説明

電離放射線および他の疾患処置の有効性を増強する微弱ストレッサーの使用

その後受ける致死用量の高線量放射線(HDR)、化学療法剤、または他の種類の治療的処置への細胞の感受性を増加させるために、その必要のある細胞を低線量放射線に供することによって、細胞が破壊または改変される治療的電離放射線および他の疾患処置の有効性を増強すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2006年2月3日に出願された米国特許出願番号11/346,179、および2006年8月28日に出願された米国特許出願番号11/510,605に対して優先権を主張する。上記の特許および出願の全開示および内容は、参照として本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、一般に、電離放射線および他の疾患処置で、個体を処置することに関する。
【背景技術】
【0003】
電離放射線によって生じる永久損傷は、一般に、放射線量に正比例すると考えられている。しかしながら、このモデルは低線量放射線(LDR)被曝から永久損傷を推定するのには適していないことを示唆する一連の証拠が増加している。実際、増大中の一連の証拠は、LDRがその後の高線量電離放射線(HDR)被曝に対する保護を誘導することを示している。例えば、多くの疫学研究が、低線量の放射線に被曝した個体の発癌率が低くなることを示している(Cohen、B.L.、Health Phys.、68:157-174、1995; Miller.ら、N.Engl.J.Med.、321:1285-1289、1989; Cardisら、Radiat.Res. 142:117-132、1995参照)。これらの疫学的結果は、LDR被曝が高線量放射線(HDR)被曝からの損傷を低減する(当該分野で放射線適応またはホルミシス(hormesis)と言われる)ことを示すインビトロでの研究によって支持される。
【0004】
放射線適応の概念は、まずOlivieriらによってインビトロで探求された。彼らは、慢性的にLDRが照射されたリンパ球は、その後の高線量のX線被曝から染色分体異常が生じにくいことを示した(Olivieriら、Science、223:594-597 1984参照)。この発見は、急性LDR(すなわち低線量X線への短期間被曝)について確認され、LDR被曝細胞は、HDR被曝後に、コントロールよりも生存率が高まり、そして染色体切断が少なくなることを示した(Wolff、S.、Mutation Research、358:135-142、1996参照)。
【0005】
他の研究の結果は、これらの発見と一致している(Azzamら、Radiat.Res.、138(1 Suppl):S28-31、1994;Azzamら、Radiat.Res.、146(4):369-73、1996;Shadleyら、Randiation Research、111(3):511-517、1987.;ShadleyおよびWolff、Mutagenesis、2(2):95-6、1987;ShadleyおよびWiencke、Int.J.Radiat.Biol.、56(1):107-118、1989;ならびにSandersonおよびMorley、Mutat.Res.、164(6):347-51、1986参照)。その結果、LDR被曝が、放射線適応応答を誘導(例えば、電離高線量放射線の致死率を減少)する細胞保護機構を誘発することがますます認められてきている。言い換えると、これらの細胞保護機構を誘発するLDR被曝により、その後に致死用量のHDRで標的細胞を効果的に処置する能力が妨げられ得る。しかしながら、本発明の発明者らは、生物医学文献から教示されることに反して、特定の状況下では、LDRおよび他のストレッサーが、HDRの治療的被曝の致死率を増加させるために用いられ得ることを最近見出した。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の広い局面によれば、以下の工程:(a)個体のLDR感作細胞を提供する工程;および(b)LDR感作細胞を、LDR感作細胞の少なくともいくぶんかを殺傷するかまたは機能を改変する治療的処置に供する工程を含む方法が提供される。
【0007】
本発明の第2の広い局面によれば、以下の工程:(a)個体の感作細胞を提供する工程;および(b)感作細胞を、感作細胞の少なくともいくぶんかを殺傷するかまたは機能を改変する治療的処置に供する工程を含む方法であって、感作細胞における1以上の熱ショックタンパク質のレベルが、その細胞のその1以上の熱ショックタンパク質の構成レベルを下回っている、方法が提供される。
【0008】
本発明の第3の広い局面によれば、以下の工程:(a)個体の最大感作細胞を提供する工程;および(b)最大感作細胞を、感作細胞の少なくともいくぶんかを殺傷するかまたは機能を改変する治療的処置に供する工程を含む方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(詳細な説明)
発明について記載する前に、いくつかの用語を定義することが好都合である。本明細書を通して以下の定義が用いられることが理解される。
【0010】
(定義)
本発明の目的で、「投与する」の用語は、任意の一般的な方法、経口、局所、放射線源への集中した被曝または集中していない被曝による、などを意味する。例えば、LDRおよびHDRは、X線源または他の種類の電離放射線源への被曝によって投与され得る。化学療法剤は、静脈注射によって投与され得る。
【0011】
本発明の目的で、「癌」の用語は、任意の種類の癌を意味する。癌としては、皮膚癌、乳癌、腸癌および前立腺癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
本発明の目的で、「細胞」の用語は、インビボまたはインビトロいずれかの細胞を意味する。細胞は、組織培養物の一部であり得、または、個体または動物などに存在し得る。細胞は、細菌、ウイルス、プリオンなどもまた包含し得る。
【0013】
本発明の目的で、「化学療法剤」の用語は、任意の化学療法剤または細胞障害剤を意味し、タキソールおよびシスプラチンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
本発明の目的で、「化学療法的処置」または「化学療法」の用語は、癌の化学療法処置のような、化学療法剤を用いた個体の処置を意味する。
【0015】
本発明の目的で、「構成レベル」の用語は、本発明によるLDRまたは他のストレスを用いた処置の前の細胞における熱ショックタンパク質のレベル(濃度)、すなわち、細胞におけるの熱ショックタンパク質の正常レベルを意味する。感作細胞が、それらのHspsの構成レベルの少なくとも90%を回復するまで、感作細胞は、実質的に感作されているとみなされる。
【0016】
本発明の目的で、ストレス応答の「ダウンレギュレート」の用語は、「ストレス応答の抑制」と同義である。
【0017】
本発明の目的で、「熱ショックタンパク質」または「Hsp」の用語は、任意のストレス誘導保護分子を意味し、熱、電離および非電離放射線(電磁場および時間変動磁場を含む)、有毒化学物質、ハイポキシア(低酸素)、血糖値異常、重金属およびアミノ酸類似体のような様々な環境ストレスによって誘導される。重要な細胞保護機構は、熱ショックタンパク質(Hsps)の誘導に関連するストレス応答の活性化を伴う。Hpsファミリーには、酸化的ストレスに応答して合成されるタンパク質を含み、これらのタンパク質は、次いで、その後の損傷からの細胞保護を提供し得る。Hsp70/72は、このファミリーにおいてもっとも広範囲で誘導され得るタンパク質である。例えば、照射前のリンパ球のHspsの熱誘導は、アポトーシスを遅延させ(Gordonら、Arch.Surg.、132(12):1277-1282、1997参照)、そしてHspの過剰発現は、致死的なX線被曝の後の細胞死を抑制した(Parkら、Radiat.Res. 153(3):318-326、2000参照)。LDR被曝は、Hspレベルを高めることが示された(Nogamiら、Int.J.Radiat.Biol、63(6):775-783、1993;およびMelkonyanら、Int.J.Rad.Biol.、68(3):277-280、1995参照)。Satoらはまた、低線量X線照射が、胃粘膜でHspsを誘導することを示し(Physiol.Phys.Chem.& Med.NMR、28:103-109、1996参照)、そして、他の人ら(O’Rourkeら、Biochem.Soc.Trans.、20(1):74S、1992参照)は、LDR被曝が、骨髄性白血病およびCHOの培養細胞でHspsを誘導するという証拠を提示した。上記文献の全内容および開示は、参照として本明細書に援用される。
【0018】
本発明の目的で、「高線量放射線」および「HDR」の用語は、0.5Gyを越える任意の線量、または細胞を殺傷するために治療的に用いられ得る任意の線量を意味する。
【0019】
本発明の目的で、「個体」の用語は、ヒト、サル、チンパンジー、ウマ、イヌ、ネコなどのような哺乳動物を意味する。
【0020】
本発明の目的で、「電離放射線」の用語は、細胞の原子、分子などを電離させることができる、任意の供給源からの電離放射線を意味する。電離放射線の例としては:X線、紫外線、ガンマ線、アルファ粒子、ベータ粒子、中性子などが挙げられる。波長に応じて、紫外線は電離性かまたは非電離性の放射線とみなされ得る。
【0021】
本発明の目的で、「LDR感作」の用語は、被曝細胞における熱ショックタンパク質の濃度を約10%以上減少させるのに十分な量のLDRに十分な時間または線量、被曝した細胞を意味する。
【0022】
本発明の目的で、「致死用量」の用語は、1以上の細胞を殺傷するかまたは機能を改変することが可能な、放射線または他の任意の治療剤もしくは療法の用量を意味する。
【0023】
本発明の目的で、「低線量放射線(LDR)」の用語は、約0.5cGyから約50cGyの範囲の電離放射線の線量を意味する。本発明の1つの実施態様では、1から10cGyまでのLDR線量が、癌細胞をLDR感作するために用いられ得る。他の投与量のLDRは、本発明の他の実施態様において、処置される組織の種類、処置される疾患などに応じて用いられ得る。
【0024】
本発明の目的で、「最大感作」の用語は、細胞における各々の熱ショックタンパク質のレベルが、細胞におけるそれぞれの熱ショックタンパク質の構成レベルの約10%未満になるのに十分な量のLDRまたは電磁場のような微弱ストレッサーに被曝した細胞を意味する。いくつかの実施態様では、最大感作細胞は、各々が細胞におけるそれぞれの熱ショックタンパク質の構成レベルの約0%である熱ショックタンパク質のレベルを有し得る。
【0025】
本発明の目的で、「細胞の機能の改変」の用語は、細胞の正常な機能の任意の変更を意味する。改変の例としては、細胞の増殖速度を変えるなどのような改変が挙げられる。
【0026】
本発明の目的で、「感作」の用語は、ストレス応答を誘導するのに十分な量のストレス誘導剤に被曝した細胞を意味する。感作細胞を形成するためのLDRの使用を以下に詳細に記載するが、本発明は、感作細胞を形成するための他のストレス誘導剤の使用を包含する。
【0027】
本発明の目的で、「ストレス誘導剤」の用語は、ストレス応答を誘導する薬剤を意味する。ストレス誘導剤は、LDR、非電離放射線などのような放射線ベースであり得る。非電離放射線の1つの供給源は、レーザ光であり得る。用途に応じて、紫外線は、LDRとして、または非電離放射線として使用され得る。ストレス誘導剤はまた、有毒化学物質、熱、機械的ストレスなどのような、非放射線ベースでもあり得る。1つの実施態様では、ストレス誘導剤は、電磁放射線であり得る。
【0028】
本発明の目的で、「ストレス応答」の用語は、熱ショックタンパク質の約10%以上の一時的な減少を意味し、通常、その後、熱ショックタンパク質のレベルの増加(構成値を上回る)が続く。
【0029】
本発明の目的で、「微弱ストレッサー」の用語は、細胞のストレス応答を作動させるが、微弱ストレッサーに被曝した細胞を全く殺傷しないかまたはごくわずかしか殺傷しないストレス誘導剤を意味する。微弱ストレッサーの例としては、電離および非電離両方の電磁放射線(LDR、ガンマ線、X線、紫外線、赤外線、レーザ光、マイクロ波、電波などを含む);超音波;時間変動磁場;化学薬剤(様々な製薬および有毒化学物質(例えば、化学療法剤、ヒ素など)を含む);数℃の温度上昇または下降;機械的ストレス、生物学的薬剤などが挙げられる。
【0030】
本発明の目的で、「治療剤」の用語は、放射線、化学療法で用いる化学物質、製薬などのような任意の薬剤または処理を意味し、治療的処置の標的である細胞の機能を改変、数を減少または増殖を抑制するために用いられ得る。
【0031】
本発明の目的で、「治療的処置」の用語は、1種類以上の細胞の数を減少させるまたは1種類以上の細胞の増殖を抑制するのに十分な投与量または様式での、個体への治療剤の投与を意味する。
【0032】
本発明の目的で、「治療有効量」の用語は、細胞の機能または増殖の抑制、およびまたは生存細胞数の減少を可能にする治療剤の量を意味する。
【0033】
本発明の目的で、「腫瘍」の用語は、悪性腫瘍および非悪性腫瘍の両方を含む任意の種類の腫瘍、ならびに任意の細胞増殖異常を意味する。
【0034】
用語の定義が、その用語の一般的に用いられる意味から外れる場合には、特に示さない限り、出願人は上に規定された定義を利用することを意図する。
【0035】
(説明)
本発明は、その後の高線量電離放射線および他の治療的介入(例えば、化学療法)の有効性を増強するために、低線量放射線、および他のストレッサーを用いる。
【0036】
放射線適応応答は、前もって照射する刺激(またはプレコンディショニング)線量(例えば1cGy)を、4時間から7時間前に照射した場合に、追加して照射するより高い線量(例えば4Gy)への被曝後に効果の減少が認められることの名称である。放射線適応に関与する主な機構として、Hsp誘導が示唆されている。ParkらおよびLeeらは、以前に放射線適応応答を示さなかった細胞系が、Hsp72を過剰発現するようにした研究を開示する(Parkら、Radiat.Res.、153 (3) :318-326、2000;およびLeeら、Cell Stress Chaperones、6:273-281、2001参照)。
【0037】
細胞におけるHspsの過剰発現は、放射線適応応答の回復をもたらした。上述のように、文献において多くの論文が、LDRへの被曝が放射線適応応答を誘導する(すなわち、LDRへの被曝が、細胞のその後のHDRへの感受性を低くする)ことを教示している。対照的に、本発明の1つの実施態様によれば、LDRが、細胞のその後のHDRへの感受性を高くし得る条件が提供される。
【0038】
熱ショックが加えられた場合、結果としてHspレベルが一時的に下降することもまた理論上予測されている(しかし、実験的に証明されていない)。Peperらは、ストレスに対する保護が、熱ショックの後で急速に(すなわち数分以内に)減少し得ること、およびこの減少が約3時間続いた後に、プレコンディショニングレベルに急速に戻ることを、理論上予測している(Peperら、Int.J.Hyperthermia、14 (1) :97-124. 1998参照)。
【0039】
LDR被曝がHspsを誘導することもまた文献に示唆されているため、本発明者らは、Hspの誘導が、LDRプレコンディショニング現象において役割を担い得ると仮定する。その役割とは、発明者らが見出した、電離放射線に対して脱保護を誘導し得ることである。実際、文献は、LDR被曝が、電離放射線に対して効果がないかまたは保護を誘導するかのいずれか、および、熱ショックタンパク質の誘導が、電離放射線に対するLDR誘導保護の重要な寄与者である旨を示すことによって、我々の発見とは反する教示をしている。
【0040】
本発明者らによって思いがけず見出されたのは、標的細胞(例えばある個体の)をLDRに供し、そして次いで、標的細胞の性質に依存して1分以下から2時間以上にわたる間待機することによって、それらの細胞を、致死用量のHDRまたは化学療法剤を用いたこれらの感作細胞のその後の処置の有益な効果に対して、一時的に感作されるようにし得ることである。理論に束縛されることなく、LDRに供した細胞のこの感作により、これらの細胞における構成Hspが、LDRによって誘導された損傷部位にHspを一時的に結合するようになり、よって、したがって、一定期間(新しいHspが生成され得るまで)、HDRまたは他のストレスに対する細胞放射線保護機構は減少されるがその後、LDR被曝後約3時間で開始されるHspsの正常な生成により、これらの細胞が、その後致死用量のHDRまたは化学療法剤または他のストレスにそれらの細胞を供することによる致死影響に対して保護されるようになると考えられる。
【0041】
このLDRの感作効果は一時的である(例えば、細胞をLDRに供してから約20分から2時間(細胞の性質に依存する)にわたって、経時的に、そして一般的には徐々に消失する)ため、本発明の1つの実施態様では、LDR感作細胞は、これらの細胞が依然として実質的にLDR感作されている間に、その後の致死用量のHDR、化学療法剤または他の任意の潜在的致死ストレスに供される。したがって、HDR、化学療法剤または他の致死ストレスは、好ましくは、細胞の性質に依存して、約1分間から約2時間以内に適用される。
【0042】
LDRに被曝される細胞に依存して、細胞におけるHspsの構成レベルは、Hspsの濃度を構成レベルの50%未満に減少させ、好ましくはできるだけ100%に近い減少をさせるように、細胞がLDR感作された後、通常およそ2時間から3時間、場合によっては2時間よりもいくぶん少ない時間で回復する。本発明の1つの実施態様に従って、治療的処置は、処置される細胞がLDR感作されている時点から、細胞がそれらのHsps構成レベルに回復した時点まで、どの時点でも行われ得る。
【0043】
用いられるLDRの持続時間は、放射線の強さ、処置される細胞の種類などに依存して変動し得る。1つの実施態様では、処置された細胞は、約10分よりも短い間、LDRに被曝し得る。
【0044】
LDRに加えて、またはLDRの代わりに、本発明の様々な実施態様に従って、他のストレス誘導剤が感作細胞を形成するために用いられ得る。例えば、可視光線または赤外線を発するレーザ光のような非電離放射線の供与源が、細胞の感作に用いられ得る。紫外線は、LDRとして、あるいは非電離放射線として、感作細胞を生成するために用いられ得る。有毒化学物質、熱、機械的ストレスなどもまた、本発明の様々な実施態様に従って、感作細胞を生成するために用いられ得る。
【0045】
本発明の1つの実施態様によれば、腫瘍、癌などの処置のためのHDR投与に用いられ得る装置としては、例えば、どの病院でも用いられる典型的なX線治療機器またはリニヤーアクセルレーターが挙げられる。他のHDR投与法としては、ガンマ線源および紫外線源が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
本発明の1つの実施態様に従ってHDRによる細胞の治療的処置に上述の装置を用いるために、装置について、または通常の用量の減少以外は通常これらの装置が用いられる方法について、改変がなされる必要はない。
【0047】
本発明の1つの実施態様によれば、腫瘍、癌などを処置するために用いられ得る化学療法的処置としては、化学療法剤(例えば、タキソール、シスプラチン、ブレオマイシンまたはエトポシド)の静脈注射が挙げられる。
【0048】
本発明の1つの実施態様に従って上述の化学療法的処置を用いるために、これらの処置について様々な改変がなされることが必要であり得る。これらの改変として、腫瘍細胞を殺傷するために必要な用量減少が挙げられる。
【0049】
本発明の1つの実施態様によれば、増強され得る他の治療的処置としては、急性または慢性の感染症の抗生物質または抗ウイルス処置、または寄生虫学に関する治療的介入が挙げられるが、これらに限定されない。実際、疾患組織または細胞のストレス応答の減少によって増強される疾患組織または細胞の任意の処置に、微弱ストレッサーがストレス応答において時間に依存する減少を誘導できるという我々の発見が役立ち得る。
【0050】
本発明の1つの実施態様に従って上述の他の治療的処置を用いるために、これらの処置について改変がなされることが必要であり得る。この改変としては、腫瘍組織を殺傷するために必要な用量の減少が挙げられる。
【実施例】
【0051】
実施例I
電離放射線の殺傷効力の増強
HDRへの被曝のために2つの同一の領域の細胞を選択し、そして、それら2つの領域のうち一方をHDR被曝の3時間以上前にLDRに被曝させた場合、そのLDR被曝領域の生存率は、非被曝領域の細胞の生存率よりも高いことが認められた。これは、HDRに被曝する前にまずLDRに細胞を被曝することにより、HDRに被曝した細胞の生存率が増加することを示し、したがって、それらの細胞は、そのようなLDRへの被曝後、殺され難くなることを示している。これは、先行技術によって教示されたように予測された結果である。
【0052】
意外にも、先の段落に記載した同じ2つの領域の細胞で考えると、本発明の1つの実施態様において、一方の領域の細胞を、まずLDRに被曝してLDR感作細胞を形成させ、そして、次いで数分から2.5時間以内にHDRに被曝した場合、LDR被曝領域の細胞の細胞生存率は、処置しなかった領域の細胞の生存率よりも低い。これは、HDRまたは他のストレスに被曝させる少なくとも2.5時間前に、それらの細胞をまずLDRに被曝させることによって、細胞が、HDRおよび有毒化学物質のような他のストレスにさらに感受性となる(すなわち、殺傷がより容易となる)ように処置され得ることを示している。LDR感作細胞がHDRに被曝される好ましい時間枠(time window)は、処置される細胞の種類および組織の種類によって変動し得る。例えば、癌細胞および乳癌細胞のようないくつかの種類の組織においては、HDR処置の時間枠は、組織中の細胞をLDRで感作させた後20分から1時間であり得る。
【0053】
最大の脱保護は、LDR被曝後約1.5時間で得られた。LDR被曝の後すぐに(すなわち2時間以下の間で)高線量放射線に対する組織の感受性が増加するというこの発見には、放射線療法および化学療法の臨床処置に対して深い意味がある。放射線および化学療法的処置後に癌の転帰を著しく改善する可能性は高いと思われる。
【0054】
したがって、治療用量のX線エネルギーまたは他の種類の電離放射線または潜在的致死ストレスを適用する前、約数分から2時間(破壊したい組織の種類に依存する)以内に、低線量の放射線(すなわちLDR)が適用されれば、治療用量(例えばHDR)の破壊的効果が増強される。
【0055】
低線量は約10cGyであり得るが、0.5cGy程度に低くても、50cGy程度に高くてもよい。低線量は、細胞に、細胞Hspまたは他の防御機構によって容易に修復することができる量の損傷を生じるように選択され得る。この損傷の量は、このHspをHDRに対する保護に利用できないようにするために、構成レベルのHspのできるだけ多くを(修復工程において)関与させるのに十分な大きさであり得る。
【0056】
開始時の条件付けストレスとして熱ショックの代わりにLDRを用いて、Hspレベルが減少することはデータが証明している。この結果は、熱ショックがHspレベルを一時的に減少させるというPeperらの予測と一致するが、生じる減少のタイミングの詳細は、Peperらの理論上の予測とは著しく異なる(Peperら、Int.J.Hyperthermia.、14(1):97-124、1998参照)。
【0057】
発明者らは、いくつかの細胞(例えばニワトリ胚)において、保護が約1.5時間にわたってゆっくりと減少し、そして次いで、次の1.5時間にわたって増加し、プレコンディショニングされていない値に戻ることを見出した。したがって脱保護のピークは、LDR被曝の約1.5時間後に生じると分かる(図1参照)。最初の1.5時間で見出された保護の減少は、Hspの利用性の減少と関連し得る。これは、HspがLDRによって損傷したタンパク質の修復に用いられていて、もはやいかなるHDR被曝に対する保護も自由にできないためである。最初の1.5時間で、Hspは、損傷したタンパク質へと広がり、それらと結合する。1.5時間後、結合され得るHspがすべて、結合されている。新しいHspの生成は、LDR被曝後かなり早くに始まり、そして遊離Hspの濃度を増大する。これは、負の生存変化率の減少を生じさせ、そして、最終的に3時間後には生存の増加を生じる。これは、Hspの新たな生成が、最終的に、Hspレベルを、放射線に被曝する前に存在するHspの正常構成レベルよりも大きくするためである。他の細胞系(例えば結直腸癌細胞および乳癌細胞)において、生存の減少は、LDR用量の後1分から数分以内に生じ得、そしてHspの新たな生成は、20分から1時間以内に構成レベルと少なくとも同じかまたはより多いHspレベルを生じ、そしてしたがって、生存レベルが、プレコンディショニングLDRなしで生じるのと同じかまたは多くなる。
【0058】
実施例II
化学療法剤の殺傷効果の増強
集中したLDR被曝は、化学療法と併せてもまた用いられ得、その場合、それらは組織の集中した領域(すなわち、腫瘍であって、その周囲の正常組織ではない)において化学療法剤の効果を増強することができるという利点を有する。化学療法剤または任意の他の致死剤のようなストレス(これらは、電離放射線の場合のような数分ではなく数時間の間細胞に作用する)に対して脱保護する目的で、Hspレベルは1時間よりも長くダウンレギュレートされ得る。1時間よりも長い時間にわたって熱ショックタンパク質の濃度をダウンレギュレートするために、LDRは、化学療法剤を用いる前の数日(好ましくは3から4日)の間、1日に1度適用され得る。このようにして、Hspレベルは、長時間の間ダウンレギュレートされたままとなる。このダウンレギュレーション工程は、以下のように説明され得る。ストレスが細胞に加えられる場合、Hspsのレベルは、まず約2時間(本願における我々の発明)の間減少し、そして次いで、約3時間後に増加する。最終的には、約10時間後にこのレベルは構成レベルまで戻る。発明者らは、このストレスを約3日間、毎日繰り返した場合、このストレスに対する適応過程が生じることを見出した。この適応過程のため、毎日ストレスを繰り返した後では、そのストレスが加えられたときにHspは誘導されない。
【0059】
本願において引用した文献、特許、学術論文および他の資料はすべて、参照として本明細書に援用される。
【0060】
本発明は、添付の図面に言及してそのいくつかの実施態様と併せて十分に記載されているが、様々な変更および改変が当業者にとって明らかであることが理解される。そのような変更および改変は、そこから逸脱しない限りは、添付の請求の範囲に定義される、本発明の範囲内に含まれることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】先に照射する10cGY(LDR)のX線線量と追加して照射する15Gy(HDR)の線量との間の遅延時間を変動させたことによる、ニワトリ胚の生存率に対する効果を表すグラフである。
【図2】時間2での低線量放射線(LDR)への被曝による、様々な時点でのHsp70予測レベルを表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)個体のLDR感作細胞を提供する工程;および
(b)該LDR感作細胞を、該LDR感作細胞の少なくともいくぶんかを殺傷するかまたは機能を改変する治療的処置に供する工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記LDR感作細胞が、最大感作細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記最大感作細胞が、該細胞の構成レベルの約0%である熱ショックタンパク質レベルを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記(b)の工程が、前記LDR感作細胞における熱ショックタンパク質の構成レベルが回復される前に実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記治療的処置が、高線量電離放射線で前記LDR感作細胞を処置する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記治療的処置が、化学療法剤で前記LDR感作細胞を処置する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記治療的処置が、前記LDR感作細胞の少なくともいくぶんかを殺傷する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
さらに以下の工程を含む、請求項1に記載の方法:
(c)前記個体の細胞を、前記LDR感作細胞を形成するのに十分な投与量の低線量放射線に供する工程。
【請求項9】
前記低線量放射線の投与量が、1から10cGyである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項8の記載の方法を実行するためのシステム。
【請求項11】
以下の工程:
(a)個体の感作細胞を提供する工程;および
(b)該感作細胞を、該感作細胞の少なくともいくぶんかを殺傷するかまたは機能を改変する治療的処置に供する工程を含む方法であって、該感作細胞における1以上の熱ショックタンパク質のレベルが、該細胞の該1以上の熱ショックタンパク質の構成レベルを下回っている、方法。
【請求項12】
前記感作細胞における1以上の熱ショックタンパク質のレベルが、該細胞の該1以上の熱ショックタンパク質の構成レベルを少なくとも約10%下回っている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記感作細胞におけるすべての熱ショックタンパク質のレベルが、該細胞の該1以上の熱ショックタンパク質の構成レベルを下回っている、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記感作細胞における前記すべての熱ショックタンパク質のレベルが、該細胞の該1以上の熱ショックタンパク質の構成レベルを少なくとも約10%下回っている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
さらに以下の工程を含む、請求項11に記載の方法:
(c)前記個体の細胞を、前記感作細胞を形成するのに十分な投与量のストレス誘導剤に供する工程。
【請求項16】
請求項15に記載の方法を実行するためのシステム。
【請求項17】
以下の工程:
(a)個体の最大感作細胞を提供する工程;および
(b)該最大感作細胞を、該感作細胞の少なくともいくぶんかを殺傷するかまたは機能を改変する治療的処置に供する工程、
を含む方法。
【請求項18】
前記最大感作細胞が、該細胞の構成レベルの約0%である熱ショックタンパク質レベルを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
さらに以下の工程を含む、請求項17に記載の方法:
(c)前記個体の細胞を、前記最大感作細胞を形成するのに十分な投与量のストレス誘導剤に供する工程。
【請求項20】
請求項19に記載の方法を実行するためのシステム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−525135(P2009−525135A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553351(P2008−553351)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際出願番号】PCT/US2007/002746
【国際公開番号】WO2007/092246
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(399128150)ザ・キャソリック・ユニバーシティ・オブ・アメリカ (4)
【氏名又は名称原語表記】THE CATHOLIC UNIVERSITY OF AMERICA
【Fターム(参考)】