説明

露光用マスク

【課題】露光用マスクの成長性異物による汚染を管理するためのマスクやウェハの検査が不要であり、マスクの履歴に依存せずに汎用性があり、マスク製造や検査のための時間・コストが増大せず、常に清浄な状態でマスクを使用できるように運用する露光用マスクの管理方法に基づき、成長性異物による汚染が生じない露光用マスクを提供する。
【解決手段】露光用マスクを使用する環境において、前記環境中の実測した硫酸イオン濃度と、前記露光用マスク表面に吸着する最大硫酸イオン吸着量と、前記露光用マスク表面に前記異物が発生する前記露光用マスク表面に存在する硫酸イオン量の閾値とから、一定時間経過後の前記露光用マスク表面の硫酸イオン吸着量算出され、前記異物が発生しない使用期限設定された露光用マスクを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造プロセスのリソグラフィ工程で用いられる露光用マスク(以下、マスクとも記す)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIパターンの微細化・高集積化に伴い、パターン形成に用いるフォトリソグラフィ技術においては、露光装置の光源が、高圧水銀灯のg線(436nm)、i線(365nm)から、KrFエキシマレーザ(248nm)、ArFエキシマレーザ(193nm)へと短波長化が進んでいる。このような短波長の露光光源は短波長で高出力のために、光のエネルギーが高く、露光に用いられているマスク上に時間の経過と共に成長する異物が生じマスクを汚染するという現象があり、この成長性異物(ヘイズ、Haze、曇り、とも称する。)は露光光が短波長であるほど顕著となることが指摘されている。マスク上に生じた成長性異物がウェハに転写されるほど大きくなると、半導体素子の回路の断線やショートを引き起こしてしまう。
【0003】
この短波長の露光光源を用いたときに露光用マスクを汚染する成長性異物の発生は、その大きな要因の一つとして、マスク製造後にマスク表面に残存するマスク洗浄などに用いた酸性物質である硫酸イオンと、マスク使用環境に存在するアンモニアなどの塩基性物質とが、パターン転写の際のエキシマレーザ照射により反応を起こし、硫酸アンモニウム等を生じることにより異物となると言われている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
このため、マスク製造後の検査では無欠陥の良好な品質状態であっても、露光装置でエキシマレーザ照射を繰り返すうちに、マスク上に異物が生じてマスクを汚染し、ウェハへの良好なパターン転写像が得られなくなるという問題があった。ことにマスク上の透明領域や半透明領域に生じた異物は、露光光の透過率を変えてしまい問題であった。マスク使用開始時には良好な状態であっても時間の経過と共に汚染物質である異物が成長し、しかもマスクによっては少ない露光量でも異物が発生する場合もあり、マスク管理上も管理が難しい問題であった。
【0004】
上記のマスクを汚染する成長性異物の問題に関し、露光用マスクの管理方法として、積算された露光量(積算照射量)が一定の値となるごとにマスクを再洗浄する方法、一定の積算照射量ごとにマスクを検査して異物があった場合にマスクを再洗浄する方法、マスクに成長性異物評価部を設けてマスクの使用限界を評価する方法(例えば、特許文献3参照。)、露光したウェハを一定ロットごとに検査してウェハ面内でチップ共通の欠陥があった場合にマスクを再洗浄する方法などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−11048号公報
【特許文献2】特開2004−53817号公報
【特許文献3】特開2005−308896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の積算照射量による管理方法は、基板上の残留成分に関して同じ品質のマスクであるにも関わらず、マスク使用環境などにより異物の発生度合いが異なり、予め定めた積算照射量以前にウェハに不良を生じてしまうことがあった。この不良発生を防止するために、マスク洗浄頻度を上げると製造時間・コストが増加してしまうという問題があった。積算照射量とマスク検査を併用する管理方法は、不良発生は抑えられるものの検査に比重がかかり、検査時間の増加に伴うコスト増という問題があった。マスクに成長性異物評価部を設ける管理方法は、特定のマスクにしか使えない限定的な方法であり汎用性はない。ウェハ検査による管理方法は、破壊検査的な管理方法であり、複数のウェハチップ欠陥不良を生じてしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、露光用マスクの成長性異物による汚染を管理するためのマスクやウェハの検査が不要であり、マスクの履歴に依存せずに汎用性があって信頼性が高く、マスク製造や検査のための時間・コストが増大せず、常に清浄な状態でマスクを使用できるように運用する露光用マスクの管理方法に基づき、成長性異物による汚染が生じない露光用マスクを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の露光用マスクは透明基板上にマスクパターンが形成された露光用マスクであって、前記露光用マスクを使用する環境において、前記環境中の実測した硫酸イオン濃度と、前記露光用マスク表面に吸着する最大硫酸イオン吸着量と、前記露光用マスク表面に硫酸イオン系異物が発生する前記露光用マスク表面に存在する硫酸イオン量の閾値とから、一定時間経過後の前記露光用マスク表面の硫酸イオン吸着量算出され、前記異物が発生しない使用期限設定されたことを特徴とするものである。
【0009】
請求項に記載の露光用マスクは、請求項1に記載の露光用マスクにおいて、前記露光用マスクが、ArFエキシマレーザを露光光源とする露光装置に用いる露光用マスクであって、前記硫酸イオン量の閾値が1ng/cm2以上であり、少なくとも前記マスクパターンが形成された側の前記露光用マスク表面に存在する硫酸イオン量が、1ng/cm2未満であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項に記載の露光用マスクは、請求項1に記載の露光用マスクにおいて、前記露光用マスクが、KrFエキシマレーザを露光光源とする露光装置に用いる露光用マスクであって、前記硫酸イオン量の閾値が5ng/cm2以上であり、少なくとも前記マスクパターンが形成された側の前記露光用マスク表面に存在する硫酸イオン量が、5ng/cm2未満であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の露光用マスクの管理方法は、露光用マスクの異物が発生しない使用期限を設け、硫酸イオン系成長性異物による汚染を管理するためのマスクやウェハの検査が不要であり、マスクの履歴に依存することなく汎用性があって信頼性が高く、マスク製造や検査のための時間・コストが増大せず、常に清浄な状態でマスクを使用でき、ウェハに欠陥が生じるのを防止することができる。本発明の露光用マスクの管理方法は、露光用マスクへの硫酸イオン吸着量を抑えることにより、また露光用マスクの使用環境を改善することにより、再洗浄までのマスク寿命を延命することが可能となる。
【0012】
本発明の露光用マスクは、ArFエキシマレーザまたはKrFエキシマレーザを露光光源とする露光装置に用いた場合、硫酸イオン系成長性異物による汚染が生じない露光用マスクとして、高品質のマスクパターンが転写できる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ArFエキシマレーザの露光量を変えた場合の、露光用マスク表面の硫酸イオン量と硫酸イオン系異物の発生個数との関係を示す図である。
【図2】露光用マスク表面の硫酸イオン量を変えた場合の、ArFエキシマレーザによるウェハ上の露光量と硫酸イオン系異物の発生個数との関係を示す図である。
【図3】環境中の硫酸イオン濃度が0.4μg/m3の場合の保管時間とマスク表面へ吸着する硫酸イオン量との関係を示す図である。
【図4】環境中の硫酸イオン濃度が0.04μg/m3の場合の保管時間とマスク表面へ吸着する硫酸イオン量との関係を示す図である。
【図5】硫酸イオン濃度が異なる各環境下で、1000時間、マスクブランクス用ガラス基板を保管した場合に、基板表面に吸着する硫酸イオン量を示す図である。
【図6】本発明の露光用マスクの管理方法の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(露光用マスクの管理方法)
本発明者は、種々のテストを行った結果、露光用マスク表面の成長性異物は、硫酸イオン等の酸系イオンとアンモニウムイオン等のアルカリイオンとが反応して形成されており、それらのイオンの中でも硫酸イオンに起因するものが多く、マスク表面の硫酸イオン系の成長性異物の発生には、マスク表面の硫酸イオン量の閾値があることを見出し、露光用マスクが汚染されない条件を求め、本発明を完成させたものである。
【0015】
すなわち、上記のように、本発明は、硫酸イオン系異物に汚染された露光用マスクを再洗浄して使用する露光用マスクの管理方法であって、露光用マスクを使用する環境において、環境中における硫酸イオン濃度を実測し、その実測した硫酸イオン濃度と、露光用マスク表面に吸着する最大硫酸イオン吸着量と、露光用マスク表面に硫酸イオン系異物が発生する露光用マスク表面に存在する硫酸イオン量の閾値とから、一定時間経過後の露光用マスク表面の硫酸イオン吸着量(以下、硫酸イオン量とも記す。)を算出し、異物が発生しない露光用マスクの使用期限を設定し、使用期限となる前に露光用マスクを再洗浄して初期の清浄な状態に戻し、再び使用するものである。
以下、図面を参照して、本発明の露光用マスクの管理方法の実施形態について、ArFエキシマレーザを露光光源に用いた場合を例に説明する。
【0016】
(マスク表面の硫酸イオン量の閾値)
図1は、露光用光源にArFエキシマレーザを用い、その積算露光量を800J/cm2〜3000J/cm2まで変えた場合の、露光用マスク表面の硫酸イオン量(横軸)と硫酸イオン系異物の発生個数(縦軸)との関係を示すものである。露光用マスク表面の硫酸イオン量の測定は、測定対象となる露光用マスク表面に存在するイオンを純水で抽出し、イオンを抽出した純水溶液をイオンクロマトグラフィ法を用いて定量分析して得ることができる。この場合、純水を煮沸して抽出するのがより好ましい。
【0017】
上記のイオンクロマトグラフィ法で得られたマスク表面の硫酸イオンの定量値ppb(=ng/ml)は、マスクを浸漬した純水の中の硫酸イオン濃度を示しているので、本発明においては、硫酸イオン濃度をマスク上の硫酸イオン量としてより一般的な単位、ng/cm2に変換している。マスク上の硫酸イオン濃度ppbと硫酸イオン量ng/cm2の変換式は、抽出液量を100ml、マスクの表面積を450cm2として、1 ppb=0.22ng/cm2である。
【0018】
図1に示されるように、露光用マスク表面の硫酸イオン量が1ng/cm2未満の場合には、積算露光量が800J/cm2、1,500J/cm2、3,000J/cm2において、各露光量に係らず硫酸イオン系異物は発生していない。しかし、露光用マスク表面の硫酸イオン量が1ng/cm2を超えると、各露光量に係らず硫酸イオン系異物が発生している。図1より、硫酸イオン系異物の発生に関しては、マスク表面の硫酸イオン量の閾値があり、少なくとも1.1ng/cm2の場合には1個/cm2以上の異物が発生している。
【0019】
図2は、露光用マスク表面の硫酸イオン量を0.2ng/cm2〜1.5ng/cm2まで変えた場合の、ArFエキシマレーザによる積算露光量(横軸)と露光用マスク表面の硫酸イオン系異物の発生個数(縦軸)との関係を示す。積算露光量はマスク上で計測している値を用いている。
図2に示されるように、露光用マスク表面の硫酸イオン量が0.2ng/cm2および0.9ng/cm2の場合には、積算露光量が1,000J/cm2を超えても硫酸イオン系異物は発生していない。しかし、露光用マスク表面の硫酸イオン量が1.5ng/cm2の場合には、露光量が100J/cm2を超えたあたりの低い露光量においても異物が発生している。
【0020】
したがって、図1および図2より、本発明においては、ArFエキシマレーザを用いた場合、硫酸イオン系異物が発生するマスク表面の硫酸イオン量の閾値を1ng/cm2以上としている。上記のように、マスク表面の硫酸イオン量が閾値である1ng/cm2以上の場合には、非常に少ない積算露光量でも硫酸イオン系異物が発生する。
なお、通常の露光用マスクの洗浄では、洗浄後にマスク表面に残留する硫酸イオン量は0.4ng/cm2前後である。
【0021】
露光用マスク表面の硫酸イオン系異物の発生には、上記の露光用マスク洗浄時の残留する硫酸イオンとともに、マスクを使用する環境中に存在する硫酸イオン濃度も大きな要因となる。
本発明者は、ラングミュアの吸着式を改良した羽深氏等の次式(1)を用い、環境中に存在する硫酸イオン濃度について解析した(H.Habuka et al,Jpn.J.Appl.Phys.42,1575(2003))。
dS/dt=(Smax−S)kad,ii−kde,iS (1)
ただし、t:時間(h)、S:i種の表面濃度、Smax:最大表面濃度、Ci:i種の環境中濃度(g/cm3)、kad:マスク表面上へのi種の吸着速度(ng/cm2/h)、kde,i:マスク表面上からのi種の脱離速度(ng/cm2/h)である。
【0022】
ここで、i=SO42-のとき、硫酸イオンはマスク表面に一度吸着したら離れない(kde,sulf=0)と仮定し、上式(1)を積分して、次式(2)を得た。
sulf=Mmax−A×exp(−B×Csulf×t) (2)
ただし、Msulf:ある時間t経過した後の硫酸イオン吸着量(ng/cm2)、Mmax:最大硫酸イオン吸着量(ng/cm2)、A、Bは定数である。Csulf:環境中の硫酸イオン濃度(μg/m3)である。
【0023】
本発明者は、実験により表1に示す経過時間tと、環境中の硫酸イオン濃度Csulfと、硫酸イオン吸着量Msulfの関係を求めた。次に、表1の結果から定数A、Bを求め、最大硫酸イオン吸着量Mmaxは、マスクブランクス用ガラス基板の場合を想定し、Mmax=10ng/cm2と仮定して計算した。
環境中の硫酸イオン濃度は、イオンクロマトグラフィ法を用いた環境分析装置CM505(横河電機(株)製)で測定した。また硫酸イオン吸着量は、吸着後のガラス基板を100mlの温純水に浸漬し、その温純水をイオンクロマトグラフィにより測定した。
【0024】
【表1】

【0025】
上記の結果から、実測した環境中の硫酸イオン濃度Csulfが特定の数値を示した場合、上記の式(2)を計算し、硫酸イオン吸着量Msulfの時間依存性を求めた。以下に、環境中の硫酸イオン濃度Csulfが0.4μg/m3の場合と、0.04μg/m3の場合を例示する。
【0026】
図3は、環境中の硫酸イオン濃度Csulfが0.4μg/m3の場合の、露光用マスクの保管時間とマスク表面へ吸着する硫酸イオン吸着量Msulfとの関係を示す。1500時間(約63日)経過すると、最大硫酸イオン吸着量Mmaxが10ng/cm2として、1ng/cm2の硫酸イオンが吸着すると見積もられる。ここで、本発明において用いる露光用マスクの保管時間は、マスクを使用する時間も含むものである。
【0027】
環境中の硫酸イオン濃度の測定は、洗浄した表面が清浄なマスクブランクス用ガラス基板を環境中に一定期間静置し、マスクブランクス用ガラス基板表面に吸着したイオンを純水で加熱抽出し、イオンを抽出した純水溶液をイオンクロマトグラフィ法を用いて定量分析して得ることができる。
【0028】
図4は、環境中の硫酸イオン濃度Csulfが0.04μg/m3の場合の、露光用マスクの保管時間とマスク表面へ吸着する硫酸イオン量Msulfとの関係を示す。15000時間(625日)経過すると、1ng/cm2の硫酸イオンが吸着すると見積もられる。図3および図4より、環境中の硫酸イオン濃度を1/10に減少させると、マスク表面へ吸着する硫酸イオン量がほぼ同量になるには10倍の時間を要することになり、環境中の硫酸イオン濃度の影響に関する限り、再洗浄を必要とするまでのマスク寿命は10倍延びることになる。
【0029】
上記説明したように、環境中の硫酸イオン濃度Csulfを実測し、その環境中に保管された経過時間から、その経過時間における露光用マスク表面の硫酸イオン吸着量Msulfを算出することが可能となる。さらに、前述の硫酸イオン系異物が発生するマスク表面の硫酸イオン量の閾値とから、露光用マスク表面に硫酸イオン系異物が発生する時期を見積もることが可能となる。
【0030】
例えば、図5は、環境中の硫酸イオン濃度Csulfが異なる各環境下で、1000時間、マスクブランクス用ガラス基板を保管した場合に、基板表面に吸着する硫酸イオン量Msulfを示す図である。マスク用基板としては、一例として、最も異物汚染の影響を受けるマスクブランクス用ガラス基板を用いた。
図5に示されるように、環境中の硫酸イオン濃度Csulfが13μg/m3の条件下では、マスクブランクス用ガラス基板表面の硫酸イオン量Msulfは、1000時間経過後にほぼ飽和状態となる。一方、環境中の硫酸イオン濃度Csulfが0.7μg/m3の条件下では、1000時間経過後に約1ng/cm2の硫酸イオンが吸着すると見積もられる。
【0031】
図6は、本発明の露光用マスクの管理方法の一例を説明する図であり、横軸に露光用マスクの保管環境における保管期間(時間:h)、縦軸左に露光用マスクに吸着する硫酸イオン量Msulf(ng/cm2)、縦軸右に露光量(J/cm2)を示す。イオンクロマトグラフィ法にて実測した環境中の硫酸イオン濃度Csulfは、0.4μg/m3である。一定時間経過後の露光用マスク表面の硫酸イオン吸着量(ng/cm2)を太い直線で示す。露光用マスク表面に異物が発生する露光用マスク表面に存在する硫酸イオン量の閾値は、前述のように、1ng/cm2である(細い直線)。上記2つの直線の交点が使用期限(破線で示す。)であり、使用期限(時間:日)として設定される。
【0032】
図6において、積算露光量が例え高い値であっても、使用期限以下であれば硫酸イオン系の成長性異物は発生しない。一方、積算露光量が例え低い値であっても、使用期限を越えていれば異物が発生するおそれがあることが示される。したがって、使用期限前に、露光用マスクを再洗浄し、初期の清浄な状態に再び戻して使用する。このサイクルを繰り返すことにより、長期間にわたり、露光用マスクの成長性異物によるウェハの不良発生を防止することが可能となる。
【0033】
再洗浄までの露光用マスクの寿命(保管期間)を延ばすには、図6において、露光用マスク表面の硫酸イオン吸着量Msulfを示す太い直線を下方に下げるか(白矢印A方向)、あるいは直線の傾きを緩やかにすればよい(黒矢印B方向)。前者は、露光用マスク洗浄時にマスク表面上に残留する硫酸イオン量を低減することであり、後者は、露光用マスク保管環境の硫酸イオン濃度を低減することである。
後者の例として、例えば、露光用マスク保管環境の硫酸イオン濃度が0.4μg/m3で使用期限が48日の場合、環境中の硫酸イオン濃度を0.06μg/m3に低減することにより、使用期限は365日にまで延命することができる。
【0034】
上記のように、本発明の露光用マスクの管理方法は、マスクやウェハの検査が不要であり、マスクの履歴に依存することなく汎用性があり、マスク製造や検査のための時間・コストが増大せず、常に清浄な状態でマスクを使用でき、ウェハに欠陥が生じるのを防止することができる。さらに、本発明の露光用マスクの管理方法を用い、露光用マスクへの硫酸イオン吸着量を抑え、露光用マスクの保管環境を改善することにより、再洗浄するまでの使用期限を延長し、マスク寿命を延命することが可能となる。
【0035】
上記の説明は、ArFエキシマレーザを露光光源とする露光装置に露光用マスクを適用する場合について説明した。KrFエキシマレーザを露光光源とする露光装置に露光用マスクを適用する場合においては、露光用マスク表面に異物が発生する露光用マスク表面に存在する硫酸イオン量の閾値が5ng/cm2以上となるため、管理値は5ng/cm2未満が好ましい。KrFエキシマレーザの場合、マスク表面への硫酸イオンの吸着挙動はArFエキシマレーザの場合と同様であるため、ArFエキシマレーザとまったく同様の吸着式が使える。
【0036】
(露光用マスク)
本発明の露光用マスクは、透明基板上にマスクパターンが形成されており、ArFエキシマレーザを露光光源とする露光装置に用いる場合には、少なくとも前記マスクパターンが形成された側のArFエキシマレーザ露光用マスク表面の硫酸イオン量を1ng/cm2未満とするものである。前述のように、マスク表面の硫酸イオン量が1ng/cm2以上の場合には、非常に少ない露光量でも硫酸イオン系の異物が発生する。これに対し、マスク表面の硫酸イオン濃度を1ng/cm2未満とすることにより、露光用マスクの再洗浄を必要とせずに高品質を維持したまま長期間使用することが可能となる。
【0037】
また、本発明の露光用マスクは、透明基板上にマスクパターンが形成されており、KrFエキシマレーザを露光光源とする露光装置に用いる場合には、少なくとも前記マスクパターンが形成された側のKrFエキシマレーザ露光用マスク表面の硫酸イオン量を5ng/cm2未満とするものである。前述のように、マスク表面の硫酸イオン量が5ng/cm2以上の場合には、非常に少ない露光量でも硫酸イオン系の異物が発生する。これに対し、マスク表面の硫酸イオン濃度を5ng/cm2未満とすることにより、露光用マスクの再洗浄を必要とせずに高品質を維持したまま長期間使用することが可能となる。
【0038】
露光用マスク表面の硫酸イオン濃度の測定は、上記のように、測定対象となる露光用マスク表面に存在するイオンを純水で抽出し、イオンを抽出した純水溶液をイオンクロマトグラフィ法を用いて定量分析して得ることができる。この場合、純水を沸騰しない範囲でできるだけ高温に加熱して抽出するのがより好ましい。
【0039】
本発明の露光用マスクは、特に短波長の露光光を用いた場合、KrFエキシマレーザまたはArFエキシマレーザ、より好ましくはArFエキシマレーザを露光光源とする露光装置に使用する場合により大きな効果を示し、硫酸イオン系の成長性異物による汚染が生じない露光用マスクとして、高品質のマスクパターンが転写できる効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上にマスクパターンが形成された露光用マスクであって、
前記露光用マスクを使用する環境において、前記環境中の実測した硫酸イオン濃度と、前記露光用マスク表面に吸着する最大硫酸イオン吸着量と、前記露光用マスク表面に硫酸イオン系異物が発生する前記露光用マスク表面に存在する硫酸イオン量の閾値とから、一定時間経過後の前記露光用マスク表面の硫酸イオン吸着量が算出され、前記異物が発生しない使用期限が設定されたことを特徴とする露光用マスク。
【請求項2】
前記露光用マスクが、ArFエキシマレーザを露光光源とする露光装置に用いる露光用マスクであって、前記硫酸イオン量の閾値が1ng/cm2以上であり、少なくとも前記マスクパターンが形成された側の前記露光用マスク表面に存在する硫酸イオン量が、1ng/cm2未満であることを特徴とする請求項1に記載の露光用マスク。
【請求項3】
前記露光用マスクが、KrFエキシマレーザを露光光源とする露光装置に用いる露光用マスクであって、前記硫酸イオン量の閾値が5ng/cm2以上であり、少なくとも前記マスクパターンが形成された側の前記露光用マスク表面に存在する硫酸イオン量が、5ng/cm2未満であることを特徴とする請求項1に記載の露光用マスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−248384(P2011−248384A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198943(P2011−198943)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【分割の表示】特願2006−225467(P2006−225467)の分割
【原出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】