説明

電解質、電解質膜、リチウムイオン二次電池及びホスファゼン化合物

【課題】配合成分の種類が少なく、十分な難燃性及びイオン伝導度を有する電解質、及び該電解質を用いたリチウムイオン二次電池の提供。
【解決手段】(A)一般式(1)で表されるホスファゼン化合物、及び(B)ホウ素化合物が配合され、リチウム塩として前記ホスファゼン化合物のみが配合されてなる電解質(Xはそれぞれ一般式(10A)又は(10B)で表される基であり。ただし、(10A)及び(10B)で表される基は共存しない。);電解質膜;リチウムイオン二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質、該電解質を用いた電解質膜、該電解質膜を用いたリチウムイオン二次電池、及び該電解質への利用に好適なホスファゼン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、鉛蓄電池、ニッケル水素電池に比べて、エネルギー密度及び起電力が高いという特徴を有するため、小型、軽量化が要求される携帯電話やノートパソコン等の電源として広く使用されている。そして、これらリチウムイオン二次電池では、電解質としてリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水系電解液を使用したものが主流となっている。
【0003】
しかし、非水系電解液は揮発拡散や液漏れの危険性を有しており、引火点が室温付近であるために、これを使用した二次電池は、充放電サイクルに伴う特性の低下だけでなく、最悪の場合、発火事故や爆発事故の発生が懸念される。そこで、難燃剤の併用が必要となる。
【0004】
これに対して、固体又はゲル状の電解質を使用すれば、電解液の揮発拡散や液漏れの懸念がなくなるため、電池としての信頼性、安全性を向上させることができる。さらに、電解質自体を薄膜化、積層化することが容易になるため、プロセス性の向上とパッケージの簡略化が期待されている。しかし、固体又はゲル状の電解質であっても、それ自体は可燃性を有しているので、難燃剤の併用が望まれる。
【0005】
電解質で併用される難燃剤として、従来は、トリメチルフォスフェートやトリエチルフォスフェート等のリン系化合物、ホスファゼンが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−80651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の電解質は、上記のように難燃剤を併用することで、配合成分の組成が複雑になるという問題点があり、配合成分の種類が少なく、十分な難燃性及びイオン伝導度を有する新規な電解質の開発が望まれていた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、配合成分の種類が少なく、十分な難燃性及びイオン伝導度を有する電解質、及び該電解質を用いたリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、
本発明は、(A)下記一般式(1)で表されるホスファゼン化合物、及び(B)ホウ素化合物が配合され、リチウム塩として前記ホスファゼン化合物のみが配合されてなることを特徴とする電解質を提供する。
【0009】
【化1】

(式中、Xはそれぞれ独立に下記一般式(10A)又は(10B)で表される基である。ただし、下記一般式(10A)及び(10B)で表される基は共存しない。)
【0010】
【化2】

(式中、nは1又は2であり;Zはリチウム原子又は水素原子であり、nが2である場合、二つのZは互いに同一でも異なっていてもよく、ただし、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子であり;Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基である。)
【0011】
【化3】

(式中、nは0以上の整数であり、nは1〜10の整数であり、ただしnが1以上である場合、nは1であり;Zはリチウム原子又は水素原子であり、ただし、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子であり;Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基であり;R2a及びR2bはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、nが2以上である場合、複数のR2a及びR2bはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0012】
本発明の電解質においては、配合されたすべての前記ホスファゼン化合物について、前記Z及びZの総数に占めるリチウム原子数の比率の平均値が90%以上であることが好ましい。
本発明の電解質においては、さらに、(C)有機溶媒及び/又は(D)マトリクスポリマーが配合されてなることが好ましい。
また、本発明は、上記本発明の電解質を用いて得られたことを特徴とする電解質膜を提供する。
また、本発明は、上記本発明の電解質膜を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池を提供する。
また、本発明は、下記一般式(1)で表されるホスファゼン化合物を提供する。
【0013】
【化4】

(式中、Xはそれぞれ独立に下記一般式(10A)又は(10B)で表される基である。ただし、下記一般式(10A)及び(10B)で表される基は共存しない。)
【0014】
【化5】

(式中、nは1又は2であり;Zはリチウム原子又は水素原子であり、nが2である場合、二つのZは互いに同一でも異なっていてもよく、ただし、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子であり;Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基である。)
【0015】
【化6】

(式中、nは0以上の整数であり、nは1〜10の整数であり、ただしnが1以上である場合、nは1であり;Zはリチウム原子又は水素原子であり、ただし、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子であり;Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基であり;R2a及びR2bはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、nが2以上である場合、複数のR2a及びR2bはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、配合成分の種類が少なく、十分な難燃性及びイオン伝導度を有する電解質、及び該電解質を用いたリチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1におけるH−NMRの測定データである。
【図2】実施例4におけるH−NMRの測定データである。
【図3】実施例4における31P−NMRの測定データである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<電解質>
本発明の電解質は、(A)下記一般式(1)で表されるホスファゼン化合物(以下、「(A)ホスファゼン化合物」又は「化合物(1)」と略記することがある)、及び(B)ホウ素化合物が配合され、リチウム塩として(A)ホスファゼン化合物のみが配合されてなることを特徴とする。
【0019】
【化7】

(式中、Xはそれぞれ独立に下記一般式(10A)又は(10B)で表される基である。ただし、下記一般式(10A)及び(10B)で表される基は共存しない。)
【0020】
【化8】

(式中、nは1又は2であり;Zはリチウム原子又は水素原子であり、nが2である場合、二つのZは互いに同一でも異なっていてもよく、ただし、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子であり;Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基である。)
【0021】
【化9】

(式中、nは0以上の整数であり、nは1〜10の整数であり、ただしnが1以上である場合、nは1であり;Zはリチウム原子又は水素原子であり、ただし、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子であり;Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基であり;R2a及びR2bはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、nが2以上である場合、複数のR2a及びR2bはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0022】
[(A)ホスファゼン化合物]
前記一般式(1)中、Xはそれぞれ独立に前記一般式(10A)又は(10B)で表される基である。すなわち、シクロホスファゼン骨格を構成している三つのリン原子(P)に結合している六つのXは、すべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部が同じでもよい。ただし、一般式(10A)及び(10B)で表される基は共存せず、一般式(1)中のXは、すべて一般式(10A)で表される基であるか、又はすべて一般式(10B)で表される基である。
【0023】
前記一般式(10A)中、Zはリチウム原子又は水素原子である。ただし、前記一般式(1)中((A)ホスファゼン化合物一分子中)の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子である。すなわち、前記一般式(1)中の複数の前記Zは、すべてリチウム原子であってもよいし、一部が水素原子であってもよい。
【0024】
前記一般式(10A)中、nは1又は2である。そして、nが2である場合、二つのZは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0025】
前記一般式(10A)中、Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基である。
【0026】
一般式(10A)において、式「−C(=O)−OZ」で表される基のベンゼン環骨格への結合位置は、特に限定されず、ベンゼン環骨格に別途結合しているQに対して、オルト位、メタ位及びパラ位のいずれでもよい。ただし、nが1である場合には、メタ位又はパラ位であることが好ましい。そして、nが2である場合には、いずれもメタ位であることが好ましい。すなわち、一般式(10A)で表される基のうち、好ましいものとしては、下記式(10A)−101a、(10A)−101b、(10A)−102a、(10A)−201a、(10A)−201b及び(10A)−202aで表される基が例示できる。
【0027】
【化10】

【0028】
前記一般式(10B)中、Zはリチウム原子又は水素原子である。ただし、前記一般式(1)中((A)ホスファゼン化合物一分子中)の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子である。すなわち、前記一般式(1)中の複数の前記Zは、すべてリチウム原子であってもよいし、一部が水素原子であってもよい。
【0029】
前記一般式(10B)中、R2a及びR2bはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基である。
前記炭化水素基は、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基のいずれでもよいが、飽和炭化水素基、すなわちアルキル基であることが好ましい。
【0030】
前記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、トリシクロデシル基が例示できる。
これらの中でも、前記アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
【0031】
前記不飽和炭化水素基は、前記アルキル基における隣接する炭素原子間の単結合(C−C)の一つ以上が、二重結合(C=C)又は三重結合(C≡C)に置換されたものが例示でき、好ましいものとしてアルケニル基、アルキニル基が例示できる。
【0032】
前記炭化水素基は、水素原子又はアルキル基であることが好ましい。
【0033】
前記一般式(10B)中、nは0以上の整数であり、nは1〜10の整数であり、ただしnが1以上である場合、nは1である。そして、nは12以下であることが好ましい。
が2以上である場合、複数のR2aは互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、R2aはすべてが同じでもよいし、すべてが異なっていてもよく、一部のみが同じであってもよい。
同様に、nが2以上である場合、複数のR2bは互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、R2bはすべてが同じでもよいし、すべてが異なっていてもよく、一部のみが同じであってもよい。
【0034】
前記一般式(10B)中、Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基である。
【0035】
(A)ホスファゼン化合物は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜調節すればよい。
【0036】
(A)ホスファゼン化合物は、一分子につき、前記Z又はZの総数に占めるリチウム原子数の比率が50%以上であることが好ましく、83%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
そして、配合されたすべての前記ホスファゼン化合物について、前記Z及びZの総数に占めるリチウム原子数の比率の平均値は90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましい。
【0037】
電解質の配合成分のうち、固形分の総量に占める(A)ホスファゼン化合物の比率は、(A)ホスファゼン化合物の種類に応じて適宜調節すればよく、特に限定されないが、5〜50質量%であることが好ましく、10〜35質量%であることがより好ましい。このような範囲とすることで、難燃性及びイオン伝導度が一層良好に両立される。
【0038】
(A)ホスファゼン化合物は、新規化合物である。そして、本発明の電解質においては、リチウム源且つ難燃剤として機能する。したがって、電解質を電解液、ゲル状電解質及び固体電解質のいずれとする場合にも、別途難燃剤を併用する必要がないので、配合成分の種類を少なくでき、しかもリチウムイオン二次電池で求められる十分な難燃性及びイオン伝導度が得られる。
【0039】
[(B)ホウ素化合物]
(B)ホウ素化合物は特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体(BFO(CH)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BFO(C)、三フッ化ホウ素ジtert−ブチルエーテル錯体(BFO((CHC))、三フッ化ホウ素tert−ブチルメチルエーテル錯体(BFO((CHC)(CH))、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体(BFOC)等の三フッ化ホウ素アルキルエーテル錯体;三フッ化ホウ素エチルアミン錯体(BFNH)、三フッ化ホウ素ピペリジン錯体(BFNC11)等の三フッ化ホウ素アルキルアミン錯体;三フッ化ホウ素メタノール錯体(BFHOCH)、三フッ化ホウ素プロパノール錯体(BFHOC)、三フッ化ホウ素フェノール錯体(BFHOC)等の三フッ化ホウ素アルコール錯体;三フッ化ホウ素ジメチルスルフィド錯体(BFS (CH)等の三フッ化ホウ素スルフィド錯体が例示できる。
(B)ホウ素化合物は、(A)ホスファゼン化合物において、リチウムイオンの解離を促進し、有機溶媒への溶解性を向上させる機能を有していると推測される。
【0040】
(B)ホウ素化合物は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0041】
本発明において、(B)ホウ素化合物は、三フッ化ホウ素アルキルエーテル錯体、三フッ化ホウ素アルキルアミン錯体及び三フッ化ホウ素アルコール錯体からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0042】
(B)ホウ素化合物の配合量は特に限定されず、(B)ホウ素化合物や(A)ホスファゼン化合物の種類に応じて適宜調節すればよい。通常は、[(B)ホウ素化合物の配合量(モル数)]/[配合された(A)ホスファゼン化合物中のリチウム原子のモル数]のモル比が0.3以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましい。このような範囲とすることで、電解質は、温度によらず一層優れたイオン伝導度を示すものとなる。また、前記モル比の上限値は本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、2.5であることが好ましく、2であることがより好ましい。
【0043】
[その他の成分]
本発明の電解質は、(A)ホスファゼン化合物及び(B)ホウ素化合物以外に、さらに、これらに該当しないその他の成分が配合されてなるものでもよい。前記その他の成分は、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されないが、(A)ホスファゼン化合物以外のリチウム塩は含まれない。そして、好ましい前記その他の成分としては、(C)有機溶媒、(D)マトリクスポリマーが例示できる。
前記その他の成分は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0044】
((C)有機溶媒)
本発明の電解質は、(C)有機溶媒を配合することで、電解液又はゲル状電解質とすることができる。
(C)有機溶媒は特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ビニレンカーボネート等の炭酸エステル化合物;γ−ブチロラクトン等のラクトン化合物;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等のカルボン酸エステル化合物;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;スルホラン等のスルホン化合物が例示できる。
【0045】
本発明において、(C)有機溶媒は、炭酸エステル化合物、ラクトン化合物及びスルホン化合物からなる群から選択される一種以上であること好ましく、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン及びスルホランからなる群から選択される一種以上であることがより好ましい。
【0046】
(C)有機溶媒の配合量は特に限定されず、電解質膜における電解液の保持性や膜強度を損なわない範囲内において、適宜調整すればよい。通常は、[(C)有機溶媒の配合量(質量)]/[配合成分の総量(質量)])の質量比が0.10〜0.95であることが好ましい。下限値以上とすることで、リチウムイオン二次電池は、一層優れた電池性能を示す。また、上限値以下とすることで、電解質膜における電解液の保持性や膜強度が一層向上する。
【0047】
((D)マトリクスポリマー)
本発明の電解質は、(D)マトリクスポリマーを配合することで、ゲル状電解質又は固体電解質とすることができる。
(D)マトリクスポリマーは、特に限定されず、固体電解質分野で公知のものが適宜使用できる。
(D)マトリクスポリマーの好ましいものとして具体的には、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系ポリマー;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化アセトン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリアクリルアミド、エチレンオキシドユニットを含むポリアクリレート等のポリアクリル系ポリマー;ポリアクリロニトリル;ポリホスファゼン;ポリシロキサンが例示できる。
【0048】
本発明において、(D)マトリクスポリマーは、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化アセトン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリホスファゼン及びポリシロキサンからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0049】
(D)マトリクスポリマーの配合量は特に限定されず、その種類に応じて適宜調節すればよいが、配合成分の総量に占める(D)マトリクスポリマーの配合量は、2〜65質量%であることが好ましい。下限値以上とすることで、電解質膜の膜強度が一層向上し、上限値以下とすることで、電解質膜のイオン伝導度が一層向上する。
【0050】
本発明の電解質としては、(C)マトリクスポリマー及び(D)有機溶媒のいずれか一方が配合されたもの、両方が配合されたもの、のどちらも好適である。
【0051】
[電解質の製造方法]
本発明の電解質は、(A)ホスファゼン化合物及び(B)ホウ素化合物、並びに必要に応じてこれらに該当しないその他の成分を配合することで製造できる。
各成分の配合時には、これら成分を添加して、各種手段により十分に混合することが好ましい。また、後述する本発明の電解質膜を引き続き製造する場合には、この時使用する有機溶媒をさらに添加して、得られた組成物を一括して混合するようにしてもよい。
各成分は、これらを順次添加しながら混合してもよいし、全成分を添加してから混合してもよく、配合成分を均一に溶解又は分散させることができればよい。
前記各成分の混合方法は、特に限定されず、例えば、撹拌子、撹拌翼、ボールミル、スターラー、超音波分散機、超音波ホモジナイザー、自公転ミキサー等を使用する公知の方法を適用すればよい。
混合温度、混合時間等の混合条件は、各種方法に応じて適宜設定すればよいが、通常は、混合時の温度は15〜35℃であることが好まく、混合時間は0.5〜36時間であることが好ましい。
【0052】
<電解質膜>
本発明の電解質膜は、上記本発明の電解質を用いて得られたことを特徴とする。
本発明の電解質膜は、例えば、前記電解質をそのまま、又は前記電解質に膜形成用の有機溶媒を別途添加し、混合して得られた組成物を、塗布及び乾燥させること製造できる。前記電解質又は組成物は、型又は容器に流し込んで乾燥させ、所望の形状に成型することが好ましい。
【0053】
電解質に添加する有機溶媒は特に限定されないが、例えば、配合成分のいずれかを十分に溶解又は分散させることができるものが好ましく、具体的には、アセトニトリル等のニトリル系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒:ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒が例示できる。
【0054】
有機溶媒添加後の混合方法は、電解質製造時の上記混合方法と同様でよい。
前記型又は容器としては、電解質膜を所望の形状に成型できる任意のものが使用でき、例えば、ポリテトラフルオロエチレン製のものが好適である。
前記電解質又は組成物の乾燥方法は特に限定されず、例えば、ドライボックス、真空デシケータ、減圧乾燥機等を使用する公知の方法を適用すればよい。
【0055】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記本発明の電解質膜を備えたことを特徴とし、本発明の電解質膜を用いること以外は、従来のリチウムイオン二次電池と同様の構成とすることができる。例えば、正極及び負極間に前記電解質膜を配置して構成すればよく、必要に応じて正極及び負極間に、さらにセパレータを設けてもよい。
【0056】
前記正極は、リチウムイオンを可逆的に導入及び放出可能なものであり、その材質は特に限定されないが、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、オリビン型リン酸鉄リチウム等の遷移金属酸化物が例示でき、これら材質からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
前記負極は、リチウムイオンを可逆的に導入及び放出可能なものであり、その材質は特に限定されないが、金属リチウム、リチウム合金、リチウムを吸蔵及び放出し得る炭素系材料、金属酸化物等が例示でき、これら材質からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0057】
前記セパレータは特に限定されないが、高分子製の微多孔性膜又は不織布、ガラスファイバー等が例示でき、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0058】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されず、円筒型、角型、コイン型、シート型等、種々のものに調節できる。
【0059】
本発明のリチウムイオン二次電池は、公知の方法に従って製造できる。例えば、グローブボックス内又は真空デシケータ内で、乾燥ガス雰囲気下、前記電解質膜及び電極を使用して製造すればよい。
【0060】
本発明のリチウムイオン二次電池は、配合成分の種類が少なく、且つ難燃性及びイオン伝導度に優れる本発明の電解質を用いているので、簡便に製造でき、十分な安全性及び電池特性を有する。このような優れた効果は、リチウム源且つ難燃剤として機能する、新規化合物である(A)ホスファゼン化合物を用いたことによるものである。
【0061】
<化合物(1)>
本発明の化合物(1)は、下記一般式(1)で表されるホスファゼン化合物である。
【0062】
【化11】

(式中、Xはそれぞれ独立に下記一般式(10A)又は(10B)で表される基である。ただし、下記一般式(10A)及び(10B)で表される基は共存しない。)
【0063】
【化12】

(式中、nは1又は2であり;Zはリチウム原子又は水素原子であり、nが2である場合、二つのZは互いに同一でも異なっていてもよく、ただし、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子であり;Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基である。)
【0064】
【化13】

(式中、nは0以上の整数であり、nは1〜10の整数であり、ただしnが1以上である場合、nは1であり;Zはリチウム原子又は水素原子であり、ただし、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子であり;Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基であり;R2a及びR2bはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、nが2以上である場合、複数のR2a及びR2bはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0065】
化合物(1)は、前記(A)ホスファゼン化合物と同じであるので、その詳細な説明は省略する。
化合物(1)は、上記のように本発明の電解質において、リチウム源且つ難燃剤として機能するが、従来の電解質において、公知の難燃剤の代わりとして使用し、化合物(1)以外のリチウム源と併用してもよい。
【0066】
化合物(1)は、例えば、下記一般式(i)で表される化合物(以下、化合物(i)と略記する)と一般式「X−H」で表される化合物とを反応させて、下記一般式(iii)で表される化合物(以下、化合物(iii)と略記する)を得る工程、化合物(iii)を加水分解して下記一般式(v)で表される化合物(以下、化合物(v)と略記する)を得る工程、化合物(v)をリチウム塩化して化合物(1)を得る工程、を有する製造方法で製造できる。
【0067】
【化14】

(式中、Gはハロゲン原子であり;Xは下記一般式(iiA)又は(iiB)で表される基であり;Xは下記一般式(ivA)又は(ivB)で表される基であり;Xは下記一般式(10A)又は(10B)で表される基である。ただし、Xが下記一般式(iiA)で表される基である場合には、Xは下記一般式(ivA)で表される基であり、Xは下記一般式(10A)で表される基である。また、Xが下記一般式(iiB)で表される基である場合には、Xは下記一般式(ivB)で表される基であり、Xは下記一般式(10B)で表される基である。)
【0068】
【化15】

(式中、Zはリチウム原子又は水素原子であり;R11はアルキル基であり;Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基であり;nは1又は2であり、nが2である場合、二つのZは互いに同一でも異なっていてもよく、二つのR11は互いに同一でも異なっていてもよく、ただし、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子である。)
【0069】
【化16】

(式中、Zはリチウム原子又は水素原子であり;R12はアルキル基であり;Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基であり;R2a及びR2bはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり;nは0以上の整数であり、nは1〜10の整数であり、ただしnが1以上である場合、nは1であり、nが2以上である場合、複数のR2a及びR2bはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく;ただし、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子である。)
【0070】
式中、Gはハロゲン原子であり、塩素原子又は臭素原子であることが好ましい。
式中、X、Z、Z、Q、Q、R2a、R2b、n、n、nは、前記と同じである。したがって、nが2である場合、二つのZは互いに同一でも異なっていてもよく、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子である。また、nが2以上である場合、複数のR2a及びR2bは互いに同一でも異なっていてもよく、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子である。
【0071】
上記において、Xが前記一般式(iiA)で表される基である場合には、Xは前記一般式(ivA)で表される基であり、Xは前記一般式(10A)で表される基である。これは、Xが前記一般式(10A)で表される基である場合の化合物(1)の製造方法に該当する。また、Xが前記一般式(iiB)で表される基である場合には、Xは前記一般式(ivB)で表される基であり、Xは前記一般式(10B)で表される基である。これは、Xが前記一般式(10B)で表される基である場合の化合物(1)の製造方法に該当する。
【0072】
式中、R11はアルキル基であり、直鎖状のアルキル基であることが好ましく、炭素数が2〜4であることが好ましい。nが2である場合、二つのR11は互いに同一でも異なっていてもよい。
式中、R12はアルキル基であり、R11と同様である。
【0073】
化合物(iii)を得る工程では、化合物(i)のGをXで置換する。このときの置換反応は、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の塩基共存下で行うことが好ましく、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン等の触媒を併用してもよい。反応条件は、使用する原料に応じて適宜調節すればよいが、例えば、溶媒を使用して加熱還流下、1〜24時間反応させる条件が挙げられる。一方、反応性が低い場合には、例えば、一般式「X−H」で表される化合物と、水素化ナトリウム等の強塩基とを混合した後、さらに化合物(i)を加え、20〜60℃で1〜24時間反応させてもよい。
一般式「X−H」で表される化合物の使用量は、化合物(i)1モルに対して6〜15モルであることが好ましく、塩基の使用量は、化合物(i)に対して6〜15倍当量であることが好ましい。
本工程では、一般式「X−H」で表される化合物として、一種を単独で使用すれば、Xがすべて同じである化合物(iii)が得られ、二種以上を併用すれば、Xが一部異なる化合物(iii)のみか、又はXが一部異なる化合物(iii)とXがすべて同じである化合物(iii)との混合物が得られる。
【0074】
化合物(v)を得る工程では、化合物(iii)中のエステル結合(−C(=O)−OR11、−C(=O)−OR12)を加水分解して、カルボキシル基(−C(=O)−OH)とする。加水分解反応は、塩基共存下で行うことが好ましく、塩基としては、カリウムtert−ブトキシド等の金属アルコキシドを使用することが好ましい。反応条件は、使用する原料に応じて適宜調節すればよいが、例えば、0〜35℃で、1〜24時間反応させる条件が挙げられる。塩基の使用量は、化合物(iii)の種類に応じて適宜調節すればよい。Xが前記一般式(iiA)で表される基である場合には、nの値にもよるが、例えば、塩基が一価で、nが1である場合には、化合物(iii)1モルに対して6〜20モルであることが好ましい。また、Xが前記一般式(iiB)で表される基であり、塩基が一価である場合にも、同様の使用量であることが好ましい。
塩基共存下で加水分解反応を行った後は、カルボキシル基が塩を形成していることがあるため、塩酸等の強酸を使用して、反応液を酸性にすることが好ましい。
【0075】
化合物(1)を得る工程では、化合物(v)中の少なくとも一つのカルボキシル基(−C(=O)−OH)をリチウム塩(−C(=O)−OLi)とする。リチウム塩化では、水酸化リチウム等のリチウム化合物を反応させればよく、反応条件は、使用する原料に応じて適宜調節すればよいが、例えば、0〜35℃で、1〜24時間反応させる条件が挙げられる。化合物(1)中のZ又はZの総数に占めるリチウム原子数は、例えば、前記リチウム化合物の使用量で調節できる。そして、前記リチウム化合物中のリチウム原子の総モル数が化合物(v)中のカルボキシル基の総モル数よりも多くなるように設定することが好ましく、Z又はZの総数に占めるリチウム原子の数を増大させるために、本発明の効果を妨げない範囲内でリチウム化合物の使用量が多いほど好ましい。例えば、リチウム化合物が、一分子中にリチウム原子を一つ有する水酸化リチウム等であり、化合物(v)が、Xが前記一般式(ivA)で表される基であり、且つnが1である場合には、リチウム化合物の使用量は化合物(v)1モルに対して6〜10モルであることが好ましい。また、Xが前記一般式(ivB)で表される基であり、同様のリチウム化合物を使用する場合にも、同様の使用量であることが好ましい。
【0076】
化合物(1)の製造時には、上記各工程において、反応終了後、常法により必要に応じて後処理を行い、生成物を取り出せばよい。すなわち、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作をいずれか単独で、又は二つ以上組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、生成物を取り出せばよい。また、取り出した生成物は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、又は二つ以上組み合わせて一回以上行うことで、精製してもよい。そして、化合物(iii)を得る工程及び/又は化合物(v)を得る工程では、生成物を取り出さずに、一貫法で次工程を行ってもよい。
【実施例】
【0077】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下に示す実施例及び比較例におけるリチウムイオン二次電池(コイン型セル)の製造は、電解質膜の作製からすべてドライボックス内又は真空デシケータ内で行った。
【0078】
本実施例で使用した化学物質を以下に示す。
(A)ホスファゼン化合物の原料
p−ヒドロキシ安息香酸エチル(和光純薬工業社製)
乳酸エチル(東京化成工業社製)
トリエチルアミン(EtN)(和光純薬工業社製)
N,N−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP)(和光純薬工業社製)
カリウムtert−ブトキシド(t−BuOK)(和光純薬工業社製)
水酸化リチウム・一水和物(LiOH・HO)(アルドリッチ社製)
(B)ホウ素化合物
三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BFO(C)(東京化成工業社製)
(C)有機溶媒
エチレンカーボネート(以下、ECと略記する)(アルドリッチ社製)
γ−ブチロラクトン(以下、GBLと略記する)(アルドリッチ社製)
アセトニトリル(脱水、アルドリッチ社製)
テトラヒドロフラン(以下、THFと略記する)(脱水、アルドリッチ社製)
(D)マトリクスポリマー
ポリエチレンオキシド(以下、PEOと略記する)(質量平均分子量600000、アルドリッチ社製)
(E)(A)〜(D)以外の他の成分
ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCF)(キシダ化学社製)
【0079】
<化合物(1)の製造>
[実施例1]
p−ヒドロキシ安息香酸エチル(19.1g、115mmol)、トリエチルアミン(17.5g、173mmol)及びN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP)(0.88g、7.2mmol)を溶解させたTHF溶液(150ml)に、下記式(i)−101で表される化合物(5.0g、14.4mmol)のTHF溶液(100ml)を氷浴下で滴下し、滴下終了後、6時間加熱還流させた。次いで、ろ過により不要物の塩を除去した後、濃縮してTHFとトリエチルアミンを除去した。次いで、得られた濃縮物を、メタノール/水(9/1、体積比)の混合溶媒で洗浄して未反応のp−ヒドロキシ安息香酸エチルを除去し、下記式(iii)−A−101aで表される化合物を得た(収量14.6g、収率90%)。
【0080】
得られた下記式(iii)−A−101aで表される化合物(14.6g、13.0mmol)のTHF溶液(150ml)に、カリウムtert−ブトキシド(26.3g)のメタノール/水(200ml/50ml)溶液を氷浴下でゆっくり滴下し、滴下終了後、室温で3時間反応させた後、白濁した反応液に蒸留水を加えて均一系にした。次いで、さらに3時間反応させた後、減圧濃縮してTHFとメタノールを除去し、濃縮物を2N塩酸水溶液に氷浴下で少しずつ加えた。そして、生じた沈殿物を水洗して遠心分離で回収し、トルエンで共沸脱水した後、減圧乾燥して、下記式(v)−A−101aで表される化合物を得た(収量12.2g、収率98%)。
【0081】
得られた下記式(v)−A−101aで表される化合物(5g、5.2mmol)を蒸留水10mlに溶解させ、これに水酸化リチウム・一水和物(LiOH・HO、アルドリッチ社製)(1.35g、32.2mmol)を加え、30℃で3時間反応させてリチウム塩とし、再結晶化することにより、下記式(1)−A−101aで表される化合物(以下、「化合物(1)−A−101a」と略記する)を得た(収量5.2g、収率99%)。
【0082】
得られた化合物(1)−A−101aは、H−NMRによりその構造を同定した。H−NMRの測定は、測定対象の化合物をDMSO−d/DO(3/1、体積比)の混合溶媒に溶解させて測定用試料とし、核磁気共鳴装置(Bruker Avance 400)を使用して行った。図1に同定データを示す。図1(a)はリチウム塩化前の下記式(v)−A−101aで表される化合物のH−NMRの測定データ、図1(b)は化合物(1)−A−101aのH−NMRの測定データである。
図1から明らかなように、化合物(1)−A−101aでは、6.78ppm、7.82ppmにそれぞれ新たなピークが出現しており、これらピークは、リチウム塩化に伴って検出位置が(a)中の6.97ppm、7.81ppmからそれぞれシフトした、ベンゼン環中のプロトンに対応すると考えられた。また、ピーク強度の比から、すべてのカルボキシル基のうち、98.5%がリチウム塩になったことを確認できた。
【0083】
【化17】

【0084】
<電解質及び電解質膜の製造>
[実施例2]
PEO(0.7g)をアセトニトリル(5g)に溶解させたPEO溶液を調製した。また、化合物(1)−A−101a(0.26g)及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(0.23g)をTHF(5g)に溶解させ、リチウム塩溶液を調製した。
次いで、前記PEO溶液に前記リチウム塩溶液を加えて、30℃で24時間攪拌して、電解質を得た。次いで、得られた電解質をポリテトラフルオロエチレン製のシャーレ上にキャストし、窒素ガスを流しながら24時間乾燥させることで、電解質膜を得た。各成分の配合比を表1に示す。得られた電解質膜は、前記基材から剥離させ、後述するイオン伝導度の測定に供した。これは、以下のその他の実施例及び比較例も同様である。
【0085】
[実施例3]
前記リチウム塩溶液以外に、さらに、有機溶媒としてEC及びGBLの混合溶媒(EC/GBL(4/6、体積比))(0.3g)を加えたこと以外は、実施例2と同様の方法で電解質膜を得た。各成分の配合比を表1に示す。
【0086】
[比較例1]
PEO(2g)をアセトニトリル(10g)に溶解させたPEO溶液を調製した。また、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム(1.3g)を、上記で調製したPEO溶液THF(10g)に溶解させ、得られた電解質をポリテトラフルオロエチレン製のシャーレ上にキャストし、窒素ガスを流しながら一晩乾燥させることで、電解質膜を得た。各成分の配合比を表1に示す。
【0087】
[比較例2]
前記電解質に、さらに、有機溶媒としてEC及びGBLの混合溶媒(EC/GBL(4/6、体積比))(0.86g)を加えたこと以外は、比較例1と同様の方法で電解質膜を得た。各成分の配合比を表1に示す。
【0088】
<化合物(1)の製造>
[実施例4]
水素化ナトリウム(5.5g、138.5mmol)を分散させたTHF(80ml)を撹拌し、ここに氷浴下、乳酸エチル(16.4g、138.5mmol)を溶解させたTHF溶液(120ml)を、窒素ガス雰囲気下で滴下して、乳酸エチルのナトリウム塩を得た。次いで、ここに、下記式(i)−101で表される化合物(4.0g、11.6mmol)のTHF溶液(100ml)を氷浴下で滴下し、滴下終了後、40℃で12時間撹拌した。次いで、得られた反応液を塩酸水溶液で中和した後、濃縮してTHFを除去した。次いで、得られた濃縮物を、水で洗浄して未反応の乳酸エチルを除去し、乾燥させることで、下記式(iii)−B−101aで表される化合物を得た(収量8.6g、収率85%)。
【0089】
得られた下記式(iii)−B−101aで表される化合物(8.6g、9.9mmol)のTHF溶液(100ml)に、カリウムtert−ブトキシド(16.7g、148.7mmol)のメタノール溶液(200ml)を氷浴下でゆっくり滴下し、滴下終了後、室温で12時間反応させた後、黄濁した反応液に蒸留水を加えて均一系にした。次いで、さらに1時間撹拌した後、減圧濃縮して大部分のTHFとメタノールを除去し、濃縮物を2N塩酸水溶液で氷浴下、酸性溶液とした。次いで、減圧濃縮で水を除去した後、THFを加えて、生じた沈殿物をろ別し、減圧下でTHFを除去して乾燥させ、下記式(v)−B−101aで表される化合物(以下、「化合物(v)−B−101a」と略記する)を得た(収量6.4g、収率93%)。
【0090】
得られた化合物(v)−B−101a(6.4g、9.2mmol)を蒸留水(100ml)に溶解させ、これに水酸化リチウム・一水和物(LiOH・HO、アルドリッチ社製)(1.44g、60.6mmol)を加え、30℃で1時間反応させてリチウム塩とした。次いで、減圧濃縮して水を除去した後、40℃のエタノールで数回撹拌洗浄して、乾燥させることにより、下記式(1)−B−101aで表される化合物(以下、「化合物(1)−B−101a」と略記する)を得た(収量6.6g、収率98%)。
【0091】
得られた化合物(1)−B−101aは、H−NMR及び31P−NMRによりその構造を同定した。H−NMR及び31P−NMRの測定は、測定対象の化合物をDMSO−d/DO(3/1、体積比)の混合溶媒に溶解させて測定用試料とし、核磁気共鳴装置(Bruker Avance 400)を使用して行った。図2及び3に同定データを示す。図2(a)はリチウム塩化前の化合物(v)−B−101aのH−NMRの測定データ、図2(b)は化合物(1)−B−101aのH−NMRの測定データである。また、図3(a)はリチウム塩化前の化合物(v)−B−101aの31P−NMRの測定データ、図3(b)は化合物(1)−B−101aの31P−NMRの測定データである。
図2から明らかなように、化合物(v)−B−101aの4.39ppm(メチンプロトン)、1.09ppm(メチルプロトン)のピークが、リチウム塩化に伴い、化合物(1)−B−101aでは、それぞれ4.38ppm、1.32ppmにシフトした。また、図3から明らかなように、化合物(v)−B−101aの−1.59ppmのピークは、リチウム塩化に伴い、化合物(1)−B−101aでは、3.23ppmにシフトした。そして、図2(b)及び図3(b)に、それぞれ化合物(v)−B−101a由来のピークが認められないことから、すべてのカルボキシル基のうち、99%以上がリチウム塩になったことを確認できた。
【0092】
【化18】

【0093】
<電解質及び電解質膜の製造>
[実施例5]
PEO(0.7g)をアセトニトリル(5g)に溶解させたPEO溶液を調製した。また、化合物(1)−B−101a(0.19g)及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(0.34g)をTHF(5g)に溶解させ、リチウム塩溶液を調製した。
次いで、前記PEO溶液に前記リチウム塩溶液を加えて、30℃で24時間攪拌して、電解質を得た。次いで、得られた電解質をポリテトラフルオロエチレン製のシャーレ上にキャストし、窒素ガスを流しながら24時間乾燥させることで、電解質膜を得た。各成分の配合比を表1に示す。
【0094】
[実施例6]
前記リチウム塩溶液以外に、さらに、有機溶媒としてEC及びGBLの混合溶媒(EC/GBL(4/6、体積比))(0.3g)を加えたこと以外は、実施例5と同様の方法で電解質膜を得た。各成分の配合比を表1に示す。
【0095】
<電解質膜のイオン伝導度の測定>
上記で得られた電解質膜を、内径5mmの穴が開いているスペーサーに入るように所定の大きさに切り取り、それらをステンレス板で挟みこんでセルに組み込んだ。そして、セルを複素交流インピーダンス測定装置に接続し、ナイキストプロットから抵抗値を測定した。この時、セルを80℃に設定した恒温槽に入れて電解質と電極をなじませた後、温度を下げていき、所定温度での抵抗値を測定した。各温度での抵抗値は、それぞれの温度でセルを30分間保持してから測定した。そして、得られた抵抗値から、下記式(I)にしたがって、電解質膜のイオン伝導度(σ)(S/cm)を算出した。結果を表1に示す。
σ = l/s・R ・・・・(I)
(式中、lは試料(電解質膜)の厚さ(cm)を表し;sは試料(電解質膜)の面積(cm)を表し;Rは抵抗値(Ω)を表す。)
【0096】
<電解質膜の難燃性の評価>
難燃性試験「UL94 V−0」に基づいて、上記で得られた電解質膜の難燃性を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:等級V−0を満たし、自己消火性を示した。
×:等級V−0を満たさず、燃焼し続けた。
【0097】
【表1】

【0098】
表1から明らかなように、実施例2〜3及び5〜6の電解質膜は、難燃性に優れ、比較例1〜2に迫るイオン伝導度を示した。このように、本発明の電解質膜は、難燃性とイオン伝導度のいずれにも優れることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、リチウムイオン二次電池等、電解質を使用する分野全般で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表されるホスファゼン化合物、及び(B)ホウ素化合物が配合され、リチウム塩として前記ホスファゼン化合物のみが配合されてなることを特徴とする電解質。
【化1】

(式中、Xはそれぞれ独立に下記一般式(10A)又は(10B)で表される基である。ただし、下記一般式(10A)及び(10B)で表される基は共存しない。)
【化2】

(式中、nは1又は2であり;Zはリチウム原子又は水素原子であり、nが2である場合、二つのZは互いに同一でも異なっていてもよく、ただし、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子であり;Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基である。)
【化3】

(式中、nは0以上の整数であり、nは1〜10の整数であり、ただしnが1以上である場合、nは1であり;Zはリチウム原子又は水素原子であり、ただし、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子であり;Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基であり;R2a及びR2bはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、nが2以上である場合、複数のR2a及びR2bはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
配合されたすべての前記ホスファゼン化合物について、前記Z及びZの総数に占めるリチウム原子数の比率の平均値が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
さらに、(C)有機溶媒及び/又は(D)マトリクスポリマーが配合されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解質を用いて得られたことを特徴とする電解質膜。
【請求項5】
請求項4に記載の電解質膜を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
下記一般式(1)で表されるホスファゼン化合物。
【化4】

(式中、Xはそれぞれ独立に下記一般式(10A)又は(10B)で表される基である。ただし、下記一般式(10A)及び(10B)で表される基は共存しない。)
【化5】

(式中、nは1又は2であり;Zはリチウム原子又は水素原子であり、nが2である場合、二つのZは互いに同一でも異なっていてもよく、ただし、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子であり;Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基である。)
【化6】

(式中、nは0以上の整数であり、nは1〜10の整数であり、ただしnが1以上である場合、nは1であり;Zはリチウム原子又は水素原子であり、ただし、前記一般式(1)中の少なくとも一つの前記Zはリチウム原子であり;Qは酸素原子又は式「−NH−」で表される基であり;R2a及びR2bはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、nが2以上である場合、複数のR2a及びR2bはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−169250(P2012−169250A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187794(P2011−187794)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】