説明

青果物の粘性測定方法、およびその装置

【課題】青果物に振動を与えた場合の固有角振動数が、強制振動の場合と自由振動の場合で変化し、その変化の程度は当該青果物の内部の特定領域の粘性に影響を受けているという知見に基づき、被破壊で青果物の内部の粘性特性を測定すること。
【解決手段】本発明にかかる粘性測定方法は、評価対象の青果物に振動を付与して、当該青果物の強制振動を検出する第1の工程と、評価対象の青果物に自由な振動を付与して、当該青果物の自由振動を検出する第2の工程と、第1の工程で検出した強制振動と、第2の工程で検出した自由振動の両者をフーリエ解析して得られる同じ振動モードの共鳴周波数の差に基づいて当該青果物の粘性特性を得る第3の工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青果物の内部の粘性を非破壊的に測定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、青果物の内部品質を評価する方法としては、対象青果物を手などで叩き、その音を耳で聴いて、経験に基づいて評価することが行なわれていた。
例えば、青果物としてのスイカの場合、内部に鬆や割れが発生していないか否か等の内部品質を評価するとき、前記スイカを手で叩き、ボコボコというような音の場合には、内部に鬆や割れが発生していると評価することが行なわれていた。
しかし、このような評価方法は、評価を行なう人の経験に負うところが多く、その評価基準は言葉で表現するものであり、主観的で曖昧であるので客観的なものではない。従って、そのような特定の人の経験に基づく評価基準を、一般的な評価基準として普及させることが困難であり、適正な評価技術を持った後継者を育成することが困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、客観的な評価方法を提供することを目的として種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1(特開2004-69506)には、スイカを叩き、その振動の減衰時間から内部品質を評価しようとするものであるが、これは、単に減衰振動の減衰時間に基づいてスイカ内部を評価しているものであり、測定精度は良くなく、また、スイカ内部の鬆や割れの有無や程度を直接評価するものではない。
また、特許文献2(特開平10-19813)には、スイカ内部の品質を核磁気共鳴法によって評価しようとしたものであるが、そのための装置が大型になり、装置の価格が高価であるので、広く普及させることは困難である。
また、本発明者は、特許文献3(特許第3062071号)において、レーザドップラー装置を用いることにより、果実などの内部の弾性率を、第2共鳴周波数の値により評価する技術を提案した。
【0004】
【特許文献1】特開2004-69506
【特許文献2】特開平10-19813
【特許文献3】特許第3062071号
【0005】
本発明は、青果物に振動を与えた場合の固有角振動数が、強制振動の場合と自由振動の場合で変化し、その変化の程度は当該青果物の内部の特定領域の粘性に影響を受けているという知見に基づき、非破壊で青果物の内部の粘性特性を把握する技術を提案することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる請求項1の粘性測定方法においては、
評価対象の青果物に振動を付与して、当該青果物の強制振動を検出する第1の工程と、
評価対象の青果物に自由な振動を付与して、当該青果物の自由振動を検出する第2の工程と、
第1の工程で検出した強制振動と、第2の工程で検出した自由振動の両者をフーリエ解析して得られる同じ振動モードの共鳴周波数の差に基づいて当該青果物の粘性特性を得る第3の工程と
を含んでいる。
請求項2の発明は、
前記第1の工程では、
当該青果物に打撃を与えること、
当該青果物にパルス衝撃音を与えること、
当該青果物に少なくとも10Hzから2,000Hzまでスイープする低周波振動を含んだ振動を与えること、
もしくは、
当該青果物に少なくとも少なくとも10Hzから2,000Hzまでの低周波振動を含んだホワイトノイズ信号に基づいた振動を与えること、
のうちの少なくとも何れかひとつによって、当該青果物に振動を付与する。
請求項3の発明は、
前記第1の工程では、
レーザ光や電波による非接触式振動検出方法、もしくは
加速度ピックアップや圧電素子による接触式振動検出方法のいずれか1つの振動検出方法を用いて、当該青果物の強制振動を検出する。
請求項4の発明は、
前記第2の工程では、
当該青果物に打撃、もしくは、パルス衝撃音を与えることによって、当該青果物に振動を付与して当該青果物を自由振動させる。
請求項5の発明は、
前記第2の工程では、
レーザ光や電波による非接触式振動検出方法、もしくは
加速度ピックアップや圧電素子による接触式振動検出方法のいずれか1つの振動検出方法を用いて、当該青果物の自由振動を検出する。
請求項6の発明は、
前記第3の工程では、
前記第1の工程で検出された強制振動と、前記第2の工程で検出された自由振動の固有角振動数をそれぞれω0、ω、
当該青果物の密度をρ、
前記強制振動と自由振動の横波速度をCT
としたとき、
次の計算式:
η=2ρCT2{(ω02−ω21/2/ω02
を用いて、当該青果物の粘性特性ηを得る。
【0007】
本発明にかかる請求項7の粘性測定装置においては、
評価対象の青果物に振動を付与する強制振動付与手段と、
前記強制振動付与手段で振動を付与したときに、当該青果物の強制振動を検出する強制振動検出手段と、
評価対象の青果物に自由な振動を付与する自由振動付与手段と、
前記自由振動付与手段で振動を付与したときに、当該青果物の自由振動を検出する自由振動検出手段と、
前記検出した強制振動と自由振動の両者をフーリエ解析して得られる同じ振動モードの共鳴周波数の差に基づいて当該青果物の粘性特性を得る振動解析手段と
を含んでいる。
請求項8の発明では、
前記強制振動付与手段は、
当該青果物に打撃を与えること、
当該青果物にパルス衝撃音を与えること、
当該青果物に少なくとも10Hzから2,000Hzまでスイープする低周波振動を含んだ振動を与えること、
もしくは、
当該青果物に少なくとも少なくとも10Hzから2,000Hzまでの低周波振動を含んだホワイトノイズ信号に基づいた振動を与えること、
のうちの少なくとも何れかひとつによって、当該青果物に振動を付与する。
請求項9の発明では、
前記強制振動検出手段は、
レーザ光や電波による非接触式振動検出装置、もしくは
加速度ピックアップや圧電素子による接触式振動検出装置のいずれか1つの振動検出装置を用いて、当該青果物の強制振動を検出する。
請求項10の発明では、
前記自由振動付与手段は、
当該青果物に打撃、もしくは、パルス衝撃音を与えることによって、当該青果物に自由振動を付与する。
請求項11の発明では、
前記自由振動検出手段は、
レーザ光や電波による非接触式振動検出装置、もしくは
加速度ピックアップや圧電素子による接触式振動検出装置のいずれか1つの振動検出装置を用いて、当該青果物の自由振動を検出する。
請求項12の発明は、
前記振動解析手段は、
前記強制振動検出手段にて検出された強制振動と、前記自由振動検出手段にて検出された自由振動の固有角振動数をそれぞれω0、ω、
当該青果物の密度をρ、
前記強制振動と自由振動の横波速度をCT
としたとき、
次の計算式:
η=2ρCT2{(ω02−ω21/2/ω02
を用いて、当該青果物の粘性特性ηを得る。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる粘性測定方法と装置によれば、評価対象の青果物の内部品質を非破壊、且つ経験に左右されずに客観的な粘性特性を得ることができる。
また、当該青果物の粘性特性の経時変化を追跡することにより、食べごろをより正確に判断することも可能になる。
さらに、本発明によれば、小型で低価格の装置で上記効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明にかかる粘性測定方法に用いる装置を実施するための最良の形態を示した図面を参照しながら詳細に説明する。
図1において、
10は本発明にかかる青果物の粘性測定装置であり、
評価対象の青果物(例えばメロン)Tを載せて、その一部(下部)に所定範囲の周波数成分を含んだ振動を与える振動付与手段1と、
前記青果物の表面の他の一部(上部)に伝わる振動を検出して、振動信号として出力する振動検出手段2と、
前記検出された振動信号を高速フーリエ変換して、強制振動と自由振動におけるそれぞれの第2、第3、第4共鳴周波数の固有角振動数を得て、所定の計算式を用いて青果物Tの粘性特性を得て、その粘性特性を画面表示等の情報として出力する解析装置3と
を基本的構成として備えている。
【0010】
前記振動付与手段1は、
信号強度がほぼ一定で所定範囲の周波数成分を含んだ低周波信号を出力する発振部11と、前記低周波信号を増幅するアンプ12と、増幅された低周波信号が供給されて、その低周波信号に応じた振動を発生して、載せられた評価対象の青果物Tに、前記低周波信号に基づいた振動を与える振動子13とを備えている。即ち、前記振動子13は載せられた青果物の一部(下部)に接触して振動を与えるように載置台に内蔵されている。
このとき、前記振動付与手段1は、青果物に持続する振動を与えて強制振動を付与する強制振動機能と、青果物が全体的に移動しない程度の衝撃を与えて自由振動を付与する自由振動機能とを備えている。
なお、青果物に自由振動を付与するためには、図1に示した振動付与手段1に代えて、図8に示したように、台上の青果物Tに、横方向から相対的に質量の小さい衝撃子を衝突させるように構成された自由振動付与手段1Bを用いることができる。図8において、検出手段2、解析装置3などは、図1の場合と同様な構成である。
また、振動付与手段としては、青果物に直接接触せずに、音波を空気を介して青果物に照射し、空気伝播によって青果物に振動を与えるように構成することも可能である。この場合、前記音波のパターンを変えることによって、強制振動を付与したり、パルス衝撃音によって自由振動を付与することができる。
【0011】
前記検出手段2は、
前記青果物Tの表面(上部)に伝達された振動をレーザドップラー法で検出するためのレーザ送受信部21と、前記レーザ送受信部21を駆動するとともに、青果物Tの表面からの反射波を受信して受信信号を出力する駆動部22と、前記受信信号をA/D変換してデジタル信号として出力するA/D変換部23とを備えている。
前記レーザ送受信部21は、例えば評価対象の青果物Tの上部の振動を検出しうる位置に配置されている。
【0012】
前記解析装置3は、
強制振動の場合と、自由振動の場合とにおいて、
前記検出手段2から入力された受信信号を高速フーリエ変換して周波数スペクトル分布データを得て、得られた前記周波数スペクトル分布データを解析して、第2共鳴周波数の固有角速度、第3共鳴周波数の固有角速度、および第4共鳴周波数の固有角速度を演算出力する固有角速度解析部31と、
強制振動における第2共鳴周波数の固有角速度、第3共鳴周波数の固有角速度、および第4共鳴周波数の固有角速度と、自由振動における第2共鳴周波数の固有角速度、第3共鳴周波数の固有角速度、および第4共鳴周波数の固有角速度とに基づいて、青果物Tの粘性特性を下記の計算式を用いて演算する粘性演算手段32と、
前記青果物Tの粘性特性を出力する出力部33と、
前記粘性特性を画面表示する表示部34と、
上記各手段、各部を統合的に制御して管理する制御部35と
を備えている。
前記制御部35は、強制振動測定機能と自由振動測定機能と粘性特性演算機能とを備え、各機能を自動的に順次切り換えて制御する自動測定機能を備えている。
計算式:
η=2ρCT2{(ω02−ω21/2/ω02
ただし、η:当該青果物の粘性特性
ω0:強制振動における各共鳴周波数の固有角振動数
ω:自由振動における各共鳴周波数の固有角振動数
ρ:当該青果物の密度
T:当該青果物における振動の横波伝播速度
【0013】
前記制御部35は、
前記強制振動測定機能においては、前記振動付与手段1を強制振動モードに切り換えて制御し、固有角速度解析部31に、強制振動における第2共鳴周波数の固有角速度、第3共鳴周波数の固有角速度、および第4共鳴周波数の固有角速度を解析させて、その結果を一時記憶する。
前記自由振動測定機能においては、前記振動付与手段1を自由振動機能に切り換えるか、あるいは、図8に示したように、横方向から相対的に質量の小さい衝撃子を衝突させて、前記振動検出手段2の感度を必要に応じて上げ、青果物に自由振動を付与する。
そして、固有角速度解析部31に、自由振動における第2共鳴周波数の固有角速度、第3共鳴周波数の固有角速度、および第4共鳴周波数の固有角速度を解析させて、その結果を一時記憶する。
前記粘性特性演算機能においては、一時記憶した各固有角速度と、あらかじめ入力設定されている当該青果物Tの密度、横波速度とに基づいて、前記粘性演算手段32に当該青果物Tの粘性特性を演算させ、その結果を出力部33から出力させて表示部34で画面表示させる。
【0014】
次に、図1に示した上記構成の評価装置10を用いて、本発明の評価方法に基づいた処理手順を、図2のフローチャートを参照しながら説明する。
まず、ステップS1において、評価対象としての青果物Tを載置台に載せて、青果物の下部が載置台に備えられた振動子13に接触するようにセットする。
【0015】
ステップS2では、前記制御部35からの測定開始指令に基づいて振動付与手段1の強制振動機能を作動させて、前記発振部11が所定の周波数範囲、例えば10Hzから2,000Hzまでスイープ(走査)する低周波信号を出力して、前記振動子13に供給されて、前記青果物Tを強制振動させる。
ステップS3において、前記青果物Tの上部に伝わった強制振動が、前記検出手段2によるレーザドップラー法によって検出され、レーザ送受信部21で検出した青果物Tの表面からの反射波に基づいた受信信号が駆動部22から出力されて、A/D変換部23でデジタル信号に変換されて出力される。
【0016】
ステップS4では、受信信号を高速フーリエ変換して、受信信号の周波数スペクトル分布データを演算して求める。このようにして得られた周波数スペクトル分布の一例を図3に示す。図3において、第1のピークP1は強制振動による第1共鳴振動によるピークを示し、第2のピークP2は強制振動による第2共鳴振動によるピークを示し、第3のピークP3は強制振動による第3共鳴振動によるピークを示し、第4のピークP4は強制振動による第4共鳴振動によるピークを示している。そして、前記第2共鳴振動の固有角振動数ω02、前記第3共鳴振動の固有角振動数ω03、前記第4共鳴振動の固有角振動数ω04をそれぞれ求めてメモリなどの記憶手段に一時記憶する。
【0017】
ステップS5では、前記制御部35からの測定切替指令に基づいて振動付与手段1の自由振動機能、もしくは図8の衝撃子を衝突させることによって、青果物が移動しない程度の衝撃を加えて前記青果物Tを自由振動させる。
ステップS6においては、前記青果物Tの自由振動が、上記同様に前記検出手段2によって検出され、その振動に基づいた信号を高速フーリエ変換して、周波数スペクトル分布データを演算して求める。このようにして得られた周波数スペクトル分布の一例を図4に示す。図4において、図3の場合に現れた第1のピークP1は出現せず、自由振動における第2共鳴振動による第2のピークP2と、自由振動における第3共鳴振動による第3のピークP3と、自由振動における第4共鳴振動による第4のピークP4とが出現している。そして、自由振動における前記第2共鳴振動の固有角振動数ω2、前記第3共鳴振動の固有角振動数ω3、前記第4共鳴振動の固有角振動数ω4をそれぞれ求めてメモリなどの記憶手段に一時記憶する。
【0018】
ステップ7においては、
強制振動における第2共鳴振動の固有角振動数ω02、前記第3共鳴振動の固有角振動数ω03、前記第4共鳴振動の固有角振動数ω04を記憶手段から読み出し、
自由振動における前記第2共鳴振動の固有角振動数ω2、前記第3共鳴振動の固有角振動数ω3、前記第4共鳴振動の固有角振動数ω4を記憶手段から読み出す。
さらに、記憶手段にあらかじめ設定登録しておいた当該青果物Tの密度ρ、強制振動による横波の伝播速度CTを読み出す。
そして、前記強制振動における第2共鳴振動の固有角振動数ω02と、自由振動における前記第2共鳴振動の固有角振動数ω2と下記の計算式に基づいて、同じ振動モードの第2共鳴振動に基づいた粘性特性η2を計算する。
計算式 η2=2ρCT2{(ω022−ω221/2/ω022
同様に、前記強制振動における第3共鳴振動の固有角振動数ω03と、自由振動における前記第3共鳴振動の固有角振動数ω3と下記の計算式に基づいて、同じ振動モードの第3共鳴振動に基づいた粘性特性η3を計算する。
計算式 η3=2ρCT2{(ω032−ω321/2/ω032
また、前記強制振動における第4共鳴振動の固有角振動数ω04と、自由振動における前記第4共鳴振動の固有角振動数ω4と下記の計算式に基づいて、同じ振動モードの第4共鳴振動に基づいた粘性特性η4を計算する。
計算式 η4=2ρCT2{(ω042−ω421/2/ω042
【0019】
図3と図4とを対比させると、同じ振動モードにおいては、自由振動における共鳴振動数の方が、強制振動における共鳴振動数より小さいことがわかる。特に第2共鳴振動数と第3共鳴振動数とは下がっているが、第2共鳴振動数においては顕著に下がっている。
【0020】
前記件算式によれば、各振動モードに対して粘性特性を評価することができる。
このように、共鳴の振動モードにより粘性が異なるのは、粘性によって失われるエネルギーの分布の仕方に起因している。
まず、メロンのような球体の例で考えると、その振動モードには体積変化を伴うSモードと、体積変化の無いTモードと呼ばれる共鳴の2つの振動モードがある。
本発明の振動検出手段で実際に検出・測定できるのはSモードであり、振動数の小さい順に、円周上に2波長が乗る振動モードS2(第2共鳴振動数、図3、4のP2に対応。)と、円周上に3波長が乗る振動モードS3(第3共鳴振動数、図3、4のP3に対応。)と、円周上に4波長が乗る振動モードS4(第4共鳴振動数、図3、4のP4に対応。)と続いて出現する。
これらの振動モードにおけるエネルギー分布の様子を図5に模式的に示した。
【0021】
図5に示されているように、第2共鳴振動数の振動モードでは球体の中心部分にエネルギーの高い部分があり、第3共鳴振動数の振動モードでは球体の中心部分と表面との中間部分にエネルギーの高い部分があり、第4共鳴振動数の振動モードではより表面に近い部分にエネルギーの高い部分があることが分かる。
このように粘性により失われるエネルギー分布は、振動モードごとにそれぞれ異なった限定領域に偏っていることが分かる。粘性により失われるエネルギーの大きさは粘性の大きさを反映しており、また、粘性により失われるエネルギー分布の範囲は粘性の分布の範囲を示しているので、振動モードごとに粘性分布の範囲とその大きさを評価することが可能となる。
逆に、測定した部位に相当する振動モードを選んで、その領域の粘性を評価することも可能となる。
【0022】
図6では、メロンを例にとって、各振動モードごとの粘性の大きさの経時変化を測定したものである。
球体の中心部分の粘性特性に敏感な第2共鳴振動数の振動モードS2では、経過日数とともにゆっくり減少しているが、中心部分と表面部分の中間部分に敏感な第3共鳴振動数の振動モードS3では、経過日数の4日目から6日目で800Pa・sから400Pa・sに急激に粘性が低下していることが観察される。図6において、各グラフに付した数字は、経過日数を示している。
4日目から6日目で、急激に粘性が低下していることは、経過日数と粘性の関係を示した図7からも明瞭に確認できる。
このような粘性の急激な減少時期が、特にメロンの食べごろに当たることが別途確認されるので、粘性の急激な減少時期を把握することで、メロンの食べごろを非破壊で知ることができるのである。
したがって、図2のステップ8において、当該青果物の食べごろを判断することができるのである。
このような第2共鳴振動数および第3共鳴振動数の振動モードS2、S3は、種のある中心部分ではなく、その周囲の果肉部分の粘性が急激に減少し食べごろになったことを反映していることが理解できる。
このように、本発明によれば、振動モードを利用して青果物の内部の粘性を高い精度で非破壊的に、しかも特定の測定部位を狙って測定できるのである。
【0023】
本発明は、以上の説明に限らず、種々の実施形態が可能である。
例えば、前記発振部11で発振出力する低周波信号は、前述したようなスイープ信号に限らず、ピンクノイズやホワイトノイズのように広帯域の周波数成分の含んだ信号や、矩形波のように単発振動波形ではあるが、低周波から高周波までの広帯域の周波数成分の含んだ信号としてもよい。そして、振動を与えるために用いる低周波信号の周波数成分は、10Hzから2,000Hzまでの範囲に限定されるものではなく、評価対象の青果物の大きさなどによって適宜選定することが好ましい。一般的には、同じ種類の青果物の場合には、評価対象の径が小さな場合には、振動を与えるために用いる低周波信号はより高い周波数の信号を与えるものとする。
また、青果物の他の一部に伝わる振動を検出する手段としては、レーザドップラー法による非接触式の検出手段に限らず、圧電素子等の接触式の検出手段を用いても良い。
また、第2共鳴周波数P2の固有角振動数のみに着目してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、種々の青果物だけでなく、人体に適応させて、人体の特定の内臓器官の粘性を測定することにより、その器官の健康状態を把握するという応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明にかかる粘性測定方法に用いる装置の実施形態の構成図である。
【図2】前記装置を用いた粘性測定方法の手順を説明するフローチャートである。
【図3】スイカの場合の、強制振動の共鳴周波数のスペクトル分布の例である。
【図4】スイカの場合の、自由振動の共鳴周波数のスペクトル分布の例である。
【図5】球体のモデルにおいて、粘性により失われる球体内のエネルギー分布を模式的に示す図である。
【図6】振動モードごとの粘性の経時変化を示すグラフである。
【図7】経過日数ごとの各振動モードの粘性の経時変化を示すグラフである。
【図8】振動付与手段の別形態であって、自由振動を付与する場合の構成例を説明する概略構成図である。
【符号の説明】
【0026】
10 青果物の内部品質評価装置
1 振動付与手段
1B 自由振動付与手段
11 発振部
12 アンプ
13 振動子
2 振動検出手段
21 レーザ送受信部
22 駆動部
23 A/D変換部
3 解析装置
31 固有角速度解析部
32 粘性演算手段
33 出力部
34 表示部
35 制御部
T 青果物、メロン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象の青果物に振動を付与して、当該青果物の強制振動を検出する第1の工程と、
評価対象の青果物に自由な振動を付与して、当該青果物の自由振動を検出する第2の工程と、
第1の工程で検出した強制振動と、第2の工程で検出した自由振動の両者をフーリエ解析して得られる同じ振動モードの共鳴周波数の差に基づいて当該青果物の粘性特性を得る第3の工程と
を含むことを特徴とする青果物の粘性測定方法。
【請求項2】
前記第1の工程では、
当該青果物に打撃を与えること、
当該青果物にパルス衝撃音を与えること、
当該青果物に少なくとも10Hzから2,000Hzまでスイープする低周波振動を含んだ振動を与えること、
もしくは、
当該青果物に少なくとも少なくとも10Hzから2,000Hzまでの低周波振動を含んだホワイトノイズ信号に基づいた振動を与えること、
のうちの少なくとも何れかひとつによって、当該青果物に振動を付与することを特徴とする請求項1に記載の青果物の粘性測定方法。
【請求項3】
前記第1の工程では、
レーザ光や電波による非接触式振動検出方法、もしくは
加速度ピックアップや圧電素子による接触式振動検出方法のいずれか1つの振動検出方法を用いて、当該青果物の強制振動を検出することを特徴とする請求項1、2の何れか1項に記載の青果物の粘性測定方法。
【請求項4】
前記第2の工程では、
当該青果物に打撃、もしくは、パルス衝撃音を与えることによって、当該青果物に振動を付与して当該青果物を自由振動させることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の青果物の粘性測定方法。
【請求項5】
前記第2の工程では、
レーザ光や電波による非接触式振動検出方法、もしくは
加速度ピックアップや圧電素子による接触式振動検出方法のいずれか1つの振動検出方法を用いて、当該青果物の自由振動を検出することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の青果物の粘性測定方法。
【請求項6】
前記第3の工程では、
前記第1の工程で検出された強制振動と、前記第2の工程で検出された自由振動の固有角振動数をそれぞれω0、ω、
当該青果物の密度をρ、
前記強制振動と自由振動の横波速度をCT
としたとき、
次の計算式:
η=2ρCT2{(ω02−ω21/2/ω02
を用いて、当該青果物の粘性特性ηを得ることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の青果物の粘性測定方法。
【請求項7】
評価対象の青果物に振動を付与する強制振動付与手段と、
前記強制振動付与手段で振動を付与したときに、当該青果物の強制振動を検出する強制振動検出手段と、
評価対象の青果物に自由な振動を付与する自由振動付与手段と、
前記自由振動付与手段で振動を付与したときに、当該青果物の自由振動を検出する自由振動検出手段と、
前記検出した強制振動と自由振動の両者をフーリエ解析して得られる同じ振動モードの共鳴周波数の差に基づいて当該青果物の粘性特性を得る振動解析手段と
を含んでいることを特徴とする青果物の粘性測定装置。
【請求項8】
前記強制振動付与手段は、
当該青果物に打撃を与えること、
当該青果物にパルス衝撃音を与えること、
当該青果物に少なくとも10Hzから2,000Hzまでスイープする低周波振動を含んだ振動を与えること、
もしくは、
当該青果物に少なくとも少なくとも10Hzから2,000Hzまでの低周波振動を含んだホワイトノイズ信号に基づいた振動を与えること、
のうちの少なくとも何れかひとつによって、当該青果物に振動を付与することを特徴とする請求項7に記載の青果物の粘性測定装置。
【請求項9】
前記強制振動検出手段は、
レーザ光や電波による非接触式振動検出装置、もしくは
加速度ピックアップや圧電素子による接触式振動検出装置のいずれか1つの振動検出装置を用いて、当該青果物の強制振動を検出することを特徴とする請求項7、8の何れか1項に記載の青果物の粘性測定装置。
【請求項10】
前記自由振動付与手段は、
当該青果物に打撃、もしくは、パルス衝撃音を与えることによって、当該青果物に自由振動を付与することを特徴とする請求項7〜9の何れか1項に記載の青果物の粘性測定装置。
【請求項11】
前記自由振動検出手段は、
レーザ光や電波による非接触式振動検出装置、もしくは
加速度ピックアップや圧電素子による接触式振動検出装置のいずれか1つの振動検出装置を用いて、当該青果物の自由振動を検出することを特徴とする請求項7〜10の何れか1項に記載の青果物の粘性測定装置。
【請求項12】
前記振動解析手段は、
前記強制振動検出手段にて検出された強制振動と、前記自由振動検出手段にて検出された自由振動の固有角振動数をそれぞれω0、ω、
当該青果物の密度をρ、
前記強制振動と自由振動の横波速度をCT
としたとき、
次の計算式:
η=2ρCT2{(ω02−ω21/2/ω02
を用いて、当該青果物の粘性特性ηを得ることを特徴とする請求項7〜11の何れか1項に記載の青果物の粘性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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