説明

電解セル用電極

本発明は、ガスを生成する電気化学プロセス用の電極に関し、電極は、設置された状態では、イオン交換膜と並列に、かつそれに対向して位置するとともに、複数の構造化され三次元的に形作られた水平な層状要素から成り、膜の1つの表面のみと接触し、層状要素は溝および孔を有し、孔の主要部分は溝内に位置し、そのような孔の表面またはその一部は、溝内に位置するか、あるいは溝の中まで延びる。そのようにして、孔は、個々の層状要素の膜との接触区域内に理想的に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化アルカリ水溶液から塩素などのガスを生成する電気化学プロセス用の電極に関し、電極は、組み立てられた状態では、イオン交換膜と並列に、かつそれに対向して位置付けられるとともに、複数の水平な層状要素(lamellar elements)から構成される。
【背景技術】
【0002】
層状要素は、構造化されるとともに三次元的に形作られ、その表面の一部は膜と直接接触し、溝および孔を備え、孔の大部分は溝内に位置し、そのような孔の表面積全体またはその一部は、溝内に位置するか、あるいはその中まで延びる。好ましくは、孔は、関連する層状要素の膜との接触区域内に位置する。
【0003】
ガスを生成する電気化学プロセスおよび電解器具に使用される対応する電極は、当該技術において知られており、そのような電極は、例えば、DE19816334号に開示されている。上記特許は、ハロゲン化アルカリ水溶液からハロゲンガスを発生させる電解槽について記載している。電解質中の生成ガスは、膜/電極区域における流れの挙動に悪影響を及ぼすので、DE19816334号は、それぞれ水平面に対して傾斜したルーバー形式の要素を設置することを提案している。このようにして、横方向の流れがセル内に確立されるが、それは、各層状要素の下に集まるガス泡が開口部を介して上方に進むためである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、DE19816334号は、ある量のガスがルーバー形式の要素の下方に捕捉されるという問題を、どのように克服するかを提案していないので、膜表面積の相当な部分が閉塞されてしまう。流体の循環は閉塞された区域内で妨げられるので、ガスの生成が行われない。さらに、ガスが停滞することで、局所的な膜の導電率が減少し、それが残りの区画における電流密度の増加につながり、その結果、セル電圧およびエネルギー消費が増加する。
【0005】
この閉塞作用を排除するため、EP0095039号は横断方向の窪みを備える層状要素を開示している。しかし、DE4415146号において、前記窪みは閉塞を防ぐには不十分であると述べられている。そこで、DE4415146号は、ガス放出流れが強化されるように、下向きになったボアまたは開口部を備えた層状要素を開示している。
【0006】
しかし、この方法は、接触区域に対応して捕捉され、電解質の流れを妨げる残留ガス分画の問題を解決しない。
したがって、本発明の目的の1つは、前記欠点を克服して、閉塞現象を防止するか、または最小限に抑える電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下の記載によって明らかになる本発明のこの目的および他の目的は、添付の請求項1による電極によって達成される。ガスを生成する電気化学プロセスにおいて電解槽に使用される本発明による電極は、設置された状態では、イオン交換膜と並列に、かつそれに対向して配置されるとともに、複数の構造化され三次元的に形作られた水平な層状要素から成る。
【0008】
層状要素の表面の一部は膜と直接接触しており、前記要素は、膜と直接接触している層状要素の表面部分内まで延びる少なくとも1つの溝を備え、前記少なくとも1つの溝はその湾曲部に少なくとも1つの孔を備える。好ましくは、層状要素は複数の溝および複数の孔を備え、孔の主要部分は溝内に位置するので、孔表面の少なくとも一部は溝内に位置するか、あるいはその中まで延びる。
【0009】
特に好ましい一実施形態では、孔は、各層状要素の膜との接触区域内に配置される。さらにより好ましくは、孔を備える溝は、膜に面する側に設けられ、流れに対する障害を含まない。電流は最も抵抗が少ない経路をとるので、電極は、一方では、電流密度が最も高い領域、すなわち接触区域に、溝を介した流体の下向きの流れに対する理想的な流出路が供給され、他方では、はるかに多量の生成ガスが、溝または孔を介して電極の背面まで上向きに運搬されるという本質的な利点を有する。
【0010】
さらに、膜との重なり合いによって孔が閉じられて、流体供給が部分的または完全に妨げられることなく、接触区域内に確立される膜と電極との間の間隙を最小にできることから、孔を溝内に位置付けることは理想的な解決策であることが分かった。
【0011】
また、孔の内表面積全体が、膜に近接しているため、作用電極表面として働くので、そのような孔の位置が最適であると判断することができた。シートの厚さよりも小さな孔径が選択された場合、孔はすべて、作用電極表面全体の拡大に有効に寄与する。
【0012】
本発明の特に好ましい一実施形態では、2つ以上の孔が、溝の膜との接触区域内に配置される。
本発明の特定の一実施形態では、層状要素は、弓形の遷移区域によって連結された2つの側面(flank)から成る鎌形状に形作られる。弓形の部分は膜の方に向いており、両方の側面は膜に対して10度の角度で傾斜している。
【0013】
本発明の好ましい一実施形態では、各層状要素は、設置された状態では膜と並列であり、最初はわずかに凸状の部分から扁平なC字形の断面(輪郭)として形作られる。設置の際、2つ以上の側面部分は、膜に対して少なくとも10度傾斜する。任意の断面を有する1つまたは複数の遷移部分は、わずかに凸状の部分と側面部分との間に配置される。有利には、遷移区域は丸みを付けられた縁部として形成される。
【0014】
本発明による層状要素の表面積は、次式による、接触面と自由作用表面積との比であるパラメータFV1によって特徴付けられる。
FV1=(F2+F3)/(F1+F4+F5)
式中、
F1はF2部分における溝表面積、
F2は膜との帯状の接触面積、
F3は帯状の接触面積から溝側壁までの遷移区域、
F4は孔側壁の表面積、
F5はF2部分における溝側壁の表面積、である。
【0015】
本発明の好ましい一実施形態では、FV1は、0.5未満、より好ましくは0.15未満である。孔の領域におけるシート厚さは、孔の液力直径(水力直径)の30%を超える。液力直径は、表面積の4倍と自由流れ断面の周長との比として規定され、円形の孔の場合には幾何学的直径に等しい。特に好ましい一実施形態では、窪みの領域におけるシート厚さは、上述した液力直径の50%を超えない。
【0016】
本発明による電極の孔は、任意の形状を有してよく、例えば、有利には、幅1.5mm未満の薄い細長孔(スロット)として形作ることができる。
本発明の電極の好ましい一実施形態では、反応により良好に適した溝側壁と作用電極表面としての基部とを得るとともに、高すぎない流体抵抗を維持するため、溝深さが制限され、前記深さは、1mm未満、より好ましくは0.5mm未満、さらにより好ましくは0.3mm以下である。
【0017】
さらに、好ましい一実施形態では、接触区域の全表面と膜に接触しない区域の全表面との比FV2が、1未満、より好ましくは0.5未満、さらにより好ましくは0.2未満に設定される。FV2は次のように規定される。
【0018】
FV2=F6/(F1+F2)
式中、F1およびF2は、接触区域の突出した表面を表す上記に規定された値であり、F6は、直接膜に面した層状要素の側面表面積を表し、前記側面表面は、膜から離れる方向に傾斜し、膜とは接触しない。
【0019】
別の態様では、本発明は、ハロゲン化アルカリ水溶液からハロゲンガスを生成する電解プロセスを対象とし、前記プロセスは、本発明の電極を用いて、またはそのような電極を使用する電解槽を用いて実現される。
【0020】
好ましい一実施形態では、ハロゲンガスを生成する上述した電解プロセスは、本発明の電極を必須構成要素として組み込む、フィルタ圧縮設計の単セル形式の電解槽を利用する。
【0021】
本発明を、一例として提供される添付図面を用いて以下に記載するが、添付図面は本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明の電極の斜視図を示し、前記電極は3つの並列の層状要素1として表され、前記層状要素は、溝2と、当該溝の間にある帯(ストリップ、細長片)状の表面3とを備える。この特定の例において、孔4は1つおきの溝2の中に配置され、溝2は、層状要素1の図中に見えている表面に対応する前面から背面まで横断している。
【0023】
図1bに詳細に表されるように、層状要素1は、弓形の遷移区域、すなわち肘状部7によって連結された、上側側面5および下側側面6の2つの側面要素から成る。孔4は、遷移区域7内に正確に位置し、遷移区域7は、電極を設置する際、膜9との接触区域8の中央に配置される。この実施形態では、接触区域8は、遷移区域7とほぼ一致し、表面積F1〜F3によって形成され、ここで、F2は膜との帯状の接触面積(接触区域)を表し、F1はF2部分内における溝表面積を表し、F3は帯状の接触面から溝側壁までの遷移面積(遷移区域)を表す。
【0024】
同じ実施形態に関する図2aの断面図では、膜9は、溝側壁10の上方で、層状要素1の輪郭に沿う。曲率角12は、層状要素1に対する膜9の間隙区域の位置および幅を規定し、接触区域8と膜に接触しない区域11との間に位置する。曲率角12は、上述の例では、楕円状に延びる孔の周面の小半径が、層状要素1に対する膜9の上述の間隙区域内に収まるように選択されている。この設計は、狭い溝領域内への複雑なガス放出および流体供給に、より大きな容積が利用可能であるという大きな利点を有する。膜9が層状要素から分離される遷移区域7は、点線の円によって特定される。
【0025】
図2bは、設置時および動作中の同じ層状要素1を示す。カウンタ電極13は膜9の対向面に面し、両方の電極は、ブライン(Brine)または苛性アルカリ(図示なし)によって、およびガス泡14によって充満される。さらに、図2bは、クロロアルカリの生成に使用される組立体を示し、この例では膜と直接接触している層状要素1であるアノードは、この例ではカウンタ電極13であるカソードに面する。カソード液として働く苛性アルカリが比較的良好な導電率を有するので、図2bに示すように、膜9とカソード13との間に空隙が維持される。この例では、カウンタ電極13はエキスパンドメタルの網で作られる。
【0026】
図3は、扁平なC字形の断面の層状要素1を示す。溝2は充分に幅広なので、孔4が溝側壁10を弱化させることはまったくない。帯状表面3の幅は、溝2の幅のほぼ1/3でしかない。さらに、後方に弓形に湾曲した側面5および6は非常に短く、表面積F1〜F3を含む接触区域は何倍も大きい。上記に規定したFV2表面積比は、図示した例の場合、0.2未満である。この実施形態の本質的な利点は、膜9と並列の作用区域が2つの遷移区域7の間に配置されて、電気化学反応に理想的な条件が確実に得られることである。溝2には、孔4を介して、上昇するガス泡によって牽引される苛性アルカリまたはブラインが供給される。
【0027】
図4は上述の実施形態を示す。図4に表されるように、膜9に面していない層状要素の部分は、下側側面6を用いて上昇するガス泡14に対して遮蔽されるので、孔4の中に形成されるガス泡は離れる方向に導かれ、苛性アルカリまたはブラインは溝2に引き込まれる。膜9が層状要素から分離される遷移区域7は、点線の円によって特定される。
【0028】
本発明の鎌形状の断面の層状要素により、孔径が2mmかつ溝に対応するシート厚さが1mmの場合、作用電極表面積を1つの孔当たり約3.14mm2に拡大することが可能になる。したがって、本発明の電極を備えた標準的な電解セルの場合、約105000個の個別の孔を用いて、作用表面積を0.11m2増加させることができる。鎌形の断面を特徴とする本発明による2.7m2の電極のセル電圧が、試験セルにおいて測定された。同等の外寸を有する従来技術の電極に比べて、6kA/m2の電流密度において50mVを超える顕著な電圧の減少が検出された。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1a】本発明の電極の斜視図である。
【図1b】本発明の電極の詳細図である。
【図2a】層状要素の詳細図である。
【図2b】層状要素の詳細図である。
【図3】扁平なC字形の断面を有する層状要素の図である。
【図4】図3の層状要素の側面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換膜を備えた電解槽内における、ガス生成電気化学プロセス用の電極であって、多数の水平な三次元的に形作られた層状要素を備え、当該層状要素は、前記イオン交換膜と直接接触する表面部分を有する、電極において、前記層状要素は少なくとも1つの溝を備え、当該少なくとも1つの溝は、前記膜と直接接触する前記表面部分内まで延びており、前記少なくとも1つの溝は少なくとも1つの孔を備えることを特徴とする電極。
【請求項2】
前記少なくとも1つの孔は、前記イオン交換膜と直接接触する前記表面部分内に位置することを特徴とする、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記溝は、前記電極の前記イオン交換膜に面する側に設けられ、かつ流れに対する障害から免れていることを特徴とする、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記少なくとも1つの孔は、多数の孔であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
前記層状要素はそれぞれ、遷移区域によって連結された2つの側面要素を備える鎌の形状を有し、前記遷移区域は前記膜に向かって弓形に湾曲し、前記側面要素は、前記膜に対して少なくとも10度傾斜していることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
前記層状要素はそれぞれ、最初はわずかに凸状の部分から形成される扁平なC字形の断面の形状を有しており、前記膜に対して少なくとも10度傾斜した少なくとも1つの側面要素と、前記わずかに凸状の部分と前記少なくとも1つの要素との間に配置された少なくとも1つの遷移区域とを備えることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
接触面と自由作用電極表面との比(F2+F3)/(F1+F4+F5)が0.5未満であり、式中、
F1はF2部分における溝表面積、
F2は前記膜との帯状の接触面積、
F3は前記帯状の接触面積から溝側壁までの遷移面積、
F4は孔側壁の表面積、
F5はF2部分における溝側壁の表面積、
であることを特徴とする、請求項5または6に記載の電極。
【請求項8】
前記接触面と自由作用電極表面との比が0.15未満であることを特徴とする、請求項7に記載の電極。
【請求項9】
前記孔に対応する前記溝の厚さが前記孔の液力直径の40%を超えることを特徴とする、請求項7または8に記載の電極。
【請求項10】
前記溝の深さが1mm未満であることを特徴とする、請求項7に記載の電極。
【請求項11】
前記溝の深さが0.3mm以下であることを特徴とする、請求項10に記載の電極。
【請求項12】
比F6/(F1+F2)が1未満であり、式中、
F1は前記F2部分における前記溝表面積、
F2は前記膜との前記帯状の接触面積、
F6は前記膜に直接面する前記層状要素の側面表面積、
であることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の電極。
【請求項13】
前記比F6/(F1+F2)が0.2未満であることを特徴とする、請求項12に記載の電極。
【請求項14】
ハロゲン化アルカリ水溶液からハロゲンガスを生成する、任意に単セル構造形式またはフィルタ圧縮構造形式の電解槽であって、前記請求項のいずれか一項による少なくとも1つの電極を備えることを特徴とする電解槽。
【請求項15】
請求項14に記載の電解槽にハロゲン化アルカリ水溶液を供給し、かつ外部電流を前記電解槽に印加することを特徴とする、ハロゲンガスを生成する電解プロセス。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−530357(P2008−530357A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554509(P2007−554509)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【国際出願番号】PCT/EP2006/001246
【国際公開番号】WO2006/084745
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(502043101)ウデノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ (14)
【Fターム(参考)】