説明

電解用陽極を使用するフッ素含有物質の電解合成方法

【課題】無水フッ化水素を含有する電解浴での電解などに於いて、陽極効果が発生せず、電極溶解による著しいスラッジの発生がなく、CF4の発生を抑制でき、且つ電極崩壊を起こすことなく安定に電解を継続できる陽極材料を提供する。
【解決手段】グラッシーカーボンから成る導電性材料基体の少なくとも一部を導電性ダイヤモンド膜で被覆した電解用電極を用いて、無水フッ化水素、または無水フッ化水素に被フッ素化物を添加した電解浴を電解してフッ素またはフッ素含有化合物を電解合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無水フッ化水素を含有する電解浴での電解などに於いて、高電流密度を印加しても陽極効果が発生せず、電極溶解による著しいスラッジの発生がなく、CF4の発生を抑制でき、且つ電極崩壊を起こすことなく安定に電解を継続できる陽極材料を使用する電解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無水フッ化水素(無水HF)中へ無機、或いは有機化合物を溶解した溶液を電解浴とし、電解によって無機フッ素化合物、有機フッ素化合物、或いはフッ素ガスを合成する電解法は工業的に実用されている。
【0003】
また、無水HFは導電率が充分ではないため、高電流密度操業を意図する場合には、しばしば、導電助剤として、フッ化カリウム(KF)などのアルカリ金属フッ化物、またはアルカリ土類金属フッ化物が電解浴に添加される。
【0004】
樹脂合成、化学薬品合成、及び医薬品合成などでフッ素化剤として汎用されるフッ素ガス(F2)は、無水HF中へ導電助剤としてフッ化カリウム(KF)を添加したKF・HF系電解浴を電解することで合成され、半導体分野などでドライエッチャント、或いはクリーニングガスとして汎用される三フッ化窒素ガス(NF3)は、無水HF中へ被フッ素化物としてアンモニアを溶解したNH4F・HF系電解浴を電解することで合成される。
【0005】
また、被フッ素化物として無機、或いは有機化合物を無水HFに溶解させた溶液を電解浴とし、フッ素ガスが発生するよりも低い電圧で電解することでペルフルオロ化合物を合成する方法は、シモンズ法として知られている。
【0006】
これらのいずれの電解方法でも、無水HFの著しい腐食性によって電解槽、及び電極材料に使用できる材料は限られており、特に陽極材料として使用しうる材料は、ニッケル、或いは炭素に限られる。
【0007】
ニッケルを陽極に使用した場合はその消耗が著しく加速されるため、陽極には炭素が多用される。
【0008】
炭素陽極では、ニッケル陽極に見られる電極の消耗が小さいことが利点として挙げられるが、電極の不動体化現象、いわゆる陽極効果によって電解継続が困難となる問題がしばしば発生する。
【0009】
炭素陽極による陽極反応では、目的反応であるフッ化物イオンの放電反応と共に、フッ化グラファイト生成反応が進行する。一方、生成したフッ化グラファイトは、電極反応で生じたジュール熱による熱分解、或いは不均化反応により一部分解する。共有結合性のフッ化グラファイトは電解浴との濡れ性が低いため、フッ化グラファイトの生成速度が分解速度より大きい場合には、電極表面がフッ化グラフィイトで被覆され陽極効果が発生する。フッ化グラファイトの生成速度は電流密度に依存するため、電流密度が高い程、陽極効果が発生しやすくなる。
【0010】
電解浴中に水分が存在する場合、フッ化物イオンの放電反応よりも卑な電位である水の分解反応が優先して起こるが、この時、水と炭素陽極の反応で酸化グラファイトが生成する。この酸化グラファイトが化学的に不安定であるため、フッ素との置換反応が容易に進行し、フッ化グラファイトが生成する。従って、電解浴中の水分濃度が高い程、フッ化グラファイトの生成が促進され、陽極効果が発生しやすくなる。
【0011】
従って、炭素陽極での陽極効果を抑制するためには、電解浴中水分濃度を極小とすること、および、陽極効果が発生する電流密度(臨界電流密度)以下の電流密度で電解を行うことが必要である。実際の工業電解においては、前者の目的のために脱水電解などの煩雑な操作が実施され、後者の目的のために操業電流密度を制限している。これらによって、目的物の生産速度が制限され、電解合成の採算性向上を阻害している。
【0012】
一方、無水HFが炭素電極内部に浸透して電極が膨張するため、この膨張による電極の割れ、崩壊もしばしば発生する。HFの炭素電極内への浸透を防止するために、電極表面を溶射やめっきによってニッケル被覆する方法などが実用されているが、後述のようにニッケルにも問題があるため、本質的な解決策は見出されていない。また、KFなどの電解浴中の導電助剤濃度を上げることによって、無水HFの蒸気圧を下げることも適用されるが、導電助剤濃度の上昇により電解浴の融点が上昇するために操業温度を上げる必要があり、限界がある。
【0013】
ニッケルは、無水HF中にアンモニア、アルコール、アミンなどの被フッ素化物質を添加した電解浴中での電解において、陽極として汎用される。ニッケル陽極では、炭素陽極に見られる陽極効果が発生しない利点があるが、電解中に消耗が進行する。
【0014】
ニッケル陽極の消耗量は通電量の3〜5%に達し、消耗したニッケル陽極の交換費用は電解電力費にほぼ匹敵する。また、電解浴中にニッケルが溶解することで電解浴の粘度が増大し、電解浴の温度制御が困難となるため、定期的な電解浴交換も必要となる。このように、ニッケル陽極では、陽極交換と電解浴交換、及びそれに伴う操業停止が不可欠であり、電解合成の採算性向上を阻害する要因となっている。
【0015】
特許文献1では、シリコン基体表面をホウ素ドープダイヤモンド膜で被覆した電極および該電極を用いた電解フッ素化方法を開示している。また、特許文献2では、導電性炭素材料基体表面を導電性ダイヤモンドで被覆した電極及び該電極を用いたフッ素含有物質の電解合成方法を開示している。特許文献3は、グラファイト板や、ニッケルあるいはステンレスにガラス状炭素を被覆した導電性基板を導電性ダイヤモンドで被覆した電極及び該電極を用いたフッ素含有物質の電解合成方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2000−204492号公報
【特許文献2】特開2006−249557号公報
【特許文献3】国際公開第2007/083740号公報(段落0065、0068、実施例1及び2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明者らは鋭意検討した結果、特許文献1記載のシリコン基体表面をホウ素ドープダイヤモンド膜で被覆した電極では、ホウ素ドープダイヤモンド膜で不可避的に発生するピンホールから浸透した電解浴中の無水HFによってシリコン基体が腐食されるために電極構造の維持が困難であること、また、特許文献2記載の導電性炭素材料表面を導電性ダイヤモンドで被覆した電極、及び特許文献3記載のグラファイト板を導電性ダイヤモンドで被覆した電極では、電解浴中の無水HF濃度が高い場合、特に電解浴中のHFのモル濃度が、被フッ素化物または導電助剤のモル濃度の3倍以上の場合、導電性炭素材料、及びグラファイト板に無水HFが浸透することによって電極基体が崩壊するという課題を見出した。
【0018】
前述の通り、無水HFを含有する電解浴での電解用電極としては、炭素電極の見られる陽極効果や崩壊が発生せず、且つ、ニッケル陽極に見られる消耗が進行しない電極が待ち望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、グラッシーカーボンから成る導電性材料を基体とし、その基体の少なくとも一部を導電性ダイヤモンド膜で被覆した電解用電極を用いて、無水HF、または無水HFに被フッ素化物を添加した電解浴を電解してフッ素またはフッ素含有化合物を電解合成する方法を提供するものである。
【0020】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、鋭意検討した結果、グラッシーカーボンから成る導電性基体の少なくとも一部を導電性ダイヤモンド膜で被覆した電解用電極は、無水HFを含有する電解浴での電解に於いて、電解浴中の無水HF濃度が高い場合であっても、陽極効果、電極の消耗、電極の崩壊が発生せず、長期の電解継続が可能な電極であることを発見した。
【0021】
グラッシーカーボンは、セルロースやセルロース樹脂、フラン樹脂といった熱硬化性樹脂を前駆体とし、該前駆体を成形後に固相炭化処理することによって製造されるガラス様の外観を持つ炭素材料であり、その特徴としては、高硬度、化学的安定性、耐摩耗性、気体及び液体不透過性などが挙げられる。その構造は均質、且つ結晶形を持たない無定型であり、多数の気孔が存在するが、その大半は閉気孔でるため開気孔が殆ど存在しない。このような特徴を有するグラッシーカーボンを導電性基体とする導電性ダイヤモンド電極では、HF含有濃度が高い電解浴であっても、無水HFが基体内部まで浸透しにくく、電極膨張とそれに続く電極崩壊が発生しない。
【0022】
また、基体表面の一部を導電性ダイヤモンドで被覆することによって、フッ化グラファイトの生成に起因する陽極効果や、電極消耗が発生しない。
【0023】
例えば、フッ素含有化合物として、ペルフルオロトリメチルアミンを製造するためには、無水HF及び被フッ素化物として、(CH34NF・5HFなる組成の電解浴を用いることによって効率的に合成することが可能である。ニッケル電極を用いる場合には不動体化の不都合があり、CsF・2HFの添加が必要であるが、CsF・2HFを添加した場合であっても、電極消耗は進行する。炭素を陽極として用いる場合には、陽極効果の発生や、無水HFの基体への浸透による電極の崩壊が発生する。導電性炭素材料基体表面を導電性ダイヤモンドで被覆した電極を用いる場合には無水HFの基体への浸透による電極の崩壊が発生する。
【0024】
これに対し、グラッシーカーボンから成る導電性材料を基体とし、その基体表面の少なくとも一部を導電性ダイヤモンド膜で被覆した電極を用いる場合、陽極効果、電極の消耗、電極の崩壊が発生することなく長期の電解継続が可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、無水HFを含有する電解浴の電解による無機フッ素化合物、有機フッ素化合物、及びフッ素ガスの合成などにおいて、グラッシーカーボンからなる導電性材料を基体とし、その表面の少なくとも一部を導電性ダイヤモンド膜で被覆した電極を用いたフッ素またはフッ素含有化合物の電解合成方法を提案するもので、これにより、無水HF含有濃度が高い電解浴であっても、陽極効果、電極消耗、及び電極崩壊が発生せず、長期の電解継続が可能となり、無機フッ素化合物、有機フッ素化合物、及びフッ素ガスの生産性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の提案する電解用電極の詳細を説明する。
本発明からなる電極の導電性基体は、グラッシーカーボンから成り、その形状は特に限定されず、板状、棒状、パイプ状、或いは球状などが使用できる。グラッシーカーボンの気体透過度は、10-7cm2/sec以下であることが好ましく、更に好ましくは10-10cm2/sec以下である。
【0027】
前記導電性基体表面の少なくとも一部を被覆する導電性ダイヤモンド膜の被覆方法は特に限定されず、任意のものを使用できる。代表的な製造法としては熱フィラメントCVD(化学蒸着)法、マイクロ波プラズマCVD法、プラズマアークジェット法及び物理蒸着(PVD)法などが選択できる。
【0028】
導電性ダイヤモンド膜を被覆する場合、いずれの方法でも水素ガス及びダイヤモンド原料である炭素源の混合ガスが用いるが、ダイヤモンドに導電性を付与するために、原子価の異なる元素(以下、ドーパント)を微量添加する。ドーパントとしては、硼素、リンや窒素が好ましく、好ましい含有率は1〜100,000ppm、更に好ましくは100〜10,000ppmである。また、いずれのダイヤモンド膜被覆方法を用いた場合であっても、被覆された導電性ダイヤモンド膜は多結晶であり、ダイヤモンド膜中にアモルファスカーボンやグラファイト成分が残存する。
【0029】
ダイヤモンド膜の安定性の観点からアモルファスカーボンやグラファイト成分は少ない方が好ましく、ラマン分光分析において、ダイヤモンドに帰属する1332cm-1付近(1312〜1352cm-1の範囲)に存在するピーク強度I(D)と、グラファイトのGバンドに帰属する1560cm-1付近(1540〜1580cm-1の範囲)のピーク強度I(G)の比I(D)/I(G)が1以上であり、ダイヤモンドの含有量がグラファイトの含有量より多くなることが好ましい。
【0030】
代表的な導電性ダイヤモンド膜の被覆方法である熱フィラメントCVD法について説明する。
炭素源となるメタン、アルコール、アセトンなどの有機化合物とドーパントを水素ガスなどと共にフィラメントに供給する。フィラメントを水素ラジカルなどが発生する温度1800−2800℃に加熱し、この雰囲気内にダイヤモンドが析出する温度領域(750〜950℃)になるように導電性基体を配置する。混合ガスの供給速度は反応容器のサイズに依るが、圧力は15〜760Torrであることが好ましい。
【0031】
導電性基体表面を研磨することは、基体とダイヤモンド層の密着性が向上するため好ましく、算術平均粗さRa0.1〜15μm、最大高さRz1〜100μmが好ましい。また、基体表面にダイヤモンド粉末を核付けすることは、均一なダイヤモンド膜成長に効果がある。基体上には通常0.001〜2μmの粒径のダイヤモンド微粒子層が析出する。該ダイヤモンド膜の厚さは蒸着時間により調節することができるが、経済性の観点から1〜10μmとするのが好ましい。
【0032】
電解槽の材質は、無水HFに対する耐食性の点から、軟鋼、ニッケル合金、及びフッ素系樹脂などを使用することができる。陽極で合成されたF2またはフッ素化合物と、陰極で発生する水素ガスの混合を防止するため、陽極側と陰極側が、隔壁、隔膜などによって全部、或いは一部が区画されることが好ましい。
【0033】
陽極で発生した無機、有機フッ素化合物、またはフッ素ガスに同伴する微量の無水HFは、顆粒状のフッ化ナトリウムを充填したカラムを通すことで除去できる。また、微量の窒素、酸素、及び一酸化二窒素などの副生成物が発生するが、このうち一酸化二窒素は水とチオ硫酸ナトリウムを通過させることで除去し、酸素は活性炭により除去することができ、副生成物の混入が少ない無機、有機フッ素化合物、またはフッ素ガスを得ることができる。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
導電性基体としてグラッシーカーボン板を使用し、熱フィラメントCVD装置を用いて、以下の条件で導電性ダイヤモンド電極を作成した。
【0036】
まず、粒径1μmのダイヤモンド粒子からなる研磨剤を用いて、基体表面を研磨した。基体表面のRa0.2μm、10点表面粗さRz6μmであった。次いで、平均粒径4nmのダイヤモンド粒子を基体表面に核付けした後、熱フィラメントCVD装置に装着した。水素ガス中に1vol%のメタンガスと0.5ppmのトリメチルボロンガスを添加した混合ガスを、5リットル/minの速度で装置内に流しながら、装置内圧力を75Torrに保持し、フィラメントに電力を印加して温度2400℃に昇温した。このとき基体温度は860℃であった。
【0037】
8時間CVD操作を継続し、CVD操作終了後に基体を分析した。ラマン分光分析及びX線回折分析によりダイヤモンドが析出していることが確認され、ラマン分光分析における1332cm-1のピーク強度と1560cm-1のピーク強度の比は、1対0.4であった。また、基体の一部を破壊してSEM観察したところ、厚さは約4μmであった。
【0038】
作製した導電性ダイヤモンド電極を、0℃に保持した無水HF浴に陽極として取付け、陰極にニッケル板、参照極に白金を使用して、定電流クロノポテンショメトリーにより電流−電位曲線の測定を実施した。
【0039】
測定開始直後、電流密度5mA/cm2印加時の陽極電位は0.6Vであった。その後、電流密度を5mA/cm2ずつ増流しながら陽極電位を測定したところ、電流密度200mA/cm2印加時の陽極電位は3.2Vであった。電解生成物として、フッ素ガスが得られた。
【0040】
電解を停止して陽極を取り出し、外観観察したところ、電極崩壊、及び導電性ダイヤモンド膜の剥離は認められなかった。
【0041】
(比較例1)
陽極にグラファイト板を用いた以外は実施例1と同様の電解条件で、0℃に保持した無水HF浴中で電流−電位曲線の測定を実施した。
【0042】
測定開始直後、電流密度5mA/cm2印加時の陽極電位は0.7Vであった。その後、電流密度を5mA/cm2ずつ増流しながら陽極電位を測定したところ、電流密度70mA/cm2印加時に急激に陽極電位が上昇するとともに電流が殆ど流れなくなり、電解継続が困難となった。
【0043】
電解を停止して陽極を取り出したところ、電解槽内で陽極が粉々に砕けていた。
【0044】
(比較例2)
陽極にニッケル板を用いた以外は実施例1と同様の電解条件で、0℃に保持した無水HF浴中で電流−電位曲線の測定を実施した。
【0045】
測定開始直後、電流密度5mA/cm2印加時の陽極電位は0.6Vであった。その後、電流密度を5mA/cm2ずつ増流しながら陽極電位を測定したところ、電流密度50mA/cm2印加時に陽極電位が経時的に上昇し、ついには電流が殆ど流れなくなり、電解継続が困難となった。
【0046】
電解を停止して陽極を取り出したところ、電極崩壊は認められなかった。該電極の表面を分析したところNi−F結合が認められ、電極表面で絶縁性のNiF2被膜の形成が推察された。
【0047】
(比較例3)
導電性基体としてシリコン板を使用した以外は実施例1と同様の手順で導電性ダイヤモンド電極を作製した。
【0048】
該電極を陽極として使用した以外は実施例1と同様の電解条件で、0℃に保持した無水HF浴中で電流−電位曲線の測定を実施した。
【0049】
測定開始直後、電流密度5mA/cm2印加時の陽極電位は0.6Vであった。その後、電流密度を5mA/cm2ずつ増流しながら陽極電位を測定したところ、電流密度200mA/cm2印加時の陽極電位は3.8Vであった。
【0050】
電解を停止して陽極を取り出し、外観観察したところ、電解浴に浸漬された部分のダイヤモンド膜の一部喪失しており、ダイヤモンド膜が喪失した部分のシリコン基体表面の腐食が観察された。
【0051】
(比較例4)
導電性基体としてグラフィイト板を使用した以外は実施例1と同様の手順で導電性ダイヤモンド電極を作製した。
【0052】
該電極を陽極として用いた以外は実施例1と同様の方法で、0℃に保持した無水HF浴中で電流−電位曲線の測定を実施した。
【0053】
測定開始直後、電流密度5mA/cm2印加時の陽極電位は0.6Vであった。その後、電流密度を5mA/cm2ずつ増流しながら陽極電位を測定したところ、電流密度70mA/cm2印加時に急激に陽極電位が上昇するとともに電流が殆ど流れなくなり、電解継続が困難となった。
【0054】
電解を停止して陽極を取り出したところ、電解槽内で陽極が粉々に砕けていた。
【0055】
(実施例2)
導電性基体としてグラッシーカーボン板を使用し、熱フィラメントCVD装置を用いて、実施例1と同様の方法で導電性ダイヤモンド電極を作成した。
【0056】
この電極を、無水HF及び被フッ素化物よりなる電解浴として、建浴直後の(CH34NF・5HF電解浴に取付け、陰極にニッケル板、参照極にCu/CuF2を使用して、電流密度100mA/cm2で定電流電解を実施した。電解開始直後の陽極電位を測定したところ、4.6Vであり、電解200時間経過後の陽極電位は4.8Vであった。電解生成物として、ペルフルオロトリメチルアミン(CF33Nが合成された。
【0057】
電解を停止して陽極を取り出し、外観観察したところ、電極崩壊、及び導電性ダイヤモンド膜の剥離は認められなかった。電解200時間経過までに陽極効果の発生もなかった。
【0058】
(比較例5)
陽極にグラファイト板を用いた以外は実施例2と同様の方法で、建浴直後の(CH34NF・5HF電解浴中で電解を実施した。
【0059】
電解開始直後から陽極電位が急激に上昇するとともに電流が殆ど流れなくなり、電解継続が困難となった。
【0060】
電解を停止して陽極を取り出し、電極表面の水との接触角を測定したところ150度であったことから、いわゆる陽極効果の発生が認められた。
【0061】
(比較例6)
陽極にニッケル板を用いた以外は実施例2と同様の方法で、建浴直後の(CH34NF・5HF電解浴中で電解を実施した。
【0062】
電解開始直後から陽極電位が徐々に上昇し、ついには電流が殆ど流れなくなり、電解継続が困難となった。
【0063】
電解を停止して陽極を取り出し、電極表面を分析したところNi−F結合が認められ、電極表面での絶縁性のNiF2被膜の形成が推察された。
【0064】
(比較例7)
導電性基体としてシリコン板を使用した以外は実施例1と同様の手順で導電性ダイヤモンド電極を作製した。
【0065】
該電極を陽極として用いた以外は実施例2と同様の方法で、建浴直後の(CH34NF・5HF電解浴中で電解を実施した。
【0066】
電解開始直後の陽極電位は4.6Vであったが、電解開始14時間後より陽極電位が徐々に上昇し、ついには電流が殆ど流れなくなり、電解継続が困難となった。
【0067】
電解を停止して陽極を取り出し、外観観察したところ、電解浴に浸漬された部分のダイヤモンド膜は殆ど喪失しており、シリコン基体表面が腐食していることを確認した。
【0068】
(比較例8)
導電性基体としてグラファイト板を使用した以外は実施例1と同様の手順で導電性ダイヤモンド電極を作製した。
【0069】
該電極を陽極として用いた以外は実施例2と同様の方法で、建浴直後の(CH34NF・5HF電解浴中で電解を実施した。
【0070】
電解開始直後の陽極電位は4.6Vであったが、電解開始70時間後より陽極電位が徐々に上昇し、ついには電流が殆ど流れなくなり、電解継続が困難となった。
【0071】
電解を停止して陽極を取り出したところ、電解槽内で陽極が粉々に砕けていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラッシーカーボンから成る導電性材料を基体とし、その基体の少なくとも一部を導電性ダイヤモンド膜で被覆した電解用電極を用いて、無水フッ化水素、または無水フッ化水素に被フッ素化物を添加した電解浴を電解してフッ素またはフッ素含有化合物を電解合成する方法。

【公開番号】特開2012−57255(P2012−57255A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−266948(P2011−266948)
【出願日】平成23年12月6日(2011.12.6)
【分割の表示】特願2009−21157(P2009−21157)の分割
【原出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(390014579)ペルメレック電極株式会社 (62)
【Fターム(参考)】