説明

青果物の鮮度保持剤

【課題】柑橘類の果実などの青果物に対する鮮度保持剤を提供する。
【解決手段】カワラヨモギ抽出物を鮮度保持剤として使用することを特徴とし、合わせてにHLB値が8〜20のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/またはショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸グリセリドを含有することを特徴とする青果物に対して優れた鮮度保持剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜、果実などの青果物の鮮度保持剤に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜、果実を生産者から市場、店頭への輸送により経時的に鮮度が失われることで、ツヤ、張りがなくなり、緑色野菜については退色が進行し商品価値の低下を引き起こす。また、店頭や消費者側では鮮度を重視した保存期間の延長要望がある。そのため長期に青果物を新鮮な状態に保つ、鮮度保持技術が望まれている。
【0003】
青果物の収穫後に鮮度を保持する成分として例えば、イソチオシアン酸エステルと1種以上の炭素数2〜10の有機酸及び/又は保水剤の混合溶液(特許文献1)、エポキシ化合物またはその塩もしくはそのエステル(特許文献2)などが挙げられるが、前者は切断面の変色や腐敗防止に関するものであり、イソチオシアン酸エステルはカラシ、ワサビの成分であり、青果物や切花に対して特有の臭気、刺激を付与する問題がある。また後者においては使用される化合物が抗生物質であり、特に食品である青果物などに使用するには問題が生じる。また鮮度を保持するための技術として低温保存、脱酸素剤、包装材などあげられるが、生産者から店頭までの輸送段階においては有効であるが店頭での鮮度の低下を抑える、あるいは消費者側で購入から使用までの間において効果を維持するには十分なものではなかった。
【特許文献1】特開平8−012502号公報
【特許文献2】特開平8−198704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術に存した上記のような問題点に鑑みて行われたものであり、鮮度保持効果を発揮し、かつ安全性の高い、青果物に対する鮮度保持剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、カワラヨモギ抽出物を含有することで青果物に対して優れた鮮度保持効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、青果物に対して優れた鮮度保持効果を発揮する鮮度保持剤を提供でき、当該発明を用いて鮮度保持期間を延長できるようになるなど商品価値を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明において使用するカワラヨモギは、キク科カワラヨモギ(学名:Artemisia capillaris Thunb.)である。本発明で使用されるカワラヨモギの部位は茎または葉、花穂、など地上部であれば特に限定されることはない。カワラヨモギは抽出効率を高めるため、必要により機械的破砕手段によって粉砕などの工程を含めて良い。
【0008】
抽出溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類、メチルエーテル等のエーテル類等の有機溶媒、またこれらのうち水と混和する溶剤では水との混合溶剤を使用することができる。使用される用途で支障のない抽出溶媒を用いた抽出液であればそのまま使用しても良いが、有効成分の含有量が低く多量に配合する必要がある場合もあるため、溶剤を完全に留去してあるいは適度に濃縮して使用することが望ましい。その際、成分が溶媒とともに留出することを防止するため、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコールや、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を添加して濃縮しても良い。また、カワラヨモギから水蒸気蒸留により得た精油成分をそのまま使用しても良い。更に、超臨界流体などの公知の方法を用いて抽出した抽出物を使用しても良い。
【0009】
本発明の鮮度保持剤におけるカワラヨモギ抽出物の濃度は限定されるものではないが、固形分含量として0.01%〜5%であることが好ましい。5%を超えて固形分が含まれる場合、被処理物に固形物が付着し悪影響を及ぼす可能性が生じる。
【0010】
また、本発明の鮮度保持剤には、浸透性を調整し効果をさらに高める目的で、界面活性剤を配合することが好適である。本発明に使用される界面活性剤は一般に使用されるものであれば特に限定されることはないが、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤などは鮮度保持剤の変性の原因となりうる可能性があり、製剤の安定性、青果物への影響、安全性を考慮すると非イオン界面活性剤が好ましく、さらに好ましくは食品添加物などで使用されるポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが選択される。
【0011】
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルは、公知の脂肪酸とポリグリセリンまたはショ糖をエステル化する方法によって製造されたものを使用すると良い。使用する脂肪酸は、酪酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトオレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、等が使用され、これらの脂肪酸のうち一種又は二種以上選択して使用しても良い。
【0012】
また、本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルは、溶解性、浸透性を考慮するとHLB値8〜20のものが好ましく、さらに好ましくはHLB値13〜20のものが選択される。ここで用いられるHLBとはGriffinの経験式から計算されるHLB値(Hydrophile−LipophileBalanceValue値)が8〜20、好ましくは13〜20のものが選択される。
【0013】
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルとしては、ジグリセリンモノカプリレート、ジグリセリンモノミリステート、ジグリセリンモノパルミテート、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノオレート、デカグリセリンモノカプリレート、デカグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノミリステート、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノオレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖カプリン酸エステル、ショ糖カプリル酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステルなどが例示される。
【0014】
本発明における界面活性剤の濃度は限定されるものではないが0.01%〜1%であることが好ましい。1%を超えて含まれる場合、被処理物にべとつきなどの悪影響を及ぼす可能性が生じる。
【0015】
また本発明の鮮度保持剤は、より効果を高める目的で脂肪酸グリセリドを配合することが好適である。本発明に用いられる脂肪酸グリセリドは、グリセリンと脂肪酸とのエステルであり、モノグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリドのうち一種又は二種以上を含有する脂肪酸グリセリドが使用される。
【0016】
本発明における脂肪酸グリセリドは、例えば、公知の脂肪酸とグリセリンをエステル化する方法によって製造される。脂肪酸グリセリドを製造する場合に使用する脂肪酸は、酪酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトオレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、等が使用され、これらの脂肪酸のうち一種又は二種以上選択して使用すると良い。
【0017】
また脂肪酸グリセリドは、主成分にグリセリドを含有する天然油脂を使用しても良い。天然油脂には、動物脂や動物油である動物油脂、又は、植物脂や植物油である植物油脂の何れを使用しても良い。
【0018】
植物脂としては、ヤシ油、パーム油等である。植物油としては、乾性油、半乾性油及び不乾性油を使用することが可能であり、乾性油としては、アマニ油、キリ油、サフラワー油が例示され、半乾性油としては、大豆油、コーン油、ゴマ油、菜種油、ヒマワリ油、綿実油が例示され、不乾性油としては、オリーブ油、カラシ油、ツバキ油、ヒマシ油、落花生油が例示される。また、前記天然油脂に含まれる構成油脂を分別して使用することも可能である。
【0019】
脂肪酸グリセリドは、一種又は二種以上の炭素数が8〜12の脂肪酸とグリセリンとをエステル化した脂肪酸グリセリドが使用されることが好適である。
【0020】
本発明における脂肪酸グリセリドの濃度は限定されるものではないが、0.01%〜5%であることが好ましい。
【0021】
本発明の鮮度保持剤の適応できる青果物はその種類を問わないが、例えば野菜類であれば、ダイコン、ゴボウ、ニンジン、ハクサイ、キャベツ、ホウレンソウ、レタス、コマツナ、アスパラガス、シュンギク、カイワレ、パセリ、さやえんどう、さやいんげん、ブロッコリー、キュウリ、トマト、ナス、ピーマン、サラダナ等、果実類であれば、バナナ、メロン、キウイフルーツ、イチゴ、りんご、なし、ぶどう、内でも柑橘類はミカン、レモン、すだち、だいだい、ゆず、ライム、スィーティー等が挙げられる。
【0022】
本発明の鮮度保持剤の使用方法としては青果物の全体を浸漬・噴霧する方法、また不織布、繊維、ウレタン、綿、吸水性ポリマーのような吸収体へ吸収させ、青果物を包む方法などがある。
【0023】
さらに、本発明の鮮度保持剤には植物の栄養源となりうるアミノ酸類、無機化合物類を添加しても良い。
【実施例1】
【0024】
乾燥したカワラヨモギ500gにエタノール5Lを加えて常温にて24時間浸漬後、濾紙を用いて減圧ろ過し抽出液を得た。この抽出液のカワラヨモギ抽出物の含有率は0.8%であった。得られたカワラヨモギ抽出液より表1に記す各鮮度保持剤を調製した。
【0025】
スダチ鮮度保持試験
各試験液にスダチを浸漬した後に取り出し、室温に放置し、鮮度保持試験を行った。鮮度保持試験は、所定の期間経過後のスダチの色を目視で評価することにより行ない、A:緑色、B:わずかに黄色化、C:部分的に黄色化、D:黄色化、と判定した。同時に果皮のハリについても目視、感触により評価し、A:ハリがあり鮮度が良好、B:ハリが保たれている、C:やや萎びてツヤがない、D:ツヤがなく萎びている、と判定した。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1より明らかなように本発明の鮮度保持剤は比較例と比べて優れた鮮度保持効果が確認された。比較例と比べ、カワラヨモギ抽出物を用いたスダチは鮮度保持効果が確認された。またショ糖ミリスチン酸エステルを併用することでより退色が軽減された。さらにトリカプリル酸グリセリンを併用することで優れた鮮度保持効果を発揮することが確認された。
【実施例2】
【0028】
ブロッコリー鮮度保持試験
実施例1で抽出した抽出液を用いて表2に記す各試験液を調製した。
各試験液にブロッコリーを浸漬した後に取り出し、室温に放置し、鮮度保持試験を行った。鮮度保持試験は、所定の期間経過後のブロッコリーの色を目視で評価することにより行ない、A:緑色、B:わずかに黄色化、C:部分的に黄色化、D:黄色化、と判定した。また同時に葉茎の鮮度についても目視、感触により評価し、A:ハリがあり鮮度が良好、B:ハリが保たれている、C:葉がやや萎びてハリがない、D:茎まで萎びている、と判定した。その結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2より明らかなように比較例のブロッコリーにおいては黄化が進み、茎はハリがなく鮮度が失われていたが、カワラヨモギ抽出液を用いたブロッコリーには鮮度保持効果が確認された。またショ糖ミリスチン酸エステルを併用することで退色が抑えられた。カワラヨモギ抽出物、デカグリセリンモノラウレート、トリカプリル酸グリセリンを併用することで7日目においても色、ハリともに維持しており、ブロッコリーにおいても鮮度保持効果が確認された。
【実施例3】
【0031】
レモン鮮度保持試験
実施例1で抽出した抽出液を用いて表3に記す各試験液を調製した。
各試験液にレモンを浸漬した後に取り出し5℃下に長期冷蔵保存し鮮度保持試験を行った。所定の期間経過後のレモンの色を目視で評価することにより行ない、評価は1週間ごとに目視で確認し評価した。A:緑色、B:わずかに黄色化、C:部分的に黄色化、D:黄色化、と判定した。同時に果皮のハリについても目視、感触により評価し、A:ハリがあり鮮度が良好、B:ハリが保たれている、C:やや萎びてツヤがない、D:ツヤがなく萎びている、と判定した。その結果を表3に記す。
【0032】
【表3】

【0033】
表3より明らかなように、本発明の鮮度保持剤は比較例と比べて優れた効果が確認された。比較例では水での処理またはデカグリセリンモノオレートでの処理を行っているがこの2点に優位さは確認されず2週間目には黄化、果皮が萎びはじめていた。一方、本発明の鮮度保持剤においては優れた鮮度保持効果が確認され、その効果はカワラヨモギ抽出物を単独で用いたレモンよりもショ糖ミリスチン酸エステルを併用したものは退色が抑えられ、さらにトリカプリル酸グリセリンを併用したものは、色だけでなくハリが保たれており優れた鮮度保持効果が確認された。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
カワラヨモギ抽出物を含有することを特徴とする青果物の鮮度保持剤。
【請求項2】
HLB値が8〜20のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/またはショ糖脂肪酸エステルを含有する請求項1に記載された青果物の鮮度保持剤。
【請求項3】
脂肪酸グリセリドを含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された青果物の鮮度保持剤。
【請求項4】
前記青果物が柑橘類の果実であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の青果物の鮮度保持剤。

【公開番号】特開2008−271892(P2008−271892A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120791(P2007−120791)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】