説明

電解装置および電極の劣化診断方法

【課題】密閉された電解槽を開封することなく、電極の劣化状況や電極交換の時期などを適切に判断できる電解装置および電極の劣化診断方法を実現すること。
【解決手段】フッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴を用い、この溶融塩電解浴に浸されている陽極および陰極に直流電源から通電することによりフッ素含有物質を電解合成するように構成された電解装置において、前記電極間に、非通電時に流れる自然電流を測定して、その測定結果に基づき前記電極の劣化状態を診断判定する自然電流測定部を設けたことを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解装置および電極の劣化診断方法に関し、詳しくは、電解によりガスを発生する装置の改良および電極の劣化診断方法に関するものである。
【0002】
たとえば半導体の製造に用いられるCVDチャンバー内面の洗浄にあたっては、CVDチャンバー内面にたとえば3フッ化窒素ガスを噴射することが行われている。
【0003】
ところが、NF3(3フッ化窒素)ガスは、オゾン層破壊係数がゼロではあるものの、地球温暖化係数はCO2(二酸化炭素)の数万倍もあることから、代替ガスを発生させる装置の開発が進められている。
【0004】
このような代替ガスを発生させる装置の一種に、図7に示すように、フッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴を用い、フッ素ガスやフッ素含有物質を電解合成するように構成された電解装置がある。
【0005】
図7において、密閉されている電解槽1の上面内壁には、その下端が底面と対向するように、複数の隔壁2が形成されている。これら隔壁2で仕切られた電解槽1内部の複数の各領域には、それらの下端が底面と対向するようにして、陽極3と陰極4が交互に設けられている。
【0006】
これら陽極3および陰極4は、それぞれ給電体6を介して、直流電源7に接続されている。
【0007】
そして、電解槽1の内部には、隔壁2および陽極3と陰極4の下端を十分浸すような深さで、KF・2HFやNH4・2HFなどの混合溶融塩よりなるフッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴5が注入されている。
【0008】
このような構成において、陽極3および陰極4に対して給電体6を介して直流電源7から通電することにより、溶融塩電解浴5に浸されている陽極3および陰極4の接液部分で電極反応が進行する。
【0009】
ここで、電解質として用いられるフッ素含有溶融塩のHF(フッ化水素)溶融塩蒸気圧が高いために、隔壁2で仕切られた電解槽1内部の溶融塩電解浴5で満たされていない各空間領域の陽極側はHFと生成物であるフッ素ガスで満たされ、陰極側はHFと水素ガスで満たされる。これら生成されたガスは、図示しないガス取り出し手段を介して外部に取り出し供給される。
【0010】
特許文献1には、図7に示した電解装置の構成について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】2009−1877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、このような電解装置を長期間使用していると、安定性の高い電極であっても少なからず電極劣化は進行する。その結果、たとえば定電流電解を長時間行った場合には電圧値が設計値よりも上昇し、定電位電解を長時間行った場合には電流値が設計値よりも下降して、フッ素を効率的に発生させることができなくなり、電極交換が必要になる。
【0013】
しかしながら、電圧値が設計値よりも上昇する要因は、電極劣化に限るものではなく、たとえば溶融塩の組成成分変化などの環境因子が要因となる場合もある。環境因子が電圧値の上昇の要因となっている場合には、電極を交換しても電圧値の上昇が改善されることはないので、電極交換にあたっては電極劣化の状態を見極めることが望ましい。
【0014】
電極の劣化状態を見極めるためには、電解装置を解体し密閉されている電解槽1を開封して電極を外部に取り出し、電極表面の状態を目視観察したり、電極の比抵抗値を測定するなどの方法で判断することが必要となる。
【0015】
しかし、密閉された電解槽1の開封作業を行うためには、フッ素発生を一時停止させなければならず、運転効率を低下させるばかりか、浴内に存在するフッ化水素ガス、フッ素ガス、溶融塩などのフッ素成分を外部へ漏出させる恐れもあり、作業者にとっても危険な作業を伴うこととなる。
【0016】
本発明は、このような問題点を解決するものであり、その目的は、密閉された電解槽を開封することなく、電極の劣化状況や電極交換の時期などを適切に判断できる電解装置および電極の劣化診断方法を実現することにある。
【0017】
また、他の目的は、電極が劣化した場合にも安定にガスを発生させることができる電解装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、
フッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴を用い、この溶融塩電解浴に浸されている陽極および陰極に直流電源から通電することによりフッ素ガスまたはフッ素含有物質を電解合成するように構成された電解装置において、
前記直流電源が無負荷の状態で前記電極間に流れる自然電流を測定して、その測定結果に基づき前記電極の劣化状態を診断判定する自然電流測定部を設けたことを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載の発明は、
フッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴を用い、この溶融塩電解浴に浸されている陽極および陰極に直流電源から通電することによりフッ素ガスまたはフッ素含有物質を電解合成するように構成された電解装置において、
前記直流電源が無負荷の状態で前記電極間に流れる自然電流を測定して、その測定結果に基づき前記電極の劣化状態を診断判定する自然電流測定部と、
この自然電流測定部の測定結果に基づいて前記直流電源から前記電極間に印加される電圧を制御する直流電源制御部を設けたことを特徴とする。
【0020】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の電解装置において、
前記陽極は、標準電極電位が負値である金属を基板とした導電性炭素薄膜電極で構成されていることを特徴とする。
【0021】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の電解装置において、
前記陰極は、炭素材料で構成されていることを特徴とする。
【0022】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の電解装置において、
前記陽極は、気液分離機能を有した多孔電極で構成されていることを特徴とする。
【0023】
請求項6記載の発明は、
フッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴を用い、この溶融塩電解浴に浸されている陽極および陰極に直流電源から通電することによりフッ素ガスまたはフッ素含有物質を電解合成するのにあたり、
前記直流電源が無負荷の状態で前記電極間に流れる自然電流を測定し、その測定結果に基づき前記電極の劣化状態を診断判定することを特徴とする電極の劣化診断方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、密閉された電解槽を開封することなく、電極の劣化状況や電極交換の時期などを適切に判断できる電解装置および電極の劣化診断方法を実現できる。
【0025】
また、電極が予め設定した電極劣化指針となる範囲内の自然電流が流れるようになった場合でも、安定にガスを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施例を示す構成説明図である。
【図2】電極の劣化度合いと自然電流の関係説明図である。
【図3】図1の装置における運転手順の流れを説明するフローチャートである。
【図4】本発明の他の実施例を示す構成説明図である。
【図5】気液分離機能を有した多孔電極の構成説明図である。
【図6】図5で用いられる多孔電極板の構成説明図である。
【図7】従来の電解装置の一例を示す構成説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示す構成説明図であり、図7と共通する部分には同一の符号を付けている。図1において、陽極3と陰極4の間には、直流電源7が接続されるとともに、直流電源7をオフにして直流電流が印加されない無印加状態に設定した場合に陽極3と陰極4の間に流れる自然電流を測定する機能を有する自然電流測定部10も接続されている。
【0028】
図1の電解装置では、フッ素ガスを発生させる陽極3(作用極)として、標準電極電位(standard electrode potential;E)が負値である金属を基板とした導電性炭素薄膜電極を使用する。
【0029】
陰極4(対極)の電極材料としては特段の制限はなく、炭素材料または金属材料が使用できる。炭素材料を使用した場合には、陰極における溶解反応が進行しにくいので、陰極材料に起因する自然電流値に影響を及ぼす化学反応の発生を抑制できる。一方、金属材料を使用する場合には、陽極基板に使用される金属のE値よりも大きなE値を有する金属を選択することにより陰極での溶解反応を進行しにくくでき、陰極材料に起因する自然電流値に影響を及ぼす化学反応の発生を抑制できる。
【0030】
このような構成において、直流電流7から陽極3と陰極4間に、フッ素発生電圧以上の電圧を印加すると、陽極3からフッ素8が発生し、陰極4から水素9が発生する。
【0031】
そして、必要に応じて陽極3と陰極4の間に接続されている直流電源7をオフにして直流電流が印加されない無印加状態に設定することにより、陽極3と陰極4の間に流れる自然電流を計測することができる。
【0032】
陽極3として用いる金属基板導電性炭素薄膜電極とは、金属基板上に導電性薄膜を被覆するとともに、ピンホール部分の無垢金属露出面に対してフッ素不動態化処理を行った電極をいう。このような電極の接液面は、導電性炭素薄膜構造体および導電性炭素薄膜のピンホール部に露出するフッ素不動態化金属面となる。
【0033】
導電性炭素薄膜電極の金属基板としては、標準電極電位Eが負値であるたとえばニッケル(Ni)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、クロム(Cr)などの金属材料を使用する。
【0034】
劣化していない導電性炭素薄膜電極では、作用極3の溶融塩に対する接液面は、導電性炭素薄膜と導電性炭素薄膜のピンホール部に露出するフッ素不動態化金属であるので、無印加時に陽極3側で進行する化学反応はない。よって、無印加時には、両極間に電気化学反応に起因する自然電流が発生することはない。
【0035】
一方、陽極3が劣化して、導電性炭素薄膜電極の導電性炭素薄膜が部分的に剥離して無垢金属が溶融塩に露出すると、金属が溶出するとともに溶融塩に含まれている水素イオンが陰極で還元されて水素が発生する一連の電気化学反応が進行する。この結果、無印加時には、両極間に電気化学反応に起因する自然電流が発生することになる。
【0036】
導電性炭素薄膜電極の金属露出部:M→ Ma+ + ae
(ただし、Mは金属、aは金属Mの価数を示す)
対極: aH + ae → 0.5aH
なお、自然電流が発生した場合の自然電位値Z(V)については、電解装置の構成などにもよるが、概ね以下の値となる。
自然電位Z= Mの標準電極電位(E)― |対極の水素過電圧値|
【0037】
この電気化学反応で発生する自然電流値は金属の溶解速度と相関があり、さらに金属の溶解速度は導電性炭素薄膜電極の劣化による無垢金属の接液面積と相関がある。よって、電圧無印加時の自然電流値を計測することで、導電性炭素薄膜電極の劣化状態を診断判定することができる。
【0038】
図2は電極の劣化度合いと自然電流の関係説明図であり、横軸は電極の劣化度合いを示し、縦軸は自然電流の値を示している。実測データによれば、自然電流の値は、電極の劣化度合いに比例して増加することが明らかになっている。
【0039】
したがって、あらかじめ、実測値に基づいてテーブル化されている電極の劣化度合いと所定量のガスを発生させるのに必要な定電流電解における印加電圧または定電位電解における電流密度との関係から、電極を交換しなければならない自然電流の所定値αを設定しておくことにより、密閉された電解槽を開封することなく、電極の劣化状況や電極交換の時期などを適切に判断できる。
【0040】
なお、導電性炭素薄膜のピンホール部に露出するフッ素不動態層が劣化により無くなって代わりに無垢金属面が露出した場合であっても、上記自然電流が発生するので、劣化判断が行える。
【0041】
図3は、図1の装置で定電位電解を行う場合の運転手順の流れを説明するフローチャートである。運転電圧を印加する前に、自然電流値を測定し(ステップS1)、測定した自然電流値が予め設定した電極劣化指針となる電流値α未満であるか否かを確認する(ステップS2)。
【0042】
自然電流値が予め設定した電流値α未満であることを確認すると、運転電圧βを印加してフッ素を発生させる(ステップS3)。そして、運転電圧βの印加停止により運転を終了する(ステップS4)。
【0043】
運転終了後、再び自然電流値を測定し(ステップS5)、測定した自然電流値が予め設定した電極劣化指針となる電流値α未満であるか否かを確認する(ステップS6)。
【0044】
そして、運転開始時のステップS1または運転終了時のステップS5で計測した自然電流値がα以上であれば電極が劣化したと判断し、電解槽を開封して電極を交換する。電極交換作業終了後は、自然電流がα以下であることを確認する。
【0045】
なお、図3の例では、運転前後に自然電流測定を行っているが、電解槽1の運転に伴う電極の劣化傾向がほぼ一定している場合には、前後どちらか一回であってもよい。
【0046】
また、電極交換直後から電極がほとんど劣化しないことが明らかな期間は、必ずしも運転毎に自然電流測定を行わなくてもよい。
【0047】
また、上記実施例では、運転方法として定電位運転の例を示したが、定電流で運転する場合であってもよい。
【0048】
また、図3のステップS3の運転開始からステップS4の運転停止まで数ヵ月などの長期間にわたって連続運転を行う場合には、ステップS3とステップS4の間に適宜の周期で、運転継続の可否を判断するステップを挿入することが望ましい。
【0049】
この判断ステップとしては、たとえば定電位電解の場合には運転電流があらかじめ設定された電流値以上を保持していれば運転継続と判断し、定電流電解の場合には運転電圧があらかじめ設定された電圧値以下を保持していれば運転継続と判断すればよい。
【0050】
図4は本発明の他の実施例を示す構成説明図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図4の装置では、図1の構成にさらに直流電源制御部11が追加されている。
【0051】
図4において、直流電源制御部11は、自然電流測定部10の測定結果に基づいて、陽極3と陰極4間に印加される直流電源7の出力電圧を制御する。すなわち、直流電源制御部11は、自然電流測定部10の測定結果に基づいて、自然電流がα以下の場合には、常に所定量のガスが生成されるように、直流電源7の出力電圧を制御する。
【0052】
これにより、自然電流がα以下の場合における所定量の安定なガス生成動作を実現できる。
【0053】
なお、上記実施例では陰極と陽極が1:1の2極式電解装置の場合について示したが、本発明は2極式に限定されるものではなく、1個の参照極が設けられた3極式や、複数個の参照極が設けられた多極式であってもよい。参照極としては、参照極としては、たとえば銅板を使用することができる。また、陰極と陽極がn:m(n,mは2以上の整数)の関係になるように設けられてもよい。
【0054】
また、上記実施例では電極診断のための自然電流として実測電流α(A)を使用しているが、実測電流値α(A)を電極面積s(cm2)で除して規格化された次式で示す値α’、
α’=α/s (A/cm2
を使用してもよい。
【0055】
また、実測電流値α(A)を溶融塩の酸強度δ(δ=[H])により規格化した値γ、
γ=f(α、δ) を使用してもよいし、実測電流値α(A)を溶融塩の温度tにより規格化した値ε、ε=f(α、δ、t)であってもよい。
【0056】
また、導電性炭素薄膜電極に用いる導電性炭素質としては、導電性炭素薄膜(多結晶、単結晶)以外にも、導電性ダイヤモンドライクカーボン、ECRスパッタカーボン、RFスパッタカーボン、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンナノホーン、黒鉛、グラッシーカーボンなどの単体やこれらを主成分とする導電性炭素材料を使用することができる。
【0057】
特に、ダイヤモンド、ECRスパッタカーボン、ダイヤモンドライクカーボンなどのようにsp3を多く含有する構造体であれば、溶融塩による終端フッ素化が起こりにくくて好適であり、sp3組成比率が最も高いダイヤモンド結晶体(多結晶、単結晶)が最も好適である。
【0058】
導電性炭素薄膜構造体の薄膜に含まれる導電性を付与するためのドープ材料としてはボロンが最も好適であるが、その他リンや窒素などをドープしてもよい。好ましいドープ材料の含有率は、1〜100,000ppmであり、さらに好ましくは100〜10,000ppmである。
【0059】
導電性炭素薄膜電極の薄膜ピンホール部に露出する金属についてフッ素不動態化処理の代わりに酸素不動態化処理であってもよい。また、導電性炭素薄膜のピンホールが実用上問題にならない場合には、フッ素不動態化処理を行わなくてもよい。
【0060】
陽極3に使用する導電性炭素薄膜電極は、図5に示すように構成された気液分離機能を有した多孔電極であってもよい。図5において、(a)は正面図、(b)は正面図におけるA−A線の矢視図、(c)は側面図である。
【0061】
図5に示す電極ユニット20は、多孔電極板21、導線22、電極ホルダ23、気体導管24、電極カバー25および締結ネジ26で構成されている。
【0062】
図6は、図5で用いられる多孔電極板21の具体例を示す構成説明図であり、(a)は正面図、(b)は正面図におけるB−B線の矢視図である。多孔電極板21は、図6に示されているように、正方形かつ一定厚の導体板21aの接液面21bと接気面21cとの間に、当該接液面21bと接気面21cとを連通させる多数の貫通孔21dが形成されたものである。上記導体板21aは、所定の金属、たとえばニッケル(Ni)を材料とする平板である。なお、導体板21aの表面の少なくとも一部には不動態皮膜として導電性炭素薄膜構造を有する導電性炭素質皮膜21fが被覆されている。
【0063】
この貫通孔21dは、図示するように、壁面に疎液性の被膜21e(疎液膜)が形成されたものであり、また断面形状が互いに平行な接液面21bと接気面21cとに直交するとともに一定の断面積となるように形成されている。貫通孔21dの直径は、たとえば500μm以下であり、より好ましくは10μm〜500μmである。このような貫通孔21dの直径は、以下に詳説するように電解液が貫通孔21dの内部に浸入しないように最適化されている。
【0064】
また、貫通孔21dの配列ピッチは、特に制限はないが、10μm〜500μm程度が好ましい。すなわち、貫通孔21dの配列ピッチは、貫通孔21dの孔径と同程度が好ましい。
【0065】
なお、図6の多孔電極板21は、貫通孔21dが碁盤の目のように配置された状態に形成されているが、貫通孔21dの配置態様はこれに限定されるものではなく、たとえば千鳥格子状あるいは規則性のない配列状態であってもよい。
【0066】
また、図6に示す貫通孔21dの断面形状は、軸線方向に一定の断面積となる形状であるが、軸線方向に断面積が変化するような形状であってもよい。このような多孔電極板21は、平板な導体板21aをたとえばレーザ加工することによって容易に形成できる。
【0067】
また、上記多孔電極板21の接液面21bは、電解液に対して親液性となるよう表面処理されている。多孔電極板21は、導体板21aを母材として形成されているが、各貫通孔21dの壁面は、導電性材料の表面に電解液に対して疎液性の被膜である疎液膜21eが全面的に形成されている。このような各被膜は、たとえばスプレーコーティング、フローコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、加圧コーティングなどの各種コーティング方法によって親液性材料あるいは疎液性材料を塗布することによって形成される。
【0068】
ここで、「親液性」とは一定量の液滴が固体表面に置かれた状態において液滴の気液界面と固液界面がなす角度(接触角)が90°より小さくなる状態のことであり、また「疎液性」とは、上記接触角が90°より大きくなる状態のことである。上記接触角として接液面21b(親液面)および各貫通孔21dの疎液膜21e(疎液面)を見た場合、上記接液面21b(親液面)の電解液に対する接触角A(A<90°)及び疎液膜21e(疎液面)の電解液に対する接触角B(90°<B)は、以下の関係式を満足する。すなわち、接液面21bの接触角Aは、各貫通孔21dの疎液膜21eの接触角Bよりも小さく設定されている。
A<90°<B
【0069】
すなわち、多孔電極板21は貫通孔21dの直径が500μm以下に設定され、かつ、接液面21b(親液面)および各貫通孔21dの疎液膜21e(疎液面)の各接触角A、Bが上記関係式を満足するように構成されている。また、各接触角A、Bについては、上記関係式に代えて、A+10°<90°<Bの条件あるいはA+25°<90°<Bの条件を満足することがより好ましい。なお、接気面21cの接触角については、90°よりも大きく(つまり疎液性とし)設定することが好ましい。
【0070】
導線22は、このような多孔電極板21の接気面21cに一端が接続されるとともに他端が図示しない外部の電源の出力端に接続された電線であり、電源から出力された電気分解用の電位を多孔電極板21に供給するためのものである。
【0071】
電極ホルダ23は、内部に窪み部が形成された立方体状の非導電性部材である。図示するように、この電極ホルダ23には窪み部を一方から塞ぐような状態で上述した平板状の多孔電極板21が装着されている。なお、電極ホルダ23の窪み部と多孔電極板21とによって囲まれた空洞は気体チャンバー23aである。この気体チャンバー23aは、図示するように複数の貫通孔21dを介して接液面21bに連通する。
【0072】
気体導管24は、一端が電極ホルダ23の上部に固定された中空円筒状の非導電性部材であり、内部空洞は上記気体チャンバー23aに連通する気体チャネル24aである。図示していないが、気体導管24の他端は気体回収装置に接続されている。
【0073】
電極カバー25は、中心部に正方形の開口25aが形成された正方形状の非導電性部材である。この電極カバー25は、接液面21bが開口25aを介して外部に露出するように多孔電極板21を電極ホルダ23の一部に保持するためのものである。
【0074】
締結ネジ26は、このような電極カバー25を電極ホルダ23に締結固定するためのものであり、電極カバー25の各角部近傍にそれぞれ設けられている。
【0075】
このように構成される多孔電極板21は、所望の方向にだけ気体を通過させ易い性質があるので、気泡を所定の方向へ効率良く導くことができる。
【0076】
以上説明したように、本発明によれば、密閉された電解槽を開封することなく、電極の劣化状況や電極交換の時期などを適切に判断できる電解装置および電極の劣化診断方法を実現できるとともに、自然電流がα以下の場合における所定量の安定なガス生成動作を実現でき、たとえば半導体の製造にあたって基板表面の洗浄に用いられるフッ素ガスの生成装置として好適である。
【符号の説明】
【0077】
1 電解槽
2 隔壁
3 陽極
4 陰極
5 溶融塩電解浴
6 給電体
7 直流電源
8 フッ素
9 水素
10 自然電流測定部
11 直流電源制御部
20 電極ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴を用い、この溶融塩電解浴に浸されている陽極および陰極に直流電源から通電することによりフッ素ガスまたはフッ素含有物質を電解合成するように構成された電解装置において、
前記直流電源が無負荷の状態で前記電極間に流れる自然電流を測定して、その測定結果に基づき前記電極の劣化状態を診断判定する自然電流測定部を設けたことを特徴とする電解装置。
【請求項2】
フッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴を用い、この溶融塩電解浴に浸されている陽極および陰極に直流電源から通電することによりフッ素ガスまたはフッ素含有物質を電解合成するように構成された電解装置において、
前記直流電源が無負荷の状態で前記電極間に流れる自然電流を測定して、その測定結果に基づき前記電極の劣化状態を診断判定する自然電流測定部と、
この自然電流測定部の測定結果に基づいて前記直流電源から前記電極間に印加される電圧を制御する直流電源制御部を設けたことを特徴とする電解装置。
【請求項3】
前記陽極は、標準電極電位が負値である金属を基板とした導電性炭素薄膜電極で構成されていることを特徴とするとで構成されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電解装置。
【請求項4】
前記陰極は、炭素材料で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電解装置。
【請求項5】
前記陽極は、気液分離機能を有した多孔電極で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電解装置。
【請求項6】
フッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴を用い、この溶融塩電解浴に浸されている陽極および陰極に直流電源から通電することによりフッ素ガスまたはフッ素含有物質を電解合成するのにあたり、
前記直流電源が無負荷の状態で前記電極間に流れる自然電流を測定して、その測定結果に基づき前記電極の劣化状態を診断判定することを特徴とする電極の劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−102410(P2011−102410A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256941(P2009−256941)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】