説明

電離定数の測定方法

【課題】従来、電解質の有機溶媒中における電離定数等の特性はあまり調べられておらず、従来の電気伝導度測定においては、比誘電率の低い溶媒を用いた場合、または弱〜中電解質の測定の場合においたは、繰り込み型のフィッティングまたは緩和効果・電気伝導効果等の溶液内での運動を考慮しなくてはならず、測定が容易ではなかった。
【解決手段】本願発明においては、非極性有機溶媒中に電解質を溶解させて溶液を調整し、低濃度の該溶液を微細化してスプレーして質量分析し、得られた結果について、活量を考慮した解析式を用いてフィッティングすることによって電離定数を求めた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、相間移動触媒等において利用されている非極性溶媒中に溶解する電解質の電離定数を求めるための方法に関する。ここで、非極性溶媒とは、疎水基を有する溶媒であり、クロロホルム,ジエチルエーテル等の低極性有機化合物溶媒、パラフィン系炭化水素および芳香族炭化水素等である。
【背景技術】
【0002】
現在、水に溶けにくい有機化合物と水溶性の求核試薬との反応には第4級アンモニウム塩およびクラウンエーテル塩等が相間移動触媒として積極的に利用されている。また質量分析分野においても非極性溶媒に可溶な有機塩を利用したイオン化法が開発されている(下記特許文献1参照)。しかし電解質の有機溶媒中における電離定数等の特性はあまり調べられていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010―122030
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電気伝導度測定においては、比誘電率の低い溶媒を用いた場合、または弱〜中電解質の測定の場合、繰り込み型のフィッティングまたは緩和効果・電気伝導効果等の溶液内での運動を考慮しなくてはならず、測定が容易ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明においては、非極性有機溶媒中に溶解する電解質の電離定数の測定に関し、質量分析計を利用し、低濃度の溶液を微細化してスプレーし、得られた結果について、活量を考慮した解析式を用いてフィッティングすることによって電離定数を求めた。
【0006】
例えば、
【数1】

の電離反応に対して、活量を用いた平衡式
【数2】

を用いて、低濃度領域においてフィッティングを行う。活量係数γに関しては、デバイ・ヒュッケルの極限式から求めることができる。
【0007】
フィッティングのための具体的な式は、[A]=[B]=xと置くと、
【数3】

と表現される。ここで、cは、測定開始時の電解質の濃度であり、電離度xは、低濃度領域においては信号強度に比例するとした。αは、溶媒の誘電率を含む定数であり、物理定数から自動的に計算される。
【0008】
そこで、種々の濃度(C)と信号強度(X)をプロットし、フィッティングを行うことにより電離定数Kを得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本願発明においては、通常は困難である、非極性有機溶媒中に溶解する電解質の電離定数を容易に求めることが可能となった。また、電離定数を測定するに際し、溶媒を気化させるために、溶媒の運動効果を無視することができ、また、低濃度の試料を用いるので試料損失が少ないという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】質量分析装置の概念図
【図2】ジクロロメタン溶媒にテトラブチルアンモニウムカチオンを溶解した溶液を質量分析した際の出力
【図3】3種の電解質の濃度依存性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下においては、本願発明を実施するための形態を示す。
【実施例1】
【0012】
本願発明に利用する質量分析装置の概要を説明する。
図1に示すように、非極性溶媒に試料を混合し、混合された液体試料を噴霧ガス(ネブライザーガス)により微細液滴(ミスト)化する噴霧装置(ネブライザー)および該微細化された液滴を分析部に導き質量分析する質量分析器(MS)から構成されている。
【0013】
本実施例においては、電解質としてテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸(以下「TFPB」という。)テトラブチルアンモニウム(TBA-TFPB)を選定した。このTBA-TFPB(分子量=1106)10−2mM(ミリモル)を非極性溶媒であるジクロロメタン10mLに溶解し10−3M/Lの溶液を作成した後、100,000倍に希釈して試料溶液を得た。したがって、濃度は、1×10―8M/Lである。
【0014】
上記溶液を質量分析装置により、分析して得られたスペクトルを図2の左側に示す。この図から明らかなように、テトラブチルアンモニウムカチオンの信号強度は、3.4×10イオン・カウントある。
【0015】
図3は、横軸に信号強度の平方根をとり、縦軸に電解質の濃度をとったグラフである。ここで、上記TBA-TFPBの濃度1×10―8M/Lにおける信号強度3.4×10イオン・カウントの平方根をプロットすると、図3の最も左の黒丸となる。
【0016】
次に、同じ電解質であるが、濃度を変えて測定する。すなわち、上記の溶液を5000倍に希釈し、試料溶液を得た。したがって、濃度は、5×10―7M/Lである。このデータを図3にプロットすると、左から4番目の黒丸である。
【0017】
このように、TBA-TFPBの濃度を変更し、その度に質量分析を行い、ピーク値を計測した。その結果が図3の黒丸群である。
【0018】
この黒丸群のポイントより上記数3式を利用してフィッティングを行うことにより、K=8.7×10−7を得ることができる。そのKを用いて曲線を描くと図3の曲線Aとなる。
【実施例2】
【0019】
上記実施例1の電解質は、テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸テトラブチルアンモニウム(TBA-TFPB)であったが、電解質としてテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸テトラヘキシルアンモニウム(THA-TFPB)について、実施例1と同様に、種々の濃度について、質量分析を行い、そのピークの信号強度を求め、図3に示すと、三角印群のとおりとなる。ここで、実施例と同様に、三角印群のポイントより上記数3式を利用してフィッティングを行うことにより、電離定数K=1.7×10−7を得ることができる。そのKを用いて曲線を描くと図3の曲線Bとなる。
【実施例3】
【0020】
次に、電解質としてテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸テトラオキシルアンモニウム(TOA-TFPB)について、実施例1、2と同様に、種々の濃度について、質量分析を行い、そのピークの信号強度を求め、図3に示すと、四角印群のとおりとなる。ここで、実施例1、2と同様に、四角印群のポイントより上記数3式を利用してフィッティングを行うと電離定数K=3.1×10−8を得ることができる。そのKを用いて曲線を描くと図3の曲線Cとなる。
【0021】
液滴の微細化をさらに瞬間的に行うことができれば測定精度は向上するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
質量分析装置に着脱可能なユニットとして装備することにより、質量分析の質を向上することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非極性溶媒中に溶解する電解質の電離定数の測定方法であり、溶媒中に電解質を溶解して試料液体を調整し、該試料液体を質量分析し、該電解質のピーク強度を求め、該試料液体の濃度と該ピーク強度からフィッティングをおこない電離定数を求めることを特徴とする電離定数の測定方法。
【請求項2】
上記溶媒は、非極性溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の電離定数の測定方法。
【請求項3】
上記フィッティングは、下記の式を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の電離定数の測定方法。
【数3】

ここで、Kは電離定数であり、xは電離度であり、αは溶媒の誘電率を含む定数である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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