説明

電荷輸送性化合物、電荷輸送性材料、電荷輸送性ワニス、電荷輸送性薄膜及び有機エレクトロルミネッセンス素子

高分子主鎖が芳香環又は複素環を有するアミノ基で置換されたフルオレン誘導体の9位で連結された重合体からなる電荷輸送性化合物、例えば、下記式(1)で示される化合物、を電荷輸送性薄膜中に用いることで、有機EL素子の低電圧化、高輝度化、超寿命化及び無欠陥化を図ることができる。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送性材料として有用な新規アミン化合物、これを用いた電荷輸送性有機材料、電荷輸送性ワニス、電荷輸送性薄膜及び有機エレクトロルミネッセンス(以下有機ELと略す)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子としては、例えば1987年イーストマンコダック社のTangらにより、10V以下の駆動電圧で1000cd/m2程度の特性を示す有機エレクトロルミネッセンス素子が報告された(例えば、非特許文献1参照)。
Tangらは、素子の発光効率を高めるため、電極と有機化合物の最適化を行い、正孔輸送層として芳香族アミン系化合物、電子輸送性発光層として8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0003】
正孔輸送性材料としては、芳香族ジアミン誘導体(例えば、特許文献1、2および3参照)、芳香族アミン含有高分子等(例えば、特許文献4および5参照)が知られている。具体例として、テトラフェニルビフェニルジアミン(TPD)、N−フェニルアルバゾール及び、4,4’−[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)が挙げられる。
【0004】
しかしながら、これらの材料は、ガラス転移温度が60℃〜95℃であり、素子駆動時のジュール熱等により結晶化してしまい、これが素子劣化を引き起こす原因となっている。このため、高いガラス転移温度を有し、安定な材料が必要とされている。
ガラス転移温度を高めるために高分子材料を使用する場合もあり、このような高分子材料としては、例えば、ポリビニルカルバゾール等の高分子材料が知られている。しかしながら、ポリビニルカルバゾール等の高分子材料を用いた素子においては、素子の駆動電圧が高い上、寿命特性が悪い等の問題がある。したがって、素子の駆動電圧の低下を図ることができるとともに、駆動寿命を改善し得る高分子材料が望まれている。
【0005】
【非特許文献1】アプライド・フィジックス・レターズ(Appl.Phys.Lett.),51巻,913頁,1987年
【特許文献1】特開平8−20771号公報
【特許文献2】特開平8−40995号公報
【特許文献3】特開平8−40997号公報
【特許文献4】特開平11−283750号公報
【特許文献5】特開2000−36390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、優れた電荷輸送性と高いガラス転移温度とを有する電荷輸送性化合物、及びその化合物を含有する電荷輸送性材料、電荷輸送性ワニス、電荷輸送性薄膜、並びにこの薄膜を備える有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、高分子主鎖が芳香環又は複素環を有するアミノ基で置換されたフルオレン誘導体の9位で連結された重合体からなる電荷輸送性化合物が、優れた電荷輸送性と高いガラス転移温度とを有することを見出すとともに、電荷輸送性薄膜として用いることによって、素子の低電圧駆動の向上及び長寿命化を可能にすることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記〔1〕〜〔13〕の発明を提供する。
〔1〕高分子主鎖が芳香環又は複素環を有するアミノ基で置換されたフルオレン誘導体の9位で連結された重合体からなる電荷輸送性化合物。
〔2〕数平均分子量が、1,000〜1,000,000である〔1〕の電荷輸送性化合物。
〔3〕前記重合体が、下記式(1)の構造である〔1〕又は〔2〕の電荷輸送性化合物。
【化1】

(式中、Ar1,Ar2,Ar3,及びAr4は、同一でも各々異なっても良い置換若しくは無置換の芳香環又は複素環を示し、Ar1とAr2及びAr3とAr4はそれぞれ結合し環を巻いていても良い。R1及びR2は、置換基を有していても良い2価の有機基を示し、R3は、両端に酸素原子若しくは窒素原子を有する、置換基を有していても良い2価の有機基を示す。)
〔4〕前記重合体が、下記式(2)の構造である〔1〕又は〔2〕の電荷輸送性化合物。
【化2】

(式中、Ar5,Ar6,Ar7,及びAr8は、同一でも各々異なっても良い置換若しくは無置換の芳香族環又は複素環基を示し、Ar1とAr2及びAr3とAr4はそれぞれ結合し環を巻いていても良い。R4は、置換基を有していても良い2価の有機基を示す。)
〔5〕〔1〕〜〔4〕のいずれかの電荷輸送性化合物及び電子受容性化合物を含有する電荷輸送性有機材料。
〔6〕前記電子受容性化合物が、下記式(3)で表わされる化合物を含有する〔5〕の電荷輸送性有機材料。
【化3】

(式中、Ar9,Ar10,及びAr11は、同一でも各々異なっても良い置換又は無置換の芳香族基を示し、R-はアニオン種を示す。)
〔7〕〔1〕〜〔4〕のいずれかの電荷輸送性化合物を含む電荷輸送性ワニス。
〔8〕〔7〕の電荷輸送性ワニスを用いて作製される電荷輸送性薄膜。
〔9〕〔8〕の電荷輸送性薄膜を備える有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔10〕前記電荷輸送性薄膜が、正孔輸送層である〔8〕の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔11〕前記電荷輸送性薄膜が、正孔注入層である〔8〕の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔12〕前記電荷輸送性薄膜が、電子輸送層である〔8〕の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔13〕前記電荷輸送性薄膜が、電子注入層である〔8〕の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低電圧化、高輝度化、超寿命化及び無欠陥化を図ることのできる有機エレクトロルミネッセンス素子が容易に得られる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、例えば、表示機器などのディスプレイなどとして好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す模式断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す模式断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0011】
1A,1B,1C 有機エレクトロルミネッセンス素子
2 基板
3 陽極
4 正孔輸送層
5 発光層
6 陰極
7 電子注入層
8 正孔注入層
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明に係る電荷輸送性化合物は、高分子主鎖が芳香環又は複素環を有するアミノ基で置換されたフルオレン誘導体の9位で連結された重合体である。ここで電荷輸送性とは、導電性と同義であり、正孔輸送性、電子輸送性、正孔及び電子の両電荷輸送性のいずれかを意味する。
【0013】
当該重合体の多くは、100℃以上のガラス転移温度を有し、有機EL素子の耐熱性が大きく改善される。本発明で用いる当該重合体のガラス転移温度は、特に120℃以上であることが望ましい。
さらに、上記重合体は、単一の繰り返し単位のみで構成される重合体であっても良いが、ガラス転移温度や、その他のEL特性を改善すべく、その他の繰り返し単位を含む共重合体であってもよい。なお、2種以上の上記重合体を混合して用いることもできる。
【0014】
上記重合体の数平均分子量としては、特に限定されるものではないが、溶剤への溶解性を考慮すると、1,000〜1,000,000、特に1,000〜100,000が好ましい。なお、数平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィーによる測定値である。
【0015】
上記重合体の具体的な構造としては、上記式(1)で表されるものが挙げられる。
式(1)において、Ar1,Ar2,Ar3,及びAr4 は、特に限定されないが、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、ビフェニル基等であり、これらは置換基を有していてもよい。
置換基としては、特に制限はないが、ハロゲン原子、メチル基,エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基等のアルケニル基、メトキシカルボニル基,エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、メトキシ基,エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基、フェノキシ基,ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基、ジエチルアミノ基,ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基が挙げられる。
1及びR2は、特に限定されないが、2価のベンゼン、アルカン、アラルカン等が挙げられる。
【0016】
3は、両端に酸素原子又は窒素原子を有する2価の有機基であれば特に限定されず、例えば、両端が、アルコキシ基、フェノキシ基、エステル基、アミド基、イミド基である2価の有機基が挙げられる。
式(1)で示される化合物の具体例として式(4)〜(9)の化合物を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
【化6】

【0020】
【化7】

【0021】
【化8】

【0022】
【化9】

【0023】
上記式(1)で表される重合体は、例えば、下記の式(10)で表されるモノマーから合成できる。すなわち、下記式(10)のモノマーと有機ハロゲン化合物とを反応させることにより、上記式(1)の重合体を得ることができる。
なお、式(10)において、Ar1,Ar2,Ar3,Ar4,R1及びR2の置換基の具体例は、先に述べたものと同様のものが挙げられる。
【0024】
【化10】

(式中、Ar1,Ar2,Ar3, 及びAr4 は、同一でも各々異なっても良い置換若しくは無置換の芳香環又は複素環を示し、Ar1とAr2及びAr3とAr4はそれぞれ結合し環を巻いていても良い。R1及びR2は、置換基を有していても良い2価の有機基を示し、Xは、水酸基又はアミノ基を示す。)
【0025】
また、上記重合体としては、上記式(2)で表される構造ものを挙げることもできる。
式(2)におけるAr1,Ar2,Ar3及びAr4の置換基の具体例は、先に述べたものが挙げられる。R2は、特に限定されないが、2価のアルカン等が挙げられる。
上記式(2)で示される化合物の具体例として式(11)〜(12)の化合物を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0026】
【化11】

【0027】
【化12】

【0028】
上記式(2)で表される重合体は、例えば、以下の原料及び反応式に従って合成することができる。
【0029】
【化13】

【0030】
本発明の電荷輸送性有機材料は、上述の電荷輸送性化合物(重合体)及び電子受容性化合物を含有するものである。
ここで、電子受容性化合物としては特に限定されないが、上記式(3)で表される化合物が好ましい。式(3)で表される化合物は、単独で用いてもよく、二種類以上併用してもよい。
【0031】
上記式(3)において、Ar1〜Ar3は、置換基を有していてもよい芳香族基を示す。芳香族基としては、フェニル基、ビフェニル基、トリフェニル基、テトラフェニル基、3−ニトロフェニル基、4−メチルチオフェニル基、3,5−ジシアノフェニル基、o−,m−及びp-トリル基、キシリル基、o−,m−及びp−クメニル基等が挙げられる。
【0032】
式(3)のカルベニウムカチオンと対をなす、R-で示されるアニオン種としては,SbX6-、PX6-、TaX6-、ClO4-、ReO4-、BX4-、AsX6-及びAlX6-等が挙げられる。これらアニオン種の中で、好ましいのはSbX6-である(Xはハロゲン原子を表す。)。ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、好ましくはフッ素原子又は塩素原子である。
式(3)で表される化合物の具体例を以下の表1〜5に示すが、これらに限定されるものではない。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
本発明に係る電荷輸送性ワニスは、上記電荷輸送性化合物(重合体)と、溶剤とを含むものであり、具体的には、電荷輸送機構の本体である上記電荷輸送性化合物(重合体)と溶剤との2種の組み合わせを含むもの、又は電荷輸送性化合物と、電荷輸送性物質の電荷輸送能を向上させる電荷受容性ドーパント物質と、溶剤との3種の組み合わせを含むものであり、これらは溶剤によって完全に溶解しているか、均一に分散している。なお、電荷輸送性ワニスは、そのもの自体に電荷輸送性があるものでもよく、ワニスから得られる固体膜に電荷輸送性があるものでもよい。
【0039】
電荷受容性ドーパント物質としては、高い電荷受容性を持つことが望ましく、溶解性に関しては少なくとも一種の溶剤に溶解するものであれば特に限定されない。
電子受容性ドーパント物質の具体例としては、上記式(3)で示される化合物、塩化水素、硫酸、硝酸及びリン酸等の無機強酸;塩化アルミニウム(III)(AlCl3)、四塩化チタン(IV)(TiCl4)、三臭化ホウ素(BBr3)、三フッ化ホウ素エーテル錯体(BF3・OEt2)、塩化鉄(III)(FeCl3)、塩化銅(II)(CuCl2)、五塩化アンチモン(V)(SbCl5)、五フッ化砒素(V)(AsF5)、五フッ化リン(PF5)、トリス(4−ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモナート(TBPAH)等のルイス酸;ベンゼンスルホン酸、トシル酸、カンファスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、5−スルホサリチル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、1,4−ベンゾジオキサンジスルホン酸誘導体、ジノニルナフタレンスルホン酸誘導体等の有機強酸;7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(DDQ)、ヨウ素等の有機又は無機酸化剤を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。中でも、耐熱性に優れていることから、上記式(3)で示される化合物が好適である。
【0040】
正孔受容性ドーパント物質の具体例としては、アルカリ金属(Li,Na,K,Cs)、リチウムキノリノラート(Liq)、リチウムアセチルアセトナート(Li(acac))等の金属錯体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
溶剤としては、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、テトラクロロエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルフォルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルコキシアルコール等の極性溶媒が用いられる。
これら溶剤の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、電荷輸送性化合物に対して30〜99質量%程度である。
【0041】
また、上記溶剤の他に、基板への濡れ性の向上、溶剤の表面張力の調整、極性の調整、沸点の調整等の目的で、焼成時に膜の平坦性を付与する溶剤を、該ワニスに使用する溶剤全体に対して1〜90質量%、好ましくは1〜50質量%の割合で混合しても良い。
このような溶剤の具体例としては、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルカルビトール、ジアセトンアルコール、γ−ブチロラクトン、乳酸エチル等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
上記電荷輸送性ワニスを基材上または他の層上に塗布し、溶剤を蒸発させることにより電荷輸送性薄膜を形成させることができる。
塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法等が挙げられる。
溶剤の蒸発法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ホットプレートやオーブンを用いて、適切な雰囲気下、即ち大気、窒素等の不活性ガス、真空中等で蒸発を行い、均一な成膜面を得ることが可能である。
【0043】
焼成温度は、溶剤を蒸発させることができれば特に限定されないが、40〜250℃で行うことが好ましい。この場合、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよい。
塗布及び蒸発操作によって得られる電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されないが、5〜200nmであることが望ましい。膜厚を変化させる方法としては、ワニス中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の溶液量を変化させたりする等の方法がある。
【0044】
このようにして得られた電荷輸送性薄膜からなる層は、有機EL素子中で、例えば、電子注入層、電子輸送層、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも1層として用いることができ、特に、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも1層として用いることが好ましい。
【0045】
以下、図面を参照して本発明の有機EL素子の実施の形態を詳細に説明する。但し、以下で説明する素子構造の各模式図は一例であり、これらに限定されるものではなく、各部材を構成する具体的な材料や、形状・構造等は、下記説明のものに限定されず、本発明の目的を達成できる限りにおいて、適宜変更することができる。
[第1実施形態]
図1には、本発明の第1実施形態に係る有機EL素子1Aが示されている。
この有機EL素子1Aは、基板2上に、陽極3、正孔輸送層4、発光層5及び陰極6がこの順に積層されてなるものであり、一対の電極3,6に挟み込まれた有機化合物層は、正孔輸送層4及び発光層5で構成されている。
【0046】
正孔輸送層4には、上述した式(1)で表される電荷輸送性化合物が含まれている。このように式(1)で示される化合物を正孔輸送層4中に用いることで、発光層5への正孔注入効率が向上し、低電圧で有機EL素子1Aを発光させることが可能となる。
発光層5は、例えば、芳香族アミンからなる化合物、レーザー色素誘導体であるクマリン系化合物、ペリレン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン誘導体、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニム金属錯体等の材料から構成される。
基板2は、例えば、ガラスやプラスチックフィルム等の透明絶縁性材料で構成される。
【0047】
陽極4は、通常、表面抵抗1〜50Ω/□、可視光線透過率80%以上の透明電極である。具体例としては、(1)インジウム−スズ−酸化物(ITO)や、酸化亜鉛アルミニウムの非晶質又は微結晶透明電極膜、(2)低抵抗化のため10nm程度の厚さの銀、クロム、銅、又は銀と銅との合金を、ITO、酸化チタン、酸化錫等の非晶質または微結晶透明電極膜で挟んだ構造の膜、を真空蒸着やスパッタリング法等で基板2上に形成してなる透明電極が挙げられる。その他、金やプラチナを薄く蒸着した半透明電極やポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の高分子を被膜した半透明電極を用いることもできる。
陰極6は、仕事関数の小さい金属、合金、電気導電性化合物及びこれらの混合物、例えば、Na、K、Mg、Li、In等の材料から構成される。なお、陰極6は、真空蒸着法、スパッタリング法などにより形成される。
【0048】
[第2実施形態]
以下の説明においては、上記第1実施形態と同一の部材については、同一符号を付すのみで、その説明を省略する。
図2には、本発明の第2実施形態に係る有機EL素子1Bが示されている。
この有機EL素子1Bは、基板2上に、陽極3、正孔輸送層4、発光層5、電子注入層7及び陰極6がこの順に積層されてなるものであり、一対の電極3,6に挟み込まれた有機化合物層は、正孔輸送層4、発光層5及び電子注入層7で構成されている。
【0049】
本実施形態においては、正孔輸送層4に加え、電子注入層7にも上述した式(1)で示される電荷輸送性化合物が含まれている。このように式(1)で示される化合物を、さらに電子注入層7中に用いることで、発光層5への電子注入効率が向上し、低電圧で有機EL素子1Bを発光させることが可能となる。
なお、本実施形態においては、正孔輸送層及び電子注入層のいずれか一方に、上記式(1)の電荷輸送性化合物が含まれていてもよい。
【0050】
[第3実施形態]
以下の説明においては、上記第1実施形態と同一の部材については、同一符号を付すのみで、その説明を省略する。
図3には、本発明の第3実施形態に係る有機EL素子1Cが示されている。
この有機EL素子1Cは、基板2上に、陽極3、正孔注入層8、正孔輸送層4、発光層5及び陰極6がこの順に積層されてなるものであり、一対の電極3,6に挟み込まれた有機化合物層は、正孔注入層8、正孔輸送層4及び発光層5で構成されている。
【0051】
本実施形態においては、正孔輸送層4に加え、正孔注入層8にも上述した式(1)で示される電荷輸送性化合物が含まれている。このように式(1)で示される化合物を、さらに正孔注入層8中に用いることで、発光層5への正孔注入効率がより一層向上し、低電圧で有機EL素子1Cを発光させることが可能となる。
なお、本実施形態においては、正孔注入層及び正孔輸送層のいずれか一方に、上記式(1)の電荷輸送性化合物が含まれていてもよい。
【実施例】
【0052】
次に、合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものでない。
【0053】
[合成例1]
500mlの三口フラスコに、窒素雰囲気下、室温中で酢酸パラジウム(0.081g;0.36mmol)とn−tert−ブチルホスフィン(0.44g;2.17mmol)をキシレン溶液中(300ml)で5分間撹拌した。その後、2,7−ジブロモフルオレン(4.7g;14.5mmol)を加え、5分間撹拌した後、ジフェニルアミン(5g;29mmol)と、ナトリウムブトキシド(2.78g;29mmol)を加えた。100℃に昇温し、24時間反応させた後、クロロホルムで抽出し、水で5回洗浄した。無水硫酸マグネシウムで脱水した後、溶媒を除去して粗生成物を得た。カラムクロマトグラフィー法(クロロホルム/n−ヘキサン)により精製し、下記目的物(a)を得た。
【0054】
【化14】

【0055】
300mlのナスフラスコに、化合物(a)(1g;2mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBABr;0.064g;0.2mmol)、α−クロロ−4−メトキシトルエン(0.624g;4mmol)、トルエン(100ml)、NaOH(25g)、及び水(50g)を加え、窒素雰囲気下、100℃で24時間反応させた。
分液ロートにより、水で5回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水した後、溶媒を除去し、粗生成物を得た。カラムクロマトグラフィー法(クロロホルム/n−ヘキサン)により精製し、下記目的物(b)(0.87g;1mmol)を得た。
【0056】
【化15】

【0057】
300mlの三口フラスコ中に化合物(b)(1g;1mmol)を加え、ジクロロメタン(100ml)に溶解し、窒素雰囲気下、アイスバスにより−78℃で冷却した。続いて、三臭化ホウ素(BBr3;0.5g;2mmol)を溶解させたジクロロメタン溶液10mlをゆっくり滴下した。滴下後5時間かけて室温まで昇温し、さらに10時間程度撹拌した後、水を滴下し、反応を終了させた。ジクロロメタン層を分液ロートで抽出し、これを水で5回洗浄した。無水硫酸マグネシウムで脱水した後、溶媒を除去し、粗生成物を得た。カラムクロマトグラフィー法(クロロホルム;n−ヘキサン)より精製し、下記目的物(c)(0.8g;0.8mmol)を得た。
【0058】
【化16】

【0059】
化合物(c)(1g;1.4mmol)と、4−フルオロフェニルスルホン(0.35g;1.4mmol)と炭酸カリウム(0.38g;2.8mmol)とをテトラヒドロフラン(THF)50mlに溶解し、窒素雰囲気下、130℃で24時間反応させた。反応終了後、良溶媒THF、貧溶媒メタノールを用いて再沈精製を3回繰り返し、目的の重合体(4)を得た(数平均分子量;23,000)。
【0060】
【化17】

【0061】
[比較例1]
下記式で表されるポリビニルカルバゾール(関東化学(株)製)をITOガラス基板2上へ以下の条件でスピンコートにより塗布し、正孔輸送層を形成した。
【0062】
【化18】

【0063】
(スピンコート条件)
溶媒;クロロホルム
濃度;0.01g/ml
スピナー回転数;3100rpm
スピンコート時間;5sec
【0064】
次に、正孔輸送性層の上に、発光材料である市販のトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニム(Alq3)(昇華精製品)を、真空蒸着装置の真空度8×10-4Pa以下に保ち、蒸着速度0.3nm/Sで50nmの厚さに成膜し、発光層5を形成した。
【0065】
【化19】

【0066】
さらに、発光層5上に、電子注入材料であるリチウムフロライド(LiF)を、真空蒸着装置の真空度8×10-4Pa以下に保ち、蒸着速度0.01nm/Sで0.5nmの厚さに成膜し、電子注入層7を形成した。
最後に、陰極電極材料であるアルミニウムを、真空蒸着装置の真空度8×10-4Pa以下に保ち、蒸着速度0.2nm/Sで100nmの厚みで成膜し、電子注入層7上に陰極6を成形して有機EL素子を作製した。この素子特性を表6に示す。
【0067】
[実施例1]
合成例1で得られた式(4)で表される重合体を、ITOガラス基板2上へ以下の条件でスピンコートにより塗布し、正孔輸送層4を形成した。
【0068】
(スピンコート条件)
溶媒;クロロホルム
濃度;0.01g/ml
スピナー回転数;3100rpm
スピンコート時間;5sec
【0069】
塗布後、比較例1と同様の方法で発光層5、電子注入層7及び陰極6を成膜し、有機EL素子1Bを作製した。この素子特性を表6に併せて示す。なお、表6における各特性は、電圧発生器(DCボルテージカレントソースR6145、アドバンテスト製)、輝度系(BM−8、トプコン製)を用いて測定した。
【0070】
【表6】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子主鎖が芳香環又は複素環を有するアミノ基で置換されたフルオレン誘導体の9位で連結された重合体からなる電荷輸送性化合物。
【請求項2】
数平均分子量が、1,000〜1,000,000である請求項1記載の電荷輸送性化合物。
【請求項3】
前記重合体が、下記式(1)の構造である請求項1又は2記載の電荷輸送性化合物。
【化1】

(式中、Ar1,Ar2,Ar3,及びAr4は、同一でも各々異なっても良い置換若しくは無置換の芳香環又は複素環を示し、Ar1とAr2及びAr3とAr4はそれぞれ結合し環を巻いていても良い。R1及びR2は、置換基を有していても良い2価の有機基を示し、R3は、両端に酸素原子若しくは窒素原子を有する、置換基を有していても良い2価の有機基を示す。)
【請求項4】
前記重合体が、下記式(2)の構造である請求項1又は2記載の電荷輸送性化合物。
【化2】

(式中、Ar5,Ar6,Ar7,及びAr8は、同一でも各々異なっても良い置換若しくは無置換の芳香族環又は複素環基を示し、Ar1とAr2及びAr3とAr4はそれぞれ結合し環を巻いていても良い。R4は、置換基を有していても良い2価の有機基を示す。)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電荷輸送性化合物及び電子受容性化合物を含有する電荷輸送性有機材料。
【請求項6】
前記電子受容性化合物が、下記式(3)で表わされる化合物を含有する請求項5に記載の電荷輸送性有機材料。
【化3】

(式中、Ar9,Ar10,及びAr11は、同一でも各々異なっても良い置換又は無置換の芳香族基を示し、R-はアニオン種を示す。)
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項記載の電荷輸送性化合物を含む電荷輸送性ワニス。
【請求項8】
請求項7に記載の電荷輸送性ワニスを用いて作製される電荷輸送性薄膜。
【請求項9】
請求項8に記載の電荷輸送性薄膜を備える有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記電荷輸送性薄膜が、正孔輸送層である請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記電荷輸送性薄膜が、正孔注入層である請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記電荷輸送性薄膜が、電子輸送層である請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記電荷輸送性薄膜が、電子注入層である請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/042621
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515166(P2005−515166)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016094
【国際出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】