説明

電解装置

【課題】陽極−陰極間に若干の距離的誤差が生じても、安定してスケールが析出するよう構成された電解装置を提供する。
【解決手段】電解装置1は、ケーシング2内に複数の電極セット10を配置したものである。各電極セット10は、1枚の陽極11の両側に3〜20mm程度の通水スペース15をあけて、それぞれ陰極12、12を配置したものである。陽極11と陰極12、12とは平行である。隣接する電極セット10、10は、陰極12、12同士が平行に対面するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は循環型冷却水系、RO(逆浸透膜分離装置)のブライン水など、炭酸カルシウム系スケール障害が問題になる水系におけるスケール析出を防止するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場、ビルなどのコンプレッサー、冷凍機で発生した廃熱は、熱交換器を介して冷却水(冷却媒体)で冷却されている。熱交換器において、廃熱との熱交換で温度が上昇した冷却水は開放型冷却塔で空気と接触することで蒸発して放熱、冷却され、再び熱交換器に循環される。従って、このような循環型冷却水系では、冷却塔で蒸発ないし飛散して減少した水量に相当する補給水が補給されて運転が行われている。
【0003】
しかし、そのままでは補給水中に含有されるスケール成分が冷却水系内で濃縮されて、その溶解度を超え、熱交換器の伝熱面、冷却塔の充填材や底部或いは配管にスケールとして析出して付着し、熱交換効率の低下、通水抵抗の増加といった様々な運転障害を引き起こす。
【0004】
そこで、系内をスケール析出が起こらない硬度で運転するために、冷却塔の底部から、濃縮された冷却水をブロー水として系外へ排出し、補給水で全体を希釈することにより、循環冷却水を一定の水質で運転管理することが行われている。ここで、ブロー水量を多くして、系内のスケール成分濃度を低くして運転すると、補給水を多く必要として水道料金が過大となる。反対に、ブロー水量を少なくして高濃縮運転を行うと、冷却水中のスケール成分が溶解度を超え難溶塩のスケールが析出することとなる。
【0005】
従来、このような冷却水系内のスケール析出を防止するために、リン酸系薬剤やカルボン酸系など各種ポリマーよりなるスケール防止剤を添加することが行われているが、薬剤コストが嵩む。また、溶存した薬剤が放流域に住む水生生物へ影響を与える可能性があることから、下水道放流又は水処理が必要となるという問題もあった。また、薬剤は定期的に補充することが必要であり、その人員コストも問題となっている。
【0006】
このようなスケール防止剤を使用しない方法として、循環冷却水などを電解処理してスケール成分を陰極上に析出させる電解装置が提案されている。
【0007】
このスケール析出除去用の電解装置としては、単極式のものと、複極式のものとがある。単極式のものでは、各電極に接点を繋げており、表裏両面が同じ極性を持つ。複極式の電解装置では、表裏が違う極性を有し、複層構造にしたときに最外層のみ接点をつなげておけば、中に挟まれた電極は極性が分かれて、陽陰極どちらの役目も果たす。電解槽の構造などそれぞれに一長一短があり、状況に応じて使い分けられている。
【0008】
電解槽は、反応面積を多くするために単極式では陽極と陰極を複層に重ね、複極式では両極の性能を有する導電板を複数配置するが、その大半は陽極と陰極を交互に配置した構造となっている。他には3次元電極、円筒電極等が考案されているが、複雑な構造となったり、詰まりやすくなったりと構造上問題がある。
【0009】
特開2000−140849号公報では、凹凸の金属電極ユニットを備えた電解装置に被処理水を通してスケール成分を陰極面に析出させ、さらに極性反転して析出したスケール成分を系外へ除去する装置および方法が記載されている。この方法は、多数の円形突起を持ってスケール付着面を最外面だけにしてスケールを剥離しやすくしている。しかし、金属面の加工程度では表面積の大幅な増加は見込めないことが容易に予想できる。
【0010】
特許第2971511号公報には、三次元電極式電解槽にカルシウム、マグネシウム、およびケイ素などの金属イオンを三次元電極上に析出して除去するものが記載されている。この電解槽では、三次元構造の電極に通水するところから析出したスケールが三次元電極内部で閉塞しやすい。
【特許文献1】特開2000−140849号公報
【特許文献2】特許第2971511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の電解槽は、陽極と陰極とを交互に配置した交互構造が一般的である。この交互構造では、陰極が電極板と垂直方向に位置ずれし、隣接する一方の陽極に近づいて電極間距離が小さくなると隣接する他方の陽極と当該陰極との間の電極間距離が大きくなる。このように1枚の陰極の位置ずれにより当該陰極の両側において電極間距離が変化することになり、電極間距離変動に伴う電解処理特性の低下度合いが大きなものとなる。
【0012】
即ち、一般に電解装置の電極間では、電流は、陽−陰極間の最も短い距離に集中して流れやすくなるので、そこが強い反応場となる。スケールの析出量は、電流密度が小さい範囲では電流密度とほぼ比例して増減するが、ある程度大きい範囲になると、電流密度が増加しても、スケール析出量はそれほど増加しなくなる。陽極−陰極間の電極間距離が大きくなると、電流密度が小さくなり、スケール析出量はそれに応じて減少する。一方、陽極−陰極間の電極間距離が小さくなると、電流密度が増大するが、それによってもたらされるスケール析出量増加は少ない。このようなことから、交互構造の電解装置において、陽極−陰極間の電極間距離が変動すると、電解装置全体のスケール析出量が低下する。
【0013】
本発明は、陽極−陰極間に若干の距離的誤差が生じても、安定してスケールが析出するよう構成された電解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明(請求項1)の電解装置は、槽内部に陽極及び陰極を設置してなる電解装置であって、該槽内に被処理水を通水して電解することにより被処理水中のスケール成分を該陰極表面に析出させて被処理水中からスケール成分を除去する電解装置において、2枚の陽極間に陰極が2枚配置してなる電極配列を1箇所以上有することを特徴とするものである。
【0015】
請求項2の電解装置は、請求項1において、隣接する電極同士が平行となるように、且つ相互間に間隔をあけて並列に配置されてなることを特徴とするものである。
【0016】
請求項3の電解装置は、請求項1又は2において、陰極同士の間の被処理水の流速を0.01〜1.0m/secとすること特徴とするものである。
【0017】
請求項4の電解装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、該陰極は空隙率30〜90%の多孔体よりなることを特徴とするものである。
【0018】
請求項5の電解装置は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記電極に超音波を反射して該電極に析出したスケールを除去する洗浄手段を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電解装置によって循環型冷却水系等におけるスケール析出を防止する場合には、循環型冷却水系等の水を電解装置に通水して電解処理する。
【0020】
この電解装置において、冷却水は以下のように電解される。
陽極:2HO→O+4H+4e
陰極:4HO+4e→4OH+2H
【0021】
この反応により陰極近傍では水素と水酸化物イオンが発生し、アルカリ性となる。このため、陰極近傍で重炭酸イオンが炭酸イオンに解離し、Caイオン及びMgイオンより炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが生成し、これらがスケールとして電極表面に析出することから冷却水系等のスケール化傾向が低減される。従って、循環冷却水又は補給水等をこの電解装置に通水することにより、循環冷却水等のスケール生成傾向が低下する。
【0022】
本発明の電解装置によると、薬品を使用せずにスケール析出の防止ないし抑制及び腐食の低減が可能となる。また、補給水の硬度が高い地方においては高濃縮運転が可能となり、節水に繋がる。
【0023】
なお、補給水には塩化物イオンなどの塩素成分が含まれているので、電解処理により次亜塩素酸などの酸化剤が発生する。これにより、循環型冷却水系における水の殺菌を行うことができる。
【0024】
本発明の電解装置では、平行な1対の陰極間に陽極を配置してなる合計3枚の電極よりなる電極セットを1セット以上、該槽内に設置している。この電解装置では、各電極セットの陽極と陰極との間に通水された被処理水中のスケール成分が陰極上に析出してスケール除去が行われる。本発明では、陰極の一方の側にのみ陽極が配置されているので、陰極が位置ずれしても1つの陽極と陰極との間の電極間距離が変わるだけであり、陰極位置ずれが電極間距離変動に及ぼす影響が小さい。このようなことから、本発明によると、電極間の距離的な誤差が生じても、スケール析出量が低下せず、安定したスケール析出効果を得ることができる。
【0025】
また、陰極の陽極に対峙する側(スケール析出側)でない反対側(通水側)ではスケール析出量が相対的に少ないため、例えスケール析出側にスケールが析出しすぎて閉塞したとしても通水側は閉塞が起こることなく通水される圧損が上がらないので、ポンプへの過度な負担による故障や電解による温度上昇を避けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。図1はそれぞれ実施の形態に係るスケール除去装置の断面図であり、図2は冷却水系の概略的な系統図である。
【0027】
図2の通り、水はクーリングタワー50で冷却され、貯水槽51に貯留される。この冷却水が循環ポンプ52を介して熱交換器53へ送られ、熱交換後、クーリングタワー50で冷却され、貯水槽51に戻される。
【0028】
この貯水槽51内の水をポンプ55を介して電解装置1に通水し、電解処理した後、貯水槽51に戻す。貯水槽51内の水の蒸発により水位が下がると補給水が供給される。これにより循環水の過濃縮を防いでいる。また水位が一定以上になるとブロー配管56からオーバーフローされる。
【0029】
次に、図1を参照して電解装置1の構成について説明する。
【0030】
電解装置1は、ケーシング2内に複数(この実施の形態では2個)の電極セット10を配置したものである。各電極セット10は、1枚の陽極11の両側に3〜20mm程度の通水スペース15をあけて、それぞれ陰極12、12を配置したものである。陽極11と陰極12、12とは平行である。隣接する電極セット10、10は、陰極12、12同士が平行に対面するように配置されている。隣接する電極セット10の陰極12、12同士の間隔は2〜10mm程度が好適である。
【0031】
各電極セット10の陽極11と陰極12、12との間に電圧を印加して電解装置1に通水すると、主として各陰極12の板面のうち陽極11に対峙する面(前面)にスケールが析出する。なお、陰極12の反対側の面(裏面)にも若干量のスケールが析出する。
【0032】
即ち、陽極11と陰極12との間の通水スペース15内の陰極12の近傍では、水素が発生してアルカリ性となる。このため、陰極12の近傍で重炭酸イオンが炭酸イオンに解離し、Caイオン及びMgイオンより炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが生成し、これらがスケールとして電極表面に析出することから冷却水系のスケール化傾向が低減される。
【0033】
従って、貯水槽51内の水をこの電解装置に通水することにより、循環冷却水のスケール生成傾向が低下する。貯水槽51の水の代わりに、補給水をこの電解装置で処理してから貯水槽51へ供給するようにしてもよい。
【0034】
なお、スケールが主に炭酸塩として析出することにより、系内の硬度成分だけでなく重炭酸イオンも除去して循環水のpHを低下させることができる。
【0035】
溶液の腐食・スケール傾向を計るインデックスであるランジェリア指数(以下LSIと記載する。)は、正の値になるほどスケール析出傾向となり、負の値になるほど腐食傾向となり、0のときにどちらの傾向も示さない。電解装置1により硬度成分と重炭酸イオンの両方を除去してpHを下げることにより、LSIを0.5〜1.0の若干スケール傾向となるようにコントロールするのが好ましい。LSIを0.5〜1.0程度の正の値で管理し、スケールが析出しない過飽和に近い濃度でスケール成分を残存させておくことで、系内配管や熱交換器への腐食速度の低減が可能となる。循環水中のカルシウム硬度は冷却水系の熱交換部や配管、冷却塔の充填材などにスケールを析出させない80〜120mgCaCO/Lで運転することが望ましく、さらにはMアルカリ度を80〜120mgCaCO/Lに制御して、飽和指数LSIを0.5〜1.0にすることが好ましい。
【0036】
なお、電解処理時の通水スペース15内での水の流速(線速)は0.5m/sec以下、例えば0.1〜0.5m/sec程度が好適である。このように流速を小さくすると、陰極4の表面に析出するスケールが非常に柔らかく、除去し易いものとなる。陰極12,12の裏面同士の間の通水線速は0.01〜1m/sec程度が好適である。
【0037】
この実施の形態では、陰極12を多孔体にて構成することにより、水と陰極4との接触面積が大きく、スケール成分を効率よく析出させることができる。
【0038】
この多孔体の材料としては、導電性を有し、酸に不溶な材料が好ましく、具体的にはガラス質炭素、不溶性金属、金属酸化物、SUSなどの金属複合物が好適である。なお、多孔体電極の空隙率は30〜97%の範囲が好ましく、特に80〜97%が好適である。陽極には不溶性の金属電極、酸化耐性のある電極を使うのが好ましく、具体的には、白金、イリジウムを被覆したチタン電極や白金メッキ電極等が好ましい。
【0039】
本発明は、循環冷却水系に適用するのに好適であるが、逆浸透膜分離装置で濃縮排水(ブライン)を給水側へ循環させるようにした循環水系などの水系にも適用可能である。図3はかかるROブライン循環系の系統図である。
【0040】
図3において、水槽30内の被処理水はポンプ31及びライン32を介してROユニット33に通水され、透過水はライン37より取り出される。濃縮水は、ライン34を介して電解槽35に通水され、スケール除去処理された後、ライン36を介して水槽30に循環される。
温度調整手段(図示略)がROユニット33と電解槽35との間に設置されている。上記電解槽35が本発明構造の電解装置よりなる。
【実施例】
【0041】
実施例1
図2に示す開放系循環冷却水ラインに図1の本発明の電解装置を設置した。電極配置は図示の通り「陰極−陽極−陰極−陰極−陽極−陰極」であり、合計陰極4枚、陽極2枚の構成でそれぞれの極間距離を5mmとした。陰極の構成材料はステンレス多孔体であり、陽極の構成材料はチタンに白金メッキを施したものである。陰極及び陽極の大きさは10×50cmである。通水スペース15内における通水線速を0.1m/secとし、電流密度を0.5A/mとした。24hr析出運転後の単位面積当たりのスケール析出量を表1に示した。
【0042】
比較例1
比較例として、電極間距離を5mmとして陽極3枚、陰極4枚の交互複層構造の電解装置を用いてスケール析出運転を24hrで実施した。陽極及び陰極の材料と大きさ及び処理条件は実施例1と同一にした。その結果、水の流れによって局部的に電極間距離に偏りが生じて、電流密度の集中が起こり、電極面によってはスケール析出量がばらついたため、表1の通り、全体的なスケール析出量が少なかった。
【0043】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施の形態に用いられる電解装置の断面図である。
【図2】循環型冷却水系の系統図である。
【図3】別の実施の形態を示す系統図である。
【符号の説明】
【0045】
1 電解装置
10 電極セット
11 陽極
12 陰極
15 通水スペース
30 水槽
33 ROユニット
35 電解槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽内部に陽極及び陰極を設置してなる電解装置であって、
該槽内に被処理水を通水して電解することにより被処理水中のスケール成分を該陰極表面に析出させて被処理水中からスケール成分を除去する電解装置において、
2枚の陽極間に陰極が2枚配置してなる電極配列を1箇所以上有することを特徴とする電解装置。
【請求項2】
請求項1において、隣接する電極同士が平行となるように、且つ相互間に間隔をあけて並列に配置されてなることを特徴とする電解装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、陰極同士の間の被処理水の流速を0.01〜1.0m/secとすること特徴とする電解装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該陰極は空隙率30〜90%の多孔体よりなることを特徴とする電解装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記電極に超音波を反射して該電極に析出したスケールを除去する洗浄手段を有することを特徴とする電解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−98355(P2007−98355A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295112(P2005−295112)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】