説明

電解質膜およびその製造方法

【課題】 ジルコニア系電解質とセリア系電解質との固溶が抑制された電解質膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 電解質膜(30)の製造方法は、セリア系電解質グリーン層(32)とジルコニア系電解質グリーン層(31)とが積層された積層体を準備する準備工程と、前記セリア系電解質グリーン層および前記ジルコニア系電解質グリーン層を焼成する焼成工程と、を含み、前記積層体は、前記セリア系電解質グリーン層と前記ジルコニア系電解質グリーン層との界面において、難焼結性を有する難焼結性層を備え、前記界面以外のいずれかの箇所において、易焼結性を有する易焼結性層を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般的には水素および酸素を燃料として電気エネルギを得る装置である。この燃料電池は、環境面において優れており、また高いエネルギ効率を実現できることから、今後のエネルギ供給システムとして広く開発が進められてきている。
【0003】
固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、固体酸化物電解質が燃料極と酸素極とによって挟持された構造を有する。ここで、セリア系電解質は、高い酸素イオン伝導性を有することで知られている。しかしながら、セリア系電解質は、還元性雰囲気下で電子伝導性を有する。そこで、特許文献1は、セリア系電解質を含有する固体電解質層と燃料極層との間に、燃料極層以上の緻密性を有する還元防止層を備え、還元防止層としてイットリア安定化ジルコニアを用いる技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−185698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術を利用して、イットリア安定化ジルコニアおよびセリア系電解質の2層電解質を焼結法で作製する際に高温焼成すると、イットリア安定化ジルコニアとセリア系電解質とが互いに固溶することによって低イオン伝導性層が形成されるおそれがある。
【0006】
本発明は、ジルコニア系電解質とセリア系電解質との固溶が抑制された電解質膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電解質膜の製造方法は、セリア系電解質グリーン層とジルコニア系電解質グリーン層とが積層された積層体を準備する準備工程と、前記セリア系電解質グリーン層および前記ジルコニア系電解質グリーン層を焼成する焼成工程と、を含み、前記積層体は、前記セリア系電解質グリーン層と前記ジルコニア系電解質グリーン層との界面において、難焼結性を有する難焼結性層を備え、前記界面以外のいずれかの箇所において、易焼結性を有する易焼結性層を備えることを特徴とする。本発明に係る電解質膜の製造方法によれば、ジルコニア系電解質とセリア系電解質との固溶が抑制された電解質膜を提供することができる。
【0008】
前記難焼結性層は、前記易焼結性層と比較して、高い比表面積を有していてもよい。前記難焼結性層は、前記易焼結性層と比較して、高いグリーン密度を有していてもよい。前記難焼結性層には、焼結助剤が添加されていてもよい。前記易焼結性層には、焼結阻害剤が添加されていてもよい。前記難焼結性層は、前記セリア系電解質グリーン層と前記ジルコニア系電解質グリーン層との界面における前記ジルコニア系電解質グリーン層側に配置されていてもよい。前記セリア系電解質グリーン層は、ガドリニウムが添加されたセリアであり、前記ジルコニア系電解質は、イットリア安定化ジルコニアであってもよい。
【0009】
本発明に係る電解質膜は、緻密なセリア系電解質層と、緻密なジルコニア系電解質層と、前記セリア系電解質層と前記ジルコニア系電解質層との間に配置され、多孔質状の電解質層と、を備えることを特徴とする。本発明に係る電解質膜においては、ジルコニア系電解質とセリア系電解質との固溶が抑制される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ジルコニア系電解質とセリア系電解質との固溶が抑制された電解質膜およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】固体酸化物形の燃料電池の模式的断面図である。
【図2】電解質膜の製造方法を説明するための模式図である。
【図3】(a)はセリア系電解質粉末の焼成温度と得られた相対密度との関係を示し、(b)はジルコニア系電解質粉末の焼成温度と得られた相対密度との関係を示す。
【図4】電解質膜の他の製造方法を説明するための模式図である。
【図5】電解質膜の他の製造方法を説明するための模式図である。
【図6】電解質膜の他の製造方法を説明するための模式図である。
【図7】高グリーン密度層の作製方法を説明するための模式図である。
【図8】高グリーン密度層の作製方法を説明するための模式図である。
【図9】(a)はセリア系電解質粉末の焼成温度と得られた相対密度との関係を示し、(b)はジルコニア系電解質粉末の焼成温度と得られた相対密度との関係を示す。
【図10】電解質膜の他の製造方法を説明するための模式図である。
【図11】電解質膜の他の製造方法を説明するための模式図である。
【図12】電解質膜の他の製造方法を説明するための模式図である。
【図13】電解質膜の他の製造方法を説明するための模式図である。
【図14】電解質膜の他の製造方法を説明するための模式図である。
【図15】電解質膜の他の製造方法を説明するための模式図である。
【図16】電解質膜の他の製造方法を説明するための模式図である。
【図17】電解質膜の他の製造方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。まず、以下の各実施形態で対象とする燃料電池の構成について説明し、次いで、各実施形態に係る製造方法について説明する。
【0013】
(燃料電池の構成)
図1は、以下の実施形態で対象とする固体酸化物形の燃料電池100の模式的断面図である。燃料電池100は、支持体10、一方の電極、電解質膜30および他方の電極がこの順に積層された構造を有している。本実施例において燃料電池100は、一例として、支持体10、アノード20、電解質膜30およびカソード40がこの順に積層された構造を有している。
【0014】
支持体10は、ガス透過性を有するとともに、電解質膜30を支持可能な部材を用いることができる。本実施例においては、支持体10の一例として多孔質基材を用いる。多孔質基材の一例として、上面および下面を連通する孔11を複数有する多孔質金属板を用いる。多孔質金属板の材質としては、特に限定されないが、例えば酸化によって表面に絶縁性の酸化被膜が形成される成分を含んだ材質(ステンレス等)が用いられる。
【0015】
アノード20の材質は、アノードとしての電極活性を有するものであれば特に限定されないが、例えばNiO/ZrO系、NiO/CeO系、NiO/BaZrO系等の固体酸化物を含む電極構成材料を用いることができる。カソード40の材質は、カソードとしての電極活性を有するものであれば特に限定されないが、例えばLaMnO系、LaCoO系、LaNiO系、SmCoO系等の固体酸化物を含む電極構成材料を用いることができる。
【0016】
電解質膜30は、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物電解質である。具体的には、電解質膜30は、セリア系電解質およびジルコニア系電解質を含む。セリア系電解質として、Ce1−x(x=0〜0.4、M=Gd(ガドリニウム),Y(イットリウム),Sm(サマリウム),La(ランタン)等)を用いることができる。ジルコニア系電解質として、Zr1−x(x=0〜0.24、M=Y(イットリウム),Sc(スカンジウム),Yb(イッテルビウム)等)を用いることができる。
【0017】
なお、アノード20は、電解質膜30に含まれる成分を含んでいることが好ましい。この場合、アノード20の熱膨張係数が電解質膜30の熱膨張係数に近くなり、アノード20と電解質膜30との剥離をより抑制することができる。例えば、したがって、アノード20の材質はNiO/ZrO系またはNiO/CeO系であることが好ましい。
【0018】
燃料電池100は、以下の作用によって発電する。まず、支持体10には、水素(H)が供給され、カソード40には、酸素(O)が供給される。カソード40においては、カソード40に供給された酸素と、外部電気回路から供給される電子と、が反応して酸素イオンになる。酸素イオンは、電解質膜30を伝導してアノード20側に移動する。
【0019】
一方、支持体10に供給された水素は、支持体10の孔11を通過して、アノード20に到達する。アノード20に到達した水素は、アノード20において電子を放出するとともに、カソード40側から電解質膜30を伝導してくる酸素イオンと反応して水(HO)になる。放出された電子は、外部電気回路によって外部に取り出される。外部に取り出された電子は、電気的な仕事をした後に、カソード40に供給される。以上の作用によって、発電が行われる。
【0020】
セリア系電解質は、中温域(600度前後)で高い酸素イオン伝導性を有する。セリア系電解質は、中温域では電子伝導性も併せ持つため、燃料電池100の発電時のリーク電流増加に伴う発電効率低下の要因ともなる。しかしながら、電解質膜30は、ほとんど電子伝導性を持たないジルコニア系電解質を含むことから、電解質膜30における電子伝導が抑制される。したがって、電解質膜30は、燃料電池100の発電効率を高めることができる。しかしながら、セリア系電解質およびジルコニア系電解質を高温焼成すると、セリア系電解質とジルコニア系電解質とが互いに固溶することによって低イオン伝導性層が形成されるおそれがある。以下の実施形態においては、焼成の際のセリア系電解質とジルコニア系電解質との固溶を抑制することができる電解質膜30の製造方法について説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
図2(a)および図2(b)は、電解質膜30の製造方法を説明するための模式図である。まず、図2(a)に示すように、ジルコニア系電解質グリーン層31とセリア系電解質グリーン層32とを積層する。ジルコニア系電解質グリーン層31は、ジルコニア系電解質粉末を含む層であり、高比表面積層31aと、低比表面積層31bとが積層された構成を有する。セリア系電解質グリーン層32は、セリア系電解質粉末を含む層であり、低比表面積層32aと高比表面積層32bとが積層された構成を有する。低比表面積層31bは、高比表面積層31aとセリア系電解質グリーン層32との間に配置されている。低比表面積層32aは、ジルコニア系電解質グリーン層31と高比表面積層32bとの間に配置されている。本実施形態においては、低比表面積層が難焼結性を有し、高比表面積層が易焼結性を有する。
【0022】
ここで、「難焼結性」および「易焼結性」の定義について説明する。「難焼結性」は、所定の焼成温度かつ所定の焼成時間に対して得られる相対密度が低いことを意味する。一方、「易焼結性」は、所定の焼成時間かつ所定の焼成時間に対して得られる相対密度が高いことを意味する。「相対密度」とは、相対密度(%)=(実密度/理論密度)×100で表すことができる。「実密度」は、焼結体の体積と重量とから算出することができる。「理論密度」は、焼結体の格子定数と構成元素の重量とから算出することができる。
【0023】
易焼結性および難焼結性は、一例として、粉末の比表面積を調整することによって得られる。粉末の比表面積を大きくすることによって易焼結性が得られ、粉末の比表面積を小さくすることによって難焼結性が得られる。図3(a)は、高比表面積(約30m/g)を有するセリア系電解質粉末および低比表面積(約10m/g)を有するセリア系電解質粉末の焼成温度と得られた相対密度との関係を示す。図3(a)の例では、焼成時間を4時間とした。図3(a)に示すように、所定の焼成温度かつ所定の焼成時間に対して得られる相対密度は、低比表面積粉末よりも高比表面積粉末において高くなっている。
【0024】
図3(b)は、高比表面積(約14m/g)を有するジルコニア系電解質粉末および低比表面積(約7m/g)を有するジルコニア系電解質粉末の焼成温度と得られた相対密度との関係を示す。図3(b)の例では、焼成時間を4時間とした。図3(b)に示すように、所定の焼成温度かつ所定の焼成時間に対して得られる相対密度は、低比表面積粉末よりも高比表面積粉末において高くなっている。
【0025】
なお、比表面積は粒子径と相関を有しているため、粒子径で比表面積を代用してもよい。例えば、(1)粉末は球体、(2)球体の直径は全て同じ、(3)比表面積=6/(粉末の密度×直径)と仮定した場合、セリア系粉末(密度:7.23g/cm)の場合、比表面積30m/gは、粒子径27.6nmに相当し、比表面積10m/gは、粒子径83nmに相当する。
【0026】
図3(a)および図3(b)の結果から、各材料の1300℃における相対密度は、表1のようになる。表1に示すように、セリア系電解質およびジルコニア系電解質のいずれにおいても、高比表面積粉末を焼成することによって高い相対密度が得られ、低比表面積粉末を焼成することによって低い相対密度が得られた。
【表1】

【0027】
次に、図2(a)の積層体に対して焼成処理を実施する。具体的には、図2(a)の積層体を1300℃程度まで加熱する。焼成処理を実施することによって、各電解質粉末は焼結し、緻密化する。図2(b)は、焼成処理によって得られる電解質膜30の構成を示す図である。図2(b)に示すように、高比表面積層31aから緻密なジルコニア系電解質膜31cが得られ、低比表面積層31bから多孔質状のジルコニア系電解質膜31dが得られ、低比表面積層32aから多孔質状のセリア系電解質膜32cが得られ、高比表面積層32bから緻密なセリア系電解質膜32dが得られる。なお、本実施形態および以下の各実施形態において、「緻密」は相対密度90%以上を意味し、「多孔質状」は相対密度90%未満を意味する。
【0028】
本実施形態によれば、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面に低比表面積層(難焼結性層)が配置されることから、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面における焼結が抑制される。それにより、セリア系電解質とジルコニア系電解質との固溶が抑制される。
【0029】
(第2の実施形態)
図4(a)および図4(b)は、電解質膜30の他の製造方法を説明するための模式図である。まず、図4(a)に示すように、ジルコニア系電解質グリーン層31とセリア系電解質グリーン層32とを積層する。本実施形態においては、第1の実施形態と異なり、高比表面積層31aが配置されていない。
【0030】
次に、図4(a)の積層体に対して焼成処理を実施する。具体的には、図4(a)の積層体を1300℃程度まで加熱する。焼成処理を実施することによって、各電解質粉末は焼結し、緻密化する。図4(b)は、焼成処理によって得られる電解質膜30の構成を示す図である。図4(b)に示すように、低比表面積層31bから多孔質状のジルコニア系電解質膜31dが得られ、低比表面積層32aから多孔質状のセリア系電解質膜32cが得られ、高比表面積層32bから緻密なセリア系電解質膜32dが得られる。
【0031】
本実施形態によれば、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面に低比表面積層(難焼結性層)が配置されることから、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面における焼結が抑制される。それにより、セリア系電解質とジルコニア系電解質との固溶が抑制される。
【0032】
なお、本実施形態においてはジルコニア系グリーン層に高比表面積層を含めなかったが、ジルコニアグリーン層に高比表面積層を含めかつセリア系グリーン層に高比表面積層を含めなくてもよい。
【0033】
(第3の実施形態)
図5(a)および図5(b)は、電解質膜30の他の製造方法を説明するための模式図である。まず、図5(a)に示すように、ジルコニア系電解質グリーン層31とセリア系電解質グリーン層32とを積層する。本実施形態においては、第1の実施形態と異なり、高比表面積層31aおよび低比表面積層32aが配置されていない。
【0034】
次に、図5(a)の積層体に対して焼成処理を実施する。具体的には、図5(a)の積層体を1300℃程度まで加熱する。焼成処理を実施することによって、各電解質粉末は焼結し、緻密化する。図5(b)は、焼成処理によって得られる電解質膜30の構成を示す図である。図5(b)に示すように、低比表面積層31bから多孔質状のジルコニア系電解質膜31dが得られ、高比表面積層32bから緻密なセリア系電解質膜32dが得られる。このように、ジルコニア系電解質層およびセリア系電解質層いずれか一方が界面において低比表面積層を有していれば、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面における焼結が抑制される。それにより、セリア系電解質とジルコニア系電解質との固溶が抑制される。
【0035】
(第4の実施形態)
図6(a)および図6(b)は、電解質膜30の他の製造方法を説明するための模式図である。まず、図6(a)に示すように、ジルコニア系電解質グリーン層31とセリア系電解質グリーン層32とを積層する。ジルコニア系電解質グリーン層31は、ジルコニア系電解質粉末を含む層であり、高グリーン密度層33aと、低グリーン密度層33bとが積層された構成を有する。セリア系電解質グリーン層32は、セリア系電解質粉末を含む層であり、低グリーン密度層34aと高グリーン密度層34bとが積層された構成を有する。低グリーン密度層33bは、高グリーン密度層33aとセリア系電解質グリーン層32との間に配置されている。低グリーン密度層34aは、ジルコニア系電解質グリーン層31と高グリーン密度層34bとの間に配置されている。本実施形態においては、低グリーン密度層が難焼結性を有し、高グリーン密度層が易焼結性を有する。
【0036】
易焼結性および難焼結性は、一例として、グリーン密度を調整することによって得られる。「グリーン密度」とは、「グリーン体の密度」のことである。グリーン密度を大きくすることによって易焼結性が得られ、グリーン密度を小さくすることによって難焼結性が得られる。
【0037】
グリーン密度は、電解質粉末に対するプレス処理によって変更することができる。ここでのプレス処理として、CIP(Cold Isostatic Press)方法を用いることができる。例えば、図7(a)に示すように、低グリーン密度層を用意する。次に、図7(b)に示すように、この低グリーン密度層に対してCIP処理を施すことによって、図7(c)に示すように、高グリーン密度層が得られる。
【0038】
また、グリーン密度は、電解質粉末の成膜法によって変更することができる。例えば、図8(a)に示すように、スクリーン印刷法、グリーンシート法などを用いて、電解質粉末およびバインダー(有機物)を成膜する。次に、このグリーン体に対して、バインダーが燃焼または気化する温度(例えば200℃)で熱処理を施す。それにより、図8(b)に示すように、バインダーが消滅した部分が多孔質状になるため、低グリーン密度層が得られる。一方で、コロイダルスプレー法、エアロゾルデポジション法などを用いて電解質粉末を成膜することによって、高グリーン密度層が得られる。
【0039】
図9(a)は、高グリーン密度(約50%)を有するセリア系電解質粉末および低グリーン密度(約30%)を有するセリア系電解質粉末の焼成温度と得られた相対密度との関係を示す。図9(a)の例では、焼成時間を4時間とした。図9(a)に示すように、所定の焼成温度かつ所定の焼成時間に対して得られる相対密度は、低グリーン密度粉末よりも高グリーン密度粉末において高くなっている。
【0040】
図9(b)は、高グリーン密度(約50%)を有するジルコニア系電解質粉末および低グリーン密度(約30%)を有するジルコニア系電解質粉末の焼成温度と得られた相対密度との関係を示す。図9(b)の例では、焼成時間を4時間とした。図9(b)に示すように、所定の焼成温度かつ所定の焼成時間に対して得られる相対密度は、低グリーン密度粉末よりも高グリーン密度粉末において高くなっている。
【0041】
図9(a)および図9(b)の結果から、各材料の1300℃における相対密度は、表2のようになる。表2に示すように、セリア系電解質およびジルコニア系電解質のいずれにおいても、高グリーン密度粉末を焼成することによって高い相対密度が得られ、低グリーン密度粉末を焼成することによって低い相対密度が得られた。
【表2】

【0042】
次に、図6(a)の積層体に対して焼成処理を実施する。具体的には、図6(a)の積層体を1300℃程度まで加熱する。焼成処理を実施することによって、各電解質粉末は焼結し、緻密化する。図6(b)は、焼成処理によって得られる電解質膜30の構成を示す図である。図6(b)に示すように、高グリーン密度層33aから緻密なジルコニア系電解質膜31cが得られ、低グリーン密度層33bから多孔質状のジルコニア系電解質膜31dが得られ、低グリーン密度層34aから多孔質状のセリア系電解質膜32cが得られ、高グリーン密度層34bから緻密なセリア系電解質膜32dが得られる。
【0043】
本実施形態によれば、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面に低グリーン密度層(難焼結性層)が配置されることから、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面における焼結が抑制される。それにより、セリア系電解質とジルコニア系電解質との固溶が抑制される。
【0044】
(第5の実施形態)
図10(a)および図10(b)は、電解質膜30の他の製造方法を説明するための模式図である。まず、図10(a)に示すように、ジルコニア系電解質グリーン層31とセリア系電解質グリーン層32とを積層する。本実施形態においては、第4の実施形態と異なり、高グリーン密度層33aが配置されていない。
【0045】
次に、図10(a)の積層体に対して焼成処理を実施する。具体的には、図10(a)の積層体を1300℃程度まで加熱する。焼成処理を実施することによって、各電解質粉末は焼結し、緻密化する。図10(b)は、焼成処理によって得られる電解質膜30の構成を示す図である。図10(b)に示すように、低グリーン密度層33bから多孔質状のジルコニア系電解質膜31dが得られ、低グリーン密度層34aから多孔質状のセリア系電解質膜32cが得られ、高グリーン密度層34bから緻密なセリア系電解質膜32dが得られる。
【0046】
本実施形態によれば、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面に低グリーン密度層(難焼結性層)が配置されることから、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面における焼結が抑制される。それにより、セリア系電解質とジルコニア系電解質との固溶が抑制される。
【0047】
なお、本実施形態においてはジルコニア系グリーン層に高グリーン密度層を含めなかったが、ジルコニアグリーン層に高グリーン密度層を含めかつセリア系グリーン層に高グリーン密度層を含めなくてもよい。
【0048】
(第6の実施形態)
図11(a)および図11(b)は、電解質膜30の他の製造方法を説明するための模式図である。まず、図11(a)に示すように、ジルコニア系電解質グリーン層31とセリア系電解質グリーン層32とを積層する。本実施形態においては、第4の実施形態と異なり、高グリーン密度層33aおよび低グリーン密度層34aが配置されていない。
【0049】
次に、図11(a)の積層体に対して焼成処理を実施する。具体的には、図11(a)の積層体を1300℃程度まで加熱する。焼成処理を実施することによって、各電解質粉末は焼結し、緻密化する。図11(b)は、焼成処理によって得られる電解質膜30の構成を示す図である。図11(b)に示すように、低グリーン密度層33bから多孔質状のジルコニア系電解質膜31dが得られ、高グリーン密度層34bから緻密なセリア系電解質膜32dが得られる。このように、ジルコニア系電解質層およびセリア系電解質層いずれか一方が界面において低グリーン密度層を有していれば、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面における焼結が抑制される。それにより、セリア系電解質とジルコニア系電解質との固溶が抑制される。
【0050】
(第7の実施形態)
図12(a)および図12(b)は、電解質膜30の他の製造方法を説明するための模式図である。まず、図12(a)に示すように、ジルコニア系電解質グリーン層31とセリア系電解質グリーン層32とを積層する。ジルコニア系電解質グリーン層31は、ジルコニア系電解質粉末を含む層であり、焼結助剤添加層35aと、焼結助剤不添加層35bとが積層された構成を有する。セリア系電解質グリーン層32は、セリア系電解質粉末を含む層であり、焼結助剤不添加層36aと焼結助剤添加層36bとが積層された構成を有する。焼結助剤不添加層35bは、焼結助剤添加層35aとセリア系電解質グリーン層32との間に配置されている。焼結助剤不添加層36aは、ジルコニア系電解質グリーン層31と焼結助剤添加層36bとの間に配置されている。本実施形態においては、焼結助剤不添加層が難焼結性を有し、焼結助剤添加層が易焼結性を有する。
【0051】
易焼結性および難焼結性は、一例として、焼結助剤の有無で調整することができる。焼結助剤は、昇温の際に溶融し、流界に流れ込む。それにより、毛管現象によって母材粒子同士が引き付けられ、くっつく。それにより、相互拡散(焼結)が促進される。言い換えれば、焼結助剤は、焼結開始温度および焼結完了温度を引き下げる機能を有する。したがって、焼結助剤を添加することによって易焼結性が得られ、焼結助剤を添加しないことによって難焼結性が得られる。なお、焼結助剤は、Co,Fe,Mn,LiOなどである。添加比率は、1〜5mol%程度であることが好ましい。
【0052】
次に、図12(a)の積層体に対して焼成処理を実施する。具体的には、図12(a)の積層体を1300℃程度まで加熱する。焼成処理を実施することによって、各電解質粉末は焼結し、緻密化する。図12(b)は、焼成処理によって得られる電解質膜30の構成を示す図である。図12(b)に示すように、焼結助剤添加層35aから緻密なジルコニア系電解質膜31cが得られ、焼結助剤不添加層35bから多孔質状のジルコニア系電解質膜31dが得られ、焼結助剤不添加層36aから多孔質状のセリア系電解質膜32cが得られ、焼結助剤添加層36bから緻密なセリア系電解質膜32dが得られる。
【0053】
本実施形態によれば、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面に焼結助剤不添加層(難焼結性層)が配置されることから、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面における焼結が抑制される。それにより、セリア系電解質とジルコニア系電解質との固溶が抑制される。
【0054】
(第8の実施形態)
図13(a)および図13(b)は、電解質膜30の他の製造方法を説明するための模式図である。まず、図13(a)に示すように、ジルコニア系電解質グリーン層31とセリア系電解質グリーン層32とを積層する。本実施形態においては、第7の実施形態と異なり、焼結助剤添加層35aが配置されていない。
【0055】
次に、図13(a)の積層体に対して焼成処理を実施する。具体的には、図13(a)の積層体を1300℃程度まで加熱する。焼成処理を実施することによって、各電解質粉末は焼結し、緻密化する。図13(b)は、焼成処理によって得られる電解質膜30の構成を示す図である。図13(b)に示すように、焼結助剤不添加層35bから多孔質状のジルコニア系電解質膜31dが得られ、焼結助剤不添加層36aから多孔質状のセリア系電解質膜32cが得られ、焼結助剤添加層36bから緻密なセリア系電解質膜32dが得られる。
【0056】
本実施形態によれば、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面に焼結助剤不添加層(難焼結性層)が配置されることから、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面における焼結が抑制される。それにより、セリア系電解質とジルコニア系電解質との固溶が抑制される。
【0057】
なお、本実施形態においてはジルコニア系グリーン層に焼結助剤添加層を含めなかったが、ジルコニアグリーン層に焼結助剤添加層を含めかつセリア系グリーン層に焼結助剤添加層を含めなくてもよい。
【0058】
(第9の実施形態)
図14(a)および図14(b)は、電解質膜30の他の製造方法を説明するための模式図である。まず、図14(a)に示すように、ジルコニア系電解質グリーン層31とセリア系電解質グリーン層32とを積層する。本実施形態においては、第7の実施形態と異なり、焼結助剤添加層35aおよび焼結助剤不添加層36aが配置されていない。
【0059】
次に、図14(a)の積層体に対して焼成処理を実施する。具体的には、図14(a)の積層体を1300℃程度まで加熱する。焼成処理を実施することによって、各電解質粉末は焼結し、緻密化する。図14(b)は、焼成処理によって得られる電解質膜30の構成を示す図である。図14(b)に示すように、焼結助剤不添加層35bから多孔質状のジルコニア系電解質膜31dが得られ、焼結助剤添加層36bから緻密なセリア系電解質膜32dが得られる。このように、ジルコニア系電解質層およびセリア系電解質層いずれか一方が界面において焼結助剤不添加層を有していれば、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面における焼結が抑制される。それにより、セリア系電解質とジルコニア系電解質との固溶が抑制される。
【0060】
(第10の実施形態)
図15(a)および図15(b)は、電解質膜30の他の製造方法を説明するための模式図である。まず、図15(a)に示すように、ジルコニア系電解質グリーン層31とセリア系電解質グリーン層32とを積層する。ジルコニア系電解質グリーン層31は、ジルコニア系電解質粉末を含む層であり、焼結阻害剤不添加層37aと、焼結阻害剤添加層37bとが積層された構成を有する。セリア系電解質グリーン層32は、セリア系電解質粉末を含む層であり、焼結阻害剤添加層38aと焼結阻害剤不添加層38bとが積層された構成を有する。焼結阻害剤添加層37bは、焼結阻害剤不添加層37aとセリア系電解質グリーン層32との間に配置されている。焼結阻害剤添加層38aは、ジルコニア系電解質グリーン層31と焼結阻害剤不添加層38bとの間に配置されている。本実施形態においては、焼結阻害剤添加層が難焼結性を有し、焼結阻害剤不添加層が易焼結性を有する。
【0061】
易焼結性および難焼結性は、一例として、焼結阻害剤の有無で調整することができる。焼結阻害剤が流界に存在すると、母材粒子同士がくっつきにくくなる。それにより、相互拡散(焼結)が抑制される。言い換えれば、焼結助剤は、焼結進行速度を低下させ、焼結開始温度および焼結完了温度を引き上げる機能を有する。したがって、焼結阻害剤を添加することによって難焼結性が得られ、焼結阻害剤を添加しないことによって易焼結性が得られる。なお、焼結阻害剤は、Al,MgOなどである。添加比率は、0.1〜0.5mol%程度であることが好ましい。
【0062】
次に、図15(a)の積層体に対して焼成処理を実施する。具体的には、図15(a)の積層体を1300℃程度まで加熱する。焼成処理を実施することによって、各電解質粉末は焼結し、緻密化する。図15(b)は、焼成処理によって得られる電解質膜30の構成を示す図である。図15(b)に示すように、焼結阻害剤不添加層37aから緻密なジルコニア系電解質膜31cが得られ、焼結阻害剤添加層37bから多孔質状のジルコニア系電解質膜31dが得られ、焼結阻害剤添加層38aから多孔質状のセリア系電解質膜32cが得られ、焼結阻害剤不添加層38bから緻密なセリア系電解質膜32dが得られる。
【0063】
本実施形態によれば、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面に焼結阻害剤添加層(難焼結性層)が配置されることから、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面における焼結が抑制される。それにより、セリア系電解質とジルコニア系電解質との固溶が抑制される。
【0064】
(第11の実施形態)
図16(a)および図16(b)は、電解質膜30の他の製造方法を説明するための模式図である。まず、図16(a)に示すように、ジルコニア系電解質グリーン層31とセリア系電解質グリーン層32とを積層する。本実施形態においては、第10の実施形態と異なり、焼結阻害剤不添加層37aが配置されていない。
【0065】
次に、図16(a)の積層体に対して焼成処理を実施する。具体的には、図16(a)の積層体を1300℃程度まで加熱する。焼成処理を実施することによって、各電解質粉末は焼結し、緻密化する。図16(b)は、焼成処理によって得られる電解質膜30の構成を示す図である。図16(b)に示すように、焼結阻害剤添加層37bから多孔質状のジルコニア系電解質膜31dが得られ、焼結助阻害添加層38aから多孔質状のセリア系電解質膜32cが得られ、焼結阻害剤不添加層38bから緻密なセリア系電解質膜32dが得られる。
【0066】
本実施形態によれば、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面に焼結阻害剤添加層(難焼結性層)が配置されることから、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面における焼結が抑制される。それにより、セリア系電解質とジルコニア系電解質との固溶が抑制される。
【0067】
なお、本実施形態においてはジルコニア系グリーン層に焼結阻害剤不添加層を含めなかったが、ジルコニアグリーン層に焼結阻害剤不添加層を含めかつセリア系グリーン層に焼結阻害剤不添加層を含めなくてもよい。
【0068】
(第12の実施形態)
図17(a)および図17(b)は、電解質膜30の他の製造方法を説明するための模式図である。まず、図17(a)に示すように、ジルコニア系電解質グリーン層31とセリア系電解質グリーン層32とを積層する。本実施形態においては、第10の実施形態と異なり、焼結阻害剤不添加層37aおよび焼結阻害剤添加層38aが配置されていない。
【0069】
次に、図17(a)の積層体に対して焼成処理を実施する。具体的には、図17(a)の積層体を1300℃程度まで加熱する。焼成処理を実施することによって、各電解質粉末は焼結し、緻密化する。図17(b)は、焼成処理によって得られる電解質膜30の構成を示す図である。図17(b)に示すように、焼結阻害剤添加層37bから多孔質状のジルコニア系電解質膜31dが得られ、焼結阻害剤不添加層38bから緻密なセリア系電解質膜32dが得られる。このように、ジルコニア系電解質層およびセリア系電解質層いずれか一方が界面において焼結阻害剤添加層を有していれば、ジルコニア系電解質層とセリア系電解質層との界面における焼結が抑制される。それにより、セリア系電解質とジルコニア系電解質との固溶が抑制される。
【0070】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 支持体
20 アノード
30 電解質膜
31 ジルコニア系電解質グリーン層
31a 高比表面積層
31b 低比表面積層
31c,31d ジルコニア系電解質膜
32 セリア系電解質グリーン層
32a 低比表面積層
32b 高比表面積層
32c,32d セリア系電解質膜
33a,34b 高グリーン密度層
33b,34a 低グリーン密度層
35a,36b 焼結助剤添加層
35b,36a 焼結助剤不添加層
37a,38b 焼結阻害剤不添加層
37b,38a 焼結阻害剤添加層
40 カソード
100 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリア系電解質グリーン層とジルコニア系電解質グリーン層とが積層された積層体を準備する準備工程と、
前記セリア系電解質グリーン層および前記ジルコニア系電解質グリーン層を焼成する焼成工程と、を含み、
前記積層体は、前記セリア系電解質グリーン層と前記ジルコニア系電解質グリーン層との界面において、難焼結性を有する難焼結性層を備え、前記界面以外のいずれかの箇所において、易焼結性を有する易焼結性層を備えることを特徴とする電解質膜の製造方法。
【請求項2】
前記難焼結性層は、前記易焼結性層と比較して、高い比表面積を有することを特徴とする請求項1記載の電解質膜の製造方法。
【請求項3】
前記難焼結性層は、前記易焼結性層と比較して、高いグリーン密度を有することを特徴とする請求項1記載の電解質膜の製造方法。
【請求項4】
前記難焼結性層には、焼結助剤が添加されていることを特徴とする請求項1記載の電解質膜の製造方法。
【請求項5】
前記易焼結性層には、焼結阻害剤が添加されていることを特徴とする請求項1記載の電解質膜の製造方法。
【請求項6】
前記難焼結性層は、前記セリア系電解質グリーン層と前記ジルコニア系電解質グリーン層との界面における前記ジルコニア系電解質グリーン層側に配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電解質膜の製造方法。
【請求項7】
前記セリア系電解質グリーン層は、ガドリニウムが添加されたセリアであり、
前記ジルコニア系電解質は、イットリア安定化ジルコニアであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電解質膜の製造方法。
【請求項8】
緻密なセリア系電解質層と、
緻密なジルコニア系電解質層と、
前記セリア系電解質層と前記ジルコニア系電解質層との間に配置され、多孔質状の電解質層と、を備えることを特徴とする電解質膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−89569(P2013−89569A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232014(P2011−232014)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】