電荷輸送性有機薄膜および有機エレクトロルミネッセンス素子
【課題】優れた電荷輸送性を有する電荷輸送性有機薄膜、および該電荷輸送性有機薄膜を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子の提供。
【解決手段】本発明の電荷輸送性有機薄膜は、基材上に形成され、互いに平行でない複数のπ電子共役構造面を有する電荷輸送性のπ共役化合物を含んでなる電荷輸送性の非晶質薄膜であって、前記π共役化合物が電子輸送性である場合は最低非占有分子軌道(LUMO)が主に分布しているπ電子共役構造面を、前記π共役化合物が正孔輸送性である場合は最高占有分子軌道(HOMO)が主に分布しているπ電子共役構造面を、それぞれ第1のπ電子共役構造面としたとき、前記第1のπ電子共役構造面が前記基材の表面に対して実質的に平行に配向していることを特徴とする。
【解決手段】本発明の電荷輸送性有機薄膜は、基材上に形成され、互いに平行でない複数のπ電子共役構造面を有する電荷輸送性のπ共役化合物を含んでなる電荷輸送性の非晶質薄膜であって、前記π共役化合物が電子輸送性である場合は最低非占有分子軌道(LUMO)が主に分布しているπ電子共役構造面を、前記π共役化合物が正孔輸送性である場合は最高占有分子軌道(HOMO)が主に分布しているπ電子共役構造面を、それぞれ第1のπ電子共役構造面としたとき、前記第1のπ電子共役構造面が前記基材の表面に対して実質的に平行に配向していることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送性有機薄膜および有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化に伴い、フラットパネルディスプレイのニーズが高まっている。フラットパネルディスプレイとしては、非自発光型の液晶ディスプレイ(LCD)、自発光型のプラズマディスプレイ(PDP)、無機エレクトロルミネセンス(無機EL)ディスプレイ、有機エレクトロルミネセンス(有機EL)ディスプレイ等が知られているが、これらのフラットパネルディスプレイの中でも、有機ELディスプレイは、自発光の点で特に注目されている。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略称することがある。)としては、1960年代にアントラセン単結晶などの有機固体でのキャリア注入型EL素子が詳しく研究されていた。これらの素子は単層型のものであったが、その後、Tang等は一対の電極間に発光層と正孔輸送層を有する積層型有機EL素子を提案した。これらの注入型EL素子の発光メカニズムは、[1]陰極からの電子注入と陽極からの正孔注入、[2]電子と正孔の固体中の移動、[3]電子と正孔の再結合、[4]生成された一重項励起子からの発光、という段階を経る点で共通する。
【0004】
積層型有機EL素子の代表例としては、陽極としてガラス基板上にITO(IndiumTin Oxide)膜を形成し、その上にTPD(N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン)を約50nmの厚さで形成し、その上部にAlq3(トリス(8−キノラリト)アルミニウム)を約50nmの厚さで形成し、さらに陰極としてAl、Li合金を蒸着することで素子を構成する例が挙げられる。
陽極に用いるITOの仕事関数を4.4〜5.0eVとすることで、TPDに対して正孔を注入し易くし、陰極には仕事関数のできるだけ小さな金属で安定なものを選ぶ。例えば、AlとLiの合金やMgとAgの合金などである。この構成によると、例えば、5V〜10Vの直流電圧の印加により緑色の発光が得られる。
【0005】
また、キャリア輸送層として導電性液晶を用いた例も知られている。例えば、非特許文献1には、長鎖トリフェニレン系化合物である、ディスコティック液晶の液晶相(Dh相)の移動度が10−3〜10−2cm2/Vsecであり、メゾフェーズ(中間相、液晶相ではない)での移動度が10-1cm2/Vsecであることが開示されている。さらに、非特許文献2には、棒状液晶においても、フェニルナフタレン系のスメクチックB相における移動度が10−3cm2/Vsec以上であることが開示されている。
上記したような従来の有機EL素子では、有機化合物層の厚さは2層或いは3層の膜厚総計で50〜500nm前後である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−330018号公報
【特許文献2】特開2001−167887号公報
【特許文献3】特開2001−167888号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature,Vol.371,p.141
【非特許文献2】半那純一、応用物理、第68巻、第1号、p.26,
【非特許文献3】Organic Electronics,10,2009,127−137
【非特許文献4】Applied Physics Letters,93,2008,173302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の有機EL素子は、厚さが100nm前後の薄層に100MV/cm程度の高電圧を印加するため、電極間ショートが起こりやすいという問題があった。この問題は、有機層各層の膜厚を厚くする、あるいは、有機層を多層にすることで多少軽減されるが、生産性が低下する、さらに駆動電圧が上昇するといった問題が生じる。100MV/cm程度の電界を印加する理由は、有機層のキャリア移動度が小さいためであり、高移動度の有機層を形成できれば印加電界を低減することができる。現在、一般に有機EL素子に用いられているキャリア輸送層の移動度は10−5〜10−3cm2/Vsecであり、アモルファス材料でも10−3cm2/Vsec程度が限界といわれている。
そのため、高移動度を有する導電性液晶化合物を用いた新しいキャリア輸送層や発光層が期待されている。例えば、キャリア輸送性の高い導電性液晶としては、ディスコティック液晶や高い秩序度を有するスメクチック液晶が挙げられる。
【0009】
このような問題点を解決するために、強電界条件下で低分子有機材料をスピンコート製膜することによる分子配向方向が制御された有機非晶質薄膜の製造が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1では、得られる有機薄膜の分子配向状態に関する情報が開示されておらず、その得られた薄膜が与える特性としては2次の非線形光学効果が明らかにされているのみであった。また、有機EL素子において、そのキャリア輸送層に導電性液晶化合物を用いることによる配向制御された薄膜を用いる試みもなされているが(特許文献2、3参照)、非晶質薄膜を得る方法は開示されておらず、また、有機EL素子としての特性も十分ではなかった。最近、π共役材料としてスチリル系化合物の蒸着製膜を行った場合、基板に対して水平方向の配向が優先することが報告されたが、水平配向が優先することによる電荷輸送特性の変化や、水平配向が優先することを利用した具体的な有機半導体素子については示されていない(非特許文献3、4参照)。
【0010】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、優れた電荷輸送性を有する電荷輸送性有機薄膜、および該電荷輸送性有機薄膜を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため、電荷輸送性の有機薄膜を構成するπ共役化合物の最高占有分子軌道(HOMO)および最低非占有分子軌道(LUMO)に着目し、鋭意研究を重ねた。その結果、有機層のπ共役化合物において、HOMOまたはLUMOが主に分布しているπ電子共役面の配向を制御することにより、有機層の電荷輸送性を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成を採用した。
【0012】
本発明の電荷輸送性有機薄膜は、基材上に形成され、互いに平行でない複数のπ電子共役構造面を有する電荷輸送性のπ共役化合物を含んでなる電荷輸送性の非晶質薄膜であって、前記π共役化合物が電子輸送性である場合は最低非占有分子軌道(LUMO)が主に分布しているπ電子共役構造面を、前記π共役化合物が正孔輸送性である場合は最高占有分子軌道(HOMO)が主に分布しているπ電子共役構造面を、それぞれ第1のπ電子共役構造面としたとき、前記第1のπ電子共役構造面が前記基材の表面に対して実質的に平行に配向していることを特徴とする。
【0013】
本発明の電荷輸送性有機薄膜は、前記HOMOおよび前記LUMOが、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法により導出されることが好ましい。
本発明の電荷輸送性有機薄膜は、前記第1のπ電子共役構造面に平行な遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることができる。
本発明の電荷輸送性有機薄膜は、前記第1のπ電子共役構造面が長軸および短軸を有し、前記第1のπ電子共役構造面の長軸方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることもできる。
本発明の電荷輸送性有機薄膜は、前記第1のπ共役構造面が、前記π共役化合物において最も面積の広いπ電子共役構造面であることもできる。
【0014】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光材料を含む少なくとも1層の有機層が2枚の対向する電極間に配置された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機層が、上記本発明の電荷輸送性有機薄膜を含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた電荷輸送性を有する電荷輸送性有機薄膜、および該電荷輸送性有機薄膜を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の電荷輸送性有機薄膜を適用した素子の一例を示す模式図である。
【図2】図2(a)はMADNの安定構造を示し、図2(c)はMADNのHOMOの分子軌道を示し、図2(c)はMADNのLUMOの分子軌道を示す。
【図3】本発明に係る有機EL素子の一実施形態を示す概略模式図である。
【図4】図4(a)はα−NPDの安定構造であり、図4(b)はα−NPDのHOMOの分子軌道である。
【図5】図5(a)はTcTaの安定構造であり、図5(b)はTcTaのHOMOの分子軌道である。
【図6】図6(a)はBCPの安定構造であり、図6(b)はBCPのLUMOの分子軌道である。
【図7】図7(a)はmCPの安定構造であり、図7(b)はmCPのHOMOの分子軌道である。
【図8】図8(a)は比較例1の素子1の解析結果を示すグラフであり、図8(b)は実施例1の素子2の解析結果を示すグラフである。
【図9】比較例1の素子1及び実施例1の素子2の電流−電圧(I−V)特性測定結果を示すグラフである。
【図10】検討例1の電流−電圧(I−V)特性測定結果を示すグラフである。
【図11】検討例2の配向パラメータSおよび2V印加時の電流密度を示すグラフである。
【図12】検討例3の配向パラメータSを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る電荷輸送性有機薄膜、及びこれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の一実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0018】
本実施形態の電荷輸送性有機薄膜は、分子構造中に互いに平行でない複数のπ電子共役構造面を有する電荷輸送性のπ共役化合物を含んでなる電荷輸送性の非晶質薄膜である。ここで、「電荷輸送性」とは、電子輸送性または正孔輸送性であることを表す。
【0019】
従来より、電荷輸送性の有機薄膜において、有機薄膜を構成するπ共役化合物を電極等の基材の平面に対して平行に配向させる技術が開示されている。しかし、π共役化合物の分子構造によっては、分子構造中の全てのπ電子共役構造面が同一平面上にない場合がある。
【0020】
本発明者らが、互いに平行でない複数のπ電子共役構造面を有するπ共役化合物を含む電荷輸送性の非晶質薄膜について鋭意研究を行ったところ、π共役化合物のπ電子軌道のうち、最高占有分子軌道(HOMO)または最低非占有分子軌道(LUMO)の分布を考慮して薄膜中のπ共役化合物の配向を制御することが電荷輸送性の向上には重要であることを見出した。電荷(電子、正孔)移動の起こり易さは、薄膜中の導電方向における電荷移動に関与するπ軌道の重なりが重要である。そのため、従来技術のように、分子中のいずれかのπ電子共役構造面を電極等の基材表面に対して平行に配向させるだけでは、必ずしも電荷輸送性が向上しない場合があることが判明した。
【0021】
図1に本実施形態の電荷輸送性有機薄膜を適用した素子の一例を模式的に示す。図1に示す素子10は、一対の電極1、2間に本実施形態の電荷輸送性有機薄膜5(以下、「有機薄膜5」と略称することがある。)が狭持されて構成されている。有機薄膜5の膜厚は、特に限定されず、例えば、10〜100nmの範囲とされる。
本実施形態の有機薄膜5において、有機薄膜5を構成するπ共役化合物は、その分子構造中の複数のπ電子共役構造面のうち、HOMOあるいはLUMOが主に分布しているπ電子共役構造面(第1のπ電子共役構造面)が、基材である電極1(または電極2)の表面に対して実質的に平行に配向している。
【0022】
ここで、本実施形態において有機薄膜5が形成される基材とは、その表面が平坦である結晶性又は非晶質性の板状の基材(基板)を用いることができる。例えば、結晶性基板としては、シリコン、サファイア等による単結晶基板や、その表面に有機または無機薄膜を成膜した基板、ガラス基板上にITO(Indium Tin Oxide)のような無機導電性酸化物の電極を成膜した基板、または電極等が挙げられる。
本実施形態の有機薄膜5を構成するπ共役化合物が有するπ電子共役構造面としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントロリン環、ベンゾフラン環、ベンゾジフラン環、トリアジン環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、オキサジアゾール環、カルバゾール環等が挙げられる。
また、本実施形態において、π電子共役構造面(第1のπ電子共役構造面)が基材の表面に対して実質的に平行に配向とは、該π電子共役構造面が基材表面に完全に平行な場合は勿論のこと、該π電子共役構造面と基材表面とがなす角度が45°未満になるように配向している状態を示す。
【0023】
本実施形態の有機薄膜5において、有機薄膜5を構成するπ共役化合物が電子輸送性である場合、電子移動に関与する軌道であるLUMOが主に分布しているπ電子共役構造面が基材である電極1の表面に対して実質的に平行となるように配向している。これにより、有機薄膜5の膜厚方向(導電方向)に隣接するπ共役化合物のLUMOに相当するπ電子軌道の重なりが大きくなり、電極1、2に挟まれた有機薄膜5の膜厚方向の電子輸送性が向上する。
また、本実施形態の有機薄膜5において、有機薄膜5を構成するπ共役化合物が正孔輸送性である場合、正孔移動に関与する軌道であるHOMOが主に分布しているπ電子共役構造面が基材である電極1の表面に対して実質的に平行となるように配向している。これにより、有機薄膜5の膜厚方向(導電方向)に隣接するπ共役化合物のHOMOに相当するπ電子軌道の重なりが大きくなり、電極1、2に挟まれた有機薄膜5の膜厚方向の正孔輸送性が向上する。
【0024】
このように高い電荷輸送性を有する本実施形態の有機薄膜5を用いて後述する有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略称することがある。)を構成するならば、電極から有機層(有機薄膜)への電荷の注入効率が向上するので、有機EL素子の駆動電圧を低電圧化できる。
【0025】
有機薄膜5を構成するπ共役化合物のHOMOおよびLUMOの分布は、非経験的分子軌道法により算出することができる。非経験的分子軌道法を用いたHOMOおよびLUMO算出は、汎用の量子化学計算ソフトを用いて行うことができ、例えば、米国Gaussian社製のGaussianシリーズ、Schrodinger社製のMarcoModel、Wavefunction社製のSpartan、アドバンスソフト社製のABINIT-MP/BioStation等が挙げられ、Gaussian09(Gaussian09W、Gaussian09M)が好適である。
Gaussian09Wを用いてπ共役化合物のHOMOまたはLUMOの分布を計算する場合、まず、チェックポイントファイルの指定、分子モデルの初期座標、計算方法と基底関数、電荷とスピン多重度を入力してインプットファイルを作成し、計算を実行することにより最適構造化を行い、π共役化合物の安定構造を計算する。次いで、得られた安定構造に対して分子軌道を表示することにより、π共役化合物のHOMOまたはLUMOの分布を可視化することができる。なお、インプットファイルの作成・実行の際の計算方法には、Hartree-Fock法、密度汎関数法(DFT)、MP(Moller Plesset perturbation theory)法、CC(Coupled Cluster theory)法を選択できる。本明細書において後述するGaussian09Wによる計算は、DFT法を用いて行った。また、Gaussian09Wでは安定構造の計算と同時にHOMO、LUMOも計算されており、GaussianViewによりHOMO、LUMOの分布を可視化できる。
【0026】
例えば、両極性電荷輸送性を示す有機材料として注目されている2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)の分子構造を以下に示す。
【0027】
【化1】
【0028】
MADNはアントラセンの両側(9位と10位)にナフタレンが結合した構造である。
MADNについて、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31G(d)により計算したMADNの安定構造を図2(a)に示す。また、この安定構造に対してMADNのHOMOの分子軌道を可視化したものを 図2(b)に、LUMOの分子軌道を可視化したものを図2(c)に示す。
図2に示すように、MADNのHOMOおよびLUMOの分子軌道はアントラセン環にあり、ナフタレン環にはほとんど存在しない。
MADNは両極性電荷輸送性であるが、後述の如く有機EL素子の電極間に配置される有機層の一層としてMADNを適用するには、MADN膜を電荷輸送性または正孔輸送性の層として機能させるいずれの場合にも、HOMOおよびLUMOが主に分布しているアントラセン環が、基材である電極表面に対して実質的に水平方向に配向するように膜中のMADNの配向を制御することにより、MADN膜の電荷輸送性を向上させることができ、当該有機EL素子の駆動電圧を低電圧化できる。
【0029】
有機薄膜5中のπ共役化合物の配向を上記の如く制御する方法としては、有機薄膜5の成膜後に熱処理を施す方法、有機薄膜5の成膜中の加熱、磁場あるいは電場の印加等により配向性を生じさせる方法が挙げられる。
一例として、MADN膜の場合は、後述の実施例に示す如く、成膜後のMADN膜を140℃で熱処理する、又はMADN膜の成膜時の基材(基板あるいは電極の成膜面)の温度を60℃以上にする、ことによりMADNのアントラセン環が実質的に基材表面に対して水平方向に配向したMADN膜を成膜できる。
【0030】
上述の如く本実施形態に有機薄膜5は、π共役化合物の複数のπ電子共役構造面のうち、電荷移動に関与する分子軌道(π共役化合物が正孔輸送性の場合はHOMO、電子輸送性の場合はLUMO)が主に分布するπ電子共役構造面が、基材表面に対して実質的に水平に配向して構成されている。ここで、「HOMOまたはLUMOが主に分布しているπ電子共役構造面」とは、π共役化合物の複数のπ電子共役構造平面の中で、HOMOまたはLUMOの分布割合が最も多いπ電子共役構造面を示す。なお、本実施形態の有機薄膜5を構成可能なπ共役化合物の中には、後述の如く、複数のπ電子共役構造面に満遍なくHOMOまたはLUMOが分布している場合もある。その場合は、最も面積の大きいπ電子共役構造面を基材表面に対して実質的に水平に配向させることが好ましく、これにより、有機薄膜5の電荷輸送性を向上できる。
【0031】
本実施形態の有機薄膜5において、π共役化合物の複数のπ電子共役構造面のうち、HOMOまたはLUMOが主に分布するπ電子共役構造面(第1のπ電子共役構造面)に平行な遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲であることが好ましい。有機薄膜Sの配向パラメータSが前記範囲であることにより、第1のπ電子共役構造面が基材表面に対して水平方向に近くなり、有機薄膜5の電荷輸送性が良好となるので好ましい。後述の実施例で示す如く、第1のπ電子共役構造面が、他のπ電子共役構造面よりも、基材表面に対して水平方向に配向することにより、第1のπ電子共役構造面に平行な遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1以下となり、電荷輸送性が向上していることが確認されている。
【0032】
配向パラメータSは、分子の配向軸と、基材に対して垂直方向との角度をθ(°)とした時、以下の式(A)で表される(非特許文献4参照)。
【0033】
【数1】
【0034】
(式(A)中、kxyは基板に対して水平方向の消衰係数、kzは基板に対して垂直方向の消衰係数を表す。)
ここで、x及びyを、互いに直交し且つ光学的に等方的な二つの方向とし、これらの方向の消衰係数をkx及びkyとすると、kxy=kx=kyである。
式(A)において、kxyおよびkzは有機薄膜5の分光エリプソメトリ等の光学的評価により求めることができる。例えば、有機薄膜が光学的に異方性を有していない場合はS=0、有機薄膜中の分子配向方向が基材に対して完全に垂直方向の場合はS=1、有機薄膜中の分子配向方向が基材に対して完全に水平方向の場合はS=−0.5となる。そのため、本実施形態では、上記した配向パラメータSの好ましい範囲の下限値を−0.5と設定した。
【0035】
本実施形態の有機薄膜5において、式(A)におけるθの設定基準となる分子の配向軸を、HOMOまたはLUMOが主に分布するπ電子共役構造面(第1のπ電子共役構造面)に平行な遷移双極子モーメントの方向とする。ここで、有機薄膜5を構成するπ共役化合物のπ電子共役構造面に平行な方向を含む各方向の遷移双極子モーメントは、Gaussian09Wの時間依存密度汎関数法(TD-DFT)を用いた電子励起状態の計算結果から得ることができる。得られた計算結果に遷移双極子モーメントの向き、大きさ、波長が記載されているので、これらと実際に測定した有機薄膜5の消衰係数曲線のピークの波長と比較することにより、どの吸収ピークがどの方向の遷移双極子モーメントに由来するかを判定できる。
【0036】
本実施形態の有機薄膜5において、式(A)におけるθの設定基準となる分子の配向軸は、HOMOまたはLUMOが主に分布する第1のπ電子共役構造面に平行な遷移双極子モーメントの方向とされるが、上記したMADNのように第1のπ電子共役構造面が、アントラセン等の長軸および短軸を有する形状の場合は、第1のπ電子共役構造面の長軸方向を分子の配向軸として、配向パラメータSを設定することが好ましい。この場合の配向パラメータSも、上記同様、−0.1〜−0.5の範囲とすることが好ましい。
【0037】
また、本実施形態の有機薄膜5において、第1のπ電子共役構造面が直線状である場合は、第1のπ電子共役構造面の直線方向(長尺方向)を分子の配向軸として、配向パラメータSを設定することが好ましい。この場合の配向パラメータSも、上記同様、−0.1〜−0.5の範囲とすることが好ましい。
【0038】
さらに、本実施形態の有機薄膜5において、第1のπ電子共役構造面が円形状あるいは正方形状である場合は、第1のπ電子共役構造面の面内にある(該共役構造面に平行な)遷移双極子モーメントの方向を分子の配向軸として、配向パラメータSを設定することが好ましい。この場合の配向パラメータSも、上記同様、−0.1〜−0.5の範囲とすることが好ましい。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の有機薄膜5は、π共役化合物の複数のπ電子共役構造面のうち、電荷移動に関与する分子軌道(π共役化合物が正孔輸送性の場合はHOMO、電子輸送性の場合はLUMO)が主に分布するπ電子共役構造面が、基材表面に対して実質的に水平に配向して構成されている。そのため、電荷移動に関与するπ軌道の重なりが大きくなることにより、良好な電荷輸送性を有する有機薄膜5となる。
本実施形態の電荷輸送性有機薄膜5は、有機エレクトロルミネッセンス素子、有機薄膜トランジスタ等、種々の有機電子デバイスに適用可能である。本実施形態の有機薄膜5は高い電荷輸送性を有するため、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)を構成する有機層の少なくとも一層として有機薄膜5を適用することで、該有機EL素子の電極から有機層(有機薄膜5)への電荷注入効率が向上し、該有機EL素子の駆動電圧を低電圧化できる。
【0040】
以下、上記本実施形態の有機薄膜5を用いてなる有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の一実施形態について説明する。
図3は、本発明に係る有機EL素子の一実施形態を示す概略模式図である。
図3に示す本実施形態に係る有機EL素子20は、ガラス板等の基板11上に形成された第1電極(陽極)12と、第1電極12に対向配置された第2電極(陰極)19と、この一対の電極12、19間に挟持された有機EL層(有機層)7から構成される。
【0041】
有機EL層7は、公知の有機EL材料を用いる事が可能で、例えば、第1電極12と第2電極19との間に少なくとも有機発光材料からなる有機発光層7を有する有機層を含む有機EL層7により構成されているが、これらに限定されるものではない。
本実施形態の有機EL素子20における有機EL層7は、有機発光層15の単層構造でも、図3に示すような有機発光層15と正孔輸送性または電子輸送性の電荷輸送層との多層構造でもよく、具体的には、下記の構成が挙げられるが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0042】
(1)有機発光層15
(2)正孔輸送層14/有機発光層15
(3)有機発光層15/電子輸送層17
(4)正孔輸送層14/有機発光層15/電子輸送層17
(5)正孔注入層13/正孔輸送層14/有機発光層15/電子輸送層17
(6)正孔注入層13/正孔輸送層14/有機発光層15/電子輸送層17/電子注入層18
(7)正孔注入層13/正孔輸送層14/有機発光層15/正孔防止層16/電子輸送層17
(8)正孔注入層13/正孔輸送層14/有機発光層15/正孔防止層16/電子輸送層17/電子注入層18
(9)正孔注入層13/正孔輸送層14/電子防止層/有機発光層15/正孔防止層16/電子輸送層17/電子注入層18
ここで、有機発光層15、正孔注入層13、正孔輸送層14、正孔防止層16、電子防止層、電子輸送層17及び電子注入層18の各層は、単層構造でも多層構造でもよい。
【0043】
上記本実施形態の有機薄膜5は良好な電荷輸送性を有するため、本実施形態の有機EL素子20の正孔注入層13、正孔輸送層14、電子防止層、有機発光層15、正孔防止層16、電子輸送層17、電子注入層18の少なくともいずれか一層に上記実施形態の有機薄膜5が適用されることが好ましい。
ここで、有機EL素子20の有機EL素子7を構成する少なくとも一層が電荷輸送性のπ共役化合物より構成され、該π共役化合物がその分子構造中に複数の平行でないπ電子共役構造面を有する場合に、上記本実施形態の有機薄膜5を適用可能である。なお、有機薄膜5の配向を適用可能な層および化合物については、後述する。
【0044】
以下、有機EL素子20の各構成要素について説明する。
第1電極12及び第2電極19は、陽極又は陰極として機能するものであることが好ましい。陰極を構成する材料としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。安定性を考慮する場合、陰極は、カルシウム膜、アルミニウム膜、アルミニウムリチウム合金、アルミニウム銅合金、アルミニウム銅シリコン合金、カルシウムとアルミニウムとの積層膜、リチウム、ナトリウムカリウム合金、マグネシウム合金膜、バリウム膜、バリウム化合物膜、セシウム膜、セシウム化合物膜、フッ素化合物膜等であることが好ましい。陽極を構成する材料としては、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO(登録商標))、酸化インジウム、酸化錫、Cd2SnO4、酸化亜鉛、ヨウ化銅、金、白金等が挙げられる。なお、図3には、第1電極12が陽極、第2電極19が陰極の場合を示しているが、本発明はこれに限定されず、第1電極12が陰極、第2電極19が陽極であってもよい。その場合、有機EL層7の積層構造を図3とは上下逆にして、陽極側に正孔輸送性の層を配置し、陰極側に電子輸送性の層を配置すればよい。
【0045】
第1電極12及び第2電極19は、上記の材料を用いてEB(電子ビーム)蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、抵抗加熱蒸着法等の公知の方法により基板上に形成することができるが、本発明はこれらの形成方法に限定されるものではない。また、必要に応じて、フォトリソグラフフィー法、レーザー剥離法により、形成した電極をパターン化することもでき、シャドーマスクと組み合わせることで直接パターン化した電極を形成することもできる。
第1電極12及び第2電極16の膜厚は、50nm以上が好ましい。第1電極12及び第2電極19の膜厚が50nm未満の場合には、配線抵抗が高くなることから、駆動電圧の上昇が生じるおそれがある。
【0046】
有機発光層15は、有機発光材料のみから構成されていてもよく、発光性のドーパントとホスト材料の組み合わせから構成されていてもよく、任意に正孔輸送材料、電子輸送材料、添加剤(ドナー、アクセプター等)等を含んでいてもよく、また、これらの材料が高分子材料(結着用樹脂)又は無機材料中に分散された構成であってもよい。発光効率・寿命の観点からは、ホスト材料中に発光性のドーパントが分散されたものが好ましい。
【0047】
有機発光材料としては、有機EL用の公知の発光材料を用いることができる。このような発光材料は、低分子発光材料、高分子発光材料等に分類され、これらの具体的な化合物を以下に例示するが、本発明はこれらの材料に限定されるものではない。また、上記発光材料は、蛍光材料、燐光材料等に分類されるものでもよく、低消費電力化の観点で、発光効率の高い燐光材料を用いる事が好ましい。
ここで、具体的な化合物を以下に例示するが、本発明はこれらの材料に限定されるものではない。
【0048】
有機発光層15に用いられる低分子発光材料としては、例えば、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)等の芳香族ジメチリデン化合物、5−メチル−2−[2−[4−(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)フェニル]ビニル]ベンゾオキサゾール等のオキサジアゾール化合物、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン等のスチリルベンゼン化合物、チオピラジンジオキシド誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、フルオレノン誘導体等の蛍光性有機材料、及び、アゾメチン亜鉛錯体、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq3)等の蛍光発光有機金属錯体、BeBq(ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体)、DTVBi(4,4’−ビス−(2,2−ジ−p−トリル−ビニル)−ビフェニル)、Eu(DBM)3(Phen)(トリス(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオノ)(モノフェナントロリン)Eu(III))、さらには、ジフェニルエチレン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ジアミノカルバゾール誘導体、ビススチリル誘導体、芳香性ジアミン誘導体、キナクリドン系化合物、ペリレン系化合物、クマリン系化合物、ジスチリルアリーレン誘導体(DPVBi)、オリゴチオフェン誘導体(BMA−3T)などが挙げられる。
【0049】
有機発光層15に用いられる高分子発光材料としては、例えば、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)(DO−PPP)、ポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニルレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(PDAF)等のポリスピロ誘導体などが挙げられる。
【0050】
有機発光層15が発光性のドーパントとホスト材料から構成される場合、有機発光層15のホスト材料としては、4,4’−ビス(カルバゾール)ビフェニル、9,9−ジ(4−ジカルバゾール−ベンジル)フルオレン(CPF)、1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン(mCP)、ポリ(N−オクチル−2,7−カルバゾール−O−9,9−ジオクチル−2,7−フルオレン)(PCF)、4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP)、9,9’−(5−(トリフェニルシリル)−1,3−フェニレン)ビス(9H−カルバゾール)(SimCP)、ビス(3,5−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)ジフェニルシラン(SimCP2)、9−(4−tert−ブチルフェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール(CzSi)、2,2’−ビス(4−カルバゾール−9−イル)フェニル)−ビフェニル(BCBP)、9,9’−((2,6−ジフェニルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジフラン−3,7−ジイル)ビス(4,1−フェニレン))ビス(9H−カルバゾール)(CZBDF)、等のカルバゾール誘導体、4−(ジフェニルフォスフォイル)−N,N−ジフェニルアニリン(HM−A1)等のアニリン誘導体、1,3−ビス(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)ベンゼン(mDPFB)、1,4−ビス(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)ベンゼン(pDPFB)、9,9−スピロビフルオレン−2−イル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(SPPO1)等のフルオレン誘導体、ビス(2−メチルフェニル)ジフェニルシラン(UGH1)、1,4−ビストリフェニルシリルベンゼン(UGH2)、プロパン−2,2’−ジイルビス(4,1−フェニレン)ジベンゾエート(MMA1)、4,4’−ビス(ジフェニルフォスフィンオキサイド)ビフェニル(PO1)、2,8−ビス(ジフェニルフォスフォリル)ジベンゾ[b,d]チオフェン(PPT)、4−(ジフェニルフォスフォリル)−N,N−ジフェニルアニリン(HM−A1)、2,4−ビス(フェノキシ)−6−(3−メチルジフェニルアミノ)−1,3,5−トリアジン(BPMT)、2−メチル−9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)等が挙げられる。
【0051】
有機発光層15が発光性のドーパントとホスト材料から構成される場合、有機発光層15に含まれる発光性のドーパントとしては、有機EL用の公知のドーパント材料を用いることができる。このようなドーパント材料としては、例えば、p−クォーターフェニル、3,5,3,5テトラ−t−ブチルセクシフェニル、3,5,3,5−テトラ−t−ブチル−p−クィンクフェニル、スチリル誘導体等の蛍光発光材料、ビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジナト−N,C2’]ピコリネート イリジウム(III)(FIrpic)、ビス(4’,6’−ジフルオロフェニルポリジナト)テトラキス(1−ピラゾイル)ボレート イリジウム(III)(FIr6)、トリス(2−フェニルピリジル)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(III)(Ir(piq)3)等の燐光発光有機金属錯体等が挙げられる。
【0052】
電荷注入輸送層は、電荷(正孔、電子)の電極12、19からの注入と、有機発光層15への輸送(注入)をより効率よく行う目的で、電荷注入層(正孔注入層13、電子注入層18)と電荷輸送層(正孔輸送層14、電子輸送層17)に分類され、以下に例示する電荷注入輸送材料のみから構成されていてもよく、任意に添加剤(ドナー、アクセプター等)等を含んでいてもよい。
電荷注入輸送材料としては、有機EL用、有機光導電体用の公知の電荷輸送材料を用いることができる。このような電荷注入輸送材料は、正孔注入輸送材料及び電子注入輸送材料に分類され、これらの具体的な化合物を以下に例示するが、本発明はこれらの材料に限定されるものではない。
【0053】
正孔注入層13および/または正孔輸送層14を構成する正孔注入輸送材料としては、例えば、酸化バナジウム(V2O5)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物、無機p型半導体材料、ポルフィリン化合物、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(α−NPD)、トリス(4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)アミン(TcTa)、4,4’−(シクロヘキサン−1,1−ジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(TAPC)、2,2’−ビス(N,N−ジフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(DPAS)、N1,N1’−(ビフェニル−4,4’−ジイル)ビス(N1−フェニル−N4,N4−ジ−m−トリルベンゼン−1,4−ジアミン)(DNTPD)、1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン(mCP)、N3,N3,N3”’, N3”’−テトラ−p−トリル−[1,1’:2’,1”:2”,1”’−クオーターフェニル]−3,3”’−ジアミン(BTPD)、4,4’−(ジフェニルシランジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(DTASi)、2,2−ビス(4−カルバゾール−9−イルフェニル)アダマンティン(Ad−Cz)等の芳香族第三級アミン化合物、ヒドラゾン化合物、キナクリドン化合物、スチリルアミン化合物、2−メチル−9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)等の低分子材料、ポリアニリン(PANI)、ポリアニリン−樟脳スルホン酸(PANI−CSA)、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネイト(PEDOT/PSS)、ポリ(トリフェニルアミン)誘導体(Poly−TPD)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)、ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)、ポリ(p−ナフタレンビニレン)(PNV)等の高分子材料等が挙げられる。
【0054】
陽極からの正孔の注入・輸送をより効率よく行う点で、正孔注入層13として用いる材料としては、正孔輸送層14に使用する正孔注入輸送材料より最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギー準位が低い材料を用いることが好ましく、正孔輸送層14としては、正孔注入層13に使用する正孔注入輸送材料より正孔の移動度が、高い材料を用いることが好ましい。
【0055】
また、より正孔の注入・輸送性を向上させるため、前記正孔注入輸送材料にアクセプターをドープする事が好ましい。アクセプターとしては、有機EL用の公知のアクセプター材料を用いることができる。これらの具体的な化合物を以下に例示するが、本発明はこれらの材料に限定されるものではない。
【0056】
正孔注入層13および/または正孔輸送層14を構成する正孔注入輸送材料にドープ可能なアクセプター材料としては、Au、Pt、W,Ir、POCl3 、AsF6 、Cl、Br、I、酸化バナジウム(V2O5)、酸化モリブデン(MoO2)等の無機材料、TCNQ(7,7,8,8,−テトラシアノキノジメタン)、TCNQF4(テトラフルオロテトラシアノキノジメタン)、TCNE(テトラシアノエチレン)、HCNB(ヘキサシアノブタジエン)、DDQ(ジシクロジシアノベンゾキノン)等のシアノ基を有する化合物、TNF(トリニトロフルオレノン)、DNF(ジニトロフルオレノン)等のニトロ基を有する化合物、フルオラニル、クロラニル、ブロマニル等の有機材料が挙げられる。この内、TCNQ、TCNQF4、TCNE、HCNB、DDQ等のシアノ基を有する化合物がよりキャリア濃度を効果的に増加させることが可能であるためより好ましい。
【0057】
電子注入層18および/または電子輸送層17を構成する電子注入輸送材料としては、例えば、n型半導体である無機材料、1,3−ビス(2−(2,2’−ピリジン−6−イル)−1,3,4−オキサジアゾ−5−イル)ベンゼン(Bpy−OXD)、1,3−ビス(5−(4−(tert−ブチル)フェニル)−1,3,4−オキサジアゾールー2−イル)ベンゼン(OXD7)等のオキサジアゾール誘導体、3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−tert−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、チオピラジンジオキシド誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、フルオレノン誘導体、ベンゾジフラン誘導体、2−メチル−9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)、トリス(2,4,6−トリメチル−3−(ピリジン−3−イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)、2,2’,2”−(1,3,5−ベンジントリル)−トリス(1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール)(TPBI)、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BPhen)、ジフェニルビス(4−(ピリジン−3−イル)フェニル)シラン(DPPS)、1,3,5−トリ((3−ピリジル)−フェン−3−イル)ベンゼン(TmPyPB)、1,3,5−トリ(p−ピリジ−3−イル−フェニル)ベンゼン(TpPyPB)等の低分子材料;ポリ(オキサジアゾール)(Poly−OXZ)、ポリスチレン誘導体(PSS)等の高分子材料が挙げられる。特に、電子注入材料としては、特にフッ化リチウム(LiF)、フッ化バリウム(BaF2)等のフッ化物、酸化リチウム(Li2O)等の酸化物等が挙げられる。
【0058】
電子の陰極からの注入・輸送をより効率よく行う点で、電子注入層18として用いる材料としては、電子輸送層17に使用する電子注入輸送材料より最低空分子軌道(LUMO)のエネルギー準位が高い材料を用いることが好ましく、電子輸送層17として用いる材料としては、電子注入層18に使用する電子注入輸送材料より電子の移動度が高い材料を用いることが好ましい。
【0059】
また、より電子の注入・輸送性を向上させるため、前記電子注入輸送材料にドナーをドープする事が好ましい。ドナーとしては、有機EL用の公知のドナー材料を用いることができる。これらの具体的な化合物を以下に例示するが、本発明はこれらの材料に限定されるものではない。
【0060】
電子注入層18および/または電子輸送層17を構成する電子注入輸送材料にドープ可能なドナー材料としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Al、Ag、Cu、In等の無機材料、アニリン類、フェニレンジアミン類、ベンジジン類(N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン等)、トリフェニルアミン類(トリフェニルアミン、4,4’4”−トリス(N,N−ジフェニル−アミノ)−トリフェニルアミン、4,4’4”−トリス(N−3−メチルフェニル−N−フェニル−アミノ)−トリフェニルアミン、4,4’4”−トリス(N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ)−トリフェニルアミン等)、トリフェニルジアミン類(N,N’−ジ−(4−メチル−フェニル)−N,N’−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミン)等の芳香族3級アミンを骨格にもつ化合物、フェナントレン、ピレン、ペリレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン等の縮合多環化合物(ただし、縮合多環化合物は置換基を有してもよい)、TTF(テトラチアフルバレン)類、ジベンゾフラン、フェノチアジン、カルバゾール等の有機材料がある。この内特に、芳香族3級アミンを骨格にもつ化合物、縮合多環化合物、アルカリ金属がよりキャリア濃度を効果的に増加させることが可能であるためより好ましい。
【0061】
電子防止層としては、正孔輸送層14及び正孔注入層13として前記したものと同じものを使用することができる。
正孔防止層16としては、電子輸送層17及び電子注入層18として前記したものと同じものを使用することができる。
【0062】
有機発光層15、正孔輸送層14、電子輸送層17、正孔注入層13、電子注入層18、正孔防止層16及び電子防止層等の有機EL層7は、上記の材料を溶剤に溶解、分散させた有機EL層形成用塗液を用いて、スピンコーティング法、ディッピング法、ドクターブレード法、吐出コート法、スプレーコート法等の塗布法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、マイクログラビアコート法等の印刷法等による公知のウエットプロセス、上記の材料を抵抗加熱蒸着法、電子線(EB)蒸着法、分子線エピタキシー(MBE)法、スパッタリング法、有機気相蒸着(OVPD)法等の公知のドライプロセス、又は、レーザー転写法等により形成することができる。なお、ウエットプロセスにより有機EL層7を形成する場合には、有機EL層7形成用塗液は、レベリング剤、粘度調整剤等の塗液の物性を調整するための添加剤を含んでいてもよい。
【0063】
有機EL層7を構成する各層の膜厚は、通常1〜1000nm程度であり、10〜200nmがより好ましい。有機EL層7を構成する各層の膜厚が10nm未満であると、本来必要とされる物性(電荷(電子、正孔)の注入特性、輸送特性、閉じ込め特性)が得られない可能性や、ゴミ等の異物による画素欠陥が生じる虞がある。また、有機EL層7を構成する各層の膜厚が200nmを超えると駆動電圧の上昇が生じ、消費電力の上昇に繋がる虞がある。
【0064】
有機EL層7を構成する層のいずれかの層に対して、上記した本発明に係る電荷輸送性有機薄膜5を適用する場合は、前述の如く有機薄膜を成膜した後に加熱処理する、有機薄膜を成膜時に加熱する、磁場あるいは電場の印加等により配向性を生じさせることにより、その配向性を制御すればよい。これにより、当該層を構成するπ共役化合物の複数のπ電子共役構造面のうち、電荷移動に関与するHOMOまたはLUMOが主に分布するπ電子共役構造面を基板11(および電極12)の表面に対して実質的に平行に配向させて、当該層の電荷輸送性を向上することができる。これにより、有機EL素子20の有機EL層7の電荷輸送性が向上するので、電極12、19から有機EL層7への電荷の注入効率が向上でき、有機EL素子20の駆動電圧を低電圧化できる。
【0065】
以下、有機EL素子20の有機EL層7において、上記した本発明に係る有機薄膜5の配向を適用可能なπ共役化合物および該化合物により構成される層の例を示す。
【0066】
正孔注入層13、正孔輸送層14を構成する代表的な正孔輸送材料であるN,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(α−NPD)の分子構造を以下に示す。
【0067】
【化2】
【0068】
また、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したα−NPDの安定構造を図4(a)に示し、同計算法により計算したα−NPDのHOMOの分子軌道を図4(b)に示す。
正孔輸送性のα−NPDは、正孔輸送に関与するHOMOの分子軌道は中央のビフェニル部に主に分布しており、ナフタレン部におけるHOMOの分子軌道はわずかである。従って、α−NPDを正孔注入層13または正孔輸送層14として用いる場合は、ナフタレン環が基板11(電極12)に対して水平方向に配向していても電荷輸送特性は低いと考えられ、ビフェニル部を基板11(電極12)に対して実質的に平行となるように配向させることで電荷輸送性を向上できると考えられる。
【0069】
正孔注入層13、正孔輸送層14を構成する正孔輸送材料である4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン(TcTa)の分子構造を以下に示す。
【0070】
【化3】
【0071】
また、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したTcTaの安定構造を図5(a)に示し、同計算法により計算したTcTaのHOMOの分子軌道を図5(b)に示す。
正孔輸送性のTcTaは、正孔輸送に関与するHOMOの分子軌道が分子全体に分布しているが、カルバゾール部が最も面積の広いπ電子共役構造面となっており、いずれかのカルバゾールが基板に対して水平に配置することにより、電荷輸送性が向上すると考えられる。
【0072】
電子注入層18、電子輸送層17を構成する電子輸送材料である2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)の分子構造を以下に示す。
【0073】
【化4】
【0074】
また、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したBCPの安定構造を図6(a)に示し、同計算法により計算したBCPのLUMOの分子軌道を図6(b)に示す。
電子輸送性のBCPは、電子輸送に関与するLUMOの分子軌道が、主にフェナントロリン部に分布しており、フェナントロリンが基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0075】
有機発光層15のホスト材料、あるいは、正孔注入層13、正孔輸送層14を構成する正孔輸送材料として用いられる1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン(mCP)の分子構造を以下に示す。
【0076】
【化5】
【0077】
また、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したmCPの安定構造を図7(a)に示し、同計算法により算出したmCPのHOMOの分子軌道を図7(b)に示す。
正孔輸送性のmCPは、カルバゾール部において正孔輸送に関与するHOMOの分子軌道の広がりが大きく、カルバゾール環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向に配向している方が電荷輸送特性は高くなる考えられる。
【0078】
正孔注入層13または正孔輸送層14を構成する正孔注入材料である4,4’−(シクロヘキサン−1,1−ジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(TAPC)の分子構造を以下に示す。
【0079】
【化6】
【0080】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、TAPCにおいては、個々のベンゼン環がそれぞれπ電子共役構造面となり、各π電子共役構造面は6角形あるいは円であり、正孔輸送に関与するHOMOはシクロヘキサンと結合しているベンゼン環に比較的偏って分布している。従って、シクロヘキサンと結合しているベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0081】
正孔注入層13または正孔輸送層14を構成する正孔注入材料である2,2’−ビス(N,N−ジフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(DPAS)の分子構造を以下に示す。
【0082】
【化7】
【0083】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、DPASにおいては、個々のベンゼン環がそれぞれπ電子共役構造面になっており、正孔輸送に関与するHOMOは主にジフェニルアミン 部に分布する。従って、ジフェニルアミン部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0084】
正孔注入層13または正孔輸送層14を構成する正孔注入材料であるN1,N1’−(ビフェニル−4,4’−ジイル)ビス(N1−フェニル−N4,N4−ジ−m−トリルベンゼン−1,4−ジアミン)(DNTPD)の分子構造を以下に示す。
【0085】
【化8】
【0086】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、DNTPDにおいては、個々のベンゼン環は同一平面上にはなく、それぞれπ電子共役構造面になっており、正孔輸送に関与するHOMOはN原子で挟まれた4つのベンゼン環の部分で広がっている。従って、これらのベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0087】
正孔輸送層14または正孔注入層13を構成する正孔輸送材料であるN3,N3,N3”’, N3”’−テトラ−p−トリル−[1,1’:2’,1”:2”,1”’−クオーターフェニル]−3,3”’−ジアミン(BTPD)の分子構造を以下に示す。
【0088】
【化9】
【0089】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、BTPDにおいては、個々のベンゼン環は同一平面上にはなく、それぞれπ電子共役構造面になっており、正孔輸送に関与するHOMOは主にN原子に結合しているベンゼン環に分布している。従って、この部分が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0090】
正孔輸送層14または正孔注入層13を構成する正孔輸送材料である4,4’−(ジフェニルシランジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(DTASi)の分子構造を以下に示す。
【0091】
【化10】
【0092】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、DTASiにおいては、個々のベンゼン環がそれぞれπ電子共役面になっており、正孔輸送に関与するHOMOは主にN原子に結合したベンゼン環に分布する。従って、N原子に結合したベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0093】
正孔輸送層14または正孔注入層13を構成する正孔輸送材料である2,2−ビス(4−カルバゾール−9−イルフェニル)アダマンティン(Ad−Cz)の分子構造を以下に示す。
【0094】
【化11】
【0095】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、Ad−Czにおいては、それぞれのカルバゾール環、ベンゼン環が別々の互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。正孔輸送に関与するHOMOは主にカルバゾール部に分布する。従って、カルバゾール部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0096】
有機発光層15のホスト材料である4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP)の分子構造を以下に示す。
【0097】
【化12】
【0098】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、CBPにおいて、それぞれのカルバゾール環、ベンゼン環が別々のπ電子共役構造面を形成しており、全てのπ電子共役構造面が互いに平行ではない。CBPにおいて、正孔輸送に関与するHOMOは主にカルバゾール部に分布する。従って、カルバゾール部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主にN原子に挟まれたビフェニル部に分布する。従って、N原子に挟まれたビフェニル部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0099】
有機発光層15のホスト材料であるビス(2−メチルフェニル)ジフェニルシラン(UGH1)の分子構造を以下に示す。
【0100】
【化13】
【0101】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、UGH1において、各ベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。UGH1において、正孔輸送に関与するHOMOは主にメチル基が結合しているベンゼン環に分布する。従って、メチル基が結合しているベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主にメチル基が結合していないベンゼン環に分布する。従って、メチル基が結合していないベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0102】
有機発光層15のホスト材料である1,4−ビストリフェニルシリルベンゼン(UGH2)の分子構造を以下に示す。
【0103】
【化14】
【0104】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、UGH2において、各ベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。UGH2において、HOMOおよびLUMOは主にSi原子に挟まれたベンゼン環に分布する。従って、Si原子に挟まれたベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0105】
有機発光層15のホスト材料である9,9’−(5−(トリフェニルシリル)−1,3−フェニレン)ビス(9H−カルバゾール)(SimCP)の分子構造を以下に示す。
【0106】
【化15】
【0107】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、SimCPにおいて、それぞれのカルバゾール環、ベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。SimCPにおいて、正孔輸送に関与するHOMOは主にカルバゾール部に分布する。従って、カルバゾール部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主に中央のベンゼン環に分布する。従って、中央のベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0108】
有機発光層15のホスト材料であるビス(3,5−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)ジフェニルシラン(SimCP2)の分子構造を以下に示す。
【0109】
【化16】
【0110】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、SimCP2において、それぞれのカルバゾール環、ベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。SimCP2において、正孔輸送に関与するHOMOは主にカルバゾール部に分布する。従って、カルバゾール部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主にSi原子とN原子が結合しているベンゼン環に分布する。従って、Si原子とN原子が結合しているベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0111】
有機発光層15のホスト材料である9,9−スピロビフルオレン−2−イル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(SPPO1)の分子構造を以下に示す。
【0112】
【化17】
【0113】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、SPPO1において、各ベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。SPPO1において、正孔輸送に関与するHOMOは主にP原子と結合していない方のフルオレン部に分布する。従って、P原子と結合していない方のフルオレン部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主にP原子と結合している方のフルオレン部に分布する。従って、P原子と結合している方のフルオレン部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0114】
有機発光層15のホスト材料であるプロパン−2,2’−ジイルビス(4,1−フェニレン)ジベンゾエート(MMA1)の分子構造を以下に示す。
【0115】
【化18】
【0116】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、MMA1において、各ベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。MMA1において、正孔輸送に関与するHOMOは主にO原子が結合しているベンゼン環に分布する。従って、O原子が結合しているベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主に末端のベンゼン環に分布する。従って、末端のベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0117】
有機発光層15のホスト材料である9−(4−tert−ブチルフェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール(CzSi)の分子構造を以下に示す。
【0118】
【化19】
【0119】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、CzSiにおいて、中央のカルバゾール環、その他のベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。CzSiにおいて、HOMOおよびLUMOは主にカルバゾール部に分布する。従って、カルバゾール部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0120】
有機発光層15のホスト材料である4,4’−ビス(ジフェニルフォスフィンオキサイド)ビフェニル(PO1)の分子構造を以下に示す。
【0121】
【化20】
【0122】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、PO1において、真ん中の2つのベンゼン環(ビフェニル部)が同一平面上にあり、1つのπ電子共役構造面を形成しており、その他のベンゼン環(ジフェニル部)のπ電子共役構造面とは互いに平行でない。PO1において、HOMOおよびLUMOは主にジフェニル部に分布する。従って、ジフェニル部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0123】
有機発光層15のホスト材料である2,2’−ビス(4−カルバゾール−9−イル)フェニル)−ビフェニル(BCBP)の分子構造を以下に示す。
【0124】
【化21】
【0125】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、BCBPにおいて、両側のカルバゾール環と中央の4つのベンゼン環は同一平面上になく、互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。BCBPにおいて、正孔輸送に関与するHOMOは主にカルバゾール部に分布する。従って、カルバゾール部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主にカルバゾールに結合したフェニルおよびビフェニル部に分布する。従って、カルバゾールに結合したフェニルおよびビフェニル部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0126】
有機発光層15のホスト材料である2,8−ビス(ジフェニルフォスフォリル)ジベンゾ[b,d]チオフェン(PPT)の分子構造を以下に示す。
【0127】
【化22】
【0128】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、PPTにおいて、中央のジベンゾチオフェンとベンゼン環とが互いに平行でないπ電子共役構造面となっている。PPTにおいて、HOMOおよびLUMOは主にジベンゾチオフェン部に分布する。従って、ジベンゾチオフェン部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0129】
有機発光層15のホスト材料である4−(ジフェニルフォスフォリル)−N,N−ジフェニルアニリン(HM−A1)の分子構造を以下に示す。
【0130】
【化23】
【0131】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、HM−A1において、各ベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。HM−A1において、正孔輸送に関与するHOMOは主にジフェニルアニリン部に分布する。従って、ジフェニルアニリン部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主にN原子とP原子に挟まれたベンゼン環に分布する。従って、N原子とP原子に挟まれたベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0132】
有機発光層15のホスト材料である9,9’−((2,6−ジフェニルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジフラン−3,7−ジイル)ビス(4,1−フェニレン))ビス(9H−カルバゾール)(CZBDF)の分子構造を以下に示す。
【0133】
【化24】
【0134】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、CZBDFにおいて、中央のベンゾジフランと両端のカルバゾール、その他のベンゼン環が互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。CZBDFにおいて、HOMOおよびLUMOは主にジベンゾフラン部に分布する。従って、ジベンゾフラン部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0135】
有機発光層15のホスト材料である2,4−ビス(フェノキシ)−6−(3−メチルジフェニルアミノ)−1,3,5−トリアジン(BPMT)の分子構造を以下に示す。
【0136】
【化25】
【0137】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、BPMTにおいて、トリアジン環、ベンゼン環が互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。BPMTにおいて、正孔輸送に関与するHOMOは主にジフェニルアミノ基に分布する。従って、ジフェニルアミノ基が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主にトリアジン環およびトリアジン環とO原子を介して結合しているベンゼン環に分布する。従って、トリアジン環およびトリアジン環とO原子を介して結合しているベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0138】
電子輸送層17または電子注入層18を構成する電子輸送材料である2,2’,2”−(1,3,5−ベンジントリル)−トリス(1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール)(TPBI)の分子構造を以下に示す。
【0139】
【化26】
【0140】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、TPBI3において、各ベンゾイミダゾールとベンゼン環は互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。電子輸送に関与するLUMOは主に中央のベンゼン環に分布する。従って、中央のベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0141】
電子輸送層17または電子注入層18を構成する電子輸送材料である3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−tert−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)の分子構造を以下に示す。
【0142】
【化27】
【0143】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、TAZにおいて、トリアゾール環と各ベンゼン環は互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。電子輸送に関与するLUMOは主にビフェニルのトリアゾール側のベンゼン環に分布する。従って、ビフェニルのトリアゾール側のベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0144】
電子輸送層17または電子注入層18を構成する電子輸送材料である4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BPhen)の分子構造を以下に示す。
【0145】
【化28】
【0146】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、BPhenにおいて、フェナントロリン環と各ベンゼン環は互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。電子輸送に関与するLUMOは主にフェナントロリン部に分布する。従って、フェナントロリン部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0147】
電子輸送層17または電子注入層18を構成する電子輸送材料であるジフェニルビス(4−(ピリジン−3−イル)フェニル)シラン(DPPS)の分子構造を以下に示す。
【0148】
【化29】
【0149】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、DPPSにおいて、各ピリジン環と各ベンゼン環は互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。電子輸送に関与するLUMOは主にピリジン環およびピリジン環と結合しているベンゼン環に分布する。従って、ピリジン環およびピリジン環と結合しているベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0150】
電子輸送層17または電子注入層18を構成する電子輸送材料である1,3,5−トリ((3−ピリジル)−フェン−3−イル)ベンゼン(TmPyPB)の分子構造を以下に示す。
【0151】
【化30】
【0152】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、TmPyPBにおいて、各ピリジン環と各ベンゼン環は互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。電子輸送に関与するLUMOは主に4つのベンゼン環(1,3,5−トリフェニルベンゼン部)に分布する。従って、4つのベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0153】
電子輸送層17または電子注入層18を構成する電子輸送材料である1,3,5−トリ(p−ピリジ−3−イル−フェニル)ベンゼン(TpPyPB)の分子構造を以下に示す。
【0154】
【化31】
【0155】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、TpPyPBにおいて、各ピリジン環と各ベンゼン環は互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。電子輸送に関与するLUMOは主に4つのベンゼン環(1,3,5−トリフェニルベンゼン部)に分布する。従って、4つのベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0156】
上記で例示した有機EL層7を構成するπ共役化合物および該化合物より構成される層は一例であるが、上記の如く、有機EL層7を構成する少なくともいずれかの層に対して、上記した本発明に係る電荷輸送性有機薄膜5を適用することができる。これにより、当該層を構成するπ共役化合物の複数のπ電子共役構造面のうち、電荷移動に関与するHOMOまたはLUMOが主に分布するπ電子共役構造面を基板11(および電極12)の表面に対して実質的に平行に配向させて、当該層の電荷輸送性を向上することができる。従って、有機EL素子20の有機EL層7の電荷輸送性が向上するので、電極12、19から有機EL層7への電荷の注入効率が向上でき、有機EL素子20の駆動電圧を低電圧化できる。
【0157】
なお、本発明に係る有機EL素子は、発光した光を基板側に放射するボトムエミッションタイプのデバイスで構成されていてもよいし、そうではなくて基板とは反対側に放射するトップエミッションタイプのデバイスで構成されていてもよい。また、本発明の有機発光素子の駆動方式は特に限定されず、アクティブ駆動方式でもパッシブ駆動方式でも良いが、有機発光素子をアクティブ駆動方式で駆動させる方が好ましい。アクティブ駆動方式を採用することにより、パッシブ駆動方式に比べて有機発光素子の発光時間を長くすることができ、所望の輝度を得る駆動電圧を低減し、低消費電力化が可能となるため好ましい。
【実施例】
【0158】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳述するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0159】
(比較例1)
基板として、電極および配線としてパターニングされた厚さ150nmのIZO(登録商標、酸化インジウム亜鉛)膜が形成された厚さ0.7mmのガラスを用いた。この基板を水洗後、純水超音波洗浄10分、アセトン超音波洗浄10分、イソプロピルアルコール蒸気洗浄5分を行い、100℃にて1時間乾燥させた。
次に、洗浄後の基板に酸素を少量含む窒素雰囲気中でUV光を照射し、表面の洗浄処理を施した後、真空蒸着装置内に導入した。その後、基板上に室温で膜厚100nmの2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)を真空蒸着により形成した。次いで、電極および配線パターンを有するシャドーマスクを用いて、Alを蒸着し、MADN膜上に厚さ100nmのアルミニウム(Al)電極を形成し、その後にグローブボックス内にて封止して、比較例1の素子1を作製した。
【0160】
(実施例1)
比較例1の素子1と同じ手順でIZO(登録商標)上に膜厚100nmのMADNを蒸着した後、酸素および水分濃度が制御された窒素雰囲気のグローブボックス内で、140℃で30分間熱処理した。
次に、熱処理後のMADN付き基板を真空蒸着室内に戻し、電極および配線パターンを有するシャドーマスクを用いて、MADN膜上に厚さ100nmのAlを蒸着して電極を形成した後にグローブボックス内にて封止して、実施例1の素子2を作製した。
【0161】
素子1(比較例1)および素子2(実施例1)のMADN膜の分子の配向状態を調べるため、素子1および素子2の基板について、Al蒸着直前に取り出し、分光エリプソメーター(J. A. Woollam社製M−2000U)により測定した。
分光エリプソメーターの測定データを解析し、素子1および素子2の基板のMADN膜の光学定数(屈折率nおよび消衰係数k)を導出した。素子1(比較例1)の解析結果を図8(a)に、素子2(実施例1)の解析結果を図8(b)に示す。測定データの解析は、MADN膜が基板に垂直な方向に一軸対称性を持つとしたモデルで行った。なお、図8に示すグラフにおいて、「kx,ky」は基板に対して水平方向の消衰係数、「kz」は基板に対して垂直方向の消衰係数、「nx,ny」は基板に対して水平方向の屈折率、「nz」は基板に対して垂直方向の屈折率をそれぞれ示す。
【0162】
図8(a)及び図8(b)に示すように、消衰係数「kx,ky」及び「kz」にピークが2つ見られ、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31G(d)によるMADN分子の遷移双極子モーメントの計算結果から、波長250nm付近のピークは図2(a)に示すアントラセンの長軸方向(y方向)の遷移双極子モーメントに由来し、波長400nm付近のピークは図2(b)に示すアントラセンの短軸方向(x方向)の遷移双極子モーメントに由来することがわかった。
波長250nm付近のピークにおけるMADN膜のアントラセンの長軸方向(y方向)の遷移双極子モーメントに対する配向パラメータS、及び、400nm付近のピークにおけるアントラセンの短軸方向(x方向;ナフタレン環のπ共役平面に水平方向)の遷移双極子モーメントに対する配向パラメータSを、それぞれ上記式(A)より求めた。その結果を図8(a)および図8(b)に合わせて示す。
【0163】
図8(a)の結果より、熱処理を施さなかった比較例1の素子1では、MADNを構成するアントラセンの短軸方向(図2(a)のx方向)の異方性が強く、ナフタレン環が基板に対して垂直よりも水平方向に向く傾向があることがわかる。それに対して、図8(b)に示す熱処理を施した実施例1の素子2では、MADNを構成するアントラセンの長軸方向(図2(a)のy方向)の異方性が強くなり、アントラセン環が基板に対して垂直よりも水平方向に向く傾向に変わっており、アントラセン環が基板に対して実質的に水平に配向していた。
【0164】
このように配向性の異なるMADN膜の電気的特性を素子1および素子2の電流−電圧(I−V)特性測定により評価した。I−V特性の測定結果を図9に示す。この結果は、実施例1の素子2の方が、比較例1の素子1よりも印加電圧に対してより電流が流れやすく、MADNを構成するナフタレン環が基板に対して水平に向いた状態よりもアントラセン環が基板に対して実質的に水平方向に向いている方が電荷輸送性が高いことを示す。すなわち、図2(a)に示すように、HOMOの分子軌道がほとんど分布していないナフタレン環が基板に対して水平に向いているよりも、HOMOの分子軌道が主に分布しているアントラセン環が基板に対して水平に向いている方が電荷輸送性が高くなることが明らかである。以上の結果より、薄膜の配向を制御して電荷輸送性を向上させるためには、HOMO(またはLUMO)の分子軌道の分布を考慮し、HOMO(またはLUMO)が主に分布しているπ電子共役構造面を基板に対して実質的に平行に配向させることが重要であることが確認された。
【0165】
(実施例2)
実施例1と同様にIZO(登録商標)基板を準備し、洗浄を施して真空蒸着装置内に導入した。
次に、蒸着室内で基板温度を80℃まで昇温し、その状態でIZO(登録商標)上に2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)を膜厚100nm蒸着した。蒸着後、基板温度を40℃以下に降温して、電極および配線パターンを有するシャドーマスクを用いてAlを100nm蒸着して、MADN膜上にアルミニウム(Al)電極を形成した。その後、蒸着した基板をグローブボックス内で封止して実施例2の素子3を作製した。
【0166】
実施例2の素子3と同じ条件で蒸着したMADN膜の配向性を、実施例1および比較例1と同様の手法で分光エリプソで評価した結果、実施例1の素子2のMADN膜と同じであることがわかった。
また、素子3の電流−電圧(I−V)特性を測定したところ、実施例2の素子3のI−V特性も実施例1の素子2とほぼ同じであり、比較例1の素子1よりも印加電圧に対してより電流が流れやすくなっていた。
実施例2の素子3の結果からも、上記実施例1と同様に、MADNを構成するナフタレン環が基板に対して水平に向いた状態よりもアントラセン環が基板に対して水平に向いている方が電荷輸送性が高くなることが示された。
【0167】
(比較例2)
比較例1と同様にして基板として、IZO(登録商標)基板上に室温で膜厚100nmの2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)を真空蒸着により形成した。
次に、MADN膜上に真空蒸着によりAlq3(トリス(8−キノラリト)アルミニウム)膜を膜厚50nm形成した。
次いで、電極および配線パターンを有するシャドーマスクを用いて、Alを蒸着し、Alq3膜上に厚さ100nmのアルミニウム(Al)電極を形成し、その後にグローブボックス内にて封止して、比較例2の素子4を作製した。
【0168】
(実施例3)
比較例2の素子4と同じ手順でIZO(登録商標)上に膜厚100nmのMADNを蒸着した後、酸素および水分濃度が制御された窒素雰囲気のグローブボックス内で、140℃で30分間熱処理した。
次に、熱処理後のMADN付き基板を真空蒸着室内に戻し、MADN膜上に真空蒸着によりAlq3(トリス(8−キノラリト)アルミニウム)膜を膜厚50nm形成した。
次いで、電極および配線パターンを有するシャドーマスクを用いて、MADN膜上に厚さ100nmのAlを蒸着して電極を形成した後にグローブボックス内にて封止して、実施例3の素子5を作製した。
【0169】
比較例2の素子4および実施例3の素子5のI−V特性を測定したところ、素子5のI−V特性の方が素子4よりも印加電圧に対してより電流が流れやすく、この素子構造に対してもMADNを構成するナフタレン環が基板に対して水平に向いた状態よりもアントラセン環が基板に対して水平に向いている方が電荷輸送性が高いことが示された。
【0170】
(検討例1)
実施例1及び比較例1と同様にしてMADN膜を成膜した後、(1)熱処理をしない、(2)100℃30分間の熱処理を施す、(3)140℃30分間の熱処理を施す、のいずれかの条件で処理を行ったあと、実施例1及び比較例1と同様にしてAl電極の形成および封止を行った。
得られた各素子について、電流−電圧(I−V)特性測定を行った。結果を図10に示す。
図10の結果より、MADN膜は、成膜後に140℃で熱処理することにより配向性が変化し、ナフタレン環よりもアントラセン環が基板に実質的に水平に配向し、電荷輸送性が向上することがわかった。
【0171】
(検討例2)
MADN膜の成膜後の熱処理温度を20℃、80℃、100℃、120℃、140℃に変化させたこと以外は、検討例1と同様にして素子を作製し、得られた各素子について、配向パラメータSおよび2V印加時の電流密度を測定した。その結果を図11に示す。なお、図11において、「S−アントラセンy」は、図8に示すように消衰係数の波長250nm付近のピークにおけるアントラセンの長軸方向(y方向)の遷移双極子モーメントに対する配向パラメータSを示す。また、「S−アントラセンx」は、図8に示すように消衰係数の波長400nm付近のピークにおけるアントラセンの短軸方向(x方向;ナフタレン環のπ共役平面に水平方向)の遷移双極子モーメントに対する配向パラメータSを示す。
図10の結果より、MADN膜は、成膜後に140℃で熱処理することにより配向性が変化し、配向パラメータ「S−アントラセンy」が−0.15以下となっており、ナフタレン環よりもアントラセン環が基板に対して実質的に水平に配向し、電荷輸送性が向上していた。
【0172】
(検討例3)
MADN膜の成膜時のIZO(登録商標)基板温度を室温〜120℃まで変化させたこと以外は、比較例1と同様にして素子を作製した。得られた素子について、実施例1及び比較例1と同様の手法で分光エリプソで評価し、波長250nm付近の消衰係数のピークにおける配向パラメータSと、波長400nm付近の消衰係数のピークにおける配向パラメータSを測定した。その結果を、図12に示す。
図12に示すように、基板の温度を60℃以上としてMADN膜を成膜することにより、波長250nm付近のピークに由来する配向パラメータSと、波長400nm付近のピークに由来する配向パラメータSとの大小関係が逆転しており、MADNにおけるナフタレン環よりもアントラセン環の方が基板に対して水平方向となるような配向に変化したことがわかる。この結果より、配向パラメータSが−0.1以下の場合に、HOMOが主に分布しているアントラセン環が基板に対して実質的に水平に配向し、電荷輸送性が向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明は、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)、色変換発光素子、光変換発光素子、光電変換素子、有機薄膜トランジスタ、有機レーザーダイオード素子等に利用することができ、また、各発光素子を用いた表示装置、照明装置および電子機器等にも利用することができる。
【符号の説明】
【0174】
1、2…電極、5…電荷輸送性有機薄膜、7…有機EL層(有機層)、10…素子、11…基板、12、19…電極、13…正孔注入層、14…正孔輸送層、15…有機発光層、16…正孔防止層、17…電子輸送層、18…電子注入層、20…有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送性有機薄膜および有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化に伴い、フラットパネルディスプレイのニーズが高まっている。フラットパネルディスプレイとしては、非自発光型の液晶ディスプレイ(LCD)、自発光型のプラズマディスプレイ(PDP)、無機エレクトロルミネセンス(無機EL)ディスプレイ、有機エレクトロルミネセンス(有機EL)ディスプレイ等が知られているが、これらのフラットパネルディスプレイの中でも、有機ELディスプレイは、自発光の点で特に注目されている。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略称することがある。)としては、1960年代にアントラセン単結晶などの有機固体でのキャリア注入型EL素子が詳しく研究されていた。これらの素子は単層型のものであったが、その後、Tang等は一対の電極間に発光層と正孔輸送層を有する積層型有機EL素子を提案した。これらの注入型EL素子の発光メカニズムは、[1]陰極からの電子注入と陽極からの正孔注入、[2]電子と正孔の固体中の移動、[3]電子と正孔の再結合、[4]生成された一重項励起子からの発光、という段階を経る点で共通する。
【0004】
積層型有機EL素子の代表例としては、陽極としてガラス基板上にITO(IndiumTin Oxide)膜を形成し、その上にTPD(N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン)を約50nmの厚さで形成し、その上部にAlq3(トリス(8−キノラリト)アルミニウム)を約50nmの厚さで形成し、さらに陰極としてAl、Li合金を蒸着することで素子を構成する例が挙げられる。
陽極に用いるITOの仕事関数を4.4〜5.0eVとすることで、TPDに対して正孔を注入し易くし、陰極には仕事関数のできるだけ小さな金属で安定なものを選ぶ。例えば、AlとLiの合金やMgとAgの合金などである。この構成によると、例えば、5V〜10Vの直流電圧の印加により緑色の発光が得られる。
【0005】
また、キャリア輸送層として導電性液晶を用いた例も知られている。例えば、非特許文献1には、長鎖トリフェニレン系化合物である、ディスコティック液晶の液晶相(Dh相)の移動度が10−3〜10−2cm2/Vsecであり、メゾフェーズ(中間相、液晶相ではない)での移動度が10-1cm2/Vsecであることが開示されている。さらに、非特許文献2には、棒状液晶においても、フェニルナフタレン系のスメクチックB相における移動度が10−3cm2/Vsec以上であることが開示されている。
上記したような従来の有機EL素子では、有機化合物層の厚さは2層或いは3層の膜厚総計で50〜500nm前後である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−330018号公報
【特許文献2】特開2001−167887号公報
【特許文献3】特開2001−167888号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature,Vol.371,p.141
【非特許文献2】半那純一、応用物理、第68巻、第1号、p.26,
【非特許文献3】Organic Electronics,10,2009,127−137
【非特許文献4】Applied Physics Letters,93,2008,173302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の有機EL素子は、厚さが100nm前後の薄層に100MV/cm程度の高電圧を印加するため、電極間ショートが起こりやすいという問題があった。この問題は、有機層各層の膜厚を厚くする、あるいは、有機層を多層にすることで多少軽減されるが、生産性が低下する、さらに駆動電圧が上昇するといった問題が生じる。100MV/cm程度の電界を印加する理由は、有機層のキャリア移動度が小さいためであり、高移動度の有機層を形成できれば印加電界を低減することができる。現在、一般に有機EL素子に用いられているキャリア輸送層の移動度は10−5〜10−3cm2/Vsecであり、アモルファス材料でも10−3cm2/Vsec程度が限界といわれている。
そのため、高移動度を有する導電性液晶化合物を用いた新しいキャリア輸送層や発光層が期待されている。例えば、キャリア輸送性の高い導電性液晶としては、ディスコティック液晶や高い秩序度を有するスメクチック液晶が挙げられる。
【0009】
このような問題点を解決するために、強電界条件下で低分子有機材料をスピンコート製膜することによる分子配向方向が制御された有機非晶質薄膜の製造が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1では、得られる有機薄膜の分子配向状態に関する情報が開示されておらず、その得られた薄膜が与える特性としては2次の非線形光学効果が明らかにされているのみであった。また、有機EL素子において、そのキャリア輸送層に導電性液晶化合物を用いることによる配向制御された薄膜を用いる試みもなされているが(特許文献2、3参照)、非晶質薄膜を得る方法は開示されておらず、また、有機EL素子としての特性も十分ではなかった。最近、π共役材料としてスチリル系化合物の蒸着製膜を行った場合、基板に対して水平方向の配向が優先することが報告されたが、水平配向が優先することによる電荷輸送特性の変化や、水平配向が優先することを利用した具体的な有機半導体素子については示されていない(非特許文献3、4参照)。
【0010】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、優れた電荷輸送性を有する電荷輸送性有機薄膜、および該電荷輸送性有機薄膜を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため、電荷輸送性の有機薄膜を構成するπ共役化合物の最高占有分子軌道(HOMO)および最低非占有分子軌道(LUMO)に着目し、鋭意研究を重ねた。その結果、有機層のπ共役化合物において、HOMOまたはLUMOが主に分布しているπ電子共役面の配向を制御することにより、有機層の電荷輸送性を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成を採用した。
【0012】
本発明の電荷輸送性有機薄膜は、基材上に形成され、互いに平行でない複数のπ電子共役構造面を有する電荷輸送性のπ共役化合物を含んでなる電荷輸送性の非晶質薄膜であって、前記π共役化合物が電子輸送性である場合は最低非占有分子軌道(LUMO)が主に分布しているπ電子共役構造面を、前記π共役化合物が正孔輸送性である場合は最高占有分子軌道(HOMO)が主に分布しているπ電子共役構造面を、それぞれ第1のπ電子共役構造面としたとき、前記第1のπ電子共役構造面が前記基材の表面に対して実質的に平行に配向していることを特徴とする。
【0013】
本発明の電荷輸送性有機薄膜は、前記HOMOおよび前記LUMOが、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法により導出されることが好ましい。
本発明の電荷輸送性有機薄膜は、前記第1のπ電子共役構造面に平行な遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることができる。
本発明の電荷輸送性有機薄膜は、前記第1のπ電子共役構造面が長軸および短軸を有し、前記第1のπ電子共役構造面の長軸方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることもできる。
本発明の電荷輸送性有機薄膜は、前記第1のπ共役構造面が、前記π共役化合物において最も面積の広いπ電子共役構造面であることもできる。
【0014】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光材料を含む少なくとも1層の有機層が2枚の対向する電極間に配置された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機層が、上記本発明の電荷輸送性有機薄膜を含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた電荷輸送性を有する電荷輸送性有機薄膜、および該電荷輸送性有機薄膜を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の電荷輸送性有機薄膜を適用した素子の一例を示す模式図である。
【図2】図2(a)はMADNの安定構造を示し、図2(c)はMADNのHOMOの分子軌道を示し、図2(c)はMADNのLUMOの分子軌道を示す。
【図3】本発明に係る有機EL素子の一実施形態を示す概略模式図である。
【図4】図4(a)はα−NPDの安定構造であり、図4(b)はα−NPDのHOMOの分子軌道である。
【図5】図5(a)はTcTaの安定構造であり、図5(b)はTcTaのHOMOの分子軌道である。
【図6】図6(a)はBCPの安定構造であり、図6(b)はBCPのLUMOの分子軌道である。
【図7】図7(a)はmCPの安定構造であり、図7(b)はmCPのHOMOの分子軌道である。
【図8】図8(a)は比較例1の素子1の解析結果を示すグラフであり、図8(b)は実施例1の素子2の解析結果を示すグラフである。
【図9】比較例1の素子1及び実施例1の素子2の電流−電圧(I−V)特性測定結果を示すグラフである。
【図10】検討例1の電流−電圧(I−V)特性測定結果を示すグラフである。
【図11】検討例2の配向パラメータSおよび2V印加時の電流密度を示すグラフである。
【図12】検討例3の配向パラメータSを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る電荷輸送性有機薄膜、及びこれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の一実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0018】
本実施形態の電荷輸送性有機薄膜は、分子構造中に互いに平行でない複数のπ電子共役構造面を有する電荷輸送性のπ共役化合物を含んでなる電荷輸送性の非晶質薄膜である。ここで、「電荷輸送性」とは、電子輸送性または正孔輸送性であることを表す。
【0019】
従来より、電荷輸送性の有機薄膜において、有機薄膜を構成するπ共役化合物を電極等の基材の平面に対して平行に配向させる技術が開示されている。しかし、π共役化合物の分子構造によっては、分子構造中の全てのπ電子共役構造面が同一平面上にない場合がある。
【0020】
本発明者らが、互いに平行でない複数のπ電子共役構造面を有するπ共役化合物を含む電荷輸送性の非晶質薄膜について鋭意研究を行ったところ、π共役化合物のπ電子軌道のうち、最高占有分子軌道(HOMO)または最低非占有分子軌道(LUMO)の分布を考慮して薄膜中のπ共役化合物の配向を制御することが電荷輸送性の向上には重要であることを見出した。電荷(電子、正孔)移動の起こり易さは、薄膜中の導電方向における電荷移動に関与するπ軌道の重なりが重要である。そのため、従来技術のように、分子中のいずれかのπ電子共役構造面を電極等の基材表面に対して平行に配向させるだけでは、必ずしも電荷輸送性が向上しない場合があることが判明した。
【0021】
図1に本実施形態の電荷輸送性有機薄膜を適用した素子の一例を模式的に示す。図1に示す素子10は、一対の電極1、2間に本実施形態の電荷輸送性有機薄膜5(以下、「有機薄膜5」と略称することがある。)が狭持されて構成されている。有機薄膜5の膜厚は、特に限定されず、例えば、10〜100nmの範囲とされる。
本実施形態の有機薄膜5において、有機薄膜5を構成するπ共役化合物は、その分子構造中の複数のπ電子共役構造面のうち、HOMOあるいはLUMOが主に分布しているπ電子共役構造面(第1のπ電子共役構造面)が、基材である電極1(または電極2)の表面に対して実質的に平行に配向している。
【0022】
ここで、本実施形態において有機薄膜5が形成される基材とは、その表面が平坦である結晶性又は非晶質性の板状の基材(基板)を用いることができる。例えば、結晶性基板としては、シリコン、サファイア等による単結晶基板や、その表面に有機または無機薄膜を成膜した基板、ガラス基板上にITO(Indium Tin Oxide)のような無機導電性酸化物の電極を成膜した基板、または電極等が挙げられる。
本実施形態の有機薄膜5を構成するπ共役化合物が有するπ電子共役構造面としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントロリン環、ベンゾフラン環、ベンゾジフラン環、トリアジン環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、オキサジアゾール環、カルバゾール環等が挙げられる。
また、本実施形態において、π電子共役構造面(第1のπ電子共役構造面)が基材の表面に対して実質的に平行に配向とは、該π電子共役構造面が基材表面に完全に平行な場合は勿論のこと、該π電子共役構造面と基材表面とがなす角度が45°未満になるように配向している状態を示す。
【0023】
本実施形態の有機薄膜5において、有機薄膜5を構成するπ共役化合物が電子輸送性である場合、電子移動に関与する軌道であるLUMOが主に分布しているπ電子共役構造面が基材である電極1の表面に対して実質的に平行となるように配向している。これにより、有機薄膜5の膜厚方向(導電方向)に隣接するπ共役化合物のLUMOに相当するπ電子軌道の重なりが大きくなり、電極1、2に挟まれた有機薄膜5の膜厚方向の電子輸送性が向上する。
また、本実施形態の有機薄膜5において、有機薄膜5を構成するπ共役化合物が正孔輸送性である場合、正孔移動に関与する軌道であるHOMOが主に分布しているπ電子共役構造面が基材である電極1の表面に対して実質的に平行となるように配向している。これにより、有機薄膜5の膜厚方向(導電方向)に隣接するπ共役化合物のHOMOに相当するπ電子軌道の重なりが大きくなり、電極1、2に挟まれた有機薄膜5の膜厚方向の正孔輸送性が向上する。
【0024】
このように高い電荷輸送性を有する本実施形態の有機薄膜5を用いて後述する有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略称することがある。)を構成するならば、電極から有機層(有機薄膜)への電荷の注入効率が向上するので、有機EL素子の駆動電圧を低電圧化できる。
【0025】
有機薄膜5を構成するπ共役化合物のHOMOおよびLUMOの分布は、非経験的分子軌道法により算出することができる。非経験的分子軌道法を用いたHOMOおよびLUMO算出は、汎用の量子化学計算ソフトを用いて行うことができ、例えば、米国Gaussian社製のGaussianシリーズ、Schrodinger社製のMarcoModel、Wavefunction社製のSpartan、アドバンスソフト社製のABINIT-MP/BioStation等が挙げられ、Gaussian09(Gaussian09W、Gaussian09M)が好適である。
Gaussian09Wを用いてπ共役化合物のHOMOまたはLUMOの分布を計算する場合、まず、チェックポイントファイルの指定、分子モデルの初期座標、計算方法と基底関数、電荷とスピン多重度を入力してインプットファイルを作成し、計算を実行することにより最適構造化を行い、π共役化合物の安定構造を計算する。次いで、得られた安定構造に対して分子軌道を表示することにより、π共役化合物のHOMOまたはLUMOの分布を可視化することができる。なお、インプットファイルの作成・実行の際の計算方法には、Hartree-Fock法、密度汎関数法(DFT)、MP(Moller Plesset perturbation theory)法、CC(Coupled Cluster theory)法を選択できる。本明細書において後述するGaussian09Wによる計算は、DFT法を用いて行った。また、Gaussian09Wでは安定構造の計算と同時にHOMO、LUMOも計算されており、GaussianViewによりHOMO、LUMOの分布を可視化できる。
【0026】
例えば、両極性電荷輸送性を示す有機材料として注目されている2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)の分子構造を以下に示す。
【0027】
【化1】
【0028】
MADNはアントラセンの両側(9位と10位)にナフタレンが結合した構造である。
MADNについて、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31G(d)により計算したMADNの安定構造を図2(a)に示す。また、この安定構造に対してMADNのHOMOの分子軌道を可視化したものを 図2(b)に、LUMOの分子軌道を可視化したものを図2(c)に示す。
図2に示すように、MADNのHOMOおよびLUMOの分子軌道はアントラセン環にあり、ナフタレン環にはほとんど存在しない。
MADNは両極性電荷輸送性であるが、後述の如く有機EL素子の電極間に配置される有機層の一層としてMADNを適用するには、MADN膜を電荷輸送性または正孔輸送性の層として機能させるいずれの場合にも、HOMOおよびLUMOが主に分布しているアントラセン環が、基材である電極表面に対して実質的に水平方向に配向するように膜中のMADNの配向を制御することにより、MADN膜の電荷輸送性を向上させることができ、当該有機EL素子の駆動電圧を低電圧化できる。
【0029】
有機薄膜5中のπ共役化合物の配向を上記の如く制御する方法としては、有機薄膜5の成膜後に熱処理を施す方法、有機薄膜5の成膜中の加熱、磁場あるいは電場の印加等により配向性を生じさせる方法が挙げられる。
一例として、MADN膜の場合は、後述の実施例に示す如く、成膜後のMADN膜を140℃で熱処理する、又はMADN膜の成膜時の基材(基板あるいは電極の成膜面)の温度を60℃以上にする、ことによりMADNのアントラセン環が実質的に基材表面に対して水平方向に配向したMADN膜を成膜できる。
【0030】
上述の如く本実施形態に有機薄膜5は、π共役化合物の複数のπ電子共役構造面のうち、電荷移動に関与する分子軌道(π共役化合物が正孔輸送性の場合はHOMO、電子輸送性の場合はLUMO)が主に分布するπ電子共役構造面が、基材表面に対して実質的に水平に配向して構成されている。ここで、「HOMOまたはLUMOが主に分布しているπ電子共役構造面」とは、π共役化合物の複数のπ電子共役構造平面の中で、HOMOまたはLUMOの分布割合が最も多いπ電子共役構造面を示す。なお、本実施形態の有機薄膜5を構成可能なπ共役化合物の中には、後述の如く、複数のπ電子共役構造面に満遍なくHOMOまたはLUMOが分布している場合もある。その場合は、最も面積の大きいπ電子共役構造面を基材表面に対して実質的に水平に配向させることが好ましく、これにより、有機薄膜5の電荷輸送性を向上できる。
【0031】
本実施形態の有機薄膜5において、π共役化合物の複数のπ電子共役構造面のうち、HOMOまたはLUMOが主に分布するπ電子共役構造面(第1のπ電子共役構造面)に平行な遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲であることが好ましい。有機薄膜Sの配向パラメータSが前記範囲であることにより、第1のπ電子共役構造面が基材表面に対して水平方向に近くなり、有機薄膜5の電荷輸送性が良好となるので好ましい。後述の実施例で示す如く、第1のπ電子共役構造面が、他のπ電子共役構造面よりも、基材表面に対して水平方向に配向することにより、第1のπ電子共役構造面に平行な遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1以下となり、電荷輸送性が向上していることが確認されている。
【0032】
配向パラメータSは、分子の配向軸と、基材に対して垂直方向との角度をθ(°)とした時、以下の式(A)で表される(非特許文献4参照)。
【0033】
【数1】
【0034】
(式(A)中、kxyは基板に対して水平方向の消衰係数、kzは基板に対して垂直方向の消衰係数を表す。)
ここで、x及びyを、互いに直交し且つ光学的に等方的な二つの方向とし、これらの方向の消衰係数をkx及びkyとすると、kxy=kx=kyである。
式(A)において、kxyおよびkzは有機薄膜5の分光エリプソメトリ等の光学的評価により求めることができる。例えば、有機薄膜が光学的に異方性を有していない場合はS=0、有機薄膜中の分子配向方向が基材に対して完全に垂直方向の場合はS=1、有機薄膜中の分子配向方向が基材に対して完全に水平方向の場合はS=−0.5となる。そのため、本実施形態では、上記した配向パラメータSの好ましい範囲の下限値を−0.5と設定した。
【0035】
本実施形態の有機薄膜5において、式(A)におけるθの設定基準となる分子の配向軸を、HOMOまたはLUMOが主に分布するπ電子共役構造面(第1のπ電子共役構造面)に平行な遷移双極子モーメントの方向とする。ここで、有機薄膜5を構成するπ共役化合物のπ電子共役構造面に平行な方向を含む各方向の遷移双極子モーメントは、Gaussian09Wの時間依存密度汎関数法(TD-DFT)を用いた電子励起状態の計算結果から得ることができる。得られた計算結果に遷移双極子モーメントの向き、大きさ、波長が記載されているので、これらと実際に測定した有機薄膜5の消衰係数曲線のピークの波長と比較することにより、どの吸収ピークがどの方向の遷移双極子モーメントに由来するかを判定できる。
【0036】
本実施形態の有機薄膜5において、式(A)におけるθの設定基準となる分子の配向軸は、HOMOまたはLUMOが主に分布する第1のπ電子共役構造面に平行な遷移双極子モーメントの方向とされるが、上記したMADNのように第1のπ電子共役構造面が、アントラセン等の長軸および短軸を有する形状の場合は、第1のπ電子共役構造面の長軸方向を分子の配向軸として、配向パラメータSを設定することが好ましい。この場合の配向パラメータSも、上記同様、−0.1〜−0.5の範囲とすることが好ましい。
【0037】
また、本実施形態の有機薄膜5において、第1のπ電子共役構造面が直線状である場合は、第1のπ電子共役構造面の直線方向(長尺方向)を分子の配向軸として、配向パラメータSを設定することが好ましい。この場合の配向パラメータSも、上記同様、−0.1〜−0.5の範囲とすることが好ましい。
【0038】
さらに、本実施形態の有機薄膜5において、第1のπ電子共役構造面が円形状あるいは正方形状である場合は、第1のπ電子共役構造面の面内にある(該共役構造面に平行な)遷移双極子モーメントの方向を分子の配向軸として、配向パラメータSを設定することが好ましい。この場合の配向パラメータSも、上記同様、−0.1〜−0.5の範囲とすることが好ましい。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の有機薄膜5は、π共役化合物の複数のπ電子共役構造面のうち、電荷移動に関与する分子軌道(π共役化合物が正孔輸送性の場合はHOMO、電子輸送性の場合はLUMO)が主に分布するπ電子共役構造面が、基材表面に対して実質的に水平に配向して構成されている。そのため、電荷移動に関与するπ軌道の重なりが大きくなることにより、良好な電荷輸送性を有する有機薄膜5となる。
本実施形態の電荷輸送性有機薄膜5は、有機エレクトロルミネッセンス素子、有機薄膜トランジスタ等、種々の有機電子デバイスに適用可能である。本実施形態の有機薄膜5は高い電荷輸送性を有するため、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)を構成する有機層の少なくとも一層として有機薄膜5を適用することで、該有機EL素子の電極から有機層(有機薄膜5)への電荷注入効率が向上し、該有機EL素子の駆動電圧を低電圧化できる。
【0040】
以下、上記本実施形態の有機薄膜5を用いてなる有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の一実施形態について説明する。
図3は、本発明に係る有機EL素子の一実施形態を示す概略模式図である。
図3に示す本実施形態に係る有機EL素子20は、ガラス板等の基板11上に形成された第1電極(陽極)12と、第1電極12に対向配置された第2電極(陰極)19と、この一対の電極12、19間に挟持された有機EL層(有機層)7から構成される。
【0041】
有機EL層7は、公知の有機EL材料を用いる事が可能で、例えば、第1電極12と第2電極19との間に少なくとも有機発光材料からなる有機発光層7を有する有機層を含む有機EL層7により構成されているが、これらに限定されるものではない。
本実施形態の有機EL素子20における有機EL層7は、有機発光層15の単層構造でも、図3に示すような有機発光層15と正孔輸送性または電子輸送性の電荷輸送層との多層構造でもよく、具体的には、下記の構成が挙げられるが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0042】
(1)有機発光層15
(2)正孔輸送層14/有機発光層15
(3)有機発光層15/電子輸送層17
(4)正孔輸送層14/有機発光層15/電子輸送層17
(5)正孔注入層13/正孔輸送層14/有機発光層15/電子輸送層17
(6)正孔注入層13/正孔輸送層14/有機発光層15/電子輸送層17/電子注入層18
(7)正孔注入層13/正孔輸送層14/有機発光層15/正孔防止層16/電子輸送層17
(8)正孔注入層13/正孔輸送層14/有機発光層15/正孔防止層16/電子輸送層17/電子注入層18
(9)正孔注入層13/正孔輸送層14/電子防止層/有機発光層15/正孔防止層16/電子輸送層17/電子注入層18
ここで、有機発光層15、正孔注入層13、正孔輸送層14、正孔防止層16、電子防止層、電子輸送層17及び電子注入層18の各層は、単層構造でも多層構造でもよい。
【0043】
上記本実施形態の有機薄膜5は良好な電荷輸送性を有するため、本実施形態の有機EL素子20の正孔注入層13、正孔輸送層14、電子防止層、有機発光層15、正孔防止層16、電子輸送層17、電子注入層18の少なくともいずれか一層に上記実施形態の有機薄膜5が適用されることが好ましい。
ここで、有機EL素子20の有機EL素子7を構成する少なくとも一層が電荷輸送性のπ共役化合物より構成され、該π共役化合物がその分子構造中に複数の平行でないπ電子共役構造面を有する場合に、上記本実施形態の有機薄膜5を適用可能である。なお、有機薄膜5の配向を適用可能な層および化合物については、後述する。
【0044】
以下、有機EL素子20の各構成要素について説明する。
第1電極12及び第2電極19は、陽極又は陰極として機能するものであることが好ましい。陰極を構成する材料としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。安定性を考慮する場合、陰極は、カルシウム膜、アルミニウム膜、アルミニウムリチウム合金、アルミニウム銅合金、アルミニウム銅シリコン合金、カルシウムとアルミニウムとの積層膜、リチウム、ナトリウムカリウム合金、マグネシウム合金膜、バリウム膜、バリウム化合物膜、セシウム膜、セシウム化合物膜、フッ素化合物膜等であることが好ましい。陽極を構成する材料としては、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO(登録商標))、酸化インジウム、酸化錫、Cd2SnO4、酸化亜鉛、ヨウ化銅、金、白金等が挙げられる。なお、図3には、第1電極12が陽極、第2電極19が陰極の場合を示しているが、本発明はこれに限定されず、第1電極12が陰極、第2電極19が陽極であってもよい。その場合、有機EL層7の積層構造を図3とは上下逆にして、陽極側に正孔輸送性の層を配置し、陰極側に電子輸送性の層を配置すればよい。
【0045】
第1電極12及び第2電極19は、上記の材料を用いてEB(電子ビーム)蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、抵抗加熱蒸着法等の公知の方法により基板上に形成することができるが、本発明はこれらの形成方法に限定されるものではない。また、必要に応じて、フォトリソグラフフィー法、レーザー剥離法により、形成した電極をパターン化することもでき、シャドーマスクと組み合わせることで直接パターン化した電極を形成することもできる。
第1電極12及び第2電極16の膜厚は、50nm以上が好ましい。第1電極12及び第2電極19の膜厚が50nm未満の場合には、配線抵抗が高くなることから、駆動電圧の上昇が生じるおそれがある。
【0046】
有機発光層15は、有機発光材料のみから構成されていてもよく、発光性のドーパントとホスト材料の組み合わせから構成されていてもよく、任意に正孔輸送材料、電子輸送材料、添加剤(ドナー、アクセプター等)等を含んでいてもよく、また、これらの材料が高分子材料(結着用樹脂)又は無機材料中に分散された構成であってもよい。発光効率・寿命の観点からは、ホスト材料中に発光性のドーパントが分散されたものが好ましい。
【0047】
有機発光材料としては、有機EL用の公知の発光材料を用いることができる。このような発光材料は、低分子発光材料、高分子発光材料等に分類され、これらの具体的な化合物を以下に例示するが、本発明はこれらの材料に限定されるものではない。また、上記発光材料は、蛍光材料、燐光材料等に分類されるものでもよく、低消費電力化の観点で、発光効率の高い燐光材料を用いる事が好ましい。
ここで、具体的な化合物を以下に例示するが、本発明はこれらの材料に限定されるものではない。
【0048】
有機発光層15に用いられる低分子発光材料としては、例えば、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)等の芳香族ジメチリデン化合物、5−メチル−2−[2−[4−(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)フェニル]ビニル]ベンゾオキサゾール等のオキサジアゾール化合物、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン等のスチリルベンゼン化合物、チオピラジンジオキシド誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、フルオレノン誘導体等の蛍光性有機材料、及び、アゾメチン亜鉛錯体、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq3)等の蛍光発光有機金属錯体、BeBq(ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体)、DTVBi(4,4’−ビス−(2,2−ジ−p−トリル−ビニル)−ビフェニル)、Eu(DBM)3(Phen)(トリス(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオノ)(モノフェナントロリン)Eu(III))、さらには、ジフェニルエチレン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ジアミノカルバゾール誘導体、ビススチリル誘導体、芳香性ジアミン誘導体、キナクリドン系化合物、ペリレン系化合物、クマリン系化合物、ジスチリルアリーレン誘導体(DPVBi)、オリゴチオフェン誘導体(BMA−3T)などが挙げられる。
【0049】
有機発光層15に用いられる高分子発光材料としては、例えば、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)(DO−PPP)、ポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニルレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(PDAF)等のポリスピロ誘導体などが挙げられる。
【0050】
有機発光層15が発光性のドーパントとホスト材料から構成される場合、有機発光層15のホスト材料としては、4,4’−ビス(カルバゾール)ビフェニル、9,9−ジ(4−ジカルバゾール−ベンジル)フルオレン(CPF)、1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン(mCP)、ポリ(N−オクチル−2,7−カルバゾール−O−9,9−ジオクチル−2,7−フルオレン)(PCF)、4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP)、9,9’−(5−(トリフェニルシリル)−1,3−フェニレン)ビス(9H−カルバゾール)(SimCP)、ビス(3,5−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)ジフェニルシラン(SimCP2)、9−(4−tert−ブチルフェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール(CzSi)、2,2’−ビス(4−カルバゾール−9−イル)フェニル)−ビフェニル(BCBP)、9,9’−((2,6−ジフェニルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジフラン−3,7−ジイル)ビス(4,1−フェニレン))ビス(9H−カルバゾール)(CZBDF)、等のカルバゾール誘導体、4−(ジフェニルフォスフォイル)−N,N−ジフェニルアニリン(HM−A1)等のアニリン誘導体、1,3−ビス(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)ベンゼン(mDPFB)、1,4−ビス(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)ベンゼン(pDPFB)、9,9−スピロビフルオレン−2−イル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(SPPO1)等のフルオレン誘導体、ビス(2−メチルフェニル)ジフェニルシラン(UGH1)、1,4−ビストリフェニルシリルベンゼン(UGH2)、プロパン−2,2’−ジイルビス(4,1−フェニレン)ジベンゾエート(MMA1)、4,4’−ビス(ジフェニルフォスフィンオキサイド)ビフェニル(PO1)、2,8−ビス(ジフェニルフォスフォリル)ジベンゾ[b,d]チオフェン(PPT)、4−(ジフェニルフォスフォリル)−N,N−ジフェニルアニリン(HM−A1)、2,4−ビス(フェノキシ)−6−(3−メチルジフェニルアミノ)−1,3,5−トリアジン(BPMT)、2−メチル−9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)等が挙げられる。
【0051】
有機発光層15が発光性のドーパントとホスト材料から構成される場合、有機発光層15に含まれる発光性のドーパントとしては、有機EL用の公知のドーパント材料を用いることができる。このようなドーパント材料としては、例えば、p−クォーターフェニル、3,5,3,5テトラ−t−ブチルセクシフェニル、3,5,3,5−テトラ−t−ブチル−p−クィンクフェニル、スチリル誘導体等の蛍光発光材料、ビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジナト−N,C2’]ピコリネート イリジウム(III)(FIrpic)、ビス(4’,6’−ジフルオロフェニルポリジナト)テトラキス(1−ピラゾイル)ボレート イリジウム(III)(FIr6)、トリス(2−フェニルピリジル)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(III)(Ir(piq)3)等の燐光発光有機金属錯体等が挙げられる。
【0052】
電荷注入輸送層は、電荷(正孔、電子)の電極12、19からの注入と、有機発光層15への輸送(注入)をより効率よく行う目的で、電荷注入層(正孔注入層13、電子注入層18)と電荷輸送層(正孔輸送層14、電子輸送層17)に分類され、以下に例示する電荷注入輸送材料のみから構成されていてもよく、任意に添加剤(ドナー、アクセプター等)等を含んでいてもよい。
電荷注入輸送材料としては、有機EL用、有機光導電体用の公知の電荷輸送材料を用いることができる。このような電荷注入輸送材料は、正孔注入輸送材料及び電子注入輸送材料に分類され、これらの具体的な化合物を以下に例示するが、本発明はこれらの材料に限定されるものではない。
【0053】
正孔注入層13および/または正孔輸送層14を構成する正孔注入輸送材料としては、例えば、酸化バナジウム(V2O5)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物、無機p型半導体材料、ポルフィリン化合物、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(α−NPD)、トリス(4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)アミン(TcTa)、4,4’−(シクロヘキサン−1,1−ジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(TAPC)、2,2’−ビス(N,N−ジフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(DPAS)、N1,N1’−(ビフェニル−4,4’−ジイル)ビス(N1−フェニル−N4,N4−ジ−m−トリルベンゼン−1,4−ジアミン)(DNTPD)、1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン(mCP)、N3,N3,N3”’, N3”’−テトラ−p−トリル−[1,1’:2’,1”:2”,1”’−クオーターフェニル]−3,3”’−ジアミン(BTPD)、4,4’−(ジフェニルシランジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(DTASi)、2,2−ビス(4−カルバゾール−9−イルフェニル)アダマンティン(Ad−Cz)等の芳香族第三級アミン化合物、ヒドラゾン化合物、キナクリドン化合物、スチリルアミン化合物、2−メチル−9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)等の低分子材料、ポリアニリン(PANI)、ポリアニリン−樟脳スルホン酸(PANI−CSA)、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネイト(PEDOT/PSS)、ポリ(トリフェニルアミン)誘導体(Poly−TPD)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)、ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)、ポリ(p−ナフタレンビニレン)(PNV)等の高分子材料等が挙げられる。
【0054】
陽極からの正孔の注入・輸送をより効率よく行う点で、正孔注入層13として用いる材料としては、正孔輸送層14に使用する正孔注入輸送材料より最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギー準位が低い材料を用いることが好ましく、正孔輸送層14としては、正孔注入層13に使用する正孔注入輸送材料より正孔の移動度が、高い材料を用いることが好ましい。
【0055】
また、より正孔の注入・輸送性を向上させるため、前記正孔注入輸送材料にアクセプターをドープする事が好ましい。アクセプターとしては、有機EL用の公知のアクセプター材料を用いることができる。これらの具体的な化合物を以下に例示するが、本発明はこれらの材料に限定されるものではない。
【0056】
正孔注入層13および/または正孔輸送層14を構成する正孔注入輸送材料にドープ可能なアクセプター材料としては、Au、Pt、W,Ir、POCl3 、AsF6 、Cl、Br、I、酸化バナジウム(V2O5)、酸化モリブデン(MoO2)等の無機材料、TCNQ(7,7,8,8,−テトラシアノキノジメタン)、TCNQF4(テトラフルオロテトラシアノキノジメタン)、TCNE(テトラシアノエチレン)、HCNB(ヘキサシアノブタジエン)、DDQ(ジシクロジシアノベンゾキノン)等のシアノ基を有する化合物、TNF(トリニトロフルオレノン)、DNF(ジニトロフルオレノン)等のニトロ基を有する化合物、フルオラニル、クロラニル、ブロマニル等の有機材料が挙げられる。この内、TCNQ、TCNQF4、TCNE、HCNB、DDQ等のシアノ基を有する化合物がよりキャリア濃度を効果的に増加させることが可能であるためより好ましい。
【0057】
電子注入層18および/または電子輸送層17を構成する電子注入輸送材料としては、例えば、n型半導体である無機材料、1,3−ビス(2−(2,2’−ピリジン−6−イル)−1,3,4−オキサジアゾ−5−イル)ベンゼン(Bpy−OXD)、1,3−ビス(5−(4−(tert−ブチル)フェニル)−1,3,4−オキサジアゾールー2−イル)ベンゼン(OXD7)等のオキサジアゾール誘導体、3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−tert−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、チオピラジンジオキシド誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、フルオレノン誘導体、ベンゾジフラン誘導体、2−メチル−9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)、トリス(2,4,6−トリメチル−3−(ピリジン−3−イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)、2,2’,2”−(1,3,5−ベンジントリル)−トリス(1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール)(TPBI)、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BPhen)、ジフェニルビス(4−(ピリジン−3−イル)フェニル)シラン(DPPS)、1,3,5−トリ((3−ピリジル)−フェン−3−イル)ベンゼン(TmPyPB)、1,3,5−トリ(p−ピリジ−3−イル−フェニル)ベンゼン(TpPyPB)等の低分子材料;ポリ(オキサジアゾール)(Poly−OXZ)、ポリスチレン誘導体(PSS)等の高分子材料が挙げられる。特に、電子注入材料としては、特にフッ化リチウム(LiF)、フッ化バリウム(BaF2)等のフッ化物、酸化リチウム(Li2O)等の酸化物等が挙げられる。
【0058】
電子の陰極からの注入・輸送をより効率よく行う点で、電子注入層18として用いる材料としては、電子輸送層17に使用する電子注入輸送材料より最低空分子軌道(LUMO)のエネルギー準位が高い材料を用いることが好ましく、電子輸送層17として用いる材料としては、電子注入層18に使用する電子注入輸送材料より電子の移動度が高い材料を用いることが好ましい。
【0059】
また、より電子の注入・輸送性を向上させるため、前記電子注入輸送材料にドナーをドープする事が好ましい。ドナーとしては、有機EL用の公知のドナー材料を用いることができる。これらの具体的な化合物を以下に例示するが、本発明はこれらの材料に限定されるものではない。
【0060】
電子注入層18および/または電子輸送層17を構成する電子注入輸送材料にドープ可能なドナー材料としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Al、Ag、Cu、In等の無機材料、アニリン類、フェニレンジアミン類、ベンジジン類(N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン等)、トリフェニルアミン類(トリフェニルアミン、4,4’4”−トリス(N,N−ジフェニル−アミノ)−トリフェニルアミン、4,4’4”−トリス(N−3−メチルフェニル−N−フェニル−アミノ)−トリフェニルアミン、4,4’4”−トリス(N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ)−トリフェニルアミン等)、トリフェニルジアミン類(N,N’−ジ−(4−メチル−フェニル)−N,N’−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミン)等の芳香族3級アミンを骨格にもつ化合物、フェナントレン、ピレン、ペリレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン等の縮合多環化合物(ただし、縮合多環化合物は置換基を有してもよい)、TTF(テトラチアフルバレン)類、ジベンゾフラン、フェノチアジン、カルバゾール等の有機材料がある。この内特に、芳香族3級アミンを骨格にもつ化合物、縮合多環化合物、アルカリ金属がよりキャリア濃度を効果的に増加させることが可能であるためより好ましい。
【0061】
電子防止層としては、正孔輸送層14及び正孔注入層13として前記したものと同じものを使用することができる。
正孔防止層16としては、電子輸送層17及び電子注入層18として前記したものと同じものを使用することができる。
【0062】
有機発光層15、正孔輸送層14、電子輸送層17、正孔注入層13、電子注入層18、正孔防止層16及び電子防止層等の有機EL層7は、上記の材料を溶剤に溶解、分散させた有機EL層形成用塗液を用いて、スピンコーティング法、ディッピング法、ドクターブレード法、吐出コート法、スプレーコート法等の塗布法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、マイクログラビアコート法等の印刷法等による公知のウエットプロセス、上記の材料を抵抗加熱蒸着法、電子線(EB)蒸着法、分子線エピタキシー(MBE)法、スパッタリング法、有機気相蒸着(OVPD)法等の公知のドライプロセス、又は、レーザー転写法等により形成することができる。なお、ウエットプロセスにより有機EL層7を形成する場合には、有機EL層7形成用塗液は、レベリング剤、粘度調整剤等の塗液の物性を調整するための添加剤を含んでいてもよい。
【0063】
有機EL層7を構成する各層の膜厚は、通常1〜1000nm程度であり、10〜200nmがより好ましい。有機EL層7を構成する各層の膜厚が10nm未満であると、本来必要とされる物性(電荷(電子、正孔)の注入特性、輸送特性、閉じ込め特性)が得られない可能性や、ゴミ等の異物による画素欠陥が生じる虞がある。また、有機EL層7を構成する各層の膜厚が200nmを超えると駆動電圧の上昇が生じ、消費電力の上昇に繋がる虞がある。
【0064】
有機EL層7を構成する層のいずれかの層に対して、上記した本発明に係る電荷輸送性有機薄膜5を適用する場合は、前述の如く有機薄膜を成膜した後に加熱処理する、有機薄膜を成膜時に加熱する、磁場あるいは電場の印加等により配向性を生じさせることにより、その配向性を制御すればよい。これにより、当該層を構成するπ共役化合物の複数のπ電子共役構造面のうち、電荷移動に関与するHOMOまたはLUMOが主に分布するπ電子共役構造面を基板11(および電極12)の表面に対して実質的に平行に配向させて、当該層の電荷輸送性を向上することができる。これにより、有機EL素子20の有機EL層7の電荷輸送性が向上するので、電極12、19から有機EL層7への電荷の注入効率が向上でき、有機EL素子20の駆動電圧を低電圧化できる。
【0065】
以下、有機EL素子20の有機EL層7において、上記した本発明に係る有機薄膜5の配向を適用可能なπ共役化合物および該化合物により構成される層の例を示す。
【0066】
正孔注入層13、正孔輸送層14を構成する代表的な正孔輸送材料であるN,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(α−NPD)の分子構造を以下に示す。
【0067】
【化2】
【0068】
また、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したα−NPDの安定構造を図4(a)に示し、同計算法により計算したα−NPDのHOMOの分子軌道を図4(b)に示す。
正孔輸送性のα−NPDは、正孔輸送に関与するHOMOの分子軌道は中央のビフェニル部に主に分布しており、ナフタレン部におけるHOMOの分子軌道はわずかである。従って、α−NPDを正孔注入層13または正孔輸送層14として用いる場合は、ナフタレン環が基板11(電極12)に対して水平方向に配向していても電荷輸送特性は低いと考えられ、ビフェニル部を基板11(電極12)に対して実質的に平行となるように配向させることで電荷輸送性を向上できると考えられる。
【0069】
正孔注入層13、正孔輸送層14を構成する正孔輸送材料である4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン(TcTa)の分子構造を以下に示す。
【0070】
【化3】
【0071】
また、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したTcTaの安定構造を図5(a)に示し、同計算法により計算したTcTaのHOMOの分子軌道を図5(b)に示す。
正孔輸送性のTcTaは、正孔輸送に関与するHOMOの分子軌道が分子全体に分布しているが、カルバゾール部が最も面積の広いπ電子共役構造面となっており、いずれかのカルバゾールが基板に対して水平に配置することにより、電荷輸送性が向上すると考えられる。
【0072】
電子注入層18、電子輸送層17を構成する電子輸送材料である2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)の分子構造を以下に示す。
【0073】
【化4】
【0074】
また、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したBCPの安定構造を図6(a)に示し、同計算法により計算したBCPのLUMOの分子軌道を図6(b)に示す。
電子輸送性のBCPは、電子輸送に関与するLUMOの分子軌道が、主にフェナントロリン部に分布しており、フェナントロリンが基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0075】
有機発光層15のホスト材料、あるいは、正孔注入層13、正孔輸送層14を構成する正孔輸送材料として用いられる1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン(mCP)の分子構造を以下に示す。
【0076】
【化5】
【0077】
また、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したmCPの安定構造を図7(a)に示し、同計算法により算出したmCPのHOMOの分子軌道を図7(b)に示す。
正孔輸送性のmCPは、カルバゾール部において正孔輸送に関与するHOMOの分子軌道の広がりが大きく、カルバゾール環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向に配向している方が電荷輸送特性は高くなる考えられる。
【0078】
正孔注入層13または正孔輸送層14を構成する正孔注入材料である4,4’−(シクロヘキサン−1,1−ジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(TAPC)の分子構造を以下に示す。
【0079】
【化6】
【0080】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、TAPCにおいては、個々のベンゼン環がそれぞれπ電子共役構造面となり、各π電子共役構造面は6角形あるいは円であり、正孔輸送に関与するHOMOはシクロヘキサンと結合しているベンゼン環に比較的偏って分布している。従って、シクロヘキサンと結合しているベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0081】
正孔注入層13または正孔輸送層14を構成する正孔注入材料である2,2’−ビス(N,N−ジフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(DPAS)の分子構造を以下に示す。
【0082】
【化7】
【0083】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、DPASにおいては、個々のベンゼン環がそれぞれπ電子共役構造面になっており、正孔輸送に関与するHOMOは主にジフェニルアミン 部に分布する。従って、ジフェニルアミン部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0084】
正孔注入層13または正孔輸送層14を構成する正孔注入材料であるN1,N1’−(ビフェニル−4,4’−ジイル)ビス(N1−フェニル−N4,N4−ジ−m−トリルベンゼン−1,4−ジアミン)(DNTPD)の分子構造を以下に示す。
【0085】
【化8】
【0086】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、DNTPDにおいては、個々のベンゼン環は同一平面上にはなく、それぞれπ電子共役構造面になっており、正孔輸送に関与するHOMOはN原子で挟まれた4つのベンゼン環の部分で広がっている。従って、これらのベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0087】
正孔輸送層14または正孔注入層13を構成する正孔輸送材料であるN3,N3,N3”’, N3”’−テトラ−p−トリル−[1,1’:2’,1”:2”,1”’−クオーターフェニル]−3,3”’−ジアミン(BTPD)の分子構造を以下に示す。
【0088】
【化9】
【0089】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、BTPDにおいては、個々のベンゼン環は同一平面上にはなく、それぞれπ電子共役構造面になっており、正孔輸送に関与するHOMOは主にN原子に結合しているベンゼン環に分布している。従って、この部分が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0090】
正孔輸送層14または正孔注入層13を構成する正孔輸送材料である4,4’−(ジフェニルシランジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(DTASi)の分子構造を以下に示す。
【0091】
【化10】
【0092】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、DTASiにおいては、個々のベンゼン環がそれぞれπ電子共役面になっており、正孔輸送に関与するHOMOは主にN原子に結合したベンゼン環に分布する。従って、N原子に結合したベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0093】
正孔輸送層14または正孔注入層13を構成する正孔輸送材料である2,2−ビス(4−カルバゾール−9−イルフェニル)アダマンティン(Ad−Cz)の分子構造を以下に示す。
【0094】
【化11】
【0095】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、Ad−Czにおいては、それぞれのカルバゾール環、ベンゼン環が別々の互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。正孔輸送に関与するHOMOは主にカルバゾール部に分布する。従って、カルバゾール部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0096】
有機発光層15のホスト材料である4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP)の分子構造を以下に示す。
【0097】
【化12】
【0098】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、CBPにおいて、それぞれのカルバゾール環、ベンゼン環が別々のπ電子共役構造面を形成しており、全てのπ電子共役構造面が互いに平行ではない。CBPにおいて、正孔輸送に関与するHOMOは主にカルバゾール部に分布する。従って、カルバゾール部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主にN原子に挟まれたビフェニル部に分布する。従って、N原子に挟まれたビフェニル部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0099】
有機発光層15のホスト材料であるビス(2−メチルフェニル)ジフェニルシラン(UGH1)の分子構造を以下に示す。
【0100】
【化13】
【0101】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、UGH1において、各ベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。UGH1において、正孔輸送に関与するHOMOは主にメチル基が結合しているベンゼン環に分布する。従って、メチル基が結合しているベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主にメチル基が結合していないベンゼン環に分布する。従って、メチル基が結合していないベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0102】
有機発光層15のホスト材料である1,4−ビストリフェニルシリルベンゼン(UGH2)の分子構造を以下に示す。
【0103】
【化14】
【0104】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、UGH2において、各ベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。UGH2において、HOMOおよびLUMOは主にSi原子に挟まれたベンゼン環に分布する。従って、Si原子に挟まれたベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0105】
有機発光層15のホスト材料である9,9’−(5−(トリフェニルシリル)−1,3−フェニレン)ビス(9H−カルバゾール)(SimCP)の分子構造を以下に示す。
【0106】
【化15】
【0107】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、SimCPにおいて、それぞれのカルバゾール環、ベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。SimCPにおいて、正孔輸送に関与するHOMOは主にカルバゾール部に分布する。従って、カルバゾール部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主に中央のベンゼン環に分布する。従って、中央のベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0108】
有機発光層15のホスト材料であるビス(3,5−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)ジフェニルシラン(SimCP2)の分子構造を以下に示す。
【0109】
【化16】
【0110】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、SimCP2において、それぞれのカルバゾール環、ベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。SimCP2において、正孔輸送に関与するHOMOは主にカルバゾール部に分布する。従って、カルバゾール部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主にSi原子とN原子が結合しているベンゼン環に分布する。従って、Si原子とN原子が結合しているベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0111】
有機発光層15のホスト材料である9,9−スピロビフルオレン−2−イル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(SPPO1)の分子構造を以下に示す。
【0112】
【化17】
【0113】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、SPPO1において、各ベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。SPPO1において、正孔輸送に関与するHOMOは主にP原子と結合していない方のフルオレン部に分布する。従って、P原子と結合していない方のフルオレン部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主にP原子と結合している方のフルオレン部に分布する。従って、P原子と結合している方のフルオレン部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0114】
有機発光層15のホスト材料であるプロパン−2,2’−ジイルビス(4,1−フェニレン)ジベンゾエート(MMA1)の分子構造を以下に示す。
【0115】
【化18】
【0116】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、MMA1において、各ベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。MMA1において、正孔輸送に関与するHOMOは主にO原子が結合しているベンゼン環に分布する。従って、O原子が結合しているベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主に末端のベンゼン環に分布する。従って、末端のベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0117】
有機発光層15のホスト材料である9−(4−tert−ブチルフェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール(CzSi)の分子構造を以下に示す。
【0118】
【化19】
【0119】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、CzSiにおいて、中央のカルバゾール環、その他のベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。CzSiにおいて、HOMOおよびLUMOは主にカルバゾール部に分布する。従って、カルバゾール部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0120】
有機発光層15のホスト材料である4,4’−ビス(ジフェニルフォスフィンオキサイド)ビフェニル(PO1)の分子構造を以下に示す。
【0121】
【化20】
【0122】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、PO1において、真ん中の2つのベンゼン環(ビフェニル部)が同一平面上にあり、1つのπ電子共役構造面を形成しており、その他のベンゼン環(ジフェニル部)のπ電子共役構造面とは互いに平行でない。PO1において、HOMOおよびLUMOは主にジフェニル部に分布する。従って、ジフェニル部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0123】
有機発光層15のホスト材料である2,2’−ビス(4−カルバゾール−9−イル)フェニル)−ビフェニル(BCBP)の分子構造を以下に示す。
【0124】
【化21】
【0125】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、BCBPにおいて、両側のカルバゾール環と中央の4つのベンゼン環は同一平面上になく、互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。BCBPにおいて、正孔輸送に関与するHOMOは主にカルバゾール部に分布する。従って、カルバゾール部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主にカルバゾールに結合したフェニルおよびビフェニル部に分布する。従って、カルバゾールに結合したフェニルおよびビフェニル部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0126】
有機発光層15のホスト材料である2,8−ビス(ジフェニルフォスフォリル)ジベンゾ[b,d]チオフェン(PPT)の分子構造を以下に示す。
【0127】
【化22】
【0128】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、PPTにおいて、中央のジベンゾチオフェンとベンゼン環とが互いに平行でないπ電子共役構造面となっている。PPTにおいて、HOMOおよびLUMOは主にジベンゾチオフェン部に分布する。従って、ジベンゾチオフェン部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0129】
有機発光層15のホスト材料である4−(ジフェニルフォスフォリル)−N,N−ジフェニルアニリン(HM−A1)の分子構造を以下に示す。
【0130】
【化23】
【0131】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、HM−A1において、各ベンゼン環が別々に互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。HM−A1において、正孔輸送に関与するHOMOは主にジフェニルアニリン部に分布する。従って、ジフェニルアニリン部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主にN原子とP原子に挟まれたベンゼン環に分布する。従って、N原子とP原子に挟まれたベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0132】
有機発光層15のホスト材料である9,9’−((2,6−ジフェニルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジフラン−3,7−ジイル)ビス(4,1−フェニレン))ビス(9H−カルバゾール)(CZBDF)の分子構造を以下に示す。
【0133】
【化24】
【0134】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、CZBDFにおいて、中央のベンゾジフランと両端のカルバゾール、その他のベンゼン環が互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。CZBDFにおいて、HOMOおよびLUMOは主にジベンゾフラン部に分布する。従って、ジベンゾフラン部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0135】
有機発光層15のホスト材料である2,4−ビス(フェノキシ)−6−(3−メチルジフェニルアミノ)−1,3,5−トリアジン(BPMT)の分子構造を以下に示す。
【0136】
【化25】
【0137】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、BPMTにおいて、トリアジン環、ベンゼン環が互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。BPMTにおいて、正孔輸送に関与するHOMOは主にジフェニルアミノ基に分布する。従って、ジフェニルアミノ基が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、正孔輸送特性を向上できると考えられる。また、電子輸送に関与するLUMOは主にトリアジン環およびトリアジン環とO原子を介して結合しているベンゼン環に分布する。従って、トリアジン環およびトリアジン環とO原子を介して結合しているベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電子輸送特性を向上できると考えられる。
【0138】
電子輸送層17または電子注入層18を構成する電子輸送材料である2,2’,2”−(1,3,5−ベンジントリル)−トリス(1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール)(TPBI)の分子構造を以下に示す。
【0139】
【化26】
【0140】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、TPBI3において、各ベンゾイミダゾールとベンゼン環は互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。電子輸送に関与するLUMOは主に中央のベンゼン環に分布する。従って、中央のベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0141】
電子輸送層17または電子注入層18を構成する電子輸送材料である3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−tert−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)の分子構造を以下に示す。
【0142】
【化27】
【0143】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、TAZにおいて、トリアゾール環と各ベンゼン環は互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。電子輸送に関与するLUMOは主にビフェニルのトリアゾール側のベンゼン環に分布する。従って、ビフェニルのトリアゾール側のベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0144】
電子輸送層17または電子注入層18を構成する電子輸送材料である4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BPhen)の分子構造を以下に示す。
【0145】
【化28】
【0146】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、BPhenにおいて、フェナントロリン環と各ベンゼン環は互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。電子輸送に関与するLUMOは主にフェナントロリン部に分布する。従って、フェナントロリン部が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0147】
電子輸送層17または電子注入層18を構成する電子輸送材料であるジフェニルビス(4−(ピリジン−3−イル)フェニル)シラン(DPPS)の分子構造を以下に示す。
【0148】
【化29】
【0149】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、DPPSにおいて、各ピリジン環と各ベンゼン環は互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。電子輸送に関与するLUMOは主にピリジン環およびピリジン環と結合しているベンゼン環に分布する。従って、ピリジン環およびピリジン環と結合しているベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0150】
電子輸送層17または電子注入層18を構成する電子輸送材料である1,3,5−トリ((3−ピリジル)−フェン−3−イル)ベンゼン(TmPyPB)の分子構造を以下に示す。
【0151】
【化30】
【0152】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、TmPyPBにおいて、各ピリジン環と各ベンゼン環は互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。電子輸送に関与するLUMOは主に4つのベンゼン環(1,3,5−トリフェニルベンゼン部)に分布する。従って、4つのベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0153】
電子輸送層17または電子注入層18を構成する電子輸送材料である1,3,5−トリ(p−ピリジ−3−イル−フェニル)ベンゼン(TpPyPB)の分子構造を以下に示す。
【0154】
【化31】
【0155】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより計算したところ、TpPyPBにおいて、各ピリジン環と各ベンゼン環は互いに平行でないπ電子共役構造面を形成している。電子輸送に関与するLUMOは主に4つのベンゼン環(1,3,5−トリフェニルベンゼン部)に分布する。従って、4つのベンゼン環が基板11(電極12)に対して実質的に水平方向になるように配向させることにより、電荷輸送特性を向上できると考えられる。
【0156】
上記で例示した有機EL層7を構成するπ共役化合物および該化合物より構成される層は一例であるが、上記の如く、有機EL層7を構成する少なくともいずれかの層に対して、上記した本発明に係る電荷輸送性有機薄膜5を適用することができる。これにより、当該層を構成するπ共役化合物の複数のπ電子共役構造面のうち、電荷移動に関与するHOMOまたはLUMOが主に分布するπ電子共役構造面を基板11(および電極12)の表面に対して実質的に平行に配向させて、当該層の電荷輸送性を向上することができる。従って、有機EL素子20の有機EL層7の電荷輸送性が向上するので、電極12、19から有機EL層7への電荷の注入効率が向上でき、有機EL素子20の駆動電圧を低電圧化できる。
【0157】
なお、本発明に係る有機EL素子は、発光した光を基板側に放射するボトムエミッションタイプのデバイスで構成されていてもよいし、そうではなくて基板とは反対側に放射するトップエミッションタイプのデバイスで構成されていてもよい。また、本発明の有機発光素子の駆動方式は特に限定されず、アクティブ駆動方式でもパッシブ駆動方式でも良いが、有機発光素子をアクティブ駆動方式で駆動させる方が好ましい。アクティブ駆動方式を採用することにより、パッシブ駆動方式に比べて有機発光素子の発光時間を長くすることができ、所望の輝度を得る駆動電圧を低減し、低消費電力化が可能となるため好ましい。
【実施例】
【0158】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳述するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0159】
(比較例1)
基板として、電極および配線としてパターニングされた厚さ150nmのIZO(登録商標、酸化インジウム亜鉛)膜が形成された厚さ0.7mmのガラスを用いた。この基板を水洗後、純水超音波洗浄10分、アセトン超音波洗浄10分、イソプロピルアルコール蒸気洗浄5分を行い、100℃にて1時間乾燥させた。
次に、洗浄後の基板に酸素を少量含む窒素雰囲気中でUV光を照射し、表面の洗浄処理を施した後、真空蒸着装置内に導入した。その後、基板上に室温で膜厚100nmの2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)を真空蒸着により形成した。次いで、電極および配線パターンを有するシャドーマスクを用いて、Alを蒸着し、MADN膜上に厚さ100nmのアルミニウム(Al)電極を形成し、その後にグローブボックス内にて封止して、比較例1の素子1を作製した。
【0160】
(実施例1)
比較例1の素子1と同じ手順でIZO(登録商標)上に膜厚100nmのMADNを蒸着した後、酸素および水分濃度が制御された窒素雰囲気のグローブボックス内で、140℃で30分間熱処理した。
次に、熱処理後のMADN付き基板を真空蒸着室内に戻し、電極および配線パターンを有するシャドーマスクを用いて、MADN膜上に厚さ100nmのAlを蒸着して電極を形成した後にグローブボックス内にて封止して、実施例1の素子2を作製した。
【0161】
素子1(比較例1)および素子2(実施例1)のMADN膜の分子の配向状態を調べるため、素子1および素子2の基板について、Al蒸着直前に取り出し、分光エリプソメーター(J. A. Woollam社製M−2000U)により測定した。
分光エリプソメーターの測定データを解析し、素子1および素子2の基板のMADN膜の光学定数(屈折率nおよび消衰係数k)を導出した。素子1(比較例1)の解析結果を図8(a)に、素子2(実施例1)の解析結果を図8(b)に示す。測定データの解析は、MADN膜が基板に垂直な方向に一軸対称性を持つとしたモデルで行った。なお、図8に示すグラフにおいて、「kx,ky」は基板に対して水平方向の消衰係数、「kz」は基板に対して垂直方向の消衰係数、「nx,ny」は基板に対して水平方向の屈折率、「nz」は基板に対して垂直方向の屈折率をそれぞれ示す。
【0162】
図8(a)及び図8(b)に示すように、消衰係数「kx,ky」及び「kz」にピークが2つ見られ、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31G(d)によるMADN分子の遷移双極子モーメントの計算結果から、波長250nm付近のピークは図2(a)に示すアントラセンの長軸方向(y方向)の遷移双極子モーメントに由来し、波長400nm付近のピークは図2(b)に示すアントラセンの短軸方向(x方向)の遷移双極子モーメントに由来することがわかった。
波長250nm付近のピークにおけるMADN膜のアントラセンの長軸方向(y方向)の遷移双極子モーメントに対する配向パラメータS、及び、400nm付近のピークにおけるアントラセンの短軸方向(x方向;ナフタレン環のπ共役平面に水平方向)の遷移双極子モーメントに対する配向パラメータSを、それぞれ上記式(A)より求めた。その結果を図8(a)および図8(b)に合わせて示す。
【0163】
図8(a)の結果より、熱処理を施さなかった比較例1の素子1では、MADNを構成するアントラセンの短軸方向(図2(a)のx方向)の異方性が強く、ナフタレン環が基板に対して垂直よりも水平方向に向く傾向があることがわかる。それに対して、図8(b)に示す熱処理を施した実施例1の素子2では、MADNを構成するアントラセンの長軸方向(図2(a)のy方向)の異方性が強くなり、アントラセン環が基板に対して垂直よりも水平方向に向く傾向に変わっており、アントラセン環が基板に対して実質的に水平に配向していた。
【0164】
このように配向性の異なるMADN膜の電気的特性を素子1および素子2の電流−電圧(I−V)特性測定により評価した。I−V特性の測定結果を図9に示す。この結果は、実施例1の素子2の方が、比較例1の素子1よりも印加電圧に対してより電流が流れやすく、MADNを構成するナフタレン環が基板に対して水平に向いた状態よりもアントラセン環が基板に対して実質的に水平方向に向いている方が電荷輸送性が高いことを示す。すなわち、図2(a)に示すように、HOMOの分子軌道がほとんど分布していないナフタレン環が基板に対して水平に向いているよりも、HOMOの分子軌道が主に分布しているアントラセン環が基板に対して水平に向いている方が電荷輸送性が高くなることが明らかである。以上の結果より、薄膜の配向を制御して電荷輸送性を向上させるためには、HOMO(またはLUMO)の分子軌道の分布を考慮し、HOMO(またはLUMO)が主に分布しているπ電子共役構造面を基板に対して実質的に平行に配向させることが重要であることが確認された。
【0165】
(実施例2)
実施例1と同様にIZO(登録商標)基板を準備し、洗浄を施して真空蒸着装置内に導入した。
次に、蒸着室内で基板温度を80℃まで昇温し、その状態でIZO(登録商標)上に2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)を膜厚100nm蒸着した。蒸着後、基板温度を40℃以下に降温して、電極および配線パターンを有するシャドーマスクを用いてAlを100nm蒸着して、MADN膜上にアルミニウム(Al)電極を形成した。その後、蒸着した基板をグローブボックス内で封止して実施例2の素子3を作製した。
【0166】
実施例2の素子3と同じ条件で蒸着したMADN膜の配向性を、実施例1および比較例1と同様の手法で分光エリプソで評価した結果、実施例1の素子2のMADN膜と同じであることがわかった。
また、素子3の電流−電圧(I−V)特性を測定したところ、実施例2の素子3のI−V特性も実施例1の素子2とほぼ同じであり、比較例1の素子1よりも印加電圧に対してより電流が流れやすくなっていた。
実施例2の素子3の結果からも、上記実施例1と同様に、MADNを構成するナフタレン環が基板に対して水平に向いた状態よりもアントラセン環が基板に対して水平に向いている方が電荷輸送性が高くなることが示された。
【0167】
(比較例2)
比較例1と同様にして基板として、IZO(登録商標)基板上に室温で膜厚100nmの2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)を真空蒸着により形成した。
次に、MADN膜上に真空蒸着によりAlq3(トリス(8−キノラリト)アルミニウム)膜を膜厚50nm形成した。
次いで、電極および配線パターンを有するシャドーマスクを用いて、Alを蒸着し、Alq3膜上に厚さ100nmのアルミニウム(Al)電極を形成し、その後にグローブボックス内にて封止して、比較例2の素子4を作製した。
【0168】
(実施例3)
比較例2の素子4と同じ手順でIZO(登録商標)上に膜厚100nmのMADNを蒸着した後、酸素および水分濃度が制御された窒素雰囲気のグローブボックス内で、140℃で30分間熱処理した。
次に、熱処理後のMADN付き基板を真空蒸着室内に戻し、MADN膜上に真空蒸着によりAlq3(トリス(8−キノラリト)アルミニウム)膜を膜厚50nm形成した。
次いで、電極および配線パターンを有するシャドーマスクを用いて、MADN膜上に厚さ100nmのAlを蒸着して電極を形成した後にグローブボックス内にて封止して、実施例3の素子5を作製した。
【0169】
比較例2の素子4および実施例3の素子5のI−V特性を測定したところ、素子5のI−V特性の方が素子4よりも印加電圧に対してより電流が流れやすく、この素子構造に対してもMADNを構成するナフタレン環が基板に対して水平に向いた状態よりもアントラセン環が基板に対して水平に向いている方が電荷輸送性が高いことが示された。
【0170】
(検討例1)
実施例1及び比較例1と同様にしてMADN膜を成膜した後、(1)熱処理をしない、(2)100℃30分間の熱処理を施す、(3)140℃30分間の熱処理を施す、のいずれかの条件で処理を行ったあと、実施例1及び比較例1と同様にしてAl電極の形成および封止を行った。
得られた各素子について、電流−電圧(I−V)特性測定を行った。結果を図10に示す。
図10の結果より、MADN膜は、成膜後に140℃で熱処理することにより配向性が変化し、ナフタレン環よりもアントラセン環が基板に実質的に水平に配向し、電荷輸送性が向上することがわかった。
【0171】
(検討例2)
MADN膜の成膜後の熱処理温度を20℃、80℃、100℃、120℃、140℃に変化させたこと以外は、検討例1と同様にして素子を作製し、得られた各素子について、配向パラメータSおよび2V印加時の電流密度を測定した。その結果を図11に示す。なお、図11において、「S−アントラセンy」は、図8に示すように消衰係数の波長250nm付近のピークにおけるアントラセンの長軸方向(y方向)の遷移双極子モーメントに対する配向パラメータSを示す。また、「S−アントラセンx」は、図8に示すように消衰係数の波長400nm付近のピークにおけるアントラセンの短軸方向(x方向;ナフタレン環のπ共役平面に水平方向)の遷移双極子モーメントに対する配向パラメータSを示す。
図10の結果より、MADN膜は、成膜後に140℃で熱処理することにより配向性が変化し、配向パラメータ「S−アントラセンy」が−0.15以下となっており、ナフタレン環よりもアントラセン環が基板に対して実質的に水平に配向し、電荷輸送性が向上していた。
【0172】
(検討例3)
MADN膜の成膜時のIZO(登録商標)基板温度を室温〜120℃まで変化させたこと以外は、比較例1と同様にして素子を作製した。得られた素子について、実施例1及び比較例1と同様の手法で分光エリプソで評価し、波長250nm付近の消衰係数のピークにおける配向パラメータSと、波長400nm付近の消衰係数のピークにおける配向パラメータSを測定した。その結果を、図12に示す。
図12に示すように、基板の温度を60℃以上としてMADN膜を成膜することにより、波長250nm付近のピークに由来する配向パラメータSと、波長400nm付近のピークに由来する配向パラメータSとの大小関係が逆転しており、MADNにおけるナフタレン環よりもアントラセン環の方が基板に対して水平方向となるような配向に変化したことがわかる。この結果より、配向パラメータSが−0.1以下の場合に、HOMOが主に分布しているアントラセン環が基板に対して実質的に水平に配向し、電荷輸送性が向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明は、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)、色変換発光素子、光変換発光素子、光電変換素子、有機薄膜トランジスタ、有機レーザーダイオード素子等に利用することができ、また、各発光素子を用いた表示装置、照明装置および電子機器等にも利用することができる。
【符号の説明】
【0174】
1、2…電極、5…電荷輸送性有機薄膜、7…有機EL層(有機層)、10…素子、11…基板、12、19…電極、13…正孔注入層、14…正孔輸送層、15…有機発光層、16…正孔防止層、17…電子輸送層、18…電子注入層、20…有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成され、互いに平行でない複数のπ電子共役構造面を有する電荷輸送性のπ共役化合物を含んでなる電荷輸送性の非晶質薄膜であって、
前記π共役化合物が電子輸送性である場合は最低非占有分子軌道(LUMO)が主に分布しているπ電子共役構造面を、
前記π共役化合物が正孔輸送性である場合は最高占有分子軌道(HOMO)が主に分布しているπ電子共役構造面を、それぞれ第1のπ電子共役構造面としたとき、
前記第1のπ電子共役構造面が前記基材の表面に対して実質的に平行に配向していることを特徴とする電荷輸送性有機薄膜。
【請求項2】
前記HOMOおよび前記LUMOが、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法により導出されることを特徴とする請求項1に記載の電荷輸送性有機薄膜。
【請求項3】
前記第1のπ電子共役構造面に平行な遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の電荷輸送性有機薄膜。
【請求項4】
前記第1のπ電子共役構造面が長軸および短軸を有し、前記第1のπ電子共役構造面の長軸方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電荷輸送性有機薄膜。
【請求項5】
前記第1のπ共役構造面が、前記π共役化合物において最も面積の広いπ電子共役構造面であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電荷輸送性有機薄膜。
【請求項6】
発光材料を含む少なくとも1層の有機層が2枚の対向する電極間に配置された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記有機層が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電荷輸送性有機薄膜を含んでなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項1】
基材上に形成され、互いに平行でない複数のπ電子共役構造面を有する電荷輸送性のπ共役化合物を含んでなる電荷輸送性の非晶質薄膜であって、
前記π共役化合物が電子輸送性である場合は最低非占有分子軌道(LUMO)が主に分布しているπ電子共役構造面を、
前記π共役化合物が正孔輸送性である場合は最高占有分子軌道(HOMO)が主に分布しているπ電子共役構造面を、それぞれ第1のπ電子共役構造面としたとき、
前記第1のπ電子共役構造面が前記基材の表面に対して実質的に平行に配向していることを特徴とする電荷輸送性有機薄膜。
【請求項2】
前記HOMOおよび前記LUMOが、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法により導出されることを特徴とする請求項1に記載の電荷輸送性有機薄膜。
【請求項3】
前記第1のπ電子共役構造面に平行な遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の電荷輸送性有機薄膜。
【請求項4】
前記第1のπ電子共役構造面が長軸および短軸を有し、前記第1のπ電子共役構造面の長軸方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電荷輸送性有機薄膜。
【請求項5】
前記第1のπ共役構造面が、前記π共役化合物において最も面積の広いπ電子共役構造面であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電荷輸送性有機薄膜。
【請求項6】
発光材料を含む少なくとも1層の有機層が2枚の対向する電極間に配置された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記有機層が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電荷輸送性有機薄膜を含んでなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【図1】
【図3】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図3】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2013−30674(P2013−30674A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166910(P2011−166910)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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