説明

電解用電極及びその製造方法

【課題】高い酸素発生電位と酸化能力を有し、かつ高い電流密度での使用においても安定性に優れた電解用電極とその製造方法を提供すること。
【解決手段】金属基体の表面に耐食中間層と、耐食中間層表面に触媒層を有する電解用電極において、触媒層が、酸化スズ、酸化アンチモン及び白金を含有することを特徴とする電解用電極。本発明の電解用電極は、高い酸素発生電位と酸化能力を有し、かつ、安定性に優れるため、耐食性導電被覆材料としても好適に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的化学反応において使用される電解用電極に関するものであり、より詳しくは、電解液中における金属イオンを酸化するための電解用電極、有機物を酸化処理するための電解用電極、オゾン及び/又は酸素を生成するための電解用電極、ハロゲン酸イオン及び/又は過ハロゲン酸イオンを生成するための電解用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、爆薬原料等となる過塩素酸ナトリウムに代表される過ハロゲン酸塩類、塩素酸塩類やヨウ素酸塩類等その他酸化剤原料の製造、水電解によるオゾンの生成、あるいは有機合成又は水処理用等の工業電解用陽極として、チタン製芯材の表面に二酸化鉛を電着した電解用電極が使用されていた。
【0003】
二酸化鉛は金属導電性を有する化合物であり、卓越した耐久性を有し、特に酸性浴中で陽分極時に極めて安定であり、更に電着法により比較的容易に製造できるなどから、広範囲な用途に長年使用されてきた。
【0004】
しかしながら、二酸化鉛電極は高耐久性を有するものの、電解使用において徐々に消耗して電解液中に有害物質である鉛イオンが溶出し、自然界に放出されてしまう恐れがある点等が問題視されている。また、その二酸化鉛電極を製造する工程では大量の鉛化合物が産業廃棄物として出されてしまう等、この二酸化鉛電極は環境負荷が大きい問題があり、近年は環境負荷が小さい代替電極が求められている。
【0005】
特許文献1にはホウ素をドープしたダイヤモンドを陽極に用いて有機化合物を酸化分解できることが示唆されており、二酸化鉛電極の代替として期待されている。
【0006】
導電性ダイヤモンド電極は二酸化鉛電極の代替電極として注目され長年に渡り研究開発が続けられているが、その製造法は化学気相成長法に限られることから、製造装置が複雑となり、工業用の大面積の電極を製造するには大きな設備投資を要し、生産性にも劣ることから、未だに工業的には実用化されていない。
【0007】
これまでに、二酸化鉛電極の代替として酸化スズ電極を使用する試みは行われてきたが、酸化スズ自身はn型半導体のため、その導電性は低く、そのままでは電解用電極として用いることはできない。そのため、酸化スズの結晶構造中に酸化アンチモンをドープし、正孔を注入することで導電性を増大して電極として利用する方法が試みられてきた。
【0008】
例として、酸化スズ粉末と酸化アンチモン粉末とを混合して、高温高圧下で焼結することで得られるバルク型の酸化スズ電極では、アンチモンドープされた酸化スズ自身の抵抗が金属に比べて非常に大きくなり、工業的な大電流密度での使用が困難であり実用的ではない。そこで、良導電体である金属基体上にアンチモンがドープされた酸化スズ薄膜を形成させるなど、薄膜化によりバルク抵抗を下げて電極とする方法が考えられるが、産業用として利用された方法はこれまでなかった。
【0009】
特許文献2には、共沈法により得られる酸化スズ粉末、酸化アンチモン粉末、白金族金属酸化物を含む塗布液を調製後、該塗布液を塗布し、熱処理によって得られるアンチモン及び白金族金属酸化物がドープされた酸化スズ薄膜層を形成することで、電極自身の抵抗を下げて、大電流密度が得られる酸化スズ電極が提案されている。
【0010】
しかしながら、スズ、アンチモン、白金族金属酸化物の加水分解・重縮合反応速度がそれぞれに異なることから、共沈法により目的とする酸化スズ、酸化アンチモン、白金族金属酸化物の各濃度に調整することは困難を極め、工業的スケールでは応用が難しい欠点がある。また、導電性を向上する目的で白金族金属酸化物を加えるこの方法では、高い導電性を得ることはできず、しかも酸化スズ特有の高い酸素発生電位と酸化能力が得られない欠点がある。さらに当該文献ではチタン基材と触媒層との界面に、耐久性を高めることを目的に酸化チタンと酸化タンタルの複合酸化物層を形成することを提案しているが、この構造では耐酸化性は改善されるものの、導電性に劣り、結果的に高い電流密度下の使用において耐久性を維持するのには無理があった。
【0011】
以上より、二酸化鉛に匹敵する高い酸素発生電位と酸化能力を有し、かつ高い電流密度での使用においても安定性に優れた電解用電極が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平7−299467号公報
【特許文献2】特開2006−322056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、二酸化鉛に匹敵する高い酸素発生電位と酸化能力を有し、かつ高い電流密度での使用においても安定性に優れた電解用電極とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題に鑑みてなされたものであり、金属基体の表面に耐食中間層と、耐食中間層表面に触媒層を有する電解用電極において、触媒層が、酸化スズ、酸化アンチモン及び白金を含有することを特徴とする電解用電極を用いることで、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0016】
第一の発明は、金属基体の表面に耐食中間層と、耐食中間層の表面に触媒層を有する電解用電極において、
触媒層が、酸化スズ、酸化アンチモン及び白金を含有することを特徴とする電解用電極である。
【0017】
第二の発明は、触媒層が、酸化スズを99〜70モル%、酸化アンチモンを0.5〜20モル%、白金を0.5〜10モル%含有することを特徴とする第一の発明に記載の電解用電極である。
【0018】
第三の発明は、耐食中間層が、貴金属又はその合金であることを特徴とする第一又は第二の発明に記載の電解用電極である。
【0019】
第四の発明は、貴金属が、白金であることを特徴とする第三の発明に記載の電解用電極である。
【0020】
第五の発明は、金属基体が、チタン、ジルコニウム、ニオブ、鉄、タンタル及びバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属又はそれらの金属を主成分とする合金からなる金属であることを特徴とする第一から第四の発明のいずれかに記載の電解用電極である。
【0021】
第六の発明は、用途が電解液中における金属イオンを酸化するためであることを特徴とする第一から第五の発明のいずれかに記載の電極用電極である。
【0022】
第七の発明は、用途が有機物を酸化処理するためであることを特徴とする第一から第五の発明のいずれかに記載の電解用電極である。
【0023】
第八の発明は、用途が水電解によりオゾン及び/又は酸素を生成するためであることを特徴とする第一から第五の発明のいずれかに記載の電解用電極である。
【0024】
第九の発明は、用途が電解によりハロゲン酸イオン及び/又は過ハロゲン酸イオンを生成するためであることを特徴とする第一から第五の発明のいずれかに記載の電解用電極である。
【0025】
第九の発明は、金属基体の表面に耐食中間層を形成する工程と、耐食中間層の表面に触媒層を形成する工程を有する電解用電極の製造方法において、
触媒層を形成する工程が、アルコール溶媒に、塩化スズ、塩化アンチモン及び白金塩を溶解させて塗布液を作製し、耐食中間層表面に該塗布液を塗布、乾燥、熱分解し、酸化スズ、酸化アンチモン及び白金を含有する触媒層を形成する工程であることを特徴とする電解用電極の製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、チタンなどの金属基体の表面に白金金属による耐食性および導電性に優れた中間層を形成し、さらにその表面に酸化スズ、酸化アンチモン及び白金を含有させた触媒層を形成することで、二酸化鉛に匹敵する高い酸素発生電位と酸化能力を有し、かつ高い電流密度での使用においても安定性に優れた電解用電極を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明について詳細に説明する。
【0028】
本発明は、金属基体の表面に耐食中間層と、耐食中間層の表面に触媒層を有する電解用電極において、触媒層が酸化スズ、酸化アンチモン及び白金を含有することを特徴とする電解用電極である。
【0029】
<金属基体>
本発明の電解用電極において、使用される環境は強酸性や酸化性雰囲気であることが多く、また排水処理等では金属の腐食速度を加速するような有機物やフッ素化合物を含有することも多いため、金属基体としては、チタン、ジルコニウム、ニオブ、鉄、タンタル、バナジウム及びそれらの金属を主成分とする合金からなる金属など、その表面に不動態層を形成して防食性を高める金属が好ましく挙げられ、これらの中でも特にチタンが好ましく挙げられる。この金属基体と酸化スズを主成分とする電極表面層との密着性を強化するため、事前に該金属基体表面を、ブラスト処理やエッチング処理等を行い、表面積拡大、表面粗化を行ったものを使用することが好ましい。
【0030】
ブラスト処理後、表面のエッチングを行い清浄化及び活性化を行うことが望ましく挙げられる。この清浄化における酸洗浄として代表的なものは、硫酸、塩酸及びフッ酸等に前記金属基体を浸漬し表面の一部を溶解することにより活性化を行うことができる。
【0031】
<耐食中間層>
本発明に用いる耐食中間層としては、貴金属又はその合金からなる耐食中間層が挙げられる。貴金属としては、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、金、銀、パラジウム、白金が挙げられ、合金としては、前記貴金属を二種類以上混合したものが挙げられる。これらの中でも特に白金が好ましく挙げられる。
【0032】
該貴金属からなる耐食中間層の製造方法について説明する。
【0033】
本発明の電解用電極の製造方法において、耐食中間層を形成する方法としては、気相中におけるスパッタ法、イオンプレーティング法などの方法のほか、液相中におけるめっき法によってもよく、塗布液を用いて成膜後、熱分解法によっても良い。
一例として、塗布液を用いた熱分解法としては、アルコール溶媒中に白金塩を溶解させて塗布液を作製し、金属基体の表面に該塗布液を塗布、熱分解し、白金からなる耐食中間層を形成する工程を有することが好ましく挙げられる。
【0034】
上記アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。
【0035】
塗布液の塗布方法としては、スプレー塗布法、刷毛塗り法、噴霧法、カーテンフローコート法、ドクターブレード法、ディップ法が挙げられる。
【0036】
熱分解させる方法としては、まず、塗布液を塗布した金属基体を50〜120℃で10分程度乾燥させた後、200〜600℃の範囲で熱処理を行うことにより、貴金属からなる耐食中間層を形成させることができる。
【0037】
耐食中間層の厚さは、30〜10,000nmが好ましく挙げられ、50〜5000nmがより好ましく挙げられ、100〜5000nmが特に好ましく挙げられる。30nm未満では、耐久性及び導電性を維持することができず、10000nm超では、電極コストが高くなる問題がある。
耐食中間層の厚さは、電極断面観察から計測した。
【0038】
<触媒層>
本発明の触媒層は、酸化スズ、酸化アンチモン及び白金からなることを特徴としている。好ましい組成割合は、酸化スズ99〜70モル%、酸化アンチモン0.5〜20モル%、白金0.5〜10モル%が好ましく挙げられる。
酸化アンチモンの含有量が、0.5モル%未満では、導電性が低いという問題があり、20モル%超でも、酸化アンチモンが偏析してしまい、導電性が低いという問題がある。
白金の含有量が、0.5モル%未満では、導電性を高める効果が得られないという問題があり、10モル%超では、高い酸素過電圧を維持できないという問題と同時にコストが高くなる問題がある。
ただし、これら含有モル比率は、酸化スズ(SnO)、酸化アンチモン(SbO)、および白金の3成分の総量に対する比率とする。
【0039】
触媒層を形成する工程としては、スズ化合物、アンチモン化合物及び白金塩をアルコール溶媒に溶解させて塗布液を作製し、前記耐食中間層表面に該塗布液を塗布、乾燥、熱分解し、酸化スズ、酸化アンチモン、及び白金を含有する触媒層を形成する工程を有する方法が挙げられる。
【0040】
上記スズ化合物としては金属アルコキシド、塩化物、酢酸塩、有機金属化合物があり、具体的な例としては、スズ(IV)−t−ブトキシド、スズ(II)エトキシド、スズ(IV)イソプロポキシド、スズ(II)メトキシド、スズ(IV)−t−ブトキシド、スズ(IV)−n−ブドキシド、ジアリルジブチルスズ、ビス(イソオクチルマレイン酸)ジブチルスズ、二酢酸ジブチルスズ、ビス(アセチルアセトナート)ジ−n−ブチルスズ、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)ジブチルスズ、二酢酸ジブチルスズ、二塩化ジブチルスズ、ジラウリン酸ジブチルスズ、二臭化ジシクロヘキシルスズ、二臭化ジシクロヘキシルスズ、ジエチルアミノトリメチルスズ、二塩化ジエチルスズ、ジラウリン酸ジメチルスズ、ジメチルジフェニルスズ、二臭化ジメチルスズ、二塩化ジメチルスズ、ビス(2−エチルヘキサン酸)ジ−n−ブチルスズ、ジ−n−オクチルジクロロスズ、酸化ジオクチルスズ、二塩化ジフェニルスズ、二塩化ビニルスズ、酸化フェンブタスズ、ヘキサブチル二スズ、ヘキサメチル二スズ、ヘキサフェニル二スズ、三塩化メチルスズ、三塩化フェニルスズ、塩化アンモニウム第二スズ、テトラアリルスズ、テトラシクロヘキシルスズ、テトラ−n−プロピルスズ、四フェニルスズ、臭化トリエチルスズ、塩化トリベンジルスズ、臭化トリ−n−ブチルスズ、塩化トリブチルスズ、水素化トリ−n−ブチルスズ、塩化トリエチルスズ、臭化トリメチルスズ、塩化トリメチルスズ、塩化トリ−n−ブチルスズ、トリ−n−ブチル(トリメチルシルイルエチニル)スズ、酢酸トリ−n−プロピルスズ、塩化トリ−n−プロピルスズ、塩化トリフェニルスズ、オレニルトリ−n−ブチルスズ、アリルトリ−n−ブチルスズ、ヘキサクロロスズ(IV)酸アンモニウム、ビス(アセトキシジメチルスズ)オキシド、ビス(トリメチルスズ)アセチレン、ビス(トリフェニルスズ)オキシド、n−ブチルスズトリクロリド、cis−トリ−n−ブチル(1−プロペニル)スズ、ビス(2,4−ペンタンジオン酸)ジブチルスズ、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズマレイン酸塩、ジクロロジフェニルスズ、ジメチルスズオキサイド、二酢酸ジ−n−ブチルスズ、二塩化ジ−n−ブチルスズ、ジラウリン酸ジ−n−ブチルスズ、ジ−n−ブチルスズオキシド、ジ−n−ブチルスズビス(アセチルアセトナート)、ジ−n−ブチルスズビス(2−エチルヘキサノアート、ジ−n−オクチルスズオキシド、ジフェニルスズオキシド、二塩化ジ−t−ブチルスズ、ビニルスズジクロリド、エチニルトリ−n−ブチルスズ、酸化フェンブタスズ、ヘキサブチル二スズ、ヘキサ−n−ブチル二スズ、メタリルトリ−n−ブチルスズ、メチルスズトリクロリド、三塩化−n−ブチルスズ、フェニルスズトリクロリド−1−プロピニルトリ−n−ブチルスズ、塩化第二スズ五水和物、塩化第一スズ二水和物、テトラエチルスズ、テトラ−iso−プロピルスズ、テトラメチルスズ、テトラ−n−ブチルアンモニウムジフルオロトリフェニルスズ、四フェニルスズ、テトラビニルスズ(IV)、酢酸スズ(IV)、臭化スズ(IV)、塩化スズ(IV)、ビス(2,4−ペンタンジオン酸)塩化スズ(IV)、ふっ化スズ(IV)、よう化スズ(IV)、trans−1,2−ビス(トリ−n−ブチルスズ)エチレン、トリ−n−ブチル(3−メチル−2−ブテニル)スズ、トリ−n−ブチルスズアセテート、トリ−n−ブチル(ビニル)スズ、2−エチルヘキサン酸スズ(IV)、酢酸トリ−n−プロピルスズ、塩化トリ−n−プロピルスズ、酢酸トリフェニルスズ(IV)、塩化トリフェニルスズ、トリフェニルスズフルオリド等が挙げられるが、塗布液の保存安定性、環境負荷およびコストの観点から、好ましくは塩化スズが好ましく挙げられる。
【0041】
上記アンチモン化合物としては金属アルコキシド、塩化物、酢酸塩、有機金属化合物があり、具体的な例としては、アンチモン(III)ブトキシド、アンチモン(III)エトキシド、アンチモン(III)イソプロポキシド、アンチモン(III)メトキシド、アンチモンペンタフルオリド、アンチモントリ−n−ブチル、アンチモントリ−α−ナフチル、しゅう酸アンチモン、三よう化アンチモン、トリフェニルアンチモン、テトラフルオロアンチモン酸(III)アンモニウム、酢酸アンチモン(III)、臭化アンチモン(III)、塩化アンチモン(III)、ふっ化アンチモン(III)、よう化アンチモン(III)、ヘキサフルオロアンチモン酸六水和物、ヘキサフルオロアンチモン酸−1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、トリフェニルアンチモン、二臭化トリフェニルアンチモン、トリス(ジメチルアミノ)アンチモン等が挙げられるが、塗布液の保存安定性、環境負荷、経済的な観点から、好ましくはアルコキシド又は塩化物であるアンチモン化合物が好ましく、特に塩化アンチモンが好ましく挙げられる。
【0042】
白金塩としては、塩化白金酸等の一般的な白金塩を用いることができるが、ヘキサクロロ白金酸、テトラアンミン白金硝酸、ジニトロジアンミン白金硝酸塩、テトラアンミン白金塩等が挙げられ、特に、ヘキサクロロ白金酸であるヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物を用いるのが好ましく挙げられる。
【0043】
上記アルコール溶媒としては具体的にはメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノールが挙げられ、好ましくはプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノールが挙げられる。
【0044】
また、塗布液には、触媒層の導電性を高めるため、添加剤を加えてもよく、例えば、アンチモン、インジウム、鉛、チタン、ビスマス、モリブデン、タングステンやホウ酸又はリン等を含有する化合物、フッ素又は塩素等のハロゲンが挙げられる。
【0045】
塗布工程は、スプレー塗布法、噴霧法、刷毛塗り法、カーテンフローコート法、ドクターブレード法、ディップ法により塗布し、塗布膜を得ることができる。
乾燥工程は、常温における風乾でもよいが、80〜120℃の加熱下で10分程度行うのが好ましく挙げられる。
熱分解工程は、200〜650℃の温度で、10分から6時間の焼成時間で行うのが好ましいが、400〜650℃の温度で、10分から1時間で行うのが好ましく挙げられる。
【0046】
上記酸化アンチモンは、三酸化アンチモン(Sb)、四酸化アンチモン(Sb)、五酸化アンチモン(Sb)等の形態で存在し、上記酸化スズは、二酸化スズ(SnO)の形態で存在する。但し、組成及び焼成工程によっては酸素が過剰または不足することも考えられ、酸化アンチモン及び酸化スズはそれぞれSbO、SnOxの形で表せる。
【0047】
触媒層の厚みは、0.2μm未満ではピンホールやクラック等が発生し易く電解液から金属基体を保護するには不十分である上、耐食中間層である白金族金属層及び/又はその酸化物が熱拡散により酸化スズ層表面にまで達して電極触媒活性を大きく低下させる恐れがある。逆に、20μm以上では酸化スズ層自身の抵抗が大きくなり、電解電圧が異常に高くなり電極として機能させることが困難となるため、0.2〜20μmの範囲が好ましいが、導電性の観点から0.75〜5μmの範囲がより好ましく挙げられる。塗布工程、乾燥工程、熱分解工程を繰り返すことで、所望の膜厚にすることができる。
【0048】
また、あらかじめ金属基体にプレス加工等の曲げ加工、切削加工、エッチング加工等の機械加工後に、貴金属からなる耐食中間層を、次いで、その表面に触媒層の形成を行うことによって、複雑な形状の基体形成時にも触媒層を損傷することなく、酸化スズの触媒活性、耐食中間層による基体保護機能、高い導電性が確実に得ることができる。
【0049】
本発明である電解用電極の用途としては、電解液中の金属イオンを酸化する用途、有機物を酸化処理する用途、水電解によりオゾン及び/又は酸素を生成させる用途、電解によりハロゲン酸イオン及び/又は過ハロゲン酸イオンを生成させる用途が挙げられる。
【0050】
用途が電解液中における金属イオンを酸化するためである電極用電極について説明する。
上記金属イオンとしては、各種金属イオンが挙げられる。本発明の電解用電極は、金属イオンを酸化させる酸化能力に優れるため、特に三価クロムイオンを六価クロムイオンに酸化するめっき用途として用いるのが好ましく挙げられる。
めっきする方法としては、三価クロムを所定の濃度に調整した溶液に、被めっき体を陰極とし、対極として電解用電極を設置し、電流を流すことで、三価クロムを六価クロムに酸化して、被めっき体にめっきする。本発明の電解用電極を用いることで、めっき電流密度が所定の範囲内に維持できる上に、全体としては高電流密度でめっきすることができ、生産効率を上げることができる。
【0051】
用途が有機物を酸化処理するためである電解用電極について説明する。
本発明の電解用電極は、排水中の有機物を分解することで、化学的酸素要求量(COD)を低減することができる。これにより排水処理、冷却回路への微生物付着の防止等に用いることができる。
【0052】
用途が水電解によりオゾン及び/又は酸素を生成するためである電解用電極について説明する。
本発明は、白金添加により、触媒層の導電性を大きく向上させることを特徴としている。しかし、そのメカニズムについては明らかではなく、添加した白金原子が酸化スズ及び酸化アンチモンよりなる相の中に分散し、周囲の酸素と相互作用を起こすことにより導電性を高める効果に現していると考えられる。これにより電極全体に導電性を付与し、酸化スズ単独の場合と比較して大電流での電解が可能になる。前記した効果により白金を用いることで、白金族金属酸化物を用いた場合とは異なる導電性付与効果が得られ、電極全体に導電性を付与し、大電流での電解が可能となる。
【0053】
用途が電解によりハロゲン酸イオン及び/又は過ハロゲン酸イオンを生成するためである電解用電極について説明する。
上記ハロゲン酸イオン、過ハロゲン酸イオンとしては、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、臭素酸イオン、過臭素酸イオン、ヨウ素酸イオン、過ヨウ素酸イオン等が挙げられる。
本発明の電解用電極は、優れた酸化能力を有するため、爆薬原料となる過塩素酸ナトリウムに代表される過ハロゲン酸塩類等の製造に用いることができる。
【0054】
本願発明の酸化スズ、酸化アンチモン及び白金からなる触媒層を有する電解用電極は、高い酸素発生電位を有すると同時に、優れた安定性を有することを特徴としている。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は実施例によりなんら限定されるものではない。なお、本発明に用いた電解用電極の組成を表1にまとめた。
【0056】
(電極1の製造)
金属基体として10×150mm、厚さ0.5mmのチタン基体(JIS 2種)を、ショットブラスト処理した後に3N塩酸中に1分間浸漬させて酸化被膜除去を行い、純水による洗浄後120℃5分間乾燥し、電極作成用基体とした。
中間層形成用塗布液として、ブタノール250mlにヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物10g、ポリエチレングリコール(平均分子量200)1gを溶解した液を得た。
触媒層形成用塗布液として、ブタノール250mlに塩化スズ(IV)五水和物28.4g、塩化アンチモン(III)1.6g、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物0.75gを溶解した液を得た。
前記電極形成用基体に、前記中間層形成用塗布液を刷毛にて塗布後、風乾した後、580℃に保持した電気炉内で10min焼成を行う操作を6回繰り返しチタン基体表面に白金からなる耐食中間層を形成した。
【0057】
次いで、この電極に前記触媒層形成用塗布液を刷毛にて塗布後、風乾した後、580℃に保持した電気炉内で10min焼成を行う操作を5回繰り返し、さらにもう一回同じ操作を行い、焼成時間を30minとした。このようにしてチタン基体表面に、耐食中間層と、さらにその表面に酸化スズを主成分とする触媒層を有する電解用電極(電極1)を得た。
この電解用電極について、断面観察にて層の厚さを調べたところ、白金中間層は114nmであり、触媒層は541nmであった。
【0058】
(電極2の製造)
触媒層形成用塗布液として、ブタノール250mlに塩化スズ(IV)五水和物28.4g、塩化アンチモン(III)4.1g、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物4.82gを溶解した液を得た。
実施例1と同様にして作製し、表1に対応する含有量である触媒層を有する電解用電極(電極2)を作製した。
この電解用電極について、断面観察にて層の厚さを調べたところ、白金中間層は126nmであり、触媒層は563nmであった。
【0059】
(電極3の製造)
実施例2と同様にして作製し、表1に対応する含有量である触媒層を有する電解用電極(電極3)を作製した。
この電解用電極について、断面観察にて層の厚さを調べたところ、白金中間層は171nmであり、触媒層は555nmであった。
【0060】
(電極4の製造)
触媒層形成用塗布液として、ブタノール250mlに塩化スズ(IV)五水和物28.4g、塩化アンチモン(III)5.6g、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物6.22gを溶解した液を得た。
実施例1と同様にして作製し、表1に対応する含有量である触媒層を有する電解用電極(電極4)を作製した。
この電解用電極について、断面観察にて層の厚さを調べたところ、白金中間層は175nmであり、触媒層は560nmであった。
【0061】
(電極5の製造)
触媒層形成用塗布液として、ブタノール250mlに塩化スズ(IV)五水和物28.4g、塩化アンチモン(III)5.6g、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物2.41gを溶解した液を得た。
実施例1と同様にして作製し、表1に対応する含有量である触媒層を有する電解用電極(電極5)を作製した。
この電解用電極について、断面観察にて層の厚さを調べたところ、白金中間層は136nmであり、触媒層は553nmであった。
【0062】
(電極6の製造)
触媒層形成用塗布液として、ブタノール250mlに塩化スズ(IV)五水和物28.4g、塩化アンチモン(III)0.4g、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物0.75gを溶解した液を得た。
実施例1と同様にして作製し、表1に対応する含有量である触媒層を有する電解用電極(電極6)を作製した。
この電解用電極について、断面観察にて層の厚さを調べたところ、白金中間層は114nmであり、触媒層は561nmであった。
【0063】
(電極7の製造)
触媒層形成用塗布液として、ブタノール250mlに塩化スズ(IV)五水和物28.4g、塩化アンチモン(III)1.6g、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物8.47gを溶解した液を得た。
実施例1と同様にして作製し、表1に対応する含有量である触媒層を有する電解用電極(電極7)を作製した。
この電解用電極について、断面観察にて層の厚さを調べたところ、白金中間層は137nmであり、触媒層は565nmであった。
【0064】
(電極8の製造)
触媒層形成用塗布液として、ブタノール250mlに塩化スズ(IV)五水和物28.4g、塩化アンチモン(III)4.1gを溶解した液を得た。
実施例1と同条件の電極形成用基体に、実施例1と同条件の耐食中間層を配し、その電極に前記触媒層形成用塗布液を刷毛にて塗布後、風乾した後、580℃に保持した電気炉内で10min焼成を行う操作を5回繰り返し、さらにもう一回同じ操作を行い焼成時間だけを30minとした。このようにしてチタン基体表面に、白金からなる耐食中間層と、さらにその表面に酸化スズを主成分とする触媒層を有する電解用電極(電極8)を得た。
この電解用電極について、断面観察にて層の厚さを調べたところ、白金中間層は160nmであり、触媒層は520nmであった。
【0065】
(電極9の製造)
触媒層形成用塗布液として、ブタノール250mlに塩化スズ(IV)五水和物28.4g、塩化アンチモン(III)4.1g、塩化イリジウム3.2gを溶解した液を得た。
実施例1と同条件の電極形成用基体に、実施例1と同条件の耐食中間層を配し、その電極に前記触媒層形成用塗布液を刷毛にて塗布後、風乾した後、580℃に保持した電気炉内で10min焼成を行う操作を5回繰り返し、さらにもう一回同じ操作を行い焼成時間だけを30minとした。このようにしてチタン基体表面に、白金からなる耐食中間層と、さらにその表面に酸化スズを主成分とする触媒層を有する電解用電極(電極9)を得た。
この電解用電極について、断面観察にて層の厚さを調べたところ、白金中間層は168nmであり、触媒層は527nmであった。
【0066】
(電極10の製造)
触媒層形成用塗布液として、ブタノール250mlに塩化スズ(IV)五水和物28.4g、塩化アンチモン(III)4.1g、塩化チタン2.6gを溶解した液を得た。
実施例1と同条件の電極形成用基体に、実施例1と同条件の耐食中間層を配し、その電極に前記触媒層形成用塗布液を刷毛にて塗布後、風乾した後、580℃に保持した電気炉内で10min焼成を行う操作を5回繰り返し、さらにもう一回同じ操作を行い焼成時間だけを30minとした。このようにしてチタン基体表面に、白金からなる耐食中間層と、さらにその表面に酸化スズを主成分とする触媒層を有する電解用電極(電極10)を得た。
この電解用電極について、断面観察にて層の厚さを調べたところ、白金中間層は158nmであり、触媒層は527nmであった。
【0067】
<電解用電極における電極分析と電極性能評価の方法>
なお、実施例1〜7及び比較例1〜3は、上記電極1〜10を用いて、電極分析と電極性能を評価した。電解用電極の電極分析方法と電極性能評価の方法は以下の通りである。
【0068】
(電極分析方法)
成分分析は、主に蛍光X線分析装置による元素含有量評価を行い、補足評価としてX線光電子分光分析装置(XPS)による評価、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)による評価、及びX線回折分析装置による評価を行い、酸化スズ、酸化アンチモン、白金の含有量を評価した。また、電極断面構造の観察は、専用の観察用試料作製機により電極の断面をスライスして透過型電子顕微鏡(TEM)、または電極断面を研磨して走査型電子顕微鏡(SEM)により行った。
【0069】
(電極性能評価方法)
(1)酸素過電圧測定(酸素発生電位(V)の測定)
1Mの硫酸溶液中で参照電極である飽和カルメル電極により電流密度1A/dmと10A/dm時のアノード電位を測定し、酸素発生電位(V)とした。
(2)電極耐久性試験(電極寿命(h)の測定)
電極耐久性試験は、電解面積0.1dmの電極を用い、対チタン電極間5mmとし液晶50℃の1Mの硫酸溶液1L中で電流密度20A/dmで電解を実施した。電解電圧が初期から+2.0V上昇した時点を電極寿命(h)とした。
(3)電解酸化試験(三価クロムの濃度(g/L)の測定)
クロム酸(VI)、三価クロム及び硫酸を含む電解液を用い、液温40℃、極間距離10mm、電解液100ml、角膜なし、陰極をチタン金属、陽極を対象金属、電流密度10A/dmの条件下、30時間後の三価クロムの濃度を評価した。電極の酸化能力が高い場合、三価クロムが減少し、六価クロムが増加することとなる。
(4)過塩素酸ナトリウム製造電極としての評価(電解時間(h)の測定)
隔膜電解法により過塩素酸ナトリウムの製造を実施した。陽極電解液として600g/L塩素酸ナトリウム250ml、陰極電解液として100g/L硫酸250ml、各電解液温度を35℃以下に保持しながら、陽極に各電解用電極、陰極に白金電極として用い、電流密度40A/dmの条件下において塩素酸濃度が0g/Lになるまで電解を行った時に所要した電解時間(h)を測定した。電解時間が短いほど、酸化能力に優れていることとなる。
(5)オゾン発生電極としての評価(電流変換効率(%)の測定)
PTFE製の固体電解質電解層内に、陰極にはステンレス焼結多孔質電極(φ50mm、厚さ1mm)、陽極には各電解用電極、陽極室には温度を25℃に保持した超純水を循環させながら、100A/dmの条件下で電解を1000時間実施した。その際陽極室で発生するオゾンガスを、ヨウ化カリウム溶液中に一定時間通して硫酸酸性にした後、0.1Nチオ硫酸ナトリウム標準溶液を用いた間接滴定法によりオゾン濃度を求め、各電極における1000時間後におけるオゾン濃度の電流変換効率(%)を測定した。
【0070】
実施例1〜7及び比較例1〜3の評価結果を表2に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
表2より、比較例より実施例の方が酸素発生電位に優れ、電極寿命も2000時間以上であり、かつ酸化能力に優れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の電解用電極は、高い酸素発生電位と酸化能力を有し、かつ、安定性に優れるため、耐食性導電被覆材料としても好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基体の表面に耐食中間層と、耐食中間層の表面に触媒層を有する電解用電極において、
触媒層が、酸化スズ、酸化アンチモン及び白金を含有することを特徴とする電解用電極。
【請求項2】
触媒層が、酸化スズを99〜70モル%、酸化アンチモンを0.5〜20モル%、白金を0.5〜10モル%含有することを特徴とする請求項1に記載の電解用電極。
【請求項3】
耐食中間層が、貴金属又はその合金であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解用電極。
【請求項4】
貴金属が、白金であることを特徴とする請求項3に記載の電解用電極。
【請求項5】
金属基体が、チタン、ジルコニウム、ニオブ、鉄、タンタル及びバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属又はそれらの金属を主成分とする合金からなる金属であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項6】
用途が電解液中における金属イオンを酸化するためであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項7】
用途が有機物を酸化処理するためであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項8】
用途が水電解によりオゾン及び/又は酸素を生成するためであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項9】
用途が電解によりハロゲン酸イオン及び/又は過ハロゲン酸イオンを生成するためであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項10】
金属基体の表面に耐食中間層を形成する工程と、耐食中間層の表面に触媒層を形成する工程を有する電解用電極の製造方法において、
触媒層を形成する工程が、アルコール溶媒に、スズ化合物、アンチモン化合物及び白金塩を溶解させて塗布液を作製し、耐食中間層表面に該塗布液を塗布、乾燥、熱分解し、酸化スズ、酸化アンチモン及び白金を含有する触媒層を形成する工程であることを特徴とする電解用電極の製造方法。

【公開番号】特開2012−188706(P2012−188706A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53772(P2011−53772)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】