説明

露光装置

【課題】ワークチャックの経路出口における熱媒体の温度が所定になるように冷却水の流量を制御し、ワークチャック各部の温度を均一にして、分割逐次露光においても高精度で基板を露光することができる露光装置を提供する。
【解決手段】蓄圧器80を接続したワークチャック20に設けられ、並列接続されて熱媒体Wを通過させる複数の熱媒体流路21,22,23と、これらの熱媒体流路の出口側にそれぞれ設けられ、熱媒体Wの出口温度Two1,Two2,Two3を測定する温度センサ31,32,33と、複数の熱媒体流路21,22,23にそれぞれ設けられ、これらの熱媒体流路を通過する熱媒体Wの流量Gw1,Gw2,Gw3を制御する流量調整機構41,42,43と、を備え、これらの温度センサにより測定される熱媒体Wの各々の出口温度に基づいて、流量調整機構が熱媒体Wの流量を制御し、ワークチャック20の温度を所定の温度に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置に関し、特に、液晶ディスプレイパネルやプラズマディスプレイ等の大型のフラットパネルディスプレイを製造する場合に用いられる露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置は、高圧水銀灯などの光源から出射された平行光を、マスクパターンが描かれたマスクを介してワークチャックに保持された被露光材としての基板に照射して露光する。しかし、光源からの熱により基板やワークチャックが伸縮するため、寸法精度やパターンのピッチ精度が損なわれることがある。この問題に対処するため、ワークチャック内に熱媒体である冷却水を通過させて基板の温度上昇を抑制し、これにより寸法精度やパターンのピッチ精度の向上が図られている。
【0003】
しかし、近年の基板サイズの大型化に伴ってワークチャックの面積も大きくなっているため、ワークチャック面内の温度に大きなバラツキが生じる可能性があり、高精度の露光を実現する上で問題となっている。そして、従来では、このワークチャック面内での温度のバラツキを抑制するため、冷却水の経路を多系統化して1系統当たりの経路長さを短くして、各経路の注入部と出口の温度差を少なくして温度分布ムラの低減を図る、或いは、経路の注入部側と出口側とを常に隣接させて配置し、注入部側の低温と出口側の高温とを相殺させて温度を平均化するようにした露光方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−98618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の露光方法では、例えば、図9に示すように、ワークチャック100の破線で区画された4つの領域101,102,103,104に4系統の冷却水経路111,112,113,114を設ける場合、ワークチャック100の各領域101,102,103,104における熱バランスモデルは、熱量をQn、冷却水の流量をGwn、入口における冷却水の温度をTwin、出口における冷却水の温度をTwon、比例定数をCpとすると、下記の式(数1)のようになる。なお、サフィックス“n”は、各領域の番号を示す。
【0006】
【数1】

【0007】
出口における冷却水の温度Twonは、上記の式(数1)を変形することにより下記の式(数2)のように表される。
【0008】
【数2】

【0009】
このようなワークチャック100に保持された基板を一括露光する場合は、ワークチャック100の全面に露光光が均一に照射される、即ち、各領域101,102,103,104が均一に加熱されるので、Q1=Q2=Q3=Q4=Qとなり、出口における冷却水の温度をTwonは、下記の式(数3)のように表される。即ち、冷却水の入口温度Twin、流量Qnが同一であれば(装置の簡素化が可能であるので通常、同一となっている)、冷却水の出口温度Twonは各領域101,102,103,104で同じとなるのでワークチャック面内での温度のバラツキは少なく、寸法精度やパターンのピッチ精度に与える影響は殆どない。
【0010】
【数3】

【0011】
一方、基板の大型化に伴って近年主流となりつつある、ワークチャック100に保持された基板を分割逐次露光する場合は、領域1を露光する場合には、Q1=QW1、Q2=Q3=Q4=0であるので、冷却水の出口温度Twonは下記の式(数4)で表されるように領域101と、領域102,103,104とで異なりワークチャック100の温度分布が崩れる。
【0012】
【数4】

【0013】
同様に、領域2を露光する場合には、Q2=QW2、Q1=Q3=Q4=0であるので、冷却水の出口温度Twonは下記の式(数5)で表されるように領域102と、領域101,103,104とで異なりワークチャック100の温度分布が崩れる。
【0014】
【数5】

【0015】
また、領域3を露光する場合には、Q3=QW3、Q1=Q2=Q4=0であるので、冷却水の出口温度Twonは下記の式(数6)で表されるように領域103と、領域101、102、104とで異なりワークチャック100の温度分布が崩れる。
【0016】
【数6】

【0017】
さらに、領域4を露光する場合には、Q4=QW4、Q1=Q2=Q3=0であるので、冷却水の出口温度Twonは下記の式(数7)で表されるように領域104と、領域101、102、103とで異なりワークチャック100の温度分布が崩れる。
【0018】
【数7】

【0019】
このように、分割逐次露光においては、ワークチャック100に温度分布のバラツキが発生してワークチャック100の熱変形に伴って基板が伸縮し、寸法精度やパターンのピッチ精度が低下する可能性があった。また、1枚目、2枚目、3枚目、4枚目と露光位置を切り替える際、ワークチャック100に非定常な輻射熱の流入があるので、温度分布がさらに複雑となって寸法精度に悪影響を与える可能性があった。
【0020】
また、冷却水経路111,112,113,114を流れる冷却水の流量Gwnは、図10に示すように、ポンプ特性カーブPQと各冷却水経路111,112,113,114の圧力損失カーブRCn(RC1,RC2,RC3,RC4)との交点P1,P2,P3,P4から決まる。圧力損失カーブRCnは、配管構成や、配管内の錆び発生や、スケール付着などの経時変化などにより経路ごとに異なる可能性がある。このように冷却水経路111,112,113,114ごとに流量Gwnが異なると、ワークチャック100に温度分布のバラツキが発生して寸法精度やパターンのピッチ精度が低下する可能性があった。
【0021】
さらに、何らかの原因により冷却水経路111,112,113,114の一部が閉鎖されると、冷却水が残りの冷却水経路に集中することとなり、冷却水経路内の流速が上昇してしまう。これに伴い、流体の流れに起因する振動が増加して、装置の露光精度が悪化する可能性があった。
【0022】
本発明は、このような不都合を解消するためになされたものであり、その目的は、ワークチャックの経路出口における冷却水(熱媒体)の温度が所定の温度になるように冷却水の流量を制御し、ワークチャック各部の温度を均一にして、分割逐次露光においても高い寸法精度で基板を露光することができる露光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) ワークチャックに保持される被露光材としての基板にマスクパターンを分割逐次露光する露光装置であって、熱媒体の圧力を一定にする蓄圧器を接続したワークチャックに設けられ、互いに並列接続されて熱媒体を通過させる複数の熱媒体流路と、複数の熱媒体流路の出口側にそれぞれ設けられ、熱媒体の出口温度を測定する温度センサと、複数の熱媒体流路にそれぞれ設けられ、熱媒体流路を通過する熱媒体の流量を制御する流量調整機構と、を備え、温度センサにより測定される熱媒体の出口温度に基づいて、流量調整機構が熱媒体の流量を制御し、ワークチャックの温度を所定の温度に調整することを特徴とする露光装置。
(2) 流量調整機構は、熱媒体流路に対して直列に接続されることを特徴とする(1)に記載の露光装置。
(3) 流量調整機構は、熱媒体流路に対して並列に接続されることを特徴とする(1)に記載の露光装置。
(4) 熱媒体流路は、それぞれの熱媒体流路を流れる熱媒体の流量を測定する流量センサを更に備え、流量センサの測定値が所定の流量を超えたとき、又は所定の流量未満となったとき、異常と判断して警告を発し、又は装置を停止させることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の露光装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明の露光装置によれば、ワークチャックに熱媒体を通過させる複数の熱媒体流路を互いに並列接続させて設けると共に、熱媒体がワークチャックを通過する前に、供給ポンプから供給される熱媒体の圧力を一定にする蓄圧器と、各熱媒体流路に熱媒体の出口温度を測定する温度センサと、各熱媒体流路を通過する熱媒体の流量を制御する流量調整機構と、をそれぞれ設け、温度センサにより測定される熱媒体の出口温度に基づいて、流量調整機構が熱媒体の出口温度が同じになるように熱媒体の流量を制御するため、ワークチャックの温度分布が所定の温度で均一に制御されるので、ワークチャック及び基板の熱による伸縮を均一化することができる。これにより、一括露光は勿論のこと、分割逐次露光においても高い寸法精度で基板を露光することができる。
【0025】
また、本発明の露光装置によれば、各熱媒体流路は、それぞれ流量調整機構を備えて熱媒体流路ごとに熱媒体の流量を調整するため、従来の熱媒体流路のように設計時に厳密に配管バランスを考慮して各熱媒体流路の流量が同一になるように配慮する必要がなく、配管レイアウトの制約が少なくなって設計の自由度を大幅に向上することができる。これにより、配管部材のコスト低減が可能となって露光装置の製造コストを削減することができる。
【0026】
また、本発明の露光装置によれば、流量調整機構が熱媒体流路に対して直列に接続されるため、各熱媒体流路を流れる熱媒体の流量を独立して精度よく調整することができ、ワークチャックの温度分布が均一となるように制御することができる。これにより、露光精度に与える熱の影響を抑制して高精度の露光を行うことができる。
【0027】
また、本発明の露光装置によれば、流量調整機構が熱媒体流路に対して並列に接続されるため各熱媒体流路を流れる熱媒体の流量を独立して精度よく調整することができ、ワークチャックの温度分布が均一となるように制御することができる。これにより、露光精度に与える熱の影響を抑制して高精度の露光を行うことができる。
【0028】
さらに、本発明の露光装置によれば、熱媒体流路は、それぞれの熱媒体流路を流れる熱媒体の流量を測定する流量センサを更に備え、流量センサの測定値が所定の流量を超えたとき、又は所定の流量未満となったとき、異常と判断して警告を発し、又は装置を停止させるため、ワークチャックの温度分布のバラツキに起因する不良製品の発生を防止して製造ロスをなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る露光装置の第1実施形態を説明するための概略構成図である。
【図2】図1に示すワークチャックに配置される3系統の熱媒体流路の配置図である。
【図3】第1実施形態の熱媒体の出口温度に基づいて流量を調整する手順を示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態の熱媒体の流量超過異常の場合の制御手順を示すフローチャートである。
【図5】熱媒体の流量低下異常の場合の制御手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明に係る露光装置の第2実施形態を説明するための概略構成図である。
【図7】第2実施形態の熱媒体の出口温度に基づいて流量を調整する手順を示すフローチャートである。
【図8】第2実施形態の熱媒体の流量超過異常の場合の制御手順を示すフローチャートである。
【図9】従来の露光装置のワークチャックを説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る露光装置の各実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
まず、図1〜図5を参照して、本発明に係る露光装置の第1実施形態について説明する。
図1は本発明に係る露光装置の第1実施形態を説明するための概略構成図、図2は図1に示すワークチャックに配置される3系統の熱媒体流路の配置図、図3は第1実施形態の熱媒体の出口温度に基づいて流量を調整する手順を示すフローチャート、図4は第1実施形態の熱媒体の流量超過異常の場合の制御手順を示すフローチャート、図5は熱媒体の流量低下異常の場合の制御手順を示すフローチャートである。
【0032】
本実施形態の露光装置11は、被露光材としての基板(不図示)にマスクパターンを分割逐次露光するものであって、図1に示すように、基板を保持するワークチャック20と、ワークチャック20に配設され、互いに並列接続される3系統の熱媒体流路21,22,23と、熱媒体流路21,22,23にそれぞれ配設される温度センサ31,32,33、流量調整機構41,42,43、及び流量センサ51,52,53と、熱媒体流路21,22,23の上流側を1本に統合して蓄圧器80に接続し、供給ポンプ60を介して、冷却水Wが貯留される冷却水タンク61に接続される供給パイプ62と、熱媒体流路21,22,23の出口側(下流側)を1本に統合し、冷却水タンク61に接続される返送パイプ63と、を備える。
【0033】
また、熱媒体流路21,22,23は、図2に示すように、仮想線で区画されたワークチャック20の3つの領域20A,20B,20Cに互いに独立して配置されており、熱媒体流路21,22,23の一端から熱媒体である冷却水Wが供給され、他端から流出するように構成される。また、熱媒体流路21,22,23は、各領域20A,20B,20Cの全体に亘って配置されており、各領域20A,20B,20Cの温度が均一になるように構成されている。
【0034】
温度センサ31,32,33は、各熱媒体流路21,22,23の下流側にそれぞれ直列に接続されており、サーミスタなどで構成され、各熱媒体流路21,22,23を流れる冷却水Wの出口温度Twon(Two1,Two2,Two3)を測定する。
【0035】
流量調整機構41,42,43は、各熱媒体流路21,22,23の下流側にそれぞれ直列に接続されており、内蔵する不図示の弁機構を開閉して各熱媒体流路21,22,23を流れる冷却水Wの流量Gwn(Gw1,Gw2,Gw3)を調整する。
【0036】
流量センサ51,52,53は、各熱媒体流路21,22,23の上流側にそれぞれ直列に接続されており、各熱媒体流路21,22,23を流れる冷却水Wの流量Gwn(Gw1,Gw2,Gw3)を測定する。
【0037】
さらに、温度センサ31,32,33、流量調整機構41,42,43、及び流量センサ51,52,53は、図示しない制御装置に電気的に接続されており、温度センサ31,32,33、及び流量センサ51,52,53による測定結果が制御装置に入力されると共に、流量調整機構41,42,43への作動指令が出力される。即ち、制御装置は、温度センサ31,32,33によって測定された冷却水Wの出口温度Twonに基づいて流量調整機構41,42,43を作動させて冷却水Wの流量Gwnを適宜調整する。また、流量センサ51,52,53によって測定された冷却水Wの流量により露光装置11の異常の有無を判断して露光装置11を制御する。
【0038】
このように構成された露光装置11では、冷却水タンク61に貯留されている冷却水Wは、供給ポンプ60によって吸上げられ、供給パイプ62を介して、蓄圧器80によって冷却水Wの圧力を一定にし、熱媒体流路21,22,23に分岐して流入する。そして、各熱媒体流路21,22,23の冷却水Wの流量Gwnが流量センサ51,52,53により測定され、ワークチャック20内を通過した後、各熱媒体流路21,22,23の冷却水Wの出口温度Twonが温度センサ31,32,33によって測定されて、流量調整機構41,42,43によって流量Gwnが調整された冷却水Wは、1本の返送パイプ63に統合されて冷却水タンク61に返送される。
【0039】
次に、本実施形態の露光装置11の制御手順について図3〜図5に従って説明する。
冷却水Wの出口温度の制御は、図3に示すように、まず、冷却水Wの出口温度Twonの水温上限値Tmax及び水温下限値Tminを設定し(S1−1)、露光装置11の運転開始から所定時間経過後(S1−2)、温度センサ31,32,33により測定された各熱媒体流路21,22,23の冷却水Wの出口温度Two1,Two2,Two3と水温上限値Tmaxとを比較する(S1−3)。
【0040】
そして、いずれかの出口温度Two1,Two2,Two3が水温上限値Tmaxを越えている場合には、対応する熱媒体流路21,22,23の流量調整機構41,42,43を作動させて弁開度を開き、対応する熱媒体流路21,22,23の冷却水Wの流量を増加させてワークチャック20の対応部分の冷却力を増大させる(S1−4)。そして、露光装置11が停止しているか否かをチェックする(S1−7)。
【0041】
また、上記(S1−3)において、出口温度Two1,Two2,Two3が水温上限値Tmaxを越えていない場合には、出口温度Two1、Two2、Two3と水温下限値Tminとを比較する(S1−5)。そして、いずれかの出口温度Two1,Two2,Two3が水温下限値Tmin未満となっている場合には、対応する熱媒体流路21,22,23の流量調整機構41,42,43を作動させて弁開度を閉じ、対応する熱媒体流路21,22,23の冷却水Wの流量を減少させてワークチャック20の対応部分の冷却力を抑制させる(S1−6)。そして、露光装置11が停止しているか否かをチェックする(S1−7)。
【0042】
また、出口温度Two1,Two2,Two3が水温上限値Tmaxを越えておらず、且つ水温下限値Tmin未満にもなっていない場合((S1−5)でNoの場合)には、出口温度Two1,Two2,Two3が適正な温度範囲内にあるので、流量調整機構41,42,43を作動させることなく露光装置11が停止しているか否かをチェックする(S1−7)。露光装置11が停止していればメインルーチンにリターンし、運転中であれば(S1−2)の前に戻って再び所定時間経過後に同様の制御を行う。
【0043】
上記したように、出口温度Two1,Two2,Two3は、熱媒体流路21,22,23ごとに水温上限値Tmax及び水温下限値Tminで比較され、所定の範囲から外れた熱媒体流路21,22,23の流量調整機構41,42,43を個別に作動させて冷却水Wの流量を調整させる。即ち、水温上限値Tmaxを超えると冷却水Wの流量が増加され、水温下限値Tmin未満であると冷却水Wの流量が減少される。これにより、ワークチャック20の高温部分の冷却力は増大され、低温部分の冷却力は抑制されて、ワークチャック20の全面が所定の温度範囲内となるように制御される。この結果、ワークチャック20の温度分布に起因する基板の露光精度の低下が防止される。
【0044】
次に、図4を参照にして、熱媒体流路21,22,23の冷却水Wの流量が異常に増加して冷却水Wの流速が速くなるような場合の異常検知について説明する。
まず、冷却水Wの流量Gwnの流量上限値Gmaxを設定し(S2−1)、露光装置11の運転開始から所定時間経過後(S2−2)、流量センサ51,52,53により測定された各熱媒体流路21,22,23の流量Gw1,Gw2,Gw3と流量上限値Gmaxとを比較する(S2−3)。そして、いずれかの流量Gw1,Gw2,Gw3が流量上限値Gmaxを超えている場合には、対応する熱媒体流路21,22,23の流量調整機構41,42,43を作動させて弁開度を閉じ、対応する熱媒体流路21,22,23の冷却水Wの流量を減少させる(S2−4)。そして、露光装置11が停止しているか否かをチェックする(S2−5)。
【0045】
また、上記(S2−3)において、流量Gw1,Gw2,Gw3が流量上限値Gmaxを超えていない場合には、(S2−2)の前に戻って再び所定時間経過後に同様の制御を行う。また、露光装置11が停止していればメインルーチンにリターンし、運転中であれば(S2−2)の前に戻って再び所定時間経過後に同様の制御を行う。この結果、冷却水Wの流速が想定以上になることにより生じる振動が防止されて、露光精度の低下が防止される。
【0046】
次に、図5を参照して、熱媒体流路21,22,23の詰まりや、流量調整機構41,42,43の故障などにより冷却水Wの流量が過度に減少するような場合の異常検知について説明する。
まず、冷却水Wの流量Gwnの流量下限値Gminを設定し(S3−1)、露光装置11の運転開始から所定時間経過後(S3−2)、流量センサ51,52,53により測定された各熱媒体流路21、22、23の流量Gw1,Gw2,Gw3と流量下限値Gminとを比較する(S3−3)。そして、いずれかの流量Gw1,Gw2,Gw3が流量下限値Gmin未満である場合には、装置異常が発生したものと判断して露光装置11の動作を停止させる(S3−4)。そして、露光装置11の停止をチェックする(S3−5)。
【0047】
また、上記(S3−3)において、流量Gw1,Gw2,Gw3が流量下限値Gmin未満でない場合には、(S3−2)の前に戻って再び所定時間経過後に同様の制御を行う。また、露光装置11が停止していればメインルーチンにリターンし、露光装置11が停止していない場合には、(S3−2)の前に戻って再び所定時間経過後に同様の制御を行う。この結果、冷却水Wの流量が過度に減少することにより生じるワークチャック20の過熱が防止されて、露光精度の低下が防止される。なお、上記(S3−4)において、装置停止に代えて警告を発するようにしてもよい。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の露光装置11によれば、蓄圧器80に接続したワークチャック20に冷却水Wを通過させる複数の熱媒体流路21,22,23を互いに並列接続させて設けると共に、各熱媒体流路21,22,23に冷却水Wの出口温度Two1,Two2,Two3を測定する温度センサ31,32,33と、各熱媒体流路21,22,23を通過する冷却水Wの流量Gw1,Gw2,Gw3を制御する流量調整機構41,42,43と、をそれぞれ設け、温度センサ31,32,33により測定される冷却水Wの出口温度Two1,Two2,Two3に基づいて、流量調整機構41,42,43が、冷却水Wの出口温度Two1,Two2,Two3が同じになるように、冷却水Wの流量Gw1,Gw2,Gw3を制御するため、ワークチャック20の温度分布が所定の温度で均一に制御されるので、ワークチャック20及び基板の熱による伸縮を均一化することができる。これにより、一括露光は勿論のこと、分割逐次露光においても高い寸法精度で基板を露光することができる。
【0049】
また、本実施形態の露光装置11によれば、各熱媒体流路21,22,23は、それぞれ流量調整機構41,42,43を備えて熱媒体流路21,22,23ごとに冷却水Wの流量Gw1,Gw2,Gw3を調整するため、従来の熱媒体流路のように設計時に厳密に配管バランスを考慮して各熱媒体流路の流量が同一になるように配慮する必要がなく、配管レイアウトの制約が少なくなって設計の自由度を大幅に向上することができる。これにより、配管部材のコスト低減が可能となって露光装置11の製造コストを削減することができる。
【0050】
さらに、本実施形態の露光装置11によれば、熱媒体流路21,22,23は、それぞれの熱媒体流路21,22,23を流れる冷却水Wの流量Gw1,Gw2,Gw3を測定する流量センサ51,52,53を更に備え、流量センサ51,52,53の測定値が所定の流量Gmaxを超えたとき、又は所定の流量Gmin未満となったとき、異常と判断して警告を発し、又は装置10を停止させるため、ワークチャック20の温度分布のバラツキに起因する不良製品の発生を防止して製造ロスをなくすことができる。
【0051】
(第2実施形態)
次に、図6〜図8を参照して、本発明に係る露光装置の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
図6は本発明に係る露光装置の第2実施形態を説明するための概略構成図、図7は第2実施形態の熱媒体の出口温度に基づいて流量を調整する手順を示すフローチャート、図8は第2実施形態の熱媒体の流量超過異常の場合の制御手順を示すフローチャートである。
【0052】
本実施形態の露光装置12は、図6に示すように、基板を保持するワークチャック20と、ワークチャック20に配設され、互いに並列接続される3系統の熱媒体流路21,22,23と、各熱媒体流路21,22,23に並列接続されるバイパス流路71,72,73と、バイパス流路71,72,73にそれぞれ配設される流量調整機構41,42,43と、熱媒体流路21,22,23にそれぞれ配設される温度センサ31,32,33及び流量センサ51,52,53と、熱媒体流路21,22,23の上流側を1本に統合して蓄圧器80に接続し、供給ポンプ60を介して冷却水Wが貯留される冷却水タンク61に接続される供給パイプ62と、熱媒体流路21,22,23の出口側(下流側)を1本に統合し、冷却水タンク61に接続される返送パイプ63と、を備える。
【0053】
次に、本実施形態の露光装置12の制御手順について図7及び図8に従って説明する。
冷却水Wの出口温度の制御は、図7に示すように、まず、冷却水Wの出口温度Twonの水温上限値Tmax及び水温下限値Tminを設定し(S4−1)、露光装置12の運転開始から所定時間経過後(S4−2)、温度センサ31,32,33により測定された各熱媒体流路21,22,23の冷却水Wの出口温度Two1,Two2,Two3と水温上限値Tmaxとを比較する(S4−3)。
【0054】
そして、いずれかの出口温度Two1,Two2,Two3が水温上限値Tmaxを越えている場合には、対応する熱媒体流路21,22,23に接続されるバイパス流路71,72,73の流量調整機構41,42,43を作動させて弁開度を閉じ、対応する熱媒体流路21,22,23の冷却水Wの流量を増加させてワークチャック20の対応部分の冷却力を増大させる(S4−4)。そして、露光装置12が停止しているか否かをチェックする(S4−7)。
【0055】
また、上記(S4−3)において、出口温度Two1,Two2,Two3が水温上限値Tmaxを越えていない場合には、出口温度Two1、Two2、Two3と水温下限値Tminとを比較する(S4−5)。そして、いずれかの出口温度Two1,Two2,Two3が水温下限値Tmin未満となっている場合には、対応する熱媒体流路21,22,23に接続されるバイパス流路71,72,73の流量調整機構41,42,43を作動させて弁開度を開き、対応する熱媒体流路21,22,23の冷却水Wの流量を減少させてワークチャック20の対応部分の冷却力を抑制させる(S4−6)。そして、露光装置12が停止しているか否かをチェックする(S4−7)。
【0056】
また、出口温度Two1,Two2,Two3が水温上限値Tmaxを越えておらず、且つ水温下限値Tmin未満にもなっていない場合((S4−5)でNoの場合)には、出口温度Two1,Two2,Two3が適正な温度範囲内にあるので、流量調整機構41,42,43を作動させることなく露光装置12が停止しているか否かをチェックする(S4−7)。露光装置12が停止していればメインルーチンにリターンし、運転中であれば(S4−2)の前に戻って再び所定時間経過後に同様の制御を行う。
【0057】
上記したように、出口温度Two1,Two2,Two3は、熱媒体流路21,22,23ごとに水温上限値Tmax及び水温下限値Tminで比較され、所定の範囲から外れた熱媒体流路21,22,23に接続されるバイパス流路71,72,73の流量調整機構41,42,43を個別に作動させて冷却水Wの流量を調整させる。即ち、水温上限値Tmaxを超えると冷却水Wの流量が増加され、水温下限値Tmin未満であると冷却水Wの流量が減少される。これにより、ワークチャック20の高温部分の冷却力は増大され、低温部分の冷却力は抑制されて、ワークチャック20の全面が所定の温度範囲内となるように制御される。この結果、ワークチャック20の温度分布に起因する基板の露光精度の低下が防止される。
【0058】
次に、図8を参照にして、熱媒体流路21,22,23の冷却水Wの流量が異常に増加して冷却水Wの流速が速くなるような場合の異常検知について説明する。
まず、冷却水Wの流量Gwnの流量上限値Gmaxを設定し(S5−1)、露光装置12の運転開始から所定時間経過後(S5−2)、流量センサ51,52,53により測定された各熱媒体流路21,22,23の流量Gw1,Gw2,Gw3と流量上限値Gmaxとを比較する(S5−3)。そして、いずれかの流量Gw1,Gw2,Gw3が流量上限値Gmaxを超えている場合には、対応する熱媒体流路21,22,23に接続されるバイパス流路71,72,73の流量調整機構41,42,43を作動させて弁開度を開き、対応する熱媒体流路21,22,23の冷却水Wの流量を減少させる(S5−4)。そして、露光装置12が停止しているか否かをチェックする(S5−5)。
【0059】
また、上記(S5−3)において、流量Gw1,Gw2,Gw3が流量上限値Gmaxを超えていない場合には、(S5−2)の前に戻って再び所定時間経過後に同様の制御を行う。また、露光装置12が停止していればメインルーチンにリターンし、運転中であれば(S5−2)の前に戻って再び所定時間経過後に同様の制御を行う。この結果、冷却水Wの流速が想定以上になることにより生じる振動が防止されて、露光精度の低下が防止される。
【0060】
なお、熱媒体流路21,22,23の冷却水Wの流量が過度に減少するような場合の異常検知については、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0061】
以上説明したように、本実施形態の露光装置12によれば、蓄圧器80に接続したワークチャック20に冷却水Wを通過させる複数の熱媒体流路21,22,23を互いに並列接続させて設け、各熱媒体流路21,22,23にバイパス流路71,72,73を並列接続させると共に、各熱媒体流路21,22,23に冷却水Wの出口温度Two1,Two2,Two3を測定する温度センサ31,32,33をそれぞれ設け、各バイパス流路71,72,73に熱媒体流路21,22,23を通過する冷却水Wの流量Gw1,Gw2,Gw3を制御する流量調整機構41,42,43をそれぞれ設け、温度センサ31,32,33により測定される冷却水Wの出口温度Two1,Two2,Two3に基づいて、流量調整機構41,42,43が、冷却水Wの出口温度Two1,Two2,Two3が同じになるように、冷却水Wの流量Gw1,Gw2,Gw3を制御するため、ワークチャック20の温度分布が所定の温度で均一に制御されるので、ワークチャック20及び基板の熱による伸縮を均一化することができる。これにより、一括露光は勿論のこと、分割逐次露光においても高い寸法精度で基板を露光することができる。
その他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と同様である。
【0062】
なお、本発明は、上記各実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、上記各実施形態では、ワークチャックに3系統の熱媒体流路を設けた場合を例示したが、熱媒体流路は3系統に限定されるものではなく、ワークチャックの大きさなどに応じて任意の系統数の熱媒体流路を設けることができる。
また、上記各実施形態では、熱媒体には冷却水を使用しているが、熱媒体流路及びバイパス流路を通過することができる流体であればその種類に制限はない。
【符号の説明】
【0063】
11,12 露光装置
20 ワークチャック
21,22,23 熱媒体流路
31,32,33 温度センサ
41,42,43 流量調整機構
51,52,53 流量センサ
60 供給ポンプ
61 冷却水タンク
62 供給パイプ
63 返送パイプ
71,72,73 バイパス流路
80 蓄圧器
W 冷却水(熱媒体)
Gwn(Gw1、Gw2、Gw3) 熱媒体の流量
Twon(Two1、Two2、Two3) 熱媒体の出口温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークチャックに保持される被露光材としての基板にマスクパターンを分割逐次露光する露光装置であって、
熱媒体の圧力を一定にする蓄圧器を接続した前記ワークチャックに設けられ、
互いに並列接続されて熱媒体を通過させる複数の熱媒体流路と、
複数の前記熱媒体流路の出口側にそれぞれ設けられ、前記熱媒体の出口温度を測定する温度センサと、
複数の前記熱媒体流路にそれぞれ設けられ、前記熱媒体流路を通過する前記熱媒体の流量を制御する流量調整機構と、を備え、
前記温度センサにより測定される前記熱媒体の出口温度に基づいて、前記流量調整機構が前記熱媒体の流量を制御し、前記ワークチャックの温度を所定の温度に調整することを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記流量調整機構は、前記熱媒体流路に対して直列に接続されることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記流量調整機構は、前記熱媒体流路に対して並列に接続されることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項4】
前記熱媒体流路は、それぞれの前記熱媒体流路を流れる前記熱媒体の流量を測定する流量センサを更に備え、
前記流量センサの測定値が所定の流量を超えたとき、又は所定の流量未満となったとき、異常と判断して警告を発し、又は装置を停止させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−73453(P2012−73453A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218413(P2010−218413)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(311011449)NSKテクノロジー株式会社 (51)
【Fターム(参考)】