説明

電解めっき装置

【課題】簡素な構成の磁場発生手段でも効果的な攪拌によりめっき膜厚を均一化できるとともに低濃度のめっき浴でも高速めっきが可能である電解めっき装置を提供する。
【解決手段】めっき浴11内にアノード電極20とカソード電極21とを対向して配設し、アノード電極20とカソード電極21との間に電場を与えてめっきを行う電解めっき装置において、カソード電極21の近傍領域に前記電場に対して直交する成分をもつ磁場を形成する磁場発生手段130をカソード電極21の反アノード電極20側に配設するとともに、前記磁場をカソード電極21の面内方向に対して平行に移動させることのできる磁場移動手段132を備えてなる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき膜を形成する電解めっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電解めっき装置を用いて成膜を行う際には、めっき析出部への金属イオンの補給を円滑にして成膜速度を高くすること、さらには、めっき膜を均一化することなどを目的として、めっき浴内の撹拌が行われる。
【0003】
従来の電解めっき装置では、めっき浴内の攪拌方式として、例えば、空気による撹拌(従来方式1)、被めっき物の移動による撹拌(従来方式2)、棒を用いた機械的な撹拌(従来方式3)などが用いられている。
【0004】
また、上記の各攪拌方式以外に、磁場を利用した攪拌(従来方式4)も提案されている(例えば特許文献1参照)。図7は、従来の磁場を利用した攪拌方式(従来方式4)を示す電解めっき装置の構成図であり、電解めっき装置を側方(左右方向)から見た構成を模式的に示すものである。図7の電解めっき装置では、めっき浴11(めっき槽10に入れられためっき液)内に、めっき電源22に接続されたアノード電極20とカソード電極21(被めっき物)とからなる電極部が配設され、カソード電極21の反アノード電極側およびアノード電極20の反カソード電極側にそれぞれ第1の磁極30A(N極またはS極)および第2の磁極30B(S極またはN極)を配置した磁場発生手段(電磁石)30を設けた構成となっている。そして、図7の電解めっき装置では、アノード電極20・カソード電極21間に発生する電場(E)23と磁場発生手段(電磁石)30から生成される磁場(B)31とによりめっき浴11中のイオンがローレンツ力を受け、めっき浴11が撹拌される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−225998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、電解めっき装置におけるめっき浴内の攪拌方式として例えば従来方式1〜4が提案されているが、それぞれ次のような点が問題と考えられる。
(従来方式1における問題)
空気による攪拌を行う従来方式1では、汚れた空気などがめっき浴内に入る恐れがある、という問題が有る。
【0007】
(従来方式2における問題)
被めっき物の移動による攪拌を行う従来方式2では、被めっき物の支持及び導電のための引っ掛け治具の枝骨に被めっき物が強固に結合されていないと、被めっき物の移動と共に被めっき物が揺れるので撹拌の効果が落ちてしまう、という問題が有る。
【0008】
(従来方式3における問題)
棒を用いた機械的な攪拌を行う従来方式3では、イオンが十分に拡散しない、という問題が有る。
【0009】
(従来方式4における問題)
従来方式4(図7)では、磁場を利用してめっき浴内の撹拌を行う方式であることにより、攪拌のために空気を送り込む必要がなく、また、被めっき物を移動させる必要もないため、少なくとも従来方式1および2における上述の各問題点は解消されている。しかしながら、従来方式4のような磁場分布の場合、めっき浴内のイオンの撹拌効果を高めるためには、磁場発生手段(電磁石)の回転や磁場発生手段(電磁石)による交流磁場の生成が必要となってくる。この点に関し、磁石を向かい合わせて配置するだけの直流磁場の構成では、イオンに働くローレンツ力が一定方向となってしまうため、撹拌効果としては不十分である。
【0010】
このように、従来方式4では、攪拌効果を十分なものとするためには、磁場発生手段(電磁石)の回転や磁場発生手段(電磁石)による交流磁場の生成が必要となるので、電解めっき装置が複雑な構造となり、コストがかかる、という問題が有る。
【0011】
また、従来方式1〜4では、被めっき物が複雑な構造をしている場合などでは、めっき膜厚が不均一になってしまうなどの問題もある。
また、さらに、電解めっき装置において高速でめっきを行う場合には、その成膜速度を高くするのに電流密度を上げる必要があり、そのためには、めっき浴濃度を高くする必要があるが、めっき浴濃度を高くすると、めっき液のコストが高くなってしまうという問題も有る。
【0012】
従来技術における上述の点、特に従来方式4のような磁場を利用した攪拌方式が有している有利な点を考慮すると、電解めっき装置におけるめっき浴内の攪拌方式としては、磁場を利用した攪拌方式の更なる改良を図ることが適当と考えられる。
【0013】
このため、本発明は、従来の磁場を利用した攪拌方式を改良し、簡素な構成の磁場発生手段でも効果的な攪拌により被めっき物のめっき膜厚を均一化することが可能であるとともに低濃度のめっき浴でも高速めっきが可能である電解めっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明によれば、めっき浴内に,電極部を形成するアノード電極とカソード電極とを対向して配設し、アノード電極とカソード電極との間に電場を与えてめっきを行う電解めっき装置において、カソード電極の近傍領域に前記電場に対して直交する成分をもつ磁場を形成する磁場発生手段を,カソード電極の反アノード電極側に配設するとともに、前記磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることのできる磁場移動手段を備えてなる構成とする(請求項1の発明)。
【0015】
上記請求項1の発明によれば、カソード電極(被めっき物)の反アノード電極側に磁場発生手段を配設し、この磁場発生手段により、めっき浴(めっき槽に入れられためっき液)内におけるカソード電極の近傍領域に、アノード電極・カソード電極間の電場に対して直交する成分をもつ磁場を形成するようにしていることにより、めっき浴中のイオンにローレンツ力が働くことによってイオンが動き、それによって空いた空間に別の粒子が動いてくる流れにより、めっき浴を効果的に撹拌することができる。
【0016】
また、上記請求項1の発明によれば、めっき浴全体における磁場分布は、磁場発生手段により形成される磁場によって、カソード電極の近傍領域が高磁場となる磁場分布となり、このような磁場分布がイオンに対する閉じ込め磁場として作用する。そのため、めっき浴内におけるイオンはカソード電極側に集まって、カソード電極の近傍領域でイオン濃度が高濃度になるという濃度分布が形成される。このため、低濃度のめっき浴中でも高濃度のめっき浴によるめっきと同様なめっき効果が得られ、低濃度のめっき浴でも高速めっきが可能となる。
【0017】
なお、上記請求項1の発明によれば、磁場を利用した撹拌方式であることにより、攪拌のために空気を送り込む必要がないため、汚れた空気などがめっき浴内を汚染することがなく、また、被めっき物を移動させる必要がないため、被めっき物の揺れによって撹拌の効果が落ちてしまうこともなく、さらには、棒を用いた機械的な攪拌方式とは異なり、十分にイオンが拡散するような効果が得られる。
【0018】
また、さらに、上記請求項1の発明によれば、磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることができる。そして、磁場の移動により、めっき浴内におけるイオンが高濃度となる部分も移動し、その高濃度の部分では低濃度の部分よりもめっきの析出反応が促進される。このため、例えば表面に凹凸の多い被めっき物などにおけるめっきの析出しにくい箇所の近傍領域に高濃度の部分が移動するように磁場を移動させて、めっきの析出しにくい箇所でめっきの析出を促進するようにすることによって、被めっき物全体におけるめっき膜厚の均一性をより向上させることが可能となる。また、磁場の移動によって、被めっき物における任意の箇所を任意のめっき膜厚にすることも可能となる。
【0019】
そして、上記請求項1に記載の電解めっき装置において、前記磁場発生手段は,1対の磁極として,中心部に配置される第1の磁極と,第1の磁極に対してカソード電極の面内方向に平行な方向での外径側に同心状に配置される第2の磁極とを備えており、中心部の第1の磁極の磁極面と外径側の第2の磁極の磁極面との間に磁場が形成される構成とするとよい(請求項2の発明)。
【0020】
上記請求項2の発明によれば、磁場発生手段の中心部に配置される第1の磁極の磁極面と,第1の磁極に対してカソード電極の面内方向に平行な方向での外径側に同心状に配置される第2の磁極の磁極面との間に磁場が形成され、アノード電極・カソード電極間の電場に対して直交成分をもつ磁場分布となる。このような磁場によりローレンツ力を受けるめっき浴中のイオンは、カソード電極の面内方向と平行に円を描くようなサイクロイド運動をする。また、磁場の方向はめっき浴内の位置により異なるため、磁場によりイオンが受けるローレンツ力もその位置に応じて異なった方向に働く。このようにして、めっき浴が効果的に撹拌される。
【0021】
また、上記請求項2の発明によれば、磁場発生手段は中心部の第1の磁極と外径側の第2の磁極とからなる簡素な構成でよく、この磁場発生手段をカソード電極の反アノード電極側に配設すればよいので、効果的な攪拌により被めっき物のめっき膜厚を均一化することが可能な電解めっき装置を低コストで実現することができる。
【0022】
また、上記請求項1に記載の電解めっき装置において、前記磁場発生手段として、中央部の磁石と,中央部の磁石を中心として同心状に配置される複数の円環状の電磁石とを,カソード電極の面内方向と平行な面に配設するとともに、各円筒状の電磁石に励磁電流を供給する電磁石用電源と,各円筒状の電磁石への励磁電流の通流を制御する励磁用スイッチ回路とからなる励磁操作部を設け、前記励磁用スイッチ回路によって各円環状の電磁石の励磁電流通流状態の切り替えを行ない、中央部の磁石との組合せで磁場を形成する円環状の電磁石を切り替えることにより、磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることができるようにしてなる構成とするとよい(請求項3の発明)。
【0023】
上記請求項3の発明によれば、励磁用スイッチ回路によって中央部の磁石との組合せで磁場を形成する円環状の電磁石を切り替えることにより、機械的な移動機構なしで、磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることができるので、磁場移動方式として好適である。
【0024】
また、上記請求項1に記載の電解めっき装置において、前記磁場発生手段として、複数の単位電磁石をカソード電極の面内方向と平行な面に2次元的に並べて配設するとともに、 各単位電磁石に励磁電流を供給する電磁石用電源と,各単位電磁石への励磁電流の通流を制御する励磁用スイッチ回路とからなる励磁操作部を設け、前記励磁用スイッチ回路によって各単位電磁石の励磁電流通流状態の切り替えを行ない、磁場を形成する単位電磁石同士の組合せを切り替えることにより、磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることができるようにしてなる構成とするとよい(請求項4の発明)。
【0025】
上記請求項4の発明によれば、励磁用スイッチ回路によって磁場を形成する単位電磁石同士の組合せを切り替えることにより、機械的な移動機構なしで、磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることができるので、磁場移動方式として好適である。
【0026】
次に、本発明によれば、めっき浴内に,電極部を形成するアノード電極とカソード電極とを対向して配設し、アノード電極とカソード電極との間に電場を与えてめっきを行う電解めっき装置において、前記電極部は1対のアノード電極とアノード電極同士の間に配置されたカソード電極とからなるものであって、カソード電極の近傍領域に前記電場に対して直交する成分をもつ磁場を形成する磁場発生手段を,カソード電極の側面側に配設するとともに、前記磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることのできる磁場移動手段を備えてなる構成としてもよい(請求項5の発明)。
【0027】
上記請求項5の発明によれば、1対のアノード電極とアノード電極同士の間に配置されたカソード電極とからなる電極部構成のうち、カソード電極(被めっき物)の側面側に磁場発生手段を配設し、この磁場発生手段により、めっき浴(めっき槽に入れられためっき液)内におけるカソード電極の近傍領域に、アノード電極・カソード電極間の電場に対して直交する成分をもつ磁場を形成するようにしていることにより、めっき浴中のイオンにローレンツ力が働くことによってイオンが動き、それによって空いた空間に別の粒子が動いてくる流れにより、めっき浴を効果的に撹拌することができる。
【0028】
また、上記請求項5の発明によれば、カソード電極の一方の側面側に配置された第1の磁極の磁極面から他方の側面側に配置された第2の磁極の磁極面に直線的に向う磁場が形成され、アノード電極・カソード電極間の電場に対して直交成分をもつ磁場分布となる。そして、カソード電極の一方面と他方面とで、それぞれ対向するアノード電極との間に形成される電場の方向が逆方向であることにより、イオンが受けるローレンツ力の向きも逆方向となるため、イオンがカソード電極の周りを循環するような流れ、すなわち、イオンがカソード電極の一方面側のめっき浴領域と他方面側のめっき浴領域との間で循環するような流れが作り出され、これにより、カソード電極(被めっき物)の近傍領域におけるめっき浴の撹拌効果が高いものとなる。
【0029】
また、さらに、上記請求項5の発明によれば、上記請求項1の発明と同様に、めっき浴全体における磁場分布は、磁場発生手段により形成される磁場によって、カソード電極の近傍領域が高磁場となる磁場分布となり、このような磁場分布がイオンに対する閉じ込め磁場として作用する。そのため、めっき浴内におけるイオンはカソード電極側に集まって、カソード電極の近傍領域でイオン濃度が高濃度になるという濃度分布が形成される。このため、低濃度のめっき浴中でも高濃度のめっき浴によるめっきと同様なめっき効果が得られ、低濃度のめっき浴でも高速めっきが可能となる。
【0030】
なお、上記請求項5の発明によれば、上記請求項1の発明と同様に、磁場を利用した撹拌方式であることにより、攪拌のために空気を送り込む必要がないため、汚れた空気などがめっき浴内を汚染することがなく、また、被めっき物を移動させる必要がないため、被めっき物の揺れによって撹拌の効果が落ちてしまうこともなく、さらには、棒を用いた機械的な攪拌方式とは異なり、十分にイオンが拡散するような効果が得られる。
【0031】
また、さらに、上記請求項5の発明によれば、上記請求項1の発明と同様に、磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることができる。そして、磁場の移動により、めっき浴内におけるイオンが高濃度となる部分も移動し、その高濃度の部分では低濃度の部分よりもめっきの析出反応が促進される。このため、例えば表面に凹凸の多い被めっき物などにおけるめっきの析出しにくい箇所の近傍領域に高濃度の部分が移動するように磁場を移動させて、めっきの析出しにくい箇所でめっきの析出を促進するようにすることによって、被めっき物全体におけるめっき膜厚の均一性をより向上させることが可能となる。また、磁場の移動によって、被めっき物における任意の箇所を任意のめっき膜厚にすることも可能となる。
【0032】
また、上記請求項5に記載の電解めっき装置において、前記磁場発生手段として、2つの電磁石を,カソード電極を側方の両側から挟み込む位置関係で互いに異なる極性の磁極面同士が対向するように配置してなる電磁石対を、カソード電極の面内方向と平行な方向に沿って複数並べて配設するとともに、各電磁石対に励磁電流を供給する電磁石用電源と,各電磁石対への励磁電流の通流を制御する励磁用スイッチ回路とからなる励磁操作部を設け、前記励磁用スイッチ回路によって各電磁石対の励磁電流通流状態の切り替えを行ない、磁場を形成する電磁石対を切り替えることにより、磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることができるようにしてなる構成とするとよい(請求項6の発明)。
【0033】
上記請求項6の発明によれば、励磁用スイッチ回路によって磁場を形成する電磁石対を切り替えることにより、機械的な移動機構なしで、磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることができるので、磁場移動方式として好適である。
【0034】
また、上記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の電解めっき装置において、前記磁場発生手段により形成される磁場は、交流磁場である構成とするとよい(請求項7の発明)。
【0035】
上記請求項7の発明によれば、アノード電極・カソード電極間の電場との組合せでめっき浴中のイオンにローレンツ力を及ばす磁場が交流磁場であることにより、めっき浴中のイオンの受けるローレンツ力の向きが周期的に入れ替わることによる乱流効果によって、被めっき物における凹凸の有る部分も含めためっき膜厚の均一性をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、電解めっき装置におけるめっき浴の攪拌方式として、簡素な構成の磁場発生手段でも効果的な攪拌により被めっき物のめっき膜厚を均一化することが可能になるとともに低濃度のめっき浴でも高速めっきが可能になる。
【0037】
また、本発明によれば、被めっき物が複雑な構造をしている場合でも、めっきの析出しにくい箇所の近傍領域にイオンが高濃度となる部分が移動するように磁場を移動させて、めっきの析出を促進することによって、被めっき物全体におけるめっき膜厚の均一性をより向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例1による電解めっき装置を示す構成図
【図2】実施例1の電解めっき装置における攪拌方式の原理を示す説明図
【図3】実施例1における磁場移動方式の異なる構成例を示す図
【図4】実施例1における磁場移動方式のさらに異なる構成例を示す図
【図5】本発明の実施例2による電解めっき装置を示す構成図
【図6】実施例2における磁場移動方式の異なる構成例を示す図
【図7】従来の電解めっき装置を示す構成図
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態を図1〜図6に示す実施例に基づいて説明する。同一の構成要素については、同一の符号を付け、重複する説明は省略する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
[本発明の実施形態]
本発明は、めっき浴内に,電極部を形成するアノード電極とカソード電極とを対向して配設し、アノード電極とカソード電極との間に電場を与えてめっきを行う電解めっき装置において、めっき浴内の攪拌方式として、カソード電極の近傍領域にアノード電極・カソード電極間の電場に対して直交する成分をもつ磁場を形成する磁場発生手段を設け、上記磁場によるローレンツ力がめっき浴中のイオンに与える力によって,カソード電極のアノード電極側の全面にわたってめっき浴が攪拌されるようにしてなる構成とし、さらには、上記磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることのできる磁場移動手段を備えてなる構成としたものである。
【0040】
そして、本発明による攪拌方式の構成では、簡素な構成の磁場発生手段でも効果的な攪拌により被めっき物のめっき膜厚を均一化することが可能になるとともに低濃度のめっき浴でも高速めっきが可能になる。
【0041】
また、本発明では、上記磁場移動手段を備えていることにより、被めっき物が複雑な構造をしている場合でも、めっきの析出しにくい箇所の近傍領域にイオンが高濃度となる部分が移動するように磁場を移動させて、めっきの析出を促進することによって、被めっき物全体におけるめっき膜厚の均一性をより向上させることが可能となる。
【実施例1】
【0042】
(イ)図1は本発明の実施例1による電解めっき装置を示す構成図であり、電解めっき装置を側方(水平方向)から見た構成を模式的に示すものである。図1に示すように、実施例1の電解めっき装置は、めっき浴11(めっき槽10に入れられためっき液)内に、めっき電源22に接続されたアノード電極20とカソード電極21(被めっき物)とからなる電極部が配設され、この電極部のうちカソード電極21の反アノード電極側に第1の磁極130Aおよび第2の磁極130Bを備えた磁場発生手段130を設けてなる構成となっている。
【0043】
磁場発生手段130は、後述の図2(b)に示されているように、中心部に配置される第1の磁極(N極またはS極)130Aに対してカソード電極21の面内方向に平行な方向での外径側に同心状に第2の磁極(S極またはN極)130Bを配置した構造となっている。磁場発生手段130における第1の磁極130Aおよび第2の磁極130Bは磁極保持部130Cにより保持固定されている。磁極保持部130C内においては、第1の磁極130Aと第2の磁極130Bとの間に図示されない磁気回路部が設けられている。
【0044】
なお、実施例1の電解めっき装置では、磁場発生手段130としては、永久磁石を用いてもよく、電磁石を用いてもよい。また、電磁石を用いた場合の磁場発生手段130としては、直流磁場を発生させる構成および交流磁場を発生させる構成のいずれも適用することができる。
(ロ)実施例1の電解めっき装置では、アノード電極20・カソード電極21間に発生する電場(E)23と、磁場発生手段130から生成される,上記電場(E)23に対して直交する成分をもつ磁場(B)131とによりめっき浴11中のイオンがローレンツ力を受け、めっき浴11が撹拌される。そして、実施例1の電解めっき装置においては、磁場発生手段130として永久磁石を用いる構成や電磁石で直流磁場を発生させる構成であっても、攪拌効果を十分なものとすることができる。
【0045】
図2は、実施例1の電解めっき装置における攪拌方式の原理を示す説明図である。図2(a)〜(b)に示されるように、実施例1の電解めっき装置では、中心部に配置される第1の磁極(N極またはS極)130Aに対してカソード電極21の面内方向に平行な方向での外径側に同心状に第2の磁極(S極またはN極)130Bを配置した構造の磁場発生手段130による磁場、すなわち、中心部の第1の磁極130Aの磁極面と外径側の第2の磁極130Bの磁極面との間に形成される磁場を用いている。これによって、実施例1の電解めっき装置では、磁場発生手段の回転や磁場発生手段(電磁石)による交流磁場の印加などがなくとも、ローレンツ力142によってイオン41にカソード電極21の面内方向と平行に円を描くようなサイクロイド運動をさせることができ、これにより、簡素な構成の磁場発生手段によって、めっき浴の攪拌を効果的に行うことができる。
【0046】
また、図2(c)に示されるように、イオン41は、磁力線143に沿ってラーマー運動を行う。このラーマー運動では、荷電粒子の運動は磁場が強いほど回転半径が小さくなるため、めっき浴11内における高磁場の位置ほどイオン濃度が高くなる。
【0047】
そして、実施例1の電解めっき装置では、めっき浴11全体における磁場分布は、磁場発生手段130により形成される磁場によって、カソード電極21の近傍領域が高磁場となる磁場分布となり、このような磁場分布がイオンに対する閉じ込め磁場として作用する。そのため、めっき浴11内におけるイオンはカソード電極11側に集まって、カソード電極21の近傍領域でイオン濃度が高濃度になるという濃度分布が形成される。このため、低濃度のめっき浴中でも高濃度のめっき浴によるめっきと同様なめっき効果が得られ、低濃度のめっき浴でも高速めっきが可能となる。
【0048】
なお、交流磁場発生手段130による磁場を交流磁場とした構成では、めっき浴中のイオンの受けるローレンツ力の向きが周期的に入れ替わることによる乱流効果によって、被めっき物における凹凸の有る部分も含めためっき膜厚の均一性をより向上させることができるようになる。
(ハ)また、さらに、実施例1の電解めっき装置では、磁場発生手段130における磁極保持部130Cと機械的に係合してなる磁場発生手段用移動装置132を設け、これにより、磁場発生手段130をカソード電極(被めっき物)21の面内方向に対して平行に移動させることができるようにしている。磁場発生手段130の移動に伴い、磁場もカソード電極(被めっき物)21の面内方向に対して平行に移動することにより、めっき浴11内におけるイオンが高濃度となる部分も移動し、その高濃度の部分では低濃度の部分よりもめっきの析出反応が促進される。このため、例えば表面に凹凸の多い被めっき物などにおけるめっきの析出しにくい箇所の近傍領域に高濃度の部分が移動するように磁場発生手段130を移動させて、めっきの析出しにくい箇所でめっきの析出を促進するようにすることによって、被めっき物全体におけるめっき膜厚の均一性をより向上させることが可能となる。また、磁場発生手段130の移動によって、被めっき物における任意の箇所を任意のめっき膜厚にすることも可能となる。
(ニ)なお、実施例1における磁場移動方式として、磁場発生手段130における磁極保持部130Cと機械的に係合してなる磁場発生手段用移動装置132を設けた構成を示したが、磁場移動方式は上記構成に限定されるものではなく、例えば、次のような構成を適用することもできる。
【0049】
(a)図3は、本発明の実施例1における磁場移動方式の異なる構成例を示す図であって、図3(a)は本構成例における磁場発生手段150の側断面図であり、図3(b)は磁場発生手段150の平面図(図3(a)におけるP1矢視図)であり、図3(c)は磁場発生手段150を構成する各電磁石のための励磁操作部の一例を原理的に示す回路図である。
【0050】
図3(a)に示すように、本構成例における磁場発生手段150は、電磁石152,152A,152B,152Cが磁気回路を形成するための平板状の磁性部材151上に設けられた構成であり、電磁石152の例えばS極側および電磁石152A,152B,152Cの例えば各N極側が磁性部材151側に接するように配置されている。なお、図3(a)における電磁石152,152A,152B,152Cにそれぞれ「S」および「N」の極性を記載しているが、これは各電磁石の励磁状態での極性を示すものである。そして、本構成例における磁場発生手段150は、各電磁石の反磁性部材151側の磁極面が図1におけるカソード電極(被めっき物)21と対向するようにして配設されるものであり、磁性部材151の板面がカソード電極21の面内方向と平行とされている。
【0051】
電磁石152は、図3(b)に示すように、例えば概略円柱状の電磁石として構成される。一方、電磁石152A,152B,152Cは、図3(b)に示すように、電磁石152を中心として同心状に配置される円環状の電磁石として構成される。そして、さらに電磁石152A,152B,152Cは、より具体的な構成としては、それぞれ、図3(b)に示されるように、複数個(図では6個)の部分的な円弧状に分割された形状の電磁石152As1〜152As6、152Bs1〜152Bs6、152Cs1〜152Cs6(以下「単位電磁石」とも称する)を円環状に組合せるとともに各単位電磁石を直列または並列に接続してなる電磁石群として構成される。
【0052】
なお、中心部に位置する電磁石152には永久磁石を用いてもよい。また、円環状の電磁石152A,152B,152Cを構成する単位電磁石の形状は、図3(b)に示すような円弧状に限定されるものではなく、方形状(3次元形状としては四角柱状)など他の形状であってもよく、複数の単位電磁石を組合せて概略円環状の電磁石群を形成することができればよい。また、さらに、円環状の電磁石152A,152B,152Cをそれぞれ構成する単位電磁石の個数(分割数)は、図3(b)に示した6個に限定されるものではない。
【0053】
そして、図3(c)に示すように、電磁石用電源153の正極VPおよび負極VNからの直流の励磁電流が、スイッチ154,154A,154B,154Cよりなる励磁用スイッチ回路を介して、電磁石152,152A,152B,152Cに供給されるようにして、励磁操作部が構成されている。ここで、電磁石152A,152B,152Cは、それぞれ上記のように複数個の単位電磁石を直列または並列に接続した電磁石群となっているが、図3(c)では、それぞれ1つの電磁石として図示している。なお、図3(c)は励磁操作部の一例を示すものであって、本発明は図3(c)の構成に限定されるものではない。
【0054】
図3の構成例における磁場の移動は次のようにして行う。すなわち、図3(c)に示すように、スイッチ154,154Aをオンして電磁石152,152Aを励磁するとともに、スイッチ154B,154Cをオフして電磁石152B,152Cを非励磁とした状態では、図3(a)に示すように、中心部の電磁石152の磁極面(例えばN極)と外径側の電磁石152Aの磁極面(例えばS極)との間に実線で示す磁場(B)155Aが形成される。
【0055】
この状態から、図3(c)においてスイッチ154,154Bをオンして電磁石152,152Bを励磁するとともに、スイッチ154A,154Cをオフして電磁石152A,152Cを非励磁とした状態に切り替えると、図3(a)に示すように、中心部の電磁石152の磁極面(例えばN極)と外径側の電磁石152Bの磁極面(例えばS極)との間に破線で示す磁場(B)155Bが形成される状態に切り替わるので、これに伴い、磁場発生手段150による磁場が電磁石152を中心として外径側に拡がるように移動し、磁場と電場とが直交する領域が外径側に移動する。そして、このような磁場の移動により、めっき浴11内におけるイオンが高濃度となる部分を移動させることができる。
【0056】
上述のように、図3の構成例は、複数の電磁石をオンオフさせて磁場のパターンを切り替えることに磁場を移動させる方式であって、磁場発生手段として、(図1および図3(a)〜図3(b)に示すように)中央部の磁石(電磁石または永久磁石)と,中央部の磁石(電磁石または永久磁石)を中心として同心状に配置される複数の円環状の電磁石とを,カソード電極21の面内方向と平行な面に配設するとともに、各円筒状の電磁石に励磁電流を供給する電磁石用電源と,各円筒状の電磁石への励磁電流の通流を制御する励磁用スイッチ回路とからなる励磁操作部を設けたものである。そして、図3の構成例は、励磁用スイッチ回路でのスイッチ操作によって各円環状の電磁石の励磁電流通流状態の切り替えを行ない、中央部の磁石(電磁石または永久磁石)との組合せで磁場を形成する円環状の電磁石を切り替えることにより、機械的な移動機構なしで、磁場をカソード電極21の面内方向に対して平行に移動させることができるので、本発明の実施例1における磁場移動方式として好適である。
【0057】
なお、図3の構成例では、図3(a)〜図3(c)に示す、中央部の磁石も電磁石とした構成において、電磁石用電源153を交流電源として、中央部の電磁石の磁極面と各円環状の電磁石の磁極面との間に交流磁場が形成されるようにしてもよい。
【0058】
(b)図4は、本発明の実施例1における磁場移動方式のさらに異なる構成例を示す図であって、図4(a)は本構成例における磁場発生手段160の側断面図であり、図4(b)は磁場発生手段160の平面図(図4(a)におけるP2矢視図)であり、図4(c)は磁場発生手段160を構成する各電磁石のための励磁操作部の一例を原理的に示す回路図である。
【0059】
図4(a)〜図4(b)に示すように、本構成例における磁場発生手段160は、複数個(図では37個)の例えば概略六角柱状の電磁石162s1〜162s37(以下「単位電磁石」とも称する)が磁気回路を形成するための平板状の磁性部材161上に2次元的に稠密に(すなわち蜂の巣の断面状に)並べるようにして設けられた構成であり、各電磁石の一方側の磁極面が磁性部材161側に接するように配置されている。なお、単位電磁石162s1〜162s37の形状は、図4(b)に示すような六角柱状に限定されるものではなく、磁性部材161上に2次元的に稠密に並べるのに適合した形状であればよい。本構成例における磁場発生手段160は、各単位電磁石の反磁性部材161側の磁極面が図1におけるカソード電極(被めっき物)21と対向するようにして配設されるものであり、磁性部材161の板面がカソード電極21の面内方向と平行とされている。ここで、以下の説明では、単位電磁石162s1〜162s37の各励磁コイルはいずれも同じ極性に巻回されているものとする。また、図4(b)における「1」〜「37」の数字は、単位電磁石162s1〜162s37を示す略号として記載したものである。
【0060】
そして、図4(c)に示すように、電磁石用電源163の正極VPおよび負極VNからの直流の励磁電流が、単位電磁石ごとに設けられたスイッチ対、すなわち、「スイッチ164a1,164b1」〜「スイッチ164a37,164b37」よりなる励磁用スイッチ回路を介して、単位電磁石162s1〜電磁石162s37に供給されるようにして、励磁操作部が構成されている。ここで、上記スイッチ対を構成する2つのスイッチ、例えば単位電磁石162s19に対応するスイッチ164a19,164b19は、それぞれ「正極VPとの接続」、「負極VNとの接続」および「非接続」の3状態を選択できる接点構成となっており、これらのスイッチの操作により、「単位電磁石に第1の極性の電流が通流する」状態と、「単位電磁石に第2の極性の電流が通流する」状態と、「単位電磁石に電流が通流しない」状態とを選択することができるものとなっている。なお、図4(c)は励磁操作部の一例を示すものであって、本発明は図4(c)の構成に限定されるものではない。
【0061】
図4の構成例における磁場の移動は次のようにして行う。すなわち、図4(c)に示すように、各スイッチを操作して、磁性部材161の中央部に配置された単位電磁石162s19には「Is19」で図示する極性の励磁電流が通流するとともに、単位電磁石162s19を囲うように隣接して同心状に配置された6個の単位磁石(162s12,162s13,162s18,162s20,162s25,162s26)にはそれぞれ「Is19」とは逆極性の励磁電流(例えば「Is20」)が通流するようにし、さらに、上記7個以外の単位電磁石には励磁電流が通流しないようにする。この状態では、単位電磁石162s19の反磁性部材161側の磁極面が例えばN極である場合には、単位電磁石162s19を囲む6個の単位磁石の反磁性部材161側の磁極面はいずれも逆極性のS極となるので、図4(a)に示すように、単位電磁石162s19の磁極面(例えばN極)とその外径側の6個の単位電磁石(162s12,162s13,162s18,162s20,162s25,162s26)の磁極面(例えばS極)との間に実線で示す磁場(B)165Aが形成される。
【0062】
上記の状態から、図4(c)において各スイッチを操作して、単位電磁石162s17の反磁性部材161側の磁極面が例えばN極となるとともに単位電磁石162s17を囲む6個の単位磁石(162s10,162s11,162s16,162s18,162s23,162s24)の反磁性部材161側の磁極面がいずれも逆極性のS極となり、さらに、上記7個以外の単位電磁石は非励磁で磁極が形成されないようにした場合、図4(a)に示すように、単位電磁石161s17の磁極面(例えばN極)とその外径側の6個の単位電磁石(162s10,162s11,162s16,162s18,162s23,162s24)の磁極面(例えばS極)との間に破線で示す磁場(B)165Bが形成されることになる。そして、これに伴い、磁場発生手段160による磁場が、カソード電極(被めっき物)21の面内方向に対して平行に移動し、磁場と電場とが直交する領域が移動する。そして、このような磁場の移動により、めっき浴11内におけるイオンが高濃度となる部分を移動させることができる。また、上述のように、励磁用スイッチ回路による切り替え操作の前後で磁場を形成する単位電磁石同士の相対的位置関係が保持されるようにすれば、磁場の移動の前後で磁場の形状が変わらないようにすることができる。
【0063】
なお、図3の構成例は磁場発生手段150による磁場の中心位置が磁石152の位置に固定された構成となっているのに対して、図4の構成例は、単位電磁石162s1〜162s37に対する励磁操作により磁場を任意の位置に移動させることができるので、被めっき物における任意の箇所を任意のめっき膜厚にする上でより好適である。
【0064】
上述のように、図4の構成例は、複数の電磁石のオンオフおよび極性切替によって磁場のパターンを切り替えることにより磁場を移動させる方式であって、磁場発生手段として、(図1および図4(a)〜図4(b)に示すように)複数の単位電磁石をカソード電極21の面内方向と平行な面に2次元的に並べて配設するとともに、各単位電磁石に励磁電流を供給する電磁石用電源と,各単位電磁石への励磁電流の通流を制御する励磁用スイッチ回路とからなる励磁操作部を設けたものである。そして、図4の構成例は、励磁用スイッチ回路でのスイッチ操作によって、各単位電磁石の励磁電流通流状態の切り替え、すなわち「第1の極性の電流が通流する」状態と,「第2の極性の電流が通流する」状態と,「電流が通流しない」状態との3つの状態間での切り替えを行ない、磁場を形成する単位電磁石同士の組合せを切り替えることにより、機械的な移動機構なしで、磁場をカソード電極21の面内方向に対して平行に移動させることができるので、本発明の実施例1における磁場移動方式として好適である。
【0065】
なお、図4の構成例では、図4(a)〜図4(c)に示す構成において、電磁石用電源163を交流電源として、単位電磁石同士の磁極面の間に交流磁場が形成されるようにしてもよい。
【実施例2】
【0066】
(イ)図5は本発明の実施例2による電解めっき装置を示す構成図であり、電解めっき装置を上方(垂直方向)から見た構成を模式的に示すものである。図5に示すように、実施例2の電解めっき装置は、めっき浴11(めっき槽10に入れられためっき液)内に、めっき電源22に接続された,1対のアノード電極20,20とアノード電極同士の間に配置されたカソード電極21とからなる電極部が配設され、この電極部のうちカソード電極(被めっき材)21の両方の側面側(左右の側面側)に第1の磁極230Aおよび第2の磁極230Bを配置した磁場発生手段230を設けてなる構成となっている。なお、実施例2の電解めっき装置における磁場発生手段230の第1の磁極230Aおよび第2の磁極230Bの配置箇所は、図5とは異なる配置箇所、すなわち、カソード電極(被めっき材)21の上下の側面側としてもよい。
【0067】
磁場発生手段230における第1の磁極230Aおよび第2の磁極230Bは磁極保持部230Cにより保持固定されている。磁極保持部230C内においては、第1の磁極230Aと第2の磁極230Bとの間に図示されない磁気回路部が設けられている。
【0068】
なお、実施例2の電解めっき装置では、実施例1の電解めっき装置と同様に、磁場発生手段230としては、永久磁石を用いてもよく、電磁石を用いてもよい。また、電磁石を用いた場合の磁場発生手段230としては、直流磁場を発生させる構成および交流磁場を発生させる構成のいずれも適用することができる。
(ロ)実施例2の電解めっき装置では、アノード電極20・カソード電極21間に発生する電場(E)23と、磁場発生手段230から生成される,上記電場(E)23に対して直交する成分をもつ磁場(B)231とによりめっき浴11中のイオンがローレンツ力を受け、めっき浴11が撹拌される。そして、実施例2の電解めっき装置においては、実施例1の電解めっき装置と同様に、磁場発生手段230として永久磁石を用いる構成や電磁石で直流磁場を発生させる構成であっても、攪拌効果を十分なものとすることができる。
【0069】
なお、実施例2の電解めっき装置は、1対のアノード電極20,20とアノード電極同士の間に配置されたカソード電極21(被めっき物)とからなる電極部構成になっているので、一度のめっき工程で被めっき物の両面にめっきを付着させたい場合には特に好適である。
【0070】
実施例2の電解めっき装置では、実施例1の電解めっき装置と同様に、めっき浴11全体における磁場分布は、磁場発生手段230により形成される磁場によって、カソード電極21の近傍領域が高磁場となる磁場分布となり、このような磁場分布がイオンに対する閉じ込め磁場として作用する。そのため、めっき浴11内におけるイオンはカソード電極11側に集まって、カソード電極21の近傍領域でイオン濃度が高濃度になるという濃度分布が形成される。このため、低濃度のめっき浴中でも高濃度のめっき浴によるめっきと同様なめっき効果が得られ、低濃度のめっき浴でも高速めっきが可能となる。
【0071】
また、実施例2の電解めっき装置では、磁場発生手段230による磁場が、カソード電極21の一方の側面側に配置された第1の磁極230Aの磁極面から他方の側面側に配置された第2の磁極230Bの磁極面に直線的に向う磁場であることにより、実施例1の電解めっき装置とは異なり、ローレンツ力によってイオンにカソード電極21の面内方向と平行に円を描くようなサイクロイド運動をさせることはできない。一方、実施例2の電解めっき装置においては、カソード電極21の一方面(図5における左側のアノード電極20に対向する面)と他方面(図5における右側のアノード電極20に対向する面)とで、それぞれ対向するアノード電極20,20との間に形成される電場(E)23の方向が逆方向であることにより、イオンが受けるローレンツ力の向きも逆方向となるため、イオンがカソード電極(被めっき物)21の周りを循環するような流れ、すなわち、イオンがカソード電極21の一方面側のめっき浴領域と他方面側のめっき浴領域との間で循環するような流れ(図5における「イオンの流れ方向244」参照)が作り出され、これにより、カソード電極(被めっき物)21の近傍領域におけるめっき浴の撹拌効果が高いものとなっている。
【0072】
なお、交流磁場発生手段230による磁場を交流磁場とした構成では、めっき浴中のイオンの受けるローレンツ力の向きが周期的に入れ替わることによる乱流効果によって、被めっき物における凹凸の有る部分も含めためっき膜厚の均一性をより向上させることができるようになる。
(ハ)また、実施例2の電解めっき装置でも、実施例1の電解めっき装置と同様に、磁場発生手段230における磁極保持部230Cと機械的に係合してなる磁場発生手段用移動装置232を設け、これにより、磁場発生手段230をカソード電極(被めっき物)21の面内方向に対して平行に移動させることができるようにしている。磁場発生手段230の移動に伴い、磁場もカソード電極(被めっき物)21の面内方向に対して平行に移動することにより、めっき浴11内におけるイオンが高濃度となる部分も移動し、その高濃度の部分では低濃度の部分よりもめっきの析出反応が促進される。このため、例えば表面に凹凸の多い被めっき物などにおけるめっきの析出しにくい箇所の近傍領域に高濃度の部分が移動するように磁場発生手段230を移動させて、めっきの析出しにくい箇所でめっきの析出を促進するようにすることによって、被めっき物全体におけるめっき膜厚の均一性をより向上させることが可能となる。また、磁場発生手段230の移動によって、被めっき物における任意の箇所を任意のめっき膜厚にすることも可能となる。
(ニ)なお、実施例2における磁場移動方式として、磁場発生手段230における磁極保持部230Cと機械的に係合してなる磁場発生手段用移動装置232を設けた構成を示したが、磁場移動方式は上記構成に限定されるものではなく、例えば、次のような構成を適用することもできる。
【0073】
(a)図6は、本発明の実施例2における磁場移動方式の異なる構成例を示す図であって、図6(a)は本構成例における磁場発生手段250の側断面図であり、図6(b)は磁場発生手段250を構成する各電磁石のための励磁操作部の一例を原理的に示す回路図である。そして、図6(a)のP3矢視方向が、電解めっき装置を上方(垂直方向)から見た方向(図5における紙面の奥行き方向)に対応する。
【0074】
図6(a)に示すように、本構成例における磁場発生手段250は、電磁石252A1〜252E1、252A2〜252E2が磁気回路を形成するための概略コの字状の磁性部材251上に設けられた構成であり、電磁石252A1〜252E1の例えば各N極側および電磁石252A2〜252E2の例えば各S極側が磁性部材251側に接するように配置されている。そして、電磁石252A1,252A2、電磁石252B1,252B2、電磁石252C1,252C2、電磁石252D1,252D2、および電磁石252E1,252E2がそれぞれ互いに対向する電磁石対を形成するように配置されている。なお、図6(a)における各電磁石にそれぞれ「S」および「N」の極性を記載しているが、これは、各電磁石の励磁状態での極性をそれぞれ示すものである。また、本構成例における磁場発生手段250は、電磁石252A1〜252E1の例えば各S極側の磁極面および電磁石252A2〜252E2の例えば各N極側の磁極面が図5におけるカソード電極(被めっき物)21の側方端と対向するようにして配設される。
【0075】
電磁石252A1〜252E1、252A2〜252E2は、いずれも例えば概略円柱状あるいは概略角柱状の電磁石として構成される。なお、図6は電磁石対を5対設けた構成を示しているが、本発明は図6の構成に限定されるものではない。
【0076】
そして、図6(b)に示すように、電磁石用電源253の正極VPおよび負極VNからの直流の励磁電流が、スイッチ254A〜スイッチ254Eよりなる励磁操作用スイッチ回路を介して、電磁石対252A1,252A2〜電磁石対252E,252E2に供給されるようにして、励磁操作部が構成されている。なお、図6(b)は励磁操作部の一例を示すものであって、本発明は図6(b)の構成に限定されるものではない。
【0077】
図6の構成例における磁場の移動は次のようにして行う。すなわち、図6(b)に示すように、スイッチ254Cをオンして電磁石対252C1,252C2を励磁するとともに、その他のスイッチをオフしてその他の電磁石対を非励磁とした状態では、図6(a)に示すように、電磁石252C1の磁極面(図ではS極)と電磁石252C2の磁極面(図ではN極)との間に実線で示す磁場(B)255Aが形成される。
【0078】
上記の状態から、例えば図6(b)においてスイッチ254Dをオンして電磁石対252D1,252D2を励磁するとともに、その他のスイッチをオフしてその他の電磁石対を非励磁とした状態に切り替えると、図6(a)に示すように、電磁石252D1の磁極面(図ではS極)と電磁石252D2の磁極面(図ではN極)との間に破線で示す磁場(B)255Bが形成される状態に切り替わるので、これに伴い、磁場発生手段250による磁場がカソード電極(被めっき物)21の面内方向に対して平行に移動し、これにより、磁場と電場とが直交する領域が移動する。そして、このような磁場の移動により、めっき浴11内におけるイオンが高濃度となる部分を移動させることができる。
【0079】
上述のように、図6の構成例は、複数の電磁石対をオンオフさせて磁場を移動させる方式であって、磁場発生手段として、2つの電磁石(例えば252A1,252A2)を,(図5および図6(a)に示すように)カソード電極21を側方の両側から挟み込む位置関係で互いに異なる極性の磁極面同士が対向するように配置してなる電磁石対を、カソード電極21の面内方向と平行な方向に沿って複数並べて配設するとともに、各電磁石対に励磁電流を供給する電磁石用電源と,各電磁石対への励磁電流の通流を制御する励磁用スイッチ回路とからなる励磁操作部を設けたものである。そして、図6の構成例は、励磁用スイッチ回路でのスイッチ操作によって各電磁石対の励磁電流通流状態の切り替えを行ない、磁場を形成する電磁石対を切り替えることにより、機械的な移動機構なしで、磁場をカソード電極21の面内方向に対して平行に移動させることができるので、本発明の実施例2における磁場移動方式として好適である。
【0080】
なお、図6の構成例では、図6(a)〜図6(b)に示す構成において、電磁石用電源253を交流電源として、電磁石対により交流磁場が形成されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0081】
10・・・めっき槽、11・・・めっき浴(めっき槽10に入れられためっき液)
20・・・アノード電極、21・・・カソード電極(被めっき物)、22・・・めっき電源、23・・・電場(E)
30,130,230・・・磁場発生手段、30A,230A・・・第1の磁極、30B,230B・・・第2の磁極、130A・・・第1の磁極(中央部の磁極)、130B・・・第2の磁極(外径側の磁極)、130C、230C・・・磁極保持部、31,131,231・・・磁場(B)、132、232・・・磁場発生手段用移動装置
41・・・イオン、142・・・ローレンツ力、143・・・磁力線、244・・・イオンの流れ方向
150・・・磁場発生手段、151・・・磁性部材、152,152A,152B,152C・・・電磁石、152As1〜152As6,152Bs1〜152Bs6,152Cs1〜152Cs6・・・単位電磁石、153・・・電磁石用電源、154,154A,154B,154C・・・スイッチ、155A,155B・・・磁場(B)
160・・・磁場発生手段、161・・・磁性部材、162s1〜162s37・・・単位電磁石、163・・・電磁石用電源、164a1〜164a37,164b1〜164b37・・・スイッチ、165A,165B・・・磁場(B)
250・・・磁場発生手段、251・・・磁性部材、252A1〜E1,252A2〜E2・・・電磁石、253・・・電磁石用電源、254A〜254E・・・スイッチ、255A,255B・・・磁場(B)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき浴内に,電極部を形成するアノード電極とカソード電極とを対向して配設し、アノード電極とカソード電極との間に電場を与えてめっきを行う電解めっき装置において、
カソード電極の近傍領域に前記電場に対して直交する成分をもつ磁場を形成する磁場発生手段を,カソード電極の反アノード電極側に配設するとともに、
前記磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることのできる磁場移動手段を備えてなる
ことを特徴とする電解めっき装置。
【請求項2】
前記磁場発生手段は,1対の磁極として,中心部に配置される第1の磁極と,第1の磁極に対してカソード電極の面内方向に平行な方向での外径側に同心状に配置される第2の磁極とを備えており、
中心部の第1の磁極の磁極面と外径側の第2の磁極の磁極面との間に磁場が形成される ことを特徴とする請求項1に記載の電解めっき装置。
【請求項3】
前記磁場発生手段として、中央部の磁石と,中央部の磁石を中心として同心状に配置される複数の円環状の電磁石とを,カソード電極の面内方向と平行な面に配設するとともに、 各円環状の電磁石に励磁電流を供給する電磁石用電源と,各円環状の電磁石への励磁電流の通流を制御する励磁用スイッチ回路とからなる励磁操作部を設け、
前記励磁用スイッチ回路によって各円環状の電磁石の励磁電流通流状態の切り替えを行ない、中央部の磁石との組合せで磁場を形成する円環状の電磁石を切り替えることにより、磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることができるようにしてなる ことを特徴とする請求項1に記載の電解めっき装置。
【請求項4】
前記磁場発生手段として、複数の単位電磁石をカソード電極の面内方向と平行な面に2次元的に並べて配設するとともに、各単位電磁石に励磁電流を供給する電磁石用電源と,各単位電磁石への励磁電流の通流を制御する励磁用スイッチ回路とからなる励磁操作部を設け、
前記励磁用スイッチ回路によって各単位電磁石の励磁電流通流状態の切り替えを行ない、磁場を形成する単位電磁石同士の組合せを切り替えることにより、磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることができるようにしてなることを特徴とする請求項1に記載の電解めっき装置。
【請求項5】
めっき浴内に,電極部を形成するアノード電極とカソード電極とを対向して配設し、アノード電極とカソード電極との間に電場を与えてめっきを行う電解めっき装置において、
前記電極部は1対のアノード電極とアノード電極同士の間に配置されたカソード電極とからなるものであって、カソード電極の近傍領域に前記電場に対して直交する成分をもつ磁場を形成する磁場発生手段を,カソード電極の側面側に配設するとともに、
前記磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることのできる磁場移動手段を備えてなる
ことを特徴とする電解めっき装置。
【請求項6】
前記磁場発生手段として、2つの電磁石を,カソード電極を側方の両側から挟み込む位置関係で互いに異なる極性の磁極面同士が対向するように配置してなる電磁石対を、カソード電極の面内方向と平行な方向に沿って複数並べて配設するとともに、各電磁石対に励磁電流を供給する電磁石用電源と,各電磁石対への励磁電流の通流を制御する励磁用スイッチ回路とからなる励磁操作部を設け、
前記励磁用スイッチ回路によって各電磁石対の励磁電流通流状態の切り替えを行ない、磁場を形成する電磁石対を切り替えることにより、磁場をカソード電極の面内方向に対して平行に移動させることができるようにしてなることを特徴とする請求項5に記載の電解めっき装置。
【請求項7】
前記磁場発生手段により形成される磁場は、交流磁場であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の電解めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−195898(P2011−195898A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64125(P2010−64125)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】