説明

電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物

【課題】従来のポリエステルエラストマーと同等以上の柔軟性を有すると共に、高温環境下における耐熱老化性に優れた電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物を得ることを課題とする。
【解決手段】(メタ)アクリルエラストマー、環状ポリエステルオリゴマーおよびエステル重合触媒を150〜300℃の温度で環状ポリエステルオリゴマーの重合反応率が80%以上に達するまで加熱混合し、得られた熱可塑性エラストマーにエステル重合反応抑制剤を混合して得られる、電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性と高温環境下での耐熱老化性に優れた電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電線被覆材には従来から、塩化ビニル系樹脂やオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂などが用いられている。しかし、塩化ビニル系樹脂やオレフィン系樹脂は、融点が低く、耐熱性に乏しい問題がある。また比較的融点の高いポリエステル系樹脂では、耐加水分解性が劣り、屋外や車両に使用する場合に問題がある。これらの問題を解決するための提案として、架橋ポリエチレン樹脂を被覆材に用いる方法や、ポリエステルエラストマーを用いる方法などが知られている。しかし、架橋ポリエチレン樹脂では、架橋工程が必要であり、製造工程が煩雑で且つ高価となる他、リサイクルも困難である。ポリエステルエラストマーでは、高温での変形は満足することができるが、柔軟性や耐熱老化性が充分ではなく、近年の市場を満足することができない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−322934
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明では、従来のポリエステルエラストマーと同等以上の柔軟性を有すると共に、従来のポリエステルエラストマーと比較して高温環境下における耐熱老化性に優れた電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定成分の加熱混合により、柔軟性を有すると共に、高温環境下における耐熱老化性に優れた熱可塑性エラストマー組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、(メタ)アクリルエラストマー、環状ポリエステルオリゴマーおよびエステル重合触媒を150〜300℃の温度で環状ポリエステルオリゴマーの重合反応率が80%以上に達するまで加熱混合し、得られた熱可塑性エラストマーにエステル重合反応抑制剤を混合して得られる、電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性を有すると共に、高温環境下における耐熱老化性に優れた特性を有する。耐熱老化性が優れるとは、高温環境下に長期間置かれる前後での物理特性や外観の変化が小さいことを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物とは、(メタ)アクリルエラストマー、環状ポリエステルオリゴマーおよびエステル重合触媒を150〜300℃の温度で環状ポリエステルオリゴマーの重合反応率が80%以上に達するまで加熱混合し、得られた熱可塑性エラストマーにエステル重合反応抑制剤を混合して得られる、柔軟性と、高温環境下における耐熱老化性に優れたものである。
【0009】
(メタ)アクリルエラストマーは、1種又は2種以上の(メタ)アクリルビニルモノマー、及び必要に応じてその他共重合可能なビニルモノマーを構成成分とし、重合反応で高分子量化することにより得られる。
【0010】
(メタ)アクリルビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸フェノキシエチル等が挙げられる。その他共重合可能なビニルモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、無水マレイン酸等が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリルと示される場合、メタクリル及びアクリルの両者を意味する。
【0011】
(メタ)アクリルビニルモノマーの割合は、構成成分中、20モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましい。
【0012】
その他共重合可能なビニルモノマーの好適例としては、スチレン、α-メチルスチレン及びエチレンが挙げられる。
【0013】
(メタ)アクリルエラストマーを得るためのモノマーの重合方法として、例えばラジカル重合法やリビングアニオン重合法、又はリビングラジカル重合法等が挙げられる。また、重合の形態として、例えば溶液重合法やエマルジョン重合法、懸濁重合法、又は塊状重合法等が挙げられる。
【0014】
(メタ)アクリルエラストマーのガラス転移温度は、好ましくは0℃以下、より好ましくは−90〜−5℃であり、さらに好ましくは−80〜−10℃である。
【0015】
代表的な(メタ)アクリルエラストマーの例としては、例えば、1個のポリアクリル酸n−ブチルを主体とするソフトセグメントの両側に各1個のポリメタクリル酸メチルを主体とするハードセグメントを備えるトリブロック共重合体が挙げられる。ハードセグメントはポリスチレンであってもよい。(メタ)アクリルエラストマーがソフトセグメント及びハードセグメントを備える場合、ソフトセグメントのガラス転移温度は、0℃以下が好ましく、−90〜−5℃がより好ましく、−80〜−10℃がさらに好ましい。
【0016】
市販されている(メタ)アクリルエラストマーの例としては、株式会社クラレ製のLAポリマー(登録商標:クラリティ)、株式会社カネカ製のNABSTAR(登録商標)、アルケマ株式会社製のNanostrength(登録商標)等が挙げられる。
【0017】
環状ポリエステルオリゴマーは、芳香族ジカルボン酸単位と脂肪族ジオール単位からなるエステル単位を2〜10個、好ましくは2〜8個を有する環状の分子構造を有するポリエステル化合物であることが好ましい。
【0018】
芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。また、脂肪族ジオールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等が挙げられ、炭素数2〜10の脂肪族ジオールが好ましい。
【0019】
本発明に用いられ得る環状ポリエステルオリゴマーの市販品としては、スズ系ポリエステル重合触媒含有環状ポリブチレンテレフタレートオリゴマー「CBT-160」(サイクリックス(株)製、テトラメチレングリコール単位とテレフタル酸単位とからなるエステル単位2〜5個が環状に結合したポリエステルオリゴマーの熱可塑性エラストマー、スズ系ポリエステル重合触媒含有量:スズとして1000ppm)、環状ポリブチレンテレフタレートオリゴマー「CBT-100」(サイクリックス(株)製、テトラメチレングリコール単位とテレフタル酸単位とからなるエステル単位2〜5個が環状に結合したポリエステルオリゴマーの熱可塑性エラストマー)等が挙げられる。
【0020】
加熱混合に供する(メタ)アクリルエラストマーと環状ポリエステルオリゴマーとの重量比((メタ)アクリルエラストマー/環状ポリエステルオリゴマー)は、40/60〜95/5が好ましく、より好ましくは50/50〜90/10、さらに好ましくは60/40〜85/15である。この重量比が40/60未満であると、即ち、環状ポリエステルオリゴマーが多すぎると、ポリエステル濃度が高くなり、得られる組成物の柔軟性が損なわれる場合がある。重量比が95/5を超えると、即ち、環状ポリエステルオリゴマーが少なすぎると、ポリエステル濃度が低いために得られる組成物の融点が低くなり、耐熱性が低下する場合がある。
【0021】
(メタ)アクリルエラストマーと環状ポリエステルオリゴマーとの加熱混合には、環状ポリエステルオリゴマーの重合反応を行うためにポリエステル重合触媒を使用する。かかる触媒としては、以下のようなものが例示される。例えば、アンチモン系触媒としては、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物、スズ系触媒としては、ブチルスズ、オクチルスズ、スタノキサン等のスズ化合物、チタン系化合物としては、チタンアルコキシド、チタンキレート(例えば、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミテート)、チタンラクテートなど)、チタンアシレート等のチタン化合物、ジルコニウ系触媒としては、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムキレート(例えばジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリプトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)など)、ジルコニウムアシレート等のジルコニウム化合物が挙げられる。
【0022】
ポリエステル重合触媒の使用量は、環状ポリエステルオリゴマー100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、0.03〜8重量部がより好ましく、0.05〜6重量部がさらに好ましい。ポリエステル重合触媒の使用量が0.01重量部未満だと環状ポリエステルオリゴマーの重合が十分に進行せず得られる組成物は十分な耐熱性が得られない場合がある。また、10重量部より多いと環状ポリエステルオリゴマーの過度な重合、即ち(メタ)アクリルエラストマーと環状ポリエステルオリゴマー重合物との過度な反応による高分子量物の生成(架橋に至る場合もある)および(メタ)アクリルエラストマー同士のエステル交換反応による高分子量物(架橋に至る)が生成する場合があるため、得られる熱可塑性エラストマーの熱可塑性が損なわれ(熱硬化性、非熱可塑性となり)、成形性が悪化する場合がある。また、一旦熱可塑性が損なわれた熱可塑性エラストマーに可塑剤が添加されても柔軟性の良好な組成物は得られない場合がある。
【0023】
熱可塑性エラストマーは、(メタ)アクリルエラストマー、環状ポリエステルオリゴマーおよびエステル重合触媒を150〜300℃の温度で環状ポリエステルオリゴマーの重合反応率が80%以上に達するまで加熱混合して得られる混合物であり、本発明の中間原料である。
【0024】
熱可塑性エラストマーの融点は、耐熱性及び成形性の観点から、200〜300℃が好ましく、より好ましくは210〜280℃である。融点が存在しない、即ち熱可塑性でない場合はもちろん、融点が300℃を超えると熱可塑性が損なわれ、成形性が悪くなる場合がある。また、融点が200℃未満では、高耐熱性を要求される用途での使用が制限される場合がある。
【0025】
また、熱可塑性エラストマーのデュロメータA硬さは、柔軟性の観点から、好ましくは10〜90、より好ましくは15〜75である。
【0026】
本発明の組成物は、上記熱可塑性エラストマーとエステル重合反応抑制剤が混合されたものである。エステル重合反応抑制剤を添加することにより、ポリエステル重合触媒の触媒機能を抑制(つまり組成物の熱安定性を良好なものに)するだけでなく、耐熱老化性を向上させることができることを見出した。エステル重合反応抑制剤としては、有機リン化合物又はアミド基を含有する有機化合物が挙げられる。これらのエステル重合反応抑制剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0027】
有機リン化合物としては、例えば、有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、および有機ホスホナイト化合物が挙げられる。有機ホスフェート化合物としては、次の一般式(1)で表される化合物、有機ホスファイト化合物としては、次の一般式(2)で表される化合物、有機ホスホナイト化合物としては、下記の一般式(3)で表される化合物が好ましい。有機リン化合物は、一種類でも二種類以上を併用してもよい。
【0028】
【化1】

【0029】
上記一般式(1)において、Rは、炭素原子数1〜30のアルキル基または炭素原子数6〜30のアリール基であり、より好ましくは、炭素原子数2〜25のアルキル基である。q は好ましくは1または2である。炭素原子数1〜30のアルキル基の具体例としては、オクチル、2−エチルヘキシル、イソオクチル、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシル、ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコシル、トリアコンチルなどが挙げられる。
【0030】
具体的には、モノ−メチルアシッドホスフェートおよびジ−メチルアシッドホスフェート、モノ−エチルアシッドホスフェートおよびジ−エチルアシッドホスフェート、モノ−ブチルアシッドホスフェートおよびジ−ブチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルホスフェート、モノ−ラウリルアシッドホスフェートおよびジ−ラウリルアシッドホスフェート、モノ−ステアリルアシッドホスフェートおよびジ−ステアリルアシッドホスフェート、モノ−オレイルアシッドホスフェートおよびジ−オレイルアシッドホスフェートなどが挙げられ、好ましくは、モノ−ステアリルアシッドホスフェートおよびジ−ステアリルアシッドホスフェートである。これらホスフェート化合物は単独あるいは2種以上を併用して用いられる。
【0031】
このようなホスフェート化合物の市販品としては、モノ−ステアリルアシッドホスフェートおよびジ−ステアリルアシッドホスフェートの混合物 (商品名:(株)アデカ製;アデカスタブAX−71)がある。
【0032】
【化2】

【0033】
一般式(2)で表される有機ホスファイト化合物の具体例としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4−4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、トリス(ミックスドモノおよびジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’−イソプロピリデンビス(フェニル−ジアルキルホスファイト)などが挙げられ、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0034】
このようなホスファイト化合物の市販品としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名:(株)アデカ製;アデカスタブ2112)、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:(株)アデカ製;アデカスタブPEP36)がある。
【0035】
【化3】

【0036】
一般式(3)で表される有機ホスホナイト化合物の具体例としては、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトが挙げられる。
【0037】
このようなホスホナイト化合物の市販品としては、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト(商品名:BASF製; Irgafos P-EPQ)がある
【0038】
アミド基を含有する有機化合物としては、アミド基を含有するシュウ酸誘導体、アミド基を含有するサリチル酸誘導体、ヒドラジド誘導体などが挙げられる。
【0039】
ヒドラジド誘導体としては、例えば、ビス(ベンジリデン)オキサロジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ビスフェニルヒドラジド、デカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド、N,N’−ジアセタール−アジピン酸ジヒドラジド、N,N’−ビスサリチロイル−シュウ酸ジヒドラジド、N,N’−ビスサリチロイル−チオプロピオン酸ジヒドラジド、N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオニル)ヒドラジンなど]が挙げられる。
【0040】
このようなヒドラジド誘導体の市販品としては、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン(商品名:(株)アデカ製;アデカスタブADA−10)、イソフタル酸−ビス(2-フェノキシプロピオニルヒドラジド)
(商品名:三井化学ファイン(株)製;キュ−ノックス)等がある。
【0041】
アミド基を含有するシュウ酸誘導体は、シュウ酸の2つのカルボキシル基に対して2級アミンがそれぞれ1つずつ縮合したものであり、例えばシュウ酸ビス(N'-ベンジリデンヒドラジド) 、N,N′‐ビス[2‐[2‐(3,5‐ジ‐tert‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ]エチル]オキサミドが挙げられる。
【0042】
このようなシュウ酸誘導体の市販品としては、シュウ酸ビス(N'-ベンジリデンヒドラジド) (商品名:Eastman Kodak(株)製;Eastman Inhibitor OABH)、N,N′‐ビス[2‐[2‐(3,5‐ジ‐tert‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ]エチル]オキサミド
(商品名Uniroyal
Chemicals(株)製;Naugard XL−1)がある。
【0043】
アミド基を含有するサリチル酸誘導体は、サリチル酸のカルボキシル基に対して2級アミンが縮合したものであり、例えば、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、デカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド、サリチル酸N'-(2−ヒドロキシベンジリデン)ヒドラジド、N,N’−ビス(サリチロイル)ヒドラジンなどが挙げられる。
【0044】
このようなサリチル酸誘導体の市販品としては、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール(商品名:(株)アデカ製;アデカスタブCDA−1)、デカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド(商品名:(株)アデカ製;アデカスタブCDA−6)、サリチル酸N'-(2−ヒドロキシベンジリデン)ヒドラジド(商品名:BASF製;Chel-180)がある。
【0045】
これらのエステル重合反応抑制剤は、重合に用いる触媒の種類により、選択して用いることが好ましい。例えば、ポリエステル重合触媒としてスズ系触媒を使用する場合、ホスフェート化合物、ホスファイト化合物、アミド基を有するサリチル酸誘導体、ヒドラジド誘導体の中から1種又は2種以上を選択して用いることが好ましい。また、ポリエステル重合触媒としてチタン系触媒を用いる場合、ホスフェート化合物、アミド基を有するサリチル酸誘導体、ヒドラジド誘導体の中から1種又は2種以上を選択して用いることが好ましい。
【0046】
熱可塑性エラストマー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で任意の樹脂材料、添加剤等が加えられたものでもよい。
【0047】
樹脂材料として、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、スチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0048】
添加剤としては、脂肪酸金属塩や脂肪酸エステル等の滑剤;フェノール系化合物、アミン系化合物や硫黄系化合物等の熱安定剤;ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾエート化合物やヒンダードフェノール系化合物等の光安定剤;エポキシ化合物、酸無水物化合物、カルボジイミド化合物やオキサゾリン化合物等の加水分解防止剤;フタル酸エステル系化合物、ポリエステル化合物、(メタ)アクリルオリゴマー、プロセスオイル等の可塑剤;重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム等の無機系発泡剤;ニトロ化合物、アゾ化合物、スルホニルヒドラジド等の有機系発泡剤;カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、ガラス繊維等の充填剤;テトラブロモフェノール、ポリリン酸アンモニウム、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の難燃剤;シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤や酸変性ポリオレフィン樹脂等の相溶化剤;そのほか顔料や染料等が挙げられる。
【0049】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、組成物の硬度や強度を調整する観点から、環状ポリエステルオリゴマーに由来するポリエステル以外の芳香族ポリエステルを含有していてもよい。芳香族ポリエステルとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエステルエラストマー等が挙げられる。
【0050】
芳香族ポリエステルは、熱可塑性エラストマーの製造における加熱混合の前から原料に添加されていても、該加熱混合の途中や加熱混合終了後に原料に添加されていてもよい。
【0051】
芳香族ポリエステルの融点は、組成物の耐熱性(組成物の融点が高いこと)及び組成物の成形性のバランスを良好とするため、150〜280℃が好ましく、170〜250℃がより好ましい。
【0052】
環状ポリエステルオリゴマーに由来するポリエステル以外の芳香族ポリエステルが添加される場合は、その含有量は、(メタ)アクリルエラストマー及び環状ポリエステルオリゴマーの合計量100重量部に対して、5〜250重量部が好ましく、10〜200重量部がより好ましく、15〜150重量部がさらに好ましい。
【0053】
(メタ)アクリルエラストマーと環状ポリエステルオリゴマーとの加熱混合においては、主に以下の反応(1)〜(3)が生じるものと推定される。
(1) 環状ポリエステルオリゴマー同士の開環重合反応
(2) (メタ)アクリルエラストマーのエステル基の部分に、環状ポリエステルオリゴマーが反応してグラフトを形成する反応
(3) (メタ)アクリルエラストマーのエステル基の部分に、環状ポリエステルオリゴマー同士の開環重合体(反応(1))が結合してグラフトを形成する反応
従って、加熱混合には、環状ポリエステルオリゴマーが十分に溶融する温度を要する。加熱温度は、150〜300℃であり、好ましくは160〜290℃、より好ましくは170〜280℃である。加熱温度が150℃未満であると、環状ポリエステルオリゴマーが溶融しない場合があるため、ポリエステルの重合反応が十分に進行せず、得られる熱可塑性エラストマー及び熱可塑性エラストマー組成物の耐熱性が向上しない可能性がある。また、過剰な加熱混合が行われるとグラフト形成に止まらずに過度な高分子量化又は架橋構造の形成が生じるため、得られる組成物が熱可塑性を失う。加熱温度が300℃を超えると、(メタ)アクリルエラストマーが熱分解し、得られる熱可塑性エラストマー及び熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度が低下する。
【0054】
加熱混合は、環状ポリエステルオリゴマーの重合反応が十分に進行するまで行うことが好ましい。かかる観点から、加熱混合において、環状ポリエステルオリゴマーは、重合反応率が好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上となるように反応させることが好ましい。適切な加熱混合時間は使用するエステル重合触媒の種類および量のほか、加熱温度に依存する。適切な加熱混合時間は、得られる熱可塑性エラストマーの融点が200〜300℃となるように調整することが好ましい。その結果として、得られる熱可塑性エラストマー組成物の融点も概ね200〜300℃となる。所定温度における加熱混合時間が短すぎると得られる組成物は融点が低くなって耐熱性が不足し、長すぎると得られる組成物が過度な高分子量化又は架橋(融点が高すぎるか又は存在しない状態)に至り、熱可塑性を失うとともに柔軟性が不足する場合がある。
【0055】
エステル重合反応抑制剤や芳香族ポリエステル等の添加剤を、重合反応の終盤や重合反応終了後に添加した場合は、組成物を均一とする観点から、添加後、適度(例えば5分間程度)な加熱混合を継続することが好ましい。
【0056】
加熱混合に用いられる加熱混合装置は、加熱状態を維持できる槽を有した混合装置であれば任意の装置を用いることができる。例えば、ニーダー、押出機、加熱ジャケットを有する重合缶等が挙げられる。
【0057】
好ましい熱可塑性エラストマー組成物の製造工程の一例として、複数の原料投入口を備える押出機を使用する方法が挙げられる。押出機の上流側にある第一の原料投入口から(メタ)アクリルエラストマーと環状ポリエステルオリゴマーおよびエステル重合触媒が供給され、これらの原料は加熱混合されながら、押出機の下流側へ送られる。押出機の下流側にある第二の原料投入口からエステル重合反応抑制剤が供給されて、上流から送られてくる(メタ)アクリルエラストマーと環状ポリエステルオリゴマーを加熱混合して得られた、熱可塑性エラストマーと混合される。
【0058】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の融点は、成形性の観点から、200〜300℃が好ましく、200〜280℃がより好ましい。融点が200〜300℃の熱可塑性エラストマーとエステル重合反応抑制剤とを所定の割合で混合して得られる本発明の熱可塑性エラストマー組成物の融点は、結果として熱可塑性エラストマーの融点とあまり大差のないものとなる。
【0059】
熱可塑性エラストマー組成物の結晶化温度は、耐熱性及び成形生産性の観点から、130〜180℃が好ましく、135〜170℃がより好ましく、140〜160℃がさらに好ましい。結晶化熱量は、耐熱性の観点から、5〜30J/gが好ましく、6〜20J/gがより好ましい。
【0060】
また、熱可塑性エラストマー組成物のデュロメータA硬さは、得られる熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性の観点から、好ましくは10〜90、より好ましくは15〜75である。
【0061】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、常法に従って、適宜加熱することにより、電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物として用いることが出来る。該熱可塑性エラストマー組成物を用いた電線の製造は、例えば、通常の二軸スクリュー押出機を用い、熱可塑性エラストマー組成物を溶融混練し、単数又は複数からなる金属導体に熱可塑性エラストマー組成物を押し出して作製できる。
【0062】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いることにより、高温環境で使用される電線・ケーブル被覆の熱劣化を効果的に防止することができる。そのため、電線・ケーブルの耐熱性を向上させ、信頼性の高い製品を提供することが可能となる。
【0063】
参考例1
〔熱可塑性エラストマーAの製造〕
LAポリマー LA410L (株式会社クラレ製 (メタ)アクリルエラストマー(登録商標:クラリティ ):ガラス転移温度 −21℃) 210.0gを、240℃に加熱したニーダー(ブラベンダー(株)製のプラストグラフEC 350型ミキサー)に投入後、60r/minのブレード回転数で1分間混練した。溶融後、CBT-100(サイクリックス株式会社製、環状ポリブチレンテレフタレートオリゴマー)
90.0gおよびオルガチックスTC-400(マツモトファインケミカル株式会社製、アミネートチタン系重合触媒) 1.1gを5分かけて添加し10分間混合した。この様にして得られた熱可塑性エラストマーAの環状ポリブチレンテレフタレートオリゴマーの重合反応率は82%であった。
【0064】
参考例2
〔熱可塑性エラストマーBの製造〕
LAポリマー LA410L (株式会社クラレ製 (メタ)アクリルエラストマー(登録商標:クラリティ ):ガラス転移温度 −21℃) 210.0g を、240℃に加熱したニーダー(ブラベンダー(株)製のプラストグラフEC350型ミキサー)に投入後、60r/minのブレード回転数で1分間混練した。溶融後、CBT-160(サイクリックス株式会社製、スズ系ポリエステル重合触媒含有環状ポリブチレンテレフタレートオリゴマー)
90.0gを5分かけて添加し30分間混合した。この様にして得られた熱可塑性エラストマーBの環状ポリブチレンテレフタレートオリゴマーの重合反応率は87%であった。
【実施例】
【0065】
熱可塑性エラストマー組成物の製造〔実施例1〜8、比較例1〜2〕
温度240℃、ブレード回転数60r/minに維持したニーダー(ブラベンダー(株)製のプラストグラフ EC 350型ミキサー)中の、参考例で得られた熱可塑性エラストマーAまたは熱可塑性エラストマーBに、エステル重合反応抑制剤を表1に示すような配合量で添加し、5分間混合した。混合後、得られた熱可塑性エラストマー組成物を取り出した。
【0066】
〔エステル重合反応抑制剤の重合反応に対する抑制効果の評価〕
エステル重合反応抑制剤の重合反応に対する抑制効果は、熱可塑性エラストマー組成物〔実施例1〜8、比較例1〜2〕の製造時にプラストグラフのトルク値の変化から判断した。熱可塑性エラストマーAまたは熱可塑性エラストマーBを溶融後、エステル重合反応抑制剤を混合する工程において、抑制剤を添加した後トルク値が上昇するものは重合反応が進行している(つまり高分子量化が進んでいる)ので、抑制効果が認められないと判断し、×と表記した。多少トルク値が上昇するものは△、トルク値が上昇せず一定のもの(または徐々に低下するもの)は重合反応が進行しておらず、エステル重合反応を抑制していると認められるので、○と評価した。
【0067】
なお、(メタ)アクリルエラストマーのガラス転移温度は以下の方法により測定した。
【0068】
〔(メタ)アクリルエラストマーのガラス転移温度〕
動的粘弾性測定装置(ティーエーインスツルメント(株)製のRSAIII)を使用し、−80〜50℃の温度範囲、10℃/分の昇温速度、周波数10Hzの条件でtanδ(損失正接)のピーク温度を求め、ガラス転移温度とした。試験片としては、厚さ2mm、幅12.5mm、長さ30mmのものを使用した。
【0069】
得られた熱可塑性エラストマーにおける環状ポリエステルオリゴマーの重合反応率は下記の方法により測定した。
【0070】
〔環状ポリエステルオリゴマーの重合反応率〕
示差走査熱量計((株)パーキンエルマー社製のDSC−8500)を用い、昇温過程での示差走査熱量を測定し、環状ポリエステルオリゴマーの開環重合体に由来する(この場合は200〜230℃の温度領域における)溶融熱量を算出する。
重合反応率(%)=(重合反応抑制剤添加時の溶融熱量)/(重合反応抑制剤未添加時の溶融熱量)×100
測定は、40℃から280℃へ20℃/minの昇温条件で行う。
【0071】
〔シートサンプルの作製〕
熱可塑性エラストマー組成物を230℃に加熱した熱プレス機(東邦(株)製の50t熱プレス機)にて、2mm厚×25cm×25cmの型枠を用いて5分間プレス成形した。その後、5分間冷却プレスを施し、2mm厚のシートサンプルを取り出した。
【0072】
シートサンプルを使用して得られた熱可塑性エラストマー組成物のデュロメータA硬さ、引張特性、融点、耐熱老化性を下記の方法により測定する。
【0073】
〔デュロメータA硬さ〕
JIS K6253に記載の方法に従い測定する。
【0074】
〔引張強さ・切断時伸び〕
JIS K6251に記載の方法に従い測定する。
【0075】
〔融点〕
動的粘弾性測定装置(ティーエーインスツルメント(株)製のRSAIII)を使用し、30〜310℃の温度範囲、10℃/分の昇温速度、周波数10Hzの条件で試験片を加熱し、試験片の溶融のために測定不能になった温度を融点とする。試験片としては、厚さ2mm、幅12.5mm、長さ30mmのものを使用する。
【0076】
〔耐熱老化性〕
ギアー式熱風乾燥機を用いて150℃、250時間または150℃、1000時間の処理を行い、デュロメータA硬さ、引張強さ・切断時伸びの残留率をJIS
K6257に記載の方法に従い測定する。また、外観の変化として、サンプル表層の色の見た目の変化がほとんど見られないものは○、多少見られるものは△、大きく見られるものは×とし、形状の変化がほとんど見られないものは○、多少見られるものは△、大きく見られるものは×と評価した。評価サンプルは、JIS K6251 3号形試験片を用いる。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性を有すると共に、高温環境下における耐熱老化性が優れているので、電線被覆用の組成物として有用であり、例えば、被覆電線、被覆ケーブル、ワイヤーハーネスに好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリルエラストマー、環状ポリエステルオリゴマーおよびエステル重合触媒を150〜300℃の温度で環状ポリエステルオリゴマーの重合反応率が80%以上に達するまで加熱混合し、得られた熱可塑性エラストマーにエステル重合反応抑制剤を加熱混合して得られる、電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
融点が200〜300℃である請求項1に記載の電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
エステル重合触媒は、スズ化合物またはチタン化合物である、請求項1〜2のいずれかに記載の電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
(メタ)アクリルエラストマーおよび環状ポリエステルオリゴマーの割合は、それぞれ40〜95重量部および5〜60重量部(両者の合計は100重量部)であり、エステル重合触媒の使用量は、環状ポリエステルオリゴマー100重量部に対して0.01〜10重量部であり、エステル重合反応抑制剤の使用量は、環状ポリエステルオリゴマー100重量部に対して0.1〜10重量部である、請求項1〜3のいずれかに記載の電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
(メタ)アクリルエラストマーは、ガラス転移温度が−90〜0℃のものである、請求項1〜4のいずれかに記載の電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
環状ポリエステルオリゴマーは、芳香族ジカルボン酸単位と脂肪族ジオール単位とからなるエステル単位を2〜10個有するものである、請求項1〜5のいずれかに記載の電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
エステル重合反応抑制剤は有機リン化合物又はアミド基を含有する有機化合物である請求項1〜6のいずれかに記載の電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
有機リン化合物はホスファイト化合物又はホスフェート化合物である請求項1〜7いずれかに記載の電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
アミド基を含有する有機化合物はアミド基を含有するシュウ酸誘導体、アミド基を含有するサリチル酸誘導体、またはヒドラジド誘導体である請求項1〜8いずれかに記載の電線被覆用熱可塑性エラストマー組成物。

【公開番号】特開2012−221834(P2012−221834A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88259(P2011−88259)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】