説明

霧解消装置

【課題】道路、空港、港湾等、公共の交通手段において霧が発生した場合に、視界を良好にし、交通手段の運行に支障を来さない遠赤外線を用いる装置を提供する。
【解決手段】霧による視界不良を監視する霧感知モニターと、該霧感知モニターからの信号に従って、被霧解消空間を囲って設けた、網状の赤外線放射源を通電、加熱するシステムとからなる霧解消装置であって、赤外線放射源が、非導電性繊維束の編み地の多数のループ間に炭素繊維束が平行に絡み込まれ、或いは平行に配列された複数の炭素繊維束を、該炭素繊維束と垂直方向の複数の非導電性繊維束が炭素繊維束を絡めとり、非導電性繊維束同士で絡み合いながら、隣接する炭素繊維束が互いに接触しない間隔で配列している網であり、隣接する炭素繊維間の間隔は3〜10mmであり、少なくとも炭素繊維束にはセラミックスコーティングが施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路、空港、港湾等、公共の交通手段において霧が発生した場合に、視界を良好にし、交通手段の運行に支障を来さない設備を、実現可能な経費で提供することができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
霧とは、直径10〜40μm程度の小さい水滴が空気中に多数発生して、遠くまで見通せなくなる現象であり、交通障害の原因になる。霧は多くの場合、非常に小さい、直径1μm以下のチリに空気中の水蒸気が付着して発生するが、基本的には細かい水滴と考えられる。このように霧は大部分が水分から構成されている。
大気中には常に水分が存在するが、その量と形態は気象条件によりさまざまに変わる。つまり、水分の形態が水蒸気、微水滴或いは氷晶のいずれとなるかは気圧、気温、気流、乱流の程度、重力、空気抵抗などの因子に依存して異なる。
【0003】
但し、これらの空間密度には物理条件に対応した上限がある。水蒸気の場合、標準気圧の平地で水蒸気として飽和できる量は、温度に依存して低下する。例えば、0℃では約5g/m3 、30℃では30g/m3 であり、これらの限界量を超えると、固体微粒子や汚染液滴(ミスト) を核として微水滴が析出する。これが地上に接していれば霧、上空に離れていれば雲と呼ばれる微水滴である。飽和水蒸気が霧粒に引き続き凝結し、或いは霧粒同士が衝突併合することにより霧粒は拡大し、同時に可視光線の散乱率も増大する。しかし、霧粒の直径が50μmを超すあたりからこの霧粒の重力落下が目立ち始める。すなわち、大気中に浮遊できる霧の空間密度にも限界量があり、水量にして最大2g/m3 程度である。
【0004】
大気の視界を遮る微水滴つまり霧の対策として、従来では、微水滴を蒸発させることだけが考えられていた。水滴を蒸発させるには大量の気化熱を必要とする。エネルギーが効率100%で霧に吸収されると仮定しても、大気空間1m3 あたり約1.2kcal(=580ca1 /g×2g/m3 )の熱を供給しなければならない。しかも、霧を除去すべき対象空間は密閉されているわけではなく、風により絶えず新たな霧が流入し続けるため、被霧解消空間には連続してエネルギーを送る必要がある。したがって、かかる現実の移動霧を消すには、対象空間の風上側単位断面に常時、風速(m/sec)× 1.2 kcal /m3 のエネルギーを与えなくてはならない。
【0005】
例えぱ、高速道路に直交して1m/sec の風が吹く場合、必要視界高度3m、対象距離10kmの路上濃霧全てを瞬時に蒸発させる例を想定すると、道路風上側で、1.46×105 kW(=1m/sec ×3m× 10000m×580cal /g×2g/m3 ×4.2ジュール/cal)の熱が必要となる。この際、一旦消えた霧は30m位までの道路を横切る間は再生しないとする。更に、この熱を空気を介して水滴に伝えるとすると、空気の熱容量〔0.0012ジュール/(m3 ・K)〕、熱拡散〔空気中の狭域熱拡散係数0.1〜1.0m2 /sec 〕、熱伝導〔空気の熱伝導係数0.025W/(m・K)〕などが関係して、1.46×105 kWの数百倍の熱を連続して供給しなくてはならない。したがって、バーナー、配管など大ががりな付属施設が必要となる。また、加熱された高温・乾燥空気が浮力上昇して道路上空に去る現象も起こって、到底実用にならない。
【0006】
この問題について本発明者らは特許文献1を開示した。本提案は、霧による視界不良を監視する霧感知モニターと、霧感知モニターからの信号に基き電磁波を霧に対して照射する電磁波発振器と、この電磁波発振器に電力を供給するとともに電磁波の波形を変調せしめるパルス変調電源とを有する霧解消装置の基本要素を提供したものである。この提案は先駆的で基本的な提案である。
更に、金属網状ヒーターにセラミックスコーティングを施した赤外線放射体を霧が流入する道路脇に設け、霧を赤外線放射体間の空隙を通過させ、流入する霧の粒子に至近距離から赤外線を放射して効果的に霧を解消する手段が開示されている。
【0007】
更に、特許文献2には波長6〜15μm、好ましくは5〜25μmの遠赤外線輻射体を使用して霧を解消する技術が開示されている。この提案は遠赤外線輻射体を道路脇に間欠的に設置する技術である。加熱式の強力な遠赤外線輻射体から放射された遠赤外線は、道路を斜めに横断して反射手段による反射を繰返し、散乱する遠赤外線により霧を解消するものである。
【特許文献1】特開2001−288723号公報
【特許文献2】特開2002−030632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記先行の2文献に開示された人畜に無害な遠赤外線を使用する方法は好ましいが、遠赤外線を含めて電磁波のエネルギーは距離の二乗に反比例して減衰していく。そのため、遠方から放射された赤外線のエネルギーは小さく、より高密度に赤外線輻射源を設けないと実効が得られない。特許文献2には、面状の網を使用した実施例が開示されているが、この網には加熱手段が設けられていない。一般に、遠赤外線放射素子も霧が発生しがちな低温では充分な遠赤外線を放射しない。広い開口部を有し、加熱手段を設けた網目や縞目の間のような至近距離から、遠赤外線を放射しなければ効果的な霧解消を実現することはできない。
【0009】
3〜5mもの高さの構造物を道路脇に設置するためには、堅固、軽量且つ風雨に耐える必要がある。被霧解消空間の側面に堅固な面状構造物を設けると、霧の流れは遮断されて所謂、霧の廻り込み現象が生じ、構造物の上面や側面から複雑な方向に向かって霧が流入してくる。また、加熱された金属網やセラミックスは遠赤外線を放射するが、素材自体が比較的重いため構造物の建設に多大の費用を要するおそれがある。そこで、エネルギー効率の更なる改善や装置の即応性と普及に向けてより優れたものにものにしていく必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決することを目的とし、その構成は、霧による視界不良を監視する霧感知モニターと、該霧感知モニターからの信号に従って、被霧解消空間を囲って設けた、網状の赤外線放射源を通電、加熱するシステムとからなる霧解消装置であって、赤外線放射源が、非導電性繊維束の編み地の多数のループ間に炭素繊維束が平行に絡み込まれ、或いは平行に配列された複数の炭素繊維束を、該炭素繊維束と垂直方向の複数の非導電性繊維束が炭素繊維束を絡めとり、非導電性繊維束同士で絡み合いながら、隣接する炭素繊維束が互いに接触しない間隔で配列している網であり、隣接する炭素繊維間の間隔は3〜10mmであり、少なくとも炭素繊維束にはセラミックスコーティングが施されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
赤外線放射体として、軽量且つ強靱な炭素繊維を使用する本発明により、霧が発生しがちな地域の道路等に採算可能な手段で霧を解消し、公共の交通手段の円滑な運用を可能にする。すなわち、水滴径を一定値以下に制御する本発明により、可視光線の散乱を回避することができ、非効率的な単なる加熱を排除して視界不良を解消することができる利点が生じる。霧解消に必要なエネルギーも数10分の1〜数100分の1に低減できる。網として目ずれがなく、且つ隣接する炭素繊維束同士が互いに設定した距離を保って配列している本発明の網を用いることにより、交通手段の霧解消が始めて実現段階に入った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
すなわち、本発明は放射する赤外線の波長を水分の吸収波長と一致させてエネルギー効率を高めるものである。電磁波としては、波長の短い順にγ線<X線<紫外線<可視光線<赤外線<マイクロ波<電波等があるが、本発明においては人畜に優しく、加温効果も大きい赤外線を用いる。赤外線とは、電磁波の中で0.75〜1000μmの波長領域であり、更にその中でも4ミクロン以上の波長帯を遠赤外線と呼んでいる。この波長域の中の10〜20μmを温度に換算すると27℃〜77℃となる。つまり比較的低温の放射体が発するマイルドな電磁波が赤外線ないし遠赤外線である。
本発明者らの実験によれば、赤外線の波長3μmの場合、水の吸収率が100%に近づくが3μmを超えると直ちに低下し、波長6〜7μm以上では安定して100%近い吸収が続く。50μm程度まではほぼ安定して使用でき、25μm以下が好ましいことが判明した。
【0013】
本発明は、赤外線が電気極性を持つ分子(水分子など)に運動エネルギーを与え、分子を共振させて運動を強める作用を有することを見出して完成した。赤外線エネルギーを得た水粒子は自己分裂現象により視界を透明にする。
水は2個の水素と1個の酸素の化合物である。しかし、実際にはH2 O単体で存在するのではなく、多くのH2 O分子同士が互いに引きつけ合い、図1に示すような、結合を繰り返した大型のクラスター1という塊となって存在していると考えられている。このクラスター1(水分子結合体)は、外部から蒸発させるエネルギーよりも小さいエネルギーが加わることにより分裂する。水滴の大きさがある程度小さくなると可視光に対して透明になるので、完全に気化させて水分子1個づつにしなくても光を散乱しなくなることが判明した。図2には、可視光を散乱しない分裂したクラスター2の分子構造イメージ図を示した。
【0014】
赤外線は水分子に運動エネルギーだけを与え、特に遠赤外線は加熱作用があることが知られている。赤外線には分子を共振させてその運動性を強める作用があり、この運動エネルギーは、クラスターの分裂を引き起こし、霧は可視光を散乱しなくなる。
道路上に存在する霧の微水滴に赤外線が放射され、エネルギーが吸収され、微水滴の内部エネルギーが増加するにしたがい、部分的に分子の運動と表面張力が釣り合わなくなることから、微水滴は自ら小水滴に分裂することで安定する。
気象学や物理学の定説によると、蒸発以外では水滴は小さくならないとしている。つまり、水滴が高温になり、内部に多量の水蒸気ができなければ、水滴の表面は割れないと考えられている。これに反し、本発明者らの知見によると、空間に漂い外部からエネルギーを受けた、図2に示すような分裂したクラスター2には水蒸気の凝結はなく、或いは衝突しても合体せず、小径のままの状態で安定する。
【0015】
本発明に使用する赤外線放射要素は炭素繊維である。更に、炭素繊維束の表面に被覆したセラミックスが炭素繊維と共に加熱されてより多くの赤外線を放射する。炭素繊維とはアクリル系繊維、ピッチ等の有機素材を焼成して製造され、導電性、高強度、低比重の優れた新素材である。一般的には、引張強度及び引張弾性率をパラメータとして汎用グレードと高性能グレードに大別されるが、汎用グレードでも1000MPaの引張強度、100GPaの引張弾性率を有する。電気的には導電性であり、化学的には耐蝕性に優れ、機械的には低比重、比強度、比弾性率が大きく、摩擦係数が低い。
【0016】
炭素は発熱することにより赤外線領域のエネルギーを放射する。しかも、27〜77℃程度の加熱で波長10〜20μm程度の遠赤外線を放射する。赤外線放射源として炭素繊維を用いる利点として、炭素繊維の体積占有率(一般的にVfと称している) を変えることにより自由に電気抵抗を設計できることが挙げられる。
炭素繊維は、通常所定の太さのものを多数束ねて用いられる。例えば径7〜10μmの繊維を2000〜8000本束ねた繊維束もある。1万本から1万5千本を束ねると可撓性を失うが、結着樹脂を選定したり、断面形状を楕円形ないし扁平にすることにより可撓性が得られる。
【0017】
非導電性繊維としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維等のプラスチックス繊維或いはガラス繊維等の無機系繊維等を用いる。これら編み地、織地を製造する際に、炭素繊維束を絡み取ることにより通電加熱可能な編み地、織地からなる本発明の網を得る。織地として開口部を広くとると平織りでは目ずれが生じるため絡み織が好ましい。絡み織とは、図3に示すように、間隔を保って平行に配列された複数本の炭素繊維束3が、これと垂直で、より細い複数本の非導電性繊維束4に絡まれて固定された織地である。隣接する炭素繊維束3までの間は非導電性繊維自体が絡みあって、広い開口部5を形成する織地である。非導電性繊維束4は太線で表現したが、現実には複数本の繊維束であったり、より複雑に絡ませて目ずれを防止することができる。一般には炭素繊維束を横に挿入しながら織っていくが、本発明の使用にあたっては炭素繊維束は縦方向でも横方向でも差支えない。炭素繊維束3に電流を導通することにより、大量の遠赤外線を放射させることができる。
【0018】
本発明の網は編み地が好ましい。編み地はループを形成することや横糸が存在しないことで織地と区別され、織地は緯糸を必須とすることで編み地と区別される。編み地は横編みでも縦編み(ラッセル編み)でも多数のループが存在し、所定のループ内に炭素繊維束を固定しながら編んでいく。
ラッセル編み地は、多数の縦糸のみを使用する編み地であり、目ずれしないため漁網、農業用網、土木用網等、産業用に広く使用されている。本発明の網とは、充分な開口部5を有する編み地或いは絡み織地で、隣接する炭素繊維束が互いに接触しないように、開口部5を確保して炭素繊維束を配列させた網である。開口部5が網全体に占める面積比率は自然霧の流れを妨げない程度であり、実質的には30%以上、好ましくは40〜50%又はそれ以上である。
【0019】
これら広い開口部を有する編み地又は織地からなる網は、例えば高速道路の場合、道路脇に間欠的にポールを立て、ポール間に網を懸架することができる。織地又は編み地である網は幅に限界がある。例えば、高速道路脇等に配設するときは必要長さに切断した数枚を、縦に又は横に連接して広い網にすることができる。連接するにあたっては、網をプラスチック等の非導電性枠体に張設することができる。炭素繊維束の切断端部を導電性塗料の塗布及び/又は帯状の金属製金具の押圧により1枠体の両端を電極とし、隣接する電極の上端同士又はした端同士を導線で接続することが好ましい。網の炭素繊維束を、図4、図7に示すように、縦に配列すると縦方向の全炭素繊維束に通電することができる。網の炭素繊維束を横に配列すると、横方向の全炭素繊維束に通電することができる。また、霧が発生しない時には網を下面に或いはポール脇に収納して視界を広げることもできる。
【0020】
本発明の遠赤外線放射装置は一般のヒーターのように赤熱するほど加熱しない。波長10〜20μm遠赤外線を放射させるには27〜77℃で足りる。発生する遠赤外線も微弱であるため、表面から3〜4mm、精々5mm程度である。炭素繊維束の表面とこれに隣接する炭素繊維束の表面との間隔は3〜10mm、好ましくは4〜8mm、より好ましくは5〜6mmである。この間隔が10mmを越えると霧が充分に解消されず、3mm未満では流入する移動霧を遮断して霧の回り込み現商が生じる。
【0021】
また、図4に示すように、非導電性繊維束からなる広い開口部5を有する網12に炭素繊維束3を縦方向に、互いに接触しない間隔で編み込んでいくこともできる。図4では非導電性繊維束4と開口部5を斜線で表した。図4の場合には炭素繊維束3の上端の切断端部側で、端から6本の炭素繊維束をまとめて導電塗料を塗布したり、導電性板状体を取付ける等、他の公知の方法を用いて電極7bとした。このようにして炭素繊維束6本ずつをまとめて電極7とした。更に下端の切断端部側には、両端から3本ずつの炭素繊維束3をまとめて連結して電極7aとした。電極7a以降は上端と同じく順次炭素繊維束36本をまとめて電極7とし、最終端部は縦糸3本をまとめて電極7とした。
【0022】
このように炭素繊維束3と電極を配置すると電極7aに導通された電流は上端の電極7bに達し、電極7bから炭素繊維束3を介して電極7cに達する。更に電極7cに達した電流は炭素繊維束3を介して上端の電極7dに達する。このようにして、最終的には下端の3本の縦糸をまとめた電極7に達して電源6に戻る。
この方法によれば、電気配線を下端のみに配設することができ、保守管理が一段と容易になる。図4においては説明を容易にするため、電極には炭素繊維束6本、及び下端両端は3本を連結したが、現実には、炭素繊維束6本ではなく15〜50本を使用することになる。
【0023】
これらの炭素繊維からなる網は高速道路等の被霧解消空間の脇に連続して懸架することができる。しかし、山陵部の道路など水分を大量に含む風が山をはい上がるような場所は霧の多発地域であり、このような霧は道路に沿ってほぼ平行に流れる。このような地域では、被霧解消空間を囲う方法として、道路の真上に、横断膜状に本発明網を間欠的に設ける方法もある。この場合、網の下端は積荷トラック等の車高より上である。或いは道路脇に、霧解消空間の側面から該側面に垂直ないし斜め方向に外方に延出した、本発明の網を間欠的に設ける方法もある。
【0024】
本発明の網にはセラミックスコーティングを施すと一層大量の赤外線を放射する。この場合、予めセラミックスコーティングを施した炭素繊維束を用いて編み込み、或いは織り込んでもよいが、出来上がった網自体にセラミックスコーティングを施してもよい。
セラミックスとしては、特に限定はなく、炭化珪素、酸化珪素、アルミナ等が多用され、少量の金属酸化物、例えば、酸化リチウム、酸化鉄、二酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ゲルマニウム等を配合したものが好ましい。また、ジルコニア系セラミックスでは、酸化金属類に対して炭素粉末や珪素粉末を配合して焼成したものが使用できる。
【0025】
本発明の網を加熱するための電源としては一般電力会社から供給される電源を使用することができるのは当然である。しかしながら、盆地である場合には太陽光発電も有効であり、海岸部であれば風力発電等の天然エネルギーの利用が好ましい。更に、山間地では間伐材を利用したバイオマス、一般廃棄物、天然ガス、石油等を燃焼して発電した自家発電エネルギーを蓄電器に貯え、霧発生に際して随時、一般電力と切り替えて利用することができる。
【0026】
山間部の天候は変わり易く瞬時に霧に覆われた経験を持つ人も多い。その様な場合、被霧解消空間の霧感知モニターのみでは、急遽、炭素繊維束を所定の温度に昇温させることは困難である。土地により山霧の流れはほぼ一定であるため、被霧解消空間の上流に第2の霧監視モニターを設置することが好ましい。第2の霧監視モニターからの信号により、上流での霧発生を早期に感知し、網を張設したり、通電を開始したりして霧解消装置を予め作動させておけば、本格的な濃霧の発生に際しても速やかに対処することができる。
【実施例1】
【0027】
1m×1m×1mのアクリル製角型筒を2個用いた。2個の角形筒の開口同士を接近させ、炭素繊維束を互いに間隔を保って平行にループで絡めながら編んだ網を挟んで固定させた。網12は、炭素繊維約1万2千本からなる長径約7mmの扁平な炭素繊維束3を縦糸とし、径約1mm弱のポリエステル繊維束を用いて炭素繊維束と炭素繊維束との間を約5mmに保ってる編み込んだ網である。開口部5の面積比率は約40%であった。この網全体にセラミックスコーティングを施した。セラミックスは、釉薬としてLiO2 約3%含有するAl23、SiO2 を焼き付けて粒子を付着させた。
連結させた角型筒の一方の開口から霧発生器を用いて霧を発生させ、角型筒に流入させた。この霧は通常の霧の約3倍の6.32g/m3 の水分を含有する濃霧であった。霧発生器から発生した霧は赤外線放射源である網の開口部5を通過して他方の角型筒に移動した。
【0028】
赤外線放射源には200W/m2 の電力を印加した。この時の炭素繊維温度は40℃、赤外線放射源の電極間の電気抵抗は65Ωであった。網12を通過する前後の霧の状態を目視観察したところ、網12の手前数10cmのところで霧は見えなくなった。
濃霧に曝されていると網に水分が付着する。炭素繊維束に付着した水分は弱い電力による遠赤外線の放射を阻害する。すでに被霧解消空間に霧が侵入した場合には、最初は150〜250W/m2 の電力を印加して付着した霧の水分を蒸発させる必要がある。水分の蒸発後は、40〜60W/m2 の電力で充分に霧を解消することができた。
【0029】
更に、実験に用いた霧の粒度分布と霧水量を表1に示した。網前50cmの部位の霧の粒度分布と霧水量を測定し、網通過後の霧の粒度分布と霧水量を測定し、それぞれ表1に併記した。また、この関係を図5にグラフで表した。
大きな霧粒ほど、可視光線を散乱する率が大きいが、空中での浮遊時間は短い。表1及び図5から明らかなように、大きな径の霧粒子が分裂してより小さい霧粒子に移行していることが理解される。
【0030】
【表1】

【0031】
別に、網に通電しなかった以外は実施例1と同様にして実験を行い、網前と網通過後の霧の粒度分布と霧水量とを測定し表2に示した。また、この関係を図6にグラフで表した。
表2及び図6から明らかなように、電流を導通しない網のみであっても網に接触する大きな霧粒は物理的に除去されるものと考えられる。更に、特に通電加熱しなくとも低温の炭素繊維やセラミックスから放射される赤外線も関与しているとも考えられる。
【0032】
【表2】

【実施例2】
【0033】
図7は道路での実験用の説明図である。図示を省略したポールで保持された霧解消装置の1単位を示した。8は非導電性の枠体であり、素材としてFRPを用いた。この枠体8内に、実施例1で用いた網を張設した。網は0.5m幅が得られたため、これを長さ3mに切断し、3m×4mの面状の赤外線放射体を得たが、より広幅の炭素繊維網が得られればそれを使用することができる。本実施例では枠体8を8個並列に並べて1単位とした。各枠体内の網の上端及び下端では炭素繊維束の切断部位を、図7に示すように、接続金具及び導電性塗料を用いて一体化し電極7とした。電極7uの図面上での右端と電極7vの図面での左端を導線9で連結し、電極7mの図面での右端と電極7nの図面での左端を導線9で連結し、電極7wの図面での右端と電極7xの図面での左端を導線9で連結し、……電極7yの図面での右端と電極7zの図面での左端を導線9で連結した。枠体8の抵抗は2.25Ωであった。
【0034】
図7(電圧調節器、電圧計、電流計は図示を省略した。)から明らかなように、電源6からの12Aの電流は電極7l→電極7u→電極7v→電極7m→電極7n→電極7w→電極7xと流れ、最後に電極7y→電極7z→電極7eに達して電源6に戻る。最初は208V(200W/m2 )の電流を印加し。周囲は濃霧であるにもかかわらず、網通過後の道路上の霧は解消し、500m前方まで見えるようになる。その後、104V(50W/m2 )に電力を落としたが被霧解消空間の霧を完全に解消することができる。
図7においては説明の都合上、枠8と枠8との間に間隙を設けたが、現実には枠8と枠8は密接させる。
【実施例3】
【0035】
炭素繊維網12の長さを5mとし、枠体8を4個用いて1単位とした他は、実施例3と同様にして霧の解消を図る。5m×0.5mの網12の抵抗は3.75Ωである。1単位あたり87V(50W/m2 )〜173V(200W/m2 )の電力の消費で、前方約700mの視界を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】霧中のクラスターの水分子の結合状態のイメージ図である。
【図2】分裂したクラスターの水分子の結合状態のイメージ図である。
【図3】絡み編の1例を示す説明図である。
【図4】炭素繊維束を編み込んだ網の通電方式の1例を示す模式図である。
【図5】網を通過する前後の、霧の粒度分布と霧水量を表すグラフである。
【図6】通電しない網の通過前後の霧の粒度分布と霧水量を表すグラフである。
【図7】道路側面に設けた霧解消装置の説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1 クラスター
2 分裂したクラスター
3 炭素繊維束
4 非導電性繊維束
5 開口部
6 電源
7 電極
8 枠体
9 導線
12 網

【特許請求の範囲】
【請求項1】
霧による視界不良を監視する霧感知モニターと、該霧感知モニターからの信号に従って、被霧解消空間を囲って設けた網状の赤外線放射源を通電、加熱するシステムとからなる霧解消装置であって、
上記赤外線放射源が、非導電性繊維束の編み地或いは織地に、炭素繊維束が相互に接触しない間隔で絡まれて平行に配列している網であり、該網の開口部が占める面積比率が30%以上であることを特徴とする霧解消装置。
【請求項2】
網が、非導電性繊維束を用いた編み地の、多数のループ間に炭素繊維束が平行に絡み込まれ、隣接する炭素繊維束が互いに接触しない間隔で配置されていることを特徴とする請求項1に記載する霧解消装置。
【請求項3】
網が、平行に配列された複数の炭素繊維束を、該炭素繊維束と垂直方向の複数の非導電性繊維束が炭素繊維束を絡めとり、非導電性繊維束同士で絡み合いながら、隣接する炭素繊維束が互いに接触しない間隔を維持して次の炭素繊維束を絡めとる、所謂絡み織であることを特徴とする請求項1記載の霧解消装置。
【請求項4】
網の、1本の炭素繊維束とこれに隣接する他の炭素繊維束との間隔が、3〜10mmであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載する霧解消装置。
【請求項5】
網の、少なくとも炭素繊維束にセラミックスコーティングが施されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載する霧解消装置。
【請求項6】
霧解消装置に直結している監視モニターの他に、地形に固有な霧流の上流に、被霧解消空間に設けた霧解消装置を霧発生前に予め作動させておくための、第2の霧監視モニターを設置することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載する霧解消装置。
【請求項7】
赤外線放射装置の電源として、一般電力会社から供給される電源と、天然エネルギーを利用して得られた電源或いは自家発電エネルギーを利用して得られた電源とを、切替え可能に並列に配列した回路を設けたことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載する霧解消装置。
【請求項8】
網を被霧解消空間の上流に、霧の流れを横断する方向に張設したことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載する霧解消装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−51540(P2007−51540A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194775(P2006−194775)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(395002434)東芝変電機器テクノロジー株式会社 (59)
【出願人】(500164628)