説明

電解液及びその製造方法、並びに、これを用いた蓄電デバイス

【課題】蓄電デバイスに好適に用いられる電解液、更には、電解液の電気化学的特性に悪影響を与える遊離酸量及び/又は水分含有量の経時的な増加が抑制された電解液、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の電解液は、下記一般式(1)で表されるイオン性化合物と25ppm未満(質量基準)の遊離酸を含む。また、本発明の製造方法は、上記イオン性化合物と、炭化水素系溶媒及び/又はカーボネート系溶媒を混合した後、一部又は全ての溶媒を留去させる工程及び/又はモレキュラーシーブと接触させる工程を含む。
(XSO2)(X’SO2)N-+ (1)
(式中、X、X’はフッ素原子又は炭素数1〜6のアルキル基又はフルオロアルキル基を表し、X、X’の少なくとも一方はフッ素原子であり、Y+はアルカリ金属カチオン又はオニウムカチオンを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解液に関するものであり、より詳細には、イオン性化合物を含む電解液、さらには、遊離酸及び/又は水分の含有量が低減された電解液及びその製造方法、並びに、これを用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
一次電池、リチウム(イオン)二次電池、燃料電池などの充電及び放電機構を有する電池の他、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池等の各種蓄電デバイスには電解液が備えられるが、電解液に含まれる不純物に起因する電解質の分解、電気化学特性の劣化及び蓄電デバイス性能の低下を防ぐため、電解液中の不純物量を低減する試みが多数なされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、電解液に含まれる水、HF、カリウム及びナトリウムの量が規定されており、また、LiFSI、LiDCTA、LiPF6、TFSI、LiTFS
I等を含む電解液と炭化カルシウム粒子とを接触させて、電解液中の水分量を低減する方法が記載されている。特許文献2〜5には、リチウム電池用電解液中のHF等の酸性物質量を低減するための方法が開示されており、特許文献2には、HF生成の原因となるアルコール類の含有量を低減するため、電解液に用いられる非水溶媒を、精密蒸留、晶析又はモレキュラーシーブにより処理する方法が記載され、特許文献3には、電解液中のHF等の酸性種除去のため、電解液と塩基性樹脂とを接触させる方法が記載され、特許文献4には、電解質に含まれるHF等の酸性物質をハロゲン化物と反応させてハロゲン化水素として除去する方法が開示されている。また、特許文献5には、電解液中に水分吸収物質と、フッ素と難溶性の塩を形成する物質とを混合することで、電解質に由来するフッ素と電解液中の水分量を低減する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−506505号公報
【特許文献2】特開平10−270076号公報
【特許文献3】特表2000−505042号公報
【特許文献4】特開平10−92468号公報
【特許文献5】特開2010−257572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記酸性物質等は、電解液製造直後の含有量が低いものであっても、経時的にその量が増加する場合があり、かかる電解液では、初期の電気化学的特性を長期に亘って発揮し得る蓄電デバイスの実現は困難となる。
【0006】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、蓄電デバイスに好適に用いられる電解液、更には、電解液の電気化学的特性に悪影響を与える遊離酸量等の経時的な増加が抑制された電解液、及び、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電解液とは、下記一般式(1)で表されるイオン性化合物と遊離酸を含み、前記遊離酸の含有量が25ppm未満(質量基準)であるところに特徴を有する。
(XSO2)(X’SO2)N-+ (1)
(式中、X、X’はフッ素原子又は炭素数1〜6のアルキル基又はフルオロアルキル基を表し、X、X’の少なくとも一方はフッ素原子であり、Y+はアルカリ金属カチオン又は
オニウムカチオンを表す。)
【0008】
上記遊離酸としては、HF、H2SO4及びFSO3Hよりなる群から選ばれる1種以上
の遊離酸であるのが好ましい。また、本発明の電解液に含まれる水分量は50ppm以下(質量基準)であるのが好ましい。遊離酸量、又は、遊離酸量及び水分量が上記範囲であれば、経時的にこれらの量が増大し難いため好ましい。上記一般式(1)において、X及びX’がフッ素原子であり、Y+がリチウムカチオンであるのが望ましい。
【0009】
本発明には、上記電解液を用いた蓄電デバイスも含まれる。
【0010】
本発明の製造方法とは、上記電解液の製造方法であって、上記一般式(1)で表されるイオン性化合物と、炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒を混合した後、
(i)一部又は全ての溶媒を留去させる工程、及び/又は、
(ii)モレキュラーシーブと接触させる工程、
を含むところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電解液は、遊離酸の含有量が低減されており、経時的な遊離酸量や水分量の増加が生じ難く、保存安定性に優れるものである。したがって、本発明の電解液を蓄電デバイスに使用すれば、経時的な性能低下が生じ難い高性能な蓄電デバイスになると考えられる。また、本発明法によれば、経時的な遊離酸量の増加が生じ難い電解液を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪電解液≫
本発明の電解液とは、下記一般式(1)で表されるイオン性化合物(以下、イオン性化合物(1)という場合がある)と遊離酸を含み、前記遊離酸の含有量が25ppm未満(質量基準、以下同様)であるところに特徴を有する。
(XSO2)(X’SO2)N-+ (1)
(式中、X、X’はフッ素原子又は炭素数1〜6のアルキル基又はフルオロアルキル基を表し、X、X’の少なくとも一方はフッ素原子であり、Y+はアルカリ金属カチオン又は
オニウムカチオンを表す。)
【0013】
電解液中の遊離酸は、当該電解液が用いられる各種蓄電デバイスの周辺部材を腐食させるのみならず、遊離酸量を増大させる原因ともなる。電解液中の遊離酸量が25ppm未満であれば、経時的な遊離酸量の増大や、各種蓄電デバイスの周辺部材の腐食を抑制することができる。したがって、上記遊離酸の含有量は、本発明の電解液中20ppm以下であるのが好ましい。より好ましくは15ppm以下である。電解液中の遊離酸量が上記範囲内であれば上述のような問題が生じ難い。
【0014】
尚、電解液中の遊離酸量は少ないほど好ましいが、後述するように遊離酸はイオン性化合物(1)に由来するものであるため、電解液中の含有量を0ppmにまで低減することは困難であり、経済的理由から好ましくない場合もある。したがって、本発明の電解液に含まれる遊離酸量の下限は0.1ppm程度であればよい。遊離酸の含有量が0.1ppm程度であれば電解液の特性に対する影響が少ないからである。また、下限は1ppm程度であってもよい。この場合、顕著な特性の低下が見られ難く、実用上の問題を生じ難いからである。本発明における遊離酸の含有量は、例えば、中和滴定により測定される値である。
【0015】
本発明において、その含有量を上記範囲とすべき遊離酸としては、HF、H2SO4及びFSO3Hよりなる群から選ばれる1種以上の遊離酸が挙げられる。これらの遊離酸は、イオン性化合物(1)合成時の出発原料、副生成物、あるいは、イオン性化合物(1)の分解生成物として、電解液中に不可避的に含まれるものであり、含有量を0%にまで低減することは難しいが、その含有量を上記範囲とすることで、これらの遊離酸に由来する問題を抑制できる。これらの遊離酸の中でも、電解液中に含まれるHF、H2SO4及びFSO3Hの量を上記範囲とすることが推奨される。尚、上記遊離酸の含有量は、HF、H2SO4及びFSO3Hよりなる群から選ばれる1種以上の遊離酸の合計量が上記範囲であればよい。
【0016】
本発明の電解液は、当該電解液に含まれる水分量が50ppm程度以下(質量基準、以下同様)であるのが望ましい。電解液に含まれる水分は、電解液の製造工程において、例えばイオン性化合物(1)の合成反応、あるいは精製の際に使用される水や溶媒、空気中等の環境からの吸湿により混入した水分が残留したものと考えられる。本発明の電解液の用途としては上記各種蓄電デバイスが挙げられるが、電解液に水分が含まれていると、電解液の耐電圧性を低下させたり、あるいは、蓄電デバイス稼動時に水分が電気分解されて水素イオンが生成し、これにより電解液のpHが低下(酸性)する結果、電極材料が溶解したり、電極材料と反応、腐食したりして蓄電デバイスの性能が低下するといった問題が生じる。また、電解液に含まれる水分は、イオン性化合物(1)の加水分解反応を起し、電解液中のイオン性化合物(1)量を減少させるのみならず、遊離酸量を増加させる原因にもなる。さらに、水分が電気分解される際にガスが発生し、これにより密閉構造の各種蓄電デバイスの内圧が上昇し変形や破損に至る場合がある。そのためデバイスが使用できない状態となるばかりか、安全上も問題となることがある。
【0017】
したがって、本発明の電解液に含まれる水分量は約30ppm以下であるのがより好ましく、さらに好ましくは10ppm以下である。上記範囲であれば、周辺部材の劣化抑制に加えて、経時的な遊離酸量の増加も抑制することができる。
【0018】
なお、電解液中の水分量は低ければ低いほどよいが、0ppmまで低減することは技術的に困難であり、経済的理由から好ましくない場合がある。したがって、本発明の電解液に含まれる水分量の下限は0.1ppm程度であればよい。水分含有量が0.1ppm程度であれば電解液の特性に対する影響が少ないからである。また、下限は1ppm程度であってもよい。顕著な特性の低下は見られ難く実用上の問題は生じ難いからである。
【0019】
本発明における水分の含有量は、例えば、電量滴定法若しくは容量滴定法によるカールフィッシャー水分測定装置(例えば、平沼産業株式会社製のカールフィッシャー水分計)を使用して、後述する実施例に記載の手順により測定される値である。
【0020】
<イオン性化合物(1)>
次に、上記一般式(1):(XSO2)(X’SO2)N-+で表されるイオン性化合物について説明する。本発明の電解液には、電解質として、アニオン成分:(XSO2)(X’SO2)N-と、カチオン成分:Y+とからなるイオン性化合物(1)が含まれる。一般式(1)中、X及びX’はフッ素原子又は炭素数1〜6のアルキル基又はフルオロアルキル基を表し、X、X’の少なくとも一方はフッ素原子である。炭素数1〜6アルキル基としては、直鎖状のアルキル基であるのが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。炭素数1〜6のフルオロアルキル基としては、上記アルキル基が有する水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものが挙げられ、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。これらの中でも、X、X’としては、フッ素原子、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基が好ましい。
【0021】
一方、一般式(1)中、Y+はアルカリ金属カチオン又はオニウムカチオンを表す。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム及びカリウム等が挙げられる。これらの中でもリチウムが好ましい。
【0022】
一方、オニウムカチオンとしては、一般式(2):L+−Rs(式中、Lは、C、Si、N、P、S又はOを表す。Rは、同一若しくは異なって、水素原子、フッ素原子、または、有機基であり、Rが有機基の場合、これらは互いに結合していてもよい。sは、2、3又は4であり、元素Lの価数によって決まる値である。尚、L−R間の結合は、単結合であってもよく、また二重結合であってもよい。)で表されるオニウムカチオンが挙げられる。
【0023】
上記Rで示される「有機基」は、炭素原子を少なくとも1個有する基を意味する。上記「炭素原子を少なくとも1個有する基」は、炭素原子を少なくとも1個有していればよく、また、ハロゲン原子やヘテロ原子などの他の原子や、置換基などを有していてもよい。具体的な置換基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル結合を有する基、チオエーテル結合を有する基、エステル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、ジスルフィド基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホニル基などが挙げられる。
【0024】
一般式(2)で表されるオニウムカチオンとしては、具体的には下記一般式;
【0025】
【化1】

【0026】
(式中、Rは、一般式(2)と同様)で表されるものが好適である。このようなオニウムカチオンは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。具体的なオニウムカチオンとしては、WO2009/123328号公報に記載される複素環オニウムカチオン、不飽和オニウムカチオン、飽和環オニウムカチオン、及び、鎖状オニウムカチオン等が挙げられる。
【0027】
なお、好ましいオニウムカチオンとしては、一般式(2);L+−RsにおいてLがN、Rが、水素、または、C1〜C8のアルキル基、sが4である鎖状オニウムカチオンや下記一般式で表される5種類のオニウムカチオンが挙げられる。
【0028】
【化2】

【0029】
上記一般式中、R1〜R12は、同一若しくは異なって、水素原子、フッ素原子、又は、有機基であり、有機基の場合、これらは互いに結合していてもよい。有機基としては、直鎖、分岐鎖又は環状の炭素数1〜18の飽和又は不飽和炭化水素基、炭化フッ素基等が好ましく、より好ましくは炭素数1〜8の飽和又は不飽和炭化水素基、炭化フッ素基である。これらの有機基は、水素原子、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子や、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルホン基、スルフィド基等の官能基を含んでいてもよい。より好ましくは、R1〜R12は、水素原子、フッ素原子、シアノ基及びスルホン基等のいずれか1種以上を有するものである。なお、2以上の有機基が結合している場合は、当該結合は、有機基の主骨格間に形成されたものでも、また、有機基の主骨格と上述の官能基との間、あるいは、上記官能基間に形成されたものであっても良い。
【0030】
上記鎖状オニウムカチオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、メトキシエチルジエチルメチルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ジメチルジステアリルアンモニウム、ジアリルジメチルアンモニウム、(2−メトキシエトキシメチル)トリメチルアンモニウム、ジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウム、テトラキス(ペンタフルオロエチル)アンモニウム等の第4級アンモニウム類、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウム等の第3級アンモニウム類、ジメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、ジブチルアンモニウム等の第2級アンモニウム類、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、オクチルアンモニウム等の第1級アンモニウム類、N−メトキシトリメチルアンモニウム、N−エトキシトリメチルアンモニウム、N−プロポキシトリメチルアンモニウム及びNH4等のアンモニウム化合物等が挙げられる。これら例示の鎖状オニウムカチオンの中でも、アンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムおよびジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウムが好ましい鎖状オニウムカチオンとして挙げられる。
【0031】
イオン性化合物(1)は、上記カチオンとアニオンとの組み合わせであればよいが、好ましいイオン性化合物(1)としては、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドが挙げられる。
【0032】
<媒体>
本発明の電解液には媒体が含まれていてもよい。媒体としては、非プロトン性溶媒、ポリマー等が挙げられる。非プロトン性有機溶媒としては、誘電率が大きく、電解質塩(フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩、後述する他の電解質)の溶解性が高く、沸点が60℃以上であり、且つ、電気化学的安定範囲が広い溶媒が好適である。より好ましくは非水系溶媒である。非水系溶媒としては、エチレングリコールジメチルエーテル(1,2−ジメトキシエタン)、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,6−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ−テル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類;炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル(メチルエチルカーボネート)、炭酸ジエチル(ジエチルカーボネート)、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン(エチレンカーボネート)、炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート)、2,3−ジメチル炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、2−ビニル炭酸エチレン等の環状炭酸エステル類;蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル等の脂肪族カルボン酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等のカルボン酸エステル類;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル、バレロニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル類;N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルピロリドン、N−ビニルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等の硫黄化合物類:エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル類;ニトロメタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上が好適である。これらの中でも、炭酸エステル類、脂肪族カルボン酸エステル類、カルボン酸エステル類、エーテル類がより好ましく、炭酸エステル類がさらに好ましい。
【0033】
媒体として用いられるポリマーには、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシドなどのポリエーテル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのメタクリル系ポリマー、ポリアクリロニトリル(PAN)等のニトリル系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンなどのフッ素系ポリマー、および、これらの共重合体等が含まれる。また、これらのポリマーと他の有機溶媒とを混合したポリマーゲルも本発明に係る媒体として用いることができる。他の有機溶媒としては上述の非プロトン性溶媒が挙げられる。
【0034】
上記ポリマーゲルを媒体とする場合の電解液の製造方法としては、従来公知の方法で成膜したポリマーに、上述の非プロトン性溶媒に、電解質(イオン性化合物(1)や後述する他の電解質)を溶解させた溶液を滴下して、電解質並びに非プロトン性溶媒を含浸、担持させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質とを溶融、混合した後、成膜し、ここに非プロトン性溶媒を含浸させる方法;予め非プロトン性溶媒に溶解させた電解質溶液とポリマーとを混合した後、これをキャスト法やコーティング法により成膜し、非プロトン性溶媒を揮発させる方法(以上、ゲル電解質);ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質とを溶融し、混合して成形する方法(真性ポリマー電解質);等が挙げられる。
【0035】
媒体の使用量は、電解質(イオン性化合物(1)と後述する他の電解質)と媒体の合計量100質量部に対して、50質量部〜99.9質量部であるのが好ましい。より好ましくは60質量部〜99.5質量部であり、さらに好ましくは70質量部〜99質量部である。媒体量が少なすぎると、充分なイオン伝導度が得られ難い場合があり、一方、多すぎると、溶媒の揮発による電解液中のイオン濃度が変化し易くなり、安定したイオン伝導度が得られ難い場合がある。
【0036】
<他の成分>
本発明に係る電解液には、上記イオン性化合物(1)のみが電解質として含まれていてもよいが、これ以外の他の電解質が含まれていてもよい。他の電解質を用いることで、電解液中のイオンの絶対量を増加させることができ、電気伝導度の向上を図ることができる。
【0037】
他の電解質としては、電解液中での解離定数が大きく、また、上記非プロトン性溶媒と溶媒和し難いアニオンを有するものが好ましい。他の電解質を構成するカチオン種としては、例えば、Li+、Na+、K+等のアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+等のアルカリ土類金属イオンおよびオニウムカチオンが挙げられ、特に、リチウムイオンが好ましい。一方、アニオン種としては、PF6-、BF4-、ClO4-、AlCl4-、C[(CN)3-、N[(CN)2-、B[(CN)4]-、N[(SO2CF32]-、CF3(SO3-、C[
(CF3SO23-、AsF6-、SbF6-およびジシアノトリアゾレートイオン(DCTA)などが挙げられる。これらの中でも、PF6-、BF4-がより好ましく、PF6-が特に好ましい。
【0038】
上記他の電解質の存在量としては、イオン性化合物(1)と他の電解質との合計100質量%中、0.1質量%以上、99質量%以下であることが好適である。他の電解質量が少なすぎる場合には、他の電解質を用いた効果(たとえばイオンの絶対量が充分なものとならず、電気伝導度が小さくなる)が得られ難い場合があり、他の電解質量が多すぎる場合には、イオンの移動が大きく阻害される虞がある。より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下である。
【0039】
なお、本発明に係る電解液中における電解質濃度(イオン性化合物(1)と他の電解質の総量)は、0.1質量%以上が好ましく、また、飽和濃度以下が好ましい。0.1質量%未満であると、イオン伝導度が低くなるため好ましくない。より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1質量%以上である。また、電解液中における電解質濃度は50質量%未満であるのがより好ましく、さらに好ましくは40質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。
【0040】
≪電解液の製造方法≫
本発明の製造方法とは、上記電解液の製造方法であって、上記一般式(1)で表されるイオン性化合物を炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒から選ばれる溶媒と混合した後、
(i)一部又は全ての溶媒を留去させる工程、及び/又は
(ii)モレキュラーシーブと接触させる工程、
を含むところに特徴を有する。
【0041】
本発明者らは、本発明に係るイオン性化合物(1)を合成した後、これを媒体等と混合して放置した場合に、当該電解液中に含まれる遊離酸量が経時的に増加し、電解液中のイオン性化合物(1)濃度の低下、更には、当該電解液が用いられる蓄電デバイスの周辺部材(電極材料等)の劣化が生じることを見出した。既に述べたように、上記遊離酸は、イオン性化合物(1)合成時の出発原料や副生成物、あるいは、イオン性化合物(1)の分解生成物に相当するため、遊離酸の発生や混入を完全に防止することは困難である。
【0042】
そこで、電解液中における経時的な遊離酸量の増加を抑制するべく検討を重ねた結果、本発明者らは驚くべきことに、炭化水素系溶媒及び/又は電解液用溶媒としても用いられる非プロトン性溶媒にイオン性化合物を溶解させた状態で、(i)一部又は全ての溶媒を留去させる工程(以下、溶媒留去工程と称する場合がある)、及び/又は、(ii)モレキュラーシーブとの接触工程を行うことで、経時的な遊離酸量の増加抑制のみならず、遊離酸の発生に寄与する水分量を低減でき、電気化学用途に用いた場合にも電気化学的特性が経時的に低下し難いと考えられる電解液が得られることを見出し、本発明を完成した。以下、イオン性化合物(1)の合成方法から順に説明する。
【0043】
<イオン性化合物(1)の製造方法>
本発明の電解液の製造方法は、上記(i)溶媒留去工程及び/又は(ii)モレキュラーシーブと接触させる工程を含む点に特徴を有するものであり、その他の工程は特に限定されない。したがって、本発明では、イオン性化合物(1)を合成する方法は特に限定されず、従来公知の方法は全て採用することが出来る。例えば、特表平8−511274号公報に記載されるように、尿素の存在下で、フルオロスルホン酸(HFSO3)を蒸留することによって(フルオロスルホニル)イミドを得る方法;クロロスルホニルイミドからフッ素化剤を用いてフルオロスルホニルイミドを合成する方法、及びフルオロスルホニルイミド塩を得る方法としては、上記方法により得られたフルオロスルホニルイミド又はその塩を、所望のアルカリ金属又は有機基を与えるカチオンを有する塩との反応によりカチオン交換する方法(国際公開第2009/123328号パンフレット);等が挙げられる。
【0044】
なお、本発明における「フルオロスルホニルイミド」との文言には、一般式(1)において、X、X’がいずれもフッ素原子であるビス(フルオロスルホニル)イミドの他、X、X’の一方がフッ素原子であり、他方がフッ化アルキル基であるN−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドが含まれる。出発原料である「クロロスルホニルイミド」も同様である。
【0045】
本発明では、電解液を得るため、イオン性化合物(1)を、炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒と混合した後、(i)一部又は全ての溶媒を留去させる工程、及び/又は、(ii)当該混合溶液をモレキュラーシーブと接触させる工程、を実施する。ここで、イオン性化合物(1)は溶媒に溶解したイオン性化合物(1)溶液の状態であっても、また、固体であってもよい。尚、イオン性化合物(1)溶液が、炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒以外の溶媒を含んでいる場合には、従来公知の手段により予め炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒以外の溶媒量を低減しておくのが望ましい。
【0046】
炭化水素系溶媒、非プロトン性溶媒は、他の溶媒に比べてイオン性化合物(1)の溶解度が高い。また、非プロトン性溶媒は比較的高い沸点を有するものであり、一方、炭化水素系溶媒には、イオン性化合物(1)製造時に使用される溶媒や非プロトン性溶媒及び水と共沸混合物を形成し得るものがあるので、炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒を用いれば、イオン性化合物(1)の析出を抑制しつつ、効率よく水分含有量を低減させることができる。また、電解質(イオン性化合物(1))の合成時に使用され電解質に残留した溶媒は、電解液に含まれてしまうが、本工程では、その溶媒量も低減させることができる。なお、非プロトン性溶媒は、各種蓄電デバイスの電解液用の溶媒としても用いられるため、イオン性化合物(1)、さらには電解液中に残留しても、その電気化学的特性への影響が少ないものである。加えて、イオン性化合物(1)の合成後、上記工程(i)及び/又は工程(ii)を経て水分含有量が低減されたイオン性化合物(1)溶液はそのまま電解液等の蓄電デバイス用途に使用できることから、プロセス上のメリットも得ることができる。
【0047】
具体的な炭化水素系溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;ベンゼン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。炭化水素系溶媒は1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記例示の溶媒の中でも、シクロヘキサンが好ましい。
【0048】
非プロトン性溶媒としては、本発明に係る電解液の媒体として例示した鎖状又は環状炭酸エステル類、脂肪族カルボン酸エステル類、カルボン酸エステル類、エーテル類がより好ましく、鎖状又は環状炭酸エステル類がさらに好ましい。鎖状又は環状炭酸エステルの中でも、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル(メチルエチルカーボネート)、炭酸ジエチル(ジエチルカーボネート)、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル、炭酸エチレン(エチレンカーボネート)、炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート)、2,3−ジメチル炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、2−ビニル炭酸エチレンが好ましい。非プロトン性溶媒は1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
上記炭化水素系溶媒及び非プロトン性溶媒は、含有水分量の低いものが好ましい。具体的な含水量は約200ppm以下であるのが好ましく、100ppm以下であるのがより好ましく、50ppm以下であるのがさらに好ましい。含有水分量が低い溶媒としては、市販の脱水溶媒等を使用することができる。
【0050】
これらの溶媒と混合するイオン性化合物(1)は、合成又は他の精製工程で用いた溶媒を含むイオン性化合物(1)の溶液をそのまま用いてもよく、あるいは、固体のイオン性化合物(1)を、炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒と混合してもよい。
【0051】
炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒の使用量は、イオン性化合物(1)又は溶液中に含まれるイオン性化合物(1)100質量部に対して100質量部〜1000000質量部とするのが好ましく、より好ましくは100質量部〜100000質量部であり、さらに好ましくは100質量部〜10000質量部である。炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒の使用量が少なすぎる場合は、イオン性化合物(1)が析出してしまい水分を充分に除去し難いことがあり、多すぎる場合は生産性が低下することがある。
【0052】
イオン性化合物(1)と炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒との混合溶液には、その他の溶媒が含まれていてもよい。その他の溶媒は、上記反応溶液に含まれるものであっても、また、炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒と共にイオン性化合物(1)に混合されるものであってもよい。
【0053】
その他の溶媒の量は特に限定されるものではないが、工程(i)及び/又は工程(ii)を行う過程において、その他の溶媒は留去されるのが好ましく、最終的には、前記炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒にイオン性化合物(1)が溶解した状態で工程(i)及び/又は工程(ii)を実施することが推奨される。
【0054】
以下、(i)、(ii)の工程について順に説明する。
【0055】
(i)溶媒留去工程について
本発明では、上記一般式(1)で表されるイオン性化合物(1)と炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒とを混合した後、当該混合溶液を溶媒留去装置へと供して溶媒留去を行う。当該溶媒留去工程では、上記混合溶液に含まれる上記その他の溶媒(合成又は精製工程で用いた溶媒等)や水分を、上記炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒と共に留去させる工程である。本発明で使用可能な溶媒留去操作としては特に限定されず、単蒸留形式、薄膜蒸留器を用いる形式、蒸留塔を設けた分別蒸留形式、蒸留塔からの留出液を一定の還流比で塔内に戻しながら抜出す蒸留形式、蒸留塔を全還流で保持して還流槽に水分を濃縮し、還流槽の成分が安定したところで、短時間で一括抜き出しを行う蒸留形式等が挙げられる。溶媒留去工程で使用する装置は、いずれも公知の加熱手段を備えたものであるのが好ましい。
【0056】
混合溶液の加熱温度は30℃以上、250℃以下とするのが好ましく、より好ましくは40℃以上、200℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上、150℃以下である。温度が低すぎると、十分に水分を低減させ難い場合があり、一方、温度が高すぎると、イオン性化合物(1)や上記溶媒が分解してしまう虞がある。また、溶媒留去は減圧下で行ってもよい。減圧度をコントロールすることで低温であっても効率よく含水量を低減できるからである。減圧度は、例えば20kPa以下とするのが好ましく、より好ましくは10kPa以下であり、さらに好ましくは5kPa以下である。
【0057】
溶媒留去工程の実施時間は特に限定されず、所定の溶媒留出量、あるいは、イオン性化合物(1)の濃度が所望の値に達するまで溶媒留去操作を行えばよい。これにより、所望する濃度のイオン性化合物(1)を含む電解液を得ることが出来る。
【0058】
(ii)モレキュラーシーブとの接触工程について
本発明法に係る工程(ii)では、上記一般式(1)で表されるイオン性化合物と炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒とを混合した後、この混合溶液をモレキュラーシーブと接触させる接触工程を実施する。
【0059】
ここで、モレキュラーシーブとは、一般式:M2/nO・Al23・xSiO2・yH2
(Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属カチオン、nはMの原子価であって、1〜2を示す)で表されるものである。モレキュラーシーブの形状は特に限定されず、粉状、球(ビーズ)状、柱状(ペレット型)、複数の円柱が組合わさったトライシブ型等いずれも使用できる。モレキュラーシーブは、必要に応じてイオン性化合物の電気化学特性に影響を与えない範囲でバインダー成分を含むものであってもよい。モレキュラーシーブは合成したものを用いてもよく、また、市販のものを用いてもよい。さらに、必要に応じて焼成処理を施した後使用してもよい。具体的なモレキュラーシーブとしては、3A型、4A型、5A型、13X型を基本とする平均細孔径が3Å〜10Å(公称値)のモレキュラーシーブが挙げられる。蓄電デバイスに用いるという観点から金属カチオン等の溶出成分の少ないものが好ましい。尚、これらの中でも金属カチオンとしてLiを含むものは、当該接触工程後に、モレキュラーシーブ由来の金属カチオンが残留していても、蓄電デバイスの性能に対する影響が少ないため好ましく用いられる。また、本発明においては、必要に応じて、モレキュラーシーブに含まれるカチオンMを、他の金属カチオンと交換する処理を行ってもよい。
【0060】
モレキュラーシーブの使用量は特に限定されるものではなく、上記イオン性化合物(1)の混合溶液に含まれる水分量や遊離酸量に応じて適宜決定することもできるが、例えば、混合溶液100質量部に対してモレキュラーシーブ0.01質量部〜10000質量部とするのが好ましく、より好ましくは0.05質量部〜1000質量部であり、さらに好ましくは0.1質量部〜100質量部である。モレキュラーシーブの使用量が少なすぎると十分に水分量や遊離酸量を低減させ難い場合があり、多量に用いても、使用量に見合う水分等の低減効果は見られ難い。
【0061】
混合溶液とモレキュラーシーブとの接触態様は、イオン性化合物(1)とモレキュラーシーブとが接触する限り特に限定されないが、良好な脱水効率を得るため、モレキュラーシーブと接触する混合溶液が更新される方法が好ましい。具体的な接触態様としては、例えば、混合溶液とモレキュラーシーブとを混合し、攪拌する態様;モレキュラーシーブの充填層にイオン性化合物(1)溶液を通過させる態様;等が挙げられる。充填層にイオン性化合物溶液を通過させる態様においては、必要に応じて、充填層に同一のイオン性化合物(1)溶液を繰返し通過させることで、当該溶液中の水分等の含有量をより一層低減させることができる。上記態様の中でも、モレキュラーシーブの充填層にイオン性化合物(1)溶液を通過させる態様は、イオン性化合物(1)溶液とモレキュラーシーブとの分離工程(ろ過、沈降分離、遠心分離などの固液分離工程)を設ける必要がなく、工程が煩雑にならず、特に、実操業レベルでの実施において好適である。
【0062】
上記混合溶液とモレキュラーシーブとを接触させる際の温度は−40℃〜200℃であるのが好ましく、より好ましくは−20℃〜100℃であり、さらに好ましくは0℃〜50℃である。接触時間は特に限定されないが、生産効率の観点から72時間以下とするのが好ましく、より好ましくは24時間以下であり、さらに好ましくは6時間以下である。
【0063】
尚、使用後のモレキュラーシーブは、加熱処理することによって再利用することも可能である。モレキュラーシーブの再生条件としては、例えば、窒素などの不活性ガス流通下、200℃以上に加熱処理する方法や、より低温で予備加熱した後に高温処理する方法等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0064】
モレキュラーシーブとの接触工程の後、必要に応じて、固液分離を行うことで、イオン性化合物(1)を含む溶液が得られる。
【0065】
上記工程(i)、(ii)は、イオン性化合物の合成及び他の精製工程に続けて実施することが推奨される。なお、工程(i)、(ii)による水分含有量の低減効果は、合成工程に続けて実施しない場合でも得られる。したがって、固体状のイオン性化合物(1)に水分が含まれている場合には、これを炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒と混合し溶解させた後に、あるいは、溶液状態で入手したイオン性化合物(1)の溶液について、工程(i)、(ii)を実施してもよい。なお、水分含有量の低減効果は、工程(i)又は(ii)のいずれかを実施することで十分に得られるが、これらの工程を組み合わせて実施してもよい。
【0066】
上記工程(i)及び/又は(ii)を行うことで、遊離酸量が上記範囲に低減された、又は、遊離酸量と水分含有量が所定範囲にまで低減されたイオン性化合物(1)を含む溶液が得られる。このイオン性化合物(1)を含む溶液は、水分含有量が低減されているので、このまま各種蓄電デバイスに使用される電解液として用いることができる。
【0067】
≪用途≫
本発明の電解液は、遊離酸及び/又は水分の含有量が低減されたものである。したがって、本発明の電解液は、一次電池、リチウム(イオン)二次電池、燃料電池などの充電及び放電機構を有する電池の他、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池といった各種蓄電デバイスに好適に用いられる。なお、蓄電デバイスの構造は特に限定されず、本発明の電解液は公知の蓄電デバイスに適用可能である。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0069】
[NMR測定]
1H−NMR、19F−NMRの測定は、Varian社製の「Unity Plus−400」を使用して行った(内部標準物質:トリフルオロメチルベンゼン、溶媒:重アセトニトリル、積算回数:16回)。
【0070】
[水分量の測定]
下記実験例で得られた試料溶液、及び、有機溶媒に含まれる水分量は平沼産業(株)製カールフィッシャー水分測定装置「AQ−2100」を用いて測定した。測定用試料の調製、水分量の測定等の一連の操作については、ドライルーム(温度:25℃、露点:−70℃〜−50℃)で行った。試料注入量は試料の水分含有量に応じて0.1ml〜3mlとし、発生液には「ハイドラナール(登録商標) クローマットAK」(Sigma Aldrich社製)を使用し、対極液には「ハイドラナール(登録商標) クローマットCG−K」(Sigma Aldrich社製)を使用した。試料は、外気に触れないよう注射器を用いて試料注入口より注入した。
【0071】
[遊離酸量の測定]
中和滴定によりHF、H2SO4及びFSO3Hの合計含有量を測定した。
【0072】
製造例1 リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの合成
〔フッ素化工程〕
攪拌装置を備えたパイレックス(登録商標)製反応容器A(内容量5L)に、窒素気流下で酢酸ブチル900gを加え、ここに100g(467mmol)のビス(クロロスルホニル)イミドを室温(25℃)で滴下した。
【0073】
得られたビス(クロロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液に、室温で、フッ化亜鉛50.5g(491mmol、ビス(クロロスルホニル)イミドに対して1.05当量)を一度に加え、これが完全に溶解するまで室温で6時間攪拌した。
【0074】
〔カチオン交換工程1−アンモニウム塩の合成〕
攪拌装置を備えたパイレックス(登録商標)製反応容器B(内容量1L)に、25質量%アンモニア水270g(3964mmol、ビス(クロロスルホニル)イミドに対して8.49当量)を加えた。アンモニア水の攪拌下、室温で、反応容器Bに、反応容器Aの反応溶液を滴下して加えた。反応溶液の滴下終了後、攪拌を停止し、水層と酢酸ブチル層の2層に分かれた反応溶液から、塩化亜鉛などの副生物を含む水層を除去し、有機層として、アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液を得た。得られた有機層を試料として、19F-NMR(溶媒:重アセトニトリル)測定を行った。得られたチャートにおいて、内部標準物質として加えたトリフルオロメチルベンゼンの量、及び、これに由来するピークの積分値と、目的生成物に由来するピークの積分値との比較から、有機層に含まれるアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの粗収量を求めた(378mmol)。
19F-NMR(溶媒:重アセトニトリル):δ56.0
【0075】
〔カチオン交換工程2−リチウム塩の合成〕
得られた有機層に含まれるアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドに対して、リチウムの量が2当量となるように、15質量%の水酸化リチウム水溶液121g(Liとして758mmol)を加え、室温で10分間攪拌した。その後、反応溶液から水層を除去して、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液を得た。
【0076】
得られた有機層を試料とし、ICP発光分光分析法により、フルオロスルホニルイミドのプロトンがリチウムイオンに交換されていることを確認した。また、有機層を濃縮乾固することで、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを得た(収量:63.5g、収率:73%)。
【0077】
実験例1〜4
フラスコ内で、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド18.71gと、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(30/70、体積比)溶液101.21gとを混合し溶解させて、試料溶液を得た。得られた試料溶液の遊離酸量は25ppm、水分量は70.0ppmであった。
【0078】
容量20mlのポリプロピレン製のスクリュー管に、試料溶液と表1に示す各種モレキュラーシーブ(ユニオン昭和株式会社製)とを加え、振とう機で撹拌しながら、一定時間毎に試料溶液の水分量を測定し、その推移を評価した。結果を表2に示す。また、浸とう前(0時間)と、浸とう開始から24時間後の試料溶液に含まれる遊離酸量を表3に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
モレキュラーシーブ1:ナトリウムカチオン及びカルシウムカチオンを有するモレキュラーシーブ(型番「5A SDG」、平均孔径(公称値):5Å、球状、ユニオン昭和株式会社社製)
モレキュラーシーブ2:リチウムカチオン及びナトリウムカチオンを有するモレキュラーシーブ(型番「Li−X SDG」、平均孔径(公称値):10Å、球状、ユニオン昭和株式会社社製)
モレキュラーシーブ3:ナトリウムカチオンを有するモレキュラーシーブ(型番「4A SDG」、平均孔径(公称値):4Å、球状、ユニオン昭和株式会社社製)
モレキュラーシーブ4:ナトリウムカチオン及びカルシウムカチオンを有するモレキュラーシーブ(型番「3A SDG」、平均孔径(公称値):3Å、球状、ユニオン昭和株式会社社製)
【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
表2〜3より、モレキュラーシーブとの接触により試料溶液中の水分量及び遊離酸量を低減できることが分かる。なお、19F−NMRで確認したところ、モレキュラーシーブとの接触前後の試料溶液中のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド濃度に変化は見られなかった。
【0084】
実験例5
フラスコに、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド6.25gを加え、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(30/70、体積比)溶液を33.74g加え溶解した。溶液の水分量は72.5ppm、遊離酸量は35ppmであった。得られた溶液に、シクロヘキサン11.20gを加え、減圧下、温度50℃に加熱してシクロヘキサンを留去し、試料溶液を得た。このとき得られた試料溶液の水分量は8.0ppmであり、遊離酸量は15ppmであった。19F−NMRで確認したが、加熱前後の試料溶液中のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド濃度に変化は見られなかった。
【0085】
実験例6〜10
実験例1〜5で得られた試料溶液を各々容量20mlのスクリュー管に入れて密閉し、外部からの水分の浸入を防止した。各電解液を入れたスクリュー管をアルミニウム製の袋に入れて遮光した状態で、温度25℃の環境で2ヶ月間保存し、試料溶液に含まれる水分量及び遊離酸量の経時変化を評価した。結果を表4に示す。なお、2ヶ月間保存した後の試料溶液に外観上の変化は認められず、無色透明の液体であった。
【0086】
実験例11
実験例1において調製したモレキュラーシーブとの接触工程前の試料溶液(遊離酸量:25ppm、水分量:70.0ppm)を用いたこと以外は、実験例6〜10と同様にして、2ヶ月間保存し、試料溶液に含まれる水分量及び遊離酸量の経時変化を評価した。結果を表4に示す。なお、2ヶ月間保存した後の試料溶液に外観上の変化は認められず、無色透明の液体であった。
【0087】
【表4】

【0088】
実験例6〜10では、遊離酸量、水分量ともに2ヶ月間の保存前後でほとんど変化がなかった。これに対して、モレキュラーシーブとの接触工程や溶媒留去工程を経ていない実験例11では、遊離酸量が50ppmにまで増加していた。この結果より、本発明の電解液は、保存安定性に優れることがわかった。また、19F−NMRで確認したが、保存前後の試料溶液中のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド濃度に変化は見られなかった。
【0089】
製造例2 カリウムビス(フルオロスルホニル)イミドの合成
〔カチオン交換工程2−カリウム塩の合成〕
製造例1と同様にして、フッ素化工程、カチオン交換工程1(アンモニウム塩の合成)を行って得られたアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液を使用して、カチオン交換工程2を行った。得られた有機層に含まれるアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドに対して、カリウムの量が2当量となるように、15質量%の水酸化カリウム水溶液283g(Kとして758mmol)を加え、室温で10分間攪拌した。その後、反応溶液から水層を除去して、カリウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液を得た。
【0090】
得られた有機層を試料とし、ICP発光分光分析法により、フルオロスルホニルイミドのプロトンがカリウムイオンに交換されていることを確認した。また、有機層を濃縮乾固することで、カリウムビス(フルオロスルホニル)イミドを得た(収量:74g)。
【0091】
実験例12〜15
フラスコ内で、カリウムビス(フルオロスルホニル)イミド21.9gと、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(30/70、体積比)溶液100.1gとを混合し溶解させて、試料溶液を得た。得られた試料溶液の遊離酸量は35ppm、水分量は53ppmであった。
【0092】
容量20mlのポリプロピレン製のスクリュー管に、試料溶液と表5に示す各種モレキュラーシーブ(ユニオン昭和株式会社製)とを加え、振とう機で撹拌しながら、一定時間毎に試料溶液の水分量を測定し、その推移を評価した。結果を表6に示す。また、浸とう前(0時間)と、浸とう開始から24時間後の試料溶液に含まれる遊離酸量を表7に示す。なお、モレキュラーシーブは、実験例1〜4と同じ物を使用した。
【0093】
【表5】

【0094】
【表6】

【0095】
【表7】

【0096】
表6〜7より、モレキュラーシーブとの接触により試料溶液中の水分量及び遊離酸量を低減できることが分かる。また、19F−NMRで確認したが、モレキュラーシーブとの接触前後の試料溶液中のカリウムビス(フルオロスルホニル)イミド濃度に変化は見られなかった。
【0097】
実験例16
フラスコに、カリウムビス(フルオロスルホニル)イミド7.3gを加え、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(30/70、体積比)溶液を33.5g加え溶解した。溶液の水分量は52ppm、遊離酸量は35ppmであった。得られた溶液に、シクロヘキサン10.5gを加え、減圧下、温度50℃に加熱してシクロヘキサンを留去し、試料溶液を得た。このとき得られた試料溶液の水分量は8.0ppmであり、遊離酸量は9ppmであった。19F−NMRで確認したが、加熱前後の試料溶液中のカリウムビス(フルオロスルホニル)イミド濃度に変化は見られなかった。
【0098】
実験例17〜21
実験例12〜16で得られた試料溶液を各々容量20mlのスクリュー管に入れて密閉し、外部からの水分の浸入を防止した。各電解液を入れたスクリュー管をアルミニウム製の袋に入れて遮光した状態で、温度25℃の環境で2ヶ月間保存し、試料溶液に含まれる水分量及び遊離酸量の経時変化を評価した。結果を表8に示す。なお、2ヶ月間保存した後の試料溶液に外観上の変化は認められず、無色透明の液体であった。
【0099】
実験例22
実験例12で調製したモレキュラーシーブとの接触工程前の試料溶液(遊離酸量:35ppm、水分量:53ppm)を用いたこと以外は、実験例17〜21と同様にして、当該試料溶液を2ヶ月間保存し、試料溶液に含まれる水分量及び遊離酸量の経時変化を評価した。結果を表8に示す。なお、2ヶ月間保存した後の試料溶液に外観上の変化は認められず、無色透明の液体であった。
【0100】
【表8】

【0101】
実験例17〜21では、遊離酸量、水分量ともに2ヶ月間の保存前後でほとんど変化がなかった。これに対して、モレキュラーシーブとの接触工程や溶媒留去工程を経ていない実験例22では、遊離酸量が55ppmにまで増加していた。この結果より、本発明の電解液は、保存安定性に優れることがわかった。また、19F−NMRで確認したが、保存前後の試料溶液中のカリウムビス(フルオロスルホニル)イミド濃度に変化は見られなかった。
【0102】
製造例3 ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミドの合成
〔カチオン交換工程2−ナトリウム塩の合成〕
製造例1と同様にして、フッ素化工程、カチオン交換工程1(アンモニウム塩の合成)を行って得られたアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液を使用して、カチオン交換工程2を行った。得られた有機層に含まれるアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドに対して、ナトリウムの量が2当量となるように、15質量%の水酸化ナトリウム水溶液202g(Naとして758mmol)を加え、室温で10分間攪拌した。その後、反応溶液から水層を除去して、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液を得た。
【0103】
得られた有機層を試料として、ICP発光分光分析法により、フルオロスルホニルイミドのプロトンがナトリウムイオンに交換されていることを確認した。また、有機層を濃縮乾固することで、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミドを得た(収量:69g)。
【0104】
実験例23〜26
フラスコ内で、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド20.3gと、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(30/70、体積比)溶液99.5gとを混合し溶解させて、試料溶液を得た。得られた試料溶液の遊離酸量は30ppm、水分量は55ppmであった。
【0105】
容量20mlのポリプロピレン製のスクリュー管に、試料溶液と表9に示す各種モレキュラーシーブ(ユニオン昭和株式会社製)とを加え、振とう機で撹拌しながら、一定時間毎に試料溶液の水分量を測定し、その推移を評価した。結果を表10に示す。また、浸とう前(0時間)と、浸とう開始から24時間後の試料溶液に含まれる遊離酸量を表11に示す。なお、モレキュラーシーブは、実験例1〜4と同じ物を使用した。
【0106】
【表9】

【0107】
【表10】

【0108】
【表11】

【0109】
表10〜11より、モレキュラーシーブとの接触により試料溶液中の水分量及び遊離酸量を低減できることが分かる。なお、19F−NMRで確認したところ、モレキュラーシーブとの接触前後の試料溶液中のナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド濃度に変化は見られなかった。
【0110】
実験例27
フラスコに、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド6.8gを加え、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(30/70、体積比)溶液を33.2g加え溶解した。溶液の水分量は53ppm、遊離酸量は30ppmであった。得られた溶液に、シクロヘキサン10.8gを加え、減圧下、温度50℃に加熱してシクロヘキサンを留去し、試料溶液を得た。このとき得られた試料溶液の水分量は7.8ppmであり、遊離酸量は15ppmであった。19F−NMRで確認したが、加熱前後の試料溶液中のナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド濃度に変化は見られなかった。
【0111】
実験例28〜32
実験例23〜27で得られた試料溶液を各々容量20mlのスクリュー管に入れて密閉し、外部からの水分の浸入を防止した。各電解液を入れたスクリュー管をアルミニウム製の袋に入れて遮光した状態で、温度25℃の環境で2ヶ月間保存し、試料溶液に含まれる水分量及び遊離酸量の経時変化を評価した。結果を表12に示す。なお、2ヶ月間保存した後の試料溶液に外観上の変化は認められず、無色透明の液体であった。
【0112】
実験例33
実験例23で調製したモレキュラーシーブとの接触工程前の試料溶液(遊離酸量:30ppm、水分量:55ppm)を用いたこと以外は、実験例28〜32と同様にして、2ヶ月間保存し、試料溶液に含まれる水分量及び遊離酸量の経時変化を評価した。結果を表12に示す。なお、2ヶ月間保存した後の試料溶液に外観上の変化は認められず、無色透明の液体であった。
【0113】
【表12】

【0114】
実験例28〜32では、遊離酸量、水分量ともに2ヶ月間の保存前後でほとんど変化がなかった。これに対して、モレキュラーシーブとの接触工程や溶媒留去工程を経ていない実験例33では、遊離酸量が44ppmにまで増加していた。この結果より、本発明の電解液は、保存安定性に優れることがわかった。また、19F−NMRで確認したが、保存前後の試料溶液中のナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド濃度に変化は見られなかった。
【0115】
製造例4 エチルメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドの合成
〔カチオン交換工程3−エチルメチルイミダゾリウム塩の合成〕
製造例1と同様にして、フッ素化工程、カチオン交換工程1(アンモニウム塩の合成)カチオン交換工程2を行って得られたリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液を使用して、カチオン交換工程3を行った。得られた有機層に含まれるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドに対して、エチルメチルイミダゾリウムの量が1.05当量となるように、15質量%のエチルメチルイミダゾリウムブロマイド水溶液453g(エチルメチルイミダゾリウムブロマイドとして356mmol)を加え、室温で10分間攪拌した。その後、反応溶液から水層を除去して、エチルメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液を得た。
【0116】
得られた有機層を試料とし、1H−NMRにより、エチルメチルイミダゾリウムに由来するピークを確認し、カチオン交換反応が完了したことを確認した。また、有機層を濃縮乾固することで、エチルメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドを得た(収量:94g)。
【0117】
実験例34〜37
フラスコ内で、エチルメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド29.1gと、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(30/70、体積比)溶液98.6gとを混合し溶解させて、試料溶液を得た。得られた試料溶液の遊離酸量は28ppm、水分量は51ppmであった。
【0118】
容量20mlのポリプロピレン製のスクリュー管に、試料溶液と表13に示す各種モレキュラーシーブ(ユニオン昭和株式会社製)とを加え、振とう機で撹拌しながら、一定時間毎に試料溶液の水分量を測定し、その推移を評価した。結果を表14に示す。また、浸とう前(0時間)と、浸とう開始から24時間後の試料溶液に含まれる遊離酸量を表15に示す。なお、モレキュラーシーブは、実験例1〜4と同じ物を使用した。
【0119】
【表13】

【0120】
【表14】

【0121】
【表15】

【0122】
表14〜15より、モレキュラーシーブとの接触により試料溶液中の水分量及び遊離酸量を低減できることが分かる。なお、19F−NMRで確認したところ、モレキュラーシーブとの接触前後の試料溶液中のエチルメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド濃度に変化は見られなかった。
【0123】
実験例38
フラスコに、エチルメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド9.7gを加え、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(30/70、体積比)溶液を32.7g加え溶解した。溶液の水分量は54ppm、遊離酸量は28ppmであった。得られた溶液に、シクロヘキサン11.0gを加え、減圧下、温度50℃に加熱してシクロヘキサンを留去し、試料溶液を得た。このとき得られた試料溶液の水分量は7.8ppmであり、遊離酸量は13ppmであった。19F−NMRで確認したが、加熱前後の試料溶液中のエチルメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド濃度に変化は見られなかった。
【0124】
実験例39〜43
実験例34〜38で得られた試料溶液を各々容量20mlのスクリュー管に入れて密閉し、外部からの水分の浸入を防止した。各電解液を入れたスクリュー管をアルミニウム製の袋に入れて遮光した状態で、温度25℃の環境で2ヶ月間保存し、試料溶液に含まれる水分量及び遊離酸量の経時変化を評価した。結果を表16に示す。なお、2ヶ月間保存した後の試料溶液に外観上の変化は認められず、無色透明の液体であった。
【0125】
実験例44
実験例34において調製したモレキュラーシーブとの接触工程前の試料溶液(遊離酸量:28ppm、水分量:51ppm)を用いたこと以外は、実験例39〜43と同様にして、2ヶ月間保存し、試料溶液に含まれる水分量及び遊離酸量の経時変化を評価した。結果を表16に示す。なお、2ヶ月間保存した後の試料溶液に外観上の変化は認められず、無色透明の液体であった。
【0126】
【表16】

【0127】
実験例39〜43では、遊離酸量、水分量ともに2ヶ月間の保存前後でほとんど変化がなかった。これに対して、モレキュラーシーブとの接触工程や溶媒留去工程を経ていない実験例44では、遊離酸量が40ppmにまで増加していた。この結果より、本発明の電解液は、保存安定性に優れることがわかった。また、19F−NMRで確認したが、保存前後の試料溶液中のエチルメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド濃度に変化は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の電解液は保存安定性に優れるものであり、遊離酸や水分の経時的な増加が生じ難いものである。したがって、本発明の電解液を蓄電デバイスに使用すれば、経時的な性能低下が生じ難い高性能な蓄電デバイスになると考えられる。また、本発明法によれば、経時的な遊離酸量や水分量の増加が生じ難い電解液を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるイオン性化合物と遊離酸を含み、前記遊離酸の含有量が25ppm未満(質量基準)であることを特徴とする電解液。
(XSO2)(X’SO2)N-+ (1)
(式中、X、X’はフッ素原子又は炭素数1〜6のアルキル基又はフルオロアルキル基を表し、X、X’の少なくとも一方はフッ素原子であり、Y+はアルカリ金属カチオン又はオニウムカチオンを表す。)
【請求項2】
上記遊離酸が、HF、H2SO4及びFSO3Hよりなる群から選ばれる1種以上の遊離酸である請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
水分量が50ppm以下(質量基準)である請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項4】
上記一般式(1)において、X及びX’がフッ素原子であり、Y+がリチウムカチオンである請求項1〜3のいずれかに記載の電解液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の電解液を用いた蓄電デバイス。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の電解液の製造方法であって、
上記一般式(1)で表されるイオン性化合物と、炭化水素系溶媒及び/又は非プロトン性溶媒を混合した後、一部又は全ての溶媒を留去させる工程及び/又はモレキュラーシーブと接触させる工程を含むことを特徴とする電解液の製造方法。

【公開番号】特開2013−84562(P2013−84562A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−147964(P2012−147964)
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】