説明

電解鉛−ビスマス合金からアノードスライムを洗浄する方法

(1)アノードスライムの前処理と、(2)アノードスライムの第1浸漬処理と、(3)アノードスライムの第2浸漬処理とより成ることを特徴とする原料として電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムを用いて高濃度鉛弗化珪酸溶液を得る電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムの洗浄方法。多量の鉛イオンと弗化珪酸アニオンを含む浸漬液を得るため電解鉛−ビスマス合金からアノードスライムを洗浄する方法。浸漬処理液の上澄液を電解鉛−ビスマス合金の電解液循環システムに直接加え、鉛イオンと弗化珪酸アニオンの利用率を高め、ビスマスと銀を溶錬するための環境を改良し、鉛とビスマス及び銀の溶錬のための生産コストを減少する方法。電解鉛−ビスマス合金のための方法を最適として、電解鉛−ビスマス合金内のリーン鉛の問題を解決する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解鉛−ビスマス合金からアノードスライムを洗浄する方法、特に、金属イオンを回収するため電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムを処理するための方法に関するものである。
【0002】
この明細書に示す“鉛−ビスマス合金”は、主成分として鉛とビスマスを有する、一般に金属として特徴づけられる火力溶錬(fire smelting)で作られる物質を指す。
【0003】
同じく“上澄液(supernatant Liquor)”は、第1または第2浸漬液(1次浸漬(soaking)液または2次浸漬液)からの浄化液である。
【0004】
また“沈澱鉛(precipitated lead)”はカソードに沈着した電解鉛−ビスマス合金内の物質を指す。
【0005】
“リーン鉛(lean lead)”は、鉛イオンが電解鉛−ビスマス合金の循環システム内で正常な電気分解を維持するために望まれる50g/lの最小値以下であるものを示す。
【背景技術】
【0006】
鉛−ビスマス合金の電気分解においては、電解槽の底部にアノードスライムのようなアノードの不溶成分が堆積する。アノードを交換する時、アノードスライムが電解槽から再生利用される。電気分解においては、比較的負の電位を有する卑金属は溶液に溶けるが、貴金属、希少金属(例えば、セレニウム、テルルウム、ビスマス等)、不溶性のアノードスライムを形成するアノード粉末等は溶けない。アノードスライムの組成と収量は主としてアノードの構成、インゴットの質及び電解液の状態に関連する。
【0007】
アノードスライムの収量は一般に0.2〜1%、主成分は、Cuが10〜35%、Agが1〜28%、Auが0.1〜0.5%、Seが2〜23%、Teが0.5〜8%、Sが2〜10%、Pbが1〜25%、Niが0.1〜15%、Sbが0.1〜10%、Asが0.1〜5%、Biが0.1〜1%、プラチナ系金属が微量、H2Oが25〜40%である。プラチナグループ金属、金、多くの銅及び少量の銀は金属の状態で存在するが、セレニウム、テルルウム、多くの銀、及び少量の銅と金は、Ag2Se、Ag2Te、CuAgSe、Au2Te、及びCu2Se のような金属セレン化物及びテルル化物として存在し、少量の銀と銅はAgCl、Cu2 S 及びCu2 Oとして存在する。残りの金属は、主として酸化物、錯酸化物、または砒酸塩やアンチモン酸塩として存在する。
【0008】
アノードスライムの処理には主として火力及び湿式の2つの方法がある。その火力方法では、高温で鉛アノードスライムを焼成し次いでの電解処理することを含む。湿式方法では、溶液の抽出と分離を含む。
【0009】
高鉛−ビスマス−銀合金の電気分解処理においては、アノードスライムの厚さが急速に増加し、リッチ鉛(rich lead)とリーン鉛の重大な問題がアノードのアノードスライムの内側及び外側に夫々生じ、鉛イオンの減少、セル電圧の上昇及び不純物の沈澱等の問題も加わり、これらは総べて電気分解の正常な操作と産物の質に影響を及ぼす。従って電気分解における「リーン鉛」の問題を除くため鉛イオンの量を増加するよう電解システムに対して多量のイエロー鉛(yellow lead)を加える必要がある。アノードスライムの溶錬により、アノードスライムの内側のリッチ鉛がビスマス−銀溶錬区域に移動し、銀溶錬区域の酸化精製サイクルを大きく延ばし、初期スラグの量が増加する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の欠点を除くようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、多量の鉛と弗化珪酸イオンを得るため電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムを洗出し、電解鉛−ビスマス合金内の「リーン鉛」の問題を解決するための方法を得るにある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明においては、(1)アノードスライムの前処理と、(2)アノードスライムの第1浸漬処理と、(3)アノードスライムの第2浸漬処理と、より成る、高濃度の鉛弗化珪酸溶液を得るため原料として電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムを用いた電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムの洗出方法を特徴とする。
【0013】
上記アノードスライムの前処理においては、アノードスライムを空気にさらす前に残存アノード板からアノードスライムを分離せしめ、粉末状のアノードスライムとする。
【0014】
上記アノードスライムの前処理工程においては、例えば、鉄バーによってアノード板上のアノードスライムを砕き、砕かれたアノードスライムを長い柄のシャベルによって取り出し、シート状のアノードスライムをたたき、粉々にする。
【0015】
上記アノードスライムの第1浸漬処理においては、浸漬剤(immersing agent)は浄水または上記第2浸漬液の上澄液である。上記アノードスライムの液浸工程においては、液浸温度が30〜50℃であり、液洗剤の量が湿ったアノードスライム1トン当り0.2〜0.4m3 である。1〜2時間、撹拌及び浸漬後第1浸漬処理したアノードスライムを浸漬プール内に残す。第1浸漬液を電解鉛−ビスマス合金の循環電解液に直接加え、第1セッティングまたは不純物を、第1浸漬処理したアノードスライムを含む浸漬プールに戻し、上記第2浸漬処理のために用意せしめる。上記アノードスライムの液浸工程においては、好ましくは液浸温度が45℃であり、液洗剤の量が湿ったアノードスライム1トン当り0.2〜0.25m3 である。撹拌と浸漬処理は1.5時間行なう。
【0016】
アノードスライムの第2浸漬処理においては、上記浸漬剤はpHが3〜5の弗化珪酸の稀釈溶液である。アノードスライムの浸漬処理においては液浸温度が30〜50℃であり、用いられた浸漬剤の量が湿ったアノードスライムの1トン当り0.2〜0.4m3 である。0.5〜2時間浸漬後第2浸漬液を鉛−ビスマス合金の循環電解液に直接加え得るか、または、第1浸漬工程のための浸漬剤として用い得る。上記第2浸漬処理したアノードスライムと第2セッティングまたは沈殿物を12時間空気にさらし、次いでビスマス−銀溶錬区域に移す。
【0017】
アノードスライムの浸漬処理においては、上記浸漬剤はpHが4の弗化珪酸の稀釈溶液であり、浸漬温度が45℃であり、用いられた浸漬剤の量が湿ったアノードスライムの1トン当り0.2〜0.25m3 であるのが好ましい。上記撹拌と浸漬処理は1時間行なう。
【0018】
上記アノードスライムの第1及び第2浸漬処理は異なる浸漬プール内で行なうことができる。好ましくは上記浸漬処理は同一浸漬プール内で行なう。
【0019】
本発明においては、電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムを原料として用いる。アノードスライムはたたき、砕いて粉状アノードスライムとする。第2浸漬処理により多量の鉛イオンと弗化珪酸アニオンが得られる。多量のイオンを含有する第1浸漬処理における上澄液と、第2浸漬処理における上澄液の一部を電解鉛−ビスマス合金の循環電解液に対し加えることによって鉛イオンと弗化珪酸アニオンの利用率が増加し、ビスマス−銀の溶錬条件が改良され、鉛、ビスマス及び銀の溶錬のための生産コストが減少する。本発明においては処理の条件が最適となり、“リーン鉛”の現象が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムの洗浄方法を示すフロー線図である。
【図2】電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムを洗浄するための本発明方法のアノードスライムの前処理を示すフロー線図である。
【図3】本発明の電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムを洗浄するための本発明方法を示すアノードスライムの第1浸漬処理のフロー線図である。
【図4】電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムを洗浄するための本発明方法を示すアノードスライムの第2浸漬処理を示すフロー線図である。
【実施例1】
【0021】
図1に示すように、本発明は電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムを原料として用いる、電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムを洗浄する方法であり、以下の工程を有する。
【0022】
1.アノードスライムの前処理
【0023】
電解サイクルの72〜96回後、沈降鉛を有するアノードスライムとアノード板を作る。アノード板を移動クレーンによって電解槽から取り出し、積重し、乾燥し、電解槽の残液10を再循環し、浄化し、次いで電解槽に戻す。アノード板上のアノードスライムを鉄バーによって砕き、長い柄のシャベルによってアノードスライムをすくい、たたき、砕いて、粉末状のアノードスライム12とする。完全に処理された後の残存アノード板11を溶錬のためのアノードポット内に戻す。
【0024】
2.アノードスライムの第1浸漬処理
【0025】
浸漬剤、即ち、浄水20または第2浸漬液の上澄液34を、粉末状アノードスライム12を含む浸漬プール内に注入する。浸漬プール内の温度は30〜50℃、用いられた浸漬剤の量は湿ったアノードスライム1トン当り0.2〜0.4m3 とする。1〜2時間攪拌し、浸漬した後、第1浸漬処理したアノードスライム21を浸漬プールに入れる。第1浸漬液22を浄化のため貯蔵タンクに入れる。第1浸漬の上澄液24を分離し、第1浸漬液の上澄液24を循環電解液内に入れまたは貯蔵する。第2の浸漬処理のために用意するため上記第1浸漬処理したアノードスライム21を含む浸漬プール内に第1セッティングまたは沈殿物23を戻す。
【0026】
3.アノードスライムの第2浸漬処理
【0027】
pH3〜5の弗化珪酸の稀釈溶液30を、第1浸漬処理したアノードスライム21及び第1セッティング23を含む浸漬プールに加える。
【0028】
浸漬プール内の温度は30〜50℃、用いられた浸漬剤の量は湿ったアノードスライム1トン当り0.2〜0.4m3 とする。0.5〜2時間浸漬した後、第2浸漬液32を浄化のため貯蔵タンクに入れる。第2浸漬液の上澄液34を分離し、第2浸漬液の上澄液34を循環電解液のための補助液として用いるか、または、次回で用いる第1浸漬剤として用いる。上記第2浸漬処理したアノードスライム31と第2セッティングまたは沈殿物33を12時間空気にさらし、次いでビスマス−銀溶錬区域に移す。
【実施例2】
【0029】
図1に示すように、本発明は電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムを原料として用いる、電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムを洗浄する方法であり、以下の工程を有する。
【0030】
1.アノードスライムの前処理
【0031】
電解サイクルの72〜96回後、沈降鉛を有するアノードスライムとアノード板を作る。アノード板を移動クレーンによって電解槽から取り出し、積重し、乾燥し、電解槽の残液10を再循環し、浄化し、次いで電解槽に戻す。アノード板上のアノードスライムを鉄バーによって砕き、長い柄のシャベルによってアノードスライムをすくい、たたき、砕いて、粉末状アノードスライム12とする。完全に処理された後の残存アノード板11を溶錬のためのアノードポット内に戻す。
【0032】
2.アノードスライムの第1浸漬処理
【0033】
浸漬剤、即ち、浄水20または第2浸漬液の上澄液34を、粉末状アノードスライム12を含む浸漬プール内に注入し、浸漬プール内の温度は45℃、用いられた浸漬剤の量は湿ったアノードスライム1トン当り0.2〜0.25m3 とする。1.5時間攪拌し、浸漬した後、第1浸漬処理したアノードスライム21を浸漬プールに入れる。第1浸漬液22を浄化のため貯蔵タンクに入れる。第1浸漬の上澄液24を分離し、第1浸漬液の上澄液24を循環電解液内に入れまたは貯蔵する。第2の浸漬処理のために用意するため上記第1浸漬処理したアノードスライム21を含む浸漬プール内に第1セッティング23を戻す。
【0034】
3.アノードスライムの第2浸漬処理
【0035】
pH4の弗化珪酸の稀釈溶液30を、第1セッティング23と第1浸漬処理したアノードスライム21を含む浸漬プールに加える。浸漬プール内の温度は45℃、用いられた浸漬剤の量は湿ったアノードスライム1トン当り0.2〜0.25m3 とする。好ましくは1時間浸漬した後、第2浸漬液32を貯蔵タンクに入れ浄化する。第2浸漬液の上澄液34を分離し、第2浸漬液の上澄液34を循環電解液のための補助液として用いるか、または、次回で用いる第1浸漬剤として用いる。上記第2浸漬処理したアノードスライム31と第2セッティング33を12時間空気にさらし、次いでビスマス−銀溶錬区域に移す。
【0036】
表1のデータは、電解ビスマス合金内のアノードスライムを本発明方法によって洗浄した場合と、洗浄しない場合の効果を示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表2のデータは、本発明方法における浸漬液を循環電解液の補助液として用いた場合の浸漬液の組成を示す。
【0039】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)アノードスライムの前処理と、
(2)アノードスライムの第1浸漬処理と、
(3)アノードスライムの第2浸漬処理と
より成ることを特徴とする高濃度の鉛弗化珪酸溶液を得るため原料として電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムを用いる電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムの洗浄方法。
【請求項2】
アノードスライムを粉末状とするため上記アノードスライムの前処理において、アノードスライムを空気にさらす前に残存アノード板からアノードスライムを分離せしめることを特徴とする請求項1記載の電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムの洗浄方法。
【請求項3】
上記アノードスライムの第1浸漬処理のための浸漬剤が浄水または上記第2浸漬処理液の上澄液であることを特徴とする請求項1記載の電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムの洗浄方法。
【請求項4】
上記アノードスライムの第2浸漬処理のための浸漬剤が弗化珪酸の稀釈溶液、pH3〜5の弗化珪酸の稀釈溶液またはpH4の弗化珪酸の稀釈溶液であることを特徴とする請求項1記載の電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムの洗浄方法。
【請求項5】
上記第1及び第2浸漬処理の浸漬温度が30〜50℃であることを特徴とする請求項1記載の電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムの洗浄方法。
【請求項6】
上記第1及び第2浸漬処理の浸漬温度が45℃であることを特徴とする請求項1記載の電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムの洗浄方法。
【請求項7】
上記第1及び第2浸漬処理の浸漬剤の量が湿ったアノードスライム 1トン当り0.2〜0.4m3 であることを特徴とする請求項1記載の電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムの洗浄方法。
【請求項8】
上記第1浸漬処理液を電解鉛−ビスマス合金の循環電解液に直接加えることを特徴とする請求項1記載の電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムの洗浄方法。
【請求項9】
第2浸漬処理液を電解鉛−ビスマス合金の循環電解液に直接加え得るか、または、第1浸漬処理のための浸漬剤として用い得ることを特徴とする請求項1記載の電解鉛−ビスマス合金のアノードスライムの洗浄方法。
【請求項10】
上記第1及び第2浸漬処理が同一の浸漬プール内でなされることを特徴とする請求項1記載の電解鉛−ビスマス合金内のアノードスライムの洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−511623(P2013−511623A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540256(P2012−540256)
【出願日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【国際出願番号】PCT/CN2009/076294
【国際公開番号】WO2011/063577
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(512114707)チャンシー レア アース アンド レア メタルズ タングステン グループ コーポレーション (3)
【住所又は居所原語表記】No.118,Beijing West Road,Nanchang,Jiangxi 330046, P.R.of China
【Fターム(参考)】