説明

電解液の製造方法

【課題】脂肪族環状アンモニウム系イオン液体を含む電解液であって、より低粘度の電解液を製造する方法を提供する。
【解決手段】カチオンAy(ピロリジニウムまたはピペリジニウム)とアニオンByとの塩であるイオン液体を含む電解液を製造する方法が提供される。その方法は、カチオンAyとアニオンBxとの塩である第一原料を結晶化させること;その結晶化させた第一原料を溶媒に溶かした溶液を調製すること;該溶液を吸着材と接触させる処理を行うこと;および、上記溶液を上記吸着材から分別した後、アニオンByを有する第二原料と上記第一原料とを混合して上記イオン液体を生じさせること;を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタのような電気化学デバイスの構成要素として有用な電解液を製造する方法に関し、詳しくは、イオン液体を含む電解液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池等の電気化学デバイスに具備される電解液には、該デバイスにおいて電解液に加わる電圧に耐え得る安定性が求められる。例えば、電解液が水の分解電圧と同程度またはそれ以上の電圧を受ける電池(リチウムイオン二次電池等)では、水を構成成分とする電解液(水系電解液)を用いることができない。このため、リチウムイオン二次電池の電解液としては、一般に、非プロトン性の液体にリチウム塩(支持電解質)を溶解させたものが用いられる。上記非プロトン性液体の代表例として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート系溶媒が挙げられる。
【0003】
電解液の構成成分としてイオン液体(ionic liquid)(常温溶融塩と称されることもある。)を用いることも検討されている。かかるイオン液体の代表例として、カチオン成分がイミダゾリウムであるもの(以下、「イミダゾリウム系イオン液体」ということもある。)、カチオン成分が脂肪族環状アンモニウムであるもの(以下、「脂肪族環状アンモニウム系イオン液体」ということもある。)、等が挙げられる。特許文献1,2には、脂肪族環状アンモニウム系イオン液体を非プロトン性液体として利用した電解液が記載されている。なお、特許文献3,4には脂肪族環状アンモニウム塩(ただし、イオン液体とは限らない。)を用いた電解液が記載されているが、これらは上記アンモニウム塩自体を液体として利用することを意図したものではなく、該アンモニウム塩を有機溶媒に溶解して用いるものである。例えば特許文献4に記載の技術では、上記アンモニウム塩を非プロトン性極性溶媒(プロピレンカーボネート等)に溶かした電解液を調製し、その電解液を活性炭で処置することによって電気二重層キャパシタ用電解液を精製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−206457号公報
【特許文献2】特開2008−10613号公報
【特許文献3】特開2009−65062号公報
【特許文献4】特開2008−277401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、二次電池のエネルギー密度を向上させる一手法として、該電池の動作電圧をより高くする手法が挙げられる。例えば、充放電における下限電圧は変えずに上限電圧を4.1Vから4.4Vに変更すれば、それだけ電池から取り出せる電流量が多くなり、エネルギー密度が向上する。一般的な非プロトン性溶媒よりも電圧に対する安定性の高い材料が提供されれば、かかる電池用の電解液を含め、種々の分野における電解液またはその構成成分として有用である。
【0006】
脂肪族環状アンモニウム系イオン液体は、一般的な非プロトン性溶媒(例えばカーボネート系溶媒)に比べて電圧に対する安定性が高く、さらにイミダゾリウム系イオン液体に比べてもより高い還元安定性を示す傾向にある。しかし、一般に脂肪族環状アンモニウム系イオン液体はイミダゾリウム系イオン液体に比べて高粘度である。粘度が高くなるとイオン輸率は低下する傾向にある。かかるイオン輸率の低下は、電解液としての性能を低下させる要因となり得る。
【0007】
そこで本発明は、脂肪族環状アンモニウム系イオン液体を含む電解液であって、より低粘度の電解液(例えば、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイス用電解液)を製造する方法の提供を一つの目的とする。関連する他の目的は、かかる電解液を具備する電気化学デバイスの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、イオン液体を含む電解液を製造する方法が提供される。前記イオン液体は、カチオンAyとアニオンByとの塩であって、前記カチオンAyはピロリジニウムまたはピペリジニウムである。上記電解液製造方法は、カチオンAyとアニオンBxとの塩である第一原料が溶媒(典型的には極性溶媒、例えば水)に溶解した溶液を調製することを含む。その溶液は、少なくとも1回の結晶化を経て得られた第一原料を、上記溶媒に溶かして調製された溶液であり得る。上記製造方法は、また、前記溶液を吸着材(例えば活性炭)と接触させる処理を行うことを含む。また、前記溶液を前記吸着材から分別した後、アニオンByを有する第二原料と前記第一原料とを混合して前記イオン液体を生じさせることを含む。
【0009】
かかる製造方法では、まず第一原料を吸着材で処理した上で、その第一原料のアニオンBxをアニオンByに交換して、目的とするイオン液体(典型的にはAyBy)を生じさせる。このことによって、同様の吸着材処理をアニオン交換後に行う場合に比べて、より低粘度の(例えば、ゲル化または粘度上昇が抑制された)イオン液体が形成され得る。したがって、該イオン液体を含む低粘度の電解液(該イオン液体のみからなる電解液であり得る。)を製造することができる。
【0010】
なお、この明細書においてイオン液体とは、常温域において液体の性状を維持し得る塩(常温溶融塩、室温溶融塩等と称されることもある。)をいう。ここで「常温域」とは、上限が80℃(典型的には60℃、場合によっては40℃)であり、下限が−30℃(例えば−10℃)である温度域をいう。この常温域のうちの少なくとも一部の温度域において、液体の性状を維持し得る塩であればよい。上記上限温度よりも融点の低い塩は、ここでいうイオン液体の典型例である。単独で(すなわち、他の有機溶媒で希釈することなく)電解液またはその構成材料として好適に使用し得るという観点からは、融点が30℃以下、典型的には20℃以下(より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは0℃以下)のイオン液体が好ましい。
【0011】
ここに開示される方法の好ましい適用対象として、前記カチオンAyが式(I)で表わされるピロリジニウムまたはピペリジニウムである電解液が挙げられる。
【0012】
【化1】

【0013】
ここで、上記式(I)中のRは、エーテル結合を含む、置換または無置換のアルキル基であり得る。上記式(I)中のRは、エーテル結合を含むまたは含まない、置換または無置換のアルキル基であり得る。上記式(I)中のpは、ピロリジニウムの場合には化学結合、ピペリジニウムの場合には炭素原子数1のアルキレン基である。かかる構造のカチオンAyを有するイオン液体は、低粘度のものとなりやすいので好ましい。
【0014】
前記第一原料におけるアニオン成分(アニオンBx)としては、該第一原料が室温(例えば25℃)で固体状を呈するものを好ましく採用し得る。かかる第一原料は、取扱性(例えば、必要に応じて行われる洗浄、乾燥、再結晶等の操作における取扱性)が良好なものであり得る。好ましいアニオンBxとして、ハロゲン化物イオン(例えば塩化物イオン(Cl))が例示される。
【0015】
ここに開示される技術において、イオン液体を構成するアニオン成分(アニオンBy)の好適例としては、式(II)で表わされるアニオンが挙げられる。
【0016】
【化2】

【0017】
ここで、上記式(II)中のRfおよびRf2は、互いに同一のまたは異なるパーフルオロアルキル基であり得る。かかる構造のアニオンByを有するイオン液体は、低粘度のものとなりやすいので好ましい。
【0018】
この明細書によると、また、ここに開示されるいずれかの方法により製造された電解液を備える電気化学デバイスが提供される。かかる電気化学デバイスの好適例として、二次電池が挙げられる。
【0019】
なお、本明細書において「二次電池」とは、電気エネルギーを蓄積および取出し可能な蓄電デバイス一般を指す用語であって、リチウムイオン二次電池、金属リチウム二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池ならびに電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスを包含する概念である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間のリチウムイオンの移動により充放電する二次電池(典型的には、金属リチウム(単体)を電極構成材料に使用しない形態の電池)をいう。
【0020】
この明細書によると、また、リチウムイオン二次電池の構成要素として用いるための電解液が提供される。その電解液は、ここに開示されるいずれかの方法により得られたイオン液体と、支持電解質としてのリチウム塩とを含む。かかる電解液によると、該電解液が電圧に対する安定性に優れ且つ低粘度であることにより、高性能なリチウムイオン二次電池を構築することができる。
【0021】
ここに開示されるいずれかの電解液(ここに開示されるいずれかの方法により製造された電解液であり得る。)を備えた二次電池は、単独で、あるいは複数個を直列に接続した組電池の形態で、車両に搭載される電池として好ましく利用され得る。例えば、自動車等の車両のモータ(電動機)用の電源として好適である。したがって、本発明によると、図3に模式的に示すように、ここに開示されるいずれかの二次電池(組電池の形態であり得る。)10を電源として備えた車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す部分断面斜視図である。
【図2】電解液の組成と漏れ電流量との関係を示す特性図である。
【図3】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0024】
ここに開示される技術における電解液は、カチオンAyとアニオンByとの塩であって該カチオンAyがピロリジニウムまたはピペリジニウムであるイオン液体を含む。そのカチオンAyにおいて、脂肪族環(ピロリジン環またはピペリジン環)を構成する炭素原子は、置換基を有してもよく、有していなくてもよい。置換基を有する場合、その置換基は、ハロゲン原子(例えばF,Cl,Br,I。好ましくはF)、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のハロゲン化アルキル基、等であり得る。好ましい一態様では、該脂肪族環が、環を構成する炭素原子上に置換基を有しない(すなわち無置換の)ピロリジン環またはピペリジン環である。
【0025】
かかるカチオンAyの好適例として、上記式(I)で表されるカチオンが挙げられる。該カチオンは、pが化学結合である場合にはピロリジニウムとなり、pが炭素原子数1のアルキレン基(すなわちメチレン基)である場合にはピペリジニウムとなる。
【0026】
は、一つまたは二つ以上のエーテル結合を含む、置換または無置換のアルキル基(これを「アルキルエーテル基」という。)であり得る。このようにピロリジン環またはピペリジン環の窒素原子上にエーテル酸素を含む置換基を有するカチオンAyは、該エーテル酸素の存在によってカチオンの正電荷が弱められ、またエーテル酸素上の孤立電子対とBy(イオン液体における対アニオン)との静電反発効果によってAyとByとの間の相互作用が弱められ得る。このことは、イオン液体の融点および粘度の低下に寄与し得る。かかるイオン液体を含む電解液は、より高特性(例えば、リチウム塩を含む組成においてリチウムイオン輸率が高い、低温特性が良い等)のものとなり得るので好ましい。
【0027】
は、開鎖状のアルキルエーテル基であってもよく、環構造を形成していてもよい。ここで「開鎖状」とは、特記しない場合には、分岐を有しない開鎖状(直鎖状)および分岐を有する開鎖状(分岐鎖状)の双方を含む意味である。Rが置換基を有する場合、その置換基は、F,Cl,Br等のハロゲン原子(例えばF)であり得る。Rの好適例として、炭素原子数が2〜10(好ましくは2〜5、例えば2〜3)であって開鎖状(好ましくは直鎖状)のアルキルエーテル基が挙げられる。かかる構造のRを有するカチオンAyは、より低粘度のイオン液体、ひいては該イオン液体を含む電解液となり得る。Rに含まれるエーテル結合の数は、好ましくは2以下(典型的には1)である。
【0028】
好ましい一態様では、Rが、−R−O−Rで表される置換または無置換のアルキルエーテル基である。Rは、炭素原子数1〜3の置換または無置換のアルキレン基であり得る。Rは、炭素原子数1〜5の置換または無置換のアルキル基であり得る。Rおよび/またはRが置換基を有する場合、該置換基の一好適例として、ハロゲン原子(例えばF,Cl,Br,I)が挙げられる。例えば、RおよびRがいずれも置換基を有しない構造のRを好ましく採用し得る。また、RおよびRがいずれも直鎖状である構造のRを好ましく採用し得る。このことによって、より低粘度のイオン液体および該イオン液体を含む電解液が提供され得る。
【0029】
は、置換または無置換のアルキル基、もしくは置換または無置換のアルキルエーテル基である。Rがアルキルエーテル基である場合、その好適例としてはRと同様のものが挙げられる。なお、RとRとは、同一であってもよく、互いに異なってもよい。Rがアルキル基である場合、該アルキル基は、開鎖状であってもよく、環構造を形成していてもよい。Rの好適例として、炭素原子数が1〜10(好ましくは1〜5、例えば1〜3)であって開鎖状(好ましくは直鎖状)のアルキル基が挙げられる。
【0030】
および/またはRとして好ましく採用し得るアルキルエーテル基の具体例として、CHOCHCH−,CHCHOCHCH−、CHOCHCHOCHCH−,およびCHCHOCHCHOCHCH−が挙げられる。Rとして好ましく採用し得るアルキル基の具体例としては、CH−、CHCH−、およびCHCHCH−が挙げられる。例えば、Rが上記アルキルエーテル基のいずれかであり、Rが上記アルキル基のいずれかであるカチオンAyが好ましい。
【0031】
アニオンByは、上述のようなカチオンAyとともにイオン液体を形成し得るアニオンである。好適例として、上記式(II)で表されるアニオンが挙げられる。上記式中のRfおよびRfは、同一のまたは互いに異なるパーフルオロアルキル基である。該パーフルオロアルキル基は、開鎖状であってもよく、環構造を形成していてもよい。開鎖状(特に直鎖状)のパーフルオロアルキル基が好ましい。RfおよびRfの炭素原子数は、それぞれ独立に、例えば1〜10(好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3)であり得る。上記炭素原子数を満たす直鎖状または分岐鎖状(より好ましくは直鎖状)のパーフルオロアルキル基が好ましい。かかるパーフルオロアルキル基の具体例として、−CF,−CFCF、−CFCFCF、−CF(CFCF、−CF(CFCF、および−CF(CFCFが挙げられる。なかでも好ましいものとして、−CF,−CFCFおよび−CFCFCFが挙げられる。特に好ましいアニオンとして、RfおよびRfがいずれも−CFであるアニオン(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド;以下、「TFSI」と表記することもある。)が挙げられる。
【0032】
ここに開示される技術の特に好ましい適用対象として、カチオンAyがN−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム、N−エチル−N−メトキシメチルピロリジニウム、N−メチル−N−エトキシメチルピロリジニウム、N−エチル−N−エトキシメチルピロリジニウム、N−メチル−N−メトキシメチルピペリジニウム、N−エチル−N−メトキシメチルピペリジニウム、N−メチル−N−エトキシメチルピペリジニウム、およびN−エチル−N−エトキシメチルピペリジニウムのいずれかであり、アニオンByがTFSIである塩が挙げられる。
【0033】
ここに開示される技術は、上記イオン液体を得る過程において、カチオンAyとアニオンBxとの塩である第一原料を結晶化させることを包含し得る。アニオンBxとしては、典型的には、アニオンByとは異なるアニオンが用いられる。再結晶、洗浄、乾燥等の際におけるハンドリング性の観点から、上記第一原料が室温(典型的には20℃〜30℃)で固体状を呈するものとなるようなアニオンBxを好ましく選択し得る。好ましいアニオンBxの具体例として、例えば、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)等のハロゲン化物イオンが挙げられる。
【0034】
上記結晶化された第一原料は、出発原料の品質(純度)等を考慮して、吸着材と接触させるための溶液を調製する前に、更に再結晶させてもよい。かかる再結晶を行う場合、その回数は、1回のみでもよく、必要に応じて2回以上行ってもよい。品質と生産性との兼ね合いから、通常は、再結晶回数を1〜5回(好ましくは1〜3回)程度とすることが適当である。第一原料の再結晶は、常法により行うことができる。例えば、少量の溶媒に第一原料を加えて加温することで完全に溶解させ、その温溶液を必要に応じて濾過した後にゆっくりと冷却(放冷)する方法を好ましく用いることができる。再結晶溶媒としては、第一原料の種類に応じて適当なものを選択すればよい。例えば、炭素原子数1〜4程度のモノアルコール(イソプロピルアルコール等)を好ましく用いることができる。他の再結晶方法として、少量の良溶媒に第一原料を溶解した溶液に貧溶媒を少しづつ加える方法が例示される。
【0035】
なお、出発原料として十分に高純度の第一原料を、例えば結晶や溶液等の形態で入手(購入、合成等)できる場合には、上記結晶化工程を省略することも可能である。すなわち、この明細書により開示される技術には、カチオンAyとアニオンByとの塩であるイオン液体を含み、前記カチオンAyがピロリジニウムまたはピペリジニウムである電解液を製造する方法であって:第一原料が溶媒(例えば水)に溶けた溶液を調製すること;前記溶液を吸着材(典型的には活性炭)と接触させる処理を行うこと;および、前記溶液を前記吸着材から分別した後、アニオンByを有する第二原料と前記第一原料とを混合して前記イオン液体を生じさせること;を包含する、電解液の製造方法が含まれ得る。ここに開示される技術には、また、カチオンAyとアニオンByとの塩であるイオン液体を製造する方法であって:第一原料が溶媒(例えば水)に溶けた溶液を調製すること;前記溶液を吸着材(典型的には活性炭)と接触させる処理を行うこと;および、前記溶液を前記吸着材から分別した後、アニオンByを有する第二原料と前記第一原料とを混合して前記イオン液体を生じさせること;を包含する、イオン液体の製造方法が含まれ得る。
【0036】
ここに開示される技術は、また、上記第一原料(典型的には、少なくとも1回の再結晶を経て得られた第一原料)を溶媒に溶かした溶液を調製することを包含し得る。上記溶液の調製には極性溶媒を用いることが好適であり、通常は水(イオン交換水、蒸留水等)が好ましく用いられる。
【0037】
次いで、この第一原料溶液を吸着材と接触させる。吸着材としては、活性炭、ゼオライト、モレキュラーシーブ、アルミナ、シリカゲル、珪藻土等を好ましく用いることができる。なかでも活性炭の使用が好ましい。活性炭の種類は特に限定されないが、処理効率の観点から、通常は、比表面積が1000〜2000m/g程度のものを好ましく使用し得る。
【0038】
第一原料溶液と吸着材との接触方式としては、吸着材を有するフィルタに第一原料溶液を通過させる方式、粒子状または粉末状の吸着材を第一原料溶液に投入して混合分散させる方式、等を適宜採用し得る。前者の場合には、フィルタを通過した第一原料溶液を回収することにより吸着材と溶液とを分別することができる。後者の場合には、吸着材を分散させた溶液に、濾過、デカンテーション、遠心分離、等の処理を施すことにより(必要に応じて二以上の処理を行ってもよい。)、吸着材と溶液とを分別することができる。
【0039】
好ましい一態様では、粒子状または粉末状の吸着材を第一原料溶液に投入して混合分散させる接触方式を採用する。この場合において、吸着材(例えば活性炭)の使用量は特に限定されない。通常は、第一原料の0.01〜10質量%(典型的には0.05〜5質量%、例えば0.1〜2質量%)に相当する量の活性炭を用いることが適当である。第一原料溶液と吸着材とを接触させる時間は、概ね10秒以上とすることが好適である。この接触時間を1時間以上としてもよい。一方、イオン液体または電解液の生産性の観点からは、該接触時間を概ね7日間以下とすることが適当である。
【0040】
ここに開示される技術では、このようにして吸着材で処理された第一原料溶液を該吸着材から分離した後に、アニオンByを有する第二原料と前記第一原料とを混合する。これにより、第一原料におけるアニオンBxをアニオンByと交換(置換)して、カチオンAyとアニオンByとの塩であるイオン液体を生じさせる。この第二原料としては、任意のカチオン(Hであり得る。)とアニオンByとの塩を用いることができる。具体的な操作としては、例えば、上記第一原料溶液に上記第二原料をそのまま、あるいは該第二原料を適当な溶媒に溶かした溶液の形態で添加して混合するとよい。好ましい一態様では、アニオン交換の効率を高めるため、第一原料に含まれるアニオンBxのモル数に対して過剰量の(例えば、1.01倍以上のモル数の)アニオンByを含む量の第二原料を使用する。第二原料の使用量の上限は特に限定されないが、過剰の第二原料を除去しやすいという観点からは、アニオンByのモル数がアニオンBxのモル数に対して3倍以下(より好ましくは1.5以下)となる量とすることが適当である。
【0041】
好ましい一態様では、上記で生成したイオン液体を、該イオン液体と二相に分離可能な極性溶媒(例えば水)を用いて洗浄することにより、アニオンBxや過剰の第二原料を除去する。その後、イオン液体を乾燥させて(減圧乾燥、加熱乾燥等を適宜採用し得る。)、洗浄時に混入した極性溶媒をより確実にイオン液体から除去するとよい。
【0042】
このようにして得られたイオン液体は、所望により、目的に応じた適当な材料を配合(典型的には溶解)した形態で、各種電気化学デバイスの電解液として好適に使用され得る。例えば、リチウムイオン二次電池用の電解液の製造においては、上記イオン液体に適当量の支持電解質(支持塩)を溶解させて電解液を調製するとよい。上記支持電解質としては、一般的なリチウムイオン二次電池と同様、LiPF,LiBF,LiN(SOCF,LiN(SO,LiCFSO,LiCSO,LiC(SOCF,LiClO等のリチウム塩を好ましく用いることができる。支持電解質の濃度は特に制限されず、例えば従来のリチウムイオン二次電池と同程度とすることができる。好ましい一態様では、上記イオン液体中に支持塩を凡そ0.1mol/L〜5mol/L(例えば凡そ0.8mol/L〜1.5mol/L)程度の濃度で含むように電解液を調製(製造)する。
【0043】
上記イオン液体を電気二重層キャパシタの電解液として使用する場合には、上記支持電解質等の配合は必須ではない。すなわち、上記イオン液体をそのまま電解液として用いることが可能である。あるいは、該イオン液体に他の適当な塩を溶解させて電気二重層キャパシタ用電解液を製造してもよい。かかる塩としては、常温で固体状を呈する各種の第4級アンモニウム塩(例えば、従来の電気二重層キャパシタにおいて、プロピレンカーボネート等の有機溶媒に溶解して用いられる塩であって、常温で固体状のもの)を用いることができる。
【0044】
ここに開示される方法では、カチオンAyとアニオンByとの塩であるイオン液体を生じさせる過程において、まず第一原料を上記のように吸着材で処理した上で、該第一原料のアニオンBxをアニオンByに交換することが肝要である。かかる方法によると、例えば吸着材処理されていない第一原料のアニオンBxをアニオンByに交換してイオン液体を生じさせ、しかる後に該イオン液体を吸着材で処理する方法に比べて、より低粘度のイオン液体を得ることができる。したがって、より低粘度の電解液が提供され得る。また、ここに開示される方法によると、アニオンBxをアニオンByに交換した後に吸着材処理を行う方法に比べて、より高収率でイオン液体を製造することができる。
【0045】
なお、ここに開示される電解液は、カチオンAyとアニオンByとの塩であるイオン液体(AyBy)に加えて、常温で液状を呈する他の材料を含有し得る。例えば、ピロリジニウムおよびピペリジニウム以外のカチオンと任意のアニオンとの塩であるイオン液体を含み得る。また、ここに開示される技術は、上記イオン液体AyByに加えて、一般的な有機溶媒(室温で液状を呈する非イオン性材料)を含有する電解液にも適用され得る。本発明によると、従来の方法に比べて低粘度のイオン液体AyByが得られるので、かかるイオン液体に加えて一般的な有機溶媒を含む電解液の製造においても、該電解液の流動性(粘度)を所望の値まで低下させるために必要な有機溶媒の使用量をより少なくするという効果が実現され得る。
【0046】
ここに開示される技術は、一般的な有機溶媒を実質的に含まない電解液の製造に好ましく適用され得る。かかる電解液は、電圧に対してより高い安定性を示すものとなり得るので好ましい。ここで「実質的に含まない」とは、少なくとも、一般的な有機溶媒を意図的に添加してイオン液体を希釈することはしないという意味である。したがって、上記電解液において、イオン液体の製造過程等において非意図的に混入する有機溶媒が少量(例えば、イオン液体100質量部に対して1質量部以下)存在することは許容され得る。
【0047】
ここに開示される技術は、カチオンAyが上記式(I)で表わされるピロリジニウム(すなわち、式(I)におけるpが化学結合であるカチオン)であるイオン液体および該イオン液体を含む電解液の製造に好ましく適用され得る。この場合において、アニオンBxが塩化物イオンである第一原料の製造方法としては、例えば以下の方法を好ましく採用することができる。すなわち、ピロリジン環の窒素原子にRが結合した構造の出発原料(以下、「N−Rピロリジン」ともいう。後述する製造例では1−メチルピロリジン)を用意する。必要に応じて該原料を例えば減圧蒸留により精製する。次いで、このN−Rピロリジンと、Rの塩素化物(後述する製造例ではクロロジメチルエーテル(CHOCHCl))とを反応させる。典型的には、N−Rピロリジンを適当な反応溶媒(例えばアセトン)に溶解した溶液にRの塩素化物を滴下し、室温で攪拌する。これにより、目的とする第一原料(後述する製造例ではN−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム)が生成する。このようにして合成された第一原料(ピロリジニウム塩)を用いたイオン液体および該イオン液体を含む電解液の製造においては、活性炭処理の有無および該処理を行うタイミングが、得られるイオン液体の性状(ゲル化、着色等)や収率に影響しやすい。したがって、ここに開示される方法を適用することが特に有意義である。
【0048】
以下、図面を参照しつつ、ここに開示される電解液を備えたリチウムイオン二次電池の一構成例を説明する。図1に示されるように、このリチウムイオン二次電池10は、正極12および負極14とセパレータ13とを具備する電極体11が、ここに開示されるいずれかの方法により製造された電解液20とともに、該電極体を収容し得る形状の電池ケース(容器)15に収容された構成を有する。電解液20は、少なくともその一部が電極体11に含浸されている。電解液20以外の電池構成要素としては、従来公知のリチウムイオン二次電池と同様のものを適宜採用し得る。
【0049】
電極体11は、正極活物質を主成分とする正極合材層124が長尺シート状の正極集電体122上に設けられた構成の正極(正極シート)12と、負極活物質を主成分とする負極合材層144が長尺シート状の負極集電体142上に設けられた構成の負極(負極シート)14とを、二枚の長尺シート状のセパレータ13と重ね合わせ、これらを円筒状に捲回することにより形成される。正極集電体122としてはアルミニウム箔等を、負極集電体142としては銅箔等を好ましく用いることができる。セパレータ13としては、多孔質ポリオレフィンフィルム等を好ましく用いることができる。
【0050】
正極活物質としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる層状構造の酸化物系正極活物質、スピネル構造の酸化物系正極活物質等を好ましく用いることができる。層状構造の酸化物系正極活物質の例としては、リチウムニッケル酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物等の、層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。好ましい一態様では、遷移金属元素として少なくともNi,CoおよびMnを含む(例えば、これら3種の遷移金属元素を概ね同程度の原子数比で含む)三元系のリチウム遷移金属酸化物を正極活物質に使用する。スピネル構造の酸化物系正極活物質の代表例としては、スピネル型の結晶構造を有するリチウムマンガン酸化物が挙げられる。この種のリチウムマンガン酸化物としては、LiMnのほか、そのMnの一部が他の金属元素で置き換えられた組成の化合物が例示される。正極活物質の他の例として、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸ニッケルリチウム、リン酸コバルトリチウム、ケイ酸鉄リチウム等の、いわゆるポリアニオン系の正極活物質が挙げられる。好ましい一態様では、このようなポリアニオン系正極活物質(例えばリン酸鉄リチウム)の粒子表面にカーボンコーティングが施された正極活物質を使用する。
【0051】
負極活物質としては、一般にリチウムイオン二次電池の負極活物質として機能し得ることが知られている種々の材料から適当なものを採用することができる。好適な活物質として、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が挙げられる。
【0052】
電池ケース15は、有底円筒状のケース本体152と、その開口部を塞ぐ蓋体154とを備える。蓋体154およびケース本体152はいずれも金属製であって相互に絶縁されており、それぞれ正負極の集電体122,142と電気的に接続されている。すなわち、このリチウムイオン二次電池10では、蓋体154が正極端子、ケース本体152が負極端子を兼ねている。
【0053】
正極集電体122の長手方向に沿う一方の縁には、正極合材層が設けられずに集電体122が露出した部分(正極合材層非形成部)が設けられている。同様に、負極集電体142の長手方向に沿う一方の縁には、負極合材層が設けられずに集電体142が露出した部分(負極合材層非形成部)が設けられている。この露出した部分に蓋体154およびケース本体152がそれぞれ接続されている。
【0054】
なお、図1には円筒型のリチウムイオン二次電池10を例示しているが、ここに開示されるリチウムイオン二次電池の形状(外形)は円筒型に限定されず、例えば、角型、コイン型等であってもよい。
【0055】
ここに開示される技術は、正負極端子間の上限電圧が4.3V以上(例えば4.4V程度またはそれ以上、典型的には7V以下、例えば5V以下)の充放電条件で使用するための非水電解液二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)に好ましく適用され得る。下限電圧は特に限定されず、例えば3.0V程度とすることができる。かかる端子間電圧が得られるように正極活物質と負極活物質とを組み合わせるとよい。ここに開示される方法により製造される電解液は、電圧に対する安定性が高いため、このように上限電圧が比較的高い充放電条件で使用される非水電解液二次電池用の電解液として特に好適である。
【0056】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0057】
<製造例1:N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム−TFSIの製造(1)>
(1)1−メチルピロリジンを精製するために蒸留した。
(2)攪拌機を備えたセパラブルフラスコに、この1−メチルピロリジン50g(0.587mol)をアセトン100gに溶解した溶液を入れ、ここに95%クロロジメチルエーテル60g(0.7mol)を滴下して室温で24時間攪拌した。これにより、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウムクロリド(第一原料)の白色結晶が析出した。
(3)上記第一原料を濾別し、冷却アセトン100gを用いてよく洗浄した。
(4)この第一原料をイソプロピルアルコール50gに溶解して再結晶させる操作を二回行った後、1時間減圧乾燥させた。収量は68.07g(0.4109mol)、収率は70%であった。
【0058】
(5)上記操作を行って得られた第一原料を水50gに溶かし、この水溶液に活性炭粉末を添加して24時間攪拌した。活性炭粉末としては、比表面積1500m/g、平均粒子径5μmのものを使用した。活性炭粉末の使用量は、第一原料の質量の0.5%に相当する量とした。
(6)上記水溶液を濾過して活性炭を除去した。
(7)得られた濾液(活性炭処理された第一原料水溶液)に、純水中にHN(SOCF(以下、「HTFSI」と表記することもある。)を70質量%の割合で含む溶液175g(0.448mol)を滴下し、室温で一時間攪拌してイオン液体を生じさせた。
(8)デカンテーションにより上層(水相)を除去した。
(9)残った下層を水洗して、過剰のHTFSIを除去した。上記水洗は、水相のpHが7になるまで繰り返して行った。
(10)水洗後の下層を120℃に24時間加熱して水分を除去した。
【0059】
以上の工程により、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム−TFSIを得た。この結果物は、常温(23℃)において無色透明の液状を呈するイオン液体であった。収量は151.6gであり、第一原料の使用量に対する収率は95%であった。また、この結果物は、後述する製造例3,4の結果物に比べて明らかに低粘度であり、ゲル化の傾向は全く認められなかった。
【0060】
<製造例2:N−メチル−N−メトキシメチルピペリジニウム−TFSIの合成(1)>
1−メチルピロリジンに代えて1−メチルピペリジンを使用した点以外は製造例1と同様にして、N−メチル−N−メトキシメチルピペリジニウム−TFSIを得た。この結果物は、常温(23℃)において無色透明の液状を呈するイオン液体であった。収量は68gであり、第一原料(N−メチル−N−メトキシメチルピペリジニウムクロリド)の使用量に対する収率は70%であった。また、この結果物は低粘度であり、ゲル化の傾向は全く認められなかった。
【0061】
<製造例3:N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム−TFSIの合成(2)>
本例では、製造例1の(5),(6)において、第一原料の水溶液を活性炭粉末で処理する操作を行わなかった。その代わりに、第一原料の再結晶過程、より具体的には製造例1の(4)において、(3)で得られた第一原料をイソプロピルアルコール50gに溶解した溶液に、第一原料の質量の0.5%に相当する量の活性炭粉末(製造例1で用いたものと同じ。)を加えて24時間攪拌した。この溶液から活性炭粉末を濾過により除去し、その濾液から第一原料を再結晶(一回目の再結晶)させた。次いで、再結晶後の第一原料をイソプロピルアルコール50gに溶解し(活性炭粉末は加えない。)、その溶液から第一原料を再結晶(二回目の再結晶)させ後、1時間減圧乾燥させた。製造例1の(7)における濾液に代えて、上記操作を行って得られた第一原料を水50gに溶かして調製した水溶液(活性炭粉末は加えない。)を使用した。その他の点については製造例1と同様にして、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム−TFSIを得た。
この結果物は、製造例1により得られたものとは異なり、常温(23℃)において黄色のゲル状を呈し、単独で(すなわち、有機溶媒で希釈することなく)電解液として使用し得る性状ではなかった。
【0062】
<製造例4:N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム−TFSIの合成(3)>
本例では、製造例1の(5),(6)において、第一原料の水溶液を活性炭粉末で処理する操作を行わなかった。その代わりに、第一原料のアニオンをTFSIに交換した後、より具体的には製造例1の(9)における水洗の最終回に、使用した第一原料の0.5質量%に相当する量の活性炭粉末(製造例1で用いたものと同じ。)を加えて24時間攪拌した。その後、静置して二層に分離させ、デカンテーションにより上層(水相)を除去し、さらに下層をフィルタで濾過して活性炭粉末を除去した。その濾液を120℃に24時間加熱して水分を除去した。その他の点については製造例1と同様にして、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム−TFSIを得た。
この結果物は、製造例1により得られたものとは異なり、常温(23℃)において黄色のゲル状を呈し、単独で(すなわち、有機溶媒で希釈することなく)電解液として使用し得る性状ではなかった。
【0063】
<リチウムイオン二次電池の作製>
製造例1,2により得られたイオン液体、および比較例として従来のカーボネート系混合溶媒を用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。
正極としては以下のものを使用した。すなわち、平均粒径約0.7μmの粒子状のLiFePOの表面に、該LiFePO粒子100質量部当たり2質量部のカーボンがコートされたカーボンコート付きLiFePOを調製した。より詳しくは、上記LiFePO粒子をポリビニルアルコール水溶液に投入してLiFePO−ポリビニルアルコール凝集体を増粒し、これを還元性雰囲気下で焼成してポリビニルアルコールを炭素化することによりカーボンコート付きLiFePOを得た。
【0064】
得られたカーボンコート付きLiFePOと、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、カーボンコート付きLiFePO:AB:PVDFの質量比が85:5:10となるようにN−メチルピロリドン(NMP)と混合して、ペーストまたはスラリー状の組成物(正極合材層形成用組成物)を調製した。厚さ15μmの帯状アルミニウム箔(正極集電体)の両面に上記組成物を塗布して乾燥させることにより正極シートを作製した。
【0065】
負極としては以下のものを使用した。すなわち、負極活物質としての天然黒鉛と、結着剤としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これら材料の質量比が95:2.5:2.5となるようにイオン交換水と混合して、ペーストまたはスラリー状の組成物(負極合材層形成用組成物)を調製した。厚さ10μmの帯状銅箔(負極集電体)の両面に上記組成物を塗布して乾燥させることにより負極シートを作製した。なお、負極合材層形成用組成物の塗布量は、正極の理論容量と負極の理論容量との比が1:1.5となるように調整した。
【0066】
得られた正極シートおよび負極シートを、厚さ20μmのポリプロピレン/ポリエチレン複合体多孔質シート二枚とともに重ね合わせて捲回した。その捲回体を、電解液とともに、正極端子および負極端子が取り出せる構造の内容積100mLの角型容器(電池ケース)に収容し、該容器を封止してリチウムイオン二次電池を構築した。電解液としては、製造例1により得られたN−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム−TFSIに、支持塩としてのLiPFを1モル/Lの濃度で溶解したもの(サンプル1)、製造例2により得られたN−メチル−N−メトキシメチルピペリジニウム−TFSIにLiPFを1モル/Lの濃度で溶解したもの(サンプル2)、および、ECとDECとを1:1の体積比で混合した溶媒にLiPFを1モル/Lの濃度で溶解したもの(サンプル3)、をそれぞれ使用した。
【0067】
これら電解液の異なる三種類の電池に対し、初期充放電処理として、1/5Cのレートで4.1Vまで定電流充電を行い、続いて初期の電流値の1/10のレートになるまで定電圧充電を行った。ここで1Cとは、正極の理論容量より予測した電池容量(Ah)を1時間で充電できる電流量を意味する。次いで、定電流方式により、1/5Cのレートで3Vまで放電した。この充放電サイクルを3回繰り返した後、いったん封止を解いて容器の内圧を解放した上で、該容器を再封止してリチウムイオン二次電池を得た。得られた電池サンプルを、使用した電解液の種類に対応づけて、サンプルB1〜B3という。
【0068】
<ガス発生試験>
上記で作製したサンプルB1〜B3に対し、1/5Cのレートで4.5Vまで定電流充電を行い、続いて初期の電流値の1/10のレートになるまで定電圧充電を行った。このようにして充電した電池を、常温(23℃)において、4.5Vの定電圧を印加した状態に3時間保持した。そして、上記4.5Vの定電圧を印加する前後において容器の内圧を測定し、3時間の電圧印加による圧力上昇を容器内部におけるガス発生量に換算し、これを電圧印加時間(ここでは3時間)で割ることにより、単位時間当たりのガス発生量を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
この表に示されるように、電解液の溶媒としてイオン液体のみを使用した(すなわち、有機溶媒を含まない電解液を用いた)サンプルB1,B2は、一般的なカーボネート系混合溶媒を用いた電解液を用いたサンプルB3に比べて、4.5Vの電圧に対する安定性が著しく優れていることが確認された。
【0071】
<電気二重層キャパシタの作製>
市販の活性炭(平均粒子径5μm、比表面積2000m/g)と、導電材としてのABと、結着剤としてのCMCとを、これら材料の質量比が80:10:10となるようにイオン交換水と混合して、ペーストまたはスラリー状の組成物(合材層形成用組成物)を調製した。厚さ15μmの帯状アルミニウム箔(集電体)の両面に上記組成物をドクターブレードにより塗布して乾燥させることにより、集電体と合材層とを合わせた全体の厚みが60μmの電極シートを二枚作製した。これらの電極シートを、厚さ20μmのポリプロピレン/ポリエチレン複合体多孔質シート二枚とともに重ね合わせて捲回した。その捲回体を、電解液とともに、一対の電極端子が取り出せる構造の容器に収容し、該容器を封止してキャパシタセルを構築した。ここで、電解液としては、製造例1により得られたN−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム−TFSIをそのまま使用したもの(サンプル4)、製造例2により得られたN−メチル−N−メトキシメチルピペリジニウム−TFSIをそのまま使用したもの(サンプル5)、および、製造例1により得られたN−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム−TFSIをプロピレンカーボネート(PC)により1モル/リットルに希釈したもの(サンプル6)、をそれぞれ使用した。これらのキャパシタセルサンプルを、使用した電解液の種類に対応づけて、サンプルC4〜C6という。
【0072】
<漏れ電流試験>
上記で作製したサンプルC4〜C6に対し、両極間に所定の電位差を与えて5分間保持した後の漏れ電流を測定した。この漏れ電流が多いことは、副反応が多く生じていることを示す。上記所定の電位差を2.25V〜3.65Vの範囲で異ならせて試験を行った。得られた結果を図2に示す。図2中、白抜きの四角で示したプロットはサンプルC4、黒三角で示したプロットはサンプルC5、白丸で示したプロットはサンプルC6の結果を示している。
【0073】
この図から明らかなように、製造例1により得られたイオン液体をカーボネート系溶媒で希釈した電解液を用いたサンプルC6では、両極間に印加する電圧が2.5Vを超えると漏れ電流が増加し、特に3Vを超えると漏れ電流の増加が著しくなった。これに対して、製造例1,2により得られたイオン液体をそのまま(すなわち、有機溶媒で希釈することなく)電解液に用いたサンプルC4,C5は、両極間に印加する電圧が3.5Vを超えても漏れ電流の上昇はみられず、電圧に対する安定性に優れることが確認された。
【0074】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0075】
1 車両(自動車)
10 リチウムイオン二次電池(電気化学デバイス)
11 電極体
12 正極
122 正極集電体
124 正極合材層
13 セパレータ
14 負極
142 負極集電体
144 負極合材層
15 電池ケース
20 電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオンAyとアニオンByとの塩であるイオン液体を含み、前記カチオンAyがピロリジニウムまたはピペリジニウムである電解液を製造する方法であって:
カチオンAyとアニオンBxとの塩である第一原料を結晶化させること;
その結晶化させた第一原料を溶媒に溶かした溶液を調製すること;
前記溶液を吸着材と接触させる処理を行うこと;および、
前記溶液を前記吸着材から分別した後、アニオンByを有する第二原料と前記第一原料とを混合して前記イオン液体を生じさせること;
を包含する、電解液の製造方法。
【請求項2】
前記カチオンAyは、式(I)で表わされるピロリジニウムまたはピペリジニウムである、請求項1に記載の方法。
【化1】

(上記式(I)中のRは、エーテル結合を含む、置換または無置換のアルキル基である。Rは、エーテル結合を含むまたは含まない、置換または無置換のアルキル基である。pは、化学結合または炭素原子数1のアルキレン基である。)
【請求項3】
前記アニオンByは、式(II)で表わされるアニオンである、請求項1または2に記載の方法。
【化2】

(上記式(II)中のRf1およびRf2はパーフルオロアルキル基である。)
【請求項4】
前記アニオンBxはハロゲン化物イオンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記吸着材は活性炭である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法により製造された電解液を備える、電気化学デバイス。
【請求項7】
リチウムイオン二次電池に用いるための電解液であって、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法により得られたイオン液体と、
支持電解質としてのリチウム塩と、
を含むことを特徴とする、リチウムイオン二次電池用電解液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−253677(P2011−253677A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125958(P2010−125958)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】