説明

青臭みの低減された豆乳または乳飲料およびその製造方法

【課題】青臭みが低減され、しかも沈殿や凝集が生じないという安定性に優れた豆乳または乳飲料およびその製造方法、ならびに沈殿や凝集が生じずに、豆乳または乳飲料の青臭みを効率よく低減する方法を提供すること。
【解決手段】(A)ガレート型カテキンならびに(B)水溶性大豆多糖類、アラビアガム、カゼインナトリウム、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、カラギーナンおよびグァーガムから選ばれる少なくとも1種の安定剤を含有し、(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤との含有重量比[(A)/(B)]が0.1〜2.0、(A)ガレート型カテキンと(C)大豆固形分または乳固形分との含有重量比[(A)/(C)]が0.006〜0.055である豆乳または乳飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガレート型カテキンを含有する青臭みの低減された豆乳または乳飲料に関する。
また、本発明は、前記青臭みの低減された豆乳または乳飲料の製造方法および豆乳または乳飲料の青臭み低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の偏りやストレス、喫煙、飲酒、運動不足などにより、ガン、心疾患、脳卒中、糖尿病、高血圧、メタボリック症候群などの生活習慣病が問題となっており、日本人の死因の6割以上とも言われている。生活習慣病は完全な治療が困難なものも多く、また、厚生労働省の調べによると、2008年度の国民医療費は34兆8000億円にも上ることからも、病気を治療することだけでなく、今後は「未病」の考え方に見られる、「病気を予防する」ということが非常に重要である。その観点から、健康食品に関する消費者の関心は高まっており、健康で快適な生活を送るために、我々の最も身近にある食品に求められている期待は非常に高い。
【0003】
中でも、飲料に関しての消費者の健康意識は高く、緑茶飲料、豆乳などの健康志向の飲料は、手軽に常飲できる点からも安定した大きな市場を形成している。
【0004】
緑茶に多く含まれるカテキン類には、抗酸化作用、抗菌作用、ガン抑制作用、コレステロール低下作用、インフルエンザウイルスの不活化、紫外線に対する皮膚保護作用などの生理活性が期待されている。既に、カテキン類の生理活性に着目した商品は数多く出されており、多様な心血管病予防にも関係した健康機能を高めるための茶、コレステロールの吸収を防ぐための茶、体脂肪の蓄積抑制や燃焼促進効果を有する茶などの茶飲料だけでなく、カテキン類を高濃度に含有させた清涼飲料などが新たな市場を形成している。
【0005】
さらに、カテキン類の中でもエピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)のような分子内にガロイル基を有するガレート型カテキンが、極めて高い生理活性を示すことが様々な研究で明らかになっている。例えば、ヒト肺ガン細胞株の増殖抑制効果、ヒトインフルエンザウイルスの不活化、LDLの酸化に対する抑制効果などに関して、ガレート型カテキンは、非ガレート型カテキンよりも高い生理活性を示すことが報告されている。しかし、ガレート型カテキンは、収斂味とも表現される特有の渋味を有し、苦味に関してもエピカテキン(EC)、カテキン(C)の2〜3倍の強さをもつことから、その苦渋味の軽減は非常に重要な課題である。さらにガレート型カテキンはタンパク質を凝集させてしまうことから、タンパク質を含む製品への添加が困難である。それを解決するために、茶抽出液にタンナーゼを作用させてガレート型カテキンを加水分解させることによってコラーゲンペプチドの凝集が抑制されたコラーゲンペプチド含有茶飲料の提案もされている(特許文献1)。
【0006】
カテキン類の特有の苦渋味は、舌に残る残留感が非常に強く、嗜好性において十分に満足させるカテキン高含有飲食品が未だ市場に存在しないのが現状である。カテキン類の苦味をマスキングする技術提案はいくつかなされており、例えば、β−サイクロデキストリンと活性炭を用いる方法(特許文献2)、キナ酸を特定比率で併用する方法(特許文献3)、配糖化する方法(特許文献4)などがある。しかし、いずれの方法も苦味の低減は図れるものの、そのマスキング効果は十分なものとは言えない。
【0007】
一方、豆乳は、良質のタンパク質、不飽和脂肪酸、ビタミン・ミネラル類を多く含む天然の機能性飲料として、近年、日本だけでなくアメリカやアジアなど世界中で消費量が増大している。さらに最近では、大豆イソフラボンによる骨粗鬆症の予防、更年期障害の不快症状の緩和および動脈硬化の予防などの生理機能が知られるようになり、今最も注目を集めている健康飲料の一つである。それにもかかわらず、豆乳はその独特の大豆臭や苦渋味のため、栄養機能性よりも嗜好性を重視する消費者にとっては商品選択の障壁となっている。新たな消費者の獲得および健康飲料として無理なく常飲するためには、豆乳の不快な味や臭いの低減は非常に重要な課題となっている。
【0008】
豆乳の不快な臭いは、豆乳の製造工程中で、大豆に存在するリポキシゲナーゼの作用により発生するものであり、その臭気成分はアセトアルデヒド、アセトン、ヘキサナール、エチルビニルケトンなどのカルボニル化合物、ヘキサノールなどのアルコール類、アミン類、フェノール類、脂肪酸類などから構成されており、中でもとくにn−ヘキサナール(1−ヘキサナール)は豆乳の青臭みの主原因物質であると言われている。また、n−ヘキサナールは乳飲料の異常臭の原因物質でもある。
【0009】
そこで、豆乳臭のマスキング方法として、例えば、パラチノースの添加による風味改善(特許文献5)、パノースの添加による不快臭低減方法(特許文献6)、シソ抽出物による呈味改善(特許文献7)、酵母エキスの添加による豆乳臭の抑制(特許文献8)、ぶどう果皮抽出物による風味改善(特許文献9)などの提案がなされている。しかし、これらの方法はいずれも、豆乳臭のマスキング効果が不十分であるか、あるいは、マスキング剤自身の風味が強く出てしまうため、実用上十分なものとは言えなかった。
【0010】
また、カテキン類と大豆を含む食品に関しては、大豆蛋白含有食品に茶類から抽出されたポリフェノール類を少量添加することにより、大豆蛋白特有の不快な風味をマスキングする製造方法(特許文献10)が提案されている。しかし、上記方法は、茶抽出物を乾燥大豆蛋白に混ぜ込むことよって風味をマスキングしているに過ぎず、また、大豆蛋白の乾燥によって生じる特有の不快味は、豆乳の青臭みと全くの別物である。
【0011】
また、イソフラボンと非重合体カテキン類を含有する苦味の低減した容器詰飲料も提案されている(特許文献11)。当該特許文献には、ガレート型カテキンの凝集抑制に関する記載や示唆はなく、そのため、実施例中に豆乳の製造の記載があるものの、当該実施例にガレート型カテキン精製品を適用しようとした場合、ただちに凝集が起きてしまう。
【0012】
また、カテキン含有成分を含有することによる乳飲料の異臭防止も提案されている(特許文献12)。しかし上記発明は、乳飲料の光酸化による酸敗臭の発生を抑制するものであり、青臭み低減とは大きく異なる。また、ガレート型カテキンの含有量に関する記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第4673254号公報
【特許文献2】特許第3259758号公報
【特許文献3】特許第3378577号公報
【特許文献4】特許第3579496号公報
【特許文献5】特許第3920654号公報
【特許文献6】特許第4503402号公報
【特許文献7】特許第4583056号公報
【特許文献8】特開2002−253163号公報
【特許文献9】特開2009−189356号公報
【特許文献10】特許第3432614号公報
【特許文献11】特開2009−34076号公報
【特許文献12】特表2011−512798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、青臭みが低減され、しかも沈殿や凝集が生じないという安定性に優れた豆乳または乳飲料およびその製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、沈殿や凝集が生じずに、豆乳または乳飲料の青臭みを効率よく低減する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ガレート型カテキンを安定剤とともに豆乳または乳飲料に添加することで、凝集や沈殿が生じずに、大豆または乳由来の青臭みが低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明の要旨は、
[1](A)ガレート型カテキンならびに(B)水溶性大豆多糖類、アラビアガム、カゼインナトリウム、ペクチン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カラギーナンおよびグァーガムから選ばれる少なくとも1種の安定剤を含有し、
(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤との含有重量比[(A)/(B)]が0.1〜2.0、
(A)ガレート型カテキンと(C)大豆固形分または乳固形分との含有重量比[(A)/(C)]が0.006〜0.055
である豆乳または乳飲料、
[2](A)ガレート型カテキンが、ガレート型カテキン純度45重量%以上の茶抽出物由来である前記[1]に記載の豆乳または乳飲料、
[3](A)ガレート型カテキン含有量が1.0〜10.0重量%である、(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤との混合溶液を調製し、この混合溶液と豆乳または乳飲料とを混合する工程を含むことを特徴とする前記[1]または[2]に記載の豆乳または乳飲料の製造方法
[4]豆乳または乳飲料と、
(A)ガレート型カテキンならびに(B)水溶性大豆多糖類、アラビアガム、カゼインナトリウム、ペクチン、CMC、カラギーナンおよびグァーガムから選ばれる少なくとも1種の安定剤の混合溶液と
を混合し、
豆乳または乳飲料中の(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤との含有重量比[(A)/(B)]を0.1〜2.0、
(A)ガレート型カテキンと(C)大豆固形分または乳固形分との含有重量比[(A)/(C)]を0.006〜0.055
に調整することを特徴とする豆乳または乳飲料の青臭み低減方法、
に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガレート型カテキンを豆乳や乳飲料に添加することによって、苦渋味や茶の味は全くなく、n−ヘキサナールによる青臭みを顕著に低減することができる。また、ガレート型カテキンは高い生理活性を持つため、本発明によって得られる豆乳や乳飲料は健康増進効果も非常に高い。さらに、本発明では、前記ガレート型カテキンとともに安定剤を併用することで、ガレート型カテキンを豆乳や乳飲料に添加した際に生じる凝集や沈殿の発生を顕著に抑えて、安定性に優れた豆乳または乳飲料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、試験例1において行った、比較例1および実施例1〜2で得られた試料についての固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS法)によるGC−MSクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0020】
(1)青臭みが低減された豆乳または乳飲料
豆乳は、大豆を水に浸漬し膨潤させた後に、磨砕し、煮沸処理等の加熱処理を経た後、ろ過等の工程によって不溶画分を除去して得られる乳状の液体である。
本発明でいう豆乳とは、上記工程で得られるそのままの豆乳(無調整豆乳)の他、甘味料・香料・植物油などを加えた調製豆乳、果実やコーヒー麦芽などを加えて風味つけした豆乳飲料など、豆乳製品全般を指す。中でも、豆乳としては、大豆固形分として4%以上の豆乳製品を用いることが、本発明の効果を十分発揮するためには好ましい。
また、本発明の効果は、乳飲料の青臭みに対しても発揮される。
本発明でいう乳飲料とは、牛や山羊等の生乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、生クリーム、練乳、バター、チーズ等の乳製品を主原料とする乳状の飲料全般を指す。本発明では、これらの乳飲料であれば、特に限定なく、使用することができる。
【0021】
本発明の豆乳または乳飲料は、(A)ガレート型カテキンならびに(B)水溶性大豆多糖類、アラビアガム、カゼインナトリウム、ペクチン、CMC、カラギーナンおよびグァーガムから選ばれる少なくとも1種の安定剤を含有する。
【0022】
カテキンとは、緑茶、紅茶あるいはウーロン茶などの茶に多く含まれているポリフェノールの一種であり、主にエピカテキン(EC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキン(EGC)、エピガロカテキンガレート(EGCg)、カテキン(C)などのフラバン−3−オール類の総称である。
本発明において「ガレート型カテキン」とは、分子内にガロイル基を有するカテキンであり、具体的には、ECg、EGCgなどを指す。これらは使用原料として、精製品の他、粗製品でも良く、これらを含有する天然物もしくはその加工品でも良いが、ガレート型カテキンの純度として45重量%以上の茶由来精製品を使用することが好ましい。より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。市販品では、太陽化学(株)「サンフェノン」、三井農林(株)「ポリフェノン」などが挙げられる。ガレート型カテキンの純度が45重量%以上の茶由来精製品を使用することで、マスキング効果が十分となるだけでなく、茶の風味が抑えられて、豆乳や乳飲料の風味が良好となる。
【0023】
本発明の豆乳または乳飲料において、ガレート型カテキンは、含有量として0.06〜0.5重量%となるように添加することが好ましく、より好ましくは0.1〜0.3重量%である。0.06重量%未満では本発明の十分な効果が得られず、0.5重量%を超えるとガレート型カテキンの苦渋味を強く感じてしまう。
【0024】
また、本発明の豆乳または乳飲料には、ガレート型カテキンと共に、水溶性大豆多糖類、アラビアガム、カゼインナトリウム、ペクチン、CMC、カラギーナンおよびグァーガムから選ばれる少なくとも1種の安定剤を凝集・沈殿防止のために含有する。
前記のようにガレート型カテキンを豆乳または乳飲料中に添加すると、メカニズムは不明であるが、凝集・沈殿が生じるため、豆乳および乳飲料の安定性が損なわれてしまう。また、ガレート型カテキンの含有量を増やすと、豆乳または乳飲料の青臭みが低減するものの、カテキン由来の緑茶のような風味が強くなる傾向がある。そこで、本発明者らは、種々検討したところ、前記のような特定の安定剤を用いた場合に、ガレート型カテキンを用いても凝集・沈殿を生じず、しかも風味のよい豆乳または乳飲料を得ることが可能であることを初めて見出した。
【0025】
前記水溶性大豆多糖類としては、大豆タンパク製造の際に生じる不溶性食物繊維(オカラ)から、弱酸性下で抽出、精製、殺菌、乾燥の工程を経て調製される水溶性の多糖類であればよい。
アラビアガム、カゼインナトリウム、ペクチン、カラギーナン、グァーガムは、いずれも原料の由来に制限されず、使用することができる。
CMCは、水溶性であれば分子量に制限されず、使用することができる
【0026】
本発明の豆乳または乳飲料における前記安定剤の含有量は0.08〜2.0重量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.6重量%である。前記含有量が0.08重量%未満では、凝集・沈殿を防止する効果が十分得られず、2.0重量%を超えると安定剤由来の味により嗜好性が低下してしまう。
【0027】
本発明の豆乳または乳飲料における、(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤との含有重量比[(A)/(B)]は0.1〜2.0であり、好ましくは0.2〜0.9、より好ましくは0.2〜0.6である。前記(A)/(B)が0.1未満では、ガレート型カテキンの効果が不十分か、もしくは安定剤由来の粘度や味により作業性・嗜好性に劣るものとなり、また、2.0を超えると、凝集・沈殿を防止する効果が十分得られない。
【0028】
本発明の豆乳または乳飲料における、(A)ガレート型カテキンと(C)大豆固形分または乳固形分との含有重量比[(A)/(C)]は0.006〜0.055であり、好ましくは0.01〜0.04である。前記(A)/(C)が0.006未満では、青臭み低減効果が不十分であり、0.055を超えると、ガレート型カテキンの苦渋味を感じてしまう。
なお、大豆固形分または乳固形分は、豆乳または乳飲料中の含有量をいう。
【0029】
本発明の豆乳または乳飲料には、所望により、糖質、果汁、野菜汁、茶類、コーヒー、アルコール類、酸味料、炭酸ガス、香料、着色料、食物繊維、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸、油脂、乳化剤、高甘味度甘味料(人工甘味料)等の任意成分を含有してもよい。これらの任意成分を適宜選択することで、嗜好性の幅を広げることができる。尚、前記任意成分は、嗜好性や物理的安定性に悪影響を与えない範囲で使用すればよい。
【0030】
(2)青臭みが低減された豆乳または乳飲料の製造方法
前記のような構成を有する本発明の豆乳または乳飲料は、以下の工程を経て製造される。
即ち、(A)ガレート型カテキン含有量が1.0〜10.0重量%である、(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤との混合溶液を調製し、この混合溶液を豆乳または乳飲料と混合する工程を経て製造される。
【0031】
(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤との混合溶液中には、溶媒として水を用いる。
例えば、水に(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤とを任意の順番で添加し、両成分が溶解するまで攪拌したり、必要であれば加熱することで溶解を促進して、混合溶液を調製する。
前記混合溶液中における(A)ガレート型カテキン含有量は1.0〜10.0重量%に調整する。前記1.0重量%未満であれば、十分な青臭み低減効果を得ることが困難であり、10.0重量%を超えると凝集・沈殿が生じやすくなってしまう。
【0032】
次いで、前記混合溶液を豆乳または乳飲料と混合する。混合する際の混合装置、温度などの条件には、特に限定はないが、例えば、前記混合溶液を添加後、豆乳または乳飲料は攪拌しておけば、速やかに豆乳または乳飲料中に(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤とを均一にいきわたらせることができるので好ましい。
【0033】
また、前記混合溶液と豆乳または乳飲料との量については、混合後に得られる豆乳または乳飲料中の(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤の含有量、(A)/(B)、(A)/(C)が前記(1)青臭みが低減された豆乳または乳飲料のものと同じとなるように調整されていればよい。
【0034】
(3)豆乳または乳飲料の青臭み低減方法
また、本発明の豆乳または乳飲料の青臭み低減方法は、豆乳または乳飲料と、
(A)ガレート型カテキンならびに(B)水溶性大豆多糖類、アラビアガム、カゼインナトリウム、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、カラギーナンおよびグァーガムから選ばれる少なくとも1種の安定剤の混合溶液と
を混合し、
豆乳または乳飲料中の(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤との含有重量比[(A)/(B)]を0.1〜2.0、
(A)ガレート型カテキンと(C)大豆固形分または乳固形分との含有重量比[(A)/(C)]を0.006〜0.055
に調整することを特徴とする。
【0035】
(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤とを予め混合溶液としておくことで、この混合溶液を豆乳または乳飲料に添加した際でも、(A)ガレート型カテキン単独の場合でのような沈殿・凝集が生じることがなく、また、前記(A)/(B)と、(A)/(C)との含有重量比をそれぞれ特定の範囲内に調整することで、豆乳または乳飲料中の青臭み成分であるn−ヘキサナールの検出量を効率よく低減することができる。
【0036】
(A)ガレート型カテキンおよび(B)安定剤の混合溶液の製造条件、該混合溶液と豆乳または乳飲料との混合条件、(A)ガレート型カテキンおよび(B)安定剤の含有量などは前記(2)青臭みが低減された豆乳または乳飲料の製造方法と同じであればよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0038】
(比較例1)
CMC(商品名:セロゲンF−SL、第一工業製薬株式会社社製、以下同じ)0.3gを加熱して水に溶かして全量5gの水溶液を作製し、これを成分無調整豆乳(株式会社藤田食品製、大豆固形分10%、以下同じ)95gに加え、豆乳100gを得た。
【0039】
(実施例1)
EGCg精製品(商品名:サンフェノンEGCg、太陽化学株式会社製、ガレート型カテキン含有率96.4重量%、以下同じ)0.15gとCMC0.3gを加熱して水に溶かし、全量5gの水溶液を作製した。これを成分無調整豆乳95gに加え、凝集・沈殿のない豆乳100gを得た。
【0040】
(実施例2)
EGCg精製品0.4gとCMC0.8gを加熱して水に溶かし、全量10gの水溶液を作製した。これを成分無調整豆乳90gに加え、凝集・沈殿のない豆乳100gを得た。
【0041】
(比較例2)
EGCg精製品0.15gを加熱して水に溶かし、全量5gの水溶液を作製した。ここに成分無調整豆乳95gを加えると、ただちに豆乳に凝集が生じた。
【0042】
(実施例3〜4、比較例3〜5)
実施例1と同様の方法で、EGCg精製品を他の添加剤に変えて、豆乳を作製した。
【0043】
[試験例1]
比較例1および実施例1〜2で得られた各試料について、豆乳の青臭みの原因であるn−ヘキサナールを、下記に示す固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS法)にて分析した。図1に、得られたGC−MSクロマトグラムの比較を示した。尚、各クロマトグラムのイオン強度は、4.0×106が100%になるように設定している。保持時間〈5:28〉に見られるn−ヘキサナールのピークが、比較例1に比べて実施例1、2とガレート型カテキンの含有量が増えていくにつれて明らかに減少していることが確認できる。
続いて、内部標準物質としてシクロヘキサノン(Cyclohexanone)を1.0ppmになるように各試料に添加し、下記分析方法に従って分析を行なった。得られたクロマトグラムの内部標準物質のピーク面積値に基づき、n−ヘキサナールのピーク面積値からn−ヘキサナールを定量した。算出したn−ヘキサナール量を、比較例1の値を100としたときの相対値によって評価した。結果を表1に示す。
【0044】
<分析方法>
・測定方法:試料2.00±0.02g をヘッドスペース用バイアル瓶(20mL容量)に採取し、セプタム付キャップにて密栓した。次に、前記バイアル瓶のヘッドスペース部分にSPMEファイバーを投入し、揮発成分を抽出した。その後、GC−MS計のサンプル注入口に前記SPMEファイバーを入れ、キャピラリーカラムへ抽出成分を導入し、質量分析を行なった。
【0045】
・SPME条件:ファイバー(50/30μm, DVB/CAR/PDMS、スペルコ社製)、予備加熱(65℃、3分)、吸着時間(30分)、脱着時間(5分)、注入口温度(250℃)
・GC−MS条件:GC−MS計(JMS−Q1000GC K9、日本電子社製)、カラム(Inter−cap WAX、0.25mmid×30m、膜厚0.25μm、GLサイエンス社製)、温度条件(40℃で5分→230℃まで5℃/分→230℃で5分)、スプリット(比:5.6)、キャリアガス(ヘリウム)
【0046】
[試験例2]
5名のパネラーによる、苦渋味や異味に対しての官能試験を行なった。下記に示す官能評価方法によって得られた結果を表1に示す。

<官能評価方法>
(1)豆乳臭に関する評価
5名のパネラーが、下記に示す内容に従って豆乳臭の強度を3段階評価し、その平均値を四捨五入して整数で表したものを評点とする。
強度:内容
1:豆乳臭をあまり感じない。
2:豆乳臭を感じる。
3:豆乳臭を強く感じる。

(2)苦渋味に関する評価
5名のパネラーが、下記に示す内容に従って苦渋味強度を3段階評価し、その平均値を四捨五入して整数で表したものを評点とする。
強度:内容
1:苦渋味を感じない。
2:苦渋味を少し感じる。
3:苦渋味を強く感じる。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示す結果より、実施例1〜3で得られた豆乳は、いずれも青臭み成分であるn−ヘキサナールの量が比較例1のものに比べて顕著に低減されていることがわかる。
また、実施例4では、EGCgとは別のガレート型カテキンであるエピカテキンガレート(ECg)を用いた場合もn−ヘキサナールの低減が見られた。
一方、安定剤を含まない比較例2では、n−ヘキサナールの量が低減したものの凝集が生じてしまい、豆乳臭や苦渋味の評価はできなかった。
比較例3では、ガレート型カテキンの含有量が低いため、n−ヘキサナールの低減効果が十分に生じず、豆乳臭も強いものとなった。
比較例4、5でも、ガレート型カテキンにかえて、ぶどう果皮抽出物、タンニン酸を用いたが、いずれもn−ヘキサナールの低減効果は低く、豆乳臭があった。
【0049】
(比較例6)
EGCg精製品0.15gを水に溶かし、水溶液100gを得た。苦渋味に関する官能試験の評点は3点であった。
【0050】
(比較例7)
EGCg精製品0.15gとイソフラボン(商品名:イソフラボンHG、イソフラボン含量50%、不二製油株式会社製)0.3gを水に溶かし、混合水溶液100gを得た。苦渋味はマスキングされておらず、苦渋味に関する官能試験の評点は3点であった。
【0051】
(実施例5〜10、比較例8〜9)
実施例1と同様の方法で、CMCを他の安定剤に変えて、豆乳を作製した。得られた豆乳の沈殿物の有無を調べ、その結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示す結果より、水溶性大豆多糖類、アラビアガム、カゼインナトリウム、ペクチン、カラギーナンおよびグァーガムを用いた場合には凝集・沈殿の発生が生じていなかったが、ショ糖エステル、結晶セルロースといった他の公知の安定剤および乳化剤には凝集・沈殿を防止する効果が確認できなかった。
【0054】
(実施例11〜14、比較例10〜12)
(A)EGCg精製品0.15gと表3に示す添加量の(B)水溶性大豆多糖類(商品名:ソヤファイブS−ZR100、不二製油株式会社製)を加熱して水に溶かし、全量2gの水溶液を作製した。この水溶液を表3に示す量の成分無調整豆乳に加え、豆乳を得た。得られた豆乳の沈殿物の有無と、上記官能評価方法に従った官能試験結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
表3に示す結果より、(A)/(B)の含有重量比を0.1〜2.0の範囲内、(A)/(C)の含有重量比を0.006〜0.055の範囲内に調整した実施例11〜14の豆乳ではいずれも沈殿が生じず、豆乳臭および苦渋味が低かったのに対して、(A)/(B)または(A)/(C)の含有重量比のいずれかが上記範囲外である比較例10〜12の豆乳では、沈殿が生じたり、豆乳臭、苦渋味のいずれかが残るものであった。
【0057】
(実施例15)
成分無調整牛乳(森永乳業株式会社製)を標準試料とし、実施例1の豆乳に置き換え、ガレート型カテキン含有牛乳を作製した。標準試料と本実施例で得られた試料を共にSPME−GC−MS法で測定したところ、標準試料に見られていたn−ヘキサナールのピークが、本実施例の試料では消失していた。
【0058】
また、成分無調整牛乳にかえて、加工乳、コーヒー牛乳などの市販の乳飲料を用いた場合でも、上記実施例と同様に、凝集・沈殿を生じることなく、n−ヘキサナールの低減が確認される。
【0059】
(実施例16)
EGCg精製品0.15g、水溶性大豆多糖類(商品名:ソヤファイブS−ZR100、不二製油株式会社製)0.6g、インスタントコーヒー粉末(ネスレ社製)2.0g、水3.0gを混合加熱して溶かし、成分無調整豆乳(株式会社紀文フードケミファ製)、アスパルテーム(味の素株式会社製)0.02g、ミルク香料0.02gを加えて、全量100gの豆乳を製造した。得られた飲料は、豆乳の青臭みやガレート型カテキンの苦渋味のない、濃厚な乳味感をもつ、コレステロールゼロのコーヒー風味飲料であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ガレート型カテキンならびに(B)水溶性大豆多糖類、アラビアガム、カゼインナトリウム、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、カラギーナンおよびグァーガムから選ばれる少なくとも1種の安定剤を含有し、
(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤との含有重量比[(A)/(B)]が0.1〜2.0、
(A)ガレート型カテキンと(C)大豆固形分または乳固形分との含有重量比[(A)/(C)]が0.006〜0.055
である豆乳または乳飲料。
【請求項2】
(A)ガレート型カテキンが、ガレート型カテキン純度45重量%以上の茶抽出物由来である請求項1に記載の豆乳または乳飲料。
【請求項3】
(A)ガレート型カテキン含有量が1.0〜10.0重量%である、(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤との混合溶液を調製し、この混合溶液と豆乳または乳飲料とを混合する工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の豆乳または乳飲料の製造方法。
【請求項4】
豆乳または乳飲料と、
(A)ガレート型カテキンならびに(B)水溶性大豆多糖類、アラビアガム、カゼインナトリウム、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、カラギーナンおよびグァーガムから選ばれる少なくとも1種の安定剤の混合溶液と
を混合し、
豆乳または乳飲料中の(A)ガレート型カテキンと(B)安定剤との含有重量比[(A)/(B)]を0.1〜2.0、
(A)ガレート型カテキンと(C)大豆固形分または乳固形分との含有重量比[(A)/(C)]を0.006〜0.055
に調整することを特徴とする豆乳または乳飲料の青臭み低減方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−27347(P2013−27347A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165494(P2011−165494)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】