説明

電装用ケーブル

【課題】屈曲や伸縮変形に対しスムーズに追従し、配線させたケーブルとの接触時に生じるごわごわ感や曲げ反発感を軽減できる電装用ケーブルを提供すること。
【解決手段】弾性体からなる芯部、導体線からなる導体部および絶縁体からなる被覆部の少なくとも三層構造からなるケーブルであって、該ケーブルの伸縮率が10%〜200%、且つ、曲げ反発力が2N以下であることを特徴とする電装用ケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮と屈曲を受け易いロボット分野や電装衣服分野に用いられるケーブルに関し、ケーブルとの接触時に生じる不快感と使用中の曲げ難さを軽減させることが出来る電装用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モーションキャプチャー・システムやウェアラブル・コンピューターに用いられる、電子機器等が装備された衣服、または電子機器間を結ぶ配線が配された衣服が提案されており(下記特許文献1〜3参照)、これらの衣服に配線される伝送線としては、芯線に銅線を用いて周囲を軟化ゴムや塩化ビニル等の合成樹脂で被覆した柔軟性のある絶縁電線や信号伝送ケーブルが用いられていた。しかし、これらの電線は屈曲に対する柔軟性はあるものの、伸縮性が殆ど無いため、ロボットや人体の関節部に配線する際は、大きく余裕を持って配線させなければ、突っ張りによる断線や接続不良の原因となる。さらに、余裕を持った配線が垂れ下がって、引っ掛かりや巻き込まれの問題も発生していた。一方、電気信号ではなく光信号を伝送するための光信号伝送ケーブルを用いることも考えられるが、光信号伝送ケーブルは一般的に剛直で取り扱い性が悪く、柔軟性や伸縮性を必要とする用途に用いることは困難であった。
【0003】
近年、伸縮自在な芯材の周囲に銅線や光ファイバー等の伝送線を配設又は捲回させ、外層を繊維など絶縁体で被覆した伸縮電線、信号伝送ケーブルおよび光信号伝送ケーブルが提案され、伸縮性を付与してロボット分野、身体装着機器配線、衣服装着機器配線および多関節ロボット等への産業上の利用可能性が示唆され(下記特許文献4〜8参照)、このような伸縮伝送線を利用した生体信号測定装置が提案されている(下記特許文献9参照)。
【0004】
しかしながら、これらは伸縮伝送線を配する際の、屈曲柔軟性(曲げ反発力)を考慮していないため、主にパワーアシストスーツやモーションキャプチャーに利用した場合、伸縮伝送線の曲げ反発力による曲げ難さやごわごわ感などが解消できず、これらの不快感を改善する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−261090号公報
【特許文献2】特開2000−357025号公報
【特許文献3】特開2000−148290号公報
【特許文献4】特開2002−313145号公報
【特許文献5】特許第4057877号公報
【特許文献6】国際公開第2008/078780号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2009/157070号パンフレット
【特許文献8】国際公開第2010/074259号パンフレット
【特許文献9】特開2010−142413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記従来技術の問題点を解決し、伸縮性と柔軟性を兼ね備えて、屈曲による不快感を解消することができる電装用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、ケーブルの伸縮率と曲げ反発力を特定範囲とすることで上記課題を解決できることを見いだし、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は下記の発明を提供する。
(1)弾性体からなる芯部、導体線からなる導体部および絶縁体からなる被覆部の少なくとも三層構造からなるケーブルであって、該ケーブルの伸縮率が10%〜200%、且つ、曲げ反発力が2N以下であることを特徴とする電装用ケーブル。
(2)芯部の破断伸度が100%以上、且つ、曲げ反発力が1N以下である上記1項に記載の電装用ケーブル。
(3)電装衣服に用いる上記1又は2項に記載の電装用ケーブル。
(4)電装衣服がパワーアシストスーツである上記3項に記載の電装用ケーブル。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電装用ケーブルは、屈曲および伸縮変形に対して柔らかくスムーズに追従するため、ケーブルとの接触時に生じる不快感(ごわごわ感)と使用中の曲げ難さ(曲げ反発感)を軽減できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】電装用ケーブルの曲げ反発力の測定方法を示した略図である。
【図2】電装用ケーブルの不快感評価時に使用した擬似腕の断面を示した略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の電装用ケーブルは、弾性体からなる芯部、導体線からなる導体部および絶縁体からなる被覆部の少なくとも三層構造からなる。尚、3層目の被覆部は、絶縁体として絶縁繊維を用いて被覆し、さらに弾性樹脂またはゴムチューブからなる絶縁体で被覆しても良く、最外層を再度絶縁繊維で被覆した多層構造でも良い。
【0011】
本発明において、電装用ケーブルとは、電子機器、電源、センサ等の、電力や電気データ等のやり取りを行なう電気関係の装置間を結んで、電力や電気データ等を送る電送線を言う。また、電装衣服とは、電子機器等が装備された衣服または電子機器間を結ぶ配線が配された衣服を言い、例えば、モーションキャプチャー・システムやウェアラブル・コンピューターに用いられる衣服およびパワーアシストスーツなどが挙げられる。
【0012】
本発明の電装用ケーブルは、伸縮率が10%〜200%であることが必要である。ここで言う伸縮率とは伸縮回復率が50%以上を保持できる最大伸縮率である。尚、伸縮率や伸縮回復率は後述する実施例中の測定方法で求めたものである。伸縮率が10%未満であると伸長性に乏しく、配線後の屈曲繰返しで突っ張りによる断線や接続外れを引き起こす。一方、200%を超えると製造困難となり伸縮回復率を低下させる。
更に本発明の電装用ケーブルは、曲げ反発力が2N以下である必要がある。ここで言う曲げ反発力は後述する実施例中の測定方法で求めるが、図1に示すように所定の長さで円形状にしたケーブルの圧縮強さである。曲げ反発力が2Nを超えるケーブルは、接触時のごわごわ感や曲げ反発感が増して不快感につながる。ケーブル耐久性の点から、0.01N以上であることが好ましい。本発明の電装用ケーブルは、芯部、導体部、被覆部のそれぞれに曲げ剛性が低い材料を選定することで、2N以下の曲げ反発力とすることができる。
【0013】
本発明の電装用ケーブルの芯部に用いる弾性体は、伸縮回復性に優れていることが好ましく、例えば50%伸縮回復率が80%以上である弾性体であることが好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。50%伸縮回復率がこの範囲であると、繰返しの伸縮回復性に優れたケーブルが得られる。また、弾性体は50%伸長応力が1〜200cN/mm2であることが好ましく、より好ましくは5〜100cN/mm2、特に好ましくは10〜50cN/mm2である。50%伸長応力がこの範囲であると、小さな力で伸長が可能なケーブルが得られる。
このような弾性体から得られた、本発明の電装用ケーブルの芯部の破断伸度は100〜1000%であることが好ましく、120〜600%がより好ましく、140〜400%が特に好ましい。破断伸度がこの範囲であると、高い伸縮性を有するケーブルが得られる。
さらに、芯部の曲げ反発力は1N以下であることが好ましい。より好ましくは0.005〜0.8Nである。曲げ反発力がこの範囲であると、接触時のごわごわ感や曲げ反発感を殆ど感じないケーブルが得られる。
【0014】
電装用ケーブルの芯部に用いる弾性体の種類としては、前記の好ましい特性値を満足すれば特に限定されないが、弾性長繊維であればより好ましい。例えばポリウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーおよびポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマーや、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴムおよびブチルゴム等の合成ゴム、天然ゴム及び前記合成ゴムと天然ゴムの複合ゴム系材料からなる弾性長繊維が好ましい。これらの弾性体をそのまま、または弾性体の外周に絶縁繊維をカバーリング等の方法で形成させたものを1本あるいは複数本まとめ、必要に応じて編組等によってまとめることによって、芯部が形成される。
電装用ケーブルの芯部の外径は、目的とするケーブルの太さに応じて適宜設定すればよいが、好ましくは0.01mm〜10mmの範囲であり、0.02mm〜5mmがより好ましく、0.1mm〜3mmがさらに好ましく、0.2mm〜2mmが特に好ましい。
【0015】
本発明の電装用ケーブルの導体部は、前述した芯部の外周に導体線を捲回及び/又は編組した導体部を配置させることが好ましい。導体線は単線であってもよく、細線の集合線であってもよいが、少なくとも2本以上の細線の集合線であることが好ましい。細線の集合線とすることで、導体線の柔軟性が向上し伸縮性を阻害せずに、より細いケーブルが得られる。
【0016】
導体線が2本以上の細線の集合線で構成されていれば、屈曲性が向上し断線し難くい傾向になる。また柔軟性が付与され取り扱い性が向上するため好適である。細線の単線直径は、ケーブル製造時の加工性や取り扱い性を考慮し、0.01mm〜1.00mmが好ましく、より好ましくは0.01mm〜0.08mm、最も好ましくは0.01mm〜0.05mmである。
【0017】
さらに導体線1本の電気抵抗がケーブルの弛緩状態で100Ω/m以下、所望する伸縮率まで伸長した時の電気抵抗変化が10%未満であることが好ましい。ケーブルに微弱な電流を正確に伝送させたい場合、導体線1本の電気抵抗はケーブルの弛緩状態で10Ω/m以下がより好ましく、さらに好ましくは1Ω/m以下にすればよい。また、ケーブルを所望する伸縮率まで伸長した時の電気抵抗変化が10%以上では電流が乱れて伝送性に問題が生じる。より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。
【0018】
導体線は、比抵抗が10-4Ω・cm以下であることが好ましく、10-5Ω・cm以下であることがより好ましい。導体線は80wt%以上が銅からなる銅線、または80%以上がアルミニウムからなるアルミニウム線であることが好ましい。銅線は、比較的安価で電気抵抗が低いので、最も好ましい。アルミニウム線は軽量であるから、銅線に続いて好ましい。銅線は軟銅線または錫銅合金線が一般的であるが、導電性をあまり低下させずに、強力を高めた強力銅合金(例えば、無酸素銅に鉄、燐およびインジウム等を添加したもの)、錫、金、銀または白金などでメッキして酸化を防止したもの、電気信号の伝送特性を向上させるために金その他の元素で表面処理したものなどを用いることもできる。
【0019】
導体線は、1本ずつを絶縁体で被覆されているものを用いることもでき、細線の集合線をまとめて絶縁体で被覆したものを用いることもできる。被覆する絶縁体の厚さは2mm以下であることが好ましく、より好ましくは1mm以下であり、さらに好ましくは0.1mm以下である。被覆する絶縁体の厚さがこの範囲であれば、絶縁被覆された導体線は柔軟であり、かつ外径の小さい導体線となる。導体線としては銅線やアルミ線等以外に光信号を伝送するための光ファイバーを用いることもできる。
【0020】
導体線を被覆する絶縁体の種類は、公知の絶縁樹脂から任意に選ぶことができる。細線1本ずつに樹脂被覆を行う場合は、例えば一般のマグネットワイヤーで用いられるいわゆるエナメル被覆として、ポリウレタン被覆、ポリウレタン−ナイロン被覆、ポリエステル被覆、ポリエステルーナイロン被覆、ポリエステルーイミド被覆およびポリエステルイミド・ポリアミドイミド被覆等が挙げられる。また、集合線としてから樹脂被覆を行う場合は、塩ビ樹脂、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂およびエステル樹脂などを用いることができる。また、識別のため、各導体線をあらかじめ色分けしておくこともできる。
【0021】
導体線にあらかじめ絶縁繊維を被覆したものを用いることもできる。絶縁繊維としては、フッ素繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維、塩化ビニル繊維、サラン繊維、ガラス繊維およびポリウレタン繊維等の公知の絶縁繊維を用いることができる。導体線に絶縁繊維を捲回および/または編組することによって、導体線を被覆することができる。あらかじめ絶縁繊維で被覆した導体線は、加工時に細線表層の絶縁性樹脂層が破壊され難いため好ましい。
【0022】
本発明の電装用ケーブルの被覆部に用いる絶縁体としては絶縁繊維や絶縁樹脂等を用いることができる。絶縁繊維としては、マルチフィラメントまたは紡績糸を用いることができ、ケーブルの用途や想定される使用条件に合わせて、公知の絶縁性繊維から任意に選ぶことができる。絶縁繊維は原糸のままでも良いが、意匠性や劣化防止の観点から原着糸や先染め糸を用いることもできる。また、仕上げ加工により、柔軟性や耐摩擦性の向上を図ることもできる。さらに、難燃加工、撥水加工、撥油加工、防汚加工、抗菌加工、制菌加工および消臭加工など、公知の繊維の加工を施すことにより、実用時の取り扱い性を向上させることもできる。特に、絶縁繊維の表面にシリコーン樹脂等の平滑剤を付与すると、ケーブル表面の摩擦係数をより低減できるので好ましい。耐熱性と耐磨耗性を両立させる絶縁繊維としては、アラミド繊維、ポリスルホン繊維およびフッ素繊維が挙げられる。耐火性の観点からは、ガラス繊維、耐炎化アクリル繊維、フッ素繊維およびサラン繊維が、また、耐磨耗性や強度の観点からは、高強力ポリエチレン繊維およびポリケトン繊維が挙げられる。コストと耐熱性の観点からは、ポリエステル繊維、ナイロン繊維およびアクリル繊維がある。これらに、難燃性を付与した難燃ポリエステル繊維、難燃ナイロン繊維および難燃アクリル繊維(モダクリル繊維)なども好適である。摩擦熱による局部的な劣化に対しては、非溶融繊維を用いることが好ましい。その例としては、アラミド繊維、ポリスルホン繊維、コットン、レーヨン、キュプラ、ウール、絹およびアクリル繊維を挙げることができる。強度を重視する場合は、高強力ポリエチレン繊維、アラミド繊維およびポリフェニレンサルファイド繊維が挙げられる。摩擦性を重視する場合は、フッ素繊維、ナイロン繊維およびポリエステル繊維が挙げられる。意匠性を重視する場合は、発色の良いアクリル繊維を用いることもできる。さらに、人との接触による触感を重視する場合は、キュプラ、アセテート、コットンおよびレーヨンなどのセルロース系繊維や、絹または繊度の細い合成繊維を用いることができる。
【0023】
被覆部に用いる絶縁樹脂はさまざまな弾性の絶縁樹脂から任意に選ぶことができ、ケーブル用途及びケーブルの内部構造に使用する他の絶縁繊維との相性を考慮しながら、適宜選定すればよい。考慮すべき性能は伸縮性であり、合成ゴム系弾性体が挙げられ、フッ素系ゴム、シリコーン系ゴム、エチレン・プロピレン系ゴム、クロロプレン系ゴムおよびブチル系ゴムが好ましい。より好ましくは、伸縮性に優れるシリコーン系ゴムである。また、生体からの汗や外部からの雨等の浸入を防ぐためには、被覆部中に弾性樹脂を用いた被覆層を設けると好適である。
【0024】
本発明の電装用ケーブルは、シールドされていることが好ましい。特に微弱な電流を伝送する場合はノイズの影響を受け易いため、ケーブル自体に予めシールド機能を付与させることが好ましい。シールドは電装ケーブルの外側に配置される導電性物質によって外部からの電磁波の侵入防止又は内部発生の電磁波の漏洩防止を目的とする。その方法として、導体によるアース又は反射、磁性体による吸収、および各々の組合せが例示できるが、特に限定されることはない。
【0025】
次に電装用ケーブルの代表的な製造方法について説明する。なお、本発明の電装用ケーブルは、以下の製造方法に限定されるものではない。
代表的な製造方法としては、2対のローラー間で芯部を伸長した状態で導体線をらせん状に1本または複数本捲回させる方法が挙げられる。伸縮性を発現させやすくするために、芯部を30%以上伸長することが好ましく、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは100%以上である。
【0026】
導体線をらせん状に捲回させる方法としては、例えば、カバーリング機を用いて導体線を捲回する方法が挙げられる。芯部と導体部との間の引抜抵抗力を高くするためには、導体線に適度な張力を掛けて捲回することが好ましい。
カバーリング機を用いて導体線を捲回する場合は、導体線を巻いたボビンの回転数を高くする等して捲回張力を高くすることが可能である
カバーリング機を用いて導体線を1方向に複数本捲回する場合は、あらかじめ1つのボビンに複数本を引き揃えて捲きつけたボビンを用い、これを一度に捲回することが好ましいが、導体線同士が重なり合う可能性がある。
【0027】
電装用ケーブルは、芯部へ導体線を捲回し導体部を形成した後、導体部の外周に絶縁性弾性樹脂、ゴムチューブ、または絶縁繊維を用いて被覆部を形成する。絶縁性弾性樹脂またはゴムチューブの被覆部は、押し出し装置等を用いることにより被覆することが好ましい。絶縁繊維による被覆部の形成方法は、製紐機等を用いて編組を行うことが好ましい。
【0028】
本発明の電装用ケーブルを電装衣服に用いる場合、電装用ケーブルの伸縮率が基布の伸縮率よりも大きくなるように設計することが好ましい。こうすれば、ケーブルは基布以上に伸長されないから、ケーブルに掛かる伸長荷重負荷を軽減でき、断線や配線外れを防ぐことができる。逆に、ケーブルが基布の伸縮率よりも小さく設計すると、ケーブルが先に伸長荷重を受け易く、断線や配線外れにつながってしまうため、基布の損傷に至ることがある。よって、電装ケーブルの伸縮率は常に基布の2倍以上の伸縮率で構成することが好ましい。このように設計することによって、電装用ケーブル使用時の伸縮回復率は50%以上を保持し易くなるため、繰返し伸縮耐久性に優れるようになる。電装用ケーブル使用時の伸縮回復率は75%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。伸縮回復率が50%未満では残留伸びが大きく、伸縮を繰り返すとケーブルに弛みが生じて、引っ掛かり等のトラブルの原因となる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、例中の各測定および特性評価は下記の方法で行った。
【0030】
(1)伸縮率および伸縮回復率の測定
電装用ケーブルを200mm長にカットした試料を準備する。各々試料につかみ幅40mmとつかみ間隔100mmに評線を引く。次にテンシロン万能試験機((株)エーアンドディ社製)を用い、つかみ幅25mm、つかみ間隔100mm、引張速度は200mm/minの条件で1サイクル試験(所定伸長後、元に戻す)を実施する。この時、戻り応力がゼロとなる長さを測定する。1サイクル試験の所定伸長率は、つかみ間隔の10%〜200%の範囲内で任意に設定でき、伸縮回復率が50%未満となる最大伸長率まで5%刻みで繰返し測定する。ここで述べる伸縮率とは、それぞれの試料の伸縮回復率が50%以上を保持できる最大伸長率である。伸長率10%で破断または伸縮回復率が50%未満であるものは測定不可とした。ただし、1サイクル試験は1つの試料片で1回測定とし、試料片は毎回交換する。
【0031】
尚、伸縮回復率は次式によって求めた。この時、つかみ間隔(元試料長)をL0、所定伸縮率時の伸長長さ(L0+L0×所定伸縮率/100)をL1、戻り応力ゼロ時のつかみ間隔をL2とする。
伸縮回復率(%)={(L1−L2)/(L1−L0)}×100
さらに伸縮率測定後、ケーブルの両端をミリオームテスター(HIOKI8630)にて電気抵抗値を確認し、抵抗値が表示されなければ断線と判断する。表示は断線と記す。
【0032】
(2)曲げ反発力測定(芯部の芯材及びケーブル)
電装用ケーブルを200mm長にカットした試料を準備する。試料の端から50mmに評線となる目印をつける。次にテンシロン万能試験機((株)エーアンドディ社製)を用い、下チャックつかみ部上部の円形状突き出しを100mm、つかみ幅25.4mmで、図1に示すように取付ける。図中、1が電装用ケーブル、2が下チャックつかみ部、3が圧縮冶具である。圧縮冶具(φ50mm)にて測定速度を50mm/minの条件で測定する。その時の圧縮冶具とチャックつかみ上部との間隔は60mm、圧縮距離は50mmとし、直ぐにリターンさせる。測定は5回行ない圧縮強力(N)を記録させ、その最大値を曲げ反発力とする。
【0033】
(3)不快感の評価
3−1)ごわごわ感
図2に示すように、中央部で折れ曲がる直径18mmで長さ60cmの自在継ぎ手(5)の外周をポリエステルの布団綿(7)で被覆し、更にその外周を綿製筒状織物(6)でカバーした擬似腕(4)を作製する。この時、擬似腕硬さは人の筋肉硬さに近づくように布団綿の詰め量で調整する。図中8が綿製筒状織物(6)のリング状留め金具である。
この擬似腕の外側に、電装用ケーブル(1)を長さ方向に8本均等に配置させる。この時のケーブル固定は両端のみ縫製固定(9)させる。10名の検査員にて中央付近のケーブルを自由に触った時の官能結果を下記の通り評価した。
○:ごわごわ感を感じたのは3名以下であった。
△:4〜5名がごわごわ感を感じた。
×:6名以上がごわごわ感を感じた。
【0034】
3−2)曲げ反発感
市販される綿製の長袖上肌着(グンゼ社製)を準備し、腕の屈曲で一番伸長される肘部分に電装用ケーブルを左右1本ずつ縫い付ける。この時のケーブル長さは30cmで、ケーブルの両端部分のみを縫製固定する。
検査は10名で行った。検査員は、ゆっくりと右腕の曲げ伸ばしを20回繰返し、続いて左腕を同様に評価し、最後に両腕同時に20回曲げ伸ばしさせた時の官能結果を下記のように評価した。
○:曲げ難さ(反発感、ツッパリ感など)を感じたのは3名以下であった。
△:4〜5名が曲げ難さ(反発感、ツッパリ感など)を感じた。
×:6名以上が曲げ難さ(反発感、ツッパリ感など)を感じた。
【0035】
[実施例1]
ダブルカバーリング機(カタオカテクノ社製、SP−400型)を用い、310dtex/72fのポリウレタン弾性長繊維(旭化成せんい株式会社製、商品名:ロイカ)を芯にして、伸長倍率4.5倍で伸長しながら、78dtexのナイロン仮撚加工糸を750T/mの下撚り(S撚り)及び450T/mの上撚り(Z撚り)で捲回させたダブルカバーリング糸を得た。得られたダブルカバーリング糸を用い、8本打ち製紐機(株式会社コクブン社製)を用いて編組加工を行い、ポリウレタン弾性長繊維からなる略丸断面の伸縮性のある芯部材を得た。
【0036】
次に16本打ち製紐機(有限会社桜井鉄工製)を用いて、前記の芯部材を芯糸として伸長倍率2倍で伸長しながら、Z撚り方向に導体線として銅線細線の集合線(有限会社竜野電線社製2USTC、直径0.03mm×50本)4本とナイロン仮撚加工糸(244dtex)4本を交互に配置し、S撚り方向にポリエステル仮撚加工糸(56dtex)8本を配置させて編組加工を行い、電装用ケーブルの中間体を得た。
さらに、得られた前記の電装用ケーブルの中間体を芯部材として、再度16本打ち製紐機に仕掛け、伸長倍率1.8倍に伸長させながら、ポリエステル仮撚加工糸(300dtex×2本引き揃え)16本で編組加工(被覆部)を行い、4本の導体線を有する電装用ケーブルを得た。得られた電装用ケーブルの諸物性を表1に示す。
【0037】
[実施例2]
ダブルカバーリング機(カタオカテクノ社製、SP−400型)を用い、940dtex/72fのポリウレタン弾性長繊維(旭化成せんい株式会社製、商品名:ロイカ)を芯にして、伸長倍率4.5倍で伸長しながら、155dtexのナイロン仮撚加工糸を500T/mの下撚り(S撚り)及び332T/mの上撚り(Z撚り)で捲回させたダブルカバーリング糸を得た。得られたダブルカバーリング糸を用い、16本打ち製紐機(株式会社コクブン社製)を用いて編組加工を行い、ポリウレタン弾性長繊維からなる略丸断面の伸縮性のある芯部材を得た。
【0038】
次に16本打ち製紐機(有限会社桜井鉄工製)を用いて、前記の芯部材を芯糸として伸長倍率2倍で伸長しながら、Z撚り方向に導体線として銅線細線の集合線(有限会社竜野電線社製2USTC、直径0.03mm×300本)2本とナイロン仮撚加工糸(244dtex×6本引き揃え)6本を、導体線1本→ナイロン仮撚加工糸3本→導体線1本→ナイロン仮撚加工糸3本で配置し、S撚り方向にポリエステル仮撚加工糸(56dtex)8本を配置させて編組加工を行い、電装用ケーブルの中間体を得た。
さらに、得られた電装用ケーブルの中間体を芯部材として、再度16本打ち製紐機に仕掛け、伸長倍率1.8倍に伸長させながら、ポリエステル仮撚加工糸(300dtex×2本引き揃え)16本で編組加工(外部被覆)を行い、2本の導線体を有する電装用ケーブルを得た。得られた電装用ケーブルの諸物性を表1に示す。
【0039】
[比較例1]
芯部として、市販される丸断面のシリコンゴム線の中から伸縮率110%および外径3.2mmのシリコンゴム線を用いた以外は実施例2と同様にした電装用ケーブルを得た。得られた電装用ケーブルの諸物性を表1に示す。
【0040】
[比較例2および3]
市販されるケーブルの中から、ロボット向けケーブルAWG28(比較例2)およびAWG24(比較例3)を選定して実施例2と同様の評価を行なった。得られた諸物性を表1に示す。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の電装用ケーブルは、主にパワーアシストスーツやモーションキャプチャーなど繰返し伸縮や屈曲を受け易い衣料装着型配線として有用である。また、各種ロボット(産業用ロボット、家庭用ロボット、ホビーロボット等)、リハビリ用補助具、バイタルデータ測定機器、ゲーム用コントローラー、マイクロヘッドホン等への利用も可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 電装用ケーブル
2 下チャックつかみ部
3 圧縮冶具
4 擬似腕
5 自在継ぎ手
6 綿製筒状織物
7 ポリエステルの布団綿
8 リング状留め金具
9 縫製固定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体からなる芯部、導体線からなる導体部および絶縁体からなる被覆部の少なくとも三層構造からなるケーブルであって、該ケーブルの伸縮率が10%〜200%、且つ、曲げ反発力が2N以下であることを特徴とする電装用ケーブル。
【請求項2】
芯部の破断伸度が100%以上、且つ、曲げ反発力が1N以下である請求項1に記載の電装用ケーブル。
【請求項3】
電装衣服に用いる請求項1又は2に記載の電装用ケーブル。
【請求項4】
電装衣服がパワーアシストスーツである請求項3に記載の電装用ケーブル。

【図1】
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【図2】
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