説明

電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネス

【課題】電子線架橋を用いずに、耐熱性に優れ、生産性が良好であり、難燃性を有する電線被覆材用組成物、絶縁電線、ワイヤーハーネスを提供する。
【解決手段】(A)ポリオレフィンがシランカップリング剤により変性された水架橋性ポリオレフィン、(B)未変性ポリオレフィン、(C)官能基により変性された変性ポリオレフィン、(D1)臭素系難燃剤、(E)架橋触媒、(F)フェノール系酸化防止剤、(G)(G1)硫化亜鉛或いは(G2)酸化亜鉛及びイミダゾ−ル化合物を含む電線被覆材用組成物を導体の周囲に押出成形して被覆材を形成した後、水架橋を行い絶縁電線とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、高い耐熱性が要求される自動車用絶縁電線等の被覆材料として好適であり、難燃性、機械的強度、耐熱性、耐薬品性等の諸特性に優れた、電線被覆材用組成物、これを用いた絶縁電線およびワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車等の普及により、自動車用部品である電線やコネクタ等では、高耐電圧性、高耐熱性等が要求されている。従来、自動車のワイヤーハーネス等のように、高温を発する箇所には、塩化ビニル樹脂(PVC)の架橋電線や、ポリオレフィン架橋電線が用いられていた。これらの電線の架橋方法は、電子線で架橋する方式が主流であったが、電子線架橋は、高価な架橋装置等を必要とし、設備費用が高価であり、製品コストが上昇してしまうという問題があった。そこで、安価な設備で架橋可能である、ポリオレフィン樹脂をシランカップリング剤で変性した架橋性樹脂(水架橋樹脂)を用いる水架橋方式が注目されている(例えば特許文献1〜2参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリオレフィンエラストマー100重量部に対してシランカップリング剤を1〜3重量部、架橋剤を0.025〜0.063重量部配合し加熱混練してシランカップリング剤をポリオレフィンエラストマーにグラフト重合させたコンパウンドに水酸化マグネシウムを100重量部混練したシラングラフトマー(A成分)と、ポリオレフィンエラストマー100重量部に対して、架橋剤を1.0〜3.12重量部、架橋触媒を7.14〜31.3重量部を含浸処理した触媒マスターバッチ(B成分)とを、混練加熱架橋して成形したノンハロゲン難燃シラン架橋ポリオレフィン組成物が開示されている。
【0004】
また例えば、特許文献2には、電線被覆材に用いる組成物として、熱可塑性樹脂、ゴム、および、熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1つの重合体100質量部、有機過酸化物0.01〜0.6質量部、シラノール縮合触媒0.05〜0.5質量部、および、水酸化マグネシウム100〜300質量部を含む、シラン架橋性ポリオレフィンとの混合用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−212291号公報
【特許文献2】特開2006−131720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで上記特許文献1〜2に記載されているように、水架橋樹脂からなる絶縁被膜を形成した電線の難燃性を満足させるには、難燃剤として添加される水酸化マグネシウム等のフィラーを多量に添加する必要がある。しかし、このようなフィラーを大量に添加すると、水架橋性樹脂の酸化劣化が促進されることから、架橋材料本来の耐熱性を低下させてしまうという問題があった。
【0007】
また、水架橋樹脂を用いた場合、水分により架橋が進行するので、加熱成型時に空気中の水分により架橋が促進され、異物発生の懸念がある。そのため、加熱工程の回数を最小限に抑える必要がある。そこで、製造工程において、フィラーと非水架橋樹脂からなるマスターバッチを作成し、該マスターバッチを水架橋樹脂と混合することが一般に行われる。しかし、マスターバッチにフィラーを大量に添加すると、マスターバッチの粘度が上昇し、分散不良や生産性の低下を引き起こし易い。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、電子線架橋を用いずに、耐熱性に優れ、生産性が良好である、難燃性を有する電線被覆材用組成物、絶縁電線、ワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る電線被覆材用組成物は、
(A)ポリオレフィンがシランカップリング剤により変性された水架橋性ポリオレフィン
(B)未変性ポリオレフィン
(C)官能基により変性された変性ポリオレフィン
(D)難燃剤
(E)架橋触媒
(F)フェノール系酸化防止剤
(G)(G1)硫化亜鉛、或いは(G2)酸化亜鉛及び(G3)イミダゾ−ル化合物
を含み、
前記(D)難燃剤が(D1)臭素系難燃剤を含むことを要旨とするものである。
【0010】
本発明に係る絶縁電線は、上記電線被覆材用組成物を水架橋させてなる電線被覆材を有することを要旨とする。
【0011】
本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電線被覆材用組成物は、
(A)ポリオレフィンがシランカップリング剤により変性された水架橋性ポリオレフィン
(B)未変性ポリオレフィン
(C)官能基により変性された変性ポリオレフィン
(D)難燃剤
(E)架橋触媒
(F)フェノール系酸化防止剤
(G)(G1)硫化亜鉛、或いは(G2)酸化亜鉛及び(G3)イミダゾ−ル化合物
を含み、
前記(D)難燃剤が(D1)臭素系難燃剤を含むものである。
そのため、組成物から難燃性樹脂被膜を形成する際に、電子線架橋を用いずに設備の安価な水架橋により形成することができる。
【0013】
更に形成された被膜は、難燃剤として水酸化マグネシウムのようなフィラーを大量に添加する必要がないので、フィラーの大量添加により架橋材料本来の耐熱性を低下させる虞がなく、耐熱性に優れたものが得られる。
【0014】
更に、フィラーを大量に添加する必要がないので、難燃性樹脂組成物を水架橋させて電線被覆等の架橋樹脂被膜を形成する際に、フィラーと非水架橋樹脂からなるマスターバッチを作成し、該マスターバッチを水架橋樹脂と混合する場合に、マスターバッチの粘度が上昇せず、分散不良や生産性の低下を引き起こす虞がなく、生産性が良好である。
【0015】
本発明に係る絶縁電線は、電線被覆材用組成物を水架橋させてなる電線被覆材を有するものであるから、耐熱性、機械的特性に優れる。また、高価な電子線照射架橋や合成水酸化マグネシウムを用いていないので、低コスト化に寄与することができる。
【0016】
本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を有しているので、耐熱性、機械的特性に優れる。また、高価な電子線照射架橋や合成水酸化マグネシウムを用いていないので、低コスト化に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の電線被覆材用組成物は、一例として下記の成分から構成することができる。
(A)ポリオレフィンがシランカップリング剤により変性された水架橋性ポリオレフィン
(B)未変性ポリオレフィン
(C)官能基により変性された変性ポリオレフィン
(D)難燃剤として(D1)臭素系難燃剤、或いは(D1)臭素系難燃剤及び(D2)三酸化アンチモン
(E)架橋触媒
(F)フェノール系酸化防止剤
(G)(G1)硫化亜鉛、或いは(G2)酸化亜鉛及び(G3)イミダゾ−ル化合物
(H)銅害防止剤
【0018】
特に本発明の組成物は、オレフィン系樹脂を主体とする水架橋樹脂組成物において、難燃剤として(D1)臭素系難燃剤を用いる点に大きな特徴がある。(D1)臭素系難燃剤は、ポリオレフィンが燃焼する際の活性ラジカルを効率良く捕捉することが期待できる。(D1)臭素系難燃剤を添加することにより、従来の水酸化マグネシウムのような無機フィラーを大量に添加する必要がないので、樹脂組成物から形成される被膜の耐熱性を向上させ、更に製造工程における分散性の不良や生産性の低下等の問題を解消できたものである。以下、各成分について説明する。
【0019】
電線被覆用樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂を主体とするものであり、樹脂成分として少なくとも(A)水架橋性ポリオレフィン、(B)未変性ポリオレフィン及び(C)変性ポリオレフィンを含む。(A)、(B)及び(C)からなる樹脂成分は、通常、組成物の中に占める割合として40質量%以上であり、好ましくは45質量%以上である。
【0020】
更に組成物における(A)、(B)及び(C)からなる樹脂成分と(D1)難燃剤成分は、下記の比率であることが、耐熱性、機械的特性、難燃性等のバランスに優れることから好ましい。
(A)水架橋性ポリオレフィン:30〜90質量部、好ましくは40〜80質量部、より好ましくは50〜70質量部
(B)未変性ポリオレフィン+(C)変性ポリオレフィン:70〜30質量部、好ましくは60〜20質量部、より好ましくは50〜30質量部
上記(A)、(B)及び(C)成分の合計を100質量部とした場合、
(D1)臭素系難燃剤:10〜70質量部、好ましくは10〜50質量部、より好ましくは10〜30質量部
【0021】
(B)未変性ポリオレフィン及び(C)変性ポリオレフィンは、水架橋性ポリオレフィンの物性を改良するために添加される。水架橋性ポリオレフィンと架橋触媒、難燃剤等から形成される架橋被膜は、十分な耐熱性が得られる。しかし、電線被膜とした場合の耐熱性以外の物性が不十分である。(B)未変性ポリオレフィン及び(C)変性ポリオレフィンを添加することで、これらの物性を向上させて、バランスのとれた特性の電線被膜が得られる。更に(B)未変性ポリオレフィン及び(C)変性ポリオレフィンは、組成物の製造の際に(詳細は後述する)、難燃剤等の添加剤を加えて混合し、水架橋性ポリオレフィンを含まない難燃剤バッチを構成するのに用いることができる。
【0022】
(B)未変性ポリオレフィンと(C)変性ポリオレフィンの混合比は、好ましくは、質量比で、(B)/(C)=95/5〜50/50、より好ましくは、90/10〜70/30の範囲内である。上記範囲内にあれば、コスト効果に寄与し、官能基による余剰反応を抑制できる等の利点がある。
【0023】
(A)水架橋性ポリオレフィンとしては、例えばシラングラフトポリオレフィンを用いることができる。シラングラフトポリオレフィンは、ポリオレフィンにシランカップリング剤がグラフトされてなるものである。
【0024】
上記ポリオレフィンとしては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)等のポリエチレン、ポリプロピレン、その他のオレフィンの単独重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体等のエチレン系共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−アクリル酸エステル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エステル共重合体等のプロピレン系共重合体、エチレン系エラストマー(PEエラストマー)、プロピレン系エラストマー(PPエラストマー)等のオレフィンをベースにするエラストマー等を例示することができる。これらは、単独で用いても良いし、併用しても良い。
【0025】
上記ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等を用いることが好ましい。
【0026】
(A)水架橋性ポリオレフィンに用いるポリオレフィンとしては、柔軟性が適度であることから、特にポリエチレンが好ましく、具体的には、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンから選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。電線被覆材等の用途に使用される場合に、柔軟性に優れたポリエチレンを用いると、電線の取り扱いが容易であり、配索性等に優れたものが得られる。上記ポリオレフィンとして、引張伸び特性の向上等の観点から、メタロセン超低密度ポリエチレンが好ましい。
【0027】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン等のビニルアルコキシシランやノルマルヘキシルトリメトキシシラン、ビニルアセトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等を例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0028】
シランカップリング剤の配合量は、シランカップリング剤をグラフトするポリオレフィン100質量部に対して、0.5〜5質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、3〜5質量部の範囲内である。シランカップリング剤の配合量が0.5質量部未満では、シランカップリング剤のグラフト量が少なく、シラン架橋時に十分な架橋度が得られ難い。一方、シランカップリング剤の配合量が5質量部を超えると、混練時に架橋反応が進みすぎてゲル状物質が発生しやすくなる。そうすると、製品表面に凹凸が発生しやすく、量産性が悪くなる。また、溶融粘度も高くなりすぎて押出機に過負荷がかかり、作業性が悪化しやすくなる。
【0029】
シランカップリング剤のグラフト量(シラングラフト前のポリオレフィンに占めるグラフトされているシランカップリング剤の質量割合)の上限は、電線被覆工程での過剰な架橋による異物発生等の観点から、好ましくは、15質量%以下、より好ましくは、10質量%以下、さらに好ましくは、5質量%以下であると良い。一方、上記グラフト量の下限は、電線被覆の架橋度(ゲル分率)等の観点から、好ましくは、0.1質量%以上、より好ましくは、1質量%以上、さらに好ましくは、2.5質量%以上であると良い。
【0030】
ポリオレフィンにシランカップリング剤をグラフトする手法としては、例えばポリオレフィンとシランカップリング剤に、遊離ラジカル発生剤等を加え、二軸押出機等で混合してシラングラフトバッチを得る方法が一般的である。他にも、ポリオレフィンを重合する際に、シランカップリング剤を添加する方法を用いて、ポリオレフィンにシランカップリング剤をグラフトすることができる。
【0031】
上記遊離ラジカル発生剤としては、ジクミルパーオキサイド(DCP)、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ブチルパーアセテート、tert−ブチルパーベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン等の有機過酸化物等を例示することができる。より好ましくは、ジクミルパーオキサイド(DCP)である。例えば、遊離ラジカル発生剤として、ジクミルパーオキサイド(DCP)を用いる場合には、ポリオレフィンにシランカップリング剤をグラフト重合させるために、シラングラフトバッチの調製温度を200℃以上にすると良い。
【0032】
遊離ラジカル発生剤の配合量は、シラン変性するポリオレフィン100質量部に対して0.025〜0.1質量部の範囲内であることが好ましい。遊離ラジカル発生剤の配合量が0.025質量部未満では、シランカップリング剤のグラフト化反応が十分進行し難く、所望のゲル分率が得られ難い。一方、遊離ラジカル発生剤の配合量が0.1質量部を越えると、ポリオレフィンの分子量を切断する割合が多くなり、目的としない過酸化物架橋が進行し易い。そうすると、ポリオレフィンの架橋反応が進み過ぎて、難燃剤バッチ等と共に混練する際に製品表面に凹凸が発生し易くなる。すなわち電線被覆材を形成した場合に、被覆材表面に凹凸が発生し、外観が悪化しやすくなる。また、溶融粘度も高くなり過ぎて押出機に過負荷がかかり、作業性が悪化しやすくなり作業性が低下する。
【0033】
(B)未変性ポリオレフィンは、シランカップリング剤や官能基等により変性されていないポリオレフィンのことである。未変性ポリオレフィンの具体的なポリオレフィンとしては、(A)にて上述したポリオレフィンを例示することができ、ここでの詳細な説明は省略する。(B)未変性ポリオレフィンとしては、VLDPEやLDPEなどのポリエチレンが、電線への柔軟性付与や難燃剤であるフィラーが良分散することから好ましい。
【0034】
(C)変性ポリオレフィンに用いられる具体的なポリオレフィンとしては、(A)にて上述したポリオレフィンを例示することができ、ここでの詳細な説明は省略する。(C)変性ポリオレフィンに用いられるポリオレフィンとしては、未変性ポリオレフィンとして使用する樹脂と同系列の樹脂が相溶性の面で好ましい。加えてVLDPEやLDPEなどのポリエチレンは、電線への柔軟性付与や難燃剤であるフィラーが良分散することから好ましい。
【0035】
上記官能基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基、シラン基、ヒドロキシル基等を例示することができる。上記官能基のうち、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基等は、難燃剤であるフィラーとの密着性が高いことから好ましい。
【0036】
上記変性ポリオレフィンには、これらは官能基が1種または2種以上含まれていても良い。また変性ポリオレフィンは、異なる官能基により変性された同一または異なるポリオレフィン、同じ官能基により変性された異なるポリオレフィンが1種または2種以上含まれていても良い。
【0037】
変性ポリオレフィンの官能基量は、ポリオレフィン100質量部に対し、0.5〜10質量部が好ましい。変性ポリオレフィンの官能基量が10質量部を超えると、電線端末加工時の被覆ストリップ性が低下する虞がある。また、変性ポリオレフィンの官能基量が0.5質量部未満では、官能基による変性の効果が不十分となる虞がある。
【0038】
ポリオレフィンを官能基により変性する方法としては、具体的には、官能基を有する化合物をポリオレフィンにグラフト重合する方法や、官能基を有する化合物とオレフィンモノマとを共重合させてオレフィン共重合体とする方法等が挙げられる。
【0039】
官能基としてカルボキシル基や酸無水物基を導入する化合物としては、具体的には、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα、β−不飽和ジカルボン酸、又はこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテ酸等の不飽和モノカルボン酸等が挙げられる。
【0040】
官能基としてアミノ基を導入する化合物としては、具体的には、アミノエチル(メタ)アクリレート、プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、フェニルアミノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0041】
官能基としてエポキシ基を導入する化合物としては、具体的には、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル、α−クロロアクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸等のグリシジルエステル類、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、p−グリシジルスチレン等が挙げられる。
【0042】
(D1)臭素系難燃剤として、具体的には、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)〔別名:ビス(ペンタブロモフェニル)エタン〕、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、ビス(テトラブロモフタルイミド)エタン、TBBA−カーボネイト・オリゴマー、TBBA−エポキシ・オリゴマー、臭素化ポリスチレン、TBBA−ビス(ジブロモプロピルエーテル)、ポリ(ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモベンゼン等が挙げられる。臭素系難燃剤は、融点が比較的高いものが、難燃性が良好であり、具体的には融点が200℃以上であるのが好ましい。融点が200℃以上の臭素系難燃剤としては、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)、ビス(テトラブロモフタルイミド)エタン、TBBA−ビス(ジブロモプロピルエーテル)等が挙げられる。
【0043】
尚、デカブロモジフェニルエーテル(DecaBDE)等のデカブロ系化合物からなる難燃剤は、高い難燃効果があるが、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律施行例第4条に規定する特定第一種指定化学物質に該当するので、環境面で他の臭素系難燃剤に対し不利な点があるので、本発明では使用しない。
【0044】
(D)難燃剤は、少なくとも(D1)臭素系難燃剤を用いればよいが、更に難燃助剤として(D2)三酸化アンチモンを添加してもよい。(D2)三酸化アンチモンを臭素系難燃剤と併用することで相乗効果が期待できる。三酸化アンチモンは純度99%以上のものを用いるのが好ましい。三酸化アンチモンは、鉱物として産出される三酸化アンチモンを粉砕処理して微粒化して用いる。その際、平均粒子系が3μm以下であるのが好ましく、更に好ましくは1μm以下である。三酸化アンチモンの平均粒径が大きくなると樹脂との界面強度が低下する虞がある。また三酸化アンチモンは、粒子系を制御することや樹脂との界面強度を向上させる目的で、表面処理を施しても良い。表面処理剤としては、シランカップリング剤、高級脂肪酸、ポリオレフィンワックス等を用いるのが好ましい。
【0045】
(E)架橋触媒は、シラングラフトポリオレフィンをシラン架橋させるためのシラノール縮合触媒である。架橋触媒としては、例えば、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルト等の金属カルボン酸塩や、チタン酸エステル、有機塩基、無機酸、有機酸等を例示することができる。
【0046】
(E)架橋触媒として具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫メルカプチド(ジブチル錫ビスオクチルチオグリコールエステル塩、ジブチル錫β−メルカプトプロピオン酸塩ポリマー等)、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸等を例示することができる。架橋触媒として好ましくは、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫メルカプチド等である。
【0047】
(E)架橋触媒の添加量は、触媒バッチの樹脂成分である(A)シラングラフトポリオレフィン100質量部に対し、0.5〜5質量部であるのが好ましく、より好ましくは、1〜5質量部の範囲内である。架橋触媒の添加量が0.5質量部以上であれば、適切な架橋度が得られ、耐熱性向上効果が不十分になる虞がない。また、架橋触媒の添加量が10質量部以下であれば、外観が不良になる虞がない。
【0048】
(F)フェノール系酸化防止剤としては、モノフェノール系、ビスフェノール系、高分子型フェノール系等が挙げられるが、高分子型フェノール系が好ましい。高分子型フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)としては、具体的にはペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5−ジ-tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。(F)フェノール系酸化防止剤の添加量は、樹脂成分(A)+(B)+(C)の合計100質量部に対し、0.5〜5質量部の範囲内が好ましい。
【0049】
(G1)硫化亜鉛、或いは(G2)酸化亜鉛及び(G3)イミダゾ−ル化合物は、被膜の耐熱性を向上させる。ISO6722は、自動車用電線に用いられる国際規格であり、この規格によれば、自動車用電線は、許容耐熱温度によりAクラスからEクラスに分類される。絶縁電線が自動車用電線として利用される場合、例えば、バッテリーケーブル等の高電圧が加わる用途では、耐熱温度クラスが125℃のCクラス、150℃のDクラスの特性が要求されることがある。(G1)硫化亜鉛、或いは(G2)酸化亜鉛及び(G3)イミダゾ−ル化合物の添加は、このような高い耐熱性が要求される場合に効果的である。尚、(G1)硫化亜鉛のみの添加、或いは(G2)酸化亜鉛と(G3)イミダゾ−ル化合物の併用のいずれを選択しても、同様の耐熱性の効果が得られる。
【0050】
酸化亜鉛は、例えば、亜鉛鉱石にコークス等の還元剤を加え、焼成して発生する亜鉛蒸気を空気で酸化する方法、硫酸亜鉛や塩化亜鉛を塩量に用いる方法で得られる。酸化亜鉛は特に製法は限定されず、いずれの方法で製造されたものでもよい。また硫化亜鉛についても、製法は既知の方法で製造されたものを用いることができる。酸化亜鉛又は硫化亜鉛は、平均粒径が、3μm以下が好ましく、更に好ましくは1μm以下である。酸化亜鉛又は硫化亜鉛は、平均粒径が小さくなると、樹脂との界面強度が向上し、分散性も向上する。
【0051】
上記(G3)イミダゾール化合物としては、イオウを含むベンズイミダゾール系化合物を好適に用いることができる。具体的には、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、4−メルカプトメチルベンズイミダゾール、5−メルカプトメチルベンズイミダゾール等やこれらの亜鉛塩等が挙げられる。特に好ましいものは、2−メルカプトベンズイミダゾールおよびその亜鉛塩である。ベンズイミダゾール系化合物においては、ベンズイミダゾール骨格の他の位置にアルキル基等の置換基を有していても良い。
【0052】
(G1)硫化亜鉛、或いは(G2)酸化亜鉛及び(G3)イミダゾ−ル化合物の添加量は、樹脂成分(A)+(B)+(C)の合計100質量部に対し、下記の範囲が好ましい。添加量が少なくなると、耐熱性向上効果が十分得られない虞があり、添加量が多すぎると、粒子が凝集し易くなり、電線の外観が低下し、耐摩耗性等の機械的特性が低下する虞がある。
(G1)硫化亜鉛:1〜20質量部、好ましくは3〜10質量部
(G2)酸化亜鉛+(G3)イミダゾ−ル化合物の合計:1〜20質量部、好ましくは3〜10質量部
【0053】
(H)銅害防止剤は、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール等のアミン系銅害防止剤が用いられる。組成物に(H)銅害防止剤を添加することで、更に耐熱性が向上する効果が得られる。銅害防止剤の添加量は、樹脂成分(A)+(B)+(C)の合計100質量部に対し、0.1〜3質量部の範囲内が好ましい。
【0054】
電線被覆材用組成物には、上記成分以外に、電線特性を阻害しない範囲で、一般的な電線被覆材料に用いられる、その他の添加剤を1種または2種以上任意に添加しても良い。例えば、その他の添加剤としては、ステアリン酸等の潤滑剤、紫外線吸収剤、加工助剤(ワックス、滑剤等)、難燃助剤、顔料等が挙げられる。
【0055】
その他の添加剤として、例えば、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム等の無機フィラーを添加することで、樹脂の硬度を調整することができる。その結果、被膜の加工性や耐高温変形特性等を向上させることが可能である。上記無機フィラーは、樹脂強度を低下しない範囲の添加量として、樹脂成分(A)+(B)+(C)の合計100質量部に対し、30質量部以下であり、好ましくは10質量部以下である。上記水酸化マグネシウムは、水酸化マグネシウムを主成分とする鉱物を粉砕処理することにより得られる天然鉱物由来の天然水酸化マグネシウム、海水に含まれるMg源を原料として合成される合成水酸化マグネシウム等を用いることができる。
【0056】
また、ステアリン酸等の潤滑剤は、樹脂成分(A)+(B)+(C)=100質量部に対し、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下に抑えると良い。上記潤滑剤は、電線外観が良好になる効果があるが、多量に添加すると、電線加工性、ワイヤーハーネス加工性等に悪影響を及ぼす虞がある。
【0057】
以下、電線被覆材用組成物を用いて絶縁電線を製造する方法について説明する。絶縁電線を製造するには、上記の(A)水架橋ポリオレフィン、(B)未変性ポリオレフィン、(C)変性ポリオレフィン、(D)難燃剤(D1)臭素系難燃剤、(D2)三酸化アンチモン、(E)架橋触媒、(G1)硫化亜鉛或いは(G2)酸化亜鉛及び(G3)イミダゾ−ル化合物、(H)銅害防止剤、その他の添加剤等の上記各成分からなる電線被覆材用組成物を加熱混練した後、得られた混練物を導体の外周に押出被覆し、その後に、押出被覆された被覆材料を水架橋すれば良い。
【0058】
上記各成分の加熱混練は、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロール等の通常の混練機を用いることができる。
【0059】
電線被覆材用組成物は、下記のように水架橋性バッチと難燃剤バッチとを別々に作成しておいて、両者を混合して成形してもよい。すなわち一方で(A)水架橋性ポリオレフィンのみ、もしくは水架橋性ポリオレフィン形成材料(ポリオレフィン、シランカップリング剤、遊離ラジカル発生剤等)等を加熱混練したものを水架橋性バッチとする。他方、(B)未変性ポリオレフィン、(C)変性ポリオレフィン、(B1)臭素系難燃剤、(D2)三酸化アンチモン等の(D)難燃剤の架橋触媒を除く各成分を配合して加熱混練して難燃剤バッチとする。上記水架橋性バッチと難燃剤バッチに架橋触媒を加え、加熱混練し、得られた混練物導体の外周に押出し被覆して電線被覆材を成形する。その後、水架橋を行い、成形物を架橋させる。また、架橋触媒は、水架橋バッチ又は難燃剤バッチのいずれかに添加してもよい。
【0060】
このように水架橋性バッチと難燃剤バッチを別々に作り、その後、両者を混練して混練物を導体の外周に押出被覆して電線被覆材を形成した場合、被覆材表面に凹凸が発生し難く、良好な外観が得られやすくなる。また、混練、押出し時に溶融粘度が高くなり過ぎることがないので、押出機に過負荷がかかり難くなる。そのため良好な作業性を確保しやすくなる等の利点がある。
【0061】
上記の加熱混練工程では、例えば、ペレット形状に成形した各バッチをミキサーや押出機等を用いてドライブレンドすることができる。押出被覆工程では、通常の押出成形機等を用いて導体の外周に電線被覆材を押出被覆すれば良い。架橋工程では、押出被覆工程にて形成された電線被覆材を水蒸気あるいは水に曝す等して水架橋を行うことができる。水架橋の条件は、例えば、常温〜90℃の温度範囲内で48時間以内で行うのが好ましい。より好ましい水架橋の条件は、60〜80℃の温度範囲内で12〜24時間の範囲内である。
【0062】
次に、本発明に係る絶縁電線について説明する。本発明に係る絶縁電線は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等よりなる導体の外周に、上記電線被覆材用組成物が水架橋されてなる電線被覆材が設けられている。導体は、その導体径や導体の材質等、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。また、電線被覆材の厚さについても、特に制限はなく、導体径等を考慮して適宜定めることができる。電線被覆材は単層または複数層であっても良い。
【0063】
水架橋後の電線被覆材は、耐熱性の観点から、架橋度が50%以上であることが好ましい。より好ましい架橋度は、60%以上である。なお、架橋度は、用いるシラングラフトポリオレフィンのシランカップリング剤のグラフト量や、架橋触媒の種類や量、シラン架橋(水架橋)条件(温度や時間)等により調整することができる。
【0064】
次に、本発明に係るワイヤーハーネスについて説明する。本発明に係るワイヤーハーネスは、上述した絶縁電線を有している。具体的な構成としては、上述した絶縁電線のみがひとまとまりに束ねられた単独電線束、あるいは、上述した絶縁電線と他の絶縁電線とが混在状態でひとまとまりに束ねられた混在電線束が、ワイヤーハーネス保護材により被覆された構成等を例示することができる。
【0065】
単独電線束および混在電線束に含まれる電線本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0066】
また、混在電線束を用いる場合、含まれる他の絶縁電線の構造は、特に限定されるものではない。電線被覆材は1層構造であっても、2層構造であっても良い。また、他の絶縁電線の電線被覆材の種類も特に限定されるものではない。
【0067】
また、上記ワイヤーハーネス保護材は、電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境等から保護する役割を有するもので、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状等に形成された基材を有するもの等が挙げられる。これらは、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【0068】
ワイヤーハーネス保護材を構成する基材としては、具体的には、例えば、各種のノンハロゲン系難燃樹脂組成物、塩化ビニル樹脂組成物または当該塩化ビニル樹脂組成物以外のハロゲン系樹脂組成物等が挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例、比較例を示す。尚、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0070】
[供試材料および製造元等]
本実施例および比較例において使用した供試材料を製造元、商品名等とともに示す。
【0071】
〔1〕シラングラフトPP:三菱化学社製、「リンクロンXPM800HM」
〔2〕シラングラフトPE1:三菱化学社製、「リンクロンXLE815N(LLDPE)」
〔3〕シラングラフトPE2:三菱化学社製、「リンクロンXCF710N(LDPE)」
〔4〕シラングラフトPE3:三菱化学社製、「リンクロンQS241HZ(HDPE)」
〔5〕シラングラフトPE4:三菱化学社製、「リンクロンSH700N(VLDPE)」
〔6〕シラングラフトEVA:三菱化学社製、「リンクロンXVF600N」
〔7〕PPエラストマー:日本ポリプロ社製、「ニューコンNAR6」
〔8〕PE1:VLDPE:デュポンダウエラストマージャパン社製、「エンゲージ8003」
〔9〕PE2:LDPE:日本ユニカー社製、「NUC8122」
〔10〕PE3:LLDPE:プライムポリマー社製、「ウルトゼックス10100W」
〔11〕マレイン酸変性PE:日本油脂社製、「モディックAP512P」
〔12〕エポキシ変性PE:住友化学社製、「ボンドファーストE(E−GMA)」
〔13〕マレイン酸変性PP:三菱化学社製、「アドマーQB550]
〔14〕臭素系難燃剤1:エチレンビス(ペンタブロモベンゼン):アルベマール社製、「SAYTEX8010」
〔15〕臭素系難燃剤2:TBBA−ビス(ジブロモプロピルエーテル):鈴裕化学社製「FCP−680」
〔16〕臭素系難燃剤3:テトラブロモビスフェノールA:アルベマール社製、「SAYTEXCP2000」
〔17〕三酸化アンチモン:山中産業社製、「三酸化アンチモンMSWグレード」
〔18〕水酸化マグネシウム:協和化学社製、「キスマ5」
〔19〕炭酸カルシウム:白石カルシウム社製、「Vigot15」
〔20〕酸化防止剤1:チバジャパン社製、「イルガノックス1010」
〔21〕酸化防止剤2:チバジャパン社製、「イルガノックス1330」
〔22〕銅害防止剤:ADEKA社製、「CDA−1」
〔23〕酸化亜鉛:ハクスイテック社製、「亜鉛華二種」
〔24〕硫化亜鉛:Sachtleben Chemie Gmbh製、「SachtolithHD−S」
〔25〕添加剤:ベンズイミダゾール系化合物:川口化学工業社製、「アンテージMB」
〔26〕潤滑剤1:エルカ酸アミド:日本油脂社製、「アルフローP10」
〔27〕潤滑剤2:ステアリン酸アミド:日本油脂社製、「アルフローS10」
〔28〕架橋触媒:三菱化学社製、「リンクロンLZ0515H」
【0072】
[難燃剤バッチの調製]
表1、2に示す実施例、比較例のA欄に示す配合割合となるように、各材料を二軸押出混練機に加え、200℃で0.1〜2分間加熱混練した後、ペレット化し、各難燃剤バッチを調製した。
【0073】
[絶縁電線の作製]
上記A欄の配合割合の難燃剤バッチと、表1、2の実施例、比較例のB欄に示す配合割合のシラングラフトポリオレフィン(比較例1は添加せず)と架橋触媒とを押出機のホッパーで混合して押出機の温度を約180℃〜200℃に設定して、押出加工を行なった。外径2.4mmの導体上に厚さ0.7mmの絶縁体として押出被覆した(被覆外径3.8mm)。その後、60℃、95%湿度の高湿高温槽で24時間水架橋処理を施して絶縁電線を作製した。得られた各絶縁電線について、下記の項目を評価した。
【0074】
〔ゲル分率〕
JASO(日本自動車工業規格)−D608−92に準拠して、ゲル分率を測定した。すなわち、絶縁電線の絶縁被膜試料を約0.1g秤量しこれを試験管に入れ、キシレン20mlを加えて、120℃の恒温油槽中で24時間加熱する。その後試料を取り出し、100℃の乾燥器内で6時間乾燥後、常温になるまで放冷してから、その質量を精秤し、試験前の質量に対する質量百分率をもってゲル分率とした。ゲル分率50%以上であった場合を合格「○」、ゲル分率50%未満であった場合を不合格「×」とした。なお、ゲル分率は、水架橋の架橋状態を表す指標として架橋電線に一般的に用いられている。
【0075】
〔生産性〕
電線押出時に線速度を増減し、線速度50m/min以上でも設計外径が得られる場合を合格「○」、300%以上を良好「◎」とし、線速度50m/min以上で設計外径が得られない場合を不合格「×」とした。
【0076】
〔難燃性〕
ISO6722に準拠し、70秒以内に消火する場合を合格「○」、70秒を越えて消火する場合を不合格「×」とした。
【0077】
〔電線表面粗さ〕
電線外観の評価である。針形の検出器を用いて、絶縁電線の表面の平均粗さ(Ra)を測定し、Ra=1μm未満の場合を表面粗さが良好であるとして「○」、Ra=0.5μm未満の場合を表面粗さに優れるとして「◎」とし、Ra=1μm超の場合を不良「×」とした。表面粗さの測定は、Mitsutoyo社製「サーフテストSJ301」を使用した。
【0078】
〔引張伸び〕
JIS C 3005の引張試験に準拠して、引張伸びを測定した。すなわち、絶縁電線を100mmの長さに切り出し、導体を取り除いて電線被覆材のみの管状試験片とした後、23±5℃の室温下にて、試験片の両端を引張試験機のチャックに取り付けた後、引張速度200mm/分で引っ張り、試験片の破断時の荷重および伸びを測定した。引張伸びが125%以上であった場合を合格「○」、とりわけ300%以上であった場合を良好「◎」とした。引張伸びが125%未満であった場合を不合格「×」とした。
【0079】
〔ISO長期加熱試験〕
ISO6722に準拠し、絶縁電線に対して150℃×3000時間の老化試験を行った後、1kv×1min.の耐電圧試験を行った。老化時間3000時間後に1kv×1min.の耐電圧試験に耐えることができた場合を「○」、耐えることができなかった場合を「×」とした。
【0080】
〔JASO長期加熱試験〕
JASO−D609に準拠し、絶縁電線に対して150℃×10000時間の老化試験を行った後、上記引張り伸びの試験と同条件で引張り伸びを測定した。試験の結果、引張り伸びが100%以上のものを合格「○」、100%未満のものを不合格「×」とした。
【0081】
〔耐磨耗性〕
ISO6722に準拠し、500回以上のブレード磨耗に耐えられた場合を合格「○」、耐えられなかった場合を不合格「×」とした。

【0082】
【表1】


【0083】
【表2】

【0084】
表1、表2によれば、次のことが分かる。すなわち、比較例1は、実施例1と比較して臭素系難燃剤を含有していない。そのため、難燃性に劣る。
【0085】
比較例2は、実施例2と比較して硫化亜鉛を含有していない。そのため耐熱性が悪く、ISO長期加熱試験、JASO長期加熱試験のいずれも不合格である。
【0086】
比較例3は、実施例3と比較して架橋触媒を含有していいない。そのため、ゲル分率が低く、電線表面粗さ、ISO長期加熱試験、JASO長期加熱試験、耐摩耗性のいずれも不合格である。
【0087】
比較例4は、実施例4と比較してシラングラフトポリオレフィンの代わりに未変性ポリオレフィンを用いたものである。水架橋性ポリオレフィンを含有していない。そのため非架橋電線の状態なので、ゲル分率、ISO長期加熱試験、JASO長期加熱試験のいずれも不合格である。
【0088】
比較例5は、実施例5と比較して酸化防止剤、銅害防止剤及び硫化亜鉛を含有していない。そのため、ISO長期加熱試験、JASO長期加熱試験のいずれも不合格である。
【0089】
比較例6は、難燃剤や未変性ポリオレフィンを含有していないため、難燃性や生産性に劣る。
【0090】
これらに対し、実施例1〜6は、いずれの特性も良好であり、生産性及び耐熱性に優れたものである。
【0091】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオレフィンがシランカップリング剤により変性された水架橋性ポリオレフィン
(B)未変性ポリオレフィン
(C)官能基により変性された変性ポリオレフィン
(D)難燃剤
(E)架橋触媒
(F)フェノール系酸化防止剤
(G)(G1)硫化亜鉛、或いは(G2)酸化亜鉛及び(G3)イミダゾ−ル化合物
を含み、
前記(D)難燃剤が(D1)臭素系難燃剤を含むことを特徴とする電線被覆材用組成物。
【請求項2】
前記(D)難燃剤が更に(D2)三酸化アンチモンを含むことを特徴とする請求項1記載の電線被覆材用組成物。
【請求項3】
更に(H)銅害防止剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項4】
前記(A)水架橋性ポリオレフィン30〜90質量部、
前記(B)未変性ポリオレフィンと前記(C)官能基により変性された変性ポリオレフィンとを合計で10〜70質量部、
前記(A)、(B)及び(C)の合計100質量部に対し、
前記(D1)臭素系難燃剤10〜70質量部を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項5】
前記(D1)臭素系難燃剤が、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)、ビス(テトラブロモフタルイミド)エタン、テトラブロモビスフェノールA−ビス(ジブロモプロピルエーテル)から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項6】
前記(C)官能基により変性された変性ポリオレフィンの官能基は、カルボン酸基、酸無水物基、アミノ基及びエポキシ基から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項7】
前記(A)水架橋性ポリオレフィンに用いられるポリオレフィンは、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物が水架橋されてなる電線被覆材を有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項9】
前記電線被覆材が、少なくとも前記(B)未変性ポリオレフィン、前記(C)官能基により変性された変性ポリオレフィン、前記(D1)臭素系難燃剤を含む難燃剤バッチと、前記(A)水架橋性ポリオレフィンと、架橋触媒とを混練し、電線の導体の周囲に被覆材として成形された後、該被覆材が水架橋されたものであることを特徴とする請求項8記載の絶縁電線。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の絶縁電線を有することを特徴とするワイヤーハーネス。


【公開番号】特開2011−168697(P2011−168697A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33817(P2010−33817)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】