説明

電解槽

【課題】電解時のリーク電流を削減し、効率的な電解を行うことができると共に電解停止時の逆電流も削減できる電解層を提供する。
【解決手段】陽極液入口10と陽極液供給管2とがホース(A)6で繋がれており、陰極液入口14と陰極液供給管3がホース(B)7で繋がれており、陽極液出口13と陽極液回収管4がホース(C)8で繋がれており、陰極液出口16と陰極液回収管5がホース(D)9で接続されており、ホース(D)9の全長が、陰極液出口16のノズルの中心と陰極液回収管のノズル15の中心の2点間を結ぶ直線に対して1.1倍〜1.5倍であり、ホース(D)9が、陰極液出口16のノズルを基点として、全長に対して60〜80%の長さの第一直線部分9Aを有し、次に折れ曲がり部分9Bを有し、さらに全長に対して10%〜15%の長さの第二直線部分9Cを有して、陰極液回収管のノズル15に繋がれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属塩電解用の電解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属塩電解とは、食塩水等のアルカリ金属塩化物水溶液を電気分解(電解)して、高濃度のアルカリ金属水酸化物、水素、塩素などを製造する方法である。アルカリ金属塩電解の方法としては、イオン交換膜、陽極、陰極を備えた電解槽を用いて電解を行うイオン交換膜法が知られている。電解では、陽極を備える陽極室にアルカリ金属塩化物水溶液が供給され、陰極を備える陰極室にアルカリ金属水酸化物が供給される。そして、電解により、塩化アルカリなどを原料として、陽極室では、塩素ガスが生成され、陰極室では、アルカリ金属水酸化物や水素ガスが生成される。
【0003】
電解において、電解槽を構成する各電解セルに電流を流す際、周囲への絶縁が完璧でない場合、リーク(漏洩)電流が発生する。リーク電流は、電解には利用されない電流であるため、リーク電流が生じると、流した電流のうち電解に寄与する電流の割合が減少し、生産効率が低下する。そのため、リーク電流を削減して生産効率を向上させるための様々な検討がなされている。例えば、特許文献1では、電解液を回収する管(出口ヘッダー)内のリーク電流を削減するために、電解液を回収する管内のノズルの位置や形状に関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭54−114478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、リーク電流の削減が十分であるとは言えず、生産効率が十分に高められたものではなかった。また、特許文献1に記載の発明では、電解停止時に、逆電流を十分に抑制することができない。ここで、逆電流とは、電解を実施している間に電流が流れる方向とは逆方向に流れる電流のことであり、この逆電流に由来して、電極の触媒の耐久性が低下する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、電解時のリーク電流を削減し、効率的な電解を行うことができると共に、電解停止時の逆電流も削減できる電解槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、電解セルから液を回収するための電解液回収管と、電解セルとを繋ぐホースを、特定の構成とした電解槽が、リーク電流及び逆電流を大幅に削減できることを見出し、本発明を成すに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
(1)陽極を有する陽極室と陰極を有する陰極室とを有する複数の電解セルが直列に連結された電解槽であって、
陽極室に陽極液を供給する陽極液入口と、
陰極室に陰極液を供給する陰極液入口と、
陽極室から陽極液と陽極での発生ガスとを排出する陽極液出口と、
陰極室から陰極液と陰極での発生ガスとを排出する陰極液出口と、
前記陽極液を前記電解セルそれぞれの前記陽極液入口に供給する陽極液供給管と、
前記陰極液を前記電解セルそれぞれの前記陰極液入口に供給する陰極液供給管と、
前記陽極液を前記電解セルそれぞれの前記陽極液出口から排出して回収する陽極液回収管と、
前記陰極液を前記電解セルそれぞれの前記陰極液出口から排出して回収する陰極液回収管と、
前記陽極液入口と前記陽極液供給管とを接続するホース(A)と、
前記陰極液入口と前記陰極液供給管とを接続するホース(B)と、
前記陽極液出口と前記陽極液回収管とを接続するホース(C)と、
前記陰極液出口と前記陰極液回収管とを接続するホース(D)と、を備え、
前記陽極液入口と前記陰極液入口とは前記電解セルの下部に配置され、
前記陽極液出口と前記陰極液出口とは前記電解セルの上部に配置され、
前記陽極液供給管、前記陰極液供給管、前記陽極液回収管、及び前記陰極液回収管は、前記複数の電解セルが直列に連結される方向に沿って配置され、
前記陽極液供給管は、前記陽極液入口よりも下方に配置され、
前記陰極液供給管は、前記陰極液入口よりも下方に配置され、
前記陽極液回収管は、前記陽極液出口よりも下方に配置され、
前記陰極液回収管は、前記陰極液出口よりも下方に配置され、
前記ホース(D)の全長は、前記陰極液出口のノズルの中心と前記陰極液回収管のノズルの中心の2点間を結ぶ直線に対して1.1倍〜1.5倍であり、
前記ホース(D)は、前記陰極液出口のノズルを基点として、全長に対して60〜80%の長さの第一直線部分を有し、次に折れ曲がり部分を有し、さらに全長に対して10%〜15%の長さの第二直線部分を有して、前記陰極液回収管のノズルに接続されていることを特徴とする電解槽。
【0009】
(2)前記ホース(C)の全長が、前記陽極液出口のノズルの中心と前記陽極液回収管のノズルの中心との2点間を結ぶ直線に対して1.1倍〜1.5倍であり、
前記ホース(C)が、前記陽極液出口のノズルを基点として、全長に対して60〜80%の長さの第一直線部分を有し、次に折れ曲がり部分を有し、さらに全長に対して10%〜15%の長さの第二直線部分を有して、前記陽極液回収管のノズルに繋がれている
ことを特徴とする(1)に記載の電解槽。
【0010】
(3)前記ホース(C)と前記ホース(D)とはフレキシブルホースであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の電解槽。
【0011】
(4)前記ホース(D)及び前記ホース(C)の折れ曲がり部分が、曲線状に折れ曲がっていることを特徴とする(2)又は(3)に記載の電解槽。
【0012】
(5)前記陰極液回収管のノズルが、前記電解セルの外側に位置し、地面と垂直な方向に対して20°〜60°の角度を有していることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか一項に記載の電解槽。
【0013】
(6)前記陽極液回収管のノズルが、前記電解セルの外側に位置し、地面と垂直な方向に対して20°〜60°の角度を有していることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか一項に記載の電解槽。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電解時のリーク電流を削減し、効率的な電解を行うことができると共に、電解停止時の逆電流も削減できる電解槽が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る電解槽の構成を説明する概略断面図である。
【図2】ホースの構成を説明する概念図である。
【図3】他の実施形態に係る電解槽の構成を説明する概略断面図である。
【図4】実施例で用いた電解槽の一部の断面図である。
【図5】実施例で用いた電解槽の一部の断面図である。
【図6】実施例で用いた電解槽の一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、必要に応じて図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る電解槽100の構成を説明する概略断面図である。本実施形態に係る電解槽100は、電解セル1が直列に連結された電解槽であって、電解セルと、電解セルから電解液を回収する管とを繋ぐホースに特徴を有するものである。
【0019】
〔電解槽概要〕
本実施形態において、電解槽とは、複数の電解セル1を直列に並べた電解槽のことであり、複極式イオン交換膜法電解槽という。図1では、複数の電解セル1のうち1つのみを取り出して記載したものである。複極式イオン交換膜法電解槽では、電解セル1の陽極室と、隣の電解セルの陰極室との間にイオン交換膜を介在させ、単位電解槽を形成させて、各単位電解槽に対して直接に給電することで、電気分解を行う。なお、図1では、陽極室及び陰極室の区画は省略している。
【0020】
〔電解セル〕
電解槽100を構成する電解セル1は、陰極を取り付けた陰極室枠と、陽極を取り付けた陽極室枠とが、隔壁(背面板:図示せず)を介して背中合わせに配置される。そして、陽極室枠と陰極室枠とは、電気的に接続されている。また、電解セル1は、陽極室又は陰極室に電解液を供給する開口部と、陽極室又は陰極室から電解液等を排出する開口部とを有する。具体的には、電解セル1は、この開口部として、陽極室に陽極液を供給する陽極液入口10、陰極室に陰極液を供給する陰極液入口14、陽極室から陽極液と陽極での発生ガスとを排出する陽極液出口13、及び陰極室から陰極液と陰極での発生ガスとを排出する陰極液出口16を有する。本実施形態の電解セル1では、陽極液入口10と陰極液入口14が電解セルの下部に位置し、陽極液出口13と陰極液出口16が電解セルの上部に位置する。
【0021】
本実施形態の電解セル1では、陽極液入口10と陰極液入口14が電解セルの下部に位置し、陽極液出口13と陰極液出口16が電解セル1の上部に位置する。ここで、電解セル1の上部とは、電解セル1を高さ方向に見た場合の中点より上方のことであり、下部とは、中点より下方のことである。好ましくは、陽極液入口10と陰極液入口14が電解セルの下端に位置し、陽極液出口13と陰極液出口16が電解セルの上端に位置することである。
【0022】
〔電解液供給管と電解液回収管〕
本実施形態の電解槽100では、多数直列に並んだ電解セル1のそれぞれに、電解液を供給するための電解液供給管を有し、各電解セルから、電解液をそれぞれ排出して回収するための電解液回収管を有する。具体的には、電解槽100は、陽極液を各電解セルの陽極液入口10に対して供給する陽極液供給管2、陰極液を各電解セルの陰極液入口14に供給する陰極液供給管3、陽極液を各電解セルの陽極液出口13から排出して回収する陽極液回収管4、及び陰極液を各電解セルの陰極液出口16から排出して回収する陰極液回収管5を有する。
【0023】
なお、図1では、陽極液供給管2、陽極液回収管4が電解セル1の右端に位置し、陰極液供給管3、陰極液回収管5が、電解セル1の左端に位置しているが、陽極液回収管4及び陽極液出口13と、陰極液回収管5及び陰極液出口14とを入れ替えた配置にしてもよい。
【0024】
また、本実施形態の電解槽100では、陽極液供給管2、陰極液供給管3、陽極液回収管4、及び陰極液回収管5が、各電解セルが連結される方向に沿って(略並行に)配置される。そして、陽極液供給管2は、陽極液入口10よりも下方に位置し、陰極液供給管3は、陰極液入口14よりも下方に位置する。また、陽極液回収管4は、陽極液出口13より下方に位置され、陰極液回収管5は、陰極液出口16より下方に位置する。好ましくは、陽極液回収管4と陰極液回収管5は、陽極液供給管2と陰極液供給管3より上方に位置することである。
【0025】
つまり、電解において、陽極液は、陽極液供給管2から、各電解セルの下部に位置する陽極液入口10を経由して、陽極室に供給され、各電解セルの上部に位置する陽極液出口13を経由して、陽極室から陽極液回収管4に回収される。一方、陰極液は、陰極液供給管3から、各電解セルの下部に位置する陰極液入口14を経由して、陰極室に供給され、各電解セルの上部に位置する陰極液出口16を経由して、陰極室から陰極液回収管5に回収される。したがって、電解液は、電解セルの下方から供給され、上方から回収される。なお、電解によって生成される高濃度のアルカリ金属水酸化物、水素、塩素などは、電解液回収管である陽極液回収管及び陰極液回収管から回収される。
【0026】
すなわち、図1に示す電解槽100では、電解セル1の下方より、電解液が供給され、電解セル1の上方から、排出される液、発生ガスが回収される。本実施形態の電解槽100では、電解セル内で発生したガスを電解セル上部より排出する構造とすることで、電解液を自然に回収することができるため、電解液回収管は電解液出口より下方に設置されている。また、作業性の観点から、電解液回収管は電解液供給管より上方に設置されていることが好ましい。
【0027】
〔ホース〕
本実施形態の電解槽100において、各電解セルと、各電解セルに電解液を供給する電解液供給管とを、ホースで繋ぐ。同様に、各電解セルと、各電解セルから電解液を回収する電解液回収管とを、ホースで繋ぐ。具体的には、各電解セルの陽極液入口10のノズルと、陽極液供給管2のノズル18とがホース(A)6で繋がれており、各電解セルの陰極液入口14のノズルと、陰極液供給管3のノズル17とがホース(B)7で繋がれており、各電解セルの陽極液出口13のノズルと、陽極液回収管4のノズル11とがホース(C)8で繋がれており、各電解セルの陰極液出口16のノズルと、陰極液回収管5のノズルとがホース(D)9で繋がれている。
【0028】
〔ホースの材質〕
上記のホース(A)〜(D)(ホース6〜9)の材質としては、ホース内には塩素やアルカリ溶液が流れるため、耐腐食性の観点からフッ素樹脂が好ましい。フッ素樹脂としては、例えば、四フッ化エチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)が挙げられる。それらの中でも、耐腐食性の観点から、PFAまたはPTFEが好ましい。また、ホース内側の表面は平滑で液流れが乱されない方が良い。
【0029】
また、ホースの肉厚は、0.4MPa以上の圧力で破裂しない肉厚であることが好ましい。0.4MPa以上で破裂しない肉厚であれば、電解セル1内で圧力が加わっても、破裂して、内容物が漏れることがなく(破裂耐圧)、安全性が向上する。より好ましくは、0.6MPa以上の圧力で破裂しない肉厚である。
【0030】
具体的には、ホースの肉厚は0.5mm〜3mmであることがより好ましい。肉厚が0.5mm以上であれば、破裂耐圧が十分であり、安全性がより向上する。肉厚が3mm以下であれば、ホースの折れ曲がり部分等に自由度が十分にある。さらに好ましくは、1mm〜2mmの肉厚である。
【0031】
〔フレキシブルホース〕
本実施形態において、ホース(C)8及びホース(D)9は、フレキシブルホースであることが好ましい。フレキシブルホースとは、変位に対してある程度柔軟に対応できるホースという意味である。
【0032】
電解槽では、電解セル1と電解液回収管(陽極液回収管4及び陰極液回収管5)のノズルとの間には位置関係に公差(ズレ)が生じる。ホース(C)8及びホース(D)9がフレキシブルホースであれば、ある程度の自由度があり、この公差をより吸収することができるため、好ましい。それによって、電解セル1とホースとの接続をより確実に行うことができる。
【0033】
なお、本実施形態における公差とは、設置時の設計寸法からズレのことである。電解液回収管(陽極液回収管4及び陰極液回収管5)の設置位置の公差、その他にホースにも公差がある。フレキシブルホースであれば、これらのズレをより確実に吸収することができるため、好ましい。
【0034】
フレキシブルホースとしては、コルゲート形状やベローズ形状のフレキシブルホース等が挙げられる。コルゲート形状とは、ホースの曲がり部分に螺旋状に凹凸をつけたものであり、この部分でホースの自由度が保たれる。ベローズ形状とは、ホースの曲がり部分に蛇腹状に凹凸をつけたものであり、曲がり易く、伸縮性がある。
【0035】
図2は、本実施形態におけるフレキシブルホースの概念図である。フレキシブルホース20は、電解液出口ノズルを基点として、第一直線部21、コルゲート形状などの折れ曲がり部分22、第二直線部23を有し、電解液回収管のノズルに接続される。
【0036】
本実施形態の電解槽100において、ホース(C)8又は(D)9内の液抵抗を増大させることで、電解運転時のリーク電流を大幅に削減できる。それによって、電解に寄与しない電流を削減でき、アルカリ金属水酸化物の生産効率が向上する。加えて、電解停止時の逆電流も減らすことが可能である。逆電流が減ることで、電極触媒の消耗を低減することができ、その結果、電極の寿命を延長できる効果も有する。
【0037】
以下、本実施形態におけるホース(C)8及びホース(D)9の構成について、さらに具体的に説明する。
【0038】
〔ホースの全長が長いこと〕
本実施形態の電解槽100において、ホース(D)9の全長は、陰極液出口16のノズルの中心と陰極液回収管5のノズル15の中心の2点間を結ぶ直線に対して1.1倍〜1.5倍である。それによって、陰極液の液抵抗が増加し、リーク電流を大幅に削減することができる。以下で、その理由について説明する。
【0039】
電解槽100は、多数の電解セル1を直列に並べて接続する。そして、電解時における電解槽100全体の電圧は、各電解セル1の電圧を足し合わせた電圧である。そして、電解セルに供給及び回収される電解液は、電解質溶液であるため、各電解セルと、電解液供給管や電解液回収管とは、電解液を介して電気的に接続された状態となる。加えて、金属製の電解液供給管や電解液回収管は、安全性の観点から、地絡している。
【0040】
したがって、電解セルと、電解液供給管や電解液回収管との間に電圧差が生じる。そのため、給電した電流の一部が、ホース中の電解液を介して電解液供給管や電解液回収管に電流が流れる。これにより、電解に使用されない電流であるリーク電流が発生し、イオン交換膜法食塩電解の電解効率を下げることとなる。特に、ホースを介したリーク電流としては、陰極液回収管5へのリーク電流が多い。
【0041】
したがって、本実施形態では、ホース(D)9を、陰極液出口16のノズルの中心と陰極液回収管5のノズル15の中心の2点間を直線で繋ぐのではなく、陰極液出口16のノズルの中心と陰極液回収管5のノズルの中心の2点間を結ぶ直線に対して1.1倍〜1.5倍の長さに調節して、接続することで、大幅にリーク電流を削減することができる。1.1倍以上であれば、陰極液出口16のノズルを基点としてホースが直線に延びる領域(第一直線部)の長さが十分であり、ホース内の液抵抗を増加させることができる。また、1.5倍以下であれば、全長に対する第一直線部の比率を保った状態でも、ホースの接続ができる。より好ましくは、1.2〜1.4倍である。
【0042】
〔ホースの直線部分が長いこと〕
また、本実施形態の電解槽100では、ホース(D)9は、陰極液出口16のノズルを基点として、全長に対して60〜80%の長さの第一直線部分9Aを有し、次に折れ曲がり部分9Bを有し、さらに全長に対して10%〜15%の長さの第二直線部分9Cを有して、陰極液回収管5のノズル15に繋がれている。それによって、陰極液及び高濃度のアルカリ金属水酸化物並びに水素ガスをスムーズに電解セル外に排出することができ、かつ、リーク電流を安定的に削減することができる。ここで、直線とは、略直線になっていればよく、ホースの形状及び重量、又は電解液の重量によって撓んでもよい。また、折れ曲がり部分の長さは、第一直線部分及び第二直線部分以外の部分の長さである。
【0043】
陰極液出口16からは、電解液以外に、気体である水素ガスが排出されるため、単にホースを伸ばすだけでは、水素ガスの排出をスムーズに行なうことが出来ない。本実施形態では、ホース(D)9が、第一直線部分9Aと第二直線部分9Bとを合わせて、ホース全長に対して70%〜95%の直線部分を有しているため、ホース内の気液の流れが安定し、排出をスムーズに行うことができる。さらに、液抵抗も増加するため、リーク電流が削減される。ホース内の液抵抗を増加させるためには、折れ曲がり部分の範囲は出来るだけ小さい方が好ましい。
【0044】
従来は、ホース内の液抵抗は、電解液の電気抵抗率、ホース長さで決定させると考えられていた。しかし、フレキシブルホースの折れ曲がり部におけるコルゲート形状や、急激にホースが曲がる部分では予想以上に液断面積が大きくなり、極端にホース内の液抵抗が減少してしまうことを、本発明者らは見出した。コルゲート部分のように凹凸がある箇所では、コルゲート部分の凹凸に電解液がぶつかり、電解液の断面積が大きくなり、結果、ホース内の液抵抗が小さくなり、リーク電流が増加する。また、急激にホースが曲がる部分では、これも同じように、カーブで液が乱され、電解液の断面積が大きくなり、ホース内の液抵抗が小さくなり、リーク電流が増加する。そのため、ホースの直線部分を出来るだけ長くすることによって、フレキシブルホースの液抵抗を増大させ、リーク電流を大幅に削減できることが可能となるのである。
【0045】
〔ホースの第一直線部分が長いこと〕
また、本実施形態の電解槽100におけるホース(D)9は、陰極液出口16のノズルを基点として、全長に対して60〜80%の長さの第一直線部分9Aを有し、次に折れ曲がり部分9Bを有し、さらに全長に対して10%〜15%の長さの第二直線部分9Cを有して、陰極液回収管5のノズル15に繋がれている。第一直線部分9Aが60%以上であれば、液抵抗を増大させて、リーク電流を削減することができる。80%以下であれば、折れ曲がり部分の長さが十分となり、接続が容易にできる。より好ましい第一直線部分9Aの長さは、65%〜80%である。
【0046】
ホース(D)9について、電解セル1の電解液出口のすぐ近くで急激な曲がりやコルゲート形状をつけてしまうと、排出された直後に液断面積が大きくなり、それ以降の直線部において液断面積を小さくすることが困難であるため、ホース内の液抵抗が著しく減少してしまう。また、気体や電解液の排出がスムーズに行われない。そのため、ホース全長に対する第一直線部分9Aの比率を大きくし、相対的に第2直線部分9C及び折れ曲がり部分9Bの比率を小さくすることが重要である。
【0047】
〔ホースの折れ曲がり〕
また、ホース(D)9は、陰極液出口16のノズルを基点として、第一直線部分9Aを経て、全長に対して60%〜80%の部分で折れ曲がり部分9Bを有し、さらに第二直線部分9Cを有して、陰極液回収管5のノズル15に繋がれていることが好ましい。折れ曲がり部分9Bの位置が、全長に対して60%より小さい位置である場合には、第一直線部分9Aが短くなり、ホース内の液抵抗を増加させることができない。また、折れ曲がり部分9Bの位置が、全長に対して80%より大きい場合には、折れ曲がり部分の長さが不十分となり、接続出来なくなる。
【0048】
なお、第二直線部9Cはホース内の液抵抗を増加させる効果が小さいため、自由度を保てる範囲で可能な限り短い方が良い。
【0049】
〔ホース(C)〕
ホース(C)は、ホース(D)と同様の特徴を有していることが好ましい。すなわち、本実施形態の電解槽100において、ホース(C)8の全長が、陽極液出口8のノズルの中心と陽極液回収管4のノズル11の中心の2点間を結ぶ直線に対して1.1倍〜1.5倍であり、ホース(C)8が、陽極液出口13のノズルを基点として、第一直線部分8Aを有し、全長に対して65%〜90%の部分で折れ曲がり部分8Bを有し、さらに第二直線部分8Cを有して、陽極液回収管4のノズル11につながれており、第一直線部分8Aは、全長に対して60〜80%であり、第二直線部分8Cは、全長に対して10%〜15%であることが好ましい。ホース(C)8が上記の構成を有していることによって、よりリーク電流を削減することができる。より好ましくは、ホース(C)8の全長が、陽極液出口13のノズルの中心と陽極液回収管4のノズル11の中心の2点間を結ぶ直線に対して1.2倍〜1.4倍である。
【0050】
〔ホース折れ曲がり具合〕
ホース(D)9及びホース(C)8における、折れ曲がり部分は、急激に曲がらないことが好ましい。折れ曲がり部分で急激に折れ曲がると、液が乱されたり、液断面積が大きくなって液抵抗が急激に低下したりする。したがって、折れ曲がり部分は、曲線状に折れ曲がっていることが好ましい。本実施形態では、ホース(D)9及び(C)8が、フレキシブルホースであり、ホース(D)9及び(C)8のコルゲート形状の部分やベローズ形状の一部分が、折れ曲がり部分に相当する。このコルゲート形状の部分やベローズ形状の部分が、急激に折れ曲がるのではなく、曲線状に折れ曲がっていることにより、液が乱されたり、液断面積が大きくなって液抵抗が急激に低下したりすることを抑制することができる。より好ましくは、第一直線部分と第二直線部分とを延長して交差するときの角度が、60°〜120°で曲線状に折れ曲がっていることである。
【0051】
〔ホース(A)及びホース(B)〕
電解槽100において、陰極液入口14のノズルと、陰極液供給管3のノズル17を接続するホース(B)7の全長は、直線で結んだ長さよりも長い。同様に、陽極液入口10のノズルと、陽極液供給管2のノズル18を接続するホース(A)6の全長も、直線で結んだ長さよりも長い。これによって、供給側からのリーク電流も削減することができる。
【0052】
〔他の実施形態〕
図3は、本実施形態の電解槽において、電解セルを配置した断面図であり、別の実施形態である。図3は、ホース(C)8や(D)9の第一直線部分を長くとるために、電解液回収管のノズル(15や11)の位置をずらす方法である。具体的には、電解液回収管のノズル位置の角度を、電解セルより外側にずらすことで、第一直線部分を長くとることが可能となる。この場合、電解液回収管のノズルの手前に折れ曲がり部分を形成させることで、折れ曲がり部分で液抵抗が減少することを最小限に抑制することができる。なお、陽極液回収管4陰極液回収管5のノズルは、地面と垂直な方向に対して電解セル1から外側方向に20°〜60°となることが好ましい。より好ましくは、40°〜50°である。
【0053】
ただし、ホース(C)8及び(D)9には、電解セルでの発生ガスも排出されるため、電解液回収管のノズルの位置は、電解液回収管の中心より上側につけておく必要がある。電解液回収管の中心より下側につけた場合、ガスの流れが阻害され、振動が起こり、長期的にイオン交換膜の損傷が起こる。
【0054】
上記の方法は、既設の電解槽において、電解液回収管を回転させることにより、電解液回収管のノズルの位置を電解セルより外側に位置させることが可能であり、大きな設備変更の必要がない。また、本実施形態の電解槽は、ODC(Oxygen depletion catode、酸素枯渇カソード)を備えた電解槽にも好適に用いることができる。この電解槽では、陰極側で酸素還元反応を行なうアルカリ金属塩電解により、陰極側でアルカリ金属水酸化物が製造される。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0056】
〔電解槽及び電解セル〕
図4に示す電解槽を用いて液抵抗の測定を行った。図4の電解槽30は、電解セル31、電解液供給管32、電解液回収管33を有し、電解セル31は、電解液入口35、電解液出口36を有する。電解液供給管のノズル34と電解液入口35をホース37で接続した。また、電解液回収管のノズル38と電解液出口36は、各実施例の条件に合わせてホースで接続する。なお、電解液回収管33は、中心を軸として回転可能であり、回転により、ノズル38の位置が移動する。
【0057】
図4に示す電解槽において、電解液回収管のノズル38と電解液出口36のノズルの直線距離は857mm、水平距離は425mm、垂直距離は744mmであった。
【0058】
〔液抵抗の測定方法〕
図4に示す電解槽において、電解液供給管32から46℃の5.2Nの飽和塩水を300L/hrで循環させる。電解セル31の電解液出口のノズル36と、電解液回収管33のノズル38に、白金製の網状の電極を設置し、その電極間に電流を流す。ホース内の液抵抗の測定において、ホース内の電解液を経由せずに、ホースの外部から回りこんで流れる電流の影響を排除する必要がある。そのため、循環液の供給側と回収側の電解液経路をバルブで遮断することで、電気的に絶縁した状態で測定を行った。
【0059】
測定では、電解液を流した状態で、白金製の網状の電極間に30mAの電流を流し、電極間の電圧を測定し、オームの法則よりホース内の液抵抗値を求めた。
【0060】
〔実施例1〕
電解液出口のノズル36の中心と電解液回収管のノズルの中心の2点間を結ぶ直線が910mm(水平距離503mm、垂直距離758mm)となるように、電解セルにおいて電解液出口のノズルと電解液回収管のノズルを設置した。実施例1では、図4に示す電解槽において、電極液回収管を回転させて、電解液回収管のノズルは、地面と垂直な方向に対して45°電解セルから外側に位置している(図5参照)。
【0061】
そして、電解液出口のノズルと電解液回収管のノズルを繋ぐホースとして、全長1115mm、第一直線部735mm、第二直線部136mmのフレキシブルホースを取り付けた。実施例1の出口フレキシブルホースの全長は、出口ノズルの中心と陰極液回収管のノズルの中心の2点間を結ぶ直線に対して1.3倍である。また、第一直線部分は、全長に対して66%であり、第二直線部分は、全長に対して12%である。
【0062】
上記の実施例1の電解槽において電極間の電圧を測定した結果、25.8Vであり、ホース内の液抵抗値を求めると860Ωであった。
【0063】
〔比較例1〕
電解セル出口ノズルの中心と液回収管のノズルの中心の2点間を結ぶ直線が857mm(水平距離425mm、垂直距離744mm)となるように、電解セルにおいて電解液出口のノズルと電解液回収管のノズルを設置した。比較例1では、図4に示す電解槽において、電極液回収管を回転させて、電解液回収管のノズルは、地面と垂直な方向に対して13°電解セルから外側に位置している(図6参照)。
【0064】
出口におけるフレキシブルホースとして、全長875mm、第一直線部465mm、第二直線部130mmの折れ曲がり部分がコルゲートであるホースを使用したこと以外、実施例と同様の装置を用いて測定を行なった。
【0065】
比較例1の出口フレキシブルホースの全長は、出口ノズルの中心と陰極液回収管のノズルの中心の2点間を結ぶ直線に対して1.02倍である。また、第一直線部分は、全長に対して53%であり、第二直線部分は、全長に対して15%である。
【0066】
上記の比較例1の電解槽において電極間の電圧を測定した結果、18.0Vであった。この値をオームの法則よりホース内の液抵抗値を求めると600Ωであった。第一直線部が短く、コルゲート部で液が乱され、液断面積が増加したため、液抵抗は小さな値となった。
【0067】
上記の実施例1と比較例1の結果を比較すると、本発明の出口フレキシブルホースを使用することで、ホース内の液抵抗値が1.43倍に増加することがわかる。この値は、出口フレキシブルホースでのリーク電流を約30%削減することに相当する。
【0068】
なお、実施例では、電解液として46℃の5.2Nの飽和塩水を用いた場合のホース内の液抵抗を測定しているが、陰極側における液抵抗に換算するときは、陰極液の電気抵抗率より、求めることができる。
【0069】
〔実施例2〕
電解時の発生ガスの影響を調べるために、10.8m/hrの空気と共に液を流して測定したこと以外、実施例1と同様に測定を行った。電極間の電圧を測定した結果、25.8Vであり、ホース内の液抵抗値を求めると860Ωであった。
【0070】
〔比較例2〕
電解時の発生ガスの影響を調べるために、10.8m/hrの空気と共に液を流して測定したこと以外、比較例1と同様に測定を行った。電極間の電圧を測定した結果、18.1Vであり、ホース内の液抵抗値を求めると、603Ωであった。
【符号の説明】
【0071】
100…電解槽、1…電解セル、2…陽極液供給管、3…陰極液供給管、4…陽極液回収管、5…陰極液回収管、6…ホース(A)、7…ホース(B)、8…ホース(C)、9…ホース(D)、10…陽極液入口、11…陽極液回収管ノズル、13…陽極液出口、14…陰極液入口、15…陰極液回収管ノズル、16…陰極液出口、17…陰極液供給管ノズル、18…陽極液供給感ノズル、20…フレキシブルホース、21…第一直線部分、22…折れ曲がり部分、23…第二直線部分、31…電解セル、32…電解液供給管、33…電解液回収管、34…電解液供給管ノズル、35…電解液入口、36…電解液出口、37…ホース、38…電解液回収管ノズル。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極を有する陽極室と陰極を有する陰極室とを有する複数の電解セルが直列に連結された電解槽であって、
陽極室に陽極液を供給する陽極液入口と、
陰極室に陰極液を供給する陰極液入口と、
陽極室から陽極液と陽極での発生ガスとを排出する陽極液出口と、
陰極室から陰極液と陰極での発生ガスとを排出する陰極液出口と、
前記陽極液を前記電解セルそれぞれの前記陽極液入口に供給する陽極液供給管と、
前記陰極液を前記電解セルそれぞれの前記陰極液入口に供給する陰極液供給管と、
前記陽極液を前記電解セルそれぞれの前記陽極液出口から排出して回収する陽極液回収管と、
前記陰極液を前記電解セルそれぞれの前記陰極液出口から排出して回収する陰極液回収管と、
前記陽極液入口と前記陽極液供給管とを接続するホース(A)と、
前記陰極液入口と前記陰極液供給管とを接続するホース(B)と、
前記陽極液出口と前記陽極液回収管とを接続するホース(C)と、
前記陰極液出口と前記陰極液回収管とを接続するホース(D)と、を備え、
前記陽極液入口と前記陰極液入口とは前記電解セルの下部に配置され、
前記陽極液出口と前記陰極液出口とは前記電解セルの上部に配置され、
前記陽極液供給管、前記陰極液供給管、前記陽極液回収管、及び前記陰極液回収管は、前記複数の電解セルが直列に連結される方向に沿って配置され、
前記陽極液供給管は、前記陽極液入口よりも下方に配置され、
前記陰極液供給管は、前記陰極液入口よりも下方に配置され、
前記陽極液回収管は、前記陽極液出口よりも下方に配置され、
前記陰極液回収管は、前記陰極液出口よりも下方に配置され、
前記ホース(D)の全長は、前記陰極液出口のノズルの中心と前記陰極液回収管のノズルの中心の2点間を結ぶ直線に対して1.1倍〜1.5倍であり、
前記ホース(D)は、前記陰極液出口のノズルを基点として、全長に対して60〜80%の長さの第一直線部分を有し、次に折れ曲がり部分を有し、さらに全長に対して10%〜15%の長さの第二直線部分を有して、前記陰極液回収管のノズルに接続されていることを特徴とする電解槽。
【請求項2】
前記ホース(C)の全長が、前記陽極液出口のノズルの中心と前記陽極液回収管のノズルの中心との2点間を結ぶ直線に対して1.1倍〜1.5倍であり、
前記ホース(C)が、前記陽極液出口のノズルを基点として、全長に対して60〜80%の長さの第一直線部分を有し、次に折れ曲がり部分を有し、さらに全長に対して10%〜15%の長さの第二直線部分を有して、前記陽極液回収管のノズルに繋がれている
ことを特徴とする請求項1に記載の電解槽。
【請求項3】
前記ホース(C)と前記ホース(D)とはフレキシブルホースであることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解槽。
【請求項4】
前記ホース(D)及び前記ホース(C)の折れ曲がり部分が、曲線状に折れ曲がっている
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の電解槽。
【請求項5】
前記陰極液回収管のノズルが、地面と垂直な方向に対して前記電解セルから外側方向に20°〜60°となる
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電解槽。
【請求項6】
前記陽極液回収管のノズルが、地面と垂直な方向に対して前記電解セルから外側方向に20°〜60°となる
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電解槽。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−158775(P2012−158775A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17067(P2011−17067)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】