説明

電線

【課題】軽量化を図りつつ劣悪な環境下においても使用可能な電線を提供する。
【解決手段】電線1は、高強度繊維11a上に金属メッキ11bを施した素線11を撚り合わせて導体部10としている。この電線1は、素線11の撚りピッチを撚り外径で割り込んだ値が14.2以上75.0以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化により二酸化炭素の排出量が少ない製品が市場に受け入れられている。特に自動車は原油価格高騰の影響との相乗効果により、二酸化炭素の排出量を抑えることが望まれており、燃費を向上させるべく自動車用電線について軽量化の要求が日増しに高まってきている。
【0003】
しかし、軟銅撚り線や銅合金撚り線などの自動車用電線では各金属の比重が決まっていることから、軽量化するためには細径化するしかない。
【0004】
そこで、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、及びPBO繊維などの高強度繊維に金属メッキを施し、これを撚り合わせた導電性高強力コードが提案されている(例えば特許文献1参照)。また、超臨界流体を用いて高分子繊維にめっき前処理を行ったうえで高密着に無電解銅メッキを施した素線を撚り合わせて導体部とした電線が提案されている(例えば特許文献2参照)。これらによれば、繊維にメッキ処理を施したものを導体として用いているため、軽量化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−130241号公報
【特許文献2】特開2009−242839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2に記載の電線によれば軽量を図ることができるものの、車両などの人命に直接関わるような回路に使うことが出来る電線仕様とはなっていなかった。なお、上記問題は、自動車用電線に限らず、詳細な導体抵抗管理が必要な機器、飛行機、ロケット、医療、ロボットなど、他の用途に用いられる電線についても共通するものである。
【0007】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、軽量化を図りつつ抵抗値を安定させることが可能な電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電線は、高強度繊維上に金属メッキを施した素線を撚り合わせて導体部とした電線であって、素線の撚りピッチを撚り外径で割り込んだ値が14.2以上75.0以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の電線によれば、高強度繊維上に金属メッキを施した素線を撚り合わせて導体部とした電線であるため、繊維による軽量を図ることができる。また、素線の撚りピッチを撚り外径で割り込んだ値が14.2以上75.0以下である。ここで、当該割り込んだ値が14.2以上である場合、素線がきつく撚られることがなく、素線にくせがついて後の加工がし難くなってしまう事態を防止することができる。一方、当該値が75.0以下である場合、素線間の接触抵抗が上昇し難くなることから、導体抵抗の変化率を抑えることができる。従って、軽量化を図りつつ抵抗値を安定させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電線によれば、軽量化を図りつつ抵抗値を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る電線を示す図である。
【図2】導体抵抗の変化率と、撚りピッチ/撚り外径との相関を示すグラフである。
【図3】本実施形態に係る電線の軽量化の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る電線を示す図である。同図に示す電線1は、高強度繊維11a上に金属メッキ11bを施した複数本の素線11を撚り合わせた導体部10と、導体部10を覆う被覆部20とから構成されている。
【0013】
ここで、高強度繊維11aとは、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、及びPBO繊維などである。金属メッキ11bは、例えば銅及びスズが該当する。このような高強度繊維11aと金属メッキ11bとからなる素線11は、繊維を用いているため、軽量化を図ることができる。
【0014】
また、本実施形態に係る電線1において、素線11の撚りピッチを撚り外径で割り込んだ値は14.2以上75.0以下である。ここで、当該割り込んだ値が14.2以上である場合、素線11がきつく撚られることがなく、素線11にくせがついて後の加工がし難くなってしまう事態を防止することができる。一方、当該値が75.0以下である場合、素線11間の接触抵抗が上昇し難くなることから、導体抵抗の変化率を抑えることができる。なお、撚りピッチとは、撚り線において良撚り線を構成する1本の素線が360度回転するのに要する距離である。撚り外径とは、複数本の素線を撚ってできた導体部10の外側の径をいう。
【0015】
図2は、導体抵抗の変化率と、撚りピッチ/撚り外径との相関を示すグラフである。まず、高強度繊維11aとしてはアラミド繊維、PBO繊維、及びポリアリレート繊維の3つを用い、これら繊維11aに銅メッキ処理を行って素線11を得た。そして、撚りピッチ/撚り外径が異なるように素線11を撚り込み、導体抵抗の変化率を測定した。
【0016】
なお、上記においてアラミド繊維としては、東レ・デュポン製 Kevlarのパラ系アラミド繊維を用いた。また、PBO繊維としては、東洋紡製ザイロンを用いた。さらに、ポリアリレート繊維としては、クラレ製ベクトランを用いた。
【0017】
図2に示すように、アラミド繊維に銅メッキを施した電線については、撚りピッチ/撚り外径の値が14.0であるとき導体抵抗の変化率が5.8%であり、撚りピッチ/撚り外径の値が72.5であるとき導体抵抗の変化率が9.8%である。特に、撚りピッチ/撚り外径の値が75.0であるとき導体抵抗の変化率が10%となる。また、撚りピッチ/撚り外径の値が143であるとき導体抵抗の変化率が14.6%であり、撚りピッチ/撚り外径の値が280であるとき導体抵抗の変化率が17.2%である。
【0018】
一方、撚りピッチ/撚り外径の値が小さすぎると、撚り癖による導体加工の限界値に達してしまう。このため、撚りピッチ/撚り外径の値は、限界値である14.2を下回ることはできない。従って、電線1の導体抵抗の変化率が10%以下を許容範囲とするならば、アラミド繊維を用いた電線1の撚りピッチ/撚り外径の値は、14.2以上75.0以下が好適となる。
【0019】
また、PBO繊維に銅メッキを施した電線については、撚りピッチ/撚り外径の値が14.0であるとき導体抵抗の変化率が5.4%であり、撚りピッチ/撚り外径の値が72.5であるとき導体抵抗の変化率が9.4%である。特に、撚りピッチ/撚り外径の値が81.3であるとき導体抵抗の変化率が10%となる。また、撚りピッチ/撚り外径の値が143であるとき導体抵抗の変化率が14.2%であり、撚りピッチ/撚り外径の値が280であるとき導体抵抗の変化率が16.8%である。
【0020】
また、電線1の撚りピッチ/撚り外径の値は、限界値である14.2を下回ることはできない。このため、電線1の導体抵抗の変化率が10%以下を許容範囲とした場合、PBO繊維を用いた電線1の撚りピッチ/撚り外径の値は、14.2以上81.3以下が好適となる。
【0021】
さらに、ポリアリレート繊維に銅メッキを施した電線については、撚りピッチ/撚り外径の値が14.0であるとき導体抵抗の変化率が4.4%であり、撚りピッチ/撚り外径の値が72.5であるとき導体抵抗の変化率が8.5%である。特に、撚りピッチ/撚り外径の値が94.6であるとき導体抵抗の変化率が10%となる。また、撚りピッチ/撚り外径の値が143であるとき導体抵抗の変化率が13.3%であり、撚りピッチ/撚り外径の値が280であるとき導体抵抗の変化率が16.2%である。
【0022】
また、電線1の撚りピッチ/撚り外径の値は、限界値である14.2を下回ることはできない。このため、電線1の導体抵抗の変化率が10%以下を許容範囲とした場合、ポリアリレート繊維を用いた電線1の撚りピッチ/撚り外径の値は、14.2以上94.6以下が好適となる。
【0023】
以上から、素線11の撚りピッチを撚り外径で割り込んだ値が14.2以上75.0以下であることが好ましいことがわかった。
【0024】
図3は、本実施形態に係る電線1の軽量化の様子を示す図である。図3に示すように、純銅を素線とし、この素線を複数本撚り、撚り外径である導体断面積を0.35sqとした場合、導体部の重量は3.08g/mであった。
【0025】
一方、高強度繊維11aとしてパラ系アラミド繊維を用い、金属メッキ11bとして2μmの銅メッキを施して素線11を得て、この素線11を複数本撚り、撚り外径である導体断面積を0.35sqとした場合、導体部の重量は1.65g/mであった。このように、この例によると46%の軽量化が可能となった。
【0026】
このようにして、本実施形態に係る電線1によれば、高強度繊維11a上に金属メッキ11bを施した素線11を撚り合わせて導体部10とした電線1であるため、繊維による軽量を図ることができる。また、素線11の撚りピッチを撚り外径で割り込んだ値が14.2以上75.0以下である。ここで、当該割り込んだ値が14.2以上である場合、素線11がきつく撚られることがなく、素線11にくせがついて後の加工がし難くなってしまう事態を防止することができる。一方、当該値が75.0以下である場合、素線11間の接触抵抗が上昇し難くなることから、導体抵抗の変化率を抑えることができる。従って、軽量化を図りつつ抵抗値を安定させることができる。
【0027】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0028】
例えば、本実施形態に係る電線1は許容電流が純銅を導体部とする電線よりも小さい可能性があるため、微弱な電流を流す電線1として用いられてもよいし、可能であれば通常の電流を流す電線1として用いられてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1…電線
10…導体部
11…素線
11a…高強度繊維
11b…金属メッキ
20…被覆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度繊維上に金属メッキを施した素線を撚り合わせて導体部とした電線であって、
素線の撚りピッチを撚り外径で割り込んだ値が14.2以上75.0以下である
ことを特徴とする電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−104404(P2012−104404A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252673(P2010−252673)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】