説明

電線配策構造および電力線搬送通信ケーブル

【課題】 配策作業性にも優れ、十分な特性インピーダンスを得ることが可能な電線配策構造および電力線搬送通信ケーブルを提供する。
【解決手段】 電力搬送通信ケーブル1aは、機器3a、3bを接続するケーブルである。機器3a、3bは、例えばECU(Engine Control Unit)であり、特に自動車に用いられる。電力搬送通信ケーブル1aでは、電線5の長手方向の一部に小径部7が設けられる。小径部7は、小径部7以外の部位に対して断面積が小さな部位である。電線5は、例えば、銅線やアルミニウム線が用いられる。電線5の一部に小径部7を形成する方法としては、電線5の一部を引き延ばすことで容易に形成することができる。電力線搬送通信ケーブル1aでは、小径部7が一方の機器3bと接続され、他方の端部が機器3aと接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等に用いられる電力線搬送通信(PLC:Power Line Communication)に用いられる電線の配策構造等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等に用いられる電力線搬送通信ケーブルでは、電源線と接地線からなる伝送路が信号伝送路として用いられる。このような電力線搬送通信ケーブルは、例えば特開2006−42276号公報等に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−42276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電力線搬送通信ケーブルでは、ノイズの除去を目的として、電源線と接地線との間にコンデンサが挿入される。この時の伝送路の特性インピーダンスZ0は、以下のように表わされる。
Z0=√(L/C)
但し、Lは伝送路のインダクタンス、Cはキャパシタンスである。
【0005】
前述の通り、電源線と接地線との間には、コンデンサが設けられるため、上記キャパシタンスとしては、電源線と接地線間のキャパシタンスにコンデンサのキャパシタンスが加えられる。したがって、Cが大きくなるため、伝送路の特性インピーダンスZ0は低くなる。しかし、伝送される信号の強度(電圧)は、伝送路のインピーダンスに比例するため、特性インピーダンスが低くなると、十分な伝送信号の強度を得ることができない。したがって、通信の品質に影響を及ぼす恐れがある。
【0006】
これに対し、特性インピーダンスを向上させるために、伝送路のインダクタンスを向上させる方法がある。例えば、伝送路上にコイルなどのインダクタンス素子を設け、インダクタンスを増加させることで、特性インピーダンスを向上させることができる。
【0007】
しかし、このような方法では、電源線や接地線にコイルを設ける作業が必要となり、また、コイルによる重量増やコスト増の要因となる。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、配策作業性にも優れ、十分な特性インピーダンスを得ることが可能な電線配策構造および電力線搬送通信ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達するために第1の発明は、自動車用の電力線搬送通信に用いられる電線配策構造であって、通信を行う機器間に電線が配策され、前記電線の少なくとも一部に小径部が設けられ、前記小径部の導体断面積は、前記小径部以外の部位の前記電線の導体断面積よりも小さいことを特徴とする電線配策構造である。
【0010】
前記電線は、少なくとも第1の電線と第2の電線がコネクタを介して接続されて構成され、前記第1の電線の導体断面積は、前記第2の電線の導体断面積よりも小さく、前記第1の電線が前記小径部となってもよい。
【0011】
前記第1の電線を構成する導体の電気抵抗値は、前記第2の電線を構成する導体の電気抵抗値よりも小さいことが望ましい。この場合、前記第1の電線を構成する導体は、銅または銅合金であり、前記第2の電線を構成する導体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であってもよい。
【0012】
前記電線が車両に配策された状態で、前記電線には直線部および屈曲部が形成され、前記小径部は、前記屈曲部に配置されてもよい。
【0013】
第1の発明によれば、電線の一部に小径部を形成することでインダクタンスを向上させるため、特性インピーダンスを向上させることができる。したがって、高い通信品質を得ることができる。また、コイル等を別途設ける必要がなく、配策作業性に優れ、重量の増加がない。
【0014】
また、断面積の異なる少なくとも複数種の電線を、コネクタを介して接続して一本の電線とし、断面積の小さな電線の部位を小径部とすることで、簡易に小径部を形成することができる。
【0015】
また、小径部を構成する導体材質の電気抵抗を、他の部位を構成する導体材質の電気抵抗よりも小さくすることで、小径部における電気抵抗の増大に伴う許容電流値の低下を抑制することができる。この場合、小径部を構成する導体を銅製とし、他の部位の導体をアルミニウム製とすることで、軽量化を達成するとともに、小径部の抵抗値増大を抑えることができる。
【0016】
また、自動車に電線を配策する際に、屈曲部にあたる部位に小径部を配置することで、当該部位の屈曲性が優れるため、配策作業が容易である。
【0017】
第2の発明は、自動車の電力線搬送通信に用いられる電力線搬送通信ケーブルであって、少なくとも第1の電線と第2の電線とがコネクタを介して接続されて構成され、前記第1の電線の導体断面積は、前記第2の電線の導体断面積よりも小さく、前記第1の電線を構成する導体の電気抵抗値は、前記第2の電線を構成する導体の電気抵抗値よりも小さいことを特徴とする電力線搬送通信ケーブルである。
【0018】
第2の発明によれば、特性インピーダンスに優れた電力線搬送通信ケーブルを得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、配策作業性にも優れ、十分な特性インピーダンスを得ることが可能な電線配策構造および電力線搬送通信ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】電力搬送通信ケーブル1a、1bを示す図。
【図2】電力搬送通信ケーブル10a、10bを示す図。
【図3】電線配策構造20を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1(a)は、電力搬送通信ケーブル1aを示す図である。なお、以下の図では、電線が一対設けられる例を示すが、本発明はこれに限られず、一本(電力線)のみに適用することもできる。電力搬送通信ケーブル1aは、機器3a、3bを接続するケーブルである。機器3a、3bは、例えばECU(Engine Control Unit)であり、自動車に用いられる。
【0022】
電力搬送通信ケーブル1aでは、電線5の長手方向の一部に小径部7が設けられる。小径部7は、小径部7以外の部位に対して導体の断面積が小さな部位である。
【0023】
電線5は、例えば、銅線やアルミニウム線が用いられる。電線5の一部に小径部7を形成する方法としては、電線5の一部を引き延ばすことで容易に形成することができる。電力線搬送通信ケーブル1aでは、小径部7が一方の機器3bと接続され、他方の端部が機器3aと接続される。
【0024】
なお、図1(b)に示すように、小径部7を電線5の中央部に形成した電力線搬送通信ケーブル1bを用いることもできる。すなわち、小径部7の長さや位置は、適宜設定され、必ずしも電線5の一か所のみではなく、長手方向の複数個所であってもよい。
【0025】
ここで、直線導体のインダクタンスL(単位 H)は、以下のように表わすことができる。
L=(μ0・l)/(2π)×(LOG(2l/a)−1)
但し、μ0は真空の透磁率、lは導体長(m)、aは導体半径(m)である。
【0026】
上式より明らかなように、導体半径aを小さくすることで、その部位のインダクタンスLを大きくすることができる。したがって、伝送路全体の特性インピーダンスを大きくすることができる。すなわち、本発明における小径部7は、導体半径aを小さくした部位となり、これにより、伝送路全体の特性インピーダンスを大きくすることができる。したがって、小径部7の長さなどは、必要な特性インピーダンスが得られるように適宜設定される。
【0027】
なお、本発明の電力線搬送通信ケーブルとしては、例えば、材質軟銅のものを用い、全長5mの電線に対し、4mの小径部を形成し、小径部の導体径を0.8mm、小径部以外の導体径を1.8mm程度としたものを用いることができる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の電力線搬送通信ケーブル1a、1bによれば、一部に小径部7が形成されることで、小径部のインダクタンスを他の部位と比較して相対的に高くすることができる。したがって、電力線搬送通信ケーブル全体の特性インピーダンスを上げることができる。この際、コイル等を別途設ける必要がないため、全体の構成が複雑にならず、軽量化を達成することができる。
【0029】
次に、他の実施形態について説明する。図2(a)は、電力線搬送通信ケーブル10aを示す図である。なお、以下の説明において、電力線搬送通信ケーブル1aと同様の機能を奏する構成については、図1と同様の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0030】
電力線搬送通信ケーブル10aは、電力線搬送通信ケーブル1aと略同様の構成であるが、複数の電線5a、5bから構成される点で異なる。電線5aと電線5bとはコネクタ11で接続される。第1の電線である電線5bの導体部の径は、第2の電線である電線5aの導体部の径よりも小さい。すなわち、電線5bが小径部7となる。
【0031】
なお、コネクタ11としては、雄雌端子同士の接続であってもよく、端子台等の接続部材を用いてもよい。
【0032】
また、図2(a)では、電線5a、5bの二本が接続される例を示すが、図2(b)に示すように、三本以上の電線をコネクタ11で接続してもよい。図2(b)に示す電力線搬送通信ケーブル10bは、長手方向の中央部に電線5bが配置され、電線5bの両端部が電線5aと接続される。このように、小径部7は、電力線搬送通信ケーブルの長手方向のいずれの位置に設けてもよい。
【0033】
ここで、自動車の軽量化の要請から、銅と比較して軽量であるアルミニウム(またはアルミニウム合金)が電力線に用いられる場合がある。一方、本発明では、特性インピーダンスの向上のため、ケーブルの一部に小径部が形成される。
【0034】
しかし、小径部が形成されることで、当該部位の電気抵抗が大きくなる。特に、本発明の電力線搬送通信ケーブルは、電力線としても用いられるため、電気抵抗が大きくなると、伝送ロスが大きくなり、小径部の発熱等の問題がある。特に、銅線と比較して電気抵抗の大きなアルミニウムを用いる場合には、このような問題が大きくなる。すなわち、流すことができる電流値(許容電流値)が低下する。
【0035】
そこで、本発明では、小径部7を構成する導体(電線5b)の素材固有の電気抵抗が、他の部位を構成する導体(電線5a)の素材固有の電気抵抗よりも低くなるように材質を選択することが望ましい。例えば、電線5aを構成する導体の材質を銅または銅合金とし、電線5bを構成する導体の材質をアルミニウムまたはアルミニウム合金とすればよい。
【0036】
電力線搬送通信ケーブル10a、10bによれば、電力線搬送通信ケーブル1a、1bと同様の効果を奏することができる。また、小径部7における電気抵抗の増加(発熱等のロス)を抑制することができる。なお、この場合でも、電力線搬送通信ケーブルの大部分がアルミニウムで構成されれば、重量増は最低限に抑えられる。
【0037】
次に、本発明にかかる電力線搬送通信ケーブルを用いた電線配策構造について説明する。図3は、電線配策構造20を示す図である。なお、電線配策構造20では、電力線搬送通信ケーブル10bを用いた例を示すが、前述した他の電力線搬送通信ケーブルを用いることもできる。また、以下の例では、電力線搬送通信ケーブル10bが一対形成される例を示すが、本発明はこれに限られず、一本のみに適用してもよく、三本以上の線を用いてもよい。
【0038】
電線配策構造20は、電力線搬送通信ケーブル10bと機器3a、3b等から構成される。車両21に設けられたECU等の機器3a、3b間に電力線搬送通信ケーブル10bが接続される。機器3a、3bは、車両21に対して一直線上に形成されず、また、他の部品を迂回する必要がある場合がある。このため、電力線搬送通信ケーブル10bは、直線部23および屈曲部25が形成される。すなわち、電力線搬送通信ケーブル10bは、屈曲部25において屈曲される。
【0039】
電線配策構造20では、小径部7が屈曲部25に来るように配置される。このため、より屈曲性の高い外径の小さな部位が屈曲部25に配置される。なお、電線配策構造20では、屈曲部25が一か所のみ形成される例を示したが、二箇所以上の部位に屈曲部25が形成されてもよい。また、屈曲部25は、図示したように、必ずしも略垂直に屈曲されなくてもよい。
【0040】
電線配策構造20によれば、特殊なコイル等を用いることなく、高い特性インピーダンスを有する電線を配策することができる。したがって、軽量かつ高い通信品質を得ることができる。
【0041】
また、配策構造の屈曲部25に位置するように小径部7を形成することで、当該部位が屈曲性に優れ、配策作業性に優れる。
【0042】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0043】
1a、1b、10a、10b………電力線搬送通信ケーブル
3a、3b………機器
5、5a、5b………電線
7………小径部
11………コネクタ
20………電線配策構造
21………車両
23………直線部
25………屈曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の電力線搬送通信に用いられる電線配策構造であって、
通信を行う機器間に電線が配策され、
前記電線の少なくとも一部に小径部が設けられ、
前記小径部の導体断面積は、前記小径部以外の部位の前記電線の導体断面積よりも小さいことを特徴とする電線配策構造。
【請求項2】
前記電線は、少なくとも第1の電線と第2の電線がコネクタを介して接続されて構成され、
前記第1の電線の導体断面積は、前記第2の電線の導体断面積よりも小さく、
前記第1の電線が前記小径部となることを特徴とする請求項1記載の電線配策構造。
【請求項3】
前記第1の電線を構成する導体素材の電気抵抗値は、前記第2の電線を構成する導体素材の電気抵抗値よりも小さいことを特徴とする請求項2記載の電線配策構造。
【請求項4】
前記第1の電線を構成する導体は、銅または銅合金であり、前記第2の電線を構成する導体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることを特徴とする請求項3記載の電線配策構造。
【請求項5】
前記電線が車両に配策された状態で、前記電線には直線部および屈曲部が形成され、
前記小径部は、前記屈曲部に配置されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電線配策構造。
【請求項6】
自動車の電力線搬送通信に用いられる電力線搬送通信ケーブルであって、
少なくとも第1の電線と第2の電線とがコネクタを介して接続されて構成され、
前記第1の電線の導体断面積は、前記第2の電線の導体断面積よりも小さく、
前記第1の電線を構成する導体素材の電気抵抗値は、前記第2の電線を構成する導体素材の電気抵抗値よりも小さいことを特徴とする電力線搬送通信ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−206616(P2012−206616A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74013(P2011−74013)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】