説明

電解硫酸中の酸化性成分の定量方法

【課題】洗浄液として使用される電解硫酸中の全酸化性成分の洩れを防ぐことのできる、電解硫酸中の全酸化性成分の定量方法を提供することにある。
【解決手段】硫酸を電気分解することで生成した酸化性成分を含有する電解硫酸を試料液とし、該試料液にヨウ化カリウム水溶液を加えて、前記資料液中の酸化性成分と反応させ、遊離したヨウ素による呈色を行い、次にチオ硫酸ナトリウム溶液にて試料液が透明になるまで滴定を行い、滴定量と試料液量から電解硫酸中の全酸化性物質濃度を算出することを特徴とする電解硫酸中の全酸化性物質の定量方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハー等の基板に付着した付着物を洗浄除去する洗浄方法に使用する電解硫酸中の酸化性物質の定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶デバイス、プラズマディスプレイパネル基板、半導体ウエハー等の基板に付着した有機物、金属不純物、パーテイクル、レジスト残渣等の付着物の洗浄除去には、硫酸と過酸化水素水との混合液(SPM)あるいは、濃硫酸にオゾンガスを吹き込んだ溶液(SOM)を用いる洗浄が行われてきた。
【0003】
しかるに、SPMを用いた方法では、過酸化水素水の補給を頻繁に行わなければならず、液組成を一定に維持することが困難であるという欠点を有しており、SOMを用いる方法では、その洗浄能力が劣るという欠点を有している。
【0004】
これに対して、液晶デバイス、プラズマディスプレイパネル基板、半導体ウエハー等の基板に付着した有機物、金属不純物、パーテイクル、レジスト残渣等の付着物の洗浄除去として、硫酸水溶液を電気分解して得られた電解生成物を用いて洗浄処理を行う技術が開示されている(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2006−111943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、特許文献1には、この種硫酸の水溶液の電解による電解生成物については、過硫酸水溶液のみとしか記載されておらず、その他の成分の存在については、全く開示されていない。
【0007】
本発明者らは、硫酸を電気分解して得られた電解生成物を用いた洗浄処理方法を検討した結果、硫酸の電解を白金電極や導電性ダイヤモンド電極等の高酸素過電圧な電極で電解して洗浄液を生成させた場合、電解生成物として、ペルオキソ1硫酸やペルオキソ2硫酸といった硫酸由来の酸化性成分だけでなく、水電解に由来するオゾンや過酸化水素など多種の酸化性成分が生成し、高い洗浄能力を有することが判明した。
【0008】
このため、硫酸水溶液を電気分解して得られた電解生成物を用いた洗浄処理方法において、洗浄液の洗浄効果を評価するためには、総合的な酸化力を定量する方法が必要とされている。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、高い洗浄能力を有する電解硫酸中の全酸化性成分を正確に定量し、洗浄液の洗浄効果を評価する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、硫酸を電気分解することで生成した酸化性成分を含有する電解硫酸を試料液とし、該試料液にヨウ化カリウム水溶液を加えて、前記資料液中の酸化性成分と反応させ、遊離したヨウ素による呈色を行い、次にチオ硫酸ナトリウム溶液にて試料液が透明になるまで滴定を行い、滴定量と試料液量から電解硫酸中の全酸化性物質濃度を算出する方法を構成したことにある。
【0011】
また、第2の課題解決手段は、電解硫酸中の全酸化性物質の定量方法において、電解硫酸を水で希釈して試料液としたことにある。
【0012】
また、第3の課題解決手段は、電解硫酸中の全酸化性物質の定量方法において、滴定時に試料液の酸化還元電位(ORP)を観察し、酸化還元電位(ORP)が600mV以下になる滴定量を終点としたことにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電解硫酸に対してヨウ化カリウムを使用する滴定方法を適用することで、洗浄液として使用される電解硫酸中の全酸化性成分を定量することができる。更に、滴定中の酸化還元電位(ORP)を測定することにより、定量すべき酸化性成分の洩れを防いだ電解硫酸中の全酸化性成分を定量することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明では、硫酸を電気分解することで、洗浄液として使用する電解硫酸を製造する。この電解硫酸を試料液とし、該試料液にヨウ化カリウム水溶液を加えて、前記試料液中の酸化性成分と反応させ、遊離したヨウ素による呈色を行い、次にチオ硫酸ナトリウム溶液にて試料液が透明になるまで滴定を行い、滴定量と試料液量から電解硫酸中の全酸化性物質濃度を算出する。
【0015】
本発明において、硫酸の電気分解に使用する陽極としては、導電性ダイヤモンド電極、白金、二酸化鉛又は貴金属被覆不溶性電極等が使用できるが、導電性ダイヤモンド電極や白金電極や二酸化鉛は、貴金属被覆不溶性電極よりも高い酸素過電圧を有するため(貴金属被覆不溶性電極は、数十mV、白金は数百mV、二酸化鉛は約0.5V、導電性ダイヤモンドは約1.4V)、陽極としては、導電性ダイヤモンド電極、白金または二酸化鉛を使用することが好ましい。このように、陽極としては、導電性ダイヤモンド電極、白金または二酸化鉛を使用した場合、反応式(1)及び(2)に示すように、酸素やオゾンが発生する。更に、陽極液中に硫酸や硫酸イオンや硫酸水素イオンが存在すると、これらと反応して、反応式(3)及び(4)に示すように、S282-やH22が発生する。
【0016】

【0017】
上記電極のうち、白金電極や導電性ダイヤモンド電極は高い酸素過電圧を有するとともに、更に、高い耐食性も有しており、しかも、二酸化鉛電極のような電解による不純物発生がなく、清浄な電解液を生成することが出来る。従って、白金電極や導電性ダイヤモンド電極を用いれば、半導体製造工程のような高清浄性を必要とする洗浄工程において使用を可能にする。
【0018】
電解により生成する酸化種量は、洗浄工程において洗浄効果と比例関係にある数値であり、洗浄工程において安定した洗浄効果を常時得るためには、洗浄液である電解硫酸中の全酸化種の状態を監視する必要がある。
【0019】
本方法により得られた全酸化種量の定量値により、電解硫酸を生成する電解セルのセル電圧や供給電流量、電解時間を変化させて、電解セルにて生成する全酸化種量を調整し、洗浄効果を保つことが出来る。
【0020】
また、電解硫酸を繰り返し洗浄に用いる場合も、洗浄効果が持続する閾値を事前に求めておき、洗浄液中の全酸化種量の定量値を知ることにより、洗浄液の再電解による洗浄効果の再生を行う判断や、洗浄液の寿命を判定することが出来る。
【0021】
また、本発明に使用する電解硫酸の原料となる硫酸は、濃硫酸が使用される。半導体洗浄工程に使用される濃硫酸は一般に数百pptレベルまで金属不純物を除去した状態で提供されており、96%硫酸や98%硫酸が広く使用されている。硫酸の他に含まれている物質は純水である。
【0022】
本発明に使用する電解硫酸の原料となる濃硫酸は、微量の水を含んでいるため、陽極での電解では上記1)−4)の反応が進行する。また、濃硫酸中など低pHでは5)も進行する。硫酸の電解により電解生成する酸化性化学種としては、O3、H22、H228、H2SO5である。尚、酸化性化学種としてO2も電解発生するが、本検討には含めない。
【0023】
一般にO3、H22、H228、H2SO5は、化学分析をする場合、下記に詳述する別々の定量方法を使って定量される。
【0024】
先ず、水中に溶存しているオゾン(O3)を定量する場合は、一般的にはオゾンによりヨウ化カリウムを酸化する方法を用いる。この方法は、一般にヨウ素還元滴定と呼ばれる。ヨウ化カリウム溶液をオゾンが溶存している溶液に添加して、オゾンによりヨウ素イオンを酸化してヨウ素として遊離させて溶液を着色させ、更に遊離したヨウ素を濃度既知のチオ硫酸ナトリウム溶液にて溶液が無色になるまで滴定し、溶液中のオゾン濃度を定量する。

【0025】
また、水中に溶存している過酸化水素を定量する場合は、一般的には過酸化水素により過マンガン酸カリウムを還元する方法を用いる。この方法は、一般に過マンガン酸カリウムによる滴定と呼ばれる。過酸化水素が溶存している溶液に、濃度既知の過マンガン酸カリウム溶液を滴下し、滴下した過マンガン酸カリウムが脱色しなくなるまで滴定し、溶液中の過酸化水素濃度を定量する。
【0026】
更に、水中に溶存しているペルオキソ1硫酸を定量する場合は、一般的にはモール塩(FeSO4・(NH4)SO4)をペルオキソ1硫酸と反応させてFe2(SO43とし、残ったモール塩を過マンガン酸カリウム溶液にて酸化する方法を用いる。この方法は、一般に、モール塩による逆滴定と呼ばれる。ペルオキソ1硫酸が溶存している溶液に、モール塩溶液を適量加えて反応させた後、濃度既知の過マンガン酸溶液を滴下し、脱色しなくなるまで滴定し、溶液中のペルオキソ1硫酸濃度を定量する。

【0027】
上記の3つの方法は、何れも、測定対象化学種の酸化還元電位と、滴定に用いる試薬の酸化還元電位の差を利用したものであり、オゾンによる酸化、過酸化水素による還元、ペルオキソ1硫酸による酸化と残余モール塩による還元方法をそれぞれ用いている。
【0028】
これら酸化種が混合して含まれている電解硫酸中の全酸化種を定量するためには、それぞれに対して一般的に用いられている定量方法を適用することは出来ず、全酸化種によって、酸化される試薬を用いる必要がある。一部の酸化種とのみ反応する試薬を用いた場合は、全酸化種を反応させることができず、未定量な酸化種が発生してしまう。
【0029】
これら酸化種全てと反応し、酸化される試薬としては、ヨウ化カリウムがある。ヨウ化カリウムは、酸性中にてこれら酸化種と次の反応をしてヨウ素を遊離して着色し、更に濃度既知のチオ硫酸ナトリウム溶液を用いた滴定によって無色となり、全酸化種の定量を行うことが出来る。

【0030】
尚、遊離ヨウ素の酸化還元電位(ORP)は、次の反応式に示す通り、0.621Vである。従って、滴定時に電解硫酸の酸化還元電位(ORP)を測定し、酸化還元電位(ORP)が600mV以下になった時点を以って、滴定後の電解硫酸の酸化還元電位が十分に還元側に下がったことを確認することができ、酸化種の反応洩れを防ぐことができる。

【0031】
本発明において、電解硫酸に直接、水やヨウ化カリウム溶液を添加した時には、硫酸の水和に伴う多量の熱が発生し、試料液の突沸も発生するため、作業に危険性が伴う。また、ヨウ化カリウムが酸化されて遊離するヨウ素は、試料液が高温な場合、昇華しやすく、試料液相から気相へ移動する現象が発生し、全遊離ヨウ素を用いて定量しにくくなる。従って、水で希釈しない硫酸を試料液とする場合は、高温の試料液を安全に扱う設備と、遊離したヨウ素を設備外に逃さない密閉容器が必要となる。一方、電解硫酸を水で希釈して試料液とした場合は、高温の試料液を安全に扱う設備は必要なものの、ヨウ化カリウム溶液を添加する時点では、試料液は室温まで降温しており、ヨウ素の昇華に関して考慮する必要がなく、簡便な容器で定量作業を行える利点がある。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例及び比較例を挙げて、具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
<実施例1>
導電性ダイヤモンド電極を陽極、陰極共に用いた隔膜付き電解槽を用いて、次の条件にて電解硫酸の製造を行った。
セル電圧 3.9V(固定)
セル電流 75mA(平均)
電解時間 15000秒
電気量濃度 4.5C/ml
電解液温度 23℃
陽極電解液 96%硫酸(電子工業用の関東化学株式会社製硫酸)
陰極電解液 70%硫酸(電子工業用の関東化学株式会社製硫酸を電子工業用純水にて希釈調製)
陽極液流量 1L/min
陰極液流量 1L/min
陽極液量 250ml
隔膜 フッ素系イオン交換膜(デュポン社製のNafion117(登録商標))
製造された電解硫酸を1g計り取り、純水を加えて全20mlの試料液とし、200g/Lヨウ化カリウム溶液を5ml添加して遊離ヨウ素にて着色させ、密閉したまま30分間放置した後、1/50Nチオ硫酸ナトリウム溶液を試料液が無色になるまで滴下した。これは前記したヨウ素滴定の手法である。またヨウ素滴定前後で酸化還元電位(ORP)の測定を行った。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
滴定後の酸化還元電位(ORP)は、255mVとなり、十分に低下しており、電解硫酸中に含まれる全ての酸化性成分がヨウ素滴定により還元され、定量されたことを示している。
【0036】
<比較例1>
実施例1で調製した試料液と同じ試料液に対して、過酸化水素定量を目的とした過マンガン酸カリウムによる滴定、及びペルオキソ1硫酸定量を目的としたモール塩による逆滴定を行った。
過マンガン酸カリウムによる滴定は、次の手順で実施した。製造された電解硫酸を1g計り取り、純水を加えて全20mlとした試料液に、0.1NのKMnO4溶液を滴下し、滴下された試料液が脱色されなくなる点を終点とした。
モール塩による逆滴定は次の手順で実施した。製造された電解硫酸を1g計り取り、純水を加えて全20mlとした試料液に0.1Nモール塩溶液を10ml及び85%リン酸を1ml加え、攪拌した後、0.1NのKMnO4を滴下し、滴下された試料液が脱色されなくなる点を終点とした。結果を表2及び表3に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
滴定後の酸化還元電位(ORP)は、滴定に用いたKMnO4に由来する、酸化力を有する値を示しており、電解硫酸中に含まれる全ての酸化性成分が滴定により定量されたかは不明であることを示している。また、両滴定による酸化性物質濃度の和は、1.86×10-5当量/グラムであり、実施例1によるヨウ素滴定の値よりも小さく、この方法では、実施例1によるヨウ素滴定で定量できた全ての酸化種を定量することができなかったことを示している。(当量/グラムとは、試料液1g中に含まれる、酸化種の全当量のこと。)
【0040】
<実施例2>
導電性ダイヤモンド電極を陽極、陰極共に用いた隔膜付き電解槽を用いて、次の条件にて電解硫酸製造を行った。
セル電圧 2.5V(固定)
電解時間 100、1000、10000秒
電解液温度 23℃
陽極電解液 96%硫酸(電子工業用の関東化学株式会社製硫酸)
陰極電解液 96%硫酸(電子工業用の関東化学株式会社製硫酸)
陽極液流量 1L/min
陰極液流量 1L/min
陽極液量 250ml
隔膜 多孔質PTFE(住友電工ファインポリマー社製のポアフロン(登録商標))
製造された電解硫酸を1g計り取り、200g/Lヨウ化カリウム溶液を5ml添加して遊離ヨウ素にて着色させ密閉したまま30分間放置した後、1/50Nチオ硫酸ナトリウム溶液を試料液が無色になるまで滴下した。結果を表4に示す。電解硫酸中に含まれる全ての酸化性成分がヨウ素滴定により還元され、滴定後の酸化還元電位(ORP)は、600mV以下であった。
【0041】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、電解硫酸に対してヨウ化カリウムを使用する滴定方法を適用することで、洗浄液として使用される電解硫酸中の全酸化性成分を定量することができる。更に、滴定中の酸化還元電位(ORP)を測定することにより、定量すべき酸化性成分の洩れを防いだ電解硫酸中の全酸化性成分を定量することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸を電気分解することで生成した酸化性成分を含有する電解硫酸を試料液とし、該試料液にヨウ化カリウム水溶液を加えて、前記試料液中の酸化性成分と反応させ、遊離したヨウ素による呈色を行い、次にチオ硫酸ナトリウム溶液にて試料液が透明になるまで滴定を行い、滴定量と試料液量から電解硫酸中の全酸化性物質濃度を算出することを特徴とする電解硫酸中の全酸化性物質の定量方法。
【請求項2】
電解硫酸を水で希釈して試料液とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
滴定時に試料液の酸化還元電位を観察し、酸化還元電位が600mV以下になる滴定量を終点とする請求項1または2に記載の方法。

【公開番号】特開2008−164504(P2008−164504A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356067(P2006−356067)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000105040)クロリンエンジニアズ株式会社 (48)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【Fターム(参考)】