説明

電解二酸化マンガン及びその製造方法、並びにリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法

【課題】
高い充填性を有するだけでなく、リチウム化合物との高い反応性を有する電解二酸化マンガン及びその製造方法を提供する。さらには、このような電解ニ酸化マンガンを用いたマンガン酸リチウムの製造方法を提供する。
【解決手段】
BET比表面積20m/g以上60m/g以下であり、細孔直径が2nm以上200nm以下の容積が少なくとも0.023cm/gであることを特徴とする電解二酸化マンガン。このような電解二酸化マンガンは、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中にマンガン酸化物を懸濁させて電解二酸化マンガンを得る工程を有する電解二酸化マンガンの製造方法において、前記工程において、マンガン酸化物粒子を連続的に硫酸−硫酸マンガン混合溶液に混合し、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガン酸化物粒子濃度を5mg/L以上200mg/L以下とする製造方法により製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばリチウムイオン二次電池用正極活物質等の原料として使用される電解二酸化マンガン及びその製造方法、並びに当該正極活物質等に使用されるリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マンガンを主に含みスピネル構造を有するマンガン酸リチウムをはじめとするリチウムマンガン系複合酸化物は、リチウムイオン二次電池(以下、「LIB」とする)の正極活物質として検討されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
リチウムマンガン系複合酸化物は高い出力特性、高い安全性を有するだけでなく安価である。このことから、リチウムマンガン系複合酸化物は携帯電子機器用途のみならず、ハイブリッド自動車(HV)や電気自動車(EV)などの自動車用途への適用が検討されている。しかしながら、リチウムマンガン系複合酸化物を正極活物質とするLIBは、コバルト酸リチウムを正極活物質とするLIBよりも体積あたりの放電容量、いわゆるエネルギー密度が低い。そのため、リチウムマンガン系複合酸化物のエネルギー密度の改善が求められている。
【0004】
リチウムマンガン系複合酸化物のエネルギー密度を改善するためには、その充填性を高くすることが必要である。ここで、リチウムマンガン系複合酸化物の充填性は、原料のマンガン化合物の充填性の影響を大きく受ける。高い充填性のリチウムマンガン系複合酸化物を得るためには、高い充填性のマンガン化合物をマンガン原料とすることが挙げられる。
【0005】
マンガン化合物の中でも、電解二酸化マンガン及びその熱処理品は高い充填性を有するため、リチウムマンガン系複合酸化物用のマンガン原料として最も使用されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
電解二酸化マンガンの充填性の更なる改善のため、マンガン酸化物を懸濁させた硫酸マンガン溶液中で電解合成したBET比表面積35m/g以下のγ型電解二酸化マンガンをマンガン原料とすることが提案されている(特許文献2)。
【0007】
さらに、このような電解二酸化マンガンを工業的に製造する場合、マンガン鉱石や工業用水等の原料から得られる電解液を電気分解(電解)する。リチウム化合物等との反応性に優れた電解二酸化マンガンを製造するためには、これらの原料に由来する不純物の電解二酸化マンガンへの取り込みを抑制する必要がある。原料由来の不純物の混入を防ぐための工業的な方法として、マンガン鉱石から不純物を抽出除去したマンガン化合物を原料とする方法(特許文献3)や、電解液処理工程においてフッ化物を添加してマグネシウムを除去した電解液を使用する方法が報告されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−150914号公報
【特許文献2】特開平11−126607号公報
【特許文献3】特開平04−074720号公報
【特許文献4】特公昭51−003319号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M. M. Thackeray et al., J. Electrochem. Soc., 139, 363 (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電解二酸化マンガンは化学合成二酸化マンガン等よりも高い充填性を有する。しかしながら、リチウムマンガン系複合酸化物用のマンガン原料としては、更なる充填密度の改善が求められている。
【0011】
例えば、特許文献2で開示された電解二酸化マンガンは、BET比表面積を低くすることにより充填性が向上している。しかしながら、特許文献2で開示された方法では、BET比表面積が低下することに伴い、得られる電解二酸化マンガンとリチウム化合物との反応性が低くなる。これに加え、BET比表面積の低下に伴い、電解二酸化マンガンとリチウム化合物との反応が不均一になるという問題を特許文献2の電解二酸化マンガンは有していた。
【0012】
本発明は、高いエネルギー密度を有するリチウムマンガン系複合酸化物の製造に適した電解二酸化マンガン、即ち、高い充填性を有するだけでなく、リチウム化合物との反応性に優れた電解二酸化マンガンを提供する事を目的の一つとする。また、これを用いたリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法を提供することを別の目的とする。また、本発明は、電解処理工程の前段階で追加的な不純物処理工程を行ったり、フッ化物などの毒性の高い化合物を使用したりしなくても、アルカリ土類金属などの不純物の混入を抑制することが可能であり、工業的なスケールでの実施に適した電解二酸化マンガンの製造方法を提供することをさらに別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明の要旨は、以下の(1)〜(15)に存する。
(1)BET比表面積が20m/g以上60m/g以下であり、細孔直径が2nm以上200nm以下の細孔の容積が少なくとも0.023cm/gである、電解二酸化マンガン。
(2)細孔直径が2nm以上200nm以下の細孔の容積が少なくとも0.025cm/gである、上記(1)に記載の電解二酸化マンガン。
(3)細孔直径が2nm以上50nm以下の細孔の容積が少なくとも0.004cm/gである、上記(1)又は(2)に記載の電解二酸化マンガン。
(4)細孔直径が2nm以上50nm以下の細孔の容積が少なくとも0.005cm/gである、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の電解二酸化マンガン。
(5)見掛粒子密度が少なくとも3.4g/cmである、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の電解二酸化マンガン。
(6)見掛粒子密度が少なくとも3.8g/cmである、上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の電解二酸化マンガン。
(7)嵩密度が少なくとも1.5g/cmである上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の電解二酸化マンガン。
(8)アルカリ土類金属の含有量が500重量ppm以下である、上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の電解二酸化マンガン。
(9)硫酸−硫酸マンガン混合溶液中にマンガン酸化物を懸濁させて電解二酸化マンガンを得る工程を有する電解二酸化マンガンの製造方法において、前記工程において、マンガン酸化物粒子を連続的に硫酸−硫酸マンガン混合溶液に混合し、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガン酸化物粒子の濃度を5mg/L以上200mg/L以下とする、電解二酸化マンガンの製造方法。
(10)硫酸−硫酸マンガン混合溶液中の硫酸濃度が20g/L以上30g/L以下である、上記(9)に記載の電解二酸化マンガンの製造方法。
(11)電解電流密度が0.8A/dm以上1.5A/dm以下である、上記(9)又は(10)に記載の電解二酸化マンガンの製造方法。
(12)電解電流密度が1.2A/dm以上1.4A/dm以下である、上記(9)〜(11)のいずれかに記載の電解二酸化マンガンの製造方法。
(13)マンガン酸化物粒子の平均粒子径が5μm以下である、上記(9)〜(12)のいずれかに記載の電解二酸化マンガンの製造方法。
(14)硫酸−硫酸マンガン混合溶液のアルカリ土類金属濃度が0.5g/L以上である、上記(9)〜(13)のいずれか一つに記載の電解二酸化マンガンの製造方法。
(15)上記(1)〜(8)のいずれか一つに記載の電解二酸化マンガンとリチウム化合物とを混合して熱処理しリチウムマンガン系複合酸化物を得る工程を有するリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【0014】
以下、本発明の電解二酸化マンガンの好適な実施形態を詳細に説明する。
【0015】
本実施形態の電解二酸化マンガンは、BET比表面積が20m/g以上60m/g以下である。BET比表面積が20m/gよりも小さい場合、実質的に反応に寄与する表面積が小さくなりすぎる。この結果、例えば、電解二酸化マンガン粒子とリチウム化合物粒子との反応に部分的なムラが生じ、粒子内の組成比が不均一になる。そのため、これにより得られるリチウムマンガン系複合酸化物の電池特性、特にエネルギー密度が低くなる。また、BET比表面積が60m/gよりも大きい場合は、電解二酸化マンガンを電解合成する際に電着状態が悪化する。そのため、BET比表面積が60m/gよりも大きい場合は、電解二酸化マンガンを安定的に得ることが難しい。BET比表面積は、20m/g以上、60m/g以下であり、25m/g以上、55m/g以下であることが好ましく、36m/g以上、50m/g以下であることが更に好ましい。
【0016】
本実施形態の電解二酸化マンガンは、細孔直径が2nm以上200nm以下の細孔(以下、「二次細孔」とする)の容積が少なくとも0.023cm/gであり、少なくとも0.025cm/gであることが好ましく、少なくとも0.03cm/gであることがより好ましく、少なくとも0.035cm/gであることが更に好ましく、少なくとも0.04cm/gであることが更により好ましい。
【0017】
二次細孔は、リチウムマンガン系複合酸化物の合成の際に、電解二酸化マンガンとリチウム化合物との反応に寄与すると考えられる。二次細孔の容積が上記の範囲であることにより、電解二酸化マンガンはリチウム化合物との高い反応性を有する。
【0018】
二次細孔の容積が0.023cm/g未満の電解二酸化マンガンは、リチウム化合物との反応性が低下する、もしくは、リチウム化合物との反応が不均一になる。その結果として、得られるリチウムマンガン系複合酸化物のエネルギー密度が低くなる。
【0019】
二次細孔の容積が増加するほどリチウム化合物との反応性は改善する。しかしながら、これらは必要以上に存在する必要はない。そのため、例えば、二次細孔の容積は多くとも0.1cm/gであることが好ましく、多くとも0.05cm/gであることがより好ましい。
【0020】
また、二次細孔の中でも、細孔直径が2nm以上50nm以下の細孔(以下、「メソポア」とする)の容積が少なくとも0.004cm/gであることが好ましく、少なくとも0.005cm/gであることがより好ましく、少なくとも0.01cm/gであることが更に好ましく、少なくとも0.015cm/gであることが更により好ましい。
【0021】
マンガン原料とリチウム化合物との反応にはマンガン原料の細孔が影響する。本実施形態の電解二酸化マンガンは、メソポアを上述の容積範囲で有するため、リチウム化合物との反応性がより高くなる傾向にある。メソポアの容積が上記の範囲であれば、メソポアの容積の上限値は特に限定されない。メソポアの容積の上限値として、例えば、0.03cm/g以下を挙げることができる。
【0022】
一方、細孔直径が200nmを超えるような大きな細孔の容積が増大すると電解二酸化マンガンの充填性が低下する傾向にある。本実施形態の電解二酸化マンガンは微細な二次細孔でリチウム化合物との反応を促進する一方で、細孔直径が200nmを超える大きな細孔の容積が少ないことが好ましい。本実施形態の電解二酸化マンガンの細孔直径が200nmを越える細孔の容積としては、0.35cm/g以下であることが好ましい。これによって、本実施形態の電解二酸化マンガンは一層高い充填性を有する傾向にある。
【0023】
本実施形態の電解二酸化マンガンの見掛粒子密度(apparent particle density)が、少なくとも3.4g/cmであることが好ましく、少なくとも3.7g/cmであることがより好ましく、少なくとも3.8g/cmであることが更に好ましく、少なくとも3.9g/cmであることが更により好ましい。電解二酸化マンガンの見掛粒子密度が少なくとも3.4g/cmであれば、それを原料として得られるリチウムマンガン系複合酸化物の充填性が高くなりやすくなる。これに加え、本実施形態の電解二酸化マンガンが、リチウム化合物と高い反応性を有しやすくなる。その結果、得られるリチウムマンガン系複合酸化物は、リチウムイオン二次電池用の正極活物質に用いた場合に、エネルギー密度を大きくすることができる。
【0024】
本実施形態の電解二酸化マンガンは、嵩密度(bulk density)が少なくとも1.5g/cmであることが好ましく、少なくとも1.7g/cmであることがより好ましく、少なくとも1.8g/cmであることが更に好ましい。嵩密度が高いと充填性が高くなるが、必要以上に高い必要はない。そのため、本実施形態の電解二酸化マンガンの嵩密度の上限として、例えば、3.0g/cm以下、さらには2.5g/cm以下を挙げることができる。
【0025】
見掛粒子密度とは、電解二酸化マンガンの実際の体積を元にして算出される密度である。なお、この体積には、水銀圧入法において水銀を高圧にしても水銀が充填されない程度の極めて微細なクラック等が含まれる場合もある。しかし、これらのクラック等は極めて微細であるため、体積の大きさに実質的に影響を及ぼさない。このようにして算出される見掛粒子密度は、電解二酸化マンガンとリチウム化合物との反応性と相関性が高いため、反応性の指標とすることができる密度である。
【0026】
一方、嵩密度は充填質量を充填体積で割って求められる密度であり、電解二酸化マンガンの実際の体積に加え、粒子に形成された裂け目や割れ目の体積にも電解二酸化マンガンが充填されていると仮定した仮想体積から算出される密度である。嵩密度は電解二酸化マンガンの充填性の指標となる密度である。しかしながら、嵩密度は電解二酸化マンガンとリチウム化合物との反応性との相関性が低いため、反応性の指標にはなりにくい。すなわち、嵩密度が高くても、見掛粒子密度が低い場合、電解二酸化マンガンはリチウム化合物との反応性は低くなる傾向にある。つまり、電解二酸化マンガンの見掛粒子密度が低いと、結果として得られるリチウムマンガン系複合酸化物の組成が不均一になる等の事象が生じやすくなる。このため、このような電解二酸化マンガンを原料として得られたリチウムマンガン系複合酸化物の電池特性は低い傾向にある。
【0027】
図1は、本実施形態の電解二酸化マンガンにおける見掛粒子密度と嵩密度の概念を示す模式図である。図1(a)は、嵩密度算出の根拠となる粒子状の電解二酸化マンガンを示す図である。すなわち、嵩密度は、電解二酸化マンガンの粒子1と全ての細孔2,3にも電解二酸化マンガンが充填されていると仮定した仮想体積を基準にして算出される。図1(b)は、見掛粒子密度算出の根拠となる粒子状の電解二酸化マンガンの仮想体積を示す図である。すなわち、見掛粒子密度は、電解二酸化マンガンの粒子1の体積を基準にして算出される。ここで粒子1には、図示されていない極めて微細な細孔を含んでもよい。このように、両者は密度を算出する際の用いられる体積が異なる。
【0028】
二次細孔の容積、メソポアの容積、見掛粒子密度及び嵩密度は、例えば、水銀圧入法により測定することができる。なお、水銀圧入法においては、図1における細孔直径が2nmが未満の細孔3の中でも極めて微細な細孔、例えば、直径細孔が2nm未満の細孔は測定できない場合がある。
【0029】
本実施形態の電解二酸化マンガンは、CuKα線を光源とする通常のX線回折(以下、「XRD」とする)測定パターンにおいて、2θが22±1°付近である(110)面の回折線の半価全幅(以下、当該回折線の半価全幅を単に「FWHM」とする)が2.1°以上、3.7°以下であることが好ましく、2.4°以上、3.5°以下であることがより好ましい。FWHMが2.1°以上であることで、電解二酸化マンガンがリチウム化合物と反応しやすい結晶性となる。また、FWHMが3.7°以下であることで、電解二酸化マンガンの反応性が高いだけでなく、充填性も高くなりやすい。このような電解二酸化マンガンから合成されたリチウムマンガン系複合酸化物は、高いエネルギー密度を有する正極活物質となりやすい。
【0030】
本実施形態の電解二酸化マンガンは、XRD測定パターンにおける(110)面と、(021)面とのピーク強度比(以下、「(110)/(021)」とする)が0.5以上、0.90以下であることが好ましく、0.55以上0.65以下であることがより好ましい。
【0031】
(110)面のピーク、及び(021)面のピークは、それぞれ、電解二酸化マンガンのX線回折において22±1°付近、及び37±1°付近に現れる。これらのピークは二酸化マンガン結晶の主要なX線回折ピークである。
【0032】
本実施形態の電解二酸化マンガンは、本実施形態のBET比表面積及び細孔構造(二次細孔の細孔容積)を満足するものであれば、結晶構造は特に限定されない。本実施形態の電解二酸化マンガンの結晶構造として、α型、β型及びγ型の群から選ばれるいずれか一種以上の結晶構造を例示できることができ、γ型を含んだ結晶構造であることが好ましく、γ型であることがより好ましい。
【0033】
本実施形態の電解二酸化マンガンは、40重量%KOH水溶液中で水銀/酸化水銀参照電極を基準として測定したときの電位(以下、「アルカリ電位」とする)が250mV以下であることが好ましく、240mV以下であることがより好ましく、235mV以下であることが更に好ましい。アルカリ電位が250mV以下であることで電解二酸化マンガンが安定になりやすい。すなわち、電解二酸化マンガンを長期間保存した場合であっても、電気化学的な特性が変化しにくくなる。また、アルカリ電位が250mV以下の電解二酸化マンガンを電解合成する場合、電極材料が腐食しにくくなる。
【0034】
本実施形態の電解二酸化マンガンは、アルカリ土類金属の含有量が500重量ppm(0.05重量%)以下であることが好ましい。アルカリ土類金属が少なくなることで電解二酸化マンガンとリチウム化合物との反応が促進されやすくなる。アルカリ土類金属含有量は少ないほど好ましいが、工業的に得られる電解二酸化マンガン中のアルカリ土類金属含有量として、100重量ppm以上を例示することができる。
【0035】
アルカリ土類金属としてカルシウム(Ca)は電解二酸化マンガンとリチウム化合物との反応を阻害する影響が大きい。そのため、電解二酸化マンガン中のカルシウムは250重量ppm以下であることが好ましく、200重量ppm以下であることがより好ましい。カルシウム含有量は少ないほど好ましいが、工業的に得られる電解二酸化マンガン中のカルシウム含有量として、50重量ppm以上を例示することができる。
【0036】
本実施形態の電解二酸化マンガンは、電解によって得られる二酸化マンガンであり、その形状は限定されるものではない。例えば、電極上に析出した凝集物であってもよく、当該凝集物を粉砕して得られる粉末状のものであってもよい。また、本実施形態の電解二酸化マンガンは、二酸化マンガンを主成分とするものであればよく、二酸化マンガンとは異なる微量成分を不純物として含んでいてもよい。
【0037】
次に、本実施形態の電解二酸化マンガンの製造方法を説明する。
【0038】
本実施形態の電解二酸化マンガンは、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中にマンガン酸化物を懸濁させて電解二酸化マンガンを得る工程を有する電解二酸化マンガンの製造方法において、前記工程において、マンガン酸化物粒子を連続的に硫酸−硫酸マンガン混合溶液に混合し、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガン酸化物粒子の濃度を5mg/L以上200mg/L以下として電解することで製造することができる。
【0039】
次に、本発明の電解二酸化マンガンの製造方法の好適な実施形態を詳細に説明する。本実施形態の製造方法は、電解液中にマンガン酸化物を懸濁させる電解二酸化マンガンの製造方法、いわゆる懸濁電解法である。そのため、マンガン酸化物を使用せずに硫酸−硫酸マンガン混合溶液を電解する電解二酸化マンガンの製造方法、いわゆる清澄電解法とは異なる。懸濁電解法とすることで、はじめて細孔構造(二次細孔の細孔容積)及びBET比表面積が制御された、本実施形態の電解二酸化マンガンを製造することができる。これに加え、懸濁電解法では、マンガン酸化物を使用しない清澄電解法と比べて、電解電流効率が改善する。なおかつ、清澄電解法ではなし得なかった、電解液中の不純物、特にアルカリ土類金属の電解二酸化マンガンへの取り込みを抑制することができる。
【0040】
本実施形態の製造方法では、電解液として硫酸−硫酸マンガン混合溶液を使用する。硫酸マンガン水溶液を電解液とする電解方法とは異なり、硫酸−硫酸マンガン混合溶液を電解液とする電解方法では電解期間中の硫酸濃度が一定となる。これにより、長期間電解を行なった場合であっても硫酸濃度が一定になるため、安定的に電解二酸化マンガンを製造できるだけでなく、得られる電解二酸化マンガンの細孔の状態が均一になる。
【0041】
本実施形態の製造方法では電解液中の不純物、特にアルカリ土類金属の電解二酸化マンガンへの取り込みを抑制することができる。そのため、本実施形態の製造方法においては、マンガン鉱石の特殊な処理を必要としないだけでなく、電解液調製工程における不純物除去の負荷を減らすことができる。したがって、本実施形態における硫酸−硫酸マンガン混合溶液はアルカリ土類金属を実質的に含まないもの(アルカリ土類金属濃度が0g/L〜0.1g/L)であってもよい。ただし、硫酸−硫酸マンガン水溶液中のアルカリ土類金属濃度は0.5g/L以上であってもよく、1.0g/L以上であってもよく、更には1.5g/L以上であってもよい。このような高いアルカリ土類金属濃度の硫酸−硫酸マンガン混合溶液を使用した場合であっても、本実施形態の製造方法で得られる電解二酸化マンガン中のアルカリ土類金属含有量は500重量ppm以下、更には450重量ppm以下となり、工業的に問題のないアルカリ土類金属含有量となる。
【0042】
硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のアルカリ土類金属量が増加すると、電解二酸化マンガン中へのアルカリ土類金属の取り込み量が増加する傾向にある。しかしながら、本実施形態の製造方法では、5.0g/L以下、更には3.0g/L以下のアルカリ土類金属を含有する硫酸−硫酸マンガン混合溶液を電解した場合であっても、得られる電解二酸化マンガンのアルカリ土類金属濃度は工業的に問題のない程度になる傾向となる。
【0043】
アルカリ土類金属の中でもカルシウム(Ca)は飽和濃度が1g/L以下と低く、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中に析出しやすい。そのため、カルシウムは電解二酸化マンガンに特に取り込まれやすく、電解二酸化マンガンに取り込まれたカルシウムは、電解二酸化マンガンとリチウム化合物との反応を阻害する。しかしながら、本実施形態の製造方法においては、電解二酸化マンガンへのカルシウムの取り込みも抑制される。したがって、本実施形態の製造方法においては、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のカルシウム濃度が0.3g/L以上であってもよく、0.5g/L以上であってもよく、更には0.8g/L以上であってもよい。
【0044】
本実施形態の製造方法では、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中にマンガン酸化物を連続的に混合する。これにより、電解期間中のマンガン酸化物の濃度を安定にすることができ、電解全期間中を通して得られる電解二酸化マンガンの物性、特に細孔の状態の均一性が向上する。
【0045】
硫酸−硫酸マンガン混合溶液中にマンガン酸化物を連続的に混合する方法として、マンガン酸化物粒子を硫酸−硫酸マンガン混合溶液に混合する方法、又は電解液に酸化剤を混合して硫酸−硫酸マンガン混合溶液にマンガン酸化物粒子を生成させる方法、もしくはその両者を用いることができる。
【0046】
なお、本実施形態の製造方法において連続的に混合するとは、電解全期間を通して一定の割合で硫酸−硫酸マンガン混合溶液にマンガン酸化物を混合することだけではなく、電解期間中に硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガン酸化物が一定となるように(例えば、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガン酸化物の濃度が目的値±20%となるように)硫酸−硫酸マンガン混合溶液に断続的にマンガン酸化物を混合することも含む。
【0047】
マンガン酸化物粒子を硫酸−硫酸マンガン混合溶液に混合する場合、混合するマンガン酸化物粒子としては、例えば、二酸化マンガン(MnO)、三二酸化マンガン(Mn)、及び四三酸化マンガン(Mn)の群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む粒子を使用することができる。これらの中でも、二酸化マンガン粒子を使用することが好ましい。これらのマンガン酸化物粒子は、予めスラリーとしてから硫酸−硫酸マンガン混合溶液に混合してもよく、マンガン酸化物粒子を直接硫酸−硫酸マンガン混合溶液に混合してもよい。
【0048】
酸化剤を混合してマンガン酸化物粒子を生成させる場合、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガンイオンがマンガン酸化物の粒子として析出すれば、酸化剤の種類は特に限定はされない。酸化剤として過硫酸塩が例示でき、好ましくは過硫酸ナトリウム(Na)が例示できる。
【0049】
マンガン酸化物粒子の平均粒子径は5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが更に好ましく、0.9μm以下であることが更により好ましい。平均粒子径が5μm以下であると、マンガン酸化物粒子が沈降しにくくなり、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中に均一に分散しやすくなる。このように、マンガン酸化物粒子は分散性が低下しない程度の平均粒子径を有していることが好ましいが、その現実的な下限値として0.5μm以上を挙げることができる。なお、本明細書における平均粒子径とは、体積換算50%径(D50)であり、例えば、マイクロトラック法により測定することができる。
【0050】
硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガン酸化物粒子の濃度は5mg/L以上200mg/L以下である。マンガン酸化物粒子の濃度が200mg/Lを超えると、得られる電解二酸化マンガンのBET比表面積が低くなりすぎる。高い充填性を有するだけでなく、高いBET比表面積を有する電解二酸化マンガンを得る観点から、マンガン酸化物の粒子濃度は150mg/L以下であることが好ましく、100mg/L以下であることがより好ましく、50mg/L以下であることが更に好ましく、40mg/L以下であることが更により好ましい。これにより、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のアルカリ土類金属が電解二酸化マンガンに取り込まれにくくなる。一方、マンガン酸化物粒子の濃度が5mg/L未満ではマンガン酸化物を添加する効果が得られない。マンガン酸化物粒子を混合した効果を高くするために、マンガン酸化物粒子の濃度は8mg/L以上であることが好ましく、10mg/L以上であることがより好ましく、15mg/L以上であることが更に好ましく、20mg/L以上であることが更により好ましい。
【0051】
電解合成中に硫酸−硫酸マンガン混合溶液へ硫酸マンガン水溶液を補給する。補給に使用する硫酸マンガン水溶液のマンガンイオン濃度としては、例えば30g/L以上110g/L以下であり、好ましくは30g/L以上60g/L以下である。
【0052】
硫酸−硫酸マンガン混合溶液は、硫酸濃度として18g/L以上50g/L以下であることが好ましく、20g/L以上40g/L以下であることがより好ましく、20g/L以上30g/L以下であることが更に好ましい。なお、ここでいう硫酸濃度とは、硫酸マンガンの二価の陰イオンを除いた値である。
【0053】
本実施形態の製造方法では、電解電流密度が0.8A/dm以上1.5A/dm以下であることが好ましい。電解電流密度が1.5A/dm以下であると、電解合成時の電解電圧の上昇を抑制することができる。これにより、効率的、かつ安定的に本実施形態の電解二酸化マンガンを製造しやすくなる。より安定的に本実施形態の電解二酸化マンガンを得るために、電解電流密度は1.0A/dm以上1.5A/dm以下であることがより好ましく、1.2A/dm以上1.4A/dm以下であることがさらに好ましい。
【0054】
なお、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガン酸化物の濃度を200mg/L以上にすることで、電解電流密度を高くしても電解電圧の上昇を抑えることができる。しかしながら、マンガン酸化物粒子の濃度が200mg/Lを超えた場合、得られる電解二酸化マンガンのBET比表面積が低下しすぎる。その結果、本実施形態の電解二酸化マンガンを得ることができない。
【0055】
電解温度は90℃以上98℃以下が例示できる。電解温度が高いほど、電解二酸化マンガンの製造効率が上がるため、電解温度は少なくとも95℃を超えることが好ましい。
【0056】
本実施形態の電解二酸化マンガンは、リチウム化合物と混合して熱処理することによって、充填性が高く均一なリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。
【0057】
本実施形態の電解二酸化マンガンをリチウムマンガン系複合酸化物のマンガン原料として使用する場合、一般的な方法により製造することができる。また、所望の粒子径となるように本実施形態の電解二酸化マンガンを必要に応じて粉砕してもよい。
【0058】
リチウム化合物は、如何なるものを用いてもよく、水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、シュウ酸リチウム、及びアルキルリチウム等が例示される。好ましいリチウム化合物としては、水酸化リチウム、酸化リチウム、及び炭酸リチウムなどが例示できる。
【0059】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【発明の効果】
【0060】
本発明の電解二酸化マンガンは高い充填性を有するだけでなく、リチウム化合物との反応性にも優れている。これをリチウムマンガン系複合酸化物用のマンガン原料として使用することで、高い充填性を有し、なおかつ、電池特性、特に高いエネルギー密度を有するリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。
【0061】
さらに、本発明の電解二酸化マンガンの製造方法によれば、高い充填性を有するだけでなく、リチウム化合物との反応性にも優れた電解二酸化マンガンを提供することができる。また、電解中に電解二酸化マンガンが安定して電着するため、電流効率にも優れている。
【0062】
さらに、本発明の電解二酸化マンガンの製造方法によれば、不純物の多い電解液、特にアルカリ土類金属の多い電解液を用いた場合であっても、得られる電解二酸化マンガン中に取り込まれるアルカリ土類金属を抑制することができる。これによって、電解の前段階における追加の不純物処理を行う必要がなくなるだけでなく、従来使用できなかった純度の低い電解液をも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の電解二酸化マンガンにおける見掛粒子密度と嵩密度の概念図である。
【図2】実施例1で使用したマンガン酸化物のXRD図である。
【図3】実施例1の細孔径分布を示す図である。
【図4】実施例3で使用したマンガン酸化物の粒度分布を示す図である。
【図5】比較例1の細孔径分布を示す図である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。まず、電解二酸化マンガンの物性の測定方法及び評価方法を説明する。
【0065】
(電解二酸化マンガンの細孔容積および見掛粒子密度の測定)
電解二酸化マンガンの二次細孔及びメソポアの細孔容積、見掛粒子密度および嵩密度は市販の装置(商品名:ポアサイザー9510,マイクロメリティクス社製)を用いた水銀圧入法によって測定した。
【0066】
水銀圧入法による測定の前には、前処理として測定対象の電解二酸化マンガンを80℃で静置乾燥した。その後、水銀の圧力範囲を大気圧から414MPaまで段階的に変化させて測定を行ない、細孔分布(容積分布)を求めた。細孔直径が2nm以上200nm以下の細孔を「二次細孔」とし、細孔直径が2nm以上50nm以下の細孔を「メソポア」とした。なお、本実施例においては、水銀の圧力を高めても細孔直径が2nm未満の細孔には水銀が充填されないため、2nm未満の範囲での細孔分布は測定できない。
【0067】
電解二酸化マンガンの嵩密度は大気圧で水銀を導入した際の水銀量から求め、見掛粒子密度は414MPaの高い圧力まで水銀を導入した際の水銀量から求めた。図1は、粒子状の電解二酸化マンガンの見掛粒子密度および嵩密度の概念を示す模式図である。
【0068】
図1に示すとおり、嵩密度を測定する際には、水銀は大気圧で導入されるので、電解二酸化マンガン1中の細孔(200nm以上)2及び細孔(200nm未満)3には水銀4は充填されない。一方、見掛粒子密度を測定する際には、水銀は高い圧力で導入されるので、電解二酸化マンガン中の細孔(200nm以上)2及び細孔(200nm未満)3にまで水銀4が充填されることになる。ただし、見掛粒子密度を測定する際の圧力においていは、電解二酸化マンガン中の細孔(200nm未満)3の中でも極めて微細な細孔(2nm未満)にまでは、水銀4は入り込まない。
【0069】
(BET比表面積の測定)
電解二酸化マンガンのBET比表面積はBET1点法の窒素吸着により測定した。測定装置にはガス吸着式比表面積測定装置(商品名:フローソーブIII,島津製作所製)を用いた。測定に先立ち、150℃で40分間加熱することで測定試料を脱気処理した。
【0070】
(XRD測定における半価全幅(FWHM)の測定)
電解二酸化マンガンの2θが22±1°付近の回折線のFWHMを、一般的なX線回折装置(商品名:マックサイエンス社製MXP−3)を使用して測定した。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン条件は毎秒0.04°、計測時間は3秒間、および測定範囲は2θとして5°から80°の範囲で測定した。
【0071】
((110)/(021)の算出)
FWHMと同様にして得られたXRD図において、2θが22±1°付近の回折線を(110)面に対応するピークとし、37±1°付近の回折線を(021)面に対応するピークとした。(110)面のピーク強度を(021)面のピーク強度で除することにより(110)/(021)を求めた。
【0072】
(電解二酸化マンガンのアルカリ電位の測定)
電解二酸化マンガンのアルカリ電位は、40%KOH水溶液中で次のように測定した。
【0073】
電解二酸化マンガン3gに導電剤としてカーボンを0.9g加えて混合粉体を調製した。この混合粉体に40%KOH水溶液4mlを加えて混合し、電解二酸化マンガンとカーボンとKOH水溶液とを含む混合物スラリーを得た。水銀/酸化水銀参照電極を基準としてこの混合物スラリーの電位を測定し、電解二酸化マンガンのアルカリ電位を求めた。
【0074】
(マンガン酸化物粒子の平均粒子径の測定)
電解二酸化マンガン0.5gを純水50mL中に投入し、10秒間超音波照射を行って分散スラリーを調製した。この分散スラリーを測定装置(商品名:マイクロトラックHRA,HONEWELL製)に所定量投入し、レーザー回折法で粒度分布を測定した。得られた粒度分布データから、マンガン酸化物粒子の粒子径の分布及び平均粒子径を求めた。測定に際し、純水の屈折率を1.33、二酸化マンガンの屈折率を2.20とした。
【0075】
実施例1
電解液として硫酸−硫酸マンガン混合溶液を用いた。電解槽内にこの電解液を投入し、この電解槽内に、マンガンイオン濃度40.0g/Lの補給硫酸マンガン液と、過硫酸ナトリウムを200g/L含有する過硫酸ナトリウム水溶液と、を連続的に添加しながら電解し、電極上に電解二酸化マンガンを電着させた。電解中は、電解電流密度を1.2A/dm、電解温度を96℃とした。なお、補給硫酸マンガン液は電解槽内の硫酸濃度が25.0g/Lとなるよう添加し、8日間電解した。また、過硫酸ナトリウム水溶液は電解液中のマンガン酸化物粒子の濃度が5mg/Lとなるように連続的に添加した。実施例1の電解終了時の電解電圧は、3.35Vであった。
【0076】
実施例1の電解二酸化マンガンの製造条件を表1に、得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表2に、細孔径分布を図3に示した。なお、得られた電解二酸化マンガンの200nmを超える細孔の容積は0.26cm/gであった。
【0077】
なお、電解の際には、過硫酸ナトリウム水溶液の添加により、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中に平均粒子径1〜3μmのマンガン酸化物の粒子が生成した。得られた粒子を回収し、その結晶相及び組成を分析した。得られた粒子の粉末X線回折図を図2に示す。これらのマンガン酸化物は明確な回折ピークを示す結晶性のマンガン酸化物(MnO1.96)であることが確認できた。
【0078】
実施例2
電解液中のマンガン酸化物粒子の濃度が15mg/Lとなるように、過硫酸ナトリウム水溶液を電解槽内に連続的に添加したこと以外は、実施例1と同様の条件で電解二酸化マンガンを製造した。実施例2の電解終了時の電解電圧は3.35Vであった。
【0079】
実施例2の電解二酸化マンガンの製造条件を表1に、得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表2に示した。なお、得られた電解二酸化マンガンにおいて、200nmを超える細孔の容積は0.23cm/gであった。
【0080】
実施例3
市販の電解二酸化マンガン(商品名:HH−S,東ソー株式会社製)をジェットミルで粉砕し、平均粒子径(体積平均粒子径)が0.63μmの電解二酸化マンガン粒子を製造し、これをマンガン酸化物粒子とした。当該マンガン酸化物粒子の粒子径分布を図4に示した。このマンガン酸化物粒子を30g/Lの濃度で水に分散させてスラリー液を調製した。硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガン酸化物粒子の濃度が60mg/Lとなるように、当該スラリー液を電解液中に連続的に添加した。
【0081】
過硫酸ナトリウム水溶液の代わりに上記のマンガン酸化物粒子を添加したこと、電解中の電解電流密度を1.37A/dmとしたこと、及び電解を7日間行ったこと以外は、実施例1と同様にして電解二酸化マンガンを製造した。
【0082】
実施例3の電解二酸化マンガンの製造条件を表1に、得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表2に示した。なお、実施例3の電解終了時の電解電圧は、3.05Vであった。
【0083】
実施例3において使用したマンガン酸化物粒子は、1μm以下の粒子の含有量が93重量%、鉄の含有量が45ppm、及び、Mn価数3.92であった。
【0084】
実施例4
電解中の電解電流密度を1.5A/dmしたこと、及び電解を6日間行ったこと以外は、実施例3と同様の条件で電解二酸化マンガンを製造した。
【0085】
実施例4の電解二酸化マンガンの製造条件を表1に、得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表2に示した。なお、電解終了時の電解電圧は、3.48Vであった。
【0086】
実施例5
電解中の電解電流密度を1.5A/dmとしたこと、電解を4日間行ったこと及び硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガン酸化物粒子の濃度が30mg/Lとなるようにマンガン酸化物粒子を硫酸−硫酸マンガン混合溶液中に添加したこと以外は、実施例3と同様の条件で電解二酸化マンガンを製造した。
【0087】
実施例5の電解二酸化マンガンの製造条件を表1に、得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表2に示した。なお、電解終了時の電解電圧は、3.59Vであった。
【0088】
実施例6
電解液として硫酸−硫酸マンガン混合溶液を用いた。これに、マンガンイオン濃度43g/Lの補給硫酸マンガン液と、実施例3と同様の方法で得られた電解二酸化マンガン粒子を30g/Lの濃度で水に分散させたスラリー液を連続的に添加しながら電解を行って、電解二酸化マンガンを製造した。
【0089】
なお、スラリー液は、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガン酸化物粒子の濃度が45mg/Lとなるように添加した。また、補給硫酸マンガン液は、硫酸−硫酸マンガン混合液中の硫酸濃度が25.0g/Lとなるようにして電解液に添加した。電解時の電解電流密度は1.39A/dm、電解温度は96℃とした。電解は7日間行った。なお、実施例6の電解終了時の電解電圧は、2.77Vであった。
【0090】
実施例6の電解二酸化マンガンの製造条件を表1に、得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表2に示した。
【0091】
実施例7
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を、空気を吹き込みながら混合して析出物を得た。得られた析出物をろ過、洗浄、及び乾燥した後に粉砕し、平均粒子径0.61μmのマンガン酸化物粒子を得た。得られたマンガン酸化物粒子は、四三酸化マンガンの単相からなる四三酸化マンガン粒子であった。
【0092】
電解二酸化マンガン粒子の代わりに、当該四三酸化マンガン粒子を使用したこと、マンガンイオン濃度42g/Lの補給硫酸マンガン液を使用したこと、電解中の電解電流密度を1.5A/dmとしたこと、電解を25時間行ったこと、及び硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガン酸化物粒子の濃度が25mg/Lとなるようにスラリー液を添加したこと以外は、実施例1と同様の製造条件で電解二酸化マンガンを得た。
【0093】
実施例7の電解二酸化マンガンの製造条件を表1に、得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表2に示した。
【0094】
実施例8
電解二酸化マンガン(商品名:HH−S,東ソー株式会社製)を620℃で12時間焼成して、平均粒子径0.96μmのマンガン酸化物粒子を得た。得られたマンガン酸化物粒子は三二酸化マンガン(Mn)の単相からなる三二酸化マンガン粒子であった。
【0095】
電解二酸化マンガン粒子の代わりに、当該三二酸化マンガン粒子を使用したこと以外は、実施例7と同様な条件で電解二酸化マンガンを得た。
【0096】
実施例8の電解二酸化マンガンの製造条件を表1に、得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表2に示した。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
比較例1
実施例1と同様に電解液として硫酸−硫酸マンガン溶液を用いた。電解槽内に、マンガンイオン濃度が40.0g/Lの補給硫酸マンガン液を連続的に添加しながら12日間電解して、電解二酸化マンガンを製造した。電解中の電解電流密度は0.8A/dm、電解温度は92℃とした。電解時の電解槽内の硫酸濃度は25.0g/L、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガン酸化物粒子の濃度は3mg/Lとなるように調整した。電解終了時の電解電圧は3.2Vであった。
【0100】
比較例1の電解二酸化マンガンの製造条件を表3に、得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表4に、電解二酸化マンガンの細孔径分布を図5に示した。
【0101】
比較例2
電解時の電解電流密度を0.6A/dm及び電解温度を96℃としたこと、電解槽内の硫酸濃度を35.0g/L、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガン酸化物粒子の濃度を2mg/Lに調整したこと、並びに15日間電解を行なったこと以外は、比較例1と同様にして電解二酸化マンガンを製造した。電解終了時の電解電圧は2.8Vであった。このときの電解終了時の電解電圧は2.8Vであった。
【0102】
比較例2の電解二酸化マンガンの製造条件を表3に、得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表4に示した。
【0103】
比較例3
電解時の電解電流密度を1.2A/dm、及び電解温度を96℃としたこと以外は、比較例1と同様にして電解を行った。入電直後から電解電圧が急上昇し、2時間後に電解電圧が4.0Vを超えた。そのため、入電から2時間後に電解を停止した。電極上に電析した電着物の電着厚みが薄すぎるため、電極から電解二酸化マンガン電着物を剥離させることができず、電解二酸化マンガンを得ることができなかった。
【0104】
比較例3の電解二酸化マンガンの製造条件を表3に示した。
【0105】
比較例4
電解時の電解電流密度を0.2A/dm、及び電解温度を96℃としたこと、並びに30日間電解を行ったこと以外は、比較例1と同様にして電解二酸化マンガンを製造した。このときの電解終了時の電解電圧は2.3Vであった。
【0106】
比較例4の電解二酸化マンガンの製造条件を表3に、得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表4に示した。
【0107】
【表3】

【0108】
【表4】

【0109】
実施例9
電解液としてカルシウム濃度が600mg/L、マグネシウム濃度が1800mg/L、硫酸濃度が25.0g/Lである硫酸−硫酸マンガン混合溶液を用いた。当該電解液に、マンガンイオン濃度が43g/Lの補給硫酸マンガン液、及び、平均粒子径0.63μmの電解二酸化マンガン粒子を濃度30g/Lで分散させたスラリーを電解液に連続的に添加しながら電解することにより、電解二酸化マンガンを製造した。
【0110】
補給硫酸マンガン液は、電解液の硫酸濃度が25.0g/Lとなるように電解液に連続的に添加し、また、スラリー液は電解液中のマンガン酸化物粒子の濃度が55mg/Lとなるように電解液に連続的に添加しながら電解を行った。電解中、電流密度を1.39A/dm、電解温度を96℃とし、電解期間を7日間とした。
【0111】
実施例9の電解二酸化マンガンの製造条件を表5に、得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表6に示した。なお、実施例9の電解終了時の電解電圧は、2.75Vであった。
【0112】
実施例10
電解液として、カルシウム濃度800mg/L、及びマグネシウム濃度1000mg/L、及び硫酸濃度25g/Lである硫酸−硫酸マンガン混合溶液を用いた。当該電解液に、マンガンイオン濃度が42g/Lの補給硫酸マンガン液、及び、平均粒子径0.8μmの電解二酸化マンガン粒子を分散させたスラリーを電解液に連続的に添加しながら電解することにより、電解二酸化マンガンを製造した。
【0113】
補給硫酸マンガン液は、電解槽内の硫酸濃度が25.0g/Lとなるように電解液に連続的に添加し、また、電解二酸化マンガン粒子は電解液中のマンガン酸化物粒子の濃度が9.6mg/Lとなるように連続的に電解液に添加した。
【0114】
電解電流密度を1.5A/dm、電解温度を96℃として電解し、電解期間を1日間として電解し、電解二酸化マンガンを得た。なお、実施例6の電解終了時の電解電圧は、2.26Vであった。
【0115】
実施例10の電解二酸化マンガンの製造条件を表5に、得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表6に示した。
【0116】
比較例5
マンガン酸化物を電解液に添加しなかったこと以外は、実施例10と同様な方法により電解二酸化マンガンを製造した。比較例5の電解二酸化マンガンの製造条件を表5に、得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表6に示した。
【0117】
【表5】

【0118】
【表6】

【0119】
実施例11
(マンガン酸リチウムの製造)
実施例1で得られた電解二酸化マンガンを市販の炭酸リチウムと混合し、850℃で焼成してマンガン酸リチウムを製造した。得られたマンガン酸リチウムを2t/cmの圧力で成形して成形体を作製した。成形体の成形密度は2.7g/cmであり、このマンガン酸リチウムは高い充填性を示した。また、このマンガン酸リチウムからサンプルを3個分取して、それぞれのサンプルの組成分析をしたところ、いずれのサンプルもLiの組成比が同じであり、本発明の電解二酸化マンガンがリチウム化合物と均一に反応したことが確認できた。
【0120】
(エネルギー密度の測定)
得られたマンガン酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池を作製し、エネルギー密度を測定した。リチウムイオン二次電池は、正極活物質として本実施例で得られたマンガン酸リチウム、負極として金属リチウム、並びに、電解液として1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を含むエチレンカーボネート/ジメチルカボネート(体積比1:2)混合溶液を用いて、作製した。
【0121】
作製したリチウムイオン二次電池を充放電し、放電時の放電容量及び平均電圧からエネルギー密度を求めた。なお、充放電流は1Cレートとし、充放電電圧は3Vから4.3V(充電:3Vから4.3V、放電4.3Vから3V)とした。その結果、実施例11のマンガン酸リチウムのエネルギー密度は445mWh/gであった。結果を表7に示す。
【0122】
実施例12
実施例2で得られた電解二酸化マンガンと炭酸リチウムとを混合し、850℃で焼成してマンガン酸リチウムを製造した。得られたマンガン酸リチウムを2t/cmの圧力で成形して成形体を作製した。成形体の成形密度は2.72g/cmであり、このマンガン酸リチウムは高い充填性を示した。また、得られたマンガン酸リチウムからサンプルを3個分取して、それぞれのサンプルの組成分析をしたところ、いずれのサンプルもLiの組成比が同じであり、本発明の電解二酸化マンガンがリチウム化合物と均一に反応したことが確認できた。
【0123】
得られたマンガン酸リチウムを正極活物質としたこと以外は実施例11と同様な方法でエネルギー密度を測定した。その結果、実施例12のマンガン酸リチウムのエネルギー密度は448mWh/gであった。結果を表7に示す。
【0124】
比較例6
比較例1で得られた電解二酸化マンガンを炭酸リチウムと混合し、850℃で焼成してマンガン酸リチウムを製造した。得られたマンガン酸リチウムを2t/cmの圧力で成形して成形体を作製した。成形体の成形密度は2.73g/cmであり、実施例11,12のマンガン酸リチウムよりも高い充填性を示した。得られたマンガン酸リチウムを正極活物質としたこと以外は実施例11と同様な方法でエネルギー密度を測定した。その結果、比較例6のマンガン酸リチウムのエネルギー密度は432mWh/gであった。結果を表7に示す。
【0125】
このように、比較例1の電解二酸化マンガンから得られたマンガン酸リチウムは成形体の密度が高いにもかかわらず、エネルギー密度は実施例11,12の電解二酸化マンガンから得られたマンガン酸リチウムよりも低くなることが確認できた。
【0126】
【表7】

【0127】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の本質と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0128】
1:電解二酸化マンガン(粒子)
2:電解二酸化マンガン中の細孔(細孔直径200nm以上)
3:電解二酸化マンガン中の細孔(細孔直径200nm未満)
4:水銀(Hg)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が20m/g以上60m/g以下であり、細孔直径が2nm以上200nm以下の細孔の容積が少なくとも0.023cm/gである、電解二酸化マンガン。
【請求項2】
細孔直径が2nm以上200nm以下の細孔の容積が少なくとも0.025cm/gである、請求項1に記載の電解二酸化マンガン。
【請求項3】
細孔直径が2nm以上50nm以下の細孔の容積が少なくとも0.004cm/gである、請求項1又は2に記載の電解二酸化マンガン。
【請求項4】
細孔直径が2nm以上50nm以下の細孔の容積が少なくとも0.005cm/gである、請求項1乃至3のいずれかに記載の電解二酸化マンガン。
【請求項5】
見掛粒子密度が少なくとも3.4g/cmである、請求項1乃至4のいずれかに記載の電解二酸化マンガン。
【請求項6】
見掛粒子密度が少なくとも3.8g/cmである、請求項1乃至5のいずれかに記載の電解二酸化マンガン。
【請求項7】
嵩密度が少なくとも1.5g/cmである、請求項1乃至6のいずれかに記載の電解二酸化マンガン。
【請求項8】
アルカリ土類金属の含有量が500重量ppm以下である、請求項1乃至7のいずれかに記載の電解二酸化マンガン。
【請求項9】
硫酸−硫酸マンガン混合溶液中にマンガン酸化物を懸濁させて電解二酸化マンガンを得る工程を有する電解二酸化マンガンの製造方法において、前記工程において、マンガン酸化物粒子を連続的に硫酸−硫酸マンガン混合溶液に混合し、硫酸−硫酸マンガン混合溶液中のマンガン酸化物粒子濃度を5mg/L以上200mg/L以下とする、電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項10】
前記工程における硫酸−硫酸マンガン混合溶液中の硫酸濃度が20g/L以上30g/L以下である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程における電解電流密度が0.8A/dm以上1.5A/dm以下である、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記工程における電解電流密度が1.2A/dm以上1.4A/dm以下である、請求項9乃至11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
前記マンガン酸化物粒子の平均粒子径が5μm以下である、請求項9乃至12のいずれかに記載の電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項14】
前記硫酸−硫酸マンガン混合溶液のアルカリ土類金属濃度が0.5g/L以上である、請求項9乃至13のいずれかに記載の電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項15】
請求項1乃至8のいずれかに記載の電解二酸化マンガンとリチウム化合物とを混合して熱処理しリチウムマンガン系複合酸化物を得る工程を有する、リチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−184504(P2012−184504A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−31508(P2012−31508)
【出願日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】