電線
【課題】強度を有し、リサイクル性を高め、さらには安価となる細線化可能な電線を提供する。
【解決手段】電線1は、強度を高めるための補強用の中心素線3を備える。この中心素線3は磁性を有する。中心素線3の周囲には、電気伝導用の複数の純銅からなる周辺素線2を配置する。中心素線3の存在により、電線1の断面積が小さくなっても引張強度が確保される。また、回収時には、磁性によって中心素線3とこれ以外の非磁性の部分とが容易に分離される。中心素線3の基本素材は、SUS304又は鋼である。
【解決手段】電線1は、強度を高めるための補強用の中心素線3を備える。この中心素線3は磁性を有する。中心素線3の周囲には、電気伝導用の複数の純銅からなる周辺素線2を配置する。中心素線3の存在により、電線1の断面積が小さくなっても引張強度が確保される。また、回収時には、磁性によって中心素線3とこれ以外の非磁性の部分とが容易に分離される。中心素線3の基本素材は、SUS304又は鋼である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度を高めるための補強用の中心素線を備えてなる電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電線の一例としてワイヤハーネスを挙げ、以下これについて説明する。自動車等の移動体においては、電装品等への電気的接続のためにワイヤハーネスが用いられている。ワイヤハーネスは、多数の電線を束ねてなるものであり、近年では電装品や移動体自体の小型化の影響もあってワイヤハーネスの細径化が要求されている。
【0003】
ワイヤハーネスを細径化するためには、先ず電線自体の細線化を図ることが重要である。しかし、単に細線化を図ると、例えば電線を構成する導体が純銅のものは、特に引張強度が断面積に比例して低下してしまうという不具合が生じる。電線の引張強度の低下が生じると、例えば組み付け時において、この作業性に影響を来してしまうということになる。
【0004】
従来において、電線の細線化のために、銅に少量の錫を添加してなる銅合金を用いて電気伝導用の導体を形成し、これによって引張強度を確保したものや(例えば特許文献1参照)、複数の電気伝導用の導体の中心にステンレス鋼からなる中心素線を配置して、この中心素線により引張強度を確保したもの(例えば特許文献2参照)などが提案されている。
【特許文献1】特開平4−17214号公報
【特許文献2】特開2000−288625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
銅に少量の錫を添加してなる銅合金を用いて電気伝導用の導体を形成した電線にあっては、前記銅合金を安価に得るために、連続で固溶させた錫入り銅を鋳造する技術が必要になり、且つ、錫の添加量を一定に保つ高度な制御も必要になるという問題点を有している。また、得られた電線を移動体のワイヤハーネスに使用する場合、通常このワイヤハーネスには電源供給用の純銅製導体の太物電線が共存することから、後の移動体の廃棄時におけるワイヤハーネスからの純銅の回収に影響を来してしまうという問題点を有している。
【0006】
一方、ステンレス鋼からなる中心素線を備えて強度を高めるための補強を図った電線にあっても、中心素線がステンレス鋼であることから純銅と分別することは困難で、やはり純銅の回収に影響を来してしまうという問題点を有している。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、強度を有し、リサイクル性を高め、さらには安価となる細線化可能な電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の電線は、強度を高めるための補強用の中心素線を備え、該中心素線は磁性を有することを特徴としている。このような特徴を有する本発明によれば、中心素線の存在により電線の断面積が小さくなっても引張強度が確保される。また、回収時には、磁性によって中心素線とこれ以外の非磁性の部分とが容易に分離される。
【0009】
請求項2記載の本発明の電線は、請求項1に記載の電線において、前記中心素線の周囲に電気伝導用の複数の純銅からなる周辺素線を配置することを特徴としている。このような特徴を有する本発明によれば、中心素線の存在により引張強度が確保され、また、周辺素線に銅合金を用いる必要性がなくなる。言い換えれば、電気伝導用の導体を合金で製造して強度を確保する必要性がなくなる。
【0010】
請求項3記載の本発明の電線は、請求項2に記載の電線において、前記中心素線の表面に前記周辺素線に対する表面処理を施すことを特徴としている。このような特徴を有する本発明によれば、周辺素線の接触による中心素線表面の電食が避けられる。中心素線表面が清浄で平滑であれば、表面において自然に形成される不導体皮膜が安定し、強い保護性を維持することになる。しかしながら、周辺素線によって不導体皮膜が不安定になってしまうようであれば、本発明が特に有用になる。表面処理に関しては、銅被覆やエナメル被覆が一例として挙げられる。また、銅等のイオン化傾向の小さい金属メッキで被覆することも可能である。
【0011】
請求項4記載の本発明の電線は、請求項1ないし請求項3いずれか記載の電線において、前記中心素線の基本素材をSUS304又は鋼とすることを特徴としている。このような特徴を有する本発明によれば、SUS304又は鋼により磁性を有する中心素線が製造される。SUS304や鋼は、汎用性のある素材として広く認識されるものであるが、SUS304に関しては、オーステナイト系であるため本来は磁性を有さないものである。しかしながら加工度を上げると、引張強さが上がるとともに歪み誘起マルテンサイト量が増加して磁性を表す。この磁性は、固溶化熱処理を行えば消すことができるが、本発明では固溶化熱処理を行わずにSUS304に磁性を持たせることにする。鋼は、磁石に吸い寄せられる性質を有する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載された本発明によれば、強度を有するとともにリサイクル性を高めことができるという効果を奏する。また、細線化を図ることができるという効果を奏する。
【0013】
請求項2に記載された本発明によれば、例えば錫の添加量を一定に保つような高度な制御が不要になり、結果、従来よりも安価に電線を製造することができるという効果を奏する。
【0014】
請求項3に記載された本発明によれば、中心素線表面の電食を防止することができるという効果を奏する。
【0015】
請求項4に記載された本発明によれば、汎用性のある素材で磁性を有する中心素線を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の電線の一実施の形態を示す断面図である。
【0017】
図1において、本発明の電線1は、例えば自動車等の移動体におけるワイヤハーネスを構成するもの、或いは、民生機器の内部配線を構成するものであって、特に細線化に好適な構造になっている。電線1は、複数の周辺素線2と、この複数の周辺素線2の中心に存在する中心素線3と、これらの周囲に押出被覆される合成樹脂製の公知の被覆4とを備えて構成されている。
【0018】
周辺素線2は、特に限定するものではないが、純銅製の電気伝導用の導体であって、本形態では8つ備えられ、これら8つが中心素線3を包囲するように配置されている。複数の周辺素線2は、中心素線3を中心にして撚り合わせられている。本形態の複数の周辺素線2は、圧縮ダイスを用いて圧縮され、略扇形の圧縮導体になっている。
【0019】
尚、細線化このとは別として、8つの周辺素線2の外周に更に複数の周辺素線を配置する構造にしても良いものとする。
【0020】
中心素線3は、強度を高めるための補強用のものであって、磁性を有する素材により製造されている。中心素線3の磁性とは、磁石と同じ性質、或いは、磁石に吸い寄せられる性質のことであり、ここでは中心素線3がSUS304(又は鋼)によって製造されている。SUS304(18Cr−8Ni鋼)は、オーステナイト系ステンレス鋼の一種であり、通常市販されているもの及び一般的に知られているものは非磁性のものである。本発明では、SUS304に磁性を持たせ、この磁性を持たせたSUS304を基本素材として中心素材3が製造されている。
【0021】
SUS304に磁性を持たせるために、本発明では固溶化熱処理を行わないようになっている。具体的に説明すると、SUS304に関しては、オーステナイト系であるため本来は磁性を有さないものである。しかしながら、製造過程において加工度を上げると、引張強さが上がるとともに歪み誘起マルテンサイト量が増加して磁性を表す。この磁性は、固溶化熱処理を行えば消すことができるが、本発明では固溶化熱処理を行わずにSUS304に磁性を持たせることにする。
【0022】
前記固溶化熱処理とは、一般的に知られている説明として、鋼の合金成分を固溶体に溶解する温度以上に加熱して十分な時間保持し、急冷してこの析出を阻止する処理のことをいう。また、オーステナイトは、A3(亜共折鋼)又はA1(過共折鋼)変態点以上の高温での均一な組織をいうもので、一般に焼き入れ温度に均熱化したマトリックス(生地)の組織をオーステナイトという。マルテンサイトは、オーステナイトを急冷した場合に、マルテンサイト生成温度以下の温度で変態して生じる焼き入れ組織のことをいう。マルテンサイトは、結晶格子に歪みが生じて硬化する。加工度は、伸線加工前の線材の断面積をS1、伸線加工後の線材の断面積をS2とすると、加工度(%)=[(S1−S2)/S1]×100で表される。
【0023】
本発明において、ステンレス鋼の中でも磁性を有するSUS430(17Cr鋼)を採用しないのは、SUS430は伝送ロスに影響を与える強磁性のものであるからである。本発明は、伝送ロスに対する配慮もなされている。
【0024】
以上、本発明によれば、中心素線3の存在により引張強度を十分に確保することができる。また、回収時には、中心素線3の磁性によって、中心素線3とこれ以外の非磁性の部分とを容易に分離することができる。さらに、汎用性の高い素材を用いることから安価に製造することができる。
【0025】
次に、図2を参照しながら本発明の電線の他の一実施の形態を説明する。図2は他の一実施の形態を示す断面図である。尚、上述の形態と基本的に同じ構成については同一の符号を付して説明を省略するものとする。
【0026】
図2において、他の一実施の形態となる本発明の電線1′は、例えばワイヤハーネスや民生機器の内部配線を構成するものであって、上述同様に細線化に好適な構造になっている。電線1′は、複数の周辺素線2と、この複数の周辺素線2の中心に存在する中心素線3′と、これらの周囲に押出被覆される合成樹脂製の公知の被覆4とを備えて構成されている。
【0027】
中心素線3′は、強度を高めるための補強用のものであって、磁性を有する素材により製造されている。中心素線3′は、ここでは基本素材が鋼(又はSUS304(磁性あり))によって製造されている。中心素線3′の表面には、複数の周辺素線2に対する表面処理が施されて表面処理部5が形成されている。中心素線3′は、基本素材部分6と表面処理部5とにより構成されている。前記表面処理は、電食防止を目的とする場合に、銅被覆や銅等のイオン化傾向の小さい金属メッキでの被覆が一例として挙げられる。また、絶縁や電食防止を目的とする場合には、エナメル被覆が一例として挙げられる。表面処理部5は、基本素材部分6の磁性に影響しないような厚さで形成されている。
【0028】
以上、この場合も中心素線3′の存在により引張強度を十分に確保することができる。また、回収時には、中心素線3′の磁性によって、中心素線3′とこれ以外の非磁性の部分とを容易に分離することができる。さらに、汎用性の高い素材を用いることから安価に製造することができる。
【0029】
その他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の電線の一実施の形態を示す断面図である。
【図2】本発明の電線の他の一実施の形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1、1′ 電線
2 周辺素線
3、3′ 中心素線
4 被覆
5 表面処理部(表面処理)
6 基本素材部分
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度を高めるための補強用の中心素線を備えてなる電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電線の一例としてワイヤハーネスを挙げ、以下これについて説明する。自動車等の移動体においては、電装品等への電気的接続のためにワイヤハーネスが用いられている。ワイヤハーネスは、多数の電線を束ねてなるものであり、近年では電装品や移動体自体の小型化の影響もあってワイヤハーネスの細径化が要求されている。
【0003】
ワイヤハーネスを細径化するためには、先ず電線自体の細線化を図ることが重要である。しかし、単に細線化を図ると、例えば電線を構成する導体が純銅のものは、特に引張強度が断面積に比例して低下してしまうという不具合が生じる。電線の引張強度の低下が生じると、例えば組み付け時において、この作業性に影響を来してしまうということになる。
【0004】
従来において、電線の細線化のために、銅に少量の錫を添加してなる銅合金を用いて電気伝導用の導体を形成し、これによって引張強度を確保したものや(例えば特許文献1参照)、複数の電気伝導用の導体の中心にステンレス鋼からなる中心素線を配置して、この中心素線により引張強度を確保したもの(例えば特許文献2参照)などが提案されている。
【特許文献1】特開平4−17214号公報
【特許文献2】特開2000−288625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
銅に少量の錫を添加してなる銅合金を用いて電気伝導用の導体を形成した電線にあっては、前記銅合金を安価に得るために、連続で固溶させた錫入り銅を鋳造する技術が必要になり、且つ、錫の添加量を一定に保つ高度な制御も必要になるという問題点を有している。また、得られた電線を移動体のワイヤハーネスに使用する場合、通常このワイヤハーネスには電源供給用の純銅製導体の太物電線が共存することから、後の移動体の廃棄時におけるワイヤハーネスからの純銅の回収に影響を来してしまうという問題点を有している。
【0006】
一方、ステンレス鋼からなる中心素線を備えて強度を高めるための補強を図った電線にあっても、中心素線がステンレス鋼であることから純銅と分別することは困難で、やはり純銅の回収に影響を来してしまうという問題点を有している。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、強度を有し、リサイクル性を高め、さらには安価となる細線化可能な電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の電線は、強度を高めるための補強用の中心素線を備え、該中心素線は磁性を有することを特徴としている。このような特徴を有する本発明によれば、中心素線の存在により電線の断面積が小さくなっても引張強度が確保される。また、回収時には、磁性によって中心素線とこれ以外の非磁性の部分とが容易に分離される。
【0009】
請求項2記載の本発明の電線は、請求項1に記載の電線において、前記中心素線の周囲に電気伝導用の複数の純銅からなる周辺素線を配置することを特徴としている。このような特徴を有する本発明によれば、中心素線の存在により引張強度が確保され、また、周辺素線に銅合金を用いる必要性がなくなる。言い換えれば、電気伝導用の導体を合金で製造して強度を確保する必要性がなくなる。
【0010】
請求項3記載の本発明の電線は、請求項2に記載の電線において、前記中心素線の表面に前記周辺素線に対する表面処理を施すことを特徴としている。このような特徴を有する本発明によれば、周辺素線の接触による中心素線表面の電食が避けられる。中心素線表面が清浄で平滑であれば、表面において自然に形成される不導体皮膜が安定し、強い保護性を維持することになる。しかしながら、周辺素線によって不導体皮膜が不安定になってしまうようであれば、本発明が特に有用になる。表面処理に関しては、銅被覆やエナメル被覆が一例として挙げられる。また、銅等のイオン化傾向の小さい金属メッキで被覆することも可能である。
【0011】
請求項4記載の本発明の電線は、請求項1ないし請求項3いずれか記載の電線において、前記中心素線の基本素材をSUS304又は鋼とすることを特徴としている。このような特徴を有する本発明によれば、SUS304又は鋼により磁性を有する中心素線が製造される。SUS304や鋼は、汎用性のある素材として広く認識されるものであるが、SUS304に関しては、オーステナイト系であるため本来は磁性を有さないものである。しかしながら加工度を上げると、引張強さが上がるとともに歪み誘起マルテンサイト量が増加して磁性を表す。この磁性は、固溶化熱処理を行えば消すことができるが、本発明では固溶化熱処理を行わずにSUS304に磁性を持たせることにする。鋼は、磁石に吸い寄せられる性質を有する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載された本発明によれば、強度を有するとともにリサイクル性を高めことができるという効果を奏する。また、細線化を図ることができるという効果を奏する。
【0013】
請求項2に記載された本発明によれば、例えば錫の添加量を一定に保つような高度な制御が不要になり、結果、従来よりも安価に電線を製造することができるという効果を奏する。
【0014】
請求項3に記載された本発明によれば、中心素線表面の電食を防止することができるという効果を奏する。
【0015】
請求項4に記載された本発明によれば、汎用性のある素材で磁性を有する中心素線を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の電線の一実施の形態を示す断面図である。
【0017】
図1において、本発明の電線1は、例えば自動車等の移動体におけるワイヤハーネスを構成するもの、或いは、民生機器の内部配線を構成するものであって、特に細線化に好適な構造になっている。電線1は、複数の周辺素線2と、この複数の周辺素線2の中心に存在する中心素線3と、これらの周囲に押出被覆される合成樹脂製の公知の被覆4とを備えて構成されている。
【0018】
周辺素線2は、特に限定するものではないが、純銅製の電気伝導用の導体であって、本形態では8つ備えられ、これら8つが中心素線3を包囲するように配置されている。複数の周辺素線2は、中心素線3を中心にして撚り合わせられている。本形態の複数の周辺素線2は、圧縮ダイスを用いて圧縮され、略扇形の圧縮導体になっている。
【0019】
尚、細線化このとは別として、8つの周辺素線2の外周に更に複数の周辺素線を配置する構造にしても良いものとする。
【0020】
中心素線3は、強度を高めるための補強用のものであって、磁性を有する素材により製造されている。中心素線3の磁性とは、磁石と同じ性質、或いは、磁石に吸い寄せられる性質のことであり、ここでは中心素線3がSUS304(又は鋼)によって製造されている。SUS304(18Cr−8Ni鋼)は、オーステナイト系ステンレス鋼の一種であり、通常市販されているもの及び一般的に知られているものは非磁性のものである。本発明では、SUS304に磁性を持たせ、この磁性を持たせたSUS304を基本素材として中心素材3が製造されている。
【0021】
SUS304に磁性を持たせるために、本発明では固溶化熱処理を行わないようになっている。具体的に説明すると、SUS304に関しては、オーステナイト系であるため本来は磁性を有さないものである。しかしながら、製造過程において加工度を上げると、引張強さが上がるとともに歪み誘起マルテンサイト量が増加して磁性を表す。この磁性は、固溶化熱処理を行えば消すことができるが、本発明では固溶化熱処理を行わずにSUS304に磁性を持たせることにする。
【0022】
前記固溶化熱処理とは、一般的に知られている説明として、鋼の合金成分を固溶体に溶解する温度以上に加熱して十分な時間保持し、急冷してこの析出を阻止する処理のことをいう。また、オーステナイトは、A3(亜共折鋼)又はA1(過共折鋼)変態点以上の高温での均一な組織をいうもので、一般に焼き入れ温度に均熱化したマトリックス(生地)の組織をオーステナイトという。マルテンサイトは、オーステナイトを急冷した場合に、マルテンサイト生成温度以下の温度で変態して生じる焼き入れ組織のことをいう。マルテンサイトは、結晶格子に歪みが生じて硬化する。加工度は、伸線加工前の線材の断面積をS1、伸線加工後の線材の断面積をS2とすると、加工度(%)=[(S1−S2)/S1]×100で表される。
【0023】
本発明において、ステンレス鋼の中でも磁性を有するSUS430(17Cr鋼)を採用しないのは、SUS430は伝送ロスに影響を与える強磁性のものであるからである。本発明は、伝送ロスに対する配慮もなされている。
【0024】
以上、本発明によれば、中心素線3の存在により引張強度を十分に確保することができる。また、回収時には、中心素線3の磁性によって、中心素線3とこれ以外の非磁性の部分とを容易に分離することができる。さらに、汎用性の高い素材を用いることから安価に製造することができる。
【0025】
次に、図2を参照しながら本発明の電線の他の一実施の形態を説明する。図2は他の一実施の形態を示す断面図である。尚、上述の形態と基本的に同じ構成については同一の符号を付して説明を省略するものとする。
【0026】
図2において、他の一実施の形態となる本発明の電線1′は、例えばワイヤハーネスや民生機器の内部配線を構成するものであって、上述同様に細線化に好適な構造になっている。電線1′は、複数の周辺素線2と、この複数の周辺素線2の中心に存在する中心素線3′と、これらの周囲に押出被覆される合成樹脂製の公知の被覆4とを備えて構成されている。
【0027】
中心素線3′は、強度を高めるための補強用のものであって、磁性を有する素材により製造されている。中心素線3′は、ここでは基本素材が鋼(又はSUS304(磁性あり))によって製造されている。中心素線3′の表面には、複数の周辺素線2に対する表面処理が施されて表面処理部5が形成されている。中心素線3′は、基本素材部分6と表面処理部5とにより構成されている。前記表面処理は、電食防止を目的とする場合に、銅被覆や銅等のイオン化傾向の小さい金属メッキでの被覆が一例として挙げられる。また、絶縁や電食防止を目的とする場合には、エナメル被覆が一例として挙げられる。表面処理部5は、基本素材部分6の磁性に影響しないような厚さで形成されている。
【0028】
以上、この場合も中心素線3′の存在により引張強度を十分に確保することができる。また、回収時には、中心素線3′の磁性によって、中心素線3′とこれ以外の非磁性の部分とを容易に分離することができる。さらに、汎用性の高い素材を用いることから安価に製造することができる。
【0029】
その他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の電線の一実施の形態を示す断面図である。
【図2】本発明の電線の他の一実施の形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1、1′ 電線
2 周辺素線
3、3′ 中心素線
4 被覆
5 表面処理部(表面処理)
6 基本素材部分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強度を高めるための補強用の中心素線を備え、該中心素線は磁性を有する
ことを特徴とする電線。
【請求項2】
請求項1に記載の電線において、
前記中心素線の周囲に電気伝導用の複数の純銅からなる周辺素線を配置する
ことを特徴とする電線。
【請求項3】
請求項2に記載の電線において、
前記中心素線の表面に前記周辺素線に対する表面処理を施す
ことを特徴とする電線。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3いずれか記載の電線において、
前記中心素線の基本素材をSUS304又は鋼とする
ことを特徴とする電線。
【請求項1】
強度を高めるための補強用の中心素線を備え、該中心素線は磁性を有する
ことを特徴とする電線。
【請求項2】
請求項1に記載の電線において、
前記中心素線の周囲に電気伝導用の複数の純銅からなる周辺素線を配置する
ことを特徴とする電線。
【請求項3】
請求項2に記載の電線において、
前記中心素線の表面に前記周辺素線に対する表面処理を施す
ことを特徴とする電線。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3いずれか記載の電線において、
前記中心素線の基本素材をSUS304又は鋼とする
ことを特徴とする電線。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2007−280625(P2007−280625A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101736(P2006−101736)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
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