説明

電解用パラジウムめっき液及びそれを用いて形成されたリードフレーム

【課題】薄膜化しても、はんだぬれ性、ワイヤーボンディング強度等に優れためっき皮膜を与える電解用パラジウムめっき液を提供すること、及び、上記性能に優れたリードフレームを提供すること。
【解決手段】水溶性パラジウム塩、及び、置換基を有していてもよいナフタレンモノスルホン酸若しくはナフタレンジスルホン酸又はそれらの塩を含有することを特徴とする電解用パラジウムめっき液、それを用いて形成された電解パラジウムめっき皮膜、並びに、電解ニッケルめっき皮膜、上記電解パラジウムめっき皮膜、電解金めっき皮膜を順次形成させたリードフレーム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解用パラジウムめっき液に関し、更に詳しくは、特定の化合物を含有させた電解用パラジウムめっき液、並びに、それを用いて形成された電解パラジウムめっき皮膜及びリードフレームに関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウムを用いた貴金属めっきは、電子デバイスの接合端子部に施されることが多く、電子部品の鉛フリー化に適した表面技術として注目されている。リードフレームは、従来は中央のワイヤーボンディング部には銀めっき、周辺のはんだ接合部にははんだめっきが施されていたが、鉛フリーのはんだめっきが技術的に未完成なため、代替法としてPd−PPF(Pre−Plated−Frame)法が実用化されている。
【0003】
図1に一般的なリードフレームの形状を示す。Pd−PPF法はリードフレームの全面に電解ニッケルめっき、電解パラジウムめっき、電解金めっきを順次行い、リードフレームの基材(銅、銅合金、42材等)の上に3層のめっき構造を形成させる方法である。
【0004】
リードフレームの中央パッド部Aにチップを搭載し、インナーリード部Bでチップとのワイヤーボンディング接合を行い、アウターリード部Cを残して樹脂で封入する。残ったアウターリード部Cは基板とのはんだ接合に使われる。
【0005】
Pd−PPF法は性能面では満足すべきレベルに到達しているが、最大の課題はコストである。パラジウムも金も現行の銀やはんだに比べると高価であり、リードフレームの製造コストを抑えるには電解パラジウムめっき皮膜や電解金めっき皮膜の厚みを極限レベルまで薄膜化する必要がある。
【0006】
しかしながら、薄膜にするとはんだぬれ性が悪くなってしまう。電解用パラジウムめっき液に関するものとして、特許文献1ないし特許文献4があるが、これらの技術でははんだぬれ性が十分ではなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平07−011475号公報
【特許文献2】特開平07−278870号公報
【特許文献3】特開平11−043796号公報
【特許文献4】特開2001−262390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、薄膜化してもはんだぬれ性、ワイヤーボンディング強度等に優れためっき皮膜を与える電解用パラジウムめっき液を提供することにあり、また、上記性能に優れたリードフレームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、電解用パラジウムめっき液中に特定の物質を含有させることにより、薄膜においても良好なはんだぬれ性やワイヤーボンディング強度を示して上記課題が達せられることを見出し本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、水溶性パラジウム塩、及び、置換基を有していてもよいナフタレンモノスルホン酸若しくはナフタレンジスルホン酸又はそれらの塩を含有することを特徴とする電解用パラジウムめっき液を提供するものである。
【0011】
また本発明は、上記の電解用パラジウムめっき液を用いて形成されたことを特徴とする電解パラジウムめっき皮膜を提供するものである。
【0012】
また本発明は、金属基板上に、電解ニッケルめっき皮膜、電解パラジウムめっき皮膜、電解金めっき皮膜を順次形成させたリードフレームであって、該電解パラジウムめっき皮膜が、上記の電解用パラジウムめっき液を用いて形成されたものであることを特徴とするリードフレームを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電解パラジウムめっき皮膜及び/又はその上に形成される電解金メッキ皮膜が薄膜であっても、良好なはんだぬれ性や優れたワイヤーボンディング強度を達成することができる電解用パラジウムめっき液を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の具体的形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0015】
本発明の電解用パラジウムめっき液は、必須成分として、
(1)水溶性パラジウム塩、及び
(2)置換基を有していてもよいナフタレンモノスルホン酸若しくはナフタレンジスルホン酸又はそれらの塩(以下、「ナフタレンスルホン酸化合物」と略記する)を含有することを特徴としている。
【0016】
水溶性パラジウム塩としては特に限定はないが、パラジウムの塩化物、パラジウムの硫酸塩、パラジウムの硝酸塩、パラジウムのリン酸塩、パラジウムの亜硫酸塩等が好ましい。また、これらのアンモニア錯体(アンミン錯体)又はこれらのアミン錯体も好ましい。特に好ましくは、ジクロロテトラアンミンパラジウムである。
【0017】
本発明の電解用パラジウムめっき液中の水溶性パラジウム塩の濃度は特に限定はないが、電解用パラジウムめっき液全体に対して、パラジウムに換算して、0.1g/L〜50g/L含有されていることが好ましく、1g/L〜40g/Lが特に好ましく、2.5g/L〜30g/Lが更に好ましい。
【0018】
0.1g/Lより少ないと、やけが発生し、正常皮膜が得られず実用的でない場合がある。また、50g/Lより多いと、液のくみ出しによるパラジウム金属の消耗が多く経済的でない。これらの塩は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
本発明の電解用パラジウムめっき液には、「ナフタレンスルホン酸化合物」を含有することが必須である。「ナフタレンスルホン酸化合物」とは、上記したように、置換基を有していてもよいナフタレンモノスルホン酸若しくはナフタレンジスルホン酸又はそれらの塩をいう。すなわち、「ナフタレンスルホン酸化合物」とは、
(イ)置換基を有していてもよいナフタレンモノスルホン酸若しくはその塩、又は
(ロ)置換基を有していてもよいナフタレンジスルホン酸若しくはその塩
をいう。スルホン酸基はナフタレン環に直接結合している。
【0020】
ここで、置換基はナフタレン環に直接結合しており、具体的には例えば、アルキル基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボキシル基、カルボキシエステル基等が挙げられる。置換基は、その置換基を有するナフタレンスルホン酸化合物が水溶性であること、それが含有されることによって電解用パラジウムめっき液の性能に悪影響を及ぼさない等を考慮して任意に選択される。置換基としてのアルキル基は炭素数1〜5個のものが好ましい。
【0021】
ナフタレンスルホン酸化合物のナフタレン環には、スルホン酸基以外の置換基が結合していてもしていなくてもよいが、結合していないものが好ましい。すなわち、一般式(1)で表されるものが好ましい。
【化1】

[一般式(1)中、Xはスルホン酸の対カチオンを示す。]
【0022】
一般式(1)中、Xはスルホン酸のカチオンを示す。本発明の電解用パラジウムめっき液中でのスルホン酸のカチオン(X)としては、その電解用パラジウムめっき液中の電導塩、pH調整剤等の他の成分にも依存するものであり特に限定はなく、任意の1価のカチオンが挙げられる。通常、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)等のアルカリ金属イオン;アンモニウムイオン(NH)、アルキルアンモニウムイオン等の4級アンモニウムイオン;水素イオン(H)等である。
【0023】
ジスルホン酸化合物の場合、2個のスルホン酸基はナフタレン環に直接結合していればよく、一方の環(1、2、3又は4の位置)に2個とも結合していても、それぞれ別の環(1、2、3又は4の位置と、5、6、7又は8の位置)に結合していてもよいが、水溶性が充分に大きい等の点から、それぞれ別の環に結合していることが好ましい。
【0024】
本発明の電解用パラジウムめっき液の調製に用いられるナフタレンスルホン酸化合物としては、水溶性であり、水に溶解して電解用パラジウムめっき液となったときに上記構造になるものであればよい。具体的には、例えば、1−ナフタレンスルホン酸、1−ナフタレンスルホン酸ナトリウム、1−ナフタレンスルホン酸カリウム、1−ナフタレンスルホン酸アンモニウム、2−ナフタレンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸ナトリウム、2−ナフタレンスルホン酸カリウム、2−ナフタレンスルホン酸アンモニウム、2,7−ナフタレンジスルホン酸、2,7−ナフタレンジスルホン酸カリウム、2,7−ナフタレンジスルホン酸ナトリウム、2,7−ナフタレンジスルホン酸アンモニウム、1,5−ナフタレンジスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸カリウム、1,5−ナフタレンジスルホン酸ナトリウム、1,5−ナフタレンジスルホン酸アンモニウム等が好ましいものとして挙げられる。これらは1種を用いてもよいが、2種以上を併用することもできる。
【0025】
ナフタレン環にスルホン酸基が3個又はそれ以上結合したものは、はんだぬれ性の向上が得られず、また、ワイヤーボンディング性がやや劣るので、本発明の課題解決のためには使用できない。
【0026】
ナフタレンスルホン酸化合物の含有量は特に限定はないが、電解用パラジウムめっき液全体に対して、0.001g/L〜50g/Lの範囲で含有されていることが好ましく、0.05g/L〜20g/Lが更に好ましく、1.0g/L〜10g/Lが最も好ましい。ナフタレンスルホン酸化合物の含有量が少なすぎると、はんだぬれ性の向上が得られない場合がある。
【0027】
本発明の電解用パラジウムめっき液は、更に必要に応じ適宜、電導塩、キレート剤、界面活性剤等を含有することができる。
【0028】
電導塩としては特に限定はないが、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム等の中から適宜選択して使用することができる。これらは1種を用いてもよいが、2種以上を併用することもできる。
【0029】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸等のアミノカルボン酸系キレート剤又はそれらの塩;1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、トリエタノールアミン等のヒドロキシアミノ酢酸系キレート剤又はそれらの塩;ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ニトリロトリ(メチレンプロパンホスホン酸)、ホスホノブタン三酢酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸系キレート剤又はそれらの塩;シュウ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、レパルギル酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸やそれらの塩等を用いることができる。これらは1種を用いてもよいが、2種以上を併用することもできる。
【0030】
界面活性剤としては、既存のカチオン系、ノニオン系、カチオン系、両性イオン系等の中から適宜選択して使用することができる。これらは1種を用いてもよいが、2種以上を併用することもできる。
【0031】
カチオン系界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、高分子界面活性剤等が挙げられる。
【0032】
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0033】
カチオン系界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等が挙げられ、両性界面活性剤としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0034】
本発明の電解用パラジウムめっき液のpHは、4〜12の範囲が好ましく、特に好ましくは7〜9の範囲である。pHが低すぎるとパラジウムが沈殿してしまう可能性があり、高すぎると基板に貼ってあるレジストを溶解してしまう場合がある。
【0035】
本発明の電解用パラジウムめっき液のめっき中の浴温度は特に限定はないが、30℃から80℃の範囲で使用されることが好ましい。
【0036】
また、本発明の電解用パラジウムめっき液を用いてめっきを行う際の電流密度は特に限定はないが、0.25A/dm〜50A/dmの範囲で使用することが好ましく、0.3A/dm〜10A/dmの範囲で使用することが特に好ましい。
【0037】
電解パラジウムめっきの時間は特に限定はなく、本発明の電解用パラジウムめっき液を用いた電解パラジウムめっき皮膜の厚さは、通常0.001μm〜0.1μm、好ましくは、0.002μm〜0.05μm、特に好ましくは、0.005μm〜0.02μmである。電解パラジウムめっき皮膜が薄すぎるときは、良好なはんだぬれ性や優れたワイヤーボンディング強度を達成することができない場合がある。一方、電解パラジウムめっき皮膜が厚すぎるときは、コスト的に不利であり、また、本発明は薄膜であっても、はんだぬれ性やワイヤーボンディング性能がよいので、その本発明の上記効果を生かせない場合がある。
【0038】
本発明の電解用パラジウムめっき液を用いてリードフレームにPd−PPF(Pre−Plated−Frame)(以下、「PPF」と略記する)処理を行う場合は、基材の銅、銅合金や42材等の上に、公知の電解ニッケルめっき処理、本発明の電解用パラジウムめっき液を用いた電解パラジウムめっき処理、公知の電解金めっき処理を遂次行うことによって達成される。
【0039】
電解ニッケルめっき浴としては、ワット浴、スルファミン浴等が使用可能であり、電解金めっき液としては、市販の純金めっき液、例えば日本高純度化学(株)製のアフタープレート(商品名)等が使用可能である。
【0040】
<作用・原理>
本発明のナフタレンスルホン酸化合物を含有する電解用パラジウムめっき液を用いて電解パラジウムめっき皮膜を形成させると、その電解パラジウムめっき皮膜及び/又は電解金メッキ皮膜が薄膜であっても、良好なはんだぬれ性や優れたワイヤーボンディング強度を達成できる作用・原理は明らかではないが、また、その作用原理によって本発明の技術的範囲は何ら限定されるものではないが、以下のように推察している。すなわち、本発明の電解用パラジウムめっき液を用いて形成された電解パラジウムめっき皮膜は、薄膜であっても、銅やニッケルの拡散を防ぐ性質に優れているため、銅やニッケルが金めっき皮膜表面まで拡散して行って、はんだぬれ性やワイヤーボンディング性に悪影響を及ぼすことを防げたものと推察している。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<各めっき工程とめっき皮膜の膜厚の測定方法>
めっき皮膜を形成させるリードフレームをシアン系脱脂液(シアン化ナトリウム50g/L、水酸化ナトリウム100g/L、EDTA・2ナトリウム塩50g/L)に浸漬し、常温、陰極電圧5.0Vで10秒間脱脂処理を行った。続いて、常温の5質量%硫酸に30秒間浸漬した。
【0043】
次いで、市販のSNコンク(株式会社ムラタ社製の商品名)の標準使用条件で作ったスルファミン酸無光沢ニッケル液を用いて、温度50℃、陰極電流密度5.0A/dmで1.0μm程度の電解ニッケル皮膜を形成させた。
【0044】
ここで、電解ニッケルめっき皮膜の膜厚は、微小部蛍光X線分析計SEA5120(セイコーインスツルメンツ社製の商品名)にて測定した。この後の電解パラジウムめっき皮膜の膜厚、電解金めっき皮膜の膜厚も同じ機器にて測定した。
【0045】
続いて、本発明の電解用パラジウムめっき液を用いて、温度60℃、陰極電流密度0.5A/dmで、下記の各実施例、比較例の目的膜厚になるように電解パラジウムめっき処理を行った。
【0046】
続いて、市販の電解金めっき液アフタープレート(日本高純度化学株式会社製の商品名)に、温度50℃、陰極電流密度0.09A/dmで0.005μmの電解金めっき皮膜を形成した。
【0047】
<ワイヤボンディング強度の測定方法>
図2に、ワイヤボンディング強度の測定方法の概略図を示す。上記めっき工程の説明に記載の方法で形成させたリードフレームを、240℃のオーブンで30秒加熱後、パッド部分にウエッジ−ウエッジ型ボンダー WEST BOND 5400−45G(WEST BOND社製)を使用して、金ワイヤ径25μmφ、荷重80g、温度120℃、超音波Power1を1000mWで35msec、超音波Power2を1000mWで35msecの条件でワイヤボンディングし、図2に示した「プル試験引っ張り方向」に引っ張り、ボンディングされた金ワイヤの破断直前のピール強度と、金ワイヤの破断箇所を観察した。ピール強度が8.0g以上、かつ図2における破断箇所がネック切れ「○」であるものを「良好」とし、ワイヤー剥がれ「×」のものを「不良」とした。
【0048】
<メニスコグラフ法による「はんだぬれ性」の測定方法>
図3に、メニスコグラフの測定原理を示す。なお、実際には溶融はんだが上昇するが、簡略化のために試料が下降する図にしてある。めっき皮膜を形成させたリードフレームを400℃のオーブンで60秒加熱後、アウターリード部分を切り取って先端にフラックス(タムラ化研製、SOLDERITE NA−200)を塗布し、専用のチャックに挟んだ。鉛フリーはんだ(千住金属社製、Sn96.5% Ag3% Cu0.5%)を、250℃で溶融してあるメニスコグラフ法はんだぬれ性測定器(RHESCA社製、SAT5100)に、上記測定試料が保持されたチャックを取り付けた。
【0049】
測定器のはんだポットが10mm/秒の速さで上昇する(図3中、AからB)。試料がはんだに5.0mm浸漬するとはんだポットの上昇が止まり(図3中、C)、試料がはんだと接触(図3中、B)してから5.0秒後に下がる(図3中、F)。サンプルにかかる力は、試料の浸漬部分の浮力の大きさと、試料表面にはんだがぬれる力で決まる。はんだと接触することによって、最初はんだからの浮力によって上向きだった力は、ぬれが生じることによって下向きの力になる。はんだと接触(図3中、B)してから、2つの力が丁度はんだと接触させる前と同じになったとき(図3中、D)を「ゼロクロスタイム」といい、この時間(図3中、BからDまでの時間)が2秒以下のものを「良好」とした。同様に、n=1からn=3まで3回測定した。
【0050】
<めっきランニング性の評価方法>
電解用パラジウムめっき液1Lに対して、0.1dmの脱脂した銅板を用いて電解めっきを行った。消費したパラジウム量を随時補充しながら、パラジウム総消費量/建浴時のパラジウム量(以下、「MTO」と記す)を測定し、3MTOまでパラジウムを消費させた後の液で「はんだぬれ性」の測定を行った。この時の「はんだぬれ性」が新建浴時から変化していないものを、めっきランニング性が優れているものとした。
【0051】
実施例1
以下の組成の電解用パラジウムめっき液を調製し、アンモニア水及びリン酸でpHを7.5〜8.5に調整した。
ジクロロテトラアンミンパラジウム 3.0g/L(パラジウム換算で)
2−ナフタレンスルホン酸ナトリウム 3.0g/L
硝酸アンモニウム 125g/L
酢酸アンモニウム 50g/L
塩化アンモニウム 10g/L
【0052】
図1に示す銅素材のリードフレームのパッド部分に、上記方法で1.0μmの電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、上記の電解用パラジウムめっき液を用い、上記方法で0.01μmの電解パラジウムめっきを行い、次いで、上記方法で0.005μmの電解金めっき皮膜を形成させた。
【0053】
かくして得られためっきフレームに対してワイヤーボンディング強度の測定を行ったところ、20個の平均ピール強度は9.1gであり、破断箇所評価は、20個全て「○」である、という結果が得られた。
【0054】
実施例2
実施例1と同じ組成の電解用パラジウムめっき液を調製し、アンモニア及びリン酸でpHを7.5〜8.5に調整した。電解パラジウムめっき皮膜の膜厚を0.03μmに変えた以外は、実施例1と同様にめっきフレームを得た。
【0055】
かくして得られためっきフレームを、400℃のオーブンで60秒加熱後、アウターリード部のはんだぬれ性を評価した。結果は表1に示すように、新建浴時も3MTO後も共に良好であり、めっきランニング性に優れていた。
【0056】
実施例3
以下の組成の電解用パラジウムめっき液を調製し、アンモニア及びリン酸でpHを7.5〜8.5に調整し、実施例2と同様にめっきフレームを得て、実施例2と同様にはんだぬれ性の測定を行った。結果は表1に示すように、新建浴時も3MTO後も共に良好であり、めっきランニング性に優れていた。
【0057】
ビス(エチレンジアミン)パラジウム塩化物 3.0g/L(パラジウム換算で)
1,5−ナフタレンジスルホン酸2ナトリウム 3.0g/L
硫酸ナトリウム 125g/L
コハク酸ナトリウム 50g/L
塩化アンモニウム 10g/L
【0058】
比較例1
実施例2の電解用パラジウムめっき液の2−ナフタレンスルホン酸ナトリウムをナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸3ナトリウムに代えた以外は、実施例2と同様にめっきフレームを得て、実施例2と同様にはんだぬれ性の測定を行った。結果は表1に示すように、新建浴時も3MTO後も共に劣っていた。また、ワイヤーボンディング試験も実施例1と同様に行ったところ、破断箇所評価は、20個全て「○」であったが、20個の平均ピール強度は7.1gであり、劣っていた。
【0059】
比較例2
実施例2の電解用パラジウムめっき液の2−ナフタレンスルホン酸ナトリウムを除いた以外は、実施例2と同様にめっきフレームを得て、実施例2と同様にはんだぬれ性の測定を行った。結果は表1に示すように、新建浴時も3MTO後も共に劣っていた。
【0060】
比較例3
実施例2の電解用パラジウムめっき液の2−ナフタレンスルホン酸ナトリウムをβ−ナフトールエトキシレート(2−ナフトールのエチレンオキサイド12モル付加物)に代えた以外は、実施例2と同様にめっきフレームを得て、実施例2と同様にはんだぬれ性の測定を行った。結果は表1に示すように、3MTO後が劣っており、めっきランニング性が悪いことが分かった。
【0061】
比較例4
実施例2の電解用パラジウムめっき液の2−ナフタレンスルホン酸ナトリウムを3−ピリジンスルホン酸ナトリウムに代えた以外は、実施例2と同様にめっきフレームを得て、実施例2と同様にはんだぬれ性の測定を行った。結果は表1に示すように、新建浴時も3MTO後も共に2秒を越えており、はんだぬれ性に劣っていた。
【0062】
【表1】

表1中の数字は、図3のBからDまでの時間で、単位は「秒」である。
【0063】
以上の実施例、比較例は、リードフレームへの電解パラジウムめっきについてのみ記述したが、上記測定で良好な結果得られたということは、これ以外に、コネクター、基板端子等に対しても、同様に良好な効果を発揮することは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の電解用パラジウムめっき液を用いて形成しためっき皮膜は、はんだぬれ性、そのランニング性、ワイヤーボンディング性に優れているため、リードフレーム、コネクター、基板端子等に広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例と比較例で用いた、一般的なリードフレームを示す図である。
【図2】本発明の実施例で用いた、「ワイヤボンディング強度」の測定方法の概略を示す図である。すなわち「ピール強度」の測定方法と「破断箇所評価」の判定基準を示す図である。ワイヤ剥がれが破断箇所評価「×」、ネック切れが破断箇所評価「○」である。
【図3】本発明の実施例と比較例で用いた、メニスコグラフ法による「はんだぬれ性」の測定方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性パラジウム塩、及び、置換基を有していてもよいナフタレンモノスルホン酸若しくはナフタレンジスルホン酸又はそれらの塩を含有することを特徴とする電解用パラジウムめっき液。
【請求項2】
置換基を有していてもよいナフタレンモノスルホン酸若しくはナフタレンジスルホン酸又はそれらの塩が、ナフタレンモノスルホン酸若しくはナフタレンジスルホン酸、それらのナトリウム塩、それらのカリウム塩又はそれらのアンモニウム塩である請求項1に記載の電解用パラジウムめっき液。
【請求項3】
前記水溶性パラジウム塩が、パラジウムの塩化物、パラジウムの硫酸塩、パラジウムの硝酸塩、パラジウムのリン酸塩若しくはパラジウムの亜硫酸塩、又は、それらのアンモニア錯体若しくはアミン錯体である請求項1又は請求項2に記載の電解用パラジウムめっき液。
【請求項4】
前記置換基を有していてもよいナフタレンモノスルホン酸若しくはナフタレンジスルホン酸又はそれらの塩が、該めっき液全体に対して、0.001g/L〜50g/L含有されている請求項1ないし請求項3に記載の電解用パラジウムめっき液。
【請求項5】
前記水溶性パラジウム塩が、該めっき液全体に対して、パラジウムに換算して、0.1g/L〜50g/L含有されている請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の電解用パラジウムめっき液。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の電解用パラジウムめっき液を用いて形成されたことを特徴とする電解パラジウムめっき皮膜。
【請求項7】
金属基板上に、電解ニッケルめっき皮膜、電解パラジウムめっき皮膜、電解金めっき皮膜を順次形成させたリードフレームであって、該電解パラジウムめっき皮膜が、請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の電解用パラジウムめっき液を用いて形成されたものであることを特徴とするリードフレーム。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−262507(P2007−262507A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90099(P2006−90099)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(399133947)日本高純度化学株式会社 (8)
【Fターム(参考)】