説明

露光システムおよび露光方法

【課題】記録ディスク媒体の原盤パターン露光のための露光システムのコストを抑制する。
【解決手段】原盤に電子線を照射してディスク状記録媒体の原盤パターンを描画する露光装置とその制御装置を含む露光システムにおいて、原盤パターンを描画するための描画データ信号が、複数の波形パターンの組合せからなるものであるとき、制御装置50に、複数の波形パターンのうち互いに異なる波形パターンを個々の波形データ列として記憶する波形データ記憶部51、52と、互いに異なる波形パターンを示す波形データ列により描画データ信号を構成するための波形データ列の出力順序を記憶する出力順記憶部53、54とを個別に備え、さらに、波形データ列を出力順序に従って順次、露光装置に送出するデータ処理部56を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク状記録媒体用のインプリントモールドや磁気転写用マスター担体などの原盤を作製する際に、所望の微細パターンを描画するための露光装置を備えたシステムおよび露光方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスク状記録媒体には、サーボパターン等の微細パターンが凹凸パターンまたは磁化パターンなどによって形成されている。このディスク状記録媒体を製造するための磁気転写用マスター担体やナノインプリントの原盤などに、ディスク状記録媒体に形成されるパターンに応じた原盤パターンを電子線やレーザ光による露光描画するための露光装置や露光方法が提案されている。この露光方法としては、レジストが塗布されたディスク状記録媒体用の原盤を回転ステージ上に載置し、該回転ステージを回転させることにより原盤を回転させながら、パターン形状に対応した電子ビームを照射することによってパターン描画を行う方法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
露光装置は制御装置によって制御されて所望の描画パターン露光を行うように構成される。
パターン描画を行う場合には、制御信号として、露光光である電子線、あるいはレーザ光のオン・オフ信号、露光光の偏向信号、回転ステージの回転制御信号などがある。制御信号は描画時にフォーマッタによって生成されたり、フォーマッタあるいはフォーマッタに接続されたパーソナルコンピュータからなる制御装置のハードディスクドライブなどに予め保存されたりした描画データに基づいて電気信号としてフォーマッタから出力される。この信号のデータ量は作製する記録媒体の記録密度の向上によって、年々肥大化している。
【0004】
例えば、高密度化により描画パターンが微細化されアナログ制御信号の元となるデジタルデータも電圧分解能12bitが16bitへ、時間分解能(周波数)50MHzが数百MHzへとなりデータ量は数倍〜10倍程度まで増大している。制御装置は数TByte級の大容量を扱う必要があり、制御信号がパーソナルコンピュータのハードディスクに記憶されている場合には、原盤作製時間の長時間化を避けるため、短時間にこの大容量データをハードディスクドライブからフォーマッタへと転送する必要があり高速データ転送が要求される。また、フォーマッタで全ての描画データを記憶するためには、大容量の記憶手段が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−158287号公報
【特許文献2】特開2006−184924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
肥大化するデータ量に伴うデータ記憶容量の増加およびデータ転送の短時間化の要請によるデータ転送速度の高速化は、露光装置、制御装置を含む描画システムの高コスト化を引き起こすものである。システムの高コスト化は、製造する原盤の高コスト化に繋がる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、高コスト化することなく、肥大化するデータ量、データ転送の高速化を実現できる露光システムおよび露光方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の露光システムは、回転ステージ上に載置されたディスク状記録媒体用の原盤を前記回転ステージを回転させることにより回転させつつ、該原盤に露光光を照射して前記ディスク状記録媒体の原盤パターンを描画露光する露光装置と、
該露光装置に前記原盤パターンに応じた、複数の波形パターンの組合せから構成される描画データ信号を送出し、該露光装置による描画動作を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置が、前記複数の波形パターンのうち互いに異なる波形パターンを個々の波形データ列として記憶する波形データ記憶部と、前記互いに異なる波形パターンを示す波形データ列により前記描画データ信号を構成するための該波形データ列の出力順序を記憶する出力順記憶部とを個別に備え、さらに、前記波形データ記憶部に記憶されている前記互いに異なる波形データ列を、前記出力順記憶部に記憶されている前記出力順序に従って順次、前記露光装置に送出するデータ処理部を備えていることを特徴とするものである。
【0009】
前記露光装置の前記回転ステージにロータリエンコーダが備えられており、
前記制御装置が、前記描画データ信号の出力タイミングを示すインデックス信号を前記回転ステージの回転により生じるエンコーダ信号に基づいて生成するインデック信号生成部を備え、前記出力データ記憶部が、前記出力順データ列として、前記原盤の各半径位置の周方向の所定領域毎に、先頭にインデックスが付与された該領域に含まれる波形データの出力順を示すデータ列を、該各所定領域の配列順に記憶するものであり、前記データ処理部が、前記所定領域毎に、前記描画データ信号として、前記インデックス信号による出力タイミングで、前記インデックスが付与された前記所定領域毎の出力順を示すデータ列に応じた順序で前記波形データを出力するものであることが好ましい。
【0010】
前記波形データ記憶部を、前記異なる波形パターン毎の波形データ列に、該異なる波形パターンにそれぞれ付与された識別符号を組み合わせて記憶するものとし、
前記出力順記憶部を、前記出力順序を、前記識別符号を出力すべき順序で時系列に配列した出力順データ列として記憶するものとすることが好ましい。
ここで、識別符号は、パターン番号など個々の波形パターンを特定できるものであればよい。
【0011】
前記描画データ信号が、特定の波形パターンが連続して繰り返される同一パターン繰返し構成部を含むものであるとき、
前記出力順記録部が、前記同一パターン繰返し構成部について、該特定の波形パターンに付与されている識別符号と、その繰り返し回数とを記憶するものであることが好ましい。
【0012】
前記描画データ信号が、第1の波形パターンに必ず第2の波形パターンが後続する複数パターン繰返し構成部を有するものであるとき、
前記波形記憶部が、前記第1の波形パターンを示す波形データ列に、後続する前記第2の波形データに付与されている識別符号を併せて記憶するものであり、
前記出力順記憶部は、前記複数パターン繰返し構成部について、前記第1の波形パターンの識別符号のみを記憶するものであることが好ましい。
【0013】
前記描画データ信号が、前記露光光の偏向信号と、オン・オフ信号とを含み、
前記波形パターンは、同時に出力される前記偏向信号および前記オン・オフ信号のそれぞれのパターンを含むものとすることができる。
なお、前記偏向信号としては、周方向、半径方向への信号および振動信号など複数の偏向信号を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の露光方法は、回転ステージ上に載置されたディスク状記録媒体用の原盤を前記回転ステージを回転させることにより回転させつつ、該原盤に露光光を照射して前記ディスク状記録媒体の原盤パターンを描画露光する露光装置と、該露光装置に前記原盤パターンに応じた描画データ信号を送出し、該露光装置による描画動作を制御する制御装置とを備えた露光システムによる露光方法であって、
前記描画データ信号が、複数の波形パターンの組合せから構成されるものであるとき、該複数の波形パターンのうちの互いに異なる波形パターン毎に個々の波形データ列を作成すると共にそれぞれに識別符号を付与し、前記互いに異なる波形パターンを示す波形データ列を前記描画データ信号の構成順に出力するための前記波形データ列の出力順序を示す出力順データ列を作成し、
前記互いに異なる波形パターンの各波形データ列と、前記出力順データ列とをそれぞれ前記制御装置に備えられている波形データ記憶部と出力順記憶部とに記録し、
前記出力順記憶部から出力順データ列を読出すと共に、該出力順データ列が示す出力順に基づいて前記波形データ記憶部から前記波形データ列を読み出して、順次、前記露光装置に送出し、前記描画データ信号に基づく露光描画を行うことを特徴とする。
【0015】
前記描画データ信号が、特定の波形データが連続して繰り返される同一パターン繰返し構成部を含むものであるとき、
前記出力順データ列として、前記同一パターン繰返し構成部について、該特定の波形データに付与されている識別符号と、その繰り返し回数とを示すデータ列を作成することが好ましい。
【0016】
前記描画データ信号が、第1の波形データに必ず第2の波形データが後続する複数パターン繰返し構成部を有するものであるとき、
前記波形パターンデータ列の作成において、前記第1の波形データに、後続する前記第2の波形データに付与されている識別符号を併せたデータ列を作成し、
前記出力順データ列として、前記複数パターン繰返し構成部について、前記第1の波形データの識別符号のみを示すデータ列を作成することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の露光システムおよび露光方法によれば、複数の波形パターンの組合せから構成される描画データ信号を、互いに異なる波形パターンを示すデータと、その出力順序のデータとに分離して保持するので、同一波形パターンのデータを繰返し含む全描画データ信号をそのまま記憶する場合と比較してデータ量を大幅に低減することができ、データ保存用の記録媒体の容量を大幅に削減することができる。データ量を少なくすることができるので、全描画データ信号をそのまま転送する場合と比較して、同一の転送レートであっても高速な描画が可能となる。したがって、高速転送に要するコストを抑えることもできる。記録媒体の容量を抑え、転送レート高速化に要するコストを抑えることができるので、露光システムを低コストに構築することができる。露光システムの低コスト化は、原盤作製コストの抑制に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電子線露光システムの概略構成を示すブロック図
【図2】ディスク状記録媒体用の原盤パターンを示す模式図
【図3】図2の原盤パターンの一部を拡大して示した拡大図
【図4】パターン描画を行うための各種制御信号の波形データを示す図
【図5】描画データメモリに蓄積される描画データ信号の構造を示す模式図
【図6】同じ波形が繰り返すパターンを含む描画データ信号についての各種制御信号の波形データを示す図
【図7】図6の描画データ信号を生成するためにメモリに蓄積されるデータ列の構造を示す図
【図8】規則的な繰り返しパターンを含む描画データ信号についての各種制御信号の波形データを示す図
【図9】図8の描画データ信号を生成するためにメモリに蓄積されるデータ列の構造を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明の実施形態に係る露光システムについて説明する。図1は本発明の実施形態に係る露光システム1の概略構成を示すブロック図である。
露光システム1は、回転ステージ31上に載置されたディスク状記録媒体用の原盤8を回転ステージ31を回転させることにより回転させつつ、原盤8に露光光として電子ビームを照射してディスク状記録媒体の原盤パターンを描画する露光装置10と、露光装置10に描画設計データに基づく描画データ信号(制御信号)を送出して露光装置10による描画を制御する制御装置としてフォーマッタ50を備えている。
また、露光装置10およびフォーマッタ50はそれぞれパーソナルコンピュータ(PC)40、60と接続されており、両コンピュータ間はイーサネット(登録商標)等により接続されている。なお、制御装置はフォーマッタのみにより構成されていてもよいし、フォーマッタとそれに接続されたPCとから構成されていてもよい。
【0021】
露光装置10は、原盤8に対して電子ビームを照射する電子ビーム照射部20と、原盤を回転および直線移動させる機械駆動部30とを備えている。
【0022】
電子ビーム照射部20は、鏡筒18内に電子ビームを出射する電子銃21、電子ビームを半径方向Yおよび円周方向Xへ偏向させるとともに円周方向Xに一定の振幅で微小往復振動させる偏向手段22,23、電子ビームの照射をオン・オフするためのブランキング手段24としてアパーチャ25およびブランキング26(偏向器)を備えており、電子銃21から出射された電子ビームは偏向手段22、23および図示しない電磁レンズ等を経て、原盤8上に照射される。
【0023】
ブランキング手段24における上記アパーチャ25は、中心部に電子ビームが通過する透孔を備え、ブランキング26は電子ビーム照射オン信号(ブランキングオフ)時には電子ビームを偏向させることなくアパーチャ25の透孔を通過させて照射させ、一方、電子ビーム照射のオフ信号(ブランキングオン)時には電子ビームを偏向させてアパーチャ25の透孔を通過させることなくアパーチャ25で遮断して、電子ビームの照射を行わないように作動する。
【0024】
機械駆動部30は、鏡筒18が上面に配置された筐体19内に原盤を支持する回転ステージ31および回転ステージを回転駆動させるスピンドルモータからなる回転駆動機構32とを備えた回転ステージユニット33と、回転ステージユニット33を回転ステージ31の一半径方向に直線移動させるための直線移動手段34とを備えている。直線移動手段34は、回転ステージユニット33の一部に螺合された精密なネジきりが施されたロッド35と、このロッド35を正逆回転駆動させるパルスモータ36とを備えている。また、ステージユニット33には、回転ステージ31の回転角度に応じたエンコーダ信号を出力する図示しないエンコーダが設置されている。エンコーダは、スピンドルモータのモータ軸に取り付けられる、多数の放射状のスリットが形成された回転板と、そのスリットを光学的に読み取り、エンコーダ信号を出力する光学素子とを備えている。
【0025】
フォーマッタ50は、描画データ信号群のデータ信号を制御信号として露光装置10に順次送出するものである。制御信号は、電子ビームを偏向するための偏向信号出力、電子線の出力ON/OFF信号(ブランキングのOFF/ON信号)、回転ステージを制御する回転基準パルス信号などからなる。
【0026】
PC60は、描画すべきパターン(ディスク状記録媒体の原盤パターン)に応じた描画データ信号を構成するための波形データ列と出力順データ列をハードディスク等の記録媒体に保持している。
なお、波形データ列と出力順データ列は、露光装置による描画を開始する前に、予めPC60において、描画データ信号が、複数の波形パターンの組合せから構成されるものである場合に、複数の波形パターンのうちの互いに異なる波形パターン毎に個々の波形データ列を作成すると共にそれぞれに識別符号を付与し、互いに異なる波形パターンを示す波形データ列を描画データ信号の構成順に出力するための波形データ列の出力順序を示す出力順データ列を作成するプログラムを用いて作成されたものである。
波形データ列と出力順データ列として蓄積することにより、両データ列に分離する前の描画データ信号に対して、1/1000程度にデータ容量を低減することができる。
【0027】
フォーマッタ50は、波形データ列を記憶する波形データ記憶部としての第1および第2の波形データ保持メモリ51、52と、出力順データ列を記憶する出力順記憶部としての第1および第2の出力順保持メモリ53、54とを備えている。さらに、フォーマッタ50は、描画タイミングを計るためのインデックス(INDEX)信号を生成するインデックス信号生成部55と、メモリ51〜54上のデータ列から描画データ信号(制御信号)を生成し、露光装置10に送出するデータ処理部(コントロールIC)56とを備えている。
【0028】
フォーマッタ50は、描画動作中に、データ処理部56によるメモリからのデータ読み出しとPC60からのデータ書き込みとを同時に行うことが出来るように、出力順保持メモリおよび波形データ保持メモリをそれぞれ2つ備えている。
【0029】
データ処理部56は、第1波形データ保持メモリ51および第1出力順保持メモリ53上のデータ列を読み出して描画データ信号を生成しつつ、次に使用するデータ列の第2波形データ保持メモリ52および第2出力順保持メモリ54へのPC60からの書き込みを行う、あるいは、第2波形データ保持メモリ52および第2出力順保持メモリ54上のデータ列を読み出して描画データ信号を生成しつつ、第1波形データ保持メモリ51および第1出力順保持メモリ53に書き込みを行うものである。すなわち、第1波形データ保持メモリ51および第1出力順保持メモリ53と、第2波形データ保持メモリ52および第2出力順保持メモリ54とが、交互に読出しメモリと書き込みメモリとして使用され、順次読出しと書き込みを繰り返すことにより途切れることなく描画データ信号の出力を行うことができる。なお、出力順保持メモリおよび波形データ保持メモリは3以上であってもよい。
【0030】
データ処理部56による制御信号の出力タイミングは、インデックス信号生成部55からのインデックス信号によって制御される。
【0031】
インデックス信号生成部55において、インデックス信号は、回転ステージユニット33に備えられているエンコーダの出力(A/B/Z相信号)および制御部内部で生成される描画クロックから生成される。例えば、各所定領域の直前に生じるエンコーダ信号を基準とし、そのエンコーダ信号から所定クロック数後にインデックス信号が生じるように設定されている。
【0032】
データ処理部56は、出力順保持メモリ53に記録されている出力順に基づいて、波形データ保持メモリ51に記録されている波形データ列を読み出して描画データ信号を生成すると共に、該描画データ信号をインデックス信号に基づいて露光装置へと出力する。
【0033】
図2は、ディスク状記録媒体の原盤パターン(描画パターン)と描画開始インデックスとの関係を模式的に示す図であり、図3はその原盤パターンの一部を拡大した模式図である。ここでは、ディスク状記録媒体として、ディスクリートトラックメディアの原盤パターンを示している。図2および図3に示すように、原盤パターンは、周方向にサーボ領域S、データ領域Dが交互に配置された構成を有している。サーボ領域Sは、同心円中心部からほぼ放射方向に延びる細幅の領域である。一般には、サーボ領域は半径方向に延びる円弧状に形成されているが、ここでは模式的に直線状に示している。サーボ領域Sには、プレアンブル、アドレス、サーボ等の微細パターン(微細パターンは図示していない。)が設けられており、データ領域Dには、トラックT間を分離するグルーブパターンGが設けられている。本実施形態においては、1つのサーボ領域とそれに隣接する1つのデータ領域からなる1セクタを所定領域として、この所定領域毎にインデックス信号を基準に描画を開始するものとしている。
【0034】
図4は、サーボ領域Sに描画される微細パターン12の一部と該微細パターンを描画するための各種制御信号の波形データを模式的に示すものである。詳細には、図4(A)は描画すべきパターンおよび電子ビームEBの半径方向Y(外周方向)および周方向X(回転方向)の描画動作を模式的に示し、(B)は半径方向Yの偏向信号を、(C)は周方向Xの偏向信号を、(D)は周方向Xの振動信号を、(E)にEB照射のオン・オフ動作を示している。
図4(A)に示すように、微細パターンは1描画単位であるエレメント13a〜13fから構成されており、パターン露光は、レジストが塗布された原盤を一方向Aに回転させつつ、個々のエレメントをその形状を塗りつぶすように微小径の電子ビームEBで走査して、1回転で1トラック分の微細パターンを描画することによりなされる。
【0035】
各エレメントを塗りつぶす電子ビームEBの走査は、電子ビームEBの照射のオン・オフをブランキング手段24の動作により制御しつつ、サーボエレメントの最小トラック方向長さより小さいビーム径の電子ビームEBを、半径方向Yおよび半径方向と直交する方向(以下周方向X)へX−Y偏向させて、原盤8(回転ステージ31)の回転速度に応じて、半径方向Yと直交する方向Xへ一定の振幅で高速に往復振動させて振らせることにより行う。
【0036】
すなわち、1トラック上の微細パターンを描画する際には、図4に示すように少なくとも(B)EBの半径方向Yの偏向信号、(C)EBの周方向Xの偏向信号、(D)に周方向Xの振動信号、(E)にEB照射のオン・オフ信号により露光装置を制御している。
【0037】
記録メディア用の原盤パターン(微細パターン)には規則性があり、その描画パターン信号は複数の波形パターンの組合せから構成される。したがって、フォーマッタ50からは繰り返し同じ制御信号が出力されることが多い。例えば、図4に示した例では、エレメント13a、13bは、二点差線で囲まれた制御信号の組み合わせからなるパターンNo.1の波形パターンの繰り返しで描画され、同様にエレメント13c、13dはパターンNo.2の波形パターン、エレメント13e、13fはパターンNo.3の波形パターンの繰り返しにより描画される。ここで、パターンNo.は、個々の波形パターンを識別するための識別符号である。
【0038】
図5に、波形データ保持メモリ51、出力順保持メモリ53に蓄積されるデータ列およびこれらからデータ処理部56において生成される描画データ信号の構造を模式的に示す。
図5に示すように、図4に示す描画パターンの場合、パターンNo.1,No.2、No.3・・・の波形データを波形データ保持メモリ51に記憶しておき、その出力順序の情報を出力順保持メモリ53に記憶しておく。
【0039】
波形データ保持メモリ51には、互いに異なる波形パターンを示す波形データ列がそれぞれ各波形パターンを識別するための識別符号としてのパターンNo.と共に記録され、出力順保持メモリ53には、1セクタ毎にパターンNo.が出力順に配列されてなるデータ列がインデックスフラグIを先頭に蓄積される。第1波形データ保持メモリ51と第1出力順保持メモリ53には、対応する複数セクタ分のデータが同時に蓄積されており、データ処理部56によるメモリ51、53からのデータの読み出しがなされている間に、次のセクタから複数セクタ分のデータが第2波形データ保持メモリ52、第2出力順保持メモリ54に蓄積される。
【0040】
データ処理部56は制御回路から構成されるものであり、出力順保持メモリ53に蓄積されている順序に応じて波形データ保持メモリ51に蓄積されている波形データを読み出して、1セクタ分のデータ列がインデックスフラグIを先頭に、出力データ1、出力データ2・・・と配列された描画データ信号(制御信号)を生成し、インデックス信号生成部55からインデックス信号が入力されると、所定のインデックスフラグが付されている1セクタ分の描画データ信号を露光装置10に送出し、次のインデックス信号が入力されると、次のインデックスフラグが付されている1セクタ分の描画データ信号を露光装置10に送出するよう構成されている。
【0041】
ここで、インデックスフラグIをセクタ単位で設定するものとしているが、インデックスフラグはトラック単位で設定してもよいし、1セクタよりも細かく設定してもよい。
【0042】
なお、メモリ51〜54およびデータ処理部において、波形データ列、出力順データ列等の情報はデジタル信号であり、フォーマッタ50から露光装置10へ出力される際にD/Aコンバータによりアナログ信号に変換される。
【0043】
また、露光装置を制御するための制御信号としては、1トラック中のエレメント描画動作を制御するための露光光の高速偏向、振動および照射のオン・オフ信号の他、回転ステージを制御する回転基準パルス信号や、描画位置のトラック移動を行うための、エレメント描画時のY偏向と比較して低速なY偏向信号などがある。これらは、エレメント描画時の高速信号に比べて発生頻度が格段に少ないため、波形データ保持メモリに記録されるパターンとは別に時系列で記憶される。別途のメモリが設けられていてもよいし、時系列である点で同種の出力順データ列と共に出力順保持メモリに記録するようにしておいてもよい。
【0044】
メモリに蓄積させるデータ量を削減するための波形データと出力順データの蓄積方法の例を図6〜図9を参照して説明する。
【0045】
図6に示すように、描画データ信号Sが特定の波形パターン(ここでは、パターンNo.1)が連続して繰り返される同一パターン繰返し構成部を含んでいる場合、図7に示すように、同一パターン繰返し構成部描画のためには、波形データ保持メモリ51にその所定のパターンNo.1の波形データを記録すると共に、出力順保持メモリ53にはパターンNoと繰り返し回数nを記録する。これにより、n回分パターンNoを記録するよりもメモリ容量を削減することができる。
【0046】
また、図8に示すように、描画データ信号SがパターンNo.1の後は必ずパターンNo.2が発生するなど決まった複数のパターンが繰り返される複数パターン繰返し構造部を含んでいる場合、図9に示すように、複数パターン繰返し構成部描画のためには、波形データ保持メモリ51にパターンNo.1の波形データ列と共に後続するパターンの番号(No.2)を、パターンNo.2の波形データと共に後続するパターンの番号(No.3)を記録しておき、出力順保持メモリ53には、出力順として先端のパターン番号のみを記録する。具体的には、図9のように出力順保持メモリ53に、No.1,No.4・・との出力順が記録されていれば、データ処理部56から波形データがNo.1,No.2、No.3、No.4・・の順で出力させることができる。これにより、出力保持メモリのメモリ容量を削減することができる。
【0047】
以下に、図4に示すパターン描画方法を簡単に説明する。
まず、a点で(E)のEB照射信号のオンにより電子ビームEBを照射し、サーボエレメント13aの描画を開始するものであり、基準位置にある電子ビームEBを(D)の振動信号により周方向Xに往復振動させつつ、(B)のY偏向信号により半径方向(−Y)に偏向させて送るとともに、A方向への原盤8の回転に伴う電子ビームEBの照射位置のずれを補償するために、(C)のX偏向信号によりA方向と同方向の周方向Xに偏向させて送ることにより、矩形状のサーボエレメント13aを塗りつぶすように走査し、b点でのEB照射信号のオフにより電子ビームEBの照射を停止し、サーボエレメント13aの描画を終了する。b点後に、半径方向Yおよび周方向Xの偏向を基準位置に戻す。
次に、原盤8が回転してc点になると、同様にして次のサーボエレメント13bの描画を開始し、同様の偏向信号に基づいて同様に描画し、d点でサーボエレメント13bの描画を終了する。
【0048】
続いて、e点で(B)のY偏向信号を半トラック分だけ半径方向(−Y)に基準位置を移動させ、その基準位置より前述と同様に、電子ビームEBを(D)の振動信号により周方向Xに往復振動させつつ、(B)のY偏向信号により半径方向(−Y)に偏向させて送るとともに、(C)のX偏向信号によりA方向と同方向の周方向Xに偏向させて送ることにより、矩形状のサーボエレメント13cを塗りつぶすように走査し、f点でのEB照射信号のオフにより電子ビームEBの照射を停止し、サーボエレメント13cの描画を終了する。f点後に、半径方向Yおよび周方向Xの偏向をそれぞれの基準位置に戻す。
次に、原盤8が回転してg点になると、同様にして次のサーボエレメント13dの描画を開始し、同様の偏向信号に基づいて同様に描画し、h点でサーボエレメント13dの描画を終了する。
【0049】
さらに、原盤8が回転してh点でEB照射信号をオンとして電子ビームEBの照射を開始して(B)のY偏向信号により半径方向(−Y)に偏向させて送るとともに、A方向への原盤8の回転に伴う電子ビームEBの照射位置のずれを一部補償するために、(C)の偏向信号によりA方向と同方向の周方向Xに偏向させて送ることにより、平行四辺形状のサーボエレメント13eを塗りつぶすように走査し、i点でのEB照射信号のオフにより電子ビームEBの照射を停止し、サーボエレメント13eの描画を終了する。j点後に、半径方向Yおよび周方向Xの偏向を基準位置に戻す。
次に、原盤8が回転してk点になると、同様にして次のサーボエレメント13fの描画を開始し、同様の偏向信号に基づいて同様に描画し、l点でサーボエレメント13fの描画を終了する。
【0050】
1つのトラックを1周描画した後、次のトラックに移動し同様に描画して、原盤8の全領域に所望の微細パターン12を描画する。この電子ビームEBの描画位置のトラック移動(径方向Yへの移動)は、電子ビームEBを半径方向Yに偏向させて行うか、あるいは回転ステージ31を半径方向Yに直線移動させて行う。なお、電子ビームEBの描画位置は、偏向手段により径方向へ移動させる方が効率的であることから、偏向手段による径方向への移動が可能な範囲では偏向させることによりトラック移動を行って複数トラック描画させた後に、ビームの偏向手段による径方向への偏向を一旦解除すると共に、直線移動手段34を用いて回転ステージを複数トラック分程度半径方向に移動させるのが好ましい。
【符号の説明】
【0051】
1 露光システム
8 ディスク状記録媒体用の原盤
10 露光装置
18、19 筐体
20 電子線露光部
21 電子銃
22、23 偏向手段
24 ブランキング手段
25 アパーチャ
26 ブランキング
30 機械駆動部
31 回転ステージ
32 回転駆動機構
33 回転ステージユニット
34 直線移動手段
40,60 PC
50 フォーマッタ(制御装置)
51,52 波形データ保持メモリ(波形データ記憶部)
53,54 出力順保持メモリ(出力順記憶部)
55 インデックス信号生成部
56 データ処理部
S サーボ領域
D データ領域
G グルーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ステージ上に載置されたディスク状記録媒体用の原盤を前記回転ステージを回転させることにより回転させつつ、該原盤に露光光を照射して前記ディスク状記録媒体の原盤パターンを描画露光する露光装置と、
該露光装置に前記原盤パターンに応じた、複数の波形パターンの組合せから構成される描画データ信号を送出し、該露光装置による描画動作を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置が、前記複数の波形パターンのうち互いに異なる波形パターンを個々の波形データ列として記憶する波形データ記憶部と、前記互いに異なる波形パターンを示す波形データ列により前記描画データ信号を構成するための該波形データ列の出力順序を記憶する出力順記憶部とを個別に備え、さらに、前記波形データ記憶部に記憶されている前記互いに異なる波形データ列を、前記出力順記憶部に記憶されている前記出力順序に従って順次、前記露光装置に送出するデータ処理部を備えていることを特徴とする露光システム。
【請求項2】
前記露光装置の前記回転ステージにロータリエンコーダが備えられており、
前記制御装置が、前記描画データ信号の出力タイミングを示すインデックス信号を前記回転ステージの回転により生じるエンコーダ信号に基づいて生成するインデック信号生成部を備え、
前記出力データ記憶部が、前記出力順データ列として、前記原盤の各半径位置の周方向の所定領域毎に、先頭にインデックスが付与された該領域に含まれる波形データの出力順を示すデータ列を、該各所定領域の配列順に記憶するものであり、
前記データ処理部が、前記所定領域毎に、前記描画データ信号として、前記インデックス信号による出力タイミングで、前記インデックスが付与された前記所定領域毎の出力順を示すデータ列に応じた順序で前記波形データを出力するものであることを特徴とする請求項1記載の露光システム。
【請求項3】
前記波形データ記憶部が、前記異なる波形パターン毎の波形データ列に、該異なる波形パターンにそれぞれ付与された識別符号を組み合わせて記憶するものであり、
前記出力順記憶部が、前記出力順序を、前記識別符号を出力すべき順序で時系列に配列した出力順データ列として記憶するものであることを特徴とする請求項1または2記載の露光システム。
【請求項4】
前記描画データ信号が、特定の波形パターンが連続して繰り返される同一パターン繰返し構成部を含むものであり、
前記出力順記録部が、前記同一パターン繰返し構成部について、該特定の波形パターンに付与されている識別符号と、その繰り返し回数とを記憶するものであることを特徴とする請求項3記載の露光システム。
【請求項5】
前記描画データ信号が、第1の波形パターンに必ず第2の波形パターンが後続する複数パターン繰返し構成部を有するものであり、
前記波形記憶部が、前記第1の波形パターンを示す波形データ列に、後続する前記第2の波形データに付与されている識別符号を併せて記憶するものであり、
前記出力順記憶部は、前記複数パターン繰返し構成部について、前記第1の波形パターンの識別符号のみを記憶するものであることを特徴とする請求項3記載の露光システム。
【請求項6】
前記描画データ信号が、前記露光光の偏向信号と、照射のオン・オフ信号とを含み、
前記波形パターンは、同時に出力される前記偏向信号および前記オン・オフ信号の各制御信号を含むものであることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の露光システム。
【請求項7】
回転ステージ上に載置されたディスク状記録媒体用の原盤を前記回転ステージを回転させることにより回転させつつ、該原盤に露光光を照射して前記ディスク状記録媒体の原盤パターンを描画露光する露光装置と、該露光装置に前記原盤パターンに応じた描画データ信号を送出し、該露光装置による描画動作を制御する制御装置とを備えた露光システムによる露光方法であって、
前記描画データ信号が、複数の波形パターンの組合せから構成されるものであるとき、該複数の波形パターンのうちの互いに異なる波形パターン毎に個々の波形データ列を作成すると共にそれぞれに識別符号を付与し、前記互いに異なる波形パターンを示す波形データ列を前記描画データ信号の構成順に出力するための前記波形データ列の出力順序を示す出力順データ列を作成し、
前記互いに異なる波形パターンの各波形データ列と、前記出力順データ列とをそれぞれ前記制御装置に備えられている波形データ記憶部と出力順記憶部とに記録し、
前記出力順記憶部から出力順データ列を読出すと共に、該出力順データ列が示す出力順に基づいて前記波形データ記憶部から前記波形データ列を読み出して、順次、前記露光装置に送出し、前記描画データ信号に基づく露光描画を行うことを特徴とする露光方法。
【請求項8】
前記描画データ信号が、特定の波形データが連続して繰り返される同一パターン繰返し構成部を含むものであるとき、
前記出力順データ列として、前記同一パターン繰返し構成部について、該特定の波形データに付与されている識別符号と、その繰り返し回数とを示すデータ列を作成することを特徴とする請求項7載の露光方法。
【請求項9】
前記描画データ信号が、第1の波形データに必ず第2の波形データが後続する複数パターン繰返し構成部を有するものであるとき、
前記波形パターンデータ列の作成において、前記第1の波形データに、後続する前記第2の波形データに付与されている識別符号を併せたデータ列を作成し、
前記出力順データ列として、前記複数パターン繰返し構成部について、前記第1の波形データの識別符号のみを示すデータ列を作成することを特徴とする請求項7記載の露光方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−80544(P2013−80544A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220651(P2011−220651)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】