説明

電解水生成装置

【課題】電解水(特に水素溶存水)のpH値の上昇を抑制しつつ、溶存気体濃度(特に溶存水素濃度)が高い電解水を容易に得ることができる電解水生成装置を提供する。
【解決手段】原水を電気分解して電解水を生成する電解水生成装置100であって、原水が供給される陽極20および陰極30と、陽極20および陰極30間に配置される隔膜40とを備え、陽極20および陰極30のうちの少なくとも一方の表面には、貴金属元素である白金を主体とする白金触媒層が形成されており、白金触媒層には、平均細孔径50μm以下の細孔が形成されている、電解水生成装置100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解水生成装置、特に原水を電気分解して電解水を生成する電解水生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水を電気分解して得られる電解水(例えばアルカリイオン水)は、胃腸症状改善などの医療的効果があるものとして注目されている。この種の電解水を生成する電解水生成装置の一つとして、隔膜式電解槽を備えた装置が提案されている(例えば特許文献1)。隔膜式電解槽を備えた装置は、一対の電極(陰極および陽極)間がイオン交換膜などの隔膜で仕切られた構造の電解槽を有しており、それによって電解槽内を陰極室と陽極室とに区分けしている。
【0003】
そして、電解槽の陰極室および陽極室に原水(例えば水道水)を導入して電極間に電圧を加えると、電極に接触している水が電気分解されて電解反応が進行する。その際、陰極室においては、電解反応によって水素(H)および水酸化物イオン(OH)が生成するため、当該陰極室からは水酸化物イオン濃度が高いアルカリ性の電解水(陰極水)を得ることができる。一方、陽極室においては、電解反応によって酸素(O)および水素イオン(H)が生成するため、当該陽極室からは酸素イオン濃度が高い酸性の電解水(陽極水)を得ることができる。
【0004】
ところで、この種の電解水の性質を表すパラメータとしては、上述した酸性やアルカリ性などのpH値や電解水中に含有するミネラル成分量が評価される場合が多いが、それ以外にも電解水(特に陰極水)中に存在する溶存水素濃度も重要なパラメータの一つとして注目されている。すなわち、電解水の溶存水素が生体に対する様々な効果効能を持つのではないかと関心を集めている。そして、このような溶存水素濃度が高い電解水(水素溶存水)を飲料水として使用する場合、そのpH値は飲用に適した中性付近を維持することが求められている。
【特許文献1】特許第3349710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の電解水生成装置においては、水の電気分解によって陰極室では水素だけでなく水酸化物イオンも生成されるため、電解水中の溶存水素濃度とpH値とを適当な値(特に飲用に適したpH7.5付近)に調整することが非常に困難であった。すなわち、電解水中の溶存水素濃度を高めるべく電解の電気量を増大すると、同時に生成した水酸化物イオンによって電解水のpH値も大きく上昇してしまうため、例えばpH6.8〜7.8の中性領域において溶存水素濃度1.5ppm以上となる高い溶存水素濃度を有する陰極水(水素溶存水)を採取することは非常に難しかった。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、電解水(特に陰極水)のpH値の上昇を抑制しつつ、溶存気体濃度(特に溶存水素濃度)が高い電解水を容易に得ることができる電解水生成装置を提供することである。また、そのような電解水生成装置に使用される電極用部材及び電極用部材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提供される電解水生成装置は、原水を電気分解して電解水を生成する電解水生成装置である。かかる生成装置は、上記原水が供給される陽極および陰極と、上記陽極および陰極間に配置される隔膜とを備えている。上記陽極および陰極のうちの少なくとも一方の表面には、貴金属元素である白金を主体とする白金触媒層が形成されている。そして、上記白金触媒層には、平均細孔径50μm以下の細孔が形成されていることを特徴とする。
【0008】
ある好適な実施形態において、上記白金触媒層は、ヘキサクロロ白金酸を含む白金化合物を所定温度の乾燥蒸気で焼成することによって形成されている。
【0009】
ある好適な実施形態では、上記陰極は、上記原水が導入される陰極室に配置されており、上記陰極室には、上記陰極から発生した水素を溶存する水素溶存水を排出する水素溶存水排出経路が連結されており、上記水素溶存水排出経路は、上記排出された水素溶存水を攪拌する攪拌手段を備えている。
【0010】
ある好適な実施形態において、上記攪拌手段は、上記水素溶存水排出経路の途上に設けられたスパイラルチューブである。
【0011】
ある好適な実施形態では、上記水素溶存水排出経路は、上記排出された水素溶存水の溶存水素濃度を検出する水素濃度検出手段と、上記検出された溶存水素濃度が所定濃度に満たない場合に、上記排出された水素溶存水を上記陰極室まで還流させる還流手段とを備えている。
【0012】
ある好適な実施形態において、上記陽極は、上記原水が導入される陽極室に配置されており、上記陽極室には、当該陽極室の内部において上記導入された原水を保持する保持部材が配置されている。
【0013】
ある好適な実施形態では、上記原水を保持する保持部材は、上記陽極の外面に接触して配置された多孔体シートである。
【0014】
ある好適な実施形態において、上記陽極は、上記原水が導入される陽極室に配置されており、上記陽極室には、上記陽極から発生した酸素を溶存する酸素溶存水を排出する酸素溶存水排出経路が連結されており、上記酸素溶存水排出経路は、上記排出された酸素溶存水から酸素を分離させる分離手段を備えている。
【0015】
また、本発明は、電解水を生成するために用いられる電極用部材を提供する。この電極用部材は、導電性金属を主体とする電極材と、上記電極材の表面に形成された白金触媒層とを備える。そして、上記白金触媒層は、貴金属元素である白金を主体として構成され、且つ、平均細孔径50μm以下の細孔が形成されていることを特徴とする。
【0016】
ある好適な実施形態において、上記白金触媒層は、ヘキサクロロ白金酸を含む白金化合物を所定温度の乾燥蒸気で焼成することによって形成されている。
【0017】
さらに、本発明は、電解水を生成するために用いられる電極用部材の製造方法を提供する。かかる方法は、導電性金属を主体とする電極材を用意する工程と、上記用意した電極材の表面にヘキサクロロ白金酸を含む触媒形成用塗布液を塗布する塗布工程と、上記触媒形成用塗布液を塗布した電極材を焼成し、当該電極材表面に白金を主体とする白金触媒層を形成する焼成工程とを含む。そして、上記焼成工程において、上記焼成は、所定温度の乾燥蒸気を用いて行われることを特徴とする。
【0018】
ある好適な実施形態において、上記焼成工程は、上記電極材を所定温度の乾燥蒸気で焼成する第1焼成処理と、上記第1焼成処理よりもさらに高温の乾燥蒸気で焼成する第2焼成処理とを含む。
【0019】
ある好適な実施形態では、上記触媒形成用塗布液は、さらに六塩化イリジウム酸を含有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電解水生成装置によれば、陰極表面で発生した水素気泡は、陰極表面に形成された白金触媒層の細孔(平均細孔径50μm以下の微小細孔)を通って放出されるため、発生水素気泡を非常に小さくすることができる。加えて、微小細孔の作用によって陰極表面と水との界面張力が小さくなるので、発生水素気泡の泡離れを良好にすることができる。これによって、陰極表面から発生した水素気泡を小さいサイズのまま水中に速やかに分散させることができ、水素溶存水中の溶存水素濃度を効率良く大きくすることができる。また、本発明の電解水生成装置によれば、溶存水素濃度を効率良く大きくすることができるので、所望の溶存水素濃度を得るために要する電気分解の電気量を低減することができ、水素溶存水のpH値の上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明による実施の形態を説明する。以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0022】
図1を参照しながら、本実施形態に係る電解水生成装置100について説明する。図1は電解水生成装置100の全体構成を模式的に示す模式図である。
【0023】
電解水生成装置100は、原水を電気分解して電解水(この実施形態では陰極から発生した水素を溶存する水素溶存水)を生成するための装置である。この生成装置100は、図1に示すように、電解槽10と、当該電解槽10に原水を導入する原水供給経路50と、電解槽10から排出された電解水を外部まで導く電極水排出経路70、60とから構成されている。
【0024】
電解槽10は、隔膜式電解槽であり、原水が供給される一対の電極(陽極20および陰極30)間が隔膜40で仕切られた構造を有している。当該隔膜40によって電解槽10の内部空間が2つに区分けされている。この実施形態では、電解槽10の内部にはさらに壁面90が設けられ、当該壁面90と隔膜40とによって、電解槽10の内部空間が陽極室24と陰極室34とに区分けされている。
【0025】
電解槽10の入口側(図では下側)には、原水供給経路50が連結されている。原水供給経路50は、図示しないポンプに接続されており、当該ポンプによって送り出された原水を電解槽10に連続的(あるいは断続的であってもよい)に導入(搬送)するように構成されている。この実施形態では、原水供給経路50は、その下流側において2つの経路(陽極側供給経路52と陰極側供給経路54と)に分岐されている。陽極側供給経路52は、陽極室24に連結され、当該陽極室24にポンプによって送り出された原水の一部を導入(搬送)するようになっている。一方、陰極側供給経路54は、陰極室34に連結され、当該陰極室34にポンプによって送り出された原水の一部を導入(搬送)するようになっている。
【0026】
電解槽10の出口側(図では上側)には電解水排出経路が連結されており、陽極室24および陰極室34から排出された電解水(陽極水および陰極水)を所定の位置まで排出するように構成されている。この実施形態では、陽極室24には、酸素溶存水排出経路70が連結されており、当該陽極室24から流出した陽極水(この例では陽極20から発生した酸素を溶存する酸素溶存水)を排出するようになっている。一方、陰極室34には、水素溶存水排出経路(上流側排出経路60および下流側排出経路61)が連結されており、当該陰極室34から流出した陰極水(この例では陰極30から発生した水素を溶存する水素溶存水)を排出するようになっている。この実施形態では、上流側排出経路60は、電磁バルブ68を介して下流側排出経路61に連結されており、当該下流側排出経路61は出口コック69を介して装置外部に連結されている。
【0027】
なお、電解槽10に導入される原水としては、少なくとも水分子を含む(電気分解によって水素分子と酸素分子とが生成され得る)電解液であればよく、電解水生成装置の構成(例えば、隔膜の種類など)に応じて適当なものを使用することができる。例えばイオン交換膜などの固体高分子電解膜を採用する場合には、浄水(例えば活性炭等によって不純物が除去された水)、RO透過水、イオン交換水、純水等の中性水を好ましく使用することができる。或いは、例えば多孔質樹脂膜などの中性の電解膜を用いる場合には、水に、塩化ナトリウム等の塩、若しくは硫酸や苛性ソーダなどの酸、アルカリを加えた電解液を原水として電解槽に導入してもよい。
【0028】
次に、図2を加えて本実施形態に係る電解槽10の内部構造についてさらに説明する。図2は図1の電解槽内部における要部を拡大した要部拡大図である。本実施形態においては、電解槽10は、図2に示すように、隔膜40の両側面に網状絶縁体42a、42bを配置し、この網状絶縁体42a、42bの両外側に陽極20および陰極30を配置した構造を有している。
【0029】
隔膜40は、耐熱性および耐腐食性(耐酸性および耐アルカリ性など)に優れた材質が好ましく、さらには水が染込んで且つ垂れにくい材質が好ましい。隔膜の種類としては、電解水生成装置の構成(例えば採用する電解法など)に応じて適当なものを使用することができる。この実施形態では、隔膜40は陽イオン交換膜であり、耐熱性および耐腐食性に優れたフッ素樹脂系の膜(例えばデュポン株式会社製のナフィオン)を好適に使用している。なお、隔膜40の厚さは、例えば0.5mm〜2.0mm程度である。
【0030】
網状の絶縁体42a、42bは、網状(或いは格子状)に形成されたシート部材であり、電極20、30と隔膜40との間で狭持されている。この網状絶縁体42a、42bは、原水の通り道になっている。すなわち、陽極側の網状絶縁体42aは、陽極20と隔膜40との間で狭持され、当該陽極20と隔膜40との間に原水を導入するようになっている。また、陰極側の網状絶縁体42bは、陰極30と隔膜40との間で狭持され、当該陰極30と隔膜40との間に原水を導入するようになっている。このような網状絶縁体42a、42bとしては、絶縁性を有し且つ化学的安定性を有する材質が好ましく、この実施形態では、フッ素系樹脂シート(この例ではテフロンシート)をダイヤ状の模様に切り込んで網状にしたものを好ましく使用している。なお、網状絶縁体42a、42bの厚さは、例えば0.5mm〜1.0mm程度である。
【0031】
陽極20および陰極30は、隔膜40および網状絶縁体42a、42bを挟んで互いに対向して配置されている。陽極20の形状は、陽極室24に収容し得る形状であればよく特に制限されないが、ここでは剛性を確保する観点から平板形状を採用している。陽極20の材質は、良好な導電性を有し且つ電気化学的に不活性な金属材料が好ましく、ここではチタン材を好適に使用している。陰極30の形状は、陰極室34に収容し得る形状であればよく特に制限されないが、ここでは剛性を確保する観点から平板形状を採用している。また、陰極30の材質は、良好な導電性を有し且つ電気化学的に不活性な金属材料が好ましく、ここではチタン材を好適に使用している。陽極20および陰極30は、図示しない電源に接続されており、当該電源は、陽極20および陰極30間に直流電圧を加えるようになっている。電源からの電圧は、例えば4.2V〜4.5V程度である。なお、陽極20および陰極30の厚さは、例えば0.8mm〜1.2mm程度である。
【0032】
陽極20および陰極30のうちの少なくとも一方の表面には、白金触媒層22、32が形成されている。この実施形態では、陽極20の表面には白金触媒層22が形成されており、陰極30の表面には白金触媒層32が形成されている。白金触媒層22、32は、各電極20、30の片面(この実施形態では隔膜40に対向する側の面)に選択的に形成されてもよいが、各電極20、30の両面に形成されていることが好ましい。また、白金触媒層22、32は、各電極20、30の面全体を一様に(均一な層厚で)被覆していることが好ましい。なお、白金触媒層22、32の厚みは、例えば3μm程度である。
【0033】
かかる白金触媒層22、32は、貴金属元素である白金(Pt)を主体とする白金化合物から構成されている。このような白金化合物としては、例えばヘキサクロロ白金酸六水和物等が好ましく挙げられる。また、白金触媒層22、32は、その他の金属(例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムの白金族元素など)やその合金若しくは酸化物などを含んでいてもよい。このような白金触媒層22、32としては、例えば白金(Pt)とイリジウム(Ir)とを所定のPt/Ir比(例えば7:3)で混合したものを使用することができ、この場合、白金触媒層22、32は、白金とイリジウムとが混在した状態でその骨格が形成され得る。
【0034】
上述した白金触媒層22、32は、多数の細孔(図示せず)を有するものであり、その独立した細孔(または多数の細孔の繋がり)によって当該白金触媒層22、32の表面と裏面とを連通し得るように構成されている。そして、各電極20、30表面から発生した
気泡(陰極側では水素気泡)が当該細孔を通って放出されるようになっている。このような細孔の形状は特に制限されず、例えばスリット状、シリンダ状などのいずれであってもよい。また、細孔の平均細孔径は50μm以下であればよく、好ましくは10μm〜50μmの範囲である。なお、このような白金触媒層は、例えばヘキサクロロ白金酸を含む白金化合物を乾燥蒸気で焼成することによって容易に形成することができる。
【0035】
このようにして構成された電解水生成装置100を用いて電解水(ここでは水素溶存水)を生成する際には、まず、陽極側供給経路52を介して陽極室24に原水を導入し(矢印「81」)、陰極側供給経路54を介して陰極室34に原水を導入する(矢印「82」)。次いで、陽極20及び陰極30間に直流電圧を加えて、当該陽極20及び陰極30に接触している水を電気分解する。この電気分解によって、陽極表面および陰極表面ではそれぞれ電解反応が進行する。
【0036】
詳しくは、図2に示すように、陽極側においては、陽極側の網状絶縁体42aを通って陽極20表面に接触した水分子(HO)が電子を放出することにより酸素分子(O)および水素イオン(H)が生成する。生成した酸素分子(O)は、気泡となって陽極20周辺の水中に放出される。放出された水素気泡は陽極20周辺の水中に溶存し、これによって陽極20から発生した酸素を溶存する酸素溶存水が生成される。このようにして生成された酸素溶存水は、酸素溶存水排出経路70を介して陽極室24外部へと排出される(矢印「83」)。
【0037】
一方、陰極側においては、陰極側の網状絶縁体42bを通って陰極30表面に接触した水分子(HO)が電子を受け取ることにより水素分子(H)および水酸化物イオン(OH)が生成する。生成した水素分子(H)は、気泡となって陰極30周辺の水中に放出される。放出された水素気泡は陰極30周辺の水中に溶存し、これによって陰極30から発生した水素を溶存する水素溶存水が生成される。
【0038】
このとき、陰極表面で発生した水素気泡は、陰極表面に形成された白金触媒層の細孔(平均細孔径50μm以下の微小細孔)を通って放出されるため、発生水素気泡は非常に小さくなる。加えて、微小細孔の作用によって陰極表面と水との界面張力が小さくなるので、発生水素気泡の泡離れは良好となる。そのため、陰極表面から発生した水素気泡は小さいサイズのまま水中に速やかに分散することとなり、生成された水素溶存水中の溶存水素濃度は大きくなる。
【0039】
このようにして生成された水素溶存水は、水素溶存水の上流側排出経路60を通って陰極室34外部へと排出され(矢印「82」)、次いで電磁バルブ68を介して下流側排出経路61に導かれ(矢印「84」)、その後、出口コック69を介して装置外部まで導かれる(矢印「86」)。このようにして高溶存水素濃度の水素溶存水を採取することができる。
【0040】
本実施形態の電解水生成装置100によれば、陰極表面で発生した水素気泡は、陰極表面に形成された白金触媒層32の細孔(平均細孔径50μm以下の微小細孔)を通って放出されるため、発生水素気泡を非常に小さくすることができる。加えて、微小細孔の作用によって陰極表面と水との界面張力が小さくなるので、発生水素気泡の泡離れ(陰極表面からの離脱)を良好にすることができる(換言すれば、陰極表面に水素気泡が付着集合して大きく成長する事態を回避することができる)。
【0041】
これによって、発生水素気泡を小さいサイズのまま水中に速やかに分散させることができ、水素溶存水中の溶存水素濃度を効率良く大きくすることができる。なお、小さい気泡のまま分散させることにより溶存水素濃度が大きくなる理由を説明すると、微小な水素気泡はその内圧が大きくなるので、水素気泡と水との界面における水素分子および水分子の移動がスムーズとなり、それゆえに水素分子を水中に溶解させやすくなるからである。
【0042】
また、上記構成によれば、溶存水素濃度を効率良く大きくすることができるため、所望の溶存水素濃度を得るために要する電気分解の電気量を低減することができ、水素溶存水のpH値の上昇を抑制することができる。
【0043】
すなわち、典型的な電解水生成装置においては、水素溶存水の溶存水素濃度を高めるべく電解の電気量を増大すると、同時に生成した水酸化物イオンによって水素溶存水のpH値も大きく上昇してしまうため、溶存水素濃度とpH値とを適当な値(特に飲用に適したpH7.5付近)に調整することが非常に困難であった。これに対して、本実施形態の電解水生成装置100によれば、白金触媒層32の細孔の存在によって水素溶存水の溶存水素濃度を効率良く大きくすることができ、電解の電気流量を増大しなくてもよい。したがって、本実施形態の電解水生成装置100によれば、水素溶存水のpH値の上昇を抑制することができる。
【0044】
また、この実施形態では、陰極30と隔膜40との間に網状絶縁体42bを介在させることにより、陰極30の両面(隔膜40側の面と、隔膜40の反対側の面)から水素分子(H)を生成することができ、それゆえに水素気泡をさらに効率的に発生させることができる。これによって水素溶存水中の溶存水素濃度をさらに増大させることができる。
【0045】
さらに、この実施形態では、隔膜40の材料として陽イオン交換膜を使用しているので、陽極側において生成した水素イオン(H)の一部を、隔膜40を介して陰極側に導入することができる。このように陰極側に導入された水素イオン(H)の一部は、陰極表面に接触して電子を受け取ることにより水素分子(H)となる。この電解反応では、水酸化物イオン(OH)が生成されないので、水素溶存水のpH値の上昇を抑制することができる。加えて、陰極側に導入された水素イオン(H)の一部は、陰極表面にて生成された水酸化物イオン(OH)と結合して水分子(HO)となる。この電解反応では、陰極表面にて生成された水酸化物イオン(OH)が消費されるため、水素溶存水のpH値の上昇をさらに抑制することができる。
【0046】
なお、本願発明者が上述した電解水生成装置100を用いて実際に水素溶存水を製造したところ、pH7.5の中性付近を維持しつつ、溶存水素濃度が1.5〜1.9ppmとなる高溶存水素濃度の水素溶存水を得ることができた。このことから、本実施形態の電解水生成装置100を使用することにより、飲用に適した高溶存水素濃度の水素溶存水を採取可能であることが確認された。
【0047】
白金触媒層32の平均細孔径は50μm以下であればよく、好ましくは10μm〜50μmの範囲である。白金触媒層32の平均細孔径が50μmよりも大きくなると、それに併せて発生水素の気泡サイズも大きくなるため、当該気泡の内圧が低下することとなり、それゆえに気泡中の水素分子(H)が水中に溶解し難くなる。一方、細孔径が10μmよりも小さくなると、水素分子(H)が細孔をスムーズに通過することができず(白金触媒層32に十分なガス透過性を付与することができず)、好ましくない。したがって、白金触媒層32の平均細孔径は、10μm〜50μmの範囲が好ましい。
【0048】
なお、細孔の平均値(平均細孔径)は、例えばガス吸着法によって得ることができる。ガス吸着法に基づく細孔径(平均細孔径や細孔径分布)の測定は、例えば市販される島津製作所製の細孔分布測定装置を用いて容易に行うことができる。或いは、細孔径(平均細孔径や細孔径分布)の測定は、表面分析計を用いて行ってもよい。
【0049】
なお、この実施形態のように、陰極室34から水素溶存水を採取する場合には、陰極側の原水流量(矢印「80」)を陽極側の原水流量(矢印「81」)よりも大きくすることが望ましい。具体的には、陰極側の原水流量が0.5L/minであるのに対し、陽極側の原水流量は0.1L/minとなっている。
【0050】
このように陰極側の原水流量を陽極側の原水流量よりも大きくすることにより、陽極側の排水出量を低減することができ、本実施形態の目的に適した水素溶存水を良好なコストにて得ることができる。また、このように陰極側の原水流量を大きくすることにより、陰極表面に大きな流圧(水の流圧、例えば30MPa)を加えることができる。そのため、陰極表面からの水素気泡の泡離れをさらに促進することができる。
【0051】
なお、陽極室24から酸素溶存水を採取する場合には、陰極側の原水流量と陽極側の原水流量とを同じにしてもよく、或いは陽極側の原水流量を陰極側の原水流量よりも大きくしてもよい。
【0052】
さらに、図1を参照しつつ本実施形態に係る電解水生成装置100のその他の特徴部分について説明する。まず、陰極側の特徴部分について説明する。
【0053】
陰極30は、上述したように、原水が導入される陰極室34に配置されている。この陰極室34には、陰極30から発生した水素を溶存する水素溶存水を排出する水素溶存水排出経路(上流側排出経路60および下流側排出経路61)が連結されている。かかる水素溶存水排出経路は、排出された水素溶存水を攪拌する攪拌手段64を備えている。この実施形態では、攪拌手段64は、陰極室34から螺旋状に延びたスパイラルチューブ64である。すなわち、水素溶存水の上流側排出経路60の途上(図では陰極室出口近傍)にスパイラルチューブ64を配設し、当該スパイラルチューブ64内に水素溶存水を通過させることにより、上記攪拌作用を安定して得ることができる。
【0054】
かかる構成によれば、攪拌手段64による攪拌によって、水素溶存水中に溶解せずに残存している水素気泡(例えば陰極表面に付着集合して大きく成長した後、泡離れした気泡)を小さくすることができ、また、水素気泡中に含まれる水素分子をさらに溶存させることができる。その結果、水素溶存水の溶存水素濃度をさらに効果的に大きくすることができる。
【0055】
なお、スパイラルチューブ64は、チューブ内を通過する水素溶存水を適当に掻き混ぜ得る形状(ここでは螺旋状)であればよく、そのサイズは特に制限されないが、図1に示す構造とする場合には、管径を2mm〜4mmとすることが好ましく、長さを150mm以上とすることが好ましい。スパイラルチューブ64の管径および長さは、電解水生成装置の構成(例えば陰極室34の原水流量)や所望の水素溶存濃度などに応じて適宜変更可能である。これにより、スパイラルチューブ64に本実施形態の目的に適した攪拌機能を好ましく付与することができる。
【0056】
また、水素溶存水排出経路(上流側排出経路60および下流側排出経路61)は、排出された水素溶存水の溶存水素濃度を検出する濃度検出手段66と、検出された溶存水素濃度が所定濃度に満たない場合に、上記排出された水素溶存水を陰極室34まで還流させる還流手段62とを備えている。
【0057】
この実施形態では、濃度検出手段66は、水素溶存水の下流側排出経路61に設置された水素濃度計66である。水素濃度計66は、下流側排出経路61を流通する水素溶存水の溶存水素濃度を検出するようになっている。また、水素濃度計66は、図示しない制御部に電気的に接続され、当該検出した溶存水素濃度の情報を制御部に出力するようになっている。
【0058】
この実施形態では、還流手段62は、陰極側供給経路54に連結された還流経路62である。還流経路62の上流端は、電磁バルブ68を介して上流側排出経路60に連結されている。電磁バルブ68は、図示しない制御部に電気的に接続され、当該制御部からの切替指令に基づいて、上流側排出経路60の連結を下流側排出経路61側と還流経路62側との間で切り替え、これによって水素溶存水の排出方向を矢印「84」方向と矢印「88」方向とに切り替えるように構成されている。
【0059】
かかる構成において、図示しない制御部は、水素濃度計66で検出した溶存水素濃度が所定濃度(例えば1ppm以上)に満たない場合、上流側排出経路60の連結を還流経路62側に切り替えて、水素溶存水を矢印「88」方向に導く。矢印「88」方向に導かれた水素溶存水は陰極側供給経路54を介して陰極室34に戻され、陰極室にて再度電気分解に処される。このように、還流経路62を介して水素溶存水の還流を繰り返すことにより、当該水素溶存水の溶存水素濃度を確実に増大させることができる。
【0060】
その後、制御部は、水素濃度計66で検出した溶存水素濃度が所定濃度(例えば1ppm以上)を満たす場合、制御部は、水素濃度計66で検出した溶存水素濃度が所定濃度(例えば1ppm以上)を満たす場合、上流側排出経路60の連結を下流側排出経路61側に切り替えて、水素溶存水を矢印「84」方向に導く。矢印「84」方向に導かれた水素溶存水は出口コック69を介して外部へと排出され、これによって所定濃度(例えば1ppm以上)の水素溶存水を得ることができる。
【0061】
このように、還流経路62を介して水素溶存水の環流を繰り返すことにより、当該水素溶存水の溶存水素濃度を確実に増大させることができ、所望の溶存水素濃度(例えば1ppm以上)を有する電解水(水素溶存水)を確実に且つ安定して得ることができる。なお、水素溶存水を還流経路62に還流させる場合、原水供給経路50中に流れる原水(ポンプから送り出される原水)を一時的に止めるように構成してもよい。これにより、還流させた水素溶存水の溶存水素濃度を集中して増大させることができる。
【0062】
続いて、陽極側の特徴部分について説明する。
【0063】
陽極20は、上述したように、原水が導入される陽極室24に配置されている。この実施形態では、陽極室24には、酸素を溶存する酸素溶存水を排出する酸素溶存水排出経路70が連結されている。酸素溶存水排出経路70は、排出された酸素溶存水から酸素を分離させる分離手段72を備えている。
【0064】
この実施形態では、分離手段72は、酸素溶存水排出経路70の途中に設置された気液分離菅72である。気液分離菅72はガス排出バルブ74を有しており、脱気した酸素ガスを当該ガス排出バルブ74から排出するようになっている。かかる気液分離菅72としては、例えばサイクロン方式にて気液分離する脱酸素分離管を好ましく使用することができる。或いは、分離手段72として、気体分離膜(例えば酸素透過高分子膜としてのシリコン膜)を用いてもよい。そして、このような分離手段72を備えた酸素溶存水排出経路70の下流端は、電解槽に原水を導入する原水供給経路50に連結されている。
【0065】
かかる構成によれば、この実施形態のように陽極室24から酸素溶存水を採取しない場合に、酸素を分離した後の酸素溶存水(実質的には酸素が取り除かれた酸素非溶存水)を原水供給経路50に再び導入することにより(矢印「83」)、原水として再利用することができる。これにより、陽極側の排水量をさらに少なくすることができる。
【0066】
図3および図4を参照しつつ本実施形態の電解水生成装置の改変例について説明する。この改変例では、陽極20および陰極30が隔膜40に直接接触して配置される点において上述した実施形態とは相違する。従って、電解水生成装置100と同一の構成部材には同一の符号を付し、その重複した説明を省略する。
【0067】
図3に示すように、電解水生成装置200(改変例)においては、陽極20および陰極30は、網状絶縁体42a、42bを介さずに隔膜40に直接接触して配置されている。また、この例では、陽極20を中空の円筒形状とし、隔膜40を陽極20よりも径が小さい中空の円筒形状とし、陰極30を隔膜40よりも径が小さい中空の円筒形状としている。そして、径の大きい陽極20に径の小さい隔膜40を挿入し、当該隔膜40にさらに径の小さい陰極30を挿入することによって、陽極20の内周面と陰極30の外周面とが隔膜40を挟んで対向するように配置している。
【0068】
隔膜40としては、少なくとも水素イオン(H)が透過可能な陽イオン交換膜を使用することができる。ここでは耐熱性および耐薬品腐食性などの観点からフッ素樹脂系(例えばテフロン)の膜を好ましく使用している。
【0069】
陽極20および陰極30としては、ガスおよび液透過性を有する材料から構成することができ、このような材料として例えばポーラス状金属板、パンチング金属板などが挙げられる。また、図4に示すように、陽極20および陰極30の表面には、白金を主体とする白金触媒層22、32が形成されており、この白金触媒層22、32には、平均細孔径50μm以下の細孔が形成されている。
【0070】
このように構成した電解水生成装置200において、電解槽10内の陽極室24および陰極室34に原水(例えば浄水などの中性水)を導入して陽極20及び陰極30間に直流電圧を加えると、当該陽極20及び陰極30に接触している水が電気分解されて電解反応が進行する。
【0071】
この電解反応は、まず、陽極20と隔膜40との界面において進行する。すなわち、図4に示すように、陽極20の隔膜40側の表面では、水分子(HO)が電子を放出することにより酸素分子(O)および水素イオン(H)が生成し、生成した酸素分子(O)は、気泡となって陽極20を介して陽極室24へと放出される。また、生成した水素イオン(H)は、陽極20と電気的に反発して隔膜40の方向へと移動する。そして、隔膜40中を移動して陰極30の隔膜40側の表面まで到達する。
【0072】
そして、陰極30の隔膜40側の表面では、陽極側から移動してきた水素イオン(H)が電子を受け取ることにより水素分子(H)が生成し、生成した水素分子(H)は、気泡となって陰極30を介して陰極室34へと放出される。このとき、水素分子(H)は、気泡となって白金触媒層32の細孔(平均細孔径50μm以下の微小細孔)を通って放出されるため、発生水素気泡を非常に小さくすることができる。したがって、図3および図4に示した電解水生成装置200の構成においても、発生水素気泡を非常に小さくすることができ、水素溶存水の溶存水素濃度を効率良く大きくすることができる。
【0073】
加えて、上記構成によれば、電気分解の際に、陽極20と隔膜40との界面において生成された水素イオン(H)を消費して、陰極30と隔膜40との界面において水素分子(H)を生成しているので、副生成物である水酸化物イオン(OH)が生成しない。したがって、電解水(水素溶存水)のpH値の上昇を確実に回避することができ、その結果、飲用に適したpH値7.5付近の高溶存水素濃度の水素溶存水を採取することができる。
【0074】
なお、電解水生成装置200においては、陽極室24には、当該陽極室の内部において導入された原水を保持する保持部材26が配置されている。図示した例では、保持部材26は、陽極20の外面に接触して配置された多孔体シート26である。多孔体シート26は、原水を保持可能な細孔を有している。かかる構成によれば、保持部材(多孔体シート)22によって陽極室に導入された原水を保持することにより、陽極側の原水流量を抑制しつつ、隔膜40が水に湿潤されている状態を安定して保つことができる。これによって、陽極側の排水量を減らしつつ、電気分解(特に陽極側の電気分解)を安定して行うことができる。
【0075】
なお、上述した多孔体シート26としては、例えば不織布を好適に使用することができる。一般に、不織布は孔隙率(典型的には40%以上、例えば50〜70%)が高く、高い液水保持性能(液水保持容量)を実現することができる。或いは、不織布に代えて、吸水樹脂フィルムや発砲金属などを使用してもよい。これによって多孔体シート26に本発明の目的に適した保持機能を付与することができる。
【0076】
さらに、多孔体シート26は、酸素(O)を通過させ得る程度の細孔を有することが望ましい。かかる構成によれば、陽極20と隔膜40との界面で生成された酸素(O)を、保持部材26(例えば不織布)の細孔を介して陽極室24内へと速やかに放出することができる。これによって、陽極20表面で発生した酸素気泡が陽極表面に付着して成長する事態を回避し得、電解抵抗の増加を好ましく抑制することができる。
【0077】
続いて、図5を参照しつつ本実施形態に係る電極用部材(電解水を生成するために用いられる電極用部材)の製造方法について説明する。
【0078】
上述したように、本実施形態に係る電極用部材は、導電性金属を主体とする電極材と、当該電極材の表面に形成された白金触媒層とを備え、この白金触媒層には平均細孔径50μm以下(好ましくは10μm以上)の細孔が形成されている。
【0079】
このような白金触媒層に被覆された電極材を備える電極用部材は、図5に示すように、導電性金属を主体とする電極材を用意する用意工程(ステップS10)と、用意した電極材の表面にヘキサクロロ白金酸を含む触媒形成用塗布液を塗布する塗布工程(ステップS20)と、触媒形成用塗布液を塗布した電極材を所定温度の乾燥蒸気を用いて焼成する焼成工程(ステップS30)と、を経て形成される。以下、詳しく説明する。
【0080】
まず、用意工程(ステップS10)においては、導電性金属を主体とする電極材を用意する。この実施形態では、電極材としてチタン材を用意する。
【0081】
具体的には、金属チタン板を用意(例えば購入)し、次いで用意したチタン板を脱脂洗浄し、続いて純水で洗浄して乾燥する処理を行う。次に、乾燥後のチタン材をピッティング洗浄(例えば10%濃度、約100℃のシュウ酸水溶液を使用)した後、さらにチタン材に対してエッチング処理を行う。このエッチング処理は、例えばチタン材を希硫酸中に5時間浸漬することにより行うことができる。このようにチタン材に対してエッチング処理を行うことにより、チタン材の表面積が増大するとともに、チタン板表面に形成された熱酸化膜を除去することができる。その後、エッチングしたチタン材を水洗浄(好ましくはイオン交換水洗浄)して乾燥後、酸化を防止し得る環境下にて保管する。このようにして用意工程を行うことができる。
【0082】
次いで、塗布工程(ステップS20)においては、用意した電極材の表面にヘキサクロロ白金酸を含む触媒形成用塗布液を塗布する。この実施形態では、ヘキサクロロ白金酸および六塩化イリジウム酸を含む触媒形成用塗布液を調整し、これを電極材(ここではチタン材)表面に塗布する。
【0083】
具体的には、触媒形成用塗布液の調整は、例えばヘキサクロロ白金酸化合物と、六塩化イリジウム酸化合物と、上記ヘキサクロロ白金酸化合物および六塩化イリジウム酸化合物を溶解可能な溶液と、を混合した混合液を作製し、これを適当な粘度となるように調節することにより行うことができる。この例では、ヘキサクロロ白金酸化合物と六塩化イリジウム酸化合物とを所定のPt/Ir比(この実施例では7:3)となるように秤量し、ブタノール溶液中で混合することにより触媒形成用塗布液を調整する。
【0084】
そして、触媒形成用塗布液を電極材(ここではチタン材)表面に塗布する。触媒形成用塗布液を電極材表面に塗布する方法は特に制限されない。この実施形態では、触媒形成用塗布液中に電極材を浸漬(ディッピング)することにより行っている(例えばディップコート法)。かかる方法によれば、電極材両面に均一な塗布液の液膜を形成することができる。なお、必要に応じて電極材の片面のみに触媒形成用塗布液を塗布してもよい。また、必要に応じて触媒形成用塗布液にその他の添加剤を添加してもよい。その後、液膜を形成した電極材を例えば真空デシケータにて10分程度自然乾燥する。このようにして塗布工程を行うことができる。
【0085】
次いで、焼成工程(ステップS30)においては、触媒形成用塗布液を塗布した電極材(特に電極材表面に形成された液膜)を焼成する。この電極材(特に電極材表面に形成された液膜)の焼成は、所定温度の乾燥蒸気を用いて行われる。
【0086】
ここで、本明細書において「乾燥蒸気」とは、いわゆる過熱蒸気のことであり、つまり100℃で蒸発した飽和水蒸気に、さらに熱を加えて100℃を超える高温に加熱した蒸気のことである。かかる過熱蒸気は、蒸気中に酸素を殆ど含んでおらず、それゆえ還元ガスに近い雰囲気中での焼成が可能となる。そのため、過熱蒸気を用いて電極材上の液膜(ヘキサクロロ白金酸を含む塗布液)を焼成すると、ヘキサクロロ白金酸を酸化させずに加熱還元することができる。加えて、過熱蒸気が有する適当な蒸気圧力(この例では約2×10Pa)によって、作製した白金触媒層表面に微細なスリット状の割れ目(クラック)を形成することができるとともに、本実施形態の目的に適した細孔(平均細孔径10μm〜50μmの細孔)を容易に且つ安定して形成することができる。
【0087】
この実施形態では、乾燥蒸気(過熱蒸気)を用いた電極材(特に電極材表面に形成された液膜)の焼成は2段階に分けて行われる。
【0088】
具体的には、まず、塗布した電極材(ヘキサクロロ白金酸を含む塗布液)を所定温度の乾燥蒸気で焼成する第1焼成処理を行い(ステップS32)、続いて第1焼成処理よりもさらに高温で焼成する第2焼成処理を行う(ステップS34)。この例では、まず、塗布した電極材を250℃〜300℃の乾燥蒸気で10分間焼成し、続いて蒸気温度を530℃まで上げて更に焼成を10分間実行する。このようにして塗布工程を行うことができる。
【0089】
上述した焼成処理により、電極材上に形成された液膜(ヘキサクロロ白金酸を含む塗布液)が焼成され、これによって白金を主体とする白金触媒層を薄く形成することができる。そして、上述した塗布工程(ステップS20)と焼成工程(ステップS30)とを所定回数(n回)繰り返すことにより、電極材上の白金触媒層を徐々に厚くしていく。
【0090】
この実施形態では、上述した塗布作業および焼成作業を約30時間かけて60〜70回繰り返すことによって、電極材上の白金触媒層を徐々に厚くしていき、白金触媒層を所定の厚さにする。このようにして電極材表面に白金触媒層を形成することができ、白金触媒層に被覆された電極材を備える電極用部材の作製が完了する(ステップS40)。
【0091】
上述した製造方法によれば、焼成工程(ステップS30)において、高温の乾燥蒸気(過熱蒸気)を利用して触媒形成用塗布液の焼成処理を行っているので、作製される白金触媒層に本実施形態の目的に適したマイクロオーダーのポーラス(好ましくは平均細孔径10μm〜50μmの細孔)を好ましく(容易に且つ安定して)形成することができる。
【0092】
また、焼成工程(ステップS30)において、高温の乾燥蒸気(過熱蒸気)を用いることにより、白金触媒層の表面に微細なスリット状の割れ目(クラック)を形成することができる。これにより、白金触媒層の表面積を増大させることができ、触媒活性面積を(例えば典型的なメッキ処理によって形成された白金触媒層に比べて)大きくすることができる。その結果、白金触媒層の作製に要する白金使用量を低減することができ、作製コストを安価にできる。
【0093】
さらに、この実施形態では、塗布工程(ステップS20)と焼成工程(ステップS30)とを所定回数繰り返すことにより、電極材上の白金触媒層を徐々に厚くしている。これによって、作製された白金触媒層に、本実施形態の目的に適する程度の化学安定性及び触媒担持量を付与することができ、その使用耐用年数を向上させることができる。
【0094】
さらに、この実施形態では、焼成工程(ステップS30)において、乾燥蒸気(過熱蒸気)を用いた電極材(特に電極材表面に形成された液膜)の焼成は2段階に分けて行われる。これによって、最終生成物である白金触媒層に不純物(例えば空気由来による窒素酸化物)が混入することを防止することができる。
【0095】
すなわち、第1焼成処理の際に白金触媒層中に混入し得る不純物(例えば空気由来による窒素酸化物)を、さらに高温となる第2焼成処理によって焼失させることができる。その結果、白金触媒層の純度を向上させることができ、焼成後の洗浄等の煩わしい作業が不要となる。
【0096】
なお、上述した例では、触媒形成用塗布液は、ヘキサクロロ白金酸に加えて、六塩化イリジウム酸を含む。これによって最終生成物である白金触媒層は、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とが混在した状態でその骨格が形成されている。このように白金触媒層にイリジウムを混在させること(イリジウムリッチな配合にすること)により、良好な触媒活性を得ることができる。加えて、イリジウムは白金に比べて安価なためコストを低減することができる。
【0097】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【0098】
例えば、上述した例では、電極材としてチタン材を使用する場合を示したがこれに限らず、その他の電極材を使用してもよい。例えば、電極材としてニッケルマグネシウム合金を使用することができる。この場合、ニッケルマグネシウム合金の表面にペロブスカイト系鉱物(例えば、ヘマタイト(Fe)やマグネタイト(Fe)等の酸化鉄化合物など)を焼成により形成しておくことが好ましく、該ペロブスカイト系鉱物の上に白金触媒層を形成することができる。かかる構成によれば、電極材が多孔質化して表面積が増大するので、電極サイズを小さくすることができる。
【0099】
また、上述した例では、陰極室から溶存水素濃度が高い水素溶存水を採取する例を示したが、例えば陽極室から酸素溶存水を採取するように電解水生成装置を構成してもよい。陽極室から酸素溶存水を採取する場合であっても、陽極表面に白金を主体とする白金触媒層を形成し、当該金触媒層に平均細孔径50μm以下の細孔を形成することにより、陽極室から溶存酸素濃度が高い酸素溶存水を採取することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】電解水生成装置100の構成を模式的に示す模式図。
【図2】図1の電解槽10の要部を拡大して示した要部拡大図。
【図3】電解水生成装置200の構成を模式的に示す模式図。
【図4】図3の電解槽10の要部を拡大して示した要部拡大図。
【図5】電極用部材の製造フローを示すフロー図。
【符号の説明】
【0101】
10 電解槽
20 電極
20 陽極
22 白金触媒層(陽極側)
24 陽極室
26 保持部材(多孔体シート)
30 陰極
32 白金触媒層(陰極側)
34 陰極室
40 隔膜
42a 網状絶縁体(陽極側)
42b 網状絶縁体(陰極側)
50 原水供給経路
52 陽極側供給経路
54 陰極側供給経路
60 上流側排出経路
61 下流側排出経路
62 還流手段(還流経路)
64 攪拌手段(スパイラルチューブ)
66 濃度検出手段(水素濃度計)
68 電磁バルブ
69 出口コック
70 酸素溶存水排出経路
72 分離手段(気液分離菅)
74 ガス排出バルブ
90 壁面
100 電解水生成装置
200 電解水生成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を電気分解して電解水を生成する電解水生成装置であって、
前記原水が供給される陽極および陰極と、
前記陽極および陰極間に配置される隔膜と
を備え、
前記陽極および陰極のうちの少なくとも一方の表面には、貴金属元素である白金を主体とする白金触媒層が形成されており、
前記白金触媒層には、平均細孔径50μm以下の細孔が形成されていることを特徴とする、電解水生成装置。
【請求項2】
前記白金触媒層は、ヘキサクロロ白金酸を含む白金化合物を所定温度の乾燥蒸気で焼成することによって形成されている、請求項1に記載の電解水生成装置。
【請求項3】
前記陰極は、前記原水が導入される陰極室に配置されており、
前記陰極室には、前記陰極から発生した水素を溶存する水素溶存水を排出する水素溶存水排出経路が連結されており、
前記水素溶存水排出経路は、前記排出された水素溶存水を攪拌する攪拌手段を備えている、請求項1または2に記載の電解水生成装置。
【請求項4】
前記攪拌手段は、前記水素溶存水排出経路の途上に設けられたスパイラルチューブである、請求項3に記載の電解水生成装置。
【請求項5】
前記水素溶存水排出経路は、
前記排出された水素溶存水の溶存水素濃度を検出する水素濃度検出手段と、
前記検出された溶存水素濃度が所定濃度に満たない場合に、前記排出された水素溶存水を前記陰極室まで還流させる還流手段と
を備えている、請求項3または4に記載の電解水生成装置。
【請求項6】
前記陽極は、前記原水が導入される陽極室に配置されており、
前記陽極室には、当該陽極室の内部において前記導入された原水を保持する保持部材が配置されている、請求項1から5の何れか一つに記載の電解水生成装置。
【請求項7】
前記原水を保持する保持部材は、前記陽極の外面に接触して配置された多孔体シートである、請求項6に記載の電解水生成装置。
【請求項8】
前記陽極は、前記原水が導入される陽極室に配置されており、
前記陽極室には、前記陽極から発生した酸素を溶存する酸素溶存水を排出する酸素溶存水排出経路が連結されており、
前記酸素溶存水排出経路は、前記排出された酸素溶存水から酸素を分離させる分離手段を備えている、請求項1から7の何れか一つに記載の電解水生成装置。
【請求項9】
電解水を生成するために用いられる電極用部材であって、
導電性金属を主体とする電極材と、
前記電極材の表面に形成され、貴金属元素である白金を主体とする白金触媒層と
を備え、
前記白金触媒層には、平均細孔径50μm以下の細孔が形成されていることを特徴とする、電極用部材。
【請求項10】
前記白金触媒層は、ヘキサクロロ白金酸を含む白金化合物を所定温度の乾燥蒸気で焼成することによって形成されている、請求項9に記載の電極用部材。
【請求項11】
電解水を生成するために用いられる電極用部材の製造方法であって、
導電性金属を主体とする電極材を用意する工程と、
前記用意した電極材の表面にヘキサクロロ白金酸を含む触媒形成用塗布液を塗布する塗布工程と、
前記触媒形成用塗布液を塗布した電極材を焼成し、当該電極材表面に白金を主体とする白金触媒層を形成する焼成工程と
を含み、
前記焼成工程において、前記焼成は、所定温度の乾燥蒸気を用いて行われることを特徴とする、電極用部材の製造方法。
【請求項12】
前記焼成工程は、
前記電極材を所定温度の乾燥蒸気で焼成する第1焼成処理と、
前記第1焼成処理よりもさらに高温の乾燥蒸気で焼成する第2焼成処理と
を含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記触媒形成用塗布液は、さらに六塩化イリジウム酸を含有する、請求項11または12に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−195884(P2009−195884A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43355(P2008−43355)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(506373044)株式会社プロテック (1)
【Fターム(参考)】