説明

電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネス

【課題】電子線架橋を用いず、難燃剤であるフィラーを極力低減させることが可能であると共に、架橋皮膜が高い耐熱性とゲル分率を備え、高温に曝しても高い剥離性を有する、電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネスを提供する。
【解決手段】(A)シラングラフトポリオレフィン、(B)未変性ポリオレフィン、(C)官能基変性ポリオレフィン、(D)フタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤、或いはフタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤および三酸化アンチモン、(E)樹脂に架橋触媒が分散された架橋触媒バッチ、(F)酸化亜鉛およびイミダゾール系化合物、或いは硫化亜鉛、(G)融点150℃以上のトリアジン系ヒンダードフェノール系酸化防止剤、(H)トリアゾール誘導体もしくはヒドラジド系金属不活性剤、を含む電線被覆材用組成物を用いて電線被覆材を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、例えば自動車のワイヤーハーネスのように高い耐熱性が要求される場所で使用される絶縁電線の被覆材として好適な電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車等の普及により、自動車用部品である電線やコネクタなどには高耐電圧性、高耐熱性が求められている。従来、自動車のワイヤーハーネスなどのように、高温を発する箇所に用いられる絶縁電線としては、塩化ビニル樹脂の架橋電線や、ポリオレフィン架橋電線が用いられていた。これらの絶縁電線の架橋方法は、電子線で架橋する方式が主流であった。
【0003】
しかし、電子線架橋は、高価な電子線架橋装置等を必要とし、設備費用が高価であり、製品コストが上昇してしまうという問題があった。そこで安価な設備で架橋が可能であるシラン架橋ポリオレフィン組成物が注目されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−212291号公報
【特許文献2】特開2000−294039号公報
【特許文献3】特開2006−131720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シラン架橋ポリオレフィン組成物は、自動車用電線の主要必須特性である難燃性を満足させるためには、難燃剤であるフィラーを添加する必要がある。金属水酸化物に代表される無機系難燃剤の場合、添加量が多量になり機械的特性が低下してしまうという問題があった。また、難燃効果の高いハロゲン系有機難燃剤を用いた場合は、架橋度の指標であるゲル分率の低下を引き起こし易いという問題があった。
【0006】
また、別名水架橋と呼ばれるシラン架橋材料においては、加熱成形時に空気中の水分で架橋促進されることから、異物発生の懸念があり、加熱工程は極力回数を抑えることが必要である。そこで、難燃剤は非シラン樹脂でマスターバッチ化して、シラン架橋ポリオレフィンと混合することが一般的である。しかし、非シラン樹脂は、未架橋樹脂であるから、架橋樹脂の架橋度が低くなってしまう。架橋樹脂の架橋度が低下すると、高温で融解し易くなって、電線同士が接着してしまうという問題があった。
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、上記問題点を解決しようとするものであり、電子線架橋を用いず、難燃剤であるフィラーを極力低減させることが可能であると共に、架橋皮膜が高い耐熱性とゲル分率を備え、高温に曝しても高い剥離性を有する、電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係る電線被覆材用組成物は、
(A)ポリオレフィンにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフトポリオレフィン、
(B)未変性ポリオレフィン、
(C)カルボン酸基、酸無水物基、アミノ基およびエポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基により変性された官能基変性ポリオレフィン、
(D)フタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤、或いはフタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤および三酸化アンチモン、
(E)樹脂に架橋触媒が分散された架橋触媒バッチ、
(F)酸化亜鉛およびイミダゾール系化合物、或いは硫化亜鉛、
(G)融点150℃以上のトリアジン系ヒンダードフェノール系酸化防止剤、
(H)トリアゾール誘導体もしくはヒドラジド系金属不活性剤、
を含むことを要旨とするものである。
【0009】
本発明に係る絶縁電線は、上記の電線被覆材用組成物が水架橋された電線被覆材を有することを要旨とするものである。
【0010】
本発明のワイヤーハーネスは、上記の絶縁電線を有することを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、上記(A)〜(E)成分を含むものであるから、難燃性、耐熱性に優れた電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネスが得られる。本発明は、電子線架橋を用いず、難燃剤であるフィラーを極力低減させることが可能であると共に、架橋皮膜が高い耐熱性とゲル分率を備え、高温に曝しても高い剥離性を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。(A)シラングラフトポリオレフィン、(B)未変性ポリオレフィン、(C)官能基変性ポリオレフィンに用いられるポリオレフィンとしては以下のオレフィン系樹脂が例示される。
【0013】
ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンや、その他のオレフィンの単独重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体などのエチレン系共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−アクリル酸エステル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エステル共重合体などのプロピレン系共重合体などを例示することができる。これらは単独で用いてもよいし、併用してもよい。好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体である。
【0014】
ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、メタロセン超低密度ポリエチレンなどを例示することができる。これらは単独で用いてもよいし、併用しても良い。好ましくはメタロセン超低密度ポリエチレンを代表とする低密度ポリエチレンである。低密度ポリエチレンを用いることで、電線の柔軟性が良好となり、押出性に優れるため、生産性が向上する。
【0015】
オレフィン系樹脂としては、オレフィンをベースとするエラストマーを用いてもよく、例えばエチレン系エラストマー(PEエラストマー)、プロピレン系エラストマー(PPエラストマー)などを例示することができる。これらは、単独で用いても良いし、併用してもよい。
【0016】
(A)シラングラフトポリオレフィンは、ポリオレフィンにシランカップリング剤がグラフト重合されている。このポリオレフィンは、VLDPE、LLDPE、LDPEから選ばれる1種または2種以上の樹脂であるのが、電線に被覆する際の押出生産性や電線の柔軟性などの点から好ましい。
【0017】
(A)シラングラフトポリオレフィンに用いられるシランカップリング剤は、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシランなどのビニルアルコキシシランやノルマルヘキシルトリメトキシシラン、ビニルアセトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0018】
(A)シラングラフトポリオレフィンにおけるシランカップリング剤の配合量は、シランカップリング剤をグラフトするポリオレフィン100質量部に対して、0.5〜5質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、3〜5質量部の範囲内である。シランカップリング剤の配合量が0.5質量部未満では、シランカップリング剤のグラフト量が少なく、シラン架橋時に十分な架橋度が得られ難い。一方、シランカップリング剤の配合量が5質量部を超えると、混練時に架橋反応が進みすぎてゲル状物質が発生しやすくなる。そうすると、製品表面に凹凸が発生しやすく、量産性が悪くなりやすい。また、溶融粘度も高くなりすぎて押出機に過負荷がかかり、作業性が悪化しやすくなる。
【0019】
シランカップリング剤のグラフト量(シラングラフト前のポリオレフィンに占めるグラフトされているシランカップリング剤の質量割合)の上限は、電線被覆工程での過剰な架橋による異物発生などの観点から、好ましくは、15質量%以下、より好ましくは、10質量%以下、さらに好ましくは、5質量%以下であると良い。一方、上記グラフト量の下限は、電線被覆の架橋度(ゲル分率)などの観点から、好ましくは、0.1質量%以上、より好ましくは、1質量%以上、さらに好ましくは、2.5質量%以上であると良い。
【0020】
ポリオレフィンにシランカップリング剤をグラフトする手法としては、例えばポリオレフィンとシランカップリング剤に遊離ラジカル発生剤を加え、二軸押出機などで混合する方法が一般的である。この他にも、ポリオレフィンを重合する際に、シランカップリング剤を添加する方法を用いてもよい。シランカップリング剤をグラフトしたシラングラフトポリオレフィンは、シラングラフトバッチとして保持され、組成物を混練するまでの間、他の難燃剤バッチや架橋触媒バッチ等とは別に保管される。
【0021】
上記の遊離ラジカル発生剤としては、ジクミルパーオキサイド(DCP)、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ブチルパーアセテート、tert−ブチルパーベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサンなどの有機過酸化物などを例示することができる。より好ましくは、ジクミルパーオキサイド(DCP)である。例えば、遊離ラジカル発生剤として、ジクミルパーオキサイド(DCP)を用いる場合には、ポリオレフィンにシランカップリング剤をグラフト重合させるために、シラングラフトバッチを調製する温度を200℃以上にすると良い。
【0022】
遊離ラジカル発生剤の配合量は、シラン変性されるポリオレフィン100質量部に対して0.025〜0.1質量部の範囲内であることが好ましい。遊離ラジカル発生剤の配合量が0.025質量部未満では、シランカップリング剤のグラフト化反応が十分進行し難く、所望のゲル分率が得られにくい。一方、遊離ラジカル発生剤の配合量が0.1質量部を越えると、ポリオレフィンの分子を切断する割合が多くなり、目的としない過酸化物架橋が進行し易い。そうすると、ポリオレフィンの架橋反応が進み過ぎて、難燃剤バッチや触媒バッチと混練する際に製品表面に凹凸が発生し易くなる。すなわち電線被覆材を形成した場合に、被覆材表面に凹凸が発生しやすい。これにより、加工性や外観が悪化しやすくなる。
【0023】
(B)未変性ポリオレフィンは、シランカップリング剤や官能基などにより変性されていないポリオレフィンが用いられる。未変性ポリオレフィンに用いられるポリオレフィンとしては、VLDPE、LLDPE、LDPEから選ばれる1種または2種以上であるのが、電線への柔軟性寄与や難燃剤などのフィラーが良分散する点から好ましい。また、柔軟性を制御する目的で硬度調整のためのポリプロピレンを少量添加してもよい。
【0024】
(C)官能基変性ポリオレフィンに用いられるポリオレフィンとしては、上記(B)未変性ポリオレフィンとして使用するポリオレフィンと同系列のポリオレフィンが相溶性の面で好ましく、加えてVLDPEやLDPEなどのポリエチレンは電線への柔軟性寄与や難燃剤であるフィラーが良分散する理由から好ましい。
【0025】
(C)官能基変性ポリオレフィンに用いられる官能基は、カルボン酸基、酸無水物基、アミノ基およびエポキシ基から選択される1種または2種以上である。上記官能基のうち、マレイン酸基、エポキシ基、アミノ基などが良い。これらは臭素系難燃剤、三酸化アンチモン、酸化亜鉛などのフィラーとの接着性が良好になり樹脂の強度が低下しにくくなるためである。また官能基の変性割合は、ポリオレフィン100質量部に対し、0.05〜10質量部の範囲が好ましい。10質量部を超えると端末加工時の被覆ストリップ性が低下するおそれがある。0.05質量部未満では、変性の効果が十分得られないおそれがある。
【0026】
ポリオレフィンを官能基により変性する方法としては、具体的には、官能基を有する化合物をポリオレフィンにグラフト重合する方法や、官能基を有する化合物とオレフィンモノマとを共重合させてオレフィン共重合体とする方法などが挙げられる。
【0027】
官能基としてカルボキシル基や酸無水物基を導入する化合物としては、具体的には、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸などのα、β−不飽和ジカルボン酸、またはこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテ酸などの不飽和モノカルボン酸などが挙げられる。
【0028】
官能基としてアミノ基を導入する化合物としては、具体的には、アミノエチル(メタ)アクリレート、プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、フェニルアミノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0029】
官能基としてエポキシ基を導入する化合物としては、具体的には、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル、α−クロロアクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸などのグリシジルエステル類、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類、p−グリシジルスチレンなどが挙げられる。
【0030】
上記樹脂成分(A)〜(C)は、樹脂成分の合計を100質量部とした場合の配合割合が、(A)シラングラフトポリオレフィンが30〜90質量部、(B)未変性ポリオレフィンと(C)官能基変性ポリオレフィンとの合計が10〜70質量部である。(B)未変性ポリオレフィンと(C)官能基変性ポリオレフィンの混合割合は、(B):(C)=95:5〜50:50の範囲が相溶性に優れ、生産性や難燃剤の分散性が良好となる理由から好ましい。
【0031】
(D)難燃剤は、フタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤の単独使用、或いは前記難燃剤と三酸化アンチモンの併用のいずれかが用いられる。フタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤は、熱キシレンに対する溶解性が低いため、組成物から形成した硬化被膜のゲル分率が良好となる。フタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤としては、エチレンビステトラブロモフタルイミド、エチレンビストリブロモフタルイミドなどが挙げられる。
【0032】
臭素系難燃剤としては、上記のフタルイミド構造を持つものを単独で使用してもよいが、所望のゲル分率の範囲内であれば、下記の臭素系難燃剤を併用してもよい。具体的な臭素系難燃剤としては、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)〔別名:ビス(ペンタブロモフェニル)エタン〕、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、TBBA−カーボネイト・オリゴマー、TBBA−エポキシ・オリゴマー、臭素化ポリスチレン、TBBA−ビス(ジブロモプロピルエーテル)、ポリ(ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモベンゼン(HBB)などが挙げられる。
【0033】
三酸化アンチモンは臭素系難燃剤の難燃助剤として用いられ、臭素系難燃剤と併用すると相乗効果が得られ、難燃性がさらに向上する。前記フタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの混合比率は、当量比で、臭素系難燃剤:三酸化アンチモン=3:1〜2:1の範囲内であるのが好ましい。三酸化アンチモンは純度99%以上のものを用いるのが好ましい。三酸化アンチモンは、鉱物として産出される三酸化アンチモンを粉砕処理して微粒化して用いる。その際、平均粒子系が3μm以下であるのが好ましく、更に好ましくは1μm以下である。三酸化アンチモンの平均粒径が大きくなると樹脂との界面強度が低下する虞がある。また三酸化アンチモンは、粒子系を制御することや樹脂との界面強度を向上させる目的で、表面処理を施しても良い。表面処理剤としては、シランカップリング剤、高級脂肪酸、ポリオレフィンワックスなどを用いるのが好ましい。
【0034】
(D)フタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤、或いは臭素系難燃剤と三酸化アンチモンの配合量は、上記樹脂成分(A)〜(C)の合計100質量部に対し10〜70質量部の範囲で配合するのが好ましく、さらに好ましくは、20〜60質量部の範囲である。難燃剤成分の配合量が10質量部未満では、難燃性が不十分となるおそれがあり、70質量部を超えると混合不良などによる難燃剤の凝集、難燃剤と樹脂との界面強度の低下などを引き起こし、電線の機械的特性が低下するおそれがある。尚、上記の(D)成分の配合量は、臭素系難燃剤と三酸化アンチモンを併用する場合は、両者の合計量である。
【0035】
(E)架橋触媒バッチは、架橋触媒とバインダーとなる樹脂に分散させてバッチ化したものである。架橋触媒バッチを用いる事で、難燃剤と共に混合することで起こりうる余剰反応を抑制したり、触媒添加量の制御が容易である。架橋触媒は、シラングラフトポリオレフィンからなるシラングラフトバッチ(a成分ということもある)と混合すると、架橋が進行してしまうため、電線の被覆工程で添加することが一般的である。
【0036】
架橋触媒は、シラングラフトポリオレフィンをシラン架橋させるためのシラノール縮合触媒である。架橋触媒としては、例えば、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルトなどの金属カルボン酸塩や、チタン酸エステル、有機塩基、無機酸、有機酸などを例示することができる。具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫メルカプチド(ジブチル錫ビスオクチルチオグリコールエステル塩、ジブチル錫β−メルカプトプロピオン酸塩ポリマーなど)、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸などを例示することができる。
【0037】
特に架橋触媒として、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫メルカプチドなどのジブチル錫系化合物は、シラン架橋反応が進行しやすく、好ましい。
【0038】
架橋触媒バッチに用いられる樹脂としては、ポリオレフィンが適しており、特にLDPE、LLDPE、VLDPEが好ましい。これらの樹脂が好ましい理由は、シラングラフトポリオレフィンや未変性ポリオレフィン、官能基変性ポリオレフィンを選定する際と同じ理由であり、相溶性の面で同系統の樹脂を選定することは有利である。使用可能な樹脂としては前述のポリオレフィンが挙げられる。
【0039】
架橋触媒バッチにおける架橋触媒の配合割合は、架橋触媒バッチの樹脂成分100質量部に対して、0.5〜5質量部の範囲内であるのが好ましく、より好ましくは1〜5質量部の範囲である。0.5質量部未満では架橋反応が進み難く、5質量部を超えると触媒の分散性が悪くなり、1質量部を下回ると反応性に乏しくなる。
【0040】
架橋触媒バッチは、上記(A)〜(C)のポリオレフィン合計100質量部に対して、2〜20質量部の範囲で添加することが望ましく、さらに好ましくは5〜15質量部である。2質量部未満では架橋が進みにくくなり部分架橋の虞があり、20質量部を超えると非架橋非難燃樹脂が増加することの弊害が生じ、難燃性や耐候性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0041】
(F)酸化亜鉛およびイミダゾール系化合物、或いは硫化亜鉛は、耐熱性を向上させるための添加剤として用いられる。酸化亜鉛とイミダゾール系化合物の併用、或いは硫化亜鉛のみの添加のいずれを選択しても、同様の耐熱性の効果が得られる。
【0042】
酸化亜鉛は、例えば、亜鉛鉱石にコークスなどの還元剤を加え、焼成して発生する亜鉛蒸気を空気で酸化する方法、硫酸亜鉛や塩化亜鉛を塩量に用いる方法で得られる。酸化亜鉛は特に製法は限定されず、いずれの方法で製造されたものでもよい。また硫化亜鉛についても、製法は既知の方法で製造されたものを用いることができる。酸化亜鉛および硫化亜鉛の平均粒径は、好ましくは3μm以下であり、更に好ましくは1μm以下である。酸化亜鉛および硫化亜鉛は、平均粒径が小さくなると、樹脂との界面強度が向上し、分散性の向上が期待できる。
【0043】
上記イミダゾール系化合物としてはメルカプトベンズイミダゾールが好ましい。メルカプトベンズイミダゾールとしては、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、4−メルカプトメチルベンズイミダゾール、5−メルカプトメチルベンズイミダゾールなどや、これらの亜鉛塩などが挙げられる。特に好ましいメルカプトベンズイミダゾールは、融点が高く、混合中の昇華も少ないため高温で安定である理由から2−メルカプトベンズイミダゾールおよびその亜鉛塩である。
【0044】
酸化亜鉛およびメルカプトベンズイミダゾール、或いは硫化亜鉛の添加量は、少ないと耐熱性向上効果が十分得られない虞があり、多すぎると粒子が凝集し易くなり電線の外観が低下し耐摩耗性などの機械的特性が低下する虞がある。好ましい酸化亜鉛およびメルカプトベンズイミダゾール、或いは硫化亜鉛の添加量は、上記(A)〜(C)の樹脂成分合計100質量部に対し、酸化亜鉛およびイミダゾール系化合物の場合、各々1〜15質量部、或いは硫化亜鉛の場合1〜15質量部である。
【0045】
(G)融点150℃以上のトリアジン系ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、下記の化合物が挙げられる。
・N,N’−ヘキサン−1,6,ジイルビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド〕
・3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a−a’−a”(メシチレン−2,4,6,−トリイル)トリ−p−クレゾール
・1,3,5−トリス〔(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル〕−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン
・1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン
【0046】
好ましいトリアジン系ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、1,3,5−トリス〔(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル〕−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンと、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンである。
【0047】
本発明では、融点が150℃以上のトリアジン系ヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いることで、組成物から形成された電線被覆材を有する絶縁電線などが高温に曝された場合に、ヒンダードフェノールが白く析出するブルームを避けることができる。また電線同士が接触した状態で高温に曝されても、電線同士が接着するおそれもない。
【0048】
トリアジン系ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、融点が200℃以上であるのが好ましい。このような酸化防止剤としては、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンは、融点が225℃であり、剥離性に優れるため、電線表面の滑性が向上することに加え、酸化防止剤としての効果も高く、電線の寿命向上に繋がるため、好ましく使用される。
【0049】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は、上記(A)〜(C)のポリオレフィン合計100質量部に対して、0.5〜5質量部の範囲で添加することが望ましく、さらに好ましくは0.5〜3質量部である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量が0.5質量部未満では老化耐性が低下し、長期間熱に晒されると電線被覆が崩壊する虞があり、5質量部を超えると樹脂との相溶性が低下し、電線外観が悪化する虞がある。
【0050】
(H)トリアゾール誘導体もしくはヒドラジド系金属不活性剤は、少なくともいずれか一方が添加されていればよい。トリアゾール誘導体としては、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,3−トリアゾール等を例示することができる。ヒドラジド系化合物としては、N’エチル−2−フルオロ−N−メチルアセトヒドラジド、2’,エチル−2−フルオロ−1’−メチルアセトヒドラジド、2,3−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕プロピオノヒドラジドなどを例示することができる。
【0051】
トリアゾール誘導体もしくはヒドラジド系金属不活性剤の添加量は、上記(A)〜(C)のポリオレフィン合計100質量部に対して、0.3〜3質量部の範囲で添加することが望ましく、さらに好ましくは0.3〜1.5質量部である。添加量が0.3質量部未満では導体に使用される金属が移行し、被覆が崩壊する虞があり、3質量部を超えると樹脂との相溶化が低下する上、不純物として含まれやすい鉄やニッケルなどの金属と反応して変色する虞がある。
【0052】
本発明の電線被覆材用組成物は、上記の成分以外に、一般的に使用される添加剤を用いてもよい。好んで用いられる添加剤として、上記以外のヒンダードフェノール系酸化防止剤や、アミン系銅害防止剤などが挙げられる。また一般的に電線被覆材料として用いられる添加剤を使用してもよい。
【0053】
また添加剤として、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムなどのフィラーを少量用いて樹脂の硬度を調製することで、加工性や耐高温変形特性を向上させることが可能である。ただし上記フィラーを多量に添加すると、樹脂強度が低下しやすいため、上記フィラーの添加量は、上記(A)〜(C)のポリオレフィン合計100質量部に対して、30質量部程度に止めることが望ましい。
【0054】
次に本発明の絶縁電線について説明する。本発明に係る絶縁電線は、導体の外周が、上記の電線被覆材用組成物を水架橋させてなる電線被覆材からなる絶縁層により被覆されている。絶縁電線の導体は、その導体径や導体の材質などは特に限定されるものではなく、絶縁電線の用途などに応じて適宜選択することができる。導体としては例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などが挙げられる。また電線被覆材からなる絶縁層は、単層であっても、2層以上の複数層であってもいずれでも良い。本発明のワイヤーハーネスは、上記の絶縁電線を有するものである。
【0055】
ISO6722は自動車用電線に用いられる国際規格であり、この規格によれば絶縁電線は許容耐熱温度によってA〜Eまでのクラスに分類される。本発明の絶縁電線は上記の電線被覆材組成物から形成されたものであるから、耐熱性に優れ、高電圧がかかるバッテリーケーブルなどに最適であり、耐熱温度125℃のCクラスや、150℃のDクラスの特性を得ることが可能である。
【0056】
本発明に係る絶縁電線において、絶縁被覆材の架橋度は、耐熱性の観点から、50%以上であることが好ましい。より好ましくは60%以上である。架橋度は、架橋電線などにおいて架橋状態を表す指標として一般的に用いられているゲル分率で判断する。例えば自動車用架橋電線のゲル分率は、JASO−D608−92に準拠して測定することができる。
【0057】
電線被覆材の架橋度は、ポリオレフィンに対するシランカップリング剤のグラフト量や、架橋触媒の種類や量、水架橋条件(温度や時間)などにより調製することができる。
【0058】
次に、上記絶縁電線の製造方法について説明する。絶縁電線は、(B)未変性ポリオレフィン、(C)官能基変性ポリオレフィン、(D)フタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤、或いはフタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤および三酸化アンチモン、(F)酸化亜鉛およびイミダゾール系化合物、或いは硫化亜鉛、(G)融点150℃以上のヒンダードフェノール系酸化防止剤、(H)トリアゾール誘導体もしくはヒドラジド系金属不活性剤からなるb成分(難燃剤バッチ)と、(A)シラングラフトポリオレフィンを含むa成分(シラングラフトバッチ)と、(E)架橋触媒をポリオレフィンに分散させたc成分(架橋触媒バッチ)とを、加熱混練し混練工程を行い、導体の外周に押出被覆して電線被覆材を形成した後、水架橋を行うことで得られる。
【0059】
なお上記b成分とc成分は、予め混練されていてペレット化されている。またa成分のシラングラフトポリオレフィンもペレット化されている。
【0060】
上記混練工程では、ペレット形状に形成された各バッチ(a成分〜c成分)をミキサーや押出機などを用いてブレンドする。上記被覆工程では、通常の押出成形機などを用いて押出被覆などを行うと良い。そして、被覆工程の後、架橋工程では、導体の外周に樹脂を被覆した電線の被覆樹脂を水蒸気あるいは水にさらして水架橋させてシラン架橋を行うことができる。この水架橋は、常温〜90℃の温度範囲内で、48時間の範囲内で行うことが好ましい。より好ましくは、温度が60〜80℃の範囲内で、12〜24時間の範囲内である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例、比較例を示す。本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0062】
〔供試材料および製造元など〕
本実施例および比較例において使用した供試材料を製造元、商品名などとともに示す。
(1)シラングラフトPP[三菱化学社製、商品名「リンクロンXPM800HM」]
(2)シラングラフトPE1[三菱化学社製、商品名「リンクロンXLE815N」(LLDPE)]
(3)シラングラフトPE2[三菱化学社製、商品名「リンクロンXCF710N」(LDPE)]
(4)シラングラフトPE3[三菱化学社製、商品名「リンクロンQS241HZ」(HDPE)]
(5)シラングラフトPE4[三菱化学社製、商品名「リンクロンSH700N」(VLDPE)]
(6)シラングラフトEVA[三菱化学社製、商品名「リンクロンXVF600N」]
(7)PPエラストマー[日本ポリプロ社製、商品名「ニューコンNAR6」]
(8)PE1[デュポン ダウ エラストマー ジャパン社製、商品名「エンゲージ 8450」(VLDPE)]
(9)PE2[日本ユニカー社製、商品名「NUC8122」(LDPE)]
(10)PE3[プライムポリマー社製、商品名「ウルトゼックス10100W」(LLDPE)]
(11)マレイン酸変性PE[日本油脂社製、商品名「モディックAP512P」]
(12)エポキシ変性PE[住友化学社製、商品名「ボンドファーストE」(E−GMA)]
(13)マレイン酸変性PP[三菱化学社製、商品名「アドマーQB550」]
(14)臭素系難燃剤1[アルベマール社製、商品名「SAYTEX8010」(エチレンビス(ペンタブロモベンゼン))]
(15)臭素系難燃剤2[鈴裕化学社製、商品名「FCP−680」(TBBA−ビス(ジブロモプロピルエーテル))]
(16)臭素系難燃剤3[アルベマール社製、商品名「SAYTEXBT−93」(エチレンビステトラブロモフタルイミド)]
(17)三酸化アンチモン[山中産業社製、商品名「三酸化アンチモンMSWグレード」]
(18)水酸化マグネシウム[協和化学社製、商品名「キスマ5」]
(19)炭酸カルシウム[白石カルシウム社製、商品名「Vigot15」]
(20)酸化防止剤1[Basfジャパン社製、商品名「イルガノックス1010」(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)]
・ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕
融点:125℃
(21)酸化防止剤2[Basfジャパン社製、商品名「イルガノックス3790」(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)]
・1,3,5−トリス〔(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル〕−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン
融点:161℃
(22)酸化防止剤3[Basfジャパン社製、商品名「イルガノックス3114」(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)]
・1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン
融点255℃
(23)トリアゾール誘導体(銅害防止剤)[ADEKA社製、商品名「CDA−1」]
・3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール
(24)ヒドラジド系金属不活性剤[Basfジャパン社製、商品名「イルガノックスMD1024」]
・2,3−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕プロピオノヒドラジド
(25)酸化亜鉛[ハクスイテック社製、商品名「亜鉛華一種」]
(26)硫化亜鉛[Sachtleben Chemie Gmbh社製、商品名「SachtolithHD−S」]
(27)イミダゾール系化合物[川口化学社製、商品名「アンテージMB」]
(28)潤滑剤1[日本油脂社製、商品名「アルフローP10」(エルカ酸アミド)]
(29)潤滑剤2[日本精化社製、商品名「BNT−22H」(ベヘミン酸アミド)]
(30)架橋触媒バッチ1[三菱化学社製、商品名「リンクロンLZ0515H」(ポリエチレン100質量部に対し、ジブチル錫化合物を1質量部配合して分散したもの)]
(31)架橋触媒バッチ2[ポリエチレン(NUC8122)100質量部に対しジブチル錫ジラウレートを5質量部添加して調整したもの]
(32)架橋触媒バッチ3[ポリエチレン(NUC8122)100質量部に対し酢酸第一錫を0.2質量部添加して調整したもの]
【0063】
〔難燃剤バッチ(b成分)の調製〕
表1および表2の実施例・比較例に示すb成分の配合量比で各材料を2軸押出混練機に加え、200℃で0.1〜2分間加熱混練した後、ペレット化して、難燃剤バッチを得た。なおa成分のシラングラフトバッチは前述の供試材料の説明に記載した(1)〜(4)のシラングラフトポリオレフィンを用い、c成分の架橋触媒バッチは、前述の供試材料の説明に記載した(30)〜(33)の架橋触媒バッチ1〜3を用いた。
【0064】
〔絶縁電線の作製〕
表1および表2の実施例・比較例に示す配合量比で,シラングラフトバッチ(a成分)、難燃剤バッチ(b成分)、架橋触媒バッチ(c成分)を押出機のホッパーで混合して押出機の温度を約180〜200℃に設定して、押出加工を行った。外径2.4mmの導体上に厚さ0.7mmの絶縁体として押出被覆した(被覆外径3.8mm)。その後、65℃95%湿度の高湿高温槽で24時間水架橋処理を施して絶縁電線を作製した。
【0065】
得られた絶縁電線について、ゲル分率、生産性、難燃性、電線表面粗さ、耐磨耗性、長期加熱試験、剥離性の試験を行い、評価した。評価結果を表1および表2にあわせて示す。尚、試験方法と評価基準については下記の通りである。
【0066】
〔ゲル分率〕
JASO−D608−92に準拠して、ゲル分率を測定した。すなわち、電線の絶縁体試料を約0.1g秤量しこれを試験管に入れ、キシレン20mlを加えて、120℃の恒温油槽中で24時間加熱する。その後試料を取り出し、100℃の乾燥機内で6時間乾燥後、常温になるまで放冷してから、その重量を精秤し、試験前の質量に対する質量百分率をもってゲル分率とした。ゲル分率60%以上を良好「◎」、ゲル分率50%以上のものを合格「○」、ゲル分率50%未満のものを不合格「×」とした。尚、ゲル分率は、水架橋の架橋状態を表わす指標として架橋電線には一般的に用いられている。
【0067】
〔生産性〕
電線押出時に線速度を増減し、線速度50m/min以上でも設計外径が得られる場合を合格「○」、100m/min以上でも設計外径が得られる場合を良好「◎」とし、線速度50m/min未満でも設計外径が得られない場合を「×」とした。
【0068】
〔難燃性〕
ISO6722に準拠して70sec以内に消火する場合を合格「○」、消火しない場合を不合格「×」とした。
【0069】
〔電線表面粗さ〕
電線外観の評価として、針形の検出器で電線表面の平均粗さ(Ra)を測定し、Ra=1未満を合格「○」、Ra=0.5未満を良好「◎」とし、Ra=1以上を不合格「×」とした。表面粗さの測定は、Mitutoyo製サーフテストSJ301を使用した。
【0070】
〔耐磨耗性〕
ISO6722に準拠して、1000開以上のブレード試験に耐えられる場合を合格「○」とし、1000回の到達しない場合を不合格「×」とした。
【0071】
〔長期加熱試験〕
絶縁電線に対して150℃×任意時間の老化試験を行った後、1kv×1min.の耐電圧試験を行った。3000時間以上で絶縁破壊せず耐電圧試験に耐えることができた場合を合格「○」、5000時間以上で絶縁破壊せず耐えることができた場合を「◎」とし、3000時間に耐えることができなかった場合を不合格「×」とした。
【0072】
〔剥離性〕
100mmの電線2本をテープで巻きつけたものを150℃×24時間の条件下に放置した後、テープを取り去り2本の電線を剥がす。すぐに剥がれ接着跡がほとんどついていないものを「◎」、剥れるが接着跡がまばらについているものを「○」、剥がれにくく接着跡が全面的についているものを「×」とした。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
表2に示すように、比較例1〜7は本発明が規定する成分を全て含むものではなく、全ての特性を満足する絶縁電線は得られなかった。すなわち、比較例1は、実施例1と比較して臭素系難燃剤を含有していないため、難燃性、ゲル分率、長期加熱試験が不合格である。比較例2、5は融点が150℃以上のトリアジン系ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有していないので、剥離性が不合格である。比較例3は融点が150℃以上のトリアジン系ヒンダードフェノール系酸化防止剤、架橋触媒バッチを含有しないので、ゲル分率、長期加熱試験、剥離性などが不合格である。比較例4は、酸化亜鉛、硫化亜鉛、トリアゾール誘導体、ヒドラジド系金属不活性化剤などを含有しないので、長期加熱試験が不合格である。比較例5は官能基変性ポリオレフィン、難燃剤などを含有しないので、ゲル分率、難燃性、ISO長期加熱試験が不合格である。
【0076】
比較例6は、未変性ポリオレフィン、官能基変性ポリオレフィン、酸化亜鉛およびイミダゾール系化合物、或いは硫化亜鉛などを含有しないので、生産性、電線表面粗さ、耐磨耗性、長期加熱試験が不合格である。比較例7は、シラングラフトポリオレフィンを含有しないので、ゲル分率、長期加熱試験、剥離性が不合格である。
【0077】
表1に示すように実施例1〜7は、シラングラフトポリオレフィン、未変性ポリオレフィン、官能基変性ポリオレフィン、臭素系難燃剤、架橋触媒バッチ、硫化亜鉛或いは酸化亜鉛とイミダゾール化合物、融点150℃以上のトリアジン系ヒンダードフェノール系酸化防止剤、トリアゾール誘導体もしくはヒドラジド金属不活性剤を含有しているため、ゲル分率、生産性、難燃性、電線表面粗さ、耐磨耗性、長期加熱試験、剥離性の評価がいずれも合格の絶縁電線が得られた。
【0078】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオレフィンにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフトポリオレフィン、
(B)未変性ポリオレフィン、
(C)カルボン酸基、酸無水物基、アミノ基およびエポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基により変性された官能基変性ポリオレフィン、
(D)フタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤、或いはフタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤および三酸化アンチモン、
(E)樹脂に架橋触媒が分散された架橋触媒バッチ、
(F)酸化亜鉛およびイミダゾール系化合物、或いは硫化亜鉛、
(G)融点150℃以上のトリアジン系ヒンダードフェノール系酸化防止剤、
(H)トリアゾール誘導体もしくはヒドラジド系金属不活性剤、
を含むことを特徴とする電線被覆材用組成物。
【請求項2】
前記(A)シラングラフトポリオレフィン30〜90質量部、
前記(B)未変性ポリオレフィンと前記(C)官能基変性ポリオレフィンとを合計で10〜70質量部、
前記(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対し、
前記(D)フタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤、或いはフタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤および三酸化アンチモン10〜70質量部、
ポリオレフィン100質量部に対して架橋触媒を0.5〜5質量部含む前記(E)架橋触媒バッチ2〜20質量部、
前記(F)酸化亜鉛およびイミダゾール系化合物が各々1〜15質量部、或いは硫化亜鉛1〜15質量部、
前記(G)融点150℃以上のトリアジン系ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.5〜5質量部、
前記(H)トリアゾール誘導体もしくはヒドラジド系金属不活性剤0.3〜3質量部、
を含むことを特徴とする請求項1記載の電線被覆材用組成物。
【請求項3】
前記シラングラフトポリオレフィンおよび前記未変性ポリオレフィンが、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、および低密度ポリエチレンから選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1または2記載の電線被覆材用組成物。
【請求項4】
前記(G)ヒンダードフェノール系酸化防止剤が、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項5】
前記(E)架橋触媒バッチが超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレンから選択される樹脂100質量部に対してジブチル錫化合物0.5〜5質量部を添加してなる混合物であることを特徴とする請求項3又は4に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物が水架橋された電線被覆材を有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物の中の(B)未変性ポリオレフィン、(C)官能基変性ポリオレフィン、(D)フタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤、或いはフタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤および三酸化アンチモン、(F)酸化亜鉛およびイミダゾール系化合物、或いは硫化亜鉛、(G)融点150℃以上のヒンダードフェノール系酸化防止剤、(H)トリアゾール誘導体もしくはヒドラジド系金属不活性剤からなる難燃剤バッチと、(A)シラングラフトポリオレフィンと、(E)架橋触媒バッチとが混練され、導体の周囲に成形された後、水架橋された電線被覆材を有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項8】
請求項6または7に記載の絶縁電線を有することを特徴とする自動車用ワイヤーハーネス。



【公開番号】特開2012−158629(P2012−158629A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17369(P2011−17369)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】