説明

電解質膜の製造方法

【課題】ネックインの発生を抑制しつつ、補強部材が包含された電解質膜を製造する。
【解決手段】本発明の電解質膜の製造方法は、補助シート上に電解質膜用部材が貼り合わされた補助シート付電解質膜用部材から、前記補助シートと前記電解質膜用部材とが接着されている接着部分を切除することにより、前記補助シートと前記電解質膜用部材とが接着されていない非接着部分の前記補助シートと前記電解質膜用部材とを分離する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に用いられる電解質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(以下、単に「燃料電池」と呼ぶ)には、電解質膜の両面に、燃料電池反応を促進させるための触媒を担持させた触媒電極(アノードおよびカソード)が形成された膜電極接合体が利用されている。電解質膜としては、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す固体高分子の薄膜が用いられる。ここで、燃料電池に用いられる電解質膜は、プロトン伝導性を向上させるために薄型化されることが望ましが、薄型化に伴って機械的な耐久性が弱い、という問題がある。また、電解質膜は、燃料電池内部の湿潤状態に応じて膨潤/収縮するため、そうした膨潤と収縮の繰り返しに対する機械的な耐久性や発電性能の耐久性が弱い、という問題もある。なお、以下では、機械的な耐久性や発電性能の耐久性を、特に区別せずに「耐久性」と呼ぶ。この耐久性の問題を解決するために、内部に細孔を有する多孔質の補強部材を包含させ、薄型化するとともに、その耐久性を向上させた多層構造の電解質膜(以下、「補強電解質膜」とも呼ぶ)が利用されている。
【0003】
上記のような補強電解質膜は、例えば、以下のように製造される。すなわち、電解質膜の両面あるいは片面に、補強部材としての多孔質樹脂膜(以下、「多孔質補強膜」あるはい「補強膜」とも呼ぶ)を重ね合わせるとともに、2つの熱ロールにて加熱および加圧することにより、補強部材が包含された電解質膜(補強電解質膜)が製造される。
【0004】
ここで、上記のような補強電解質膜を製造するために用いられる部材としての電解質膜や補強膜は、製造工程中の搬送過程において加わる種々の外力により、ネックインや、シワ、歪み等が発生しやすい、という問題がある。このため、従来から、これらの膜は、キャリアシート上に接着された状態で取り扱われ、製造時にキャリアシートから剥離されて利用する、ということが行われていている(例えば、特許文献1,2,3等参照)。しかしながら、このキャリアシートを剥離する場合にも、剥離される膜に対して剥離するための力が加わることによってネックインが発生し、耐久性が低下する、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−027461号公報
【特許文献2】特開2011−077060号公報
【特許文献3】特開2011−065877号公報
【特許文献4】特開2011−054352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、ネックインの発生を抑制しつつ、補強部材が包含された電解質膜(補強電解質膜)を製造することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
電解質膜の製造方法であって、補助シート上に電解質膜用部材が貼り合わされた補助シート付電解質膜用部材から、前記補助シートと前記電解質膜用部材とが接着されている接着部分を切除することにより、前記補助シートと前記電解質膜用部材とが接着されていない非接着部分の前記補助シートと前記電解質膜用部材とを分離する工程を含む、電解質膜の製造方法。
この製造方法によれば、補助シートと電解質膜用部材とが接着されていない非接着部分において、補助シートと電解質膜用部材とを簡単に分離して、分離した電解質膜用部材を利用することができるので、ネックインの発生を抑制しつつ、電解質膜を製造することが可能である。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載の電解質膜の製造方法であって、前記接着部分は前記補助シート付電解質膜用部材の幅方向の端部である、電解質膜の製造方法。
このようにすれば、接着部分の切除が容易となる。
【0010】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の電解質膜の製造方法であって、前記接着部分は、前記補助シートの前記接着部分に対応する領域が熱溶融されて前記補助シートと前記電解質膜用部材とが接着されることにより形成されている、電解質膜の製造方法。
このようにすれば、耐熱性のシートを補助シートとして利用することができる。
【0011】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一項に記載の電解質膜の製造方法であって、さらに、第1の電解質膜用部材と、前記接着部分に対応する領域で前記補助シートに貼り合わされた第2の電解質膜用部材と、を接合して、前記補助シート付電解質膜用部材を作製する工程を含む、電解質膜の製造方法。
このようにすれば、多層構造の電解質膜を容易に製造することができる。
【0012】
[適用例5]
適用例4に記載の電解質膜の製造方法であって、さらに、前記第2の電解質膜用部材を前記接着部分に対応する領域で前記補助シートに貼り合わせる工程を含む、電解質膜の製造方法。
これによれば、接着部分に対応する領域で補助シートに貼り合わされた第2の電解質膜用部材を作製することができる。
【0013】
[適用例6]
適用例4または適用例5に記載の電解質膜の製造方法であって、前記第1の電解質膜用部材はプロトン伝導性が付与される前段階である電解質ポリマー前駆体で形成された電解質ポリマー前駆膜あり、前記第2の電電解質膜用部材は細孔を有する多孔質補強膜である、電解質膜の製造方法。
この場合には、多孔質補強膜を含む多層構造の電解質膜を容易に製造することができる。
【0014】
なお、本発明は、電解質膜の製造方法だけでなく、電解質膜の製造装置等の種々の形態で実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施例としての電解質膜の製造工程を示すフローチャートである。
【図2】図1におけるステップS10の工程を実行する工程部1を示す模式図である。
【図3】図1におけるステップS20の工程を実行する工程部2を示す模式図である。
【図4】図1におけるステップS30の工程を実行する工程部3を示す模式図である。
【図5】本発明の第2実施例としての電解質膜の製造工程を示すフローチャートである。
【図6】図5におけるステップS20Bbを実行する工程部2Bbを示す模式図である。
【図7】図5におけるステップS30Bを実行する工程部3Bを示す模式図である。
【図8】工程部2Baおよび工程部2Bbの変形例としての工程部2Bvを示す模式図である。
【図9】本発明の第3実施例としての電解質膜の製造工程を示すフローチャートである。
【図10】図9におけるステップS20Cbを実行する工程部2Cbを示す模式図である。
【図11】図9におけるステップS30Cを実行する工程部3Cを示す模式図である。
【図12】本発明の第4実施例としての電解質膜の製造工程を示すフローチャートである。
【図13】図12におけるステップS100を実行する工程部1Dを示す模式図である。
【図14】図12におけるステップS200を実行する工程部2Dを示す模式図である。
【図15】図12におけるステップS300を実行する工程部3Dを示す模式図である。
【図16】本発明の第5実施例としての電解質膜の製造工程を示すフローチャートである。
【図17】図16におけるステップS300Eを実行する工程部3Eを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.第1実施例:
図1は、本発明の第1実施例としての電解質膜の製造工程を示すフローチャートである。図2,3,4は、図1におけるステップS10,S20,S30の各工程を実行する工程部1,2,3を示す模式図である。
【0017】
まず、ステップS10では、図2に示す工程部1により補助シートに多孔質補強膜を貼り合わせて、補助シート付補強膜を準備する。
【0018】
工程部1は、延伸部110と、補助シート貼り合わせ部120と、貼り合わせ端部切除部130と、を備えている。延伸部110は、多孔質補強膜12として、フッ素系樹脂材料を所定の方向(一方向でも良いし、多方向でも良い)に延伸した状態で、結晶融点以上に加熱して、細孔を有する多孔質樹脂膜を作製し、貼り合わせ部120に送り出す。なお、フッ素系樹脂材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを用いることができる。
【0019】
補助シート貼り合わせ部120は、貼り合わせローラ121a,121bによる貼り合わせローラ対121で構成される。貼り合わせローラ対121には、延伸部110から補助シート貼り合わせ部120に送り込まれる帯状の多孔質補強膜12が、貼り合わせローラ対121のニップ部121nで挟み込まれるように搬送される。また、補助シート巻き出し部RO1から貼り合わせ部120に送り込まれた帯状の補助シートBSが、貼り合わせローラ対121の一方の貼り合わせローラ121aに沿って、ニップ部121nに挟み込まれるように搬送される。なお、補助シート巻き出し部RO1には、ロール状に巻かれた補助シートBSのロールがセットされており、補助シートBSは、補助シート巻き出し部RO1から巻き出されることにより補助シート貼り合わせ部120に送り込まれる。
【0020】
ニップ部121nに挟み込まれるように搬送された多孔質補強膜12および補助シートBSは、ニップ部121nにおいて接するように重ね合わされるとともに、貼り合わせローラ121a,121bで押さえられることにより互いに貼り合わされる。これにより、補助シート付補強膜12BSrが作製される。そして、作製された補助シート付補強膜12BSrは、貼り合わせ端部切除部130へ送り出される。ここで、補助シートBSの搬送方向に垂直な幅方向の両端部には粘着領域BSaが設けられており、多孔質補強膜12は、補助シートBSに対して重ね合わされる全面で接着されるのではなく、粘着領域BSaを介してのみ補助シートBSに接着される。なお、補助シートBSとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系フィルムや、オレフィン系フィルム、ポリイミド系フィルム等が用いられる。粘着領域BSaは、例えば、シリコン系樹脂の接着剤で形成される。
【0021】
貼り合わせ端部切除部130は、スリット形成部131と、スリット端離間部132と、を備えている。スリット形成部131は、2つの丸刃ローラ131a,131bで構成される。スリット端離間部132は、2つの離間ローラ132a,132bで構成される。補助シート貼り合わせ部120から送り込まれた補助シート付補強膜12BSrは、貼り合わせ端部切除部130の2つの丸刃ローラ131a,131bのニップ部131nで挟み込まれるように搬送される。ニップ部131nで挟み込まれた補助シート付補強膜12BSrには、粘着領域BSaで接着されている接着部分の外側の端部を切り取るように搬送方向に沿ってスリットが入れられる。スリットが入れられた補助シート付補強膜12BSrはスリット端離間部132のニップ部132nで挟み込まれるように搬送される。そして、入れられたスリットよりも外側の端部12BSgは、スリット端離間部132の一方の離間ローラ132aに沿って搬送され、スリット端部巻き取り部RI1gで巻き取られる。また、入れられたスリットよりも中央側の補助シート付補強膜12BSは、スリット端離間部132の他方の離間ローラ132bを介して搬送され、補助シート付補強膜巻き取り部RI1で巻き取られる。
【0022】
以上のように、工程部1では、多孔質補強膜12の端部が補助シートBSの粘着領域BSaを介して接着された補助シート付補強膜12BSが準備される。
【0023】
次に、図1のステップS20では、図3に示す工程部2により、後述する加水分解処理によってプロトン伝導性が付与される前の電解質ポリマーの前駆体(以下、「電解質前駆体」とも呼ぶ)の薄膜(以下、「電解質前駆膜」とも呼ぶ)を成膜するとともに、電解質前駆膜の一方の面に、ステップS10の工程部1で作製した補助シート付補強膜を貼り合わせる。なお、電解質ポリマー(以下、「電解質」とも呼ぶ)としては、ナフィオン(Nafion:登録商標)など、則鎖末端に−SO3H基を有するパーフルオロスルホン酸ポリマーを用いることができ、この場合の電解質前駆体は則鎖末端が−SO2F基である。
【0024】
工程部2は、電解質前駆膜成膜部210と、電解質前駆膜貼り合わせ部220と、貼り合わせ端部切除部230と、を備えている。電解質前駆膜成膜部210は、ペースト押出機211と搬送ローラ212とドライヤ213とを備えている。電解質前駆膜成膜部210は、ペースト押出機211から、ペースト状の電解質前駆体11fmを押し出して薄膜状に成形しつつ、ドライヤ213で乾燥させて電解質前駆膜11fを成膜し、搬送ローラ212で電解質前駆膜貼り合わせ部220へ送り出す。
【0025】
電解質前駆膜貼り合わせ部220は、貼り合わせローラ221a,221bによる貼り合わせローラ対221と、ヒータ222と、を備えている。貼り合わせローラ対221には、電解質前駆膜成膜部210から送り込まれた電解質前駆膜11fが、貼り合わせローラ対221のニップ部221nで挟み込まれるように搬送される。また、貼り合わせローラ対221には、補強膜巻き出し部RO2から送り込まれた補助シート付補強膜12BSが、貼り合わせローラ対221の一方の貼り合わせローラ221bに沿って、ニップ部221nに挟み込まれるように搬送される。なお、補強膜巻き出し部RO2には、ロール状に巻かれた補助シート付補強膜12BSのロールがセットされており、補助シート付補強膜12BSは、補強膜巻き出し部RO2から巻き出されることにより電解質前駆膜貼り合わせ部220に送り込まれる。
【0026】
補助シート付補強膜12BSは、貼り合わせローラ221bに沿ってニップ部221nに搬送される過程において、ヒータ222によって所定の温度(例えば、90℃)で加熱された後、多孔質補強膜12と電解質前駆膜11fとが接するように重ね合わされて、貼り合わせローラ221a,221bで押さえられる。これにより、多孔質補強膜12と電解質前駆膜11fとが接合するように貼り合わされて、多孔質補強膜12と電解質前駆膜11fとが接合された補強電解質前駆膜13fが補助シートBSに貼り合わされた補助シート付補強電解質前駆膜13fBSrが作製される。そして、作製された補助シート付補強電解質前駆膜13fBSrは、貼り合わせ端部切除部230へ送り出される。なお、ヒータ222としては、IRヒータや温度調節機能付ブロワ等を用いることができる。
【0027】
貼り合わせ端部切除部230は、平刃で構成されるスリット形成部231と、離間ローラで構成されるスリット端離間部232と、を備えている。電解質前駆膜貼り合わせ部220から送り込まれた補助シート付補強電解質前駆膜13fBSrには、スリット形成部231の平刃によって、補助シートBSと補強電解質前駆膜13fとが接着されている接着部分の外側の端部を切り取るように搬送方向に沿ってスリットが入れられる。そして、補助シート付補強電解質前駆膜13fBSrのうち、入れられたスリットよりも外側の端部13fBSgは、スリット端離間部232の離間ローラに沿って搬送され、スリット端部巻き取り部RI2gで巻き取られる。また、入れられたスリットよりも中央側の補助シート付補強電解質前駆膜13fBSは、スリット端離間部232の離間ローラを介して補助シート付補強電解質前駆膜巻き取り部RI2で巻き取られる。なお、スリット形成部231やスリット端離間部232は、工程部1(図2)のスリット形成部131やスリット端離間部132と同様の構成としてもよい。
【0028】
以上のように、工程部2では、電解質前駆膜11fの一方の面に多孔質補強膜12が接合された補強電解質前駆膜13fが作製されるとともに、補強電解質前駆膜13fが補助シートBSの粘着領域BSaで補助シートBSに貼り合わされて、補助シート付補強電解質前駆膜13fBSrが作製される。
【0029】
次に、図1のステップS30では、図4に示す工程3により、補助シート付補強電解質前駆膜から補助シートを剥離するとともに、耐熱性の保護シートを重ね合わせた後、多孔質補強膜中に電解質前駆膜を構成する電解質前駆体を溶融・含浸させて、電解質前駆膜と多孔質補強膜とが一体化された多層構造の複合膜(薄膜)を作製する。工程部3は、補助シート剥離部310と、溶融含浸部320と、を備えている。
【0030】
補助シート剥離部310は、平刃で構成されるスリット形成部311と、離間ローラで構成されるスリット端離間部312と、剥離ローラで構成される補助シート剥離部313と、を備えている。補助シート付補強電解質膜巻き出し部RO3から補助シート剥離部310へ送り込まれた補助シート付補強電解質前駆膜13fBSには、スリット形成部311によって、補助シートBSおよび補強電解質前駆膜13fの非接着部分13fBSmと接着部分13fBSgとを切り離すようにスリットが入れられる。なお、補助シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO3には、ロール状に巻かれた補助シート付補強電解質前駆膜13fBSのロールがセットされており、補助シート付補強電解質前駆膜13fBSは、補助シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO3から巻き出されることにより補助シート剥離部310に送り込まれる。
【0031】
スリットが入れられた補助シート付補強電解質前駆膜13fBSの接着部分13fBSgと非接着部分13fBSmとは、スリット端離間部312を介して離間され、接着部分13fBSgは接着部巻き取り部RI3gに巻き取られ、非接着部分13fBSmは補助シート剥離部313へ搬送される。なお、スリット形成部311やスリット端離間部312は、工程部1(図2)のスリット形成部131やスリット端離間部132と同様の構成としてもよい。
【0032】
補助シート剥離部313は、剥離ローラ313a,313bによる剥離ローラ対で構成されており、送り込まれた補助シート付補強電解質前駆膜13fBSの非接着部分13fBsm(以下、単に「補助シート付補強電解質前駆膜13fBSm」とも呼ぶ)は、剥離ローラ313aに沿って、剥離ローラ対のニップ部313nで挟み込まれるように搬送される。ニップ部313nに挟み込まれた補助シート付補強電解質前駆膜13fBSmのうち補助シートBSは、剥離ローラ313aに沿って搬送されることにより、補強電解質前駆膜13fから剥離され、ガイドローラRGを介して剥離補助シート巻き取り部RBScへ搬送されて巻き取られる。一方、補助シートBSが剥離された補強電解質前駆膜13fは、溶融含浸部320へ送り込まれる。
【0033】
溶融含浸部320は、保護シート重ね合わせ部321と、溶融含浸実行部322と、を備えている。溶融含浸実行部322は、2つの溶融含浸ローラ322a,322bによる溶融含浸ローラ対で構成されている。保護シート重ね合わせ部321は、補助シート剥離部313を構成する2つの剥離ローラ313a,313bと、溶融含浸実行部322を構成する溶融含浸ローラ322aと、で構成されている。なお、以下の説明において、これらのローラ313a,313b,322aを「重ね合わせローラ」とも呼ぶ。
【0034】
保護シート重ね合わせ部321の2つの重ね合わせローラ313a,313bによる重ね合わせローラ対のニップ部313nには、保護シートCSが、補強電解質前駆膜13fの補助シートBSが剥離された面とは反対側の面に重ね合わされて挟み込まれるように、第1の保護シート巻き出し部RCS1からガイドローラRGを介して搬送される。これにより、補強電解質前駆膜13fの一方の面に保護シートCSが重ね合わされる。一方の面に保護シートCSが重ね合わされた補強電解質前駆膜13fは、重ね合わせローラ313bに沿って、保護シート重ね合わせ部321の2つの重ね合わせローラ313b,322aによる重ね合わせローラ対のニップ部321nで挟み込まれるように搬送される。また、ニップ部321nには、保護シートCSが重ね合わされていない補強電解質前駆膜13fの他の面に重ね合わされて挟み込まれるように、第2の保護シート巻き出し部RCS2からガイドローラRGを介して保護シートCSが搬送される。これにより、補強電解質前駆膜13fの他方の面にも保護シートCSが重ね合わされる。なお、第1および第2の保護シート巻き出し部RCS1,RCS2には、ロール状に巻かれた保護シートCSのロールがセットされており、保護シートCSは、第1および第2の保護シート巻き出し部RCS1、RCS2から巻き出されることにより保護シート重ね合わせ321に送り込まれる。
【0035】
補強電解質前駆膜13fの両方の面に保護シートCSが重ね合わされた補強電解質前駆膜13fCSは、保護シート重ね合わせ部321の重ね合わせローラとして機能していた溶融含浸ローラ322aに沿って2つの溶融含浸ローラ322a,322bによる溶融含浸ローラ対のニップ部322nで挟みこまれるように搬送され、さらに、溶融含浸ローラ322bに沿って搬送される。溶融含浸ローラ322a,322bは、電解質前駆膜11fを構成する電解質前駆体11fmが溶融する温度、例えば、170〜230℃程度の温度で加熱される。そして、ニップ部322nにおいて挟み込まれることにより加圧される。これにより、電解質前駆膜11fを構成する電解質前駆体11fmが溶融し、多孔質補強膜12に含浸され、多孔質補強膜12と電解質前駆膜11fとが一体化された多層構造の補強電解質前駆膜10fが形成され、保護シートCSが貼り合わされた保護シート付補強電解質前駆膜10fCSが作製される。作製された保護シート付補強電解質前駆膜10fCSは、ガイドローラRGを介して補強電解質前駆膜巻き取り部RI3に搬送されて巻き取られる。なお、第1の溶融含浸ローラ322aにはスチール製ローラが用いられ、第2の溶融含浸ローラ322bにはシリコン製ローラが用いられている。これは、スチール製に比べて弾性の高いシリコン製のローラを一方に用いることにより、ニップ部322nにおける密着性を高めることができる。ただし、スチール製に比べてシリコン製は耐熱性が低いため、例えば、スチール製の加熱温度220℃程度とすることができるのに対してシリコン製の加熱温度は180℃程度に設定される。また、保護シートCSとしては、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等の樹脂材料で構成されるフィルムシートのように、溶融含浸ローラ322a,322bによる加熱温度に対して耐熱性を有する高耐熱性シートが用いられる。
【0036】
以上のように、工程部3では、多孔質補強膜12に電解質前駆膜11fの電解質電駆体11fmが溶融含浸されて一体化された多層構造の補強電解質前駆膜10fが作製される。
【0037】
最後に、図1のステップ40では、補強電解質前駆膜10fに対して加水分解処理を行い、電解質前駆体を、プロトン伝導性を有する電解質とすることにより、多孔質補強材を包含する多層構造の電解質膜を作製する。具体的には、例えば、保護シートCSを剥離した補強電解質前駆膜10fを、アルカリ溶液に浸漬させ、電解質前駆体が有する−SO2F基を、−SO3Na基に変成させる。そして、変成後の補強電解質前駆膜10fを洗浄した後、酸性溶液に浸漬させて、前段階で変成された−SO3Na基を、さらに、−SO3H基へと変成させ、プロトン伝導性を有する電解質とする。
【0038】
以上説明したように、本実施例の製造工程では、補助シート付補強電解質前駆膜13fBSから補助シートBSを剥離する際において、補助シートBSおよび補強電解質前駆膜13fの接着部分13fBSgと非接着部分13fBSmとを切り離している。そして、切り離された非接着部分13fBsmの補助シートBSを剥離し、補助シートBSが剥離された非接着部分13fBSmの補強電解質前駆膜13fを利用している。この場合、非接着部分13fBSmの補助シートBSと補強電解質前駆膜13fとは粘着領域BSaを介して接着されていないので、補助シートBSを簡単に剥離することができ、従来技術で説明したような補助シートの剥離によるネックインの発生を抑制することができる。これにより、耐久性に優れた電解質膜として、多孔質補強材を包含する多層構造の電解質膜を作製することができる。
【0039】
なお、図2〜図4に示した工程部では、説明上特に必要ではない、搬送張力調整機構(搬送張力発生機構,搬送張力監視機構,搬送張力分離機構等)や、ガイドローラ等の構成要素を省略して示しているが、実際には、これらの構成要素が適宜付加される。また、工程部1の貼り合わせ端部切除部130や工程部2の貼り合わせ端部切除部230は、必ずしも必要ではなく、省略することができる。
【0040】
B.第2実施例:
図5は、本発明の第2実施例としての電解質膜の製造工程を示すフローチャートである。第2実施例の電解質膜の製造工程は、第1実施例のステップS20(図1)をステップS20Ba,S20Bbに置き換え、これに応じてステップS30(図1)をステップS30Bに置き換えて、電解質前駆膜の両面に多孔質補強膜を接合させて電解質膜を作製する例を示したものである。
【0041】
ステップS20Baでは、工程部2Baにより、電解質前駆膜を成膜するとともに、電解質前駆膜の一方の面に、ステップS10の工程部1で作製した補助シート付補強膜を貼り合わせる。この工程部2Baは、図2に示した工程部2と同じであるので図示および説明を省略する。そして、ステップS20Bbでは、図6に示す工程部2Bbにより、電解質前駆膜の多孔質補強膜がまだ貼り合わされていないもう一方の面に補助シート付補強膜を貼り合わせる。図6は、図5におけるステップS20Bbを実行する工程部2Bbを示す模式図である。
【0042】
工程部2Bbは、補強膜貼り合わせ部240と、貼り合わせ端部切除部250と、を備えている。補強膜貼り合わせ部240は、貼り合わせローラ241a,241bによる貼り合わせローラ対241と、ヒータ242と、を備えている。補助シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO2Bb2から送り込まれた補助シート付補強電解質前駆膜13fBSが、貼り合わせローラ対241の一方の貼り合わせローラ241aに沿って、ニップ部241nに挟み込まれるように搬送される。また、貼り合わせローラ対241には、補強膜巻き出し部RO2Bb1から送り込まれた補助シート付補強膜12BSが、貼り合わせローラ対241のニップ部241nに挟み込まれるように搬送される。なお、補強膜巻き出し部RO2Bb1には、ロール状に巻かれた補助シート付補強膜12BSのロールがセットされており、補助シート付補強膜12BSは、補強膜巻き出し部RO2Bb1から巻き出されることにより補強膜貼り合わせ部240に送り込まれる。また、補助シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO2Bb2には、ロール状に巻かれた補助シート付補強電解質前駆膜13fBSのロールがセットされており、補助シート付補強電解質前駆膜13fBSは、補助シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO2Bb2から巻き出されることにより補強膜貼り合わせ部240に送り込まれる。
【0043】
補助シート付補強電解質前駆膜13fBSおよび補助シート付補強膜12BSは、貼り合わせローラ対241のニップ部241nに搬送される過程において、ヒータ242で所定の温度(例えば、90℃)で加熱され、補助シート付補強電解質前駆膜13fBSの電解質前駆膜11fと、補助シート付補強膜12BSの多孔質補強膜12とが接するように重ね合わされて、貼り合わせローラ241a,241bで押さえられる。このとき、補強電解質前駆膜13fの多孔質補強膜12が接合されていない側の電解質前駆膜11fの面と補助シート付補強膜12BSの多孔質補強膜12とが接合するように貼り合わされる。これにより、電解質前駆膜11fの両面に多孔質補強膜12が接合された補強電解質前駆膜14fが作製されるとともに、補強電解質前駆膜14fの両面に補助シートBSが貼り合わされた補助シート付補強電解質前駆膜14fBSrが作製される。そして、作製された補助シート付補強電解質前駆膜14fBSrは、貼り合わせ端部切除部250へ送り出される。なお、ヒータ242としても、IRヒータや温度調節機能付ブロワ等を用いることができる。
【0044】
貼り合わせ端部切除部250は、スリット形成部251と、スリット端離間部252と、を備えている。スリット形成部251は、貼り合わせ端部切除部130(図1)のスリット形成部131と同様に、2つの丸刃ローラ251a,251bで構成される。スリット端離間部252も、貼り合わせ端部切除部130のスリット端離間部132と同様に、2つの離間ローラ252a,252bで構成される。補強膜貼り合わせ部240から送り込まれた補助シート付補強電解質前駆膜14fBSrには、スリット形成部251の2つの丸刃ローラ251a,251bによって、補助シートBSと補強電解質前駆膜14fとが接着された接着部分の外側の端部を切り取るように搬送方向に沿ってスリットが入れられる。スリットが入れられた補助シート付補強電解質前駆膜14fBSrのうち、入れられたスリットよりも外側の端部14fBSgは、スリット端離間部252の一方の離間ローラ252aに沿って搬送され、スリット端部巻き取り部RI2Bgで巻き取られる。また、入れられたスリットよりも中央側の補助シート付補強電解質前駆膜14fBSは、スリット端離間部132の他方の離間ローラ132bを介して搬送され、補助シート付補強電解質前駆膜巻き取り部RI2Bbで巻き取られる。
【0045】
以上のように、工程部2Ba,2Bbでは、電解質前駆膜11fの両面に多孔質補強膜12が接合わされた補強電解質前駆膜14fが作製されるとともに、補強電解質前駆膜14fの両面が、補助シートBSの端部の粘着領域BSaで補助シートBSに貼り合わされて、補助シート付補強電解質前駆膜14fBSが作製される。
【0046】
ステップS30Bでは、図7に示す工程部3Bにより、補助シート付補強電解質前駆膜から補助シートを剥離するとともに、耐熱性の保護シートを重ね合わせた後、多孔質補強膜中に電解質前駆膜を構成する電解質前駆体を溶融・含浸させて、電解質前駆膜と多孔質補強膜とが一体化された多層構造の複合膜を作製する。図7は、図5におけるステップS30Bを実行する工程部3Bを示す模式図である。
【0047】
工程部3Bは、工程部2Ba,2Bbにおいて作製された補助シート付補強電解質前駆膜14fBSから、電解質前駆膜と多孔質補強膜とが一体化された多層構造の複合膜を作製するように対応させたものである。具体的には、図4に示した工程部3の補助シート剥離部310および溶融含浸部320を、補助シート剥離部310Bおよび溶融含浸部320Bに置き換えたものである。
【0048】
補助シート剥離部310Bは、工程部3の補助シート剥離部310(図4)と同様に、スリット形成部311と、スリット端離間部312と、補助シート剥離部313Bと、を備えている。補助シート付補強電解質膜巻き出し部RO3Bから補助シート剥離部310Bへ送り込まれた補助シート付補強電解質前駆膜14fBSには、スリット形成部311によって、補助シートBSおよび補強電解質前駆膜14fの非接着部分14fBSmと接着部分14fBSgとを切り離すようにスリットが入れられる。なお、補助シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO3Bには、ロール状に巻かれた補助シート付補強電解質前駆膜14fBSのロールがセットされており、補助シート付補強電解質前駆膜14fBSは、補助シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO3Bから巻き出されることにより補助シート剥離部310Bに送り込まれる。
【0049】
スリットが入れられた補助シート付補強電解質前駆膜14fBSの接着部分14fBSgと非接着部分14fBSmとは、スリット端離間部312を介して離間され、接着部分14fBSgは接着部巻き取り部RI3Bgで巻き取られ、非接着部分14fBSmは補助シート剥離部313Bへ搬送される。なお、以下では、補助シート付補強電解質前駆膜14fBSの非接着部分14fBSmを、「補助シート付補強電解質前駆膜14fBSm」とも呼ぶ。
【0050】
補助シート剥離部313Bは、工程部3の補助シート剥離部313(図4)と同様の剥離ローラ313a,313bに剥離ローラ313cが追加され、剥離ローラ313a,313cによる剥離ローラ対と剥離ローラ313a,313bによる剥離ローラ対で構成されている。補助シート付補強電解質前駆膜14fBSmは、剥離ローラ313a,313cによる剥離ローラ対のニップ部313mで挟みこまれるように搬送され、さらに、剥離ローラ313aに沿って、剥離ローラ313a,313bによる剥離ローラ対のニップ部313nで挟みこまれるように搬送される。このとき、剥離ローラ313aに接する補助シートBSは、剥離ローラ313aに沿って搬送されることにより、補強電解質前駆膜14fから剥離され、ガイドローラRGを介して剥離補助シート巻き取り部RBSc1へ搬送されて巻き取られる。また、剥離ローラ313cに接する補助シートBSも、剥離ローラ313cに沿って搬送されることにより、補強電解質前駆膜14fから剥離され、ガイドローラRGを介して剥離補助シート巻き取り部RBSc2へ搬送されて巻き取られる。両側の補助シートBSが剥離された補強電解質前駆膜14fは、溶融含浸部320Bへ送り込まれる。
【0051】
溶融含浸部320Bは、工程部3の溶融含浸部320と同様に、保護シート重ね合わせ部321と、溶融含浸実行部322と、を備えている。溶融含浸実行部322は、2つの溶融含浸ローラ322a,322bによる溶融含浸ローラ対で構成されている。保護シート重ね合わせ部321は、補助シート剥離部313を構成する2つの剥離ローラ313a,313bと、溶融含浸実行部322を構成する溶融含浸ローラ322aと、で構成されている。なお、以下の説明において、これらのローラ313a,313b,322aを「重ね合わせローラ」とも呼ぶ。
【0052】
保護シート重ね合わせ部321の2つの重ね合わせローラ313a,313bによる重ね合わせローラ対のニップ部313nには、保護シートCSが、補強電解質前駆膜14fに重ね合わされ、かつ、重ね合わせローラ313bに接して挟み込まれるように、第1の保護シート巻き出し部RCS1からガイドローラRGを介して搬送される。これにより、補強電解質前駆膜14fの一方の面に保護シートCSが重ね合わされる。一方の面に保護シートCSが貼り合わされた補強電解質前駆膜14fは、重ね合わせローラ313bに沿って、重ね合わせ部321の2つの重ね合わせローラ313b,322aによる重ね合わせローラ対のニップ部321nで挟み込まれるように搬送される。また、ニップ部321nには、保護シートCSが重ね合わされていない補強電解質前駆膜14fの他の面に重ね合わされて挟み込まれるように、第2の保護シート巻き出し部RCS2からガイドローラRGを介して保護シートCSが搬送される。これにより、補強電解質前駆膜14fの他方の面にも保護シートCSが重ね合わされる。
【0053】
補強電解質前駆膜14fの両面に保護シートCSが重ね合わされた補強電解質前駆膜14fCSは、保護シート重ね合わせ部321の重ね合わせローラとして機能していた溶融含浸ローラ322aに沿って2つの溶融含浸ローラ322a,322bによる溶融含浸ローラ対のニップ部322nで挟みこまれるように搬送され、さらに、溶融含浸ローラ322bに沿って搬送される。このとき、電解質前駆膜11fを構成する電解質前駆体11fmが溶融し、電解質前駆膜11fの両面に接合わされた多孔質補強膜12に含浸される。これにより、多孔質補強膜12と電解質前駆膜11fとが一体化された多層構造の補強電解質前駆膜10faが形成され、補強電解質前駆膜10faの両面に保護シートCSが重ね合わされた保護シート付補強電解質前駆膜10faCSが作製される。作製された保護シート付補強電解質前駆膜10faCSは、ガイドローラRGを介して補強電解質前駆膜巻き取り部RI3Bに搬送されて巻き取られる。
【0054】
以上のように、工程部3Bでは、電解質前駆膜11fの両面に接合された多孔質補強膜12に電解質前駆膜11fの電解質電駆体11fmが溶融含浸されて一体化された多層構造の補強電解質前駆膜10faが作製される。
【0055】
本実施例においても、補助シート付補強電解質前駆膜14fBSから補助シートBSを剥離する際において、補助シートBSおよび補強電解質前駆膜14fの接着部分14fBSgと非接着部分14fBSmとを切り離している。そして、切り離された非接着部分14fBsmの両側の補助シートBSを剥離し、補助シートBSが剥離された非接着部分14fBSmの補強電解質前駆膜14fを利用している。この場合、非接着部分14fBSmの補助シートBSと補強電解質前駆膜14fとは粘着領域BSaを介して接着されていないので、補助シートBSを簡単に剥離することができ、従来技術で説明したような補助シートの剥離によるネックインの発生を抑制することができる。これにより、耐久性に優れた電解質膜として、多孔質補強材を包含する多層構造の電解質膜を作製することができる。
【0056】
図8は、工程部2Baおよび工程部2Bbの変形例としての工程部2Bvを示す模式図である。上記実施例では、工程部2Baの電解質前駆膜貼り合わせ部220(図2)において、電解質前駆膜11fの一方の面に補助シート付補強膜12BSを貼り合わせ、工程部2Bbの補強膜貼り合わせ部240(図6)において、電解質前駆膜11fの他方の面に補助シート付補強膜12BSを貼り合わせている。これに対して、変形例の工程部2Bvは、工程部2Baの電解質前駆膜成膜部210と、工程部2Baの電解質前駆膜貼り合わせ部220および工程部2Bbの補強膜貼り合わせ部240を一体化させた電解質前駆膜貼り合わせ部220Bvと、工程部2Bbの貼り合わせ端部切除部250と、で構成される。電解質前駆膜貼り合わせ部220Bvは、電解質前駆膜貼り合わせ部220の貼り合わせローラ221a,221bに、補強膜貼り合わせ部240の貼り合わせローラ241a,241bの機能を持たせ、ヒータ242に対応するヒータ223を設けている。これにより、電解質前駆膜貼り合わせ部220Bvは、補助シート付補強膜12BSのロールがセットされた補強膜巻き出し部RO2Bv1,RO2Bv2から送り込まれた補助シート付補強膜12BSが、貼り合わせローラ221a,221bに挟みこまれて、電解質前駆膜11fの両面に同時に貼り合わせられる。変形例の工程部2Bvによれば、実施例に比べて工程の簡略化が可能である。
【0057】
なお、図6〜図8に示した工程部では、説明上特に必要ではない、搬送張力調整機構(搬送張力発生機構,搬送張力監視機構,搬送張力分離機構等)や、ガイドローラ等の構成要素を省略して示しているが、実際には、これらの構成要素が適宜付加される。また、工程部2Bb(図6)および工程部2Bbv(図8)の貼り合わせ端部切除部250は、必ずしも必要ではなく、省略することができる。
【0058】
C.第3実施例:
図9は、本発明の第3実施例としての電解質膜の製造工程を示すフローチャートである。第3実施例の電解質膜の製造工程は、第2実施例のステップS20Bb(図5)をステップS20Cbに置き換え、これに応じてステップS30B(図5)をステップS30Cに置き換えて、電解質前駆膜の両面に多孔質補強膜を接合わさせて電解質膜を作製する別の例を示したものである。
【0059】
ステップS20Cbでは、図10に示す工程部2Cbにより、ステップS20Baで作製された補助シート付補強電解質前駆膜の多孔質補強膜が貼り合わされていない面に多孔質補強膜を貼り合わせる。図10は、図9におけるステップS20Cbを実行する工程部2Cbを示す模式図である。
【0060】
工程部2Cbは、延伸部260と、補強膜貼り合わせ部240Cと、貼り合わせ端部切除部250Cと、を備えている。延伸部260は、図1に示した工程部1における延伸部110と同様に多孔質補強膜12を作製し、補強膜貼り合わせ部240Cに送り出す。
【0061】
補強膜貼り合わせ部240Cは、図6に示した工程部2Bbの補強膜貼り合わせ部240と同様に、貼り合わせローラ241a,241bによる貼り合わせローラ対241と、ヒータ242と、を備えている。補助シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO2Cb2から送り込まれた補助シート付補強電解質前駆膜13fBSが、貼り合わせローラ対241の一方の貼り合わせローラ241aに沿って、ニップ部241nに挟み込まれるように搬送される。また、貼り合わせローラ対241には、延伸部260から送り込まれた多孔質補強膜12が、貼り合わせローラ対241のニップ部241nに挟み込まれるように搬送される。
【0062】
補助シート付補強電解質前駆膜13fBSおよび多孔質補強膜12は、貼り合わせローラ対241のニップ部241nに搬送される過程において、ヒータ242で所定の温度(例えば、90℃)で加熱され、補助シート付補強電解質前駆膜13fBSの電解質前駆膜11fと、多孔質補強膜12とが接するように重ね合わされて、貼り合わせローラ241a,241bで押さえられる。このとき、補強電解質前駆膜13fの多孔質補強膜12が接合されていない側の電解質前駆膜11fの面と多孔質補強膜12とが接合するように貼り合わされる。これにより、電解質前駆膜11fの両面に多孔質補強膜12が接合された補強電解質前駆膜14fの片面にのみ補助シートBSが貼り合わされた補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCrが作製される。そして、作製された補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCrは、貼り合わせ端部切除部250Cへ送り出される。
【0063】
貼り合わせ端部切除部250Cは、図6に示した工程部2Bbの貼り合わせ端部切除部250と同様に、スリット形成部251と、スリット端離間部252と、を備えている。貼り合わせ端部切除部250Cでは、スリット形成部251によって、補強膜貼り合わせ部240Cで作製された補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCrの補助シートBSおよび補強電解質前駆膜14fの接着部分の外側の端部を切り取るように搬送方向に沿ってスリットが入れられる。そして、スリット端離間部252によって、スリットが入れられた補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCrから、スリットよりも外側の端部14fBSCgが離間され、スリット端部巻き取り部RI2Cgで巻き取られる。また、残った中央側の補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCは、補助シート付補強電解質前駆膜巻き取り部RI2Cbで巻き取られる。
【0064】
以上のように、工程部2Ba,2Cbでは、電解質前駆膜11fの両面に多孔質補強膜12が接合された補強電解質前駆膜14fが作製されるとともに、補強電解質前駆膜14fの片面のみが、補助シートBSの端部の粘着領域BSaで補助シートBSに貼り合わされて、補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCが作製される。
【0065】
図9に示すステップ30Cでは、図11に示す工程部3Cにより、補助シート付補強電解質前駆膜から補助シートを剥離するとともに、耐熱性の保護シートを重ね合わせた後、多孔質補強膜中に電解質前駆膜を構成する電解質前駆体を溶融・含浸させて、電解質前駆膜と多孔質補強膜とが一体化された多層構造の複合膜を作製する。図11は、図9におけるステップS30Cを実行する工程部3Cを示す模式図である。
【0066】
工程部3Cは、工程部2Ba,2Cbにおいて作製された補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCから、電解質前駆膜と多孔質補強膜とが一体化された多層構造の複合膜を作製するように対応させたものである。具体的には、図7に示した工程部3Bの補助シート剥離部310Bおよび溶融含浸部320Bを、補助シート剥離部310Cおよび溶融含浸部320Cに置き換えたものである。
【0067】
補助シート剥離部310Cは、工程部3の補助シート剥離部310(図4)と同様に、スリット形成部311と、スリット端離間部312と、補助シート剥離部313と、を備えている。補助シート付補強電解質膜巻き出し部RO3Cから補助シート剥離部310Cへ送り込まれた補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCには、スリット形成部311によって、補助シートBSおよび補強電解質前駆膜14fの非接着部分14fBSCmと接着部分14fBSCgとを切り離すようにスリットが入れられる。なお、補助シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO3Cには、ロール状に巻かれた補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCのロールがセットされており、補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCは、補助シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO3Cから巻き出されることにより補助シート剥離部310Cに送り込まれる。
【0068】
スリットが入れられた補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCの接着部分14fBSCgと非接着部分14fBSCmとは、スリット端離間部312を介して離間され、接着部分14fBSCgは接着部巻き取り部RI3gCで巻き取られ、非接着部分14fBSCmは補助シート剥離部313へ搬送される。なお、以下では、補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCの非接着部分14fBSCmを、「補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCm」とも呼ぶ。
【0069】
補助シート剥離部313では、送り込まれた補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCmは、剥離ローラ313aに沿って、剥離ローラ対のニップ部313nで挟み込まれるように搬送される。このとき、ニップ部313nに挟み込まれた補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCmのうち補助シートBSは、剥離ローラ313aに沿って搬送されることにより、補強電解質前駆膜14fから剥離され、ガイドローラRGを介して剥離補助シート巻き取り部RBSc1へ搬送されて巻き取られる。一方、補助シートBSが剥離された補強電解質前駆膜14fは、溶融含浸部320Cへ送り込まれる。
【0070】
溶融含浸部320Cは、工程部3の溶融含浸部320と同様に、保護シート重ね合わせ部321と、溶融含浸実行部322と、を備えている。保護シート重ね合わせ部321では、保護シートCSが、補強電解質前駆膜14fの両面に重ね合わされる。溶融含浸実行部322では、電解質前駆膜11fを構成する電解質前駆体11fmが溶融され、電解質前駆膜11fの両面に接合された多孔質補強膜12に含浸される。これにより、多孔質補強膜12と電解質前駆膜11fとが一体化された多層構造の補強電解質前駆膜10faが形成され、補強電解質前駆膜10faの両面に保護シートCSが貼り合わされた保護シート付補強電解質前駆膜10faCSが作製される。作製された保護シート付補強電解質前駆膜10faCSは、ガイドローラRGを介して補強電解質前駆膜巻き取り部RI3Cに搬送されて巻き取られる。
【0071】
以上のように、工程部3Cでは、電解質前駆膜11fの両面に接合された多孔質補強膜12に電解質電駆体11fmが溶融含浸されて一体化された多層構造の補強電解質前駆膜10faが作製される。
【0072】
本実施例においても、補助シート付補強電解質前駆膜14fBSCから補助シートBSを剥離する際において、補助シートBSおよび補強電解質前駆膜14fの接着部分14fBSCgと非接着部分14fBSCmとを切り離している。そして、切り離された非接着部分14fBSCmの両側の補助シートBSを剥離し、補助シートBSが剥離された非接着部分14fBSCmの補強電解質前駆膜14fを利用している。この場合、非接着部分14fBSCmの補助シートBSと補強電解質前駆膜14fとは粘着領域BSaを介して接着されていないので、補助シートBSを簡単に剥離することができ、従来技術で説明したような補助シートの剥離によるネックインの発生を抑制することができる。これにより、耐久性に優れた電解質膜として、多孔質補強材を包含する多層構造の電解質膜を作製することができる。
【0073】
なお、図10,図11に示した工程部では、説明上特に必要ではない、搬送張力調整機構(搬送張力発生機構,搬送張力監視機構,搬送張力分離機構等)や、ガイドローラ等の構成要素を省略して示しているが、実際には、これらの構成要素が適宜付加される。また、工程部2Cb(図10)の貼り合わせ端部切除部250Cは、必ずしも必要ではなく、省略することができる。
【0074】
D.第4実施例:
図12は、本発明の第4実施例としての電解質膜の製造工程を示すフローチャートである。図13,14,15は、図12におけるステップS100,S200,S300の各工程を実行する工程部1D,2D,3Dを示す模式図である。
【0075】
まず、ステップS100では、図13に示す工程部1Dにより補助シートとして耐熱性の保護シートを用い、保護シートに多孔質補強膜を貼り合わせて保護シート付補強膜を準備する。
【0076】
工程部1Dは、図2に示した工程部1と同様に、延伸部110Dと、保護シート貼り合わせ部120Dと、貼り合わせ端部切除部130Dと、を備えている。延伸部110Dは延伸部110(図2)と同様に多孔質補強膜12を作製し、保護シート貼り合わせ部120Dに送り出す。
【0077】
保護シート貼り合わせ部120Dは、補助シート貼り合わせ部120(図2)と同様の貼り合わせローラ対121に加えて、ヒータ122を備えている。貼り合わせローラ対121には、延伸部110Dから保護シート貼り合わせ部120Dに送り込まれる帯状の多孔質補強膜12が、貼り合わせローラ対121のニップ部121nで挟み込まれるように搬送される。また、保護シート巻き出し部RO1Dから貼り合わせ部120に送り込まれた帯状の保護シートDSが、貼り合わせローラ対121の一方の貼り合わせローラ121aに沿って、ニップ部121nに挟み込まれるように搬送される。なお、保護シート巻き出し部RO1Dには、ロール状に巻かれた保護シートDSのロールがセットされており、保護シートDSは、保護シート巻き出し部RO1Dから巻き出されることにより保護シート貼り合わせ部120Dに送り込まれる。保護シートDSとしては、上記第1〜第4実施例において保護シートCSとして用いられた、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等の樹脂材料で構成されるフィルムシートのような高耐熱性シートが用いられる。
【0078】
ニップ部121nに挟み込まれるように搬送された多孔質補強膜12および保護シートDSは、ニップ部121nにおいて接するように重ね合わされるとともに、貼り合わせローラ121a,121bで押さえられることにより互いに貼り合わされる。これにより、保護シート付補強膜12DSrが作製される。そして、作製された保護シート付補強膜12DSrは、貼り合わせ端部切除部130Dへ送り出される。
【0079】
ここで、保護シートDSは、貼り合わせローラ121aに沿ってニップ部121nに搬送される過程において、搬送方向に垂直な幅方向の両端部領域(以下、「熱溶着領域」と呼ぶ)DSaのみが、ヒータ122によって溶融温度(例えば、250〜350℃程度)に加熱されて溶融されている。これにより、多孔質補強膜12は、保護シートDSに対して重ね合わされる全面で接着されるのではなく、保護シートDSの両端部に設けられた熱溶着領域DSaを介してのみ保護シートDSに接着される。
【0080】
貼り合わせ端部切除部130Dは、貼り合わせ端部切除部130(図2)と同様に、スリット形成部131と、スリット端離間部132と、を備えている。貼り合わせ端部切除部130と同様に、貼り合わせ端部切除部130Dでは、スリット形成部131によって、補助シート貼り合わせ部120Dで作製された保護シート付補強膜12DSrの熱溶着領域DSaで接着されている接着部分の外側の端部を切り取るように搬送方向に沿ってスリットが入れられる。そして、スリットが入れられた保護シート付補強膜12DSrから、スリットよりも外側の端部12DSgが、スリット端離間部132によって離間される。離間された外側の端部12DSgは、スリット端部巻き取り部RI1Dgで巻き取られる。また、残った中央側の保護シート付補強膜12DSは、保護シート付補強膜巻き取り部RI1Dで巻き取られる。
【0081】
以上のように、工程部1Dでは、多孔質補強膜12の端部が熱溶着領域DSaを介して保護シートDSに接着された保護シート付補強膜12DSが準備される。
【0082】
次に、図12のステップS200では、図14に示す工程部2Dにより、電解質前駆膜を製膜するとともに、電解質前駆膜の一方の面に、ステップS100の工程部1Dで作製した保護シート付補強膜を貼り合わせる。
【0083】
工程部2Dは、図3に示した工程部2と同様に、電解質前駆膜成膜部210Dと、電解質前駆膜貼り合わせ部220Dと、貼り合わせ端部切除部230Dと、を備えている。電解質前駆膜成膜部210Dは、電解質前駆膜成膜部210(図3)と同様に、ペースト押出機211と搬送ローラ212とドライヤ213とを備えている。電解質前駆膜成膜部210Dでは、電解質前駆膜成膜部210と同様に、ペースト押出機211から、ペースト状の電解質前駆体11fmを押し出して薄膜状に成形しつつ、ドライヤ213で乾燥させて電解質前駆膜11fを成膜し、搬送ローラ212で電解質前駆膜貼り合わせ部220Dへ送り出す。
【0084】
電解質前駆膜貼り合わせ部220Dは、電解質前駆膜貼り合わせ部220(図3)と同様に、貼り合わせローラ対221と、ヒータ222と、を備えている。電解質前駆膜貼り合わせ部220Dでは、電解質前駆膜貼り合わせ部220と同様に、貼り合わせローラ対221によって、電解質前駆膜成膜部210Dから送り込まれた電解質前駆膜11fと、補強膜巻き出し部RO2Dから送り込まれ、ヒータ222によって所定の温度(例えば、90℃)に加熱された保護シート付補強膜12DSと、が貼り合わせられて、保護シート付補強電解質前駆膜13fDSrが作製される。作製された保護シート付補強電解質前駆膜13fDSrは、貼り合わせ端部切除部230Dに送り出される。
【0085】
貼り合わせ端部切除部230Dは、貼り合わせ端部切除部230(図3)と同様に、スリット形成部231と、スリット端離間部232と、を備えている。貼り合わせ端部切除部230Dでは、貼り合わせ端部切除部230と同様に、スリット形成部231によって、電解質前駆膜貼り合わせ部220Dで作製された保護シート付補強電解質前駆膜13fDSrの熱溶着領域DSaで接着されている接着部分の外側の端部を切り取るように搬送方向に沿ってスリットが入れられる。そして、スリットが入れられた保護シート付補強電解質前駆膜13fDSrから、スリットよりも外側の端部13fDSgが、スリット端離間部232によって離間される。離間された外側の端部13fDSgは、スリット端部巻き取り部RI2DGで巻き取られる。また、残った中央側の保護シート付補強電解質前駆膜13fDSは、保護シート付補強電解質前駆膜巻き取り部RI2Dで巻き取られる。
【0086】
以上のように、工程部2Dでは、電解質前駆膜11fの一方の面に多孔質補強膜12が接合された補強電解質前駆膜13fが作製されるとともに、補強電解質前駆膜13fが保護シートDSの端部の熱溶着領域DSaで保護シートDSに貼り合わされて、保護シート付補強電解質前駆膜13fDSrが作製される。
【0087】
次に、図12のステップS300では、図15に示す工程3Dにより、多孔質補強膜に電解質前駆膜を構成する電解質前駆体を溶融・含浸させて、電解質前駆膜と多孔質補強膜とが一体化された多層構造の複合膜を作製するとともに、保護シートの熱溶着領域による接着部分を切除する。工程部3Dは、溶融含浸部320Dと、接着部切除部330Dと、を備えている。
【0088】
溶融含浸部320Dは、図4に示した工程部3の溶融含浸部320と同様に、保護シート重ね合わせ部321と、溶融含浸実行部322と、を備えている。溶融含浸実行部322は、2つの溶融含浸ローラ322a,322bによる溶融含浸ローラ対で構成されている。保護シート重ね合わせ部321は、重ね合わせローラ313a,313bによる重ね合わせローラ対で構成されている。
【0089】
保護シート重ね合わせ部321の2つの重ね合わせローラ313a,313bによる重ね合わせローラ対のニップ部313nには、保護シートDSが、保護シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO3Dから送り込まれた保護シート付補強電解質前駆膜13fDSの保護シートDSが重ね合わされていない面に重ね合わされて挟み込まれるように、保護シート巻き出し部RDSからガイドローラRGを介して送り込まれる。これにより、保護シートDSが重ね合わされていない補強電解質前駆膜13fの面にも保護シートDSが重ね合わされて、補強電解質前駆膜13fの両面に保護シートDSが重ね合わされた保護シート付補強電解質前駆膜13fDSrが作製される。なお、保護シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO3Dには、ロール状に巻かれた保護シート付補強電解質前駆膜13fDSのロールがセットされており、保護シート付補強電解質前駆膜13fDSは、保護シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO3Dから巻き出されることにより保護シート重ね合わせ部321に送り込まれる。
【0090】
作製された保護シート付補強電解質前駆膜13fDSrは溶融含浸実行部322の溶融含浸ローラ322aに沿って2つの溶融含浸ローラ322a,322bによる溶融含浸ローラ対のニップ部322nで挟みこまれるように搬送され、さらに、溶融含浸ローラ322bに沿って搬送される。溶融含浸ローラ322a,322bは、電解質前駆膜11fを構成する電解質前駆体11fmが溶融する温度、例えば、170〜230℃程度の温度で加熱される。そして、ニップ部322nにおいて挟み込まれることにより加圧される。これにより、電解質前駆膜11fを構成する電解質前駆体11fmが溶融し、多孔質補強膜12に含浸され、多孔質補強膜12と電解質前駆膜11fとが一体化された多層構造の補強電解質前駆膜10fが形成され、保護シートDSが重ね合わされた保護シート付補強電解質前駆膜10fDSrが作製される。作製された保護シート付補強電解質前駆膜10fDSrは、接着部切除部330Dへ送り出される。
【0091】
接着部切除部330Dは、スリット形成部331と、スリット端離間部332と、を備えている。スリット形成部331は、図2に示した工程部1のスリット形成部131と同様に、2つの丸刃ローラ331a、331bによるローラ対で構成される。スリット端離間部332は、1つの離間ローラで構成される。図2に示した工程部1のスリット端離間部132と同様に2つの離間ローラによるローラ対としてもよい。
【0092】
スリット形成部331では、保護シート付補強電解質前駆膜10fDSrに対して、保護シートDSと補強電解質前駆膜10fとの熱溶着による接着部分10fDSgと非接着部分10fDSmとを切り離すようにスリットが入れられる。スリットが入れられた保護シート付補強電解質前駆膜10fDSrの接着部分10fDSgと非接着部分10fDSmとは、スリット端離間部332を介して離間され、接着部分10fDSgは接着部巻き取り部RI3Dgに巻き取られ、非接着部分10fBSmは保護シート付補強電解質前駆膜10fDSとして補強電解質前駆膜巻き取り部RI3Dに巻き取られる。
【0093】
以上のように、工程部3Dでは、電解質前駆膜11fの片面に接合された多孔質補強膜12に電解質前駆膜11fの電解質電駆体11fmが溶融含浸されて一体化された多層構造の補強電解質前駆膜10fが作製される。
【0094】
最後に、図12のステップ400では、図1のステップS10と同様に、補強電解質前駆膜10fに対して加水分解処理を行い、電解質前駆体を、プロトン伝導性を有する電解質とすることにより、多孔質補強材を包含する多層構造の電解質膜を作製する。
【0095】
本実施例においては、補助シートとしての保護シートDSに貼り合わされた多孔質補強膜12を電解質前駆膜11fに貼り合わせて用いているので、溶融含浸前に補助シートを剥離する工程を省略することができる。また、作製された保護シート付補強電解質前駆膜10fDSにおいて、熱溶着による補強電解質前駆膜10fと保護シートDSとの熱溶着による接着部分が切除されているので、保護シートDSを剥離する際において、従来技術で説明したようなネックインの発生を抑制することができる。これにより、耐久性に優れた電解質膜として、多孔質補強材を包含する多層構造の電解質膜を作製することができる。
【0096】
E.第5実施例:
図16は、本発明の第5実施例としての電解質膜の製造工程を示すフローチャートである。第5実施例の電解質膜の製造工程は、第4実施例のステップS200(図12)がステップS200Ea,S200Ebを置き換え、これに応じてステップS300(図12)をステップS300Eに置き換えて、補助シートとして保護シートを用い、電解質前駆膜の両面に多孔質補強膜を接合させて電解質膜を作製する例を示したものである。
【0097】
ステップS200Eaでは、工程部2Eaにより、電解質前駆膜を製膜するとともに、電解質前駆膜の一方の面に、ステップS100の工程部1Dで作製した保護シート付補強膜を貼り合わせる。この工程部2Eaは、図14に示した工程部2Dと同じであるので図示および説明を省略する。そして、ステップS200Ebでは、工程部2Ebにより、電解質前駆膜の多孔質補強膜がまだ貼り合わされていないもう一方の面に、さらに、保護シート付補強膜を貼り合わせる。この工程部2Ebは、図6に示した第2実施例の工程部2Bbにおいて電解質前駆膜に貼り合わせる補助シート付補強膜12BSに換えて保護シート付補強膜12DSを用いた場合と同じであるので、図示および説明を省略する。工程部2Ea,2Ebにより、電解質前駆膜11fの両面に多孔質補強膜12が接合された補強電解質前駆膜14fが作製されるとともに、補強電解質前駆膜14fの両面が、保護シートDSの端部の熱溶着領域DSaで保護シートDSに貼り合わされて、保護シート付補強電解質前駆膜14fDSが作製される。
【0098】
図16に示すステップ300Eでは、図17に示す工程部3Eにより、多孔質補強膜に電解質前駆膜を構成する電解質前駆体を溶融・含浸させて、電解質前駆膜と多孔質補強膜とが一体化された多層構造の複合膜を作製するとともに、保護シートの熱溶着領域による接着部分を切除する。図17は、図16におけるステップS300Eを実行する工程部3Eを示す模式図である。
【0099】
工程部3Eは、溶融含浸部320Eと、接着部切除部330Eと、を備えている。溶融含浸部320Eは、図15に示した工程部3Dの溶融含浸部320Dの保護シート重ね合わせ部321を省略し、溶融含浸実行部322を有する構成とされている。溶融含浸実行部322には、保護シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO3Eから巻き出された保護シート付補強電解質前駆膜14fDSが送り込まれる。なお、保護シート付補強電解質前駆膜巻き出し部RO3Eには、工程部2Ea,2Ebによって作製され、ロール状に巻かれた保護シート付補強電解質前駆膜14fDSのロールがセットされている。
【0100】
溶融含浸実行部322では、電解質前駆膜11fの両面に多孔質補強膜12が接合された補強電解質前駆膜14fの多孔質補強膜12に、電解質前駆膜11fの電解質電駆体11fmが溶融含浸されて一体化された多層構造の補強電解質前駆膜10faが形成され、補強電解質前駆膜10faの両面に保護シートDSが貼り合わされた保護シート付補強電解質前駆膜10faDSrが作製される。作製された保護シート付補強電解質前駆膜10faDSrは、接着部切除部330Eへ送り出される。
【0101】
接着部切除部330Eは、図15に示した接着部切除部330Dと同様に、スリット形成部331と、スリット端離間部332と、を備えている。スリット形成部331では、保護シート付補強電解質前駆膜10faDSrに対して、保護シートDSと補強電解質前駆膜10faとの熱溶着による接着部分10faDSgと非接着部分10faDSmとを切り離すようにスリットが入れられる。スリットが入れられた保護シート付補強電解質前駆膜10faDSrの接着部分10faDSgと非接着部分10faDSmとは、スリット端離間部332で離間され、接着部分10faDSgは接着部巻き取り部RI3Egに巻き取られ、非接着部分10faBSmは保護シート付補強電解質前駆膜10faDSとして補強電解質前駆膜巻き取り部RI3Eに巻き取られる。
【0102】
以上のように、工程部3Eでは、電解質前駆膜11fの両面に接合された多孔質補強膜12に電解質前駆膜11fの電解質電駆体11fmが溶融含浸されて一体化された多層構造の補強電解質前駆膜10faが作製されるとともに、保護シートDSと補強電解質前駆膜10faとの熱溶着による接着部分10faDSgが切り取られて、補強電解質前駆膜10faの両面に保護シートDSが重ね合わされた保護シート付補強電解質前駆膜10faDSが作製される。
【0103】
本実施例においても、補助シートとしての保護シートDSに貼り合わされた多孔質補強膜12を電解質前駆膜11fの両面に貼り合わせており、溶融含浸前に補助シートを剥離する工程を省略することができる。また、作製された保護シート付補強電解質前駆膜10faDSにおいて、熱溶着による補強電解質前駆膜10faと保護シートDSとの接着部分10ふぁDSgが切除されているので、保護シートDSを剥離する際において、従来技術で説明したようなネックインの発生を抑制することができる。これにより、耐久性に優れた電解質膜として、多孔質補強材を包含する多層構造の電解質膜を作製することができる。
【0104】
なお、本実施例では、保護シートDSに貼り合わされた多孔質補強膜12を電解質前駆膜11fの両面に貼り合わせて、電解質前駆膜11fの両面に多孔質補強膜12を接合させて補強電解質前駆膜14fを作製する場合を例に示しているが、第3実施例(図10)と同様に、片方の電解質前駆膜11fの面には、延伸部で作製された多孔質補強膜12のみを貼り合わせて接合することにより、補強電解質前駆膜14fを作製するようにしてもよい。そして、貼り合わせた多孔質補強膜12には、第4実施例の工程部3D(図15)と同様の工程部を用いて、保護シートDSを重ね合わせた後に、溶融含浸を実行するようにしてもよい。
【0105】
F.変形例:
なお、上記実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0106】
上記実施例では、補助シートの搬送方向に垂直な幅方向の両端部分が搬送方向に沿って接着部分となっている場合を例に説明しているが、両端部だけでなく、中間部分にも1以上の接着部分が設けられ、補助シートを剥離する前に、接着部分を切除するようにしてもよい。また、両端部ではなく、いずれか一方の端部分、あるいは、中間部分に1以上の接着部分が設けられているようにしてもよい。すなわち、補助シートと接着されている接着部分と接着されていない非接着部分が設けられており、接着部分を切除するようにすればよい。
【0107】
上記実施例では、電解質膜の製造工程を例に説明しているが、これに限定されるものではなく、多層構造の複合膜を作製するような種々の薄膜の製造に適用可能である。
【符号の説明】
【0108】
110…延伸部
120…補助シート貼り合わせ部
121…貼り合わせローラ対
121a,121b…貼り合わせローラ
121n…ニップ部
130…貼り合わせ端部切除部
131…スリット形成部131
131a,131b…丸刃ローラ
131n…ニップ部
132…スリット端離間部
132a,132b…離間ローラ
132n…ニップ部
RO1…補助シート巻き出し部
RI1…補助シート付補強膜巻き取り部
RI1g…スリット端部巻き取り部
12…多孔質補強膜
BS…補助シート
BSa…粘着領域
DS…保護シート
DSa…粘着領域
12BS,12BSr…補助シート付補強膜
210,210D…電解質前駆膜成膜部
211…ペースト押出機
212…搬送ローラ
213…ドライヤ
220,220D,220Bv…電解質前駆膜貼り合わせ部
221…貼り合わせローラ対
221a、221b…貼り合せローラ
221n…ニップ部
222…ヒータ
223…ヒータ
230,230D…貼り合わせ端部切除部
231…スリット形成部
232…スリット端離間部
11f…電解質前駆膜
11fm…電解質前駆体
13f…補強電解質前駆膜
13fBS,13fBSr…補助シート付補強電解質前駆膜
RO2…補強膜巻き出し部
RI2…補助シート付補強電解質前駆膜巻き取り部
RI2g…スリット端部巻き取り部
240,240C…補強膜貼り合わせ部
241…貼り合わせローラ対
241a,241b…貼り合わせローラ
241n…ニップ部
242…ヒータ
250,250C…貼り合わせ端部切除部
251…スリット形成部
251a,251b…丸刃ローラ
252…スリット端離間部
252a、252b…離間ローラ
260…延伸部
RO2Bb1,…補強膜巻き出し部
RO2Bv1,RO2Bv2…補強膜巻き出し部
RO2Bb2…補助シート付補強電解質前駆膜巻き出し部
RO2Cb2…補助シート付補強電解質前駆膜巻き出し部
RI2Bb,RI2Cb…補助シート付補強電解質前駆膜巻き取り部
RI2Bv…補助シート付補強電解質前駆膜巻き取り部
RI2Bg,RI2Cg…スリット端部巻き取り部
RO2D…保護シート付補強電解質前駆膜巻き出し部
RI2D…保護シート付補強電解質前駆膜巻き取り部
14f,14fa…補強電解質前駆膜
14fBS,14fBSr…補助シート付補強電解質前駆膜
310,310B,310C…補助シート剥離部
311…スリット形成部
312…スリット端離間部
313,313B…補助シート剥離部
313a,313b,313c…剥離ローラ(重ね合わせローラ)
313m…ニップ部
313n…ニップ部
320,320B,320C,320D,320E…溶融含浸部
321…保護シート重ね合わせ部
322…溶融含浸実行部
322a…溶融含浸ローラ(重ね合わせローラ)
322b…溶融含浸ローラ
322n…ニップ部
330D,330E…接着部切除部
331…スリット形成部
331a,331b…丸刃ローラ
332…スリット端離間部
RO3,RO3B,RO3C…補助シート付補強電解質前駆膜巻き出し部
RO3D,RO3E…保護シート付補強電解質前駆膜巻き出し部
RBSc…剥離補助シート巻き取り部
RBSc1、RBSc2…剥離補助シート巻き取り部
RCS1,RCS2…保護シート巻き出し部
RI3,RI3B,RI3C,RI3D,RI3E…補強電解質前駆膜巻き取り部
RI3g,RI3Bg,RI3Cg…接着部巻き取り部
14fBSg…接着部分
14fBSm…非接着部分
14fCS,14faCS…補強電解質前駆膜
10f,10fa…補強電解質前駆膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の製造方法であって、
補助シート上に電解質膜用部材が貼り合わされた補助シート付電解質膜用部材から、前記補助シートと前記電解質膜用部材とが接着されている接着部分を切除することにより、前記補助シートと前記電解質膜用部材とが接着されていない非接着部分の前記補助シートと前記電解質膜用部材とを分離する工程を含む、電解質膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電解質膜の製造方法であって、
前記接着部分は前記補助シート付電解質膜用部材の幅方向の端部である、電解質膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電解質膜の製造方法であって、
前記接着部分は、前記補助シートの前記接着部分に対応する領域が熱溶融されて前記補助シートと前記電解質膜用部材とが接着されることにより形成されている、電解質膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の電解質膜の製造方法であって、さらに、
第1の電解質膜用部材と、前記接着部分に対応する領域で前記補助シートに貼り合わされた第2の電解質膜用部材と、を接合して、前記補助シート付電解質膜用部材を作製する工程を含む、電解質膜の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電解質膜の製造方法であって、さらに、
前記第2の電解質膜用部材を前記接着部分に対応する領域で前記補助シートに貼り合わせる工程を含む、電解質膜の製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の電解質膜の製造方法であって、
前記第1の電解質膜用部材はプロトン伝導性が付与される前段階である電解質ポリマー前駆体で形成された電解質ポリマー前駆膜であり、前記第2の電電解質膜用部材は細孔を有する多孔質補強膜である、電解質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−114887(P2013−114887A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259783(P2011−259783)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】