説明

電線被覆層形成用放射線硬化性樹脂組成物

【課題】電線、特に電話線ケーブル、電子機器間又は電子機器内の接続用電線等の被覆用樹脂組成物に関する。
【解決手段】(A)一分子中に、ポリオール由来のハードセグメント及びポリオール由来のソフトセグメントを有するウレタン(メタ)アクリレート、
(B)環状構造及び1個のエチレン性不飽和基を有する化合物、
及び
(C)放射線重合開始剤
を含有する電線被覆層形成用放射線硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線、特に電話線ケーブル、電子機器間又は電子機器内の接続用電線等の被覆層形成用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電話線ケーブル、電子機器間又は電子機器内の接続用電線、自動車用電線等には、導体(中心導体ともいう。)として電気特性、伝送特性に優れた銅線やアルミニウム線等を用い、導体を被覆する被覆層(絶縁体層ともいう。)としてポリ塩化ビニル(PVC)やポリエチレン(PE)等の熱可塑性樹脂を用いた絶縁電線(被覆電線ともいう。)が多く用いられる。また、1本又は複数本の被覆電線の外側にシース(保護外被覆)を設けたケーブルも同様に用いられている(特許文献1〜4)。さらには、テレビの受像器とアンテナを結ぶ同軸ケーブルなどにおいては、導体の外側にPE被覆、シールドがあり、その外側のシース層にPVC等を用いたものが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−312925号公報
【特許文献2】特開2005−187595号公報
【特許文献3】特開2006−348137号公報
【特許文献4】特開2007−45952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、熱可塑性樹脂を主体とする被覆層では、外部応力に対する耐性が低下して保護層として不充分となる問題や、高温下では溶融してしまうという問題があった。また、従来の熱可塑性樹脂では被覆電線の製造効率が低いという問題もあった。
従って、本発明の目的は、外部応力に対して十分な強度を有し、高温下でも溶融しない被覆層を形成することができ、かつ、被覆電線の製造効率を改善することができる電線被覆層形成用放射線硬化性樹脂組成物を提供することにある。なお、本発明においては、被覆電線の絶縁体層又はケーブルのシース層を「電線被覆層」、電線被覆層を形成するための材料を「電線被覆材」という。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは、従来のPVCやPEに代わる電線被覆材を開発すべく、ウレタン(メタ)アクリレート系の放射線硬化性樹脂組成物に着目し、種々検討した結果、ハードセグメント及びソフトセグメントを有するウレタン(メタ)アクリレートと、環状構造及び1個のエチレン性不飽和基を有する化合物と、放射線重合開始剤を組み合せて用いれば、十分な強度を有する被覆層を形成することができる電線被覆層形成用放射線硬化性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(A)一分子中に、ポリオール由来のハードセグメント及びポリオール由来のソフトセグメントを有するウレタン(メタ)アクリレート、
(B)環状構造及び1個のエチレン性不飽和基を有する化合物、
及び
(C)放射線重合開始剤
を含有する電線被覆層形成用放射線硬化性樹脂組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記組成物を硬化させて得られる被覆電線の絶縁体層又はケーブルのシース層、当該絶縁体層又はシース層を有する被覆電線又はケーブルを提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の組成物を用いれば、紫外線等の放射線照射により簡便にかつ均一に強度に優れた電線被覆層が形成され、かつ当該被覆層は熱可塑性樹脂ではなく放射線硬化性樹脂組成物を硬化させた架橋構造を有する硬化物からなるため、従来の熱可塑性樹脂が溶融していた温度においても溶融しない。このため従来のPVCやPE等で被覆層を形成する場合に較べて高温環境下でも使用することが可能である。本発明の組成物を用いて形成した電線被覆層は、高いヤング率を有するため外部応力に強く、破断伸びが高いため大きな曲率で電線を曲げた場合であっても被覆層が破壊されにくい。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いる(A)成分のウレタン(メタ)アクリレートは、ポリオール由来のハードセグメント及びポリオール由来のソフトセグメントを一分子中に有している。ここで、ハードセグメントとは、剛直な構造部分であり、ソフトセグメントとは、柔軟な構造部分である。
一般に、ウレタン(メタ)アクリレートは、ポリオールとポリイソシアネートと水酸基含有(メタ)アクリレートとの反応物であり、ポリオールに由来する構造部分がハードセグメントであるかソフトセグメントであるかによって、ウレタン(メタ)アクリレートの構造全体の剛直性、柔軟性は大きく影響を受ける。(A)成分のウレタン(メタ)アクリレートがポリオール由来のハードセグメント及びポリオール由来のソフトセグメントを有することにより、高いヤング率と高い破断伸びを両立させた機械的特性を有する硬化物を得ることができる。すなわち、ポリオール由来のハードセグメントを有することによりヤング率を高めると共に、ポリオール由来のソフトセグメントを有することにより破断伸びを高めることができる。
本発明において、以下、ポリオール由来のハードセグメントを単に「ハードセグメント」、ポリオール由来のソフトセグメントを単に「ソフトセグメント」という。
【0009】
(A)成分のウレタン(メタ)アクリレートは、ハードセグメントを有するポリオールと、ソフトセグメントを有するポリオールと、ポリイソシアネートと水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させることにより得られる。
ハードセグメント及びソフトセグメントは、異なるポリオールにそれぞれ由来してもよいし、剛直な構造部分及び柔軟な構造部分を1分子中に有するポリオールに由来してもよい。例えば、ビスフェノールAは剛直な構造を有するポリオールの例であり、ポリプロピレングリコールは柔軟な構造を有するポリオールの例である。
【0010】
これに対して、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加ポリオールはビスフェノールA由来の剛直な構造部分及びアルキレンオキサイド由来の柔軟な構造部分を有するということができる。本発明では、剛直な構造部分及び柔軟な構造部分を1分子中に有するポリオールの場合、柔軟な構造部分の分子量が300未満である場合には、(A)成分においてこのポリオールに由来する構造全体をハードセグメントとして扱う。
具体的には、ポリプロピレン変性ビスフェノールAであるユニオールDB−400(日油製)は、下記式(0)で表される分子量400のジオールである。ここで、(C36O)nで表される部分の分子量は約90である。このため、(A)成分中においてDB−400に由来する構造は、その構造全体としてハードセグメントとして扱う。
【0011】
HO−(C36O)n−Ph−C(CH32−Ph−(C36O)n−OH (0)
[式(0)において、Phはフェニレン基である。nは、繰り返し数を示す。]
【0012】
一分子中にハードセグメント及びソフトセグメントを有するウレタン(メタ)アクリレート(A)を用いることにより、ハードセグメントを有するがソフトセグメントを有しないウレタン(メタ)アクリレートと、ソフトセグメントを有するがハードセグメントを有しないウレタン(メタ)アクリレートの混合物を用いた場合に較べ、より破断伸びに優れ、そのため、高い曲率で電線を曲げた場合にも破壊されにくい電線被覆層を得ることができる。
【0013】
ハードセグメントは、剛直な構造を有するポリオールに由来する。剛直な構造を有するポリオールとしては、特に限定されないが、環状構造を有するポリオールであることが好ましく、芳香環構造又は脂環式構造を有するポリオールであることがさらに好ましい。芳香環構造又は脂環式構造を有するポリオールとしては、例えば、芳香環構造又は脂環式構造を有するポリエーテルポリオールの他、芳香環構造又は脂環式構造を有するポリエステルポリオール、芳香環構造又は脂環式構造を有するポリカーボネートポリオール、芳香環構造又は脂環式構造を有するポリカプロラクトンポリオール等が挙げられる。これらのポリオールの各構造単位の重合様式には特に制限されず、ランダム重合、ブロック重合、グラフト重合のいずれであってもよい。なお、ポリオールとしては、ジオールが好ましい。剛直な構造を有するポリオールは、300〜700の数平均分子量を有することが好ましい。
【0014】
芳香環構造又は脂環式構造を有するポリエーテルポリオールとしては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加ポリオール、ビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加ポリオール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、水添ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加ポリオール、水添ビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加ポリオール等のビスフェノール構造を有するポリエーテルポリオール;ハイドロキノンのアルキレンオキサイド付加ポリオール、ナフトハイドロキノンのアルキレンオキサイド付加ポリオール、アントラハイドロキノンのアルキレンオキサイド付加ポリオール、1,4−シクロヘキサンポリオール及びそのアルキレンオキサイド付加ポリオール、トリシクロデカンポリオール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンポリオール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール等の環式ポリエーテルポリオールが挙げられる。これらの中で、ビスフェノール構造を有するポリエーテルポリオールが好ましく、さらに、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加ポリオール、トリシクロデカンジメタノールが好ましい。これらのポリオールは、例えば、ユニオールDA400、DA700、DA1000、DB400(以上、日油製)、トリシクロデカンジメタノール(三菱化学製)等の市販品として入手することもできる。その他、環式ポリエーテルポリオールとしては、キレンオキシド付加ポリオール、ビスフェノールFのアルキレノキシド付加ポリオール、1,4−シクロヘキサンポリオールのアルキレノキシド付加ポリオールなどが挙げられる。ただし、以上の芳香環構造又は脂環式構造を有するポリエーテルポリオールの例示において、アルキレンオキサイドに由来する1つの構造部分の分子量は、300未満である。
剛直な構造を有するポリオールは、単独あるいは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
ソフトセグメントは、柔軟な構造を有するポリオールに由来する。柔軟な構造を有するポリオールとしては、特に限定されないが、脂肪族構造を有するポリオールが好ましい。脂肪族ポリオールとしては、例えば、脂肪族ポリエーテルポリオールの他、脂肪族ポリエステルポリオール、脂肪族ポリカーボネートポリオール、脂肪族ポリカプロラクトンポリオール等が挙げられる。これらのポリオールが二種以上の構造単位からなる場合、各構造単位の重合様式は特に制限されず、ランダム重合、ブロック重合、グラフト重合のいずれであってもよい。柔軟な構造を有するポリオールは、300〜3,000の数平均分子量を有することが好ましい。
なお、ポリオールの数平均分子量は、JIS K 0070に従って測定した水酸基価から求めた分子量である。
【0016】
脂肪族ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリヘプタメチレングリコール、ポリデカメチレングリコールあるいは二種以上のイオン重合性環状化合物を開環共重合させて得られる脂肪族ポリエーテルポリオール等が挙げられる。上記イオン重合性環状化合物としては、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブテン−1−オキシド、イソブテンオキシド、3,3−ビスクロロメチルオキセタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、テトラオキサン、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、エピクロルヒドリン、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルカーボネート、ブタジエンモノオキシド、イソプレンモノオキシド、ビニルオキセタン、ビニルテトラヒドロフラン、ビニルシクロヘキセンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、安息香酸グリシジルエステル等の環状エーテル類が挙げられる。また、上記イオン重合性環状化合物と、エチレンイミン等のイオン重合性環状イミン類、β−プロピオラクトン、グリコール酸ラクチド等のイオン重合性環状ラクトン酸、あるいはジメチルシクロポリシロキサン類とを開環共重合させたポリエーテルポリオールを使用することもできる。上記二種以上のイオン重合性環状化合物の具体的な組み合わせとしては、例えばテトラヒドロフランとプロピレンオキシド、テトラヒドロフランと2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフランとエチレンオキシド、プロピレンオキシドとエチレンオキシド、ブテン−1−オキシドとエチレンオキシド、テトラヒドロフラン、ブテン−1−オキシド、エチレンオキシドの3元重合体等を挙げることができる。これらのイオン重合性環状化合物の開環共重合体はランダムに結合していてもよいし、ブロック状の結合をしていてもよい。
柔軟な構造を有するポリオールは、単独あるいは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
成分(A)において、ハードセグメントとしては、環状構造を有する数平均分子量300〜700のポリオールに由来するのが好ましく、更に、ビスフェノール構造を有する数平均分子量300〜700のポリオールに由来するのが好ましい。
また、ソフトセグメントとしては、脂肪族構造を有する数平均分子量300〜3,000のポリオールに由来するのが好ましく、更に、炭素数2〜5の脂肪族ポリエーテル構造を有する数平均分子量300〜1,000のポリオールに由来するのが好ましい。
【0018】
ポリイソシアネート、特にジイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチルフェニレンジイソシアネート、4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアネートエチル)フマレート、6−イソプロピル−1,3−フェニルジイソシアネート、4−ジフェニルプロパンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,5(又は2,6)−ビス(イソシアネートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等が挙げられる。特に、2,4−トリレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)等が好ましい。
これらのポリイソシアネートは、単独あるいは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンポリオールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリロイルフォスフェート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンポリオールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、下記式(1)又は(2)
【0020】
【化1】

【0021】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、nは1〜15の数を示す)
で表される(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、アルキルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有化合物と、(メタ)アクリル酸との付加反応により得られる化合物を使用することもできる。
これら水酸基含有(メタ)アクリレートのうち、特に、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0022】
これらの、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物は、単独であるいは二種類以上組み合わせて用いることができる。
【0023】
ポリオール、ポリイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートの使用割合は、ポリオールに含まれる水酸基1当量に対してポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基が1.2〜1.8当量、水酸基含有(メタ)アクリレートの水酸基が0.2〜0.8当量となるようにするのが好ましい。
【0024】
(A)成分であるウレタン(メタ)アクリレートの合成方法としては、例えばポリオール、ポリイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを一括に仕込んで反応させる方法;ポリオール及びポリイソシアネートを反応させ、次いで水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させる方法;ポリイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させ、次いでポリオールを反応させる方法;ポリイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させ、次いでポリオールを反応させ、最後にまた水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させる方法等が挙げられる。
このとき、ポリオールとして、ハードセグメントを有するポリオールとソフトセグメントを有するポリオールの両方を反応させるが、ハードセグメントを有するポリオールとソフトセグメントを有するポリオールを同時に反応させる方法、ハードセグメントを有するポリオールを反応させてからソフトセグメントを有するポリオールを反応させる方法、ソフトセグメントを有するポリオールを反応させてからハードセグメントを有するポリオールを反応させる方法等が挙げられる。
なお、ウレタン(メタ)アクリレートの合成反応液には、反応液の粘度が過度に増大することを防止するための希釈モノマーを添加してもよい。希釈モノマーは、ウレタン(メタ)アクリレートの合成時には他成分と反応しないものである。希釈モノマーは、後述する(B)成分であって水酸基を有しない化合物の中から任意に選択することができる。
【0025】
これらの化合物の反応においては、例えばナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ジブチル錫ジラウレート、トリエチルアミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、2,6,7−トリメチル−1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等のウレタン化触媒を、反応物の総量100質量部に対して0.01〜1質量部用いるのが好ましい。また、反応温度は、通常10〜90℃、特に30〜80℃で行うのが好ましい。
【0026】
これら(A)成分であるウレタン(メタ)アクリレートは、電線被覆層の強度、特にヤング率、破断伸び、及び組成物の粘度の点から、組成物全量100質量%に対して、通常10〜65質量%、特に20〜60質量%配合されるのが好ましい。
【0027】
(B)成分である、環状構造及び1個のエチレン性不飽和基を有する化合物は、(A)成分以外の、環状構造を有する重合性単官能化合物である。(B)成分として、この化合物を用いることにより、本発明組成物により得られる電線被覆層の強度、特にヤング率、破断伸びが向上する。ここで、環状構造としては、脂環式構造、窒素原子又は酸素原子を含む複素環構造、芳香環等が挙げられ、このうち脂環式構造、窒素原子を含む複素環構造が特に好ましい。
【0028】
このような、環状構造を有する重合性単官能性化合物(B)としては、例えばN−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等のビニル基含有ラクタム、イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式構造含有(メタ)アクリレート;、ベンジル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン等が挙げられる。さらに、下記式(3)〜(5)で表される化合物を挙げることができる。
【0029】
【化2】

【0030】
(式中、R2は水素原子又はメチル基を示し、R3は炭素数2〜8、好ましくは2〜5のアルキレン基を示し、R4は水素原子又はメチル基を示し、pは好ましくは1〜4の数を示す)
【0031】
【化3】

【0032】
(式中、R5、R6、R7及びR8は互いに独立で、水素原子又はメチル基を示し、qは1〜5の整数を示す)
【0033】
これら(B)成分のうち、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、イソボルニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリンが好ましい。
【0034】
これら(B)成分の市販品としては、IBXA(大阪有機化学工業製)、アロニックスM−111、M−113、M114、M−117、TO−1210(以上、東亞合成製)、ACMO(以上、興人製)、NVC、NVP(以上、BASF製)、V−PYROL、V−CAP(以上、ICP製)等を使用することができる。
【0035】
これら(B)成分である環状構造を有する単官能化合物は、電線被覆層の強度及び組成物の粘度の点から、組成物全量100質量%に対して、30〜80質量%、さらに35〜70質量%、特に40〜60質量%配合されるのが好ましい。
【0036】
本発明で用いる(C)放射線重合開始剤としては、例えば1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォフフィンオキシド;IRGACURE184、369、651、500、907、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61;Darocure1116、1173(以上、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ製);LucirinTPO(BASF製);ユベクリルP36(UCB製)等が挙げられる。
(C)放射線重合開始剤は、組成物全量100質量%に対して、0.1〜10質量%、特に0.3〜7質量%配合するのが好ましい。
【0037】
また、光増感剤としては、例えばトリエチルアミン、ジエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、エタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル;ユベクリルP102、103、104、105(以上、UCB製)等を用いることもできる。
【0038】
本発明の組成物は、更に、(D)シリコーン化合物を含有することができ、電線被覆層の耐磨耗性を改善することができる。
かかるシリコーン化合物としては、ポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、ウレタン(メタ)アクリレート変性シリコーン、ウレタン変性シリコーン、メチルスチリル変性シリコーン、エポキシポリエーテル変性シリコーン、アルキルアラルキルポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。これらのうち、ポリエーテル変性シリコーン、ウレタン(メタ)アクリレート変性シリコーンが特に好ましい。
【0039】
ポリエーテル変性シリコーンとしては、少なくとも1個のケイ素原子に基R11−(R12O)s−R13−(ここで、R11は水酸基又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示し、R12は炭素数2〜4のアルキレン基を示し(R12は2種以上のアルキレン基が混在していてもよい)、R13は炭素数2〜12のアルキレン基を示し、sは1〜20の数を示す)が結合しているポリジメチルシロキサン化合物が好ましい。このうち、R12としては、エチレン基、プロピレン基が好ましく、特にエチレン基が好ましい。
当該シリコーン化合物の市販品のうち、エチレン性不飽和基等の重合性基を有しないものとしては、例えばSH28PA(ジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体;東レ・ダウコーニング製)、ペインタッド19、54(ジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体;東レ・ダウコーニング製)、FM0411(サイラプレーン;チッソ製)、SF8428(ジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体(側鎖OH含有);東レ・ダウコーニング製)、BYK UV3510(ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体;ビックケミー・ジャパン製)、DC57(ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体;東レ・ダウコーニング・シリコーン製)等を挙げることができる。また、エチレン性不飽和基を有する当該シリコーン化合物の市販品としては、例えば、Tego Rad 2300、2200N(テゴ・ケミー製)等を挙げることができる。
また、ウレタン(メタ)アクリレート変性シリコーンは、ポリジメチルポリシロキサン構造を有する(A)成分以外のウレタン(メタ)アクリレートが好ましく、水酸基を有するシリコーンとジイソシアネートと水酸基含有(メタ)アクリレートの反応により得ることができる。
【0040】
これらのシリコーン化合物(D)は、電線被覆層の耐磨耗性の点から、平均分子量800〜30,000のものが好ましい。より好ましい平均分子量は1,000〜20,000であり、さらに1,200〜15,000が好ましい。
シリコーン化合物(D)の分子量は、テトラヒドロフランを展開溶媒に用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により求めたポリスチレン換算数平均分子量である。
【0041】
(D)成分は、電線被覆層の耐磨耗性の点から、組成物全量100質量%に対して、0.1〜10質量%、さらに0.3〜7質量%、特に0.5〜5質量%配合されるのが好ましい。
【0042】
本発明の組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、更に、(E)2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物を配合することができる。(E)2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物は、重合性多官能性化合物である。重合性多官能化合物(E)としては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、1,4−ブタンポリオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンポリオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの両末端(メタ)アクリル酸付加体、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加体のポリオールのジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加体のポリオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルに(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル及び下記式(6)
【0043】
【化4】

【0044】
(式中、R9及びR10は互いに独立で、水素原子又はメチル基を示し、mは1〜100の数を示す)
で表わされる化合物等が挙げられる。
【0045】
これら重合性多官能化合物のうち、上記式(6)で表わされる化合物、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、エチレンオキサイドを付加させたビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イアオシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく、中でも、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0046】
これら重合性多官能化合物の市販品として、例えば、ユピマーUV、SA1002(以上、三菱化学製)、アロニックスM−215、M−315、M−325(以上、東亞合成製)を使用することができる。また、アローニックスTO−1210(東亞合成製)を使用することができる。
【0047】
これらの(E)2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物は、組成物全量100質量%に対して、0〜20質量%配合されるが、好ましくは0〜10質量%であり、特に好ましくは0〜5質量%であり、もっとも好ましくは0質量%である。20質量%を超えて配合すると、電線被覆層の破断伸びが損なわれる。
【0048】
本発明の組成物には、必要に応じて、非シリコーン系滑剤や導体との密着力付与剤を配合することができる。
非シリコーン系滑剤としては、流動パラフィン、パラフィン、ポリエチレンパウダー、変性ポリエチレンパウダー、PTFEパウダー、炭化水素系オイル、ポリエーテル系オイル等が挙げられる。
導体との密着力付与剤としては、(A)、(B)及び(E)成分以外のリン含有(メタ)アクリレート、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0049】
本発明の組成物には、更に必要に応じて、本発明の特性を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、保存安定剤、可塑剤、フィラー、老化防止剤、濡れ性改良剤、塗面改良剤等を配合することができる。
【0050】
本発明の組成物の25℃における粘度は、0.5〜50Pa・sが好ましく、1〜30Pa・sがさらに好ましい。粘度が上記範囲内にあることにより、被覆電線やケーブルの被覆層の形成が容易である。上記粘度は、B型粘度計で測定することができる。
【0051】
被覆電線の絶縁層やケーブルのシース層は、本発明の組成物に放射線を照射して硬化させることにより製造される。なお、放射線とは、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等をいう。
【0052】
本発明の組成物を硬化させて得られる硬化物のヤング率は、500〜2,200MPaが好ましく、800〜2,000がさらに好ましい。破断強度は、10〜150MPaが好ましく、30〜70MPaがさらに好ましい。破断伸びは、70〜400%が好ましく、80〜200%がさらに好ましい。硬化物のヤング率、破断強度および破断伸びが上記範囲内にあることにより外部応力に強く、大きな曲率で電線を曲げた場合であっても破壊されることが少ない強靱な電線被覆を得ることができる。なお、ヤング率および破断強度は、JIS K 7127/5/50に従い、23℃、50%RH下で測定したものである。ただし、ヤング率は2.5%歪みでの抗張力から求めた値である。
【0053】
本発明組成物は、被覆電線、特に電話線ケーブル、電子機器間又は電子機器内の接続用電線、自動車用電線等の比較的細い電線、ケーブルの被覆層の形成用である放射線硬化性樹脂組成物として有用である。さらに、中心導体及びシールド(遮蔽層)を有する電線のシールドの外側に接するシース層の形成用の放射線硬化性樹脂組成物としても有用である。本発明の組成物を塗布して放射線を照射すれば、均一かつ強度に優れ、高温下でも溶融しない電線被覆層が容易に形成できる。
【実施例】
【0054】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
[製造例1:(A)ウレタン(メタ)アクリレートの合成1]
攪拌機を備えた反応容器に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.17g、2,4−トリレンジイソシアナート179g、数平均分子量が400であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加ジオール205g、数平均分子量が1000のポリテトラメチレングリコール256g、イソボルニルアクリレート300gを加え、均一になるまで撹拌した。液温が60℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ジブチル錫ジラウレート0.56gを滴下し、液温55〜60℃で1時間攪拌した。その後、液温が65℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ヒドロキシエチルアクリレート59.5gを滴下し、液温度60〜65℃にて2時間撹拌し、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。以上により得られたウレタンアクリレートをUA−1とする。なお、イソボルニルアクリレートは希釈モノマーである。
UA−1の主成分は、下記式(7)で表されるウレタンアクリレートであり、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加ジオールに由来するハードセグメントとポリテトラメチレングリコールに由来するソフトセグメントを有している。
HEA-TDI-(POBA400-TDI)2-PTMG1000-TDI-HEA (7)
[式(7)において、「POBA400」は数平均分子量が400であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加ジオールに由来する構造部分であり、「PTMG1000」は数平均分子量が1000のポリテトラメチレングリコールに由来する構造部分であり、「TDI」は2,4−トリレンジイソシアネートに由来する構造部分であり、「HEA」はヒドロキシエチルアクリレートに由来する構造部分である。]
【0056】
[製造例2:(A)ウレタン(メタ)アクリレートの合成2]
攪拌機を備えた反応容器に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.17g、2,4−トリレンジイソシアナート205g、数平均分子量が400であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加ジオール235g、数平均分子量が650のポリテトラメチレングリコール191g、イソボルニルアクリレート300gを加え、均一になるまで撹拌した。液温が60℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ジブチル錫ジラウレート0.56gを滴下し、液温55〜60℃で1時間攪拌した。その後、液温が65℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ヒドロキシエチルアクリレート68.3gを滴下し、液温度60〜65℃にて2時間撹拌し、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。以上により得られたウレタンアクリレートをUA−2とする。
UA−2の主成分は、下記式(8)で表されるウレタンアクリレートであり、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加ジオールに由来するハードセグメントとポリテトラメチレングリコールに由来するソフトセグメントを有している。
HEA-TDI-(POBA400-TDI)2-PTMG650-TDI-HEA (8)
[式(8)において、「PTMG650」は数平均分子量が650のポリテトラメチレングリコールに由来する構造部分である。「POBA400」、「TDI」及び「HEA」は式(7)の場合と同様である。]
【0057】
[製造例3:(A)ウレタン(メタ)アクリレートの合成3]
攪拌機を備えた反応容器に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.17g、2,4−トリレンジイソシアナート226g、数平均分子量が400であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加ジオール108g、数平均分子量が400のポリプロピレングリコール303g、イソボルニルアクリレート300gを加え、均一になるまで撹拌した。液温が60℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ジブチル錫ジラウレート0.56gを滴下し、液温55〜60℃で1時間攪拌した。その後、液温が65℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ヒドロキシエチルアクリレート62.8gを滴下し、液温度60〜65℃にて2時間撹拌し、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。以上により得られたウレタンアクリレートをUA−3とする。
UA−3の主成分は、下記式(9)で表されるウレタンアクリレートであり、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加ジオールに由来するハードセグメントとポリプロピレングリコールに由来するソフトセグメントを有している。
HEA-TDI-POBA400-TDI-(PPG400-TDI)2.8-HEA (9)
[式(9)において、「PPG400」は数平均分子量が400のポリプロピレングリコールに由来する構造部分である。「POBA400」、「TDI」及び「HEA」は式(7)の場合と同様である。]
【0058】
[製造例4:(A)ウレタン(メタ)アクリレートの合成4]
攪拌機を備えた反応容器に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.17g、2,4−トリレンジイソシアナート170g、数平均分子量が400であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加ジオール130g、数平均分子量が1000のポリテトラメチレングリコール325g、イソボルニルアクリレート300gを加え、均一になるまで撹拌した。液温が60℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ジブチル錫ジラウレート0.56gを滴下し、液温55〜60℃で1時間攪拌した。その後、液温が65℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ヒドロキシエチルアクリレート75.4gを滴下し、液温度60〜65℃にて2時間撹拌し、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。以上により得られたウレタンアクリレートをUA−4とする。
UA−4の主成分は、下記式(10)で表されるウレタンアクリレートであり、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加ジオールに由来するハードセグメントとポリテトラメチレングリコールに由来するソフトセグメントを有している。
HEA-TDI-POBA400-TDI-PTMG1000-TDI-HEA (10)
[式(10)において、「POBA400」、「PTMG1000」、「TDI」及び「HEA」は式(7)の場合と同様である。]
【0059】
[比較製造例1:(A)成分に該当しないウレタン(メタ)アクリレートの合成1]
攪拌機を備えた反応容器に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.24g、2,4−トリレンジイソシアナート220g、数平均分子量が1000のポリテトラメチレングリコール632gを加え、均一になるまで撹拌した。液温が60℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ジブチル錫ジラウレート0.56gを滴下し、液温55〜60℃で1時間攪拌した。その後、液温が65℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ヒドロキシエチルアクリレート147gを滴下し、液温度60〜65℃にて3時間撹拌し、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。以上により得られたウレタンアクリレートをUA’−1とする。
UA’−1の主成分は、下記式(11)で表されるウレタンアクリレートであり、ポリテトラメチレングリコールに由来するソフトセグメントを有しているが、ポリオール由来のハードセグメントは有していない。
HEA-TDI-PTMG1000-TDI-HEA (11)
[式(11)において、「PTMG1000」、「TDI」及び「HEA」は式(7)の場合と同様である。]
【0060】
[比較製造例2:(A)成分に該当しないウレタン(メタ)アクリレートの合成2]
攪拌機を備えた反応容器に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.24g、2,4−トリレンジイソシアナート135g、数平均分子量が2000のポリテトラメチレングリコール774gを加え、均一になるまで撹拌した。液温が60℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ジブチル錫ジラウレート0.56gを滴下し、液温55〜60℃で1時間攪拌した。その後、液温が65℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ヒドロキシエチルアクリレート89.9gを滴下し、液温度60〜65℃にて3時間撹拌し、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。以上により得られたウレタンアクリレートをUA’−2とする。
UA’−2の主成分は、下記式(12)で表されるウレタンアクリレートであり、ポリテトラメチレングリコールに由来するソフトセグメントを有しているが、ポリオール由来のハードセグメントは有していない。
HEA-TDI-PTMG2000-TDI-HEA (12)
[式(12)において、「PTMG2000」は数平均分子量が2000のポリテトラメチレングリコールに由来する構造部分であり、「TDI」及び「HEA」は式(7)の場合と同様である。]
【0061】
[比較製造例3:(A)成分に該当しないウレタン(メタ)アクリレートの合成3]
攪拌機を備えた反応容器に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.17g、2,4−トリレンジイソシアナート248g、数平均分子量が400であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加ジオール285g、イソボルニルアクリレート300gを加え、均一になるまで撹拌した。液温が60℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ジブチル錫ジラウレート0.56gを滴下し、液温55〜60℃で1時間攪拌した。その後、液温が65℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ヒドロキシエチルアクリレート165.6gを滴下し、液温度60〜65℃にて3時間撹拌し、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。以上により得られたウレタンアクリレートをUA’−3とする。
UA’−3の主成分は、下記式(13)で表されるウレタンアクリレートであり、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加ジオール由来のハードセグメントを有しているが、ポリオール由来のソフトセグメントは有していない。
HEA-TDI-POBA400-TDI-HEA (13)
[式(13)において、「POBA400」、「TDI」及び「HEA」は式(7)の場合と同様である。]
【0062】
[比較製造例4:(A)成分に該当しないウレタン(メタ)アクリレートの合成4]
攪拌機を備えた反応容器に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.24g、2,4−トリレンジイソシアナート428g、ジブチル錫ジラウレート0.80gを加え、均一になるまで撹拌した。液温が65℃以上にならないように反応容器を冷却しながら、ヒドロキシエチルアクリレート571gを滴下し、液温度60〜65℃にて5時間撹拌し、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。以上により得られたウレタンアクリレートをUA’−4とする。
UA’−4の主成分は、下記式(14)で表されるウレタンアクリレートであり、ポリオール由来のハードセグメントとポリオール由来のソフトセグメントのいずれも有していない。
HEA-TDI-HEA (14)
[式(14)において、「TDI」及び「HEA」は式(7)の場合と同様である。]
【0063】
実施例1〜4及び比較例1〜2
表1に示す組成の各成分を、攪拌機を備えた反応容器に仕込み、液温度を60℃に制御しながら1時間攪拌し、液状硬化性樹脂組成物を得た。なお、表1中の配合量は質量部である。
【0064】
試験例
前記実施例及び比較例で得た液状硬化性樹脂組成物を、以下のような方法で硬化させて試験片を作製し、下記の各評価を行った。結果を表1に併せて示す。
【0065】
(1)粘度:
実施例および比較例で得られた組成物の25℃における粘度をB型粘度計を用いて測定した。
【0066】
(2)ヤング率、破断強度、破断伸び:
15mil(塗布膜厚約200μmに相当)のアプリケーターバーを用いてガラス板上に液状硬化性樹脂組成物を塗布し、これを窒素下で500mJ/cm2のエネルギーの紫外線で照射して硬化させ、ヤング率測定用フィルムを得た。23℃、50%RH下で1日静置した後、このフィルムをJIS K 7127/5/50に従い、23℃、50%RH下で引張試験を行い、ヤング率、破断強度、破断伸びを測定した。ただし、ヤング率は2.5%歪みでの抗張力から求めた。
【0067】
【表1】

【0068】
表1において、
Irgacure184:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製。
SH28PA:ジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体、平均分子量3800、東レ・ダウコーニング製。
SH190:ジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体、平均分子量25000、東レ・ダウコーニング製。
ウレタンアクリレート変性シリコーン:サイラプレーンFM0411(チッソ製)、2,4−トリレンジイソシアネート、及び2−ヒドロキシエチルアクリレートの反応物、平均分子量1600。
Irganox245:エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、チバ・ジャパン製
「非A」:(A)成分に該当しないことを意味する。
【0069】
表1から明らかなように、本発明の各実施例では、ヤング率、破断強度及び破断伸びの特性が良好であったが、(A)成分に替えて、ポリオール由来のソフトセグメントを有しないウレタンアクリレートとポリオール由来のハードセグメントを有しないウレタンアクリレートの混合物を用いた比較例1及び2では、特に、破断伸びの値が低下しており、硬化物の機械的強度が不足していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一分子中に、ポリオール由来のハードセグメント及びポリオール由来のソフトセグメントを有するウレタン(メタ)アクリレート、
(B)環状構造及び1個のエチレン性不飽和基を有する化合物、
及び
(C)放射線重合開始剤
を含有する電線被覆層形成用放射線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分のハードセグメントが、環状構造を有する数平均分子量300〜700のポリオールに由来し、ソフトセグメントが、脂肪族構造を有する数平均分子量300〜3,000のポリオールに由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記(A)成分のハードセグメントが、ビスフェノール構造を有する数平均分子量300〜700のポリオールに由来し、ソフトセグメントが、炭素数2〜5の脂肪族ポリエーテル構造を有する数平均分子量300〜1,000のポリオールに由来する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記(A)成分が、ハードセグメントを有するポリオールと、ソフトセグメントを有するポリオールと、ポリイソシアネートと水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させて得られるものである、請求項1〜3のいずれか一に記載の組成物。
【請求項5】
更に、(D)平均分子量800〜30,000のシリコーン化合物を含有する、請求項1〜4のいずれか一に記載の組成物。
【請求項6】
(D)シリコーン化合物が、ポリエーテル変性シリコーン又はウレタン(メタ)アクリレート変性シリコーンである、請求項1〜5のいずれか一に記載の組成物。
【請求項7】
成分(B)が、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、イソボルニル(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリロイルモルホリンから選ばれる1種以上を含有する、請求項1〜6のいずれか一に記載の組成物。
【請求項8】
中心導体及び絶縁体層を有する被覆電線の絶縁体層形成用である請求項1〜7のいずれか一に記載の組成物。
【請求項9】
単数又は複数の被覆電線及びシース層を有するケーブルのシース層形成用である請求項1〜7のいずれか一に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一に記載の組成物を硬化させて得られる被覆電線の絶縁体層又はケーブルのシース層。
【請求項11】
請求項10に記載の絶縁体層又はシース層を有する被覆電線又はケーブル。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一に記載の組成物に放射線を照射して硬化させる工程を有する被覆電線の絶縁体層又はケーブルのシース層の製造方法。

【公開番号】特開2012−38499(P2012−38499A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176216(P2010−176216)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】