説明

電解コンデンサ用ゲル電解液及び電解コンデンサ

【課題】高い電導度と火花電圧を有し、耐久性に優れた電解コンデンサ用ゲル電解液及びそれを用いた電解コンデンサを提供する。
【解決手段】コロイダルシリカの重合体と、カルボン酸成分(A)と一般式(1)〜(7)より表されるいずれかの塩基成分(B)からなる電解質塩と、有機溶媒と、を含有した電解コンデンサ用ゲル電解液において、コロイダルシリカの重合体が、酸性コロイダルシリカ又はアンモニア安定型コロイダルシリカを用いて重合させた重合体であることを特徴とする電解コンデンサ用ゲル電解液及びそれを用いた電解コンデンサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い電導度と火花電圧を有し、長期安定性に優れた電解コンデンサ用ゲル電解液とそれを用いた電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来における電解コンデンサ用電解液としては、低温での粘性が低いγ−ブチロラクトン等の溶媒に有機酸や無機酸又はそれらの塩を電解質として溶解させたものが用いられている。例えば、テトラメチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウムと、マレイン酸、フタル酸等のジカルボン酸との塩からなる電解質を、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール等の溶媒に溶解させたものが知られている。
【0003】
電解液の中でも、電導度は電解コンデンサの損失、インピーダンス特性などに直接関わることから、高い電導度を有する電解コンデンサ用電解液の開発が盛んに行われている。この中でもカルボン酸をアニオンとした第四級アンモニウム塩を溶解質塩としたものが高い電導度を得られるということで注目されている(特許文献1)。
【0004】
電解液に用いる有機溶媒としては、γ−ブチロラクトンや、γ−ブチロラクトンとエチレングリコールの混合溶媒が挙げられるが、いずれも初期の電導度は優れているが、使用しているとすぐに低下してしまい、耐久性に劣る問題があった(特許文献2)。
【0005】
高電導度を有する電解液は、一般に電解液自体の火花電圧が低く、定格電圧が50V以下の領域で用いられてきた。火花電圧を向上させるために、コロイダルシリカを含有させた電解コンデンサ用電解液もあるが、コロイダルシリカが電解液中に分散しているだけであるので、火花電圧が十分に得られず、耐久性にも劣る欠点があった(特許文献3)。
【0006】
以上のように高い電導度と火花電圧を有し、耐久性に優れた電解コンデンサが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−6646号公報
【特許文献2】特開平6−196366号公報
【特許文献3】特開2007−273921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い電導度と火花電圧を有し、耐久性に優れた電解コンデンサ用ゲル電解液及びそれを用いた電解コンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、コロイダルシリカの重合体と、カルボン酸成分(A)と一般式(1)〜(7)より表されるいずれかの塩基成分(B)からなる電解質塩と、有機溶媒と、を含有した電解コンデンサ用ゲル電解液において、
コロイダルシリカの重合体が、酸性コロイダルシリカ又はアンモニア安定型コロイダルシリカを用いて重合させた重合体であることを特徴とする電解コンデンサ用ゲル電解液である。
【0010】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0011】
第一の発明は、コロイダルシリカの重合体と、カルボン酸成分(A)と下記一般式(1)〜(7)より表されるいずれかの塩基成分(B)からなる電解質塩と、有機溶媒と、を含有する電解コンデンサ用ゲル電解液において、
コロイダルシリカの重合体が、酸性コロイダルシリカ又はアンモニア安定型コロイダルシリカを用いて重合させた重合体であることを特徴とする電解コンデンサ用ゲル電解液。
【0012】
【化1】

(式(1)〜(7)中、R〜R30は、それぞれ同一でも異なっても良い水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、水酸基であり、隣接R同士は連結し、炭素数2〜6のアルキレン基を形成しても良い。)
【0013】
第二の発明は、カルボン酸成分(A)がフタル酸、マレイン酸、サリチル酸、安息香酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,6−デカンジカルボン酸からなる群より選ばれる一種であることを特徴とする第一の発明に記載の電解コンデンサ用ゲル電解液である。
【0014】
第三の発明は、酸性コロイダルシリカ又はアンモニア安定型コロイダルシリカの平均粒径が、1〜50nmであることを特徴とする第一又は第二の発明に記載の電解コンデンサ用ゲル電解液である。
【0015】
第四の発明は、電解コンデンサ用ゲル電解液中におけるコロイダルシリカの重合体の含有量が、1.0〜50質量%であることを特徴とする第一から第三の発明のいずれかに記載の電解コンデンサ用ゲル電解液である。
【0016】
第五の発明は、第一から第四の発明のいずれかに記載の電解コンデンサ用ゲル電解液を用いてなることを特徴とする電解コンデンサである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い電導度と火花電圧を有し、耐久性に優れた電解コンデンサ用ゲル電解液及びそれを用いた電解コンデンサを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の電解コンデンサ用ゲル電解液について説明する。
【0019】
本発明者らは鋭意検討した結果、コロイダルシリカの重合体と、カルボン酸成分(A)と一般式(1)〜(7)より表されるいずれかの塩基成分(B)からなる電解質塩と、有機溶媒と、を含有する電解コンデンサ用ゲル電解液において、コロイダルシリカの重合体が、酸性コロイダルシリカ又はアンモニア安定型コロイダルシリカを用いて重合させた重合体であることを特徴とする電解コンデンサ用ゲル電解液及びそれを用いた固体電解コンデンサが上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0020】
<コロイダルシリカ>
コロイダルシリカとは、SiO又はその水和物のコロイドで、粒径が1〜300nmで一定の構造をもたないものである。ケイ酸塩に希塩酸を作用させた後に、透析で得ることができる。
【0021】
コロイダルシリカは、水又は有機溶媒にほとんど溶解せず、一般に適当な分散溶媒中に分散させたコロイド溶液として電解液に添加して、熱をかけて重合させた重合体として用いることができる。
【0022】
通常コロイダルシリカは、ナトリウム安定型コロイダルシリカと呼ばれるものであり、製造によりNaを含み、コロイダルシリカの表面がONa基となっている。該ナトリウム安定型コロイダルシリカは、有機溶媒に十分な分散性を示さず、また、ナトリウムイオンが阻害するために、導電性及び火花電圧が十分に向上しない問題があった。
【0023】
本発明に用いるコロイダルシリカは、酸性コロイダルシリカ又はアンモニウム安定型コロイダルシリカである。
酸性コロイダルシリカは、コロイダルシリカの表面が、Naを除去したOH基となっているコロイダルシリカであり、アンモニア安定型コロイダルシリカは、Naを除去してOH基にした後、アンモニア処理して表面をアンモニアイオンで安定化したコロイダルシリカである。
【0024】
本発明の電解コンデンサ用ゲル電解液は、酸性コロイダルシリカ又はアンモニア安定型コロイダルシリカを重合させた重合体を含有することを特徴としている。
上記コロイダルシリカのシラノール基同士が重合した重合体を含有しているため電解液自体がゲル状となっている。
【0025】
電解コンデンサ用ゲル電解液の製造方法は、コロイダルシリカを重合させた重合体を電解液に含有させてゲル電解液を製造してもよいし、コロイダルシリカを含有させた電解液を加熱して重合させて重合体としてゲル電解液を製造してもよい。
また、コロイダルシリカを含有させた電解コンデンサ用電解液は、通常、水を留去させるため、80℃程度で加熱するが、80℃ではコロイダルシリカはゲル化しない。電解液を120〜200℃で加熱させることでコロイダルシリカのシラノール基同士が重合しゲル化する。
【0026】
酸性コロイダルシリカ又はアンモニア安定型コロイダルシリカの重合体を電解液中に含有させることで、導電性及び火花電圧を大幅に向上させることができる。
【0027】
電解コンデンサ用ゲル電解液中におけるコロイダルシリカの重合体の含有量は、0.1〜50質量%、より好ましくは0.5〜40質量%が挙げられ、特に好ましくは1.0〜30質量%が挙げられる。0.1質量%未満の場合、電解コンデンサの電気特性向上効果が小さく、50質量%超では、粘度が大きすぎるため扱い辛い欠点がある。
【0028】
コロイダルシリカの平均粒径は、いずれのものでもよく、好ましくは1〜50nmであり、より好ましくは1〜30nmである。前記平均粒径にすることで、溶媒における分散性に優れ、重合させたときに、電解質塩を均一に分散させた電解コンデンサ用ゲル電解液を得ることができる。
【0029】
コロイダルシリカの形状は、球状タイプ、鎖状タイプ、コロイダルシリカが環状に凝集して溶媒に分散した環状タイプのいずれであってもよい。
【0030】
酸性コロイダルシリカのpHは、pH2〜4程度であり、アンモニア安定型コロイダルシリカのpHは、pH9〜11程度である。
【0031】
市販品のアンモニア安定型コロイダルシリカとしては、スノーテックス(登録商標)N(日産化学工業(株)社製)、ルドックス(登録商標)AS(ダブリュ.アール.グレース・アンド・カンパニー−コネティカット社製)、ナルコ(登録商標)2326(ナルコケミカル カンパニー社製)、アデライト(登録商標)AT−20N(ADEKA社製)等が挙げられる。
【0032】
市販品の酸性コロイダルシリカとしては、スノーテックス(登録商標)O(日産化学工業(株)社製)、ナルコ(登録商標)1034A(ナルコケミカル カンパニー社製)、カタロイド(登録商標)SN(触媒化学工業(株)社製)、アデライト(登録商標)AT−20Q(ADEKA製)等が挙げられる。
【0033】
<電解質塩>
本発明の電解コンデンサ用ゲル電解液に用いる電解質塩は、カルボン酸成分(A)と一般式(1)〜(7)のいずれかより表される塩基成分(B)からなる塩である。
【0034】
カルボン酸成分(A)は、カルボン酸が置換している有機化合物であり、芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸等の有機カルボン酸である。具体的には、例えば、芳香族カルボン酸:(例えばフタル酸、サリチル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、安息香酸、レゾルシン酸、ケイ皮酸、ナフトエ酸、マンデル酸)、脂肪族カルボン酸:([飽和カルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、3−tert−ブチルアジピン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、プロピルマロン酸、ブチルマロン酸、ペンチルマロン酸、ヘキシルマロン酸、ジメチルマロン酸、ジエチルマロン酸、メチルプロピルマロン酸、メチルブチルマロン酸、エチルプロピルマロン酸、ジプロピルマロン酸、メチルコハク酸、エチルコハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、3−メチル−3−エチルグルタル酸、3,3−ジエチルグルタル酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、3,3−ジメチルグルタル酸、3−メチルアジピン酸、1,6−デカンジカルボン酸、5,6−デカンジカルボン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ウンデカン酸、ボロジグリコール酸、ボロジシュウ酸、ボロジサリチル酸、イタコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸]、[不飽和カルボン酸、例えばマレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸、オレイン酸])等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組合せて用いてもよい。
これらの中でも、電導度が高く熱的にも安定な点から、フタル酸、マレイン酸、サリチル酸、安息香酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,6−デカンジカルボン酸が好ましく挙げられる。
【0035】
塩基成分(B)は、下記一般式(1)〜(7)より表されるいずれかの化合物が挙げられる。

【0036】
一般式(1)〜(7)で表される化合物中、R〜R30は、それぞれ同一でも異なっても良い水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、水酸基であり、隣接するR同士は連結し、炭素数2〜6のアルキレン基を形成しても良い。
【0037】
一般式(1)で表される塩基成分の具体例としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトライソプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリメチルエチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム、ジメチルエチルメトキシエチルアンモニウム、ジメチルエチルメトキシメチルアンモニウム、ジメチルエチルエトキシエチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、ジメチルエチルプロピルアンモニウム、トリエチルプロピルアンモニウム、スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウム、ピペリジン−1−スピロ−1’−ピロリジニウム、スピロ−(1,1’)−ビピペリジニウム等が挙げられる。
これらの中でも、高い電導度を有し、さらに火花電圧が向上する点より、アンモニウム、テトラエチルアンモニウム、スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムが特に好ましく挙げられる。
【0038】
一般式(2)で表される塩基成分の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメトキシアミン、ジメチルメトキシアミン、ジメチルエトキシアミン、ジエチルエトキシアミン、メチルエチルメトキシアミン、N−メチルピロリジン、N−エチルピロリジン、N−プロピルピロリジン、N−イソプロピルピロリジン、N−ブチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、N−プロピルピペリジン、N−イソプロピルピペリジン、N−ブチルピペリジン等が挙げられる。
これらの中でも、高い電導度を有し、さらに火花電圧が向上する点より、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、N−メチルピロリジンが特に好ましく挙げられる。
【0039】
一般式(3)で表される塩基成分の具体例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルイソプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルイソプロピルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、イソプロピルブチルアミン、ピロリジン等が挙げられる。
これらの中でも、高い電導度を有し、さらに火花電圧が向上する点より、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、ピロリジンが特に好ましく挙げられる。
【0040】
一般式(4)で表される塩基成分の具体例としては、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1,3−ジエチルイミダゾリウム、1,3−ジプロピルイミダゾリウム、1,3−ジイソプロピルイミダゾリウム、1,3−ジブチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−エチルイミダゾリウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリウム、1,3−ジメチル−2−エチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3−エチル−イミダゾリウム、1,2,3−トリエチルイミダゾリウム、1,2,3,4−テトラエチルイミダゾリウム等が挙げられる。
これらの中でも、高い電導度を有し、さらに火花電圧が向上する点より、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1,3−ジエチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−エチルイミダゾリウムが特に好ましく挙げられる。
【0041】
一般式(5)で表される塩基成分の具体例としては、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2,4−ジエチルイミダゾリニウム、1,2−ジメチル−3,4−ジエチルイミダゾリニウム、1−メチル−2,3,4−トリエチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラエチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2−エチルイミダゾリニウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリエチルイミダゾリニウム、4−シアノ−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−シアノメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、2−シアノメチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウム、4−アセチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−アセチルメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、4−メチルカルボオキシメチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−メチルカルボオキシメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、4−メトキシ−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−メトキシメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、4−ホルミル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−ホルミルメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、3−ヒドロキシエチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、4−ヒドロキシメチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、2−ヒドロキシエチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウム等が挙げられる。
これらの中でも、高い電導度を有し、さらに火花電圧が向上する点より、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリニウムが特に好ましく挙げられる。
【0042】
一般式(6)で表される塩基成分の具体例としては、1,2−ジメチルピラゾリウム、1−メチル−2−エチルピラゾリウム、1,2−ジエチルピラゾリウム、1,2−ジプロピルピラゾリウム、1,2−ジブチルピラゾリウム、1−メチル−2−プロピルピラゾリウム、1−メチル−2−ブチルピラゾリウム、1−メチル−2−ヘキシルピラゾリウム、1−メチル−2−オクチルピラゾリウム、1−メチル−2−ドデシルピラゾリウム、1,2,3,5−テトラメチルピラゾリウム、1−エチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−エチル−3−メトキシ−2,5−ジメチルピラゾリウム、3−フェニル−1,2,5−トリメチルピラゾリウム、3−メトキシ−5−フェニル−1−エチル−2−エチルピラゾリウム、1,2−テトラメチレン−3,5−ジメチルピラゾリウム、1,2−テトラメチレン−3−フェニル−5−メチルピラゾリウム、1,2−テトラメチレン−3−メトキシ−5−メチルピラゾリウム等が挙げられる。
これらの中でも、高い電導度を有し、さらに火花電圧が向上する点より、1,2−ジメチルピラゾリウム、1−メチル−2−エチルピラゾリウム、1,2−ジエチルピラゾリウムが特に好ましく挙げられる。
【0043】
一般式(7)で表される塩基成分の具体例としては、N−メチルピリジニウム、N−エチルピリジニウム、N−プロピルピリジニウム、N−イソプロピルピリジニウム、N−ブチルピリジニウム、N−ヘキシルピリジニウム、N−オクチルピリジニウム、N−ドデシルピリジニウム、N−メチル−3−メチルピリジニウム、N−エチル−3−メチルピリジニウム、N−プロピル−3−メチルピリジニウム、N−ブチル−3−メチルピリジニウム、N−ブチル−4−メチルピリジニウム、N−ブチル−4−エチルピリジニウム等が挙げられる。
これらの中でも、高い電導度を有し、さらに火花電圧が向上する点より、N−メチルピリジニウム、N−エチルピリジニウム、N−ブチルピリジニウム、N−メチル−3−メチルピリジニウム、N−エチル−3−メチルピリジニウム、N−ブチル−3−メチルピリジニウムが特に好ましく挙げられる。
【0044】
一般式(1)〜(7)で表される塩基成分の中でも、特に一般式(1)〜(3)で表される塩基成分が、長期にわたり安定しているため高い電導度と火花電圧を得ることができるため特に好ましく挙げられる。
【0045】
また、電解質塩におけるカルボン酸成分(A)と、塩基成分(B)とのモル比は等モルでもよいが、カルボン酸成分(A)を過剰とする方が、火花電圧が高くなるので好ましく挙げられる。具体的には、カルボン酸成分(A):塩基成分(B)=1:1.005〜1.30が好ましい。
【0046】
電解質塩の添加量は、1.0〜60質量%が好ましく、5.0〜50質量%がより好ましく、10〜40質量%が特に好ましく挙げられる。
1.0質量%未満の場合、十分な電気特性が得られない欠点があり、60質量%超の場合、比抵抗が上昇する欠点がある。
【0047】
<有機溶媒>
電解コンデンサ用ゲル電解液に用いる有機溶媒は、プロトン性極性溶媒又は非プロトン性極性溶媒を用いることができ、単独で用いても2種類以上混合して用いてもよい。
プロトン性極性溶媒としては、一価アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等)、多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール等)などが挙げられる。
非プロトン性の極性溶媒としては、γ−ブチロラクトン、アミド系(N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等)、スルホラン系(スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等)、鎖状スルホン系(ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン)、環状アミド系(N−メチル−2−ピロリドン等)、カーボネイト類(エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、イソブチレンカーボネイト等)、ニトリル系(アセトニトリル等)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシド等)、2−イミダゾリジノン系〔1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン(1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジ(n−プロピル)−2−イミダゾリジノン等)、1,3,4−トリアルキル−2−イミダゾリジノン(1,3,4−トリメチル−2−イミダゾリジノン等)〕等が挙げられる。
これらの中でも、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール、スルホラン、ジメチルスルホキシドが好ましく挙げられる。
【0048】
中低圧用の電解コンデンサ用ゲル電解液に用いる好ましい有機溶媒としては、γ−ブチロラクトン単独、又は、γ−ブチロラクトンを主成分とし、副成分としては、エチレングリコール又はジメチルスルホキシドが挙げられる。
また、高圧用の電解コンデンサ用ゲル電解液に用いる好ましい有機溶媒としては、エチレングリコール単独が好ましく挙げられる。
【0049】
中低圧用の電解コンデンサ用ゲル電解液に用いる混合溶媒におけるγ−ブチロラクトンと副成分の含有割合は、質量比9.5:0.5〜6:4が好ましく挙げられ、9:1〜7:3がより好ましく挙げられ、8:2が特に好ましく挙げられる。
前記質量比にすることで、より高い電導度の電解コンデンサを得ることができる。
【0050】
電解コンデンサ用ゲル電解液に含有する水分量は、特に限定されないが、0.001〜30質量%が好ましく、0.005〜20質量%がより好ましく、0.01〜10質量%が特に好ましく挙げられる。
0.001質量%未満の場合及び30質量%超の場合は、十分な電気特性が得られない欠点がある。
【0051】
<添加剤>
本発明の電解コンデンサ用ゲル電解液には、さらに添加剤を含有させても良い。
【0052】
添加剤としては、ポリビニルアルコール、ジブチルリン酸又は亜リン酸のリン酸化合物、ホウ酸、マンニット、ホウ酸とマンニット、ソルビット等の錯化合物やホウ酸とエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールとの錯化合物等のホウ素化合物、o−ニトロ安息香酸、m−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、o−ニトロフェノール、m−ニトロフェノール、p−ニトロフェノール等のニトロ化合物が挙げられる。
ゲル電解液の火花電圧や電導度を向上させる点からポリビニルアルコール、マンニット、ニトロ化合物が特に好ましく挙げられる。
【0053】
添加量は0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましく挙げられる。0.1質量%未満の場合、十分な火花電圧が得られない欠点があり、30質量%超の場合、電導度が低下する欠点がある。
【0054】
中低圧用の電解コンデンサに求められている性能としては、電導度は6mS/cm以上が好ましく、8mS/cm以上がより好ましく、10mS/cm以上が特に好ましく挙げられる。火花電圧は170V以上が好ましく、200V以上がより好ましく、230V以上が特に好ましく挙げられる。
高圧用の電解コンデンサに求められている性能としては、電導度は1mS/cm以上が好ましく、2mS/cm以上がより好ましく、3mS/cm以上が特に好ましく挙げられる。火花電圧は400V以上が好ましく、450V以上がより好ましく、500V以上が特に好ましく挙げられる。
【実施例】
【0055】
以下、発明を実施例に基づき説明する。なお、本発明は、実施例により、なんら限定されるものではない。実施例中の「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
【0056】
(実施例1)
フタル酸166.13部(1.0mol)と、溶媒としてγ−ブチロラクトン548部とを混合させて撹拌しながら、N,N−ジメチルエチルアミン73.14部(1.0mol)を滴下してフタル酸ジメチルエチルアミン溶液を得た後、20%コロイダルシリカ(日産化学工業(株)社製、スノーテックス−N、シリカ粒径10〜20nm)水溶液39.71部を混合、80℃で濃縮して電解液を得た。前記電解液を120℃で5時間加熱し、電解液をゲル化させて、電解コンデンサ用ゲル電解液を得た。
【0057】
(実施例2〜7、9)
表1に対応するようにコロイダルシリカ、溶媒を用いた以外は実施例1と同様にして電解コンデンサ用ゲル電解液を得た。
【0058】
(実施例8)
溶媒としてエチレングリコール1285部と、20%コロイダルシリカ(日産化学工業(株)社製、スノーテックス−N、シリカ粒径10〜20nm)水溶液396.6部を混合し、80℃で濃縮して、コロイダルシリカのエチレングリコール分散液を得た。この分散液にアゼライン酸188.2部(1.0mol)とアンモニアガス50.38l(2.0mol)とを吹き込みながら混合して反応させて電解液を得た。前記電解液を120℃で5時間加熱し、電解コンデンサ用ゲル電解液を得た。
【0059】
(実施例10)
表1に対応するようにコロイダルシリカを代えた以外は、実施例8と同様にして電解コンデンサ用ゲル電解液を得た。
【0060】
(比較例1)
フタル酸166.13部(1.0mol)と、溶媒としてγ−ブチロラクトン548部とを混合させて撹拌しながら、N,N−ジメチルエチルアミン73.14部(1.0mol)を滴下してフタル酸ジメチルエチルアミン溶液を得た後、20%コロイダルシリカ(日産化学工業(株)社製、スノーテックス−N、シリカ粒径10〜20nm)水溶液39.71部を混合、80℃で濃縮して電解液を得た。
【0061】
(比較例2)
表2に対応するコロイダルシリカに代えた以外は比較例1と同様にして電解液を得た。
【0062】
(比較例3〜5)
表2に対応するコロイダルシリカに代えた以外は実施例1と同様にして電解コンデンサ用ゲル電解液を得た。
【0063】
(比較例6)
表2に対応するコロイダルシリカに代えた以外は実施例8と同様にして電解コンデンサ用ゲル電解液を得た。
【0064】
(中低圧用電解コンデンサ)
実施例1〜7、9、比較例3〜5より得られた電解液を用いて以下の方法により、電解コンデンサを製造した。
400Vで化成した陽極箔を、セパレータ、陰極箔と共に巻回し、巻回端面からリード線を導出させたコンデンサ素子に、得られた電解液を減圧下、80℃で含浸し、この素子を金属ケースに収納し、開口部を封口ゴムで閉じ、120℃で5時間加熱してゲル電解液にして電解コンデンサを作製した。この電解コンデンサは、定格電圧350WV、静電容量33μF、外形寸法は12.5φ×20である。
【0065】
比較例1、2より得られた電解液を用いて以下の方法により、電解コンデンサを製造した。
400Vで化成した陽極箔を、セパレータ、陰極箔と共に巻回し、巻回端面からリード線を導出させたコンデンサ素子に、得られた電解液を減圧下、80℃で含浸し、この素子を金属ケースに収納し、開口部を封口ゴムで閉じて電解コンデンサを作製した。この電解コンデンサは、定格電圧350WV、静電容量33μF、外形寸法は12.5φ×20である。
【0066】
(高圧用電解コンデンサ)
実施例8、10、比較例6より得られた固体電解コンデンサ用ゲル電解液を用いて以下の方法により、電解コンデンサを製造した。
670Vで化成した陽極箔を、セパレータ、陰極箔と共に巻回し、巻回端面からリード線を導出させたコンデンサ素子に、得られた電解液を減圧下、80℃で含浸し、この素子を金属ケースに収納し、開口部を封口ゴムで閉じ、120℃で5時間加熱してゲル電解液にして電解コンデンサを作製した。この電解コンデンサは、定格電圧630WV、静電容量1000μF、外形寸法は63.5φ×130である。
【0067】
以下に、電解液の電導度と耐熱性の評価方法と電解コンデンサの火花電圧と耐久性の評価方法をまとめた。
(電導度の評価方法)
電導度の評価方法は、ゲル電解液(実施例1〜10、比較例3〜6)又は電解液(比較例1、2)の30℃における電導度(mS/cm)を、横河電機株式会社製SCメーターSC72を用いて測定した。耐久性は、温度105℃の条件下で、2000時間後の電導度を測定した。
(火花電圧の評価方法)
火花電圧の評価方法は、作製した電解コンデンサに、25℃で5mAの定電流を印加し、電圧−時間カーブを調べることで行い、電圧の上昇カーブを始めにスパーク又はシンチレーションが観測された電圧を火花電圧(V)とした。耐久性は、温度105℃の条件下で、2000時間後の火花電圧を測定した。
【0068】
電解液の電導度(mS/cm)、電解コンデンサの火花電圧(V)、耐久性試験の測定結果を表1、2に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
表中の略語は以下の通りである。
DMEA−PA:ジメチルエチルアミン−フタル酸
A−AzeA:アンモニウム−アゼライン酸
GBL:γ−ブチロラクトン
DMSO:ジメチルスルホキシド
EG:エチレングリコール
コロイダルシリカA:酸性コロイダルシリカ(日産化学工業(株)社、スノーテックス−O、固形分20%、pH3.8、平均粒径10〜20nm、形状:球状)
コロイダルシリカB:アンモニア安定型コロイダルシリカ(日産化学工業(株)社、スノーテック−N、固形分20%、pH9.0〜10、平均粒径10〜20nm、形状:粒状)
コロイダルシリカC:ナトリウム安定型コロイダルシリカ(日産化学工業(株)社、スノーテック−20、固形分20%、pH9.5〜10、平均粒径10〜20nm、形状:粒径)
【0072】
表1、2より、比較例より実施例の方が、電導度と火花電圧が高く、かつ、耐久性に優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の電解コンデンサ用ゲル電解液を用いた電解コンデンサは、高い電導度や火花電圧を有し、かつ、耐久性に優れているため、広範な産業分野において用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカの重合体と、カルボン酸成分(A)と下記一般式(1)〜(7)より表されるいずれかの塩基成分(B)からなる電解質塩と、有機溶媒と、を含有する電解コンデンサ用ゲル電解液において、
コロイダルシリカの重合体が、酸性コロイダルシリカ又はアンモニア安定型コロイダルシリカを用いて重合させた重合体であることを特徴とする電解コンデンサ用ゲル電解液。
【化1】

(式(1)〜(7)中、R〜R30は、それぞれ同一でも異なっても良い水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、水酸基であり、隣接R同士は連結し、炭素数2〜6のアルキレン基を形成しても良い。)
【請求項2】
カルボン酸成分(A)がフタル酸、マレイン酸、サリチル酸、安息香酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,6−デカンジカルボン酸からなる群より選ばれる一種であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ用ゲル電解液。
【請求項3】
酸性コロイダルシリカ又はアンモニア安定型コロイダルシリカの平均粒径が、1〜50nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解コンデンサ用ゲル電解液。
【請求項4】
電解コンデンサ用ゲル電解液中におけるコロイダルシリカの重合体の含有量が、1.0〜50質量%であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電解コンデンサ用ゲル電解液。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の電解コンデンサ用ゲル電解液を用いてなることを特徴とする電解コンデンサ。

【公開番号】特開2013−102004(P2013−102004A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243956(P2011−243956)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)