説明

電解アルミニウム箔製造装置

【課題】アルキルスルホンの結露によってアルミニウム箔の厚みが不均一になることを防止した、電解アルミニウム箔製造装置を提供する。
【解決手段】アルキルスルホンに少なくともアルミニウムハロゲン化物を溶解した電解アルミニウムめっき液Lを介して陰極ドラム1Cと陽極板1Dを対向して配置し、両極間を電源に接続して通電し、該陰極ドラムを回転させながら該陰極ドラム表面に箔Fとなるアルミニウムを析出させる電解アルミニウム箔製造装置において、前記陰極ドラムおよび陽極板が浸漬された前記めっき液を貯留するめっき槽1Bと、前記めっき液の上方を覆うようにして前記めっき槽上に配設された蓋部1Aと、該蓋部の内側に備わる天井部1Kと、該天井部と前記めっき液とに挟まれた空間に加熱した不活性ガスGを供給可能に配設されたガス供給口1Gを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解アルミニウム箔製造装置に関する。より詳細には、リチウムイオン二次電池やスーパーキャパシター(電気二重層キャパシター、レドックスキャパシター、リチウムイオンキャパシターなど)における蓄電デバイスの正極集電体に用いることができるアルミニウム箔の電解法による製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノートパソコンなどのモバイルツールの電源に、大きなエネルギー密度を持ち、かつ、放電容量の著しい減少が無い、リチウムイオン二次電池が用いられていることは周知の事実であるが、近年、モバイルツールの小型化に伴い、そこに装着されるリチウムイオン二次電池にも、より一層の小型化が要求されている。また、地球温暖化防止対策などの観点から、ハイブリッド自動車や太陽光発電などの技術が進展するのに伴い、電気二重層キャパシターやレドックスキャパシターなどの、大きなエネルギー密度を持つ、スーパーキャパシターの新しい用途展開が加速しつつあり、これらのさらなる高エネルギー密度化も要求されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池やスーパーキャパシターといった蓄電デバイスは、例えば、電解質としてLIPFやNR・BF(Rはアルキル基)などの含フッ素化合物を含んだ有機電解液中に、正極と負極が、ポリオレフィンなどからなるセパレータを介して配された構造からなる。正極は、LICOO(コバルト酸リチウム)や活性炭などの正極活物質と、正極集電体からなるとともに、負極は、グラファイトや活性炭などの負極活物質と、負極集電体からなり、それぞれの形状は、集電体の表面に活物質を塗布してシート状に成型したものが一般的である。各電極とも、大きな電圧がかかることに加え、腐食性が高い、含フッ素化合物を含んだ有機電解液に浸漬されることから、特に、正極集電体の材料は、電気伝導性に優れるとともに、耐腐食性に優れることが求められる。このような事情から、現在、正極集電体の材料としては、電気伝導率がほぼ100%であり、かつ、表面に不働態膜を形成して優れた耐腐食性を有する、アルミニウムが採用されている(負極集電体の材料としては、銅やニッケルなどが採用されている)。
【0004】
蓄電デバイスの小型化や高エネルギー密度化する手段の一つとして、シート状に成型された電極を構成する集電体を薄膜化する方法がある。現在のところ、正極集電体には、圧延法によって製造された厚みが15〜20ΜM程度のアルミニウム箔が一般的に用いられており、このアルミニウム箔の厚みをより薄くすることで、上記目的を達成することができる。しかしながら圧延法では、アルミニウム箔を工業的製造規模でこれ以上薄くすることは困難である。
【0005】
そこで、圧延法にかわるアルミニウム箔の製造方法として、電解法によってアルミニウム箔を製造する方法が考えられる。特許文献1には、(1)ジアルキルスルホン(2)アルミニウムハロゲン化物、および、(3)ハロゲン化アンモニウム、第一アミンのハロゲン化水素塩、第二アミンのハロゲン化水素塩、第三アミンのハロゲン化水素塩、一般式:RN・X(R〜Rは同一または異なってアルキル基、Xは第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す)で表される、第四アンモニウム塩からなる群から選択される、少なくとも1つの含窒素化合物を含むめっき液を用いた電解法によって、基材の表面にアルミニウム被膜を形成した後、当該被膜を基材から剥離することを特徴とするアルミニウム箔の製造方法が開示されている。そして、特許文献1の段落0016には、特許文献2を例にして、陰極ドラムを用いてアルミニウム被膜の形成と剥離を連続的に行うことができると記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、アルキルスルホンにアルミニウムハロゲン化物を溶解しためっき浴に、被めっき物を浸漬し通電することを特徴とするアルミニウムめっき膜の製造方法が開示されている。そして、特許文献3の図1にはめっき装置の概略が示されており、めっき液が大気中の水分を取り込まないように蓋付きの容器を用い、乾燥窒素を流しながらめっき液を加熱して、めっき処理する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2011/001932号パンフレット
【特許文献2】特開平06−093490号公報
【特許文献3】特開2008−031551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本出願人は、上記先行技術を参考にして、アルキルスルホンにアルミニウムハロゲン化物を溶解しためっき液と、陰極ドラムを用いて、アルミニウム被膜の形成と剥離を連続的に行うことを検討した。図5は、先行技術を元にして考案した、電解アルミニウム箔製造装置5の概略図である。
【0009】
装置5は、蓋部5Aを有するめっき槽5Bにめっき液Lを貯留して、一部がめっき液Lに浸漬された陰極ドラム5Cと、陰極ドラム5Cに対向して全てがめっき液Lに浸漬された陽極板5Dとの間を通電することで、陰極ドラム5C上にアルミニウム箔Fとなるアルミニウムめっき膜を形成するものである。アルミニウム箔Fは、回転する陰極ドラム5C上に連続的に形成された後、陰極ドラム5C表面から剥離され、ガイドロール5Eに誘導され、蓋部5Aとめっき槽5Bとの隙間に形成された箔引出し口5Fから、装置5外部の矢印の方向に引出される。めっき液Lの上方の蓋部5Aにはガス供給口5Gが設けられ、かかるガス供給口5Gから装置5内に乾燥窒素G´を導入することで、めっき液Lの劣化を防いでいる。そして、めっき液Lは、ヒーター電源5Hに接続されたヒーター5Iに最適なめっき液温度に加熱される。なお、図5では、陰極ドラム5Cと陽極板5Dとの間に電圧を印加する電源、めっき液Lの循環・濾過機構等については、図示を省略している。
【0010】
本出願人は、装置5によりアルミニウム箔Fを作製するために確認したところ、装置5の構成では、厚みが局所的に不均一なアルミニウム箔Fが作製されてしまうことが分かった。かかる現象は、装置5内においてめっき液Lが加熱され、めっき液Lの溶媒であるアルキルスルホンが蒸発して蓋部5A内側に結露物Aを形成し、この結露物Aがめっき液Lあるいは陰極ドラム5C表面に落下することに起因するものである。つまり、結露物Aには、めっき液Lの溶質であるアルミニウムハロゲン化物やその他添加剤は殆ど含まれていないので、結露物Aが陰極ドラム5C近傍、あるいは陰極ドラム5C上に落下すると、アルミニウム箔Fの形成に係わるめっき液Lの溶質濃度が局所的に薄くなり、陰極ドラム5C表面に形成されるアルミニウムの厚みが局部的に薄くなってしまうのである。
【0011】
本発明は、上記問題点を解決するものであり、装置内でのアルキルスルホンの結露物の落下により、アルミニウム箔の厚み不均一を発生しないようにする、電解アルミニウム箔製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の電解アルミニウム箔製造装置は、アルキルスルホンに少なくともアルミニウムハロゲン化物を溶解した電解アルミニウムめっき液を介して陰極ドラムと陽極板を対向して配置し、両極間を電源に接続して通電し、該陰極ドラムを回転させながら該陰極ドラム表面に箔となるアルミニウムを析出させる電解アルミニウム箔製造装置であって、前記陰極ドラムおよび陽極板が浸漬された前記めっき液を貯留するめっき槽と、前記めっき液の上方を覆うようにして前記めっき槽上に配設された蓋部と、該蓋部の内側に備わる天井部と、該天井部と前記めっき液とに挟まれた空間に加熱した不活性ガスを供給可能に配設されたガス供給口を有することを特徴としている。
【0013】
そして、本発明の電解アルミニウム箔製造装置では、前記天井部の少なくとも一部が前記めっき液面に対して傾斜した面を有するのが好ましく、かかる傾斜した面は、前記蓋部の外周方向に向かって下降した面とするのが好ましい。さらに、前記天井部を、前記陰極ドラムと一定間隔離れて該陰極ドラム上方を覆うよう略円筒内周面状の面を有する天井部とするのが好ましい。
【0014】
また、本発明の電解アルミニウム箔製造装置では、前記ガス供給口が前記天井部に開口しているのが好ましく、かかるガス供給口は、前記陰極ドラムの軸心方向に複数開口しているか、あるいは、前記陰極ドラムの軸心方向に細長くスリット状に開口しているのが好ましい。そして、前記ガス供給口および前記ガス供給口近傍を加熱可能な加熱機構を備えてもよい。
【0015】
さらに、本発明の電解アルミニウム箔製造装置では、前記ガス供給口が前記不活性ガスを一方向に噴出可能なノズルであってもよい。この場合、前記ノズルが前記陰極ドラム方向に前記不活性ガスを噴出可能に配設されるか、あるいは、前記ノズルが前記天井部の傾斜に沿った方向に不活性ガスを噴出可能に配設されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電解アルミニウム箔製造装置では、装置内に加熱した不活性ガスを導入しているので、めっき液から溶媒のアルキルスルホンが蒸発して装置内で結露物を形成しにくく、たとえ結露物を形成したとしても、蓋部の内側に備わる天井部により、結露物が陰極ドラム近傍あるいは陰極ドラム表面に落下しにくくなるので、アルキルスルホンの結露物に起因してアルミニウム箔の厚みが不均一になることが防止可能になる。なお、上記電解アルミニウム箔製造装置の好ましい態様およびその効果については、以下詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施態様の電解アルミニウム箔製造装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1の装置の陰極ドラム軸方向からみた断面図である。
【図3】図1の装置が採用可能な天井部の例を示す図である。
【図4】図1の装置が採用可能なノズルの例を示す図である。
【図5】従来技術の問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかる電解アルミニウム箔製造装置について、その実施態様を図面を参照しつつ説明する。
【0019】
電解アルミニウム箔製造装置の概略構成を、図1の斜視図と図2の断面図に示す。電解アルミニウム箔製造装置1(以下、装置1と略すことがある)は、蓋部1A、めっき槽1B、陰極ドラム1C、陽極板1D、ガス供給口1G、天井部1K、直流電源(不図示)を備えており、好ましい構成として、ガイドロール1E、ヒーター電源1H、ヒーター1I、めっき液循環装置1J、撹拌流ガイド1M、撹拌羽根1Nを備えるものである。なお、図1では、図2における、ヒーター電源1H、ヒーター1I、めっき液循環装置1Jの図示を省略している。
【0020】
図1および図2の電解アルミニウム箔製造装置1について、装置を構成する構成要素の詳細と装置を用いたアルミニウム箔製造プロセスの詳細を以下に説明する。なお、プロセスの前工程については、装置の動作手順とともに後述する。
【0021】
装置1では、蓋部1Aを有するめっき槽1Bにめっき液Lが貯留されていて、一部がめっき液Lに浸漬された陰極ドラム1Cと、陰極ドラム1Cの表面に対向して配設され全てがめっき液Lに浸漬された陽極板1Dとを、不図示の直流電源に接続して通電し、陰極ドラム1Cを矢印の方向に回転させながら、陰極ドラム1C上にアルミニウム箔Fとなるアルミニウムめっき膜を析出させるものである。通電中、めっき液Lは撹拌羽根1Nの回転により撹拌され、撹拌流ガイド1Mにより、陰極ドラム1Cと陽極板1Dとの間にめっき液Lの流れを発生させている。アルミニウム箔Fとなるアルミニウムめっき膜は、回転する陰極ドラム1C表面に連続的に形成された後、陰極ドラム1C表面から剥離され、ガイドロール1Eに誘導され、装置1の側面に形成される蓋部1Aとめっき槽1Bとの隙間に形成された箔引出し口1Fから、装置1外部の矢印の方向に引出される。また、めっき液L上方には、陰極ドラム1Cと一定間隔離れて陰極ドラム1C上方を覆うよう略円筒内周面状の面を有する天井部1Kが備えられ、めっき液Lから溶媒のアルキルスルホンが蒸発して結露しても、陰極ドラム1C近傍、あるいは陰極ドラム1C上に結露物が落下しないような構造になっている。陰極ドラム1Cと天井部1Kの好ましい間隔は、陰極ドラム1Cの直径が150MM程度のとき、100〜200MM程度である。天井部1Kに開口して設けられたガス供給口1Gからは、乾燥した加熱不活性ガスGが導入され、めっき液Lの劣化とアルキルスルホンの結露を防止している。導入されたガスは、後述するように、箔引出し口1Fから排出される。そして、めっき液Lは、ヒーター電源1Hに接続されたヒーター1Iにより加温されるとともに、めっき液循環装置1Jにより循環・濾過される。
【0022】
めっき液Lは、特許文献3に開示されているような、アルキルスルホンの溶媒にアルミニウムハロゲン化物を溶解しためっき液を用いることができる。ここで、アルキルスルホンは、特許文献1に開示されているようなジアルキルスルホンを用いてもよく、具体的には、ジメチルスルホン等を用いることができる。そして、アルミニウムハロゲン化物としては、具体的には、塩化アンモニウム等を用いることができる。さらに、他の添加剤として、ハロゲン化アンモニウム、第一アミンのハロゲン化水素塩、第二アミンのハロゲン化水素塩、第三アミンのハロゲン化水素塩、一般式:RN・X(R〜Rは同一または異なるアルキル基、Xは第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオン)で表される第四アンモニウム塩からなる群から選択される、少なくとも1つの含窒素化合物を添加することもできる。めっき液Lは常温では固形物であり、ヒーターIにより60〜140℃の高温に加熱し、液体になった状態でアルミニウム箔Fの製造に供される。
【0023】
蓋部1Aは、めっき液Lから溶媒のアルキルスルホンの蒸発を防ぐためにめっき槽1B上に配設されたものであり、同時に、装置1内部を保温する効果を有するものでもある。蓋部1Aとめっき槽1Bが外部に開口する部分は、加熱不活性ガスGを導入する部分と箔引出し口1Fだけとし、装置1内に加熱不活性ガスGを導入し箔引き出し口1Fから排出し続けることで、装置1内を常に110℃以上の高温に保つことを可能にしている。
【0024】
装置1は、ヒーター1Iによるめっき液Lの加熱により、装置1内部が110℃以上に加熱されるものであるが、装置1内部の加熱は必ずしもこの方法に拘るものではない。例えば、蓋部1Aやめっき槽1B周りにラバーヒーター等の加熱機構を配置し、蓋部1Aやめっき槽1Bを介して装置1内を加熱してもよい。
【0025】
天井部1Kは、めっき液Lの上方に、陰極ドラム1Cと一定間隔離れて陰極ドラム1Cの上方を覆うよう略円筒内周面状にして設けたものである。後述するように、装置1内には乾燥した加熱不活性ガスGが導入され、めっき液Lおよび陰極ドラム1Cと天井部1Kとの間は乾燥した高温の雰囲気になる。その結果、陰極ドラム1Cおよび天井部1Kは暖められて結露しにくい状態になっているが、かかる形状の天井部1Kを設けることで、仮に、めっき液Lから溶媒のアルキルスルホンが蒸発して天井部1K表面に結露しても、結露物は円筒内周面状に湾曲した天井部1K内面を伝い、陰極ドラム1Cから離れたところでめっき液Lに落下するようになる。つまり、アルキルスルホンの結露物が、陰極ドラム1C表面および陰極ドラム1C近傍のめっき液Lに落下するのを防止できるので、厚みが均一なアルミニウム箔Fを製造するのに非常に有効な構造である。
【0026】
装置1では、蓋部1Aの内側に天井部1Kを配設しているが、蓋部1Aに厚みをもたせて、内側を円筒内周面状にすることで、蓋部1Aと兼ねた天井部1Kにすることもできる。この場合、厚みをもたせた蓋部1Aの内部にヒーターを配して天井部1Kを加熱すれば、アルキルスルホンが天井部1Kに結露しにくくなり、結露防止に好ましい天井部1Kにすることができる。
【0027】
また、天井部1Kの表面は、アルキルスルホンが結露物を形成しても、円筒内周面状である天井部の表面上を速やかに流れてめっき液Lに落下するよう、平滑な表面にするのが好ましい。また、結露物を流れやすくするよう、天井部1Kの表面の結露物が流れる方向に溝加工を施してもよい。
【0028】
さらに、天井部1Kは、必ずしも図2に示されるように、円筒内周面状の形状である必要はない、例えば、図3(A)に示されるように、平板上の板をつき合わせて、二方向に結露物が流れ落ちる傾斜面構造を有する天井部1K´にしてもよいし、図3(B)に示されるように、一方向に結露物が流れ落ちる傾斜面構造を有する天井部1K´´としてもよい。いずれの場合においても、傾斜面が、蓋部1Bの外周方向、すなわち、陰極ドラム1Cから離れる方向に向かって下がるようにして、天井部1K´(1K´´)の表面に形成された結露物が流れて、陰極ドラム1Cから離れたところに落下するようにするのが好ましい。図2に示した円筒内周面状の天井部1Kは、陰極ドラム1Cとの間の空間を狭くすることができるので、ガス供給口1Gから導入される加熱不活性ガスGがスムーズな流れで循環するようになり、ガスの熱により陰極ドラム1Cが加熱され、装置1内を保温する効果も高まるので、天井部としてはより好ましい形状であるといえる。
【0029】
なお、結露物の落下防止に効果がある、天井部の形状に係る前記構成は、加熱不活性ガスの導入に係る構成の有無・形態にかかわらず、広くめっき装置に適用可能である。
【0030】
陰極ドラム1Cは、一般的な電解銅箔の製造装置で用いられるのと同様の円柱状からなる陰極ドラムであり、円柱の外周面上にアルミニウムが連続的して析出し、そのアルミニウムを陰極ドラム1C表面から剥離して、アルミニウム箔Fを得るものである。円柱状からなる陰極ドラム1Cの外周面は、通電しやすく、かつ、析出したアルミニウムが剥離されやすい材料を用いるのが好ましく、例えばチタン等を用いるのが好ましい。また、陰極ドラム1Cの表面は、アルミニウム箔Fの厚みを均一にするためには平滑な面が好ましいが、比表面積の大きいアルミニウム箔Fを製造するために、例えば、表面にディンプルのような数ΜMオーダーの微細な凹凸を設けてもよい。さらに、陰極ドラム1Cを通じて熱が逃げ、陰極ドラム1C表面あるいはめっき液Lの温度が下がるのを防止するために、陰極ドラム1C内にヒーター等の加熱機構を設けてもよい。陰極ドラム1Cは、ドラムの軸心方向に設けられた不図示の駆動部(例えばステッピングモーター)に接続して、毎分0.1°〜5°程度の速度で回転できるよう、装置1に取り付けられる。
【0031】
陽極板1Dは、純アルミニウム板を陰極ドラム1C表面の曲率にあわせて曲面加工したものであり、陽極板1Dの表面が、陰極ドラム1Cの表面と、ほぼ等間隔に対向して配設されている。かかる形状および配置は、陰極ドラム1Cと陽極板1Dとの間の電流密度を均一にすることができ、均質なアルミニウム箔Fを得るのには好ましいものである。陰極ドラム1Cと陽極板1Dは、不図示の直流電源に接続されて通電をされるが、陽極板1Dの表面を除き、陽極板1Dと同電位にしてめっき液Lに接する金属部分は、電気化学的にめっき液Lに浸食されやすい状態になる。したがって、かかる金属表面は、フッ素系の樹脂コーティング等により保護するのが好ましい。
【0032】
装置1では、撹拌羽根1Nを回転させてめっき液Lを撹拌し、撹拌流ガイド1Mで整流することにより、陰極ドラム1Cと陽極板1Dとの間にめっき液Lの流れを発生させているが、めっき液Lの撹拌は必ずしもこれに拘るものではない。例えば、装置1ではめっき液循環装置1Jによりめっき液Lを循環・濾過しているが、このめっき液循環装置1Jから流出するめっき液Lの流れを、直接陰極ドラム1Cと陽極板1Dとの間に誘導してめっき液Lの流れを形成することもできる。陰極ドラム1Cと陽極板1Dとの間にめっき液Lの流れを形成することは、陰極ドラム1C表面に均質なアルミニウムを析出させる上で重要である。
【0033】
ガス供給口1Gは、外部から装置1内に乾燥させた加熱不活性ガスGを導入するガス導入口である。装置1のように、蓋部1Aの内面に、蓋部1Aとは別に天井部1Kが設けられている場合、ガス供給口1Gを蓋部1Aの壁面に開口して、蓋部1Aと天井部1Kとの間に加熱不活性ガスGを導入し、蓋部1Aと天井部1Kの隙間からガスを流出させて、装置1内部に供給することもできるが、陰極ドラム1Cと天井部1Kとの間に加熱不活性ガスGを流したほうが、陰極ドラム1Cに沿ってガス流がスムーズに循環するようになるので、ガスの熱により陰極ドラム1Cが加熱されて装置1内を保温する効果も高まる。したがって、ガス供給口1Gは蓋部1Aの側面より天井部1Kに開口させるのが好ましい。
【0034】
また、ガス供給口1Gは、天井部1Kのある一点において、例えば、円形状の開口部にして設けることも可能であるが、円柱状の陰極ドラム1Cの軸心方向に沿って複数の開口部を設けるか、あるいは、図1に示されるように、細長いスリット状のガス供給口1Gにするのが好ましい。かかる構成にするほうが、ガス供給口1Gから導入された加熱不活性ガスGが陰極ドラム1Cの表面に沿ってスムーズに循環できるようになるので、装置1内の不活性ガスの温度分布をより均一にすることができ、アルキルスルホンが結露するのをより一層防止する効果が得られる。
【0035】
さらに、天井部1Kのガス供給口1Gを開口した部分は、めっき液Lから蒸発したアルキルスルホンが結露しやすく、めっき液Lあるいは陰極ドラム1C上に結露物が落下する危険性が高くなる。これを回避するために、ガス供給口1G近傍にヒーター等の加熱機構を設け、ガス供給口1G近傍にアルキルスルホンを結露しにくくしてもよい。
【0036】
そして、ガス供給口1Gは、加熱不活性ガスGが一方向に噴出可能な、ノズル形状であってもよい。この場合、加熱不活性ガスGは、図4(A)のように陰極ドラム1C方向に噴出させてもよいし、図4(B)のように天井部1Kの円筒内周面に沿った方向に噴出させてもよい。図4(A)のように、加熱不活性ガスGをノズル1Pから陰極ドラム1C方向に略垂直に噴出させた場合、陰極ドラム1Cに衝突した加熱不活性ガスの気流は、陰極ドラム1Cの表面に沿って流れようになるので、陰極ドラム1C上にアルキルスルホンの結露物が落下しても吹き飛ばされて付着しにくくなる。なお、噴出角度は、結露物の付着程度をみて、垂直だけでなく、適宜変えることができる。また、図4(B)のように、加熱不活性ガスGをノズル1Pから天井部1Kの円筒内周面に沿って噴出させた場合、天井部1Kに付着したアルキルスルホンの結露物が、円筒内周面状である天井部1Kの内面を伝って流れ落ちやすくなるので、陰極ドラム1C上、あるいは、陰極ドラム1C近傍のめっき液Lに落下するのを防止する効果が得られる。図4(B)では、天井部1K内面に沿った下方に加熱不活ガスGを噴出するノズル1P形状のガス供給口1Gを示しているが、同時に、天井部1K内面に沿った下方に加熱不活ガスGを噴出するノズル形状のガス供給口1Gを併設して、天井部1K内面すべてに沿って加熱不活ガスGが流れるようにすれば、天井部1K内面全てにおいて結露物を流し落とす効果が得られるので、アルキルスルホンの結露防止にはより一層好ましくなる。
【0037】
加熱不活性ガスGは、めっき液が酸化するのを防止できる不活性ガスであればよく、アルゴンガスや窒素ガスを用いることができる。また、めっき液Lは水分を吸収しても劣化しやすい特性があるので、水分を除去して乾燥させた不活性ガスを用いる必要がある。そして、加熱不活性ガスGは、天井部1Kの内面にアルキルスルホンが結露しにくくするのを防止するために、めっき液Lの温度と同程度以上の110〜140℃程度に加熱されたガスを用いるのが好ましい。ここで、導入する加熱不活性ガスGの温度,流量は、装置1内の雰囲気温度がめっき液Lの温度と同程度以上に保持されるよう、雰囲気温度をモニターしながら温度,流量調整されるのが好ましい。
【0038】
上記電解アルミニウム箔製造装置1の動作について説明する。まず、前工程として、めっき液Lの建浴について説明すると、水滴等の水分が付着していないことを確認しためっき槽1B内に、適量秤量した固体のアルキルスルホンとアルミニウムハロゲン化物、ハロゲン化アンモニウム等の添加剤を投入する。その後、蓋部1Aを閉じ、ヒーター電源1Hのスイッチを入れない状態で、ガス供給口1Gから乾燥した不活性ガスを導入して数時間放置する。このとき、不活性ガスは加熱されている必要はない。この作業は、薬剤表面と装置内に付着した水分を除去するものである。アルミニウムハロゲン化物は水分を吸収しやすく、めっき液Lに水分が取り込まれると、通電により水素を発生する可能性がある。水素爆発の危険性を避けるために、かかる不活性ガスの導入作業は必ず行うべきものである。
【0039】
その後、ヒーター電源1Hのスイッチを入れ、ガス供給口1Gから導入していた不活性ガスを加熱して加熱不活性ガスGとし、めっき液Lとなる固体の薬剤を溶解する。薬剤が溶解してめっき液Lとなったことが確認できたら、撹拌羽根1Nを回転させてめっき液Lを撹拌し、めっき液循環装置1Jを動作させてめっき液の循環・濾過を開始する。ここで、液状になっためっき液Lが沸騰しないよう、めっき液Lの液温管理は重要である。例えば、アルキルスルホンとしてジメチルスルホンを用いた場合、めっき液は約120℃で沸騰してしまうので、ヒーター電源1Hの出力を調整して、めっき液Lの温度を100℃〜110℃に維持する必要がある。またこの場合、加熱不活性ガスGの温度は、めっき液Lの液温と同程度もしくは若干高い、110℃〜115℃になるよう設定するのがよい。めっき液Lを建浴するためには、最低でも、30分から1時間めっき液Lを循環させて撹拌するのがよい。
【0040】
建浴が終わった後、陰極ドラム1Cを回転させながら、陰極ドラム1Cと陽極板1Dとの間を通電して、陰極ドラム1C外周面上にアルミニウムを析出させる。析出したアルミニウム端部を、陰極ドラム1C外周面から剥離した後、ガイドロール1Eを介して箔引出し口1Fから装置1外に引き出し、アルミニウム箔Fを得る。陰極ドラム1Cの回転数と、めっき電流密度は、アルミニウム箔Fの厚みと品質にあわせて任意に設定することができる。
【符号の説明】
【0041】
1,5 :電解アルミニウム製造装置
1A,5A :蓋部
1B,5B :めっき槽
1C,5C :陰極ドラム
1D,5D :陽極板
1E,5E :ガイドロール
1F,5F :箔引出し口
1G,5G :ガス供給口
1H,5H :ヒーター電源
1I,5I :ヒーター
1J :めっき液循環装置
1K :天井部
1M :撹拌流ガイド
1N :撹拌羽根
1P :ノズル
A :結露物
F :アルミニウム箔
G :加熱不活性ガス
L :めっき液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルスルホンに少なくともアルミニウムハロゲン化物を溶解した電解アルミニウムめっき液を介して陰極ドラムと陽極板を対向して配置し、両極間を電源に接続して通電し、該陰極ドラムを回転させながら該陰極ドラム表面に箔となるアルミニウムを析出させる電解アルミニウム箔製造装置において、前記陰極ドラムおよび陽極板が浸漬された前記めっき液を貯留するめっき槽と、前記めっき液の上方を覆うようにして前記めっき槽上に配設された蓋部と、該蓋部の内側に備わる天井部と、該天井部と前記めっき液とに挟まれた空間に加熱した不活性ガスを供給可能に配設されたガス供給口を有することを特徴とする電解アルミニウム箔製造装置。
【請求項2】
前記天井部の少なくとも一部が前記めっき液面に対して傾斜した面を有することを特徴とする請求項1に記載の電解アルミニウム製造装置。
【請求項3】
前記天井部の傾斜した面が前記蓋部の外周方向に向かって下降した面であることを特徴とする請求項2に記載の電解アルミニウム製造装置。
【請求項4】
前記天井部が前記陰極ドラムと一定間隔離れて該陰極ドラム上方を覆うよう略円筒内周面状の面を有することを特徴とする請求項2または3に記載の電解アルミニウム製造装置。
【請求項5】
前記ガス供給口が前記天井部に開口していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電解アルミニウム製造装置。
【請求項6】
前記ガス供給口が前記陰極ドラムの軸心方向に複数開口しているか、あるいは、前記陰極ドラムの軸心方向に細長くスリット状に開口していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の電解アルミニウム製造装置。
【請求項7】
前記ガス供給口および前記ガス供給口近傍を加熱可能な加熱機構を備えることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の電解アルミニウム製造装置。
【請求項8】
前記ガス供給口が前記不活性ガスを一方向に噴出可能なノズルであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の電解アルミニウム製造装置。
【請求項9】
前記ノズルが前記陰極ドラム方向に前記不活性ガスを噴出可能に配設されることを特徴とする請求項8に記載の電解アルミニウム箔製造装置。
【請求項10】
前記ノズルが前記天井部の傾斜に沿った方向に不活性ガスを噴出可能に配設されることを特徴とする請求項8に記載の電解アルミニウム箔製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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