説明

電解質膜およびその製造方法

【課題】 ジルコニア系電解質およびセリア系電解質を備える電解質膜において導電率低下を抑制する。
【解決手段】 電解質膜(30)の製造方法は、セリア系電解質グリーン層(31)とジルコニア系電解質グリーン層(33)との間に、前記セリア系電解質(31)と前記ジルコニア系電解質(33)とに対して共通して添加されるドーパント元素の酸化物層(32)が配置された積層体を準備する準備工程と、前記積層体を焼成する焼成工程と、を含む。電解質膜(30)は、セリア系電解質層(41)と、ジルコニア系電解質層(42)と、を備え、前記セリア系電解質層(41)のドーパント元素は、前記ジルコニア系電解質層(42)のドーパント元素と同一である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般的には水素および酸素を燃料として電気エネルギを得る装置である。この燃料電池は、環境面において優れており、また高いエネルギ効率を実現できることから、今後のエネルギ供給システムとして広く開発が進められてきている。
【0003】
固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、固体酸化物電解質が燃料極と酸素極とによって挟持された構造を有する。ここで、セリア系電解質は、高い酸素イオン伝導性を有することで知られている。しかしながら、セリア系電解質は、還元性雰囲気下で電子伝導性を有する。そこで、特許文献1は、セリア系電解質を含有する固体電解質層と燃料極層との間に、燃料極層以上の緻密性を有する還元防止層を備え、還元防止層としてイットリア安定化ジルコニアを用いる技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−185698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術を利用して、イットリア安定化ジルコニアおよびセリア系電解質の2層電解質を焼結法で作製する際に高温焼成すると、イットリア安定化ジルコニアとセリア系電解質とが互いに固溶することによって低イオン伝導性層が形成されるおそれがある。この場合、電解質膜の導電率が低下する。
【0006】
本発明は、ジルコニア系電解質およびセリア系電解質を備える電解質膜において導電率低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電解質膜の製造方法は、セリア系電解質グリーン層とジルコニア系電解質グリーン層との間に、前記セリア系電解質と前記ジルコニア系電解質とに対して共通して添加されるドーパント元素の酸化物層が配置された積層体を準備する準備工程と、前記積層体を焼成する焼成工程と、を含むことを特徴とする。本発明に係る電解質膜の製造方法によれば、ジルコニア系電解質およびセリア系電解質を備える電解質膜において導電率低下を抑制することができる。
【0008】
前記ドーパント元素は、3価の希土類元素とすることができる。前記ドーパント元素の酸化物層は、イットリアとすることができる。前記準備工程において、前記ドーパント元素の酸化物層と前記セリア系電解質グリーン層との間にセリアからなるグリーン層を配置し、前記ドーパント元素の酸化物層と前記ジルコニア系電解質グリーン層との間にジルコニアからなるグリーン層を配置してもよい。
【0009】
本発明に係る電解質膜は、セリア系電解質層と、ジルコニア系電解質層と、を備え、前記セリア系電解質層のドーパント元素は、前記ジルコニア系電解質層のドーパント元素と同一であることを特徴とする。本発明に係る電解質膜においては、導電率低下を抑制することができる。前記ドーパント元素は、3価の希土類元素とすることができる。前記ドーパント元素は、イットリウムとすることができる。前記セリア系電解質層と前記ジルコニア系電解質層との界面において、前記セリア系電解質層はCe(1−x)(M=Y、x=0.1〜0.2、y=0.06〜0.12)の組成を有し、前記ジルコニア系電解質はZr(1−y)(M=Y、y=0.06〜0.12)の組成を有していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ジルコニア系電解質およびセリア系電解質を備える電解質膜において導電率低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】固体酸化物形の燃料電池の模式的断面図である。
【図2】第1の実施形態に係る電解質膜の製造方法を説明するための模式図である。
【図3】第2の実施形態に係る電解質膜の製造方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。まず、以下の各実施形態で対象とする燃料電池の構成について説明し、次いで、各実施形態に係る製造方法について説明する。
【0013】
(燃料電池の構成)
図1は、以下の実施形態で対象とする固体酸化物形の燃料電池100の模式的断面図である。燃料電池100は、支持体10、一方の電極、電解質膜30および他方の電極がこの順に積層された構造を有している。本実施例において燃料電池100は、一例として、支持体10、アノード20、電解質膜30およびカソード40がこの順に積層された構造を有している。
【0014】
支持体10は、ガス透過性を有するとともに、電解質膜30を支持可能な部材を用いることができる。本実施例においては、支持体10の一例として多孔質基材を用いる。多孔質基材の一例として、上面および下面を連通する孔11を複数有する多孔質金属板を用いる。多孔質金属板の材質としては、特に限定されないが、例えば酸化によって表面に絶縁性の酸化被膜が形成される成分を含んだ材質(ステンレス等)が用いられる。
【0015】
アノード20の材質は、アノードとしての電極活性を有するものであれば特に限定されないが、例えばNiO/ZrO系、NiO/CeO系、NiO/BaZrO系等の固体酸化物を含む電極構成材料を用いることができる。カソード40の材質は、カソードとしての電極活性を有するものであれば特に限定されないが、例えばLaMnO系、LaCoO系、LaNiO系、SmCoO系等の固体酸化物を含む電極構成材料を用いることができる。
【0016】
電解質膜30は、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物電解質である。具体的には、電解質膜30は、セリア系電解質およびジルコニア系電解質を含む。セリア系電解質として、Ce1−x(0≦x<1、M=Y(イットリウム),Yb(イッテルビウム),Sm(サマリウム),Sc(スカンジウム)などの3価希土類元素)を用いることができる。ジルコニア系電解質として、Zr1−x(0≦x<1、M=Y(イットリウム),Yb(イッテルビウム),Sm(サマリウム),Sc(スカンジウム)などの3価希土類元素)を用いることができる。セリア系電解質に添加されているドーパントとジルコニア系電解質に添加されているドーパントとは、同一である。
【0017】
なお、アノード20は、電解質膜30に含まれる成分を含んでいることが好ましい。この場合、アノード20の熱膨張係数が電解質膜30の熱膨張係数に近くなり、アノード20と電解質膜30との剥離をより抑制することができる。例えば、したがって、アノード20の材質はNiO/ZrO系またはNiO/CeO系であることが好ましい。
【0018】
燃料電池100は、以下の作用によって発電する。まず、支持体10には、水素(H)が供給され、カソード40には、酸素(O)が供給される。カソード40においては、カソード40に供給された酸素と、外部電気回路から供給される電子と、が反応して酸素イオンになる。酸素イオンは、電解質膜30を伝導してアノード20側に移動する。
【0019】
一方、支持体10に供給された水素は、支持体10の孔11を通過して、アノード20に到達する。アノード20に到達した水素は、アノード20において電子を放出するとともに、カソード40側から電解質膜30を伝導してくる酸素イオンと反応して水(HO)になる。放出された電子は、外部電気回路によって外部に取り出される。外部に取り出された電子は、電気的な仕事をした後に、カソード40に供給される。以上の作用によって、発電が行われる。
【0020】
セリア系電解質は、中温域(600℃前後)で高い酸素イオン伝導性を有する。セリア系電解質は、中温域では電子伝導性も併せ持つため、燃料電池100の発電時のリーク電流増加に伴う発電効率低下の要因ともなる。しかしながら、電解質膜30は、ほとんど電子伝導性を持たないジルコニア系電解質を含むことから、電解質膜30における電子伝導が抑制される。したがって、電解質膜30は、燃料電池100の発電効率を高めることができる。しかしながら、セリア系電解質およびジルコニア系電解質を高温焼成すると、セリア系電解質とジルコニア系電解質とが互いに固溶することによって低イオン伝導性層が形成される。この場合、電解質膜30の導電率が低下するおそれがある。以下の実施形態においては、導電率低下を抑制することができる、電解質膜30の製造方法について説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
図2(a)〜図2(c)は、第1の実施形態に係る電解質膜30の製造方法を説明するための模式図である。本実施形態においては、セリア系電解質とジルコニア系電解質とに、同一のドーパントとしてY(イットリウム)を添加する例について説明する。図2(a)に示すように、イットリアが添加されたセリア(以下、YDCと称する)からなるYDCグリーン層31上に、Yからなるイットリアグリーン層32を積層し、イットリアグリーン層32上に、イットリア安定化ジルコニア(以下、YSZと称する)からなるYSZグリーン層33を積層する。YDCグリーン層31、イットリアグリーン層32およびYSZグリーン層33は、一例として粉末状の層である。
【0022】
次に、図2(b)に示すように、図2(a)の積層体に対して焼成処理を実施する。具体的には、図2(a)の積層体を1300℃程度まで加熱する。焼成処理を実施することによって、各電解質粉末は焼結し、緻密化する。図2(c)は、焼成処理によって得られる電解質膜30の構成を示す図である。図2(c)に示すように、YDCグリーン層31が焼結し、当該焼結体にイットリアグリーン層32の一部が拡散することによって、YDC電解質層41が形成される。また、YSZグリーン層33が焼結し、当該焼結体にイットリアグリーン層32の一部が拡散することによってYSZ電解質層42が形成される。また、焼成処理の際、YDCとYSZとの間で相互拡散が生じるため、YDC電解質層41とYSZ電解質層42との間に、YDCとYSZとが互いに固溶した固溶層43が形成される。
【0023】
ところで、欠陥平衡論によれば、ドーパントは、完全に自由分散したときに最大の効果を発揮する。異なる種類のドーパントA,Bの両方を導入した場合には、固溶体のなかで会合体ABが形成され、完全自由分散が阻害される。したがって、複数種類のドーパントを同時に導入することによって、線形予測よりも導電率が低下することになる。本実施形態においては、セリア系電解質に対するドーパントとジルコニア系電解質に対するドーパントとが同一であるため、固溶層43が形成されたとしても電解質膜30の導電率低下が抑制される。したがって、本実施形態に係る製造方法によれば、ジルコニア系電解質およびセリア系電解質を備える電解質膜30において導電率低下を抑制することができる。
【0024】
また、電解質膜30においては、YDC電解質層41が高い酸素イオン伝導性を有し、YSZ電解質層42が電解質膜30における電子伝導を抑制する。さらに、YDCグリーン層31とYSZグリーン層33との間にイットリアグリーン層32が配置されていることから、焼成処理の際に固溶層43の形成を抑制することができる。以上のことから、電解質膜30は、高いイオン伝導性と低い電子伝導性とを両立することができる。
【0025】
(第2の実施形態)
図3(a)〜図3(c)は、第2の実施形態に係る電解質膜30の製造方法を説明するための模式図である。本実施形態においても、セリア系電解質とジルコニア系電解質とに、同一のドーパントとしてY(イットリウム)を添加する例について説明する。図3(a)に示すように、YDCグリーン層31上に、CeOからなるセリアグリーン層34を積層する。セリアグリーン層34上には、イットリアグリーン層32を積層する。イットリアグリーン層32上には、ZrOからなるジルコニアグリーン層35を積層する。ジルコニアグリーン層35上には、YSZグリーン層33を積層する。各層は、一例として粉末状の層である。
【0026】
次に、図3(b)に示すように、図3(a)の積層体に対して焼成処理を実施する。焼成処理を実施することによって、各電解質粉末は焼結し、緻密化する。図3(c)は、焼成処理によって得られる電解質膜30の構成を示す図である。図3(c)に示すように、YDCグリーン層31が焼結することによってYDC電解質層41が形成され、YSZグリーン層33が焼結することによってYSZ電解質層42が形成される。
【0027】
また、イットリアグリーン層32のYがセリアグリーン層34のCeOにドープされることから、セリアグリーン層34は、焼成処理によってYDC電解質層41の一部を構成する。また、イットリアグリーン層32のYがジルコニアグリーン層35のZrOにドープされることから、ジルコニアグリーン層35は、焼成処理によってYSZ電解質層42の一部を構成する。ただし、YDCとYSZとの間で相互拡散が生じるため、YDC電解質層41とYSZ電解質層42との間に、YDCとYSZとが互いに固溶した固溶層43が形成される。
【0028】
本実施例においても、セリア系電解質に対するドーパントとジルコニア系電解質に対するドーパントが同一であるため、固溶層43が形成されたとしても電解質膜30の導電率低下が抑制される。したがって、本実施形態に係る製造方法によれば、ジルコニア系電解質およびセリア系電解質を備える電解質膜30において導電率低下を抑制することができるまた、電解質膜30においては、YDC電解質層41が高い酸素イオン伝導性を有し、YSZ電解質層42が電解質膜30における電子伝導を抑制する。さらに、YDCグリーン層31とYSZグリーン層33との間にイットリアグリーン層32が配置されていることから、焼成処理の際に固溶層43の形成を抑制することができる。以上のことから、電解質膜30は、高いイオン伝導性と低い電子伝導性とを両立することができる。
【0029】
(他の例)
ジルコニア系電解質およびセリア系電解質は、共に、ドーパント元素種に依存して導電率が大きく変わる。一般に、以下の条件を満たすドーパント元素が高い導電率を示す。
(1)母体元素より価数が1少ない(Zr,Ceに対しては、+3)。
(2)母体イオン(Zr4+,Ce4+)とイオン半径が近い。
以上の条件を満たす元素として、Y(イットリウム),Yb(イッテルビウム),Sm(サマリウム),Sc(スカンジウム)などが挙げられる。
【0030】
また、ジルコニア系電解質の導電率はセリア系電解質の導電率と比較して小さいため、ジルコニア/セリア系の複合膜の全抵抗は、ジルコニア系の抵抗に大きく依存する。このため、ジルコニア系電解質の導電率を高めるドーパントを選択することが好ましい。以上の観点から、Y(イットリウム)を用いることが特に好ましい。
【0031】
なお、焼成によって得られるセリア系電解質膜とジルコニア系電解質膜との界面において、セリア系電解質はCe(1−x)(M=Y、x=0.1〜0.2、y=0.06〜0.12)の組成を有し、ジルコニア系電解質はZr(1−y)(M=Y、y=0.06〜0.12)の組成を有していることが好ましい。この組成範囲において、セリア系電解質およびジルコニア系電解質が高い導電率を発揮するからである。
【0032】
また、Y(イットリウム)の拡散を抑制するために、YDCグリーン層31およびYSZグリーン層33におけるドーパント濃度はできるだけ一致していることが好ましい。そこで、YSZを(ZrO(1−x)(Y)xとし、YDCをCe(1−x)2−δとした場合、x=0.03〜0.12とすることが好ましく、x=0.06〜0.10とすることがより好ましい。
【0033】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
10 支持体
20 アノード
30 電解質膜
31 YDCグリーン層
32 イットリアグリーン層
33 YSZグリーン層
34 セリアグリーン層
35 ジルコニアグリーン層
41 YDC電解質層
42 YSZ電解質層
43 固溶層
100 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリア系電解質グリーン層とジルコニア系電解質グリーン層との間に、前記セリア系電解質と前記ジルコニア系電解質とに対して共通して添加されるドーパント元素の酸化物層が配置された積層体を準備する準備工程と、
前記積層体を焼成する焼成工程と、を含むことを特徴とする電解質膜の製造方法。
【請求項2】
前記ドーパント元素は、3価の希土類元素であることを特徴とする請求項1記載の電解質膜の製造方法。
【請求項3】
前記ドーパント元素の酸化物層は、イットリアであることを特徴とする請求項2記載の電解質膜の製造方法。
【請求項4】
前記準備工程において、前記ドーパント元素の酸化物層と前記セリア系電解質グリーン層との間にセリアからなるグリーン層を配置し、前記ドーパント元素の酸化物層と前記ジルコニア系電解質グリーン層との間にジルコニアからなるグリーン層を配置することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解質膜の製造方法。
【請求項5】
セリア系電解質層と、
ジルコニア系電解質層と、を備え、
前記セリア系電解質層のドーパント元素は、前記ジルコニア系電解質層のドーパント元素と同一であることを特徴とする電解質膜。
【請求項6】
前記ドーパント元素は、3価の希土類元素であることを特徴とする請求項5記載の電解質膜。
【請求項7】
前記ドーパント元素は、イットリウムであることを特徴とする請求項6記載の電解質膜。
【請求項8】
前記セリア系電解質層と前記ジルコニア系電解質層との界面において、前記セリア系電解質層はCe(1−x)(M=Y、x=0.1〜0.2、y=0.06〜0.12)の組成を有し、前記ジルコニア系電解質はZr(1−y)(M=Y、y=0.06〜0.12)の組成を有していることを特徴とする請求項7記載の電解質膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−105717(P2013−105717A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250809(P2011−250809)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】