説明

電線被覆材用組成物、絶縁電線及びワイヤーハーネス

【課題】非架橋材料を用いて、耐熱性、耐磨耗性及び柔軟性に優れた難燃性を有する電線被覆材用組成物、絶縁電線、ワイヤーハーネスを安価に提供する。
【解決手段】 (A)ポリプロピレン、(B)ポリオレフィンエラストマー、(C)臭素系難燃剤、(D)三酸化アンチモン、(E)水酸化マグネシウム、(F)(F1)硫化亜鉛、或いは(F2)酸化亜鉛及び(F3)メルカプトベンズイミダゾール、(G)ヒンダードフェノール系酸化防止剤からなる組成物を導体の周囲に形成して絶縁厚0.5mm以下、外径4mm以下の絶縁電線とし、該絶縁電線を用いてワイヤーハーネスを構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線被覆材用組成物、絶縁電線及びワイヤーハーネスに関し、更に詳しくは、高い耐熱性が要求される自動車用絶縁電線等の被覆材料として好適な難燃性を有する電線被覆材用組成物、これを用いた絶縁電線及びワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のワイヤーハーネス等のように、高温を発する箇所に使用される電線として、従来、塩化ビニル樹脂の架橋電線や、ポリオレフィン架橋電線が用いられていた。これらの架橋電線の架橋方法は、電子線照射の照射や、被覆材料にシラン官能基を用いて水蒸気雰囲気等で行うのが一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1には、電線被覆材に用いる組成物として、熱可塑性樹脂、ゴム、および、熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1つの重合体100質量部、有機過酸化物0.01〜0.6質量部、シラノール縮合触媒0.05〜0.5質量部、および、水酸化マグネシウム100〜300質量部を含む、シラン架橋性ポリオレフィンとの混合用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−131720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の架橋樹脂組成物を用いた絶縁電線の場合、樹脂を架橋させるための設備が必要であるという問題があった。電子線照射の場合、大がかりな設備が必要であった。またシラン官能基を被覆材料に用いる場合、被覆材料が限定されるので、コストが上昇するという問題があった。更に架橋樹脂を用いた絶縁電線は、架橋設備等を必要とすることから、グローバルに製品を提供することの妨げになっている。
【0006】
一方で、電線に難燃性を付与するために、特許文献1のように水酸化マグネシウム等の無機水酸化物が難燃剤として用いられる。自動車用電線の難燃性を満足させるためには、樹脂に対し難燃剤を多量に添加する必要がある。しかし、無機水酸化物のような難燃剤を多量に添加すると、樹脂被膜の機械的強度を低下させてしまう。
【0007】
架橋樹脂の代わりに非架橋樹脂からなる組成物を用いて絶縁被膜を形成した電線は、架橋樹脂を用いたものと比較して柔軟性に優れ、低コストに提供することができる。しかしながら、非架橋材料からなる難燃性樹脂組成物を絶縁被膜として用いた絶縁電線は、耐熱性、耐磨耗性等の特性が不十分であるという問題があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、非架橋材料を用いて、柔軟性、耐熱性、及び耐磨耗性に優れた難燃性を有する電線被覆材用組成物、絶縁電線、ワイヤーハーネスを安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る電線被覆材用組成物は、
(A)ポリプロピレン、
(B)ポリオレフィンエラストマー、
(C)臭素系難燃剤、
(D)三酸化アンチモン、
(E)水酸化マグネシウム、
(F)(F1)硫化亜鉛、或いは(F2)酸化亜鉛及び(F3)メルカプトベンズイミダゾール、
(G)ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有することを要旨とするものである。
【0010】
本発明に係る絶縁電線は、上記の電線被覆材用組成物からなる絶縁被膜を有する絶縁電線であって、絶縁厚0.5mm以下、外径4mm以下であることを要旨とする。
【0011】
本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電線被覆材用組成物は、
(A)ポリプロピレン、
(B)ポリオレフィンエラストマー、
(C)臭素系難燃剤、
(D)三酸化アンチモン、
(E)水酸化マグネシウム、
(F)(F1)硫化亜鉛、或いは(F2)酸化亜鉛及び(F3)メルカプトベンズイミダゾール、
(G)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、
を含むものである。そのため、非架橋樹脂被膜であっても、難燃性、耐熱性、耐磨耗性、柔軟性等に優れた被膜が得られる。
【0013】
更に形成された被膜は、難燃剤として水酸化マグネシウムのようなフィラーを大量に添加する必要がないので、フィラーの大量添加により樹脂本来の耐熱性を低下させる虞はない。
【0014】
本発明に係る絶縁電線は、上記の電線被覆材用組成物を有する絶縁電線であって、絶縁厚0.5mm以下、外径4mm以下であるから、難燃性、耐熱性、耐磨耗性、柔軟性等に優れ、安価に提供することができる。
【0015】
本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を有しているので、難燃性、耐熱性、耐磨耗性、柔軟性等に優れ、安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は柔軟性試験装置の概略を示す説明図であり、(a)は電線を装着する前の状態を示し、(b)は電線を装着した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明に係る電線被覆材用組成物は、例えば下記の成分から構成することができる。
(A)ポリプロピレン
(B)ポリオレフィンエラストマー
(C)臭素系難燃剤
(D)三酸化アンチモン
(E)水酸化マグネシウム
(F)(F1)硫化亜鉛、或いは(F2)酸化亜鉛及び(F3)メルカプトベンズイミダゾール
(G)ヒンダードフェノール系酸化防止剤
(H)(H1)官能基を有する化合物により変性された官能基変性スチレン系エラストマー、又は(H2)官能基を有する化合物により変性された官能基変性ポリオレフィン、
(I)未変性のスチレン系エラストマー
(J)銅害防止剤等。
以下、上記各成分について説明する。
【0018】
上記(A)ポリプロピレンは、基材樹脂として用いられる。ポリプロピレンは、ポリエチレンと比較して被膜の柔軟性は低下するが耐熱性が向上する。特に、電線が細径の場合には、ポリプロピレンを使用しても、柔軟性が問題にならない。その結果、非架橋樹脂であっても耐熱性に優れた難燃性樹脂被膜を得ることができる。(A)ポリプロピレンは、官能基やシランカップリング剤等により変性されていない未変性樹脂を用いることが好ましい。
【0019】
上記(A)ポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体、エチレン、ブチレン等との共重合体であるブロックポリプロピレンやランダムポリプロピレン等のいずれでも良い。ポリプロピレンはプロピレン成分を50質量%以上含有していることが好ましい。またポリプロピレンの分子構造に制限はなく、シンジオタクチックポリプロピレン、アイソタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレンを用いても良い。
【0020】
上記(A)ポリプロピレンの曲げ弾性率は、好ましくは800〜2000MPaの範囲内であり、より好ましくは1000〜1500MPaの範囲内である。ポリプロピレンの曲げ弾性率が大きくなると電線に耐磨耗性を付与することができる。一方、曲げ弾性率が大きくなると柔軟性は低下する。曲げ弾性率が上記範囲であると、耐磨耗性及び柔軟性のバランスが良好である。
【0021】
上記(A)ポリプロピレンの230℃のMFR(メルトフローレイト)は、好ましくは0.5〜5g/10minの範囲内であり、更に好ましくは0.5〜3g/10minの範囲内である。ポリプロピレンのMFRが小さくなると、難燃剤成分等のフィラーの分散性が低下して凝集異物発生の原因となる虞がある。ポリプロピレンのMFRが大きくなり過ぎると、耐磨耗性等の機械的特性が低下する虞がある。ポリプロピレンのMFRが上記範囲内であると、材料混合時に十分な流動性を持ち、生産性を損なわず、且つ機械的特性の良好なものが得られる。尚、本発明において、MFRは、全て230℃で測定した値のことである。
【0022】
上記(B)ポリオレフィンエラストマーは、被膜に柔軟性を付与するために用いられる。(B)ポリオレフィンエラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、エチレン−プロピレン共重合体(EPM、EPR)、エチレンプロピレン−ジエン共重合体(EPDM、EPT)、ブタジエンゴム(BR)、水素添加ブタジエンゴム(EBR)、等を用いることができる。(B)ポリオレフィンエラストマーは、官能基やシランカップリング剤等で変性されていない未変性のものを用いるのが好ましい。
【0023】
(B)ポリオレフィンエラストマーの曲げ弾性率は、好ましくは300MPa未満であり、更に好ましくは250MPa未満である。ポリオレフィンエラストマーの曲げ弾性率が小さくなると柔軟性が向上する。
【0024】
上記(B)ポリオレフィンエラストマーのMFRは、好ましくは1g/10min以上である。(B)ポリオレフィンエラストマーのMFRの上限は、好ましくは10g/10min以下である。(B)ポリオレフィンエラストマーのMFRが小さくなると、フィラーである難燃剤成分の分散性が低下し、凝集異物が発生し易くなる。また(B)ポリオレフィンエラストマーのMFRが大きくなると、ベースのポリプロピレンとの溶融特性が悪化し、結果として引張伸び特性や耐磨耗性等の電線特性が低下する虞がある。上記の範囲であると、そのような虞が小さくなる。
【0025】
本発明に係る電線被覆材用組成物は、樹脂成分として、上記成分(A)、(B)に加えて、(H)官能基変性樹脂、(I)未変性のスチレン系エラストマー等の上記以外のその他の樹脂を添加してもよい。(H)官能基変性樹脂は、(H1)官能基変性スチレン系エラストマー、(H2)官能基変性ポリオレフィン、又は上記(H1)+(H2)のいずれかを用いることができる。(H1)官能基変性スチレン系エラストマー又は(H2)官能基変性ポリオレフィンは、スチレン系エラストマー(スチレン系熱可塑性エラストマーやスチレンブロックコポリマー等と呼ばれることもある)又はポリオレフィンに対し、官能基を有する化合物を用いて、官能基を導入した樹脂である。樹脂組成物中に(H)官能基変性樹脂を添加すると、難燃剤であるフィラーの分散性が良くなり、被膜の物性が向上する。また官能基変性樹脂の添加により被覆材料の混合性が良好になることから、電線表面の凹凸、ブツ等がなく外観が良くなり、電線押出も良好となる場合がある。
【0026】
(H)官能基変性樹脂の上記官能基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基、シラン基、ヒドロキシル基等を例示することができる。上記官能基のうち、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基等が、主に無機フィラーとの接着性が良好である点から好ましい。
【0027】
上記(H1)官能基変性スチレン系エラストマーに用いられるスチレン系エラストマーは、ハードセグメントにポリスチレン(PS)を用い、ソフトセグメントにポリブタジエン(BR)、ポリイソプレン(IR)、水素添加(或いは部分水素添加)BR(EB)、水素添加(或いは部分水素添加)IR(EP)等を用い、ブロック共重合体としたものである。具体的には、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、その水添又は部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、1,2−ポリブタジエン、無水マレイン酸変性のスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、コアシェル構造を有する変性ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンブロック共重合体、その水添又は部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−イソプレン−スチレン共重合体、無水マレイン酸変性のスチレン−エチレン−イソプレン−スチレン共重合体、コアシェル構造を有する変性イソプレンゴム等が挙げられる。
【0028】
上記スチレン系エラストマーにおいて、スチレンと共重合するポリマーとしては、ブタジエン、イソプレン等を複数組み合わせても良いし、その水素添加又は部分水素添加誘導体でも良い。スチレン系エラストマーは、上述のものを単独で用いても良いし、複数組み合わせても良い。また上記のハードセグメントとソフトセグメントの比率(質量比)は、ハードセグメント:ソフトセグメント=10:90〜40:60の範囲が好ましい。
【0029】
上記(H2)官能基変性ポリオレフィンに用いられるポリオレフィンとしては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)等のポリエチレン、ポリプロピレン、その他のオレフィンの単独重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体等のエチレン系共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−アクリル酸エステル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エステル共重合体等のプロピレン系共重合体、エチレン系エラストマー(PEエラストマー)、プロピレン系エラストマー(PPエラストマー)等のオレフィンをベースにするエラストマー等が挙げられる。これらは、単独で用いても良いし、併用しても良い。
【0030】
上記ポリオレフィンとして好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等である。
【0031】
上記(H1)官能基変性スチレン系エラストマー及び(H2)官能基変性ポリオレフィンは、官能基が1種又は2種以上含まれていても良い。また異なる官能基により変性された同一又は異なる樹脂、同じ官能基により変性された異なる樹脂が、1種又は2種以上含まれていても良い。
【0032】
(H)官能基変性樹脂の官能基量は、ポリオレフィン100質量部に対し、0.5〜10質量部が好ましい。官能基変性樹脂の官能基量が10質量部を超えると、電線端末加工時の被覆ストリップ性が低下する虞がある。また、官能基変性樹脂の官能基量が0.5質量部未満では、官能基による変性の効果が不十分となる虞がある。
【0033】
ポリオレフィンを官能基により変性する方法としては、具体的には、官能基を有する化合物をポリオレフィンにグラフト重合する方法や、官能基を有する化合物とオレフィンモノマとを共重合させてオレフィン共重合体とする方法等が挙げられる。
【0034】
官能基としてカルボキシル基や酸無水物基を導入する化合物としては、具体的には、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα、β−不飽和ジカルボン酸、又はこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテ酸等の不飽和モノカルボン酸等が挙げられる。
【0035】
官能基としてアミノ基を導入する化合物としては、具体的には、アミノエチル(メタ)アクリレート、プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、フェニルアミノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
官能基としてエポキシ基を導入する化合物としては、具体的には、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル、α−クロロアクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸等のグリシジルエステル類、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、p−グリシジルスチレン等が挙げられる。
【0037】
本発明に係る電線被覆材用組成物は、樹脂成分として、上記の樹脂以外に、(I)未変性のスチレン系エラストマー等を添加しても良い。未変性のスチレン系エラストマーは、上述官能基変性スチレンエラストマーで説明した変性前のスチレン系エラストマーを用いることができる。
【0038】
本発明に係る電線被覆材用組成物において、(A)ポリプロピレン及び(B)ポリオレフィンエラストマーからなる樹脂成分の組成物全体の中に占める割合は、通常、35質量%以上であり、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上である。また、組成物中に(A)ポリプロピレン及び(B)ポリオレフィンエラストマー以外の樹脂を添加する場合、(A)ポリプロピレン及び(B)ポリオレフィンエラストマーの合計が、好ましくは樹脂成分の中の70質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。
【0039】
また上記(A)ポリプロピレン及び(B)ポリオレフィンエラストマーの混合比(質量比)は、(A):(B)=50:50〜90:10の範囲内であるのが好ましい。(A)ポリプロピレン及び(B)ポリオレフィンエラストマーの混合割合が、上記の範囲内であると耐磨耗性等の機械的物性が良好となる利点がある。
【0040】
更に電線被覆材用組成物における上記(H)官能基変性樹脂及び(I)未変性スチレン系エラストマー等の上記(A)、(B)以外のその他の樹脂成分の添加量は、上記(A)、(B)成分100質量部に対し好ましくは5〜40質量部の範囲、より好ましくは5〜20質量部の範囲である。これらのその他の樹脂成分含有量が上記範囲であると引張特性等の電線物性が良好になり、ベース材等との溶融特性も悪化せず材料混合が良好となる。
【0041】
本発明に係る電線被覆材用組成物は、難燃剤として(C)臭素系難燃剤と(D)三酸化アンチモンと(E)水酸化マグネシウムを併用するものである。(D)三酸化アンチモンを(C)臭素系難燃剤と併用することで、難燃性の相乗効果が得られる。(E)水酸化マグネシウムの添加は、難燃効果を付与すると共に、被膜の硬度を調節することができる。また、本発明では難燃剤として、水酸化マグネシウムのみを用いるものではないので、水酸化マグネシウムを単独で難燃剤として用いた場合と比較して、水酸化マグネシウムの添加量を減らすことができる。そのため、水酸化マグネシウムを多量に添加したことに起因する被膜の機械的強度の低下等の虞がない。また、水酸化マグネシウムを添加することで、臭素系難燃剤の添加量を減らすことができるので、組成物中における有機ハロゲン化合物の含有量を下げて、低ハロゲン化に寄与することが出来る。
【0042】
(C)臭素系難燃剤は、具体的には、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)〔別名:ビス(ペンタブロモフェニル)エタン〕、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、ビス(テトラブロモフタルイミド)エタン、TBBA−カーボネイト・オリゴマー、TBBA−エポキシ・オリゴマー、臭素化ポリスチレン、TBBA−ビス(ジブロモプロピルエーテル)、ポリ(ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモベンゼン(HBB)等が挙げられる。臭素系難燃剤は、融点が比較的高いものが、難燃性が良好であり、具体的には融点が200℃以上であるのが好ましい。好ましい臭素系難燃剤としては、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)、ビス(テトラブロモフタルイミド)エタン、TBBA−ビス(ジブロモプロピルエーテル)等が挙げられる。これらの臭素系難燃剤は基剤樹脂の難燃機構と相性が良く、難燃効果が良好である。
【0043】
尚、デカブロモジフェニルエーテル(DecaBDE)等のデカブロ系化合物からなる難燃剤は、高い難燃効果があるが、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律施行例第4条に規定する特定第一種指定化学物質に該当するので、環境面で他の臭素系難燃剤に対し不利な点があるので、本発明では使用しない。
【0044】
(D)三酸化アンチモンは純度99%以上のものを用いるのが好ましい。(D)三酸化アンチモンは、鉱物として産出される三酸化アンチモンを粉砕処理して微粒化したものは、低コストで純度が高いことから好ましい。(D)三酸化アンチモンの平均粒子径は、3μm以下であるのが好ましく、更に好ましくは1μm以下である。三酸化アンチモンの平均粒子径が大きくなると、樹脂との界面強度が低下する虞がある。また三酸化アンチモンは、粒子径を制御することや、樹脂との界面強度を向上させる目的で、表面処理を施しても良い。この表面処理剤として好ましいものは、シランカップリング剤、高級脂肪酸、ポリオレフィンワックス等である。
【0045】
(E)水酸化マグネシウムは、水酸化マグネシウムを主成分とする鉱物を粉砕処理することにより得られる天然鉱物由来の天然水酸化マグネシウム、又は海水に含まれるMg源(にがり等)を原料として合成される合成水酸化マグネシウムを用いることができる。水酸化マグネシウムの粒子径は、通常、0.5〜20μm程度であり、好ましくは0.5〜10μm、更に好ましくは0.5〜5μmである。水酸化マグネシウムの粒子径が20μmを超えると電線外観が悪くなる虞があり、0.5μm未満では二次的な凝集が発生し、電線特性が低下する虞がある。
【0046】
また上記天然水酸化マグネシウムは、粒子表面の凹凸により樹脂との密着性が低下する虞があるので、下記の1種又は2種以上の表面処理剤を用いて表面処理をすると良い。表面処理剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステル化合物、オレフィン系ワックス等がある。表塩処理剤の添加量は、水酸化マグネシウムとの合計量に対して、0.3〜5質量%となるように添加することが好ましい。表面処理の方法は特に限定されず、各種の公知の処理方法を用いることができる。表面処理剤の添加量が0.5質量%未満では電線特性向上に効果が無く、5質量%を超えると表面処理に必要な量を超え、電線特性を低下させる虞がある。
【0047】
難燃剤の添加量は以下の通りである。(C)臭素系難燃剤の添加量は、上記(A)ポリプロピレン、(B)ポリオレフィンエラストマーの合計(A)+(B)=100質量部とした場合、好ましくは10〜30質量部、より好ましくは10〜25質量部の範囲である。
【0048】
(D)三酸化アンチモンの添加量は、上記(A)+(B)=100質量部とした場合、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは、3〜10質量部の範囲である。
【0049】
(E)水酸化マグネシウムの添加量は、上記(A)+(B)=100質量部とした場合、好ましくは10〜90質量部、より好ましくは、20〜70質量部の範囲である。
【0050】
難燃剤の添加量が上記範囲内であれば、十分な難燃効果が得られると共に必要以上にコストが上がることがなく、難燃性とコストのバランスに優れたものとすることができる。
【0051】
(F)耐熱性を向上させるための添加剤として、(F1)硫化亜鉛、或いは(F2)酸化亜鉛及び(F3)メルカプトベンズイミダゾールが用いられる。(F1)硫化亜鉛のみの添加、或いは(F2)酸化亜鉛と(F3)メルカプトベンズイミダゾールの併用のいずれを選択しても、同様の耐熱性の効果が得られる。
【0052】
(F2)酸化亜鉛は、例えば、亜鉛鉱石にコークス等の還元剤を加え、焼成して発生する亜鉛蒸気を空気で酸化する方法、硫酸亜鉛や塩化亜鉛を塩量に用いる方法で得られる。(F2)酸化亜鉛は特に製法は限定されず、いずれの方法で製造されたものでもよい。また(F1)硫化亜鉛についても、製法は既知の方法で製造されたものを用いることができる。酸化亜鉛又は硫化亜鉛の平均粒径は、好ましくは3μm以下であり、更に好ましくは1μm以下である。酸化亜鉛又は硫化亜鉛は、平均粒径が小さくなると、樹脂との界面強度が向上し、分散性も向上する。
【0053】
上記(F3)メルカプトベンズイミダゾールとしては、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、4−メルカプトメチルベンズイミダゾール、5−メルカプトメチルベンズイミダゾール等や、これらの亜鉛塩等が挙げられる。特に好ましいメルカプトベンズイミダゾールは、融点が高く、混合中の昇華も少ないため高温で安定である理由から2−メルカプトベンズイミダゾール及びその亜鉛塩である。
【0054】
(F1)硫化亜鉛、或いは(F2)酸化亜鉛及び(F3)メルカプトベンズイミダゾールの添加量は、少ないと耐熱性向上効果が十分得られない虞があり、多すぎると粒子が凝集し易くなり電線の外観が低下し耐摩耗性等の機械的特性が低下する虞があることから、下記の範囲が好ましい。
上記(A)ポリプロピレン、(B)ポリオレフィンエラストマーの合計(A)+(B)=100質量部に対し、
(F1)硫化亜鉛:3〜15質量部、
(F2)酸化亜鉛:1〜15質量部、
(F3)メルカプトベンズイミダゾール:2〜15質量部、
(F2)酸化亜鉛+(F3)メルカプトベンズイミダゾールの合計:2〜30質量部。
【0055】
メルカプトベンズイミダゾールは、他の添加剤と併用しても効果が損なわれない。上記他の添加剤としては、例えば、チアゾール系化合物、スルフェンアミド系化合物、チウラム系化合物、ジチオカルバミン酸塩系化合物、キサントゲン酸塩系化合物等が挙げられる。これらは1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0056】
上記スルフェンアミド系化合物としては、N−シクロヘキシル−2−ベンズチアゾールスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンズチアゾールスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンズチアゾールスルフェンアミド、N,N−ジイソプロピル−2−ベンズチアゾールスルフェンアミド、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンズチアゾールスルフェンアミドなどが挙げられる。
【0057】
上記チウラム系化合物としては、テトラメチルチウラムモノスルファイド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドなどが挙げられる。
【0058】
上記ジチオカルバミン酸塩系化合物としては、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸亜鉛、N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛などが挙げられる。
【0059】
上記キサントゲン酸塩系化合物としては、イソプロピルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛、ブチルキサントゲン酸亜鉛などが挙げられる。
【0060】
(G)ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7−C9側鎖アルキルエステル、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート、3,3’,3”,5,5’5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート]、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−(3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピノキ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどが挙げられる。これらは1種で用いても2種以上併用しても良い。好ましいヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。上記酸化防止剤を使用すると、ポリプロピレンの第三級炭素の水素引抜を抑制し、分子が崩壊しにくくなる。
【0061】
(G)ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は、上記(A)ポリプロピレン、(B)ポリオレフィンエラストマーの合計(A)+(B)=100質量部とした場合、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部の範囲である。(G)ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量が上記範囲内であると、老化特性に優れ、多量添加時に発生するブルーム等を抑制できる。
【0062】
(J)銅害防止剤は、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール等のアミン系銅害防止剤が用いられる。組成物に(J)銅害防止剤を添加することで、更に耐熱性が向上する。銅害防止剤の添加量は、樹脂成分(A)ポリプロピレン+(B)ポリオレフィンエラストマー=100質量部に対し、0.1〜3質量部の範囲内が好ましい。
【0063】
電線被覆材用組成物には、上記成分以外に、電線特性を阻害しない範囲で、一般的な電線被覆材料に用いられる添加剤を添加しても良い。
【0064】
次に、本発明に係る絶縁電線について説明する。本発明に係る絶縁電線は、導体の外周に上記電線被覆材用組成物からなる電線被覆材(絶縁被膜ということもある)を有する。導体は、銅を用いるのが一般的であるが、銅以外に、アルミニウム、マグネシウム等の金属を用いることができる。また銅に他の金属を含有してもよい。他の金属としては、鉄、ニッケル、マグネシウム、シリコン等があり、この他導体として広く用いられる金属を銅に添加、或いは単独で使用しても良い。導体は単線を用いても良いし、複数の単線を撚り合わせて使用しても良い。このとき撚り合わせて圧縮すると細径化することができるため望ましい。
【0065】
上記導体は、その外径が4mm以下の細線が用いられる。また絶縁電線の絶縁被膜の厚さ(絶縁厚)が、0.5mm以下である。絶縁電線において、絶縁被膜は単層又は複数層のいずれでも良い。
【0066】
以下、電線被覆材用組成物を用いて絶縁電線を製造する方法について説明する。絶縁電線を製造するには、上記の各成分からなる電線被覆材用組成物を加熱混練した後、得られた混練物を導体の外周に押出被覆して絶縁被膜を形成すればよい。本発明の絶縁電線は、樹脂が非架橋の状態で使用される。絶縁被膜が非架橋樹脂から構成されていることにより、以下の利点がある。架橋電線は樹脂が硬くなるので、柔軟性が損なわれるが、非架橋樹脂の場合、柔軟性が得られる。また非架橋樹脂は電線等をリサイクルする際に、容易に再生することができるが、架橋樹脂の場合は樹脂のリサイクルは困難である。樹脂の架橋には電子線照射装置や、蒸気加熱装置等の設備が必要であり、架橋処理の工程が増える。非架橋電線は、そのような設備は一切必要ないし、架橋工程も不要である。そのため非架橋電線は、架橋電線と比較して低コストで提供可能であり、生産性も高い。
【0067】
上記各成分の加熱混練は、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロール等の通常の混練機を用いることができる
【0068】
次に、本発明に係るワイヤーハーネスについて説明する。本発明に係るワイヤーハーネスは、上述した絶縁電線を有している。具体的な構成としては、上述した絶縁電線のみがひとまとまりに束ねられた単独電線束、あるいは、上述した絶縁電線と他の絶縁電線とが混在状態でひとまとまりに束ねられた混在電線束が、ワイヤーハーネス保護材により被覆された構成等を例示することができる。
【0069】
単独電線束及び混在電線束に含まれる電線本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0070】
また、混在電線束を用いる場合、含まれる他の絶縁電線の構造は、特に限定されるものではない。電線被覆材は1層構造であっても、2層構造であっても良い。また、他の絶縁電線の電線被覆材の種類も特に限定されるものではない。
【0071】
また、上記ワイヤーハーネス保護材は、電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境等から保護する役割を有するもので、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状等に形成された基材を有するもの等が挙げられる。これらは、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【0072】
ワイヤーハーネス保護材を構成する基材としては、具体的には、例えば、各種のノンハロゲン系難燃樹脂組成物、塩化ビニル樹脂組成物又は当該塩化ビニル樹脂組成物以外のハロゲン系樹脂組成物等が挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施例、比較例を示す。尚、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0074】
[供試材料及び製造元等]
本実施例及び比較例において使用した供試材料を製造元、商品名等とともに示す。ポリプロピレンとポリオレフィンエラストマーについては、弾性率とMFRを示す。
【0075】
(A:ポリプロピレン)
〔1〕PP1:日本ポリプロ社製、「ノバテックFY6C」、弾性率2100MPa、MFR2.4g/10min
〔2〕PP2:日本ポリプロ社製、「ノバテックEC9」、弾性率1200MPa、MFR0.5g/10min
〔3〕PP3:住友化学社製、「WP712」、弾性率750MPa、MFR15g/10min
〔4〕PP4:basel社製、「EP−310D」、弾性率1200MPa、MFR0.5g/10min
【0076】
(B:ポリオレフィンエラストマー)
〔5〕オレフィンエラストマー1:basel社製、「adflex Q100F」、弾性率80MPa、MFR0.6g/10min
〔6〕オレフィンエラストマー2:basel社製、「adflex Q300F」、弾性率330MPa、MFR0.8g/10min
〔7〕オレフィンエラストマー3:住友化学社製、「ESPOLEX821」、弾性率62MPa、MFR1.2g/10min
〔8〕オレフィンエラストマー4:住友化学社製、「ESPOLEX817」、弾性率360MPa、MFR1.1g/10min
【0077】
(I:未変性のスチレン系エラストマー)
〔9〕スチレン系エラストマー1:旭化成ケミカルズ社製、「タフテックH1041」
〔10〕スチレン系エラストマー2:クラレ社製、「セプトン2002」
【0078】
(H:官能基変性樹脂)
〔11〕マレイン酸変性スチレンエラストマー:旭化成ケミカルズ社製、「タフテックM1913」
〔12〕アミノ酸変性スチレンエラストマー:旭化成ケミカルズ社製、「タフテックMP10」
〔13〕マレイン酸変性ポリオレフィン:三菱化学社製、「アドマーQE800」
【0079】
(C:臭素系難燃剤)
〔14〕臭素系難燃剤1:エチレンビス(ペンタブロモベンゼン):アルベマール社製、「SAYTEX8010」
〔15〕臭素系難燃剤2:TBBA−ビス(ジブロモプロピルエーテル):鈴裕化学社製「FCP−680」
〔16〕臭素系難燃剤3:テトラブロモビスフェノールA:アルベマール社製、「SAYTEXCP2000」
【0080】
(D:三酸化アンチモン)
〔17〕三酸化アンチモン:山中産業社製、「三酸化アンチモンMSWグレード」
【0081】
(E:水酸化マグネシウム)
〔18〕水酸化マグネシウム:協和化学社製、「キスマ5」
【0082】
(G:ヒンダードフェノール系酸化防止剤)
〔19〕ヒンダードフェノール系酸化防止剤1:チバジャパン社製、「イルガノックス1010」
〔20〕ヒンダードフェノール系酸化防止剤2:チバジャパン社製、「イルガノックス1330」
【0083】
(J)
〔21〕銅害防止剤:ADEKA社製、「CDA−1」
【0084】
(F)
〔22〕酸化亜鉛:ハクスイテック社製、「亜鉛華二種」
〔23〕硫化亜鉛:Sachtleben Chemie Gmbh製、「SachtolithHD−S」
〔24〕メルカプトベンズイミダゾール1:川口化学工業社製、「アンテージMB」
〔25〕メルカプトベンズイミダゾール2:大内新興化学工業社製、「ノクタラックMB」
【0085】
[絶縁電線の作製]
表1及び表2の実施例1〜7、比較例1〜5に示す成分、配合量を混合し、二軸押出し機により200〜230℃で混練した。得られた組成物を断面積0.5mmの撚線導体の周囲に、被覆厚0.3mmで押出し成形した。押出し成形には、直径が1.3mmのダイスと直径が0.9mmのニップルを使用し、押出し温度はダイス230〜250℃、シリンダ230〜250℃とし、線速度50〜700m/minで押出し成形して、絶縁電線を得た。得られた各絶縁電線について、難燃性、生産性、耐磨耗性、引張伸び、柔軟性、耐薬品性、耐熱性、協調性について試験を行った。
【0086】
〔難燃性〕
ISO6722に準拠して、30秒以内で消火する場合を良好「◎」、70秒以内で消火する場合を合格「○」、70秒以内で消火しない場合を不合格「×」とした。
【0087】
〔生産性〕
電線押出時に線速度を増減し、線速度50m/min以上でも設計外径が得られる場合を合格「○」、500m/min以上でも設計外径が得られる場合を良好「◎」、線速度50m/min以上で設計外径が得られない場合を不合格「×」とした。
【0088】
〔耐磨耗性〕
ISO6722に準拠し、300回以上のブレード磨耗に耐えられた場合を合格「○」、耐えられなかった場合を不合格「×」、500回以上のブレード磨耗に耐えられた場合を良好「◎」とした。
【0089】
〔引張伸び〕
JIS D608の引張試験に準拠して、引張伸びを測定した。すなわち、絶縁電線を100mmの長さに切り出し、導体を取り除いて絶縁被覆材のみの管状試験片とした後、23±5℃の室温下にて、試験片の両端を引張試験機のチャックに取り付けた後、引張速度200mm/minで引っ張り、試験片の破断時の荷重及び伸びを測定した。引張伸びが125%以上を合格「○」、300%以上を良好「◎」とした。
【0090】
〔柔軟性〕
図1(a)に示すように直径28mmの6個のガイドローラー11が40mmの間隔で図示のように配置されている柔軟性試験装置10を用い、同図(b)に示すように電線1をローラー11、11・・・の間をジグザグに通した。電線に2N(F2)の力を加え、電線を50mm/minの速度で引っ張った。引張力(F1)が一定になったら、長さ125mmの範囲で引張力を測定した。装置の抵抗を求めるために、アラミド・ロービングを50mm/minの速度で装置を引き通すことにより引張力(F3)を測定した。試験装置に電線を通すのに必要な引張力(F)は、下記の式より求めた。引張力Fが柔軟性を示す柔軟性指標である。この数値が小さい程、柔軟性が高いことになる。引張力Fが3.5N以下でれば合格「○」、2.3N以下であれば良好「◎」、3.5N超の場合を不合格「×」とした。
F=F1−F2−F3
【0091】
〔耐薬品性〕
下記のグループ1、グループ2の合計11種類の薬品(試験液ということもある)に対して耐薬品性の試験を行い、全ての薬品に対し合格したものを合格「○」、全てに合格しなかったものを不合格「×」とした。具体的なテスト方法は下記の通りである。電線600mmをφ6のマンドレルでU字型に折り曲げ、試験片とした。試験片の2/3を薬品に10秒間浸した後、試験液から引き上げて3分間放置して滴を垂らした後、恒温槽中に入れて、下記に示す所定の温度、所定の時間保持した。その後試験片を恒温槽から取り出して、下記の巻付試験を行った。尚、電線を試験液に浸漬する際、電線先端の絶縁体を剥いた部分が薬品に触れないようにした。また1本の電線又は同種の電線から採取した試験片は、同じ恒温槽に入れないようにした。
【0092】
グループ1の試験液に対しては、試験液に8本の試験片を浸し、20±3℃の恒温槽に入れて240時間経過後取り出し、2本の試験片の巻付試験(240時間後)を行った。残りの6本の試験片は、最初の場合と同様に試験液に浸漬し、再度恒温槽に入れて240時間経過後取り出し、2本の試験片の巻付試験(480時間後)を行った。残りの4本の試験片は、最初の場合と同様に試験液に浸漬し恒温槽に入れて240時間経過後取り出して、2本の試験片の巻付試験(720時間後)を行った。残りの2本の試験片は、最初の場合と同様に試験液に浸漬し恒温槽に入れて240時間経過後に取り出して、巻付試験(960時間後)を行った。
【0093】
グループ2の試験液に対しては、2本の試験片をグループ1の場合と同様に各試験液に浸漬した後、20±3℃の恒温槽に入れて360時間保持した後、巻付試験を行った。
【0094】
〔グループ1の試験液〕
試験液の組成%は、特に断りがない限り体積%である。
(1−a)クーラント液;50%エチレングリコール+50%蒸留水
(1−b)エンジンオイル;ISO1817オイルNo.2
(1−c)塩水;5%NaCl、95%水(質量%)
(1―d)ウィンドウォッシャー液;50%イソプロパノール、50%水
【0095】
〔グループ2の試験液〕
(2−a)ガソリン;ISO1817液体C
(2−b)軽油;90%ISO1817オイルNo.3、10%p−キシレン
(2−c)エタノール;85%エタノール、15%ISO1817液体C
(2−d)パワステオイル;ISO1817オイルNo.3
(2−e)ミッションオイル;デキシロンII
(2−f)ブレーキオイル;SAE RM−66−05
(2−g)バッテリー液;25%硫酸、75%水(濃度1.28)
【0096】
恒温槽から取り出した後の巻付試験は次のように行った。恒温槽内に入れて所定時間経過した試験片を取り出し、30分間室温(23℃±5℃)に放置した後、室温にて巻付試験を行った。巻付試験は、試験片の中央部分を利用し、マンドレル(φ6)に巻付け後、絶縁被膜の様子を目視で観察した。その結果、導体の露出がければ、1分間耐電圧試験を行い(1kv)、絶縁破壊がない場合を合格とし、それ以外を不合格とした。
【0097】
〔耐熱性〕
ISO6722に準拠し、絶縁電線に対して100℃×3000及び125℃×3000時間の老化試験を行った後、それぞれ1kv×1minの耐電圧試験を行った。その結果、100℃に耐えることができた場合を合格「○」、125℃に耐えることができた場合を良好「◎」、100℃に耐えることができなかった場合を不合格「×」とした。
【0098】
〔協調性(PVC協調性試験)〕
ワイヤーハーネス形態すなわち、絶縁電線試験片と塩化ビニル系絶縁電線をそれぞれ任意の数にて混在させた混在電線束の外周に、塩化ビニル系粘着剤付きテープを巻き付けしたものを150℃で240時間熱老化させた後、混在電線束中より任意の絶縁電線試験片を1本取り出し、自己径巻き付けを行って試験片の外観を目視で観察した。その結果絶縁電線の絶縁被膜から導体が露出していないものを合格「○」、導体が露出したものを不合格「×」とした。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
表1、表2によれば、次のことが分かる。すなわち、比較例1は、実施例1と比較して臭素系難燃剤を含有していない。そのため、難燃性に劣る。
【0102】
比較例2は水酸化マグネシウムを含有していない。そのため、難燃性に劣る。
【0103】
比較例3は、オレフィンエラストマーを含有していない。そのため、柔軟性に劣る。
【0104】
比較例4は、ポリプロピレンを含有していない。そのため、耐熱性、耐磨耗性、生産性、耐薬品性等に劣る。
【0105】
比較例5は、硫化亜鉛、酸化亜鉛、メルカプトベンズイミダゾールを含有していない。そのため、耐熱性、協調性に劣る。
【0106】
これらに対し、実施例1〜7は、いずれの特性も良好である。
【0107】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 絶縁電線
10 柔軟性試験装置
11 ガイドローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリプロピレン、
(B)ポリオレフィンエラストマー、
(C)臭素系難燃剤、
(D)三酸化アンチモン、
(E)水酸化マグネシウム、
(F)(F1)硫化亜鉛、或いは(F2)酸化亜鉛及び(F3)メルカプトベンズイミダゾール、
(G)ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有することを特徴とする電線被覆材用組成物。
【請求項2】
前記(A)ポリプロピレン50〜90質量部、
前記(B)ポリオレフィンエラストマー10〜50質量部、
前記(A)及び(B)の合計100質量部に対し、
前記(C)臭素系難燃剤10〜30質量部、
前記(D)三酸化アンチモン1〜20質量部、
前記(E)水酸化マグネシウム10〜90質量部、
前記(F)(F1)硫化亜鉛3〜15質量部、或いは(F2)酸化亜鉛1〜15質量部及び(F3)メルカプトベンズイミダゾール2〜15質量部、
前記(G)ヒンダードフェノール系酸化防止剤1〜10質量部を含有することを特徴とする電線被覆材用組成物。
【請求項3】
更に、(H)(H1)官能基で変性された官能基変性スチレン系エラストマー、(H2)官能基で変性された官能基変性ポリオレフィン、前記(H1)官能基変性スチレン系エラストマー及び(H2)官能基変性ポリオレフィンのいずれかを含み、前記官能基がカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、又はエポキシ基から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の電線被覆材用組成物。
【請求項4】
前記(C)臭素系難燃剤が、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)、ビス(テトラブロモフタルイミド)エタン、テトラブロモビスフェノールA−ビス(ジブロモプロピルエーテル)から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項5】
前記(A)ポリプロピレンは、曲げ弾性率が800〜2000MPa、メルトフローレイト(230℃)が0.5〜5g/10minであり、
前記(B)ポリオレフィンエラストマーは、曲げ弾性率が300MPa未満、メルトフローレイト(230℃)が1g/10min以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物からなる絶縁被膜を有する絶縁電線であって、絶縁厚0.5mm以下、外径4mm以下であることを特徴とする絶縁電線。
【請求項7】
請求項6に記載の絶縁電線を有することを特徴とするワイヤーハーネス。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−219530(P2011−219530A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87030(P2010−87030)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】