説明

露光装置における回転同期振れ測定方法および補償描画方法

【課題】 回転ステージの回転振れを測定するため、SEM等で拡大観察可能な測定円の描画を好適に行って回転同期振れRROの測定を高精度に行い、描画補償により描画真円度を高める。
【解決手段】 回転ステージ41に載置した基板11に偏向制御したビームEBを照射して所定パターンの露光を行う露光装置40において、回転ステージ41を回転させつつ基板11上の回転中心付近にビームEBを照射し、基板11上に全体がSEM等で拡大観察可能な小径の測定円5を描画し、該測定円5の計測より回転同期振れRROを測定し、実描画に反映する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気転写用マスター担体等を作製する際に、その転写パターンの形成に用いる回転ステージを持つ露光装置において、回転中心の軸振れなどに起因する回転同期振れRROの測定方法およびそれに基づく補償描画方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、回転ステージを持つ露光装置を用いて基板上に同心円状にパターンを描画露光することが行われている。例えば、磁気転写用マスター担体の転写パターンの描画、光ディスク基板作製用のスタンパー作製のためのパターン描画等が上記露光装置によって行われる。
【0003】
具体的には、磁性体の微細凹凸パターンにより転写情報を担持した磁気転写用マスター担体と、転写を受ける磁気記録部を有するスレーブ媒体とを密着させた状態で、転写用磁界を印加してマスター担体に担持した情報(例えばサーボ信号)に対応する磁化パターンをスレーブ媒体に転写記録する磁気転写方法が知られている。そして、この磁気転写に使用されるマスター担体の作製方法としては、転写すべき情報に応じたレジストによる凹凸パターンが形成された原盤を基にして作製する、光ディスクスタンパー作製方法を応用した方法が考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記光ディスクスタンパーの作製の際には、レジストが塗布されたディスク(ガラス板等)を回転させながら、データをピットの長短に変換し、これに応じて変調したレーザービームまたは電子ビームを照射したデータをレジストに書き込むことがなされる。また、磁気転写用マスター担体においても微細パターンの描画は、上記光ディスクスタンパーの作製と同様に、レジストが塗布されたディスクを回転させながら、転写する情報に応じて変調したビーム(例えば、電子ビーム)を照射して形成することが、一般に考えられる。
【0005】
しかしながら、これら記録媒体においては、小型化および高容量化が図られており、記録密度の増大などに対応してビット長またはトラック幅が狭くなると、真円状に上記パターンを描画することが動作信頼性を確保する上では重要である。
【特許文献1】特開2001−256644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような回転ステージを持つ露光装置において、その露光描画における真円度を高めるためには、回転テーブルの軸振れを測定する必要があり、その測定方法としては、一般的に、レーザ変位計、静電容量変位計等を用いて回転テーブルの側面位置の回転変位を測定することが考えられる。
【0007】
しかし、上記のような変位計による回転テーブルの軸振れの計測による回転同期振れRRO(Repeatable Run-Out)の測定では、回転テーブル上に載置された基板に実際に描画されたパターンの偏芯を計測していないため、例えば磁気転写用パターンに要求されるような精度の高い計測を行うことはできない。
【0008】
つまり、nmのオーダーで真円度が要求されるようなパターン描画における回転同期振れRROの測定技術は確立されていない。例えば、このようなnmオーダーでの計測にはSEM等を用いて偏芯量を拡大計測する必要があり、それに応じた計測方法が必要となる。特に、基板の通常露光領域は半径10mm以上であり、このような半径位置に描画された測定円の軌跡上でnmオーダーで変動を評価することはできなかった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みて、SEM等で拡大観察可能な測定円の描画を好適に行って回転同期振れRROの測定を高精度に行えるようにした露光装置における回転同期振れ測定方法およびそれに基づく描画補償方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の露光装置における回転同期振れ測定方法は、回転ステージに載置した基板に偏向制御したビームを照射して所定パターンの露光を行う露光装置において、
前記回転ステージを回転させつつ基板上の回転中心付近にビームを照射し、該基板上に全体がSEM等で拡大観察可能な小径の測定円を描画し、該測定円の計測より回転同期振れRROを測定することを特徴とするものである。
【0011】
前記測定円の半径が、0.1μm〜50μmであることが好適である。また、この測定円はコンタミを利用して描画するのが好ましい。
【0012】
また、本発明の露光装置における描画補償方法は、回転ステージに載置した基板に偏向制御したビームを照射して所定パターンの露光を行う露光装置において、
前記回転ステージを回転させつつ基板上の回転中心付近にビームを照射し、該基板上に全体がSEM等で拡大観察可能な小径の測定円を描画し、該測定円の計測より回転同期振れRROを測定し、該測定に基づいて求めたRRO補償信号を前記ビームの偏向制御に反映し、前記回転ステージの回転に同期して実描画を補償することを特徴とするものである。
【0013】
小径の測定円の描画は、ガラス板、シリコンウエハー等の基板そのものの表面に、または基板の表面に電子線レジスト等の露光に使用するビームに対応してレジスト層を設けた表面に、電子線等のビームで小円を描くように描画することにより、現像することなく直ちにコンタミによると思われる小径の測定円の像が形成される現象が生ずるので、この現象を利用することが有利である。すなわち、ビーム照射による熱などにより、基板のレジスト面またはシリコン基板表面のビーム照射部位に、例えば雰囲気中の炭素などの物質がコンタミとして付着し、そのためにレジストの現像処理等を行わなくてもSEM等で観察可能な測定円が描画形成されるものと思われる。その際、複数の測定円を描画する際には、内外円で電流値を一定とすればその半径に応じて露光時間を変更し、外周円では基板を複数回転させた露光によりコンタミ測定円を同様に描画してもよい。前記「ビーム」としては電子ビームまたはレーザービームが用いられる。
【0014】
上記「回転同期振れRROの測定」は、測定円をSEM(走査電子顕微鏡)などにより得られた画像に対し、二値化、直交座標変換などの画像処理を実施して偏芯量を数値化することである。
【0015】
なお、基板に対する描画ごとに回転同期振れRROが変化する場合には、各基板に実描画する毎に、その基板における回転同期振れRROを測定して、それに基づいてRRO補償を行いつつ実描画を正確な真円度に描画するものである。しかし、通常は、所定期間ごとに回転同期振れRRO測定を行い、偏芯成分を解析して、それに基づいてRRO補償信号を実描画信号に加算する補償処理を行えば、描画ごとの回転同期振れRRO測定は不要である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の回転同期振れ測定方法によれば、露光装置における回転ステージを回転させつつ基板上の回転中心付近にビームを照射し、全体がSEM等で拡大観察可能な小径の測定円を描画し、該測定円の計測より回転同期振れRROを測定するようにしたことにより、測定に適した小径測定円の描画が行え、回転ステージの側面等の間接的な回転振れ測定でなく、回転ステージ上の基板に実際に描画された測定円の回転同期振れRROをSEM等を用いて拡大計測することで高精度に測定することができ、磁気転写用パターン等で要求されるnmオーダーの回転振れ測定が可能となる。
【0017】
また、本発明の描画補償方法は、上記回転同期振れの測定に基づいて求めたRRO補償信号をビームの偏向制御に反映し、回転ステージの回転に同期して実描画を補償することにより、各種要因に基づいて発生する回転振れを補償して実描画を行うことができるので、同心円状に配置される微細パターンの真円度の高い描画が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明方法を実施する際に用いる一実施形態の露光装置の要部側面図(a)および上面図(b)である。図2は測定円の描画例を二値化処理画像で示す模式図、図3は直交座標変換後の計測画像を示す図、図4は回転同期振れ測定方法および描画補償方法の概略フローチャートである。
【0019】
この実施形態の露光装置における回転同期振れRROの測定方法および描画補償方法の概略は、図1に示す露光装置40を用い、その回転ステージ41を回転させつつ基板11上の回転中心付近にビームを照射し、該基板上に全体がSEM等で5万倍から10万倍に拡大して観察可能な、半径が0.1〜50μm、好ましくは1〜5μmである小径の測定円5を描画し、該測定円5の計測より回転同期振れRROを測定するものであり、その測定に基づいて求めたRRO補償信号をビームの偏向制御に反映し、回転ステージ41の回転に同期して実描画を補償するものである。
【0020】
図1に示す露光装置40は、ディスク基板11を支持する回転ステージ41および該ステージ41の中心軸42と一致するように設けられたモータ軸を有するスピンドルモータ44を備えた回転ステージユニット45と、回転ステージユニット45の一部を貫通し、回転ステージ41の一半径方向Yに延びるシャフト46と、回転ステージユニット45をシャフト46に沿って移動させるための直線移動手段49とを備えている。回転ステージユニット45の一部には、上記シャフト46と平行に配された、精密なネジきりが施されたロッド47が螺合され、このロッド47は、パルスモータ48によって正逆回転されるようになっており、このロッド47とパルスモータ48により回転ステージユニット45の直線移動手段49が構成される。また、回転ステージ41の回転に応じて基準クロック信号を発生する手段(不図示)を備える。
【0021】
さらに、露光装置40は、電子ビームEB(レーザビーム等でもよい)を出射する電子銃23、電子ビームEBをY方向(ディスク径方向)およびY方向に直交するX方向(周方向)へ偏向させる偏向手段21,22、電子ビームEBの照射をオン・オフするためのアパーチャ25およびブランキング26(偏向器)を備えており、電子銃23から出射された電子ビームEBは偏向手段21、22および図示しないレンズ等を経て、ディスク基板11上に照射される。なお、パターン描画時には、偏向手段21、22を制御して電子ビームEBを、ディスク基板11の周方向Xに一定の振幅で微小往復振動させる。
【0022】
上記アパーチャ25は、中心部に電子ビームEBが通過する透孔を備え、ブランキング26はオン・オフ信号の入力に伴って、オン信号時には電子ビームEBを偏向させることなくアパーチャ25の透孔を通過させて照射し、一方、オフ信号時には電子ビームEBを偏向させてアパーチャ25の透孔を通過させることなくアパーチャ25で遮断して、電子ビームEBの照射を行わないように作動する。そして、パターンを構成するエレメントを描画している際にはオン信号が入力されて電子ビームEBを照射し、エレメントの間の移動時にはオフ信号が入力されて電子ビームEBを遮断し、露光を行わないように制御される。
【0023】
上記スピンドルモータ44の駆動すなわち回転ステージ41の回転速度、パルスモータ48の駆動すなわち直線移動手段49による直線移動、電子ビームEBの変調、偏向手段21および22の制御、ブランキング26の制御等は制御手段であるコントローラ50から送出された描画データ信号によって基準クロック信号に基づいて行われる。
【0024】
同心円状のパターン描画のときには、回転ステージ41が1回転する毎に該回転ステージ41を所定距離移動させ、螺旋状のパターン描画のときには、回転ステージ41をほぼ連続的に直線移動させる。
【0025】
前記回転ステージ41に設置するディスク基板11は、例えばシリコン、ガラスあるいは石英からなり、その表面には予め電子ビーム描画用レジストが塗設されている。なお、後述のRRO測定時には、レジストが塗設されていないシリコンウエハーが使用可能である。
【0026】
そして、上記露光装置40による描画時には、ディスク基板11をA方向に回転させるとともに、Y方向およびX方向偏向手段21、22をそれぞれ三角波等の周期関数信号で互いに同期させて制御して電子ビームEBを所定の方向に一定の振幅で周期的に振動させることにより、結果として電子ビームEBを描画エレメントの周方向に複数回走査させて、その形状を描画し、これを繰り返すことによりパターンの描画を行う。なお、各エレメントの形状と電子ビーム描画用レジストの感度とを考慮しながら、電子ビームEBの出力およびビーム径を調整することが望ましい。
【0027】
前記偏向手段21,22の制御によって所望のパターンを描画するためには、前述のように電子ビームEBを走査させるものであるが、その電子ビームEBの走査制御を行うための描画データ信号を送出する。この送出信号は回転ステージ41の回転に応じて発生する基準クロック信号に基づいてタイミングおよび位相が制御される。
【0028】
次に、上記のような回転ステージ41を持つ露光装置40におけるRRO補償描画の処理工程を図4のフローチャートにより説明する。
【0029】
まず、ステップS1で、図1(b)に示すように、回転ステージ41上に載置した基板11の中心位置近傍に、回転ステージ41を回転させつつ電子ビームEBを所定時間照射して、小円による測定円5を、例えば図2に示すような同心円状の多重円に描画する。
【0030】
この描画は、好ましくはコンタミを利用して描画するものであり、現像処理によらずに測定円5の観察が行える。つまり、基板11のレジスト面またはシリコン基板表面のビーム照射部位に、ビーム照射した熱などにより例えば雰囲気中の炭素などの物質が付着するコンタミにより、SEM等で観察可能な測定円5が描画形成され、レジストの現像処理等を行わなくてもよい。また、その描画条件は現像処理する実描画より適性範囲が広く、中心部への小円描画であってもそれほど回転ステージ41の回転速度を高める必要はない。
【0031】
上記測定円5の半径は0.1〜50μmの範囲であり、描画された測定円5が、SEM(走査型電子顕微鏡)によりその全体が拡大表示可能であり、しかもその倍率はnmオーダーの測定が行える程度に必要である。なお、回転ステージ41の回転位相の原点が測定円5との関係で分かるように、ディスク基板11の一部に原点マーク(不図示)を付けておく。
【0032】
次のステップS2は、測定円5が描画されたディスク基板11を、SEMに原点位置を合わせてセットし、その観察により拡大画像を取得する。この画像は形状としては図2に示すようなものであるが、描画部分が明るく表示される。また、同心円状の測定円5は略相似形に描画される。次ステップS3では、その取得画像を画像処理によって、二値化し、図2に示すような画像を得る。なお、実際にはSEMによる拡大画像では、測定円5にはある程度の線幅があり、図2ではその中心形状のみ示した態様となっている。
【0033】
次ステップS4は、直行座標変換を行うものであり、SEM画像を二値化した図2の同心円状画像の画像処理を行い、その中心位置を求め、特定の半径位置を原点とし、その半径位置における中心位置より各測定円5の距離を求め、原点より半径を360度回転させる間の角度を横軸に、各測定円5の距離を縦軸にして直行座標変換したものが図3に示すように各位相における偏芯量変化を示すものとなる。
【0034】
次のステップS5は、偏芯成分分析を行うものであり、上記直交座標変換した偏芯量変化の計測に基づき、各測定円5での偏芯量の平均値を求め、位相と偏芯量との関係を数値化する。
【0035】
そして、ステップS7では、この偏芯成分の分析結果に基づき、真円からの偏芯量を補償して真円描画が行えるように、位相位置に対応した補償信号を加算し、ステップS8で実描画を行うものであり、補償信号加算によって実際の描画時におけるビーム偏向を補償制御する。
【0036】
さらに、上記ステップS5の偏芯成分分析の結果、所定の真円度が得られることを確認するため、および所定の補償信号が得られるように修正するために、ステップS6で、偏芯成分分析の結果のパラメタ調整用の補償信号を加算してからステップS1に戻り、補償結果の測定円5を描画し、それを上記と同様にステップS2〜S5で、SEM画像取得、画像二値化、直交座標変換して偏芯成分を分析し、パラメタ調整用補償信号加算後の描画における偏芯成分が所定範囲に収まっていることを確認するパラメタ微調整をステップS5で行い、その結果としてのステップS5での最適パラメタ補償信号の加算により実描画(S8)を行うようにして真円度精度を高めることが望ましい。
【0037】
なお、上記の説明においては、原点マークを付ける例で説明したが、必ずしも原点マークを付す必要はなく、描画された測定円に基づいて位置合わせを行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明方法を実施する際に用いる一実施形態の露光装置の要部側面図および上面図
【図2】測定円の描画例を二値化処理画像で示す模式図
【図3】直交座標変換後の計測画像を示す図
【図4】回転同期振れ測定方法および描画補償方法の概略フローチャート
【符号の説明】
【0039】
5 測定円
11 基板
21、22 偏向手段
23 電子銃
40 露光装置
41 回転ステージ
44 スピンドルモータ
45 回転ステージユニット
49 直線移動手段
50 コントローラ
EB 電子ビーム
X 周方向
Y ディスク半径方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ステージに載置した基板に偏向制御したビームを照射して所定パターンの露光を行う露光装置において、
前記回転ステージを回転させつつ基板上の回転中心付近にビームを照射し、該基板上に全体がSEM等で拡大観察可能な小径の測定円を描画し、該測定円の計測より回転同期振れRROを測定することを特徴とする露光装置における回転同期振れ測定方法。
【請求項2】
前記測定円の半径が、0.1μm〜50μmであることを特徴とする請求項1記載の回転同期振れ測定方法。
【請求項3】
前記測定円はコンタミを利用して描画したものであることを特徴とする請求項1または2記載の回転同期振れ測定方法。
【請求項4】
回転ステージに載置した基板に偏向制御したビームを照射して所定パターンの露光を行う露光装置において、
前記回転ステージを回転させつつ基板上の回転中心付近にビームを照射し、該基板上に全体がSEM等で拡大観察可能な小径の測定円を描画し、該測定円の計測より回転同期振れRROを測定し、該測定に基づいて求めたRRO補償信号を前記ビームの偏向制御に反映し、前記回転ステージの回転に同期して実描画を補償することを特徴とする露光装置における描画補償方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−30055(P2006−30055A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211410(P2004−211410)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】