説明

電解槽

【課題】電解式水素水生成器において、強度性能、水密性能に優れた、コンパクトな電解槽を提供する。
【解決手段】白金めっきを施したチタン等、電気分解による損耗をうけにくい導電性材料から成り、平板形状で、かつ、外部引出し用の給電端子を有する陰極および陽極を備え、さらに、前記両電極の間隙に前記両電極と材質を同じくして、給電端子を保有しない平板形状の中間電極を絶縁材料から成るスペーサ16を用いてギャップを形成する様、配列した電極ユニット14を小径の円筒容器10に収納して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,水電解機能および浄水フィルターを備えた水素水生成器に供する電解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図3に示すような電解式水素水生成器(以下,従来装置と記する。)が知られている。
【0003】
この従来装置は,電解用電極1,2を備える電解槽3および水道水中の残留塩素や各種汚染成分、例えば、トリハロメタンをはじめとする有機塩素化合物やカビ臭成分,農薬等を回収する活性炭ブロック4を備えるろ過ユニット5から構成される。
【0004】
前記電解用電極1,2には電源ユニット7から直流電圧が給電され、電極1,2の表面で水電解反応を生じさせて水素ガス6を生成させ、後段の前記活性炭ブロック4内に水素ガスを吸蔵させる。供給される水道水8に対し、活性炭ブロック4では水道水8に含まれる不純物を取り除く浄水機能を発揮させるとともに吸蔵した水素ガスを浄水に溶解させ、飲用の水素水9を生成する。
【0005】
なお、前記活性炭ブロック4は活性炭粉末をポリエチレン等のバインダを用いて中空柱状に成形した、数μm〜数十μm程度の無数の細孔を有した浄水フィルターであり、この細孔内で水素ガスと水の接触効率が高められ、高濃度の水素水9を作ることができる。
【0006】
また、前記電解槽3で生成される水素ガス量は電極1,2間に通電される電流にほぼ比例して増加するが、安全性への配慮から給電電圧が過剰とならぬ様、電極の電流密度は1〜2A/dm以下で利用されることが一般である。
【0007】
したがって、所定の水電解反応を確保するための表面積を有した一対の電極を備えるか、あるいは、陽極、陰極を交互に複数枚配列して、電極サイズをコンパクト化しつつ、電極面積を確保する構造がとられていた。
【0008】
なお、上記構成の電解槽においては、各々の電極に給電端子を保有させ、これをシール部を介して容器外に引き出し、直流電源と接続することで水の電気分解を行うための電気回路を構成する。
【0009】
上記、従来装置の電解槽の一例として、7枚の電極で構成する電極ユニットの回路構成を図4に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4420667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように,従来装置の電解槽においては、一対の電極で構成した場合、所定濃度の水素水を生成するための電解電流を確保するため、電極面積が過大となり、電解槽が大型化する問題があった。
【0012】
このため、陽極、陰極を交互に複数枚設けて並列配置とすることで、電解槽のコンパクト化が図られたが、各電極の給電端子すべてを外部に引き出す構造であるため、水密のためのシール部を多数備える必要があり、煩雑な組立作業や配線作業が必要となっていた。
【0013】
加えて、フィルターの前段に電解槽を配備する従来装置ではフィルターの目詰まりが生じた場合は水圧上昇をともない、電解槽を加圧条件で使用することになる。
【0014】
このため、電解槽には充分な強度性能や水密性能を備える必要があるが、前記した一対の電極で構成した電解槽では電極面積が大きいため、電解槽が大型化し、強度確保に課題があった。
【0015】
また、前記した陽極、陰極を交互配列させる電解槽を採用した場合は、構造上、シール部が多くなるため、水漏れリスクが高くなる課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の課題を解決するために、本発明の電解槽においては、例えば、白金めっきを施したチタン等、電気分解による損耗をうけにくい導電性材料から成り、平板形状で、かつ、外部引出し用の給電端子をもつ陰極および陽極を備え、さらに、前記両電極の間隙に前記両電極と材質を同じくして、給電端子を保有しない平板形状の中間電極を絶縁材料から成るスペーサを用いてギャップを形成する様、配列した電極ユニットを小径の円筒容器に収納して構成する。
【0017】
なお、上記電解槽において、電極は導電性を有する他の材質、例えば、酸化イリジウム、酸化パラジウム、酸化ルテニウム等のコーティングを施したチタン、あるいは、フェライトや二酸化鉛等を使用しても良く、加えて、ギャップを構成する手段も上記に限定されるものではない。
【0018】
前記構成の電解槽では中間電極の表裏面が異なる極性の電極としてはたらき、中間電極の表面でも水の電気分解反応が生じるため、電解電流を増加することなく、ギャップ数にほぼ比例した水素発生量を得ることが可能となる。
【0019】
また、電解式水素水生成器の電解槽は、同じく飲用電解水を生成するアルカリイオン整水器の電解槽とは異なり、電極間隙に隔膜を配備する必要がないことから、極めて小さいギャップ寸法で電極を配設できるため、給電電圧を低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電解槽を用いることにより、給電端子を要する電極は陽極、陰極のみとなり、この間隙に給電端子の不要な中間電極を設置するだけで電極ユニットを構成できるため、組立作業や配線作業が大幅に軽減され、かつ、電解槽のシール部が少なくなるため、水漏れリスクも低減される。
【0021】
また、中間電極の枚数を増やすことで、1枚の電極面積を削減し、コンパクトな電解槽を構成できるため、加圧条件下の使用においても強度安定性に優れる電解槽を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、電解式水素水生成器において、優れた強度性能、水密性能を発揮するコンパクトな電解槽を提供するものであって、陽極、陰極の間隙に給電端子をもたない中間電極を配設することで電極の表面積を小さく抑え、かつ、各電極間を短ギャップで構成して、低電圧でも所定の水素水生成の性能を達成できる。
【実施例】
【0023】
本発明の電解槽の一例を図1に示す。なお、図1では内部構造を説明するため、背面図において、正面側の容器上部および背面側の側面を切断して図示した。
【0024】
本発明の電解槽は、背面端部に原水流入口11と中央上部に電解水流出口12を備えたケース10と、給電端子13を貫通固定することで電極ユニット14を保持させ、前記ケース10との勘合部に水密のためのオーリング(Oリング)18を備えたフタ15を組み合わせて構成される。
【0025】
また、電解槽内部に収納される電極ユニット14は、例えば、白金めっきを施したチタン等,電気分解による損耗をうけにくい導電性平板材料から成る電極板7枚を、例えば1mmの短ギャップを形成できる様、電極ユニット14の上下に電極板を挟み込んで固定するフレーム形状のスペーサ16を備える。
【0026】
前記電極ユニット14は、両端および中央部に配設され、給電端子13を保有する3枚の電極板と、前記3枚の電極板が構成する間隙に各々2枚ずつ配設される給電端子をもたない電極板4枚で構成される。
【0027】
なお、前記給電端子13は前記フタ15から引き出した後、例えば、パッキンを保有するシール座金17をもちいて固定することで水密性を確保する。
【0028】
また、前記した電解槽の外装を構成するケース10およびフタ15は、電気分解に対して影響を及ぼさない絶縁材料として、合成樹脂等の成形品を使用する。
【0029】
図2に電極ユニットの回路構成例を示す。
【0030】
電極ユニットの両端に配設される電極板20a、20bは、前記フタから給電端子を引き出された後に、例えば、図1に示す金属製の短絡板19、または、絶縁電線等をもちいて電気的に短絡する。
【0031】
前記、両端電極20a、20bおよび中央電極21間に外部電源より給電端子を介して極性の異なる電位を給電すると、電位を供給しない中間電極22の表裏がそれぞれ逆極性の電極としてはたらき、各々の電極表面で水の電気分解反応が進み、陰極側(−極側)で水素ガスが生成される。
【0032】
なお、図2の電極構成例の場合は、中央電極21と両端電極20a、20b間に給電するため、3ギャップの並列回路となる。
【0033】
上記構成の電極ユニットを採用した場合、中間電極を採用しない1ギャップ構成の電極ユニットに対し、電極板の面積を1/3に削減できるため、機械的強度に優れた、例えば、小径の円筒容器で電解槽を構成できる。
【0034】
各電極板で生成される電解ガス(水素、酸素)の量は電極板を通過する電荷量で決定するため、各々の電極ギャップで等量の水素ガスが生成され、電流一定の条件下では理論上、電極ギャップ数に比例した水素ガス量を得ることができる。
【0035】
水の電気分解で生じる化学反応を化学式1に記する。
(1)式は陰極反応,(2)式は陽極反応,(3)式は前記(1),(2)式を踏まえた系全体としての反応を示す。
【0036】
(化1)
2HO+2e→H+2OH … (1)
O→1/2O+2H+2e … (2)
O→H+1/2O … (3)
【0037】
化学式1から、1つの電極ギャップで2個の電荷(e)が移動すると、1個の水素分子(H)と1/2個の酸素分子(O)が生成されることになる。
【0038】
上述した本発明による電解槽を搭載した電解式水素水生成器の構造図を図5に示す。
【0039】
電解槽3の上部に活性炭ブロック4を収納したカートリッジ23を装着する。
【0040】
電解槽3の原水流入口11には原水の流入を検出して電気分解の起動信号を出力するフローセンサー24を備え、この起動信号が入力され、電解槽3に電気分解のための直流電圧を給電するとともに、原水の水質による影響を受けず、安定した電気分解を行うための定電流機能を保有する制御電源25を搭載する。
【0041】
前記、定電流機能は水道水の電気伝導度に応じて、適宜、給電電圧を可変して電解電流を一定に保つ機能であるが、装置の安全性を確保するため、給電電圧がDC100V以下となる様、水素水生成能力に応じて、電極面積、中間電極の数を決定する。
【0042】
背面下部に突出した給水管26よりフローセンサー24を介して水道水8の通水を開始すると電解槽3内で電気分解が開始され、水素ガスを含む水が上部のカートリッジ23に供給され、無数の細孔をもつ活性炭ブロック4内で水道水8に含まれる不純物の回収と水素ガスの混合が行われた後、カートリッジ23の上部から吐水管27を経て、水素水9として排出される。
【0043】
上記構成の本発明の電解槽(7枚電極構成)を搭載した電解式水素水生成器における水素水生成特性および中間電極を排除した3枚電極構成で同一の電解電流(600mA)を通電した場合の水素水生成特性を図6に示す。
【0044】
双方とも流量の上昇にともなって水素濃度が低下する傾向をもつが、いずれの流量においても、本発明の電解槽を使用した場合の溶存水素濃度は中間電極を排除した場合に比較し、約2.5〜3倍程度高い値を示している。
【0045】
前述したように、本発明の電解槽は3ギャップの並列回路、中間電極を排除した場合は1ギャップの並列回路で構成されるため、理論上の水素濃度は3倍となり、図6に示す試験結果にほぼ合致している。
【0046】
以上、本発明の電解槽について、7枚の平板電極を3ギャップの並列回路で構成した例をもちいて詳述したが、許容される給電電圧、電解槽の大きさに応じて電極面積および電極枚数を最適化することで、所定の水素水生成能力を達成すればよい。
【0047】
加えて、上述の実施例では陰極および陽極として使用する3枚の給電電極で構成したが、水密性を重視してシール部を削減するため、2枚構成の給電電極を選択しても良い。
【0048】
使用する電極は平板形状に限らず、曲板電極を配列させた電極ユニットや径の異なるパイプ形状電極を同心円状に配置させた電極ユニットを搭載した電解槽をもちいても同様の効果を期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の電解槽を利用することで、コンパクトで、水密性・強度安定性に優れた電解式水素水生成器を構成できる。
【0050】
また、電解電流を抑えつつ、電極ギャップ数を増加することで水素発生量を増やすことができるため、電源回路のコンパクト化も可能となり、装置全体のコンパクト化に寄与する。
【0051】
加えて、組立・配線に関わる作業内容が簡素化されること、給電端子の不要な中間電極の採用等でイニシャルコストも低減できる実用的な電解槽を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の電解槽の構造例を示す図である。
【図2】本発明の電解槽の回路構成例を示す図である。
【図3】従来装置の構造を示す図である。
【図4】従来装置の電解槽の回路構成例を示す図である。
【図5】本発明の電解槽を搭載した電解式水素水生成器の構造を示す図である。
【図6】中間電極の採用にともなう水素水生成特性の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1、2 電解用電極
3 電解槽
4 活性炭ブロック
5 ろ過ユニット
6 水素ガス
7 電源ユニット
8 水道水
9 水素水
10 ケース
11 原水流入口
12 電解水流出口
13 給電端子
14 電極ユニット
15 フタ
16 スペーサ
17 シール座金
18 オーリング
20a、20b 電極板
21 中央電極
22 中間電極
23 カートリッジ
24 フローセンサー
25 制御電源
26 給水管
27 吐水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料から成り、かつ、外部引出し用の給電端子を有する陰極および陽極を備えるとともに、前記両電極の間隙に給電端子を有しない中間電極をギャップを形成して配列した電極ユニットを備えることを特徴とする電解槽。
【請求項2】
外部引出し用の給電端子を有する陰極、陽極および前記両電極間に配設する中間電極を、いずれも平板形状で構成したことを特徴とする請求項1の電解槽。
【請求項3】
外部引出し用の給電端子を有する陰極、陽極および前記両電極間に配設する中間電極を、いずれも曲板形状で構成したことを特徴とする請求項1の電解槽。
【請求項4】
外部引出し用の給電端子を有する陰極、陽極および前記両電極間に配設する中間電極を、いずれも外径の異なるパイプ形状で構成し、これら電極を同心円状に配置したことを特徴とする請求項1の電解槽。
【請求項5】
給電端子を有する陰極、陽極および中間電極が白金めっきを施した、または、酸化イリジウム、酸化パラジウム、酸化ルテニウム等によるコーティングを施したチタン、あるいはフェライトや二酸化鉛から成る請求項1から4のいずれかの電解槽。
【請求項6】
電極間隙に絶縁材料からなるスペーサを備えて、陽極、陰極および中間電極をギャップを形成して配列したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかの電解槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−7206(P2012−7206A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143561(P2010−143561)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【Fターム(参考)】