霊長類胚幹細胞からの神経幹細胞、運動ニューロン及びドーパミンニューロンのinvitroでの分化の方法
胚幹細胞を神経及び運動細胞へと分化させる方法が開示される。一実施の形態では、本発明は、初期ロゼット形態を特徴とし、且つSox1-/Pax6+である大多数の細胞を含む細胞の集団を、FGF2、FGF4、FGF8、FGF9又はRAの存在下で培養することを含み、ここで細胞は、神経管様ロゼット形態を特徴とし、且つPax6+/Sox1-である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2001年10月3日に出願された米国特許出願第09/970,382号(本明細書中に援用される)の一部継続出願であり、同様に2003年8月29日に出願された米国仮特許出願第60/498,831号(本明細書中に援用される)及び2003年9月2日に出願された米国仮特許出願第60/499,570号(本明細書中に援用される)に対して優先権を主張する。
【0002】
[連邦政府により後援される研究又は開発に関する記述]
本発明は、米国政府の後援を受けずに行われた。
【背景技術】
【0003】
[発明の背景]
ヒト幹細胞(ES)細胞は、着床前の胚の内細胞塊に由来する多分化能性細胞である(Thomson,J.A.,et al.,Science 282:1145-1147,1998)。マウスES細胞に類似して、ヒトES細胞は、様々な体細胞タイプの3つすべての胚葉へ分化するそれらの潜在性を維持しながら多数に増殖させることができる(上述のThomson,J.A.,et al.,1998;Reubinoff,B.E.,et al.,Nat.Biotech.18:399,2000;Thomson,J.A. and Odorico,J.S.,Trends Biotech 18:53-57,2000;Amit,M.,et al.,Dev.Biol.227:271-278,2000)。ES細胞のin vitroにおける分化は、初期発生の細胞上及び分子機構及び移植治療用の供与細胞の産生について、新たな展望を提供するものである。実際に、マウスES細胞は、造血細胞(Wiles,M.V. and Keller,G.,Development 111:259-267,1991)、心筋細胞(Klug,M.G.,et al.,J.Clin.Invest.98:216-224,1996)、インスリン分泌細胞(Soria,B.,et al.,Diabetes 49:157-162,2000)並びにニューロン及びグリア(Bain,G.,et al.,Dev.Biol.168:342-357,1995;Okabe,S.,et al.,Mech.Dev.59:89-102,1996;Mujtaba,T.,et al.,Dev.Biol.214:113-127,1999;Brustle,O.,et al.,Science 285:754-756,1999)を含む多くの臨床的に意義ある細胞型へin vitroで分化することがわかっている。げっ歯類中枢神経系(CNS)への移植後に、ES細胞由来の神経前駆体(precursor)は、宿主組織へ統合し、場合によっては、機能的改善をもたらすことがわかっている(McDonald,J.W.,et al.,Nat.Med.5:1410-1412,1999)。ヒトES細胞の臨床的用途は、特定の組織及び器官用の高度純度のドナー細胞の産生を要する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分化ヒトES細胞培養物からの移植可能な神経及び運動ニューロン前駆体の単離に関する簡素でさらには効率的な戦略が、当該技術分野で必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[発明の概要]
一実施の形態では、本発明は、胚幹細胞から培養され、初期ロゼット形態を特徴とし、且つSox1-,Pax6+である細胞の同調性集団を含む細胞の集団を創出する方法である。一実施の形態では、上記方法は、以下の:(a)胚幹細胞を胚様体へと増殖させる工程、及び(b)胚様体を神経管様ロゼットの形態の神経幹細胞の同調集団へと増殖させる工程(ここで、この増殖は、FGF2、FGF8、FGF4又はFGF9の存在下である)を含む。胚幹細胞の増殖から初期ロゼットの発達までの間の総期間が8〜10日であることが好ましい。Pax6+/Sox1-細胞の総集団(比率:population)は、総細胞集団の少なくとも70%であることが好ましい。
【0006】
本発明はまた、この方法により創出される細胞の集団である。
【0007】
別の実施の形態では、本発明は、神経管様ロゼット形態を特徴とし、且つPax6+/Sox1+である同調化した神経幹細胞の集団を創出する方法である。初期ロゼット形態を特徴とし、且つSox1-,Pax6+である細胞を、FGF2、FGF4、FGF8又はRAの存在下で4〜6日間培養する工程を含む方法。本発明はまた、この方法により創出される細胞の集団である。
【0008】
一実施の形態では、初期ロゼット細胞は、FGF8を用いて、好ましくは4〜7日間培養され、EN1+である。別の実施の形態では、細胞は、FGF2を用いて、好ましくは4〜7日間培養され、Bf1+である。別の実施の形態では、細胞は、RAを用いて、好ましくは4〜7日間培養され、Hox+である。
【0009】
別の実施の形態では、本発明は、上記の細胞をFGF8の存在下でSHHを用いて培養する工程を含む、中脳ドーパミンニューロンの集団を単離する方法である。得られる細胞は、TH、AADC、EN−1、VMAT2及びDATを発現するが、DbH及びPNMTを発現しない。本発明はまた、この方法により創出される細胞の集団である。
【0010】
別の実施の形態では、本発明は、上記の細胞をSHHを用いてRAの存在下で前述の細胞を培養する工程を含む、脊髄運動ニューロンの集団を単離する方法である。得られる細胞は、HB9、HoxB1、HoxB6、HoxC5、HoxC8、ChAT及びVAChTを発現する。本発明はまた、この方法により創出される細胞の集団である。
【0011】
別の実施の形態では、本発明は、上記の細胞をSHHを用いて培養する工程を含む、前脳ドーパミンニューロンの集団を単離する方法である。本発明はまた、この方法により創出される細胞の集団である。
【0012】
本発明はまた、正常なヒト神経発達に影響を及ぼす能力に関して作用物質をスクリーニングするための、上記の細胞集団を試験する方法である。
【0013】
本発明の他の目的、利点及び特徴は、明細書、特許請求の範囲及び図面を参照した後に明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[発明の詳細な説明]
本発明における出願人等は、ヒト胚幹細胞からのドーパミン(前脳及び中脳)並びに運動神経の発生方法を開示する。好ましい方法は概して、以下に、及び表1〜表3に記載される。
【0015】
具体的には、出願人等は、ES細胞から、胚様体中間体を通じて初期ロゼット(Pax6+/Sox1-)を分化させる方法を開示する。差次的処理(differential treatment)により、出願人等は、これらの初期ロゼットを、3つの異なる形態の神経管様ロゼットへ分化させることができ、続いて3つの異なる形態の神経管様ロゼットは、前脳ドーパミンニューロン、中脳ドーパミンニューロン又は運動ニューロンへの発達に適している。
【0016】
【表1】
【0017】
出願人等は、ドーパミン及び運動ニューロンを産生するための相1及び相2について記載している以下の表2について言及する。表2はまた、出願人等が適切な発達のマーカーであるとみなす様々な中間産生物についても記載している。
【0018】
【表2】
【0019】
上述のように、本発明は、2つの主な実施形態を包含する。1つの実施形態は、神経管様ロゼットの形態の神経幹細胞(又は神経上皮細胞)の同調集団の産生、及び神経上皮マーカーPax6、Sox1、ネスチン、Musashi−1の発現に関する手順である。本明細書中で使用する場合、「同調する」は、異種分化をもたらすRAにより誘導されるものに対比して、同じ発達段階にある細胞の集団を意味する。すなわち、培養物は、前駆体(progenitor)から分化ニューロンへの発達段階にある細胞を含有する。本発明の場合では、本発明者等は、初期段階にあるPax6+/Sox1-初期神経上皮細胞、又は後期段階にあるPax6+/Sox1+神経上皮細胞のいずれかを想定する。いずれの段階でも、本発明者等は、いかなる分化ニューロンも想定しない。この同調化された発生は、本願で記載されるように、特殊ニューロンへ直接の分化を可能にする。
【0020】
第2の実施形態は、特殊ニューロン(例えば、中脳ドーパミンニューロン、前脳ドーパミンニューロン及び脊髄運動ニューロン)への神経上皮細胞のさらなる分化方法である。
【0021】
以下の表3は、本発明の細胞を得る好ましい方法について記載している。表3は、類似した培養ブロスで置き換えることができる一般的な培養ブロス構成成分、並びに重要な成長因子及びタイミング構成成分の両方を包含する。出願人等が神経細胞培地について言及する場合、多くの培養構成成分が適切である。以下のセクションは、正確な分化に必要な培養構成成分を強調している。
【0022】
概して、適切な培地は、神経細胞を成長させるのに使用される任意の培地である。以下の参照文献(上述のBain,G.,et al,1995;上述のOkabe,S.,et al.,1996;上述のMujtaba,T.,et al.,1999;上述のBrustle,O.,et al.,1999;Zhang,S.-C.,et al.,J.Neurosci.Res.59:421-429,2000;Zhang,S.-C.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:4089-4094,1999;Svendsen,C.N.,et al.,Exp.Neurol.137:376-388,1996;Carpenter,M.K.,et al.,Exp.Neurol.158:265-278,1999;Vescovi,A.L.,et al.,Exp.Neurol.156:71-83,1999)は、同じか、又は類似した培地を使用している。
【0023】
1.ヒトES細胞からの神経上皮細胞(神経幹細胞)の分化
神経上皮細胞の産生は、初期コロニーの中心にある細胞が円柱状となり、且つロゼット形態へ体系化する(organize)場合に、4〜6日間の懸濁培養、続く成長因子、好ましくはFGF2又はFGF8の存在下で4〜5日間の付着培養における胚様体の形成に関与する(図1A、図4A、図9A、図9B)(Zhang,et al.,Nature Biotechnol.,2001を参照)。FGF4及びFGF9もまた、適切な成長因子である。
【0024】
これらのロゼットにおける円柱状細胞は、神経転写因子Pax6を発現するが、別の神経転写因子Sox1を発現しない(図9C、図9D)。本発明者等は、これらのロゼットが初期に出現して、管腔なしの円柱状細胞の単層により形成されるため、「初期ロゼット」と称する。あらゆる単一コロニーは、初期ロゼットを保有する。これらの初期ロゼットの総比率(total population)は、総細胞の少なくとも70%である。
【0025】
これらの初期ロゼットの4〜6日間のさらなる培養は、神経管様ロゼットの形成を招く(図1B、図4B、図9E)。神経管様ロゼットは、明らかな管腔を伴う円柱状細胞の多層により形成される。ロゼットにおける細胞は、Pax6のほかにSox1を発現する(図4C、図9F、図9G、図9H)。初期ロゼットから神経管様ロゼットへの進行には、本発明者等の無血清培養条件下で、10〜20ng/mlでのFGF2、FGF4、FGF8、FGF9又は0.001〜1μMでのRAの存在下で、約4〜6日かかる。
【0026】
ES細胞から神経管様ロゼットの形成への神経上皮分化のプロセスには、14〜16日かかる。ヒトES細胞は、5.5日齢のヒト胚に由来する(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)。したがって、本発明者等の培養系におけるヒトES細胞からの神経上皮細胞の発達は、ヒト胚において発達にかかる19〜21日に十分に匹敵する。正常なヒト発達では、神経管は、20〜21日目に形成される。したがって、ヒトES細胞からの神経上皮分化は、正常なヒト胚発達を反映する(Zhang,S.C.,J.Hematother.Stem Cell Res.12:625-634,2003)。
【0027】
形態変化及び明快な遺伝子発現パターンにより明らかであるような2段階の神経上皮発達は、先に記載されていない。Pax6及びSox1は、神経管がカエル、ゼブラフィッシュ、ヒヨコ及びマウスにおいて同時に形成される場合、神経上皮細胞により発現されることが示されている(Pevny,et al.,Development 125:1967-1978,1998)。したがって、本発明者等は、ヒトES細胞における神経上皮分化に沿った順次Pax6及びSox1発現の見解は新規であり、ヒトにとって特有であり得ると考える。Pax6+/Sox1−神経上皮細胞は、最古の神経上皮細胞を表し、したがってはるかに(far)同定されている。これらの細胞の機能的有意性は、初期ロゼットにおけるPax6+/Sox1−神経上皮細胞が前脳以外のニューロン保有位置的(carrying positional)アイデンティティー(例えば、中脳ドーパミンニューロン及び脊髄運動ニューロン)となるように効率的に誘導され得るが、神経管様ロゼットにおけるPax6+/Sox1+神経上皮細胞は、効率的に誘導され得ない(表1、上記を参照)という点で、本発明に関連している。
【0028】
あらゆる分化しているES細胞コロニーは、神経管様ロゼットを形成する。神経上皮細胞は、総分化した細胞の少なくとも70〜90%を表す。
【0029】
神経管様ロゼットの形態の神経上皮細胞は、低濃度のディスパーゼによる処理及び差次的接着により精製することができる(米国特許第09/960,382号に記載)。
【0030】
2.中脳ドーパミンニューロンの産生
潜在的な治療上の用途を有する機能的ニューロンは、ニューロンであることのほかに、少なくとも2つのさらなる特徴を保有しなくてはならない:特異的な位置的アイデンティティー並びに神経伝達物質を合成、放出及び取り込む能力。
【0031】
中脳ドーパミンニューロンを産生する際の第1の工程は、中脳アイデンティティーの誘導である。FGF8(50〜200ng/ml)による6〜7日間のPax6+/Sox1-初期ロゼット細胞の処理は、中脳転写因子エングレイルド1(En−1)及びPax2を発現し(図4E、図4F)、且つ前脳マーカーBf−1をダウンレギュレートする(図4D)前駆体への細胞の効率的な分化をもたらすが、Pax6+/Sox1+神経管様ロゼット細胞はもたらさない。
【0032】
第2の工程は、ソニックヘッジホッグ(SHH、50〜250ng/ml)の存在下で6〜7日間、続いて正規のニューロン分化培地(例えば、表3に記載するもの)中でさらに2週間、ドーパミンニューロンが発生するまで中脳前駆体を培養することである。好ましくは、総分化細胞の少なくとも35%が、ドーパミンニューロンとなる。
【0033】
好ましい分化培地は、表3に記載している。
【0034】
ドーパミンニューロンは、ドーパミンの合成を可能にするが、ノルエピネフリン又はネフリンへのさらなる代謝を可能にしないTH、AADCを発現するが、DbH及びPNMTを発現しない(図5)。
【0035】
ドーパミンニューロンは、中脳ドーパミンニューロン発達に必要とされる転写因子であるEn−1、ptx3、Nurr1及びLmx1bを発現する(図6A、図6B)。
【0036】
ドーパミンニューロンは、GABAを発現しない(図6C)。GABAとの共発現は、嗅球におけるドーパミンニューロンの特徴である。
【0037】
ドーパミンニューロンは、カルビンジンを発現しない(図6D)。カルビンジンとの共発現は、中脳の被蓋(tegamental)野におけるドーパミンニューロンの特徴である。
【0038】
総合して、上記特徴は、本発明者等の培養系で産生されるドーパミンニューロンが中脳ドーパミンニューロン、パーキンソン病において損失されるドーパミンニューロンである黒質のより綿密に類似した中脳ドーパミンニューロンである。
【0039】
ドーパミンニューロンは、ドーパミンニューロンの生存及び機能に必要とされる成長因子であるGDNFに対する受容体であるc−retを保有する(図7A、図7B、図7C)。
【0040】
ドーパミンニューロンはまた、ドーパミンの貯蔵及び放出に必要とされる輸送体であるVMAT2を発現する(図7D、図7E、図7F)。ドーパミンニューロンはまた、放出後のドーパミン取り込みに必要な輸送体であるDAT(図7G、図7H、図7I)を発現する。したがって、本発明者等の培養系において産生されるドーパミンニューロンは、伝達物質ドーパミンの合成、貯蔵、放出及び取り込みに必須の機構を保有する。
【0041】
ドーパミンニューロンは、シナプスの形成のためのシナプトフィジンを発現する(図7)。ドーパミンニューロンは、刺激に応答して、活動電位を興奮(誘発:fire)させることができ、ドーパミンを分泌することができる(図8)。したがって、ドーパミンニューロンは機能的である。
【0042】
3.脊髄運動ニューロンの産生
脊髄運動ニューロンを産生する際の第1の工程は、脊髄(仙骨)アイデンティティーの誘導である。RA(0.001〜1μM)で6〜7日間のPax6+/Sox1−初期ロゼット細胞の処理は、HoxB1、HoxB6、HoxC5、HoxC8のような脊髄転写因子であるHox遺伝子を発現するが、前脳マーカーであるOxt2及びBf−1又は中脳マーカーであるEn−1を発現しない(図11A、図11C、図11D、図11E)前駆体への細胞の効率的な分化をもたらすが、Pax6+/Sox1+神経管様ロゼット細胞はもたらさない(図10A)。
【0043】
第2の工程は、唯一腹側神経前駆体により発現される転写因子であるOlig2の発現から明らかであるような腹側化前駆体の特質を誘導するためにソニックヘッジホッグ(SHH、50〜250ng/ml)の存在下で6〜7日間、続いて正規のニューロン分化培地中でさらに7〜10日間、脊髄運動ニューロンが発生するまで脊髄前駆体を培養することである。
【0044】
好ましい分化培地は、表3に記載している。
【0045】
好ましい実施形態では、総分化細胞の少なくとも22%が、脊髄運動ニューロンとなる。運動ニューロンは、脊髄運動ニューロンにより特異的に発現される転写因子であるHB9、islet1/2及びLim3を発現する(図10)。運動ニューロンはまた、HoxB1、HoxB6、HoxC5、HoxC8を発現するが、前脳マーカーであるOtx2及びBf−1又は中脳マーカーであるEn−1は発現しない(図11A、図11C、図11D、図11E)ことから、運動ニューロンは脊髄運動ニューロンであることを示す。
【0046】
運動ニューロンは、運動ニューロン伝達物質アセチルコリンを合成するのに必要な酵素であるChATを発現する(図12A、図12B、図12C、図12D)。運動ニューロンはまた、VAChTを発現し(図12E)、運動ニューロンが、伝達物質アセチルコリンを貯蔵することができ、且つ取り込むことができることを示唆する。
【0047】
さらに、運動ニューロンは、シナプスの形成のためのシナプシン(図12F)を発現する。運動ニューロンは、活動電位を興奮させることができる(図13)。したがって、運動ニューロンは機能的である。本発明者等は、運動ニューロンが、HPLCにより分析されるように、アセチルコリンを放出することを示すデータを有する。
【0048】
4.前脳ニューロンの産生
別の実施形態では、本発明は、前脳ドーパミンニューロン、好ましくは神経系修復に適した移植可能な神経前駆体へと霊長類ES細胞(好ましくは、ヒトES細胞)を分化させる方法である。好ましくは、中脳ドーパミンニューロン産生に関して上述するような方法を開始するであろう。前脳ニューロンを産生するために、Pax6+/Sox1-細胞をFGF2でさらに4〜6日間処理した後、SHHで処理する。前脳ドーパミンニューロンを産生する際の工程及びドーパミンニューロンの特質を決定するための分析は、中脳ドーパミンニューロンに関して記載するものと同様である。主な差異は、特定の期間でのモルフォゲンの使用及びドーパミンニューロンの特徴である。
【0049】
前脳ドーパミンニューロンを産生する際の第1の工程は、中脳アイデンティティーの誘導である。FGF2(10〜20ng/ml)による6〜7日間のPax6+/Sox1−初期ロゼット細胞の処理は、前脳転写因子であるBf−1及びOtx2を発現する前駆体への細胞の効率的な分化をもたらす。
【0050】
第2の工程は、ソニックヘッジホッグ(SHH、50〜250ng/ml)の存在下で6〜7日間、続いて正規のニューロン分化培地中でさらに2週間、ドーパミンニューロンが発生するまで前脳前駆体を培養することである。総分化細胞の35%が、ドーパミンニューロンとなる。米国特許出願第09/970,382号から得た以下の説明は、好ましい方法について記載している。
【0051】
まず、霊長類ES細胞系、好ましくはヒトES細胞系を獲得して増殖させる。Thomson,J.A.,et al.,Science 282:1145-1147(1998)並びに米国特許第5,843,780号及び同第6,200,806号に記載される方法で、ES細胞(系)を得てもよいし、または、正常な核型(karyotype)を有しており、少なくとも11ヶ月、好ましくは12ヶ月間の連続培養後に未分化状態で増殖する能力を有するES細胞系を得るのに適した他の方法により、ES細胞(系)を得てもよい。胚幹細胞系はまた、培養全体にわたって、トロホブラスト(栄養芽細胞)を形成し、且つ3つ全ての胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)に由来する組織へ分化する能力を保持する。
【0052】
続いて、細胞を培養する。本発明の好ましい実施形態では、細胞は、好ましくは以下にまた上述のThomson,J.A.,et al.,1998並びに米国特許第5,843,780号及び同第6,200,806号に開示されるように、照射した哺乳類、好ましくはマウス胚線維芽細胞のフィーダー(支持)細胞層上で増殖させる。本発明者等はまた、細胞がフィーダー細胞層なしで増殖され得ることも想定する。
【0053】
ES細胞コロニーは通常、ディスパーゼによる処理により接着細胞から無傷で取り出され、以下に記載するように胚様体(EB)と呼ばれる浮動性ES細胞凝集体として懸濁液中で好ましくは4日間成長される。
【0054】
続いて、EBを、好ましくは20ng/mlでFGF2を含有する培地中で培養して、初期ロゼット細胞を産生する。培地の他の好ましい構成成分は、表3に記載している。しかしながら、多くの他の培地構成成分が適切である。概して、適切な培地は、神経細胞を成長させるのに使用される任意の培地である。以下の参照文献(上述のBain,G.,et al,1995;上述のOkabe,S.,et al.,1996;上述のMujtaba,T.,et al.,1999;上述のBrustle,O.,et al.,1999;Zhang,S.-C.,et al.,J.Neurosci.Res.59:421-429,2000;Zhang,S.-C.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:4089-4094,1999;Svendsen,C.N.,et al.,Exp.Neurol.137:376-388,1996;Carpenter,M.K.,et al.,Exp.Neurol.158:265-278,1999;Vescovi,A.L.,et al.,Exp.Neurol.156:71-83,1999)は、同じか、又は類似した培地を使用している。
【0055】
培地中のおよそ5日の培養後に、平板培養されたEBは、扁平な細胞の成長(outgrowth)を生み出し、7日目までには、中心小伸長細胞は、図1Bに見られるようなロゼット形成を生み出す。これらの形成は、初期神経管に類似している(図1Bの挿入図)。以下に記載するように、形態学により、又はネスチン及びMusahi Iのような神経マーカー抗原を用いた免疫蛍光分析により、神経前駆体の存在を確認し得る。好ましくは、神経前駆体は、総細胞の少なくとも72%、最も好ましくは少なくとも84%を構成する。
【0056】
以下で実施例に記載するように、好ましくは差次的酵素処理及び接着により、神経管様ロゼットをさらに単離し得る。簡潔に述べると、ディスパーゼによる処理は、中枢神経上皮島の優先的な脱離を招く。ロゼット細胞のクラスターを、周辺扁平細胞から分離するために、8〜10日間培養した分化EBを、好ましくは0.1〜0.2mg/ml ディスパーゼ(Gibco BRL,Lifetechnologies,Rochville,MD)とともに、37℃で15〜20分間インキュベートする。あるいは、0.2mg/mlのディスパーゼを使用してもよい。ロゼットクランプは退縮するのに対して、周辺扁平細胞は、接着したままである。この時点で、ロゼットクランプは、フラスコを揺らすことにより取り外され(dislodge)得て、扁平細胞は接着した状態のままである。クランプをペレット化して、5mlピペットで穏かに粉砕して、培養フラスコへ30分間平板培養し、混入している個々の細胞を接着させる。続いて、浮遊しているロゼットクランプを、好ましくは結合を妨げるためにポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)でコーティングされた新たなフラスコへ移して、ヒト神経前駆体で使用される培地中で、FGF2(通常20ng/ml)の存在下で培養する。以下で実施例に記載するように、ディスパーゼによる処理、続く差次的接着は、通常少なくとも90%で、最も好ましくは少なくとも96%で、神経前駆体細胞の高度に濃縮された集団を生じる。さらに、PSA−NCAMに対する抗体を使用した免疫分離のような他の方法を使用して、神経前駆体細胞を分離してもよい。
【0057】
以下の実施例は、ヒトES細胞由来の神経前駆体が3つすべてのCNS細胞型をin vitroで産生することができることを実証する。
【0058】
以下の表は、本発明の本実施形態の様々な態様のフローチャートである:
【0059】
【表3】
【0060】
別の実施形態では、本発明は、少なくとも72%、好ましくは84%の神経前駆体細胞を含む細胞集団である。これらの神経前駆体細胞は、ネスチン及びMusashi I陽性であることにより規定され得る。図1Bは、これらの細胞を特性化しているロゼット形成を示す。ロゼット形成とは、本発明者等は、細胞が円柱形状であり、管状(ロゼット)構造に整列され、身体中の神経管(発達中の脳)に類似していることを意味する。円柱状細胞形態及び管状構造は、図1Bの挿入図に示される。
【0061】
別の実施形態では、本発明は、少なくとも90%、好ましくは少なくとも96%の神経前駆体細胞を含む細胞集団である。好ましくは、以下で実施例に記載するように、差次的酵素処理及び接着後にこれらの細胞を得る。
【0062】
5.本発明の細胞集団の使用
特異的な伝達物質表現型及び特有の位置的アイデンティティーを有する特殊ヒトニューロン細胞型の産生は、神経障害における治療のための移植可能な細胞の供給源、例えばパーキンソン病のための中脳ドーパミンニューロン、精神的疾患のための前脳ドーパミンニューロン、脊髄障害及び運動ニューロン疾患(ALSを含む)のための脊髄運動ニューロンを提供する。
【0063】
ヒト胚幹細胞をまず神経上皮細胞へ、続いて特殊ニューロンへと指向性分化させるための段階的且つ化学的に規定される培養系の確立はまた、毒性及び治療剤のスクリーニングに前例のない新しい系を提供する。現在では、毒物学的及び治療用薬物のスクリーニングは、動物、動物細胞培養物又は遺伝的に異常なヒト細胞系を用いて実施される。ヒト胚幹細胞及び特殊ニューロン細胞へのそれらの分化は、ヒト神経発達の正常なプロセスを表す。したがって、本明細書中に記載する本発明は、正常なヒト神経発達に影響を及ぼす作用物質、又は異常な脳発達を潜在的にもたらす作用物質、並びに罹患状態におけるニューロン型の再生を刺激し得る作用物質をスクリーニングに適しているであろう。さらに、上述の系は、ドーパミンニューロンの死(パーキンソン病で見られるような)又は運動ニューロンの死(ALSで見られるような)を招く病理学的プロセスを模倣するように容易に修飾することができ、これらの疾患を治療するように設計される治療用作用物質をスクリーニングするのに有効に使用され得る。
【0064】
本発明のこの実施形態の好ましい方法では、本発明の細胞集団の1つを試験化合物に接触させて、かかる接触の結果を、接触させていない対照細胞集団と比較する。培養物の特徴を検査すること及びそれらを本出願内に含まれる既知の発達的特徴と比較することにより、特定の試験化合物が細胞集団に影響を及ぼしたかどうかを理解することができる。
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【実施例1】
【0069】
前脳ドーパミン作動性ニューロンの産生
結果
ヒトES細胞は、FGF2の存在下で分化して、神経管様構造を形成する。ヒトES細胞系であるH1、H9及びH9に由来するクローン細胞であるH9.2(上述のAmit,M.,et al.,2000)を、照射したマウス胚線維芽細胞のフィーダー細胞層上で増殖させた(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)。分化を開始させるために、ES細胞コロニーを剥離させて、胚様体(EB)として懸濁液中で4日間成長させた。続いて、EBを組織培養処理フラスコにおいて、FGF2を含有する化学的に規定される培地(Zhang,S.-C.,et al.,J.Neurosci.Res.59:421-429,2000;Zhang,S.-C.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:4089-4094,1999)中で培養した。FGF2は、Peprotech,Inc.,Rocky Hill,NJから入手した。FGF2中での5日の培養後に、平板培養されたEBは、扁平な細胞の成長をもたらした。同時に、小伸長細胞の数の増大が、分化EBの中心で観察された(図1A)。規定培地中で7日までには、中心小伸長細胞は、ロゼット形成を生み出し(generate)(図1B)、トルイジンブルー染色した切片により示されるように、初期神経管に類似していた(図1Bの挿入図)。免疫蛍光分析は、神経マーカー抗原ネスチン及びMusashi−1(Lendahl,U.,et al.,Cell 60:585-595,1990;Kaneko,Y.,et al.,Dev.Neurosci.22:139-153,2000)の発現が、ロゼット中の細胞に主として制限されるが、分化EB細胞の周辺における扁平細胞には制限されないことを明らかにした(図1C〜図1E)。未分化ES細胞は、これらのマーカーに対して免疫陰性であった。神経管様構造の形成は、FGF2の存在下でEBの大部分で観察された(H9及びH9.2系から総350EBの94%、3回の別個の実験)。FGF2の非存在下では、十分体系化された(organized)ロゼットは観察されなかった。
【0070】
神経管様ロゼットは、差次的酵素処理及び接着により単離することができる。FGF2への連続接触により、円柱状ロゼット細胞は増殖して、多層を形成した。円柱状ロゼット細胞は、高い頻度で、EBの大部分を構成し、周辺扁平細胞とはっきり分けられた。ディスパーゼによる処理は、中枢神経上皮島の優先的な脱離を招き、周辺細胞は主として接着したままであった(図1F)。混入している単細胞は、細胞培養皿への短期間の接着により分離した。この単離及び濃縮手順直後に実施した細胞計数により、単離された神経上皮クラスターに関連する細胞が、分化EB培養物における細胞の72〜84%を構成することが示された。免疫細胞化学分析により、4回の別個の実験で検査された13,324個の細胞に基づいて、単離ロゼット細胞の96±0.6%が、ネスチンに関して陽性に染色されることが示された。これらの細胞の大多数はまた、Musashi−1及びPSA−NCAMに関しても陽性であった(図1G、図1H、図1I)。
【0071】
ヒトES細胞由来の神経前駆体は、3つすべてのCNS細胞型をin vitroで産生する。単離した神経前駆体細胞は、ヒト胎児脳組織に由来する「ニューロスフェア」培養物に類似して、懸濁培養で浮動性細胞凝集体として増殖させた(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000;上述のSvendsen,C.N.,et al.,1996;上述のCarpenter,M.K.,et al.,1999;上述のVescovi,A.L.,et al.,1999)。BrdU取り込み試験は、前駆体細胞増殖の刺激が、FGF2に依存性であり、EGF又はLIF単独により誘発され得ないことを明らかにした。さらに、FGF2をEGF及び/又はLIFと組み合わせた場合、相加効果又は相乗効果は観察されなかった(図2A)。
【0072】
ES細胞由来の神経前駆体のin vitro分化は、FGF2の除去並びにオルニチン及びラミニン基質上での平板培養により誘導された。数日以内に、個々の細胞及び無数の成長円錐体が球体から生じ、スターバーストの外観を呈した。平板に播種後7〜10日までには、球体から発した突起は、顕著な線維束を形成した。高い頻度で、小遊走細胞は、線維と密接に関連して観察された(図2B)。分化した培養物の免疫蛍光分析は、成長領域における細胞の大多数が、ニューロンマーカーであるMAP2ab及びβIII−チューブリンを発現したことを明らかにした(図2C)。低分子量神経線維(NF)と高分子量NFの発現が、平板培養後7〜10日目まで及び10〜14日目までのそれぞれにおいて観察された(図2D)。様々な神経伝達物質に対する抗体を使用して、ES細胞由来のニューロンをさらに特性化した。ニューロンの大部分がグルタミン酸作動性表現型を示した(図2E)のに対して、より小比率が、GABAに対する抗体で標識された。高い頻度で、これらのニューロンは、極形態を示した(図2F)。少数のニューロンが、ドーパミン合成に関する律速酵素であるTHを発現することがわかった(図2G)。GFAP+アストロサイトは、成長因子退薬後の最初の2週間以内にはまれにしか見出されなかった(図2C)が、長期にわたるin vitro分化後にはより頻繁になった。4週までには、GFAP+アストロサイトは、分化されたニューロンの真下に広範囲にわたる層を形成した(図2D)。オリゴデンドロサイトは、標準的な培養条件下では観察されなかったのに対して、細胞を血小板由来成長因子A(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000)の存在下で2週間以上培養した場合に、典型的なオリゴデンドロサイト形態を有するわずかなO4−免疫反応性細胞が観察された(図2H)。したがって、ES細胞由来の神経前駆体は、CNSの3つすべての主要な細胞型を産生する。
【0073】
ヒトES細胞由来の神経前駆体は、in vivoで遊走し、合体して、且つ分化する。ヒトES細胞由来の神経前駆体のin vivoでの分化を評価するために、本発明者等は、ヒトES細胞由来の神経前駆体を新生マウスの側脳室へ移植した(Flax,J.D.,et al.,Nat.Biotech.16:1033-1039,1998)。移植された細胞は、脳室系の様々な領域でクラスターを形成し、大量に各種宿主脳領域へ取り込まれた。移植の1週後と4週後との間で分析した22個の脳のうち、脳室内クラスター及び取り込まれた細胞は、それぞれ19個及び18個のレシピエント脳において見出された。より長期間後に分析した個々の動物により、移植された細胞が、移植の少なくとも8週間後に検出可能であることが示された。クラスター内の細胞は、ネスチン、βIII−チューブリン及びMAP2abに対する抗体に対して強力な免疫反応性を示した。凝集体におけるほんのわずかな細胞がGFAPを発現した。未分化ES細胞及び非神経上皮で通常発現されるマーカーであるアルカリホスファターゼ及びサイトケラチンは、クラスター内では検出されなかった。奇形腫形成は観察されなかった。
【0074】
ヒト特異的プローブによるDNA in situハイブリッド形成法及びヒト核特異的抗原の免疫組織化学的検出は、多数の脳領域において移植された細胞の存在を明らかにした。広範囲に及ぶドナー細胞取り込みを示す灰白質領域は、皮質(図3A)、海馬(図3B、図3C)、嗅球、中隔(図3D)、視床、視床下部(図3E)、線条(図3F)及び中脳(図3G)を包含した。白質領域への取り込みは、脳梁、内包及び海馬線維路で最も顕著であった。形態学的には、取り込まれたヒト細胞は、周辺宿主細胞と区別できず、ヒト特異的マーカーを用いることでのみ検出可能であった(図3)。細胞型特異的抗体による二重標識は、取り込まれた細胞が、ニューロン及びグリアの両方へ分化したことを明らかにした。ヒトES細胞由来のニューロンは、βIII−チューブリン及びMAP2に対する抗体を用いてはっきりと描写することができた(図3H、図3J)。高い頻度で、ヒトES細胞由来のニューロンは、長い突起を伴う極形態を示した(図3H)。さらに、多極及び未熟単極形態を有するニューロンが見出された(図3J)。ドナー由来のニューロンは、宿主脳へと長距離を突出させる無数の軸索を産生し、灰白質及び白質の両方で検出された。ドナー由来のニューロンは、脳梁、前交連及び海馬采のような線維路内で特に豊富であり、そこではドナー由来のニューロンは、しばしば、単一切片内の数百マイクロメートルにわたって見出され得た(図3I)。
【0075】
ニューロンのほかに、少数のES細胞由来のアストロサイトが、宿主脳組織内に検出された。少数のES細胞由来のアストロサイトは、星状形態を示し、GFAPの強力な発現を示した(図3K)。対比して、ミエリンタンパク質に対する抗体による取り込まれたヒト細胞の二重標識は、成熟オリゴデンドロサイトを検出することができなかった。宿主脳へ遊走したドナー細胞の幾つかは、移植の最大4週間でさえ、ネスチン陽性表現型を保持した。これらの細胞の多くは、血管周囲位置に見られた。
【0076】
論考
本研究は、成熟ニューロン及びグリアを産生することが可能な移植可能な神経前駆体が、高収率でヒトES細胞から産生することができることを示している。本明細書中に記載されるin vitro分化手順である成長因子媒介性増殖/分化、並びに神経前駆体細胞の差次的接着を利用することは、神経発達の研究に関する新たな土台、及び神経系修復のためのドナー細胞の産生を提供する。
【0077】
この研究の重要な見解は、ヒトES細胞からの神経前駆体の分化が、in vitroで神経管様構造の形成を伴う神経系発達の初期工程を反復するようであるということの観察である。この現象はここでは、制御された条件下でヒト神経発達の初期段階を研究及び実験的に操作するのに利用することができる。化学的に規定された培養系は、in vitroでのヒト神経上皮増殖及び特定化に対する単一因子の影響を探索するための特有の機会を提供する。発達中のヒト脳に由来する前駆体と同様に、ヒトES細胞由来の前駆体は、FGF2に対して強力な増殖性応答を示す(上述のFlax,J.D.,et al.,1998)。しかしながら、増殖に対する相加効果も相乗効果も、EGF又はLIFにより誘発され得ない。この見解は、初代細胞を用いて得られるデータ(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000;上述のSvendsen,C.N.,et al.,1996;上述のCarpenter,M.K.,et al.,1999;上述のVescovi,A.L.,et al.,1999)と異なり、ES細胞由来の神経前駆体の増殖が、胎児ヒト脳に由来する前駆体細胞よりも多くの未熟段階を表すということを示唆することができる。げっ歯類細胞に関する研究は実際に、初期神経発生から単離された神経幹細胞が、増殖に関してFGF2に依存し、FGFに対する応答性が、神経前駆体細胞分化の後期段階でのみ獲得されるということを示している(Kalyani,A.D.,et al.,Dev.Biol.186:202-223,1997;Fricker,R.A.,et al.,J.Neurosci.19:5990-6005,1999)。
【0078】
神経管様構造のin vitroでの産生及びそれらの差次的接着に基づいてこれらの構造を単離することができることは、ヒトES細胞由来の神経前駆体を高純度で産生するための簡素だが効率的なアプローチを提供する。具体的には、神経上皮構造内の強力な細胞間及び組織培養基材へのそれらの低い接着性が、未分化ES細胞又は他の体細胞系の細胞の著しい混入を伴わずに神経細胞の選択的単離を可能にする。この手順の高い効率は、単離細胞の95%以上がネスチン陽性表現型を示し、ES細胞又は非神経上皮が移植レシピエントにおいて検出不可能であるという事実により反映される。未分化ES細胞及び他の系統に対する前駆体は、腫瘍及び外来組織を形成し得るため、精製された体細胞集団の産生が、ES細胞ベースの神経移植戦略の開発にとって重要な前提条件である。
【0079】
新生児マウス脳への移植後、ES細胞由来の神経前駆体は、多種多様の脳領域へ取り込まれ、そこでES細胞由来の神経前駆体は、ニューロン及びグリアへ分化した。in vivoで成熟をオリゴデンドロサイト検出することができないことは、それらのげっ歯類相当物と対比して、ヒト神経前駆体の低いオリゴデンドロサイト分化効率に起因する可能性が高い(Svendsen,C.N.,et al.,Brain Pathol.9:499-513,1999)。意外にも、ドナー由来のニューロンは、生後の神経発生を示す部位に制限されず、脳の多くの他の領域にも見出された。同様のデータが、成体げっ歯類脳へのヒトCNS由来の前駆体の移植に関与する研究で得られた(Tropepe,V.,et al.,Dev.Biol.208:166-188,1999)。有糸分裂後脳領域への個々の前駆体細胞の取り込みは、成体脳及び脊髄における細胞置換に関して特に関連性が高い。さらに、取り込まれた細胞が、領域特異的特性を獲得して、機能的に活性となるかどうか、並びに取り込まれた細胞が、どの程度まで領域特異的特性を獲得して、機能的に活性となるかを決定するのに、より詳細な研究が必要とされる。
【0080】
成熟及び未熟の神経上皮細胞から構成される脳室内クラスターを除いて、占拠性病変は、宿主脳内では検出されなかった。最も顕著なことに、奇形腫形成は、最大8週間の術後期間中観察されなかった。特に非ヒト霊長類におけるより厳格な長期安全性研究が、潜在的な臨床用途を検討するまえに必要とされることが明らかであるが、本発明者等のデータは、分化ヒトES細胞培養物から単離された神経前駆体が神経修復用の有望なドナー供給源を表すことを示している。
【0081】
実験プロトコル
ES細胞の培養。ES細胞であるH1(継代16〜33)、H9(p34〜55)及びH9に由来するクローン細胞であるH9.2(p34〜46)(上述のAmit,M.,et al.,2000)を、過去に記載されたように(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)、照射したマウス胚線維芽細胞のフィーダー細胞層上で、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)/F12、20%血清代替物(Gibco)、0.1mM β−メルカプトエタノール、2μg/mlヘパリン、及び4ng/mlのFGF2(Pepro Tech Inc.,Rochy Hill,NJ)から構成される培地を毎日交換して培養した。核型分析により、所定の継代での系は二倍体であることが示された。
【0082】
ES細胞培養物の分化。ES細胞培養物を、ディスパーゼ(Gibco BRL、0.1mg/ml)とともに37℃で30分間インキュベートし、無傷のES細胞コロニーを取り出した。ES細胞コロニーをペレット化して、FGF2なしのES細胞培地中に再懸濁させて、毎日培地交換しながら25cm2組織培養フラスコ(Nunc)において4日間培養した。ES細胞コロニーは、浮遊EBとして成長したのに対して、あらゆる残存フィーダー細胞は、フラスコに接着した。EBを新たなフラスコへ移すことにより、フィーダー細胞を除去した。続いて、EB(およそ50個/フラスコ)を25cm2組織培養フラスコ(Nunc)において、インスリン(25μg/ml)、トランスフェリン(100μg/ml)、プロゲステロン(20nM)、プトレシン(60μM)、亜セレン酸ナトリウム(30nM)及びヘパリン(2μg/ml)を補充(添加)したDMEM/F12中で、FGF2(20ng/ml)の存在下で平板培養した(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000、上述のZhang,S.-C.,et al.,1999)。
【0083】
神経前駆体細胞の単離及び培養:周辺扁平細胞からロゼット細胞のクラスターを分離するために、培養物を0.1mg/mlのディスパーゼとともに37℃で15〜20分間インキュベートした。ロゼットクランプは退縮したのに対して、周辺扁平細胞は、付着したままであった。この時点で、ロゼットクランプは、フラスコを揺らすことにより取り外され、扁平細胞は接着した状態のままであった。クランプをペレット化して、5mlピペットで穏かに粉砕して、培養フラスコへ30分間平板培養して、混入している個々の細胞を接着させた。続いて、浮遊しているロゼットクランプを、結合を妨げるためにポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)でコーティングされた新たなフラスコへ移して、ヒト神経前駆体で使用される培地中(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000)、FGF2(20ng/ml)の存在下で培養した。神経分化及び単離の効率を定量化するために、分離したての細胞クラスター及び残された扁平細胞をトリプシン(0.1%EDTA中0.025%)で解離(分離)させて、計数した。ES細胞から分化した総細胞間での推定神経前駆体(ロゼット細胞)の割合は、H9及びH9.2系に関する3回の別個の実験に基づいて得られた。ES細胞由来の神経前駆体の分化潜在性の分析のために、細胞をオルニチン/ラミニン基質上で、DMEM/F12、N2サプリメント(Gibco)、cAMP(100ng/ml)及びBDNF(10ng/ml、PeproTech)から構成される培地中で、FGF2の存在なしで培養した。突起膠細胞分化に関しては、記載されるように(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000)、ES細胞由来の神経前駆体を、N1(Gibco)及び血小板由来成長因子A(PDGFA)(2ng/ml)を補充したDMEM中で培養した。形態学的観察並びに前駆体及びより成熟した神経細胞に関するマーカーによる免疫染色は、分化の過程中に実施された。
【0084】
組織化学的及び免疫組織化学的染色。ロゼット形成をより良好に可視化するために、ロゼットを伴う培養物を、PBS中ですすいで、4%パラホルムアルデヒド及び0.25%グルタルアルデヒド中で1時間固定した。続いて、記載されるように(上述のZhang,S.-C.,et al.,1999)、固定した細胞をプラスチック樹脂中に包埋するために加工した。続いて、培養細胞を1μm厚に切片化して、トルイジンブルーで染色した。免疫染色に関して、他の箇所で詳述される適切な蛍光二次抗体(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000、Zhang,S.-C.,et al.,1999)により検出される以下の一次抗体で、カバーガラス培養物を免疫染色した:抗ネスチン(ポリクローナル、NINDSのDr.R.McKayから贈与、1:1,000)、抗ポリシアル酸化ニューロン細胞接着分子(PSA−NCAM、マウスIgM、フランスのマルセイユ大学のDr.G.Rougonから贈与、1:200)、抗Musashi−1(ラットIgG、日本の東京大学のDr.H.Okanoから贈与、1:500)、抗GFAP(ポリクローナル、Dako、1:1,000)、抗ヒトGAFP(スタンバーグポリクローナル、1:10,000)、O4(マウスIgM、ハイブリドーマ上清、1:50)、抗チロシンヒドロキシラーゼ(TH、Pel Freez、1:500)。残りの抗体は、Sigmaからのものであった:抗βIII−チューブリン(マウスIgG,1:500)、抗神経フィラメント(NF)68(マウスIgG、1:1,000)、抗NF200(ポリクローナル、1:5,000)、抗MAP2ab(マウスIgG、1:250)、抗γ−アミノ酪酸(GABA、ポリクローナル、1:10,000)、抗グルタメート(マウスIgG、1:10,000)。ブロモデオキシウリジン(BrdU)取り込みに関して、各群における4つのカバーガラス培養物を2μMのBrdUとともに16時間インキュベートした後、培養物を4%パラホルムアルデヒド中で固定して、1N HClで変性させて、免疫標識及び細胞計数用に加工した(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000、Zhang,S.-C.,et al.,1999)。
【0085】
脳室内移植及びin vivo分析。神経前駆体の凝集体をトリプシンで解離させた後(0.1%EDTA中0.025%、37℃で5〜10分間)、100,000個の生細胞/μlの懸濁液を、L15培地(Gibco)中に調製した。頭部の下方から照明を使用して、寒冷麻酔をした新生マウス(C3HeB/FeJ)の側脳室それぞれに、細胞懸濁液2〜3μlをゆっくりと注射した。移植された動物を、シクロスポリンA(10mg/kg、i.p.)の毎日の注射により免疫抑制した。移植の1週後、2週後、4週後及び8週後に、リンゲル液、続いて4%パラホルムアルデヒドを経心的にマウスに灌流させた。脳を切開して、使用するまで同じ固定液中で4℃にて後固定させた。ドナー細胞は、ヒトalu反復要素に対するジゴキシゲニン標識プローブ(Brustle,O.,et al.,Nat.Biotech.16:1040-1044,1998)又はヒト特異的核抗原に対する抗体(MAB1281、Chemicon、1:50)を使用して、in situハイブリダイゼイションにより、50μmの冠状ビブラトーム切片で同定された。免疫陽性細胞を、GFAP(1:100)、ネスチン、βIII−チューブリン(TUJ1、BabCo、1:500)、MAP2a(Sigma、クローンAP−20及びHM−2、1:300)及びリン酸化中程度分子量ヒト神経フィラメント(クローンHO−14、1:50、J.Trojanowskiから贈与)に対する抗体で二重標識した。一次抗体を、適切なフルオロフォア結合二次抗体で検出した。切片を、Zeiss Axioskop2及びLeicaレーザスキャン顕微鏡上で分析した。
【実施例2】
【0086】
中脳ドーパミンニューロンの産生
神経学的状態における幹細胞療法の潜在的適用に対する第1の工程は、正確なアイデンティティー及び伝達物質の表現型を有する神経細胞の有向性分化である。ここでは、本発明者等は、モルフォゲン作用の特異的配列によるヒト胚幹(ES)細胞からの機能的ドーパミン作動性(DA)ニューロンの頑強な産生を示す。Sox1を発現する前に、初期段階でヒトES由来の神経外胚葉細胞をFGF8によって処理することは、正確な中脳DA突出ニューロン表現型を有するDAニューロンの特定化に必須である。in vitroで産生されたDAニューロンは、毒物学的且つ薬学的スクリーニングに、及びパーキンソン病における潜在的細胞療法に使用され得る。
【0087】
パーキンソン病(PD)は、中脳、特に黒質におけるDAニューロンの進行性退化に起因する。PDに対する現在の療法は、主として、レバドパのようなDA前駆体の全身投与による症状軽減に依存する。かかる療法は、最初の数年間は有効であるが、ほぼ必ずその有効性を失い、重症の副作用を生じる。グリア細胞系由来の神経栄養因子(GDNF)のような成長因子の投与は、小規模の臨床試験において有効であることが示されている(Gill,S.S.,et al.,Nat.Med.9:589-595,2003)。この療法は、十分数の生存DAニューロンに依存し、その長期にわたる治療上の可能性は、いまだ調査されていない。ニューロン退化の限局的性質のため、細胞移植が代替的療法として提唱されている(Bjorklund,A.and Lindvall,O.,Nat.Neurosci.3:537-544,2000)。幾つかの成功事例では、移植された胎児中脳細胞は、10年にわたって生存し、症状の軽減に寄与する(Kowdower,J.H.et al.,N.Engl.J.Med.332:1118-1124,1995;Piccini,P.,et al.,Nat.Neurosci.2:1137-1140,1999)が、最近規制された臨床試験では、PDに対する胎児組織移植療法の有効性に疑問を投じている(Freed,C.R.,et al.,N.Engl.J.Med.344:710-719,2001;Olanow,C.W.,et al.,Ann.Nuerol.54:403-414,2003)。これらの現象は、PDの複雑さを示している。機能的ヒト中脳DAニューロンの信頼性高い再生可能な供給源は、DA系の起源、DAニューロンの生存及び機能に影響を及ぼす発病プロセス並びにPDに対する持続可能な治療法の開発に関する系統だった研究に緊急に必要とされる。
【0088】
DAニューロンは、マウスES細胞から効率的に産生することができることが示されており、マウスES細胞は、胚盤胞段階での着床前胚の内細胞塊に由来する(Evans,M.J.and Kaufman,M.H.,Nature 292:154-156,1981;Martin,G.R.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:7634-7638,1981)。マウスES細胞はまず、FGF2により(Lee,S.H.,et al.,Nat.Biotechnol.18:675-679,2000)、或いは間質細胞由来の誘導活性により(Kawasaki,H.,et al.,Neuron 28:31-40,2000;Barberi,T.,et al.,Nat.Biotechnol.21:1200-1207,2003)、神経外胚葉細胞へと誘導される。続いて、神経外胚葉細胞を、DAニューロン誘導のためにFGF8、続いてSHHに接触させる。この研究では、本発明者等は、ヒトES細胞(Thomson,J.A.,et al.,Science 282:1145-1147,1998)を誘導して、FGF8及びSHHに応答して中脳突出特徴を有する大比率のDAニューロンを産生する神経外胚葉細胞(Zhang S.C.,et al.,Nat.Biotechnol.19:1129-1133,2001)へ分化させるための頑強な系を確立した。本発明者等は、中脳突出ニューロン表現型を有するDAニューロンを産生するために、前駆体細胞がSox1+発現神経外胚葉細胞となる前に、ヒトES細胞をFGF8へ接触することが必要であることを見出した。
【0089】
結果
ヒトES由来の神経外胚葉細胞は、前脳特質を示す
フィーダー細胞層から剥離させたES細胞コロニーを、ES細胞成長培地中で4日間、凝集体として懸濁液中で培養した後、接着性培養器で、FGF2(20ng/ml)を含有する化学的に規定される神経細胞用培地中で成長させた(上述のZhang,S.C.et al.,2001)。コロニー中心における細胞は、円柱状形態を現し、およそ9日目にロゼット形成で整列した(図4A)。これらの円柱状細胞は、Pax6に対して陽性であったが、汎神経転写因子であるSox1に対して陰性であり(図示せず)、初期神経外胚葉細胞を示している。さらに5〜6日にわたって(14〜15日目)、円柱状細胞は増殖して、神経管様ロゼットへと体系化して(図4B)、神経管閉鎖中に最終的な神経外胚葉細胞により発現される転写因子であるSox1(Pevny,L.H.,et al.,Development 125:1967-1978,1998)を発現した(図4C)。円柱状細胞は、前脳細胞により発現される転写因子である脳因子(Bf1)(Tao.W.and Lai,E.Neuron 8:057-966,1992)に対して陽性であったが、中脳により発現される転写因子であるエングレイルド1(En−1)(Davidson,D.,et al.,Development 104;305-316,1988;Wurst,W.,et al.,Development 120:2065-2075,1994)に対して陰性であり(図4D)、in vitroで産生された神経外胚葉細胞の前脳アイデンティティーを示唆した。
【0090】
中脳表現型の誘導は、FGF8の初期作用を要する
DAニューロンの分化のために、神経管様ロゼットにおける神経外胚葉細胞は、差次的酵素及び接着処理により濃縮され(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)、FGF2を用いて懸濁液中で凝集体として4日間増殖(expansion)させた後、ラミニン基質上に平板培養し、SHH(50〜200ng/ml)及びFGF8(20〜100ng/ml)で6日間処理した。免疫細胞化学分析により、大多数の神経外胚葉細胞が、Bf1に対して依然として陽性であるが、En−1対しては陽性でないことが示された(図示せず)。
【0091】
FGF8が、Sox1+神経外胚葉細胞にEn−1を発現させるよう誘導することができないことは、Sox1−発現神経外胚葉細胞が、パターニングシグナルに対して不応性であり得ることを示唆する。Sox1−発現細胞は、ヒトES細胞の分化の2週後(6日齢の胚に相当(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)に産生され、神経管様構造を形成するため、Sox1−発現細胞は、神経外胚葉細胞がSox1を発現し、且つ局所的に特定化される神経管閉鎖での神経外胚葉細胞に相当し得る(Lumsden,A.and Krumlauf,R.,Science 274:1109-1115,1996)。このことは、本発明者等に、神経外胚葉細胞がSox1を発現する前にFGF8が中脳特定化を促進し得ると仮定するに至らせた。したがって、本発明者等は、コロニー中心における細胞が9日目に円柱状になった時点で、FGF8(100ng/ml)を適用した。6日後に、コロニー中心における細胞は、FGF2の存在下で見られるように、神経管様細胞に発生した。これらの神経外胚葉細胞は同様に濃縮されて、FGF8中で4日間増殖された(expanded)後、ラミニン基質上で6日間、SHHで処理した。この培養条件下では、En−1発現は、ネスチン発現神経外胚葉細胞で観察された(図4E)が、依然としてBf1を発現する細胞が存在した(図4F)。したがって、神経外胚葉細胞は、それらがSox1+となる前に、効率的に局所化された。
【0092】
局所化された神経外胚葉細胞は、DAニューロンへ分化する
神経外胚葉細胞を解離して、神経分化培地中で分化させた。神経外胚葉細胞は、未分化ヒトES細胞により高度に発現される糖タンパク質である段階特異的胚抗原4(SSEA4)を発現しなかった。最初に均一に分布させた脱凝集神経外胚葉細胞は、平板培養の3〜5日後に、ロゼットを再形成した。続いて、脱凝集神経外胚葉細胞は、突起を伸長して、極形態を示した。分化後3週目に、総分化細胞集団の約3分の1(4回の実験から計数された17,965個の細胞のうち31.8±3.1%のTH+細胞)が、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)に対して陽性であった(図5A)。同様の割合のTH+細胞が、H9及びH1ヒトES細胞系の両方から得られた。たいていのTH発現細胞は、直径が10〜20μmであった。たいていのTH発現細胞は、分化可能な軸索及び樹状突起を有する極形態を示した(図5A)。TH+細胞はすべて、ニューロンマーカーであるβIII−チューブリン+ニューロンで陽性に染色され、約50%がTH+であった(図5B、4回の実験からの12,859個のβIII−チューブリン+ニューロンのうち6,383個がTH+細胞)。
【0093】
モノアミンの生合成において、THは、チロシンをL−DOPAへと加水分解し、続いてL−DOPAは、AADCにより脱カルボキシル化されてDAとなる。別の2つの酵素であるDβH及びフェニルエタノールアミンN−メチルトランスフェラーゼ(PNMT)は、それぞれ、DAをノルエピネフリンへ変換し、ノルエピネフリンをエピネフリンへと触媒する。免疫染色により、TH+細胞はすべて、AADCである(図5C〜図5E)が、幾つかのAADC+細胞は、THに対して陰性である(図5E)ことが示された。しかしながら、TH+細胞は、DβH(図5E)及びPNMT(図示せず)に対して陰性であったが、DβHは、成体ラット及び胚サル脳幹においてノルアドレナリン作動性ニューロンを強力に染色した(図5Fにおける挿入図)。これらのデータは、TH発現ニューロンが、ドーパミン合成に必要である両方の酵素を保有すること、及びこれらのニューロンが、ノルアドレナリン作動性及びアドレナリン作動性ニューロンではなくDAニューロンであることを示唆する。
【0094】
ES細胞により産生されたDAニューロンは、中脳表現型を示す
RT−PCR分析により、中脳DAニューロン発達に関与するNurr1、Limx1b、En−1及びPtx3(Zetterstrom,R.H.,et al.,Science 276:248-259,1997;Smidt,M.P.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:13305-13310,1997;Saucedo-Cardenas,O.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:4013-4018,1998;Wallen,A.,et al.,Exp.Cell Res.253:737-746,1999;Smidt,M.P.,et al.,Nat.Neurpsci.3:337-341.2000;Simon,H.H.,et al.,J.Neruosci.21:3126-3134,2001;Van den Munckhof,P.,et al.,Development 130:2535-2542,2003;Nunes,I.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:4245-4250,2003)は、神経外胚葉細胞がDAニューロンに分化されるまで、高レベルでは発現されなかったことが示された(図6A)。免疫染色は、多数の突起を有するほとんどのTH+細胞が、核において中脳マーカーEn−1を共発現することを明らかにした(図6B)。したがって、上記アプローチを用いて産生されたDAニューロンは、中脳位置的アイデンティティーを保有する。
【0095】
嗅球におけるDAニューロンは、多くの場合、γ−アミノ酪酸(GABA)を共発現する(Kosaka,T.,et al.,Exp.Brain Res.66:191-210,1987;Gall,C.M.,et al.,J.Comp.Neurol.266:307-318,1987)。TH及びGABAの二重免疫染色により、DAニューロンのほとんどが、GABAに対して陰性であるが、GABA+ニューロンは、培養物中に見出されることが示された(図6C)。すべてのTH+細胞のうち、8%のTH+細胞(8.7±3.9%、4回の実験から計数される6,520個のTH+細胞)がGABAを共発現した。これらの二重陽性細胞の多くが、小さな二極細胞であった(図6Cにおける挿入図)。幾つかの中脳DAニューロン、特に腹側被蓋領域における中脳DAニューロンは、THと一緒にコレシストキニンオクタペプチド(CCK8)又はカルビンジンを共発現する(McRitchie,D.A.,et al.,J.Comp.Neurol.364:121-150,1996;Hokfelt,T.,et al.,Neurosci.5:2093-2124,1980)。免疫組織化学分析により、TH+ニューロンが観察されることが示された(図6D)。これらのカルビンジンニューロンは、主として小さな細胞であった。CCK8陽性細胞は、培養物中で検出されなかった。
【0096】
ES細胞により産生されるDAニューロンは、生物学的に機能的である
免疫染色により、すべてのTH+ニューロンが、GDNF用の受容体の構成成分であるc−Retを発現した(図7A〜図7C)。TH+細胞の大部分、特に分岐状神経突起を有するTH+細胞は、モノアミンニューロンにおける細胞内コンパートメントへドーパミンをパッケージングすることに関与する小胞モノアミン輸送体2(VMAT2、図7D〜図7F)(Nirenberg,M.J.,et al.,J.Neurosci.16:4135-4145,1996)を発現した。さらに、TH+ニューロンは、シナプス形成に必須の膜糖タンパク質であるシナプトフィジン(Calakos,N.and Scheller,R.H.,J.Biol.Chem.269:24534-24537,1994)を発現した(図7A〜図7I)。
【0097】
ドーパミン放出は、DAニューロンの機能的特徴である。高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析は、アスコルビン酸(AA)、FGF8及びSSHで処理した培養物中では230.8±44.0pg/mlで、またAA、FGF8及びSHHの処理なしの対照培養物中では46.3±9.2pg/mlで、DA分化培養物の培地中におけるドーパミンの存在を明らかにした(図8A)。培養細胞を洗浄して、HBSS中で14分間インキュベートした場合、ドーパミンレベルは、2つの培養物間で類似していた(図8A)。しかしながら、HBSS中での56mM KClによる培養ニューロンの脱分極は、DAの量を有意に増加させた(AA、FGF8及びSHH処理なし及びありで、それぞれ培養物中に35.8±9.2及び111.0±15.0pg/ml、図8A)。これらの観察は、in vitroで産生されたDAニューロンがDAを分泌することができ、DAの放出が活性依存的であることを示唆する。
【0098】
電気生理学的記録を使用して、ESにより産生されたDAニューロンが機能的に活性であるかどうかを決定した。30〜38日間培養物中に維持した細胞(n=14)において、静止膜電位(Vrest)は、−32〜−72mV(−54±2.9mV)の範囲であり、細胞静電容量(Cm)は、11〜45pF(21±2.7pF)の範囲であり、入力抵抗(Rin)は、480〜3500MΩ(1506±282MΩ)の範囲であった。脱分極性電流段階(0.2nA×200〜500ms)は通常、単一活動電池を誘発したが、幾つかの場合では、減少しつつある一連の活動電位が観察された(図8bi及び図8bii)。活動電位(AP)閾値は、−26〜ー5.2mV(−17.4±2.1mV)の範囲であり、−9.6〜30mVでピークに達した。最大50.2mVのAPが観察された(32±2.8mV)。AP持続期間は、3〜20.6ms(7.2±1.3ms)の範囲であった。自発興奮が、2つの細胞で観察された(図8C)。
【0099】
電圧クランプ様式では、内向き及び外向き電流の両方が、細胞すべてにおいて観察された(図示せず)が、それらの相対規模は、大幅に変化した。内向き電流は、迅速に活性化され(1ms未満)、1〜3ms以内にピークに達した。活性化閾値は、−30±1.1mVであり、最大ピーク電流振幅は、−13±1.9mVの平均電圧で得られ、電流は、テトロドトキシン(TTX、n=3)により完全に阻止された。これらの特性は、活動電位発生を引き起こす電圧作動型ナトリウムチャネルの存在と一致した。3つの細胞において、本発明者等は、迅速な上昇及びよりゆっくりとした減衰相を含むシナプス電流の特徴を有する自発的過渡電流を観察した。3つの記録のうちの1つは、K−グルコネートベースのピペット溶液を用いて行われ、この細胞を−40mVで保持することにより、本発明者等は、外向き(阻害性)及び内向き(興奮性)電流の両方を観察することが可能であった(図8di及び図8dii)。14個の細胞すべてにビオシチンを注入したが、免疫染色手順の完了後、たった5個の細胞が回収されたに過ぎなかった。しかしながら、5個のビオシチン充填細胞はすべて、TH標識された(図8E〜図8G)。
【0100】
論考
本発明者等は、中脳ニューロン突出特徴を有する機能的DAニューロンが、3つの簡素な非遺伝的工程:FGF2による神経外胚葉細胞の誘導、神経外胚葉形成中のFGF8及びSSHによる腹側中脳アイデンティティーの特定化及び局所的に特定化された前駆体のDAニューロンへの分化により、ヒトES細胞から効率的に産生することができることを実証した。中脳特徴を有するDAニューロンが、増殖された神経外胚葉細胞から産生することができるというマウスES細胞研究から得られる見解(上述のLee,S.H.,et al.,2000)と異なり、本発明者等は、前駆体細胞がSox1+神経外胚葉細胞となる前にFGF8により特定化又は局所化することが、正確な中脳及び機能的表現型を有するヒトDAニューロンの頑強な産生に必須であることを見出した。
【0101】
幹細胞生物学の観点から、Mckayと共同研究者等によって開発された段階的プロトコルであるマウスES細胞を神経外胚葉細胞へ誘導し(direct)、それらを増殖させて、それらをFGF8及びSHHにより局所化又は特定化し、続いてそれらをDAニューロンへ分化させることは、非常に論理的であるように思われる(上述のLee,S.H.,et al.,2000)。本発明者等は、同じ原理がヒト霊長類に適用できるはずであると仮定した。実際に、本発明者等は、Sox1を発現し、且つFGF2の存在下で神経管様ロゼットへと体系化する神経外胚葉細胞へヒトES細胞を分化させること(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)、神経外胚葉細胞をFGF8及びSHHで処理して、腹側中脳発生運命を誘導すること、及び最終的に細胞をニューロンへ分化させることにより、多数のDAニューロンを産生することが可能である。しかしながら、このようにして産生されたDAニューロンの多くは、中脳突出DAニューロンの重要な特徴、例えば、複雑な形態を伴う大きなサイズ、及びタンパク質レベルでの中脳転写因子の発現を欠如している。Sox1陽性神経外胚葉細胞は、FGF8及びSHHによる処理後でさえも、依然としてEn−1に対して陰性であるが、Bf1に対しては陽性であり、Sox1発現神経外胚葉細胞が、中脳発生運命への特定化に不応性であることを示唆している。本発明者等の培養系中でのヒトES細胞からの神経外胚葉細胞分化のプロセスは、in vivo発達中に見られるものに匹敵する(上述のZhang,S.C.,2003)。in vivoでは、神経管は、ヒト妊娠の3週目の最後に形成し、Sox1は、マウス発生学的研究に基づいて、神経管閉鎖中に神経外胚葉細胞により発現される(Pevny,L.H.,et al.,Development 125:1967-1978,1998)。培養では、神経外胚葉細胞は、神経管様ロゼットを形成し、6日齢のヒト胚に相当するヒトES細胞からの2週間の分化後に、Sox1を発現する(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)。中脳DAニューロンを含む突出ニューロンは、初期段階で神経管において神経外胚葉細胞から分化され、これらの神経外胚葉細胞細胞は、神経管閉鎖のプロセス中にすでに局所的に特定化されている(上述のLumsden,A.and Krumlauf,R.,1996)。このことは、前脳表現型を保有するヒトES細胞により産生されたSox1発現神経外胚葉細胞が、中脳表現型を有するDAニューロンを産生するためのモルフォゲンに反応しない理由を説明し得る。FGF8が、中脳アイデンティティーを選択(adopt)するように初期前駆体を指示し得るという本発明者等の仮定は、初期ロゼットにおけるSox1-円柱状細胞をFGF8で処理した後の、突出ニューロンの特徴(例えば、複雑な突起を有する大きな細胞体及び中脳間マーカーであるEn1の発現)を有するDAニューロンの産生により確認される。
【0102】
FGF2により誘導されるマウスES細胞由来の神経外胚葉細胞が、増殖後に効率的に局所化され得るが、ヒトES細胞由来の神経外胚葉細胞はそうではない理由は現在明らかではない。マウス脊髄から単離された神経前駆体の背側又は腹側アイデンティティーが、特にFGF2の存在下で、培養時に調節解除され得るという最近の徴候が見られ(Gabay,L.,et al.,Neuron 40:485-499,2003)、これは、増殖したマウスES細胞由来の神経外胚葉細胞が再び特定化する能力を一部について説明し得るかもしれない。脊髄運動神経のような他の突出したニューロンの分化に関する本発明者らの研究は、大きな突出したニューロンの産生がモルフォルゲンの初期の作用を必要とするという今回の観察と一致する。
【0103】
DAニューロンは、中脳、視床下部、網膜及び嗅球を含む脳の幾つかの領域に存在する。この研究におけるヒトES細胞により産生されるDAニューロンは、中脳突出DAニューロンに類似している。DAニューロンのほとんどが、GABAを共発現しないが、GABA及びTHの共発現は、嗅覚DA介在ニューロンの主な特徴である(上述のKosaka,T.,et al.,18987;上述のGall,C.M.,et al.,1987)。中脳では、DAニューロンの少なくとも2つの主要な群、すなわち黒質におけるもの(A9)及び腹側被蓋領域におけるもの(A10)(それぞれ異なる標的を有する)が存在する(Bjorklund,A.and Lindvall,O.,Handbook of Chemical Neuroanatomy,Vol.2:Classical Transmitters in the CNS(Bjorklund,A.,Hokfelt,T.,eds),Amsterdam,Elsevier Science Publishers,pp.55-111,1984)。腹側被蓋領域におけるほとんどのDAニューロンは、カルビンジン又はCCKを発現するのに対して、黒質におけるものは、ほとんど発現しない(McRitchie,D.A.,et al.,J.Comp.Neurol.364:121-150,1996;Horkfelt,T.,et al.,Neurosci.5:2093-2124,1980;Haber,S.N.,et al.,J.Comp.Neurol.362:400-410,1995)。ヒトES細胞により産生されるDAニューロンが、CCK8又はカルビンジンとともにTHを共発現しないという本発明者等の観察は、これらのDAニューロンが、黒質DNAニューロンとより密接に類似していることを示唆する。
【0104】
ヒトES細胞の、適切な局所的アイデンティティーを有する大きな突出ニューロン(例えば、中脳DAニューロン)を産生する頑強な能力は、ヒトES細胞系を使用して神経発達の初期段階を精査するための空前の機会を広げる。本発明者等のデータは、初期に生み出される中脳突出DAニューロンの産生に関して、特定化されていない初期神経外胚葉細胞に作用するモルフォゲン(例えば、FGF8)に対する要件を示している。このことは、すでに特定化されている胚及び成体哺乳類脳から単離並びに増殖させた幹細胞又は前駆体は、突出ニューロンを産生するのに不応性である(Svendsen,C.N.,et al.,Exp.Neurol.148:135-146,1997;Daadi,M.M.and Weiss,S.,J.Neurosci.19:4484-4497,1999;Storch,A.,et al.,Exp.Neurol.170:317-325,2001)理由を説明し得る。in vitroで産生されたヒトDAニューロンはまた、ヒトDAニューロンに影響を及ぼし得る化学物質及び薬物に関する毒物学的並びに薬学的スクリーニング用の系を提供する。培養ペトリ皿中で産生されたこれらのヒトDAニューロンが、PD動物モデルにおいて機能的であるかどうかを決定するための研究は進行中である。
【0105】
方法
ES細胞培養。ヒトES細胞系である、H9(p21〜56)及びH1(p35〜40)を、Thomsonにより記載されるように(上述のThomson,J.A.,et al.1998)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)/F12(Gibco)、20%血清代替物(Gibco)、1mM グルタミン(Sigma)、0.1mM非必須アミノ酸(Gibco)、2μg/mlのヘパリン(Sigma)、0.1mM β−メルカプトエタノール(Sigma)及び4ng/mlのFGF2(R&D Systems)から構成されるES細胞成長培地を毎日交換しながら、照射したマウス胚線維芽細胞(MEF)上で週に1度、培養(細胞)を継代した。分化したコロニーは、湾曲状のパスツールピペットを用いて物理的に取り出して、未分化状態のES細胞は、典型的な形態学並びにOct4及びSSEA4による免疫染色により確認した。
【0106】
神経外胚葉細胞の分化及び濃縮。ヒトES細胞コロニーは、0.2mg/mlのディスパーゼ(Roche Diagnostitics)による培養物の処理により、MEF層から剥離させ、ES細胞培地を毎日交換しながら、4日間、浮遊性細胞凝集体(胚様体)として成長させた。続いて、それらを、N2(Gibco)、0.1mM非必須アミノ酸、2μg/mlヘパリンを補充したDMEM/F12(2:1)から構成される神経培地中で、1日おきに培地を交換しながら、接着基材において成長させた。ES細胞凝集体は、結合して、およそ6日目に個々のコロニーを形成した。神経管様ロゼットへ体系化する円柱状細胞により示される神経外胚葉細胞は、およそ14日目に発生した(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)。神経ロゼットを、差次的酵素応答により単離した(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)。成長因子は、分化の過程中に添加して、局所化に影響を与えた(結果を参照)。
【0107】
DAニューロン分化。濃縮された神経外胚葉細胞は、PBS中、37℃で10〜15分間の0.025%トリプシン及び0.27mM EDTAにより解離させ、12mmカバーガラス(100μg/mlのポリオルニチン及び10μg/mlのラミニンで予めコーティングした)上へ、40,000〜50,000個の細胞/カバーガラスの密度で播取た。ニューロン分化培地は、N2、0.1mM非必須アミノ酸、0.5mMグルタメート、1μg/mlのラミニン、1μMのcAMP、200μMのAA(Sigma)、10ng/mlのBDNF(R&D Systems)及び10ng/mlのGDNF(R&D Systems)を補充したneurobasal培地(Gibco)から構成された。細胞を、1日おきに培地交換しながら3〜4週間培養した。
【0108】
免疫細胞化学及び細胞定量化。カバーガラス培養物をPBS中4%パラホルムアルデヒド中で10〜20分間、又はメタノール(−20℃)中4%パラホルムアルデヒド中で5分間固定化して、免疫染色用に加工した(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)。以下の一次抗体を使用した:マウス抗SSEA4(1:40)、マウス抗En−1(1:50)及びマウス抗Pax6(1:5000、すべてDevelopmental studies hybridoma bankから)、ウサギ抗Sox1(1:500)、ウサギ抗ヒトネスチン(1:200)、ウサギ抗AADC(1:1,000)、ヒツジ抗DβH(1:400)、マウス抗シナプトフィジン(1:500)及びウサギ抗CCK8(1:2000、すべてChemiconから)、マウス抗TH(1:1,000)、マウス抗βIIIチューブリン(1:500)、ウサギ抗GABA(1:5000)及びマウス抗カルビンジン(1:400、すべてSigmaから)、ウサギ抗TH(1:500)及びウサギ抗VMAT2(1:500、すべてPel-Freezから)、ヤギ抗c−Ret(1:400)及びマウス抗Oct4(1:1,000、ともにSanta Cruzから)、ウサギ抗Bf1(1:5000、Lorenz Studerから贈与)。抗体−抗原反応は、適切な蛍光結合二次抗体により明らかとなった。細胞核は、ヘキスト33342で染色した。染色は、Nikon蛍光顕微鏡で可視化した。成体ラット及びE38胎性サルからの脳切片を、ニューロンタイプ及び神経伝達物質に対する多くの抗体に対する陽性対照として使用した。陰性対照はまた、免疫染色手順における一次又は二次抗体を省略することにより設定した。細胞計数は、接眼レンズ上のレチクル及び40×対物レンズを使用することにより無分別(randomly)に達成された。10個の視野における細胞を無作為に選択して、各カバーガラスから計数した。
【0109】
RT−PCR
総RNAは、RNA Stat−60(Tel-Test,Friendswood,TX)を用いて培養細胞から抽出し、続いてDNaseI(DNAフリー、Ambicon)で処理した。cDNAの合成は、RT−PCR用のSuperscript First−Strand Synthesis System(Invitrogen)を用いて、製造業者の指示に従って行った。PCR増幅は、Taqポリメラーゼ(Promega)により、標準的な手順を用いて実施した。サイクル数は、特定のmRNA存在量(abundance)に応じて、94℃で15秒間の変性、プライマーにより55℃又は60℃の温度で30秒間のアニーリング、及び72℃で45秒間の伸長を伴って、25〜35サイクルまで様々であった。陰性対照は、逆転写中の転写酵素又はPCR中のcDNAサンプルを省略することにより達成した。プライマー及び産生物長は、以下の通りであった:
【化1】
【0110】
DA測定
DAニューロン分化の21日後に、48時間のコンディションメディウムを収集した。培養細胞からの活性依存性ドーパミン放出は、まずハンクス平衡塩溶液(HBSS)中で15分間、培養細胞を調整し、続いて56mMのKClを含有するHBSSでそれを37℃で14分間取り換えることにより測定した。培地中又はHBSS中のドーパミンは、安定化緩衝液(0.1MのNaOH10ml中EGTA900mg及びグルタチオン700mg)20μlを添加することにより安定化し、サンプルを−80℃で保管した。HPLCキット(Chromsystems)を使用して、モノアミンを抽出した。モノアミンのレベルは、電気化学的検出器(CoulochemII,ESA Inc.)に結合させたHPLC(モデル508オートサンプラー及びモデル118ポンプ、Beckman)により、MD−TM移動相(ESA Inc.)を使用して決定した。各群における培養は三重反復され、データは、3回の別個の実験から収集された。
【0111】
電気生理学的記録
ヒトES細胞から分化したDAニューロンの電気生理学的特性は、全細胞パッチ−クランプ記録技法を用いて調べた(Hammill,O.P.,et al.,Pflugers Arch.391:85-100,1981)。ピペットに、(mM)KCl 140又はK−グルコネート 140、Na+−HEPES 10、BAPTA 10、Mg2+−ATP 4を含有する細胞内溶液(pH7.2、290mOsm、2.3〜5.0MΩ)を充填した。ビオシチン(0.5%、Sigma)を記録溶液に添加して、ストレプトアビジン−Alex Flur 488(1:1000、Molecular Probes)による続く標識及びTHに対する抗体を使用して、DAニューロンを同定した。バス溶液は、(mMで)NaCl 127、KH2PO4 1.2、KCl 1.9、NaHCO3 26、 CaCl2 2.2、MgSO4 1.4、グルコース 10、95%O2/5%CO2を含有していた(pH7.3、300mOsm)。幾つかの実験に関して、TTX(1μm)をバス溶液中で適用して、電圧作動型ナトリウム電流を阻止した。
【0112】
電流クランプ及び電圧クランプ記録は、MultiClamp 700A増幅器(Axon Instruments)を用いて実施した。シグナルは、4kHzでフィルタリングして、Digidata 1322Aアナログ−ディジタル変換器(Axon Instruments)を用いて10kHzでサンプリングして、市販のソフトウェア(pClamp9、Axon Instruments)を用いて、コンピュータハードディスクに蓄積(acquire)及び格納された。アクセス抵抗は通常、8〜18MΩであり、増幅器回路を用いて50〜80%相殺した。電圧は、+13mVの液相界面電位に関して補正した(Neher,E.,Methods Enzymol.207:1213-131,1992)。Vrest及び活動電位は、電流クランプモードで検査した。自発的興奮性(内向き)及び阻害性(外向き)シナプス電流は、K−グルコネートベースのピペット溶液及びVhold=−40mVを用いて、電圧クランプモードで特性化した。シナプス事象は、テンプレート検出アルゴリズム(Mini Analysis Program 4.6.28、Synaptosoft)を用いて検出し、脱活性化相は、Levenberg-Marquardtアルゴリズムを用いて、二重指数関数へ適合させた。データは、平均値±SEとして提示される。
【実施例3】
【0113】
運動ニューロンの産生
脊椎動物における運動ニューロンの産生は、少なくとも3つの工程:外胚葉細胞の神経誘導、神経外胚葉細胞の尾側化(caudalization)及び尾側化された神経前駆体の腹側化(ventralization)を包含する(Jessell,T.M.,Nat.Rev.Genet.1:20-29,2000)。本発明者等はまず、脊椎動物神経外胚葉がFGF及び/又は抗BMP(骨形成タンパク質)シグナルに応答して発生するという原理(Wilson,S.I.and Edlund,T.,Nat.Neurosci.4:Suppl.:1161-1168,2001)に基づいて、FGF2の存在下での接着コロニー培養(Zhang,S.C.,et al.,Nat.Biotechnol.19:1129-1133,2001)を用いて、hES細胞(Thomson,J.A.,et al.,Science 282:1145-1147,1998)(H1及びH9系統)からの効率的な神経神経外胚葉分化のための培養系を樹立した。神経分化の最初の徴候は、ES細胞を分化のためにフィーダー細胞から取り外した8〜10日後に、コロニーの中心でロゼットを形成する円柱状細胞の出現であった。ロゼットにおける円柱状細胞は、神経外胚葉マーカーであるPax6を発現したが、神経管形成中に神経上皮細胞により発現される汎神経外胚葉転写因子であるSoxIを発現しなかったが(Pevny,L.H.,et al.,Development 125:1967-1978,1998)、成長領域における平坦細胞はそうではなかった(図9A)。同じ培地中でさらに4〜5日間のさらなる培養により、円柱状細胞は、管腔を伴う神経管様ロゼットへと体系化して(図9B)、Pax6及びSox1の両方を発現した(図9C、図9D)。したがって、hES細胞からの神経外胚葉細胞の分化は、少なくとも2つの特徴的な段階、すなわち神経誘導の8〜10日後の初期ロゼットにおけるPax6+/Sox1-円柱状細胞、及び誘導の14日後の神経管様後期ロゼットを形成するPax6+/Sox1+細胞を包含する。
【0114】
免疫細胞化学分析は、Pax6(図9E)、Sox1及びネスチンを発現するロゼット細胞が、前脳及び中脳細胞により発現されるホメオドメインタンパク質であるOtx2に対して陽性である(図9F、図9H)であるが、脊髄における細胞により生産されるホメオドメインタンパク質であるHoxC8に対しては陰性である(図9H)ことを明らかにした。これらのロゼット細胞は、中脳細胞により発現されるEn1に対しても陰性であった(図9G)。これらの結果は、神経神経外胚葉細胞が、初期のin vivoでの発達中に神経外胚葉細胞により初期に獲得される前脳表現型に類似した前脳表現型を保有することを示唆する(Stem,D.C.,Nat.Rev.Neurosci.2:92-98,2001)。
【0115】
神経外胚葉細胞から運動ニューロンを分化させるために、神経管様ロゼットにおけるSox1+神経外胚葉細胞を、酵素処理(Zhang,S.C.,et al.,Nat.Biotechnol.19:1129-1133,2001)により単離して、レチノイン酸(RA、0.001〜1μM)、尾側化試薬(Blumberg,B.,et al.,Development 124:373-379,1997)及びSHH(50〜500ng/ml)、腹側化モルフォゲン(Jessell,T.M.,Nat.Rev.Genet.1:20-29,2000;Briscoe,J.and Ericson,J.,Curr.Opin.Neurobiol.11:43-49,2001)の存在下で、ラミニン基質上で分化させた。平板に播種後14日目までに、成長領域における多数の細胞が、それらの突起を通じてネットワークを形成した(図10A)。免疫染色分析により、分化細胞が、ニューロンマーカーであるβIII−チューブリン及びMAP2に対して陽性であることが示された。それらの大部分(50%を超える)はまた、運動ニューロン発生に関連する転写因子であるIsl 1(図10A)及びLim3(図示せず)に対しても陽性であった(上述のJessell,T.M.;上述のBriscoe,J.and Eriscon,J.,2001;Shirasaki,R.and Pfaff,S.L.,Annu.Rev.Neurosci.25:251-281,2002)。しかしながら、1〜3週間の培養物におけるほんの数少ない細胞が、運動ニューロン特異的転写因子であるHB9を発現した(Arber,S.,et al.,Neuron 23:659-674,1999)(図10A)。これらは、Sox1+神経外胚葉が、運動ニューロン誘導に対して不応性であり得ることを示唆する。
【0116】
Sox1発現細胞は、3週齢のヒト胚に相当する時期での神経管様ロゼットの形成及びSox1の発現を仮定すると、神経管における神経外胚葉細胞に相当し得る。神経管における神経外胚葉細胞は、局所的に特定化される(Lumsden,A.and Krumlauf,R.,Science 274:1109-1115,1996)。この考慮により、本発明者等に、神経外胚葉細胞がSox1を発現する前に、RAが尾側化及び/又は運動ニューロン特定化を促進し得るということを仮定するに至らせた。したがって、本発明者等は、より初期段階で、すなわち円柱状細胞がロゼットへ体系化し始め、且つPax6を発現した場合に、神経外胚葉細胞をRA(0.001〜1μM)で処理した。このようにして6日間処理した培養物は、神経管様ロゼットへと発生して、Sox1を発現し、FGF2処理した培養物と区別できなかった。ロゼットクラスターを単離して、ラミニン基質へ接着させた後、平板に播種後の24〜48時間程度と初期に、無数の神経突起(neurites)がクラスターから伸長した。平板に播種後14日目までに、神経突起成長領域は、カバーガラスをほぼ全体(直径11mm)覆ったが、成長領域におけるニューロン細胞体の数は限られていた(図10A)。細胞の大部分が、Isl 1/2に対して陽性であり、それらのうち、約50%はまた、HB9+であり(図10B)、これらの二重陽性細胞が運動ニューロンであることを示唆した。Isl 1/2+及びHB9-細胞は、介在ニューロンである可能性が高かった。
【0117】
HB9発現細胞はまず、6日目に出現して、神経ロゼットを分化のために平板に播種後したおよそ10〜12日後に、高比率に到達した。HB9発現細胞は、主としてクラスターへと局在化され、クラスターでは総細胞の約21%であり、成長領域では数少ない細胞が見られた(図10A、図10D)。最も高い比率のHB9+細胞は、0.1〜1.0μMのRAの存在下で誘導された。1.0μMを超える用量でのRAは、本発明者等の化学的に規定される接着培養において、幾つかの細胞に退化(又は変質)をもたらした。RA又はSHH、或いは両方の非存在下では、ほんわずかなHB9+細胞しか存在しなかった(図10D)。HB9発現細胞はすべて、βIII−チューブリンで染色された(図10C)。したがって、初期神経外胚葉に対するRAによる処理は、運動ニューロンの効率的な誘導に必要とされる。
【0118】
RAが初期神経外胚葉細胞を運動ニューロンへと分化させるが、後期神経外胚葉細胞は分化させない理由を理解するために、本発明者等はまず、神経外胚葉細胞の尾側化に対するRAの影響を検査した。RA(0.001〜1.0μM)又はFGF2(20ng/ml)による7日間の初期ロゼット細胞(Pax6+/Sox1-)の処理は、用量依存的様式で、Otx2の発現の減少、並びにHox遺伝子(例えば、Hox B1、B6、C5及びC8)の発現の増加をもたらした(図11A)。より多くの尾側細胞により発現される遺伝子が、より高い用量のRAにより誘導された。RAによる1週間の後期ロゼット細胞(Pax6+/Sox1+)の処理は、FGF2により誘導されるHox遺伝子発現パターンを変更させなかった(図示せず)。ニューロン分化培地中で単離及び培養したRA処理した初期ロゼット細胞は、免疫細胞化学により明らかであるように、まず分化の6日後に、及び大部分が分化の10〜12日後にHoxC8タンパク質を発現した(図11D)。この段階の細胞は、Otx2発現を欠如していた(図11C)。HoxC8+細胞はすべて、βIII−チューブリン+ニューロンであった(図11E)。対比して、RAで1週間処理した後、2週間分化させた後期ロゼット細胞は、数少ないHoxC8+細胞を生じたが、Otx2発現細胞は減少した(図示せず)。したがって、RAによる初期神経外胚葉細胞の処理は、脊髄運動ニューロンに関連するHoxCタンパク質の発現を伴う効率的な尾側化をもたらすが、RAによる後期神経外胚葉細胞の処理はもたらさない(Liu,J.P.,et al.,Neuron 32:997-1012,2001)。
【0119】
続いて、本発明者等は、腹側化に関する初期及び後期神経外胚葉細胞に対するSHHの影響を比較した。hES細胞由来の神経外胚葉細胞は、それらがPax6+であってもSox+であっても、脊髄において運動ニューロン及びオリゴデンドロサイトとなる運命にある腹側神経前駆体細胞において発現されるホメオドメインタンパク質であるOlig2を発現しなかった(Lu,Q.R.,et al.,Cell 109:75-86,2002;Zhou,Q.,et al.,Neuron 31:791-807,2001)(図11F)。Pax6+/Sox-神経外胚葉細胞をRAの存在下で1週間培養した後、単離して、SHHの非存在下でさらに2週間、さらに分化させた場合、ほんの数少ない細胞が、Olig2を発現した(図示せず)。しかしながら、SHH(50〜500ng/ml)の存在下では、多くの細胞が、核においてOlig2を発現した(図11G)。対比して、同条件下で2週間分化させたPax6+/Sox+神経外胚葉細胞は、数少ないOlig2発現細胞を産生した(図11H)。したがって、初期段階でRAにより処理した神経外胚葉細胞は、SHHに応答して、腹側神経前駆体発生運命へと効率的に誘導させることができるが、後期段階でRAにより処理した神経外胚葉細胞はできない。
【0120】
FGF2も尾側発生運命を誘導する(図11A)にもかかわらず、運動ニューロン特定化に初期RA処理が必要とされる理由をさらに認識するために、本発明者等は、脊髄において前駆体ドメインを精製するのに重要であるクラスI(Irx3、Pax6)及びクラスII(Olig2、Nkx2.2、Nkx6.1)分子の発現を検査した(上述のJessell,T.M.,2000;上述のBriscoe,J.,and Ericson,J.,2001)。RAは、後期神経外胚葉細胞よりも初期神経外胚葉細胞において、SHH及びクラスII遺伝子、特にOlig2及びNkx6.1のかなり活発な(robust)発現を誘導した(図11B)。したがって、初期神経外胚葉細胞は、運動ニューロン特定化に必須であるSHH及びクラスII因子の発現をアップレギュレートする際に、RAに対してより応答性である。
【0121】
コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を発現する細胞は、尾側化された神経外胚葉細胞を運動ニューロン分化のために平板に播種した3週後に出現し、これらの細胞は、本研究で分析した最長の培養期間である7週間に至るまで着実に増加した(図12A)。ChAT発現細胞は、主としてクラスターへと局在化され(図12A)、HB9+細胞の局在化に相当する。これらの細胞は、主に多極細胞であり、直径15〜20μmの大きな細胞体(somas)を有し、幾つかは、30μm程度と大きかった(図12A、図12B)。核におけるHB9及び体細胞と突起におけるChATの共発現が、培養3週間後に観察された(図12C)。ニューロンの多くはまた、アセチルコリンの貯蔵及び放出に必須である小胞アセチルコリン輸送体(VAChT、図12D)に関して陽性に染色された。多くのChAT+細胞は、特に培養の5週後に、細胞体及び突起上のシナプシンに関して陽性に標識された(図12E)。
【0122】
本発明者等は、電気生理学的技法を用いて機能的成熟を評価した(n=28個の細胞)。平均静止電位は、−36.9±2.6mVであり、入力抵抗は、920±57MΩであった。単一活動電位(AP、図12Fi)又は減少する過程(図12Fii)は、試験した13個のニューロンのうち11個において、脱分極性電流工程(0.15〜0.2nA×1s)より誘発された。自発的脱分極性シナプス入力により誘発される自発的APも観察された(図12G)。すべての細胞が、記録、続く免疫組織化学分析を生き残るわけではないが、ビオシチン及びChATによる二重免疫染色により、本発明者等が記録した細胞の多くは、運動ニューロンであることが実証された(図12J)。
【0123】
電圧クランプ分析により、ナトリウム及び遅延整流性カリウム電流と一致した時間及び電圧依存性内向き並びに外向き電流が示された。内向き電流及び活動電位は、1.0μMのテトロドトキシン(TTX、n=3)により阻止され、電圧作動型ナトリウムチャネルの存在を確認した。外向き電流は、さらに特性化されなかった。本発明者等はまた、シナプス電流も観察した(図12H、試験した23個の細胞のうちn=21)。これらは、1.0μMのTTXにより、振動数が減少されたが、排除はされず、機能的に無傷のシナプス神経伝達の存在を実証した。Csグルコネートベースのピペット溶液を用いると、外向き(阻害性)電流はゆっくりと減衰し(13.6ms、n=10回の事象)、ストリキニーネ及びビククリンの組合せにより阻止されたのに対して、残存する内向き(興奮性)電流は、迅速に減衰し(2.1ms、n=17回の事象)、D−AP5及びCNQXの組合せにより阻止され(図12H、図12J)、阻害性(GABA/グリシン)及び興奮性(グルタメート)神経伝達が、無傷脊髄で見られるのと同様に行われることを実証した(Gao,B.X.,et al.,J.Neurophysiol.79:2277-2287,1998)。
【0124】
本発明者等の本研究は、機能的運動ニューロンが、FGF2による神経外胚葉分化、神経誘導の後期相中のRAによる特定化及び/又は尾側化、並びに腹側化用モルフォゲンSHHの存在下での有糸分裂後運動ニューロンへの続く分化により、ヒトES細胞から効率的に産生することができることを実証する。したがって、動物から学んだ神経発達の基本原理をヒト霊長類へ適用させて、in vitroで反復させ得る。マウスES細胞からの運動ニューロン分化の最近の実証(Wichterle,H.,et al.,Cell 110:385-397,2002)と対比して、本発明者等は、神経外胚葉分化のプロセスを細かく調べて、前駆体がSox1-発現神経外胚葉細胞となる前に、初期に生み出される突出ニューロン(例えば、脊髄運動ニューロン)の特定化がモルフォゲンによる処理を必要とすることを発見した。
【0125】
マウスES細胞はまず、神経外胚葉細胞へと導かれた。続いて、神経外胚葉は、ドーパミン作動性ニューロンへの分化に関してはFGF8及びSHH(Barberi,T.,et al.,Nat.Biotechnol.21:1200-1207,2003;Lee,S.H.,et al.,Nat.Biotechnol.18:675-679,2000)又は運動ニューロン分化に関してはRA及びSHH(上述のWichterle,H.,et al.,2002)のようなモルフォゲンで処理する。これらの観察は、ニューロンが神経管における上皮から特定化されるという概念に適合するようである。本発明者等の本観察により、前脳表現型も保有するhES由来のSox1発現神経外胚葉細胞は、脊髄運動ニューロンを産生するのに不応性であることが示される。本発明者等の培養系においてhES細胞から産生されるSox1発現細胞は、それらが神経管様構造を形成し、且つ6日齢のヒト胚に相当するhES細胞からの分化の2週後に、Sox1を発現するため、神経管におけるものと類似している(Zhang,S.C.,J.Hematother.Stem Cell Res.12:625-634,2003)。in vivoでは、神経管は、ヒト妊娠の第3週目の最後に形成され(Wood,H.B.and Episkopou,V.,Mech.Dev.86:197-201,1999)、Sox1は、動物において神経管の形成中に神経外胚葉により発現される(Pevny,L.H.,et al.,Development 125:1967-1978,1998;上述のWood,H.B.and Episkopou,V.,1999)。本発明者等の見解は、幹細胞がSox1−発現神経外胚葉細胞となる前に、ニューロンの種類、すなわち少なくとも大きな突出ニューロン(例えば、運動ニューロン)の特定化が開始することを示唆し、したがって脳由来の神経上皮細胞が、異なる局所的アイデンティティーの突出ニューロンを産生することができない理由を説明し得る。
【0126】
hES細胞の再生可能な供給源からの機能的運動ニューロンは、ALSのような運動ニューロン関連障害を治療するように設計される医薬品をスクリーニングするための包括的なヒト運動ニューロンを提供する。これらの細胞はまた、運動ニューロンに対する実験的細胞代替物のための有用な供給源を提供し、将来、運動ニューロン疾患又は脊髄障害を伴う患者における適用を導き得る。
【0127】
方法
ES細胞の培養及び神経分化
ヒトES細胞(系統H1及びH9、継代19〜42)を、記載されるように(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)、照射した胚マウス線維芽細胞のフィーダー層上で週に1度継代培養した。未分化状態のES細胞は、典型的な形態並びにOct4及びSSEA4の発現により確認された。神経外胚葉は分化に関して、hES細胞を4日間凝集させた後、N2、ヘパリン(2ng/ml)及びFGF2(20ng/ml)又はRAを補充したF12/DMEM中で10日間、接着性プラスチック表面上で培養した(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)。
【0128】
運動ニューロン誘導に関して、モルフォゲン処理した神経外胚葉細胞を、Neurobasal培地(Gibco)、N2サプリメント及びcAMP(Sigma、IgM)から構成されるニューロン分化培地中のオルニチン/ラミニンコーティングしたカバーガラス上へ、RA(0.1μM)及びSHH(10〜500ng/ml、R&D)の存在下で1週間平板培養した。その後、BDNF、GDNF及びインスリン様成長因子−1(IGF1)(10ng/ml、PeproTech Inc.)を培地に添加して、SHHの濃度を50ng/mlへ低減させた。
【0129】
免疫細胞化学及び顕微鏡法(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)
この研究で使用される一次抗体としては、ニューロンクラスIIIβ−チューブリンに対するポリクローナル抗体(Convance Research Products,Richmond,CA、1:2,000)、ネスチン(Chemicon,Temecula,CA、1:750)、Sox1(Chemicon、1:1000)、シナプシンI(Calbiochem,Darmstadt,German、1:500)、ChAT(Chemicon、1:50)及びVAChT(Chemicon、1:1000)、Isll/2(S.Pfaff)、Otx2(F.Vaccarino)及びOlig2(M.Nakafuku)が挙げられる。MNR2又はHB9(81.5C10)、Islet1(40.2D6)、Lim3(67.4E12)、Pax6及びNkx2.2に対する抗体は、Developmental Studies Hybridoma Bank(DSHB、Iowa City,IA)から購入し、抗HoxC8は、Convance Research Products(1:200)から購入した。電気生理学的に記録される細胞の識別のために、ビオシチン(Molecular Probes)充填細胞を、ストレプトアビジン−FITC(Sigma、1:200)で標識して、ChATで染色した。画像は、Nikon蛍光顕微鏡600(FRYER INC,Huntley,IL)又は共焦点顕微鏡(Nikon,Tokyo,Japan)上へ取り付けたSpotディジタルカメラを使用して収集した。本来は非霊長類組織に対して開発された運動ニューロン転写因子及びホメオドメインタンパク質に対する抗体の特異性を、胎性(E34又はE36)アカゲザル脊髄及び脳組織(Wisconsin Primate Research Centerにより提供)において確証された。
【0130】
定量化
総分化細胞のうちのHB9発現細胞の集団(ヘキスト標識した)は、Methamorphソフトウェア(Universal Imaging Corporation,Downingtown,PA)を用いて手動により、或いは立体解析学的測定により、実験群を知らされていない人物により計数された。測定されるべき面積は、トレーサーにより輪郭が描かれ、Stereo Investigatorソフトウェア(MicroBrightField Inc,Williston,VT)により作動される自動段階移動(automated stage movement)を用いて、スコープが無作為に測定部位をサンプリングするように、計数用フレームの数を予め設定した。重複細胞を伴う計数領域に関しては、顕微鏡は、異なる層における陽性細胞上で上下に移動して焦点を合わせるように予め設定され、クラスターにおける総細胞数は、ソフトウェアにより推定された。各群における3〜4個のカバーガラスを計数し、データは、平均値±SDとして表した。
【0131】
RT−PCRアッセイ
RT−PCR増幅は、異なる段階でのhES細胞由来の神経外胚葉細胞及び運動ニューロン分化培養物から実施した。
【化2】
【0132】
電気生理学的記録
hES細胞由来の運動ニューロンの電気生理学的特性は、全細胞パッチ−クランプ記録技法(Gao,B.X.,et al.,J.Neurophysiol.79:2277-2287,1998)を用いて、5〜6週間分化させた培養物において研究した。テトロドトキシン(TTX、1μM、Sigma)、ビククリン(20μM、Sigma)、ストリキニーネ(5μM、Sigma)、D−2−アミノ−5−ホスホノ吉草酸(AP−5、40μM、Sigma)又は6−シアノ−7−ニトロキノキサリン−2,3−ジオン(CNQX、20μM、RBI,Natick,MA)をバス溶液に適用させて、電圧作動型又はシナプス電流のアイデンティティーを確認した。幾つかの実験に関して、1%ビオシチンを記録溶液に添加した。電流及び電圧クランプ記録は、MultiClamp 700A増幅器(Axon Instruments,Union City,CA)を用いて実施した。シグナルは、4kHzでフィルタリングして、Digidata 1322Aアナログ−ディジタル変換器(Axon Instruments)を用いて10kHzでサンプリングして、市販のソフトウェア(pClamp9、Axon Instruments)を用いて、コンピュータハードディスクに蓄積及び格納された。アクセス抵抗は通常、8〜15MΩであり、増幅器回路を用いて50〜80%相殺した。自発的シナプス電流は、テンプレート検出アルゴリズム(Mini Analysis Program 5.6.28、Synaptosoft,Decatur,GA)を用いて検出し、Levenberg-Marquardtアルゴリズムを用いて、単一指数関数へ適合させた。結果は、平均値±SEとして提示される。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】図1A〜図1。ES細胞からの神経前駆体の分化及び単離。(図1A)FGF2の存在下で5日間成長させた付着EBは、外縁での扁平な細胞を及び中心に集まった小伸長細胞を示す。(図1B)7日目までには、多くのロゼット形成(矢印)が分化EB中心に出現した。右上部の挿入図は、トルイジンブルーで染色したロゼットの1μm切片であり、管状構造に整列された円柱状細胞を示す。バー=20μm。(図1C〜図1E)ロゼットのクラスター(左下)及び小形成ロゼット(中心)における細胞は、ネスチン(図1C)及びMusashi−1(図1D)に関して陽性であるのに対して、周辺扁平細胞は陰性である。(図1E)図1C及び図1Dと、DAPIで標識したすべての細胞核との複合画像である。(図1F)ディスパーゼで20分間処理した後、ロゼット形成は退縮したのに対して、周辺扁平細胞は、付着したままであった。(図1G〜図1I)単離細胞は、繊維状パターンにおいてネスチン(図1G)、細胞質においてMusashi−1(図1H)及び主として膜上でPSA−NCAM(図1I)に関して陽性に染色される。核をすべて、DAPIで染色する。バー=100μm。
【図2】図2A〜図2G。in vitroでのES細胞由来の神経前駆体の特性化。(図2A)解離されたES細胞由来の神経前駆体によるBrdU取り込みは、FGF2(20ng/ml)の存在下で上昇するが、上皮成長因子(EGF)(20ng/ml)又は白血病阻害因子(LIF)(5ng/ml)を用いた場合は上昇しない。これは、3回の反復実験のうちの1つからの代表データである。*は、実験群と対照群との間の差を示す(p<0.01、n=4、スチューデントt検定)。(図2B)ES細胞に由来する神経前駆体のクラスターの3週間の分化は神経突起束を示し、細胞はそれらと一緒に遊走する。(図2C)3週の分化後の免疫染色は、細胞の大部分がβIII−チューブリン+ニューロン(赤色)であること、またほんのわずかな細胞がGFAP+アストロサイト(緑色)であることを示す。(図2D)45日の分化後、さらに多くのGFAP+アストロサイト(緑色)が、NF200+神経突起(赤色、緑色のGFAPとの重複のため黄色がかっている)と一緒に出現する。(図2E〜G)様々な形態を有するES由来のニューロンは、グルタメート(図2E)、GABA(図2F)及び酵素チロシンヒドロキシラーゼ(図2G)のような別個の神経伝達物質を発現する。O4+オリゴデンドロサイト(矢印)は、グリア分化培地における2週の分化後に観察される。バー=100μm。
【図3】図3A〜図3K。in vivoでのES細胞由来の神経前駆体の取り込み及び分化。移植細胞は、ヒトalu反復要素に対するプローブ(図3A〜図3E、図3G)又はヒト特異的核抗原に対する抗体(図3F)を用いたin situハイブリッド形成法により検出される。(図3A)8週齢のレシピエントの宿主皮質における個々のドナー細胞(矢印)。(図3B)海馬形成におけるES細胞由来の神経前駆体の広範囲にわたる取り込み。ヒトaluプローブとハイブリダイズさせた細胞は、赤色ドットで標識される(偽性有色)。(図3C)P14での海馬錐体層の近傍で取り込まれたヒト細胞。(図3D)4週齢のレシピエントマウスの中隔におけるES細胞由来の細胞。(図3E)視床下部における個々のドナー細胞の高倍率図である。隣接する未標識宿主細胞間のとぎれのない取り込みに留意されたい。(図3F)ヒト特異的核抗原に対する抗体を用いて検出される4週齢の宿主の線条におけるドナー細胞。(図3G)水道から背側中脳への移植細胞の広範囲にわたる遊走。(図3H)極形態及び長い突起を示す2週齢の宿主の皮質におけるヒトES細胞由来のニューロン。細胞は、ヒト特異的核マーカー(緑色)及びβIII−チューブリン(赤色)に対する抗体で二重標識される。(図3I)ヒト神経フィラメントに対する抗体で同定した海馬の采におけるドナー由来の軸索のネットワーク。(図3J)MAP2のa及びbアイソフォームを認識する抗体で二重標識したドナー由来の多極ニューロン(図3K)ヒト特異的核マーカー(緑色)及びGFAPに対する抗体(赤色)で二重標識した4週齢の動物の皮質におけるES細胞由来のアストロサイト。二重標識はすべて、共焦点画像であり、単一光切断により確認されることに留意されたい。バー:図3A、図3B、図3G 200μm、図3C、図3D 100μm、図3E、図3F、図3H〜図3K 10μm。
【図4】神経外胚葉細胞の産生及び局所的特定化。図4A。円柱状細胞は、20ng/mlのFGF2の存在下での9日目に分化ES細胞コロニーにおいて出現した。図4B。円柱状細胞は、14日目に神経管様ロゼットを形成した。図4C。円柱状形態を有するロゼットにおける細胞は、Sox1(赤色)に対して陽性であった。図4D。FGF2で処理した培養物における神経ロゼット細胞は、Bf1(赤色)を発現したが、En−1(緑色)は発現しなかった。図4E。En−1(緑色)発現は、9日目に線維芽細胞成長因子8(FGF8)(100ng/ml)で6日間処理し、FGF8中で4日間増殖させた後、ラミニン基質上でさらに6日間ソニックヘッジホッグ(SHH)(200ng/ml)で処理したネスチン+(赤色)神経外胚葉細胞において観察された。図4F。これらのEn−1+細胞(緑色)は、図4Eのように処理した培養物においてBf1(赤色)に対して陰性であった。細胞核は、ヘキスト(c、d;青色)で染色した。バー=50μm。
【図5】DAニューロンの分化。図5A。分化した細胞の約1/3は、3週間の分化後にFGF8、SHH及びアスコルビン酸(AA)で処理した培養物においてチロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性であった。図5B。培養物におけるTH+細胞(赤色)はすべて、ニューロンマーカーβIII−チューブリン(緑色)で陽性に染色された。図5C〜図5E。培養物におけるTH+細胞(d、緑色)はすべて、芳香族酸デカルボキシラーゼ(AADC)(d及びe、赤色)で陽性に染色されたが、幾つかのAADC+細胞は、TH-であった(e、矢じり)。図5F。TH+細胞は、ノルアドレナリン作動性ニューロンマーカードーパミンβ−ヒドロキシラーゼ(DβH)(緑色)に対して陰性であった。挿入図は、DβHが成体ラット脳幹の切片における細胞を陽性に染色することを示した。細胞核は、ヘキスト(a、b、f;青色)で染色した。バー=50μm。
【図6】ヒトES細胞由来のDAニューロンの特性化。図6A。分化DAニューロンは、RT−PCRにより現される中脳発生運命の特徴である遺伝子を発現した。EB:胚様体、NE:神経外胚葉細胞、3w:3週間分化させたDA培養物、NC:陰性対照。図6B。培養物におけるTH+細胞(赤色)の大部分は、中脳マーカーEn−1(緑色)を発現した。図6C。GABA発現細胞(赤色)は、培養物中に存在したが、極わずかのTH+細胞(緑色)がGABA(赤色、挿入図)を共発現した。図6D。TH+細胞(赤色)は、カルビンジン(緑色)に対して陰性であった。バー=50μm。
【図7】ヒトES細胞由来のDAニューロンにおける受容体及び輸送体の発現。図7A〜図7C。TH+細胞(a、緑色)はすべて、c−Ret(赤色)を発現した。図7D〜図7F。TH+細胞(d、緑色)は、VMAT2(e及びf;赤色)を共発現した。図7G〜I。TH+ニューロン(j、緑色)は、シナプトフィジン(k及びl、赤色)を共発現した。バー=25μm。
【図8】in vitroで産生したDAニューロンの機能的特徴。図8A。三週間の分化後の対照及び処理培養物における自発的及び脱分極(HBSS中の56mM KCl)誘導性DA放出。データは、3回の実験からの平均値±SDとして提示した。*p<0.05(対応のないスチューデントt検定により対照に対して)。図8B。30日間分化させた2つのニューロンにおいて電流段階(0.2nA)を脱分極させることにより誘起される活動電位。受動膜特性:(i)Vrest−49mV、Cm 15.5pF、Rm 5.0GΩ、(ii)Vrest−72mV、Cm 45pF、Rm 885GΩ;図8C。36日間分化させたニューロンにおける自発的シナプス後電位。図8D。培養に30日間維持されたニューロンにおける自発的なシナプス後電位。ニューロンは、K−グルコナートベースのピペット溶液を用いて−40mVで電圧固定した。外向き電流は、阻害性事象を反映し、内向き電流は、この低塩化物記録溶液において興奮性事象を反映する。(ii)パネル(i)で示される細胞からの平均事象。加重減衰時間定数は、阻害(n=17事象)及び興奮性(n=14事象)電流に関して、61.4ms及び9.9msである。図8E〜図8G。免疫染色は、記録されたニューロン(f、緑色)がTH+(e及びg、赤色)であることを示した。バー=50μm。
【図9】FGF2により誘導される神経外胚葉細胞は、吻状表現型を示す。FGF2中で10日間分化させたES細胞は、コロニー中心で小円柱状形態を示し、ロゼット形成へと体系化した。ロゼットにおける円柱状細胞は、Pax6に対して陽性であり、Sox1に対して陰性であったが、周辺の扁平細胞はそうではなかった(A)。14日目までに、円柱状細胞は、神経管様ロゼットを形成し(B)、Pax6(C)及びSox1(D)の両方に対して陽性であった。ロゼットにおけるPax6+細胞(E)はまた、Otx2+(F)であったが、En−1-(G)であった。神経管様ロゼットにおける細胞は、Otx2に対して陽性であり、HoxC8に対して陰性であった(H)。青色は、ヘキスト染色した核を示す。バー=50μm。
【図10】神経外胚葉細胞からの運動ニューロンの産生。(A)2週間のSox1+神経外胚葉細胞の分化(一番上の行)は、成長領域における広範囲にわたるニューロン産生、Isl1の発現を明らかにしたが、HB9+細胞はわずかであることを明らかにした。Pax6+/Sox1-神経外胚葉細胞の処理(二番目の行)は、わずかに遊走している細胞を伴う広範囲にわたる神経突起成長、Isl1の発現及び大比率のHB9+細胞をもたらした。初期神経外胚葉細胞から分化したIsl1/2+の約50%はまた、HB9+であった(B)。HB9+細胞はまた、βIII−チューブリンに対して陽性であった(C)。クラスターにおける細胞の約21%は、培養物がレチノイン酸(RA)及びSHHの両方の存在下で分化された場合にはHB9+であったのに対して、RA単独若しくはSHH単独で、又はともに存在せずに培養される場合にはわずかなHB9+細胞が観察された。青色は、ヘキスト染色した核を示す。バー=50μm。
【図11】神経外胚葉細胞におけるRA、FGF2及びSHHの影響。(A)RT−PCR分析は、RA又は20ng/mlのFGF2を用いて神経誘導培地中で1週間培養された初期ロゼット細胞からの吻側尾側遺伝子の変動を示した。(B)RA0.1μMで1週間処理した初期及び後期神経外胚葉細胞におけるホメオボックス遺伝子発現の比較。RAで処理した後、12日間分化させた初期神経外胚葉細胞は、Otx2に対して大部分陰性となった(C)が、HoxC8に対して陽性となった(D)。HoxC8+細胞はすべて、βIII−チューブリン+(E)であった。Pax6発現神経外胚葉細胞は、Olig2に対して陰性であった(F)。RAによる1週間の処理及びSHH(100ng/ml)の存在下での2週間の分化後に、多くの細胞は、Olig2を発現した(G)。後期神経外胚葉細胞をRAで処理した後、同培養条件下で分化させた場合、わずかなOlig2+細胞が観察された(H)。青色は、ヘキスト染色した核を示す。バー=50μm。
【図12】培養における運動ニューロンの成熟。ChAT発現細胞は、クラスターにおいて大部分は局在化され(A)、大きな多極細胞であった(B)。共焦点画像は、3週間の培養物において、神経細胞体及び突起内のChAT、並びに核におけるHB9の共局在化を示した(C)。クラスターにおけるほとんどの細胞が、VChATを発現した(D)。多くのChAT+細胞はまた、培養における5週間後に神経細胞体及び突起内のシナプシンに対して陽性であった(E)。(F)42DIVに関して維持されるニューロンにおける電流段階(0.15nA)を脱分極させることにより誘起されるAP。静止膜電位(Vm)−59mV(fi)及び70mV(fii)。(G)42DIVに関して維持されるニューロンにおける自発的AP。Vm−50mV。(H)対照条件下でK−グルコネートベースのピペット溶液を用いた−40mVでの自発的内向き及び外向きシナプス電流(Hi)。ビククリン(20μM)及びストリキニーネ(5μM)の両方の適用は、外向き電流を阻止した(IPSC、Hii)。AP−5(40μM)及びCNQX(20μM)の続く適用は、残存する内向き電流を阻止した(EPSC、Hiii)。(i)パネルHで示される細胞からの平均sIPSC及びsEPSC。(J)ビオチン(記録用電極から)及びChATに関する二重免疫染色。青色は、ヘキスト染色した核を示す。バー=50μm。
【図13】in vitroで産生された運動ニューロンの電気生理学的特性化。(A)42DIVに関して維持されるニューロンにおける電流段階(0.15nA)を脱分極させることにより誘起されるAP。静止膜電位(Vm)−59mV(ai)及び70mV(aii)。(B)42DIVに関して維持されるニューロンにおける自発的AP。Vm−50mV。(C)対照条件下でK−グルコネートベースのピペット溶液を用いた−40mVでの自発的内向き及び外向きシナプス電流(ci)。ビククリン(20μM)及びストリキニーネ(5μM)の両方の適用は、外向き電流を阻止した(IPSC、cii)。AP−5(40μM)及びCNQX(20μM)の続く適用は、残存する内向き電流を阻止した(EPSC、ciii)。(D)パネルcで示される細胞からの平均sIPSC及びsEPSC。(E及びF)記録後に、カバーガラスクラスターをChATで免疫染色し、ビオチン充填したニューロンはChATに対して陽性であることを示した。バー=50μm。
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2001年10月3日に出願された米国特許出願第09/970,382号(本明細書中に援用される)の一部継続出願であり、同様に2003年8月29日に出願された米国仮特許出願第60/498,831号(本明細書中に援用される)及び2003年9月2日に出願された米国仮特許出願第60/499,570号(本明細書中に援用される)に対して優先権を主張する。
【0002】
[連邦政府により後援される研究又は開発に関する記述]
本発明は、米国政府の後援を受けずに行われた。
【背景技術】
【0003】
[発明の背景]
ヒト幹細胞(ES)細胞は、着床前の胚の内細胞塊に由来する多分化能性細胞である(Thomson,J.A.,et al.,Science 282:1145-1147,1998)。マウスES細胞に類似して、ヒトES細胞は、様々な体細胞タイプの3つすべての胚葉へ分化するそれらの潜在性を維持しながら多数に増殖させることができる(上述のThomson,J.A.,et al.,1998;Reubinoff,B.E.,et al.,Nat.Biotech.18:399,2000;Thomson,J.A. and Odorico,J.S.,Trends Biotech 18:53-57,2000;Amit,M.,et al.,Dev.Biol.227:271-278,2000)。ES細胞のin vitroにおける分化は、初期発生の細胞上及び分子機構及び移植治療用の供与細胞の産生について、新たな展望を提供するものである。実際に、マウスES細胞は、造血細胞(Wiles,M.V. and Keller,G.,Development 111:259-267,1991)、心筋細胞(Klug,M.G.,et al.,J.Clin.Invest.98:216-224,1996)、インスリン分泌細胞(Soria,B.,et al.,Diabetes 49:157-162,2000)並びにニューロン及びグリア(Bain,G.,et al.,Dev.Biol.168:342-357,1995;Okabe,S.,et al.,Mech.Dev.59:89-102,1996;Mujtaba,T.,et al.,Dev.Biol.214:113-127,1999;Brustle,O.,et al.,Science 285:754-756,1999)を含む多くの臨床的に意義ある細胞型へin vitroで分化することがわかっている。げっ歯類中枢神経系(CNS)への移植後に、ES細胞由来の神経前駆体(precursor)は、宿主組織へ統合し、場合によっては、機能的改善をもたらすことがわかっている(McDonald,J.W.,et al.,Nat.Med.5:1410-1412,1999)。ヒトES細胞の臨床的用途は、特定の組織及び器官用の高度純度のドナー細胞の産生を要する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分化ヒトES細胞培養物からの移植可能な神経及び運動ニューロン前駆体の単離に関する簡素でさらには効率的な戦略が、当該技術分野で必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[発明の概要]
一実施の形態では、本発明は、胚幹細胞から培養され、初期ロゼット形態を特徴とし、且つSox1-,Pax6+である細胞の同調性集団を含む細胞の集団を創出する方法である。一実施の形態では、上記方法は、以下の:(a)胚幹細胞を胚様体へと増殖させる工程、及び(b)胚様体を神経管様ロゼットの形態の神経幹細胞の同調集団へと増殖させる工程(ここで、この増殖は、FGF2、FGF8、FGF4又はFGF9の存在下である)を含む。胚幹細胞の増殖から初期ロゼットの発達までの間の総期間が8〜10日であることが好ましい。Pax6+/Sox1-細胞の総集団(比率:population)は、総細胞集団の少なくとも70%であることが好ましい。
【0006】
本発明はまた、この方法により創出される細胞の集団である。
【0007】
別の実施の形態では、本発明は、神経管様ロゼット形態を特徴とし、且つPax6+/Sox1+である同調化した神経幹細胞の集団を創出する方法である。初期ロゼット形態を特徴とし、且つSox1-,Pax6+である細胞を、FGF2、FGF4、FGF8又はRAの存在下で4〜6日間培養する工程を含む方法。本発明はまた、この方法により創出される細胞の集団である。
【0008】
一実施の形態では、初期ロゼット細胞は、FGF8を用いて、好ましくは4〜7日間培養され、EN1+である。別の実施の形態では、細胞は、FGF2を用いて、好ましくは4〜7日間培養され、Bf1+である。別の実施の形態では、細胞は、RAを用いて、好ましくは4〜7日間培養され、Hox+である。
【0009】
別の実施の形態では、本発明は、上記の細胞をFGF8の存在下でSHHを用いて培養する工程を含む、中脳ドーパミンニューロンの集団を単離する方法である。得られる細胞は、TH、AADC、EN−1、VMAT2及びDATを発現するが、DbH及びPNMTを発現しない。本発明はまた、この方法により創出される細胞の集団である。
【0010】
別の実施の形態では、本発明は、上記の細胞をSHHを用いてRAの存在下で前述の細胞を培養する工程を含む、脊髄運動ニューロンの集団を単離する方法である。得られる細胞は、HB9、HoxB1、HoxB6、HoxC5、HoxC8、ChAT及びVAChTを発現する。本発明はまた、この方法により創出される細胞の集団である。
【0011】
別の実施の形態では、本発明は、上記の細胞をSHHを用いて培養する工程を含む、前脳ドーパミンニューロンの集団を単離する方法である。本発明はまた、この方法により創出される細胞の集団である。
【0012】
本発明はまた、正常なヒト神経発達に影響を及ぼす能力に関して作用物質をスクリーニングするための、上記の細胞集団を試験する方法である。
【0013】
本発明の他の目的、利点及び特徴は、明細書、特許請求の範囲及び図面を参照した後に明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[発明の詳細な説明]
本発明における出願人等は、ヒト胚幹細胞からのドーパミン(前脳及び中脳)並びに運動神経の発生方法を開示する。好ましい方法は概して、以下に、及び表1〜表3に記載される。
【0015】
具体的には、出願人等は、ES細胞から、胚様体中間体を通じて初期ロゼット(Pax6+/Sox1-)を分化させる方法を開示する。差次的処理(differential treatment)により、出願人等は、これらの初期ロゼットを、3つの異なる形態の神経管様ロゼットへ分化させることができ、続いて3つの異なる形態の神経管様ロゼットは、前脳ドーパミンニューロン、中脳ドーパミンニューロン又は運動ニューロンへの発達に適している。
【0016】
【表1】
【0017】
出願人等は、ドーパミン及び運動ニューロンを産生するための相1及び相2について記載している以下の表2について言及する。表2はまた、出願人等が適切な発達のマーカーであるとみなす様々な中間産生物についても記載している。
【0018】
【表2】
【0019】
上述のように、本発明は、2つの主な実施形態を包含する。1つの実施形態は、神経管様ロゼットの形態の神経幹細胞(又は神経上皮細胞)の同調集団の産生、及び神経上皮マーカーPax6、Sox1、ネスチン、Musashi−1の発現に関する手順である。本明細書中で使用する場合、「同調する」は、異種分化をもたらすRAにより誘導されるものに対比して、同じ発達段階にある細胞の集団を意味する。すなわち、培養物は、前駆体(progenitor)から分化ニューロンへの発達段階にある細胞を含有する。本発明の場合では、本発明者等は、初期段階にあるPax6+/Sox1-初期神経上皮細胞、又は後期段階にあるPax6+/Sox1+神経上皮細胞のいずれかを想定する。いずれの段階でも、本発明者等は、いかなる分化ニューロンも想定しない。この同調化された発生は、本願で記載されるように、特殊ニューロンへ直接の分化を可能にする。
【0020】
第2の実施形態は、特殊ニューロン(例えば、中脳ドーパミンニューロン、前脳ドーパミンニューロン及び脊髄運動ニューロン)への神経上皮細胞のさらなる分化方法である。
【0021】
以下の表3は、本発明の細胞を得る好ましい方法について記載している。表3は、類似した培養ブロスで置き換えることができる一般的な培養ブロス構成成分、並びに重要な成長因子及びタイミング構成成分の両方を包含する。出願人等が神経細胞培地について言及する場合、多くの培養構成成分が適切である。以下のセクションは、正確な分化に必要な培養構成成分を強調している。
【0022】
概して、適切な培地は、神経細胞を成長させるのに使用される任意の培地である。以下の参照文献(上述のBain,G.,et al,1995;上述のOkabe,S.,et al.,1996;上述のMujtaba,T.,et al.,1999;上述のBrustle,O.,et al.,1999;Zhang,S.-C.,et al.,J.Neurosci.Res.59:421-429,2000;Zhang,S.-C.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:4089-4094,1999;Svendsen,C.N.,et al.,Exp.Neurol.137:376-388,1996;Carpenter,M.K.,et al.,Exp.Neurol.158:265-278,1999;Vescovi,A.L.,et al.,Exp.Neurol.156:71-83,1999)は、同じか、又は類似した培地を使用している。
【0023】
1.ヒトES細胞からの神経上皮細胞(神経幹細胞)の分化
神経上皮細胞の産生は、初期コロニーの中心にある細胞が円柱状となり、且つロゼット形態へ体系化する(organize)場合に、4〜6日間の懸濁培養、続く成長因子、好ましくはFGF2又はFGF8の存在下で4〜5日間の付着培養における胚様体の形成に関与する(図1A、図4A、図9A、図9B)(Zhang,et al.,Nature Biotechnol.,2001を参照)。FGF4及びFGF9もまた、適切な成長因子である。
【0024】
これらのロゼットにおける円柱状細胞は、神経転写因子Pax6を発現するが、別の神経転写因子Sox1を発現しない(図9C、図9D)。本発明者等は、これらのロゼットが初期に出現して、管腔なしの円柱状細胞の単層により形成されるため、「初期ロゼット」と称する。あらゆる単一コロニーは、初期ロゼットを保有する。これらの初期ロゼットの総比率(total population)は、総細胞の少なくとも70%である。
【0025】
これらの初期ロゼットの4〜6日間のさらなる培養は、神経管様ロゼットの形成を招く(図1B、図4B、図9E)。神経管様ロゼットは、明らかな管腔を伴う円柱状細胞の多層により形成される。ロゼットにおける細胞は、Pax6のほかにSox1を発現する(図4C、図9F、図9G、図9H)。初期ロゼットから神経管様ロゼットへの進行には、本発明者等の無血清培養条件下で、10〜20ng/mlでのFGF2、FGF4、FGF8、FGF9又は0.001〜1μMでのRAの存在下で、約4〜6日かかる。
【0026】
ES細胞から神経管様ロゼットの形成への神経上皮分化のプロセスには、14〜16日かかる。ヒトES細胞は、5.5日齢のヒト胚に由来する(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)。したがって、本発明者等の培養系におけるヒトES細胞からの神経上皮細胞の発達は、ヒト胚において発達にかかる19〜21日に十分に匹敵する。正常なヒト発達では、神経管は、20〜21日目に形成される。したがって、ヒトES細胞からの神経上皮分化は、正常なヒト胚発達を反映する(Zhang,S.C.,J.Hematother.Stem Cell Res.12:625-634,2003)。
【0027】
形態変化及び明快な遺伝子発現パターンにより明らかであるような2段階の神経上皮発達は、先に記載されていない。Pax6及びSox1は、神経管がカエル、ゼブラフィッシュ、ヒヨコ及びマウスにおいて同時に形成される場合、神経上皮細胞により発現されることが示されている(Pevny,et al.,Development 125:1967-1978,1998)。したがって、本発明者等は、ヒトES細胞における神経上皮分化に沿った順次Pax6及びSox1発現の見解は新規であり、ヒトにとって特有であり得ると考える。Pax6+/Sox1−神経上皮細胞は、最古の神経上皮細胞を表し、したがってはるかに(far)同定されている。これらの細胞の機能的有意性は、初期ロゼットにおけるPax6+/Sox1−神経上皮細胞が前脳以外のニューロン保有位置的(carrying positional)アイデンティティー(例えば、中脳ドーパミンニューロン及び脊髄運動ニューロン)となるように効率的に誘導され得るが、神経管様ロゼットにおけるPax6+/Sox1+神経上皮細胞は、効率的に誘導され得ない(表1、上記を参照)という点で、本発明に関連している。
【0028】
あらゆる分化しているES細胞コロニーは、神経管様ロゼットを形成する。神経上皮細胞は、総分化した細胞の少なくとも70〜90%を表す。
【0029】
神経管様ロゼットの形態の神経上皮細胞は、低濃度のディスパーゼによる処理及び差次的接着により精製することができる(米国特許第09/960,382号に記載)。
【0030】
2.中脳ドーパミンニューロンの産生
潜在的な治療上の用途を有する機能的ニューロンは、ニューロンであることのほかに、少なくとも2つのさらなる特徴を保有しなくてはならない:特異的な位置的アイデンティティー並びに神経伝達物質を合成、放出及び取り込む能力。
【0031】
中脳ドーパミンニューロンを産生する際の第1の工程は、中脳アイデンティティーの誘導である。FGF8(50〜200ng/ml)による6〜7日間のPax6+/Sox1-初期ロゼット細胞の処理は、中脳転写因子エングレイルド1(En−1)及びPax2を発現し(図4E、図4F)、且つ前脳マーカーBf−1をダウンレギュレートする(図4D)前駆体への細胞の効率的な分化をもたらすが、Pax6+/Sox1+神経管様ロゼット細胞はもたらさない。
【0032】
第2の工程は、ソニックヘッジホッグ(SHH、50〜250ng/ml)の存在下で6〜7日間、続いて正規のニューロン分化培地(例えば、表3に記載するもの)中でさらに2週間、ドーパミンニューロンが発生するまで中脳前駆体を培養することである。好ましくは、総分化細胞の少なくとも35%が、ドーパミンニューロンとなる。
【0033】
好ましい分化培地は、表3に記載している。
【0034】
ドーパミンニューロンは、ドーパミンの合成を可能にするが、ノルエピネフリン又はネフリンへのさらなる代謝を可能にしないTH、AADCを発現するが、DbH及びPNMTを発現しない(図5)。
【0035】
ドーパミンニューロンは、中脳ドーパミンニューロン発達に必要とされる転写因子であるEn−1、ptx3、Nurr1及びLmx1bを発現する(図6A、図6B)。
【0036】
ドーパミンニューロンは、GABAを発現しない(図6C)。GABAとの共発現は、嗅球におけるドーパミンニューロンの特徴である。
【0037】
ドーパミンニューロンは、カルビンジンを発現しない(図6D)。カルビンジンとの共発現は、中脳の被蓋(tegamental)野におけるドーパミンニューロンの特徴である。
【0038】
総合して、上記特徴は、本発明者等の培養系で産生されるドーパミンニューロンが中脳ドーパミンニューロン、パーキンソン病において損失されるドーパミンニューロンである黒質のより綿密に類似した中脳ドーパミンニューロンである。
【0039】
ドーパミンニューロンは、ドーパミンニューロンの生存及び機能に必要とされる成長因子であるGDNFに対する受容体であるc−retを保有する(図7A、図7B、図7C)。
【0040】
ドーパミンニューロンはまた、ドーパミンの貯蔵及び放出に必要とされる輸送体であるVMAT2を発現する(図7D、図7E、図7F)。ドーパミンニューロンはまた、放出後のドーパミン取り込みに必要な輸送体であるDAT(図7G、図7H、図7I)を発現する。したがって、本発明者等の培養系において産生されるドーパミンニューロンは、伝達物質ドーパミンの合成、貯蔵、放出及び取り込みに必須の機構を保有する。
【0041】
ドーパミンニューロンは、シナプスの形成のためのシナプトフィジンを発現する(図7)。ドーパミンニューロンは、刺激に応答して、活動電位を興奮(誘発:fire)させることができ、ドーパミンを分泌することができる(図8)。したがって、ドーパミンニューロンは機能的である。
【0042】
3.脊髄運動ニューロンの産生
脊髄運動ニューロンを産生する際の第1の工程は、脊髄(仙骨)アイデンティティーの誘導である。RA(0.001〜1μM)で6〜7日間のPax6+/Sox1−初期ロゼット細胞の処理は、HoxB1、HoxB6、HoxC5、HoxC8のような脊髄転写因子であるHox遺伝子を発現するが、前脳マーカーであるOxt2及びBf−1又は中脳マーカーであるEn−1を発現しない(図11A、図11C、図11D、図11E)前駆体への細胞の効率的な分化をもたらすが、Pax6+/Sox1+神経管様ロゼット細胞はもたらさない(図10A)。
【0043】
第2の工程は、唯一腹側神経前駆体により発現される転写因子であるOlig2の発現から明らかであるような腹側化前駆体の特質を誘導するためにソニックヘッジホッグ(SHH、50〜250ng/ml)の存在下で6〜7日間、続いて正規のニューロン分化培地中でさらに7〜10日間、脊髄運動ニューロンが発生するまで脊髄前駆体を培養することである。
【0044】
好ましい分化培地は、表3に記載している。
【0045】
好ましい実施形態では、総分化細胞の少なくとも22%が、脊髄運動ニューロンとなる。運動ニューロンは、脊髄運動ニューロンにより特異的に発現される転写因子であるHB9、islet1/2及びLim3を発現する(図10)。運動ニューロンはまた、HoxB1、HoxB6、HoxC5、HoxC8を発現するが、前脳マーカーであるOtx2及びBf−1又は中脳マーカーであるEn−1は発現しない(図11A、図11C、図11D、図11E)ことから、運動ニューロンは脊髄運動ニューロンであることを示す。
【0046】
運動ニューロンは、運動ニューロン伝達物質アセチルコリンを合成するのに必要な酵素であるChATを発現する(図12A、図12B、図12C、図12D)。運動ニューロンはまた、VAChTを発現し(図12E)、運動ニューロンが、伝達物質アセチルコリンを貯蔵することができ、且つ取り込むことができることを示唆する。
【0047】
さらに、運動ニューロンは、シナプスの形成のためのシナプシン(図12F)を発現する。運動ニューロンは、活動電位を興奮させることができる(図13)。したがって、運動ニューロンは機能的である。本発明者等は、運動ニューロンが、HPLCにより分析されるように、アセチルコリンを放出することを示すデータを有する。
【0048】
4.前脳ニューロンの産生
別の実施形態では、本発明は、前脳ドーパミンニューロン、好ましくは神経系修復に適した移植可能な神経前駆体へと霊長類ES細胞(好ましくは、ヒトES細胞)を分化させる方法である。好ましくは、中脳ドーパミンニューロン産生に関して上述するような方法を開始するであろう。前脳ニューロンを産生するために、Pax6+/Sox1-細胞をFGF2でさらに4〜6日間処理した後、SHHで処理する。前脳ドーパミンニューロンを産生する際の工程及びドーパミンニューロンの特質を決定するための分析は、中脳ドーパミンニューロンに関して記載するものと同様である。主な差異は、特定の期間でのモルフォゲンの使用及びドーパミンニューロンの特徴である。
【0049】
前脳ドーパミンニューロンを産生する際の第1の工程は、中脳アイデンティティーの誘導である。FGF2(10〜20ng/ml)による6〜7日間のPax6+/Sox1−初期ロゼット細胞の処理は、前脳転写因子であるBf−1及びOtx2を発現する前駆体への細胞の効率的な分化をもたらす。
【0050】
第2の工程は、ソニックヘッジホッグ(SHH、50〜250ng/ml)の存在下で6〜7日間、続いて正規のニューロン分化培地中でさらに2週間、ドーパミンニューロンが発生するまで前脳前駆体を培養することである。総分化細胞の35%が、ドーパミンニューロンとなる。米国特許出願第09/970,382号から得た以下の説明は、好ましい方法について記載している。
【0051】
まず、霊長類ES細胞系、好ましくはヒトES細胞系を獲得して増殖させる。Thomson,J.A.,et al.,Science 282:1145-1147(1998)並びに米国特許第5,843,780号及び同第6,200,806号に記載される方法で、ES細胞(系)を得てもよいし、または、正常な核型(karyotype)を有しており、少なくとも11ヶ月、好ましくは12ヶ月間の連続培養後に未分化状態で増殖する能力を有するES細胞系を得るのに適した他の方法により、ES細胞(系)を得てもよい。胚幹細胞系はまた、培養全体にわたって、トロホブラスト(栄養芽細胞)を形成し、且つ3つ全ての胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)に由来する組織へ分化する能力を保持する。
【0052】
続いて、細胞を培養する。本発明の好ましい実施形態では、細胞は、好ましくは以下にまた上述のThomson,J.A.,et al.,1998並びに米国特許第5,843,780号及び同第6,200,806号に開示されるように、照射した哺乳類、好ましくはマウス胚線維芽細胞のフィーダー(支持)細胞層上で増殖させる。本発明者等はまた、細胞がフィーダー細胞層なしで増殖され得ることも想定する。
【0053】
ES細胞コロニーは通常、ディスパーゼによる処理により接着細胞から無傷で取り出され、以下に記載するように胚様体(EB)と呼ばれる浮動性ES細胞凝集体として懸濁液中で好ましくは4日間成長される。
【0054】
続いて、EBを、好ましくは20ng/mlでFGF2を含有する培地中で培養して、初期ロゼット細胞を産生する。培地の他の好ましい構成成分は、表3に記載している。しかしながら、多くの他の培地構成成分が適切である。概して、適切な培地は、神経細胞を成長させるのに使用される任意の培地である。以下の参照文献(上述のBain,G.,et al,1995;上述のOkabe,S.,et al.,1996;上述のMujtaba,T.,et al.,1999;上述のBrustle,O.,et al.,1999;Zhang,S.-C.,et al.,J.Neurosci.Res.59:421-429,2000;Zhang,S.-C.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:4089-4094,1999;Svendsen,C.N.,et al.,Exp.Neurol.137:376-388,1996;Carpenter,M.K.,et al.,Exp.Neurol.158:265-278,1999;Vescovi,A.L.,et al.,Exp.Neurol.156:71-83,1999)は、同じか、又は類似した培地を使用している。
【0055】
培地中のおよそ5日の培養後に、平板培養されたEBは、扁平な細胞の成長(outgrowth)を生み出し、7日目までには、中心小伸長細胞は、図1Bに見られるようなロゼット形成を生み出す。これらの形成は、初期神経管に類似している(図1Bの挿入図)。以下に記載するように、形態学により、又はネスチン及びMusahi Iのような神経マーカー抗原を用いた免疫蛍光分析により、神経前駆体の存在を確認し得る。好ましくは、神経前駆体は、総細胞の少なくとも72%、最も好ましくは少なくとも84%を構成する。
【0056】
以下で実施例に記載するように、好ましくは差次的酵素処理及び接着により、神経管様ロゼットをさらに単離し得る。簡潔に述べると、ディスパーゼによる処理は、中枢神経上皮島の優先的な脱離を招く。ロゼット細胞のクラスターを、周辺扁平細胞から分離するために、8〜10日間培養した分化EBを、好ましくは0.1〜0.2mg/ml ディスパーゼ(Gibco BRL,Lifetechnologies,Rochville,MD)とともに、37℃で15〜20分間インキュベートする。あるいは、0.2mg/mlのディスパーゼを使用してもよい。ロゼットクランプは退縮するのに対して、周辺扁平細胞は、接着したままである。この時点で、ロゼットクランプは、フラスコを揺らすことにより取り外され(dislodge)得て、扁平細胞は接着した状態のままである。クランプをペレット化して、5mlピペットで穏かに粉砕して、培養フラスコへ30分間平板培養し、混入している個々の細胞を接着させる。続いて、浮遊しているロゼットクランプを、好ましくは結合を妨げるためにポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)でコーティングされた新たなフラスコへ移して、ヒト神経前駆体で使用される培地中で、FGF2(通常20ng/ml)の存在下で培養する。以下で実施例に記載するように、ディスパーゼによる処理、続く差次的接着は、通常少なくとも90%で、最も好ましくは少なくとも96%で、神経前駆体細胞の高度に濃縮された集団を生じる。さらに、PSA−NCAMに対する抗体を使用した免疫分離のような他の方法を使用して、神経前駆体細胞を分離してもよい。
【0057】
以下の実施例は、ヒトES細胞由来の神経前駆体が3つすべてのCNS細胞型をin vitroで産生することができることを実証する。
【0058】
以下の表は、本発明の本実施形態の様々な態様のフローチャートである:
【0059】
【表3】
【0060】
別の実施形態では、本発明は、少なくとも72%、好ましくは84%の神経前駆体細胞を含む細胞集団である。これらの神経前駆体細胞は、ネスチン及びMusashi I陽性であることにより規定され得る。図1Bは、これらの細胞を特性化しているロゼット形成を示す。ロゼット形成とは、本発明者等は、細胞が円柱形状であり、管状(ロゼット)構造に整列され、身体中の神経管(発達中の脳)に類似していることを意味する。円柱状細胞形態及び管状構造は、図1Bの挿入図に示される。
【0061】
別の実施形態では、本発明は、少なくとも90%、好ましくは少なくとも96%の神経前駆体細胞を含む細胞集団である。好ましくは、以下で実施例に記載するように、差次的酵素処理及び接着後にこれらの細胞を得る。
【0062】
5.本発明の細胞集団の使用
特異的な伝達物質表現型及び特有の位置的アイデンティティーを有する特殊ヒトニューロン細胞型の産生は、神経障害における治療のための移植可能な細胞の供給源、例えばパーキンソン病のための中脳ドーパミンニューロン、精神的疾患のための前脳ドーパミンニューロン、脊髄障害及び運動ニューロン疾患(ALSを含む)のための脊髄運動ニューロンを提供する。
【0063】
ヒト胚幹細胞をまず神経上皮細胞へ、続いて特殊ニューロンへと指向性分化させるための段階的且つ化学的に規定される培養系の確立はまた、毒性及び治療剤のスクリーニングに前例のない新しい系を提供する。現在では、毒物学的及び治療用薬物のスクリーニングは、動物、動物細胞培養物又は遺伝的に異常なヒト細胞系を用いて実施される。ヒト胚幹細胞及び特殊ニューロン細胞へのそれらの分化は、ヒト神経発達の正常なプロセスを表す。したがって、本明細書中に記載する本発明は、正常なヒト神経発達に影響を及ぼす作用物質、又は異常な脳発達を潜在的にもたらす作用物質、並びに罹患状態におけるニューロン型の再生を刺激し得る作用物質をスクリーニングに適しているであろう。さらに、上述の系は、ドーパミンニューロンの死(パーキンソン病で見られるような)又は運動ニューロンの死(ALSで見られるような)を招く病理学的プロセスを模倣するように容易に修飾することができ、これらの疾患を治療するように設計される治療用作用物質をスクリーニングするのに有効に使用され得る。
【0064】
本発明のこの実施形態の好ましい方法では、本発明の細胞集団の1つを試験化合物に接触させて、かかる接触の結果を、接触させていない対照細胞集団と比較する。培養物の特徴を検査すること及びそれらを本出願内に含まれる既知の発達的特徴と比較することにより、特定の試験化合物が細胞集団に影響を及ぼしたかどうかを理解することができる。
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【実施例1】
【0069】
前脳ドーパミン作動性ニューロンの産生
結果
ヒトES細胞は、FGF2の存在下で分化して、神経管様構造を形成する。ヒトES細胞系であるH1、H9及びH9に由来するクローン細胞であるH9.2(上述のAmit,M.,et al.,2000)を、照射したマウス胚線維芽細胞のフィーダー細胞層上で増殖させた(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)。分化を開始させるために、ES細胞コロニーを剥離させて、胚様体(EB)として懸濁液中で4日間成長させた。続いて、EBを組織培養処理フラスコにおいて、FGF2を含有する化学的に規定される培地(Zhang,S.-C.,et al.,J.Neurosci.Res.59:421-429,2000;Zhang,S.-C.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:4089-4094,1999)中で培養した。FGF2は、Peprotech,Inc.,Rocky Hill,NJから入手した。FGF2中での5日の培養後に、平板培養されたEBは、扁平な細胞の成長をもたらした。同時に、小伸長細胞の数の増大が、分化EBの中心で観察された(図1A)。規定培地中で7日までには、中心小伸長細胞は、ロゼット形成を生み出し(generate)(図1B)、トルイジンブルー染色した切片により示されるように、初期神経管に類似していた(図1Bの挿入図)。免疫蛍光分析は、神経マーカー抗原ネスチン及びMusashi−1(Lendahl,U.,et al.,Cell 60:585-595,1990;Kaneko,Y.,et al.,Dev.Neurosci.22:139-153,2000)の発現が、ロゼット中の細胞に主として制限されるが、分化EB細胞の周辺における扁平細胞には制限されないことを明らかにした(図1C〜図1E)。未分化ES細胞は、これらのマーカーに対して免疫陰性であった。神経管様構造の形成は、FGF2の存在下でEBの大部分で観察された(H9及びH9.2系から総350EBの94%、3回の別個の実験)。FGF2の非存在下では、十分体系化された(organized)ロゼットは観察されなかった。
【0070】
神経管様ロゼットは、差次的酵素処理及び接着により単離することができる。FGF2への連続接触により、円柱状ロゼット細胞は増殖して、多層を形成した。円柱状ロゼット細胞は、高い頻度で、EBの大部分を構成し、周辺扁平細胞とはっきり分けられた。ディスパーゼによる処理は、中枢神経上皮島の優先的な脱離を招き、周辺細胞は主として接着したままであった(図1F)。混入している単細胞は、細胞培養皿への短期間の接着により分離した。この単離及び濃縮手順直後に実施した細胞計数により、単離された神経上皮クラスターに関連する細胞が、分化EB培養物における細胞の72〜84%を構成することが示された。免疫細胞化学分析により、4回の別個の実験で検査された13,324個の細胞に基づいて、単離ロゼット細胞の96±0.6%が、ネスチンに関して陽性に染色されることが示された。これらの細胞の大多数はまた、Musashi−1及びPSA−NCAMに関しても陽性であった(図1G、図1H、図1I)。
【0071】
ヒトES細胞由来の神経前駆体は、3つすべてのCNS細胞型をin vitroで産生する。単離した神経前駆体細胞は、ヒト胎児脳組織に由来する「ニューロスフェア」培養物に類似して、懸濁培養で浮動性細胞凝集体として増殖させた(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000;上述のSvendsen,C.N.,et al.,1996;上述のCarpenter,M.K.,et al.,1999;上述のVescovi,A.L.,et al.,1999)。BrdU取り込み試験は、前駆体細胞増殖の刺激が、FGF2に依存性であり、EGF又はLIF単独により誘発され得ないことを明らかにした。さらに、FGF2をEGF及び/又はLIFと組み合わせた場合、相加効果又は相乗効果は観察されなかった(図2A)。
【0072】
ES細胞由来の神経前駆体のin vitro分化は、FGF2の除去並びにオルニチン及びラミニン基質上での平板培養により誘導された。数日以内に、個々の細胞及び無数の成長円錐体が球体から生じ、スターバーストの外観を呈した。平板に播種後7〜10日までには、球体から発した突起は、顕著な線維束を形成した。高い頻度で、小遊走細胞は、線維と密接に関連して観察された(図2B)。分化した培養物の免疫蛍光分析は、成長領域における細胞の大多数が、ニューロンマーカーであるMAP2ab及びβIII−チューブリンを発現したことを明らかにした(図2C)。低分子量神経線維(NF)と高分子量NFの発現が、平板培養後7〜10日目まで及び10〜14日目までのそれぞれにおいて観察された(図2D)。様々な神経伝達物質に対する抗体を使用して、ES細胞由来のニューロンをさらに特性化した。ニューロンの大部分がグルタミン酸作動性表現型を示した(図2E)のに対して、より小比率が、GABAに対する抗体で標識された。高い頻度で、これらのニューロンは、極形態を示した(図2F)。少数のニューロンが、ドーパミン合成に関する律速酵素であるTHを発現することがわかった(図2G)。GFAP+アストロサイトは、成長因子退薬後の最初の2週間以内にはまれにしか見出されなかった(図2C)が、長期にわたるin vitro分化後にはより頻繁になった。4週までには、GFAP+アストロサイトは、分化されたニューロンの真下に広範囲にわたる層を形成した(図2D)。オリゴデンドロサイトは、標準的な培養条件下では観察されなかったのに対して、細胞を血小板由来成長因子A(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000)の存在下で2週間以上培養した場合に、典型的なオリゴデンドロサイト形態を有するわずかなO4−免疫反応性細胞が観察された(図2H)。したがって、ES細胞由来の神経前駆体は、CNSの3つすべての主要な細胞型を産生する。
【0073】
ヒトES細胞由来の神経前駆体は、in vivoで遊走し、合体して、且つ分化する。ヒトES細胞由来の神経前駆体のin vivoでの分化を評価するために、本発明者等は、ヒトES細胞由来の神経前駆体を新生マウスの側脳室へ移植した(Flax,J.D.,et al.,Nat.Biotech.16:1033-1039,1998)。移植された細胞は、脳室系の様々な領域でクラスターを形成し、大量に各種宿主脳領域へ取り込まれた。移植の1週後と4週後との間で分析した22個の脳のうち、脳室内クラスター及び取り込まれた細胞は、それぞれ19個及び18個のレシピエント脳において見出された。より長期間後に分析した個々の動物により、移植された細胞が、移植の少なくとも8週間後に検出可能であることが示された。クラスター内の細胞は、ネスチン、βIII−チューブリン及びMAP2abに対する抗体に対して強力な免疫反応性を示した。凝集体におけるほんのわずかな細胞がGFAPを発現した。未分化ES細胞及び非神経上皮で通常発現されるマーカーであるアルカリホスファターゼ及びサイトケラチンは、クラスター内では検出されなかった。奇形腫形成は観察されなかった。
【0074】
ヒト特異的プローブによるDNA in situハイブリッド形成法及びヒト核特異的抗原の免疫組織化学的検出は、多数の脳領域において移植された細胞の存在を明らかにした。広範囲に及ぶドナー細胞取り込みを示す灰白質領域は、皮質(図3A)、海馬(図3B、図3C)、嗅球、中隔(図3D)、視床、視床下部(図3E)、線条(図3F)及び中脳(図3G)を包含した。白質領域への取り込みは、脳梁、内包及び海馬線維路で最も顕著であった。形態学的には、取り込まれたヒト細胞は、周辺宿主細胞と区別できず、ヒト特異的マーカーを用いることでのみ検出可能であった(図3)。細胞型特異的抗体による二重標識は、取り込まれた細胞が、ニューロン及びグリアの両方へ分化したことを明らかにした。ヒトES細胞由来のニューロンは、βIII−チューブリン及びMAP2に対する抗体を用いてはっきりと描写することができた(図3H、図3J)。高い頻度で、ヒトES細胞由来のニューロンは、長い突起を伴う極形態を示した(図3H)。さらに、多極及び未熟単極形態を有するニューロンが見出された(図3J)。ドナー由来のニューロンは、宿主脳へと長距離を突出させる無数の軸索を産生し、灰白質及び白質の両方で検出された。ドナー由来のニューロンは、脳梁、前交連及び海馬采のような線維路内で特に豊富であり、そこではドナー由来のニューロンは、しばしば、単一切片内の数百マイクロメートルにわたって見出され得た(図3I)。
【0075】
ニューロンのほかに、少数のES細胞由来のアストロサイトが、宿主脳組織内に検出された。少数のES細胞由来のアストロサイトは、星状形態を示し、GFAPの強力な発現を示した(図3K)。対比して、ミエリンタンパク質に対する抗体による取り込まれたヒト細胞の二重標識は、成熟オリゴデンドロサイトを検出することができなかった。宿主脳へ遊走したドナー細胞の幾つかは、移植の最大4週間でさえ、ネスチン陽性表現型を保持した。これらの細胞の多くは、血管周囲位置に見られた。
【0076】
論考
本研究は、成熟ニューロン及びグリアを産生することが可能な移植可能な神経前駆体が、高収率でヒトES細胞から産生することができることを示している。本明細書中に記載されるin vitro分化手順である成長因子媒介性増殖/分化、並びに神経前駆体細胞の差次的接着を利用することは、神経発達の研究に関する新たな土台、及び神経系修復のためのドナー細胞の産生を提供する。
【0077】
この研究の重要な見解は、ヒトES細胞からの神経前駆体の分化が、in vitroで神経管様構造の形成を伴う神経系発達の初期工程を反復するようであるということの観察である。この現象はここでは、制御された条件下でヒト神経発達の初期段階を研究及び実験的に操作するのに利用することができる。化学的に規定された培養系は、in vitroでのヒト神経上皮増殖及び特定化に対する単一因子の影響を探索するための特有の機会を提供する。発達中のヒト脳に由来する前駆体と同様に、ヒトES細胞由来の前駆体は、FGF2に対して強力な増殖性応答を示す(上述のFlax,J.D.,et al.,1998)。しかしながら、増殖に対する相加効果も相乗効果も、EGF又はLIFにより誘発され得ない。この見解は、初代細胞を用いて得られるデータ(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000;上述のSvendsen,C.N.,et al.,1996;上述のCarpenter,M.K.,et al.,1999;上述のVescovi,A.L.,et al.,1999)と異なり、ES細胞由来の神経前駆体の増殖が、胎児ヒト脳に由来する前駆体細胞よりも多くの未熟段階を表すということを示唆することができる。げっ歯類細胞に関する研究は実際に、初期神経発生から単離された神経幹細胞が、増殖に関してFGF2に依存し、FGFに対する応答性が、神経前駆体細胞分化の後期段階でのみ獲得されるということを示している(Kalyani,A.D.,et al.,Dev.Biol.186:202-223,1997;Fricker,R.A.,et al.,J.Neurosci.19:5990-6005,1999)。
【0078】
神経管様構造のin vitroでの産生及びそれらの差次的接着に基づいてこれらの構造を単離することができることは、ヒトES細胞由来の神経前駆体を高純度で産生するための簡素だが効率的なアプローチを提供する。具体的には、神経上皮構造内の強力な細胞間及び組織培養基材へのそれらの低い接着性が、未分化ES細胞又は他の体細胞系の細胞の著しい混入を伴わずに神経細胞の選択的単離を可能にする。この手順の高い効率は、単離細胞の95%以上がネスチン陽性表現型を示し、ES細胞又は非神経上皮が移植レシピエントにおいて検出不可能であるという事実により反映される。未分化ES細胞及び他の系統に対する前駆体は、腫瘍及び外来組織を形成し得るため、精製された体細胞集団の産生が、ES細胞ベースの神経移植戦略の開発にとって重要な前提条件である。
【0079】
新生児マウス脳への移植後、ES細胞由来の神経前駆体は、多種多様の脳領域へ取り込まれ、そこでES細胞由来の神経前駆体は、ニューロン及びグリアへ分化した。in vivoで成熟をオリゴデンドロサイト検出することができないことは、それらのげっ歯類相当物と対比して、ヒト神経前駆体の低いオリゴデンドロサイト分化効率に起因する可能性が高い(Svendsen,C.N.,et al.,Brain Pathol.9:499-513,1999)。意外にも、ドナー由来のニューロンは、生後の神経発生を示す部位に制限されず、脳の多くの他の領域にも見出された。同様のデータが、成体げっ歯類脳へのヒトCNS由来の前駆体の移植に関与する研究で得られた(Tropepe,V.,et al.,Dev.Biol.208:166-188,1999)。有糸分裂後脳領域への個々の前駆体細胞の取り込みは、成体脳及び脊髄における細胞置換に関して特に関連性が高い。さらに、取り込まれた細胞が、領域特異的特性を獲得して、機能的に活性となるかどうか、並びに取り込まれた細胞が、どの程度まで領域特異的特性を獲得して、機能的に活性となるかを決定するのに、より詳細な研究が必要とされる。
【0080】
成熟及び未熟の神経上皮細胞から構成される脳室内クラスターを除いて、占拠性病変は、宿主脳内では検出されなかった。最も顕著なことに、奇形腫形成は、最大8週間の術後期間中観察されなかった。特に非ヒト霊長類におけるより厳格な長期安全性研究が、潜在的な臨床用途を検討するまえに必要とされることが明らかであるが、本発明者等のデータは、分化ヒトES細胞培養物から単離された神経前駆体が神経修復用の有望なドナー供給源を表すことを示している。
【0081】
実験プロトコル
ES細胞の培養。ES細胞であるH1(継代16〜33)、H9(p34〜55)及びH9に由来するクローン細胞であるH9.2(p34〜46)(上述のAmit,M.,et al.,2000)を、過去に記載されたように(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)、照射したマウス胚線維芽細胞のフィーダー細胞層上で、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)/F12、20%血清代替物(Gibco)、0.1mM β−メルカプトエタノール、2μg/mlヘパリン、及び4ng/mlのFGF2(Pepro Tech Inc.,Rochy Hill,NJ)から構成される培地を毎日交換して培養した。核型分析により、所定の継代での系は二倍体であることが示された。
【0082】
ES細胞培養物の分化。ES細胞培養物を、ディスパーゼ(Gibco BRL、0.1mg/ml)とともに37℃で30分間インキュベートし、無傷のES細胞コロニーを取り出した。ES細胞コロニーをペレット化して、FGF2なしのES細胞培地中に再懸濁させて、毎日培地交換しながら25cm2組織培養フラスコ(Nunc)において4日間培養した。ES細胞コロニーは、浮遊EBとして成長したのに対して、あらゆる残存フィーダー細胞は、フラスコに接着した。EBを新たなフラスコへ移すことにより、フィーダー細胞を除去した。続いて、EB(およそ50個/フラスコ)を25cm2組織培養フラスコ(Nunc)において、インスリン(25μg/ml)、トランスフェリン(100μg/ml)、プロゲステロン(20nM)、プトレシン(60μM)、亜セレン酸ナトリウム(30nM)及びヘパリン(2μg/ml)を補充(添加)したDMEM/F12中で、FGF2(20ng/ml)の存在下で平板培養した(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000、上述のZhang,S.-C.,et al.,1999)。
【0083】
神経前駆体細胞の単離及び培養:周辺扁平細胞からロゼット細胞のクラスターを分離するために、培養物を0.1mg/mlのディスパーゼとともに37℃で15〜20分間インキュベートした。ロゼットクランプは退縮したのに対して、周辺扁平細胞は、付着したままであった。この時点で、ロゼットクランプは、フラスコを揺らすことにより取り外され、扁平細胞は接着した状態のままであった。クランプをペレット化して、5mlピペットで穏かに粉砕して、培養フラスコへ30分間平板培養して、混入している個々の細胞を接着させた。続いて、浮遊しているロゼットクランプを、結合を妨げるためにポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)でコーティングされた新たなフラスコへ移して、ヒト神経前駆体で使用される培地中(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000)、FGF2(20ng/ml)の存在下で培養した。神経分化及び単離の効率を定量化するために、分離したての細胞クラスター及び残された扁平細胞をトリプシン(0.1%EDTA中0.025%)で解離(分離)させて、計数した。ES細胞から分化した総細胞間での推定神経前駆体(ロゼット細胞)の割合は、H9及びH9.2系に関する3回の別個の実験に基づいて得られた。ES細胞由来の神経前駆体の分化潜在性の分析のために、細胞をオルニチン/ラミニン基質上で、DMEM/F12、N2サプリメント(Gibco)、cAMP(100ng/ml)及びBDNF(10ng/ml、PeproTech)から構成される培地中で、FGF2の存在なしで培養した。突起膠細胞分化に関しては、記載されるように(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000)、ES細胞由来の神経前駆体を、N1(Gibco)及び血小板由来成長因子A(PDGFA)(2ng/ml)を補充したDMEM中で培養した。形態学的観察並びに前駆体及びより成熟した神経細胞に関するマーカーによる免疫染色は、分化の過程中に実施された。
【0084】
組織化学的及び免疫組織化学的染色。ロゼット形成をより良好に可視化するために、ロゼットを伴う培養物を、PBS中ですすいで、4%パラホルムアルデヒド及び0.25%グルタルアルデヒド中で1時間固定した。続いて、記載されるように(上述のZhang,S.-C.,et al.,1999)、固定した細胞をプラスチック樹脂中に包埋するために加工した。続いて、培養細胞を1μm厚に切片化して、トルイジンブルーで染色した。免疫染色に関して、他の箇所で詳述される適切な蛍光二次抗体(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000、Zhang,S.-C.,et al.,1999)により検出される以下の一次抗体で、カバーガラス培養物を免疫染色した:抗ネスチン(ポリクローナル、NINDSのDr.R.McKayから贈与、1:1,000)、抗ポリシアル酸化ニューロン細胞接着分子(PSA−NCAM、マウスIgM、フランスのマルセイユ大学のDr.G.Rougonから贈与、1:200)、抗Musashi−1(ラットIgG、日本の東京大学のDr.H.Okanoから贈与、1:500)、抗GFAP(ポリクローナル、Dako、1:1,000)、抗ヒトGAFP(スタンバーグポリクローナル、1:10,000)、O4(マウスIgM、ハイブリドーマ上清、1:50)、抗チロシンヒドロキシラーゼ(TH、Pel Freez、1:500)。残りの抗体は、Sigmaからのものであった:抗βIII−チューブリン(マウスIgG,1:500)、抗神経フィラメント(NF)68(マウスIgG、1:1,000)、抗NF200(ポリクローナル、1:5,000)、抗MAP2ab(マウスIgG、1:250)、抗γ−アミノ酪酸(GABA、ポリクローナル、1:10,000)、抗グルタメート(マウスIgG、1:10,000)。ブロモデオキシウリジン(BrdU)取り込みに関して、各群における4つのカバーガラス培養物を2μMのBrdUとともに16時間インキュベートした後、培養物を4%パラホルムアルデヒド中で固定して、1N HClで変性させて、免疫標識及び細胞計数用に加工した(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000、Zhang,S.-C.,et al.,1999)。
【0085】
脳室内移植及びin vivo分析。神経前駆体の凝集体をトリプシンで解離させた後(0.1%EDTA中0.025%、37℃で5〜10分間)、100,000個の生細胞/μlの懸濁液を、L15培地(Gibco)中に調製した。頭部の下方から照明を使用して、寒冷麻酔をした新生マウス(C3HeB/FeJ)の側脳室それぞれに、細胞懸濁液2〜3μlをゆっくりと注射した。移植された動物を、シクロスポリンA(10mg/kg、i.p.)の毎日の注射により免疫抑制した。移植の1週後、2週後、4週後及び8週後に、リンゲル液、続いて4%パラホルムアルデヒドを経心的にマウスに灌流させた。脳を切開して、使用するまで同じ固定液中で4℃にて後固定させた。ドナー細胞は、ヒトalu反復要素に対するジゴキシゲニン標識プローブ(Brustle,O.,et al.,Nat.Biotech.16:1040-1044,1998)又はヒト特異的核抗原に対する抗体(MAB1281、Chemicon、1:50)を使用して、in situハイブリダイゼイションにより、50μmの冠状ビブラトーム切片で同定された。免疫陽性細胞を、GFAP(1:100)、ネスチン、βIII−チューブリン(TUJ1、BabCo、1:500)、MAP2a(Sigma、クローンAP−20及びHM−2、1:300)及びリン酸化中程度分子量ヒト神経フィラメント(クローンHO−14、1:50、J.Trojanowskiから贈与)に対する抗体で二重標識した。一次抗体を、適切なフルオロフォア結合二次抗体で検出した。切片を、Zeiss Axioskop2及びLeicaレーザスキャン顕微鏡上で分析した。
【実施例2】
【0086】
中脳ドーパミンニューロンの産生
神経学的状態における幹細胞療法の潜在的適用に対する第1の工程は、正確なアイデンティティー及び伝達物質の表現型を有する神経細胞の有向性分化である。ここでは、本発明者等は、モルフォゲン作用の特異的配列によるヒト胚幹(ES)細胞からの機能的ドーパミン作動性(DA)ニューロンの頑強な産生を示す。Sox1を発現する前に、初期段階でヒトES由来の神経外胚葉細胞をFGF8によって処理することは、正確な中脳DA突出ニューロン表現型を有するDAニューロンの特定化に必須である。in vitroで産生されたDAニューロンは、毒物学的且つ薬学的スクリーニングに、及びパーキンソン病における潜在的細胞療法に使用され得る。
【0087】
パーキンソン病(PD)は、中脳、特に黒質におけるDAニューロンの進行性退化に起因する。PDに対する現在の療法は、主として、レバドパのようなDA前駆体の全身投与による症状軽減に依存する。かかる療法は、最初の数年間は有効であるが、ほぼ必ずその有効性を失い、重症の副作用を生じる。グリア細胞系由来の神経栄養因子(GDNF)のような成長因子の投与は、小規模の臨床試験において有効であることが示されている(Gill,S.S.,et al.,Nat.Med.9:589-595,2003)。この療法は、十分数の生存DAニューロンに依存し、その長期にわたる治療上の可能性は、いまだ調査されていない。ニューロン退化の限局的性質のため、細胞移植が代替的療法として提唱されている(Bjorklund,A.and Lindvall,O.,Nat.Neurosci.3:537-544,2000)。幾つかの成功事例では、移植された胎児中脳細胞は、10年にわたって生存し、症状の軽減に寄与する(Kowdower,J.H.et al.,N.Engl.J.Med.332:1118-1124,1995;Piccini,P.,et al.,Nat.Neurosci.2:1137-1140,1999)が、最近規制された臨床試験では、PDに対する胎児組織移植療法の有効性に疑問を投じている(Freed,C.R.,et al.,N.Engl.J.Med.344:710-719,2001;Olanow,C.W.,et al.,Ann.Nuerol.54:403-414,2003)。これらの現象は、PDの複雑さを示している。機能的ヒト中脳DAニューロンの信頼性高い再生可能な供給源は、DA系の起源、DAニューロンの生存及び機能に影響を及ぼす発病プロセス並びにPDに対する持続可能な治療法の開発に関する系統だった研究に緊急に必要とされる。
【0088】
DAニューロンは、マウスES細胞から効率的に産生することができることが示されており、マウスES細胞は、胚盤胞段階での着床前胚の内細胞塊に由来する(Evans,M.J.and Kaufman,M.H.,Nature 292:154-156,1981;Martin,G.R.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:7634-7638,1981)。マウスES細胞はまず、FGF2により(Lee,S.H.,et al.,Nat.Biotechnol.18:675-679,2000)、或いは間質細胞由来の誘導活性により(Kawasaki,H.,et al.,Neuron 28:31-40,2000;Barberi,T.,et al.,Nat.Biotechnol.21:1200-1207,2003)、神経外胚葉細胞へと誘導される。続いて、神経外胚葉細胞を、DAニューロン誘導のためにFGF8、続いてSHHに接触させる。この研究では、本発明者等は、ヒトES細胞(Thomson,J.A.,et al.,Science 282:1145-1147,1998)を誘導して、FGF8及びSHHに応答して中脳突出特徴を有する大比率のDAニューロンを産生する神経外胚葉細胞(Zhang S.C.,et al.,Nat.Biotechnol.19:1129-1133,2001)へ分化させるための頑強な系を確立した。本発明者等は、中脳突出ニューロン表現型を有するDAニューロンを産生するために、前駆体細胞がSox1+発現神経外胚葉細胞となる前に、ヒトES細胞をFGF8へ接触することが必要であることを見出した。
【0089】
結果
ヒトES由来の神経外胚葉細胞は、前脳特質を示す
フィーダー細胞層から剥離させたES細胞コロニーを、ES細胞成長培地中で4日間、凝集体として懸濁液中で培養した後、接着性培養器で、FGF2(20ng/ml)を含有する化学的に規定される神経細胞用培地中で成長させた(上述のZhang,S.C.et al.,2001)。コロニー中心における細胞は、円柱状形態を現し、およそ9日目にロゼット形成で整列した(図4A)。これらの円柱状細胞は、Pax6に対して陽性であったが、汎神経転写因子であるSox1に対して陰性であり(図示せず)、初期神経外胚葉細胞を示している。さらに5〜6日にわたって(14〜15日目)、円柱状細胞は増殖して、神経管様ロゼットへと体系化して(図4B)、神経管閉鎖中に最終的な神経外胚葉細胞により発現される転写因子であるSox1(Pevny,L.H.,et al.,Development 125:1967-1978,1998)を発現した(図4C)。円柱状細胞は、前脳細胞により発現される転写因子である脳因子(Bf1)(Tao.W.and Lai,E.Neuron 8:057-966,1992)に対して陽性であったが、中脳により発現される転写因子であるエングレイルド1(En−1)(Davidson,D.,et al.,Development 104;305-316,1988;Wurst,W.,et al.,Development 120:2065-2075,1994)に対して陰性であり(図4D)、in vitroで産生された神経外胚葉細胞の前脳アイデンティティーを示唆した。
【0090】
中脳表現型の誘導は、FGF8の初期作用を要する
DAニューロンの分化のために、神経管様ロゼットにおける神経外胚葉細胞は、差次的酵素及び接着処理により濃縮され(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)、FGF2を用いて懸濁液中で凝集体として4日間増殖(expansion)させた後、ラミニン基質上に平板培養し、SHH(50〜200ng/ml)及びFGF8(20〜100ng/ml)で6日間処理した。免疫細胞化学分析により、大多数の神経外胚葉細胞が、Bf1に対して依然として陽性であるが、En−1対しては陽性でないことが示された(図示せず)。
【0091】
FGF8が、Sox1+神経外胚葉細胞にEn−1を発現させるよう誘導することができないことは、Sox1−発現神経外胚葉細胞が、パターニングシグナルに対して不応性であり得ることを示唆する。Sox1−発現細胞は、ヒトES細胞の分化の2週後(6日齢の胚に相当(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)に産生され、神経管様構造を形成するため、Sox1−発現細胞は、神経外胚葉細胞がSox1を発現し、且つ局所的に特定化される神経管閉鎖での神経外胚葉細胞に相当し得る(Lumsden,A.and Krumlauf,R.,Science 274:1109-1115,1996)。このことは、本発明者等に、神経外胚葉細胞がSox1を発現する前にFGF8が中脳特定化を促進し得ると仮定するに至らせた。したがって、本発明者等は、コロニー中心における細胞が9日目に円柱状になった時点で、FGF8(100ng/ml)を適用した。6日後に、コロニー中心における細胞は、FGF2の存在下で見られるように、神経管様細胞に発生した。これらの神経外胚葉細胞は同様に濃縮されて、FGF8中で4日間増殖された(expanded)後、ラミニン基質上で6日間、SHHで処理した。この培養条件下では、En−1発現は、ネスチン発現神経外胚葉細胞で観察された(図4E)が、依然としてBf1を発現する細胞が存在した(図4F)。したがって、神経外胚葉細胞は、それらがSox1+となる前に、効率的に局所化された。
【0092】
局所化された神経外胚葉細胞は、DAニューロンへ分化する
神経外胚葉細胞を解離して、神経分化培地中で分化させた。神経外胚葉細胞は、未分化ヒトES細胞により高度に発現される糖タンパク質である段階特異的胚抗原4(SSEA4)を発現しなかった。最初に均一に分布させた脱凝集神経外胚葉細胞は、平板培養の3〜5日後に、ロゼットを再形成した。続いて、脱凝集神経外胚葉細胞は、突起を伸長して、極形態を示した。分化後3週目に、総分化細胞集団の約3分の1(4回の実験から計数された17,965個の細胞のうち31.8±3.1%のTH+細胞)が、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)に対して陽性であった(図5A)。同様の割合のTH+細胞が、H9及びH1ヒトES細胞系の両方から得られた。たいていのTH発現細胞は、直径が10〜20μmであった。たいていのTH発現細胞は、分化可能な軸索及び樹状突起を有する極形態を示した(図5A)。TH+細胞はすべて、ニューロンマーカーであるβIII−チューブリン+ニューロンで陽性に染色され、約50%がTH+であった(図5B、4回の実験からの12,859個のβIII−チューブリン+ニューロンのうち6,383個がTH+細胞)。
【0093】
モノアミンの生合成において、THは、チロシンをL−DOPAへと加水分解し、続いてL−DOPAは、AADCにより脱カルボキシル化されてDAとなる。別の2つの酵素であるDβH及びフェニルエタノールアミンN−メチルトランスフェラーゼ(PNMT)は、それぞれ、DAをノルエピネフリンへ変換し、ノルエピネフリンをエピネフリンへと触媒する。免疫染色により、TH+細胞はすべて、AADCである(図5C〜図5E)が、幾つかのAADC+細胞は、THに対して陰性である(図5E)ことが示された。しかしながら、TH+細胞は、DβH(図5E)及びPNMT(図示せず)に対して陰性であったが、DβHは、成体ラット及び胚サル脳幹においてノルアドレナリン作動性ニューロンを強力に染色した(図5Fにおける挿入図)。これらのデータは、TH発現ニューロンが、ドーパミン合成に必要である両方の酵素を保有すること、及びこれらのニューロンが、ノルアドレナリン作動性及びアドレナリン作動性ニューロンではなくDAニューロンであることを示唆する。
【0094】
ES細胞により産生されたDAニューロンは、中脳表現型を示す
RT−PCR分析により、中脳DAニューロン発達に関与するNurr1、Limx1b、En−1及びPtx3(Zetterstrom,R.H.,et al.,Science 276:248-259,1997;Smidt,M.P.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:13305-13310,1997;Saucedo-Cardenas,O.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:4013-4018,1998;Wallen,A.,et al.,Exp.Cell Res.253:737-746,1999;Smidt,M.P.,et al.,Nat.Neurpsci.3:337-341.2000;Simon,H.H.,et al.,J.Neruosci.21:3126-3134,2001;Van den Munckhof,P.,et al.,Development 130:2535-2542,2003;Nunes,I.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:4245-4250,2003)は、神経外胚葉細胞がDAニューロンに分化されるまで、高レベルでは発現されなかったことが示された(図6A)。免疫染色は、多数の突起を有するほとんどのTH+細胞が、核において中脳マーカーEn−1を共発現することを明らかにした(図6B)。したがって、上記アプローチを用いて産生されたDAニューロンは、中脳位置的アイデンティティーを保有する。
【0095】
嗅球におけるDAニューロンは、多くの場合、γ−アミノ酪酸(GABA)を共発現する(Kosaka,T.,et al.,Exp.Brain Res.66:191-210,1987;Gall,C.M.,et al.,J.Comp.Neurol.266:307-318,1987)。TH及びGABAの二重免疫染色により、DAニューロンのほとんどが、GABAに対して陰性であるが、GABA+ニューロンは、培養物中に見出されることが示された(図6C)。すべてのTH+細胞のうち、8%のTH+細胞(8.7±3.9%、4回の実験から計数される6,520個のTH+細胞)がGABAを共発現した。これらの二重陽性細胞の多くが、小さな二極細胞であった(図6Cにおける挿入図)。幾つかの中脳DAニューロン、特に腹側被蓋領域における中脳DAニューロンは、THと一緒にコレシストキニンオクタペプチド(CCK8)又はカルビンジンを共発現する(McRitchie,D.A.,et al.,J.Comp.Neurol.364:121-150,1996;Hokfelt,T.,et al.,Neurosci.5:2093-2124,1980)。免疫組織化学分析により、TH+ニューロンが観察されることが示された(図6D)。これらのカルビンジンニューロンは、主として小さな細胞であった。CCK8陽性細胞は、培養物中で検出されなかった。
【0096】
ES細胞により産生されるDAニューロンは、生物学的に機能的である
免疫染色により、すべてのTH+ニューロンが、GDNF用の受容体の構成成分であるc−Retを発現した(図7A〜図7C)。TH+細胞の大部分、特に分岐状神経突起を有するTH+細胞は、モノアミンニューロンにおける細胞内コンパートメントへドーパミンをパッケージングすることに関与する小胞モノアミン輸送体2(VMAT2、図7D〜図7F)(Nirenberg,M.J.,et al.,J.Neurosci.16:4135-4145,1996)を発現した。さらに、TH+ニューロンは、シナプス形成に必須の膜糖タンパク質であるシナプトフィジン(Calakos,N.and Scheller,R.H.,J.Biol.Chem.269:24534-24537,1994)を発現した(図7A〜図7I)。
【0097】
ドーパミン放出は、DAニューロンの機能的特徴である。高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析は、アスコルビン酸(AA)、FGF8及びSSHで処理した培養物中では230.8±44.0pg/mlで、またAA、FGF8及びSHHの処理なしの対照培養物中では46.3±9.2pg/mlで、DA分化培養物の培地中におけるドーパミンの存在を明らかにした(図8A)。培養細胞を洗浄して、HBSS中で14分間インキュベートした場合、ドーパミンレベルは、2つの培養物間で類似していた(図8A)。しかしながら、HBSS中での56mM KClによる培養ニューロンの脱分極は、DAの量を有意に増加させた(AA、FGF8及びSHH処理なし及びありで、それぞれ培養物中に35.8±9.2及び111.0±15.0pg/ml、図8A)。これらの観察は、in vitroで産生されたDAニューロンがDAを分泌することができ、DAの放出が活性依存的であることを示唆する。
【0098】
電気生理学的記録を使用して、ESにより産生されたDAニューロンが機能的に活性であるかどうかを決定した。30〜38日間培養物中に維持した細胞(n=14)において、静止膜電位(Vrest)は、−32〜−72mV(−54±2.9mV)の範囲であり、細胞静電容量(Cm)は、11〜45pF(21±2.7pF)の範囲であり、入力抵抗(Rin)は、480〜3500MΩ(1506±282MΩ)の範囲であった。脱分極性電流段階(0.2nA×200〜500ms)は通常、単一活動電池を誘発したが、幾つかの場合では、減少しつつある一連の活動電位が観察された(図8bi及び図8bii)。活動電位(AP)閾値は、−26〜ー5.2mV(−17.4±2.1mV)の範囲であり、−9.6〜30mVでピークに達した。最大50.2mVのAPが観察された(32±2.8mV)。AP持続期間は、3〜20.6ms(7.2±1.3ms)の範囲であった。自発興奮が、2つの細胞で観察された(図8C)。
【0099】
電圧クランプ様式では、内向き及び外向き電流の両方が、細胞すべてにおいて観察された(図示せず)が、それらの相対規模は、大幅に変化した。内向き電流は、迅速に活性化され(1ms未満)、1〜3ms以内にピークに達した。活性化閾値は、−30±1.1mVであり、最大ピーク電流振幅は、−13±1.9mVの平均電圧で得られ、電流は、テトロドトキシン(TTX、n=3)により完全に阻止された。これらの特性は、活動電位発生を引き起こす電圧作動型ナトリウムチャネルの存在と一致した。3つの細胞において、本発明者等は、迅速な上昇及びよりゆっくりとした減衰相を含むシナプス電流の特徴を有する自発的過渡電流を観察した。3つの記録のうちの1つは、K−グルコネートベースのピペット溶液を用いて行われ、この細胞を−40mVで保持することにより、本発明者等は、外向き(阻害性)及び内向き(興奮性)電流の両方を観察することが可能であった(図8di及び図8dii)。14個の細胞すべてにビオシチンを注入したが、免疫染色手順の完了後、たった5個の細胞が回収されたに過ぎなかった。しかしながら、5個のビオシチン充填細胞はすべて、TH標識された(図8E〜図8G)。
【0100】
論考
本発明者等は、中脳ニューロン突出特徴を有する機能的DAニューロンが、3つの簡素な非遺伝的工程:FGF2による神経外胚葉細胞の誘導、神経外胚葉形成中のFGF8及びSSHによる腹側中脳アイデンティティーの特定化及び局所的に特定化された前駆体のDAニューロンへの分化により、ヒトES細胞から効率的に産生することができることを実証した。中脳特徴を有するDAニューロンが、増殖された神経外胚葉細胞から産生することができるというマウスES細胞研究から得られる見解(上述のLee,S.H.,et al.,2000)と異なり、本発明者等は、前駆体細胞がSox1+神経外胚葉細胞となる前にFGF8により特定化又は局所化することが、正確な中脳及び機能的表現型を有するヒトDAニューロンの頑強な産生に必須であることを見出した。
【0101】
幹細胞生物学の観点から、Mckayと共同研究者等によって開発された段階的プロトコルであるマウスES細胞を神経外胚葉細胞へ誘導し(direct)、それらを増殖させて、それらをFGF8及びSHHにより局所化又は特定化し、続いてそれらをDAニューロンへ分化させることは、非常に論理的であるように思われる(上述のLee,S.H.,et al.,2000)。本発明者等は、同じ原理がヒト霊長類に適用できるはずであると仮定した。実際に、本発明者等は、Sox1を発現し、且つFGF2の存在下で神経管様ロゼットへと体系化する神経外胚葉細胞へヒトES細胞を分化させること(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)、神経外胚葉細胞をFGF8及びSHHで処理して、腹側中脳発生運命を誘導すること、及び最終的に細胞をニューロンへ分化させることにより、多数のDAニューロンを産生することが可能である。しかしながら、このようにして産生されたDAニューロンの多くは、中脳突出DAニューロンの重要な特徴、例えば、複雑な形態を伴う大きなサイズ、及びタンパク質レベルでの中脳転写因子の発現を欠如している。Sox1陽性神経外胚葉細胞は、FGF8及びSHHによる処理後でさえも、依然としてEn−1に対して陰性であるが、Bf1に対しては陽性であり、Sox1発現神経外胚葉細胞が、中脳発生運命への特定化に不応性であることを示唆している。本発明者等の培養系中でのヒトES細胞からの神経外胚葉細胞分化のプロセスは、in vivo発達中に見られるものに匹敵する(上述のZhang,S.C.,2003)。in vivoでは、神経管は、ヒト妊娠の3週目の最後に形成し、Sox1は、マウス発生学的研究に基づいて、神経管閉鎖中に神経外胚葉細胞により発現される(Pevny,L.H.,et al.,Development 125:1967-1978,1998)。培養では、神経外胚葉細胞は、神経管様ロゼットを形成し、6日齢のヒト胚に相当するヒトES細胞からの2週間の分化後に、Sox1を発現する(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)。中脳DAニューロンを含む突出ニューロンは、初期段階で神経管において神経外胚葉細胞から分化され、これらの神経外胚葉細胞細胞は、神経管閉鎖のプロセス中にすでに局所的に特定化されている(上述のLumsden,A.and Krumlauf,R.,1996)。このことは、前脳表現型を保有するヒトES細胞により産生されたSox1発現神経外胚葉細胞が、中脳表現型を有するDAニューロンを産生するためのモルフォゲンに反応しない理由を説明し得る。FGF8が、中脳アイデンティティーを選択(adopt)するように初期前駆体を指示し得るという本発明者等の仮定は、初期ロゼットにおけるSox1-円柱状細胞をFGF8で処理した後の、突出ニューロンの特徴(例えば、複雑な突起を有する大きな細胞体及び中脳間マーカーであるEn1の発現)を有するDAニューロンの産生により確認される。
【0102】
FGF2により誘導されるマウスES細胞由来の神経外胚葉細胞が、増殖後に効率的に局所化され得るが、ヒトES細胞由来の神経外胚葉細胞はそうではない理由は現在明らかではない。マウス脊髄から単離された神経前駆体の背側又は腹側アイデンティティーが、特にFGF2の存在下で、培養時に調節解除され得るという最近の徴候が見られ(Gabay,L.,et al.,Neuron 40:485-499,2003)、これは、増殖したマウスES細胞由来の神経外胚葉細胞が再び特定化する能力を一部について説明し得るかもしれない。脊髄運動神経のような他の突出したニューロンの分化に関する本発明者らの研究は、大きな突出したニューロンの産生がモルフォルゲンの初期の作用を必要とするという今回の観察と一致する。
【0103】
DAニューロンは、中脳、視床下部、網膜及び嗅球を含む脳の幾つかの領域に存在する。この研究におけるヒトES細胞により産生されるDAニューロンは、中脳突出DAニューロンに類似している。DAニューロンのほとんどが、GABAを共発現しないが、GABA及びTHの共発現は、嗅覚DA介在ニューロンの主な特徴である(上述のKosaka,T.,et al.,18987;上述のGall,C.M.,et al.,1987)。中脳では、DAニューロンの少なくとも2つの主要な群、すなわち黒質におけるもの(A9)及び腹側被蓋領域におけるもの(A10)(それぞれ異なる標的を有する)が存在する(Bjorklund,A.and Lindvall,O.,Handbook of Chemical Neuroanatomy,Vol.2:Classical Transmitters in the CNS(Bjorklund,A.,Hokfelt,T.,eds),Amsterdam,Elsevier Science Publishers,pp.55-111,1984)。腹側被蓋領域におけるほとんどのDAニューロンは、カルビンジン又はCCKを発現するのに対して、黒質におけるものは、ほとんど発現しない(McRitchie,D.A.,et al.,J.Comp.Neurol.364:121-150,1996;Horkfelt,T.,et al.,Neurosci.5:2093-2124,1980;Haber,S.N.,et al.,J.Comp.Neurol.362:400-410,1995)。ヒトES細胞により産生されるDAニューロンが、CCK8又はカルビンジンとともにTHを共発現しないという本発明者等の観察は、これらのDAニューロンが、黒質DNAニューロンとより密接に類似していることを示唆する。
【0104】
ヒトES細胞の、適切な局所的アイデンティティーを有する大きな突出ニューロン(例えば、中脳DAニューロン)を産生する頑強な能力は、ヒトES細胞系を使用して神経発達の初期段階を精査するための空前の機会を広げる。本発明者等のデータは、初期に生み出される中脳突出DAニューロンの産生に関して、特定化されていない初期神経外胚葉細胞に作用するモルフォゲン(例えば、FGF8)に対する要件を示している。このことは、すでに特定化されている胚及び成体哺乳類脳から単離並びに増殖させた幹細胞又は前駆体は、突出ニューロンを産生するのに不応性である(Svendsen,C.N.,et al.,Exp.Neurol.148:135-146,1997;Daadi,M.M.and Weiss,S.,J.Neurosci.19:4484-4497,1999;Storch,A.,et al.,Exp.Neurol.170:317-325,2001)理由を説明し得る。in vitroで産生されたヒトDAニューロンはまた、ヒトDAニューロンに影響を及ぼし得る化学物質及び薬物に関する毒物学的並びに薬学的スクリーニング用の系を提供する。培養ペトリ皿中で産生されたこれらのヒトDAニューロンが、PD動物モデルにおいて機能的であるかどうかを決定するための研究は進行中である。
【0105】
方法
ES細胞培養。ヒトES細胞系である、H9(p21〜56)及びH1(p35〜40)を、Thomsonにより記載されるように(上述のThomson,J.A.,et al.1998)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)/F12(Gibco)、20%血清代替物(Gibco)、1mM グルタミン(Sigma)、0.1mM非必須アミノ酸(Gibco)、2μg/mlのヘパリン(Sigma)、0.1mM β−メルカプトエタノール(Sigma)及び4ng/mlのFGF2(R&D Systems)から構成されるES細胞成長培地を毎日交換しながら、照射したマウス胚線維芽細胞(MEF)上で週に1度、培養(細胞)を継代した。分化したコロニーは、湾曲状のパスツールピペットを用いて物理的に取り出して、未分化状態のES細胞は、典型的な形態学並びにOct4及びSSEA4による免疫染色により確認した。
【0106】
神経外胚葉細胞の分化及び濃縮。ヒトES細胞コロニーは、0.2mg/mlのディスパーゼ(Roche Diagnostitics)による培養物の処理により、MEF層から剥離させ、ES細胞培地を毎日交換しながら、4日間、浮遊性細胞凝集体(胚様体)として成長させた。続いて、それらを、N2(Gibco)、0.1mM非必須アミノ酸、2μg/mlヘパリンを補充したDMEM/F12(2:1)から構成される神経培地中で、1日おきに培地を交換しながら、接着基材において成長させた。ES細胞凝集体は、結合して、およそ6日目に個々のコロニーを形成した。神経管様ロゼットへ体系化する円柱状細胞により示される神経外胚葉細胞は、およそ14日目に発生した(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)。神経ロゼットを、差次的酵素応答により単離した(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)。成長因子は、分化の過程中に添加して、局所化に影響を与えた(結果を参照)。
【0107】
DAニューロン分化。濃縮された神経外胚葉細胞は、PBS中、37℃で10〜15分間の0.025%トリプシン及び0.27mM EDTAにより解離させ、12mmカバーガラス(100μg/mlのポリオルニチン及び10μg/mlのラミニンで予めコーティングした)上へ、40,000〜50,000個の細胞/カバーガラスの密度で播取た。ニューロン分化培地は、N2、0.1mM非必須アミノ酸、0.5mMグルタメート、1μg/mlのラミニン、1μMのcAMP、200μMのAA(Sigma)、10ng/mlのBDNF(R&D Systems)及び10ng/mlのGDNF(R&D Systems)を補充したneurobasal培地(Gibco)から構成された。細胞を、1日おきに培地交換しながら3〜4週間培養した。
【0108】
免疫細胞化学及び細胞定量化。カバーガラス培養物をPBS中4%パラホルムアルデヒド中で10〜20分間、又はメタノール(−20℃)中4%パラホルムアルデヒド中で5分間固定化して、免疫染色用に加工した(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)。以下の一次抗体を使用した:マウス抗SSEA4(1:40)、マウス抗En−1(1:50)及びマウス抗Pax6(1:5000、すべてDevelopmental studies hybridoma bankから)、ウサギ抗Sox1(1:500)、ウサギ抗ヒトネスチン(1:200)、ウサギ抗AADC(1:1,000)、ヒツジ抗DβH(1:400)、マウス抗シナプトフィジン(1:500)及びウサギ抗CCK8(1:2000、すべてChemiconから)、マウス抗TH(1:1,000)、マウス抗βIIIチューブリン(1:500)、ウサギ抗GABA(1:5000)及びマウス抗カルビンジン(1:400、すべてSigmaから)、ウサギ抗TH(1:500)及びウサギ抗VMAT2(1:500、すべてPel-Freezから)、ヤギ抗c−Ret(1:400)及びマウス抗Oct4(1:1,000、ともにSanta Cruzから)、ウサギ抗Bf1(1:5000、Lorenz Studerから贈与)。抗体−抗原反応は、適切な蛍光結合二次抗体により明らかとなった。細胞核は、ヘキスト33342で染色した。染色は、Nikon蛍光顕微鏡で可視化した。成体ラット及びE38胎性サルからの脳切片を、ニューロンタイプ及び神経伝達物質に対する多くの抗体に対する陽性対照として使用した。陰性対照はまた、免疫染色手順における一次又は二次抗体を省略することにより設定した。細胞計数は、接眼レンズ上のレチクル及び40×対物レンズを使用することにより無分別(randomly)に達成された。10個の視野における細胞を無作為に選択して、各カバーガラスから計数した。
【0109】
RT−PCR
総RNAは、RNA Stat−60(Tel-Test,Friendswood,TX)を用いて培養細胞から抽出し、続いてDNaseI(DNAフリー、Ambicon)で処理した。cDNAの合成は、RT−PCR用のSuperscript First−Strand Synthesis System(Invitrogen)を用いて、製造業者の指示に従って行った。PCR増幅は、Taqポリメラーゼ(Promega)により、標準的な手順を用いて実施した。サイクル数は、特定のmRNA存在量(abundance)に応じて、94℃で15秒間の変性、プライマーにより55℃又は60℃の温度で30秒間のアニーリング、及び72℃で45秒間の伸長を伴って、25〜35サイクルまで様々であった。陰性対照は、逆転写中の転写酵素又はPCR中のcDNAサンプルを省略することにより達成した。プライマー及び産生物長は、以下の通りであった:
【化1】
【0110】
DA測定
DAニューロン分化の21日後に、48時間のコンディションメディウムを収集した。培養細胞からの活性依存性ドーパミン放出は、まずハンクス平衡塩溶液(HBSS)中で15分間、培養細胞を調整し、続いて56mMのKClを含有するHBSSでそれを37℃で14分間取り換えることにより測定した。培地中又はHBSS中のドーパミンは、安定化緩衝液(0.1MのNaOH10ml中EGTA900mg及びグルタチオン700mg)20μlを添加することにより安定化し、サンプルを−80℃で保管した。HPLCキット(Chromsystems)を使用して、モノアミンを抽出した。モノアミンのレベルは、電気化学的検出器(CoulochemII,ESA Inc.)に結合させたHPLC(モデル508オートサンプラー及びモデル118ポンプ、Beckman)により、MD−TM移動相(ESA Inc.)を使用して決定した。各群における培養は三重反復され、データは、3回の別個の実験から収集された。
【0111】
電気生理学的記録
ヒトES細胞から分化したDAニューロンの電気生理学的特性は、全細胞パッチ−クランプ記録技法を用いて調べた(Hammill,O.P.,et al.,Pflugers Arch.391:85-100,1981)。ピペットに、(mM)KCl 140又はK−グルコネート 140、Na+−HEPES 10、BAPTA 10、Mg2+−ATP 4を含有する細胞内溶液(pH7.2、290mOsm、2.3〜5.0MΩ)を充填した。ビオシチン(0.5%、Sigma)を記録溶液に添加して、ストレプトアビジン−Alex Flur 488(1:1000、Molecular Probes)による続く標識及びTHに対する抗体を使用して、DAニューロンを同定した。バス溶液は、(mMで)NaCl 127、KH2PO4 1.2、KCl 1.9、NaHCO3 26、 CaCl2 2.2、MgSO4 1.4、グルコース 10、95%O2/5%CO2を含有していた(pH7.3、300mOsm)。幾つかの実験に関して、TTX(1μm)をバス溶液中で適用して、電圧作動型ナトリウム電流を阻止した。
【0112】
電流クランプ及び電圧クランプ記録は、MultiClamp 700A増幅器(Axon Instruments)を用いて実施した。シグナルは、4kHzでフィルタリングして、Digidata 1322Aアナログ−ディジタル変換器(Axon Instruments)を用いて10kHzでサンプリングして、市販のソフトウェア(pClamp9、Axon Instruments)を用いて、コンピュータハードディスクに蓄積(acquire)及び格納された。アクセス抵抗は通常、8〜18MΩであり、増幅器回路を用いて50〜80%相殺した。電圧は、+13mVの液相界面電位に関して補正した(Neher,E.,Methods Enzymol.207:1213-131,1992)。Vrest及び活動電位は、電流クランプモードで検査した。自発的興奮性(内向き)及び阻害性(外向き)シナプス電流は、K−グルコネートベースのピペット溶液及びVhold=−40mVを用いて、電圧クランプモードで特性化した。シナプス事象は、テンプレート検出アルゴリズム(Mini Analysis Program 4.6.28、Synaptosoft)を用いて検出し、脱活性化相は、Levenberg-Marquardtアルゴリズムを用いて、二重指数関数へ適合させた。データは、平均値±SEとして提示される。
【実施例3】
【0113】
運動ニューロンの産生
脊椎動物における運動ニューロンの産生は、少なくとも3つの工程:外胚葉細胞の神経誘導、神経外胚葉細胞の尾側化(caudalization)及び尾側化された神経前駆体の腹側化(ventralization)を包含する(Jessell,T.M.,Nat.Rev.Genet.1:20-29,2000)。本発明者等はまず、脊椎動物神経外胚葉がFGF及び/又は抗BMP(骨形成タンパク質)シグナルに応答して発生するという原理(Wilson,S.I.and Edlund,T.,Nat.Neurosci.4:Suppl.:1161-1168,2001)に基づいて、FGF2の存在下での接着コロニー培養(Zhang,S.C.,et al.,Nat.Biotechnol.19:1129-1133,2001)を用いて、hES細胞(Thomson,J.A.,et al.,Science 282:1145-1147,1998)(H1及びH9系統)からの効率的な神経神経外胚葉分化のための培養系を樹立した。神経分化の最初の徴候は、ES細胞を分化のためにフィーダー細胞から取り外した8〜10日後に、コロニーの中心でロゼットを形成する円柱状細胞の出現であった。ロゼットにおける円柱状細胞は、神経外胚葉マーカーであるPax6を発現したが、神経管形成中に神経上皮細胞により発現される汎神経外胚葉転写因子であるSoxIを発現しなかったが(Pevny,L.H.,et al.,Development 125:1967-1978,1998)、成長領域における平坦細胞はそうではなかった(図9A)。同じ培地中でさらに4〜5日間のさらなる培養により、円柱状細胞は、管腔を伴う神経管様ロゼットへと体系化して(図9B)、Pax6及びSox1の両方を発現した(図9C、図9D)。したがって、hES細胞からの神経外胚葉細胞の分化は、少なくとも2つの特徴的な段階、すなわち神経誘導の8〜10日後の初期ロゼットにおけるPax6+/Sox1-円柱状細胞、及び誘導の14日後の神経管様後期ロゼットを形成するPax6+/Sox1+細胞を包含する。
【0114】
免疫細胞化学分析は、Pax6(図9E)、Sox1及びネスチンを発現するロゼット細胞が、前脳及び中脳細胞により発現されるホメオドメインタンパク質であるOtx2に対して陽性である(図9F、図9H)であるが、脊髄における細胞により生産されるホメオドメインタンパク質であるHoxC8に対しては陰性である(図9H)ことを明らかにした。これらのロゼット細胞は、中脳細胞により発現されるEn1に対しても陰性であった(図9G)。これらの結果は、神経神経外胚葉細胞が、初期のin vivoでの発達中に神経外胚葉細胞により初期に獲得される前脳表現型に類似した前脳表現型を保有することを示唆する(Stem,D.C.,Nat.Rev.Neurosci.2:92-98,2001)。
【0115】
神経外胚葉細胞から運動ニューロンを分化させるために、神経管様ロゼットにおけるSox1+神経外胚葉細胞を、酵素処理(Zhang,S.C.,et al.,Nat.Biotechnol.19:1129-1133,2001)により単離して、レチノイン酸(RA、0.001〜1μM)、尾側化試薬(Blumberg,B.,et al.,Development 124:373-379,1997)及びSHH(50〜500ng/ml)、腹側化モルフォゲン(Jessell,T.M.,Nat.Rev.Genet.1:20-29,2000;Briscoe,J.and Ericson,J.,Curr.Opin.Neurobiol.11:43-49,2001)の存在下で、ラミニン基質上で分化させた。平板に播種後14日目までに、成長領域における多数の細胞が、それらの突起を通じてネットワークを形成した(図10A)。免疫染色分析により、分化細胞が、ニューロンマーカーであるβIII−チューブリン及びMAP2に対して陽性であることが示された。それらの大部分(50%を超える)はまた、運動ニューロン発生に関連する転写因子であるIsl 1(図10A)及びLim3(図示せず)に対しても陽性であった(上述のJessell,T.M.;上述のBriscoe,J.and Eriscon,J.,2001;Shirasaki,R.and Pfaff,S.L.,Annu.Rev.Neurosci.25:251-281,2002)。しかしながら、1〜3週間の培養物におけるほんの数少ない細胞が、運動ニューロン特異的転写因子であるHB9を発現した(Arber,S.,et al.,Neuron 23:659-674,1999)(図10A)。これらは、Sox1+神経外胚葉が、運動ニューロン誘導に対して不応性であり得ることを示唆する。
【0116】
Sox1発現細胞は、3週齢のヒト胚に相当する時期での神経管様ロゼットの形成及びSox1の発現を仮定すると、神経管における神経外胚葉細胞に相当し得る。神経管における神経外胚葉細胞は、局所的に特定化される(Lumsden,A.and Krumlauf,R.,Science 274:1109-1115,1996)。この考慮により、本発明者等に、神経外胚葉細胞がSox1を発現する前に、RAが尾側化及び/又は運動ニューロン特定化を促進し得るということを仮定するに至らせた。したがって、本発明者等は、より初期段階で、すなわち円柱状細胞がロゼットへ体系化し始め、且つPax6を発現した場合に、神経外胚葉細胞をRA(0.001〜1μM)で処理した。このようにして6日間処理した培養物は、神経管様ロゼットへと発生して、Sox1を発現し、FGF2処理した培養物と区別できなかった。ロゼットクラスターを単離して、ラミニン基質へ接着させた後、平板に播種後の24〜48時間程度と初期に、無数の神経突起(neurites)がクラスターから伸長した。平板に播種後14日目までに、神経突起成長領域は、カバーガラスをほぼ全体(直径11mm)覆ったが、成長領域におけるニューロン細胞体の数は限られていた(図10A)。細胞の大部分が、Isl 1/2に対して陽性であり、それらのうち、約50%はまた、HB9+であり(図10B)、これらの二重陽性細胞が運動ニューロンであることを示唆した。Isl 1/2+及びHB9-細胞は、介在ニューロンである可能性が高かった。
【0117】
HB9発現細胞はまず、6日目に出現して、神経ロゼットを分化のために平板に播種後したおよそ10〜12日後に、高比率に到達した。HB9発現細胞は、主としてクラスターへと局在化され、クラスターでは総細胞の約21%であり、成長領域では数少ない細胞が見られた(図10A、図10D)。最も高い比率のHB9+細胞は、0.1〜1.0μMのRAの存在下で誘導された。1.0μMを超える用量でのRAは、本発明者等の化学的に規定される接着培養において、幾つかの細胞に退化(又は変質)をもたらした。RA又はSHH、或いは両方の非存在下では、ほんわずかなHB9+細胞しか存在しなかった(図10D)。HB9発現細胞はすべて、βIII−チューブリンで染色された(図10C)。したがって、初期神経外胚葉に対するRAによる処理は、運動ニューロンの効率的な誘導に必要とされる。
【0118】
RAが初期神経外胚葉細胞を運動ニューロンへと分化させるが、後期神経外胚葉細胞は分化させない理由を理解するために、本発明者等はまず、神経外胚葉細胞の尾側化に対するRAの影響を検査した。RA(0.001〜1.0μM)又はFGF2(20ng/ml)による7日間の初期ロゼット細胞(Pax6+/Sox1-)の処理は、用量依存的様式で、Otx2の発現の減少、並びにHox遺伝子(例えば、Hox B1、B6、C5及びC8)の発現の増加をもたらした(図11A)。より多くの尾側細胞により発現される遺伝子が、より高い用量のRAにより誘導された。RAによる1週間の後期ロゼット細胞(Pax6+/Sox1+)の処理は、FGF2により誘導されるHox遺伝子発現パターンを変更させなかった(図示せず)。ニューロン分化培地中で単離及び培養したRA処理した初期ロゼット細胞は、免疫細胞化学により明らかであるように、まず分化の6日後に、及び大部分が分化の10〜12日後にHoxC8タンパク質を発現した(図11D)。この段階の細胞は、Otx2発現を欠如していた(図11C)。HoxC8+細胞はすべて、βIII−チューブリン+ニューロンであった(図11E)。対比して、RAで1週間処理した後、2週間分化させた後期ロゼット細胞は、数少ないHoxC8+細胞を生じたが、Otx2発現細胞は減少した(図示せず)。したがって、RAによる初期神経外胚葉細胞の処理は、脊髄運動ニューロンに関連するHoxCタンパク質の発現を伴う効率的な尾側化をもたらすが、RAによる後期神経外胚葉細胞の処理はもたらさない(Liu,J.P.,et al.,Neuron 32:997-1012,2001)。
【0119】
続いて、本発明者等は、腹側化に関する初期及び後期神経外胚葉細胞に対するSHHの影響を比較した。hES細胞由来の神経外胚葉細胞は、それらがPax6+であってもSox+であっても、脊髄において運動ニューロン及びオリゴデンドロサイトとなる運命にある腹側神経前駆体細胞において発現されるホメオドメインタンパク質であるOlig2を発現しなかった(Lu,Q.R.,et al.,Cell 109:75-86,2002;Zhou,Q.,et al.,Neuron 31:791-807,2001)(図11F)。Pax6+/Sox-神経外胚葉細胞をRAの存在下で1週間培養した後、単離して、SHHの非存在下でさらに2週間、さらに分化させた場合、ほんの数少ない細胞が、Olig2を発現した(図示せず)。しかしながら、SHH(50〜500ng/ml)の存在下では、多くの細胞が、核においてOlig2を発現した(図11G)。対比して、同条件下で2週間分化させたPax6+/Sox+神経外胚葉細胞は、数少ないOlig2発現細胞を産生した(図11H)。したがって、初期段階でRAにより処理した神経外胚葉細胞は、SHHに応答して、腹側神経前駆体発生運命へと効率的に誘導させることができるが、後期段階でRAにより処理した神経外胚葉細胞はできない。
【0120】
FGF2も尾側発生運命を誘導する(図11A)にもかかわらず、運動ニューロン特定化に初期RA処理が必要とされる理由をさらに認識するために、本発明者等は、脊髄において前駆体ドメインを精製するのに重要であるクラスI(Irx3、Pax6)及びクラスII(Olig2、Nkx2.2、Nkx6.1)分子の発現を検査した(上述のJessell,T.M.,2000;上述のBriscoe,J.,and Ericson,J.,2001)。RAは、後期神経外胚葉細胞よりも初期神経外胚葉細胞において、SHH及びクラスII遺伝子、特にOlig2及びNkx6.1のかなり活発な(robust)発現を誘導した(図11B)。したがって、初期神経外胚葉細胞は、運動ニューロン特定化に必須であるSHH及びクラスII因子の発現をアップレギュレートする際に、RAに対してより応答性である。
【0121】
コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を発現する細胞は、尾側化された神経外胚葉細胞を運動ニューロン分化のために平板に播種した3週後に出現し、これらの細胞は、本研究で分析した最長の培養期間である7週間に至るまで着実に増加した(図12A)。ChAT発現細胞は、主としてクラスターへと局在化され(図12A)、HB9+細胞の局在化に相当する。これらの細胞は、主に多極細胞であり、直径15〜20μmの大きな細胞体(somas)を有し、幾つかは、30μm程度と大きかった(図12A、図12B)。核におけるHB9及び体細胞と突起におけるChATの共発現が、培養3週間後に観察された(図12C)。ニューロンの多くはまた、アセチルコリンの貯蔵及び放出に必須である小胞アセチルコリン輸送体(VAChT、図12D)に関して陽性に染色された。多くのChAT+細胞は、特に培養の5週後に、細胞体及び突起上のシナプシンに関して陽性に標識された(図12E)。
【0122】
本発明者等は、電気生理学的技法を用いて機能的成熟を評価した(n=28個の細胞)。平均静止電位は、−36.9±2.6mVであり、入力抵抗は、920±57MΩであった。単一活動電位(AP、図12Fi)又は減少する過程(図12Fii)は、試験した13個のニューロンのうち11個において、脱分極性電流工程(0.15〜0.2nA×1s)より誘発された。自発的脱分極性シナプス入力により誘発される自発的APも観察された(図12G)。すべての細胞が、記録、続く免疫組織化学分析を生き残るわけではないが、ビオシチン及びChATによる二重免疫染色により、本発明者等が記録した細胞の多くは、運動ニューロンであることが実証された(図12J)。
【0123】
電圧クランプ分析により、ナトリウム及び遅延整流性カリウム電流と一致した時間及び電圧依存性内向き並びに外向き電流が示された。内向き電流及び活動電位は、1.0μMのテトロドトキシン(TTX、n=3)により阻止され、電圧作動型ナトリウムチャネルの存在を確認した。外向き電流は、さらに特性化されなかった。本発明者等はまた、シナプス電流も観察した(図12H、試験した23個の細胞のうちn=21)。これらは、1.0μMのTTXにより、振動数が減少されたが、排除はされず、機能的に無傷のシナプス神経伝達の存在を実証した。Csグルコネートベースのピペット溶液を用いると、外向き(阻害性)電流はゆっくりと減衰し(13.6ms、n=10回の事象)、ストリキニーネ及びビククリンの組合せにより阻止されたのに対して、残存する内向き(興奮性)電流は、迅速に減衰し(2.1ms、n=17回の事象)、D−AP5及びCNQXの組合せにより阻止され(図12H、図12J)、阻害性(GABA/グリシン)及び興奮性(グルタメート)神経伝達が、無傷脊髄で見られるのと同様に行われることを実証した(Gao,B.X.,et al.,J.Neurophysiol.79:2277-2287,1998)。
【0124】
本発明者等の本研究は、機能的運動ニューロンが、FGF2による神経外胚葉分化、神経誘導の後期相中のRAによる特定化及び/又は尾側化、並びに腹側化用モルフォゲンSHHの存在下での有糸分裂後運動ニューロンへの続く分化により、ヒトES細胞から効率的に産生することができることを実証する。したがって、動物から学んだ神経発達の基本原理をヒト霊長類へ適用させて、in vitroで反復させ得る。マウスES細胞からの運動ニューロン分化の最近の実証(Wichterle,H.,et al.,Cell 110:385-397,2002)と対比して、本発明者等は、神経外胚葉分化のプロセスを細かく調べて、前駆体がSox1-発現神経外胚葉細胞となる前に、初期に生み出される突出ニューロン(例えば、脊髄運動ニューロン)の特定化がモルフォゲンによる処理を必要とすることを発見した。
【0125】
マウスES細胞はまず、神経外胚葉細胞へと導かれた。続いて、神経外胚葉は、ドーパミン作動性ニューロンへの分化に関してはFGF8及びSHH(Barberi,T.,et al.,Nat.Biotechnol.21:1200-1207,2003;Lee,S.H.,et al.,Nat.Biotechnol.18:675-679,2000)又は運動ニューロン分化に関してはRA及びSHH(上述のWichterle,H.,et al.,2002)のようなモルフォゲンで処理する。これらの観察は、ニューロンが神経管における上皮から特定化されるという概念に適合するようである。本発明者等の本観察により、前脳表現型も保有するhES由来のSox1発現神経外胚葉細胞は、脊髄運動ニューロンを産生するのに不応性であることが示される。本発明者等の培養系においてhES細胞から産生されるSox1発現細胞は、それらが神経管様構造を形成し、且つ6日齢のヒト胚に相当するhES細胞からの分化の2週後に、Sox1を発現するため、神経管におけるものと類似している(Zhang,S.C.,J.Hematother.Stem Cell Res.12:625-634,2003)。in vivoでは、神経管は、ヒト妊娠の第3週目の最後に形成され(Wood,H.B.and Episkopou,V.,Mech.Dev.86:197-201,1999)、Sox1は、動物において神経管の形成中に神経外胚葉により発現される(Pevny,L.H.,et al.,Development 125:1967-1978,1998;上述のWood,H.B.and Episkopou,V.,1999)。本発明者等の見解は、幹細胞がSox1−発現神経外胚葉細胞となる前に、ニューロンの種類、すなわち少なくとも大きな突出ニューロン(例えば、運動ニューロン)の特定化が開始することを示唆し、したがって脳由来の神経上皮細胞が、異なる局所的アイデンティティーの突出ニューロンを産生することができない理由を説明し得る。
【0126】
hES細胞の再生可能な供給源からの機能的運動ニューロンは、ALSのような運動ニューロン関連障害を治療するように設計される医薬品をスクリーニングするための包括的なヒト運動ニューロンを提供する。これらの細胞はまた、運動ニューロンに対する実験的細胞代替物のための有用な供給源を提供し、将来、運動ニューロン疾患又は脊髄障害を伴う患者における適用を導き得る。
【0127】
方法
ES細胞の培養及び神経分化
ヒトES細胞(系統H1及びH9、継代19〜42)を、記載されるように(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)、照射した胚マウス線維芽細胞のフィーダー層上で週に1度継代培養した。未分化状態のES細胞は、典型的な形態並びにOct4及びSSEA4の発現により確認された。神経外胚葉は分化に関して、hES細胞を4日間凝集させた後、N2、ヘパリン(2ng/ml)及びFGF2(20ng/ml)又はRAを補充したF12/DMEM中で10日間、接着性プラスチック表面上で培養した(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)。
【0128】
運動ニューロン誘導に関して、モルフォゲン処理した神経外胚葉細胞を、Neurobasal培地(Gibco)、N2サプリメント及びcAMP(Sigma、IgM)から構成されるニューロン分化培地中のオルニチン/ラミニンコーティングしたカバーガラス上へ、RA(0.1μM)及びSHH(10〜500ng/ml、R&D)の存在下で1週間平板培養した。その後、BDNF、GDNF及びインスリン様成長因子−1(IGF1)(10ng/ml、PeproTech Inc.)を培地に添加して、SHHの濃度を50ng/mlへ低減させた。
【0129】
免疫細胞化学及び顕微鏡法(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)
この研究で使用される一次抗体としては、ニューロンクラスIIIβ−チューブリンに対するポリクローナル抗体(Convance Research Products,Richmond,CA、1:2,000)、ネスチン(Chemicon,Temecula,CA、1:750)、Sox1(Chemicon、1:1000)、シナプシンI(Calbiochem,Darmstadt,German、1:500)、ChAT(Chemicon、1:50)及びVAChT(Chemicon、1:1000)、Isll/2(S.Pfaff)、Otx2(F.Vaccarino)及びOlig2(M.Nakafuku)が挙げられる。MNR2又はHB9(81.5C10)、Islet1(40.2D6)、Lim3(67.4E12)、Pax6及びNkx2.2に対する抗体は、Developmental Studies Hybridoma Bank(DSHB、Iowa City,IA)から購入し、抗HoxC8は、Convance Research Products(1:200)から購入した。電気生理学的に記録される細胞の識別のために、ビオシチン(Molecular Probes)充填細胞を、ストレプトアビジン−FITC(Sigma、1:200)で標識して、ChATで染色した。画像は、Nikon蛍光顕微鏡600(FRYER INC,Huntley,IL)又は共焦点顕微鏡(Nikon,Tokyo,Japan)上へ取り付けたSpotディジタルカメラを使用して収集した。本来は非霊長類組織に対して開発された運動ニューロン転写因子及びホメオドメインタンパク質に対する抗体の特異性を、胎性(E34又はE36)アカゲザル脊髄及び脳組織(Wisconsin Primate Research Centerにより提供)において確証された。
【0130】
定量化
総分化細胞のうちのHB9発現細胞の集団(ヘキスト標識した)は、Methamorphソフトウェア(Universal Imaging Corporation,Downingtown,PA)を用いて手動により、或いは立体解析学的測定により、実験群を知らされていない人物により計数された。測定されるべき面積は、トレーサーにより輪郭が描かれ、Stereo Investigatorソフトウェア(MicroBrightField Inc,Williston,VT)により作動される自動段階移動(automated stage movement)を用いて、スコープが無作為に測定部位をサンプリングするように、計数用フレームの数を予め設定した。重複細胞を伴う計数領域に関しては、顕微鏡は、異なる層における陽性細胞上で上下に移動して焦点を合わせるように予め設定され、クラスターにおける総細胞数は、ソフトウェアにより推定された。各群における3〜4個のカバーガラスを計数し、データは、平均値±SDとして表した。
【0131】
RT−PCRアッセイ
RT−PCR増幅は、異なる段階でのhES細胞由来の神経外胚葉細胞及び運動ニューロン分化培養物から実施した。
【化2】
【0132】
電気生理学的記録
hES細胞由来の運動ニューロンの電気生理学的特性は、全細胞パッチ−クランプ記録技法(Gao,B.X.,et al.,J.Neurophysiol.79:2277-2287,1998)を用いて、5〜6週間分化させた培養物において研究した。テトロドトキシン(TTX、1μM、Sigma)、ビククリン(20μM、Sigma)、ストリキニーネ(5μM、Sigma)、D−2−アミノ−5−ホスホノ吉草酸(AP−5、40μM、Sigma)又は6−シアノ−7−ニトロキノキサリン−2,3−ジオン(CNQX、20μM、RBI,Natick,MA)をバス溶液に適用させて、電圧作動型又はシナプス電流のアイデンティティーを確認した。幾つかの実験に関して、1%ビオシチンを記録溶液に添加した。電流及び電圧クランプ記録は、MultiClamp 700A増幅器(Axon Instruments,Union City,CA)を用いて実施した。シグナルは、4kHzでフィルタリングして、Digidata 1322Aアナログ−ディジタル変換器(Axon Instruments)を用いて10kHzでサンプリングして、市販のソフトウェア(pClamp9、Axon Instruments)を用いて、コンピュータハードディスクに蓄積及び格納された。アクセス抵抗は通常、8〜15MΩであり、増幅器回路を用いて50〜80%相殺した。自発的シナプス電流は、テンプレート検出アルゴリズム(Mini Analysis Program 5.6.28、Synaptosoft,Decatur,GA)を用いて検出し、Levenberg-Marquardtアルゴリズムを用いて、単一指数関数へ適合させた。結果は、平均値±SEとして提示される。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】図1A〜図1。ES細胞からの神経前駆体の分化及び単離。(図1A)FGF2の存在下で5日間成長させた付着EBは、外縁での扁平な細胞を及び中心に集まった小伸長細胞を示す。(図1B)7日目までには、多くのロゼット形成(矢印)が分化EB中心に出現した。右上部の挿入図は、トルイジンブルーで染色したロゼットの1μm切片であり、管状構造に整列された円柱状細胞を示す。バー=20μm。(図1C〜図1E)ロゼットのクラスター(左下)及び小形成ロゼット(中心)における細胞は、ネスチン(図1C)及びMusashi−1(図1D)に関して陽性であるのに対して、周辺扁平細胞は陰性である。(図1E)図1C及び図1Dと、DAPIで標識したすべての細胞核との複合画像である。(図1F)ディスパーゼで20分間処理した後、ロゼット形成は退縮したのに対して、周辺扁平細胞は、付着したままであった。(図1G〜図1I)単離細胞は、繊維状パターンにおいてネスチン(図1G)、細胞質においてMusashi−1(図1H)及び主として膜上でPSA−NCAM(図1I)に関して陽性に染色される。核をすべて、DAPIで染色する。バー=100μm。
【図2】図2A〜図2G。in vitroでのES細胞由来の神経前駆体の特性化。(図2A)解離されたES細胞由来の神経前駆体によるBrdU取り込みは、FGF2(20ng/ml)の存在下で上昇するが、上皮成長因子(EGF)(20ng/ml)又は白血病阻害因子(LIF)(5ng/ml)を用いた場合は上昇しない。これは、3回の反復実験のうちの1つからの代表データである。*は、実験群と対照群との間の差を示す(p<0.01、n=4、スチューデントt検定)。(図2B)ES細胞に由来する神経前駆体のクラスターの3週間の分化は神経突起束を示し、細胞はそれらと一緒に遊走する。(図2C)3週の分化後の免疫染色は、細胞の大部分がβIII−チューブリン+ニューロン(赤色)であること、またほんのわずかな細胞がGFAP+アストロサイト(緑色)であることを示す。(図2D)45日の分化後、さらに多くのGFAP+アストロサイト(緑色)が、NF200+神経突起(赤色、緑色のGFAPとの重複のため黄色がかっている)と一緒に出現する。(図2E〜G)様々な形態を有するES由来のニューロンは、グルタメート(図2E)、GABA(図2F)及び酵素チロシンヒドロキシラーゼ(図2G)のような別個の神経伝達物質を発現する。O4+オリゴデンドロサイト(矢印)は、グリア分化培地における2週の分化後に観察される。バー=100μm。
【図3】図3A〜図3K。in vivoでのES細胞由来の神経前駆体の取り込み及び分化。移植細胞は、ヒトalu反復要素に対するプローブ(図3A〜図3E、図3G)又はヒト特異的核抗原に対する抗体(図3F)を用いたin situハイブリッド形成法により検出される。(図3A)8週齢のレシピエントの宿主皮質における個々のドナー細胞(矢印)。(図3B)海馬形成におけるES細胞由来の神経前駆体の広範囲にわたる取り込み。ヒトaluプローブとハイブリダイズさせた細胞は、赤色ドットで標識される(偽性有色)。(図3C)P14での海馬錐体層の近傍で取り込まれたヒト細胞。(図3D)4週齢のレシピエントマウスの中隔におけるES細胞由来の細胞。(図3E)視床下部における個々のドナー細胞の高倍率図である。隣接する未標識宿主細胞間のとぎれのない取り込みに留意されたい。(図3F)ヒト特異的核抗原に対する抗体を用いて検出される4週齢の宿主の線条におけるドナー細胞。(図3G)水道から背側中脳への移植細胞の広範囲にわたる遊走。(図3H)極形態及び長い突起を示す2週齢の宿主の皮質におけるヒトES細胞由来のニューロン。細胞は、ヒト特異的核マーカー(緑色)及びβIII−チューブリン(赤色)に対する抗体で二重標識される。(図3I)ヒト神経フィラメントに対する抗体で同定した海馬の采におけるドナー由来の軸索のネットワーク。(図3J)MAP2のa及びbアイソフォームを認識する抗体で二重標識したドナー由来の多極ニューロン(図3K)ヒト特異的核マーカー(緑色)及びGFAPに対する抗体(赤色)で二重標識した4週齢の動物の皮質におけるES細胞由来のアストロサイト。二重標識はすべて、共焦点画像であり、単一光切断により確認されることに留意されたい。バー:図3A、図3B、図3G 200μm、図3C、図3D 100μm、図3E、図3F、図3H〜図3K 10μm。
【図4】神経外胚葉細胞の産生及び局所的特定化。図4A。円柱状細胞は、20ng/mlのFGF2の存在下での9日目に分化ES細胞コロニーにおいて出現した。図4B。円柱状細胞は、14日目に神経管様ロゼットを形成した。図4C。円柱状形態を有するロゼットにおける細胞は、Sox1(赤色)に対して陽性であった。図4D。FGF2で処理した培養物における神経ロゼット細胞は、Bf1(赤色)を発現したが、En−1(緑色)は発現しなかった。図4E。En−1(緑色)発現は、9日目に線維芽細胞成長因子8(FGF8)(100ng/ml)で6日間処理し、FGF8中で4日間増殖させた後、ラミニン基質上でさらに6日間ソニックヘッジホッグ(SHH)(200ng/ml)で処理したネスチン+(赤色)神経外胚葉細胞において観察された。図4F。これらのEn−1+細胞(緑色)は、図4Eのように処理した培養物においてBf1(赤色)に対して陰性であった。細胞核は、ヘキスト(c、d;青色)で染色した。バー=50μm。
【図5】DAニューロンの分化。図5A。分化した細胞の約1/3は、3週間の分化後にFGF8、SHH及びアスコルビン酸(AA)で処理した培養物においてチロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性であった。図5B。培養物におけるTH+細胞(赤色)はすべて、ニューロンマーカーβIII−チューブリン(緑色)で陽性に染色された。図5C〜図5E。培養物におけるTH+細胞(d、緑色)はすべて、芳香族酸デカルボキシラーゼ(AADC)(d及びe、赤色)で陽性に染色されたが、幾つかのAADC+細胞は、TH-であった(e、矢じり)。図5F。TH+細胞は、ノルアドレナリン作動性ニューロンマーカードーパミンβ−ヒドロキシラーゼ(DβH)(緑色)に対して陰性であった。挿入図は、DβHが成体ラット脳幹の切片における細胞を陽性に染色することを示した。細胞核は、ヘキスト(a、b、f;青色)で染色した。バー=50μm。
【図6】ヒトES細胞由来のDAニューロンの特性化。図6A。分化DAニューロンは、RT−PCRにより現される中脳発生運命の特徴である遺伝子を発現した。EB:胚様体、NE:神経外胚葉細胞、3w:3週間分化させたDA培養物、NC:陰性対照。図6B。培養物におけるTH+細胞(赤色)の大部分は、中脳マーカーEn−1(緑色)を発現した。図6C。GABA発現細胞(赤色)は、培養物中に存在したが、極わずかのTH+細胞(緑色)がGABA(赤色、挿入図)を共発現した。図6D。TH+細胞(赤色)は、カルビンジン(緑色)に対して陰性であった。バー=50μm。
【図7】ヒトES細胞由来のDAニューロンにおける受容体及び輸送体の発現。図7A〜図7C。TH+細胞(a、緑色)はすべて、c−Ret(赤色)を発現した。図7D〜図7F。TH+細胞(d、緑色)は、VMAT2(e及びf;赤色)を共発現した。図7G〜I。TH+ニューロン(j、緑色)は、シナプトフィジン(k及びl、赤色)を共発現した。バー=25μm。
【図8】in vitroで産生したDAニューロンの機能的特徴。図8A。三週間の分化後の対照及び処理培養物における自発的及び脱分極(HBSS中の56mM KCl)誘導性DA放出。データは、3回の実験からの平均値±SDとして提示した。*p<0.05(対応のないスチューデントt検定により対照に対して)。図8B。30日間分化させた2つのニューロンにおいて電流段階(0.2nA)を脱分極させることにより誘起される活動電位。受動膜特性:(i)Vrest−49mV、Cm 15.5pF、Rm 5.0GΩ、(ii)Vrest−72mV、Cm 45pF、Rm 885GΩ;図8C。36日間分化させたニューロンにおける自発的シナプス後電位。図8D。培養に30日間維持されたニューロンにおける自発的なシナプス後電位。ニューロンは、K−グルコナートベースのピペット溶液を用いて−40mVで電圧固定した。外向き電流は、阻害性事象を反映し、内向き電流は、この低塩化物記録溶液において興奮性事象を反映する。(ii)パネル(i)で示される細胞からの平均事象。加重減衰時間定数は、阻害(n=17事象)及び興奮性(n=14事象)電流に関して、61.4ms及び9.9msである。図8E〜図8G。免疫染色は、記録されたニューロン(f、緑色)がTH+(e及びg、赤色)であることを示した。バー=50μm。
【図9】FGF2により誘導される神経外胚葉細胞は、吻状表現型を示す。FGF2中で10日間分化させたES細胞は、コロニー中心で小円柱状形態を示し、ロゼット形成へと体系化した。ロゼットにおける円柱状細胞は、Pax6に対して陽性であり、Sox1に対して陰性であったが、周辺の扁平細胞はそうではなかった(A)。14日目までに、円柱状細胞は、神経管様ロゼットを形成し(B)、Pax6(C)及びSox1(D)の両方に対して陽性であった。ロゼットにおけるPax6+細胞(E)はまた、Otx2+(F)であったが、En−1-(G)であった。神経管様ロゼットにおける細胞は、Otx2に対して陽性であり、HoxC8に対して陰性であった(H)。青色は、ヘキスト染色した核を示す。バー=50μm。
【図10】神経外胚葉細胞からの運動ニューロンの産生。(A)2週間のSox1+神経外胚葉細胞の分化(一番上の行)は、成長領域における広範囲にわたるニューロン産生、Isl1の発現を明らかにしたが、HB9+細胞はわずかであることを明らかにした。Pax6+/Sox1-神経外胚葉細胞の処理(二番目の行)は、わずかに遊走している細胞を伴う広範囲にわたる神経突起成長、Isl1の発現及び大比率のHB9+細胞をもたらした。初期神経外胚葉細胞から分化したIsl1/2+の約50%はまた、HB9+であった(B)。HB9+細胞はまた、βIII−チューブリンに対して陽性であった(C)。クラスターにおける細胞の約21%は、培養物がレチノイン酸(RA)及びSHHの両方の存在下で分化された場合にはHB9+であったのに対して、RA単独若しくはSHH単独で、又はともに存在せずに培養される場合にはわずかなHB9+細胞が観察された。青色は、ヘキスト染色した核を示す。バー=50μm。
【図11】神経外胚葉細胞におけるRA、FGF2及びSHHの影響。(A)RT−PCR分析は、RA又は20ng/mlのFGF2を用いて神経誘導培地中で1週間培養された初期ロゼット細胞からの吻側尾側遺伝子の変動を示した。(B)RA0.1μMで1週間処理した初期及び後期神経外胚葉細胞におけるホメオボックス遺伝子発現の比較。RAで処理した後、12日間分化させた初期神経外胚葉細胞は、Otx2に対して大部分陰性となった(C)が、HoxC8に対して陽性となった(D)。HoxC8+細胞はすべて、βIII−チューブリン+(E)であった。Pax6発現神経外胚葉細胞は、Olig2に対して陰性であった(F)。RAによる1週間の処理及びSHH(100ng/ml)の存在下での2週間の分化後に、多くの細胞は、Olig2を発現した(G)。後期神経外胚葉細胞をRAで処理した後、同培養条件下で分化させた場合、わずかなOlig2+細胞が観察された(H)。青色は、ヘキスト染色した核を示す。バー=50μm。
【図12】培養における運動ニューロンの成熟。ChAT発現細胞は、クラスターにおいて大部分は局在化され(A)、大きな多極細胞であった(B)。共焦点画像は、3週間の培養物において、神経細胞体及び突起内のChAT、並びに核におけるHB9の共局在化を示した(C)。クラスターにおけるほとんどの細胞が、VChATを発現した(D)。多くのChAT+細胞はまた、培養における5週間後に神経細胞体及び突起内のシナプシンに対して陽性であった(E)。(F)42DIVに関して維持されるニューロンにおける電流段階(0.15nA)を脱分極させることにより誘起されるAP。静止膜電位(Vm)−59mV(fi)及び70mV(fii)。(G)42DIVに関して維持されるニューロンにおける自発的AP。Vm−50mV。(H)対照条件下でK−グルコネートベースのピペット溶液を用いた−40mVでの自発的内向き及び外向きシナプス電流(Hi)。ビククリン(20μM)及びストリキニーネ(5μM)の両方の適用は、外向き電流を阻止した(IPSC、Hii)。AP−5(40μM)及びCNQX(20μM)の続く適用は、残存する内向き電流を阻止した(EPSC、Hiii)。(i)パネルHで示される細胞からの平均sIPSC及びsEPSC。(J)ビオチン(記録用電極から)及びChATに関する二重免疫染色。青色は、ヘキスト染色した核を示す。バー=50μm。
【図13】in vitroで産生された運動ニューロンの電気生理学的特性化。(A)42DIVに関して維持されるニューロンにおける電流段階(0.15nA)を脱分極させることにより誘起されるAP。静止膜電位(Vm)−59mV(ai)及び70mV(aii)。(B)42DIVに関して維持されるニューロンにおける自発的AP。Vm−50mV。(C)対照条件下でK−グルコネートベースのピペット溶液を用いた−40mVでの自発的内向き及び外向きシナプス電流(ci)。ビククリン(20μM)及びストリキニーネ(5μM)の両方の適用は、外向き電流を阻止した(IPSC、cii)。AP−5(40μM)及びCNQX(20μM)の続く適用は、残存する内向き電流を阻止した(EPSC、ciii)。(D)パネルcで示される細胞からの平均sIPSC及びsEPSC。(E及びF)記録後に、カバーガラスクラスターをChATで免疫染色し、ビオチン充填したニューロンはChATに対して陽性であることを示した。バー=50μm。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胚幹細胞から培養され、初期ロゼット形態を特徴とし、且つSox1-,Pax6+である細胞の同調性集団を含む細胞の集団を創出する方法であって、以下の:
(a)胚幹細胞を胚様体へと増殖させる工程、及び
(b)胚様体を初期ロゼットの形態の神経幹細胞の同調集団へと増殖させる工程(ここで、この増殖は、FGF2、FGF8、FGF9又はFGF4の存在下である)
を含むところの、該細胞の集団を創出する方法。
【請求項2】
工程(a)と初期ロゼットの発生との間の期間が8〜10日間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Pax6+/Sox1-細胞の前記集団は、総細胞集団の少なくとも70%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
胚様体が、FGF2、FGF8、FGF9又はFGF4の存在下で、4〜6日間培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記成長因子がFGF−2である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法により産生される細胞の集団。
【請求項7】
神経管様ロゼット形態を特徴とし、且つPax6+/Sox1+である同調神経幹細胞の集団を創出する方法であって、初期ロゼット形態を特徴とし、且つSox1-,Pax6+である細胞を、FGF2、FGF4、FGF8又はRAの存在下で4〜6日間培養する工程を含むところの、該細胞の集団を創出する方法。
【請求項8】
前記接触が4〜6日間である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法により創出される細胞の集団。
【請求項10】
前記細胞は、FGF8を用いて培養され、EN1+である、請求項9に記載の細胞。
【請求項11】
前記細胞は、FGF2を用いて培養され、Bf1+である、請求項9に記載の細胞。
【請求項12】
前記細胞は、RAを用いて培養され、Hox+である、請求項9に記載の細胞。
【請求項13】
請求項10に記載の細胞をFGF8の存在中にSHHへ培養する工程を含む、中脳ドーパミンニューロンの集団を創出する方法であって、得られた細胞は、TH、AADC、EN−1、VMAT2及びDATを発現するが、DbH及びPNMTを発現せず、前記細胞は、ドーパミンを生産するところの、該ニューロンの集団を創出する方法。
【請求項14】
SHHへの前記接触が6〜7日間である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法により創出される細胞の集団。
【請求項16】
SHHを用いて請求項12に記載の細胞を培養する工程を含む、脊髄運動ニューロンの集団を単離する方法であって、得られた細胞は、HB9、HoxB1、HoxB6、HoxC5、HoxC8、ChAT及びVAChTを発現し、且つアセチルコリンを生産するところの、該ニューロンの集団を単離する方法。
【請求項17】
前記細胞は、6〜7日間、SHHへ接触させる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法により創出される細胞の集団。
【請求項19】
SHHを用いて請求項11に記載の細胞を培養する工程を含む、前脳ドーパミンニューロンの集団を創出する方法であって、得られた細胞は、TH、AADC、Bf1、Otx2を発現するが、DBH及びPNMTを発現せず、前記細胞は、ドーパミンを生産するところの、該ニューロンの集団を創出する方法。
【請求項20】
前記細胞は、6〜7日間、SHHへ接触させる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項19に記載の方法により創出される細胞の集団。
【請求項22】
神経細胞発生を攪乱させる能力に関して試験化合物を検査する方法であって、前記試験化合物を請求項15に記載の細胞へ接触させる工程と前記試験化合物に接触していない細胞の対照集団を比較して接触の結果を検査する工程を含むところの、該試験化合物を検査する方法。
【請求項23】
神経細胞発達を攪乱させる能力に関して試験化合物を検査する方法であって、前記試験化合物を請求項18に記載の細胞へ接触させる工程と前記試験化合物に接触していない細胞の対照集団を比較して接触の結果を検査する工程を含むところの、該試験化合物を検査する方法。
【請求項24】
神経細胞発達を攪乱させる能力に関して試験化合物を検査する方法であって、前記試験化合物を請求項21に記載の細胞へ接触させる工程と前記試験化合物に接触していない細胞の対照集団を比較して接触の結果を検査する工程を含むところの、該試験化合物を検査する方法。
【請求項1】
胚幹細胞から培養され、初期ロゼット形態を特徴とし、且つSox1-,Pax6+である細胞の同調性集団を含む細胞の集団を創出する方法であって、以下の:
(a)胚幹細胞を胚様体へと増殖させる工程、及び
(b)胚様体を初期ロゼットの形態の神経幹細胞の同調集団へと増殖させる工程(ここで、この増殖は、FGF2、FGF8、FGF9又はFGF4の存在下である)
を含むところの、該細胞の集団を創出する方法。
【請求項2】
工程(a)と初期ロゼットの発生との間の期間が8〜10日間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Pax6+/Sox1-細胞の前記集団は、総細胞集団の少なくとも70%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
胚様体が、FGF2、FGF8、FGF9又はFGF4の存在下で、4〜6日間培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記成長因子がFGF−2である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法により産生される細胞の集団。
【請求項7】
神経管様ロゼット形態を特徴とし、且つPax6+/Sox1+である同調神経幹細胞の集団を創出する方法であって、初期ロゼット形態を特徴とし、且つSox1-,Pax6+である細胞を、FGF2、FGF4、FGF8又はRAの存在下で4〜6日間培養する工程を含むところの、該細胞の集団を創出する方法。
【請求項8】
前記接触が4〜6日間である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法により創出される細胞の集団。
【請求項10】
前記細胞は、FGF8を用いて培養され、EN1+である、請求項9に記載の細胞。
【請求項11】
前記細胞は、FGF2を用いて培養され、Bf1+である、請求項9に記載の細胞。
【請求項12】
前記細胞は、RAを用いて培養され、Hox+である、請求項9に記載の細胞。
【請求項13】
請求項10に記載の細胞をFGF8の存在中にSHHへ培養する工程を含む、中脳ドーパミンニューロンの集団を創出する方法であって、得られた細胞は、TH、AADC、EN−1、VMAT2及びDATを発現するが、DbH及びPNMTを発現せず、前記細胞は、ドーパミンを生産するところの、該ニューロンの集団を創出する方法。
【請求項14】
SHHへの前記接触が6〜7日間である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法により創出される細胞の集団。
【請求項16】
SHHを用いて請求項12に記載の細胞を培養する工程を含む、脊髄運動ニューロンの集団を単離する方法であって、得られた細胞は、HB9、HoxB1、HoxB6、HoxC5、HoxC8、ChAT及びVAChTを発現し、且つアセチルコリンを生産するところの、該ニューロンの集団を単離する方法。
【請求項17】
前記細胞は、6〜7日間、SHHへ接触させる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法により創出される細胞の集団。
【請求項19】
SHHを用いて請求項11に記載の細胞を培養する工程を含む、前脳ドーパミンニューロンの集団を創出する方法であって、得られた細胞は、TH、AADC、Bf1、Otx2を発現するが、DBH及びPNMTを発現せず、前記細胞は、ドーパミンを生産するところの、該ニューロンの集団を創出する方法。
【請求項20】
前記細胞は、6〜7日間、SHHへ接触させる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項19に記載の方法により創出される細胞の集団。
【請求項22】
神経細胞発生を攪乱させる能力に関して試験化合物を検査する方法であって、前記試験化合物を請求項15に記載の細胞へ接触させる工程と前記試験化合物に接触していない細胞の対照集団を比較して接触の結果を検査する工程を含むところの、該試験化合物を検査する方法。
【請求項23】
神経細胞発達を攪乱させる能力に関して試験化合物を検査する方法であって、前記試験化合物を請求項18に記載の細胞へ接触させる工程と前記試験化合物に接触していない細胞の対照集団を比較して接触の結果を検査する工程を含むところの、該試験化合物を検査する方法。
【請求項24】
神経細胞発達を攪乱させる能力に関して試験化合物を検査する方法であって、前記試験化合物を請求項21に記載の細胞へ接触させる工程と前記試験化合物に接触していない細胞の対照集団を比較して接触の結果を検査する工程を含むところの、該試験化合物を検査する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2007−503811(P2007−503811A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524872(P2006−524872)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/027841
【国際公開番号】WO2005/021720
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(390023641)ウイスコンシン アラムナイ リサーチ フオンデーシヨン (61)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/027841
【国際公開番号】WO2005/021720
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(390023641)ウイスコンシン アラムナイ リサーチ フオンデーシヨン (61)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】
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