に回動させることで、一対の爪部3が上側のトグルレバー31やガイド部材27や連結部材29や各ヒンジ板24と一体に前進して、一対の爪部3が細幅部4の先端4aから太幅部5の基端(付根側)にかけて図3のシールド電線6の編組9の内側の左右一対の隙間(空間)18内に差し込まれて、編組9が外向きに押し開かれる。その状態で図4の如く編組9の先端部の外周にテープ14が巻き付けられる。
【0062】
次いで、下側のトグルレバー35の操作部57を後方に回動させる(解除する)ことで、一対の爪部3がシールド電線6の編組9の内側から抜き出される。編組9を拡げた状態でテープ巻き14をしたことで、編組9の先端部(テープ巻き部)を内側の二本の電線10に沿ってスムーズに前進させて、従来技術(図8,図9)のような編組9の折り返しを行うことができる。
【0063】
上下のトグルレバー31,35の操作は作業者の手作業で行うので、電源や配線を必要とせず、電圧等の使用環境の異なる外国等においても電線端末加工治具1の操作を確実に行うことができる。
【0064】
なお、上記した本発明の構成は、電線端末加工治具1として以外に、電線端末加工治具1を用いた電線端末加工方法としても有効なものである。また、一対の爪部3の先端4aを図2におけるよりも尖らせれば、編組9の内側に一対の電線10ではなく一本の電線を収容した同軸シールド電線等における絶縁被覆(シース)8と編組9の開き操作にも対応することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る電線端末加工治具及び電線端末加工方法は、シールド電線の絶縁被覆の先端部の開き作業と、編組の先端部の拡径及びテープ巻き作業とを同一工程で行って、工程間の製品(中間加工品)の移動をなくして、作業工数や生産コストを低減させるために利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 電線端末加工治具
3 爪部
4 細幅部
5 太幅部
6 シールド電線
7 切り込み
8 絶縁被覆
9 編組
10 一対の電線
11 第一の移動手段
12 開き手段
13 第二の移動手段
14 テープ
18 隙間
19 位置決めブロック
24 リンク板
27 ガイド部材
29 連結部材
30 ピン
31 上側(第一)のトグルレバー
34 可動ブロック
35 下側(第二)のトグルレバー
40 長孔
41 ピン
55 第三の移動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前半の細幅部と後半の太幅部とをそれぞれ有する一対の爪部と、シールド電線の長手方向の切り込みを有する絶縁被覆の内側に該細幅部を差し込ませるべく該一対の爪部を進退可能な第一の移動手段と、該細幅部を該絶縁被覆の内側に差し込んだ状態で該一対の爪部を開く開き手段と、該細幅部と該太幅部とを該シールド電線の編組の内側に差し込ませるべく該一対の爪部を進退可能な第二の移動手段とを備えることを特徴とする電線端末加工治具。
【請求項2】
前記第一の移動手段が、第一のトグルレバーと、該第一のトグルレバーに連結部材で連結され、前記一対の爪部を固定した一対のリンク板と、該一対のリンク板を進退自在に支持するガイド部材とを含むことを特徴とする請求項1記載の電線端末加工治具。
【請求項3】
前記第二の移動手段が、第二のトグルレバーと、該第二のトグルレバーと前記ガイド部材とに連結されて前記第一のトグルレバーを支持した可動ブロックとを備えることを特徴とする請求項2記載の電線端末加工治具。
【請求項4】
前記開き手段が、前記一対のヒンジ板に形成された一対の長孔と、該一対の長孔にスライド係合した前記ガイド部材側の一対のピンと、該一対のピンよりも内側に配置され、前記連結部材と該一対のヒンジ板とを連結する一対のピンとを備えることを特徴とする請求項2又は3記載の電線端末加工治具。
【請求項5】
前記シールド電線の先端部を支持する位置決めブロックが、前記一対の爪部の前進時に第三の移動手段により後退して該シールド電線の先端部の支持を解除することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の電線端末加工治具。
【請求項6】
前半の細幅部と後半の太幅部とをそれぞれ有する一対の爪部と、端末の絶縁被覆に長手方向に切り込み7の入ったシールド電線とを用い、該絶縁被覆の先端内側に一対の該細幅部を差し込んで該一対の爪部を開いて該絶縁被覆を開き、開いた該絶縁被覆を該切り込みに沿って長手方向に剥ぎ、該太幅部を該シールド電線の編組の先端内側に差し込んで該編組を拡げ、その状態で該太幅部の外側から該編組にテープ巻きを行うことを特徴とする電線端末加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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