説明

電離真空装置

【課題】真空容器内の汚染物質から電極を保護することが可能な電離真空装置を提供することを目的とする。
【解決手段】真空容器13と、真空容器13内に設けられた陽極11と、真空容器13内に設けられた陰極12a,12bと、陽極11と陰極12a,12bの間に放電用電力を供給する放電用電源19と、陰極に加熱用電力を供給する陰極加熱用電源18と、陽極11と陰極12a,12bの間の空間に磁場を形成する手段16a,16bとを有し、真空容器13を他の真空容器に接続して他の真空容器内の圧力を計測し、又は他の真空容器内を排気する電離真空装置であって、真空容器13内のガスに放電を起こさせている間、陰極加熱用電源18により陰極12a,12bを加熱し、陰極12a,12bの温度を陰極12a,12bから熱電子が放出されない温度範囲内に保つ制御手段を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器内に存在する残留気体分子の圧力を、磁界中の真空放電現象を利用して測定する冷陰極電離真空計、及び、同じ放電現象を利用して真空容器内に存在する残留気体分子を排気するスパッタイオンポンプとして用いる電離真空装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁場を用いる冷陰極電離真空計は、基本的に真空容器内に配置された陽極と陰極の間に数kV〜7kVの高圧直流電圧を印加し、その放電電流が真空容器内の圧力に略比例することを利用して圧力を測定するものである。圧力が低くなると放電電流が弱くなると共に放電が持続出来なくなることから、2つの電極空間に磁場を与えて、電子走行距離を延ばし、電子の拡散を防止する構造がとられる。磁場を利用するこの構造の真空計は、1937年にペニングが初めて実用化したことからペニング真空計とも称され、磁場が存在する2電極構成がペニングセルと称され、この構成で生じる放電がペニング放電と称される。また、この真空計は熱陰極フィラメントを用いないことから冷陰極電離真空計とも称される。
【0003】
ペニング真空計は、下記特許文献に記載されたものが知られている。これらの基本的な動作原理によれば、磁界の働きによって電子を陽極と陰極で形成される空間に閉じこめ、生成する電子雲とガス分子との衝突によりイオンを発生させ、イオン電流を計測することにより圧力を測定する。
【0004】
このように、冷陰極電離真空計は放電によって気体分子から発生した電子を有効に利用する方法であるから、前述の熱陰極フィラメントが不要であり、フィラメント焼損の恐れが無く、長期安定性が要求される分野や生産現場では好んで使用される。
【0005】
また、種々の研究により、冷陰極電離真空計は、非常に大きな排気速度を有することが分かったため、真空ポンプとして活用することも提案された(特許文献1)。
【特許文献1】特許第314478号
【特許文献2】特開平7−55735号公報(特許第3750767号)
【特許文献3】特開平7−55735号公報
【特許文献4】特開平5−290792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近の真空装置では、真空モータ、ソレノイド、位置検出計など有機絶縁物で製作された電気部品が真空容器内に取り付けられるため、有機絶縁物、例えばシリコンゴムなどからはシロキサン、有機機械部品からは熱可塑性樹脂の可塑剤として添加されるフタル酸、アジピン酸などが蒸気となって放出され、真空計やポンプを汚染する。このような冷陰極電離真空計やポンプを用いた場合、最悪1日程度で放電が停止してしまうという問題が発生する。汚染分子が冷陰極電離真空計内に飛び込むと、その汚染分子は電子衝撃を受けて分解、イオン化し、陽イオンとなって陰極に到達する。陰極に到達した汚染物質(分解分子)は電子を受け取って中性になるが、ラジカル状態にあるため次々と飛び込んでくる汚染物質同士と重合反応を起こして高分子化し、陰極表面に堆積して電気を通しにくい被膜を形成する。これにより、後から飛来する陽イオンは陰極に流れ込みにくくなるため、計器感度が低下するなどの問題が発生する。
【0007】
更にその被膜が厚くなると、最悪の場合、その被膜により放電が停止ししたり、放電が起動しないなどの問題が発生する。
【0008】
また、陽極表面においても、汚染物質は吸着され、その汚染物質を過剰なエネルギーを得て陽極に達する電子が衝突し、分解を進行させる。分解した汚染物質は極めてラジカルであるから、陽極表面上で容易に重合反応を起こし、不導体の膜を陽極表面に形成する。これにより、過剰なエネルギを持った電子は陽極に流れ込めなくなるため、放電は不安定になり、悪くすると放電が停止したり、放電が起動しないなどの問題が発生する。
【0009】
本発明は、上記の従来例の多くの問題点に鑑みて創作されたものであり、真空容器内の汚染物質から陰極或いは陽極、又は両方の電極を保護することが可能な電離真空装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一観点によれば、真空容器と、前記真空容器内に設けられた陽極と、前記真空容器内に設けられた陰極と、前記陽極と前記陰極の間に放電用電力を供給する放電用電源と、前記陰極に加熱用電力を供給する陰極加熱用電源と、前記陽極と前記陰極の間の空間に磁場を形成する手段とを有し、前記真空容器を他の真空容器に接続して該他の真空容器内の圧力を計測し、又は該他の真空容器内を排気する電離真空装置であって、前記真空容器内のガスに放電を起こさせている間、前記陰極加熱用電源により前記陰極を加熱し、前記陰極の温度を前記陰極から熱電子が放出されない温度範囲内に保つ制御手段を有することを特徴とする電離真空装置が提供される。
【0011】
さらに、前記陽極に加熱用電力を供給する陽極加熱用電源を備えていることが好ましい。
【0012】
また、本発明のさらに他の観点によれば、真空容器と、前記真空容器内に設けられた陽極と、前記真空容器内に設けられた陰極と、前記陽極と前記陰極の間に放電用電力を供給する放電用電源と、前記陽極に加熱用電力を供給する陽極加熱用電源と、前記陽極と前記陰極の間の空間に磁場を形成する手段とを有し、前記真空容器を他の真空容器に接続して該他の真空容器内の圧力を計測し、又は該他の真空容器内を排気する電離真空装置であって、前記真空容器内のガスに放電を起こさせている間、前記陽極加熱用電源により前記陽極を加熱し、所定の温度範囲に保つ制御手段を有することを特徴とする電離真空装置が提供される。
【0013】
陰極或いは陽極、又は陰極及び陽極両方の電極を加熱しているので、有機物など汚染物質が飛来してきて陰極或いは陽極、又は陰極及び陽極両方の電極に付着しても陰極或いは陽極、又は陰極及び陽極両方の電極表面から速やかに離脱させることができる。
【0014】
また、陰極及び陽極の加熱温度の上限が、陰極及び陽極から熱電子が発生しない温度以下に抑えられているため、陰極及び陽極から熱電子が放出されることが無く、従って、通常の陽極と陰極の2電極で構成される放電現象を擾乱せずに、放電電流を計測することが可能となる。これにより、汚染の影響を受けず、長期間にわたり安定で、信頼性の高い圧力測定や排気を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電離真空装置によれば、陰極或いは陽極、又は陰極及び陽極両方の電極表面に到達した汚染物質を、陰極表面或いは陽極、又は陰極及び陽極両方の電極表面から速やかに離脱させることができるので、陰極表面或いは陽極、又は陰極及び陽極両方の電極表面に汚染物質による高分子絶縁膜が形成されるのを防止することが可能になり、これによって、陰極或いは陽極、又は陰極及び陽極両方の電極の汚染による感度の低下、及び放電停止を防止して、安定に、かつ高精度な圧力測定が可能になるとともに、信頼性の高い排気が可能になる。
【0016】
また、陰極から熱電子が放出されることが無いため、通常の陽極と陰極の2電極で構成される放電現象を擾乱せずに、放電電流を計測することが可能となる。これにより、汚染の影響を受けず、長期間にわたり安定で、信頼性の高い圧力測定や排気を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(発明に至る経緯)
冷陰極電離真空計は、一般に、図1に示すペニング型の構造のものが採用されている。この他に、図2に示すようなマグネトロン型のもの、また、図3に示すような正極と負極を逆転させた逆マグネトロン型のものが知られている。
【0018】
図1、図2、図3に示した冷陰極電離真空計は放電によって気体分子から発生した電子を有効に利用する方法であるから、前述の熱陰極フィラメントが不要であり、フィラメント焼損の恐れが無く、長期安定性が要求される分野や生産現場では好んで使用される。
【0019】
しかし、これらの冷陰極真空計には大きな2つの問題が存在する。
【0020】
第1に、圧力が低くなって残留気体分子の数が少なくなると、電子不足により放電が停止しやすくなる。そして、一度、放電が停止するとなかなか起動出来なくなり、圧力計測が困難となるから、超高真空領域での計測器としての信頼性が失われる。
【0021】
第2に、冷陰極電離真空計は非常に大きな排気速度(熱陰極電離真空計の約数百倍)を有するため、真の圧力より低い値を示す。
【0022】
従来、第1の問題を解決する手段として、陰極を構成する材料の一部に放射性同位体の金属を組み込み、その電極から放射されるベータ線(電子線)を用いて放電を停止しにくくする方法や、冷陰極電離真空計に熱陰極フィラメントを組み込み、始動時にだけ働かす方法などが考えられてきた。しかし、放射線を発する方法では取扱管理上の制約があり、また熱陰極フィラメントを組み込む方法では冷陰極電離真空計では無くなってしまう。これらの理由で、現在ではともに使用されなくなった。
【0023】
第2の問題については、根本的な解決法が未だ見いだされてはいない。
【0024】
一方で、大きな排気速度を生かす方法として、ペニングセルを多数用い、真空ポンプとして活用する方法が1959年に米国のHallとJepsenによって考えられた(前述の特許文献1、又は、実験物理学講座19(全33巻)、20章イオンポンプ pp.403-413 (文献:L.D.HALL:R.S.I.29, (1958)367;1958 5th National Symp. Vac. Tech. Trans.(1959), p.158、R.L.Jepsen:Le Vidc 80 (1959) 80))。
【0025】
それ以後、ペニングセルは冷陰極電離真空計から離れ、イオンポンプとしての性能向上の研究が重ねられるに至った。その研究によって、冷陰極電離真空計の排気速度が大きい理由は、ペニングセル空間に発生したプラスイオンが、高電圧で加速され、これが陰極に衝突すると(スパッタと称される)、陰極を構成している金属原子がセル内に飛び散り、飛び散った金属原子と残留気体分子が化学反応を起こして、セル内に固定化するためであることが分かった。この理由が分かってから、出来るだけ多くの種類の気体分子と反応する金属として、陰極材にチタン金属が選ばれるに至り、現在市場に出ているイオンポンプの多くはチタン陰極が使われている。また、単セルの冷陰極電離真空計に対して、イオンポンプでは排気速度を大きくしなければならないので、マルチセルの構成が採用された。そして、同じ面積の磁界中でポンプの持つ最大排気速度を得るセルサイズとセル数との関係が詳しく調べられ、独自の発達をして現在に至っている。
【0026】
その研究過程で最も重要視され、改良が行われて来た点は、アルゴンに対する排気速度の改善である。上述したように、スパッタイオンポンプは、スパッタされたチタン原子と残留ガスとの化学反応によって排気するポンプであるから、アルゴンやヘリウムなどの不活性な希ガスに対する排気速度がもともと小さい。勿論、スパッタだけでなくイオン衝撃で陰極に埋め込まれる気体分子もあるので、ある程度の排気速度を有するが、発明された1960年台のスパッタイオンポンプのアルゴンに対する排気速度は、窒素の排気速度を100%としたとき窒素のそれの1%しかなかった。このため、スパッタイオンポンプを装着した真空容器にわずかなリーク箇所があると、大気中に存在する1%のアルゴンがたちまち系内に充満し、アルゴンバーストという大問題が発生することが分かった。これによって、それ以後、現在までのスパッタイオンポンプの改良研究は、このアルゴンに対する排気速度をいかに大きくするかが研究の対象となった。
【0027】
研究が進むにつれ、スパッタイオンポンプの排気作用は、スパッタされたチタン原子と残留気体の化学反応によるだけではなく、どちらかというとスパッタされた陰極原子がアルゴン原子を挟み込んでセル内の陽極、陰極などの表面に埋め込んでしまうことによることが分かった。この知見に基づき、陰極材料として、よりスパッタされ易く、重い金属であるタンタル陰極を用いたり、陰極を櫛状にしてよりスパッタが起こり易くしたり(アルゴンバーストが起こらなくなる)、2枚の陰極のうち1枚をチタン、対向する1枚をタンタルにして差動スパッタリングを行ったりする等の数々の発明がなされた。その結果、アルゴンの排気速度は当初の1%から、20%まで改善されるに至った。その後、米国バリアン社からスターセルと称される、アルゴンに対する排気速度が窒素の50%まで改善した負の電源を用いる3極構造のイオンポンプが開発され(逆に、窒素の排気速度は同じサイズの2極型ポンプより30%位小さい)現在に至っている。
【0028】
このように、スパッタイオンポンプは放電型の電離真空計から発達したポンプであるから、放電を開始できる1Pa程度の圧力まで、別のポンプにより減圧する補助ポンプが必要である。ターボ分子ポンプの発達する前の1970年台までは、モレキュラシーブという多孔質体を液体窒素で冷やし、それに真空容器内の大気圧の空気を吸わせ、1Paまで減圧する方法が主であった。このため、アルゴンやヘリウムが残ることも問題となり、上述のアルゴンの排気速度の向上に向かった面もある。しかし、現在においてはターボ分子ポンプが発達し、50〜100L/s程度の排気速度を持つ比較的小型のターボ分子ポンプでも、10-4Pa〜10-3Pa程度の真空は容易に作られるので、スパッタイオンポンプの予備排気はターボ分子ポンプで行われることが多い。そして、このとき同時にイオンポンプの活性化と称して、ターボ分子ポンプで真空を保ちながらスパッタイオンポンプ全体の温度を250〜450℃の温度に昇温して長時間のベーキング操作が行われ、その後において降温し、ターボ分子ポンプをバルブで切り離し、イオンポンプ単独で稼動させることが多い。
【0029】
ところで、スパッタイオンポンプは、残留気体をイオン化し、そのイオンを陰極に衝突させて陰極金属原子をスパッタするポンプであるから、質量の最も軽い水素に対する排気は殆ど期待できず、水素の排気速度は非常に小さい。従って、残留ガスの主成分が水素である超高真空領域では、スパッタポンプとして機能しなくなる。この対策として、スパッタポンプを用いる超高真空排気系では、水素に対する排気速度が大きいゲッターポンプ(チタン蒸発型と水素吸着合金を用いる非蒸発型のNEG (Non-Evaporate Getter)ポンプ)と組み合わせることが多い。ゲッターポンプは、メタンを発生させることと、アルゴンやヘリウムに対する排気速度がゼロであることが欠点であるが、スパッタイオンポンプではこれらの気体をある程度排気できるので、ゲッターポンプを補完するポンプとしては非常に有効である。2つのポンプを組み合わせたポンプは、ノーブルポンプと称され、市販されている。
【0030】
本発明者が1999年に発明した構成(前述の特許文献2)と同じ図4に示すスパッタイオンポンプは、正にこの点に着目した発明である。即ち、NEGポンプで排気を行った後にNEGポンプで排気できないで残っている気体、すなわちメタン、ヘリウム、アルゴンを排気するためのスパッタイオンポンプである。
【0031】
このイオンポンプでは、ポンプとして起動させる前に、タンタル陰極を真空装置内で陰極の温度を通電加熱により500℃以上に加熱して、昇温により固体内部から拡散してくる水素によりタンタル陰極の表面酸化物および汚染物質を還元させるとともに、それらを熱分解などにより除去し、その後において、高電圧を印加して、前工程で吸い込んだメタン、ヘリウム、アルゴンをスパッタイオンポンプから発生させて、排出する。これによって、スパッタ効果を向上させたものである。このイオンポンプでは、NEGポンプで排気できなかったアルゴンガスを排気することができるため、到達真空度を飛躍的に向上させることができた。本願発明者はこのことを実験調査により示した。
【0032】
しかし、このスパッタイオンポンプは単セルであり、冷陰極真空計として活用することは考え至らなかった。従って、特許文献2には冷陰極真空計としての機能を開示してはいない。また、スパッタポンプとして重要なマルチセル構成のポンプとした場合の限界的な性能についても調査を行っていない。
【0033】
以上述べたように、イオンポンプとして発達の歴史があった反面、冷陰極電離真空計としての進歩は遅々とし、冷陰極電離真空計に関する革新的な技術の進歩はこの半世紀の間なされていない。前述したように超高真空領域になると、放電が停止したり、再起動しなったりする問題も、新たな発明がなされるには至っていない。
【0034】
また、本願発明者の調査によれば、単セルのイオンポンプと同じ構造の冷陰極電離真空計において、排気とともに圧力が低くなり超高真空領域に達すると、陰極表面(真空容器壁を共有する場合が多い)がクリーンになるため、超高真空領域では電子の電界放出現象が起こりやすくなる問題がある。すなわち、冷陰極電離真空計では陽極に3〜5kV程度の強電界が印加されるため、電界放出電流が流れ始めると、放電電流と比べて桁違いの電流が流れるようになり(数マイクロアンペア以上に流れる場合がある)、放電電流、即ち基体の放電による真のイオン電流は測定不能に陥る。従って、10-7Pa以下の圧力を計測しようとするとき、電界放出電流が陽極に入らない特別構造の冷陰極電離真空計を設計しなければならなかった。
【0035】
また、冷陰極電離真空計としてのペニングセルは、上述のように、放電によって生じたイオンが陰極を高エネルギーで叩くために、陰極構成材料が強くスパッタされて寿命が短くなる。また、冷陰極電離真空計を酸素、オゾン等の強酸化性の雰囲気下で使用したりすると、陰極は強い酸化を受けるため、感度が低下し、場合によっては高真空程度の圧力でも放電が停止して測定不能に陥る。実際に、現在市場に出ている冷陰極電離真空計では、大気開放(酸素、水を含む)と排気を繰り返すと、30〜50回目当たりから放電が停止しやすくなる。これは、大気中に浮遊する汚染物質、すなわち、水及び二酸化炭素さらには有機浮遊物が複合物質として陰極にこびりつき、不導体膜が形成されることが原因の1つと考えられる。
【0036】
一方、スパッタイオンポンプは冷陰極電離真空計を多数並べた構造を有するから、放電電流を計測すれば真空計として使える。しかし、従来のスパッタイオンポンプはポンプとしての機能向上を追求しながら発達したため、真空計としての機能向上は行われておらず、このため、スパッタイオンポンプを用いて10-6Pa以下の超高真空領域の圧力を高精度で測定することは困難であり、通常は別の超高真空計が必要とされてきた。
【0037】
本発明者になる図4の単セルのスパッタイオンポンプ(特許文献2)でもこの点では同じであり、冷陰極電離真空計としての機能は有しておらず、たとえ真空計としての機能を付加しても、10-6Pa以下の超高真空領域の圧力を計測することはできない。
【0038】
以上、歴史的な経過を含めて冷陰極電離真空計から発したスパッタイオンポンプの現状を述べたが、あらためて、特許文献2と同じ構成の図5に示すマルチセル型スパッタイオンポンプについてその性能調査を行ったところ、幾つかの問題点を発見するに至った。
【0039】
その一つは、全セルにわたり連続する帯状の構造にした図5、図6の場合は、500℃の通電加熱を行うと、帯状陰極2a、2bが横方向に伸張するため、最初は平坦だった陰極2a、2b(図5(a)、(b))が10数回の昇温で帯状陰極2a、2bが上下に波を打つようになり(図5(c))、陰極2a、2bが陽極1に接触してしまう現象が起こった。また、帯状陰極2a、2bを支える絶縁性支持部材4をスライドさせて陰極2a、2bの伸張を吸収できる工夫を行ってみたが(図6の符号4c、4d)、これも通電加熱を繰り返すと、滑りが悪くなってスライドしなくなり、図5(c)のように折れ曲がることが判明した。絶縁性支持部材4は、陰極2a、2bの裏側で支える構造を工夫したが、陰極2a、2bの幅は陽極1の円筒の直径より小さくしなければならないため、隣のレーンの陰極との隙間からスパッタ原子が入り込み、絶縁性支持部材4の表面がチタン原子で覆われ、絶縁が保てなくなる問題点が発生した。なお、図5(a)では上部カソードホルダ3aは省略し、図5(b)では点線で示す。図6は、図5の構成を示す斜視図であり、上部陰極2a、上部カソードホルダ3aは省略している。
【0040】
一方、従来のマルチセルのイオンポンプでも、10-6Pa以下の超高真空になると放電が停止し、ポンプ作用が無くなる問題が指摘されていた。しかし、放電が停止しなかった場合でもスパッタイオンポンプは正常に排気が行われているか否かを判定出来ない現象が起こる。即ち、観察によれば、放電電流が後述する桁違いに大きい電界放出電流に含まれてしまい、それ以下に下がらない現象が起こる。これは、スパッタイオンポンプの限界であるとともに、冷陰極電離真空計の限界ともなる。
【0041】
調査によれば、この現象は次のような理由によることが分かった。すなわち、真空が良くなり、10-7Pa程度以下の圧力になると、スパッタイオンポンプの陰極表面はもちろんのこと、真空容器の壁の表面がクリーンになるため、電子の電界放出が起こりやすくなる。スパッタイオンポンプでは陽極に5〜7kV程度の強電界が印加されるので、電界放出電流が流れ始めると、気体放電電流より桁違いに大きい電流が流れるようになり(数μA以上に流れる場合がある)、気体放電電流は測定不能に陥る。この点は冷陰極電離真空計も同じである。図4、図5の場合でも、超高真空領域では真空容器からの電界放出電流によって正確な気体放電電流が計測できなくなることが判明した。特に、大気圧に一度表面を曝した後の排気では、確実にこの電界放出電流が発生することが判明した。この表面電界放出電流値は圧力値の10-6Paに相当することから、イオン電流の計測によるこれ以下の圧力測定は困難であることが試験調査の結果明らかになった。
【0042】
また、図5に示した陰極材料を帯状チタン2a、2bとした場合、到達真空は10-7Pa程度であることが判明した。この10-7Paの到達真空圧での残留ガス成分を四重極質量分析計を用いて調査してみると、そのガスの主成分は90%以上が水素であり、特許文献2の真空ポンプは、単セル型、マルチセル型のどちらにおいても水素に対する排気速度が小さいことが判明した。この点は、従来のスパッタイオンポンプと同じであった。
【0043】
従来のペニング型セルを持つスパッタイオンポンプでは、陽極の円筒径と高さがそれぞれ20〜25mmと、20〜28mmに選んだ時が0.12〜0.2T(テラス)程度の磁界との組み合わせで最も効率がよいことが分かっている。このことから、排気速度を増大させるために、この径の陽極を多数並べることになる。また、磁界を発生させる永久磁石は、フェライト、アルニコが主流であったが、最近ではサマリウムコバルト合金磁石やネオジウムなどの希土類磁石も使われるようになってきている。
【0044】
現在市場に出ている、図7、図8に示すイオンポンプでは、円筒状の陽極1を多数束ねて略蜂の巣状にした陽極群を2枚の陰極2a、2bで挟み、カートリッジ状にして四角の真空容器5a内に入れ、その真空容器5aの外側に2枚の板状磁石8a、8bをカートリッジを挟むように配置し、その磁石8a、8bの外側を強磁性体(純鉄が多い)9で包み込む様にした構造を採ることが多い。また四角な真空容器5aを円筒形の真空容器5cの側面に取り付け、その容器に取り付けたコンフラットフランジという国際規格のフランジを介して非排気系の真空容器に取り付けられる。フランジは小さい方から、ICF034, 070, 114, 152, 203, 254, 304と称され、その数値はフランジの直径(mm)を示す。この様な複雑なポンプの真空容器形状が取られる理由は、陽極1と陰極2a,2b間の幅の狭い隙間を介して気体を排気せざるをえないので、陽極1のセルの束を縦長にして排気コンダクタンスを増大させるためである。勿論、真空容器5aは非磁性(例えばステンレス鋼)の真空構造材が用いられている。なお、図7は磁石8a、8b、ヨーク9を真空容器5aに取り付ける前の状態を示し、図8は、図7のI-I線断面図であり、磁石8a、8b、ヨーク9を真空容器5aに取り付けた後の状態を示す。
【0045】
図7、図8に示すイオンポンプでは、次の問題が生じている。
【0046】
スパッタイオンポンプは超高真空向けに使われることが多いため、度々ポンプ全体を250℃〜450℃のベーキングを必要とする。ところが、このような高い温度に昇温すると磁石の磁性が弱くなることは勿論、極端な場合、磁性が無くなってしまう問題が発生する。このため、高温ベーキング時には磁石を取り外す必要があり、非常に不便である。
【0047】
この問題を避けるために、ポンプの真空容器内にヒータを組み込んだり、カードリッジに電流を流したりするポンプも開発されているが、熱は真空容器の壁5aを介して磁石に伝導されるので、ベーキングの温度が制限されることは同じである。また、真空容器の外側に配置される板状磁石と鉄ヨークが断熱壁の役目をして熱がこもるため、ベーキングを切った後の温度の下がりが非常に遅いことも問題である。
【0048】
以上の説明をまとめると、従来の冷陰極電離真空計やこの真空計から派生したマルチ冷陰極電離真空計、及び類似の構造のスパッタイオンポンプに存在する問題点は次のようになる。
【0049】
(1)特許文献2に係る陰極を通電によって500℃以上に加熱する冷陰極電離真空計では、有機物などの汚染物質から陰極を保護する構成になっていない。
【0050】
特に、最近の真空装置では、真空モータ、ソレノイド、位置検出計など有機絶縁物で製作された電気部品が真空容器内に取り付けられるため、有機絶縁物、例えばシリコンゴムなどからはシロキサン、有機機械部品からは熱可塑性樹脂の可塑剤として添加されるフタル酸、アジピン酸などが蒸気となって放出され、真空計を汚染する。市販されている図1、2、3の冷陰極電離真空計を用いた場合、最悪1日程度で放電が停止してしまうという問題が発生する。汚染分子が電離真空計内に飛び込むと、その汚染分子は電子衝撃を受けて分解、イオン化し、陽イオンとなって陰極2、2a、2bに到達する。陰極2、2a、2bに到達した汚染物質(分解分子)は電子を受け取って中性になるが、ラジカル状態にあるから次々と飛び込んでくる汚染物質同士と重合反応を起こし高分子化して陰極2、2a、2b表面に堆積し、電気を通しにくい被膜を形成する。これにより、後から飛来する陽イオンは陰極2、2a、2bに流れ込みにくくなるため、感度が低下する。更にその被膜が厚くなると、最悪の場合、その被膜により放電が停止ししたり、放電が起動しないなどの問題が発生する。
【0051】
また、陽極は円筒状であり、この陽極の温度は上記汚染物質が吸着しても再蒸発させる温度にはなっていないので、陽極表面にも上記汚染物質が堆積し、不導体膜を形成する。
【0052】
この問題点のほかに、以下のような問題点もある。
【0053】
(2)特許文献2に係るスパッタイオンポンプでは、チャンバ内の圧力を計測する構成となっていない。
【0054】
(3)特許文献2及び従来型のイオンポンプおよび冷陰極電離真空計では、超高真空領域で増大してくる電界放出電流を計測しているため、正しい圧力計測を行うことができない。
【0055】
(4)図4に示した特許文献2のスパッタイオンポンプでは、陰極2a、2bが金属で製作されているため、汚染物質が強酸化性のガス分子(例えば酸素、オゾン、ハロゲン、ハロゲン化物)であった場合、陰極2a、2bは容易に酸化されてしまい、金属酸化物の被膜が形成されてしまう。金属酸化膜は通常は不導体であることが多く、これにより放電が停止してしまう。従って、このような環境では、スパッタイオンポンプとしての機能が果たせないばかりか、冷陰極電離真空計として圧力計測を行うことも不可能である。
【0056】
(5)特許文献2に係る図5に示した陰極2a、2bを500℃以上に通電によって加熱するマルチセルを有するスパッタイオンポンプでは、陰極2a、2bを500℃に活性化するとき、陰極2a、2bの熱膨張により、陰極2に歪みが生じて、陽極電極や真空容器壁と接触を起こし、動作不能になってしまう。また、スパッタされた原子が支持部材4を導体に変えてしまい、計測された圧力値の信頼性を著しく損なう問題が発生している。
【0057】
(6)特許文献2のマルチセル型スパッタイオンポンプでは、圧力が10-7Pa以下になると、電界放出電流が大きくなってポンプが作動しているか否かを確認できなくなり、また圧力測定も出来なくなる。
【0058】
(7)スパッタイオンポンプではベーキングに耐える磁石として、キュリー点の高いアルニコや、サマリウムコバルト希土類磁石を使わなくてはならない。前者は減磁され易く、後者は非常に高価である。また、比較的安価なフェライトではベーキングの温度の上限が200℃程度に制限されるのが問題であり、磁界が弱いので磁石を厚くする必要が生じ、ポンプ全体の重量が非常に大きくなる。比較的に安価で最強の磁界を利用できるのはネオジウム希土類磁石であるが、この磁石はキュリー点が低く100℃以上の温度では使用できないので、スパッタイオンポンプの磁石としては使用実績が少ない。この磁石を採用する場合は、ベーキング時には磁石を外すことが前提となる。
【0059】
以上の経緯を勘案して、以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0060】
(第1の実施形態)
図9は、本発明の第1の実施形態に係る単セル型の電離真空装置の模式図である。その電離真空装置はペニング型のスパッタイオンポンプとしても、冷陰極電離真空計としても用いることができる。図10は、図9のII-II線に沿う断面図である。
【0061】
図9に示す第1の実施形態の電離真空装置では、ペニングセルが真空容器13内に収納されている。この電離真空装置は、フランジ(図示せず)を有し、このフランジを介して、真空中で処理を行う真空処理装置の真空容器(被排気真空容器)に取り付けられる。
【0062】
ペニングセルでは、非磁性材料で構成された真空容器13内に、円筒状の陽極11が配置され、かつ陽極11の円筒の2つの開口端に対向し、上下から陽極11を挟むように板状の陰極12a、12bが配置されている。
【0063】
真空容器13は開口部を有し、その開口部に同軸となるように筒状の高圧2重同軸真空端子51が挿入されている。高圧2重同軸真空端子51は内外2つの同軸円筒と内側円筒の最中心に配置された端子51aとで構成され、これらはセラミック51bにより互いに絶縁されている。真空容器13と高圧2重同軸真空端子51の外側円筒は溶接され、真空容器13は接地されている。
【0064】
上記真空容器13の外側には、陰極12aと12bの間に挟まれた陽極11の円筒内に円筒の軸に並行する磁界を発生させるための永久磁石16a、16bが配置されている。永久磁石16a、16bの外側には永久磁石16a、16bを繋ぐ閉磁気回路を形成する強磁性体のヨーク17が配置されている。閉磁気回路は、図10に示すように、下部の永久磁石16b→(真空容器13、下部の陰極12b、陽極11、上部の陰極12a、真空容器13)→上部の永久磁石16a→ヨーク17→下部の永久磁石16bという経路で形成される。
【0065】
ペニングセルの陽極11は、高圧直流電源(放電用電源)19のプラス極(正極)の出力端子に接続されている。高圧直流電源19のマイナス極(負極)の出力端子は、放電電流を計測するための電流計20を介して接地されている。陽極11から高圧直流電源19への配線14cは高圧2重同軸真空端子51の端子51aを通して行われている。陽極11には高圧直流電源19から通常2乃至5kVの正の直流電圧が印加される。
【0066】
上部の陰極12aは一端が配線14aにより高圧2重同軸真空端子51の内側円筒を介して交流電力を供給する加熱用電源18の一方の出力端子に接続され、下部の陰極12bは一端が配線14bにより真空容器13に接続され、そこからさらに延長して加熱用電源18の他方の出力端子に接続されている。上部の陰極12a及び下部の陰極12bの他端同士は真空容器13の内部で配線によって相互に接続されている。以上により、上部の陰極12a及び下部の陰極12bは加熱用電源18に対して直列に接続されることになる。
【0067】
上部の陰極12a及び下部の陰極12bは加熱用電源18に対して直列接続されているため、上部の陰極12a及び下部の陰極12bに加熱用電源18から交流電力が供給されることにより、陰極12a、12bの電気抵抗により電力が消費され、陰極12a、12b自身が発熱する。
【0068】
さらに、図示してはいないが、陰極12a、12bの表面温度を200℃以上で、かつ陰極12a、12bから熱電子の放出が起こらないような温度範囲内に保つように加熱用電源18による加熱を制御するマイコンなど制御装置(制御手段)を備えている。なお、マイコンなどの制御装置によらなくても手動で加熱用電源18による加熱を制御することもできる。
【0069】
加熱する温度の下限を200℃とする理由は、特に200℃を越えたあたりから500℃にかけて、計測誤差となる残留ガス分子及び汚染物質の陰極への吸着が減少することが実験により確かめられたためである。
【0070】
なお、陰極12a、12bの温度を上げて熱電子を放出した場合は、電子レンジに使用されているようなマグネトロン発振器のようなマイクロ波発生現象が起こるとともに、熱陰極マグネトロン真空計のような熱陰極型電離真空計になってしまう。
【0071】
陰極12a、12bの材料は、比較的抵抗の高い導電材料が用いられる。導電材料として、冷陰極電離真空計としての機能を重視する場合は、耐腐食性を考え、例えば、白金、イリジウム、或いはこれらの少なくともいずれか一を含む合金のうちいずれか一や、酸化レニウム焼結体のような導電性酸化物や、黒鉛のような非金属の導電体などを用いることができる。スパッタイオンポンプを主体にして冷陰極電離真空計としての機能を持たせる場合は、チタン、タンタル、ハフニウム、ジルコニウム、非蒸発型水素吸着材などを用いることができる。非蒸発型水素吸着材は、例えば、ジルコニウム・アルミニウム合金84Zr-16Alのバルクゲッタと称される合金材を用いることができる。なお、陽極11の材料も陰極12a、12bの材料と同じものを用いることができる。さらに耐腐食性金属材料としてインコネルやハステロイなどのニッケル合金を用いても良い。即ち、陽極11,陰極12a,12bに使用可能な材料はここに挙げた金属と限らず、電気伝導体で、非磁性の真空に使用できる材料であれば、どのような材料であってもかまわない。ただし、ペニング型の図8の陰極12a,12bに限っては、強磁性体の純ニッケルなどを用いることも可能である。この場合は磁性の発散を防ぐことが可能になり、ペニングセル内の磁界が強くなり、より大きな効果が期待できる。
【0072】
次に、加熱用電源18及び高圧直流電源19の構成について説明する。
【0073】
加熱用電源18及び高圧直流電源19は、一つの交流源21から2つに分岐された2対の配線にそれぞれ接続された、降圧トランスを含む電源回路、及び別の昇圧トランスを含む電源回路によって構成される。加熱用電源18は、一方の分岐配線が降圧トランスの一次側にスイッチS1を介して接続されたその降圧トランスで構成される。また、高圧直流電源19は、他方の分岐配線が昇圧トランス19aの一次側にスイッチS2を介して接続されたその昇圧トランス19aと、昇圧トランス19aの二次側に昇圧トランス19aと並列に接続されたコンデンサ19bと、昇圧トランス19aとコンデンサ19bとの間に直列に挿入された整流用ダイオード19cとで構成される。昇圧トランス19bは高静電シールドされている。これにより、交流電源からのリーク電流があった場合、電流計20にこのリーク電流が流れ込まないようにしたものである。
【0074】
次に、上記構成の電離真空装置の動作を説明する。
【0075】
上記電離真空装置においては、陰極12a、12bの表面温度を200℃以上で、かつ陰極12a、12bから熱電子放出を起こさないような温度範囲内に保った状態で、陽極11と陰極12a、12bの間に直流電圧を印加し、かつ磁場Bを利用して陰極12a、12bの間の陽極1の円筒内に持続放電を発生させて、スパッタイオンポンプとしての働きを持たせながら、その放電電流Iiを測定することによって真空容器13内の圧力を測定する。
【0076】
放電により、陰極12a、12bの間に挟まれた陽極11の円筒内には、気体分子の一部が電離し、イオンと電子が発生する。イオンは重いためあまり磁界の影響を受けず、陽極11と陰極12a、12bの間に生成した電界により陰極12a、12bに引かれる。陰極12a、12b表面ではイオンとの間で電荷交換が行われ、プラス電流として回路中の実線で示した+印に付した矢印方向に電流が流れる。これに対して、電子は磁界の働きによって空間内に閉じ込められ、容易には陽極11に達しないで、空間内に雲のように溜まる(電子雲という)。勿論、一部の電子は過剰なエネルギーをもらって、陽極11に流れ込むものもあるが、僅かである。
【0077】
このようにして、主にイオン電流Iiを測定することによって真空圧力を測定することが可能となる。
【0078】
なお、電子には強電界により陰極12a、12bだけでなく真空容器13壁からも飛び出す電子があり、電子雲を形成せず直接陽極11に流れ込むものがある。これを電界放出電流Ifと称し、図9ではこの電子の流れを破線(−印に付した矢印方向に流れる)で示す。図12(a)は図9の等価回路である。図12(a)中、符号12は、陰極12a、12bを直列に接続して構成された陰極全体を示す。
【0079】
図9及び図12(a)の測定回路によれば、電流計20にはイオンに基づく電流Iiと、電子に基づく電流Ifの両方を含んで計測されることになる。電界放出電流Ifは超高真空領域になると無視できなくなるので、図9の構成により測定できる圧力の下限はIiが無視できる10-7Pa程度にとどまることになる。
【0080】
したがって、超高真空領域における圧力も測定したい用途の場合、別途説明する第2の実施形態に示す構成をとることが好ましい。
【0081】
以上のように、本発明の第1の実施形態に係る電離真空装置においては、真空容器13内に陽極11と陰極12a、12bとを備え、さらに、陰極12a、12bを加熱するための加熱用電源18と、陰極12a、12bの表面温度を200℃以上で、かつ陰極12a、12bが熱電子放出を起こさないような温度範囲内に保つように加熱用電源18による加熱を制御する制御装置とを備えている。
【0082】
このような装置構成により、陽極11と陰極12a、12bの間に放電用の電圧を印加してガス放電を起こさせ、圧力測定又は排気を行っているときに、陰極12a、12bを昇温し、陰極12a、12bを昇温する、特に、200℃以上の温度範囲内に昇温することにより、陰極12a、12bに到達した汚染物質及び汚染物質イオンを、陰極12a、12b表面から速やかに離脱させることができる。これにより、陰極12a、12b表面に高分子絶縁膜が形成されるのを防止することが可能になるので、陰極汚染による感度の低下、及び放電停止を防止することができる。それによって、安定、かつ高精度な圧力測定が可能になる。
【0083】
また、図9の陰極12a、12bの加熱温度の上限は、陰極12a、12bから熱電子が発生しない温度以下に抑えられているため、ベアード−アルパート(BA)型電離真空計の熱陰極フィラメントの加熱温度(1200℃以上)に比べて、低い(1000℃以下)。しかも、陰極12a、12bは板状であるため、昇温中に断線する心配は全くない。
【0084】
更に、陰極12a、12bの加熱温度の上限が、陰極12a、12bから熱電子が発生しない温度範囲に抑えられているため、陰極12a、12bから熱電子が放出されることが無く、従って、陽極11と陰極12a、12bの2電極で構成される放電現象を擾乱せずに、気体放電電流を計測することが可能となる。これにより、汚染の影響を受けず、長期間にわたり安定で、信頼性の高い圧力測定を行うことが可能となる。
【0085】
また、陰極12a、12bの構成材料として、酸化物焼結体などの導電性酸化物や導電性セラミックを用いることにより、酸素やオゾンなどの酸化性ガス中で動作させたとしても、酸化物である陰極の酸化は進行しない。即ち、これまでの金属製の陰極を備えた冷陰極電離真空計では酸化物の形成による感度の低下、及び放電停止によって圧力計測が不可能であった圧力被測定雰囲気中でも、酸化物焼結体などの導電性セラミックを用いることにより、酸化物の形成による感度の低下、及び放電停止を防止することによって、安定、かつ高精度な圧力測定が可能になる。
【0086】
また、陰極12a、12bの構成材料として、黒鉛を用いた場合はハロゲンガスやハロゲン化合物の汚染ガスとの反応が起こりにくく、長期間にわたって安定で信頼性の高い圧力測定が可能である。
【0087】
なお、本発明の第一の実施形態に係る電離真空装置は、他の真空装置のチャンバ(真空容器)に接続し、そのチャンバ内を減圧したり、チャンバ内の圧力を計測したりするために用いられる。他の真空装置は、例えば、電子顕微鏡、表面分析装置、イオン注入機、スパッタ装置、エッチング装置、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置、加速器などが該当する。以下に説明する実施形態に係る電離真空装置も同様である。
【0088】
(第2の実施形態)
図11は、第2の実施形態に係る電離真空装置の構成を示す模式図である。図12(b)は図11の等価回路である。図11及び図12(b)の構成は、超高真空領域における圧力測定を含む場合に、陽極11と陰極12a、12bの間に流れる放電電流から電界放出電流Ifを除去するために有効な構成である。
【0089】
図11の構成において、図9の構成と相違する点は、図9では陰極12a、12bをそれぞれ真空容器13及び高圧2重同軸真空端子51を介して(一方が接地されている端子を介して)加熱用電源(加熱手段)18に接続しているが、図11では陰極12a、12bを真空容器13と高圧2重同軸真空端子51を介さずに加熱用電源18に直接接続(接地しないで)していること、及び、その陰極12a、12bに接続する対の配線14a、14bのうち一方の配線14aが気体放電電流を計測する直流電流計20のプラス側に接続され、直流電流計20のマイナス側を接地していることと、高圧直流電源19の負側は直接接地されていることである。
【0090】
その他の構成については、符号52は2芯電流導入端子で、外囲円筒と円筒内に配置された2つの端子52a、52bとで構成されている。これらはセラミック52cにより相互に絶縁されている。端子52aは配線14aに接続され、端子52bは配線14bに接続されている。符号53は高圧真空端子で、外囲円筒と円筒中心に配置された1つの端子53aとで構成されている。これらはセラミック53bにより相互に絶縁されている。端子53aは配線14cに接続されている。2芯電流導入端子52及び高圧真空端子53の外囲円筒は接地電位に置かれている。その他の構成は、図9、図10と同じであり、図11において、図9、図10の構成要素と同じ構成要素は図9、図10と同じ符号で示す。
【0091】
この構成の電離真空装置において、陽極11と陰極12a、12bの間に流れる放電電流から電界放出電流Ifを除去することができる理由について、図11及び図12(b)を参照して以下に説明する。なお、図12(b)中、符号12は、陰極12a、12bを直列に接続して構成された陰極全体を示す。
【0092】
真空容器13壁から飛び出した電界放出電子が直接陽極11に流れ込んだ場合、これによる電流(電界放出電流Ifと称し、図11ではこの電子の流れを破線(−印に付した矢印方向に流れる)で示す。)は、陽極11−高圧真空端子53(端子53a)−高圧直流電源19−接地−真空容器13−陽極11という経路で流れる。この場合、陰極12a、12bは、接地して使用される真空容器13やその他真空容器13内の真空部品に接続されておらず、さらには2芯電流導入端子52の端子52b及びトランス18に接続した電流計20を経由して接地されているため、この経路には電界放出電流Ifは流れない。
【0093】
一方、接地を介して陽極11と陰極12a、12b(12)の間に印加された高圧直流電圧によりガスが電離して生成された正イオンは、陰極12a、12b(12)で電荷交換される。陰極12a、12b(12)で生成されたイオンに基づく電流Ii(回路中の+印に付した矢印方向に流れる)は、陰極12a、12b(12)−2芯電流導入端子52(端子52b)−電流計20−接地−高圧直流電源19−高圧端子53a−陽極11−陰極12a、12b(12)という経路で流れる。
【0094】
以上のように、第2の実施形態に係る電離真空装置では、陰極12a、12bに真空容器13を接続せずに陰極12a、12bに加熱用電源18及び電流計20を直接接続することにより、陽極11と陰極12a、12bの間に流れる放電電流から電界放射電流Ifを除去することができる。さらに、電流計20は高圧真空端子53から切り離されているので、継続使用に伴って高圧真空端子53の高圧ケーブル(明示せず)の絶縁性が低下してリーク電流が発生したとしても、電流計20には流れ込まないので、常に精度の高いイオン電流計測が可能になる。
【0095】
これにより、真空容器13内の圧力が超高真空領域に達したときに、高精度の圧力測定を可能にしながら、陰極12a、12bを独立に昇温したり、活性化しながらスパッタイオンポンプとして働かせ、且つ冷陰極真空計としての機能を果たせることができる。
【0096】
また、図9の実施形態では高静電シールドの信頼度が高く、高価な高電圧電源19が必要であるが、図11の実施形態では交流電源21からのリーク電流が有ったとしても、電流計20にこのリーク電流は流れ込まないので、特別な静電シールドを施した高圧電源は必要としないメリットがある。即ち高圧直流電源19の価格を低く抑えることが出来る。
【0097】
さらに、第2の実施形態の電離真空装置においても、第1の実施形態と同じように、陰極12a、12bを加熱するための加熱用電源18と、陰極12a、12bの表面温度を200℃以上、熱電子を放出しない温度範囲内に保つように加熱用電源18による加熱を制御する制御装置とを備えているため、真空容器13内のガスを放電させて圧力測定中又は排気中に陰極12a、12bを加熱してその表面温度を200℃以上、熱電子を放出しない温度範囲内に保つことにより、陰極12a、12b表面に高分子絶縁膜が形成されるのを防止することが可能になる。これにより、陰極汚染による感度の低下、及び放電停止を防止することによって、安定に、かつ高精度な圧力測定が可能になる。
【0098】
また、陰極12a、12bの加熱温度の上限は、熱電子を放出しない程度であり、しかも、陰極12a、12bは板状であるため、昇温中に断線する心配は全くない。
【0099】
さらに、陰極12a、12bから熱電子が放出されることが無いため、陽極11と陰極12a、12bの2電極で生成される放電を擾乱せずに、放電電流を計測することが可能となる。これにより、汚染の影響を受けず、長期間にわたり安定で、信頼性の高い圧力測定を行うことが可能となる。
【0100】
(第1及び第2の実施の形態に係る電離真空装置の性能調査)
図20の様な実験用真空排気装置を用いて、図9と図11の実施の形態に係る電離真空装置について性能調査を行った。
【0101】
図20において、符号107が被計測用のチャンバ108に接続された試験用電離真空装置で、図9又は図11に示す加熱用電源18と、高圧直流電源19と、電流計20とを備えている。また、チャンバ108には、試験用真空デバイス107内のガス成分を調べる計測器(四重極質量分析計)100と、試験用真空デバイス107内の圧力を1×10-10Paまで測定できるエクストラクター型電離真空計(1×10-10Paまで測定できる熱陰極型電離真空計)101とが接続されている。さらに、チャンバ108には、排気速度を計るために設けられた別のチャンバ109がガス流量を制御できるオリフィス103を介して接続されている。チャンバ109には、排気系ポンプ106と、チャンバ109内の圧力を測るBA型電離真空計102とが接続され、さらにガス調整バルブ104を介してテストガスボンベ105が接続されている。
【0102】
このシステムの到達真空度は2×10-9Paであり、到達真空度での残留ガス成分は90%以上が水素である。
【0103】
試験用真空デバイス107として図9の実施形態の電離真空装置を用い、調査では、直径が15mmで高さが12mmの陽極11と、厚さ0.1mm、幅10mmのタンタル板からなる陰極12a、12bとを備えたものを用いた。
【0104】
最初に、磁界の強さを0.2T(テラス)にセットした。チャンバ108及び試験用真空デバイス107をベークした後に、試験用真空デバイス107内の真空圧力は2×10-9Paに到達した。この状態から試験用真空デバイス107の高電圧電源19を5kVにセットしてみたが気体放電電流は流れなかった。
【0105】
テストガスボンベ105からチャンバ108に窒素ガスを導入して圧力を上昇させたところ、約2桁高い5×10-7Paに達したところで初めて放電電流が流れた。それ以上の圧力では、気体放電電流は圧力にほぼ比例し、その比例関係は10-1Paまで続いた。これにより、図9に示したのと同じ形式の試験用真空デバイス107は、5×10-7Paから10-1Pa間の圧力範囲の真空計として働くことを確認することができた。
【0106】
次に、試験用真空デバイス107を再びベークし、真空圧力が2×10-9Paに到達したところで、スイッチS2を閉じたところ、同じく放電は起こらなかった。
【0107】
そこで、スイッチS1を閉じて陰極に加熱用電力を供給したところ、約3秒間で、約800℃に達し、放電が始まった。このときエクストラクター真空計の圧力は10-7Paまで一旦上昇したが、3秒後にスイッチS1を切ったところエクストラクター真空計の圧力は元の3×10-9Pa圧力まで下がり、放電はそのまま持続した。ただし、この状態での放電は電界放出電流が混入するため不安定で、測定された電流は2〜5×10-10Aの間でランダムに変動した。
【0108】
この状態から純窒素ガスを導入すると5×10-8Pa当たりから放電が安定し、試験用真空デバイス107は冷陰極真空計として動作することが確かめられた。
【0109】
以上のように、超高真空領域において放電が停止状態であったとしても、陰極にパルス状の加熱用電力を与えて昇温させることにより、放電を確実に再スタートさせ得ることが実験により確かめられた。即ち、冷陰極真空計として不具合となっていたものを、陰極へのパルス通電加熱により再スタートさせ得ることを実証することが出来た。
【0110】
次に、図11に示す、高圧真空端子53と陰極加熱用2芯電流端子52を分離独立させた電離真空装置(試験用真空デバイス107)の性能調査を行った。用いた高圧電源19は静電シールドを行っていない汎用型である。
【0111】
まず、チャンバ108を通して試験用真空デバイス107内を排気し、真空度が2×10-9Paに到達した状態で、高圧直流電源19の出力電圧を5kVに設定しておき、S1を閉じて陰極を加熱し、陰極の活性化を行った。これにより、試験用真空デバイス107で放電が容易にスタートし、電流計20では3×10-10Aの電流値を示し、非常に安定な計測が可能であった。その後の窒素ガス導入に伴う電流計20の指示は、圧力にほぼ比例して上昇し、0.1Paまでの範囲で、安定な真空計として動作することを確認することができた。
【0112】
以上のように、図11に示す電離真空装置によれば、10-9Paの超高真空領域でも確実に放電を起動させることが可能であり、圧力が10-9Pa台から0.1Paの広帯域な範囲で、電界放射による誤差を最小にして高精度の圧力計測を可能ならしめる電離真空計及びスパッタイオンポンプを提供できることを確認することができた。
【0113】
(第3の実施形態)
図13は、第3の実施形態に係る逆U字型構造の陰極を有する単セル型の電離真空装置の電極を含むセル201の構成を示す斜視図である。セル201以外の構成は、図9又は図11の構成と同じとする。なお、図13のような電極構造を有する単セル201はマグネトロンセルとも称される。この電離真空装置は、何れもマグネトロン型のスパッタイオンポンプ及び冷陰極電離真空計の少なくとも何れか一として使用できる。
【0114】
図13に示す電極において、図11と異なるところは、陰極12cを、細長い板状の陰極材料をU字に曲げて、2つの端子とこれら2つの端子が接続された先端部を含む逆U字型構造とした点と、陽極11の円筒外の下方にスパッタ防止板31を備えている点である。
【0115】
陽極11は図11と同じ円筒状を有する。最も汎用性の高い中程度の排気速度(0.05 m3/s〜0.1 m3/s)のポンプで、最も汎用性の高い規格フランジICF152に適合したスパッタイオンポンプを実現するためには、陽極11の形状は円筒状で、その外径Dを20mm以上、50mm以下とし、高さをD/3以上、D以下とすることが望ましい。これは、第1及び第2の実施形態の陽極11にも適用することができる。
【0116】
陰極12cは、陰極12cの逆U字型構造の対称軸を円筒状陽極11の中心軸に略一致させて、2つの端子と先端部の間の部分が陽極11の円筒の内部に納まるように設置されている。陰極12cは、さらにその陽極11の円筒外の下方では2つの端子の部分を互いに反対方向に横に折り曲げた構造になっている。
【0117】
陰極12cに真空容器外部から電流を供給して活性化する場合、一般的なICF034サイズのフランジに埋め込まれたφ2.3mm×2本の銅線の真空端子を介して電流が供給される。この銅線に流せる最大電流は50A程度となるため、陰極がチタン板の場合、50Aで最低500℃の温度を得るためには、その断面積は5mm2以下が必要である。一方、ポンプとしての実用性から0.5mm2以上が好ましい。結局、陰極の導電材料の断面積は、0.5mm2以上、5mm2以下が望ましい。なお、500℃よりも低い温度を得たい場合は、電流を減らせばよい。
【0118】
スパッタ防止板31は、図13に示す電極を有する電離真空装置をポンプとして動作させて、陽極11の円筒内で陰極材料のスパッタが激しく起こったときに、スパッタされた陰極材料が飛来して陰極12cの両端部の横に折り曲げた保持絶縁部分に付着するのを防止するものである。スパッタ防止板31は、その陽極11の円筒外の下方であって、陰極12cの横に折り曲げた部分よりも上側に設けられている。すなわち、スパッタ防止板31に形成された開口部(穴)31aに陰極12cが挿入され、陰極12cの2つの端子と先端部の間の部分が陽極11の筒の中に納まり、かつ2つの端子がスパッタ防止板31に対して陽極11と反対側にくるように置かれている。
【0119】
スパッタ防止板31は、陰極12cの横に折り曲げた部分の上に取り付けられた絶縁セラミックワッシャ(支持部材)32によって陽極11側とは反対側の面を支持されている。絶縁セラミックワッシャ32は、スパッタされた陰極材料がスパッタ防止板31の裏側の最も到達しにくい位置に設けることが望ましい。これにより、陰極材料のスパッタが起こったときでも絶縁セラミックワッシャ32の絶縁性を確保することができる。このことは、スパッタイオンポンプとして活用する場合に排気性能の信頼性を保ち、冷陰極電離真空計として活用する場合に圧力測定値の信頼性を保つ上で重要なことである。
【0120】
なお、陽極11の形状は円筒状に限らず、六角形や四角形の筒状であってもよい。また、陰極12cは板状の材料を加工したものに限らず、線材をU字形状に曲げたものであってもよいし、図17に示す陰極12dのように片側の開口端が塞がった円筒状パイプを他方の開口端側から途中まで切り込みを入れた構造のものであってもかまわない。
【0121】
次に、図13の単セルを複数並べたマルチセル型の電離真空装置について図14を参照して説明する。図14は、図13の単セルを複数並べたマルチセル型の電離真空装置の模式断面図である。
【0122】
図14のマルチセル型の電離真空装置は、5個のセル201を横1列に並べた構造を有する。その真空デバイスでは、隣接する陽極11同士を接触させ、溶接して直列接続している。一方、陰極は、板状の長い導電材料を5箇所で逆U字状に折り曲げて形成されており、5個の逆U字型構造12cが直列接続された構成を有する。陰極は、5個の逆U字型構造12cの各対称軸がそれぞれ一列に並んだ5個の陽極の円筒の中心軸に略一致するように、かつ5個の逆U字型構造12cそれぞれの2つの端子と先端部の間の部分が陽極11の円筒の内部に納まるように設置されている。さらに、各陽極11の下部開口端を覆うようにスパッタ防止板31が設けられている。スパッタ防止板31には、5個の逆U字型構造12cの端子よりも上の部分をスパッタ防止板31を介して5個の陽極11にそれぞれ挿入することができるように、開口部31aが形成されている。
【0123】
5個の逆U字型構造12cが直列に接続されてなる陰極の両端は、引き出し配線14a、14bに接続され、端子52a、52bを介して真空容器13とは絶縁を保って真空容器13の外に引き出されている。陰極の両端と引き出し配線14a、14bとの接続部はともにスパッタ防止板31の裏側に配置されている。また、一体化された陽極11は別の引き出し配線14cにより、端子53aを介して真空容器13とは絶縁を保って真空容器13の外に引き出されている。
【0124】
陰極加熱用電源と高電圧電源は図11と同じ電源回路を用い、それらの電源回路の電離真空装置への接続方法も図11と同じとする。
【0125】
なお、図14の電離真空装置を特にマルチセル型マグネトロン型スパッタイオンポンプとして用いる場合には、更に排気能力を高めるため、セル数は5個に限らず、5個よりも多い数とすることができ、またこのセルの一団を複数組並べることも可能である。要するに、各陽極11内に陰極の各逆U字型構造12cが設置され、それらの逆U字型構造12cが通電により一斉に加熱可能な状態に設置されていれば、各セル201の配置や形状は特定のものに限定されるものではない。
【0126】
以上述べたように、図13及び図14の電離真空装置によれば、陰極に電流を流して陰極を昇温したとしても、昇温による陰極の逆U字型構造12cの伸びは、図13に示すように、逆U字型構造12cの対称軸方向nに伸びることになるから、特にマルチセル型の場合、伸びによる陽極11との接触の心配がない。
【0127】
また、スパッタ防止板31の裏側であって、陽極11内で陰極のスパッタが起こる領域から最も離れている位置に絶縁セラミックワッシャ32が配置されている。この構成から、2つの効果を得ることができる。
【0128】
第1に、スパッタ防止板31の裏側における陰極の伸びに関しては、陰極の昇温時において、スパッタ防止板31の裏側の陰極は絶縁セラミックワッシャ32によってスパッタ防止板31から断熱されているため、その部分の上昇温度は、スパッタ防止板31より上の陰極部分の上昇温度より低くなり、そのため、スパッタ防止板31の裏側における陰極の伸びは小さい。また、同じ材料ではあっても折り曲げたスパッタ防止板の裏の部分の陰極材料の板の幅を広くすれば、幅の広い部分の抵抗は小さくなり、発熱が抑えられ、それに伴って伸びも抑えられる。このため、2つの端子の接触を避けつつ、逆U字型構造12cの図13に示したU字の幅mを狭く設計をすることが可能になる。第2に、電離真空装置を真空ポンプとして動作させたとき、陰極材料のスパッタが激しく起こっても、スパッタされた陰極材料が絶縁セラミックワッシャ32まで到達しにくく、陰極との絶縁性を保ってスパッタ防止板31を支持することができる。これにより、電離真空装置をスパッタイオンポンプとして用いる場合、又は冷陰極電離真空計として用いる場合に、排気能力や圧力測定値の信頼性を保つことができる。
【0129】
また、第3の実施形態に係る電離真空装置においても、セル201以外の構成は、図11と同じ構成を有するため、第2の実施形態と同じように、陰極12cを加熱するための加熱用電源18と、陰極12cの表面温度を200℃以上、熱電子を放出しない温度範囲内に保つように加熱用電源18による加熱を制御する制御装置とを備えているため、圧力測定中又は排気中に陰極12cを加熱してその表面温度を200℃、熱電子を放出しない温度範囲内に保つことにより、陰極12c表面に高分子絶縁膜が形成されるのを防止することが可能になる。これにより、陰極汚染による感度の低下、及び放電停止を防止することによって、安定に、かつ高精度な圧力測定が可能になる。
【0130】
さらに、陰極12cから熱電子が放出されることが無いため、陽極11と陰極12cの2電極で生成される放電現象を擾乱せずに、放電電流を計測することが可能となる。これにより、汚染の影響を受けず、長期間にわたり安定で、信頼性の高い圧力測定を行うことが可能となる。
【0131】
また、スパッタイオンポンプとして用いた場合は、特別な効果を期待することが可能になる。即ち、本発明のマグネトロン型スパッタイオンポンプを作動させる前に、補助ポンプとして図20の排気システム106がカットバルブ(明示せず)を介してチャンバー108に取り付けられ、略10-3Pa程度まで減圧される。その後において図11のスイッチS2がオンにされ、スパッタイオンポンプを作動させるが、この予備排気の時に逆U字型陰極に電流を流し、活性化するわけであるが、スイッチS2を入れないでスイッチS1だけを投入してやることにより、前工程で吸蔵していたガスを陰極から追い出すことが可能である。このときはスパッタイオンポンプとしては働いていないので、U字型陰極材料からの熱電子放出が起こる温度以上に昇温しても、問題は起こらない。さらには、この昇温により高い輻射熱がセル内に放射され、陽極を含め、真空容器13内の多くのポンプ構成材料が昇温される。即ち、陰極の活性化と共に、ベーキング操作が短時間に、効果的に行うことが可能である。この操作のベーキングの後、ある程度温度が下がったところで、補助排気系のバルブを閉じ、その後においてスイッチS2をオンにすれば、容易に超高真空を達成できることになる。
【0132】
また、次のような効果も期待することが可能である。超高真空領域に達した状態での残留ガスの主成分は水素になり、スパッタイオンポンプとしてのその排気速度は殆ど無くなってしまう。しかし、本発明のマグネトロン型スパッタイオンポンプでは、逆U字陰極部分だけを特別高い温度に昇温することが可能であるから、例えば逆U字形状陰極にチタン金属を用いた場合、1300℃程度まで加熱すれば、10-3Pa程度の蒸気圧でチタン原子を円筒陽極内側面に蒸発させることが可能であり、チタンサブリメーションポンプとしての機能を持たせることも可能である。これ以上の蒸気圧を求める場合は、逆U字型の部分を高融点金属であるタングステン線とチタン線の縒り線で製作すれば、可能である。このようなチタンサブリメーションポンプとしても、その逆U字型陰極の端子のセラミック支持部はスパッタ防止板の裏側であり、該セラミック部の温度を低くする本発明の構成を図ったからにほかならない。
【0133】
(第3の実施形態に係る電離真空装置の性能調査)
次に、図14の電離真空装置の性能調査とその調査結果について説明する。
【0134】
性能調査に用いた電離真空装置では、図13の陽極11の代わりに、図19(a)のような形状の陽極11aを用いた。陽極11aは、図11(a)に示すように、厚さ0.3mmのステンレスのパンチメタルの板を直径30mm、高さ17mmの円筒に丸めて作製した。そして、8個の陽極11aを円筒側面でスポット溶接により直列に接続し、その8個の陽極11aの一群を3列並べて合計24個の陽極群とした。本調査では図19(a)のような形状の陽極11aを用いたが図19(b)の様な形体の陽極11bであってもよい。
【0135】
一方、陰極は、厚さ0.4mm、幅6.6mm、長さ約600mmの細長い純チタンの板を、間隔及び配置を陽極群の配置に合わせて、U字の幅mを約5mmとしてU字状に折り曲げ、24個の逆U字型構造12cを一連としたものを用意した。この陰極は、真空中で、電圧40V、電流37Aを印加したときに、約1分間で逆U字型構造12cの部分を約1200℃まで昇温することができることを確かめた。
【0136】
スパッタ防止板31は、厚さ0.4mmの幅100mm、長さ300mmの純チタンの板製のもので、陽極群の各陽極11aごとに陰極の逆U字型構造12cを立てる位置に10mm×10mmの方形穴を24個空けたものを用いた。
【0137】
そして、陽極群の下にスパッタ防止板31を配置し、スパッタ防止板31の穴からそれぞれ陰極の逆U字型構造12cを挿入して、マルチセルを構成した。
【0138】
また、上記マルチセルを取り付ける真空容器13は図14と同じものを用い、磁石16a、16bには厚さ20mm、幅100mm、長さ240mmの板状のネオジウム希土類磁石を用いた。最も強い中心部分の磁界は0.4T(テラス)と強力である。また、磁石16a、16bの外周にヨーク17を設けて磁石16a、16bを経由する閉磁気回路を構成した。
【0139】
電源回路は、図11に示すものと同じものを用い、図11と同じ配線接続を行い、電離真空装置を構成した。
【0140】
その他の構成については、図11と同じであり、図14において、図11の構成要素と同じ構成要素は図11と同じ符号で示す。
【0141】
性能調査は、図20の実験用真空排気装置に上記の電離真空装置を試験用真空デバイス107として装着して行った。性能調査では、窒素及びアルゴンに対する排気速度と測定可能な真空圧力とを調査した。
【0142】
性能調査では、まず、複数回排気テストを行い、安定させた後に、チャンバ108及び試験用真空デバイス107のマルチセルについてベーキングを行ったところ、ベーキング前に比べてチャンバ108内での到達真空は低くなり、1×10-9Paが得られた。到達真空圧が低くなったのは、排気テストを行ったとき、チタンがスパッタされ、以前にも増してイオンポンプの水素にたいする排気速度が増したためと考えられる。
【0143】
この到達真空圧の状態にあるチャンバ108と繋がるチャンバ109内に最初に純窒素ガスを徐々に導入し、109内の圧力P2の上昇に伴う108の圧力上昇P1を測定して、排気速度S=C(P2/P1-1)という流量測定の関係式から、試験ポンプの排気速度Sを求めてグラフにすると、図21のような結果が得られた。ここでCはオリフィスのコンダクタンスで、その値は1×10-3m3/sである。図21の中のN2の曲線に示すように、窒素に対する最大排気速度は1×10-5Pa付近にあり、その値は0.2(m3/s)と非常に大きい。従来のイオンポンプにおいて同程度のセル数のスパッタイオンポンプの排気速度は0.06〜0.07(m3/s)であるから、約3倍の排気速度を有することになる。
【0144】
次に、アルゴンに対して行った排気速度の測定結果を同じ図21の中のAr曲線に示す。図21に示すように、最大の排気速度は10-7Paから10-5Paの圧力範囲にあり、その排気速度は0.12(m3/s)と窒素のそれ(0.2(m3/s))の60%にも及び、従来のスターセルポンプ(米バリアン社製)より10%も大きいことがわかる。これと同程度の排気性能を従来のイオンポンプに求めるには、排気速度が窒素に対して400〜600 m3/s以上のスパッタイオンポンプでなければ得られないから、本発明の効果が非常に大きいことがわかる。
【0145】
このように本実施形態の電離真空装置における優れた性能はとりもなおさず、陰極を逆U字型構造12cにするとともに、この逆U字型構造12cを直列に接続して一斉に通電加熱を行い、その後において、真空デバイスをポンプとして動作させる機構を取り入れたからに外ならない。
【0146】
次に、図20の実験用真空排気装置にガスを導入したときの圧力Pの上昇に対するイオン電流Iiの変化の様子を図22のグラフに示す。
【0147】
このグラフより明らかなように、アルゴンと窒素についてともに電流計の指示(イオン電流値)は10-9Paから10-3Paまでの広い圧力範囲で圧力に対してほぼ比例しており、冷陰極電離真空計としての圧力測定精度も非常に高いことが分かる。
【0148】
また、グラフから予想される1×10-9Paにおける放電電流におけるイオン電流(電流計の指示)は略1nA(1×10-9A)であるから、通常の熱陰極型電離真空計から得られる電流値は同じ圧力で1〜2×10-13Aであり、その電流値は1万倍も高いことになり、真空度計測のための電流計測は非常に容易になり、計測器の製作を安価に行える。
【0149】
また、10-9Paまで直線性を維持できていると言うことは、逆U字型構造12cの陰極を真空容器13から絶縁してこの電極に流れ込むイオン電流だけを電流計で直接読めるようにしたことによる効果であり、真空容器13壁からの電界放射電流が、電流計に入らなくしたことによる効果である。
【0150】
(第4の実施形態)
図15は本発明の第4の実施形態に係る電離真空装置のセル202の構造を示す断面図であり、図16は同じく斜視図である。このセル構造を有する真空デバイスは、10-8Pa以下の圧力に対しても大きな排気速度を実現し得るようにしたもので、図13の変形例である。特に、マグネトロン型スパッタポンプとして有効であり、チャンバ内が圧力の低い水素分圧だけになった時に威力を発揮する。
【0151】
このセル202の電極構造は、陰極12cの逆U字型構造の空間に、円柱状のNEG焼結体22を配置したものである。なお、図15中、符号23は、逆U字型構造の先端部にNEG焼結体22を固定するボルトであり、32は、スパッタ防止板31と陰極の横に折り曲げられた端子の間に介在する絶縁セラミックワッシャ(支持部材)であり、34は、絶縁セラミックワッシャ32とともに陰極の横に折り曲げられた端子を挟む絶縁セラミックナットであり、33は、スパッタ防止板31と絶縁セラミックワッシャ32と陰極の横に折り曲げられた端子と絶縁セラミックナットとを締め付けて固定する絶縁セラミックボルトである。
【0152】
なお、このセル202を備えた電離真空装置の他の構成は、図9又は図11の構成と同じとし、陰極12cの加熱用電源18と、放電用電源19を有する。
【0153】
図17も図15と同一原理の本発明に係る逆U字型陰極12dの構成である。NEG焼結体22は円筒状の陰極に最小限の露出で囲まれており、イオン化された原子によるスパッタによるNEG焼結体22のダメージが最少に抑えられる。
【0154】
このような構成により、この電離真空装置を真空ポンプとして動作させる前の補助排気の段階に於いて、陰極12c、12dに通電をして温度800〜1000℃に加熱し、その後に、高電圧を印加して真空ポンプとして動作させる。この時の昇温により、NEG焼結体22も陰極12c、12dとともに昇温することができるため、陰極12c、12dの活性化とNEG焼結体22の活性化(水素放出)とを同時に行うことができる。
【0155】
その後、略室温まで温度が下がったときには、NEG焼結体22は積極的に水素ガスを吸収することが出来るようになり、従来のようなノーブルポンプとしてスパッタイオンポンプとNEGポンプを別々にチャンバ内に配置したときと同じ効果を、本実施形態では、1つの電離真空装置で得ることが可能になる。
【0156】
また、第2の実施形態と同様に、ガスを放電させて圧力測定中又は排気中に陰極12c、12dを加熱してその表面温度を200℃、熱電子を放出しない温度範囲内に保つことにより、陰極12c、12d表面に高分子絶縁膜が形成されるのを防止することが可能になる。これにより、陰極汚染による感度の低下、及び放電停止を防止することによって、安定に、かつ高精度な圧力測定が可能になる。
【0157】
さらに、陰極12c、12dから熱電子が放出されることが無いため、陽極11と陰極12c、12dの2電極で生成される放電を擾乱せずに、放電電流を計測することが可能となる。これにより、汚染の影響を受けず、長期間にわたり安定で、信頼性の高い圧力測定を行うことが可能となる。
【0158】
なお、図15の陰極の逆U字型構造12cの代わりに、図17に示すように、片側の開口端が塞がった円筒状パイプを他方の開口端側から途中まで切り込みを入れた構造12dのものを用い、その中心に円柱状のNEG焼結体22を設置することで、より効果的なNEG焼結体の昇温が可能になる。
【0159】
(第5の実施形態)
図18は、本発明の第5の実施形態に係る電離真空装置のセル構造を示す断面図である。このセル構造を有する真空デバイスは、第4の実施形態と同様に、10-8Pa以下の圧力に対しても大きな排気速度を実現し得るようにしたもので、図15の変形例である。図18中、図15と同じ符号で示すものは、図15と同じものを示す。
【0160】
このセル203の電極構造は、板状のNEG焼結体24を陰極に組み込んだもので、スパッタ防止板31の裏側で陰極の逆U字型構造12cの横方向に曲げた2つの端子にNEG焼結体24をコートした金属板を用いた構造を有し、NEG焼結体24により、水素を排気することができるようにしたものである。
【0161】
陰極の逆U字型構造12cの横方向に曲げた2つの端子にNEG焼結体24をコートした金属板を用いているため、陰極の活性化のために陰極を昇温するとき、同じ通電電流を流して、NEG焼結体24を加熱し、NEG焼結体24の最適な温度まで上昇させることが可能である。最適な温度の調整は、例えば、NEG焼結体24がコートされた金属の種類によってその板厚と幅を調整することにより、NEG焼結体24がコートされた金属板の抵抗値を調整することで行うことが可能である。NEG焼結体24には500〜600℃で活性化できる低温タイプがあるので、これを使えば陰極12cとNEG焼結体2に温度差を付けることが可能である。
【0162】
この構成により、電離真空装置を真空ポンプとして動作させる前に、真空中でNEG焼結体24を略500℃に昇温し、陰極12cを1000℃に温度差を付けて活性化することができるため、第4の実施形態と同様に、水素に対する排気速度が増し、容易に10-8Pa以下の極・超高真空を得ることができる。
【0163】
また、NEG焼結体24はスパッタ防止板31の裏側で、且つスパッタイオン衝撃を全く受けない部分に配置されているので、長期に亘って安定に動作させることが可能になる。
【0164】
さらに、NEG焼結体24は水素吸収に伴って大量のメタンを発生するが、ポンプとして働く電極近くでの発生であるため、メタン分子は直ちに排気され、メタン分子による被排気系への影響を防止することができる。
【0165】
また、第5の実施形態に係る電離真空装置のその他の構成は、第4の実施形態と同じ構成を有するので、第5の実施形態に係る電離真空装置でも第4の実施形態と同様な効果を有する。
【0166】
(第6の実施形態)
図19(a)、(b)は、第6の実施形態に係る電離真空装置の陽極構造を示す斜視図である。
【0167】
第6の実施形態に係る真空デバイスの陽極構造は、図19(a)、(b)に示すように、陽極11a、11bを単なる円筒ではなく、円筒側面に円形状の開口部28aや四角形状の開口部28bを設けたパンチメタル構造とした。これによって、円筒側面を通してガスが流れるようになるため、排気コンダクタンスを増大させることができる。従って、入口の狭いフランジを介して真空デバイスを真空容器内に設置した場合でも、フランジの入口面積によって排気コンダクタンスが制限されることなく、排気速度の向上を図ることができる。上述した実験によれば、図19(a)、(b)に示す構造の陽極11a、11bを採用した第3の実施形態の真空デバイスでは、窒素に対する排気速度が従来の3倍も大きい排気速度の実験結果を得ることが出来た。
【0168】
なお、陽極の構造は、図19(a)、(b)に示すものに限られない。円筒側面が金網で構成されたものでもよい。要は、陽極の円筒側面を通してガスが流れるようにしたものであれば、その方法は限定されるものではない。
【0169】
また、この陽極の構造は、第3の実施形態の真空デバイスだけではなく、その他の実施形態の真空デバイスにも適用可能である。
【0170】
(第7の実施形態)
図23は、第7の実施形態に係る、分散型磁石を用いた電離真空装置を示す断面図である。図24(a)は、図23のIII-III線に沿う断面図であり、同図(b)は分散型磁石の構成を示す斜視図である。この分散磁石型電離真空装置は、特にスパッタイオンポンプとして用いると有効である。
【0171】
第7の実施形態に係る真空デバイスでは、セル201を挟む磁石26a〜26dをセル201ごとに分散して設け、かつ漏洩磁束を低減するためのヨーク17を設けたこと、及びネオジウム磁石を使いながら高温ベークを可能ならしめる空冷機構を有することを特徴としている。セル201は、図13のセル201と同じものを用いている。また、セル201を挟む磁石26a〜26dは、円環状の磁石を用いているが、円柱状の磁石を用いてもよい。さらに、第7の実施形態に係る真空デバイスのその他の構成は、図11及び図14の構成と同じとする。
【0172】
以下に、各構成について説明する。
【0173】
(i)第1に、セル201を挟む磁石26a〜26dをセル201ごとに分散して設け、且つ漏洩磁束を低減するためのヨーク17を設けた構成について
磁石26c、26dの配置上、両端に厚さが厚い円環状磁石26c、26dを設け、一方、両端よりも中に配置されている磁石26a/26bには、ヨーク17と同じ強磁性体のスペーサ27a/27bの下駄を履かせて高さを揃え(図24(b)では、磁石26b/スペーサ27bで代表する)、その外側に、図24(a)に示すように、断面がカタカナのロの字形状のヨーク17を設ける。
【0174】
分散型磁石を設けることにより、セル201内に最適な磁界を形成できるとともに、磁界の不均一を解消することができる。また、閉磁気回路が形成されるため、漏洩磁束を最小にできる。したがって、効率よく排気速度を増大させることができる。
【0175】
(ii)第2に、ネオジウム磁石を使いながら高温ベークを可能ならしめる空冷機構について
図23に示すように、ヨーク17の一端を絞って、その絞った所17aに送風機41を配置する。
【0176】
ヨーク17の端に取り付けた送風機41で矢印の様な風を送れば、それによって、空気は、ヨーク17と真空容器13の間の磁石26a/26b、26c/26dの隙間、及びフランジ13bとヨーク17の隙間を通過して矢印の方向に流れ出る。これにより、磁石26a/26b、26c/26dが空冷されるため、セル201の加熱により真空容器13が昇温されたとしても、磁石26a/26b、26c/26dの温度の上昇が抑制されて、磁石の磁性の消失や減磁を防ぐことが可能になる。また、本発明の真空デバイスでは、陰極12cへの通電により、陰極12c、陽極11及びスパッタ防止板31は勿論、真空容器13の内壁が陰極12cからの輻射熱で昇温するため、ガス放出の原因となる部分を効率良くベーキングすることが可能である。
【0177】
以上述べたように、第7の実施形態によれば、セル201内に最適な磁界を形成できるとともに、磁界の不均一を解消することができるため、また、漏洩磁束を最小にできるため、効率よく排気速度を増大させることができる。
【0178】
さらに、セル201の陰極12cへの通電による加熱により最適のベーキングが可能であり、かつベーキングを行いながらも磁石26a/26b、26c/26dの昇温を抑えることが可能であるため、安価で最強のネオジウム磁石を用いることが可能である。また、閉磁気回路を形成するヨーク17の採用により軽量化が実現し、真空デバイスを被排気装置に直に取り付けることが可能である。即ち、従来のポンプのようにヨークを支える架台を準備しなくて良いことになる。
【0179】
このように、図23の真空デバイスは真空ポンプとして特に有効である。
【0180】
さらに、図23の構成において、図19(a)、(b)の陽極11a、11bを適用し、さらに、図11の回路構成を適用することにより、高精度の冷陰極真空計として圧力計測が可能となる。
【0181】
また、第7の実施形態に係る電離真空装置のその他の構成は、第3の実施形態と同じ構成を有するので、第7の実施形態に係る電離真空装置でも第3の実施形態と同様な効果を有する。
【0182】
(第8の実施形態)
図25は、第8の実施形態に係るリング状の陽極11dを板状陰極12a、12bで挟んだ電極構成の電離真空装置を示す模式図である。図26は、図25の電極構成を詳細に示す斜視図である。この電離真空装置は、汚染物質が飛来する真空装置の圧力を計測する冷陰極電離真空計として用いる場合に威力を発揮させることができる。
【0183】
即ち、図25において、リング形状の陽極11dは、図26に示すようなリングの一部を切除したC字型になっており、その両端には配線14c、14dが接続され、真空容器に溶接された2芯高圧真空端子54の端子54a,54bを介して陽極加熱用電源29を構成する高圧絶縁トランスの2次側に接続されている。リング状の陽極11dは、例えば、直径1mm程度のタンタル線を直径18mm程度のリング状に丸めて形成するとともに、その両端の間隔を2mm程度離す。この場合、リング状の陽極11dの両端に接続された配線14c、14dに1V、20A程度の電力を印加することで、陽極を温度800〜1000℃に加熱することが可能である。2芯高圧真空端子54は図11の2芯電流導入端子52と類似の構成を有する。
【0184】
陰極12a、12bは、厚さ0.1mm程度で、幅10mm程度のタンタル板を、図26のように、コの字形状に曲げてその対向する板の間隔が10mmになるように形成した。この陰極の場合、2V、30A程度の電力を印加することで、温度800〜1000℃に加熱することが可能である。このコの字形状の陰極12は2芯電流導入端子52の端子52a、52bを介して、陰極加熱用電源18を構成するトランスに接続される。2芯電流導入端子52は図11の2芯電流導入端子52と同じ構成を有する。
【0185】
交流電源21の電圧を適当に調整することにより、或いはトランス18の出力を調整することにより、陽極11d及び陰極12a、12bの温度をそれぞれ200℃以上であって、陰極から熱電子が発生しない温度範囲に昇温することが可能である。昇温の方法は、S1だけをオンにして陰極12a、12bだけを昇温しても良く、また、S2だけをオンにして陽極11dだけを昇温しても良く、また、同時に行っても良い。
【0186】
S1だけをオンにした場合は、先に述べた実施形態と同じになり、イオン電流を計測する側の陰極12a、12b表面には、汚染物質の分解イオンが飛来しても、その温度を高くして再蒸発させることが可能になるので、重合反応の進行を抑えることができる。
【0187】
さらに、この実施形態では、スイッチS2を単独でオンにして、陽極11d自体を1000℃程度に加熱することが可能である。このため、放電前に中性状態で陽極11dに付着した汚染物質も容易に再蒸発させることが可能になる。これにより、放電中に発生した過剰なエネルギを持った電子も容易に陽極11d表面に到達することが可能であるから、放電は安定になり計測精度は保たれる。
【0188】
また、放電中に陽極11d表面への電子衝撃により、陽極11d表面で汚染物質の分解と再結合が起こり、これによって陽極11d表面に高分子の絶縁膜が形成されたとしても、それを容易に高温分解する(炭化する)ことができるため、真空計としての信頼性を回復させることが容易である。
【0189】
さらに、両方のスイッチS1、S2をオンにした場合は、陽極11d及び陰極12a、12bの温度を汚染物質の吸着しにくい略500℃に保つことが可能になり、真空計としての信頼性はさらに増す。
【0190】
また、上記の陽極11dや陰極12a、12bの加熱による高温分解により陽極11dや陰極12a、12bの表面に残る炭化物を容易に処理するためには、陽極11dや陰極12a、12bの構成材料を耐腐食性のある、例えば、インコネルやハステロイで製作することが好ましい。すなわち、陽極11dや陰極12a、12bの表面に残る炭化物はそのまま放置すると感度が落ちてしまう。これまでは、大きな装置に取り付けている場合、一端運転を止めて、真空計を外してサンドペーパーで磨く必要があった。これに対して、インコネルやハステロイの陽極11dや陰極12a、12bでは、酸素を流すことにより、陽極11dや陰極12a、12bに付着した炭化物を燃やすことが容易になり、真空計としての信頼性を復活させることが可能である。このように、酸素ガスのクリーニングだけで容易に炭化物が処理できるという効果は、量産工場等の真空計として重要である。
【0191】
以上、実施の形態によりこの発明を詳細に説明したが、この発明の範囲は上記実施の形態に具体的に示した例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の上記実施の形態の変更はこの発明の範囲に含まれる。
【0192】
例えば、上記実施形態では、交流電力を供給する加熱用電源18を用いているが、代わりに直流電力を供給する加熱用電源を用いてもよい。
【0193】
また、上記第1及び第2の実施の形態に係る電離真空装置の性能調査では、予備加熱と起動用放電のための加熱をともに行っているが、予備加熱だけでもよいし、起動用放電のための加熱だけでもよいし、或いは両方行わなくてもよい。
【0194】
また、複数のセルで構成された真空デバイスにおいて、上記実施形態では、陽極11及び陰極12a、12b、12cをそれぞれ直列接続しているが、それらがそれぞれ並列接続されていてもよい。並列接続の場合も、直列接続と同じように、同時にすべての陰極12a、12b、12cを加熱することができる。
【0195】
また、陰極として、板状部を有する陰極12a、12b、及び逆U字型構造の陰極12cを用いているが、図2に示すような棒状の陰極を用いることもできる。また、逆U字型構造の陰極12cを上下逆さまにした構成も本願発明に含まれる。よって、逆U字型構造の陰極12cは、U字型構造の陰極も含む概念である。
【0196】
また、予備加熱は、連続的に電力を加えてもよいし、断続的(パルス的)に電力を加えてもよい。
【0197】
また、起動用放電のための加熱は、断続的(パルス的)に電力を加えて行っているが、連続的に電力を加えて行ってもよい。
【0198】
また、図25及び図26の陽極はリング状で、陰極は板状部を有する構成であるが、前記陽極が棒状で、前記陰極が筒状である図3に類似の構成、或いは、前記陽極が逆U字形状であり、前記陰極が筒状である図13に類似の構成であってもよい。
【0199】
さらに、図25及び図26は電極が単セルであるが、図14や図23のようにマルチセルを構成することも可能である。マルチセルの場合、図23のように、分散型磁石を用いた構成であってもよいし、ファンによる空冷が可能な構成であってもよい。また、水素吸収能力を高めるため、図15乃至図17のような円柱状のNEG焼結体を配置してもよいし、リング状、棒状、或いは逆U字形状の陽極について、図18のようにNEG焼結体を表面塗布した電極構造としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0200】
本発明は、真空技術が不可欠な半導体産業、各種薄膜の成膜産業、表面分析機器、電子顕微鏡などの各種商品開発、生産技術、更には加速器科学など基礎研究部門等に用いられる真空装置の圧力計測に使用される冷陰極電離真空計及び圧力測定方法や、真空ポンプにおいて利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0201】
【図1】関連技術のペニング型冷陰極電離真空計の模式図である。
【図2】関連技術のマグネトロン型冷陰極電離真空計の模式図である。
【図3】関連技術の逆マグネトロン型冷陰極電離真空計の模式図である。
【図4】特許文献2における陰極加熱式スパッタイオンポンプの模式斜視図である。
【図5】(a)は、特許文献2における陰極加熱式マルチセル型スパッタイオンポンプの上面図であり、(b)は(a)の側面図であり、(c)は加熱調査後の陰極の状態を示す模式図である。
【図6】図5の構成を説明する斜視図である。
【図7】関連技術のマルチセル型スパッタイオンポンプの斜視図である。
【図8】図7のI-I線に沿う断面図である。
【図9】本発明の第1の実施形態である電離真空装置の構成について示す模式図である。
【図10】図9のII-II線に沿う断面図である。
【図11】本発明の第2の実施形態である電離真空装置の構成について示す模式図である。
【図12】(a)は図9の等価回路図であり、(b)は図11の等価回路図である。
【図13】本発明の第3の実施形態である電離真空装置のセル構造について示す斜視図である。
【図14】図13のセルを用いた、マルチセル型電離真空装置の構成について示す断面図である。
【図15】本発明の第4の実施形態である、非蒸発型水素吸着体(NEG)焼結体を備えた電離真空装置のセル構造について示す断面図である。
【図16】図15において、非蒸発型水素吸着体(NEG)焼結体を陰極に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図17】図13、図15及び図16における陰極の変形例について示す斜視図である。
【図18】本発明の第5の実施形態である電離真空装置において、非蒸発型水素吸着体(NEG)焼結体を陰極に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図19】(a)、(b)は、本発明の第6の実施形態である電離真空装置の陽極の変形例について示す斜視図である。
【図20】本発明の電離真空装置の性能調査に用いた真空排気装置の構成図である。
【図21】図14の電離真空装置における圧力と排気速度との関係を調査した結果について示すグラフである。
【図22】図14の電離真空装置における圧力に対するイオン電流の関係を調査した結果について示すグラフである。
【図23】本発明の第7の実施形態である、分散型磁石を備えた電離真空装置の構成について示す断面図である。
【図24】(a)は、図23のIII-III線に沿う断面図であり、(b)は図23の分散型磁石及びスペーサの形状と配置を示す斜視図である。
【図25】第8の実施形態に係るリング状の陽極を板状陰極で挟んだ電極構成の電離真空装置を示す模式図である。
【図26】図25の電極構成を詳細に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0202】
11、11a、11b、11d 陽極
12、12a、12b 陰極
12c、12d 陰極(逆U字型構造)
13 真空容器
13a 真空容器の開口部
13b フランジ
14a、14b、14c、14d 配線
16a、16b 磁石
17 ヨーク
18 降圧トランス(加熱用電源)
19 高圧直流電源
19a 昇圧トランス
19b コンデンサ
19c 整流ダイオード
20 直流電流計
21 交流電源
22 円柱状のNEG焼結体
24 NEG焼結体を塗布した陰極端子
26a、26b、26c、26d 分散型磁石(円環状磁石)
27a、27b スペーサ
28a 円形状の穴
28b 四角形状の穴
31 スパッタ防止板
31a スパッタ防止板の開口部
32 絶縁セラミックワッシャー(支持部材)
33 絶縁セラミックボルト
34 絶縁セラミックナット
51 高圧2重同軸真空端子
51a、52a、52b、53a、54a、54b 端子
51b、52c、53b、54c セラミック
52 2芯電流導入端子
53 高圧真空端子
54 2芯高圧真空端子
100 四重極質量分析計
101 エクストラクター型電離真空計
102 BA型電離真空計
103 オリフィス
104 ガス調整バルブ
105 テストガスボンベ
106 排気系ポンプ
107 試験用真空デバイス
201、202、203 セル
S1、S2 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、
前記真空容器内に設けられた陽極と、
前記真空容器内に設けられた陰極と、
前記陽極と前記陰極の間に放電用電力を供給する放電用電源と、
前記陰極に加熱用電力を供給する陰極加熱用電源と、
前記陽極と前記陰極の間の空間に磁場を形成する手段と
を有し、前記真空容器を他の真空容器に接続して該他の真空容器内の圧力を計測し、又は該他の真空容器内を排気する電離真空装置であって、
前記真空容器内のガスに放電を起こさせている間、前記陰極加熱用電源により前記陰極を加熱し、前記陰極の温度を前記陰極から熱電子が放出されない温度範囲内に保つ制御手段を有することを特徴とする電離真空装置。
【請求項2】
前記陽極は筒状であり、前記陰極は、前記陽極の筒の2つの開口端にそれぞれ対向する2つの板状部を有することを特徴とする請求項1記載の電離真空装置。
【請求項3】
前記陽極は筒状であり、前記陰極は、前記陽極の筒の内部に一部が納まるように配置された棒状であることを特徴とする請求項1記載の電離真空装置。
【請求項4】
前記陽極は筒状であり、前記陰極は、逆U字型構造を有し、かつ該逆U字型構造の一部が前記陽極の筒の内部に納まるように配置されていることを特徴とする請求項1記載の電離真空装置。
【請求項5】
前記陽極の筒の開口端を覆うように配置され、かつ前記陰極が挿入される穴が形成されたスパッタ防止板を有し、
前記陰極の逆U字型構造は該スパッタ防止板の穴を通して前記陽極の筒の中に挿入され、かつ該逆U字型構造の両端は該スパッタ防止板の下側に置かれていることを特徴とする請求項4記載の電離真空装置。
【請求項6】
前記スパッタ防止板は、該スパッタ防止板の下側で前記陰極との電気絶縁性を保って前記陰極に固定されていることを特徴とする請求項5記載の電離真空装置。
【請求項7】
前記陰極加熱用電源により前記陰極を加熱するときの前記陰極の温度は200℃以上であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の電離真空装置。
【請求項8】
前記陽極に加熱用電力を供給する陽極加熱用電源を備えていることを特徴とする請求項1記載の電離真空装置。
【請求項9】
真空容器と、
前記真空容器内に設けられた陽極と、
前記真空容器内に設けられた陰極と、
前記陽極と前記陰極の間に放電用電力を供給する放電用電源と、
前記陽極に加熱用電力を供給する陽極加熱用電源と、
前記陽極と前記陰極の間の空間に磁場を形成する手段と
を有し、前記真空容器を他の真空容器に接続して該他の真空容器内の圧力を計測し、又は該他の真空容器内を排気する電離真空装置であって、
前記真空容器内のガスに放電を起こさせている間、前記陽極加熱用電源により前記陽極を加熱し、所定の温度範囲に保つ制御手段を有することを特徴とする電離真空装置。
【請求項10】
前記放電用電源は、正出力端子が前記陽極と接続され、負出力端子が接地された前記真空容器を介して前記陰極に接続され、
前記真空容器内のガスの放電による電流を測定する電流計は、前記放電用電源に直列に接続されていることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の電離真空装置。
【請求項11】
前記陰極は、前記真空容器内のガスの放電による電流を測定する電流計を介して接地され、
前記放電用電源は、正出力端子が前記陽極に接続され、かつ負出力端子が接地されていることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の電離真空装置。
【請求項12】
前記陰極の材料は、導電性セラミック、導電性酸化物又は黒鉛のうちいずれか一の非金属であることを特徴とする請求項1乃至11の何れか一項に記載の電離真空装置。
【請求項13】
前記陰極の材料は、チタン、タンタル、ハフニウム、ジルコニウムの単体、或いはこれらのうち少なくともいずれか一つを含む合金であることを特徴とする請求項1乃至11の何れか一項に記載の電離真空装置。
【請求項14】
前記陰極の材料は、チタン、タンタル、ハフニウム、ジルコニウムの単体、或いはこれらのうち少なくともいずれか一つを含む合金であり、かつ前記陰極には、前記逆U字型構造の空間に非蒸発型水素吸着材が取り付けられ、或いは前記逆U字型構造の一部が該非蒸発型水素吸着材で構成されていることを特徴とする請求項4乃至7の何れか1項に記載の電離真空装置。
【請求項15】
前記陽極と前記陰極とで構成されるセルが複数配置されてなり、それぞれの前記セルの陽極は直列又は並列に接続されており、それぞれの前記セルの陰極は直列又は並列に接続されていることを特徴とする請求項1乃至14の何れか一項に記載の電離真空装置。
【請求項16】
前記陽極と前記陰極との間の空間に磁場を形成する手段は、前記陽極を挟んで前記真空容器外に置かれた一対の永久磁石であり、該一対の永久磁石は強磁性体ヨークにより磁気的に結合されて閉磁気回路を構成していることを特徴とする請求項1乃至15の何れか一項に記載の電離真空装置。
【請求項17】
前記強磁性体ヨークと前記永久磁石及び前記真空容器との隙間に空気の流れを作るファンを備えていることを特徴とする請求項16記載の電離真空装置。
【請求項18】
前記制御手段は、前記陽極と前記陰極の間に前記放電用電力を印加して前記真空容器内のガスに放電を起こさせる前に、前記真空容器内を排気しながら前記陰極及び前記陽極のうち少なくとも何れかの電極を加熱するように制御することを特徴とする請求項1乃至17の何れか一項に記載の電離真空装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2009−128276(P2009−128276A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305526(P2007−305526)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(503008974)有限会社真空実験室 (7)
【Fターム(参考)】