説明

電解装置

【課題】メンテナンスの頻度が低減されるとともに動作不良の発生が防止された電解装置を提供する。
【解決手段】電解装置10は電解槽11を備える。HFを含む電解浴12が電解槽11に収容される。電解槽11内で電解浴12の上部に形成される空間SPにHF供給管18aの供給口18dから気体状のHFが供給される。HF供給管18aからのHFの供給時には、電解槽11内の空間SPの圧力が制御部23によりHFの蒸気圧よりも高く制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解槽を備えた電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体の製造工程等において、材料の洗浄および表面改質等の種々の用途でフッ素ガスが用いられている。この場合、フッ素ガス自体が用いられることもあり、フッ素ガスを基に合成されたNF3(三フッ化窒素)ガス、NeF(フッ化ネオン)ガスおよびArF(フッ化アルゴン)ガス等の種々のフッ素系ガスが用いられることもある。
【0003】
フッ素ガスを安定に供給するために、通常、HF(フッ化水素)を電気分解してフッ素ガスを発生する電解装置が用いられる。このような電解装置では、例えば、電解槽内にKF・2HF(カリウム−フッ化水素)系の混合溶融塩からなる電解浴が形成される。電解槽内の電解浴が電気分解されることによりフッ素ガスが発生される。
【0004】
特許文献1に記載されたフッ素ガス発生装置は、電解槽および上蓋を備える。上蓋にはHF導入口が設けられる。電解槽には、加熱および溶融することにより電解浴となる粉体状の酸性フッ化カリウム(KF・HF)が充填される。HF供給ラインが加熱され、所定量の気体状の無水フッ化水素がHF導入口に供給される。これにより、先に充填されたKF・HF中にHF導入口から気体状の無水フッ化水素(HF)が気泡として吹き出される。その結果、電解槽に溶融KF・2HF浴が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−339090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、図示されていないが、一般にHF導入口を通して上蓋を貫通するように金属製のHF供給管が設けられる。HF供給管の下端部は、電解槽内の電解浴中に挿入される。それにより、HF供給管の下端開口からHFの気泡が電解浴中に吐出される。
【0007】
しかしながら、長期間にわたってフッ素ガス発生装置を使用すると、電解浴中に挿入される金属製のHF供給管の先端部に腐食が発生する。HF供給管の腐食が進行すると、腐食物がHF供給管内に堆積し、HF供給管が腐食物により閉塞されることがある。腐食物が電解浴中に溶解することもある。
【0008】
また、HFの供給の停止時にHF供給管内に電解浴が吸い上げられることがある。この場合、HF供給管内で電解浴の液面よりも上方に一部の電解浴が付着する。HF供給管に付着した電解浴には、電解槽内で加熱および保温されている電解浴の温度が十分に伝達されない。そのため、HF供給管に付着した電解浴が冷却されることにより凝固する。その結果、HF供給管が凝固した電解浴により閉塞されることがある。
【0009】
これらの結果、電解装置のメンテナンスの頻度が増加するとともに、電解装置の動作不良が発生する場合がある。
【0010】
本発明の目的は、メンテナンスの頻度が低減されるとともに動作不良の発生が防止された電解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)第1の発明に係る電解装置は、化合物を電気分解する電解装置であって、化合物を含む電解浴を収容する電解槽と、電解槽内で電解浴の上部に形成される空間に気体状の化合物を供給するように電解槽に設けられる化合物供給系と、化合物供給系からの化合物の供給時に、電解槽内の空間の圧力を化合物の蒸気圧よりも高く制御する圧力制御手段とを備えるものである。
【0012】
この電解装置においては、化合物を含む電解浴が電解槽に収容される。電解槽内で電解浴の上部に形成される空間に化合物供給系により気体状の化合物が供給される。化合物供給系からの化合物の供給時には、電解槽内の空間の圧力が圧力制御手段により化合物の蒸気圧よりも高く制御される。
【0013】
この場合、電解槽内の空間の圧力が化合物の蒸気圧よりも高いので、電解槽内の空間内に供給される気体状の化合物が液化されやすくなる。それにより、電解槽内の電解浴に化合物が効率よく吸収される。また、化合物供給系は、電解槽内の電解浴の上部の空間に気体状の化合物を供給するように設けられるので、電解浴に接触しない。そのため、化合物供給系の部分が電解浴に接触することによる腐食が発生しない。また、電解浴が化合物供給系の部分に付着することによる凝固が発生しない。それにより、化合物供給系の閉塞の発生が防止される。その結果、電解装置のメンテナンスの頻度を低減することが可能となるとともに、電解装置の動作不良の発生が防止される。
【0014】
(2)化合物供給系は、電解槽内の電解浴の液面よりも上方に位置するように配置された化合物供給口を有する化合物供給管と、化合物供給管の温度を調整する温度調整手段とを含み、圧力制御手段は、化合物供給系からの化合物の供給時に化合物供給管内の圧力を電解槽内の空間の圧力よりも高くなるように化合物供給管内の圧力を制御するように構成され、温度調整手段は、化合物供給管内の化合物が気体状を維持するように化合物供給管の温度を調整してもよい。
【0015】
この場合、化合物供給系からの化合物の供給時に、化合物供給管内の圧力が電解槽内の空間の圧力よりも高くなるように化合物供給管内の圧力が制御される。また、化合物供給管内の化合物が気体状を維持するように化合物供給管の温度が調整される。これにより、気体状の化合物を化合物供給管から電解槽内の空間に確実に供給することができる。
【0016】
(3)第2の発明に係る電解装置は、化合物を電気分解する電解装置であって、化合物を含む電解浴を収容する電解槽と、電解槽内で電解浴の上部に形成される空間に液体状の化合物を供給するように電解槽に設けられる化合物供給系とを備えるものである。
【0017】
この電解装置においては、化合物を含む電解浴が電解槽に収容される。電解槽内で電解浴の上部に形成される空間に化合物供給系により液体状の化合物が供給される。それにより、電解槽内の電解浴に化合物が効率よく吸収される。また、化合物供給系は、電解槽内の電解浴の上部の空間に液体状の化合物を供給するように設けられるので、電解浴に接触しない。そのため、化合物供給系の部分が電解浴に接触することによる腐食が発生しない。また、電解浴が化合物供給系の部分に付着することによる凝固が発生しない。それにより、化合物供給系の閉塞の発生が防止される。その結果、電解装置のメンテナンスの頻度を低減することが可能となるとともに、電解装置の動作不良の発生が防止される。
【0018】
(4)化合物供給系は、気体状の化合物を冷却することにより液体状の化合物を生成する冷却手段を含んでもよい。この場合、気体状の化合物を電解槽に供給する際に液体状の化合物を容易に生成することができる。
【0019】
(5)電解装置は、化合物供給系からの化合物の供給時に、電解槽内の空間の圧力を化合物の蒸気圧よりも高く制御する圧力制御手段をさらに備えてもよい。
【0020】
この場合、電解槽内の空間の圧力が化合物の蒸気圧よりも高く制御されるので、電解槽内の空間に供給される液体状の化合物が気化することが防止される。それにより、電解槽内の電解浴に化合物が効率よく吸収される。
【0021】
(6)圧力制御手段は、電解槽内の電解浴の温度を検出する温度検出手段と、電解槽内の空間の圧力検出する圧力検出手段と、電解槽内の圧力を調整する圧力調整手段と、化合物の温度と蒸気圧との関係、温度検出手段により検出される温度および圧力検出手段により検出される圧力に基づいて、電解槽内の空間の圧力が化合物の蒸気圧よりも高くなるように圧力調整手段を制御する制御部とを含んでもよい。
【0022】
この場合、化合物の温度と蒸気圧との関係および温度検出手段により検出される温度に基づいて化合物の蒸気圧が検出される。また、圧力検出手段により電解槽内の空間の圧力が検出される。これにより、制御部は、電解槽内の空間の圧力が確実に化合物の蒸気圧よりも高くなるように圧力調整手段を制御することができる。
【0023】
(7)圧力調整手段は、電解槽の空間内の気体を排出する気体排出系と、気体排出系を開閉する第1の開閉手段とを含み、制御部は、電解槽内の空間の圧力が化合物の蒸気圧よりも高くなるように第1の開閉手段の開閉を制御してもよい。
【0024】
この場合、電解槽内の空間の圧力が化合物の蒸気圧以下になると、気体排出系の第1の開閉手段を閉状態にすることにより電解槽の空間内の気体を排出することができる。それにより、電解槽内の空間の圧力を化合物の蒸気圧よりも高くすることができる。
【0025】
(8)電解装置は、電解槽に収容される電解浴の液面が予め定められた高さよりも上昇しないように電解浴の液面を制御する液面制御手段をさらに備えてもよい。
【0026】
この場合、電解槽内で電解浴の上部に空間を確実に形成することができるとともに、化合物供給系が電解浴に接触することを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、電解装置のメンテナンスの頻度が低減されるとともに、電解装置の動作不良の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1の実施の形態に係る電解装置の模式的断面図である。
【図2】電解浴であるKF・2HFの蒸気圧と温度との関係を示すグラフである。
【図3】制御部による自動弁の制御処理を示すフローチャートである。
【図4】第2の実施の形態に係る電解装置の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[1]第1の実施の形態
以下、第1の実施の形態に係る電解装置について図面を参照しながら説明する。
【0030】
(1)電解装置の構成
図1は、第1の実施の形態に係る電解装置の模式的断面図である。図1の電解装置10は、フッ素ガスを発生する気体発生装置である。図1に示すように、電解装置10は電解槽11を備える。電解槽11は電解槽本体11a、上部蓋体11bおよび絶縁部材11cにより構成される。
【0031】
電解槽本体11aおよび上部蓋体11bは、例えばNi(ニッケル)、モネル、純鉄もしくはステンレス鋼等の金属または合金により形成される。
【0032】
電解槽本体11aは、底面部および4つの側面部を有し、上部に開口を有する。絶縁部材11cは、側面部の上端面に沿って設けられる。絶縁部材11cは、樹脂等の絶縁材料により形成される。電解槽本体11aの開口を閉塞するように、絶縁部材11c上に上部蓋体11bが配置される。それにより、電解槽本体11aと上部蓋体11bとが絶縁部材11cにより互いに電気的に絶縁される。
【0033】
電解槽11内には、KF・2HF(フッ化カリウム−フッ化水素)系混合溶融塩からなる電解浴12が形成される。電解槽本体11aの内部には、電解浴12の液面を検出する下限液面センサ20aおよび上限液面センサ20bが設けられる。下限液面センサ20aおよび上限液面センサ20bは、液面の検出結果を示す検出信号を出力する。下限液面センサ20aにより検出される電解浴12の液面の高さを下限液面高さH1と呼ぶ。上限液面センサ20bにより検出される電解浴12の液面の高さを上限液面高さH2と呼ぶ。上限液面高さH2は下限液面高さH1よりも高い。後述するように、電解浴12の液面は下限液面高さH1と上限液面高さH2との間で変化するように調整される。それにより、電解槽11内の電解浴12の上面と上部蓋体11bとの間に空間SPが形成される。
【0034】
上部蓋体11bの下面に円筒状の隔壁13が上部蓋体11bと一体的に設けられる。隔壁13は、例えばNiまたはモネルからなる。隔壁13の下端部は電解浴12に浸漬するように形成される。それにより、電解槽11内において、隔壁13の内側に陽極室14aが形成され、隔壁13の外側に陰極室14bが形成される。
【0035】
陽極室14a内で電解浴12に浸漬するように陽極15aが配置される。陽極15aの材料としては、例えば低分極性炭素電極を用いることが好ましい。電解槽本体11aの内面には、陰極15bが形成される。陰極15bの材料としては、例えばNiを用いることが好ましい。
【0036】
HFを供給するためのHF供給管18aが上部蓋体11bを貫通するように設けられる。本実施の形態では、HF供給管18aの一端(下端)は、陰極室14b内に位置する。HF供給管18aの他端はHF供給源50に接続される。HF供給管18aは温度調整用ヒータ18bで覆われる。また、HF供給管18aには、供給されるHFの温度を検出する温度センサ18cおよびHF供給管18a内の圧力を検出する圧力センサP2が設けられる。HF供給管18aには自動弁v1が介挿されている。HF供給管18aの下端は、HFの供給口18dとして電解槽11の内部において開口している。HF供給管18aの供給口18dは、上限液面高さH2よりも高い位置に設けられる。これにより、HF供給管18aは電解浴12の上限液面高さH2よりも高い位置から電解浴12にHFを供給する。
【0037】
温度センサ18cにより検出される温度がHFの沸点より高くなるように、HF供給管18aが温度調整用ヒータ18bにより加熱される。これにより、HF供給管18aでHFが液化することが防止される。なお、1気圧におけるHFの融点は−84℃であり、1気圧におけるHFの沸点は19.54℃である。電解浴12の液面が下限液面センサ20aにより検出された場合、自動弁v1が開放される。これにより、HF供給管18aを通して電解槽11内の空間SPに気体状のHFが供給される。本実施の形態においては、HFは陰極室14b内に供給される。
【0038】
この電解装置10は、制御部23を備える。制御部23により陽極15aと陰極15bとの間に電圧が印加される。それにより、電解槽11内の電解浴12が電気分解される。それにより、陽極室14aにおいて主にフッ素ガスが発生する。また、陰極室14bにおいて主に水素ガスが発生する。
【0039】
上部蓋体11bには、ガス排出口16a,16bが設けられる。ガス排出口16aには排気管17aが接続され、ガス排出口16bには排気管17bが接続される。ガス排出口16aは陽極室14aに連通し、ガス排出口16bは陰極室14bに連通する。排気管17a,17bには、それぞれ自動弁v2,v3が介挿される。自動弁v2が開放されている場合、陽極室14aで発生される気体は、ガス排出口16aから排気管17aを通して排出される。また、自動弁v3が開放されている場合、陰極室14bで発生する気体はガス排出口16bから排気管17bを通して排出される。
【0040】
電解装置10には、電解槽本体11a内の電解浴12の温度を検出する温度センサ22が設けられる。本実施の形態では、温度センサ22は、熱電対からなる。また、電解装置の陰極室14bには、圧力センサP1が設けられる。圧力センサP1により、陰極室14b内の圧力が検出される。
【0041】
温度センサ18c,22により検出される温度は制御部23に与えられる。また、圧力センサP1,P2により検出される圧力は制御部23に与えられる。さらに、下限液面センサ20aおよび上限液面センサ20bからの検出信号は、制御部23に与えられる。制御部23は、下限液面センサ20aおよび上限液面センサ20bからの検出信号、温度センサ22により検出される温度および圧力センサP1により検出される圧力に基づいて自動弁v1〜v3の開閉を制御する。これにより、電解浴12の液面が下限液面高さH1まで低下した場合、HFが電解槽11に供給される。また、電解浴12の液面が上限液面高さH2まで上昇した場合、HFの供給が停止される。
【0042】
HFの供給の際には、圧力センサP2により検出される圧力が圧力センサP1により検出される圧力よりも大きくなるように、HF供給源50からHF供給管18aに供給されるHFの圧力が設定される。また、制御部23は、温度センサ18cにより検出される温度および圧力センサP2により検出される圧力に基づいてHF供給管18a内のHFが気体状に維持されるように温度調整用ヒータ18bを制御する。具体的には、HFの蒸気圧が圧力センサP2により検出される圧力よりも高くなるように温度調整用ヒータ18bによりHF供給管18a内のHFが加熱される。これにより、気体状のHFを電解槽11内に供給することができる。
【0043】
(2)自動弁の制御処理
制御部23による自動弁v1〜v3の制御動作について説明する。図2は、電解浴12であるKF・2HFの蒸気圧と温度との関係を示すグラフである。ここで、KF・2HFにおける蒸気圧の成分はHFである。図2に示すように、電解浴12の蒸気圧をP[kPaG]とし、電解浴12の温度をT[℃]とすると、電解浴12の蒸気圧と温度との関係はP=0.3192[kPaG/℃]×T−21.579[kPaG]で与えられる。制御部23は、図2に示されるKF・2HFの蒸気圧と温度との関係を記憶している。
【0044】
電解槽11内の電解浴12は、室温でかつ大気圧下では固体状態をとる。そのため、電解浴12の電気分解を行うためには、電解浴12を80〜90℃に加熱し、液体状態にする必要がある。本実施の形態においては、温度センサ22により検出される温度に基づいて、電解浴12の温度が85±2℃の範囲で制御される。したがって、図2のグラフより、電解槽11内の電解浴12の蒸気圧は6kPaG程度となる。
【0045】
HF供給管18aから陰極室14b内にHFが供給される際、陰極室14b内の圧力が電解浴12の蒸気圧すなわちHFの蒸気圧よりも高く制御される。それにより、HF供給管18aの供給口18dから空間SPに吐出された気体状のHFが液化しやすくなる。その結果、空間SPに供給されたHFが電解浴12に効率よく吸収される。陰極室14b内の圧力がHFの蒸気圧以下の場合、排気管17bに介挿された自動弁v3が閉止される。これにより、陰極室14b内の圧力をHFの蒸気圧よりも高くすることができる。
【0046】
なお、本実施の形態においては、排気管17bの自動弁v3が閉止される場合には、排気管17aの自動弁v2も同時に閉止される。したがって、陰極室14b内の圧力が上昇する場合には、陽極室14a内の圧力も同時に上昇する。これにより、陰極室14b内の電解浴12の液面が低下しかつ陽極室14a内の電解浴12の液面が上昇することが防止される。その結果、陽極室14a内の液面および陰極室14b内の液面をほぼ同一に保つことができる。
【0047】
図3は、制御部23による自動弁v1〜v3の制御処理を示すフローチャートである。なお、初期状態では、自動弁v1は閉止され、自動弁v2,v3は開放されている。
【0048】
制御部23は、下限液面センサ20aの検出信号に基づいて電解浴12の液面が下限液面高さH1まで低下したか否かを判定する(ステップS1)。電解浴12の液面が下限液面高さH1まで低下していない場合、制御部23は、電解浴12の液面が下限液面高さH1まで低下するまで待機する。
【0049】
電解浴12の液面が下限液面高さH1まで低下した場合、制御部23は自動弁v1を開放する(ステップS2)。これにより、圧力センサP2により検出される圧力が圧力センサP1により検出される圧力よりも高い場合、電解槽11内に気体状のHFが供給される。次に、制御部23は、圧力センサP1により検出される圧力が電解浴12(HF)の蒸気圧よりも高いか否かを判定する(ステップS3)。電解浴12の蒸気圧は、温度センサ22により検出される温度に基づいて、図2の関係から求められる。
【0050】
圧力センサP1により検出される圧力がHFの蒸気圧以下である場合、制御部23は自動弁v2,v3を閉止する(ステップS4)。この場合、極室14a内および陰極室14b内の圧力が上昇する。それにより、圧力センサP1により検出される圧力をHFの蒸気圧よりも高くすることができる。それにより、HF供給管18aの供給口18dから空間SPに吐出された気体状のHFが液化しやすくなる。その結果、電解浴12にHFが効率よく吸収される。その後、制御部23は、ステップS3の処理に戻る。
【0051】
ステップS3で圧力センサP1により検出される圧力がHFの蒸気圧よりも高い場合、電解浴12にHFが効率よく吸収されるので、電解浴12の液面が上昇する。この場合、制御部23は、上限液面センサ20bからの検出信号に基づいて電解浴12の液面が上限液面高さH2まで上昇したか否かを判定する(ステップS5)。電解浴12の液面が上限液面高さH2まで上昇していない場合、制御部23は、ステップS3の処理に戻る。
【0052】
ステップS5で電解浴12の液面が上限液面高さH2まで上昇した場合、制御部23は自動弁v1を閉止する(ステップS6)。また、制御部23は自動弁v2,v3を開放し、ステップS1の処理に戻る。
【0053】
(3)効果
本実施の形態に係る電解装置10においては、電解槽11の空間SPの圧力が制御部23によりHFの蒸気圧よりも高く制御されるので、HF供給管18aの供給口18dから空間SPに吐出された気体状のHFが液化しやすくなる。それにより、電解槽11内の電解浴12にHFが効率よく吸収される。また、HF供給管18aの供給口18dは、電解浴12の上部の空間SPにHFを供給するように設けられるので、電解浴12に接触しない。そのため、HF供給管18aの供給口18dが電解浴12に接触することによるHF供給管18aの腐食が発生しない。また、電解浴12がHF供給管18aの供給口18dに付着することによる電解浴12の凝固が発生しない。それにより、HF供給管18aの閉塞の発生が防止される。その結果、電解装置10のメンテナンスの頻度を低減することが可能となるとともに、電解装置10の動作不良の発生が防止される。
【0054】
[2]第2の実施の形態
(1)電解装置の構成
第2の実施の形態に係る電解装置について、第1の実施の形態に係る電解装置10と異なる点を説明する。図4は、第2の実施の形態に係る電解装置の模式的断面図である。図4に示すように、本実施の形態に係る電解装置10は、HF液化装置30をさらに備える。また、HF供給管18aに温度調整用ヒータ18bおよび温度センサ18cが設けられない。
【0055】
HF液化装置30は、HFを貯留するHF液化容器31を備える。HF液化容器31は、底面部、上面部および4つの側面部を有する。HF液化容器31の4つの側面部には、温調素子32が設けられる。本実施の形態において、温調素子32は、例えばペルチェ素子である。
【0056】
HF液化容器31の上面部には、HF液化容器31内に気体状のHFを供給するためのHF供給管19が接続される。HF供給管19には自動弁v4が介挿されている。HF供給源50からHF供給管19を通して気体状のHFがHF液化容器31内に供給される。
【0057】
HF液化容器31には、HFの温度を検出する温度センサ33およびHF液化容器31内の圧力を検出する圧力センサP3が設けられる。温度センサ33により検出される温度および圧力センサP3により検出される圧力は制御部23に与えられる。制御部23は、温度センサ33により検出される温度および圧力センサP3により検出される圧力に基づいて、HFの温度が融点(1気圧においては−84℃)を超えかつ沸点(1気圧においては19.54℃)未満になるように温調素子32を制御する。これにより、HF液化容器31内に供給された気体状のHFが液化され、HF液化容器31内に液体状のHFが貯留される。
【0058】
HF液化容器31の内部には、HFの液面を検出する下限液面センサ34aおよび上限液面センサ34bが設けられる。下限液面センサ34aの下端は上限液面センサ34bの下端よりも下方に配置される。下限液面センサ34aおよび上限液面センサ34bの検出結果を示す検出信号は、制御部23に与えられる。
【0059】
HF液化容器31内のHFの液面が下限液面センサ34aの下端まで低下した場合、制御部23により自動弁v4が開放される。これにより、HF液化容器31内に気体状のHFが供給される。また、HF液化容器31内のHFの液面が上限液面センサ34bの下端の位置まで上昇した場合、制御部23により自動弁v4が閉止される。これにより、HF液化容器31内への気体状のHFの供給が停止される。その結果、HF液化容器31内に一定範囲の液体状のHFが貯留される。
【0060】
HF液化容器31の底面部には、HF供給管18aが接続される。HF液化容器31内の液体状のHFが、HF供給管18aを介して電解槽11内の空間SPに供給される。それにより、液体状のHFが電解槽11内の電解浴12に効率よく吸収される。
【0061】
(2)効果
本実施の形態に係る電解装置10においては、気体状のHFがHF液化装置30の温調素子32で冷却されることにより液化される。この場合、電解槽11の内の空間SPに液体状のHFが供給されるので、HFは電解槽11内の電解浴12に効率よく吸収される。また、HF供給管18aの供給口18dは、電解浴12の上部の空間SPにHFを供給するように設けられるので、電解浴12に接触しない。そのため、HF供給管18aの供給口18dが電解浴12に接触することによるHF供給管18aの腐食が発生しない。また、電解浴12がHF供給管18aの供給口18dに付着することによる電解浴12の凝固が発生しない。それにより、HF供給管18aの閉塞の発生が防止される。その結果、電解装置10のメンテナンスの頻度を低減することが可能となるとともに、電解装置10の動作不良の発生が防止される。
【0062】
陰極室14b内の圧力が制御部23によりHFの蒸気圧よりも高く制御されることが好ましい。この場合、自動弁v1〜v3の制御処理については、図3の制御処理と同様である。それにより、電解槽11内の空間SPに供給される液体状のHFが気化することが防止される。その結果、HFが電解槽11内の電解浴12に確実に吸収される。
【0063】
なお、HF供給管18aから陰極室14b内に供給される液体状のHFが陰極室14b内で気化しない場合には、陰極室14b内の圧力はHFの蒸気圧よりも高く制御されなくてもよい。
【0064】
[3]他の実施の形態
(1)電解槽11の陰極室14b内の圧力をHFの蒸気圧よりも高くすることが困難な場合には、陰極室14b内に窒素ガス等の不活性ガスを供給してもよい。それにより、陰極室14b内の圧力をHFの蒸気圧よりも容易に高くすることができる。
【0065】
(2)第1および第2の実施の形態においては、HFが電解槽11の陰極室14b内に供給されるが、これに限定されない。HFは電解槽11の陰極室14b内ではなく電解槽11の陽極室14a内に供給されてもよい。この場合、HF供給管18aの供給口18dは、陽極室14a内に位置するように設けられる。
【0066】
(3)第2の実施の形態において、気体状のHFがHF液化装置30により液化されることにより液体状のHFが電解槽11内の空間SPに供給されるが、これに限定されない。HF供給源50から液体状のHFがHF供給管18aを通して電解槽11に直接供給されてもよい。この場合、電解装置10にHF液化装置30が設けられない。
【0067】
(4)電気分解される化合物はHFに限定されない。例えば、化合物としてNHF・HF(フッ化アンモニウム−フッ化水素)またはNHF・KF・HF(フッ化アンモニウム−フッ化カリウム−フッ化水素)を用いることができる。この場合、陽極室14aにおいてNF(三フッ化窒素)が発生し、陰極室14bにおいてH(水素)が発生する。
【0068】
[4]請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応関係
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。電解装置10が電解装置の例であり、電解浴12が電解浴の例であり、電解槽11が電解槽の例であり、空間SPが空間の例である。第1の実施の形態においてはHF供給管18aおよび温度調整用ヒータ18bが化合物供給系の例であり、第2の実施の形態においてはHF供給管18aおよびHF液化装置30が化合物供給系の例である。
【0069】
供給口18dが化合物供給口の例であり、HF供給管18aが化合物供給管の例であり、温度調整用ヒータ18bが温度調整手段の例である。温度センサ22、圧力センサP1、排気管17b、自動弁v3および制御部23が圧力制御手段の例である。温度センサ22が温度検出手段の例であり、圧力センサP1が圧力検出手段の例であり、排気管17bおよび自動弁v3が圧力調整手段の例である。
【0070】
温調素子32が冷却手段の例であり、制御部23が制御部の例であり、排気管17bが気体排出系の例であり、自動弁v3が開閉手段の例であり、上限液面高さH2が予め定められた高さの例である。上限液面センサ20b、自動弁v1および制御部23が液面制御手段の例である。
【0071】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、気体発生装置等の電解装置に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
10 電解装置
11 電解槽
11a 電解槽本体
11b 上部蓋体
11c 絶縁部材
12 電解浴
13 隔壁
14a 陽極室
14b 陰極室
15a 陽極
15b 陰極
16a,16b ガス排出口
17a,17b 排気管
18a,19 HF供給管
18b 温度調整用ヒータ
18c 温度センサ
18d 供給口
20a,34a 下限液面センサ
20b,34b 上限液面センサ
22,33 温度センサ
23 制御部
30 HF液化装置
31 HF液化容器
32 温調素子
50 HF供給源
H1 下限液面高さ
H2 上限液面高さ
P1〜P3 圧力センサ
SP 空間
v1〜v4 自動弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物を電気分解する電解装置であって、
前記化合物を含む電解浴を収容する電解槽と、
前記電解槽内で電解浴の上部に形成される空間に気体状の前記化合物を供給するように前記電解槽に設けられる化合物供給系と、
前記化合物供給系からの前記化合物の供給時に、前記電解槽内の前記空間の圧力を前記化合物の蒸気圧よりも高く制御する圧力制御手段とを備える、電解装置。
【請求項2】
前記化合物供給系は、
前記電解槽内の電解浴の液面よりも上方に位置するように配置された化合物供給口を有する化合物供給管と、
前記化合物供給管の温度を調整する温度調整手段とを含み、
前記圧力制御手段は、前記化合物供給系からの前記化合物の供給時に前記化合物供給管内の圧力を前記電解槽内の前記空間の圧力よりも高くなるように前記化合物供給管内の圧力を制御するように構成され、
前記温度調整手段は、前記化合物供給管内の前記化合物が気体状を維持するように前記化合物供給管の温度を調整する、請求項1記載の電解装置。
【請求項3】
化合物を電気分解する電解装置であって、
前記化合物を含む電解浴を収容する電解槽と、
前記電解槽内で電解浴の上部に形成される空間に液体状の前記化合物を供給するように前記電解槽に設けられる化合物供給系とを備える、電解装置。
【請求項4】
前記化合物供給系は、
気体状の前記化合物を冷却することにより液体状の前記化合物を生成する冷却手段を含む、請求項3記載の電解装置。
【請求項5】
前記化合物供給系からの前記化合物の供給時に、前記電解槽内の前記空間の圧力を前記化合物の蒸気圧よりも高く制御する圧力制御手段をさらに備える、請求項3または4記載の電解装置。
【請求項6】
前記圧力制御手段は、
前記電解槽内の電解浴の温度を検出する温度検出手段と、
前記電解槽内の前記空間の圧力検出する圧力検出手段と、
前記電解槽内の圧力を調整する圧力調整手段と、
前記化合物の温度と蒸気圧との関係、前記温度検出手段により検出される温度および前記圧力検出手段により検出される圧力に基づいて、前記電解槽内の前記空間の圧力が前記化合物の蒸気圧よりも高くなるように前記圧力調整手段を制御する制御部とを含む、請求項1、2または5のいずれか一項に記載の電解装置。
【請求項7】
前記圧力調整手段は、
前記電解槽の前記空間内の気体を排出する気体排出系と、
前記気体排出系を開閉する開閉手段とを含み、
前記制御部は、前記電解槽内の前記空間の圧力が前記化合物の蒸気圧よりも高くなるように前記開閉手段の開閉を制御する、請求項6記載の電解装置。
【請求項8】
前記電解槽に収容される電解浴の液面が予め定められた高さよりも上昇しないように電解浴の液面を制御する液面制御手段をさらに備える、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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