説明

電線絶縁体用樹脂組成物及び被覆電線

【課題】組成物自体の熱劣化が生じない温度での成形が可能であるために低融点であり、かつ、高い難燃性を有していながら、極めて省スペースな電線を可能とする電線絶縁体用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】55重量部以上98重量部のポリオレフィン系重合体と残部のポリアミドとからなるベース樹脂100重量部に対して60重量部以上90重量部以下の金属水酸化物が配合され、かつ、前記ポリアミドが、ポリアミド6とポリアミド66との共重合体である電線絶縁体用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線絶縁体用樹脂組成物、特に自動車用途に適した電線絶縁体用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用部材には省スペースであることが求められ、自動車用被覆電線もその例外ではなく、省スペース化の検討が進められている。
【0003】
しかしながら、省スペース化と、自動車用被覆電線として特に重要な難燃性とを同時に達成することには困難がある。すなわち細径化を計ると従来の絶縁体組成では難燃性が満足できないことが問題となっている。また、広く用いられている、無機化合物などの粉系難燃性、例えば水酸化マグネシウムを多量に添加することにより難燃性の向上は可能とはなるが、他の機械的特性が著しく低下すると云う問題がある。
これらの問題に対し、従来の技術では、水酸化マグネシウムの一部を難燃樹脂であるポリアミドを置換して、機械的特性を維持しつつ、難燃性を向上させている(特許文献1)。
【0004】
また、この特許文献1にかかる技術では、オレフィン系樹脂に高融点(200℃以上)のポリアミドを添加した難燃樹脂組成物であり、このように高融点のポリアミドを使用することで組成物の耐熱性の向上効果を得ているが、このような組成物は一般のオレフィン系樹脂組成物と比較して融点の高い組成物となっているために、成形物(電線被覆層)形成時の温度を高くする必要があり、このため、組成物自体の熱劣化、及び、この熱劣化による樹脂の熱分解、延いては材料強度や耐摩耗性への悪影響が懸念されている。
【特許文献1】特開2002−146118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記した従来の問題点を改善する、すなわち、組成物自体の熱劣化が生じない温度での成形が可能であるために低融点であり、かつ、高い難燃性を有していながら、極めて省スペースな電線を可能とする電線絶縁体用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電線絶縁体用樹脂組成物は前記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、ポリオレフィン系重合体からなるベース樹脂100重量部に対して、2重量部以上45重量部以下のポリアミド樹脂、60重量以上90重量部以下の金属水酸化物が配合され、かつ、前記ポリアミドが、ポリアミド6とポリアミド66との共重合体であることを特徴とする電線絶縁体用樹脂組成物である。
【0007】
また、本発明の電線絶縁体用樹脂組成物は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の電線絶縁体用樹脂組成物において、前記ポリオレフィン系重合体が、少なくともその一部がポリプロピレン系重合体であることを特徴とする。
【0008】
本発明の被覆電線は、請求項1または請求項2に記載の電線絶縁体用樹脂組成物からなる被覆層を備えたことを特徴とする被覆電線である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電線絶縁体用樹脂組成物によれば、ポリオレフィン系重合体からなるベース樹脂100重量部に対して、2重量部以上45重量部以下のポリアミド樹脂、60重量以上90重量部以下の金属水酸化物が配合され、かつ、前記ポリアミドが、ポリアミド6とポリアミド66との共重合体であるために、低融点であるので、組成物自体の熱劣化が生じない温度での成形が可能であり、かつ、高い難燃性を有していながら、極めて省スペースな電線を製造することができ、得られた電線は省スペースであるために特に自動車用途に適したものとなる。
【0010】
さらに、請求項2に記載の電線絶縁体用樹脂組成物によれば、前記ポリオレフィン系重合体が、少なくともその一部がポリプロピレン系重合体であるために、耐熱性がさらに向上した電線が可能となる。
【0011】
本発明の被覆電線は、上記電線絶縁体用樹脂組成物からなる被覆層を備えた被覆電線であるので、材料強度や耐摩耗性への悪影響のない温度で被覆層が形成されており、高い難燃性を有していながら、極めて省スペースな被覆電線となっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の電線絶縁体用樹脂組成物で用いるベース樹脂は100重量部当たり55重量部以上98重量部のポリオレフィン系重合体と、残部のポリアミドとを配合してなる。
【0013】
本発明では、ポリオレフィン系重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−ブテン共重合体等を適用することができるが、これらのうち、ポリプロピレン系重合体では、エチレン−プロピレンゴムとを併用することが、耐熱性が高く、かつ、柔軟な電線絶縁体用樹脂組成物を得ることができるので好ましい。
【0014】
このとき、ポリプロピレン系重合体とエチレン−プロピレンゴムとを併用するときにはこれらの配合重量比が4:1以下(境界値を含む)であることが、特に高い強度が確保されるために好ましい。
【0015】
また、ポリプロピレン系重合体としては、ホモポリプロピレン、マレイン酸変性ホモポリプロピレン、エチレンプロピレンゴムなどを用いることができるが、このうち、ホモポリプロピレンとマレイン酸変性ホモポリプロピレンとを併せて用いると高強度な組成物を構成できるため好ましい。このとき、ホモポリプロピレンとマレイン酸変性ホモポリプロピレンとの配合重量比が5:1〜3:2(両端値を含む)であることが、特に良好な成形性を得ることができるので好ましい。ここで、ホモポリプロピレンとはプロピレンのみで構成されたポリプロピレンであって、プライムポリマー社や住友化学社等から入手可能である。また、マレイン酸変性ホモポリプロピレンとは無水マレイン酸変性したポリプロピレンであって、三井化学社やケムチュラ社等から入手可能である。
【0016】
本発明におけるポリアミドとしては、低融点のポリアミドであることが望ましい。ここで融点が190℃以下のポリアミドとして、ポリアミド6とポリアミド66との共重合体が知られており、東レ社、あるいは三菱エンジニアリングプラスチックス社等から入手が可能である。このようなポリアミド6とポリアミド66との共重合体を用いることにより、組成物自体の熱劣化が生じない温度での成形が可能であるために特に加工性に優れた電線絶縁体用樹脂組成物が得られる。
【0017】
このようなポリアミド6とポリアミド66との共重合体であるポリアミド樹脂は
ポリオレフィン系重合体からなるベース樹脂100重量部に対して、2重量部以上45重量部以下となるように配合する。ここで、ポリオレフィン系重合体の配合量が2重量部未満であると、機械的と癖が不充分となってしまい、ポリオレフィン系重合体の配合量が45重量部超であると充分な難燃性が得られない。
【0018】
本発明の電線絶縁体用樹脂組成物では、上記ベース樹脂に対して、金属水酸化物を添加する。金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等の2価または3価の金属イオンからなる化合物が挙げられるが、一般的な水酸化マグネシウムが特に好適に用いられる。また、平均粒子径についても一般的な0.1〜20μmのものを用いるのが望ましい。これら金属水酸化物としては、他の樹脂成分との親和性を向上させ、延いては耐摩耗性を向上させる目的で、各種カップリング剤等で表面処理したものを用いることができる。
【0019】
金属水酸化物の配合量はポリオレフィン系重合体からなるベース樹脂100重量部に対して、60重量以上90重量部以下となるように配合する。配合量が60重量部未満であると充分な難燃性が得られず、また、90重量部超であると機械的物性、例えば電線被覆として必要な耐摩耗性等が満足できない。すなわち、従来は、金属水酸化物の配合量はベース樹脂100重量部に対して最大で200重量部程度配合していたため、これら機械的特性が特に自動車用途には充分ではなかったが、本発明に係る電線絶縁体用樹脂組成物では、金属水酸化物の配合量を最大で90重量部とすることで高い機械的特性が確保される。好ましい範囲は70重量部以上80重量部以下である。
【0020】
また、本発明の電線絶縁体用樹脂組成物では、上記必須成分以外に、オレフィン系樹脂組成物に通常配合される、酸化防止剤、金属不活性剤(銅害防止剤等)、加工助剤(滑剤、ワックス等)、着色剤、着色材、難燃剤(ホウ酸亜鉛、シリコン系難燃剤等)等の各種配合剤を適宜添加してもよい。
【0021】
さらに本発明の電線絶縁体用樹脂組成物では、上記に加え、ポリアミド系樹脂組成物に通常配合される配合剤、例えば窒素系難燃材(メラミンシアヌレート等)、難燃助剤(ホウ酸亜鉛、シリコン系難燃剤等)、補強剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク)、酸化防止剤、金属不活性剤、加工剤(滑剤等)、着色剤や着色材などを適宜添加することができる。
【0022】
上記のような各種原料は、一般的な電線絶縁体用組成物を製造するのと同様の混合手段、バンバリーミキサー、ロールミル、加圧ニーダー等を用いて混合・混練し、本発明の電線絶縁体用樹脂組成物を得る。このとき、通常は、まずベース樹脂を作製した後、これに他の成分を配合、混練するが、本発明の効果を損なわない場合には、この限りではない。
【0023】
混練の際、混練可能な温度である限り、できるだけ低い温度で行う。具体的には、用いるポリアミド6とポリアミド66との共重合体の融点よりも10〜20℃高い温度で行う。このことにより、組成物の熱履歴をできるだけ小さくし、組成物自体の熱劣化を最小限に留め、最終的な製品である電線の被覆層の機械的特性を維持することができる。
【0024】
このようにして得られた本発明の電線絶縁体用樹脂組成物は、そのまま、あるいは、必要に応じてペレット化された後、電線製造に用いられる。
【0025】
電線製造は通常用いられている方法による。例えば一般的な電線の製造方法である押出成形方法が挙げられる。被覆層形成に当たっても、できるだけ低温で溶融させることにより、最終的な製品である電線の被覆層の機械的特性を維持することができる。具体的には、用いるポリアミド6とポリアミド66との共重合体の融点よりも40〜50℃高い温度で行う。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の電線絶縁体用樹脂組成物の実施例について具体的に説明する。
<電線絶縁体用樹脂組成物の作製>
実施例1〜8の電線絶縁体用樹脂組成物、及び、比較例A〜Kの電線絶縁体用樹脂組成物を、それぞれ表1に示した原料を用いて表2及び表3(原料は表1に示した略号にて表示)に示す配合比(表中、原料の数字は重量部)となるよう、混練が可能な限り低い温度で混練して得た。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
<電線絶縁体用樹脂組成物の評価>
上記電線絶縁体用樹脂組成物を用いて断面積が0.14mmあるいは、0.22mmの導体を用いて、それぞれ外径が、0.85mmあるいは0.95mmの電線を押出成形で作製した。このときの押出成形温度は230℃とした。
このように本発明に係る電線絶縁体用樹脂組成物では押出成形が低い温度で可能となるため、組成物の熱劣化の懸念が解消される。
【0031】
さらに得られた電線について、引張伸び率、消炎時間、耐摩耗性、老化防止剤残存量、及び、耐熱性について調べた。
【0032】
引張伸び率は電線被覆層として求められる機械的特性の目安として評価した。具体的には導体を抜き取り、50mm間隔での標線をマーキングして、電線試験変とし、両端をチャックで固定した後速度200mm/分で引っ張り試験(JIS C3005の4.16に準拠)して破断までの引っ張り伸び率を調べた。その結果、引張伸び率が500%以上で充分であるとして”○”、500%未満では不充分であるとして”×”として評価した。
【0033】
消炎時間は、難燃性の目安として評価した。具体的には長さ600mmの試験を採取し、 6.19項(同図11を参照)に準拠し、風の影響を受けない環境で水平に対して45℃傾斜させて指示し、還元炎の先端を資料の上端から500mmの位置に15秒間当てて、試料の炎が消えるまでの時間を測定して、その結果、消炎時間が70秒以下あるで充分であるとして”○”、70秒より多い場合では不充分であるとして”×”として評価した。
【0034】
耐摩耗性は、長さ約750mmの試料を取り、YPES−11−01−204の6.9項に準拠し、その図7に示されたように固定し、太さが0.45mm±0.01mmのスプリングワイヤーを接しさせ、7N±0.05Nの加重を加えながら評価を行った。その結果、300回以上の場合で充分であるとして”○”、300回未満では不充分であるとして”×”として評価した。
【0035】
耐熱性は次のように評価した。すなわち、上記で作製したそれぞれの被覆電線を、空気中で回転軸につるした状態で10000時間放置したときに、被覆層に亀裂が発生しない温度を調べた。その結果、120℃以上の耐熱性が得られた場合を充分であるとして”○”、120℃未満であるときは不充分であるとして”×”として評価した。これら評価結果を表2及び表3に併せて示した。
【0036】
表2及び表3によれば、本発明に係る電線絶縁体用樹脂組成物では引張伸び率、消炎時間、耐摩耗性、老化防止剤残存量、及び、耐熱性が充分に優れており、組成物自体の熱劣化が生じない温度での成形が可能であるために低融点であり、かつ、高い難燃性を有していながら、極めて省スペースな電線が可能となることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系重合体からなるベース樹脂100重量部に対して、2重量部以上45重量部以下のポリアミド樹脂、60重量以上90重量部以下の金属水酸化物が配合され、かつ、
前記ポリアミドが、ポリアミド6とポリアミド66との共重合体であることを特徴とする電線絶縁体用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系重合体が、少なくともその一部がポリプロピレン系重合体であることを特徴とする請求項1に記載の電線絶縁体用樹脂組成物。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載の電線絶縁体用樹脂組成物からなる被覆層を備えたことを特徴とする被覆電線。

【公開番号】特開2009−40947(P2009−40947A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209501(P2007−209501)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】